平成2(行コ)162 損害賠償請求等控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成3年10月30日 東京高等裁判所 住民訴訟
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【DRY-RUN】○ 主文 原判決中、昭和六〇年四月ないし六月分の超過勤務手当支給に関する損害賠償請求 部分(遅延損害金の請求部分を含む。)を取り消し、本件訴えのうち、右請求にか かる部分を東京地方裁判所に差し戻す。控

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○ 主文原判決中、昭和六〇年四月ないし六月分の超過勤務手当支給に関する損害賠償請求部分(遅延損害金の請求部分を含む。)を取り消し、本件訴えのうち、右請求にかかる部分を東京地方裁判所に差し戻す。控訴人の本件その余の控訴を棄却する。 前項にかかる控訴費用は控訴人の負担とする。 ○ 事実第一当事者の求めた裁判一控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 本件を東京地方裁判所に差し戻す。 3 訴訟費用は、第一、二審を通じて被控訴人らの負担とする。 二控訴の趣旨に対する答弁本件控訴をいずれも棄却する。 第二当事者双方の事実の主張は、本件監査請求の適法性につき当事者双方において次のとおり付加陳述したほかは、原判決事実摘示第二記載のとおりであり、証拠関係は原審記録中の証拠目録記載のとおりであるから、それぞれこれらを引用する。 (控訴人)住民監査請求において、対象となるべき行為を個別的、具体的に摘示しなければならないとしても、地方公共団体の財務会計行為について専門的知識を欠き、情報入手手段も著しく限られている住民に対し住民監査請求が認められている趣旨からして、その特定の程度は、監査請求により監査委員が何を監査しなければならないかを特定できる程度で足りるものと解すべきであり、右特定の有無は、監査請求書の記載のみではなく、これに添付された事実を証する書面の記載、監査請求人が提出したその他の資料等を総合して判断しなければならない。また、監査請求において、監査委員は請求人に補正を求めることができるのであるから、監査委員において特定していないと判断すれば、その補正を求めるべきである。 本件において、控訴人は、監査請求の添付書類として、中野区立中野昭和小学校(以下「本件小学校」という。)では、昭和五九年四月一日以来監査請求書を提出するまでの間、被控訴人Aが学 を求めるべきである。 本件において、控訴人は、監査請求の添付書類として、中野区立中野昭和小学校(以下「本件小学校」という。)では、昭和五九年四月一日以来監査請求書を提出するまでの間、被控訴人Aが学芸会や作品展の前に午後四時を過ぎても仕事をしているのを見たことがあるほかは、同人を含め、その他の主事が午後四時以降仕事をしているのを見たことがない旨の文書、同校のすべての主事が午前七時半から八時まで超過勤務しているとされているが、実は超過勤務ではないことを明らかにした文書を提出した。このように、控訴人は、本件小学校の主事に対する超過勤務手当の支払いは、被控訴人Aに対する学芸会や作品展の前の支給分を除く過去一年(昭和六〇年四月から同六一年三月まで)の間のすべてのものが違法であることを主張しているのであり、しかも、控訴人は自ら本件小学校に勤めて右事実を目撃しているのであつて、何ら合理的根拠もなくすべて違法であると言つているわけではないのである。そして、控訴人は、同年分の本件小学校の主事に対する月別超過勤務手当執行状況一覧表を提出しているのであるから、本件監査請求が具体性、特定性に欠けるところはない。少なくとも、昭和六〇年四月分から六月分までの間の超過勤務手当の支給については、右期間中の同主事らの超過勤務命令簿の写しにより具体的に特定して摘示されている。 そもそも本件事案は、控訴人提出の添付書類から、空の超過勤務手当が中野区教育委員会を含め、中野区全体で組織的に行われていることが十分窺われるので、監査委員としては、これら行為の性質、目的に照らし一体と見て違法又は不当性を判断すべき事案ともいえるのであつて、本来中野区立小、中学校の主事等の超過勤務手当一般について監査すべきであつたのであるが、少なくとも本件小学校の主事の昭和六〇年四月から同六一年三月ま 又は不当性を判断すべき事案ともいえるのであつて、本来中野区立小、中学校の主事等の超過勤務手当一般について監査すべきであつたのであるが、少なくとも本件小学校の主事の昭和六〇年四月から同六一年三月までの一年分の超過勤務手当の支払い、あるいは昭和六〇年四月から六月までの超過勤務手当の支払いについては、十分具体的に特定されているのである。監査委員としては、これら特定され、しかも他と区別して監査しうるものについては、右のように区別され、特定された範囲で監査しなければならないのであり、このように特定された範囲で監査する旨を監査請求人に告げ、さらに監査を求めるのであれば特定のための資料の提出を求めて補正させればよく、監査請求全体を不適法とすることは許されない。 (被控訴人ら)住民監査請求をするにあたつては、その対象とする「財務会計上の行為又は怠る事実(当該行為等)」を具体的に特定しなければならない。本件においては、超過勤務手当の違法又は不当性の監査を求めているものと解されるが、右手当の違法又は不当性は、各職員に対する個々の超過勤務手当の支出ごとに実績の有無を判断するほかないから、他の支出と区別して特定認識しうるように、個別的、具体的に指摘しなければならず、そのためには、少なくとも、当該行為等の主体、その行われた年月日、これにかかる金額を明らかにしなければ、これらを他の行為等と区別して特定認識することはできない。ところが、本件監査請求においては、監査請求書の請求の主旨及び措置要求として、中野区立小、中学校では、長年事務職員等に対し、実際に超過勤務をしていないのに超過勤務手当を支給しているから、実績なくして支給された超過勤務手当は、過去一年分に遡り返還させることを求めるという趣旨の極めて抽象的な記載があるのみで、個別的、具体的な指摘はなく、添付書類 いのに超過勤務手当を支給しているから、実績なくして支給された超過勤務手当は、過去一年分に遡り返還させることを求めるという趣旨の極めて抽象的な記載があるのみで、個別的、具体的な指摘はなく、添付書類を総合してみても、これらが明らかになつていないのである。すなわち、仮に「当該行為等」が超過勤務手当支出行為であるとしても、その支出行為者を具体的に誰と主張するのか明らかではないし、また、「当該行為等」が超過勤務手当受領行為であるとしても、本件監査請求においては、誰の超過勤務手当受領行為を対象とするのか全く特定認識できない。また、「当該行為等」の行われた年月日についても、控訴人の指摘する「超過勤務手当執行状況一覧表」も、本件小学校における全事務職員の超過勤務手当実績の月間集計にすぎず、具体的な超過勤務日の記載は全くないし、超過勤務命令簿の写しをみても、その中のどの超過勤務を「当該行為等」として監査の対象としようとするのか全く明らかではないので、その年月日は到底特定されているとはいえない。さらに、金額についても、添付書類中に月間の超過勤務手当総額の記載はあるものの、そのうち幾らが「当該行為等」にかかるものなのか特定記載されていない。このように、本件監査請求は、具体性のない不特定なものであることは明らかであり、行政の組織、制度を問題にしようとするものであるから、かかる請求は、地方自治法七五条所定の事務の監査請求をもつてなすべきなのである。なお、控訴人は、中野区においては、超過勤務手当の支給が組織的に行われているので、一体と見て違法又は不当性を判断すべきであるとも主張するが、これは事務の監査請求の対象とすることはできても、住民監査請求の対象とする理由にはならない。 ○ 理由一本件訴えは、中野区の住民である控訴人が、地方自治法二四二条の二第一項四号 とも主張するが、これは事務の監査請求の対象とすることはできても、住民監査請求の対象とする理由にはならない。 ○ 理由一本件訴えは、中野区の住民である控訴人が、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき、中野区に代位して、中野区長の相続人らに対し、昭和六〇年四月から同六一年三月までの間に、被控訴人Aら本件小学校の職員(主事)らが、超過勤務をしていないにもかかわらず超過勤務手当として受領した金員相当の損害賠償を求める事案であり、当審における争点は、控訴人がした本件監査請求が請求の特定を欠き、不適法なものであり、したがつて、これを前提とする本件訴えも不適法なものであるか否かである。 二 1 地方自治法二四二条による住民監査請求は、同法七五条に基づく監査請求とは異なり、地方公共団体の長その他の財務会計職員の一定の具体的な違法若しくは不当な財務会計上の行為又は怠る事実(以下「当該行為等」という。)に限つて監査委員にその監査等を請求する権能を認めたものと解すべきである。したがつて、住民監査請求においては、その対象とする当該行為等を、他の事項から区別して特定認識できるように個別的、具体的に摘示することが必要であり、当該行為等が複数である場合は、当該行為等の性質、目的等に照らしこれらを一体と見てその違法又は不当性を判断するのを相当とする場合を除いて、各行為等を他の行為等と区別して特定認識できるように個別的、具体的に摘示することを要するものであり、右の特定の有無は、監査請求書のみならず、これに添付された事実を証する書面の記載や監査請求人が提出したその他の資料等を総合斟酌して判断すべきものである(最高裁判所平成二年六月五日第三小法廷判決・民集四四巻四号七一九頁参照)。 2 これを本件についてみると、成立に争いがない甲第一号証の一によれば、本件の監査請 等を総合斟酌して判断すべきものである(最高裁判所平成二年六月五日第三小法廷判決・民集四四巻四号七一九頁参照)。 2 これを本件についてみると、成立に争いがない甲第一号証の一によれば、本件の監査請求書(中野区職員措置請求書)には、冒頭に「中野区長及び中野区教員委員会(事務局を含む)に対して」と括弧書し、「請求の主旨」として、中野区立の小、中学校では、長年の間、事務職員等の超過勤務手当を、超過勤務をしたから(実績)ではなく、実際に超勤をしていないのに、予算で割り振る、いわゆる空支給をしてきたこと、これら超過勤務手当の空支給は区教委ぐるみのものであること、本体小学校の現業関係主事の実際の勤務時間の状態からして、超過勤務すべき仕事はないこと等の記載がされており、「措置要求」として、実績のない空支給分超過勤務手当を過去一年前に遡り返還すること等の記載がされていることが認められ、これらの記載のみからすると、本件監査請求は、中野区立の小、中学校全部の事務職員等に対する過去一年間分の超過勤務手当の支給を全体として抽象的に問題としているように見え、そうだとすると、超過勤務手当の支給が違法であるか否かは、当該個々の職員が手当の支給を受けたという特定の日に現実に超過勤務をしたか否かを認定しなければ判断できないのに、個々の職員や支給を受けた日も特定されていないことからして、包括的に過ぎ、具体的な当該行為等の特定に欠けるものといわなければならない(監査請求をする側からすれば、超過勤務全部を問題にしているのであるから、それで監査の範囲も判るはずだといいたいのであろうが、先に判示した住民監査請求の制度の趣旨からいつて、このような方法によつて具体的な特定がなされたと解することはできないというべきである。)。 しかしながら、成立に争いがない甲第一〇ないし第一二号証及び 先に判示した住民監査請求の制度の趣旨からいつて、このような方法によつて具体的な特定がなされたと解することはできないというべきである。)。 しかしながら、成立に争いがない甲第一〇ないし第一二号証及び弁論の全趣旨により原本の存在と成立が認められる甲第二号証によれば、控訴人は、本件監査請求にあたり、本件小学校の勤務時間の割振りを説明した書面、控訴人が昭和五九年四月一日に本件小学校に着任する以前から本件小学校では事務職員等に超過勤務をしていないにもかかわらず超過勤務手当を支給するいわゆる空支給がされていること、控訴人が同校の主事達の超過勤務命令簿を調べたところ、同僚の訴外B主事のみは控訴人の勧告を受け入れて同年七月から不正受給をやめているが、その他の主事達は、その後も毎月予算で割り振つた超過勤務手当を受給していることが判明したこと、被控訴人Aが学芸会や作品展の前に午後四時を過ぎて残業をしていたことは数回見掛けたが、その他の主事達が残業をしているのは見たことがないこと、被控訴人C(本件小学校校長)は、主事達が実際に超勤していないのに毎月超勤手当を支払つているのはなぜかという控訴人の問いに対し、あれ(超過勤務手当)は予算で割り振ることになつていると答えたこと、現在(昭和六一年四月二日)も主事達への超勤手当の空支給は続いていること等々を記載した申立書を提出したことが認められ、さらに、成立に争いがない甲第七号証のニないし四〇、第八号証の三によれば、控訴人は、本件小学校の主事達に対する具体的な超過勤務手当の支給状況等を明らかにする書面として、被控訴人A、同D、同E、同F、同G、同H、同I、同J、同K、同L(以下これらの被控訴人らを「被控訴人Aら一〇名」という。)を含む本件小学校の主事の昭和六〇年四月から同年六月分までの超過勤務等命令簿の写し、及び右の 同E、同F、同G、同H、同I、同J、同K、同L(以下これらの被控訴人らを「被控訴人Aら一〇名」という。)を含む本件小学校の主事の昭和六〇年四月から同年六月分までの超過勤務等命令簿の写し、及び右の者らの昭和六一年度(昭和六〇年四月から同六一年三月まで)の月別超過勤務手当執行状況一覧表を提出したことが認められる。そして、控訴人の提出した右の各書面によれば、控訴人は、監査請求書においては中野区の小、中学校の事務職員等全体の問題であることを指摘しつつ、添付書類において、自己が実際に見聞したところに基づいて、具体的に本件小学校の主事に対する超過勤務手当の支給は、被控訴人Aの学芸会等の前におけるわずかの例外を除いてすべて「空」であり違法であることを主張しており、しかも、被控訴人Aら一〇名に対する昭和六〇年四月から六月分までの超過勤務手当(以下「本件四ないし六月分超過勤務手当」という。)の支給については、前記超過勤務手当命令簿の写しにより各々その超過勤務をしたという日及び時間並びに手当の額も明らかにされているのであるから、少なくともこの部分については監査を請求する対象は具体的に特定されていると認められる。したがつて、右部分に関する監査請求に限つては、本件監査請求は、特定性に欠けるものではないといわなければならない。 3 控訴人は、前記月別超過勤務手当執行状況一覧表により月別の超過勤務手当受領状況が分かるから、昭和六〇年七月分以降の損害賠償請求についても特定性に欠けるところがないと主張するが、同表によつては、被控訴人Aら一〇名がいつ、何時間の超過勤務をしたとして手当を受領したというのかが明らかでなく、誰のいつの部分につき空であるか否かの調査を求めるものかの具体性に欠けるから、いまだ監査請求の対象が特定されているとは言いがたい(右一覧表は、未だ包括的な して手当を受領したというのかが明らかでなく、誰のいつの部分につき空であるか否かの調査を求めるものかの具体性に欠けるから、いまだ監査請求の対象が特定されているとは言いがたい(右一覧表は、未だ包括的な集計表に過ぎず、先にも判示したように、監査を請求する側からいえば、これで足りるなら都合がいいであろうが、住民監査請求制度の趣旨からいつてこのような便宜の方法を認めることは相当でない。)。また、控訴人は、本件は、当該行為等の性質、目的等に照らし複数の行為を一体と見てその違法又は不当性を判断するのを相当とする場合であり、前記最高裁判所の判決が認める例外に当たるとも主張するようであるが、超過勤務手当の違法又は不当性は、支給を受けた職員が実際に超過勤務をしたか否かを個々的に確定しなければ判断しえないものであるから、控訴人の右主張は失当である。 4 被控訴人らは、本件においては、支出命令行為を対象にしているのかどうかも明らかではなく、仮に支出命令行為を問題とするものとしても、誰のどの支出命令行為を監査の請求の対象にしているか明らかでないと主張するが、本件監査請求書の冒頭に「中野区長及び中野区教育委員会(事務局を含む)に対して」と記載していること及び右請求書全体の趣旨からして、超過勤務手当の支出命令行為を監査請求の対象としていることは容易にみてとれるところであるし、専門家ではない一住民に対して監査委員に住民監査請求をする権能を与えている地方自治法の趣旨、及び支出命令権者を特定することは部外者にとつてはしばしば非常に困難である(法律に詳しい者にとつてすら、難解である。)ことを考えると、本件監査請求の対象とされる行為が特定されている以上は、「区長あるいは中野区教育委員会(事務局を含む。)」程度以上に支出命令権者を特定していないからといつて、これが不適法であ る。)ことを考えると、本件監査請求の対象とされる行為が特定されている以上は、「区長あるいは中野区教育委員会(事務局を含む。)」程度以上に支出命令権者を特定していないからといつて、これが不適法であるとするのは相当ではないものというべきである。 その他、被控訴人らは本件監査請求が特定性に欠ける理由を種々主張するけれども、本件四ないし六月分超勤手当に関して具体的に特定されているものと解すべきことは2に説示したとおりであり、被控訴人らの主張はいずれも理由がない。 5 以上説示したとおり、本件監査請求は、本件四ないし六月分超過勤務手当に関しては具体的に特定されていたものというべきであるから、中野区監査委員はこの部分について監査すべきであつたものである。なお、念のため次の点を付記しておく。前記のとおり、本件監査請求書においては、中野区立小、中学校の事務職員等全員が受けた超過勤務手当全部を監査請求の対象としているかのように読めないでもないが、控訴人が提出した添付書類を斟酌すると、本件四ないし六月分超過勤務手当分については具体的に特定されており、しかもこれは他と区別して監査しうるものであるから、監査委員は、この部分につき監査を実施すべきであつたのであり、仮に一部のみ監査することが控訴人の請求の趣旨に合致するかに疑問を持つたのであれば、控訴人にその旨を確かめれば足りたはずである。ところが、成立に争いがない甲第一四、第一六号証によれば、中野区監査委員は、控訴人に対し、本件監査請求には事実を証する書面の添付(地方自治法二四二条一項)がないので補正するようにと通知を出したのみで請求の特定性には全く触れず、控訴人に意図を確かめることもしないまま、事実を証する書面の添付がないことを理由として本件監査請求を不適法として却下したものであることが認められる(少なくとも本 したのみで請求の特定性には全く触れず、控訴人に意図を確かめることもしないまま、事実を証する書面の添付がないことを理由として本件監査請求を不適法として却下したものであることが認められる(少なくとも本件四ないし六月分の超過勤務手当に関する部分については、事実を証する書面があることは前記認定から明らかである。)から、控訴人は、本件四ないし六月分の超過勤務手当については、監査委員において適法な監査請求につき期限内に監査しなかつたものとして本件訴えを提起することができるものというべきである。 三以上の次第で、本件訴えは、本件四ないし六月分の超過勤務手当の支給に関する部分については監査請求が特定性に欠け不適法であるとはいえないが、その余の部分については適法の監査請求を経ていない不適法な訴えというべきである。 よつて、原判決のうち、本件四ないし六月分の超過勤務手当支給に関する損害賠償請求部分(遅延損害金の請求部分を含む。)について監査請求が特定性に欠け不適法であることを理由に訴えを却下した部分は不当であるから、これを取り消し、原判決は、その余の争点については全く判断をしていないので、民事訴訟法三八八条にしたがつてこれを原裁判所に差し戻すこととし、原判決のうち本件訴えのその余の部分を却下した部分は相当であるから、この部分に対する本件控訴を棄却することとし、右部分についての控訴費用について同法九五条、八九条を適用して控訴人の負担とすることとして、主文のとおり判決する。 (裁判官上谷清満田明彦高須要子)(原裁判等の表示)○ 主文一本件訴えを却下する。 二訴訟費用は原告の負担とする。 ○ 事実第一当事者の求めた裁判一請求の趣旨 1 被告らは、中野区に対し、別紙請求金額等一覧表の請求金額欄記載の各金員及びこれに対する同表の遅延損害金起算日 二訴訟費用は原告の負担とする。 ○ 事実第一当事者の求めた裁判一請求の趣旨 1 被告らは、中野区に対し、別紙請求金額等一覧表の請求金額欄記載の各金員及びこれに対する同表の遅延損害金起算日欄記載の各日から支払済みに至るまで各年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。 2 訴訟費用は被告らの負担とする。 二請求の趣旨に対する答弁 1 本案前の答弁主文同旨 2 本案に対する答弁(一) 原告の請求をいずれも棄却する。 (二) 訴訟費用は原告の負担とする。 第二当事者の主張一原告の請求原因 1 原告は、中野区の住民である。 前中野区長Mは昭和五四年度以降同六一年四月二三日まで中野区長の職に、被告Nは同五四年度以降中野区教育委員会教育長の職に、同Oは同五八年度以降同委員会学校教育部長の職に、同Pは同年度以降同委員会学務課長の職に、同Cは同五九年度以降中野区立中野昭和小学校長の職に、それぞれあつたものである。 また、本件で問題となる昭和六〇年四月から同年六一年三月までの間に、被告A、同D及び同Eはいずれも中野区立中野昭和小学校勤務の中野区職員(主事、一般用務)の職に、同F、同G、同H、同I及び同Jは同校勤務の同区職員(主事、給食調理)の職に、同K及び同Lは同校勤務の同区職員(主事、学童養護)の職に、それぞれあつたものである。 2 Mは、別紙超勤手当支給額等一覧表記載のとおり、被告A、同D、同E、同F、同G、同H、同I、同J、同K及び同L(以下、これらの被告を併せて「被告Aら」という。)に対し、昭和六〇年四月から同六一年三月までの間の各月に、被告Aらが実際には超過勤務をしていない同表記載の各時間について、超過勤務の事実があつたものとして、本来支給してはならない同表記載の各金額の超過勤務手当の支給をし、中野区にこの支給金額に相当する損害を与え らが実際には超過勤務をしていない同表記載の各時間について、超過勤務の事実があつたものとして、本来支給してはならない同表記載の各金額の超過勤務手当の支給をし、中野区にこの支給金額に相当する損害を与えた。 Mは、かねてから中野区の職員の間に超過勤務の事実がないのに予算額に応じて超過勤務手当を割り振るといういわゆるやみ超勤の慣行があることを知りながら、右のとおり違法な超過勤務手当の支給を行つていたものである。また、被告N、同O及び同Pも、右のようなやみ超勤の実態を知りながら、Mの違法な超過勤務手当支給の不法行為に積極的に加担し、被告Cも、右の超過勤務の事実がないことを知りながら、被告Aらに対する超過勤務命令を出し、手当を支給していたものである。 更に、被告Aらは、実際には超過勤務をしていないのに超過勤務をしたものとして、手当の支給を受けていたものである。 したがつて、M及び各被告らは、中野区の被つた右損害(被告Aらについては、そのうち各自が受領した手当額に相当する損害)を連帯して賠償する義務を負うものというべきである。 3 原告は、昭和六一年四月一二日、中野区監査委員に対し、右損害回復のための是正措置を求める監査請求をしたが、同年五月二九日、右監査請求は却下された。 4 その後、Mは昭和六一年四月二三日に死亡し、その妻である被告Q並びにいずれもその子である被告R、同S及び同Tが、それぞれ法定相続分に従つてMの中野区に対する前記損害賠償債務を相続した。 5 よつて、原告は、地方自治法二四二条の二第一項の規定により、中野区に代位して、被告らに対し、右の各損害の賠償として、別紙請求金額等一覧表の請求金額欄記載の各金員及びこれに対する本件訴状の各送達日(同表の遅延損害金欄記載の各日)以降完済までの間の民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。 賠償として、別紙請求金額等一覧表の請求金額欄記載の各金員及びこれに対する本件訴状の各送達日(同表の遅延損害金欄記載の各日)以降完済までの間の民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。 二被告の本案前の主張 1 本件について原告が行つた監査請求は、申立に必要な事実の証明に関する資料が添付されていないことを理由に、不適法として却下されている。そうすると、本件では、右監査請求に係る事実について監査委員の手による監査が行われていないこととなるから、本件訴えは、監査請求前置の要件を欠く不適法なものである。 2 また、右監査請求は、中野区立小・中学校に勤務する多数の職員の過去一年間にわたる超過勤務手当に係る公金の支出を対象とするものであるから、その公金の支出は、膨大な回数にのぼるものであるにもかかわらず、その監査請求書には、極めて抽象的な記載しかなく、また、これに添付されている事実を証する書面も、超過勤務手当を受けたとする職員、日時、金額等を明らかにするものではない。したがつて、右監査請求は、各公金の支出を他の支出と区別して特定認識し得る程度に個別的、具体的に摘示しているとは到底認められないから、請求の特定を欠くものとして不適法である。そうすると、右監査請求を却下した中野区監査委員の措置は適法であり、本件訴えは、監査請求前置の要件を欠く訴えとして不適法である。 三請求原因に対する被告の認否及び反論 1 請求原因1の事実は認める。 2 同2の事実のうち、被告Aらに対して原告の主張するとおりの超過勤務手当が支給されていることは認めるが、被告Aらが実際には超過勤務をしていないとの点は否認し、その余の主張は争う。 右の被告Aらに対する超過勤務手当の支給は、被告Cの発した超過勤務命令に従つて行われた超過勤務の実績に基づき、中野区教育委員会学校教育 際には超過勤務をしていないとの点は否認し、その余の主張は争う。 右の被告Aらに対する超過勤務手当の支給は、被告Cの発した超過勤務命令に従つて行われた超過勤務の実績に基づき、中野区教育委員会学校教育部学務課長の支出負担行為の決定及び支出命令によつて行われたものである。 3 同3の事実は認める。 4 同4の相続の事実は認める。 第三証拠(省略)○ 理由一まず、本件について原告の行つた監査請求の内容をみると、本件の監査請求書(甲一)によれば、その監査請求の対象に関しては、要旨次のような内容の記載がなされている。 すなわち、「中野区立の小、中学校では、永年の間、事務職員等の超過勤務手当について、実際に超過勤務をしていないのに予算で割り振るいわゆるカラ超勤をしてきている。中野昭和小学校における現業関係主事の実際の勤務時間は添付資料のとおりであり、この状態で一体何を超過勤務するのか。超勤手当の支給は実績に限られるのであるから、実績のないカラ支給分超勤手当は、過去一年前にさかのぼつて返還することを求める。」というものである。 もつとも、右監査請求書に添付して提出された資料の中には、被告Aらを含も中野昭和小学校の専務職員に関する昭和六〇年四月分から六月分までの超過勤務命令簿の写し(甲七各証)が含まれており、この資料によれば、原告は右小学校の事務職員に対する超過勤務手当の支給行為を問題点として指摘しようとするもののようにうかがえないでもない。しかし、右の各資料を総合しても、原告が本件監査請求において、具体的に中野区のどの職員が行つたどのような行為を財務会計上の違法行為ととらえて、その是正等の措置を求めようとするものであるかは、なお明らかなものとはいえない。 二ところで、地方自治法二四二条一項は、住民に対し、地方公共団体の執行機関又は職員による一定 の違法行為ととらえて、その是正等の措置を求めようとするものであるかは、なお明らかなものとはいえない。 二ところで、地方自治法二四二条一項は、住民に対し、地方公共団体の執行機関又は職員による一定の具体的な財務会計上の行為又は怠る事実に限つて、その監査と非違の防止、是正の措置とを監査委員に請求する権能を認めたものであつて、それ以上に、一定の期間にわたる行為等を包括して、これを具体的に特定することなく、監査委員に監査を求めるなどの権能までを認めたものではないと解するのが相当である。 したがつて、住民監査請求においては、監査請求の対象とする行為を他の事項から区別して特定認識できるように個別的、具体的に摘示することを要するものというべきであり、監査請求の対象が右の程度に具体的に摘示されていないと認められるときは、当該監査請求は、請求の特定を欠くものとして不適法となるものといわなければならない。 これを本件についてみると、前記のような監査請求書の記載等からは、監査請求の対象となる行為の具体的な行為者はもちろん、その行為の内容や日時等も特定されているものといえないことは明らかである。そうすると、本件監査請求は、請求の特定を欠くものとして、不適法なものとせざるを得ない。 三したがつて、本件訴えは、適法な住民監査請求を経ていないこととなるから、その余の点について判断するまでもなく、不適法な訴えとして却下を免れない。よつて、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。 別紙請求金額一覧表(省略)

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