令和5(ワ)70654 不正競争行為差止等請求事件

裁判年月日・裁判所
令和6年7月8日 東京地方裁判所
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令和6年7月8日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和5年(ワ)第70654号不正競争行為差止等請求事件口頭弁論終結日令和6年5月21日判決原告 株式会社北隆館 同訴訟代理人弁護士井田吉則同 山里 翔被告 A同訴訟代理人弁護士 三輪貴幸 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は、別紙書籍目録記載の書籍の表紙、背表紙、奥付、ブックカバー及び 別紙被告表示目録記載1ないし4の赤線で囲まれた部分に、「牧野日本植物圖鑑」との表示を使用してはならない。 2 被告は、原告に対し、1009万5000円及びこれに対する令和5年11月17日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は、牧野富太郎の著作である「牧野日本植物圖鑑」という図鑑を出版する原告が、原告の元従業員であり、別紙書籍目録記載の書籍(以下「被告書籍」という。)を出版する被告に対し、被告書籍に使用された「牧野日本植物圖鑑」という表示(以下「本件題号」という。)は不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号又は2号所定の「商品等表示」に該当し、本件題号を 付した被告書籍の出版又は販売は、不正競争行為に当たると主張して、不競法 3条1項に基づき本件題号の使用の差止めを求めるとともに、不競法4条に基づき損害賠償金1009万5000円及びこれに対する不正競争行為日の後の日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅 づき本件題号の使用の差止めを求めるとともに、不競法4条に基づき損害賠償金1009万5000円及びこれに対する不正競争行為日の後の日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨に より容易に認められる事実をいう。)⑴ 原告は、書籍の出版等を目的とする会社であり(甲1)、被告は、原告の元従業員である。 ⑵ 原告は、昭和15年、植物学者である牧野富太郎の著書である「牧野日本植物圖鑑(初版)」を出版した(甲2)。 その後、原告は、「牧野日本植物圖鑑(改訂版)」、「牧野日本植物圖鑑(増補版)」、「牧野新日本植物圖鑑」、「改訂増補牧野新日本植物圖鑑」、「新訂牧野新日本植物圖鑑」、「新牧野日本植物圖鑑」、「新分類牧野日本植物図鑑」、「卓上版牧野日本植物圖鑑」を出版した(以下、これらの図鑑を合わせて「本件図鑑」という。甲3~10)。 ⑶ 被告は、令和5年4月28日、「三四郎書館」の名称で、牧野富太郎を著者とする「オリジナル普及版牧野日本植物圖鑑」と題する書籍(被告書籍)を出版した。被告書籍は、本件図鑑の初版3刷(昭和18年刊行)を複製したものであり、現在も、書店やインターネット通販等で販売されている。(甲19、争いがない) 2 争点及びこれに関する当事者の主張⑴ 「商品等表示」該当性(原告の主張)本件題号は、原告の出版物であるという出所識別機能を有するに至っている。すなわち、原告は、昭和15年に「牧野日本植物圖鑑(初版)」を出版 して以来、現在に至るまで「牧野日本植物圖鑑」の出版を継続していたから、 特に本件図鑑の需要者である植物学の専門家・研究者の間には「 は、昭和15年に「牧野日本植物圖鑑(初版)」を出版 して以来、現在に至るまで「牧野日本植物圖鑑」の出版を継続していたから、 特に本件図鑑の需要者である植物学の専門家・研究者の間には「牧野日本植物圖鑑=牧野富太郎=北隆館」という認識が浸透している。 また、原告は、本件題号について過去に商標登録もしており、このことは本件題号に出所識別機能があると判断されたことに他ならない。 したがって、本件題号は、原告の「商品等表示」に当たる。 (被告の主張)本件題号は、書籍の題号であり、その本の内容を表示するにすぎないから、このような題号が出版社名と結びついて需要者に認識されることはない。したがって、本件題号は、原告の「商品等表示」には該当しない。 なお、本件図鑑の中には、題号に「新」という文字や「卓上版」などとい う表示が付加された書籍が含まれているし、「牧野日本植物圖鑑」の出版が現在まで継続しているという事実は、否認する。 ⑵ 周知著名性の有無(原告の主張)原告は、本件図鑑が学術書であるにもかかわらず、80年以上の長きにわ たり廃刊することなく累計50万部以上も販売し続けてきた。被告書籍及び本件図鑑の主な需要者は、植物学の専門家・研究者であるところ、これらの需要者にとって、本件題号が原告の「商品等表示」として周知性、著名性を有することは、明らかである。 (被告の主張) 原告は、本件題号が付された書籍について需要者に広く認知されるような営業努力を行っておらず、これらの書籍がどの程度売れたかも不明である。 したがって、本件題号が原告の「商品等表示」として周知性を有するとはいえないし、これを超えて著名性を有するともいえない。 ⑶ 混同の有無 (原告の主張) 被告書籍は、本件図 。 したがって、本件題号が原告の「商品等表示」として周知性を有するとはいえないし、これを超えて著名性を有するともいえない。 ⑶ 混同の有無 (原告の主張) 被告書籍は、本件図鑑と全く同一の内容であり、被告書籍及び本件図鑑の主な需要者である植物学の専門家・研究者は、被告書籍が原告の出版する書籍であると誤認混同するおそれがある。 なお、本件図鑑の著者である牧野富太郎に係る施設である高知県立牧野植物園や練馬区立牧野記念庭園のウェブサイトにおいても、本件図鑑が原告の 出版物であることが周知されているから、植物学の専門家等ではない一般人においても、被告書籍と本件図鑑とを誤認混同するおそれが生じている。 (被告の主張)否認ないし争う。牧野富太郎は令和5年にNHKの連続テレビ小説で同人をモデルとしたドラマが放送されたことにより、一般の視聴者にも広く知ら れるようになったほか、被告書籍には「オリジナル普及版」の表示が付されていることからすれば、広く一般人が被告書籍の需要者である。そして、その需要者は、「オリジナル普及版」という表示や装丁等の違いから、「牧野日本植物圖鑑」と被告書籍とは、別の商品であることを識別することができるため、誤認混同のおそれが生じているとはいえない。 ⑷ 損害の有無及びその額(原告の主張)被告は、被告書籍の出版販売によって、原告の営業上の利益を侵害するおそれがあることを認識していたから、不正競争行為について故意・過失があり、これによって、原告には損害が生じている。すなわち、被告による被告 書籍の販売数量は2500部と推測されるところ、被告書籍は本件図鑑の複製品であり、生じた経費は印刷代程度と推認される。そして、原告が行った印刷業者による見積もりによれば、印刷代金は1部あ 告 書籍の販売数量は2500部と推測されるところ、被告書籍は本件図鑑の複製品であり、生じた経費は印刷代程度と推認される。そして、原告が行った印刷業者による見積もりによれば、印刷代金は1部あたり平均1022円であるから、被告書籍1冊当たりの推定利益は4038円(定価5060円−1022円)である。したがって、損害の額は、1009万5000円(25 00×4038円)である。 (被告の主張)否認ないし争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点に対する判断⑴ 不競法2条1項1号及び2号は、「商品等表示」につき、人の業務に係る 氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものと定義している。そうすると、同各号にいう「商品等表示」とは、商品又は営業を表示するものであるから、出所表示機能を有するものに限られるというべきである。そして、書籍には発行者等の表示が付されるのが通例であり、書籍の出所は、一般に上記発行者等の表示が示すものである から、書籍の題号は、その書籍の内容を示すものにすぎず、出所表示機能を有するものとはいえない。 そうすると、書籍の題号は、特段の事情がない限り、同各号にいう「商品等表示」に該当しないと解するのが相当である。 これを本件についてみると、証拠(甲2ないし10、19)及び弁論の全 趣旨によれば、「牧野日本植物圖鑑」という本件題号は、牧野執筆に係る日本の植物図鑑という書籍の内容を端的に示すものにすぎず、牧野という執筆者に特徴があるのは格別、書籍の題号としてはありふれたものであるから、本件題号には出所を示すような顕著な特徴はない。 そして、証拠(乙1、2)及び弁論の全趣旨によれば、一般に題号を同じ くする書籍であっても、別々の発行者等によ してはありふれたものであるから、本件題号には出所を示すような顕著な特徴はない。 そして、証拠(乙1、2)及び弁論の全趣旨によれば、一般に題号を同じ くする書籍であっても、別々の発行者等により発行されているものも少なからず存在することが認められる。当該認定に係る取引の実情に鑑みると、本件題号に接した需要者又は取引者が、これを書籍の出所を示すものとして直ちに理解するものとはいえない。 これらの事情を踏まえると、本件題号は、出所表示機能を有するものとは いえず、上記特段の事情があるものと認めることはできない。 したがって、本件題号は、不競法2条1項1号又は2号にいう「商品等表示」に該当するものと認めることはできない。 のみならず、被告書籍についてみると、仮に「牧野日本植物圖鑑」という牧野執筆に係る植物図鑑が全国的に知られていたという立場を採用したとしても、本件全証拠によっても、原告が本件図鑑を出版していた事実までも全 国的に知られているものとして著名であると認めるに足りない。 他方、仮に、原告が本件図鑑を出版していた事実が、一部の専門家や研究者の間で周知であるという立場を採用したとしても、前記前提事実及び証拠(甲19)によれば、被告書籍の表紙には、本件題号の左下欄に「三四郎書館」という発行所を示す表示が付されていることからすると、被告書籍に接 した需要者又は取引者は、被告書籍の発行所が、原告ではなく「三四郎書館」であると理解するのは明らかである。 そうすると、被告書籍の出版は、本件図鑑との混同を生じさせる行為とはいえないことは、明らかである。 したがって、被告書籍の出版は、不競法2条1項1号又は2号に定める不 正競争に該当するものとはいえない。 以上によれば、その余の争点について判断するまでも はいえないことは、明らかである。 したがって、被告書籍の出版は、不競法2条1項1号又は2号に定める不 正競争に該当するものとはいえない。 以上によれば、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求は、理由がない。 ⑵ これに対し、原告は、昭和15年の図鑑の刊行以来、現在に至るまで「牧野日本植物圖鑑」の出版を継続していたから、本件題号は単に書籍の内容を 示すにとどまらず、原告の出版物であるという出所表示機能を有するに至っている旨主張する。しかしながら、本件題号には出所を示すような顕著な特徴がなく、上記認定に係る取引の実情に鑑みても、本件題号自体に出所表示機能を認めることはできず、原告の主張は、前記判断を左右するものとはいえない。 その他に、原告提出に係る準備書面及び証拠を改めて検討しても、原告の主張は、不競法2条1項1号又は2号にいう「商品等表示」の意義及び書籍の題号の性質を正解しないものに帰し、著作権の存続期間が満了したと考えてより安く普及版として被告書籍を復刻した被告の行為には、上記において説示したところを踏まえると、違法があるものと認めることはできない。 したがって、原告の主張は、いずれも採用することができない。 2 結論よって、原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 中島基至 裁判官 武富可南 裁判官 坂本達也 武富可南 裁判官 坂本達也 (別紙)書籍目録 書籍名 オリジナル普及版牧野日本植物圖鑑 寸法 縦21×横14.8×厚さ4センチメートル 発行日 令和5年4月15日 発売日 令和5年4月28日 著者 牧野富太郎 発行所 三四郎書館(さいたま市浦和区本太1-4-11) (別紙)被告表示目録

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