平成20(し)338 証拠開示決定に対する即時抗告棄却決定に対する特別抗告事件

裁判年月日・裁判所
平成20年9月30日 最高裁判所第一小法廷 決定 棄却 東京高等裁判所 平成20(く)413
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判決文本文4,387 文字)

- 1 -主文本件抗告を棄却する。 理由 本件抗告の趣意は,判例違反をいうが,事案を異にする判例を引用するものであって,本件に適切でないか,実質において単なる法令違反の主張であって,刑訴法433条の抗告理由に当たらない。 なお,所論にかんがみ職権で判断する。 記録によれば,本件の経過は次のとおりである。 (1)被告人は,強盗致傷等の罪で起訴されたが,この強盗致傷の行為(以下「本件犯行」という。)に関与したことを否認している。 (2)上記被告事件の公判前整理手続で,検察官は,被告人の知人であるA(以下「A」という。)の証人尋問を請求し,これが採用されたことから,準備のためAに事実の確認を行ったところ,Aは,検察官に対し,被告人がAに対し本件犯行への関与を自認する言動をした旨の供述を行うに至った。 Aについては,捜査段階でB警察官(以下「B警察官」という。)が取調べを行い,供述調書を作成していたが,上記の供述は,この警察官調書には記載のないもの(以下,Aの上記の供述を「新規供述」という。)であった。 そこで,検察官は,この新規供述について検察官調書を作成し,その証拠調べを請求し,新規供述に沿う内容を証明予定事実として主張した。 (3)弁護人は,この新規供述に関する検察官調書あるいはAの予定証言の信用性を争う旨の主張をし,その主張に関連する証拠として,「B警察官が,Aの取調べについて,その供述内容等を記録し,捜査機関において保管中の大学ノートのう- 2 -ち,Aの取調べに関する記載部分」(以下「本件メモ」という。)の証拠開示命令を請求した。 (4)本件大学ノートは,B警察官が私費で購入して仕事に利用していたもので,B警察官は,自己が担当ないし関与した事件に関する取調べの経過その他の参考事項をその都度メモとしてこれに記載しており, 。 (4)本件大学ノートは,B警察官が私費で購入して仕事に利用していたもので,B警察官は,自己が担当ないし関与した事件に関する取調べの経過その他の参考事項をその都度メモとしてこれに記載しており,勤務していた新宿警察署の当番編成表をもこれにちょう付するなどしていた。 本件メモは,B警察官がAの取調べを行う前ないしは取調べの際に作成したものであり,B警察官は,記憶喚起のために本件メモを使用して,Aの警察官調書を作成した。 なお,B警察官は,本件大学ノートを新宿警察署の自己の机の引き出し内に保管し,練馬警察署に転勤した後は自宅に持ち帰っていたが,本件事件に関連して検察官から問い合わせがあったことから,これを練馬警察署に持って行き,自己の机の引き出しの中に入れて保管していた。 (5)原々審である東京地方裁判所は,本件メモの提示を受けた上で,その証拠開示を命じたため,その命令の適否が争われている。 以上の経過からすると,本件メモは,B警察官が,警察官としての職務を執行するに際して,その職務の執行のために作成したものであり,その意味で公的な性質を有するものであって,職務上保管しているものというべきである。したがって,本件メモは,本件犯行の捜査の過程で作成され,公務員が職務上現に保管し,かつ,検察官において入手が容易なものに該当する。また,Aの供述の信用性判断については,当然,同人が従前の取調べで新規供述に係る事項についてどのように述べていたかが問題にされることになるから,Aの新規供述に関する検察官調書あ- 3 -るいは予定証言の信用性を争う旨の弁護人の主張と本件メモの記載の間には,一定の関連性を認めることができ,弁護人が,その主張に関連する証拠として,本件メモの証拠開示を求める必要性もこれを肯認することができないではない。さらに,本件メモ 人の主張と本件メモの記載の間には,一定の関連性を認めることができ,弁護人が,その主張に関連する証拠として,本件メモの証拠開示を求める必要性もこれを肯認することができないではない。さらに,本件メモの上記のような性質やその記載内容等からすると,これを開示することによって特段の弊害が生ずるおそれがあるものとも認められない。 そうすると,捜査機関において保管されている本件メモの証拠開示を命じた原々決定を是認した原判断は,結論において正当として是認できるものというべきである。 よって,刑訴法434条,426条1項により,裁判官甲斐中辰夫の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。なお,裁判官宮川光治の補足意見がある。 裁判官宮川光治の補足意見は,次のとおりである。 私が多数意見に同調するのは,次の理由からである。 原決定及び原々決定は,いずれも,本件メモが証拠開示命令の対象となるか否かの判断において,まず犯罪捜査規範13条に基づき作成した備忘録(以下「13条書面」という。)に当たるか否かを検討し,本件メモは13条書面に該当すると判断している。しかしながら,本件メモが,広く,「本件犯行の捜査の過程で作成され,公務員が職務上現に保管し,かつ,検察官において入手が容易なものに該当する」か否かを問題とすることが適切である。そして,そのような書面であると判断した後,刑訴法316条の20第1項に規定する主張との関連性の程度,必要性の程度,弊害の内容及び程度について判断することとなる。 そして,主張との関連性の程度,必要性の程度,弊害の内容及び程度の判断につ- 4 -いては,原決定が「弁護人に既に開示された証拠を見ていない裁判所が限られた資料からその内容の必要性や相当性を否定するには慎重であるべきであって,弁護人の観点からする検討の余地 の判断につ- 4 -いては,原決定が「弁護人に既に開示された証拠を見ていない裁判所が限られた資料からその内容の必要性や相当性を否定するには慎重であるべきであって,弁護人の観点からする検討の余地を与えることも重要である」と述べていることは相当である。 なお,主張と開示の請求に係る証拠との関連性については,本件弁護人は,新規供述に沿う事実を否定し,新規供述に関する検察官調書あるいはAの予定証言の信用性を争う旨の主張をした上で,それを判断するためには,本件メモにより,B警察官によるAの取調べの際のやり取り等を明らかにし,供述の変遷状況等を明確にすることが必要であると述べている。被告人の取調べ状況を争点とする場合とは異なって,B警察官によるAの取調べ状況とその際のAの供述内容を裏付ける根拠は,Aの協力が得られない以上,具体的に明らかにしようがない本件では,関連性についての主張は上記の程度でもやむを得ないと考える。 裁判官甲斐中辰夫の反対意見は,次のとおりである。 私は,原決定が,本件メモは「被告人側の主張との関連性」及び「必要性」があるものと認めた点において,明らかに刑訴法316条の20の解釈を誤り著しく正義に反すると認めるので,原決定を破棄し,証拠開示命令請求を棄却するべきものと考える。その理由は,以下のとおりである。 本件メモは,刑訴法316条の20にいう主張関連証拠として開示請求がなされているところ,弁護人が,上記の開示請求をする際には,同条2項2号により刑訴法316条の17第1項の主張と開示の請求に係る証拠との関連性を明らかにしなければならない。そして,同項による「証明予定事実その他の公判期日においてすることを予定している事実上及び法律上の主張」の明示義務は,争点の明確化と審- 5 -理計画の策定のために課せられるものであり,可能な い。そして,同項による「証明予定事実その他の公判期日においてすることを予定している事実上及び法律上の主張」の明示義務は,争点の明確化と審- 5 -理計画の策定のために課せられるものであり,可能な限り具体的な主張であることが求められている。 ところで,取調べメモを証拠開示請求する場合には,取調べ状況やその際に作成された調書の信用性を争点とするべきところ,本件においては,弁護人は,新規供述に沿う事実を否定し,新規供述に関する検察官調書あるいはAの予定証言を争う旨の主張をしたものの,B警察官のAに対する取調べ状況やその際の供述内容の信用性については争点とせず,一切主張していない。したがって,本件メモの開示請求の前提となる事実上の主張を具体的にしておらず,少なくとも本件メモとの関連性を明らかにしていないものといわざるを得ない。 さらに,開示の必要性についても,原決定は,「A証人が従前の取調べでどのように述べていたかは重要な争点となるから,・・・その(本件メモ)記載が新たな角度から意味をもってくる可能性は否定できず・・・」として本件メモの開示の必要性があるものと判断している。 しかし,本件では,検察官はAのB警察官に対する供述調書を開示済みであり,弁護人も,同調書に新規供述に関する事項についての記載がないことは争っていないのである。したがって,Aが従前の取調べでどのように述べていたかが重要な争点とはなり得ない。あえていえば,A証人が新規供述に関する事項について,警察官と調書外で何らかのやり取りがあり,それが本件メモに記載されていることが仮定的な可能性としては考えられないでもなく,原決定の「新たな角度から意味をもってくる可能性」とは,そのことをいうものとも解される。しかし,原決定は,本件メモを検討の上,自ら「本件メモ自体は,その内容からして証拠価 しては考えられないでもなく,原決定の「新たな角度から意味をもってくる可能性」とは,そのことをいうものとも解される。しかし,原決定は,本件メモを検討の上,自ら「本件メモ自体は,その内容からして証拠価値に乏しいものともいえる」としているのであるから,上記のような可能性はおよそ考え難いと- 6 -ころである。 さらに,一般に取調べメモの開示請求をする場合は,当該取調べ担当官の証人請求がなされた上で行うものであるが,本件ではB警察官の証人申請がなされておらず,警察官調書作成の際の取調べメモのみが開示請求されているのであり,その請求の方法からしても必要性は乏しいものといわざるを得ない。 私は,主張関連証拠の関連性,必要性等の判断については,法律審たる当審は原則として事実審の判断を尊重すべきものと考えるが,双方の主張の明示義務は争点整理のために重要であり,関連性,必要性等の判断は具体的に検討されるべきことが法律上予定されているので,そのような観点から,本件については,多数意見に反対するものである。 (裁判長裁判官涌井紀夫裁判官甲斐中辰夫裁判官泉徳治裁判官宮川光治)

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