昭和63(オ)960 損害賠償

裁判年月日・裁判所
平成2年3月6日 最高裁判所第三小法廷 判決 破棄差戻 福岡高等裁判所 昭和61(ネ)134
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【DRY-RUN】主    文      原判決中上告人ら敗訴部分を破棄する。      右部分につき本件を福岡高等裁判所に差し戻す。          理    由   上告代理人津留雅昭の上告理由について  一 原

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主文 原判決中上告人ら敗訴部分を破棄する。 右部分につき本件を福岡高等裁判所に差し戻す。 理由 上告代理人津留雅昭の上告理由について一原審が確定した事実関係は、次のとおりである。 1 被上告人は、私立D工業学校E科を卒業後、昭和一五年にF電気医学校(治療士を養成する施設で、弱電低周波の電気治療を教えるところ)を出て治療士となり、昭和三二年にG医学(Gが昭和二年に創始した自然療法を主とした東洋医学をいう。)の資格(ただし、医師の資格ではない。)を取得し、昭和四〇年から肩書住所地において、「Hへルスドック」、「I会」又は「J治療室」なる名称を使用して、いわゆる断食道場(以下「本件断食道場」という。)を開業している。 本件断食道場は、ビルの四階と五階にあり、四階は、一五一平方メートル(四六坪)程のワンフロアーで、温冷浴室、各種治療機等を置いた治療室になっており、五階は、入院者の寝起きする部屋、食堂、被上告人の居室兼宿直室などがあり、二DKの部屋が七室で、ベッド数は二四であり、被上告人の他に助手一名と賄い婦二名がいたが、医師や看護婦の資格を有する者はいなかった。 本件断食道場において断食療法を受ける者は、一年間に約一四〇名から二〇〇名に及ぶが、その殆どは慢性の病気の治療を目的とし、被上告人がそれらの者に症状や健康状態を質問した上で、その入院期間を決めていた。 2 訴外亡K(以下「訴外K」という。)は、昭和五七年八月一二日、糖尿病と診断され、同日から同年九月一七日まで福岡県大牟田市内のL病院に入院し、同月一八日から同年一一月一三日まで同市内のM病院(以下「M病院」という。)に入院して、それぞれ糖尿病の治療を受け、同月一四日から自宅で治療した後、同年一- 1 -二月一日から勤務先に復 入院し、同月一八日から同年一一月一三日まで同市内のM病院(以下「M病院」という。)に入院して、それぞれ糖尿病の治療を受け、同月一四日から自宅で治療した後、同年一- 1 -二月一日から勤務先に復帰して軽作業に従事していた。 訴外Kの症状は、血糖値の変動が激しい不安定型かつインシュリン依存型の糖尿病であって、食事療法、運動療法をした上、定期的に血糖値を検査して、インシュリンの投与により血糖をコントロールする必要があり、常時インシュリン注射と飲み薬を欠かせない状態であった。そのため、訴外Kは、M病院を退院するに当たり、同病院の医師からインシュリン注射の必要性と自己注射の方法について指導を受け、退院後は同病院から一定量のインシュリンと注射器の交付を受け、これを使用して自ら自己の身体に右の注射をしていた。 3 訴外Kは、昭和五七年一二月一日、妻の上告人Aとともに被上告人方を訪れ、被上告人に対しこれまでの病状、前記の薬剤を注射及び服用していること等を詳細に説明し、本件断食道場でこの糖尿病が治るかどうかを尋ねたところ、被上告人は、断食療法によって右糖尿病は治る、ここでは西洋医学の薬は一切使わずに治すので病院から貰っているインシュリンの注射や飲み薬は必要がないと答えた。 被上告人は、糖尿病患者も入院させて治療しており、糖尿病における低血糖、高血糖、インシュリンの効用等についてかなりの知識を有していた。 訴外Kは、医師から生涯治らないといわれた糖尿病が被上告人から治るといわれたため、多分に疑問を抱きつつも、被上告人の言葉を信用して、同月八日、本件断食道場に入院した。その際、訴外Kは、被上告人の言葉に従い、M病院から貰っていた前記飲み薬、インシュリン及び注射器を持参しなかったが、被上告人も訴外Kが右の薬を持参しているかどうかについての確認をしなかっ に入院した。その際、訴外Kは、被上告人の言葉に従い、M病院から貰っていた前記飲み薬、インシュリン及び注射器を持参しなかったが、被上告人も訴外Kが右の薬を持参しているかどうかについての確認をしなかった。 4 訴外Kは、入院した日には、マッサージをするローリング健康機や温冷浴等の療法を受け、予備断食として、昼夜とも、玄米がゆをどんぶり一杯、梅干二個のほか、「酵素」なる飲み物を与えられたが、被上告人の言葉に従い同日からインシュリンの注射をせず、飲み薬も飲まなかった。 - 2 -同月九日、訴外Kは、朝から温冷浴等の治療を受け、風邪気味であったが、被上告人は何の処置もとらなかった。 同月一〇日、訴外Kの体調はインシュリン不足から次第に悪化し、夕方上告人Aに対する電話の声も弱々しく聞き取れない程であったため、上告人Aは被上告人に異常ではないかと尋ねたが、被上告人は大丈夫というのみであった。同日夜、訴外Kが体調も弱々しい感じで、喉が乾くといって頻繁に水を飲みに起きるなどしたため、同室の入院者が二度にわたって被上告人に知らせたが、被上告人はその都度様子を見に行ったものの、声をかけたのみで格別の処置を講じなかった。 同月一一日早朝、訴外Kの異常に気付いた同室者が被上告人に連絡したところ、被上告人は、同日午前八時三五分ころ、訴外Kの様子を見て糖尿病に基づく低血糖による昏睡ではないかと判断し、前記飲み物約四〇CCと羊羹を三、四センチに切って食べさせようとしたが、状態が改善しないため救急車を呼んだ。午前九時ころ救急車が到着したときは、訴外Kは、既に危篤の状態であり、救急隊員による人工呼吸等の手当を受けた後、九時三〇分ころ近くのN病院に搬送されたが、既に手遅れの状態であり、人工呼吸、心臓マッサージ、インシュリン注射、輪液等の手当を受けたものの、同日午前一 り、救急隊員による人工呼吸等の手当を受けた後、九時三〇分ころ近くのN病院に搬送されたが、既に手遅れの状態であり、人工呼吸、心臓マッサージ、インシュリン注射、輪液等の手当を受けたものの、同日午前一〇時五〇分同病院で死亡した。 5 訴外Kの死因は、右N病院医師の死亡診断書では、糖尿病を原因とする心不全とされ、翌一二日のO大学医学部の病理解剖の結果では、直接の死因は肺浮腫、肺出血及び無気肺であるが、その原因は、それまで連日投与を受けていたインシュリンの注射を前記断食中に中止したため、高血糖による昏睡を来したことによるものとされた。 二上告人らは、被上告人に対し、被上告人の債務不履行又は不法行為に基づき、訴外Kの死亡により被った損害の賠償を請求したところ、原審は、右事実関係に基づいて、被上告人に対し、次のとおり、不法行為に基づき、訴外Kの死亡による損- 3 -害額から訴外Kの過失相殺として七〇パーセントを控除した額の支払を命じた。 1 断食療法は、一定期間食物を断つことであるから、その療法の方法、その療法を受ける者本人の健康状態、病名、病気の軽重、症状、体質、断食の期間、断食療法を施行する者の医学知識の有無、程度等のいかんによっては、本人に死の結果を招来させたり、病状を重篤・深刻化させたりする虞れのあることが当然予想されるのであるから、医師の資格を有しない被上告人としては、少なくとも病院で治療中の者に対しては、断食療法の可否につき事前に担当医師に相談をしてその指示を受けてくるように指導すべき義務があり、殊にかなり重い糖尿病患者で医師の指示のもとにインシュリン注射や飲み薬を常用している者に対してはなおさらであり、右のように治療中の者を入院させるには、前記の医師の指示を受けてきたかどうか、薬を持参しているかどうかを確認するとともに、もし医 とにインシュリン注射や飲み薬を常用している者に対してはなおさらであり、右のように治療中の者を入院させるには、前記の医師の指示を受けてきたかどうか、薬を持参しているかどうかを確認するとともに、もし医師の指示を受けず、かつ、医師の指示による投薬を中止して入院する者に対しては入院後における本人の健康状態の変化に細心の注意を払い前記の危険の発生を未然に防止すべき義務がある。 2 しかるに、被上告人は、前記の各注意義務を怠り、昭和五七年一二月一日、訴外K及び上告人Aに対し、訴外Kが医師の指示によりインシュリン注射と飲み薬を常用するかなり重い糖尿病患者であることを知りながら、断食療法の可否について担当医師の指示を受けてくるよう指導しなかったばかりか、断食療法により糖尿病は治る、インシュリン注射や飲み薬は必要ないと明言し、これを信用した訴外Kが同月八日飲み薬、インシュリン、注射器を持参しないまま入院し、同日から右注射等を中止したため、インシュリン不足を生じ、ついに昏睡に陥って同月一一日死亡するに至った。また、被上告人は、訴外Kの入院から死亡する直前まで同人がインシュリン等の薬剤を持参しているかどうかを確認せず、同月一〇日夜には、上告人Aや入院者から訴外Kの容態が異常ではないかとの連絡を受けたのに、単に大丈夫かと言ったのみで、インシュリン不足により高血糖状態に陥っていく同人の容態- 4 -の変化に対する注意を怠り、危篤状態に陥る直前まで何らの措置もとらなかった。 そうすると、訴外Kの死亡は、被上告人の前記注意義務違反によるものであることが明らかである。 3 一方、訴外Kの方も、被上告人が医師でないことは知っていたのであり、被上告人がいう断食療法で糖尿病が治るということは、多分に疑問を抱きつつも、一縷の望みをかけて同療法を受けようとしたのであるから、 一方、訴外Kの方も、被上告人が医師でないことは知っていたのであり、被上告人がいう断食療法で糖尿病が治るということは、多分に疑問を抱きつつも、一縷の望みをかけて同療法を受けようとしたのであるから、現に治療を受けインシュリンの注射等を指示していた医師に対して、インシュリン注射等を中止しても危険がないかどうか、断食道場による療法を受けても健康上別状がないかどうか等を事前に相談すべきであったにもかかわらず、これをしないで、漫然と被上告人の言葉を信用して、インシュリンの注射は必要ないものと考え、医師の指示に反して、その注射を中止したため本件死亡事故を引き起こしたものであるから、同事故発生につき訴外Kにも過失があり、その過失は損害賠償額の算定に当たり考慮すべきである。 4 以上認定した諸事情を総合して判断すれば、本件死亡事故発生に対する被上告人と訴外Kとの過失の割合は、三〇パーセント(被上告人)対七〇パーセント(訴外K)と認めるのが相当である。 三しかしながら、訴外Kの過失相殺の割合に関する原審の認定判断は、これを是認することができない。その理由は、次のとおりである。 被上告人が本件断食道場で施した断食療法は、断食を通じて慢性病等の治療をしその健康の維持回復を図ることを目的とし、被上告人が入院者に対しその健康状態、病状等を質問して入院期間を決定するものであって、診療というべきものであり、その内容も一定期間、一切又は特定の飲食物を摂取しないことを基本方法とするものであり、その期間の長短、摂取を禁ずる飲食物の種類、量等や入院者の体質、病歴、症状、体調のほか、施術者の医学知識の有無、程度などのいかんによっては、- 5 -入院者を死に至らせることになったり、病状を更に悪化させる虞れのあることが当然に予想されるものであるから、医師の資格を有しない のほか、施術者の医学知識の有無、程度などのいかんによっては、- 5 -入院者を死に至らせることになったり、病状を更に悪化させる虞れのあることが当然に予想されるものであるから、医師の資格を有しない被上告人としては、訴外Kのような重篤な糖尿病患者で医師の指示のもとでインシュリン注射や飲み薬を常用する者を入院させるに当たっては、断食療法の可否について事前に担当医師の指示を受けてくるように指導する義務があり、医師の指示を受けず、かつ、医師の指示による投薬を中止して入院する者に対しては、入院後の容態に細心の注意を払い、病状悪化の徴候がある場合には、直ちに施術を中止して専門医の診療を受ける機会を与えるべき義務があり、被上告人にはこれらの注意義務を怠った過失があったものというべきところ、被上告人が本件断食道場で訴外Kに施した断食療法が診療というべきものであることを考慮すると、被上告人の右過失の態様は重大であり、訴外Kにも、被上告人が医師の資格がないことを知りながら、現に治療を受け、インシュリン注射等の常用を指示していた担当医師に対して、インシュリン注射等の中止や断食療法を受けることの可否等を事前に相談せず、漫然と被上告人の言葉を信用して同医師の指示に反してインシュリン注射等を中止したため、本件死亡事故に至った過失があることを考えても、原審の定めた被上告人の過失割合は著しく低きにすぎ、右判断は裁量権の範囲を逸脱して違法であるといわなければならない。そして、右違法は、前記過失割合に基づいて上告人らの損害賠償額を認定した原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、この違法をいう論旨は理由があり、原判決中上告人ら敗訴部分は破棄を免れず、被上告人及び訴外Kの過失割合について更に審理を尽くさせるため、右破棄部分につき本件を原審に差し戻すのが相当である あるから、この違法をいう論旨は理由があり、原判決中上告人ら敗訴部分は破棄を免れず、被上告人及び訴外Kの過失割合について更に審理を尽くさせるため、右破棄部分につき本件を原審に差し戻すのが相当である。 よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。 最高裁判所第三小法廷- 6 -裁判長裁判官坂上壽夫裁判官安岡滿彦裁判官貞家克己裁判官園部逸夫- 7 -

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