平成24年10月11日判決言渡同日原本交付裁判所書記官平成22年第1555号損害賠償請求事件口頭弁論の終結の日平成24年7月17日判決主文 1 被告は,原告Aに対し,3410万5772円及びこれに対する平成19年4月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告Bに対し,3410万5772円及びこれに対する平成19年4月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は,その17%を原告らの負担とし,その余を被告の負担とする。 5 この判決は,主文1項及び2項に限り,仮に執行することができる。事実及び理由第1 請求 1 被告は,原告Aに対し,4112万4515円及びこれに対する平成19年4月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告Bに対し,4112万4515円及びこれに対する平成19年4月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。第2 事案の概要 1 請求の類型(訴訟物)本件は,Cの相続人である原告らが,Cが死亡したのは承継前被告である株式会社D(以下「承継前被告」という。)における業務の過重負荷に起因するものである旨主張し,不法行為に基づく損害賠償請求又は労働契約上の債務不履行に基づく損害賠償請求として(なお,原告らは,上記各請求の順位につき,平成24年4月19日の第10回弁論準備手続期日において,遅延損害金の起算日の関係で不法行為に基づく損害賠償請求を第1次的請求とするものである旨釈明した。),被告に対し,原告ら各自に対して,損害賠償金4112万4515円及びこれに対するCの 日において,遅延損害金の起算日の関係で不法行為に基づく損害賠償請求を第1次的請求とするものである旨釈明した。),被告に対し,原告ら各自に対して,損害賠償金4112万4515円及びこれに対するCの死亡日である平成19年4月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うよう求めた事案である。 2 前提事実(確定の根拠は各末尾に示す。なお,以下において,人名は,初出のときに氏名を示し,その後は適宜名の記載を省略する。) 承継前被告について承継前被告(株式会社D)は,情報処理システム及び電気通信に関する調査,研究,開発,相談,運営業務等を目的とする,昭和53年10月12日設立の株式会社である。(甲1) CについてCは,昭和50年10月6日生まれの女性である。Cは,平成10年4月1日に承継前被告に入社し,平成19年4月当時,その福岡事業所において,システムエンジニア(以下「SE」という。)として勤務していた。(争いがない事実,甲1) Cの死亡Cは,平成19年4月8日推定午前5時ころ,東京都a市(以下略)所在のホテル(以下略)において,心臓性突然死により死亡した(死亡時の年齢は31歳。この死亡を,以下「本件事故」という。)。Cの死体検案は,同月9日,E大学法医学教室のF医師によって行われているところ,F医師は,同年6月20日付け死体検案書(以下「本件死体検案書」という。)において,Cの直接死因は致死性不整脈で,発症から短時間で死亡した旨の診断をするとともに,解剖の結果,心臓房室間動脈に中等度の狭窄(以下「本件狭窄」という。)が認められた旨の報告をした。(争いがない事実,甲1) 相続Cの相続人は した旨の診断をするとともに,解剖の結果,心臓房室間動脈に中等度の狭窄(以下「本件狭窄」という。)が認められた旨の報告をした。(争いがない事実,甲1) 相続Cの相続人は,その父母である原告らであり,法定相続分は各2分の1である。(争いがない) 損益相殺ア労災保険給付原告らは,福岡中央労働基準監督署長がした平成21年9月9日付けの支給決定により,本件事故に関して遺族補償一時金1116万5000円及び葬祭料66万9900円の支給を受けた。(甲2)イ承継前被告からの支払原告らは,承継前被告から,弔慰金として160万円の支払を受けた。(争いがない)ウ損益相殺額合計 1343万4900円 合併による地位の承継被告は,本件訴訟係属中の平成24年7月1日,吸収合併により承継前被告の権利義務を承継した。(弁論の全趣旨) 3 争点 Cの死亡と承継前被告における業務との因果関係 承継前被告の責任原因 原告らの損害額(弁護士費用を除く。) 過失相殺 弁護士費用の額第3 争点に関する当事者の主張 1 争点(Cの死亡と承継前被告における業務との因果関係)について 原告らの主張Cの死亡と承継前被告における業務との間には相当因果関係が存在する。 その理由は,以下のとおりである。ア第1に,Cの従事した業務は,以下のとおり,Cの基礎疾患を自然的経過を超えて増悪させる要因となり得る程度の負荷(過重負荷)を伴うものであった。 平成19年2月以降の月100時間を超える常軌を逸した長時間労働(量的過重性)並びに達成 自然的経過を超えて増悪させる要因となり得る程度の負荷(過重負荷)を伴うものであった。 平成19年2月以降の月100時間を超える常軌を逸した長時間労働(量的過重性)並びに達成困難な納期圧力及び十分な準備もできないまま顧客の面前で行われた機能確認試験の失敗という惨めな体験で味わった極限的精神的ストレス(質的過重性)は,Cを自殺未遂に追い詰めるほど大きな過重性を有するものであった。 Cは,自殺未遂の翌日である平成19年3月5日から自宅待機を余儀なくされたが,承継前被告において休業の就業規則上の位置づけがあいまいであったこと,休業の期間や復帰までの目処も不明確であったこと,休業中に承継前被告が復帰に向けたフォローをしなかったことから,復職の連絡を受けた同年4月2日までの29日間にわたって不安定な状態に置かれ,その結果,Cの心理的負荷は回復するどころか一層拡大した。 復職当日(平成19年4月3日)の深夜残業及び同月4日からの東京出張における拘束時間の長い業務も,Cの健康に対する配慮を欠いた不相当かつ過重なものであった。イ第2に,Cの基礎疾患は,以下のとおり,その自然的経過により致死性不整脈を発症させる程度にまで進行していなかった。 Cは,小学校から大学までの健康診断において何ら異常を指摘されておらず,また,承継前被告入社半年後の平成10年10月6日の健康診断においても異常所見が認められていないから,本件狭窄は,承継前被告に入社した後に形成されたものと考えるのが自然であり,したがって,本件狭窄自体も承継前被告の業務によって形成された可能性が高い。 G医師は,厚生労働事務官の平成21年4月23日付け面接照会顛末書において,心臓房室間動脈の狭窄(血管の線維化)で,房室ブロ 件狭窄自体も承継前被告の業務によって形成された可能性が高い。 G医師は,厚生労働事務官の平成21年4月23日付け面接照会顛末書において,心臓房室間動脈の狭窄(血管の線維化)で,房室ブロックを起こしそれが死亡に直結するのは考えにくい,との見解を示している。 Cは,承継前被告の定期健康診断において不整脈が認められているが,その所見が認められたのは平成11年,平成15年,平成16年及び平成18年の4回にとどまり,また,その不整脈は,本件狭窄に由来するものではなく,若年層に多くみられる呼吸性不整脈であった可能性が高く,病的意義はない。仮に,Cの不整脈が本件狭窄に由来するものであったとしても,平成17年の心電図検査において「正常範囲」と診断され,平成18年においては心電図検査さえ行われていないことに照らすと,Cの不整脈の基礎疾患の進行度合いは,それほど進んでいたわけではなかったとみるのが相当である。ウ第3に,Cには他に確たる発症因子が存在していなかった。 被告の主張Cの死亡と承継前被告における業務との間には事実的因果関係が存在せず,仮に事実的因果関係が存在するとしても,相当因果関係は存在しない。その理由は,以下のとおりである。ア第1に,Cの業務は,以下のとおり,一般的な労働者にとって死亡の結果をもたらすような過重なものではなかった。 労働時間についてみると,Cの最長の時間外労働時間は,発症前2か月平均の1か月当たり63時間40分にすぎず,それ以外の発症前1か月又は3か月ないし6か月の1か月当たり平均時間外労働時間は,業務と発症との関係が弱いとされる45時間未満であって,いずれも厚生労働省の認定基準を満たさない。しかも,Cは,発症の直前に連続29日間の連続休日が与 いし6か月の1か月当たり平均時間外労働時間は,業務と発症との関係が弱いとされる45時間未満であって,いずれも厚生労働省の認定基準を満たさない。しかも,Cは,発症の直前に連続29日間の連続休日が与えられているため,その労働時間は法定労働時間数にも達していない。 労働時間以外の負荷要因についても,休業前にCが担当していた業務は,その経験・能力に応じた内容で,特別なトラブルもなかった。また,休業後においては,Cの作業内容は,1日数件の照会に対する回答という極めて軽易なもので,労働密度も薄かった。したがって,Cには,労働時間以外の特別の負荷も存在しなかった。 Cが自殺未遂をした点について,被告はその事実を知らないが,仮に自殺未遂が存在したとしても,自殺未遂により致死性不整脈が引き起こされることはないから,本件事故とは無関係である。 仮に,Cの業務に何らかの負荷が存在したとしても,29日もの長期連続休日により,その負荷は回復している。そのことは,C自身が承継前被告に対して再三にわたり回復した旨の連絡及び復帰希望の申入れをし,原告らもそれを勧めていたことからも明らかである。イ第2に,Cには,業務外の死亡の原因が存在していた。すなわち,Cの本件狭窄に関し,Cの死体を検案したF医師は,心臓房室間動脈の狭窄などにより血液供給量が低下した場合,不整脈の原因となる,との見解を示している。他方,Cの不整脈は,入社直後の平成11年の健康診断時に確認されているから,遅くともその時期にはCに本件狭窄が存在していた。 したがって,Cには,業務と無関係に生じた,死亡の原因となる疾患が存在していた。 2 争点(承継前被告の責任原因)について 原告らの主張使用者は,その雇用する労働者に従事させる がって,Cには,業務と無関係に生じた,死亡の原因となる疾患が存在していた。 2 争点(承継前被告の責任原因)について 原告らの主張使用者は,その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し,業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う。そして,雇用契約上の安全配慮義務ないし不法行為上の注意義務の前提となる予見可能性の内容は,具体的特定の疾患の発症を予見し得たことまでは必要でなく,過重労働が問題となっている事案においては,使用者において労働者の労働実態が心身の健康を損なう程度のものであることを認識し又は認識し得た場合には,結果の予見可能性は当然に認められる。しかるに,承継前被告は,上記の安全配慮義務等に違反し,その結果,Cは,前記1のとおり,承継前被告の業務による過重負荷に起因して致死性不整脈を発症し死亡したものであるから,承継前被告は,労働契約上の債務不履行責任又は不法行為責任として,本件事故により原告らに生じた損害を賠償する責めを負う。承継前被告の安全配慮義務等の内容及びその違反の態様は,具体的には以下のとおりである。ア承継前被告は,Cの労働時間,休憩時間,休日,労働密度を適切に把握し,Cが過重労働によって健康を破壊することのないよう,必要な人員配置や労働環境を整備すべき義務を負っていたにもかかわらず,プロジェクトの遂行に必要な人的・物的体制の整備を怠り,平成19年2月には月100時間を超える時間外労働をCに余儀なくさせ,また,納期達成が困難な状況下で同年3月2日機能確認試験を強行し,顧客から突き放された言動を浴びせられるという過酷な目に遭わせ,Cを自殺未遂に追い込んだ。 加えて,承継前被告の福岡事業所長 なくさせ,また,納期達成が困難な状況下で同年3月2日機能確認試験を強行し,顧客から突き放された言動を浴びせられるという過酷な目に遭わせ,Cを自殺未遂に追い込んだ。 加えて,承継前被告の福岡事業所長であるHは,Cの自殺未遂という労働者の健康に関する重大な事実を,本社に速やかに報告せず,必要な対応を協議することもなかった。イ平成19年3月5日のCの自殺未遂後において,承継前被告は,Cが安心して静養できるよう,欠勤を許容する根拠や欠勤中の給与の扱いを明確にした上で,復職までの期間の見通し及びその手順等を早い段階で説明して心理的不安を取り除き,休養中のCの健康状態を的確に把握して復職に耐え得るかどうかを慎重に吟味すべき義務を負っていたにもかかわらず,将来の見通しを何ら伝えぬまま自宅待機を命じ,また,Cの健康状態を把握することなく,同年4月2日に突然翌日からの復帰を命じた。ウ平成19年4月3日にCが復職した後において,承継前被告は,Cの勤務が過重にならないよう,適切な配置を行った上で勤務軽減措置を行うべき義務を負っていたにもかかわらず,復帰初日に午前2時まで深夜残業に従事させたばかりか,復帰5日目には同僚が皆反対したにもかかわらず東京への滞在出張を命じるという極めて過重業務を強いた。 被告の主張Cの業務は前記1アのとおり過重なものではなかったし,また,C本人や事情を詳細に知っていた原告らも死亡の結果を予見し得ず,被告に対して再三にわたり回復した旨の連絡と復帰希望の申入れをしていたものであるから,承継前被告にはCの死亡に対する予見可能性はなく,したがって,それを前提とする承継前被告の安全配慮義務違反及び過失も存在しない。 3 争点(原告らの損害額)について 原告らの主張ア逸失 はCの死亡に対する予見可能性はなく,したがって,それを前提とする承継前被告の安全配慮義務違反及び過失も存在しない。 3 争点(原告らの損害額)について 原告らの主張ア逸失利益 5664万3166円 基礎収入額a 月例給与年額407万5225円=労災認定の給付基礎日額1万1165円×365日b 特別給与年額81万5045円=労災認定の算定基礎日額2233円×365日c 以上合計年額489万0270円 生活費控除率 30% 中間利息控除係数 16.5469就労可能年数36年のライプニッツ係数 計算式 489万0270円×(1-0.3)×16.5469=5664万3166円 相続による原告ら各自の損害額 2832万1583円イ慰謝料 3000万0000円Cは,精神的・肉体的に追い詰められた結果,本件事故により31歳という若さで命を奪われたものであるから,その慰謝料は2000万円を下るものではない。原告らは,上記金額の2分の1にあたる1000万円をそれぞれ相続した。また,原告らは,最愛の娘の命を過重労働によって奪われ,Cの花嫁姿や孫の顔を見ることさえ叶わなくなったのであるから,各500万円を下らぬ固有の慰謝料請求権を有する。仮に,原告らに遺族固有の慰謝料を認めない場合,Cの慰謝料は3000万円が相当である。原告らは,その2分の1にあたる各1500万円を相続した。ウ葬儀費用 156万0764 族固有の慰謝料を認めない場合,Cの慰謝料は3000万円が相当である。原告らは,その2分の1にあたる各1500万円を相続した。ウ葬儀費用 156万0764円Cの葬儀に要した費用は上記金額であり,原告らは各78万0382円ずつこれを負担したものとみなす。エ損害額合計 8820万3930円原告ら各自 4410万1965円 被告の主張争う。 4 争点(過失相殺)について 被告の主張仮に,被告の責任が認められるとしても,本件においては,以下のとおり被害者側の過失があるから,損益相殺前の損害賠償額に対し少なくとも8割以上の過失相殺がなされるべきである。ア前記1イのとおり,Cの死亡原因となった致死性不整脈は,業務と無関係に生じた本件狭窄によって生じたものである。イ仮にCが自殺未遂をしたとの事実が存在したとしても,それはCの性格・心因的要素が寄与するものである。ウ Cや原告らは,承継前被告に対し,自殺未遂の事実やCの症状について何ら連絡しなかった。エ Cは,休養中の平成19年3月8日に心療内科医師の診察を受け,原告Bもこれに立ち会っていたが,医師に自殺未遂の事実を伝えず,また,医師から指示のあった再診も受けず,処方された薬も服用しなかった。オ Cは,承継前被告がしばらく休養するよう何度も伝えたにもかかわらず,承継前被告に対し,再三にわたり回復した旨の連絡と復帰の申入れをし,事情を詳細に知っていた原告らも,Cの上記申入れ等を止めることなくむしろ勧めていた。 原告らの主張 にもかかわらず,承継前被告に対し,再三にわたり回復した旨の連絡と復帰の申入れをし,事情を詳細に知っていた原告らも,Cの上記申入れ等を止めることなくむしろ勧めていた。 原告らの主張ア承継前被告及び被告は,弁論準備手続及び証拠調べを経るまで過失相殺の主張をあえてしてこなかったにもかかわらず,証拠調べ後に担当裁判官が双方対席の場で本件につき因果関係及び責任原因につき肯定的に解する心証を開示するや,突如過失相殺の主張を追加したものであるところ,かかる主張の追加は訴訟上の信義則に反するものであり,被告の過失相殺の主張は,時機に後れた攻撃防御方法として民訴法157条1項に基づき却下されるべきである。イ仮に被告の過失相殺の主張が却下されないとしても,以下のとおり,本件においては過失相殺事由は存在しない。 被告の主張ア(基礎疾患)について前記1イのとおり,Cの本件狭窄は,承継前被告の業務によって形成されたものとみるべきであるから,過失相殺の評価根拠たるCの素因として位置付けること自体誤りであるし,仮に本件狭窄が承継前被告の業務と無関係に生じた基礎疾患であるとしても,本件狭窄がCの死亡原因である致死性不整脈の発生に寄与したとの医学的根拠は存在しない。 被告の主張イ(性格・心因的要素)についてある業務に従事する特定の労働者の性格が同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない場合は,業務の負担が過重であることを原因とする損害賠償請求において使用者の賠償すべき額を決定するに当たり,その性格及びこれに基づく業務遂行の態様を心因的要因として斟酌することはできないところ,Cの性格傾向が上記範囲を外れることを認めるに足りる証拠はない。 て使用者の賠償すべき額を決定するに当たり,その性格及びこれに基づく業務遂行の態様を心因的要因として斟酌することはできないところ,Cの性格傾向が上記範囲を外れることを認めるに足りる証拠はない。 被告の主張ウ(承継前被告に対する自殺未遂等の未報告)についてHは,遅くとも3月6日までにCの自殺未遂の事実を把握しているのであるから,承継前被告に対して重ねて自殺未遂の報告を行う必要はない。また,原告らは,Cと別居しb市に居住していたのであるから,Cの勤務状況や健康状態を随時把握しこれに対応できる立場にはなかったし,承継前被告に対して健康状態を報告したりする義務もなかった。 被告の主張エ(医師に対する不告知等)についてCは,診察を受けた医師に対して自殺未遂の話をしている。また,Cは,医師から来院指示を受けたことはないし,労働者やその家族に医療機関の受診義務はない。なお,Cが医師から処方された薬は,飲んでも飲まなくてもよい,本当に苦しいときに飲めばよいとの説明を受けていたものであるから,Cが服用を懈怠していたわけではない。 被告の主張オ(多数回にわたる積極的な復職希望)についてHがCに対して連絡を待つよう指示したのは,Cを休養させるためというより,自らが多忙で自殺未遂の本社総務への報告すらできておらず,休業の位置付け,復帰の手順及び目処,受入体制,勤務軽減措置等についてもCと一度会ってから検討しようと考えながら先延ばしにしていたからにほかならないし,Cが繰り返し復帰の希望を述べたのも,休業の位置づけや復帰の目処もつかないまま待たされ続け,会社から不要と思われているのではないかとの不安を有していたことの裏返しである。また,原告ら家族がCの復帰を止めなかったのは, ,休業の位置づけや復帰の目処もつかないまま待たされ続け,会社から不要と思われているのではないかとの不安を有していたことの裏返しである。また,原告ら家族がCの復帰を止めなかったのは,原告らがCの休業前の過酷な勤務状況及び平成19年3月ないし4月当時における承継前被告の厳しい労働環境を知らなかったためである。ウ損益相殺後の損害額合計 7476万9030円=8820万3930円(前記3エ)-1343万4900円(前記第2の2ウ)原告ら各自 3738万4515円 5 争点(弁護士費用の額)について 原告らの主張ア原告らは,本件訴訟の提起・追行を弁護士に委任したから,その弁護士費用のうち各374万円が承継前被告の不法行為と因果関係のある損害として認められるべきである。イ弁護士費用を加えた原告ら各自の損害額 4112万4515円=3738万4515円(前記4ウ)+374万円(上記ア) 被告の主張争う。第4 争点に関する当裁判所の判断 1 判断の基礎となる事実前記前提事実並びに証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる(確定の根拠は各末尾に適宜摘示する。)。 承継前被告の概要・業務態勢等承継前被告は,情報処理システム及び電気通信に関する調査,研究,開発,相談,運営業務等を目的とする株式会社であり,東京都c区に本社を置き,d事業所(東京都d市),dシステムセンター事業所(東京都e市),f事務所(f市),g事務所(g市)及び福岡事務所(福岡市)の各事業所を有していた。承継前被告の福岡事業所は,主に,I社のシステム (東京都d市),dシステムセンター事業所(東京都e市),f事務所(f市),g事務所(g市)及び福岡事務所(福岡市)の各事業所を有していた。承継前被告の福岡事業所は,主に,I社のシステムを引き受けていた子会社のJ社から,I社の大型汎用コンピュータの基幹業務システムで人事管理,運賃管理,ダイヤ管理等のシステム開発を受注していた。平成19年当時,承継前被告には,会社全体で約300名,福岡事業所で約10名のSE(システムエンジニア)が勤務していた。承継前被告の福岡事務所の組織は,部署が固定されておらず,受注したプロジェクトごとに必要なチームを編成し業務を行う形を取っていた。承継前被告の就業規則においては,1日の就業時間は,始業時刻が午前9時,終業時刻が午後5時50分,休憩が午後0時から午後1時までの,実働7時間50分とされ,また,休日は,日曜日,土曜日,国民の祝日,年末年始及びその他承継前被告が特に定めた日と規定されていた。なお,承継前被告における従業員の労働時間の管理は,パソコンへの入力やカードリーダーへの社員証の入力により始業時刻,休憩時間及び終業時刻を把握し,作業日誌を作成するなどの方法により行われていた。(前記第2の2の事実,甲1,28〔枝番号1〕,乙1,3,弁論の全趣旨) Cの生活歴・家族等Cは,平成6年3月にb県立K高等学校を卒業して同年4月にL大学商学部に入学し,平成10年3月に卒業して同年4月に承継前被告に入社した。 Cは,承継前被告の福岡営業所でSEとして勤務していたが,役職には就いていなかった。Cの家族は,父母である原告ら及び姉のMであるが,原告らはb市に,Mは東京都h区にそれぞれ在住していたため,本件事故当時,Cは福岡市で一人暮らしを していたが,役職には就いていなかった。Cの家族は,父母である原告ら及び姉のMであるが,原告らはb市に,Mは東京都h区にそれぞれ在住していたため,本件事故当時,Cは福岡市で一人暮らしをしていた。(前記第2の2の事実,甲1,原告B本人,弁論の全趣旨) C及び家族の既往歴等ア承継前被告への入社後に行われたCの健康診断結果は,概要次のとおりであった。平成10年10月6日血圧 106/58診察所見なし総合判定異常なし平成11年10月4日血圧 100/58診察不整脈,要観察総合判定 (判読不能)平成12年10月3日血圧 94/60診察所見なし総合判定異常なし平成13年10月2日血圧 120/60診察所見なし総合判定異常なし平成14年10月4日自覚症状脈の乱れ血圧 96/46診察所見なし総合コメント異常なし平成15年10月10日自覚症状めまい・たちくらみ,脈の乱れ,腰痛血圧 116/60診察不整脈,要観察(6か月後を目安に再検査要)総合コメント聴診で不整脈がみられるため,脈の乱れや息切れなどの自覚症状が続けば医療機関の受診要 0診察不整脈,要観察(6か月後を目安に再検査要)総合コメント聴診で不整脈がみられるため,脈の乱れや息切れなどの自覚症状が続けば医療機関の受診要平成16年10月22日自覚症状脈の乱れ,腰痛血圧 100/56診察不整脈,要観察(6か月後を目安に再検査要)総合コメント聴診で不整脈と心雑音がみられるため,脈の乱れや息切れなどの自覚症状が続けば医療機関の受診要平成17年10月21日自覚症状めまい・たちくらみ,脈の乱れ,腰痛血圧 112/78診察所見なし心電図検査正常範囲総合コメント白血球減少につき3か月後の再検査要,肝機能検査値に軽度の異常がみられるため,6か月後再検査要平成18年11月9日自覚症状体重減少,めまい・たちくらみ,脈の乱れ,腰痛血圧 110/76診察不整脈,要観察(6か月後を目安に再検査要)総合コメント聴診で不整脈がみられるため,脈の乱れや息切れなどの自覚症状が続けば医療機関の受診要なお,Cは,L大学在学中の平成9年4月23日に健康診断を受けているが,そのときには疾患及び異常並びに既往症の指摘はなされていない。(甲1,乙10ないし30)イ Mは,生後まもなく,先天性心室中隔欠損症であることが判明したが,心臓に雑音がみられる程度で,手術等治療の必要性はなく,日常生活にも影響はなかった。(甲1) 本 )イ Mは,生後まもなく,先天性心室中隔欠損症であることが判明したが,心臓に雑音がみられる程度で,手術等治療の必要性はなく,日常生活にも影響はなかった。(甲1) 本件事故に至る経緯ア承継前被告は,平成18年1月30日,I社システムソリューションズから,I社の人事・賃金制度改正に伴うシステム改修(以下「本件プロジェクト」という。)を7500万円で請け負う旨の契約を締結した。本件プロジェクトにおいては,約460本のプログラムを改修することになっており,施工期間は契約締結日から平成19年3月20日までとされていた。本件プロジェクトは,人事考課・目標管理と既存システム改修との各チームに分かれていたところ,Cは,既存システム改修のチームに配置され,① 人材育成機能の設計及び製造,② 人事管理帳票機能の設計からテストまで,③ 人事管理オンライン機能の統合試験,の各作業を担当していた。なお,既存システム改修のチームは,リーダーであるH(平成18年4月からは福岡事業所の所長)の下に,実働メンバーとして,当初はサブリーダーである主任のNとCの2名のみが配置されていたが,同年3月に協力会社の2名が,同年4月に同じく4名がそれぞれ増員された。(甲1,21,28〔枝番号1,4〕,乙2,31,46,47,証人H,弁論の全趣旨)イ I社においては,本件プロジェクトと並行して,コンピュータシステムをO社製からP社製に切り替えることを内容とする「次期JAMPS」というプロジェクトが進められていた。「次期JAMPS」のプロジェクトはP社が請け負っていたが,本件プロジェクトのプログラム改修にも関連していたため,承継前被告においては,Cが所属していたチームとは別にチームを組み,「次期JAMPS 「次期JAMPS」のプロジェクトはP社が請け負っていたが,本件プロジェクトのプログラム改修にも関連していたため,承継前被告においては,Cが所属していたチームとは別にチームを組み,「次期JAMPS」に対する必要な対応を行っていた。(甲1,乙47,証人H,弁論の全趣旨)ウ本件プロジェクトに関しては,I社の内部で賃金体系等に関する仕様がなかなか確定されなかったため,承継前被告において,暫定仕様を定めて可能な箇所から作業に着手し,当該箇所の仕様が確定し変更点があれば改めて修正を行うという作業方式が採られ,その結果,本件プロジェクトは,改修を要するプログラムが当初の見積量から約600本にまで増加し,作業の進捗状況は当初から予定よりも2か月ほど遅れていた。また,本件プロジェクトは,「次期JAMPS」への移行が平成18年12月までの予定とされていたことに合わせて,同年10月末までにO社製コンピュータシステム上で改修作業を行い,その後はP社製コンピュータへの移行作業を行う予定であったところ,同年12月,P社から,移行作業が間に合わない旨の連絡を受け,その結果,「次期JAMPS」への移行作業はO社製コンピュータ及びP社製コンピュータの双方で作業を行うことを余儀なくされ,Cらのチームは,平成19年1月以降も,O社製コンピュータのもとで新システムを稼働させるための作業を行わざるを得なかった。他方,Cらのチームは,同年9月中旬に協力会社の1名が増員となったものの,同月末から同年11月にかけて協力会社の3名がチームから外れることとなった。Nは,同年11月ないし12月ころ,Hに対し,現在の人員では業務量が過剰である旨訴えたが,これに対して承継前被告がチームメンバーの増員をするなどの手当をすることはなかった。 外れることとなった。Nは,同年11月ないし12月ころ,Hに対し,現在の人員では業務量が過剰である旨訴えたが,これに対して承継前被告がチームメンバーの増員をするなどの手当をすることはなかった。(甲1,21,28〔枝番号1〕,乙47,証人H,弁論の全趣旨)エ平成19年1月下旬ころから,J社は,承継前被告に対し,本件プロジェクトの進捗状況や作業の見通しに関して詳細な報告を求めるなど,納期厳守の要求を強めるようになり,さらには,同年2月に入ると,I社からの仕様の追加・変更が相次いだ。そのため,Cらのチームの作業量は格段に増加し,Cの時間外労働時間も,同年1月には34時間45分であったのが,同年2月には127時間50分に急増した。(甲1,12,21,22,28〔枝番号1〕,乙47,証人H,弁論の全趣旨)オ本件プロジェクトのプログラム改修作業は,本来のデータ環境の縮小版の環境上で行われており,動作確認試験も,当初は上記環境上で行われる予定であったが,承継前被告は,平成19年2月26日,J社から,移行後の動作確認試験を本来の環境である0社のコンピュータシステム上で実施するよう指示を受け,上記動作確認試験を同年3月2日に実施することにした。Cらは,同年2月27日から夜間を通して環境移行作業を進め,同年3月2日の午後8時ころまでにその作業を完了した。Cは,Nらが退社した後,同日の午後10時ころから,HやJ社の担当者の面前で,新環境下での動作確認試験を行うべく,オンライン入力機能を使用してデータ登録を行ったが,旧環境下では動いていたプログラムがことごとく作動しないという不具合が発生し,数時間にわたって原因を調査したものの,これを解決することができなかった。同月3日,Nの出社を待って ったが,旧環境下では動いていたプログラムがことごとく作動しないという不具合が発生し,数時間にわたって原因を調査したものの,これを解決することができなかった。同月3日,Nの出社を待って原因を確認したところ,移行作業の手順に間違いがあったことが判明したことから,移行作業をやり直し,その結果,オンライン入力機能は正常に作動するようになった。その日のCは,表情が暗く疲れた様子であった。同年2月26日から同年3月3日までの間におけるCの労働時間は,以下のとおりである。26日(水) 午前9時00分から翌27日午前0時30分まで27日(木) 午前9時00分から午後7時00分まで28日(金) 午前9時00分から午後8時00分まで1日(木) 午前9時00分から翌2日午前2時00分まで2日(金) 午前9時00分から翌3日午前5時00分まで3日(土) 午前9時00分から翌4日午後9時00分まで(甲1,11,12,21,28〔枝番号1〕,乙34,47,証人H,弁論の全趣旨。なお,2日及び3日の終業時刻については,甲1の20頁及び461頁の記載により認めている。)カ平成19年3月4日,Cは,午前9時ころ出社したが,午後3時ころに所在不明となった。Hは,夕方ころ,Nらとともに事務所の付近を探したがCの姿を見つけることはできず,Cの自宅を訪ねたが家内からの応答はなかった。同月5日の朝,Cは,原告Bに対し,電話をかけ,勤務先で重大なミスをしそのまま逃げ出した旨を告げるとともに,そのころ,Hに対する電話連絡の中で,職場から逃げ出したことや仕事で迷惑を掛けたことを詫びる言葉を繰り返した。昼頃,Cの同僚であるQ及びRが,Cの自宅 ミスをしそのまま逃げ出した旨を告げるとともに,そのころ,Hに対する電話連絡の中で,職場から逃げ出したことや仕事で迷惑を掛けたことを詫びる言葉を繰り返した。昼頃,Cの同僚であるQ及びRが,Cの自宅を訪れたところ,Cは,終始うつむき加減で視線を合わせようとせず,「会社を出た後,川に飛び込もうか,ずっと考えながらさまよっていた。」などと述べ,「すいません。」と何度も繰り返した。このとき,Rは,Cの頸にロープで絞められたような赤黒いあざがあるのを認めている。QとRは,Cがなおも自らを責める発言を繰り返したことから,課長代理のSに対し,電話で,Cを一人にしておける状態ではない旨を報告した。QとRがいったんC宅を辞去した後,午後5時過ぎころ,SとQがC宅を訪れたが,このときにも,Cは,「ミスをして責任を感じる。」,「生きてはいけない。」,「今度は責任をもってきちんと対応します。」などと繰り返した。午後6時過ぎ,原告Bが,C宅に到着したことから,午後7時ころ,SとQはC宅を辞去した。Cは,原告Bに対し,同月4日の夜に左手首を切ったこと,同月5日の朝方に洗濯干し用のビニールロープをカーテンレールに掛けて首を吊ろうとしたが,カーテンレールが重みに耐えかね床に落ちた旨告げた。その夜,Hは,C宅に電話を掛け,C及び原告に対し,しばらく実家に帰って休養するよう伝えた。Hは,Sらから,Cが自殺未遂を図った件についての報告を受けてその事実を認識したが,同月6日,承継前被告の本社に連絡する際,Cが一時所在不明になり当面就業できる状況にない旨の連絡をするにとどまり,Cが自殺未遂を図ったことに関する報告はしなかった。そのため,承継前被告の本社サイドは,同年4月下旬に労働組合との協議が行われるまで,Cの自殺未遂の件を全く把握していなかった。 とどまり,Cが自殺未遂を図ったことに関する報告はしなかった。そのため,承継前被告の本社サイドは,同年4月下旬に労働組合との協議が行われるまで,Cの自殺未遂の件を全く把握していなかった。(甲1,12,19,21,28〔枝番号1〕,乙34,47,証人H,原告B,原告A,弁論の全趣旨)キ平成19年3月5日から同月7日までの間,Cは,自宅で原告Bとともに過ごした後,同月8日にb市の実家に帰省した。同日,Cは,b市内にある心療内科のTクリニックを受診した。Tクリニックの診療録には,Cが,承継前被告に入社して10年間,土日にも出社して仕事をしている,オーバーワークのせいかミスをしてしまった,本人は自分が悪いと自分を責めて日曜日(同月4日)に遁走した,その前日(同月3日)は不安で眠れず大声を何回も出してしまった,という趣旨の内容を訴えた旨の記載が存在する。TクリニックのU医師は,Cの不安感が強く考えがまとまらない状態であったことから,神経症(神経衰弱状態)と診断し,抗不安剤を処方した。なお,このとき,Cは,同医師から,1週間後に来院するよう求められたが,その後Tクリニックを受診しなかった。同月9日から同月10日にかけて,Cは,原告Bとともにiを旅行した後,同月11日,単身で福岡市の自宅に戻った。帰省中,Cは,原告Bに対して,一日も早く会社に戻りたい旨の気持ちを表していた。(甲1,原告B)ク平成19年3月12日以降,Cは,Hに対し,再三にわたり電話やメールで,早期の職場復帰を求めるとともに,「会社をくびになるのではないか。」,「休み(年次有給休暇)が足りないのではないか。」などの懸念を伝えていたが,Hは,本件プロジェクトが山場を迎えていたた の職場復帰を求めるとともに,「会社をくびになるのではないか。」,「休み(年次有給休暇)が足りないのではないか。」などの懸念を伝えていたが,Hは,本件プロジェクトが山場を迎えていたためその時機ではないものと判断したことなどから,Cに対して,解雇は絶対にしない,年休については,確認の上,不足する場合には別途配慮するなどと回答し,職場復帰をしばらく待つように求めたが,職場復帰の具体的な時期や手順などについては特に説明しなかった。(甲1,12,19,21,28〔枝番号1〕,乙47,証人H,弁論の全趣旨)ケ本件プロジェクトは,平成19年3月20日までの施工期間で,同年4月1日からの稼働開始が予定されていたが,前記のとおり進捗が遅れ納期を達成することが困難であったことから,同年3月下旬ころ,稼働開始時期を同年5月1日に延期することが決定された。同年4月2日,承継前会社の福岡事業所で開催された本件プロジェクトの対策会議において,福岡事務所の業務を支援するためdシステムセンター事業所に支援チーム(d支援チーム)を設けることが決定された。その際,d支援チームの担当者にとって不明な事項が生じた場合に,機能概要等を説明できる者が必要であったため,本件プロジェクトの担当者であり職場復帰の希望を表明していたCがその任に指名され,承継前被告からCに対してその旨の電話連絡がなされた。同月3日,Cは,午前9時ころ福岡事業所に出勤した後,d支援チームが担当する機能に関する準備作業としてソースプログラム類の抽出や関連資料の用意を行うとともに,深夜に行われたd支援チームでの作業の進め方に関する打合せに参加し,翌4日の午前2時30分に退社した(時間外労働時間は8時間 る準備作業としてソースプログラム類の抽出や関連資料の用意を行うとともに,深夜に行われたd支援チームでの作業の進め方に関する打合せに参加し,翌4日の午前2時30分に退社した(時間外労働時間は8時間)。なお,Hは,Cが職場復帰した同月3日までの間,Cから,休職中の過ごし方や現時点における健康状態につき確認したことはなく,また,同日以降,dシステムセンター事業所に対して,Cの自殺未遂の件につき申し送りをしたことはなく,勤務軽減措置を講じるよう求めたこともなかった。同月4日以降,Cは,東京都a市所在のホテルに滞在しながら,dシステムセンター事業所に出勤しd支援チームの作業に従事した。d支援チームは,開発第一部の部長であったVを責任者とし,その作業内容は,福岡事業所でプログラムの障害が発生した場合には,データの送付を受け,Vから割当てを受けたチームの担当者が問題を解決し,その結果を福岡事業所に送付するというものであった。Cは,Vのサポート役として,資料の作成,福岡事務所への問合せ,作成されたプログラムのチェックなどの作業に従事したが,休職明けであったCの心理的負担を軽減するため,dシステムセンター事業所の担当者とのやりとりは,Cと直接に行うのではなく,すべてVを介して行うこととされた。もっとも,Vは,Hからの申し送りがなかったため,Cが休職前に自殺未遂を図っていたことを知らなかった。同月4日から同月7日までの間におけるCの労働時間は,以下のとおりである。4日(水) 午前9時から(福岡から東京までの移動時間を含め)午後5時50分まで(拘束時間8時間50分,時間外労働時間なし)5日(木) 午前8時30分から午後9時50分まで(拘束時間13時間20分,時間外労働時間4時間20分) 含め)午後5時50分まで(拘束時間8時間50分,時間外労働時間なし)5日(木) 午前8時30分から午後9時50分まで(拘束時間13時間20分,時間外労働時間4時間20分)6日(金) 午前8時00分から午後10時50分まで(拘束時間14時間50分,時間外労働時間5時間30分)7日(土) 午前8時30分から午後9時30分まで(拘束時間13時間00分,時間外労働時間4時間00分)Cは,同月6日の午前1時47分,Nに対し,「2時までに休憩する事があれば電話下さい。移動2次発令画面の2Dレコードについて聞きたいので。無理ならいいです。」という内容のメールを送信した。また,Cは,Mに対し,同月7日の午後10時51分,「お姉ちゃん明日は,やっぱり出勤になったよ。」という内容のメールを送信するとともに,また,その日の夜にかけた電話において,「東京の方が時間的には楽だが,精神的にはきつい。休んでいる間にプログラム等の仕組みが変わってしまったので,全然わからないから,全部福岡の人に聞かないといけない。」などと話した。(甲1,12,19,21,28〔枝番号1,2〕,乙34,47,48,証人H,証人V,弁論の全趣旨) 本件事故の発生等平成19年4月8日,Cが出社しなかったことから,Vは,Cの携帯電話に連絡したりCが滞在していたホテルのフロント係に連絡したりしたが,応答がなかった。東京消防庁a消防署員が,ホテルから連絡を受け,午後2時24分ころCの宿泊していた部屋に入ったところ,ベッドの中でCが仰臥位で死亡しているのが確認された。F医師は,同月9日,Cの死体検案を行い,本件死体検案書において,Cの直接死因は致死性不整脈で,発症から 泊していた部屋に入ったところ,ベッドの中でCが仰臥位で死亡しているのが確認された。F医師は,同月9日,Cの死体検案を行い,本件死体検案書において,Cの直接死因は致死性不整脈で,発症から短時間で死亡した旨の診断をするとともに,解剖による所見として,心臓房室間動脈に中等度の狭窄(本件狭窄)が存するほか,諸臓器うっ血,諸臓器粘膜面に溢血点多数,心臓血暗赤色流動性,凝血を含まないなど急性死の所見がみられる旨の指摘をしている。(前記第2の2の事実,甲1,28〔枝番号2〕,乙48) Cの労働時間数等ア Cの発症前6か月間の労働時間数は,概要以下のとおりである。発症前1か月目(平成19年4月7日~同年3月9日)拘束時間数 67時間30分総労働時間数 61時間00分時間外労働時間数 21時間00分発症前2か月目(平成19年3月8日~同年2月7日)拘束時間数 312時間35分総労働時間数 277時間10分時間外労働時間数 106時間20分発症前2か月における1か月当たりの平均時間外労働時間数3時間40分発症前3か月目(平成19年2月6日~同年1月8日)拘束時間数 186時間35分総労働時間数 167時間55分時間外労働時間数 6時間15分発症前3か月における1か月当たりの平均時間外労働時間数44時 時間外労働時間数 6時間15分発症前3か月における1か月当たりの平均時間外労働時間数44時間31分発症前4か月目(平成19年1月7日~平成18年12月9日)拘束時間数 145時間15分総労働時間数 129時間55分時間外労働時間数 0分発症前4か月における1か月当たりの平均時間外労働時間数33時間23分発症前5か月目(平成18年12月7日~同年11月9日)拘束時間数 202時間20分総労働時間数 179時間10分時間外労働時間数 12時間00分 発症前5か月における1か月当たりの平均時間外労働時間数29時間07分発症前6か月目(平成18年11月8日~同年10月10日)拘束時間数 195時間20分総労働時間数 174時間10分時間外労働時間数 10時間50分発症前6か月における1か月当たりの平均時間外労働時間数26時間04分(甲1)イ承継前被告に入社してから本件事故までの間における1か月当たりのCの超過勤務時間数及びその推移は,別紙記載のグラフのとおりである。(乙45) 厚 (甲1)イ承継前被告に入社してから本件事故までの間における1か月当たりのCの超過勤務時間数及びその推移は,別紙記載のグラフのとおりである。(乙45) 厚生労働省の脳・心臓疾患に関する認定基準厚生労働省は,平成13年12月12日付け基発第1063号による都道府県労働局長あて厚生労働省労働基準局長通知「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」により,脳・心臓疾患に関し,概要以下の内容の認定基準(以下「厚労省認定基準」という。)を定めている。ア対象疾病 脳血管疾患脳内出血(脳出血),くも膜下出血,脳梗塞及び高血圧性脳症 虚血性心疾患等心筋梗塞,狭心症,心停止(心臓性突然死を含む。)及び解離性大動脈瘤イ認定要件次のないしの業務による明らかな過重負荷(医学経験則に照らして,脳・心臓疾患の発症の基礎となる血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ得ることが客観的に認められる負荷)を受けたことにより発生した脳・心臓疾患は,業務上の疾病(労働基準法施行規則別表第1の2第9号に該当する疾病)として取り扱う。 発症直前から前日までの間において,発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇したこと 発症に近接した時期(発症前おおむね1週間)において,特に過重な業務に就労したこと 発症前の長期間(発症前おおむね6か月間)にわたって,著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したことウ長期間の過重業務(上記イ)に関する認定要件の運用 恒常的な長時間労働等の負荷が長期間にわた ね6か月間)にわたって,著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したことウ長期間の過重業務(上記イ)に関する認定要件の運用 恒常的な長時間労働等の負荷が長期間にわたって作用した場合には,疲労の蓄積が生じ,これが血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ,その結果,脳・心臓疾患を発症させることがある。このことから,発症との関連性において,業務の過重性を評価するに当たっては,発症前の一定期間の就労実態等を考察し,発症時における疲労の蓄積がどの程度であったかという観点から判断することとする。 「特に過重な業務」とは,日常業務(通常の所定労働時間内の所定業務内容)に比較して特に過重な身体的,精神的負荷を生じさせたと客観的に認められる業務をいう。 「著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務」に就労したと認められるか否かについては,業務量,業務内容,作業環境等を考慮し,同僚等にとっても,特に過重な精神的,身体的負荷と認められるか否かという観点から,客観的かつ総合的に判断する。業務の過重性の具体的な評価に当たっては,疲労の蓄積の観点から,労働時間のほか,不規則な勤務,拘束時間の長い勤務,出張の多い業務,交替制勤務・深夜勤務,作業環境(温度環境・騒音・時差),精神的緊張を伴う業務等の他の負荷要因について十分検討する。a 労働時間は,疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられ,その時間が長いほど業務の過重性が増すところであり,具体的には,発症日を起点とした1か月単位の連続した期間をみて, 発症前1か月ないし6か月にわたって,1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は,業務と発症との関連性が弱いが,おおむね45時間を超え 連続した期間をみて, 発症前1か月ないし6か月にわたって,1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は,業務と発症との関連性が弱いが,おおむね45時間を超えて時間外労働が長くなるほど,業務と発症との関連性が徐々に強まると評価すること 発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって,1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は,業務と発症との関連性が強いと評価できることを踏まえて判断する。ここでいう時間外労働時間数は,1週間当たり40時間を超えて労働した時間数である。また,休日のない連続勤務が長く続くほど業務と発症との関連性をより強めるものであり,逆に,休日が十分確保されている場合は,疲労は回復ないし回復傾向を示すものである。b 精神的緊張を伴う業務については,日常的に精神的緊張を伴う業務又は発症に近接した時期における精神的緊張を伴う業務に関連する出来事がある場合には,負荷の程度を評価する視点により検討し,評価する。また,精神的緊張と脳・心臓疾患の発症との関連性については,医学的に十分な解明がなされていないこと,精神的緊張は業務以外にも多く存在すること等から,精神的緊張の程度が特に著しいと認められるものについて評価する。 日常的に精神的緊張を伴う業務と負荷の程度を評価する視点の例決められた時間(納期等)どおりに遂行しなければならないような困難な業務阻害要因の大きさ,達成の困難性,ペナルティの有無,納期等の変更の可能性等/業務量(労働時間,労働密度),就労期間,経験,適応能力,会社の支援等 発症に近接した時期におけ 阻害要因の大きさ,達成の困難性,ペナルティの有無,納期等の変更の可能性等/業務量(労働時間,労働密度),就労期間,経験,適応能力,会社の支援等 発症に近接した時期における精神的緊張を伴う業務に関連する出来事の例上司,顧客との大きなトラブルがあったトラブル発生時の状況,程度等 (全体につき,乙4) 厚生労働省が定める厚労省認定基準の運用上の留意点等厚生労働省は,平成13年12月12日付け基労補発第31号による都道府県労働局労働基準部長あて厚生労働省労働基準局労災補償部補償課長通知「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準の運用上の留意点等について」により,厚労省認定基準の具体的運用に当たっては,以下の事項に留意するものとしている。ア長期間の過重業務に関する運用上の留意点 評価期間長期間の過重業務の評価期間を発症前おおむね6か月間としたのは,疲労の蓄積を評価する期間として発症前6か月間とすることが医学的に妥当とされていることによる。なお,発症前おおむね6か月間を評価するに当たっては,1か月間を30日として計算する。 発症前おおむね6か月より前の業務の取扱い発症前おおむね6か月より前の業務については,発症から遡るほど業務以外の諸々の要因が発症に関わり合うとされていることから,業務の過重性を評価するに当たって付加的要因として考慮するものとした。 業務の過重性の総合評価労働時間の長さは,業務量の大きさを示す指標であり,また,疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられること及び厚労省認定基準で労働時間の評価の目安が示 業務の過重性の総合評価労働時間の長さは,業務量の大きさを示す指標であり,また,疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられること及び厚労省認定基準で労働時間の評価の目安が示されたことから,業務の過重性の評価に当たっては,まず,労働時間(時間外労働時間)について検討した上で,労働時間以外の負荷要因の評価と併せて判断する。厚労省認定基準で示された労働時間の評価の目安は,長時間労働及びそれによる睡眠不足から生ずる疲労の蓄積と脳・心臓疾患の発症との関連性に係る医学的知見に基づき,1週40時間(1日8時間)を一定時間超える時間外労働が1か月間継続した場合を想定して算出されたものである。イリスクファクターの評価脳・心臓疾患は,主に加齢,食生活等の日常生活による諸要因等の負荷により,長い年月の生活の営みの中で極めて徐々に血管病変等が形成,進行及び増悪するといった自然経過をたどり発症するもので,その発症には,高血圧,飲酒,喫煙,高脂血症,肥満,糖尿病等のリスクファクターの関与が指摘されており,特に多数のリスクファクターを有する者は,発症のリスクが極めて高いとされる。このため,業務起因性の判断に当たっては,脳・心臓疾患を発症した労働者の健康状態を定期健康診断結果や既往歴等によって把握し,リスクファクター及び基礎疾患の状態,程度を十分検討する必要があるが,厚労省認定基準の要件に該当する事案については,明らかに業務以外の原因により発症したと認められる場合等の特段の事情がない限り,業務起因性が認められる。ウおって,厚労省認定基準のより正確な理解のため,後記の脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会報告書を活用するものとする。(全体につき,甲9) 脳・心臓疾患の る。ウおって,厚労省認定基準のより正確な理解のため,後記の脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会報告書を活用するものとする。(全体につき,甲9) 脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会報告書の内容脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会は,厚生労働省からの依頼により,平成13年11月16日付けの脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会報告書(以下「専門検討会報告書」という。)をとりまとめているところ,専門検討会報告書には,概要以下の内容の記載がある。ア心停止(心臓性突然死を含む。)の概要心停止とは,心拍数が無となり循環が停止した状態を指す。何らの前兆なしに突然心停止を来す場合,救急蘇生が速やかに行われないと突然死に至る。ICD-10では,① 蘇生に成功した心停止,② 心臓に原因がある心臓性突然死,③ 詳細不明の心停止,に分類している。蘇生に成功した心停止においては,心電図が記録され,種々の検査によりその基礎心疾患が明らかにされるが,後二者においては,その病態を解明することは困難なことが多い。その主な基礎心疾患は,虚血性心疾患であり,急性冠症候群の心臓性突然死に当たる。イ業務の過重性の評価 長時間労働は,脳血管疾患をはじめ虚血性心疾患,高血圧,血圧上昇などの心血管系への影響が指摘されている。長時間労働が脳・心臓疾患に影響を及ぼす理由は,① 睡眠時間が不足し疲労の蓄積が生ずること,② 生活時間の中での休憩・休息や余暇活動の時間が制限されること,③ 長時間に及ぶ労働では,疲労し低下した心理・生理機能を鼓舞して職務上求められる一定のパフォーマンスを維持する必要性が生じ,これが直接的なストレス負荷要因となること,④ 就労態様による負荷要因 ,③ 長時間に及ぶ労働では,疲労し低下した心理・生理機能を鼓舞して職務上求められる一定のパフォーマンスを維持する必要性が生じ,これが直接的なストレス負荷要因となること,④ 就労態様による負荷要因に対するばく露時間が長くなることなどが考えられる。その中でも,疲労の蓄積をもたらす要因として睡眠不足が深く関わっていると考えられる。一般に,睡眠不足の健康への影響は,循環器や交感神経系の反応性を高め,脳・心臓疾患の有病率や死亡率を高めると考えられている。以上のことから,長期間にわたる長時間労働やそれによる睡眠不足に由来する疲労の蓄積が血圧の上昇などを生じさせ,その結果,血管病変等をその自然的経過を超えて増悪させる可能性のあることが分かる。疲労の蓄積には,長時間労働以外の種々の就労態様による負荷要因が関与することから,業務の過重性の評価は,これら諸要因を総合的に評価することによって行われるべきであるが,長時間労働に着目してみた場合,1日4~6時間程度の睡眠が確保できない状態が,継続していたかどうかという視点で検討することが妥当と考えられる。1日6時間程度の睡眠が確保できない状態とは,労働者の場合,1日の労働時間8時間を超え,4時間程度の時間外労働を行った場合に相当し,1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が想定される。1日5時間以下の睡眠は,脳・心臓疾患の発症との関連において,すべての報告において有意性があるとされているところ,1日5時間程度の睡眠が確保できない状態とは,労働者の場合,1日の労働時間8時間を超え,5時間程度の時間外労働を行った場合に相当し,1か月当たりおおむね100時間を超える時間外労働が想定される。他方,その日の疲労がその日の睡眠等で回復できる状態であったかどうかは,1 5時間程度の時間外労働を行った場合に相当し,1か月当たりおおむね100時間を超える時間外労働が想定される。他方,その日の疲労がその日の睡眠等で回復できる状態であったかどうかは,1日7~8時間程度の睡眠ないしそれに相当する休息が確保できていたかどうかという視点で検討することが妥当と考えられる。1日7.5時間程度の睡眠時間が確保できる状態を検討すると,この状態は,労働者の場合,1日の労働時間8時間を超え,2時間程度の時間外労働を行った場合に相当し,1か月当たり45時間の時間外労働が想定される。1か月おおむね45時間を超える時間外労働に従事していない場合には,疲労の蓄積は生じないものと考えられ,また,それ以前の長時間労働によって生じた疲労の蓄積は,徐々に解消していくものと考えられる。 脳・心臓疾患の発症と職業・職種の関係は,バス運転者・タクシー運転者その他の自動車運転者,管理職,医師,警備員などが多いとされている。また,仕事の要求度が高く,裁量性が低く,周囲からの支援が少ない場合には,精神的緊張を生じやすく,脳・心臓疾患の危険性が高くなるとする報告がある。なお,どのようなストレスによって,どのような疾患が生じやすいかといったことは現時点においても医学的に十分には解明されていないこと,ストレスは業務以外にも多く存在し,その受け止め方は個々人により大きな差があることから,過重性の評価は慎重になされるべきである。ウ虚血性心疾患等のリスクファクター業務以外の精神的緊張の持続等の精神的負荷が心疾患の原因となり得るかについては,研究方法の困難さ(発作の引き金となる要因の正確なデータを多数集めることの困難さ,ストレス評価方法の未確立,ストレスと発作の因果関係評価の困難さ)から,すべての例で関連性 因となり得るかについては,研究方法の困難さ(発作の引き金となる要因の正確なデータを多数集めることの困難さ,ストレス評価方法の未確立,ストレスと発作の因果関係評価の困難さ)から,すべての例で関連性を判断するのは容易ではない。過労は,身体ストレスのみならず精神的ストレス状態であり,突然死の大きな修飾因子となる。過労時には,内分泌系や自律神経系の反応が生じ,特に交感神経の強い反応によってカテコールアミンが分泌され,その結果,致死性不整脈は生じやすくなる。また,飲酒,喫煙,コーヒーなどの嗜好品,睡眠不足や変則勤務など生体リズムの乱れは不整脈発生の誘発ないし増悪因子となる。(全体につき,甲10) F医師による医学的知見本件死体検案書を作成したF医師は,平成20年8月2日付け回答書及び平成21年1月17日付け意見書において,Cの死因等に関して以下の医学的知見を示している。ア致死性不整脈とは,一般に,不整脈のうち心臓のポンプ機能を失い又はその可能性の高いものを指し,突然の心肺機能停止を生じ,突然死の原因となることがある。剖検等では,後記の本件狭窄を除いて死因となり得る異常を認めなかった。心臓房室間動脈は心臓の刺激伝導系に血液供給を行う血管と考えられており,狭窄などにより血液供給量が低下した場合,不整脈の原因になると思われることから,死因を致死性不整脈とした。ただし,不整脈の診断を行うには,本来は生前に心電図等を用いて詳細な検索を行う必要があって,心停止後の検索では確定的な診断を行うことは困難であり,Cの直接死因が致死性不整脈であるとの診断は,除外診断的なもので,ある程度の推定的内容を含むものである。致死性不整脈を発症する誘因となるものは,内因的なもの外因的なもの とは困難であり,Cの直接死因が致死性不整脈であるとの診断は,除外診断的なもので,ある程度の推定的内容を含むものである。致死性不整脈を発症する誘因となるものは,内因的なもの外因的なものを含めて様々なものが考えられ,更にこれが複合していることも多く,その原因を単一の誘因によるものと断定することは困難なことが多い。しかしながら,本件狭窄が致死性不整脈を発症する原因の一つとなった可能性は当然考えられる。その他に致死性不整脈を発症する誘因となり得る身体的・精神的ストレス等があったかどうか及びその程度は,剖検所見からは判断できない。イ Cの心臓房室間動脈には中等度の狭窄(本件狭窄)が認められているが,血栓に認められる騒擾構造や粥状硬化症に認められるアテローム斑を認めず,繊維成分主体であることから,血栓性,粥状動脈硬化症による動脈硬化とは異なり,筋線維性の狭窄と思われる。本件狭窄は,新しい血栓によるものではないため,死亡の直前に形成されたものとは考えにくく,また,生活習慣病に該当する動脈硬化症ではない。したがって,本件狭窄は,生下時からあったものか又は生活習慣病とは異なる何らかの要因によって徐々に形成されたもののいずれかであると思われるが,そのいずれかであるのかは判然としない。しかしながら,本件狭窄が生下時から現在と同程度のものであった場合には,幼少時から何らかの症状があったり何らかの検査で指摘される可能性が考えられるため,そのような症状ないし異常所見がないとすれば,ある時期から徐々に形成されたものと考えるのが合理的である。このような筋線維性肥厚がなぜ認められどのように進行するのかは明らかになっていない。Cの不整脈は少なくとも平成11年の時点で診察所見として認められているところ,健康診断記録から である。このような筋線維性肥厚がなぜ認められどのように進行するのかは明らかになっていない。Cの不整脈は少なくとも平成11年の時点で診察所見として認められているところ,健康診断記録からは不整脈の種類を特定することはできないが,不整脈の発生時期と上記推定との間に特に矛盾する点はないことからすると,本件狭窄は,上記不整脈の原因となった可能性を否定することはできず,同様の理由により,Cの直接死因である致死性不整脈の原因となった可能性がある。ただし,剖検では検査が不可能な不整脈の原因が多数あるため,その他の原因を完全に否定することはできない。(全体につき,前記第2の2の事実,甲1) G医師による医学的知見地方労災医員のG医師は,以下の文書において,Cの死因等に関し,以下の医学的知見を示している。ア平成21年4月23日付け面接照会顛末書(厚生労働事務官作成) 本件死体検案書においては,Cの直接死因につき致死性不整脈と診断されているが,本件狭窄(血管の線維化)で房室ブロックを起こしそれが死亡に直結するのは考えにくい。解剖所見から判断すると,原因不明の突発性の心臓性突然死であると思われる。 Cの場合,性格的に真面目で責任を感じやすいA形行動パターンのタイプで,不整脈があったのに仕事による失敗(自殺未遂前の失敗)のストレスがかかって突然死を発症した可能性があると思う。イ平成21年7月25日付け意見書 本件死体検案書においては,Cの直接死因につき致死性不整脈と診断されているが,Cに致死性不整脈の記録はなく,発症後24時間以内の死亡であるため,臨床分類上の傷病名は心臓性突然死とすることになっている。 Cの発症前2か月目の時間外労働時間数 と診断されているが,Cに致死性不整脈の記録はなく,発症後24時間以内の死亡であるため,臨床分類上の傷病名は心臓性突然死とすることになっている。 Cの発症前2か月目の時間外労働時間数が業務上の大がかりな計画変更のために106時間50分と過剰だった上に,Cが納期内の業務達成が困難と思い込んで自殺未遂を企てたほどの精神的緊張が加わった結果,突然死したと推測される。したがって,心臓性突然死の発症原因と業務との間に有意の医学的因果関係があったと判断される。 Cの本件狭窄は,おそらく先天性素因に基づくものであり,生後,徐々に筋繊維性病変が進行していたと推測される。検診時の不整脈や低血圧は,そのような病変と関連づけられるかもしれない。(全体につき,甲1) W医師による医学的知見XセンターW医師は,平成20年12月16日付け意見書において,平成17年10月21日の心電図検査に関して以下の医学的知見を示している。ア心電図は正常範囲である。イ不整脈の自覚症状があり,その前後の平成16年及び平成18年に聴診で不整脈が認められているにもかかわらず,心電図検査で不整脈が認められていないのは,診療時の不整脈が20歳代の若い人に比較的認められる呼吸性不整脈である場合,または,不整脈が診察時には認められるが心電図では消失する場合や診察時のみ一過性に不整脈がある場合が考えられる。(全体につき,甲1) 労災認定原告Aは,平成20年11月14日,福岡中央労働基準監督署長に対して遺族補償一時金等の支給を請求したところ,福岡中央労働基準監督署長は,平成21年9月9日付けで,Cの疾患が心臓性突然死を含む心停止に該当し,また,本件事故が業務上の疾病(労働基準法施行規則 に対して遺族補償一時金等の支給を請求したところ,福岡中央労働基準監督署長は,平成21年9月9日付けで,Cの疾患が心臓性突然死を含む心停止に該当し,また,本件事故が業務上の疾病(労働基準法施行規則別表第1の2第9号に該当する疾病)に基づくものであると判断して,遺族補償一時金・遺族特別支給金・遺族特別一時金・葬祭料を支給する旨の決定をした。上記決定においては,Cの業務の過重性に関し,概要以下のとおりの判断がなされている。ア労働時間1か月の平均時間外労働時間数が最大となるのは,発症前2か月間の平均63時間40分であるが,発症前1か月目が労働日数が5日のみで残りは自殺未遂後の年休であることや,発症前2か月目の時間外労働時間数が106時間20分あり,100時間を超えていることを考慮すれば,発症前2か月間の労働密度が特に低いものとはいえず,業務と発症との関連性が強いものと考えられる。イ労働時間以外の負荷要因当初予定では,平成18年12月までに改修システムの新ホストコンピュータへの移行が行われる予定であったところ,新ホストの開発が遅れたために平成19年1月から計画変更を余儀なくされた。他方,納期である同年4月1日運用開始は変更がないものとされたため,業務量(労働時間・労働密度)が増加するも,納期の達成は困難な状態であった。そのような状態の中で,同年3月2日に行われたシステムへ移行作業後の試験で,システムが動かないというトラブルが発生し,Cは,復旧作業に従事するも動かないため,クライアントの一人から突き放された言動を受けたと感じ,同月4日の就労中に突然いなくなり,自分はミスをしたので会社に必要ない人間だと考えて自殺未遂を図った。以上のとおり,Cの業務は,納期達成の困難性及び顧客とのトラ から突き放された言動を受けたと感じ,同月4日の就労中に突然いなくなり,自分はミスをしたので会社に必要ない人間だと考えて自殺未遂を図った。以上のとおり,Cの業務は,納期達成の困難性及び顧客とのトラブルという精神的緊張を伴うものであったと認められる。ウ結論平成19年1月の計画変更により同年2月の時間外労働時間の増加,納期達成の困難性,同年3月の顧客とのトラブル後の自殺未遂という精神的緊張を伴う一連の業務を総合的に評価すると,Cは著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したと認められる。(全体につき,甲1,2,弁論の全趣旨) 2 争点(Cの死亡と承継前被告における業務との因果関係)について Cの死因について本件死体検案書を作成したF医師は,Cの死亡の原因(直接死因)に関して,「致死性不整脈」と診断している(前記第2の2)ところ,① 専門検討会報告書においては,心停止とは,心拍数が無となり循環が停止した状態を指し,何らの前兆なしに突然心停止を来す場合,救急蘇生が速やかに行われないと突然死に至るものとされていること(前記1ア),② F医師は,致死性不整脈に関し,一般に,不整脈のうち心臓のポンプ機能を失い又はその可能性の高いものを指し,突然の心肺機能停止を生じ,突然死の原因となることがある旨の医学的知見を示していること(前記1ア),③ G医師は,Cの死因につき,解剖所見や発症後24時間以内の死亡であることから判断すると,原因不明の突発性の心臓性突然死であると思われる旨の医学的知見を示していること(前記1ア,イ),以上の事情に照らすと,Cの死因は,厚労省認定基準が定める心臓性突然死を含む心停止(前記1ア)であったと考えられる。 Cの死因と承継前被 学的知見を示していること(前記1ア,イ),以上の事情に照らすと,Cの死因は,厚労省認定基準が定める心臓性突然死を含む心停止(前記1ア)であったと考えられる。 Cの死因と承継前被告における業務との因果関係についてア労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして,疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると,労働者の心身の健康を損なう危険のあることは,周知のところである(最高裁平成10年第217号,第218号同12年3月24日第二小法廷判決・民集54巻3号1155頁〔以下「平成12年判決」という。〕参照)。そして,厚労省認定基準やその運用上の留意点においては,業務の過重性の具体的な評価に当たっては,疲労の蓄積の観点から,労働時間(時間外労働時間)を中心として,不規則な勤務,拘束時間の長い勤務,出張の多い業務,交替制勤務・深夜勤務,作業環境(温度環境・騒音・時差),精神的緊張を伴う業務等の他の負荷要因について十分検討するものとされ(前記1ウ,ア),専門検討会報告書においても,長期間にわたる長時間労働やそれによる睡眠不足に由来する疲労の蓄積が血圧の上昇などを生じさせ,その結果,血管病変等をその自然的経過を超えて増悪させる可能性のあること,また,過労が身体的ストレスのみならず精神的ストレス状態であり,突然死の大きな修飾因子となること,などが指摘されている(前記1イ,ウ)。イ Cは,情報処理システム等に関する開発等を目的とする株式会社である承継前被告において,SEとして勤務し(前記第2の2,),平成18年以降,承継前被告がI社システムソリューションズから請け負った本件プロジェクト(I社の人事・賃金制度改正に伴うシステム改修)の遂行に携わっていた(前記1ア)。本件プロジ 2の2,),平成18年以降,承継前被告がI社システムソリューションズから請け負った本件プロジェクト(I社の人事・賃金制度改正に伴うシステム改修)の遂行に携わっていた(前記1ア)。本件プロジェクトは,平成19年3月20日までの施工期間で,同年4月1日からの稼働開始が予定されていた(前記ア,ケ)が,その進捗状況は開始当初から予定より遅れ気味であり,本件プロジェクトと併行して行われていた「次期JAMPS」への移行作業が同年12月末までの期限に間に合わなかったことなどの事情も相まって,平成19年1月ころにはI社システムソリューションズから承継前被告に対して納期厳守の圧力が強まるほど本件プロジェクトの進行は遅滞するようになり,これに加えて,同年2月ころにはI社からの仕様の追加・変更が相次いだため,Cらのチームの作業量は格段に増加し,これに伴い,同年2月におけるCの時間外労働時間は127時間50分に上っていた(前記1イないしエ)。そして,Cらのチームは,同月26日以降,移行後の動作確認試験を行うべく夜間を通して環境移行作業を進め,指定された期日である同年3月2日までにこれを完了させたものの,Cが同日に実施した動作確認試験においては,プログラムが作動しないという不具合が生じ,その解決に相当の時間や労力を要することとなった(前記オ)。以上のとおり,① 平成19年2月におけるCの時間外労働時間は,専門検討会報告書において脳・心臓疾患の発症と有意的関連性を有するものと指摘されている1か月当たりおおむね100時間(前記1イ)を大きく上回るものであったこと,② また,Cは,遅滞していた本件プロジェクトを納期どおりに完成させるべく業務に携わっていたもので,その業務は日常的に精神的緊張を伴うものであったと認められること,③ さら く上回るものであったこと,② また,Cは,遅滞していた本件プロジェクトを納期どおりに完成させるべく業務に携わっていたもので,その業務は日常的に精神的緊張を伴うものであったと認められること,③ さらに,自らが実施した動作確認試験においてプログラムが作動しないという不具合が発生したことは,Cに相当な精神的緊張をもたらす出来事であったと認められること,以上の点を考慮すると,特に同年1月以降におけるCの業務は,脳・心臓疾患の発症をもたらす過重なものであったと認めることができ,Cが同年3月4日から同月5日にかけて自殺を試み(前記1カ),同月8日にTクリニックの医師から神経症(神経衰弱状態)と診断された(前記1キ)のは,その顕れであると考えられる。ウ Cは,自殺未遂発覚後の平成19年3月5日から職場復帰した同年4月3日までの約1か月間,承継前被告に出社せず業務に従事していなかったが,承継前被告は,Cの職場復帰に当たり,休職中の過ごし方や現時点における健康状態につき確認したことはなく(前記1カないしケ),上記イの過重負荷に伴うCの身体的・精神的ストレスが完全に払拭されたものと認めるに足りる事情は存在しない。エそして,Cは,平成19年4月3日に職場復帰し,本件プロジェクトプログラムの障害が発生した場合において問題解決をサポートするd支援チームの一員として,資料の作成,福岡事務所への問合せ,作成されたプログラムのチェックなどの作業に従事していたところ,その労働密度は,前記イの業務に比べると必ずしも大きなものではないが,同月5日から同月7日までの3日間における労働時間は,拘束時間が13時間ないし14時間50分,時間外労働時間が4時間ないし5時間30分に上っており(前記1ケ),その間の業務も,Cに相当の身体的又は精神的ストレ 月7日までの3日間における労働時間は,拘束時間が13時間ないし14時間50分,時間外労働時間が4時間ないし5時間30分に上っており(前記1ケ),その間の業務も,Cに相当の身体的又は精神的ストレスをもたらすものであったといえる。オ以上の事情を総合考慮すると,本件事故当時におけるCの業務は,その量・内容等からして,医学経験則に照らし,脳・心臓疾患の発症の基礎となる血管病変等をその自然的経過を超えて著しく増悪させ得ることが客観的に認められる負荷に該当し,その結果,Cについて心臓性突然死を含む心停止を発症させたものであり,したがって,Cの死亡と承継前被告の業務との間には相当因果関係があるものと認めるのが相当である。被告は,Cの業務は労働時間及びそれ以外の負荷要因においても一般的な労働者にとって死亡の結果をもたらすような過重なものではなく,仮にCの業務に何らかの負荷が存在したとしても,自殺未遂後の約1か月にわたる長期連続休日により回復している,などと主張する(前記第3の2ア)が,上記に述べた認定判断に照らし,その主張を採用することはできない。 業務外の死亡の原因の有無について被告は,Cが死亡した原因は入社前から存在していた本件狭窄(心臓房室間動脈における中等度の狭窄)によるものであるとして,Cの死亡は承継前被告の業務と無関係である旨主張している(前記第3の2イ)。この点,Cには,死体解剖により本件狭窄の存在が認められている(前記第2の2)ところ,F医師は,心臓房室間動脈の狭窄などにより血液供給量が低下した場合,不整脈の原因となると思われるため,本件狭窄が致死性不整脈を発症する原因の一つとなった可能性は当然考えられる,本件狭窄は筋線維性のものであるため,死亡の直前に形成されたもの 液供給量が低下した場合,不整脈の原因となると思われるため,本件狭窄が致死性不整脈を発症する原因の一つとなった可能性は当然考えられる,本件狭窄は筋線維性のものであるため,死亡の直前に形成されたものとは考えにくい旨の医学的知見を示し(前記1イ),また,G医師は,本件狭窄が,おそらく先天性素因に基づくものであり,生後,徐々に筋繊維性病変が進行していたと推測される旨の医学的知見を示している(前記1イ)。他方,Cには,平成11年10月,平成15年10月,平成16年10月及び平成18年11月に行われた各健康診断において,いずれも不整脈が認められているほか,平成14年10月及び平成17年10月の各健康診断の際には,診察上は不整脈と認められなかったものの,自覚症状として脈の乱れを訴えている(前記1ア)。しかしながら,Cには,大学在学中の平成9年4月に受診した健康診断や承継前被告への入社後最初に行われた平成10年10月の健康診断の際には,特段の異常は認められておらず(前記1ア),本件狭窄が承継前被告に入社する前から存在していたことを的確に認め得る客観的証拠は存在しない(なお,Cの姉であるMは,先天性心室中隔欠損症の疾患を有していた〔前記1,イ〕が,Cに認められた本件狭窄は,心臓房室間動脈における筋線維性の狭窄というものであり〔前記1イ〕,それらの発生機序は同質性を有しないと考えられることから,Mが先天性心室中隔欠損症の疾患を有していたことのみをもって本件狭窄が先天性・遺伝性のものであると断定することはできない。)。また,F医師は,致死性不整脈の発症には様々な誘因が考えられ,生前において心電図等を用いて詳細な検索を行わない限り,確定的な診断を行うことは困難である旨の医学的知見を示しており(前記1ア),また,承継前被告入 ,致死性不整脈の発症には様々な誘因が考えられ,生前において心電図等を用いて詳細な検索を行わない限り,確定的な診断を行うことは困難である旨の医学的知見を示しており(前記1ア),また,承継前被告入社後におけるCの時間外労働が別紙記載のグラフのとおり恒常的なものであったこと(前記1イ)に照らせば,Cの不整脈ないし本件狭窄は,承継前被告における業務の負荷に起因して生じたものである可能性も否定できない。以上によれば,本件狭窄が承継前被告への入社前から存在していたものと認めることはできず,したがって,Cの死亡が業務外の原因に基づくものということはできないから,被告の上記主張は採用することができない。 以上によれば,争点に関する原告らの主張は,理由がある。 3 争点(承継前被告の責任原因)について 使用者は,その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し,業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う(平成12年判決参照)。本件事故当時におけるCの業務は,前記2にみたとおり,その量・内容等からして,医学経験則に照らして,脳・心臓疾患の発症の基礎となる血管病変等をその自然的経過を超えて著しく増悪させ得ることが客観的に認められる負荷に該当するものであったところ,承継前被告は,Cの使用者として,Cの業務内容を熟知し,かつ,作業日誌等によりその業務量を容易に把握し得る立場にあった(前記1)。しかるに,承継前被告は,Cが,遅滞していた本件プロジェクトを納期どおりに完成させるべく業務に従事し平成19年2月には127時間50分に上る時間外労働をしていること(前記2)を把握していながら,新たな人員を配置してチームの人員を増 していた本件プロジェクトを納期どおりに完成させるべく業務に従事し平成19年2月には127時間50分に上る時間外労働をしていること(前記2)を把握していながら,新たな人員を配置してチームの人員を増やしたり,Cに休暇等を取らせたりしてその疲労の蓄積を解消させる措置を執るなど,業務の量・内容等が過重にならないようなものとする措置を具体的に講じていた様子は,本件全証拠によるも特にうかがわれない。また,Cは,同年3月4日から同月5日にかけて自殺を試みており,これに上記の状況を考え併せると,承継前被告は,Cが業務の過重負荷により相当な身体的・精神的ストレスをかかえるほど疲労や心理的負荷等が蓄積していたであろうことを容易に認識し得る立場にあったにもかかわらず,Cを約1か月休職させたことはあったものの,職場復帰後において,Cに対し,休職中の過ごし方や現時点における健康状態につき確認したこともなかったし,復帰先のdシステムセンター事業所に対し,Cの自殺未遂の件につき申し送りをしたことはなく,勤務軽減措置を講じるよう求めたこともなかった(前記1カないしケ)。以上によれば,承継前被告は,使用者として要求される上記の注意義務を怠ったものというべきである。 被告は,Cの業務は過重なものではなく,Cの死亡に対する予見可能性はなかった旨主張する(前記第3の2)が,前記2に述べたとおり,労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして,疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると,労働者の心身の健康を損なう危険のあることは,周知のところであり,かつ,本件事故当時におけるCの業務の量・内容が過重負荷なものであり,承継前被告はそのことを認識し又は認識し得べき立場にあったのであるから,承継前被告にはCの死亡に対する予見可能 知のところであり,かつ,本件事故当時におけるCの業務の量・内容が過重負荷なものであり,承継前被告はそのことを認識し又は認識し得べき立場にあったのであるから,承継前被告にはCの死亡に対する予見可能性があったものというべきであり,被告の上記主張を採用することはできない。 以上によれば,承継前被告は,使用者として要求される上記の注意義務を怠ったことにより,労働契約上の債務不履行責任又は不法行為に基づく責任として,本件事故により原告らに生じた損害を賠償する責めを負うというべきであり,承継前被告の承継人である被告(前記第2の1)もまた,その責めを免れることはできない。よって,争点に関する原告らの主張は,理由がある。 4 争点(原告らの損害額)について原告らの請求は,不法行為に基づく損害賠償請求を第1次的請求とするものである(前記第2の1)ことから,以下においては,不法行為に基づく損害賠償請求に関するものとして検討を進める。 逸失利益 4888万5681円ア基礎収入額 Cの死亡前1年間(平成18年5月分から平成19年4月分まで)における給与及び賞与の総支給額は,以下のとおりであった(甲1〔資料№30〕により認める。)。平成18年5月分給与 21万8569円同年6月分給与 22万6364円同年6月分昇給差額 6022円同年6月20日賞与 43万4000円同年7月分給与 22万9546円同年8月分給与 25万8184円同年9月分給与 23万8670円同年10 000円同年7月分給与 22万9546円同年8月分給与 25万8184円同年9月分給与 23万8670円同年10月分給与 26万1366円同年11月分給与 24万0683円同年12月分給与 26万2957円同年12月8日賞与 52万2900円平成19年1月分給与 24万5456円同年2月分給与 27万6325円同年3月分給与 42万2798円同年4月分給与 28万9690円同年4月6日賞与 8万7000円以上を合計すると,422万0530円となる。イ生活費控除率Cが独身女性であること(前記第2の2,第4の1)などに照らし,30%を相当と認める。ウ中間利息控除係数原告は昭和50年10月6日生まれで,本件事故当時31歳であった(前記第2の2)ところ,その死亡により,本件事故時から就労可能期間の終期である67歳までの36年間にわたって,その労働能力の全部を喪失したものと認められる。36年に対応するライプニッツ係数が16.5469であることは,当裁判所に顕著な事実である。エ計算式 422万0530円×(1-0.3)×16.5469=4888万5681円(小数点以下切捨て) 慰謝料 2500万0000円前記1にみた事情を考慮すると,本件事故によりCが死亡したことに伴い,C本人,原告A及び原告Bがそれぞれ 下切捨て) 慰謝料 2500万0000円前記1にみた事情を考慮すると,本件事故によりCが死亡したことに伴い,C本人,原告A及び原告Bがそれぞれ被った精神的苦痛を慰謝するための金額は,それぞれにつき,C 2200万0000円原告A 150万0000円原告B 150万0000円以上のとおりとするのが相当である。 葬儀費用 156万0764円証拠(甲4)により認める。 以上合計 7544万6445円 5 争点(過失相殺)について 被告は,争点整理手続を経て人証がなされた後の平成24年6月11日付け準備書面によって,前記第3の4のとおり,初めて過失相殺の主張をするに至ったところ,原告らからは,上記主張は時機に後れた攻撃防御方法であるから民訴法157条1項に基づき却下すべきである旨の主張がなされた(前記第3の4)が,当裁判所は,「訴訟の完結を遅延させることとなる」場合には該当しないものと認め,上記主張を却下しなかった。 しかしながら,当裁判所は,被告による過失相殺の主張はいずれも理由がないものと判断した。その理由は,以下のとおりである。ア基礎疾患について被告は,Cの死亡原因となった致死性不整脈が業務と無関係に生じた本件狭窄によって生じたものである旨主張する(前記第3の4ア)が,本件狭窄が承継前被告への入社前から存在していたものと認めることはできないことは,前記2に判示したとおりであり,その主張 に生じた本件狭窄によって生じたものである旨主張する(前記第3の4ア)が,本件狭窄が承継前被告への入社前から存在していたものと認めることはできないことは,前記2に判示したとおりであり,その主張を採用することはできない。イ性格・心因的要素について被告は,Cの自殺未遂には同人の性格・心因的要素が寄与している旨主張する(前記第3の4イ)。しかしながら,そもそも,Cの自殺未遂は,Cの業務が脳・心臓疾患の発症をもたらす過重なものであったことの顕れとして理解すべきものであって(前記2イ),それ自体が致死性不整脈(前記第2の2)ないし心臓性突然死を含む心停止(前記2)というCの死亡原因に直接的に結びつくものではないから,被告の主張する点が過失相殺事由を構成するのかどうか疑問がある。また,ある業務に従事する特定の労働者の性格が同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない場合には,裁判所は,業務の負担が過重であることを原因とする損害賠償請求において使用者の賠償すべき額を決定するに当たり,その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等を,心因的要因として斟酌することはできないというべきである(平成12年判決参照)ところ,本件全証拠によるも,Cの性格及びこれに基づく業務遂行の態様等が上記の範囲を外れることを的確に認め得るものは見当たらない。よって,被告の上記主張を採用することはできない。ウ承継前被告に対する自殺未遂等の未報告について被告は,Cや原告らが,承継前被告に対し,自殺未遂の事実やCの症状について何ら連絡しなかった,として,これが過失相殺事由に該当する旨主張する(前記第3の4ウ)が,承継前被告は,C宅を訪問した 被告は,Cや原告らが,承継前被告に対し,自殺未遂の事実やCの症状について何ら連絡しなかった,として,これが過失相殺事由に該当する旨主張する(前記第3の4ウ)が,承継前被告は,C宅を訪問したSらからの報告等によりCが自殺未遂を図った件を認識していた(前記1カ)のであるから,その主張を採用することはできない。エ医師に対する不告知等についてCは,平成19年3月8日にTクリニックを受診している(前記1キ)ところ,被告は,Cや付添いをしていた原告が,医師に自殺未遂の事実を伝えず,また,医師から指示のあった再診も受けず,処方された薬も服用しなかった,として,これが過失相殺事由に該当する旨主張する(前記第3の4エ)。しかしながら,Cの自殺未遂は,前記イのとおり,Cの業務が脳・心臓疾患の発症をもたらす過重なものであったことの顕れとして理解すべきものであるところ,Cは,Tクリニックに対し,承継前被告に入社して10年間,土日にも出社して仕事をしており,オーバーワークの状態にある旨申告しているのである(前記1キ)から,Cが医師に対して自殺未遂の事実を伝えていたかどうかは本質的な問題ではない。また,Tクリニックは心療内科であり,処方された薬も神経症(神経衰弱状態)との診断に対する抗不安剤にすぎない(前記1キ)から,Cが,Tクリニックを再受診し,また,医師から処方された薬を服用したとしても,そのことによって疲労の蓄積から解放され血管病変等をその自然的経過を超えて増悪させる可能性が減少したといえるかどうかには疑問があるといわざるを得ない。よって,被告の上記主張を採用することはできない。オ多数回にわたる積極的な復職希望について被告は,Cが承継前被告に対して再三に があるといわざるを得ない。よって,被告の上記主張を採用することはできない。オ多数回にわたる積極的な復職希望について被告は,Cが承継前被告に対して再三にわたり回復した旨の連絡と復帰の申入れをし,原告らもCの上記申入れ等を止めることなくむしろ勧めていた旨主張する(前記1キ)。この点,労働者は,一般の社会人として,自己の健康の維持に配慮すべきことが期待されているのは当然であるけれども,Cによる復職の申入れが自身の健康を増悪させることを認識・認容してなされたものとは考えがたく,そのような事実を認め得る証拠は見当たらないし,そもそも,前記3のとおり,使用者は,その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し,業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負っているのであるから,承継前被告としては,Cが復職をするに当たり,休職前におけるCの稼働状況に鑑み,新たな人員を配置してチームの人員を増やしたり,Cに休暇等を取らせたりしてその疲労の蓄積を解消させる措置を執るなど,業務の量・内容等が過重にならないようなものとする措置を具体的に講じなければならないのであり,Cが再三にわたり復職の申入れをしたとの一事をもって過失相殺事由が存在するということはできない。 また,原告らがCの復職を止めることなく勧めていたとの点についても,原告らにおいてCの稼働状況を具体的に認識しつつ同人の健康を増悪させることを認識・認容してなされたことを認め得る証拠は見当たらない。よって,被告の上記主張を採用することはできない。カ小括以上によれば,本件において被告の原告らに対する損害賠償額を定めるに当たり,過失相 得る証拠は見当たらない。よって,被告の上記主張を採用することはできない。カ小括以上によれば,本件において被告の原告らに対する損害賠償額を定めるに当たり,過失相殺をするのは相当でない。 原告らの損害額(弁護士費用を除く。)は,逸失利益4888万5681円,慰謝料2500万円及び葬儀費用156万0764円の合計7544万6445円であり(前記4),他方,原告らは,労災保険給付として遺族補償一時金1116万5000円及び葬祭料66万9900円の支給を受け,また,承継前被告から弔慰金として160万円の支払を受けている(前記第2の2)から,損益相殺後における原告らの損害額は,6201万1545円となる(なお,労働者災害補償保険法に基づく葬祭料は原告らの積極損害たる葬儀費用と,同じく遺族補償一時金は原告らの消極損害たる逸失利益と,それぞれ同性質のものであり,受給権者に対する第三者の損害賠償義務と政府の保険給付義務とが相互補完の関係にあるから,葬祭料の額は原告らの損害のうち葬儀費用の額から,遺族補償一時金の額は同じく逸失利益の額からそれぞれ控除するのが相当である。)。以上によれば,原告ら各自の損害額は,Cの損害につき相続した額及び原告ら各自の固有の損害額を合わせて,それぞれ3100万5772円(小数点以下切り捨て)となる。 6 争点(弁護士費用の額)について 原告らがその権利実現のため訴訟の提起及び追行を弁護士に委任したことは,当裁判所に顕著な事実であるところ,本件事案の内容,審理経過,立証活動の難易,認容額その他弁論に表れた諸般の事情を考慮すると,原告らが本件訴訟の追行に要した弁護士費用のうち本件事故と相当因果関係のある損害は,各自310万円が相当と認める。 前 過,立証活動の難易,認容額その他弁論に表れた諸般の事情を考慮すると,原告らが本件訴訟の追行に要した弁護士費用のうち本件事故と相当因果関係のある損害は,各自310万円が相当と認める。 前記5の損益相殺後の原告らの損害額に,上記の弁護士費用を加えると,被告が賠償すべき原告らの損害額は,原告ら各自につき3410万5772円となる。第5 結論以上によれば,原告らの請求は,各自3410万5772円及びこれに対するCの死亡日である平成19年4月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。福岡地方裁判所第5民事部裁判官府内覚
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