- 1 -主文被告人を懲役7年に処する。 未決勾留日数のうち160日をこの刑に算入する。 理由 【犯行に至る経緯】被告人は,父A(生年月日略。以下「父親」という)と母B(生年月日略〈〉。 〈。以下「母親」という)の一人っ子として生まれ,幼いころから大学卒業に至〉。 るまで,大阪市a区bc丁目d番e住宅f棟g号室の自宅において両親の下で生育してきた。大学卒業後,被告人は,食品関係の会社に勤務し,単身での転勤生活も経験したが,勤務中の数度にわたる緊張性尿失禁が原因となって,平成12年9月退職を余儀なくされ,その年の12月から自宅近くのスーパーでアルバイトとして働き始めたものの,この勤務先も,店舗の閉鎖により,平成14年12月解雇されてしまった。 以後,被告人は,しばらく職探しをしたものの,間もなくこれも止めてしまい,両親の年金(2か月ごとに合計約36万5000円を受給)に依存しながら,家事や金の管理等はこなしつつも,買い物以外にはほとんど外出することもないような社会的ひきこもりの生活を送るようになった。 この間,父親は,昭和57年ころからうつ病で通院し,平成6年から平成12年(),,まで統合失調症当時の精神分裂病で入通院していたが平成14年春ころには夜間大声で叫んだり,物を投げたりという統合失調症の興奮状態が再発したため,再び入通院するようになり,平成16年4月以降通院が中断した後は,母親や被告人を避けるようにして独り自宅の3畳和室にこもり,家族と日常会話すら交わすことなく,食事も別々にとるような生活を送るようになった。 他方,母親は,平成17,8年ころから腰を痛め,立ち歩きが辛い状態になって- 2 -いたが,次第に足腰が弱っていき,やがてトイレに行くことすらできない状態になって,平成20年の終わり頃には,ついに寝 方,母親は,平成17,8年ころから腰を痛め,立ち歩きが辛い状態になって- 2 -いたが,次第に足腰が弱っていき,やがてトイレに行くことすらできない状態になって,平成20年の終わり頃には,ついに寝たきりの状態となってしまった。そのため,母親を慕う被告人は,スプーン等で食事をとらせてやったり,尿瓶を嫌がる母親のために,ゴザの上に新聞紙やティッシュペーパーを敷いて排便させたりするなど,被告人なりに母親の介護に努めていたが,やがて服を着たり布団の上で寝たりするのを母親が嫌がるようになったため,毛布をかぶせたり,電気ストーブを近,。 づけたりしながらも母親が裸のまま畳の上で寝るがままにしていたこともあったこの間,被告人は,医者を呼ぼうかと考えたことはあったものの,年金しか収入がないのに,医療費がどれくらいかかるか分からないなどという思いから,結局母親を医者に診せることはなかったし,父親に対しても「母親の世話については自分,は関係ない」などと言われるのではないかなどという一方的な考えから,相談す。 ,,,,ることなくその他親戚や近所の人役所などにも全く相談することがないまま上記のとおり母親の状態は悪化の一途を辿っていった。 そして,母親は,次第に意味のある話ができなくなり,平成21年に入ってしばらくしたころからは,だんだんと食も細くなっていって,ついに同年2月24日,裸のまま自宅内で凍死するという異様な最期を迎えるに至った。被告人は,その日,,の昼ころに母親の死亡に気付いたが葬式代として20~30万円が必要になるがそのような金銭的な余裕はないとか,父親などに母親の死を伝えると「母親を放,っておいて何してたんだ」などと責められるとかいう思いから,その後も,後記。 本件犯行当日父親が気付くまでの約2か月半もの間,母親の死を誰にも伝 はないとか,父親などに母親の死を伝えると「母親を放,っておいて何してたんだ」などと責められるとかいう思いから,その後も,後記。 本件犯行当日父親が気付くまでの約2か月半もの間,母親の死を誰にも伝えることなく,その死体に毛布をかけただけで4畳半和室の畳の上に放置して生活を続けていた。 そして,この間,被告人は,父親に対し,母親の死亡について責められるのではないかという不安に苛まれる一方で,自分勝手な生活をして母親の介護もしないとの不満が大きくなっていったが,母親死亡後1週間ほど経ったころには「お袋の,面倒を看たことがどれだけ大変なことだったか分かるのか「親の介護がどれだ。」- 3 -けきつかったか分かるのか」という不満が一気に大きくなり「親父なんかいな。 ,くなったらいいのに「親父のことを殺してしまおうか」という考えが浮かんで。」。 きた。そして,その殺し方についても,包丁で刺すとたくさんの血が出て父親に惨いことをしてしまうし,悲鳴を上げられると近所の人にすぐに分かってしまうと思い,ちょうどその時ネクタイ(6畳和室にあり,父親からもらったもの)が目に。 入ったことから,ネクタイで父親の首を絞めれば,血も出ず,父親もうめき声くらいしか上げないだろうなどとも考えた。 しかし,このときは「とんでもないことを考えてしまった「こんなことを考,。」えていたら天国のお袋が泣いてしまう」などと何とか思いとどまったものの,も。 し父親から母親が死んだことについて責められたら,自分の中に溜まっている父親,,に対する不満が一気に爆発してしまうかもしれないとの不安も抱きつつその後も母親の死亡が父親に分かれば,父親から何を言われるか分からない,何をされるか分からないなどと,父親にその事実を告げることもできず,悩み続けながら,母親死亡の2 かもしれないとの不安も抱きつつその後も母親の死亡が父親に分かれば,父親から何を言われるか分からない,何をされるか分からないなどと,父親にその事実を告げることもできず,悩み続けながら,母親死亡の2か月半後の本件当日を迎えた。 【有罪と認定した事実】被告人は,平成21年5月10日,前記自宅内で,以下の各犯行に及んだ。 被告人は,朝から風呂に入り,午前9時ころ風呂から出たところ,母親の死第1体が放置されている4畳半和室の入口の襖が開けられており,その付近に立っていた父親から,突然「お母さん死んどるやないか。どないするんや」と,。 怒ったような口調で言われたことから,ついに母親の死がばれてしまったと焦りながら,風呂場の脱衣所で服を着るうち,自分が大変な思いで母親の介護をしてきたのに,父親は自分のことしか考えず,何も理解してくれなかったし,協力もしてくれなかったなどと,父親に対する日頃抱いていた不満が一気に爆発し「いっそ親父なんかいなくてもいい「親父なんか殺してしまえ」な,。」。 どと父親殺害を決意するに至った。と同時に,以前考えていたことが再び頭をよぎり,6畳和室にあるネクタイで父親を絞め殺そうと考え,被告人は,直ち- 4 -に6畳和室に入ってネクタイを持ち出した上,父親(当時67歳)の背後からその首にネクタイを掛けるとともに,二重にこれを巻き付けてその背後で数分間にわたり思い切り絞め付け,その場で父親を窒息死させて殺害した。 その後,被告人は,動かなくなった父親を見て,大変なことをしてしまった第2と直ちに後悔したものの,葬式代がなかったことに加え,気持ちの整理がつくまで,近所の人から責められないよう両親の死を隠しておこう,押入れに死体を隠せばこれを見ずに生活できるなどと考え,その日の内に,6畳和室の押入れの底に布団を敷いた上, ことに加え,気持ちの整理がつくまで,近所の人から責められないよう両親の死を隠しておこう,押入れに死体を隠せばこれを見ずに生活できるなどと考え,その日の内に,6畳和室の押入れの底に布団を敷いた上,父親と母親の死体をその中にそれぞれ運び入れるとともに,死臭が外に漏れないようその上から布団を掛けて隠し,これにより両親の死体を遺棄した。 【事実認定に供した証拠】〈省略〉【事実認定の補足説明】前記「犯行に至る経緯」のうち,母親死亡後1週間ほど経ったころに父親に対し殺意を抱いたという事実に関しては,被告人は,捜査段階では前記認定に沿う供述をしていたものの(B5号証。以下「捜査供述」という,公判廷では,父親に。)対して不満の気持ちはあったが,殺してしまおうなどという考えまでは起こらなかった,捜査の時にそのような供述をしたことがあるが,それは自分の本当の気持ちから言ったことではないと供述している(以下「公判供述」という。 。)この事実は,本件犯行時の殺意の内容にも関連しているだけでなく,後記C鑑定が判断の基礎にもすえている重要な事情でもあるので,裁判所が公判供述を採用せず,捜査供述に依拠して認定を行った理由について,補足的に説明する。 (1)まず,被告人の捜査供述は,C鑑定においても「根も葉もない供述があり,えるだろうか?」と指摘されているとおり,かなり具体的な内容である上,最終的にその段階で父親殺害を思いとどまった理由についても「天国のお袋が泣い,てしまう」などと,被告人が公判でも用いた表現に類する言い回しで自身の心情- 5 -を迫真的に述べているものでもある。 (2)それに加え,被告人が本件殺害行為に及んだ際,殺害を決意した後,直ちに父親の首を手で絞めるようなことはせず(被告人と父親との年齢差,体格の違い等からすると,それも決 述べているものでもある。 (2)それに加え,被告人が本件殺害行為に及んだ際,殺害を決意した後,直ちに父親の首を手で絞めるようなことはせず(被告人と父親との年齢差,体格の違い等からすると,それも決して困難ではなかったはずである,わざわざ6畳和。)室にネクタイを取りに行き,これを用いて父親を絞殺している点などは,捜査供述のように被告人が事前にネクタイを用いた犯行をイメージしていたからこそであると理解するのが自然であろう(C鑑定人も同様の見解を採っている。 。)(3)被告人は,前記のとおり,捜査供述は「本当の気持ちから言ったことではない」と公判で述べているが,その公判供述によっても,捜査官から供述を押しつけられたり誘導されたりしたような形跡は全く窺われないし,被告人が本当の気持ちから言ったのではない具体的な理由も何ら明らかにされていない。むしろ,公判廷でもその様子の一端が見られたように,たたみかけられると口ごもってしまう傾向のある被告人が(このような被告人の性格傾向は,C鑑定の中でも指摘されている,事件から間がない時期に,自分からあえてこのような供述をし。)ていることは,本当の気持ちを述べたことのあらわれであると考えるのが自然である。 (4)他方で,C鑑定人の供述によれば,被告人との面接の際には,事前の殺意を肯定する発言をする一方で,これを否定する発言をしたこともあるとのことであり,この点は,公判供述を信用すべき一事情になるようにも見える。しかし,後,,,記C鑑定でも明らかにされているとおり被告人には公判段階に至ってもなお「責められたくない」という考えに固執している様子が見受けられるのであるから,公判や鑑定人との面接においても「責められそうだ」と感じた場面で逃避,的供述に出た可能性が高く,上記のような事情が公判供述の められたくない」という考えに固執している様子が見受けられるのであるから,公判や鑑定人との面接においても「責められそうだ」と感じた場面で逃避,的供述に出た可能性が高く,上記のような事情が公判供述の信用性を高めるとは考えられない。 (5)以上の理由から,被告人の捜査供述は十分信用できるものと判断し,前記のような認定に至った。 - 6 -【心神耗弱の争点に対する判断】 当事者の主張弁護人は,被告人が「有罪と認定した事実」第1,第2に記載の各犯行に及,んだことは争わないものの,各犯行当時,被告人は,広汎性発達障害のうちアスペルガー症候群にかかっており,その精神障害の影響によって,善悪判断能力と行動コントロール能力のどちらか又は両方が著しく劣っている心神耗弱の状態にあったか,少なくともその疑いがあったと主張し,他方,検察官は,被告人が広汎性発達障害,とりわけアスペルガー症候群であった可能性は高く,それが被告人の善悪判断能力及び行動コントロール能力に影響を与えたこと自体は争わないものの,その影響は著しいものではなかったから,被告人は心神耗弱の状態にはなかったと主張している。 C鑑定とその信用性以上のような当事者の主張に鑑み,裁判所は,捜査段階で被告人の精神鑑定を担当していたD大学医学部精神神経科学教室のC准教授に対し,改めて,捜査段階の鑑定を踏まえつつも,公判段階で取り調べる証拠(とりわけ,公判段階での被告人の供述)や当事者間で合意したその他の鑑定資料を基礎として,精神鑑定,(,を行いその結果を公判において口頭で報告するよう依頼したその鑑定事項は「各犯行当時の被告人の精神状態,とりわけ,(1)被告人の精神障害の内容及び程度,(2)その精神障害が被告人の善悪判断能力及び行動コントロール能力に与えた影響の有無及び程度」であ その鑑定事項は「各犯行当時の被告人の精神状態,とりわけ,(1)被告人の精神障害の内容及び程度,(2)その精神障害が被告人の善悪判断能力及び行動コントロール能力に与えた影響の有無及び程度」である。 。)第2回公判期日における同鑑定人の鑑定人兼証人尋問において明らかにされたその鑑定結果(以下「C鑑定」という)の概要は下記(1)のとおりであり,そ。 の信用性に関する裁判所の判断は後記(2)のとおりである。 (1)C鑑定の概要ア被告人の幼少期からの人物像や各種検査の所見等を総合すると,被告人には,①対人関係が全般的に苦手で孤立しやすい,②興味や関心の幅が狭- 7 -いが,特定の対象に対しては執着する,③知的な能力そのものには,明らかな問題は見られない,という3つの傾向が幼少期のころから現在に至るまで変化することなく持続していることが認められることから,本件各犯行時も,被告人は広汎性発達障害にかかっており,なかでもアスペルガー症候群であった可能性が高いと判断される。 イしかし,被告人は,アスペルガー症候群の障害の主症状である「社会関係の質的障害,すなわち,対人関係が全般に苦手で孤立しやすい,情緒的な」関係を持ちにくいといった傾向や「パターン化し限られた関心と活動,,」すなわち,興味や関心の幅は狭いが,特定の対象に対しては執着するといった傾向にあったものの,これまで,乏しい人間関係のなかでも,不器用ながら,大きな破綻を来すことなく社会生活を送り,十数年来にわたって食品会社に勤めるなど,一定の社会性を身につけており,障害の程度としては,一定の社会適応が可能である程度にとどまっていた。 ウ父親を殺害した犯行は,母親が死亡した際にも,父親や周囲から自分が責められるのではないかと考えたことや,親戚や公的機関といった社会的なつ しては,一定の社会適応が可能である程度にとどまっていた。 ウ父親を殺害した犯行は,母親が死亡した際にも,父親や周囲から自分が責められるのではないかと考えたことや,親戚や公的機関といった社会的なつながりを利用せず,母親の死体をそのままにし,秘密にしておくなどという安易な手段をとったこと,父親から叱責されたと感じた際,社会的なつながりを利用して柔軟に対処することができず,被告人にとっての極限状態に陥ったことについて,精神障害の影響があった可能性が考えられる。 しかし,本件犯行は,元々父親のことを快く思っていなかったところ,母親の看病が大変だったのに,父親が構ってくれなかったことにより,父親に,,。 ,対する感情を募らせ単純短絡的に行動に移したものと考えられるまたネクタイを使用して殺害することを事前にイメージし,死体の遺棄のため消臭剤を使用したことなどから,犯行の動機,一貫性にさほど不自然なところはなく,行為の意味や道徳に反することの認識はできていたことなども踏まえ総合的にみると,精神障害による犯行への影響は本質的なものとは考えら- 8 -れず,部分的なものにとどまっていたものと判断される。 エまた,両親の死体を遺棄した犯行についても,父親殺害の発覚を免れるため死体を隠そうという動機は一般人に客観的に理解し得るものであり,そのように自身の身を守ろうという意識の下で,その手段として死体に布団をかけ,消臭剤を使用するなどして臭いが広がるのを抑えようとするなど,犯行に一貫性が見られることから,その犯行についても,社会的なつながりを利用して柔軟に対処することができないという限度では精神障害の影響があったものの,犯行への本質的な影響はなかったものと判断される。 オしたがって,被告人の精神の障害は,本件各犯行時の被告人の善悪判断能力及び 軟に対処することができないという限度では精神障害の影響があったものの,犯行への本質的な影響はなかったものと判断される。 オしたがって,被告人の精神の障害は,本件各犯行時の被告人の善悪判断能力及び行動コントロール能力に影響を与えたが,その程度は著しいものではなかった。 (2)C鑑定の信用性鑑定人であるC医師は,そのキャリア・鑑定経験等に照らして,鑑定人としての適格性に疑いを容れる余地はなく,また,第2回公判期日での口頭鑑定の際には,検察官・弁護人の質問に対して真摯かつ誠実に応答しているなど,公平さの観点からも疑問を差し挟む余地はない。そして,C鑑定は,公判前整理手続段階で訴訟関係人が合意した資料に基づくとともに,第1回公判期日にも鑑定人自ら出席して,その証拠調べの状況の把握に努めるとともに,被告人に対しても鑑定人の立場から進んで質問を行い,その後更に1週間をかけて鑑定内容の検討を経た上で行われたものであって,鑑定の前提条件や資料に問題はない上,その鑑定結果や推論過程においても,論理性・合理性を疑わせるような箇所も見当たらない。 そうすると,C鑑定で示された鑑定の結論やその判断根拠については,十分な信用性を認めることができるというべきである。 心神耗弱に当たるか否かの判断(1)判断の道筋- 9 -そこで,上記C鑑定を踏まえ,本件各犯行当時,被告人が心神耗弱の状態に,,,あったか否かについて判断することとするがその判断の道筋としてはまず①被告人が精神の病(障害)を持っているかどうかを判断した上,これを前提に,②その精神の病(障害)は,本件各犯行当時の被告人の善悪判断能力と行動コントロール能力にどの程度の影響を与えたかについて検討を加え,最後に,③最終結論として,本件各犯行当時,被告人は精神の病(障害)の影。 , 障害)は,本件各犯行当時の被告人の善悪判断能力と行動コントロール能力にどの程度の影響を与えたかについて検討を加え,最後に,③最終結論として,本件各犯行当時,被告人は精神の病(障害)の影。 ,,響により心神耗弱の状態にあったかを判断することとするそしてこのうち,,①②の判断に当たっては前記のとおり信用できるC鑑定を十分尊重しながらその判断を行うこととした(以上の諸点は,公判前整理手続段階で,訴訟関係人間で合意したところでもある。 。)(2)被告人は精神の病(障害)を持っているかどうか(①の判断事項)C鑑定によれば,前記のとおり,被告人が,本件各犯行当時,広汎性発達障害,なかでもアスペルガー症候群であった可能性が高いものと認めることができる。このことは,検察官・弁護人の間においても争いがない。 (3)アスペルガー症候群が被告人の善悪判断能力と行動コントロール能力に与えた影響の程度(②の判断事項)アC鑑定は,前記のとおり,結論として,被告人のアスペルガー症候群は,本件各犯行時の被告人の善悪判断能力及び行動コントロール能力に影響を与えたが,それは,社会的なつながりを利用して柔軟に対処することができな,,,かったという部分的なものであって本質的なものとはいえずしたがって影響の程度としては著しいものではなかったと判断している。 イこれに対し,弁護人は,C鑑定を基本的に尊重しながらも,なお,本件各犯行までの間で,被告人は,程度はともかくアスペルガー症候群の影響を受けて誤った判断を繰り返し,結果的に精神的に追い詰められる状態に陥っているのであるから,精神障害の程度自体が重いものでなかったとしても,その影響が集積し,混乱状態に陥って及んだ本件各犯行については,結果的に- 10 -精神障害が強く影響したというべきであると主張 いるのであるから,精神障害の程度自体が重いものでなかったとしても,その影響が集積し,混乱状態に陥って及んだ本件各犯行については,結果的に- 10 -精神障害が強く影響したというべきであると主張している。 そこで,上記弁護人の主張に鑑み,本件各犯行に至る経緯及び本件各犯行において,アスペルガー症候群が被告人にどのような影響を及ぼしてきたかを,C鑑定を踏まえながら,順次,検討していく。 (ア)まず,アスペルガー症候群が社会的に知られるようになったのは比較的最近のことであることからすると,被告人についても,アスペルガー症候群の症状が精神の障害として明確に意識されないまま,幼少期からの長年にわたるその影響が累積し,本件犯行にもかなりの影響を及ぼしていたのではないかとも疑われる。 しかしながら,被告人は,一人で寮生活をしながら転勤を重ねた期間も含めて計10年以上にわたって食品関係会社やスーパーで勤務してきたことに加え,退職後も,両親の年金を管理し,やり繰りをしながら生活をしていたのであって,このような被告人の生活状況に照らすと,C鑑定の指摘するとおり,被告人のアスペルガー症候群自体,程度の強いものではなかったと考えられ,上記のような長年にわたる罹患歴が大きな影を落としていたとは考えにくいところである。この点,弁護人は,被告人が退職後自宅にひきこもるようになり,本件各犯行時点では社会性を一層失っていたため,アスペルガー症候群が悪化していた可能性が高いと主張するが,被告人が自宅で過ごすようになった期間が長いことは事実であるとしても,被告人は,退職後も毎日の買い出しや食事の準備等の家事全般を行ったり,腰を痛めた母親の介護を行ったりするなど,一定の社会的行動を伴った生活状況を保っていたのであり,アスペルガー症候群が悪化していた可能性が高いとまで 毎日の買い出しや食事の準備等の家事全般を行ったり,腰を痛めた母親の介護を行ったりするなど,一定の社会的行動を伴った生活状況を保っていたのであり,アスペルガー症候群が悪化していた可能性が高いとまでは考えられない(C鑑定人も,退職後の被告人の生活状況は社会性を発揮しにくいものであったとしつつも,アスペルガー症候群が悪化していたとまでの見解は示していない。 。)(イ)次に,被告人が体調の悪い母親を病院で受診させなかった点や親戚等- 11 -の周囲の人に頼らなかった点については,母親自身の意向(被告人の公判供述によれば,母親は病院に行くのを嫌がっている雰囲気であったとのことである)や医療に関する経済的事情が影響していた可能性も否定でき。 ,。 ず直ちにアスペルガー症候群の影響があったとは捉えることはできないしかし,服を着るのを嫌がるようになった母親に対し,裸にさせたままストーブ等でのみ対応したり,次第に母親との間で会話すら成り立たなくなっていっても,父親に相談することもなく,親戚や近所の人,役所などにも,全く相談しなかったりして,ついには母親が自宅内で凍死するなどという異様な転帰をたどっている経緯を見ると,末期ころの母親に対する被告人の介護状況は常識では理解し難い面が多く,アスペルガー症候群の影響がかなりあったものと考えざるを得ない。 (ウ)また,母親の死亡後,その死体を部屋に放置したことについても,死亡後間がない時期に関しては困惑のあまりの行動とも説明ができるが,体液の出る口鼻にティッシュペーパーを詰めるなどしながら,父親に発見されるまでの約2か月半もの長期間にわたって死体の放置を続けた点は,やはり尋常ではなく,アスペルガー症候群の影響の大きさを抜きにしては考えることができない。 (エ)これに対し,本件当日,父親から叱責され までの約2か月半もの長期間にわたって死体の放置を続けた点は,やはり尋常ではなく,アスペルガー症候群の影響の大きさを抜きにしては考えることができない。 (エ)これに対し,本件当日,父親から叱責されたことに対し,被告人が父親の殺害という行為に出た点は,母親の死亡後に父親に対する不満を抱くようになり,約1週間後には父親殺害についてもイメージしたことがあったところ,父親から叱責されたことをきっかけにその不満を一気に高めた結果,以前イメージしたとおりネクタイで首を絞めるという態様で行ったものであって,このような犯行動機や犯行態様は,父親への反感・不満がストレートに出た可能性が高く,健常者でも行う可能性がある衝動的な行動として理解できるものである。もっとも,母親の死が発覚し,父親などから「母親を放っておいて何してたんだ」と責められるのではないか,。 - 12 -という不安に対する防衛的な意識に固執していたという限度では,C鑑定,。 が指摘するとおりアスペルガー症候群の影響を受けていたと考えられる(オ)父親殺害後の死体遺棄の状況や生活状況については,自宅の押入れに入れて布団を被せるという安易な方法をとっていること,死臭を抑えるために芳香剤や消臭スプレーを使い,ティッシュペーパーで体液を拭き取るという場当たり的な対策を施していただけであること,その犯行発覚に対するずさんな見通し,約2週間にわたる死臭の中での特異な日常生活等には,理解に苦しむ面があり,この場面だけを見ると,アスペルガー症候群の影響が否定できない。しかし,それまでの経緯を見ると,既に母親の死体の腐敗が進んでいた上,衝動的に父親まで殺害してしまったとの局面に至っては,これらの発覚を免れるためにはもはや両親の死体を隠すしかないと考えたとしても,そのような思考方法が常識では理解で 母親の死体の腐敗が進んでいた上,衝動的に父親まで殺害してしまったとの局面に至っては,これらの発覚を免れるためにはもはや両親の死体を隠すしかないと考えたとしても,そのような思考方法が常識では理解できないものとはいえないし(この点が,母親死亡後の対応との状況面での大きな違いである,また,一連の消臭行動には周囲を意識した側面が強く,アスペ。)ルガー症候群による影響は限定的であったと見るほかない。 (カ)以上見たところによれば,確かに,弁護人の指摘するとおり,本件各,,,犯行に至るまでの各場面において被告人はその強弱の差はあるもののアスペルガー症候群の影響により不適切な判断・行動を重ね,その中で,周囲の者に対し助力を求めることができず,かえってそれらの者から責められるのではないかとの不安に捕らわれ,母親の死,さらには父親の殺害の発覚を免れることに固執していく度合いを強めていったと考えられる。 その意味では,本件各犯行当時,アスペルガー症候群による影響が相当程度大きくなっていたであろうことは否定できない。 しかしながら,父親殺害の犯行については,C鑑定でも述べられているとおり,母親の死亡以降,母親や自分の面倒を見ずに自分勝手な生活をしていた父親に対して抱いていた反感や不満が,父親からの叱責によって一- 13 -気に高まったことを主たる原因とする直接的な行動と見られるのであって,善悪判断能力や行動コントロール能力との関係では,上記のアスペルガー症候群の影響が本質的に強く及んでいたとはいえないし,死体遺棄の犯行についても,上記のとおり,アスペルガー症候群による影響は限定的,,であったと考えざるを得ず前記のような以前からの影響の累積のゆえにこれら局面における影響の程度が著しいものとなると考えることには,いささかの飛躍があると判断さ ルガー症候群による影響は限定的,,であったと考えざるを得ず前記のような以前からの影響の累積のゆえにこれら局面における影響の程度が著しいものとなると考えることには,いささかの飛躍があると判断される。 (4)最終結論-被告人は,本件各犯行当時,心神耗弱の状態にあったか(③の判断事項)以上より,本件各犯行当時,被告人はアスペルガー症候群による影響を相当程度受けてはいたものの,それによって善悪判断能力と行動コントロール能力のいずれか又は双方が著しく劣った状態にあったとの疑いを生じさせる程度にはなかったものと判断し,したがって,被告人は心神耗弱の状態にはなかったものと認定した。 【法令適用の過程】(1)「有罪と認定した事実」に記載の被告人の各行為は,次の各刑罰法令にそれぞれ該当する(〕内は法定刑。 〔)第1の行為…刑法199条〔死刑又は無期若しくは5年以上の懲役〕第2の行為…父親と母親に対する各死体遺棄につき,いずれも刑法190条〔3年以下の懲役〕ところで,第2は1個の行為が数個の罪名に触れる場合であるから,刑法54条1項前段,10条により,1罪として犯情の重い父親の死体を遺棄した罪の刑で処断を行う。 そして,第1の罪について,後記犯情により,その法定刑の中から有期懲役刑を選択した上,第1,第2の各罪は刑法45条前段の併合罪であるから,刑法47条本文,10条により,重い第1の罪の刑に刑法47条但書の制限内で法定の- 14 -加重を行う。 その結果導き出された刑期の範囲内で,当裁判所は,後記「量刑の理由」により,被告人を主文の刑に処することとした。 (2)被告人には未決勾留の期間があるので,刑法21条を適用して,その日数のうち主文の日数をこの刑に算入する。 (3)訴訟費用(国選弁護費用,証人費用,鑑定費用)が生じているが,刑 ることとした。 (2)被告人には未決勾留の期間があるので,刑法21条を適用して,その日数のうち主文の日数をこの刑に算入する。 (3)訴訟費用(国選弁護費用,証人費用,鑑定費用)が生じているが,刑事訴訟法181条1項但書を適用して,被告人にはこれを負担させない。 【量刑の理由】 本件事案の概要本件は,寝たきりの母親を一人で介護していた被告人が,凍死してしまった母親の死体を自宅の一室に放置していたところ,これに気付いた父親から,母親の死について叱責されたため,母親の介護に関し日ごろ抱いていた父親に対する不満が爆発して,父親を殺害しようと決意し,父親の首にネクタイを二重に巻き付けるなどして絞殺し(第1の犯行,その後,父親と母親の死体を自宅の押入れ)内に運び入れて隠し,これを遺棄した(第2の犯行)という事案である。 量刑上ポイントとなる事情(1)まず,本件の量刑の中心となる殺人の罪について検討する。 ア本件殺害に至る経緯・動機について見ると,確かに,被告人が,父親や親戚等からの助力もない状態の下で,母親の介護を一手に担い,被告人なりに懸命に介護に努めていた点は評価できる一面があるとはいえ,前記認定のとおり,父親自身も,長い精神病歴を持ち,自宅の一室にこもって生活していたことを考えると,父親が母親の介護に助力しなかったからといって,一概,,,,に父親を責めることはできないしまして被告人は勝手な思い込みから父親のみならず,親戚や近所の人らにも全く助力を求めようとしないまま,父親に対し一方的に不満を募らせた挙げ句に,自分を叱責した父親(変わり,,果てた母親の姿を目にして父親が被告人を叱責したのは当然の行動であり- 15 -何ら落ち度は認められない)を,その心情も理解しないままいきなり絞殺。 したというのであるから- 父親(変わり,,果てた母親の姿を目にして父親が被告人を叱責したのは当然の行動であり- 15 -何ら落ち度は認められない)を,その心情も理解しないままいきなり絞殺。 したというのであるから-後記のとおり,これに対するアスペルガー症候群の影響は一定限度考慮しなければならないとしても-その経緯・動機には,総じて酌むべきものは乏しいといわざるを得ない。 イまた,その犯行態様を見ても,被告人は,父親の背後から首に二重にネクタイを巻き付け,数分間にわたって,舌骨が折れるまで思い切り絞め付けたものであって,確定的かつ強固な殺意に基づく冷酷な犯行であるといわざるを得ないし,計画的犯行とまではいえないものの,母親の死から約1週間後に,父親の殺害やその具体的方法について考えた際のイメージどおりに本件殺害に及んでいる点は,犯行の悪質性の一端をあらわすものとして見過ごすことができない。 ウそして,犯行の結果は,言うまでもなく極めて重大である。父親は,結婚後まもなく被告人をもうけ,その後,統合失調症を発症するまでの25年余りは,脊髄を痛めたり,うつ病になったりしながらも,家族のために懸命に働いてきたのであり,統合失調症で入通院後は,その影響からか自宅の一室にこもるようになっていたとはいえ,年金を受給しながら一応平穏に生活していたのである。そのような中,父親は,妻の死に気付き,これを問いただしただけで,自らの一人息子である被告人から突如として首を絞められ,殺害されるに至ったものであり,その無念さや苦しみはいかばかりであったかと察せられる。 また,後記死体遺棄の点も含め,本件犯行が父親の親族に与えた精神的衝撃や深い悲しみには著しいものがあり,父親の兄が,自己の甥にも当たる被告人に対し,激しい憤りや厳しい処罰感情を述べていることには,十分に理解できるも の点も含め,本件犯行が父親の親族に与えた精神的衝撃や深い悲しみには著しいものがあり,父親の兄が,自己の甥にも当たる被告人に対し,激しい憤りや厳しい処罰感情を述べていることには,十分に理解できるものがある。 (2)次に,死体遺棄の罪について見る。 ,,その犯行は両親の死体を自宅の押入れに入れて隠したというものであって- 16 -犯行の結果,自ら殺害した父親の死体を腐敗させただけでなく,既に死後約2か月半が経っていた母親の死体についてもさらに腐敗を続けさせたものであって,自分を生み育ててくれた実の両親に対する仕打ちとして,あまりに冷淡か。 ,,つ無惨であるというほかない犯行動機についても第1の父親殺害の犯行後前記認定のような目的から,その日のうちに母親の死体ともども押入れに運び入れて隠したというものであって,何ら酌むべきものを見出し得ない。 (3)しかし,その一方で,被告人のために酌むべき以下の事情も認められる。 アまず何よりも,本件は,被告人のアスペルガー症候群を抜きにしては考えられない犯行というべきである。確かに,被告人のアスペルガー症候群は,社会性を失わせたり,社会的適応を不可能にする程度には至っていないものの,幼少期からの被告人の人格形成に少なからざる影響を及ぼしていたものと考えざるを得ない。本件各犯行に至るまでの過程には,父親が統合失調症を患い,母親は寝たきりになって介護が必要になるなど,不幸な事情が積み重なったという背景があるが,そのような状況下で,被告人は,アスペルガー症候群の影響により,父親や親戚,近隣住民等に助力を求めるといった社会的なつながりを利用した対処が難しく,また,周囲の者からの助力が得られず,サポートしてくれる人間もいなかったこともあって,一人で困難を抱え込んでいた側面があり,その結果として,被告 めるといった社会的なつながりを利用した対処が難しく,また,周囲の者からの助力が得られず,サポートしてくれる人間もいなかったこともあって,一人で困難を抱え込んでいた側面があり,その結果として,被告人にとっての極限状態の中で父親殺害の犯行に至ってしまったものである。アスペルガー症候群にかかったことは被告人の責任ではないのであるから,この点は被告人のために相当程度有利に考慮する必要がある。 そして,既に認定したとおり,被告人は,本件各犯行当時,心神耗弱の状態にまではなかったものの,アスペルガー症候群の影響を相当程度受けていたのであり,このことも,被告人のために酌むべき事情となる。 イ次に,被告人は,父親に対する不満を口にしたり,責任転嫁的な発言もしており,真の反省が伴っているか疑問がないではないが,この点にもアスペ- 17 -ルガー症候群が影響している可能性を否定できないし,ともかくも本件各犯行については捜査段階から一貫して認めており,公判廷でも,亡くなった両親やその遺族らに対して被告人なりの反省の言葉を述べ,自らの犯した罪に対する刑については,素直にこれに服する旨述べていることは,被告人の反省状況を示すものとして適切に評価しなければならない。加えて,被告人には前科はなく,社会に迷惑をかけずに過ごしてきたという事情もある。 総合判断以上の諸事情を総合して,被告人に対する刑を判断する。 本件の量刑の中心となる殺人の犯行は,その経緯・動機の悪質性や犯行態様等に照らすと,同種事犯と対比しても決して軽い事案ということはできず,その後犯された各死体遺棄の犯行の動機・態様の悪質性も併せ考えると,被告人には相当の重罰をもって臨むべきとも思われる。 ただその一方で,本件犯行は被告人の有するアスペルガー症候群を抜きにしては考えられず,心神耗弱を疑わせ 棄の犯行の動機・態様の悪質性も併せ考えると,被告人には相当の重罰をもって臨むべきとも思われる。 ただその一方で,本件犯行は被告人の有するアスペルガー症候群を抜きにしては考えられず,心神耗弱を疑わせる程度には至らないまでも,本件各犯行にも相当程度影響を与えていた上,本件各犯行に至るまでの経過においても,アスペルガー症候群の影響が背景となって被告人にとって不幸な状況が積み重ねられたことは否定し難いのであって,このことは,被告人の量刑上十分に考慮する必要がある。 そうすると,検察官の懲役10年の求刑は,上記観点から重すぎると考えられる一方,懲役3年6か月という弁護人の科刑意見も,犯行の悪質性を考慮すれば軽すぎるといわざるを得ない。以上の各種の事情を考慮し,公平の見地から従前の量刑傾向も踏まえた結果,懲役7年の刑が相当であると判断するに至った。 前記判決宣告日同日大阪地方裁判所第7刑事部- 18 -杉田宗久裁判長裁判官三村三緒裁判官大和隆之裁判官
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