昭和27(ネ)553 損害賠償請求控訴並びに附帯控訴事件

裁判年月日・裁判所
昭和29年9月29日 大阪高等裁判所
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【DRY-RUN】主    文      原判決中控訴人の敗訴部分を次のとおり変更する。      控訴人は被控訴人に対し金三一四、〇四〇円及びこれに対する昭和二五 年九月一五日から右支払済まで年五分の割合による金員を

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主文 原判決中控訴人の敗訴部分を次のとおり変更する。 控訴人は被控訴人に対し金三一四、〇四〇円及びこれに対する昭和二五年九月一五日から右支払済まで年五分の割合による金員を支払え。 被控訴人のその余の請求は棄却する。 被控訴人の附帯控訴は棄却する。 訴訟費用中附帯控訴費用は被控訴人の負担とし、その余の訴訟費用は第一、二審を通じこれを二分し、その一を控訴人の負担とし、他の一を被控訴人の負担とする。 事実 控訴代理人は「原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟受用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。被控訴人の附帯控訴を棄却する。」との判決を、被控訴代理人は「本件控訴は棄却する。原判決中被控訴人敗訴の部分を取り消す。控訴人は被控訴人に対し金一七万五、九一七円六〇銭及びこれに対する昭和二五年九月一五日より右支払済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決を求めた。 当事者双方の事実上の陳述は、控訴代理人が「控訴会社が従業員の行う夜間陸送を会社業務運営の都合上承認していたことをもつて控訴会社に事業監督について過失があつたということはできない、なんとなれば本件事故は昼間に起つたことである。夜間に自動車を運転することは疲労はするが、その反面道中の障害少く安全率が高いという利点があり、本件の場合も夜間陸送は予定どおり無事終えているし、訴外A等は出発前には必要な睡眠を取り、途中も適当な休養を怠らずに来たのである。控訴会社としてはこれらの諸点について随時注意を与え相当な監督を加えていた次第である。控訴人は本件事故によつてその所有の自動車を破損され、その修理費用として金一一〇、四四〇円の支出を余儀なくされ る。控訴会社としてはこれらの諸点について随時注意を与え相当な監督を加えていた次第である。控訴人は本件事故によつてその所有の自動車を破損され、その修理費用として金一一〇、四四〇円の支出を余儀なくされた。これは全く訴外亡Bの過失による不法行為に基因するもので、仮に訴外Aにも遺矢があつたとしても、訴外亡Bは共同不法行為者として民法第七一九条により、控訴人が蒙つた右損害の全額の賠償義務を免れない。よつて仮に控訴人に被控訴人主張のような損害賠償債務があるとすれば、控訴人は右Bの相続人である被控訴人に対し控訴人の有する金一一〇、四四〇円の損害賠償債権をもつて、その対当額について本訴で相殺の意思を表示する。なお控訴人は民法第七一五条第三項によつて訴外亡Bに対し求債権を有するから、右求償債権をも自働債権として、前同様相殺の意思表示をする。」と述べ、被控訴代理人が「訴外亡Bが訴外Aの運転する自動車の助手席に同乗していたのは陸送の経験を積むために過ぎなかつたのである。かような未経験者は自動車の運行について訴外Aを指図したりその注意力を補充したりする義務を有しないことは明らかである。仮にいわゆる助手に準じて考えても、助手には同様の義務はないのであるから、亡Bには本件損害賠償の額を定めるについて斟酌すべき過失は存しないわけである。控訴人の相殺の抗弁に対し、控訴人が自動車修理費として金一一〇、四四〇円を支出したことは認めるが、その余の事実は否認する。右相殺の主張は民法第五〇九条にてい触するから無効である。」と述べた外は、原判決摘示のとおりである。 証拠の提出認否援用は、控訴代理人が当無での証人C、同Dの各証言を援用し、被控訴代理人が当審での証人Cの証言及び被控訴本人の供述を援用した外は、原判決摘示のとおりである 理由 被控訴人の長 は、控訴代理人が当無での証人C、同Dの各証言を援用し、被控訴代理人が当審での証人Cの証言及び被控訴本人の供述を援用した外は、原判決摘示のとおりである 理由 被控訴人の長男Bが貨物用小型自動車販売の業を目的とする控訴会社に雇われ、商品である新車運搬事務に従事したこと及び控訴会社の使用人である自動車運転者訴外Aが昭和二四年四月二九日体訴会社の業務の執行として、Bを同乗させて新造品小型三輪貨物自動車H号を運転して倉敷市から大阪市まで輸送する途中、同日午前一〇時二〇分頃尼崎市a通b丁目c番地先阪神国道において、右小型自動車を折柄同所に停止中の大型貨物自動車の後部車体に接触させたため、左側助手席にいたBが胸部傷害を受けて間もなくその場で死亡したことは当事者間に争いがない。被控訴人は右事故は一に訴外Aの自動車運転上の過失に基くと主張するに対し、控訴人は訴外Aになんらの過失なく、むしろB自身の不注意に因るものと抗争する。そこでまず事故発生の経緯を検討すると、原審での証人E、Aの各証言、同Fの証言の一部、原審での被控訴本人の供述、当審での証人Cの証言の一部に弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができる。 訴外Aは昭和二四年四月二八日控訴会社から同僚である訴外D及び同Gとともに岡山県浅口郡d町所在のH号貨物自動車製作所へ新車の受取のため出張を命ぜられBを同伴して同日午後四時頃大阪駅発の汽車で西下した。Bを同伴したのは、同人も控訴会社の車輌課新車係の一員であり、既に小型自動車運転試験に合格し、月末には免許状の交付を受けることになつていたので、新車陸送のコースや必要事項を教え、陸送の経験を積ますためであつた。一行は倉敷市で約三時間の休養を取つた後、受け取つた小型貨物自動車三台を夜間陸送のため、翌二九日午前零時頃訴外A になつていたので、新車陸送のコースや必要事項を教え、陸送の経験を積ますためであつた。一行は倉敷市で約三時間の休養を取つた後、受け取つた小型貨物自動車三台を夜間陸送のため、翌二九日午前零時頃訴外A、C、Gの三名が各一台を運転し、訴外Aは他の二台を随えて先頭を切り、左側助手席にBを同乗させて倉敷市を出発し、途中約二〇分位宛三回休んだが徹夜の操縦にかなりの疲労を覚えながら、同日午前一〇時過頃東から西へ疾走しつつ前記場所の手前約数町りところに差しかかつた。そのとき後方より一台の大型貨物自動車が追い越して前に出たが、訴外Aは右大型貨物自動車の後方を、それと小型自動車の全長の一倍半の近距離を保つたまま、時速約三五粁の速さで追従した。この附近の阪神国道は幅員二九米、車道二一米(車道の中間は電車軌道)の直線道路であつて普通ならば見透しは十分利くところであるが、先行貨物自動車に近接して後続する小型貨物自動車の運転着席に位置する訴外Aからは、先行車の車体の蔭に視界をさえぎられたため、道路の前方の見透しは利かなかつた。このような状態のまま道路の左側車道を約四、五町進行したとき、先行貨物自動車が右にハンドルを切つて進路を右側に転じた。進路の前方左側すなわち車道の左端に一台の貨物自動車が東向きに停止していたのでこれとの衝突を避けるための措置であつた。しかるに訴外Aは先行貨物自動車が進路を右に転じたのを目撃しながら、そのまま進行しても前方にはなんらの障害もないと信じ、危険防止のためなんらの措置も取らず、そのまま、真直に進行を継続した。そして前記停止中の貨物自動車に追突する間際になつてから訴外Aはあわててハンドルを右に切り急停車の措置を取つたが、時すでにおそく、小型自動車の左車体が右貨物自動車の後部右側に接触することを防げず、衝突し、そのためBは胸部に負傷して死 る間際になつてから訴外Aはあわててハンドルを右に切り急停車の措置を取つたが、時すでにおそく、小型自動車の左車体が右貨物自動車の後部右側に接触することを防げず、衝突し、そのためBは胸部に負傷して死亡するに至つた。小型貨物自動車の左側助手席に同乗していたBの位置からは、前記先行貨物自動車に追従走行中に、おそくとも先行車が進路を右に転ずると同時に前方道路の左側に停止中の貨物自動車はその視界内に入り、容易にこれを発見することができ、従つて直ちに運転者Aに警告し、因つて衝突の危険の発生を予め防止するに足る適切の措置を取らせることができたわけであるが、当時Bは仮睡状態にあつて追突するまで停止中の自動車のあることを知らず、従つてなんらの措置にも出なかつたものである。 以上の認定事実に反する証拠は信用しない。 <要旨第一>およそ自動車の運転に従事する者は、その操縦に当つては深甚の注意を払い、常に進路の前方を警戒し、交</要旨第一>通事故の発生を未然に防止すべき義務があり、殊に先行する大型貨物自動車に近接しその車体の蔭に視界を妨げられながらその後を追つて直線道路を疾走する小型三輪貨物自動車の運転者は先行車の動静に細心の注意を払つて運転を継続すべきで、自動車が進路の前方の障害を避けるため進路を変えることはよくあることであるから、先行車が右に進路を変えたときは、進路の前方に避譲すべき障害があるものと感知し、即時急停車するか、少くとも危急に臨んで急停車の措置が間に合うよう適当に速力をゆるめて徐行するか、或いは先行車にならいハンドルを右に切つて進路を変える等臨機適切の処置を講ずべき注意義務があるものというべきである。 しかるに訴外Aは先行車が進路を右に転じたのを目撃しながら、前方にはなんらの障害はないと軽信し、従つて危険防止のための適宜の措置を取ることを怠 の処置を講ずべき注意義務があるものというべきである。 しかるに訴外Aは先行車が進路を右に転じたのを目撃しながら、前方にはなんらの障害はないと軽信し、従つて危険防止のための適宜の措置を取ることを怠り、漫然時速約三五粁の速力でそのまま自動車を運転進行したため、前記事故が発生したのであるから、訴外Aは自動車運転者としての注意義務を怠つたという過失の責を免れない。これと異なる控訴人の主張は排斥する。一方Bは控訴会社の被用者であり、新車係の一員として新車陸送の経験を積むためとはいえ、訴外Aのもとに新車陸送の業務に従事した者であり、従つて訴外Aに協力して災害の発生を防止しつつ新車を安全に輸送する職責を有する者であるから、運転者Aの左側助手席にあつてその業務に従事中仮睡状態にあつたことは初めての夜間陸送のため疲労が甚しかつたとしても、やはり軽卒怠漫のそしりを免れない。眼を開いておれば、訴外Aより早く前方に停止中の貨物自動車のあることを発見しAにこれを警告し因つて衝突の危険を防止することを得たわけであるから被害者であるBの右過失も自らの死を招いた一因をなすものといわなければならない。これと見解を異にする被控訴人の主張は採らない。 次に控訴会社に被用者である訴外Aの選任監督について過失がなかつたかどうかを判断する、控訴会社が訴外Aを雇傭するに際し、その主張のような考慮すなわち相当な注意を払つていたことは控訴人挙示の証拠によつて認めることができるが、成立に争いのない乙第三号証の一、二、原審での証人F、同Aの各証言によれば、訴外A等は出発の翌四月二九日が休日に当つているため、少しでも早く仕事を終えて休みたいとの考えから、帰りを急ぎ、新車の夜間陸送の挙に出たものであること、控訴会社としては昼間陸送を建前としているが、勤務の都合や会社の業務運営の都合によ 当つているため、少しでも早く仕事を終えて休みたいとの考えから、帰りを急ぎ、新車の夜間陸送の挙に出たものであること、控訴会社としては昼間陸送を建前としているが、勤務の都合や会社の業務運営の都合によつて、夜間陸送を行うことを承認していたこと、訴外A等は出張を命ぜられた際、スピードを出さぬようにせよ、夕方までに帰つて来れば良いとの指示は受けたが、折返し夜間陸送を行うことを特に禁ぜられはしなかつたこと、十分な休養を取らずに夜間陸送を長時間続けるときは従業員の疲労は大きいものであるのに、訴外A等は出発当日の四月二八日昼間も就疲させられ、休養を与えられていないこと、控訴会社の就業規則にはその第三二条に「従業員は安全に関する規定指示を守り、常に職場を整理整頓して災害防止に努めなければならない」との安全保安に関する一条が存するが、陸送殊に夜間陸送についての具体的な規定を欠き指示も十分になされていないことを認めることができるから、控訴会社が事業の監督につき相当の注意をしたもの、または相当の注意をしても本件事故が避け得なかつたものとは認められない。従つて控訴会社はその被用者である訴外Aが控訴会社の業務の執行について過失によつてB及びその母である被控訴人に加えた損害を賠償する義務があるものといわなければならない。 そこで損害の数額について判断する。成立に争いのない甲第二乃至五号証、原審並びに当審での被控訴本人の供述によれば、Bは本件事故当時年令一八才八月であつて、昭和二四年三月五日大阪工芸高等学校を卒業し、控訴会社の車輌課新車係として雇われたのであるが、卒業前同年二月中頃臨時雇として採用せられ同年三月小型自動車運転者試験に合格し、同年四月の平均賃金は一日金一六五円九六銭で一ケ月の給料金四九七八円八〇銭の支給を受けていたこと、Bは生活費として一ケ月金三、 年二月中頃臨時雇として採用せられ同年三月小型自動車運転者試験に合格し、同年四月の平均賃金は一日金一六五円九六銭で一ケ月の給料金四九七八円八〇銭の支給を受けていたこと、Bは生活費として一ケ月金三、〇〇〇円を要していたことを認めることができる。従つてBの余剰収入は右収入額から生活費を差し引いた一ケ月金一九七八円八〇銭の割、一年間では金二三、七四五円六〇銭となること算数上明らかである。年令一八才八月の普通健康体の男子の生存平均年数が四一年であることは当裁判所に顕著であるところ、向う四一年間のBの余剰収入が一年間平均二三、七四五円六〇銭と異なることを認めるべき証左がないから、Bは本件事故がなかつたとすれば、右金額は右平均年数を乗じた金九七三、五六九円六〇銭の利益を得べきであるのに、同人は本件事故によつて死亡し右得べかりし利益と同額の損害を蒙つたわけである。そしてこれを年五分の法定利率に従つてホフマン式計算法により現在一時に支払を受ける場合の金額に引き直すと、金三一九、二〇三円一四銭となることは計数上明かである。しかし本件事故についてはBにも過失のあることは既に認定したとおりであるから、これを斟酌し控訴会社がBに対して喪失利益として賠償すべき金額は金二八〇、〇〇〇円と定めるのが相当である。被控訴人が長男Bの死亡により遺産相続をしたことは控訴会社の争わないところであるから被控訴人は控訴人に対して右賠償請求権を有するものというべきである。次に前記甲第二、三号証及び被控訴本人の供述によれは、被控訴人は高等女学校を卒業し鉄道省勤務の亡Iと婚姻し、昭和三年一月長女J昭和五年七月長男Bを儲けたが、Bの出生後十日にして夫と死別し、昭和六年以来美容院を経営し、女手一つで二子の養育に専念して来たこと、しかし収入が十分でないので、長男Bの成長成人を唯一の楽しみに 女J昭和五年七月長男Bを儲けたが、Bの出生後十日にして夫と死別し、昭和六年以来美容院を経営し、女手一つで二子の養育に専念して来たこと、しかし収入が十分でないので、長男Bの成長成人を唯一の楽しみにし、将来は長男Bの扶助に依存せねばならない境遇にあつたところへ突然本件の不慮の死という悲運に遭つたこと、本件事故当時被控訴人は年令四八才であることが認められ、右各事実に、既に認定した本件事故発生の状況、殊にBの過失等一切の事情を斟酌するときは、長男Bの落命により被控訴人が受けた精神上の苦痛に対する慰籍料としては金二五〇、〇〇〇円を相当と認める。 ところで、被控訴人が労働者災害補償として金一七五、九一七円六〇銭の保険給付を受けたことは当事者間に争いがなく、それは遺族補償費金一六五、九六〇円と葬祭料金九、九五七円六〇銭の合計額であつて、大阪労働基準局労災補償課から昭和二四年七月三〇日交付済であることが成立に争いのない甲第五号証によつて明らかである。控訴人が、被控訴人は右保険給付の支給を受けた範囲において有形無形の損害賠償請求権を有しないと主張するに対し、被控訴人は労働者災害補償保険金は法令に定める社会保険制度の給付金であるから、民法上の不法行為に因る損害賠償請求権はこれによつて左右されない、もし国家が主管する社会保険制度による労働者の受益を事業主の利益に斟酌せしめるときは、事業経営者をして自己の負担とする災害防止責任を軽視する結果を招来し、社会保険制度を設けた本旨に反することになると主張するので考えてみる。労働基準法第八四条第二項は「使用者はこの津津による補償を行つた場合においては、同一の事由については、その価額の限度において民法による損害賠償の責を免れる。」旨を規定しているのに、民漢による損害賠償と労働者災害補償保険法による保険給付との関係に よる補償を行つた場合においては、同一の事由については、その価額の限度において民法による損害賠償の責を免れる。」旨を規定しているのに、民漢による損害賠償と労働者災害補償保険法による保険給付との関係については法律にはそのような明文は存しない。しかしながら、同法制定の趣旨は、労働者に対する業務上の災害補償を労働基準法によつてその義務を負う使用者の直接補償に委ねただけでは、使用者の無資力とか不誠意によつて補償の実を挙げられないおそれがあるし、補償義務を負う使用者の立場からしても、不測の損害の負担についての平均化予算化が望ましいので、使用者が右保険の加入者であるときに、使用者の本来なすべき災害補償義務を国家が肩替りして、労働者に対する災害補償を迅速且つ公正に保険給付の形式で行うものに外ならない。このことは労働者災害補償保険法第一条、第二条、労働基準<要旨第二>法第八四条第一項前段の規定上明白である。そうだとすれば、労働基準法第八四条第二項を類推して、使用者</要旨第二>は、労働者が労働者災害補償保険法による保険給付を受けた場合においては、同一の事由については、その価額の限度において民法による損害賠償の責を免れるものと解するのが、事理上当然であるといわねばならない。これと反対の見解に立つ被控訴人の主張は採用しない。問題は、右災害補償金(労働者災害補償保険法による保険給付を含む、以下同じ)の支払によつて使用者は民法上の損害賠償の責を、具体的にはどのように免れるか、「同一の事由」とは何を指称するかである。労働者災害補償保険法第一二条第二項の用語によれば、災害補償の「事由」とは労働基準法第七五条乃至第八一条に定められた、補償を与うべき各個の場合に外なら<要旨第三>ない。とすれば災害補償と民法上の損害賠償とが「同一の事由」であるということは、単に同一の 補償の「事由」とは労働基準法第七五条乃至第八一条に定められた、補償を与うべき各個の場合に外なら<要旨第三>ない。とすれば災害補償と民法上の損害賠償とが「同一の事由」であるということは、単に同一の災害から生</要旨第三>じた損害であることを指すものではなく、災害補償の対象となつた損害と、民法上の損害賠償の対象となる損害とが、同質同一であり、民法上の損害賠償を認めることによつて二重の填補を与えられる関係にあることを指称するものと解すべきである。されば控訴人の見解のように、各種の災害補償のなされた金額を合計し、その合計額の限度で使用者は民法上の損害賠償義務を免れるものと解することは勿論許されない。さて労働基準法による災害補償は、労働力の回復と労働者もしくは遺族の生計維持を図るため、労働者もしくは遺族に対して、その被つた積極的な財産上の損害(療養補償、打切補償、葬祭料)及び消極的な財産上の損害(休業補償、障害補償、遺族補償)を填補することを目的とするものであつて、精神上の苦痛に対する慰籍を目的とするものではなく、非財産上の損害については触れるところがないのである。されば、使用者は、不法行為による損害賠償としての労働者もしくはその親族に対する慰籍料支払義務については、労働基準法による遺族補償や葬祭料の支払を行つたとしても、その価額の限度において免責を得られる理はない。一方、死亡した労働者の遺族である相続人は死亡した労働者の有する労働力の喪失による民法上の損害賠償請求権を相続する(死亡した労働者の遺族であつて、その扶養に依存するものは自己の有する扶養請求権の喪失として損害賠償請求権を有するが、これは死亡した労働者の有する労働力の喪失による損害賠償請求権から派生するものであつて、結局前者は後者の中に吸収還元する)が、労働基準法による遺族補償も、死 権の喪失として損害賠償請求権を有するが、これは死亡した労働者の有する労働力の喪失による損害賠償請求権から派生するものであつて、結局前者は後者の中に吸収還元する)が、労働基準法による遺族補償も、死亡した労働者の有する労働力の喪失による損害賠償請求権を前提とし、遺族中労働者の収入によつて生計を維持した者にこれを与えようとするものであるから、二者は結局同一の損害の賠償に外ならない。 従つて遺族補償の行われる限度において使用者は右民法上の賠償義務を免れるものと解するのが相当である。これに反し、労働基準法による葬祭料の支払は遺族の被つた積極的な財産上の損害に対する填補であつて、死亡した労働者の相続人が民法によつて賠償を求める労働力の喪失としての損害とは性質を異にし、同一の損害の賠償とみることを得ないから、労働基準法によつて右葬祭料の支払をしたことを以て、使用者はその免責を得られるものではない。以上説明したところに従い、控訴人は遺族補償として金一六五、九六〇円の保険給付のあつた限度において、被控訴人に対する喪失利益の損害賠償義務のみが免責せられるものというべく、これを前記認定の財産上の損害額金二八〇、〇〇〇円から控除した残額金一一四、〇四〇円が被控訴人の有する財産上の損害賠償としての残存債権である。 以上と異なる控訴人の主張は失当である。 次に相殺の抗弁について判断するに、民法第五〇九条の趣旨に照し、不法行為によつて生じた債務を負担する者は、相手方たる債権者に対し不法行為によつて生じた反対債権を有する場合にも、相殺をもつて対抗し得ない(昭和三年一〇月一三日大審院判決大審院判例集七巻一一号七八〇頁参照)ものであるから、右抗弁は主張自体において理由がない。また控訴人は、Bの過失により控訴人所有の小型自動車が破損しその修繕費用相当の損者を被つたから、 日大審院判決大審院判例集七巻一一号七八〇頁参照)ものであるから、右抗弁は主張自体において理由がない。また控訴人は、Bの過失により控訴人所有の小型自動車が破損しその修繕費用相当の損者を被つたから、被控訴人の損害領より控除さるべきであると主張するが、これを容認するときは、前記相殺禁止の規定の趣旨を没却するに至るから、右主張も採用の限りでない。 次に控訴人は、被控訴人は昭和二四年五月控訴会社に対し一切の損害賠償請求権を地棄する旨の意思表示をしたから、被控訴人は本訴請求権を有しないと抗弁するが、控訴人の全立証によつてもこれを認めるに足らないから、右抗弁は理由がない。 最後に控訴人は、控訴会社の資本の総額を超える損害賠償を請求することは、これにより控訴会社を破産させ、多数の従業員の生活を危くさせるから、権利の濫用であると抗弁するが、右事実を認めるに足る証拠はないのみならず、右事実があつたとて、それだけでは被控訴人の本訴請求を不当違法視することはできないから、右抗弁も排斥する。 されば被控訴人の本訴請求中、控訴人に対し前記財産上の損害金一一四、〇四〇円と前記認定の慰籍料金二五〇、〇〇〇円の内金二〇〇、〇〇〇円の合計金三一四、〇四〇円及びこれに対する本件訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和二五年九月一五日から右支払済まで年五分の割合による損害金の支払を求める部分は正当として認容すべくその余は失当として棄却すべきである。従つて原判決が右の限度を超えて被控訴人の本訴請求を認容したのは不相当であつて、控訴人の本件控訴は一部理由があるから、民事訴訟法第三八六条によつて控訴人の敗訴部分を変更し、被控訴人の附帯控訴は理由がないから同法第三八四条によつてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき同法第九六条、第八九条、第九二条、第九五条を適用して主文のと 第三八六条によつて控訴人の敗訴部分を変更し、被控訴人の附帯控訴は理由がないから同法第三八四条によつてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき同法第九六条、第八九条、第九二条、第九五条を適用して主文のとおり判決する。 (裁判長判事田中正雄判事神戸敬太郎判事平峯隆)

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