- 1 - 主文 原判決中被上告人の請求を認容した部分を破棄する。 前項の部分につき,第1審判決を取り消し,被上告人の訴えを却下する。 その余の本件上告を棄却する。 訴訟の総費用は被上告人の負担とする。 理由 1 本件は,長野県南安曇郡三郷村及び合併により同村を承継した同県安曇野市(以下「市」という。)が,同村が過半を出資して設立された株式会社に融資した複数の金融機関等との間で,上記融資によって上記金融機関等に生ずべき損失を補償する旨の契約(以下「本件各契約」という。)を締結したことにつき,市の住民である被上告人が,本件各契約は「法人に対する政府の財政援助の制限に関する法律」(以下「財政援助制限法」という。)3条に違反して無効であると主張して,上告人に対し,地方自治法242条の2第1項1号等に基づき,本件各契約に基づく上記金融機関等への公金の支出の差止め等を求める事案である。なお,上記金融機関等のうちA農業協同組合は,当審において上告人を補助するため訴訟に参加する旨の申出をするとともに上告をしたが,後に上記申出を取り下げた。 2 上告補助参加代理人赤羽啓,同宮坂希の上告理由について民事事件について最高裁判所に上告をすることが許されるのは,民訴法312条1項又は2項所定の場合に限られるところ,本件上告理由は,違憲をいうが,その実質は単なる法令違反を主張するものであって,上記各項に規定する事由に該当しない。 - 2 - 3 職権による検討記録によれば,上記株式会社は原判決言渡し後に清算手続に移行しており,当該手続において,同社の債務のうち市が本件各契約によって損失の補償を約していた部分については,既に上記金融機関等に全額弁済されたことが認められるから 式会社は原判決言渡し後に清算手続に移行しており,当該手続において,同社の債務のうち市が本件各契約によって損失の補償を約していた部分については,既に上記金融機関等に全額弁済されたことが認められるから,市が将来において本件各契約に基づき上記金融機関等に対し公金を支出することとなる蓋然性は存しない。そうすると,本件においては,地方自治法242条の2第1項1号に基づく差止めの対象となる行為が行われることが相当の確実さをもって予測されるとはいえないことが明らかである。 したがって,被上告人が上告人に対し本件各契約に基づく上記金融機関等への公金の支出の差止めを求める訴えは,不適法というべきである。上記訴えに係る請求につき本案の判断をした原判決は失当であることに帰するから,原判決中同請求に係る部分を破棄し,同部分につき第1審判決を取り消し,上記訴えを却下すべきである。そして,上記訴えは,不適法でその不備を補正することができないものであるから,当裁判所は,口頭弁論を経ないで上記の判決をすることとする。他方,その余の本件上告は上記2の理由により棄却すべきである。 4 なお,付言するに,地方公共団体が法人の事業に関して当該法人の債権者との間で締結した損失補償契約について,財政援助制限法3条の規定の類推適用によって直ちに違法,無効となる場合があると解することは,公法上の規制法規としての当該規定の性質,地方自治法等における保証と損失補償の法文上の区別を踏まえた当該規定の文言の文理,保証と損失補償を各別に規律の対象とする財政援助制限法及び地方財政法など関係法律の立法又は改正の経緯,地方自治の本旨に沿った議会による公益性の審査の意義及び性格,同条ただし書所定の総務大臣の指定の要否- 3 -を含む当該規定の適用範囲の明確性の要請等に照らすと,相当ではないと 立法又は改正の経緯,地方自治の本旨に沿った議会による公益性の審査の意義及び性格,同条ただし書所定の総務大臣の指定の要否- 3 -を含む当該規定の適用範囲の明確性の要請等に照らすと,相当ではないというべきである。上記損失補償契約の適法性及び有効性は,地方自治法232条の2の規定の趣旨等に鑑み,当該契約の締結に係る公益上の必要性に関する当該地方公共団体の執行機関の判断にその裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があったか否かによって決せられるべきものと解するのが相当である。 5 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官宮川光治の補足意見がある。 裁判官宮川光治の補足意見は,次のとおりである。 財政援助制限法3条は,戦前の特殊会社に対する債務保証により国庫が膨大な負担を招いたという反省から,「未必の債務」や「不確定の債務」の負担を制限するため,保証(民法446条以下)という契約類型に限って,政府又は地方公共団体が会社その他の法人の債務を負うことを禁止する規定と理解すべきものである。立法者が保証と損失補償を区別していたことは,財政援助制限法制定の翌年である昭和22年に制定された地方自治法199条7項が監査委員の監査権限の対象として前段で損失補償を掲げ,後段で保証を掲げ,同法221条3項では普通地方公共団体の長が調査等をすることができる債務を負担している法人について保証と損失補償を掲げていること等からも明瞭である。そして,両規定は,地方公共団体が会社その他法人のために損失補償契約を締結し債務を負担することを予定しているとみることができる。確かに,損失補償契約は,附従性や補充性がないばかりか当然には求償や代位ができないのであるから,かえって保証責任よりも責任が過重になるという場合があり得るが,他方,保証債務は主債務と ることができる。確かに,損失補償契約は,附従性や補充性がないばかりか当然には求償や代位ができないのであるから,かえって保証責任よりも責任が過重になるという場合があり得るが,他方,保証債務は主債務と同一性を有するので利息・違約金・損害賠償債務等を含むが,損失補償契約では損失負担の範囲を限定すること- 4 -が可能である。そもそも,財政援助制限法3条はGHQの指令に基づいて緊急的に立法されたものであるところ,その後,国及び地方公共団体について個別の立法により保証契約の禁止が少なからず解除されてきており,後述の行政手法が一般化したこともあって,同条の存在意義は薄らいでいる。このような立法の経緯とその後の状況の下で,今日,公法上の規制法規(法人の経済的行為に対する禁止規範)である同条の適用範囲を類推解釈によって拡大することには相当に疑問があるといえよう。以上のとおり,損失補償契約について同条の規定を類推適用することは,同条本文による禁止の有無に係る実体的観点からの問題があるのみならず,同条ただし書所定の総務大臣の指定の要否に係る手続的観点からも,同条の適用範囲について明確性を欠くこととなるという問題があると思われる。 基本的には,地域における政策決定とそこにおける経済的活動に関する事柄は,地方議会によって個別にチェックされるべきものであり,金融機関もそれを信頼して行動しているものと考えられる。保証以外の債務負担行為をどこまで規制するかは,そうした地方自治の本旨を踏まえた立法政策の問題であるというべきであろう。 損失補償については財政援助制限法3条の規制するところではないとした昭和29年の行政実例(昭和29年5月12日付け自丁行発第65号自治省行政課長による回答)以降,地方公共団体が金融機関と損失補償契約を締結し信用補完を行うことで金 3条の規制するところではないとした昭和29年の行政実例(昭和29年5月12日付け自丁行発第65号自治省行政課長による回答)以降,地方公共団体が金融機関と損失補償契約を締結し信用補完を行うことで金融機関がいわゆる第三セクターに融資するということが広く行われ,地方公共団体も金融機関もそうした行為が財政援助制限法3条の趣旨に反するという認識はなく,今日に至っていると思われる。第三セクターには様々な問題があり,抜本的改革を推進しなければならないが,平成21年法律第10号による改正において- 5 -地方財政法33条の5の7第1項4号が創設され,地方公共団体が負担する必要のある損失補償に係る経費等を対象とする地方債(改革推進債)の発行が平成25年度までの時限付きで認められるなど,その改革作業も地方公共団体の金融機関に対する損失補償が財政援助制限法3条の趣旨に反するものではないことが前提となっていると考えられる。この問題の判断に当たっては,法的安定性・取引の安全とともに上記の改革作業の進捗に対し配慮することも求められているといえよう。 原審認定事実及び記録からうかがわれる事情によれば,本件損失補償契約は,平成15年,三郷村において農業活性化と就労機会の創造を目的としたトマト栽培施設整備事業が開始され,その施設の指定管理者である第三セクターに融資した金融機関等との間で,村議会の議決を経て締結されたのであるが,実際に三郷村に一定の雇用をもたらしている。このような事実関係の下では,本件損失補償契約を締結した当時の三郷村村長の判断に,その裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があったか否かは,それが「公益上必要がある場合」(地方自治法232条の2参照)に当たるか否かという観点から決せられることとなるのであり,本件では,そもそも違法であることをうかがわせる要素 その濫用があったか否かは,それが「公益上必要がある場合」(地方自治法232条の2参照)に当たるか否かという観点から決せられることとなるのであり,本件では,そもそも違法であることをうかがわせる要素は特段見当たらないと思われる。 (裁判長裁判官白木勇裁判官宮川光治裁判官櫻井龍子裁判官金築誠志裁判官横田尤孝)
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