平成24(ネ)10062 意匠権侵害差止等請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成24年12月5日 知的財産高等裁判所 4部 判決 控訴棄却 東京地方裁判所 平成23(ワ)10705
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判決文本文23,225 文字)

平成24年12月5日判決言渡同日原本受領裁判所書記官平成24年(ネ)第10062号意匠権侵害差止等請求控訴事件原審・東京地方裁判所平成23年(ワ)第10705号口頭弁論終結日平成24年11月14日判決控訴人株式会社ユニックス同訴訟代理人弁護士山 﨑 司平柳楽久司正岡有希子星晶広同補佐人弁理士大竹正悟武田寧司被控訴人西邦工業株式会社同訴訟代理人弁護士冨永博之 主文 本件控訴を棄却する。 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は,原判決別紙物件目録記載1及び2の換気口を製造,販売してはならない。 3 被控訴人は,その占有に係る前項の換気口及びその半製品を廃棄せよ。 4 被控訴人は,控訴人に対し,4200万円及びこれに対する平成23年4月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 5 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。 6 仮執行宣言第2 事案の概要 1 本件は,換気口の意匠権を有する控訴人が,被控訴人が原判決別紙物件目録記載1及び同2の換気口(以下,「被告製品1」及び「被告製品2」といい,これらを併せて「被告製品」という。)を製造・販売する行為が控訴人の意匠権を侵害すると主張して,被控訴人に対し,意匠法37条1項に基づく被告製品の製造販売の差止め並びに同条2項に基づく被告製品及びその半製品の廃棄を求めるとともに,不法行為に基づく損害賠償として4200万円及びこれに対する不法行 控訴人に対し,意匠法37条1項に基づく被告製品の製造販売の差止め並びに同条2項に基づく被告製品及びその半製品の廃棄を求めるとともに,不法行為に基づく損害賠償として4200万円及びこれに対する不法行為の後である平成23年4月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 原判決は,被告製品の意匠が控訴人が意匠権を有する換気口の意匠に類似するものとは認められないとして,控訴人の請求をいずれも棄却した。 そこで,控訴人は原判決を不服として控訴した。 2 前提となる事実(証拠を掲記するほかは,当事者間に争いがない。)(1) 当事者控訴人は,住宅,工場,事務所等の換気口,吸音材等の製造販売等を目的とする株式会社である。 被控訴人は,空調機器,冷暖房機器の製造販売等を目的とする株式会社である。 (2) 控訴人の意匠権ア控訴人は,次の登録意匠(以下「本件意匠A」という。)に係る意匠権を有している。 登録番号:第1222958号出願日:平成15年12月8日登録日:平成16年10月1日意匠に係る物品:換気口登録意匠:原判決別紙A意匠公報のとおり イ控訴人は,本件意匠Aを本意匠とする関連意匠として,次の登録意匠(以下「本件意匠B」という。)に係る意匠権を有している。 登録番号:第1223069号出願日:平成15年12月8日登録日:平成16年10月1日意匠に係る物品:換気口登録意匠:原判決別紙B意匠公報のとおりウ控訴人は,本件意匠Aを本意匠とする関連意匠として,次の登録意匠(以下「本件意匠C」といい,本件意匠A及び同Bと併せて,「本件各意匠」という。)に係る意匠権(以下,前記ア及びイに記載の各意匠権と併せて,「本件各意匠権」という。)を有している。 登録番 録意匠(以下「本件意匠C」といい,本件意匠A及び同Bと併せて,「本件各意匠」という。)に係る意匠権(以下,前記ア及びイに記載の各意匠権と併せて,「本件各意匠権」という。)を有している。 登録番号:第1223070号出願日:平成15年12月8日登録日:平成16年10月1日意匠に係る物品:換気口登録意匠:原判決別紙C意匠公報のとおり(3) 本件各意匠の構成ア本件意匠Aの構成は,原判決別紙「本件意匠Aの説明書」の「(1)構成」に記載のとおりである(なお,本件意匠Aの基本的構成態様及び具体的構成態様の各構成は,同説明書記載の符号に従い,「構成ア」のようにいう。)。 イ本件意匠Bの構成は,原判決別紙「本件意匠Bの説明書」の「(1)構成」に記載のとおりである(なお,本件意匠Bの基本的構成態様及び具体的構成態様の各構成は,同説明書記載の符号に従い,「構成ア」のようにいう。)。本件意匠Bの構成アないしシは,本件意匠Aの構成アないしシと同一であり,その構成セ及びソが本件意匠Aの構成スと異なる。 ウ本件意匠Cの構成は,原判決別紙「本件意匠Cの説明書」の「(1)構成」に記 載のとおりである(なお,本件意匠Cの基本的構成態様及び具体的構成態様の各構成は,同説明書記載の符号に従い,「構成ア」のようにいう。)。本件意匠Cの構成アないしシは,本件意匠Aの構成アないしシと同一であり,その構成タ及びチが本件意匠Aの構成スと異なる。 (4) 被控訴人は,遅くとも平成17年10月から現在に至るまで,業として,被告製品を製造販売している。 (5) 被告製品は,換気口であり,本件各意匠に係る物品と同一である。被控訴人製品の意匠(以下「被告意匠」という。)は,原判決別紙被告意匠目録記載のとおりであり,その構成は,構成nの「7本」を「7本又は ) 被告製品は,換気口であり,本件各意匠に係る物品と同一である。被控訴人製品の意匠(以下「被告意匠」という。)は,原判決別紙被告意匠目録記載のとおりであり,その構成は,構成nの「7本」を「7本又は9本」と改める(甲28)ほかは,原判決別紙「被告意匠の説明書」の「(1)構成」に記載のとおりである(なお,被告意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様の各構成は,同説明書記載の符号に従い,「構成a」のようにいう。ただし,控訴人は,構成bの「該差込筒部前端に設けられた外向きのフランジ部でリベット止めされた円板部からなる」及び構成eの「前方にやや突出しているため,正面視において前面筒状部の外形線を示す円の内側に水溜め部の外形線の円弧が現れる「円の下20パーセントの円弧と円弧の両端を結ぶ弦からなる形状」(以下この形状を「弓状」という。)」は,いずれも基本的構成態様ではなく,具体的構成態様に分類すべきものであると主張する。)。被告製品1及び同2の各製品の違いは,被告製品2の内部にはドレンコップと称する水溜め用のシリコーンゴム製の容器が収納されていることであり,両製品の外観から把握できる意匠は同一である。 3 争点(1) 本件各意匠と被告意匠の類否(争点1)(2) 本件各意匠に係る意匠登録は意匠登録無効審判により無効にされるべきものと認められるか(争点2)(3) 控訴人の損害(争点3)第3 当事者の主張 1 当事者の主張は,後記2に付加するほか,原判決「事実及び理由」の第2の3に記載のとおりであるから,これを引用する。 2 当審における主張(争点1について)〔控訴人の主張〕(1) ガラリ部と水溜め部との構成比率についてア原判決は,「前面カバーのガラリ部が前面筒状部の前端面の上から約7/10の高さを占め,上部ガラリ部の 張(争点1について)〔控訴人の主張〕(1) ガラリ部と水溜め部との構成比率についてア原判決は,「前面カバーのガラリ部が前面筒状部の前端面の上から約7/10の高さを占め,上部ガラリ部の下側に略半円板状の水溜め部が残余の約3/10の高さを占めるように形成されている構成」を本件各意匠の要部と認定した上で,「ガラリ部と水溜め部との割合が,本件各意匠では約7対3であるのに対し,被告意匠では8対2であること」において「大きく相違する」と判示する。 イ原判決が本件各意匠の要部として,ガラリ部と水溜め部との前記構成比率に着目したのは,本件各意匠と本件公知意匠(乙1)とを対比したことによる。しかしながら,本件各意匠は,上側に縦ガラリのガラリ部を有し,下側に水溜め部を有する一方,本件公知意匠は,前面カバーの上部に葉脈状のガラリ部を有し,下側に水溜め部を有するものであるから,本件公知意匠は,あくまでも「葉脈状のガラリ部」を開示しているのであって,両者を対比して,公知意匠に対して新しい創作上の美感を生じる構成態様を意匠の要部ととらえると,本件各意匠の要部は,「前面カバーが,その上側に縦ガラリのガラリ部を有し,その下側に水溜め部を有する基本的な構成」にあるということができる。原判決が要部とするガラリ部と水溜め部との構成比率は,公知意匠が上側に縦ガラリのガラリ部があり,下側に水溜め部を有する前面カバーの基本的構成態様を開示している場合に,要部か否かが検討されるべきものである。 したがって,本件各意匠の要部として,ガラリ部と水溜め部との構成比率を約7対3として認定すること自体が誤りである。 ウ仮に,上記構成比率が本件各意匠の要部になるとしても,換気口の分野では,建物のダクトの径に合わせて換気口のサイズが選択されるため,1つのモデルに複 として認定すること自体が誤りである。 ウ仮に,上記構成比率が本件各意匠の要部になるとしても,換気口の分野では,建物のダクトの径に合わせて換気口のサイズが選択されるため,1つのモデルに複 数のサイズが用意されるのが通常であり(甲7~16),サイズに応じてガラリ部のガラリ桟の本数及びガラリ部と水溜め部との面積比率は,変わってくる。例えば,本件意匠B及びCの実施品では,上記構成比率がサイズに応じて「7.97対2. 03」ないし「8.16対1.84」と異なるし(甲27,28),被控訴人製品でも同じく「7.97対2.03」ないし「8.50対1.50」と異なる(甲9,28)。しかるところ,換気口の分野においては,同一モデルのサイズの違いごとに意匠登録をする例は,皆無であって,ガラリ桟の本数やガラリ部の構成比率が異なるサイズ違いの製品については,いずれも1つの意匠権でカバーされている。換気口のサイズは,ダクトの太さに合わせて選択されるのであるが,サイズの違いから別の美感を受け取る需要者はどこにもなく,単に「同じデザインのサイズ違い」と認識されている。すなわち,換気口の分野では,前面カバーの50%を水溜め部にしたような意匠は格別,20%と30%という程度の違いであれば,見た目の印象は,変わらず,別異の意匠とはなり得ない。したがって,原判決が判示するような,「ガラリ部と水溜め部との割合が,本件各意匠では約7対3であるのに対し,被告意匠では約8対2であること」において「大きく相違する」などということは,当業者の常識から明らかに逸脱した,非類似との結論ありきの過大評価であって,当業者の間ではあり得ない。 (2) ガラリ桟の本数及び方向についてア原判決は,「ガラリ部には,縦方向に伸長し列方向で並列に整列する10本のガラリ桟が形成され(縦ガラリ) の過大評価であって,当業者の間ではあり得ない。 (2) ガラリ桟の本数及び方向についてア原判決は,「ガラリ部には,縦方向に伸長し列方向で並列に整列する10本のガラリ桟が形成され(縦ガラリ)」との点を本件各意匠の要部と認定した上で,「本件各意匠は,10本のガラリ桟から成る縦ガラリであるのに対し,被告意匠は,7本のガラリ桟から成る横ガラリである」点で「大きく相違する」ものであって,「むしろ縦ガラリか横ガラリかの相違によって,看者に対し異なった美感を与えるというべきである」とする。 イしかしながら,ガラリ桟が葉脈状の本件公知意匠(乙1)及び前面カバーに水溜め部がなく,その全面に縦ガラリを掛け渡した公知意匠(乙5)との対比にお いて本件各意匠の要部を認定するに当たり,ガラリ桟の具体的本数まで要部に含めなければならない理由はなく,ガラリ桟の本数は,上側に縦ガラリのガラリ部があり,下側に水溜め部を有する前面カバーの基本的構成態様が公知意匠として開示されている場合に検討すべきものである。そもそも,公知意匠(乙5)では,同一製品の説明においてガラリ桟が10本のもの(製品写真)と7本のもの(図面)が開示されているから,原判決は,公知意匠との対比が正しくされていない。また,前記のとおり,換気口の分野では同一モデルに複数のサイズが用意されるのが通常であるところ,例えば本件意匠Bの実施品は,サイズによってガラリ桟が8本のものや11本のものもあるから,換気口の分野においてガラリ桟の本数が意匠の要部に含まれることになれば,同一モデルのサイズ違いの製品がことごとく意匠の要部を異にする製品であるという非常識な結論に至ってしまう。 以上のとおり,本件各意匠の要部に「10本」というガラリ桟の本数を盛り込んだ原判決の認定には重大な誤りがある。 ウ次に とごとく意匠の要部を異にする製品であるという非常識な結論に至ってしまう。 以上のとおり,本件各意匠の要部に「10本」というガラリ桟の本数を盛り込んだ原判決の認定には重大な誤りがある。 ウ次に,実際に建物に設置される換気口のガラリの向きは,吹き出させたい風の方向によって選択されるから,換気口メーカーは,1つの建物について全体の意匠的統一感を損なわないように,同一モデルに縦ガラリと横ガラリの製品を用意してカタログ上はセットで紹介し,顧客に選択させるというのが換気口の分野での常識であるし(甲7,8,10,13。以下,枝番の記載を省略する。),実際の納入事例においても,1つの建物に縦ガラリと横ガラリの製品が納入されるのが通常である(甲29~35)。すなわち,当業者は,縦ガラリと横ガラリとは,風の吹き出し方向という機能的な理由に基づく違いにすぎず,デザインとしては同一のものとして受け止めているから,原判決の言うような「縦ガラリか横ガラリかの相違によって,看者に対し異なった印象を与える」ということはあり得ず,だからこそ特許庁は,本件各意匠のガラリ部を横ガラリにした意匠については拒絶査定をしたのである(甲17)。 (3) 水溜め部の突出について ア原判決は,「上部ガラリ部の下側に,前面筒状部の前端面の他の部分と同一の平面上に略半円板状の水溜め部が残余の約3/10の高さを占めるように形成されている」ことを本件各意匠の要部と認定した上で,「略半円板状(弓状)の水溜め部が,本件各意匠では前面筒状部の前端面の他の部分と同一の平面上に形成されているのに対し,被告意匠では前面筒状部の前端面の他の部分から前方にやや突出して形成されている」点において,本件各意匠と被告意匠とが「大きく異なる」とする。 イしかしながら,水溜め部が他の部分と「同一の のに対し,被告意匠では前面筒状部の前端面の他の部分から前方にやや突出して形成されている」点において,本件各意匠と被告意匠とが「大きく異なる」とする。 イしかしながら,水溜め部が他の部分と「同一の平面上」に形成されていることは,本件公知意匠(乙1)でも同じであるのに,本件各意匠ではこれが要部として認定しなければならないのか,全く意味不明である。原判決には,本件各意匠の要部の認定に重大な誤りがあるといわざるを得ない。 ウ原判決は,水溜め部がやや突出して形成されている点において本件各意匠と被告意匠とが大きく異なると述べるだけで,理由を何も示していないばかりか,正面から見た前面側の部分を要部として認定するといいながら,真横から見なければ認識することが難しい水溜め部の僅かな突出を以て大きな相違としているのであるから,明らかな論理矛盾を示している。加えて,原判決は,控訴人が原審で指摘した「前面カバーの水溜め部の突出のある意匠とない意匠とが関連意匠として登録されている例」(甲22)及びこのような突出の有無は関連意匠として登録される範囲内の差異であって,意匠の要部を異にする差異であるとはされていないとの点については何ら考察を加えておらず,初めから控訴人の請求を棄却することだけを目的として,理由も付さずに「似ていない」と述べているのである。 (4) 以上のとおり,原判決は,要部の認定及び評価にいずれも誤りがあり,破棄を免れない。 〔被控訴人の主張〕(1) ガラリ部と水溜め部との構成比率についてア本件公知意匠(乙1)のガラリ部は,葉脈状であってもガラリ部であることに変わりはなく,正面から見ると,ガラリ桟の占める面積割合は,ごく小さいため, ほとんどが開口部であるガラリ部と密閉されている水溜め部とは好対照をなし,その構成比率の相違がは ラリ部であることに変わりはなく,正面から見ると,ガラリ桟の占める面積割合は,ごく小さいため, ほとんどが開口部であるガラリ部と密閉されている水溜め部とは好対照をなし,その構成比率の相違がはっきりと認識される。そして,本件各意匠(約7対3)及び本件公知意匠(乙1。約8対2)のガラリ部及び水溜め部との構成比率の間の相違から本件各意匠の要部を認定した原判決は,正当である。 イ控訴人は,1つの「モデル」に複数のサイズを用意するのが一般的である旨を主張するが,「同一モデル」とは,サイズも形状も同一である場合をいう以上,正しくは,1つの「シリーズ」に複数のサイズを用意するのが一般的であるというべきである。そして,換気口の分野に限らず,どの分野でも同じシリーズでサイズの違うものがいくらでもあることは,周知の事実である。 また,控訴人の製品においても,サイズが大きくなってもガラリ部と水溜め部との構成比率は,約8対2とほぼ変化しておらず,仮に,サイズが大きくなれば当該構成比率やガラリ桟の本数が変化するとしても,各シリーズのサイズが異なる場合のデザインは,種々の要素を考慮して決められるのであり,同一のシリーズにおいてサイズが異なると必然的に当該構成比率及びガラリ桟の本数が一定の方向に変化するとはいえない。そもそも,意匠権の範囲は,出願時の願書の記載及び願書に添付された図面により現された意匠(意匠法24条1項)に基づいて定められるのであり,また,意匠とは,物品の形状,模様,色彩又はこれらの結合であって,視覚を通じて美感を起こさせるもの(同法2条1項)であるから,需要者がその物品そのものを,商品名,形式及びシリーズ名等を度外視して見たときにどのように感じるかによって決まるものであって,控訴人の製品に基づいて美感を論じる控訴人の主張は,根拠がない。 るから,需要者がその物品そのものを,商品名,形式及びシリーズ名等を度外視して見たときにどのように感じるかによって決まるものであって,控訴人の製品に基づいて美感を論じる控訴人の主張は,根拠がない。 むしろ,本件訴訟においては,本件各意匠と被告意匠とが対比されているのであって,本件各意匠(水溜め部が約30%)と控訴人の製品(水溜め部が18.4%ないし20.3%)を対比しているのではないし,仮に本件各意匠と被告製品とを対比するにしても,被告製品で最も大きいサイズのものは,水溜め部の構成比率が15%であるから,本件各意匠とは大きく異なる。 (2) ガラリ桟の本数及び方向についてア本件各意匠の出願時の意匠図面には,10本のガラリ桟が明示されている以上,要部の認定に当たってこれを無視することはできない。 イ意匠とは,物品の形状であって,視覚を通じて美感を起こさせるものであり,縦ガラリと横ガラリとでは美感が異なることは,明らかであるから,同一シリーズの換気口が縦ガラリと横ガラリとのセットになっていたとしても,縦ガラリと横ガラリとで美感が異なることに変わりはない。 (3) 水溜め部の突出についてア原判決は,本件各意匠の水溜め部が他の部分と同一平面上にあることを認定しただけであり,それを超えて,水溜め部が他の部分と同一平面上にないものまで含んで抽象化することは,到底許されない。 イ水溜め部が前端面の他の部分と同一平面内ではなく,やや前方に突出しているのは,被告意匠の特徴的構成であり,それにより水溜め部に蓄えられる水の量が増える機能を備えるとともに,美観的にもその突出部分が前面端部の円のやや内側にあるため,正面から見た場合であっても,明らかにその差異を視認できるものである。 また,控訴人が指摘する関連意匠(甲22)は,他の を備えるとともに,美観的にもその突出部分が前面端部の円のやや内側にあるため,正面から見た場合であっても,明らかにその差異を視認できるものである。 また,控訴人が指摘する関連意匠(甲22)は,他の部分は全て同じで水溜め部がやや突出している部分のみが異なる意匠が関連意匠とされているのであり,原判決とは矛盾しないことが明らかである。 (4) よって,控訴人の主張は,いずれも理由がない。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(本件各意匠と被告意匠の類否)について(1) 本件各意匠の構成前提となる事実に証拠(甲2,4,6)及び弁論の全趣旨を総合すれば,本件各意匠の構成は,原判決別紙AないしCの各意匠公報のとおりであり,①本件意匠Aの構成は,構成アないしスに加えて,「前面筒状部の前端面のガラリ部の下側には, 略半円板状の水溜め部が前面筒状部の前端面の他の部分と同一の平面上に形成されている。」との構成(以下「構成ツ」という。)を有し,②本件意匠Bの構成は,構成アないしシ,セ,ソ及びツを有し,③本件意匠Cの構成は,構成アないしシ,タ,チ及びツを有することが認められる。 (2) 被告意匠の構成証拠(甲8,9,28)及び弁論の全趣旨によれば,被告意匠は,原判決別紙被告意匠目録記載のとおりであり,その構成は,構成nの「7本」を「7本又は9本」と改めるほか,構成aないしoに加えて,「前面筒状部の前端面のガラリ部の下側には,弓状の水溜め部が前面筒状部の前端面の他の部分から前方にやや突出して形成されている。」との構成(以下「構成p」という。)を有することが認められる。 (3) 本件各意匠と被告意匠との対比について本件各意匠と被告意匠とを対比すると,次の共通点及び差異点1ないし7が認められる。 ア共通点:本件各意匠の構成ア,ウ,エ及びキな とが認められる。 (3) 本件各意匠と被告意匠との対比について本件各意匠と被告意匠とを対比すると,次の共通点及び差異点1ないし7が認められる。 ア共通点:本件各意匠の構成ア,ウ,エ及びキないしケと被告意匠の構成a,c,d,g,j及びkのほか,本件各意匠の構成イ及び被告意匠の構成bのうち背面カバーが差込筒部を有するという点並びに本件各意匠の構成オ及び被告意匠の構成eのうち前面カバーが前面筒状部の前端面におけるガラリ部の下側部分を閉塞する略半円板状(弓状)の水溜め部を有するという点イ差異点1:本件各意匠は,前面カバーのガラリ部が前面筒状部の前端面の上から約7/10の高さを占めるように形成され,その下側に略半円板状の水溜め部が約3/10の高さを占めるように形成されているのに対し,被告意匠は,前面カバーのガラリ部が前面筒状部の前端面の上から約8/10の高さを占めるように形成され,その下側に弓状(略半円板状)の水溜め部が約2/10の高さを占めるように形成されている点ウ差異点2:本件各意匠は,ガラリ部が縦方向に伸長し列方向で並列に整列する10本のガラリ桟から形成されている(縦ガラリ)のに対し,被告意匠は,ガラ リ部が横方向に伸長し行方向で並列に整列する7本又は9本のガラリ桟から形成されている(横ガラリ)点エ差異点3:本件各意匠は,略半円板状の水溜め部が前面筒状部の前端面の他の部分と同一の平面上に形成されているのに対し,被告意匠は,弓状の水溜め部が前面筒状部の前端面の他の部分から前方にやや突出して形成されている点オ差異点4:本件各意匠は,背面カバーは円板形状で,前面カバーのフランジ部が外周縁に筒状縁を有しているのに対し,被告意匠は,背面カバーの円板部が筒状縁を有しており,この筒状縁の最下端に円板に平行な短い切り込 4:本件各意匠は,背面カバーは円板形状で,前面カバーのフランジ部が外周縁に筒状縁を有しているのに対し,被告意匠は,背面カバーの円板部が筒状縁を有しており,この筒状縁の最下端に円板に平行な短い切り込み部があり,前面カバーのフランジ部は,前面筒状部と同心状に斜め上後方にごく短く突出する縁を有している点カ差異点5:本件意匠Aのガラリは,左右吹き出し,本件意匠Bのガラリは,左吹き出し,本件意匠Cのガラリは,右吹き出しであるのに対し,被告意匠のガラリは,下吹き出しである点キ差異点6:被告意匠には,差込筒部の外周に3つのスプリングを有するが,本件各意匠にはこれがない点ク差異点7:被告意匠には,背面カバーの円板部の差込筒部の下側に背面視弓状の突出部を有するが,本件各意匠にはこれがない点(4) 本件各意匠の要部についてア本件各意匠は,その登録に係る物品が換気口であり,建物の外壁に設置されて使用されるものであるから,使用時においては,背面側の部分は観察されず,もっぱら正面から見た前面側の部分の形状が観察されることになる。 イ証拠(乙1,5)によれば,本件各意匠の登録の出願前において,次の各意匠が公知であったことが認められる。 (ア) 意匠登録第1176791号公報(乙1。平成15年6月23日発行)には,①建物の外壁に沿わせて設置する背面カバーと,背面カバーの前面側を覆う前面カバーとを有し,②背面カバーは,建物の外壁に開口するダクトに挿入する差込 筒部を有し,③前面カバーは,背面カバーの前方に短く突出する前面筒状部を有し,④前面カバーは,前面筒状部の前端面に通気用のガラリ部を有し,⑤前面カバーは,前面筒状部の前端面におけるガラリ部の下側部分を閉塞する略半円板状の水溜め部を同一の平面上に有し,⑥背面カバーは,円板形状であ 面カバーは,前面筒状部の前端面に通気用のガラリ部を有し,⑤前面カバーは,前面筒状部の前端面におけるガラリ部の下側部分を閉塞する略半円板状の水溜め部を同一の平面上に有し,⑥背面カバーは,円板形状であり,⑦背面カバーの差込筒部は,背面カバーよりも小径の円筒形状であり,その後端の外周縁には断面山型で二重の筒状縁があり,その筒軸は背面カバーの中心に対し上方に偏芯させて形成されており,⑧前面カバーの前面筒状部は,円筒形状であり,⑨前面カバーの前面筒状部の後端部には,背面カバーと重ね合わせて接合する外向きのフランジ部を有し,⑩前面カバーのフランジ部の外周縁には,前面筒状部と同心状として後方に短く筒状に突出する筒状縁を有し,⑪前面カバーのガラリ部は,前面筒状部の前端面の上から約8/10の高さを占めるように形成されており,ガラリ部の下側には略半円板状の水溜め部が残余の約2/10の高さを占めるように形成されており,⑫ガラリ部には,左右対称にVの字を描くように中央の縦方向に配置された1本の棒に左右各7本のガラリ桟が接合する形態で平行に形成されており,⑬ガラリ部のガラリ桟は,正面視で左右対称に形成されており,斜め下方向にやや傾斜を付けて形成されている構成を有する換気口の意匠(本件公知意匠)が記載されている(以下,本件公知意匠の構成態様の各構成は,上記の符号に従い,「構成①」のようにいう。)。 (イ) 平成11年10月の被控訴人の換気口等のカタログ(乙5)には,前記(ア)①ないし④及び⑥の各構成,⑦に係る構成のうち背面カバーの差込筒部が背面カバーよりも小径の円筒形状であり,その筒軸は背面カバーの中心に対し上方に偏芯させて形成されている点,⑧及び⑨の各構成を備えるほか,前面カバーのガラリ部には,縦方向に伸長し列方向で並列に整列する7本又は10本のガラリ桟が形成 であり,その筒軸は背面カバーの中心に対し上方に偏芯させて形成されている点,⑧及び⑨の各構成を備えるほか,前面カバーのガラリ部には,縦方向に伸長し列方向で並列に整列する7本又は10本のガラリ桟が形成されている(縦ガラリ)構成を有する換気口の意匠が記載されている。 ウ前記アの本件各意匠に係る換気口の性質,用途及び使用態様に前記イの各公知意匠の構成を併せ考慮すると,本件各意匠のうち,看者である需要者の注意を最も惹きやすい部分は,正面から見た前面側の部分であり,特に,前面カバーが前面 筒状部の前端面におけるガラリ部の下側部分を閉塞する略半円板状(弓状)の水溜め部を有するとともに,前面カバーのガラリ部が前面筒状部の前端面の上から約7/10の高さを占めるように形成され,当該ガラリ部には,縦方向に伸長し列方向で並列に整列する10本のガラリ桟が形成されている(縦ガラリ)一方,水溜め部が前面筒状部の前端面の他の部分と同一の平面上に残余の約3/10の高さを占めるように形成されている構成であり,この構成が本件各意匠の要部であると認められる。 エ控訴人の主張について(ア) 控訴人は,本件公知意匠との関係を踏まえると,本件各意匠の要部は,ガラリ部の全てのガラリ桟が一方向に直線状に伸張する形状で並列に架け渡された構成であると主張する。 しかしながら,本件公知意匠のVの字を描くように配置されたガラリ桟の構成に対して,本件各意匠のガラリ桟は,縦方向に伸長し列方向で並列に整列している(縦ガラリ)点で相違するのであるから,控訴人の上記主張のようにガラリ桟の方向を「一方向」として抽象化した構成をもって本件各意匠の要部として認定することはできない。 よって,控訴人の上記主張は,採用できない。 (イ) 控訴人は,本件公知意匠との関係ではガラリ部の態様に着 を「一方向」として抽象化した構成をもって本件各意匠の要部として認定することはできない。 よって,控訴人の上記主張は,採用できない。 (イ) 控訴人は,本件公知意匠との関係ではガラリ部の態様に着目して要部が認定されるべきであって,ガラリ部と水溜め部の存在を超えて,両者の構成比率が本件各意匠の要部とはならない旨を主張するほか,本件公知意匠との対比では水溜め部が他の部分と同一の平面上にあることが要部とはならない旨を主張する。 しかしながら,前記イに記載のとおり,本件公知意匠(乙1)に加えて,前端面に水溜め部を備えない換気口の意匠も公知(乙5)となっている以上,両者を対比すると,水溜め部の存否が需要者の注意を最も惹くことは,明らかであるところ,換気口の前端面に水溜め部が存在する場合,換気口の性質及び用途に照らせば,ガラリ部と水溜め部との構成比率に加えて,水溜め部の構成形態が需要者の視覚を通 じて起こさせる美感に影響を与えることもまた,明らかである。 したがって,前記ウに認定のとおり,ガラリ部と水溜め部との構成比率及びその構成形態も,本件各意匠の需要者の注意を最も惹く部分である本件各意匠の要部であるというべきであって,控訴人の上記主張は,採用できない。 (ウ) 控訴人は,公知意匠(乙1,5)との対比からガラリ桟の本数を要部とする理由がなく,むしろ公知意匠(乙5)及び本件意匠Bの実施品においてもガラリ桟の本数が一定ではないから,ガラリ桟の本数が本件各意匠の要部とならない旨を主張する。 なるほど,公知意匠(乙5)を含む換気口の性質及び用途に照らすと,換気口に縦方向又は横方向のガラリ桟を備える場合に,その本数は,必ずしも一定しない(本件出願日当時に公知であった換気口について,甲10~16,25,26,乙3,5参照)ものの,ガラリ桟は, らすと,換気口に縦方向又は横方向のガラリ桟を備える場合に,その本数は,必ずしも一定しない(本件出願日当時に公知であった換気口について,甲10~16,25,26,乙3,5参照)ものの,ガラリ桟は,正面から見た場合に観察の対象となる換気口の最も主要な部分を構成するものであるから,その本数それ自体もまた,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に影響を与えるものであるというべきである。そして,本件各意匠の要部は,登録意匠の願書の記載及び願書に添附した図面に記載された意匠に基づいて定めなければならないところ,原判決別紙AないしCに記載の本件各意匠の図面には,いずれも10本のガラリ桟が明記されているから,本件各意匠におけるガラリ桟の本数(10本)は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に影響を与えるものであり,需要者の注意を最も惹く部分とみるのが相当であって,控訴人の上記主張は,採用できない。 (エ) 控訴人は,前方に突き出した前面筒状部と背面カバーに対して差込筒部が上方に偏芯しているという構成が要部である旨を主張する。 しかしながら,上記構成は,前記イで認定したとおり,いずれも公知意匠で開示されている構成であるばかりか,換気口内部の構成であって,正面から見た場合に観察の対象となる前面側の部分の形状に含まれるとはいい難い。 したがって,上記構成を需要者の注意を最も惹く部分である本件各意匠の要部と して認めることはできず,控訴人の上記主張は,採用できない。 (5) 本件各意匠と被告意匠の類否についてア共通点及び差異点に係る美感について(ア) 本件各意匠と被告意匠には,前記(3)アに認定の共通点があるが,これらの共通点は,本件各意匠の構成オ及び被告意匠の構成eのうち前面カバーが前面筒状部の前端面におけるガラリ部の下側部分を閉塞する略半円 本件各意匠と被告意匠には,前記(3)アに認定の共通点があるが,これらの共通点は,本件各意匠の構成オ及び被告意匠の構成eのうち前面カバーが前面筒状部の前端面におけるガラリ部の下側部分を閉塞する略半円板状(弓状)の水溜め部を有するという点を除き,いずれも前記(4)イに認定の公知意匠(乙1,5)に認められる構成である。 (イ) 本件各意匠と被告意匠との差異点1ないし7は,前記(3)イないしクに認定のとおりであるが,そのうち,前記(4)ウに認定の本件各意匠の要部に係る差異点は,次のとおりである。 a 差異点1(ガラリ部と水溜め部との構成比率):ガラリ部と水溜め部の構成比率が,本件各意匠では約7対3であるのに対し,被告意匠では約8対2である点b 差異点2(ガラリ桟の本数及び方向):本件各意匠は10本のガラリ桟からなる縦ガラリであるのに対し,被告意匠は7本又は9本のガラリ桟からなる横ガラリである点c 差異点3(水溜め部の構成形態):略半円板状(弓状)の水溜め部が,本件各意匠では前面筒状部の前端面の他の部分と同一の平面上に形成されているのに対し,被告意匠では前面筒状部の前端面の他の部分から前方にやや突出して形成されている点(ウ) このうち,差異点1(ガラリ部と水溜め部との構成比率)及び差異点3(水溜め部の構成形態)についてみると,前記(4)エ(イ)に認定のとおり,ガラリ部と水溜め部との構成比率及び水溜め部の構成形態は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に影響を与えるものというべきである。 しかしながら,本件各意匠と被告意匠との差異点1の相違は,両者の構成比率が相対的に近似しており,また,差異点3の相違は,前端面の他の部分を構成する平 面からの突出が,被告意匠においては顕著なものではなく,他の部分を構成する平面に近接していること 両者の構成比率が相対的に近似しており,また,差異点3の相違は,前端面の他の部分を構成する平 面からの突出が,被告意匠においては顕著なものではなく,他の部分を構成する平面に近接していることから,差異点1及び同3は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に影響を与えるものの,それら自体で当該美感に大きな相違をもたらすものとまではいえない。 (エ) 差異点2(ガラリ桟の本数及び方向)についてみると,前記(4)エ(ウ)に認定のとおり,ガラリ桟の本数は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に影響を与えるものというべきである。 しかしながら,本件各意匠(10本)及び被告意匠(7本又は9本)のガラリ桟の本数は,比較的近似しているから,差異点2のうちガラリ桟の本数に係る部分は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に影響を与えるものの,それ自体で当該美感に大きな相違をもたらすものとまではいえない。 他方,差異点2のうちガラリ桟の方向についてみると,本件各意匠は,縦ガラリであるのに対して,被告意匠は,横ガラリであって,両者は,ガラリ桟の方向が全く異なるために外観を大きく異にしている。しかも,本件各意匠及び被告意匠のガラリ部は,看者である需要者の注意を最も惹きやすい部分である正面から見た前面側の部分のうちいずれも約7割ないし8割という大きな割合を占めており,縦方向又は横方向のガラリ桟は,それ自体が単純な意匠であるために看者に強い印象を与えることに加え,ガラリ桟の向きと水溜め部との組合せから生じる美感をも考慮すると,本件各意匠と被告意匠とを対比した場合に,上記の縦ガラリと横ガラリという差異点は,これが本件各意匠の具体的構成態様に係る部分であるとしても,看者に対して大きく相違する美感を与えているというべきである。 (オ) 以上のとおり,本件各意匠と被告意 縦ガラリと横ガラリという差異点は,これが本件各意匠の具体的構成態様に係る部分であるとしても,看者に対して大きく相違する美感を与えているというべきである。 (オ) 以上のとおり,本件各意匠と被告意匠とでは,特に差異点2のガラリ桟の方向に関する部分が看者に対して大きく相違する美感を与えているところ,本件各意匠と被告意匠とでは,前記(ウ)及(エ)に記載のとおり,差異点1のガラリ部と水溜め部との構成比率,差異点3の水溜め部の構成形態及び差異点2のガラリ桟の本数に関する部分は,いずれもそれら自体で当該美感に大きな相違をもたらすものと まではいえないものの,差異点2のガラリ桟の方向に関する部分と相俟って,全体として看者に対し大きく相違する美感を与えることに貢献しているものといえる。 他方,本件各意匠と被告意匠の共通点は,前記(ア)に記載のとおり,その多くが公知意匠に認められる構成であるほか,看者である需要者の注意を最も惹きやすい部分である正面から見た前面側の部分を占めるものではないから,本件各意匠の要部となるものではない。また,本件各意匠の要部であり被告意匠にも共通する水溜め部の存在も,これが基本的構成態様に係る部分であることを考慮しても,上記の差異点1ないし3から生じる全体としての美感の相違を凌駕するものとはいえない。 イ控訴人の主張について控訴人は,縦ガラリか横ガラリかの相違は,換気口の意匠の分野ではその機能に基づく極めてありふれた相違にすぎず,デザインとしては同一のものとされているから,別異の意匠的印象を発揮する要素になることはないのであって,現に本件各意匠のガラリ部を横ガラリにした意匠については拒絶査定を受けている旨を主張する。 そこで検討すると,証拠(甲8~16,乙5)によれば,換気口のカタログ類においては,換気口には であって,現に本件各意匠のガラリ部を横ガラリにした意匠については拒絶査定を受けている旨を主張する。 そこで検討すると,証拠(甲8~16,乙5)によれば,換気口のカタログ類においては,換気口には前端面が縦ガラリであるもの,横ガラリであるもの又は網状であるものなどがあるが,縦ガラリの製品と横ガラリの製品とが排気方向を異にする関連商品として並べて記載されているものも少なくない。しかしながら,縦ガラリと横ガラリの各換気口が機能に基づく相違であって,これらがいずれも換気口の意匠の分野ではありふれたものであるとしても,前記ア(エ)に説示のとおり,両者がガラリ桟の方向が全く異なるために外観を大きく異にしていることなどから看者に対して相違する美感を与える以上,このことは,本件各意匠と被告意匠との類否の判断に直ちに影響を与えるものではない。 よって,控訴人の上記主張は,採用できない。 (6) 小括以上のとおり,本件各意匠の要部と被告意匠とは,差異点2のガラリ桟の方向に 関する部分に,差異点1のガラリ部と水溜め部との構成比率,差異点3の水溜め部の構成形態及び差異点2のガラリ桟の本数に関する部分が相俟って,全体として看者に対して大きく相違する美感を与えており,被告意匠は,本件各意匠と類似した意匠であるとは認められず,控訴人の請求には,いずれも理由がない。 2 争点2(本件各意匠に係る意匠登録は意匠登録無効審判により無効にされるべきものと認められるか)について前記のとおり,被告意匠は,本件各意匠とは類似しないから,控訴人の請求にはいずれも理由がないが,なお念のため,争点2についても以下に判断を示すこととする。 (1) 本件各意匠と本件公知意匠との共通点及び差異点について本件公知意匠(乙1)は,前記1(4)イ(ア)に記載のとおりであると いが,なお念のため,争点2についても以下に判断を示すこととする。 (1) 本件各意匠と本件公知意匠との共通点及び差異点について本件公知意匠(乙1)は,前記1(4)イ(ア)に記載のとおりであるところ,本件公知意匠と本件各意匠とを対比すると,次の共通点及び差異点AないしDが認められる。 ア共通点:本件各意匠の構成アないしカ,クないしコ及びツと前記1(4)イ(ア)に記載の本件公知意匠の構成①ないし⑥及び⑧ないし⑩のほか,本件各意匠の構成キと本件公知意匠の構成⑦のうち背面カバーの差込筒部が背面カバーよりも小径の円筒形状であり,その筒軸は背面カバーの中心に対し上方に偏芯させて形成されている点及び本件各意匠の構成サと本件公知意匠の構成⑪のうち前面カバーのガラリ部の下側には略半円板状の水溜め部を有する点イ差異点A(ガラリ部と水溜め部との構成比率):本件各意匠は,前面カバー部のガラリ部が前面筒状部の前端面の上から約7/10の高さを占め,下側には水溜め部が残余の約3/10の高さを占めるように形成されているのに対し,本件公知意匠は,前面カバー部のガラリ部が前面筒状部の前端面の上から約8/10の高さを占め,下側には水溜め部が残余の約2/10の高さを占めるように形成されている点ウ差異点B(ガラリ部の形状):本件各意匠のガラリ部は,縦方向に伸長し列方 向で並列に整列する10本のガラリ桟が形成されている(縦ガラリ)のに対し,本件公知意匠のガラリ部は,左右対称にVの字を描くように中央の縦方向に配置された1本の棒に左右各7本のガラリ桟が接合する形態で平行に形成されている点エ差異点C(ガラリ桟の傾斜):本件意匠Aのガラリ桟は,左右吹き出し,本件意匠Bのガラリ桟は,左吹き出し,本件意匠Cのガラリ桟は,右吹き出しであるのに対し,本件公知意匠 で平行に形成されている点エ差異点C(ガラリ桟の傾斜):本件意匠Aのガラリ桟は,左右吹き出し,本件意匠Bのガラリ桟は,左吹き出し,本件意匠Cのガラリ桟は,右吹き出しであるのに対し,本件公知意匠のガラリ桟は,いずれも斜め下方向にやや傾斜を付けて形成されている点オ差異点D(背面カバーの差込筒部の筒状縁):本件公知意匠の背面カバーの差込筒部後端の外周縁には断面山型で二重の筒状縁があるのに対し,本件各意匠にはこれに相当するものがない点(2) 本件公知意匠の要部についてア本件公知意匠は,換気口であり,建物の外壁に設置されて使用されるものであるから,使用時においては,背面側の部分は観察されず,もっぱら正面から見た前面側の部分の形状が観察されることになる。 イ前記アの本件公知意匠に係る換気口の性質,用途及び使用態様に前記1(4)イ(イ)に認定の公知意匠(乙5)の構成を併せ考慮すると,本件公知意匠のうち,看者である需要者の注意を最も惹きやすい部分は,正面から見た前面側の部分であり,特に,前面カバーが前面筒状部の前端面におけるガラリ部の下側部分を閉塞する略半円板状の水溜め部を有するとともに,前面カバーのガラリ部が前面筒状部の前端面の上から約8/10の高さを占めるように形成され,当該ガラリ部には,左右対称にVの字を描くように中央の縦方向に配置された1本の棒に左右各7本のガラリ桟が接合する形態で平行に形成されている一方,水溜め部が前面筒状部の前端面の残余の約2/10の高さを占めるように形成されている構成であり,この構成が本件公知意匠の要部であると認められる。 (3) 本件各意匠の新規性についてア本件公知意匠と本件各意匠には,前記(1)アに認定の共通点があるが,これら の共通点は,本件公知意匠の構成⑤と本件各意匠の構成オ及び と認められる。 (3) 本件各意匠の新規性についてア本件公知意匠と本件各意匠には,前記(1)アに認定の共通点があるが,これら の共通点は,本件公知意匠の構成⑤と本件各意匠の構成オ及びツに係る点(前面カバーは,前面筒状部の前端面におけるガラリ部の下側部分を閉塞する略半円板状の水溜め部を同一の平面上に有する点)並びに本件公知意匠の構成⑩と本件各意匠の構成コに係る点(前面カバーのフランジ部の外周縁には,前面筒状部と同心状として公報に短く筒状に突出する筒状縁を有する点)を除き,いずれも前記1(4)イ(イ)に認定の公知意匠(乙5)に認められる構成である。 イ本件公知意匠と本件各意匠との差異点AないしDは,前記(1)イないしオに認定のとおりであるが,そのうち,前記(2)イに認定の本件公知意匠の要部に係る差異点は,差異点AないしCである。 ウ差異点A(ガラリ部と水溜め部の構成比率)について差異点Aは,ガラリ部と水溜め部との構成比率に係るものであるが,本件出願日当時において,前端面に水溜め部を備えない換気口の意匠も公知(乙5)となっている以上,水溜め部の存否が需要者の注意を最も惹くことは,明らかであり,換気口の前端面に水溜め部が存在する場合,換気口の性質及び用途に照らせば,ガラリ部と水溜め部との構成比率が需要者の視覚を通じて起こさせる美感に影響を与えることは,明らかである。 しかしながら,本件公知意匠と本件各意匠との差異点Aの相違は,両者の構成比率が相対的に近似していることから,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に影響を与えるものの,それ自体で当該美感に大きな相違をもたらすものとまではいえない。 エ差異点C(ガラリ桟の傾斜)について差異点Cは,ガラリ桟の傾斜に係るものであるが,ガラリ桟の傾斜は,前面端から換気口の内部に それ自体で当該美感に大きな相違をもたらすものとまではいえない。 エ差異点C(ガラリ桟の傾斜)について差異点Cは,ガラリ桟の傾斜に係るものであるが,ガラリ桟の傾斜は,前面端から換気口の内部に入った部分の構成であって,正面から見た場合に必ずしも識別が容易ではないことから,看者の美感に与える影響も,ごく限定的なものである。しかも,本件出願日当時に公知であったカタログ類(甲12~16)によれば,換気口のガラリ桟は,排気を的確に行うという用途に照らして,その風向を調節するた めに一定の傾斜を付するのが通常でありふれたものであると認められるから,本件公知意匠と本件各意匠との差異点Cの相違は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に影響を与えるものの,その影響が限定的であるというべきである。 オ差異点B(ガラリ部の形状)について(ア) 差異点Bは,ガラリ部の形状に係るものであるが,ガラリ部は,換気口の最も主要な部分を構成するものであるから,その形状が需要者の視覚を通じて起こさせる美感に影響を与えることは,明らかである。 すなわち,本件公知意匠及び本件各意匠のガラリ部は,看者である需要者の注意を最も惹きやすい部分である正面から見た前面側の部分のうちいずれも約7割ないし8割という大きな割合を占めているところ,本件公知意匠では,ガラリ桟が左右対称のVの字を描くように中央の縦方向に配置された1本の棒に左右各7本のガラリ桟が接合する形態で平行に形成されている点で,本件各意匠の縦ガラリに比較して複雑で特有な構成を備えている。そのため,本件公知意匠と本件各意匠とでは,ガラリ部の形状が全く異なり,外観を大きく異にしていると認められるから,差異点Bは,看者に対して大きく相違する美感を与えているといえる。 (イ) なお,この点に関し,被控訴人は,公知 各意匠とでは,ガラリ部の形状が全く異なり,外観を大きく異にしていると認められるから,差異点Bは,看者に対して大きく相違する美感を与えているといえる。 (イ) なお,この点に関し,被控訴人は,公知意匠(甲10~16)には縦ガラリ及び横ガラリが周知のありふれた形態として示されているから,本件公知意匠のガラリ部と本件各意匠の縦ガラリが類似すると主張する。 しかしながら,本件公知意匠のガラリ部の形状は,本件各意匠の縦ガラリに比較して複雑で特有な構成である以上,縦ガラリ及び横ガラリが周知のありふれた形態であるとしても,本件公知意匠のガラリ部が縦ガラリを採用する本件各意匠と類似しているということはできない。 よって,被控訴人の上記主張は,採用できない。 カ本件公知意匠と本件各意匠との類否について以上のとおり,本件公知意匠と本件各意匠とでは,特に差異点Bのガラリ部の形状が看者に対して大きく相違する美感を与えているところ,本件公知意匠と本件意 匠とでは,前記ウに記載のとおり,差異点Aのガラリ部と水溜め部との構成比率は,それ自体で当該美感に大きな相違をもたらすものとまではいえないものの,差異点Bのガラリ部の形状と相俟って,全体として看者に対し大きく相違する美感を与えることに貢献しているものといえる。 他方,本件公知意匠及び本件各意匠には,前記(1)アに認定の共通点があるが,これらの共通点の多くは,前記1(4)イ(イ)に認定の公知意匠(乙5)に認められる構成であるか,看者である需要者の注意を最も惹きやすい部分である正面から見た前面側の部分を占めるものではないから,本件公知意匠の要部となるものではない。 また,本件公知意匠の要部と認められ,本件各意匠にも共通する水溜め部の存在も,これが基本的構成態様に係る部分であることを考慮しても,上記の差 るものではないから,本件公知意匠の要部となるものではない。 また,本件公知意匠の要部と認められ,本件各意匠にも共通する水溜め部の存在も,これが基本的構成態様に係る部分であることを考慮しても,上記の差異点A及び同Bから生じる全体としての美感の相違を凌駕するものとはいえない。 キ小括よって,本件公知意匠と本件各意匠とは,差異点Bのガラリ部の形状に,差異点Aのガラリ部と水溜め部との構成比率が相俟って,全体として看者に対し大きく相違する美感を与えており,本件各意匠は,本件公知意匠と類似した意匠であるとは認められない。 (4) 本件各意匠の容易創作性について本件公知意匠と本件各意匠との差異点AないしDは,前記(1)イないしオに認定のとおりであるが,その容易創作性について検討すると,次のとおりである。 ア差異点A(ガラリ部と水溜め部との構成比率)の容易創作性について差異点Aは,ガラリ部と水溜め部との構成比率の相違に係るものであるが,両者の構成比率が相対的に近似していることに加えて,水溜め部の形状も共通していることに照らすと,本件各意匠の差異点Aに係る構成は,本件公知意匠のガラリ部と水溜め部の構成比率を当業者にとってありふれた手法で変更したものにすぎず,当業者は,本件公知意匠に基づき,当該構成を容易に創作することができたものと認められる。 イ差異点B(ガラリ部の形状)の容易創作性について(ア) 差異点Bは,ガラリ部の形状の相違に係るものであるが,ガラリ桟が縦ガラリである換気口は,本件出願日当時,多くのカタログ類や複数の意匠公報に多数のものが広く記載されており,そのガラリ桟の本数も,おおむね5本ないし10本であり,特に7本ないし10本のものが多くみられる(甲10~16,25,26,乙5)ことに照らすと,本件各意匠のガラリ 多数のものが広く記載されており,そのガラリ桟の本数も,おおむね5本ないし10本であり,特に7本ないし10本のものが多くみられる(甲10~16,25,26,乙5)ことに照らすと,本件各意匠のガラリ部の形状は,これらのごく一般的な意匠を採用したものであって,当業者に周知であったものと認められる。したがって,本件各意匠の差異点Bに係る構成は,本件公知意匠のガラリ部の形状を当業者にとってありふれた手法により他の公然知られた意匠に置き換えて構成したにすぎないものと認められる。 (イ) なお,この点に関し,控訴人は,差異点Bに係る相違が,本件公知意匠と本件各意匠とで大きく異なる印象を与えるほか,他の公知意匠(乙3)の縦ガラリを横ガラリに変更し,さらにこれを本件公知意匠に組み合わせるという多段階の創作行為を経なければ本件各意匠の縦ガラリに到達しないから,創作が容易ではない旨を主張する。 しかしながら,差異点Bに係る相違が看者に対して大きく異なる美感を与えるものであるとしても,前記(ア)に認定のとおり,本件各意匠が備えるガラリ部の形状は,本件出願日当時,多くのカタログ類や複数の意匠公報に多数のものが広く記載されていた以上,本件公知意匠のガラリ部の形状を本件各意匠のものに置き換えることは,他の横ガラリを採用している公知意匠の存在を考慮するまでもなく,創作が容易であったというべきである。 したがって,控訴人の上記主張は,採用できない。 (ウ) よって,当業者は,本件公知意匠に基づき,本件各意匠の差異点Bを容易に創作することができたものと認められる。 ウ差異点C(ガラリ桟の傾斜)について差異点Cは,ガラリ桟の傾斜の相違に係るものであるが,本件出願日当時に公知 であったカタログ類(甲10~16)によれば,換気口のガラリ桟は,排気を的確に 差異点C(ガラリ桟の傾斜)について差異点Cは,ガラリ桟の傾斜の相違に係るものであるが,本件出願日当時に公知 であったカタログ類(甲10~16)によれば,換気口のガラリ桟は,排気を的確に行うという用途に照らして,その風向を調節するために一定の傾斜を付するのが通常であると認められる。したがって,本件公知意匠のガラリ桟について,これを風向調節のために適宜変更することは,ガラリ桟の傾斜が有する機能に照らしても,当業者にとってありふれた手法で配置を変更したものであるにすぎず,当業者が容易に創作することができたものであると認められる。 エ差異点D(背面カバーの差込筒部の筒状縁)について差異点Dは,背面カバーの差込筒部の後端の外周縁に設けられた断面山型の二重の筒状縁の存否に係るものであるが,本件出願日当時に公知であったカタログ類(甲10~16)によれば,当該構成に相当するものを備えていない換気口が一般的であったものと認められる。したがって,本件公知意匠の上記構成を除いて本件各意匠の構成を採用することは,当業者にとってありふれた手法により他の公然知られた意匠に置き換えて構成したものにすぎず,当業者は,本件公知意匠に基づき,本件各意匠の構成を容易に創作することができたものと認められる。 オ小括以上によれば,当業者は,本件公知意匠に基づき,本件各意匠の差異点AないしDに係る構成をいずれも容易に創作することができたものと認められるから,本件各意匠は,意匠法3条2項に違反して登録されたものとして,同法48条1項1号に基づき意匠登録無効審判により無効とされるべきものであって,控訴人は,意匠法41条が準用する特許法104条の3第1項により,被控訴人に対して本件各意匠権を行使することができないものというべきである。 よって,控訴人の請求は, 無効とされるべきものであって,控訴人は,意匠法41条が準用する特許法104条の3第1項により,被控訴人に対して本件各意匠権を行使することができないものというべきである。 よって,控訴人の請求は,いずれにせよ理由がないものというほかない。 3 結論以上によれば,控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は,結論において相当であって,本件控訴には理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第4部 裁判長裁判官土肥章大 裁判官井上泰人 裁判官荒井章光

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