主文 1 原判決中控訴人の敗訴部分を取り消す。 2 前項の部分に係る被控訴人の各請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,第1,2審を通じて,被控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判主文同旨第2 事案の概要等 1 本件の原審において,被控訴人は,原審における共同被告であったSIPAviation株式会社(以下「SIP」といい,後に引用する原判決中に「被 告SIP」とあるのは「SIP」と読み替えるものとする。)の代表取締役であった者が機長として操縦する小型飛行機が,原審における共同被告であった東京都が管理する東京都調布飛行場から離陸した直後に被控訴人の所有する家屋に墜落して,被控訴人の長女及び上記の機長を含む3名が死亡し,被控訴人及び上記の飛行機の搭乗者3名が重軽傷を負った事故について,同事故は,同飛行機が, 最大離陸重量を超過した状態で,低速で離陸した上,過度な機首上げの姿勢を継続したために発生したものであって,上記の機長はこれらについて故意又は過失があり,控訴人は,上記の機長を労働者として使用するとともに,SIPと共同して上記の飛行を運行し,航空運送事業を経営していたが,上記の飛行機の離陸重量を確認する運航管理担当者の設置を怠った過失があるなどと主張して,控訴 人に対し,民法715条1項又は同法709条の規定による損害賠償請求権に基づき,会社法350条の規定による損害賠償請求権に基づき請求していたSIP及び国家賠償法1条1項の規定に基づき請求していた東京都と連帯して,人身損害(被控訴人がその長女の損害賠償請求権を相続により取得したものを含む。)及び物的損害に係る各損害賠償金の合計9516万7997円並びにこれに対す る上記の事故の日である平成 連帯して,人身損害(被控訴人がその長女の損害賠償請求権を相続により取得したものを含む。)及び物的損害に係る各損害賠償金の合計9516万7997円並びにこれに対す る上記の事故の日である平成27年7月26日から支払済みまで平成29年法 律第44号附則17条3項の規定によりなお従前の例によるものとされる同法による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。 原審は,控訴人につき,航空運送事業を経営しながら運航管理担当者を設置せず,上記の飛行機が最大離陸重量を超過している旨の情報の収集及び上記の機長への提供をしなかったとして,民法709条の規定に基づく損害賠償責任を認め るとともに,SIPにつき,会社法350条の規定に基づく損害賠償責任を認めて,被控訴人の各請求について,控訴人及びSIPに対し,上記の各損害に係る損害賠償金の合計7549万3197円及びこれに対する遅延損害金の連帯支払を求める限度で認容し,その余の各請求をいずれも棄却したところ,控訴人が本件控訴を提起した。 2 前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,後記3のとおり当審における当事者の主な補充主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」第2の1及び2に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決4頁1行目の冒頭から同5頁25行目の末尾までを削り,同26行目の「」を「」に,同6頁5行目の「」を「」に,同10行目の「」を「」に,同24行目 の「被告SIPの損害賠償責任」を「本件機長の過失等」にそれぞれ改め,同7頁7行目の冒頭から同21行目の末尾まで及び同9頁14行目の冒頭から同11頁1行目の末尾までをそれぞれ削り,同2行目の「」を「」に,同行目の「争点4」を「争点3」にそれぞれ改め,同14 め,同7頁7行目の冒頭から同21行目の末尾まで及び同9頁14行目の冒頭から同11頁1行目の末尾までをそれぞれ削り,同2行目の「」を「」に,同行目の「争点4」を「争点3」にそれぞれ改め,同14頁13行目の冒頭から同14行目の末尾まで及び同16頁12行目の冒頭から同13行目の末尾までをそれぞ れ削る。なお,当審における審判の対象である各請求に係る部分以外の部分は,事情として引用するものである。)。 3 当審における当事者の主な補充主張控訴人の主な補充主張ア本件事故の原因等について ① 原判決は,運輸安全委員会が公表した本件事故調査報告書では事実認定 のプロセスが何ら透明化されていないにもかかわらず(なお,運輸安全委員会は,当審においても,裁判所からの調査嘱託にも応じず,算定や推定の根拠を明らかにしない。),同報告書において本件飛行機が最大離陸重量1950kg を約58kg 超過した状態で飛行したとされていることを踏まえて,最大離陸重量を約49kg 超過した状態で飛行したと認定したが,本 件飛行における本件飛行機の離陸重量は,以下のとおり最大離陸重量を超過していないから,上記の認定は不当である。 すなわち,本件機長及び同乗者の体重については,本件機長は55kg(丙15)であり,また,Cによれば,Cは58kg であり(丙37),その他の同乗者はそれぞれ75kg,55kg 及び65kg であるから(控訴人代表 者),搭乗者の体重の合計は308kg であり,搭乗者の着衣等については,大柄な成人男性である控訴人代表者の着衣(ポロシャツ,ズボン,ベルト,下着,靴下,靴)でも1kg であるから(丙18),合計5kg であり,搭乗者の所持品については,1人当たり1.2kg(鞄,ポロシャツ着替え分,下着 控訴人代表者の着衣(ポロシャツ,ズボン,ベルト,下着,靴下,靴)でも1kg であるから(丙18),合計5kg であり,搭乗者の所持品については,1人当たり1.2kg(鞄,ポロシャツ着替え分,下着着替え分,靴下着替え分,スマートホン,カメラ。丙19)であるか ら,機長を除く同乗者4人分の合計4.8kg にとどまり,搭載物については,機体自重(1350kg)に含まれる消火器(1.5kg)及び救急箱(400g)を除くと,車両止め(2個),予備オイル,係留ロープ,ウエス,脚立,救命胴衣,鞄,航空日誌及び航空機用救命無線機に限られるから,合計11.7kg(丙20)である(以上,合計329.5kg)。 また,推定燃料量については,業者である石野礦油株式会社は本件飛行機を利用していたマリブクラブの会則(丙41)により満タン時の70%しか給油をしないところ(丙40),平成29年7月22日に石野礦油株式会社によって84gal(=228kg。120gal(諸元表122gal-使用不能燃料2gal)×70%)が給油され,同日,D整備士による点検で3. 17gal,本件機長による飛行前点検で2.9gal の合計6.07gal(1 6.5kg)が消費された後,同日の31分間にわたるテストフライト(高度7000mまでの上昇飛行20分間及び降下飛行10分間)で18gal(49kg)が消費され,同月25日にも本件機長による飛行前点検で2. 9gal が消費されたから,本件飛行の当日に積載されていた燃料は57. 03gal(=155.12kg。84gal-6.07gal-18gal-2.9gal) であったところ,当日は航空整備士による点検はされず,本件機長による飛行前点検で2.9gal が消費されたから,本件飛行時の燃料は54.13g al-6.07gal-18gal-2.9gal) であったところ,当日は航空整備士による点検はされず,本件機長による飛行前点検で2.9gal が消費されたから,本件飛行時の燃料は54.13gal(147.23kg)である。 以上に本件飛行機の機体自重である1358kg を加えても,本件飛行時における本件飛行機の離陸重量は1834.73kg(329.5kg+14 7.23kg+1358kg)にとどまるところ,本件飛行機の最大離陸重量は1950kg であるから,本件飛行機は最大離陸重量を超過していたものではない。 ② 国土交通省航空局航空機安全課監修に係る耐空性審査要領においても,飛行試験中は重量の+5%から-10%の範囲内で一般的公差が認めら れているから(丙4の3),本件飛行機についても,最大離陸重量1950kg の5%に相当する97.5kg までであれば,上記の最大離陸重量を超過しても飛行の安全性に問題はない(丙4の1,4の2)。 本件飛行機は,1989年(平成元年)3月3日,アメリカ合衆国メイン州バンゴー空港からカリフォルニア州サンタバーバラ空港及びハワイ 州ホノルル空港を経て成田空港までフェリー飛行により空輸された際,空輸目的に限り5125ポンド(2324kg)まで最大重量を超過できるとされ,実際に,最大離陸重量を279kg も超過した4914.3ポンド(2229.13kg)の重量で飛行したものであるが(丙24),飛行の安全性に何ら支障はなかったものである。 ③ したがって,本件事故は,本件飛行機が最大離陸重量を超過した状態で 飛行したことなどによるものではなく,本件機長の操縦及び飛行判断によって生じたものというべきである。 イ控訴人による航空運送事業について① 原判決は,控 大離陸重量を超過した状態で 飛行したことなどによるものではなく,本件機長の操縦及び飛行判断によって生じたものというべきである。 イ控訴人による航空運送事業について① 原判決は,控訴人は本件機長に委託することによって航空運送事業(航空法100条1項)を営んでいたと認定したが,マリブクラブの会員は, SIPに対してフライト予約を行っていたものであって,控訴人はこのフライトの予約には何ら関与していない。控訴人は,会員との間で運送契約は締結しておらず,「航空機貸渡契約書兼請求書」(丙10)により会員との間で航空機のレンタル契約を締結していたものであって,その金額も飛行機のレンタル代金の実費とパイロットの派遣費という実費相当 額に限ったものにすぎず,これによって控訴人は全く利益も得ていない。 控訴人は,SIPが行っていた会員から金銭を受領して調布飛行場から他の飛行場に運送するという事業に,上記のような形で関与したにすぎないものである。 ② 控訴人及び控訴人代表者は,航空法違反被告事件について,公訴事実 を認めて有罪判決を受けたが(丙1),これは,起訴された本件飛行を含む4件のフライトのうち,2件はSIPが設立される以前のフライトに関するものであって,控訴人が運行計画を樹立していたため,航空運送事業を営んでいたと認定されることが避けられず,また,本件飛行を含む2件はSIPが設立された後のフライトではあるものの,SIPの事 業に関与していたとの認定がされることが予想されたため,刑事事件を早期に終結させるために敢えて争わなかっただけであり,これをもって控訴人において航空運送事業を営んでいたことにはならない。 被控訴人の主な補充主張ア本件事故の態様及び原因について 本件機長の体重は,「離陸重 て争わなかっただけであり,これをもって控訴人において航空運送事業を営んでいたことにはならない。 被控訴人の主な補充主張ア本件事故の態様及び原因について 本件機長の体重は,「離陸重量,着陸重量,重心位置及び重量分布」と題す る書面(丙15)において55kg と記載されているが,これは本件機長が作成したものであって,区切りのいい数字であることに照らせば,本件機長の体重が55kg であったとは認められない。同乗者の体重も,Cから聴き取った内容が真実である担保はない。搭乗者の着衣や所持品及び搭載品は,いずれも控訴人代表者が再現したものにすぎず,本件事故当時の物を再現したも のではない。推定燃料については,本件飛行にはマリブクラブの会則が適用されるものではないから,平成27年7月22日に84gal しか給油されなかったことにはならず,また,満タンに給油する必要がなかったからといって,直ちに満タンにしなかったことにはならないというべきである。 イ控訴人による航空運送事業について 控訴人は,本件飛行を含む4回にわたり,国土交通大臣の許可を受けないで,控訴人の業務に関し,運賃を受け取り又はその支払を受ける約束をして,無許可で航空運送事業を経営したとの公訴事実により,平成29年12月28日,航空法違反被告事件で起訴されたものであるところ,控訴人代表者は航空運送事業を営んでいたことを認め,上記の被告事件において有罪判決が されているのであるから,控訴人が航空運送事業を経営していたことは明らかであり,控訴人について,本件機長に関する使用者責任が認められることも明らかというべきである。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は,当審における審判の対象である被控訴人の控訴人に対する各請求 は,いずれも理由 本件機長に関する使用者責任が認められることも明らかというべきである。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は,当審における審判の対象である被控訴人の控訴人に対する各請求 は,いずれも理由がないものと判断する。その理由は,当審における控訴人の主な補充主張も踏まえて,後記2のとおり原判決の「事実及び理由」第3の1を補正して引用するほかは,後記3以下に記載するとおりである。 2 原判決の補正原判決16頁18行目の冒頭から同24行目の末尾までを以下に改める。 「ア控訴人は,調布飛行場が公共用飛行場として供用が開始された平成1 3年3月31日より前に設立された小型飛行機の愛好家のための任意団体であるマリブクラブについて,その入会や退会の手続,会員名簿の管理等の運営を担当していた。会員は,原則として操縦資格を有しているが,マリブクラブは飛行機を所有していないため,希望する機体を控訴人から機種毎及び運航形態により定められている料金(小型飛行機の 維持管理に必要な費用及び人件費の実費相当額であり,本件飛行機では1時間に9万8400円)を支払って借り受けることとされており,その際には,控訴人により技量認定を受けて承認されている場合には,会員による単独飛行が認められるが,その承認を受けていない場合には,控訴人のパイロットが同乗するか,技量認定者(会員同士の場合には控 訴人が承認した者)をセーフティパイロットとして同乗させることとされていた。会員が納めた会費は,マリブクラブ代表との肩書を付けて開設した控訴人の従業員名義の預金口座で管理され,年に1度,同口座からその9割が管理費として控訴人名義の預金口座に振り替えられており,その額は平成26年では約40万円であった。同年における控訴人 の売上は約1億20 義の預金口座で管理され,年に1度,同口座からその9割が管理費として控訴人名義の預金口座に振り替えられており,その額は平成26年では約40万円であった。同年における控訴人 の売上は約1億2000万円であり,これに占める割合は約0.3%であった。(乙8の2,丙9,控訴人代表者,弁論の全趣旨)イ本件事故当時におけるマリブクラブの会則は,概ね,以下のようなものであった。 第2条(目的) 会員相互の親睦と航空法を遵守し知識及び技量の向上を図りゼネラルアビエーションの発展に寄与すると共に,日本エアロテック株式会社と本会員間とのコミュニケーションを図り,日本エアロテック株式会社の管理運営に協力し安全運航に努める事を目的とする。 第3条(機体) 本会は機体を持たないクラブであり,機体の調達は必要なときに希 望する機体を,機種毎及び運航形態により定められる料金を支払うことにより,日本エアロテック株式会社から借り受ける。なお,機体の料金とは,航空機を維持管理するために徴収するものである。審査や審査のための訓練飛行,技量維持,及びその他の訓練飛行は,日本エアロテックの操縦士により無償で行われ,これにおける人件費等の費 用は含まない金額とする。 第7条(会員資格及び入会)(略)本会員は原則として操縦士の資格を有し,本会の主旨目的に同意し,会員の推薦を受け,尚理事会が承認した個人とする。(略)第9条(入会金及び会費の流れ) 1 会員より入金した入会金及び年会費は日本エアロテック株式会社に全額を納める。 2 会より入金した入会金及び年会費をもとに,日本エアロテック株式会社は会員の為に機体確保の責任を持ってする。 第10条(単独飛行に認定及び機体の借入) 1,2(略) 3 単独飛行を希望 2 会より入金した入会金及び年会費をもとに,日本エアロテック株式会社は会員の為に機体確保の責任を持ってする。 第10条(単独飛行に認定及び機体の借入) 1,2(略) 3 単独飛行を希望する会員は,日本エアロテック株式会社の技量認定を受け,その承認を受けなければならない。 4,5(略) 6 単独飛行の承認を受けていない者は,航空機借入の際,日本エア ロテック株式会社の操縦士が常に同乗するか,技量認定者(会員同士の場合は日本エアロテック株式会社承認の者)をセーフティーとして,同乗させなければならない。 7 会員は機体に自分以外の搭乗者が乗る場合,必ず搭乗者保険を掛ける事。 8 会員が機体を借り入れ,運航中に不意の死亡事故を起こしても, 機長保険以外機体の持ち主及び日本エアロテック株式会社には何らの賠償請求は出来ない。 第11条(セーフティパイロットの責任)会員が不意の事故を起こす事態が発生しても,機長の全責任でありセーフティパイロット及び日本エアロテック株式会社及び会員全員 には如何なる責任も発生しない。 第12条(損害等の請求) 1 会員が何らかの理由で,航空機の運航中又は地上での作業中に不意の事故を起こし,身体的損失又は機体の損傷が発生した場合,会員又は会員以外の搭乗者は航空機に付保されている第三者賠償責 任保険並びに搭乗者傷害保険の範囲内に於いてのみ補償されるものであり,本会全員及び日本エアロテック株式会社又は機体の持ち主に対し,一切の金銭的,精神的損害賠償を請求する事を一切放棄する。 2 会員は会員以外の者を搭乗させる場合,機長及び搭乗者の自身の 責任により搭乗者傷害保険又は国内旅行傷害保険に加入しなければならない。 3 会員が不意の事故を起こし機体に損傷が発生 る。 2 会員は会員以外の者を搭乗させる場合,機長及び搭乗者の自身の 責任により搭乗者傷害保険又は国内旅行傷害保険に加入しなければならない。 3 会員が不意の事故を起こし機体に損傷が発生した場合,保険免責分は当該会員が負担し,日本エアロテック株式会社及び機体の持ち主は会員全員と,当該者(個人)には損害の請求は出来ない事とし, 会員全員は何らの補償もしない。(乙8の2,丙41,弁論の全趣旨)」原判決16頁25行目の「本件機長が被告日本エアロテックに入社した平成22年10月以降」を「控訴人は,平成22年,当時在籍していたパイロットが退社したため,臨時雇いのパイロットを使用していたところ,同年3月 頃,本件機長を紹介されたが,本件機長の操縦技術が十分ではなかったこと から,ベテランのパイロットの下で操縦を習熟させるべく半年間の試用期間を経て,同年10月に本採用した。本件機長は,控訴人に入社した後,特定操縦技能審査制度における技能審査員の資格や,操縦資格を有さない者に対して飛行教育をする資格である操縦教育証明を取得した。その後,」に,同26行目から同17頁1行目にかけての「被告エアロテックが」を「マリブク ラブが」にそれぞれ改め,同4行目の「本件機長は」の次に「,会員のために運航計画を策定し,また,」を,同6行目の「甲41」の次に「,弁論の全趣旨」を,7行目の「フライトを終えた後,」の次に「会員宛ての控訴人名義に係る「航空機貸渡契約書兼請求書」により,」をそれぞれ加え,同8行目の「会員から金銭を受け取っていた。」を「会員から飛行機の使用料,着陸料, 停泊料,待機料及び保険料等の合計額を受領し,これを上記の「航空機貸渡契約書兼請求書」とともに控訴人の経理担当の従業員に引き継ぎ,同従業員と控訴人 た。」を「会員から飛行機の使用料,着陸料, 停泊料,待機料及び保険料等の合計額を受領し,これを上記の「航空機貸渡契約書兼請求書」とともに控訴人の経理担当の従業員に引き継ぎ,同従業員と控訴人代表者とでこれらをチェックしていた。控訴人に在籍していた当時,本件機長には,定額の基本給及び職務給のほかに非定額の飛行手当や休日職務手当等が支給されていた。」に改め,同9行目の「41,」の次に「丙9, 10,16,」を加える。 原判決17頁10行目の冒頭から同18行目の末尾までを以下に改める。 「本件機長は,平成25年5月1日,航空機使用事業,航空運送事業等を目的とするSIPを設立して,同年6月に控訴人を退社し,控訴人の社屋内にSIPの事務所を置いた。 会員から控訴人にフライトの予約に関する連絡が入ると,控訴人では,会員に対して本件機長に直接問い合わせるよう伝え,以後,本件機長が,会員と連絡を取り合い,自らの予定や本件飛行機の空き具合等に応じてフライトの日程等の運行計画を策定し,これらを控訴人に連絡してその了承を得ることとなった。 本件機長は,フライトが終了した後には,会員宛ての控訴人名義に係る 「航空機貸渡契約書兼請求書」を作成し,会員から飛行機の使用料,着陸料,停泊料,待機料及び保険料等の合計額を受領した後,これを上記の「航空機貸渡契約書兼請求書」とともに控訴人の経理担当の従業員に引き継いだ。これに対し,控訴人は,SIPに対し,運航支援の外注費として,飛行1時間当たり1万2000円を支払い,控訴人の「仕訳日記帳」におい ても「借方勘定科目」を「外注」,「借方部門」を「運航部門」,「借方税区分」を「課対仕入5%」,「摘要」を「SIPAviation㈱(○月分) ○○様運航支援」とそれぞれ計上 日記帳」におい ても「借方勘定科目」を「外注」,「借方部門」を「運航部門」,「借方税区分」を「課対仕入5%」,「摘要」を「SIPAviation㈱(○月分) ○○様運航支援」とそれぞれ計上した。 本件機長は,SIPを設立した後,上記のように控訴人から委託を受ける外注業務とは別に新たな顧客も開拓し,控訴人から賃借した飛行機でフ ライト営業を行い,独自に定めた1時間ごとの飛行料金を客から受領するようになった。また,SIPは,同年7月15日,控訴人に対し,上記のマリブクラブに関する運航支援の外注費を飛行1時間当たり1万8000円とするよう申し入れたことがあった。 なお,本件機長が控訴人から独立してSIPを設立した後も,マリブク ラブの会費の管理等は控訴人が行っていた。(甲40,41,丙9ないし12,16,控訴人代表者,弁論の全趣旨)」原判決17頁19行目冒頭から同26行目の末尾までを以下に改める。 「東京都は,航空法上の調査権限を有するのは国土交通大臣及び地方航空局長であって,東京都には航空法違反の有無について調査する権限は ないものの,平成21年3月,当時,控訴人が航空機の格納用地として使用許可を受けている調布飛行場内の土地の使用料を繰り返し滞納していたため,今後の土地使用許可の審査を行うに伴い,控訴人の運営実態を照会することとし,東京都調布飛行場管理事務所長名義で,①控訴人が企業活動の一環として行っているレジャークラブからの航空機の 受託運航業務に関し,国土交通省が定義する航空運送事業(航空機を使 用して,運賃など運送の対価を受け取って,貸客を運送する事業)に該当するか否か等,②控訴人が企業活動の一環として行っている飛行クラブへの航空機の賃貸業務(控訴人の社員によるセーフティパイロ 用して,運賃など運送の対価を受け取って,貸客を運送する事業)に該当するか否か等,②控訴人が企業活動の一環として行っている飛行クラブへの航空機の賃貸業務(控訴人の社員によるセーフティパイロットを搭乗させた場合を含む。)に関し,国土交通省の定義する航空機使用事業(航空機を使用して,使用料等の対価を受け取って,運送以外の行為 の請負(例えば,農薬散布,空中撮影など)を行う事業)に該当するか否か等を照会した。これに対し,本件訴訟における控訴人の訴訟代理人である阿部能章弁護士が,控訴人の代理人として,①について,控訴人はレジャークラブ(ベルハンドクラブ)から委託を受けて,レジャークラブ所有の航空機の運航に関し,パイロットを派遣し,航空機の運航に 関与してきたこと,その業務実態はパイロットの派遣であり,控訴人が主体となって航空機の運航を主催しているものではないと認識していること,このような運航業務が関連法規,とりわけ航空法に抵触するものではないと認識していること,労働者派遣事業法の中,特定労働者派遣事業に該当するため,厚生労働省に早急に届出を出す予定であること, レジャークラブ(ベルハンドクラブ)が航空運送事業を営んでいるのではないかとの点について,レジャークラブから,入会金を支払って入会した者がレジャークラブのメンバーとなり,レジャークラブが所有する航空機の使用収益権限をメンバー同士及びレジャークラブとの間で共有し合い,メンバーが運航を欲したときに,代表としてレジャークラブ が控訴人に運航の手配を委託し,パイロットの派遣を要請するというものであって,レジャークラブ側としては,航空機をメンバー同士で共有し合い,共有権の行使の一環として航空機に搭乗しているから,航空運送事業に該当しないと認識している旨の説明を受 派遣を要請するというものであって,レジャークラブ側としては,航空機をメンバー同士で共有し合い,共有権の行使の一環として航空機に搭乗しているから,航空運送事業に該当しないと認識している旨の説明を受けていること,②について,控訴人は,平成13年3月以前より設立されている任意団体であ るマリブクラブから要請されて航空機をレンタルしており,その実態は, 航空機の運航を欲する会員に対し,控訴人が航空機をレンタルし,同機を操縦してもらうシステムであり,その際,機体の安全確保と空港における事故発生防止のためにセーフティパイロットを搭乗させているが,運航技術及び知識を十二分に有していると控訴人が認定する会員の場合にはセーフティパイロットが搭乗しないこともあること,このような 運航業務は,控訴人がマリブクラブへ航空機をレンタルする行為であって全く役務の提供をしていないため,航空機使用事業に該当しないと認識していることなどを回答するとともに,上記の①及び②に係る業務の適法性について疑義がある場合には指摘するよう求めた。(乙8,弁論の全趣旨)」 原判決18頁14行目の冒頭から同22行目の末尾までを以下に改める。 「本件飛行機については,平成27年4月19日,本件機長とD整備士により,耐空証明検査の受検に向けた社内試験飛行が行われ,同日午後1時13分から午後4時28分までの3時間15分にわたって,調布飛行場から中部国際空港,横須賀及びa(千葉県野田市b所在)を経由し て調布飛行場に戻る経路で,種々の点検が実施された後(丙25の1),同月22日,本件機長,D整備士及び国土交通省航空局所属の検査官により,同日午後3時18分から午後4時48分までの1時間30分にわたって,調布飛行場からaを経由して調布飛行場に戻る経路 25の1),同月22日,本件機長,D整備士及び国土交通省航空局所属の検査官により,同日午後3時18分から午後4時48分までの1時間30分にわたって,調布飛行場からaを経由して調布飛行場に戻る経路で,耐空証明検査が実施されたが,左翼内燃料ポンプが作動しないという不具合が 発生したために検査完了とはされず(丙25の2),同月27日,午後3時14分から午後4時4分までの52分間にわたって,調布飛行場から下総航空基地を経由して調布飛行場に戻る経路で,無線検査及び燃料ポンプの作動状況の確認が実施され(丙25の3),同年5月1日,耐空証明検査に合格した。上記の各飛行は耐空証明検査ないしそれに向けた社 内試験のための飛行であるため,いずれも満タンである120gal が給 油されており,上記の同年4月27日の検査に際しては,本件機長により「離陸重量,着陸重量,重心位置及び重量分布」と題する書面(丙15)が作成され,「燃料(最大122gal,使用可能120gal)」の欄も「120.0gal」と記載された。なお,「操縦士」の自重については「55.0kg」と記載された。(甲6,丙15,25,33) 本件飛行機は,同年7月22日,前回のフライトから期間が経過していたことなどからテストフライトを実施することとなり,石野礦油株式会社により給油がされた上,本件機長の操縦により,約7000mまで上昇した後,降下飛行をして着陸するという31分間のフライトを行った。(丙31ないし33) 本件飛行機は,同年7月25日にも,本件飛行に備えて,控訴人代表者の立会いの下,本件機長により飛行前点検が行われた。(丙32,33,控訴人代表者)本件事故当日である同月26日,本件機長は,本件飛行前に本件各搭乗者から体重を聴取せず,重量及び重 ,控訴人代表者の立会いの下,本件機長により飛行前点検が行われた。(丙32,33,控訴人代表者)本件事故当日である同月26日,本件機長は,本件飛行前に本件各搭乗者から体重を聴取せず,重量及び重心位置に係る計算書を作成しない まま,本件飛行機に本件各搭乗者を搭乗させ,大島空港に向けて本件飛行を開始した。本件機長による本件飛行前の点検等から本件事故までの概略は次のとおりである。なお,本件飛行時における本件機長の総飛行時間は約1300時間であった。(甲6,弁論の全趣旨)」原判決19頁20行目の末尾の次に改行して以下を加える。 「 本件飛行及び本件事故に関する目撃者の運輸安全委員会に対する口述の内容は,以下のとおりである。 調布フライトサービスの通信等担当者同機の無線通信は機長が行っていた。離陸滑走は特に異常はなかったが,機体の浮揚は遅いように感じた。離陸後はなかなか高度が上が らず,左の方向へ飛行し,その後,黒い煙と火柱が上がる様子を確認 した。 目撃者A(同飛行場内で,同機に続き離陸しようとしていた航空機の操縦士)離陸地上滑走距離は長かったと思う。離陸後,高度が上がらず,このままでは墜落すると思った。その後,黒煙が上がるのが見えて墜落 したと思った。 目撃者B(同飛行場内駐機場で,出発準備をしていた操縦士)同機の離陸滑走に異常はなかったように感じた。離陸後はほとんど高度が上がらなかった。エンジン音は正常だった。上昇は喘いでいる感じで,これはおかしいとすぐに分かった。同機は上がろうと して上がりきれず「フワフワ」した感じだった。高空を飛行しているとエンジンのレスポンスが「スカスカ」になってくるが,そんな感じではなかったかと思う。(甲6)」 3 民法715条1項の規定による使 して上がりきれず「フワフワ」した感じだった。高空を飛行しているとエンジンのレスポンスが「スカスカ」になってくるが,そんな感じではなかったかと思う。(甲6)」 3 民法715条1項の規定による使用者責任の有無について被控訴人は,原審及び当審において,本件事故調査報告書を踏まえて,本件 事故は,本件飛行機が最大離陸重量を超過した状態で,低速で離陸した上,過度な機首上げの姿勢を継続したという3つの原因が重なったために発生したものであり,これについて本件機長に少なくとも過失があり,控訴人は本件機長との間に実質的な指揮監督関係があるから,控訴人には民法715条1項の規定による使用者責任がある旨を主張するので,まず,本件機長の過失(争点 1)について検討する。 運輸安全委員会による本件事故調査報告書についてア運輸安全委員会は,本件事故について,その調査の担当に主管調査官ほか2名の航空事故調査官を指名し,同調査官らは,平成27年7月26日から同年8月3日にかけて,現場調査,機体調査及び口述聴取を行い,平成28 年1月12日及び同月13日には,エンジン製造者の工場においてエンジン 及びプロペラ分解調査を実施した。運輸安全委員会は,同年4月18日,飛行解析に関する調査のため,国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)の航空技術部門飛行技術研究ユニットに所属する同機構の職員を専門委員に任命し,調査官及び専門委員らは,同日から飛行解析を実施したところ,運輸安全委員会は,同年9月26日に更に6名の航空事故調査官を追加 指名し,引き続き,平成29年1月5日まで飛行解析が実施された。その間,調査官らは,平成28年10月7日に同型式機を使用した飛行試験を実施し,同年12月13日及び同月14日には,航空機製造者 指名し,引き続き,平成29年1月5日まで飛行解析が実施された。その間,調査官らは,平成28年10月7日に同型式機を使用した飛行試験を実施し,同年12月13日及び同月14日には,航空機製造者の工場において,飛行解析,故障モード等に関する関係国との会議も実施した。運輸安全委員会は,これらの調査,解析等を経て,本件事故調査報告書を公表した。 イ本件事故調査報告書の内容は,概ね,以下のとおりである。 事実情報① 本件飛行機の基本情報本件飛行機は,巡航速度が205kt(380㎞/h)とレシプロエンジン単発機としては高速であり,客室は与圧されており,2万5000ft まで上昇することができることなどが特徴とされている。 本件飛行機の飛行規程では,最大離陸重量は4300LBS.(1950kg)であり,通常の操作手順は,0°フラップ離陸では,最大出力にセットし,リフトオフは78KIAS,障害物越え速度は91KIAS であり,また,失速速度は,パワーオフ,脚下げ,フル・フラップでの最大重量の 場合は58KIAS,脚上げ及びフル・フラップでは69KIAS とされている。 飛行規程の性能表を用いて,気温34℃,最大離陸重量1950kg における0°フラップ離陸時の離陸地上滑走距離(離陸滑走開始地点から離陸する地点までの水平距離)及び離陸距離(離陸滑走開始地点から離陸後に規定の高度(50ft)に達する地点までの水平距離)を計算する と,それぞれ約2230ft(約680m)と約3200(約976m) である(航空機製造者によると,フラップ10°を使用した離陸の場合,離陸性能はフラップ0°に設定したときと変わらないため,0°フラップ離陸手順に従い,0°フラップ離陸の性能表を使用するべきとされている。)。 空機製造者によると,フラップ10°を使用した離陸の場合,離陸性能はフラップ0°に設定したときと変わらないため,0°フラップ離陸手順に従い,0°フラップ離陸の性能表を使用するべきとされている。)。 本件飛行機の燃料総容量は122gal(使用不能燃料2gal を含む。) である。 なお,「航空力学Ⅰプロペラ機編(改訂第2版)」(公益社団法人日本航空技術協会・平成18年)によれば,小型機における搭載に関しての重要な注意事項の一つに,燃料を満載したときには,装備されている座席の満席搭乗及び荷物の制限重量までの搭載はできないとされている。 ② 重量及び重心位置機体自重(直近の耐空証明検査の記録),搭乗者5名の体重,搭乗者の着衣等,搭乗者所持品,搭載物(車輪止め,予備オイル,係留ロープ,ウエス,脚立,消火器,救命胴衣,鞄,航空日誌,航空機用救命無線機,救急箱等),推定燃料,地上試運転及び地上走行で消費した燃料から,以 下のとおり推定される。なお,燃料量については,事故直近の飛行として平成27年7月22日に本件機長の操縦により約30分間の飛行をしており,その飛行の直前にほぼ満タンとなる燃料が給油されていたことから,飛行規程の燃料消費量から算出して重量を求めた。 機体自重:約1358kg(約2994lb) 体重(機長):約58.5kg(約129.0lb)体重(同乗者):約280kg(約617.3lb)(同乗者4名の推定体重の合計)搭乗者の着衣等:約7kg(約15.4lb)搭乗者所持品及び搭載物:約27kg(約59.5lb) 推定燃料量:約286kg(約105gal=約630.5lb) 地上試運転及び地上走行で消費した燃料:約8.2kg(約3gal=約18lb)合計:約2008 9.5lb) 推定燃料量:約286kg(約105gal=約630.5lb) 地上試運転及び地上走行で消費した燃料:約8.2kg(約3gal=約18lb)合計:約2008kg(約4427lb)本件飛行機の飛行規程に限界事項として規定された最大離陸重量は1950kg であるから,本件飛行機はこれを約58kg 超過していたも のと推定される。 事故当時の本件飛行機の重心位置については,前方又は後方貨物室のどちらに搭載されていたか特定できない搭載物があったことから,基準線後方+146.0~+146.5in の間であったと推定され,これは,本件飛行機の重量が最大離陸重量を超過していると推定されているこ とから,あくまでも参考ではあるが,最大離陸重量に対応する許容範囲(重心範囲143.3~+147.1in)の後方限界近くと推定される。 ③ 本件事故の当日の気象に関する情報調布飛行場の本件事故の当日の午前11時における実況気象観測値は,風速2kt,気温34℃であり,本件飛行機の離陸時(離陸を開始し た午前10時57分12秒から事故発生直後の同58分09秒まで)の風向風速観測値は,瞬間風向は139°~243°,瞬間風速は0~1kt であった。 なお,事故当時の滑走路上の気温は観測されていないが,平成27年8月11日午後2時頃における調布飛行場の実況気象観測値は気温3 4℃であったところ,その時点における同飛行場の滑走路中心線上のA2誘導路付近(本件飛行機の推定離陸地点)の気温は38.1℃(地上高約1.5m)であった。 ④ エンジン等の分解調査分解調査の結果,エンジン及びエンジン補機類並びにターボチャージ ャーに不具合があった可能性を示すものは確認されず,プロペラについ 1.5m)であった。 ④ エンジン等の分解調査分解調査の結果,エンジン及びエンジン補機類並びにターボチャージ ャーに不具合があった可能性を示すものは確認されず,プロペラについ ても,プロペラガバナーを含むプロペラ関連部品に不具合があったことを示すものは確認されなかった。 ⑤ TIT計の情報本件飛行機の機内で撮影された画像からの読み取り結果によれば,離陸滑走中(10時57分29秒)のTITは約980°F であり,離陸 後,脚上げ中(10時57分53秒)のTITは1010°F であった。 TITは,ターボチャージャーの入り口温度であってエンジンの排気温度に相当し,飛行規程では,TIT計に1200°F から1750°F の範囲が常用運用範囲として緑色弧線で,1750°F が最大値として赤色放射線で示されており,限界事項として最大値1750°F が記 載されているが,下限は示されていないところ,同型式を使用して行った飛行試験では,最大出力時には1400°F 前後を示していた。 本件飛行機の定例整備作業に伴う過去の飛行試験の記録によれば,TIT計指示値が2012年(平成24年)以降,常用運転範囲を下回っていたことが示されている。 本件飛行機の管理及び整備を行っていた会社で整備を管理する者は,TIT計の指示値が低いことについては,整備員から報告もなく意識していなかったと述べている。 ⑥ 過去の飛行の分析本件飛行機は,本件機長の操縦により,平成27年7月22日に調布 飛行場から離陸する状況が映像に記録されているところ,これにより本件飛行機(推定離陸重量1876kg)の離陸滑走時の性能及び操縦を解析すると,飛行規程の0°フラップ離陸手順に従った場合の性能によると,滑走路35進入端位置ではおよ 録されているところ,これにより本件飛行機(推定離陸重量1876kg)の離陸滑走時の性能及び操縦を解析すると,飛行規程の0°フラップ離陸手順に従った場合の性能によると,滑走路35進入端位置ではおよそ50ft,91kt をやや下回る高度と速度で通過すべきであるが,映像からはそれぞれ95ft,79kt と推 算された。 分析(なお,「認められる」は,断定できる場合,「推定される」は,断定できないが,ほぼ間違いない場合,「考えられる」は,可能性が高い場合,「可能性が考えられる」,「可能性があると考えられる」は可能性がある場合をいう。) ① 離陸滑走及び離陸(10時57分13秒~14秒)離陸開始地点を滑走路17進入端から約10mの地点と仮定すると,飛行規程を用いた最大離陸重量での0°フラップ離陸時の離陸地上滑走距離は約690m(①)であり,リフトオフ速度は78kt と規定されているが,本件飛行機の離陸地点は約630mであり,離陸速度(全 ての車輪が浮揚する速度)は約73kt であったと推定される。なお,本件飛行機の機内から撮影された写真から離陸時のフラップは10°の位置であったものと推定される。 ② 離陸直後の上昇中の状態(10時57分42秒~54秒)0°フラップ離陸手順に従った上昇では50ft 障害物越えまでに9 1kt とすることとされているが,本件飛行機は,離陸直後から80ft に上昇する間に5~10kt 減速しており,80ft に到達した時点では70kt 近くまで速度が低下している。 この離陸直後の状況において,速度の低下に対応することを優先して機首下げを行っていた場合,上昇率は低下するが速度が低下することは なく,飛行を継続できた可能性も考えられるが,本件機長は,速度が低 の離陸直後の状況において,速度の低下に対応することを優先して機首下げを行っていた場合,上昇率は低下するが速度が低下することは なく,飛行を継続できた可能性も考えられるが,本件機長は,速度が低下するような過度な機首上げによる上昇を続けたことでバックサイドの飛行となり,飛行の継続が難しい速度まで減速したものと考えられる。 なお,バックサイドの飛行とは,揚力と抗力の比が最大となる速度(Vx)の高速側をフロントサイド,低速側をバックサイドといい,フロン トサイドにおける飛行では,エンジン出力を一定にしたまま水平飛行か ら機首を上げると,速度が減じて上昇に移行(減速によって余ったエンジン出力の一部が上昇に振り向けられるため)するが,バックサイドにおける飛行で同様の操縦を行うと,速度が減じると同時に降下(速度が減じたことで,釣り合いのための出力が足りなくなったため)することをいうとされる(バックサイド特性)。 ③ 離陸直後の上昇に続く状態(10時57分55秒~10時58分00秒)本件飛行機は,高度約90ft に到達後,緩やかに降下しながら約5秒間飛行しており,パワーオン失速(高出力状態で失速すること)に入りかけていたものと考えられる。 ④ 高度低下から墜落に至る状態(10時58分00秒以降)本件飛行機は,10時58分00秒,左にロールし,その後,左に滑りながら降下しているが,ロールする直前の速度は約62kt であったと考えられる。本件飛行機の失速速度は,推定される重量及びフラップ10°で,パワーオン失速(出力75%)で約62kt と計算されるから, 10時58分00秒頃までは辛うじて飛行が可能な状態であったが,その後,失速して高度を失ったと考えられる。 ⑤ 数学モデルによる分析本件飛行機 力75%)で約62kt と計算されるから, 10時58分00秒頃までは辛うじて飛行が可能な状態であったが,その後,失速して高度を失ったと考えられる。 ⑤ 数学モデルによる分析本件飛行機の事故時の飛行状況を分析するため,機体特性データ(数学モデル)に基づいて計算による再現を行い,これと映像等から推定さ れた事故時の飛行との比較を行った結果,エンジン出力の低下があったと仮定すると,本件飛行機の飛行(離陸時の加速,上昇経路,上昇能力及び上昇中の速度)を再現できることが示され,本件飛行機のエンジン出力は本件事故時に低下していた可能性が考えられる。 エンジン出力が低下する要因には,操縦操作によるもの,外気温など の環境による影響及びエンジン不具合があるが,操縦操作によるものに ついては,吸気圧力が低かったことにより約6%のエンジン出力の低下があったものと考えられ,環境による影響については,外気温が高温であることによりエンジン出力が低下(34℃では約3.4%,38℃では約4%)していたことが推定されるが,それ以外は明らかにすることができなかった。 結論 ① 分析の要約ⅰ 離陸重量及び重心位置について本件事故時の本件飛行機の離陸重量は約2008kg と推定され,最大離陸重量1950kg を約58kg 超過していたものと,また,重心 位置は基準線後方+146.0~+146.5in にあり,最大離陸重量時における後方限界近くにあったものとそれぞれ推定され,出発前の本件機長による重量及び重心位置の確認は十分に行われていなかったものと考えられる。 機体重量の超過が離陸及び上昇性能を低下させ,重心位置が後方限 界近くであったことにより機首上げが発生しやすい状態において,離陸上昇時の過度な機 十分に行われていなかったものと考えられる。 機体重量の超過が離陸及び上昇性能を低下させ,重心位置が後方限 界近くであったことにより機首上げが発生しやすい状態において,離陸上昇時の過度な機首上げ,低速飛行時の操縦性,安定性又は飛行性能が低下して失速に入りやすい状況を生じさせたものと考えられ,これらが同機の低速での離陸,過度な機首上げ姿勢及び失速に陥った要因となったものと推定される。 ⅱ 本件飛行機の事故時の飛行について0°フラップ離陸手順におけるリフトオフ速度は78kt と規定されているが,本件飛行機の事故時の離陸速度は約73kt であったと推定され,約73kt で離陸したことについては,本件機長が0°フラップ離陸手順のリフトオフ速度78kt と短距離離陸手順のリフトオフ 速度69kt の中間的な速度で離陸する手順を行った,若しくは,フラ ップ10°の設定で短距離離陸手順を行った,又は0°フラップ離陸手順を選択していたが機体の位置が滑走路末端に近づいてきたため本件機長が反応して離陸したことによる可能性が考えられる。 速度が低下している状況において,過度な機首上げ姿勢を継続したことについては,重心位置が後方限界近くにあったことにより機首上 げが発生しやすい状態において,本件機長が速度よりも上昇を優先させた可能性,又はこれまでの飛行経験から,同様の上昇があっても加速上昇が行えると考えて速度の低下に気付くのが遅れた可能性が考えられる。 本件機長が,速度が低下するような過度な機首上げによる上昇を継 続したことで,同機はバックサイドの飛行となり,飛行の継続が難しい速度まで減速したものと考えられる。 リフトオフ速度未満での離陸及び速度が低下する過度な機首上げによる上昇により,必要な上昇速度まで 続したことで,同機はバックサイドの飛行となり,飛行の継続が難しい速度まで減速したものと考えられる。 リフトオフ速度未満での離陸及び速度が低下する過度な機首上げによる上昇により,必要な上昇速度まで加速することができなかった可能性が考えられ,その後の高度低下及び墜落に至る要因となったも のと考えられる。 ⅲ 数学モデルに基づく分析本件事故時の気温及び吸気圧力を基にエンジン製造者のマニュアルから求めたエンジン出力では,本件事故時の本件飛行機と同じ上昇経路をたどったとしても減速することはなく,高度約90ft 以降も加 速上昇となることがシュミレーションの結果として示されるが,緩降下となる前までに本件飛行機のエンジン出力の低下があったと仮定すると,本件飛行機の離陸時の加速,上昇経路,上昇能力及び上昇中の速度を再現できることが示されたことから,本件事故における本件飛行機のエンジン出力は低下していた可能性が考えられる。 ⅳ 本件飛行機のエンジン出力に関する分析 エンジン出力が低下する要因には,操縦操作によるもの,外気温などの環境による影響及びエンジン不具合があるが,エンジンに関する調査結果からは,エンジン不具合が発生したことを明確に示す結果が得られず,外気温が高温であったこと及び吸気圧力が低かったこと以外の要因によりエンジン出力が低下していたことについては,明らか にすることができなかった。 ② 原因本件事故は,本件飛行機が離陸上昇中,速度が低下したため,失速して飛行場周辺の住宅地に墜落したものと推定される。 速度が低下したことについては,最大離陸重量を超過した状態で飛行 したこと,低速で離陸したこと及び過度な機首上げ姿勢を継続したことによるものと推定される。 最大離陸重量を超過した状態 る。 速度が低下したことについては,最大離陸重量を超過した状態で飛行 したこと,低速で離陸したこと及び過度な機首上げ姿勢を継続したことによるものと推定される。 最大離陸重量を超過した状態で飛行したことについては,本件機長が本件事故時の飛行前に同重量の超過を認識していたかどうかは本件機長が死亡しているため明らかにすることができなかった。しかしながら, そのような状態で飛行することの危険性について本件機長の認識が不足していたとともに,法令や規定を遵守することについての安全意識が十分でなかった可能性が考えられる。 低速で離陸したことについては,本件機長がそのような速度で離陸する手順を行った,又は機体の位置が滑走路末端に近づいてきたため,本 件機長が反応して離陸したことによる可能性が考えられる。 過度な機首上げ姿勢を継続したことについては,重心位置が後方限界近くにあったことにより機首上げが発生しやすい状態において,本件機長が速度よりも上昇を優先させて機首上げ姿勢を維持したことによる可能性が考えられる。 また,速度が低下したことについては,これらの要因に加えて,数学 モデルを使用した分析の結果から,本件飛行機のエンジン出力が低下していたことによる可能性も考えられるが,これを明らかにすることはできなかった。 本件事故の態様及び原因についてア本件飛行における本件飛行機の離陸重量について 本件事故調査報告書は,本件機長の体重を約58.5kg,同乗者4名の体重を約280kg,搭乗者の着衣等を約7kg,搭乗者所持品及び搭載物を約27kg,推定燃料量を約286kg(約105gal)と推定されるとした上,地上試運転及び地上走行で約8.2kg の燃料を消費したと推定されるとして,本件飛行機の推定離 ,搭乗者所持品及び搭載物を約27kg,推定燃料量を約286kg(約105gal)と推定されるとした上,地上試運転及び地上走行で約8.2kg の燃料を消費したと推定されるとして,本件飛行機の推定離陸重量を約2008kg と推定される とし,本件飛行機の飛行規程における最大離陸重量1950kg を約58kg 超過していたものと推定されるとした上で,このことを前提に,重心位置も最大離陸重量に対応する許容範囲の後方限界近くの状態で本件飛行をしたものと推定されるとしている(前記イ②)。 そこで,本件飛行機の離陸重量について,以下,検討する。 本件機長の体重については,認定事実のとおり,平成27年4月27日に実施された本件飛行機の耐空証明検査の際に,本件機長は「離陸重量,着陸重量,重心位置及び重量分布」と題する書面(丙15)に自身の体重を55.0kg と記載しており,その後,本件事故までの3か月の間に,搭乗者の体重が飛行に大きく影響する小型機のパイロットを生業 としている本件機長が3kg 以上体重を増加させたと認めるに足りる証拠は見当たらないことに照らせば,55kg を超えるものとは直ちには認め難いというのが相当である。 同乗者4名の体重については,本件飛行はCが3名の同乗者らを誘って企画したものであるところ(丙37),Cは,その陳述書(丙37)に おいて,自身については平均体重が58kg であるが当時多少筋肉もつい ていたので運輸安全委員会等の調査に対して61kg と申告したこと,同乗者のうちEについては,身長は170cm 台で175cm 以下,体重は60kg 台で70kg 以上には見えなかったこと,Fについては,身長は160cm 台で170cm 以下,体重は自身と同様に60kg 前後に感じられ ,身長は170cm 台で175cm 以下,体重は60kg 台で70kg 以上には見えなかったこと,Fについては,身長は160cm 台で170cm 以下,体重は自身と同様に60kg 前後に感じられたこと,Gについては,大柄で180cm 前後,体重は70kg 台だが, 太っては見えなかったので80kg 以上には見えなかったといずれも具体的に記載しており,その信用性を左右するに足りる証拠は見当たらないから,本件事故当時,Cは61kg,Eは65kg,Fは60kg,Gは75kg を超えるものとは直ちには認め難いというのが相当であり,同乗者4名の体重は合計261kg を超えるものとは直ちには認め難いという のが相当である。 搭乗者の着衣等については,控訴人は,当審において,控訴人代表者自身の着衣等の重量(約1㎏。丙18,32)を踏まえて,搭乗者の着衣等の重量は合計5kg である旨を主張するところ,控訴人代表者は一般男性の中でもかなり大柄な体格(身長180cm,体重82kg)である(丙 32)上,本件事故調査報告書において推定された合計7kg とも近似していることに照らせば,搭乗者の着衣等は合計5kg を超えるものとは直ちには認め難いというのが相当である。 搭乗者の所持品・搭載物については,控訴人は,当審において,控訴人代表者自身の所持品により成人男性の行楽として通常想定される所 持品一式の重量を検証するほか(1人当たり約1.2㎏。丙19,32),本件事故調査報告書に記載された搭載物について,実際に本件飛行機と同種同等の搭載物(車輪止め2個,予備オイル,係留ロープ,ウエス,脚立,救命胴衣,鞄,航空日誌,航空機用救命無線機)の重量を検証(約11.7㎏。丙20,32)することにより,これらの合計が16.5 kg 物(車輪止め2個,予備オイル,係留ロープ,ウエス,脚立,救命胴衣,鞄,航空日誌,航空機用救命無線機)の重量を検証(約11.7㎏。丙20,32)することにより,これらの合計が16.5 kg にとどまる旨を主張するところ,上記の過程に特段不合理な点は見当 たらないことに照らせば,搭乗者の所持品・搭載物については,16. 5kg を超えるものとは直ちには認め難いというのが相当である。 燃料量については,本件事故調査報告書は,本件飛行機は平成27年7月22日に満タンの給油がされた後,本件機長により約30分間の飛行がされたから,本件事故の当日は約105gal(約286kg)の燃料が 積載されていたところ,本件飛行の前に地上試運転及び地上走行で約8. 2kg の燃料を消費したとして,約277.8㎏であったと推定されるとするのに対し,控訴人は,当審において,本件機長の所属するマリブクラブでは会則上は84gal(228kg)しか給油せず,上記の同月22日の飛行の前にはD整備士による点検も実施されていたなどと主張する。 そこで,検討するに,本件機長はマリブクラブに所属しており(丙39),マリブクラブはその会則(丙41)の第29条(附則)4項において「安全運航のために,飛行規程の遵守,ウエイトバランスの徹底,PA-46-350P マリブについて,機体特性上この機体に給油する場合は給油口内に見えるリベットの上から2番目の位置を給油上限とする 事。」と定めていることが認められるほか,小型飛行機を操縦する経験を有する者らは,その陳述書において,一般に,小型飛行機は満タンにするのではなく,飛行目的地との兼ね合いで飛行するのに要する燃料+αを給油すること(丙38),飛行機は飛行するときには重量が軽ければ軽いほど飛行性能及び効率 書において,一般に,小型飛行機は満タンにするのではなく,飛行目的地との兼ね合いで飛行するのに要する燃料+αを給油すること(丙38),飛行機は飛行するときには重量が軽ければ軽いほど飛行性能及び効率が良いとされていること(丙38,39), 飛行機は飛行に際して軽いほどよく,本件飛行機は,満タンにしたときには,実際には諸元表の2631km を上回る3000km 位を飛行することができるものの,日本国内で2000km を超えて飛行することはないから,本件飛行機に満タン給油する必要はないこと(丙40)などと記載していることや,控訴人とは関係を有しない本件飛行機と同型機の 所有者らに対して平常に行う給油の再現を依頼したところ,それぞれ1 64.2ℓ(43.4gal。ただし,1gal=3.785ℓとし,以下も同様である。)ないし76ℓ(20.1gal)であったこと(丙35,36)にも照らせば,控訴人の上記の主張が直ちに不合理であるとまではいえない。しかしながら,他方で,控訴人は,当審における第2回口頭弁論期日において平成27年7月22日に給油されたのは84gal(228 kg)である旨を主張するまでは,原審及び当審において,ノズルに設置されたセンサーが作動して給油が自動停止する115gal(313kg)程度であると一貫して主張していたものである上,控訴人代表者の陳述書(丙32)においてそのように記載されているのみならず,控訴人の従業員であって現に本件飛行機の点検・整備等を担当していたD整備士 もその陳述書(丙33)において115gal であったと認識している旨を記載していることに照らせば,控訴人の上記の主張を直ちに採用することは困難というべきであり,本件飛行機は同日に少なくとも115gal 程度が給油されたもの て115gal であったと認識している旨を記載していることに照らせば,控訴人の上記の主張を直ちに採用することは困難というべきであり,本件飛行機は同日に少なくとも115gal 程度が給油されたものと認めるのが相当である一方,これを超える量の給油がされたものとは直ちには認め難いというのが相当である。 その後,本件飛行機は,同日,D整備士による点検(①始動~暖機,②機能点検(マグネトチェック等)/各計器パラメータ記録),③加減速確認,④最大出力確認,⑤冷機~停止)により3.17gal(丙27,28,33。なお,D整備士の陳述書(丙33)によれば,消費燃料は本件飛行機に設置されている燃料流量計によって測定することができる というのであり(丙26),上記の記載について特段不自然な部分は認められないというべきである。),本件機長による点検(始動,機能点検,加減速確認,最大出力確認,地上走行)により2.9gal(丙29,30,33)をそれぞれ消費した後,本件機長による31分間の上昇及び降下のテストフライトにより18gal を消費し,本件飛行の前日である同月 25日にも本件機長による点検により2.9gal を消費したものと認め られるから(丙31ないし33),本件事故の当日に搭載されていた燃料の量は,88.03gal を超えるものとは直ちには認め難いというのが相当である。そして,当日は,本件飛行の前に本件機長による点検が行われ,これにより2・9gal が消費されたと認められるから(弁論の全趣旨),本件飛行時における本件飛行機の燃料量は,85.13gal(= 232.40kg。ただし,1gal=2.73㎏とする。)を超えるものとは直ちには認め難いというのが相当である。 以上によれば,本件飛行における本件飛行機の の燃料量は,85.13gal(= 232.40kg。ただし,1gal=2.73㎏とする。)を超えるものとは直ちには認め難いというのが相当である。 以上によれば,本件飛行における本件飛行機の離陸重量は,機体自重1358kg,機長の体重55kg,同乗者4名の体重合計261kg,搭乗者の着衣等5kg,搭乗者の所持品・搭載物16.5kg,燃料量232. 40kg の合計1927.9kg を超えるものとは直ちには認め難いというべきであるから,本件飛行機が飛行規程の限界事項として規定された最大離陸重量である1950kg を約58kg 超過していたものと推定されるとした上で,重心位置も最大離陸重量に対応する許容範囲の後方限界近くの状態で本件飛行をしたものと推定される旨の本件事故調査報 告書の推論(前記イ②)については,疑義を払拭することができないというべきであって,直ちに是認することはできず,そうであれば,機体重量の超過が本件飛行機の離陸及び上昇性能を低下させ,また,重心位置が後方限界近くであったことにより機首上げが発生しやすい状態であったとする本件事故調査報告書の推論(前記イ①ⅰ)も直ち に是認することはできないというのが相当である。 以上を踏まえて,本件事故の態様及び原因について検討するに,前記に判示するとおり,本件飛行機は最大離陸重量を超過していたとは認められないが,最大離陸重量にかなり近似した離陸重量であったところ,本件飛行における本件飛行機の離陸地上滑走距離は,気温34℃,最大 離陸重量1950kg における約680mと大きく異なるものではなく, リフトオフ速度も約78kt 程度であったと認めるのが相当である(前記イ①)。これに対し,本件飛行機が離陸した地点までの滑走距離は約63 における約680mと大きく異なるものではなく, リフトオフ速度も約78kt 程度であったと認めるのが相当である(前記イ①)。これに対し,本件飛行機が離陸した地点までの滑走距離は約630mであり,離陸速度も約73kt にとどまっていたものと推定され(前記イ①)これと異なる認定をすべき根拠となる証拠は見当たらないから,本件飛行機は,離陸地上滑走距離の地点に到達する以前に 低速で離陸したものと認めるのが相当である。 そして,本件飛行機は,離陸直後には,0°フラップ離陸における手順に従って上昇すると50ft 障害物越えまでに91kt の速度に達することとされていたにもかかわらず(前記イ②),80ft に到達した時点で70kt 近くまで速度を低下させているのであり,このような場合 には,速度の低下に対応することを優先して機首下げを行った場合には,上昇率は低下するものの速度が低下することはなく,飛行を継続することができた可能性が考えられるが,本件飛行機は過度な機首上げによる上昇を継続し,これによってバックサイドの飛行の状態となったため,飛行の継続が難しい速度まで減速したものと考えられるとされており (前記イ②),これと異なる認定をすべき根拠となる証拠は見当たらないから,本件飛行機は,このような経緯の下に,その後,墜落したものと認めるのが相当である。 本件事故の態様等は以上のとおりと認められるところ,これによれば,本件機長には,飛行規程において求められるリフトオフ速度未満の低速 で離陸した上,離陸直後においても,速度の低下に対応することを優先して機首下げを行うことをせずに過度な機首上げによる上昇を継続させるという操縦を行った点について過失があったものと認めるのが相当である。 なお,本件事故調 おいても,速度の低下に対応することを優先して機首下げを行うことをせずに過度な機首上げによる上昇を継続させるという操縦を行った点について過失があったものと認めるのが相当である。 なお,本件事故調査報告書においては,本件飛行機は,エンジン出力 が低下していた可能性が考えられるとされ(前記イ⑤,①ⅲ及び ⅳ並びに②),これが本件飛行に影響を及ぼした可能性も考えられるところではあるが,本件飛行機は,平成24年以降,ターボチャージャーの入り口温度であってエンジンの排気温度に相当するTIT計指示器が常用運転範囲を下回っていたのであって(前記イ⑤),本件飛行の時にだけ突然に生じた事象であるとは認められず,本件機長は,本件 飛行以前においても,そのような状態の本件飛行機を操縦していたことに鑑みれば,仮にエンジン出力が低下していた可能性があったとしても,本件機長についての上記の過失の判断が左右されるものではないというべきである。 使用者責任の有無について 以上を踏まえて,控訴人につき,本件機長に係る民法715条1項の規定による使用者責任が認められるか否かについて,以下,検討する。 認定事実のとおり,マリブクラブは小型飛行機の愛好家のための任意団体であるが飛行機を所有しておらず,その会則(3条,9条6項)により,会員は,希望する機体を控訴人から機種毎及び運航形態により定められている料金(本 件飛行機については維持管理費及び人件費の実費相当である1時間当たり9万8400円)を支払って借り受けるとともに,単独飛行ができる場合ではない限り,控訴人の操縦士を同乗させることとなっていたものであるが,本件機長が控訴人に在職しその唯一のパイロットとして控訴人の運航業務に携わっていた当時には,会員の飛行に関する運航 ができる場合ではない限り,控訴人の操縦士を同乗させることとなっていたものであるが,本件機長が控訴人に在職しその唯一のパイロットとして控訴人の運航業務に携わっていた当時には,会員の飛行に関する運航計画も控訴人の従業員である本件機 長において策定していたなどというのであるから,実質的にみれば,控訴人において,他人の需要に応じ,航空機を使用して有償で旅客を運送する事業(航空法2条18項)を経営していたものと認める余地はなかったわけではないというのが相当である。 しかしながら,本件機長がSIPを設立して控訴人を退職した後についてみ ると,SIPは,控訴人から委託を受ける外注業務とは別に新たに顧客を開拓 し,控訴人から賃借した飛行機でフライト営業を行うなど,控訴人の社屋内にSIPの事務所を置いてはいるものの,控訴人からは独立した事業を営んでいたものと認められる上,控訴人から委託されたものとされるマリブクラブに係る外注業務についても,控訴人に対して料金の値上げを申し入れるなど,ある程度対等な立場で交渉をするなどしている。また,控訴人においても,本件機 長が退職する以前には基本給及び職務給のほか飛行手当や休日職務手当等の賃金を本件機長に支払っていたのに対し,本件機長が退職した後には,企業会計上も運航支援の外注費の費目でSIPとの間で定めた1時間当たりの外注費をSIPに宛てて支払うこととしたものである上,会員からフライトに関する連絡があった場合にも,SIPの代表者である本件機長に直接連絡を取るこ とを求め,本件機長と会員との間で運航計画は策定されていたのであって,控訴人はSIPからその連絡を受けてそれを了承するにとどまり,フライト後も,会員に宛てて控訴人名義に係る「航空機貸渡契約書兼請求書」が作成され,同請求書に の間で運航計画は策定されていたのであって,控訴人はSIPからその連絡を受けてそれを了承するにとどまり,フライト後も,会員に宛てて控訴人名義に係る「航空機貸渡契約書兼請求書」が作成され,同請求書に記載された飛行機の使用料等が支払われていたというのである。以上のような事実関係の下においては,控訴人において,本件機長との間に実質的 な指揮監督関係があったと認めることには疑義が残り,また,控訴人と会員との関係も,上記のとおり,マリブクラブの会則に則った小型飛行機の実費相当での貸渡しを基本とするものを超えるものであったとは直ちには認め難いというのが相当であって,本件機長に委託することにより会員を対象として上記の旅客運送事業を経営していたとまで直ちに認めることは困難であるという べきである。 以上によれば,被控訴人の控訴人に対する民法715条1項の規定による使用者責任に基づく請求は理由がないというべきである。 4 民法709条の規定による損害賠償請求権に基づく請求について被控訴人は,控訴人は航空運送事業者(航空法100条1項)であるにもかか わらず,所定の運航管理担当者の設置を怠った過失がある旨を主張して,控訴人 に対し,民法709条の規定に基づく損害の賠償も請求しているところ,前記に判示した事情に照らすと,本件機長が退職しSIPを経営するようになった以降において,控訴人が航空運送事業を経営していたとまでは直ちには認められず,また,本件飛行機の本件飛行の際の離陸重量につき既に認定判断をしたところにも照らすと,控訴人が航空運送事業者であることを前提とする上記の請求も理由 がないというべきである。 5 結論上記2ないし4に認定判断をしたところは,当審における当事者のその余の補充主張によっても,左右される 運送事業者であることを前提とする上記の請求も理由がないというべきである。 主文 上記2ないし4に認定判断をしたところは,当審における当事者のその余の補充主張によっても,左右されるものではない。 以上によれば,原判決は一部不当であり,本件控訴は理由があるから,原判決中控訴人の敗訴部分を取り消し,同部分に係る被控訴人の控訴人に対する各請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第15民事部 裁判官三村義幸 裁判官中丸隆 裁判長裁判官八木一洋は,差支えのため,署名押印することができない。 裁判官三村義幸
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