平成19(行ク)7 執行停止申立て事件(本案・平成19年(行ウ)第14号住民票消除処分差止め請求事件)

裁判年月日・裁判所
平成19年2月20日 大阪地方裁判所 その他
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判決文本文30,304 文字)

主文 本件申立てを却下する。 申立費用は申立人の負担とする。 理由 第1申立ての趣旨大阪市西成区長は,申立人に対し,当裁判所平成▲年(行ウ)第▲号住民票消除処分差止め請求事件の判決確定に至るまで,仮に住民票の消除処分をしてはならない。 第2事案の概要 本案訴訟は,大阪市西成区(以下「西成区」という。)の区長(以下「西成区長」という。)が作成する住民基本台帳に住民として記録されている申立人が,西成区長が住民基本台帳法8条に基づき職権により行おうとしている申立人の住民票の消除処分(以下「本件消除処分」という。)は,違法であって,かつ,本件消除処分がされることにより重大な損害が生ずるおそれがあるなどとして,行政事件訴訟法37条の4第1項に基づき,西成区長は本件消除処分をしてはならない旨を命ずること(本件消除処分の差止め)を求める事案である。 本件申立ては,申立人が,同法37条の5第2項に基づき,本件消除処分がされることにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があるなどとして,本案訴訟の判決確定まで,西成区長は仮に本件消除処分をしてはならない旨を命ずること(本件消除処分の仮の差止め)を求めている事案である。 当事者の主張申立人の主張は,別紙1の1ないし5のとおりであり,相手方の主張は,別紙2の1ないし3のとおりである。 争点 本件の争点は,①本件申立てについて適法な本案訴訟の係属を欠くか,②本件消除処分がされることにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があるか,③本案について理由があるとみえるか,である。 第3当裁判所の判断 法令の定め(1)住民基本台帳法8条は,住民票の記載,消除又は記載の修正(同法18条を除き,以下「記載等」という。)は,同法30条の いて理由があるとみえるか,である。 第3当裁判所の判断 法令の定め(1)住民基本台帳法8条は,住民票の記載,消除又は記載の修正(同法18条を除き,以下「記載等」という。)は,同法30条の2第1項及び第2項,30条の3第3項並びに第30条の4の規定によるほか,政令で定めるところにより,この法律の規定による届出に基づき,又は職権で行うものとする旨規定し,住民基本台帳法施行令(昭和42年政令292号)8条は,市町村長は,その市町村の住民基本台帳に記録されている者が転出をし,又は死亡したときその他その者についてその市町村の住民基本台帳の記録から除くべき事由が生じたときは,その者の住民票(その者が属していた世帯について世帯を単位とする住民票が作成されていた場合にあっては,その住民票の全部又は一部)を消除しなければならないと規定し,同令12条3項は,市町村長は,住民基本台帳に脱漏若しくは誤載があり,又は住民票に誤記若しくは記載漏れがあることを知ったときは,当該事実を確認して,職権で,住民票の記載等をしなければならないと規定する。 また,住民基本台帳法34条1項は,市町村長は,定期に,同法7条に規定する事項について調査をするものとすると規定し,同法34条2項は,市町村長は,同条1項に定める場合のほか,必要があると認めるときは,いつでも同法7条に規定する事項について調査をすることができると規定し,同法34条3項は,市町村長は,同条1項,2項の調査に当たり,必要がある と認めるときは,当該吏員をして,関係人に対し,質問をさせ,又は文書の提示を求めさせることができると規定し,同法14条1項は,市町村長は,その事務を管理し,及び執行することにより,又は同法10条若しくは同法12条,13条の規定による通知若しくは通報若しくは同法34条1項若し させることができると規定し,同法14条1項は,市町村長は,その事務を管理し,及び執行することにより,又は同法10条若しくは同法12条,13条の規定による通知若しくは通報若しくは同法34条1項若しくは2項の調査によって,住民基本台帳に脱漏若しくは誤載があり,又は住民票に誤記若しくは記載漏れがあることを知つたときは,届出義務者に対する届出の催告その他住民基本台帳の正確な記録を確保するため必要な措置を講じなければならないと規定する。 (2)ア公職選挙法9条は,1項において,日本国民で年齢満20年以上の者は,衆議院議員及び参議院議員の選挙権を有すると規定し,2項において,日本国民たる年齢満20年以上の者で引き続き3箇月以上市町村の区域内に住所を有する者は,その属する地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権を有すると規定する。 イ公職選挙法19条1項は,選挙人名簿は,永久に据え置くものとし,かつ,各選挙を通じて一の名簿とすると規定し,同条2項は,市町村の選挙管理委員会(特別区の選挙管理委員会を含む。以下同じ。)は,選挙人名簿の調製及び保管の任に当たるものとし,毎年3月,6月,9月及び12月(以下「登録月」という。)並びに選挙を行う場合に,選挙人名簿の登録を行うものとすると規定する。そして,同法21条1項は,選挙人名簿の登録は,当該市町村の区域内に住所を有する年齢満20年以上の日本国民(同法11条1項若しくは252条又は政治資金規正法28条の規定により選挙権を有しない者を除く。)で,その者に係る登録市町村等(当該市町村及び消滅市町村をいう。)の住民票が作成された日(他の市町村から登録市町村等の区域内に住所を移した者で住民基本台帳法22条の規定により届出をしたものについては,当該届出をした日)から引き続き3箇月以上登録市町村等の住民基本台帳に が作成された日(他の市町村から登録市町村等の区域内に住所を移した者で住民基本台帳法22条の規定により届出をしたものについては,当該届出をした日)から引き続き3箇月以上登録市町村等の住民基本台帳に記録されている者について行うと規 定し,公職選挙法21条4項は,市町村の選挙管理委員会は,政令で定めるところにより,当該市町村の選挙人名簿に登録される資格を有する者を調査し,その者を選挙人名簿に登録するための整理をしておかなければならないと規定する。さらに,同法26条は,市町村の選挙管理委員会は,同法22条の規定により選挙人名簿の登録をした日後,当該登録の際に選挙人名簿に登録される資格を有し,かつ,引き続きその資格を有する者が選挙人名簿に登録されていないことを知つた場合には,その者を直ちに選挙人名簿に登録し,その旨を告示しなければならないと規定する。 公職選挙法27条1項は,市町村の選挙管理委員会は,選挙人名簿に登録されている者が同法11条1項若しくは252条若しくは政治資金規正法28条の規定により選挙権を有しなくなったこと又は当該市町村の区域内に住所を有しなくなったことを知った場合には,直ちに選挙人名簿にその旨の表示をしなければならないと規定し,公職選挙法28条2号は,市町村の選挙管理委員会は,当該市町村の選挙人名簿に登録されている者について,同法27条1項の表示をされた者が当該市町村の区域内に住所を有しなくなった日後4箇月を経過するに至ったときは,これらの者を直ちに選挙人名簿から抹消し,その旨を告示しなければならないと規定する。 そして,同法29条2項は,選挙人は,選挙人名簿に脱漏,誤載又は誤記があると認めるときは,市町村の選挙管理委員会に選挙人名簿の修正に関し,調査の請求をすることができると規定する。 ウ公職選挙法42条1項本文は, 9条2項は,選挙人は,選挙人名簿に脱漏,誤載又は誤記があると認めるときは,市町村の選挙管理委員会に選挙人名簿の修正に関し,調査の請求をすることができると規定する。 ウ公職選挙法42条1項本文は,選挙人名簿又は在外選挙人名簿に登録されていない者は,投票をすることができないと規定し,同項ただし書きは,選挙人名簿に登録されるべき旨の決定書又は確定判決書を所持し,選挙の当日投票所に至る者があるときは,投票管理者は,その者に投票をさせなければならないと規定し,同条2項は,選挙人名簿又は在外選挙人名簿に登録された者であっても選挙人名簿又は在外選挙人名簿に登録されること ができない者であるときは,投票をすることができないと規定し,同法43条は,選挙の当日(同法48条の2の規定による投票にあっては,投票の日),選挙権を有しない者は,投票をすることができないと規定し,公職選挙法施行令(昭和25年政令89号)29条1項は,選挙人名簿に登録されている者は,他の市町村の区域内に住所を移した場合においてなお選挙権を有するときは,当該他の市町村の選挙人名簿に登録されるまでの間,現に選挙人名簿に登録されている市町村において投票をすることができると規定する。そして,公職選挙法44条2項は,選挙人は,選挙人名簿又はその抄本の対照を経なければ,投票をすることができないと規定し,公職選挙法施行令35条1項は,投票管理者は,投票立会人の面前において,選挙人が選挙人名簿に登録されている者であることを選挙人名簿又はその抄本と対照して確認した後に,これに投票用紙を交付しなければならないと規定する。 (3)住民基本台帳法10条は,市町村の選挙管理委員会は,公職選挙法22条1項若しくは2項若しくは26条の規定により選挙人名簿に登録をしたとき,又は同法28条の規定により選挙人 ないと規定する。 (3)住民基本台帳法10条は,市町村の選挙管理委員会は,公職選挙法22条1項若しくは2項若しくは26条の規定により選挙人名簿に登録をしたとき,又は同法28条の規定により選挙人名簿から抹消したときは,遅滞なく,その旨を当該市町村の市町村長に通知しなければならないと規定し,住民基本台帳法15条1項は,選挙人名簿の登録は,住民基本台帳に記録されている者で選挙権を有するものについて行なうものとすると規定し,同条2項は,市町村長は,同法8条の規定により住民票の記載等をしたときは,遅滞なく,当該記載等で選挙人名簿の登録に関係がある事項を当該市町村の選挙管理委員会に通知しなければならないと規定する。 公職選挙法29条1項は,市町村長及び市町村の選挙管理委員会は,選挙人の住所の有無その他選挙資格の確認に関し,その有している資料について相互に通報しなければならないと規定する。 (4)住民基本台帳法38条1項は,地方自治法252条の19第1項の指定都 市に対するこの法律の規定の適用について,政令で定めるところにより,区を市と,区の区域を市の区域と,区長を市長とみなすと規定し,同条2項は,前項に定めるもののほか,指定都市に対するこの法律の規定の適用については,政令で特別の定めをすることができると規定する。なお,大阪市は,地方自治法第252条の19第1項の指定都市の指定に関する政令(昭和31年政令254号)の定める指定都市であり,西成区は大阪市の地方自治法252条の20にいう区である。 前提となる事実(争いのない事実及び疎明資料により容易に一応の認定のできる事実)(1)ア申立人は,平成10年1月26日,大阪市民となり,平成16年11月15日,西成区長に対し,同日に「大阪市α×番23号βγ」(以下「γ」という。)に転入した旨の に一応の認定のできる事実)(1)ア申立人は,平成10年1月26日,大阪市民となり,平成16年11月15日,西成区長に対し,同日に「大阪市α×番23号βγ」(以下「γ」という。)に転入した旨の届出をし,西成区長は,申立人について,同所を住所とする住民票を調製した。申立人は,平成17年9月13日,西成区長に対し,同日にγから「大阪市α×番17号δ×××号室」に転居した旨の届出をしたが,同年11月14日,同月13日にγに転居した旨の届出をし,区長は,いずれについても,申立人の住民票に届出に従った記載をし,現在,申立人に係る住民票にはγの所在地が住所として記載されている。 イγの所在地が住所として記載された住民票により住民基本台帳に記録されている者は3000人を超えている。 (2)ア大阪市ε付近の地域(βと呼ばれる。)には,建設現場等での日雇労働に従事する者のための簡易宿所が多数存在しており,これらの労働者の多くは,簡易宿所に宿泊しながら当該地域において求職活動を行った上,大阪近郊ないし遠方の建設現場等で稼働し,遠方の建設現場で稼働する際には,簡易宿所を出て,いわゆる飯場生活を送り,当該建設現場等での仕事が終了すれば,簡易宿所に戻るという態様の生活を営んでいる(以下,こ のような労働者を「建設労働者」ということがある。)。 イ継続的かつ安定的な住居を持たない上記の建設労働者のうちには,γの所在地を住所として西成区長に転入届ないし転居届をし,西成区長からその旨の住民票の記載を受けて住民基本台帳に記録されている者が相当数存在している。 ウ(ア)γは,敷地約44平方メートル上に建てられた鉄骨陸屋根造5階建て建物であり,延べ床面積173.62平方メートルである。家屋の種類は店舗と居住用住宅であり,1階床面積は34.72平方メートル, ア)γは,敷地約44平方メートル上に建てられた鉄骨陸屋根造5階建て建物であり,延べ床面積173.62平方メートルである。家屋の種類は店舗と居住用住宅であり,1階床面積は34.72平方メートル,住宅面積は139.68平方メートルである(疎甲2の1,疎乙8)。 γ1階はA労働組合の事務所と炊出し場所として,同会館2階は事務所として,同会館3階ないし5階は各階3間に区切って居住用スペースとして使用されている(疎乙8,申立人の陳述)。 γ1階のA労働組合事務所には,事務員が常駐して,γ周辺の簡易宿所に居住する建設労働者らに対し,同人らあての郵便物の配送を受けて保管し,同人らが訪れた際に交付する業務を行っている(申立人本人審尋の結果)。 (3)ア(ア)平成19年1月22日の大阪市の執行会議において,γに生活の本拠がないにもかかわらずγの所在地を住所として記載された住民票により住民基本台帳に記録されている者について,居住実態を調査の上,住民票の消除等を含めて住民基本台帳の適正化を図ることが確認されたことを受けて,同月24日,西成区の担当職員は,居住実態の調査,相談窓口の開設の告知等を内容とする「お知らせ」と題する書面(疎乙9)を持参して,調査のためγに赴いたが,担当職員は,γの前に参集していた多数の者に取り囲まれたため,「お知らせ」を読み上げたのみで,実地調査を実施することはできなかった。同月25日,担当職員は,γを住所として住民基本台帳に登録されている者に同年2月1日までに居 住の実態の届出を求めるとともに相談窓口の開設を告知する届出催告書(疎乙10,11)を交付するためγに赴いたが,γ前に参集していた多数の者に阻止されたため,これを交付することができなかった。そこで,西成区長は,同年1月26日,前記届出催告書をγにあてて郵送したが, 乙10,11)を交付するためγに赴いたが,γ前に参集していた多数の者に阻止されたため,これを交付することができなかった。そこで,西成区長は,同年1月26日,前記届出催告書をγにあてて郵送したが,同月29日,γに届いた上記届出催告書を支援者と思われる者が大阪市西成区役所(以下「西成区役所」という。)に置いて帰った。 (イ)西成区長は,平成19年1月26日から同年2月9日まで,同月1日及び土日を除いて,西成区役所に,相談者の居住実態の聴き取り及び相談者が受けている行政サービスに関する相談を受け付ける相談窓口を設けて,職員に相談に当たらせ,延べ255人が相談に訪れた。同相談窓口については,上記届出催告書に記載したほか,周知用ポスターを関係各所に掲示した(争いのない事実)。 (ウ)西成区長は,平成19年2月2日,同月9日までに居住の実態についての届出をするよう求める届出催告書(再催告)(疎乙12)をγにあてて郵送したが,支援者と思われる者が,同月7日,γに届いた上記届出催告書(再催告)を西成区役所に置いて帰った。 (エ)西成区長は,平成19年2月10日付けで,γを住所として住民基本台帳に登録されている者に対し,γに居住しているのであれば,土日を除く同月13日から20日の間に,西成区役所住民情報課に連絡するよう求める居住確認照会書(疎乙13)を送付した。 (オ)大阪市住民基本台帳事務処理要領(疎乙7。以下「事務処理要領」という。)第4章は,居住確認照会書を送付した本人等から連絡がない場合には,住民票消除予告書を送付し,これに対してもなお連絡がない場合には,その者の住民票を職権により消除するとしている。 (4)大阪市においては,大阪市議会議員の一般選挙及び大阪府議会議員の一般選挙が告示日を平成19年3月30日,投票日を同年4月8日として実 場合には,その者の住民票を職権により消除するとしている。 (4)大阪市においては,大阪市議会議員の一般選挙及び大阪府議会議員の一般選挙が告示日を平成19年3月30日,投票日を同年4月8日として実施さ れる予定である(公知の事実)。 本件申立てについて適法な本案訴訟の係属を欠くか(争点①)(1)仮の差止めの申立てと適法な本案訴訟の係属相手方は,仮の差止めが認められるためには,本案訴訟である差止めの訴えが適法に係属していなければならないところ,本件消除処分がされることにより重大な損害を生ずるおそれがあるとは認められず,また,その損害を避けるため他に適当な方法があると認められるから,本案訴訟は不適法であり,したがって,本件仮の差止めの申立ては適法な本案訴訟の係属を欠き不適法である旨主張する。 行政事件訴訟法37条の5第2項は,差止めの訴えの提起があった場合において,その差止めの訴えに係る処分又は裁決がされることにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があり,かつ,本案について理由があるとみえるときは,裁判所は,申立てにより,決定をもって,仮に行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることができる旨規定している。同項の規定の文言に加えて,同項の仮の差止めの制度は,差止めの訴えの本案判決の確定を待っていたのでは償うことのできない損害を生ずるおそれがある場合に迅速かつ実効的な権利利益の救済を可能にするため,一定の要件の下で,行政庁が当該処分をすることを事前に仮に差し止める仮の救済の制度として法定されたものである趣旨に照らすと,仮の差止めの申立ては,本案訴訟である差止めの訴えが適法な訴えとして提起されていることをその適法要件としていると解される。 (2)本案訴訟と「重大な損害を生ずるおそれ」の有無ア相手方は らすと,仮の差止めの申立ては,本案訴訟である差止めの訴えが適法な訴えとして提起されていることをその適法要件としていると解される。 (2)本案訴訟と「重大な損害を生ずるおそれ」の有無ア相手方は,本件消除処分により申立人は確定的に選挙権を行使することができなくなるものではないから,本件消除処分がされることにより重大な損害を生ずるおそれがない旨主張する。 イ住民基本台帳制度は,市町村(特別区を含む。以下同じ。)において, 住民の居住関係の公証,選挙人名簿の登録その他の住民に関する事務の処理の基礎とするとともに住民の住所に関する届出等の簡素化を図り,あわせて住民に関する記録の適正な管理を図るため,住民に関する記録を正確かつ統一的に行うことを目的とする制度として規定され(住民基本台帳法1条),住民票には,選挙人名簿に登録された者についてはその旨を記載するものとされ(同法7条9号),前記のとおり,市町村の選挙管理委員会は,公職選挙法22条1項若しくは2項若しくは26条の規定により選挙人名簿に登録したとき又は同法28条の規定により選挙人名簿から抹消したときは,遅滞なく,その旨を当該市町村の市町村長に通知しなければならないものとされ(住民基本台帳法10条),選挙人名簿の登録は,住民基本台帳に記録されている者で選挙権を有するものについて行うものとされ(同法15条1項),市町村長は,同法8条の規定により住民票の記載等(住民票の記載,消除又は記載の訂正をいう。)をしたときは,遅滞なく,当該記載等で選挙人名簿の登録に関係がある事項を当該市町村の選挙管理委員会に通知しなければならないとされている(同法15条2項)。 また,公職選挙法21条1項は,選挙人名簿の登録は,当該市町村の区域内に住所を有する年齢満20年以上の日本国民で,その者に係る登録市町 委員会に通知しなければならないとされている(同法15条2項)。 また,公職選挙法21条1項は,選挙人名簿の登録は,当該市町村の区域内に住所を有する年齢満20年以上の日本国民で,その者に係る登録市町村等(当該市町村及び消滅市町村をいう。)の住民票が作成された日(他の市町村から登録市町村等の区域内に住所を移した者で住民基本台帳法22条の規定により届出をしたものについては,当該届出をした日)から引き続き3箇月以上登録市町村等の住民基本台帳に記録されている者について行う旨規定し,同法42条1項は,選挙人名簿又は在外選挙人名簿に登録されていない者は,投票をすることができないが,ただし,選挙人名簿に登録されるべき旨の決定書又は確定判決書を所持し,選挙の当日投票所に至る者があるときは,投票管理者は,その者に投票をさせなければならない旨規定し,同条2項は,選挙人名簿又は在外選挙人名簿に登録された 者であっても選挙人名簿又は在外選挙人名簿に登録されることができない者であるときは,投票をすることができない旨規定している。 以上によれば,住民票の調製は選挙人名簿への登録を通じて選挙権の行使という法的効果をもたらす行政処分であるということができる。 他方,前記のとおり,公職選挙法27条1項は,市町村の選挙管理委員会は,選挙人名簿に登録されている者が当該市町村の区域内に住所を有しなくなったことを知った場合には,直ちに選挙人名簿にその旨の表示をしなければならないものと規定し,同法28条2号は,同法27条1項の表示をされた者が当該市町村の区域内に住所を有しなくなった日後4箇月を経過するに至ったときは,その者を直ちに選挙人名簿から抹消しなければならない旨規定している。また,同法29条1項は,市町村長及び市町村の選挙管理委員会は,選挙人の住所の有無その他選挙資格の 4箇月を経過するに至ったときは,その者を直ちに選挙人名簿から抹消しなければならない旨規定している。また,同法29条1項は,市町村長及び市町村の選挙管理委員会は,選挙人の住所の有無その他選挙資格の確認に関し,その有している資料について相互に通報しなければならない旨規定している。 ところで,公職選挙法21条1項にいう選挙人名簿の被登録資格を生じさせるための住民基本台帳の記録は,記録された者が実際に当該市町村の住民であるという事実に基づいた正当なものであることが必要であり,住民基本台帳法22条の規定による転入の届出をして引き続き3箇月以上当該市町村の住民基本台帳に記録されている者であっても,現実に当該市町村の区域内に住所を移して引き続き3箇月以上同区域内に住所を有していないときは,当該市町村の選挙人名簿の被登録資格を取得しない(最高裁昭和58年(行ツ)第32号同年12月1日第一小法廷判決・民集37巻10号1465頁)。その趣旨等からすれば,公職選挙法27条1項にいう選挙人名簿に登録されている者が当該市町村の区域内に住所を有しなくなったことを知った場合とは,当該市町村の選挙管理委員会においてその者が現実に当該市町村の区域内に住所を有しなくなったことを知った場合 をいい,その者に係る住民票の消除がされた場合であっても,その者が現実に当該市町村の区域内に住所を有していると認められる限り,同項の規定による表示をすることはできず,逆に,その者に係る住民票が消除されていない場合であっても,その者が現実に当該市町村の区域内に住所を有しなくなったことを知ったときは,同項の規定による表示をすべきものと解される。 しかしながら,疎乙1,6等によれば,事務処理上は,市町村選挙管理委員会による公職選挙法27条1項の規定による住所を有しなくなった旨の表示 ったときは,同項の規定による表示をすべきものと解される。 しかしながら,疎乙1,6等によれば,事務処理上は,市町村選挙管理委員会による公職選挙法27条1項の規定による住所を有しなくなった旨の表示は,住民基本台帳法15条2項,公職選挙法29条1項の規定に基づく市町村長からの住民票の消除の通知に基づいて行う取扱いがされている事実が認められる。そして,同法27条1項の規定による住所を有しなくなった旨の表示がされた場合,当該表示に係る者は,同法28条2号の規定により選挙人名簿から抹消されるまでの間,衆議院議員及び参議院議員の選挙権を有するが(同法9条1項,42条1項参照),その者が属する地方公共団体の議会の議員及び長の選挙については,同法9条2項が「引き続き3箇月以上市町村の区域内に住所を有する」ことを選挙権の要件として規定し,また,同法43条が選挙の当日(同法48条の2の規定による期日前投票にあっては,投票の当日)選挙権を有しない者は投票をすることができない旨規定していることから,選挙の当日(又は投票の当日)当該市町村の区域内に現実に住所を有していることが証明されない限り,投票することができず(ただし,当該市町村の区域内から引き続き同一都道府県の区域内の他の市町村の区域内に住所を移したものは,当該都道府県の議会の議員及び長の選挙権を引き続き有する。同法9条4項),市町村の議会の議員又は長の選挙において,投票管理者その他の投票事務従事者は,投票に来た者が同法27条1項の規定による住所を有しない旨の表示がされている場合には,選挙権の要件としての住所要件(同法9条 2項)を欠くものとして,その投票を拒否する義務があり,当該表示が誤っていることなどを明らかにする資料の提示等があることによってその住所要件の存在を確認し得るというような特別の 要件(同法9条 2項)を欠くものとして,その投票を拒否する義務があり,当該表示が誤っていることなどを明らかにする資料の提示等があることによってその住所要件の存在を確認し得るというような特別の事情がある場合にのみ,その投票を許すことができるものとされている(最高裁昭和48年(行ツ)第50号同年10月11日第一小法廷判決・民集27巻9号1148頁参照)。さらに,同法28条2号の規定により選挙人名簿から抹消されると,その者は,同法42条1項の規定により,選挙人名簿に登録されるべき旨の決定書又は確定判決書を所持して選挙の当日投票所に至らない限り,すべての選挙において投票をすることができなくなる。 以上のとおり,住民票の消除がされると,住民基本台帳法15条2項,公職選挙法29条1項の規定に基づく市町村長からの通知に基づいて同法27条1項の規定による住所を有しなくなった旨の表示がされ,その後さらに同法28条2号の規定により選挙人名簿から抹消されることにより,その者の選挙権の行使が制限されることになるところ,住民票の消除は同法27条1項の規定による住所を有しなくなった旨の表示をするための法律上の要件とはされていない。しかしながら,住民票の消除は,住民基本台帳法24条に基づく転出届等に基づき又は職権によりその者が市町村の区域内に住所を有しなくなったものと認めて行うものであり,同法上,市町村長は,その事務を管理し,及び執行することにより,又は同法10条,12条の3若しくは13条の規定による通知若しくは通報若しくは同法34条1項若しくは2項の調査によって住民基本台帳に脱漏若しくは誤載があり又は住民票に誤記若しくは記載漏れがあることを知ったときは届出義務者に対する届出の催告その他住民基本台帳の正確な記録を確保するため必要な措置を講じなければならな 住民基本台帳に脱漏若しくは誤載があり又は住民票に誤記若しくは記載漏れがあることを知ったときは届出義務者に対する届出の催告その他住民基本台帳の正確な記録を確保するため必要な措置を講じなければならない(14条1項)などとされていることからすれば,住民票の消除がされた者は当該市町村の区域内に住所を有しなくなった高度の蓋然性が存するということができる上,住民基本台帳法 15条2項,公職選挙法29条1項の各規定に照らすと,同法は住民基本台帳法15条2項に基づく市町村長からの住民票の消除の通知に基づいて当該市町村の選挙管理委員会が選挙人名簿に公職選挙法27条1項の規定による住所を有しなくなった旨の表示をすることを予定しているものということができる。そうであるとすれば,住民票の消除は,選挙権の行使の制限という法的効果をもたらす行政処分ということができる。 ウ以上のとおり,ある者について住民票の消除がされると,住民基本台帳法15条2項に基づく市町村長からの住民票の消除の通知に基づいて当該市町村の選挙管理委員会によりその者について選挙人名簿に公職選挙法27条1項の規定による住所を有しなくなった旨の表示がされ,さらに,その者が当該市町村の区域内に住所を有しなくなった日後4箇月を経過するに至ったときは,当該市町村の選挙管理委員会により同法28条2号の規定に基づき選挙人名簿から抹消されることとなる結果,その者は,同法42条1項の規定により,選挙人名簿に登録されるべき旨の決定書又は確定判決書を所持して選挙の当日投票所に至らない限り,すべての選挙において投票をすることができなくなる。また,上記選挙人名簿からの抹消がされる前においても,前記のとおり,その者は,少なくとも市町村の議会の議員又は長の選挙において,当該住所を有しなくなった旨の表示が誤っている することができなくなる。また,上記選挙人名簿からの抹消がされる前においても,前記のとおり,その者は,少なくとも市町村の議会の議員又は長の選挙において,当該住所を有しなくなった旨の表示が誤っていることなどを明らかにする資料の提示等があることによってその住所要件の存在を確認し得るというような特別の事情がある場合を除いて,選挙権の要件としての住所要件(同法9条2項)を欠くものとして,投票することができなくなる。そして,住民票の消除をされた者がその選挙権の行使を確保するための方法としては,上記資料の提示等をすることによって特別の事情の存在を証明することのほか,市町村長に対し当該市町村の区域内に住所を有していることを証明して職権による住民票の回復(住民票の消除の職権による取消しと解される。)を受けること又は選挙管理委員 会に対し上記の証明をして同法27条1項の規定による住所を有しなくなった旨の表示の抹消若しくは同法28条2号の規定による選挙人名簿からの抹消の取消しを受けることが考えられる(疎乙1ないし3,17参照)。 ところで,大阪市議会議員及び大阪府議会議員の各任期満了日はいずれも平成19年4月29日とされており(公知の事実),これらの議員の各任期が終わる日の前30日以内に任期満了による一般選挙を行うものとされ(公職選挙法33条1項),大阪市議会議員の一般選挙及び大阪府議会議員の一般選挙の期日(投票日)として同年4月8日が予定されている(公知の事実)。また,参議院議員(半数)の任期満了は同年7月28日とされており(公知の事実),原則としてその任期が終わる日の前の30日以内に通常選挙を行うものとされている(同法32条1項)。大阪市議会議員の一般選挙等の期日を同年4月8日とした場合,同法33条5項3号により少なくともその9日前にその期日を 期が終わる日の前の30日以内に通常選挙を行うものとされている(同法32条1項)。大阪市議会議員の一般選挙等の期日を同年4月8日とした場合,同法33条5項3号により少なくともその9日前にその期日を告示しなければならず(前記のとおり,告示日として同年3月30日が予定されている。),当該告示があった日の翌日から選挙の期日の前日までの間同法48条の2の規定による期日前投票を行うことができることになる。 しかるところ,前記前提となる事実に加えて疎甲3ないし5,疎甲10の1,疎乙8ないし13,17によれば,申立人の住民票に記載されている住所である大阪市α×番23号βγ(γの所在地)を住所として住民基本台帳に記録されている者は3000人を超えていること,平成19年1月22日の大阪市の執行会議において,これらの者について事務処理要領に従い実地調査等を行った上で住民票の消除等を含めて住民基本台帳の適正化を図ることが確認されたこと,これを受けて,同年1月24日,西成区の担当職員は,大阪市として今後居住実態について居住者等から聴取するなどして確認し法令に則して同年3月上旬までには住民登録の適正化を図っていきたいと考えている旨記載した同日付け「お知らせ」と題する通 知を持参して,調査のためγに赴いたが,γ前に参集していた多数の者に阻止されたため,実地調査を実施することができなかったこと,同月25日,西成区の担当職員は,「住民登録は,居住しているところに届出いただく必要がありますが,あなたの居住の実態確認ができていないので,当区役所までご連絡をお願いします。」などと記載され届出の期限を同年2月1日までとする届出催告書をγを住所として住民基本台帳に記録されている者に交付するため届出催告書を持参してγに赴いたが,γ前に参集していた多数の者に阻止されたため などと記載され届出の期限を同年2月1日までとする届出催告書をγを住所として住民基本台帳に記録されている者に交付するため届出催告書を持参してγに赴いたが,γ前に参集していた多数の者に阻止されたため,これを交付することができなかったので,西成区長は,同月26日,γにあてて届出催告書を郵便で発送したが,同月29日,γに届いた届出催告書が支援者と思われる者により西成区役所に置いて帰られたこと,同年2月2日,西成区長は,「住民登録は,居住しているところに届出いただく必要があります。先に届出催告書を送付いたしましたが,現在も届出いただいておりません。あなたの居住の実態確認ができていないので,当区役所までご連絡をお願いします。」などと記載され届出の期限を同月9日までとする届出催告書(再催告)をγにあてて郵送したが,同月7日,γに届いた届出催告書(再催告)が支援者と思われる者により西成区役所に置いて帰られたこと,そこで,西成区長は,事務処理要領に基づき,γに居住しているのであればその旨同月13日から同月20日までに西成区役所住民情報課に連絡するよう記載した同月10日付け居住確認照会書をγを住所として住民基本台帳に記録されている者にあてて送付したこと,事務処理要領によれば,居住確認照会書を送付した本人等から連絡がない場合は,居住の有無につき再度連絡を促すとともに連絡がないときは住民票を消除する旨を記載した住民票消除予告書を送付し,それでも連絡がないときに職権による住民票の消除を行うこととされていること,申立人は,本案訴訟において,申立人についてはγを住所とする住民票の記載がされるべきであると主張していること,以上の事 実が一応認められる。 以上認定の経過事実に加えて,前記のとおり,大阪市議会議員の一般選挙等の期日(投票日)として平成19年4月 とする住民票の記載がされるべきであると主張していること,以上の事 実が一応認められる。 以上認定の経過事実に加えて,前記のとおり,大阪市議会議員の一般選挙等の期日(投票日)として平成19年4月8日が予定されていること,選挙の当日(公職選挙法48条の2の規定による期日前投票にあっては投票の当日)選挙権を有しない者は投票をすることができず(同法43条),選挙権を有しない者の投票は無効であって少なくとも当選無効の原因となることにもかんがみると,早ければ同年3月上旬ころ申立人について職権による住民票の消除(本件消除処分)がされる蓋然性が高いと認められる。 そして,申立人について職権による住民票の消除(本件消除処分)がされた場合,住民基本台帳法15条2項等に基づく市町村長からの住民票の消除の通知に基づいて大阪市選挙管理委員会により選挙人名簿に公職選挙法27条1項の規定による住所を有しなくなった旨の表示がされることとなって,申立人は,当該表示が誤っていることなどを明らかにする資料の提示等があることによってその住所要件の存在を確認し得るというような特別の事情がない限り,大阪市議会議員の一般選挙に投票することができなくなる。 この点,相手方は,申立人は,従来から大阪市内の簡易宿所に居住しており,今後も大阪市内の簡易宿所に生活の本拠を置くというのであれば,そのことを証明し,住民票の職権回復を受け,当該簡易宿所への転居届を提出して,選挙人名簿の表示又は抹消の取消しを受けることにより,今後1年間に行われるすべての国政選挙及び地方選挙において選挙権を行使することが可能であるなどと主張する。確かに,後に説示するとおり,申立人は,γの所在地を生活の本拠としているとは認められないものの,大阪市α×番地に所在する特定の2,3軒の簡易宿所に1年のうち5割ないし とが可能であるなどと主張する。確かに,後に説示するとおり,申立人は,γの所在地を生活の本拠としているとは認められないものの,大阪市α×番地に所在する特定の2,3軒の簡易宿所に1年のうち5割ないし6割くらいの期間宿泊し,βにおいて求職活動を行った上大阪近郊ないし遠方の建設現場で日雇いの仕事に従事しており,遠方の建設現場の仕事に 従事する際にはその間簡易宿所を出ていわゆる飯場生活を送ることになるが,週末や仕事がないときなどは上記の簡易宿所に戻って来ており,継続してβに戻らない期間は長くて1箇月であるというのであって,申立人の生活の本拠は上記簡易宿所の所在地にあると認める余地があるところ,相手方の主張によれば,複数の簡易宿所を移動している場合であっても,主たる拠点と評価することができる簡易宿所がある場合には,当該簡易宿所を生活の本拠と認めて,当該簡易宿所の所在地及び名称を住所として住民票に記載する方法で住民基本台帳に記録する余地もあることがうかがわれる。 しかしながら,相手方の主張によっても,今回のγにおける大量の住民票消除処分の経過について簡易宿所業者の組合に対して説明を行っており,今後,簡易宿所における居住実態を明らかにするための何らかのルール作りについて,簡易宿所業者の組合と調整を進めているところであるというのであり,このような状況の下においては,本件消除処分がされた後大阪市議会議員の一般選挙等の投票日までに,申立人が簡易宿所の所在地に住所を有するものとして職権による住民票の回復を受け又は選挙管理委員会により公職選挙法27条1項の規定による住所を有しなくなった旨の表示の抹消を確実に受けることができるとはにわかに認め難く,また,上記選挙の際に申立人において投票事務従事者に対し投票が認められるために必要な当該表示が誤っていること による住所を有しなくなった旨の表示の抹消を確実に受けることができるとはにわかに認め難く,また,上記選挙の際に申立人において投票事務従事者に対し投票が認められるために必要な当該表示が誤っていることを明らかにする資料の提示等を行うことが容易であるとも認め難い。 そうであるとすれば,本件消除処分がされた場合,申立人は少なくとも大阪市議会議員の一般選挙において選挙権を行使することが極めて困難になるといわざるを得ないのであり,本件消除処分により憲法15条1項,3項,93条2項等によって保障されている申立人の選挙権を行使する権利が侵害されるというべきである。そして,選挙権は,上記のとおり憲法 によって保障され,自ら選挙の公正を害する行為をした者等の選挙権について一定の制限をすることは別として,当該権利又はその行使を制限することが原則として許されない国民の重要な権利であるにとどまらず,これを行使することができなければ意味がないものといわざるを得ず,侵害を受けた後に争うことによっては権利行使の実質を回復することができない性質のものであることにかんがみると,本件消除処分がされることにより重大な損害を生ずるおそれがあるというべきである。 エ相手方は,申立人が統一地方選挙等において選挙権を行使することができないという損害は,本件消除処分により生じるものではなく,後続処分として選挙管理委員会において行われる選挙人名簿への住所を有しなくなった旨の表示又は同名簿からの抹消処分が行われた場合に初めて生ずる損害であるから,行政事件訴訟法25条2項の規定と対比しても,同法37条の4第1項にいう「重大な損害」には該当しないなどと主張する。 しかしながら,前記イにおいて説示したとおり,選挙人名簿に公職選挙法27条1項の規定による住所を有しなくなった旨の表示がされ又 同法37条の4第1項にいう「重大な損害」には該当しないなどと主張する。 しかしながら,前記イにおいて説示したとおり,選挙人名簿に公職選挙法27条1項の規定による住所を有しなくなった旨の表示がされ又はその後さらに同法28条2号の規定により選挙人名簿から抹消されることにより選挙権の行使が制限されることは,住民票の消除処分の法的効果と解されるのであり,事前の救済方法として差止めの訴えを新たに法定した趣旨からしても,住民票の消除処分の法的効果と解される選挙権の行使の制限がそもそも行政事件訴訟法37条の4第1項にいう「重大な損害」には該当しないと解することはできない。 もっとも,一定の処分又は裁決がされることにより損害を生ずるおそれがある場合であっても,当該損害がその処分又は裁決の取消しの訴えを提起して行政事件訴訟法25条2項に基づく執行停止を受けることにより避けることができるような性質のものであるときは,同法37条の4第1項にいう「一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそ れがある場合」には該当しないものと解すべきである。すなわち,行政事件訴訟法は,差止めの訴えは,行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において,一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り,提起することができるものとし(3条7項,37条の4第1項),ただし,その損害を避けるため他に適当な方法があるときは,この限りでないと規定している(同項ただし書)。平成16年法律第84号による行政事件訴訟法の改正により抗告訴訟の新たな訴訟類型として同法3条7項所定の差止めの訴えが定められた趣旨は,処分又は裁決がされた後に当該処分の取消しの訴えを提起し,当該処分又は裁決について同法25条に基づく 訟法の改正により抗告訴訟の新たな訴訟類型として同法3条7項所定の差止めの訴えが定められた趣旨は,処分又は裁決がされた後に当該処分の取消しの訴えを提起し,当該処分又は裁決について同法25条に基づく執行停止を受けたとしても,それだけでは十分な権利利益の救済が得られない場合があることにかんがみ,処分又は裁決の取消しの訴えによる事後救済に加えて,行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において,事前の救済方法として,一定の要件の下で行政庁が当該処分又は裁決をすることを事前に差し止める訴訟類型を新たに法定することにより,国民の権利利益の救済の実効性を高めることにあるものと解される。そして,同法37条の4第1項が差止めの訴えは一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り提起することができるものと規定した趣旨は,差止めの訴えが,取消訴訟とは異なり,処分又は裁決がされる前に,行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を裁判所が命ずることを求める事前救済のための訴訟類型であることにかんがみ,事前救済を認めるにふさわしい救済の必要性を差止めの訴えの適法要件として規定することにより,司法と行政の適切な役割分担を踏まえつつ行政に対する司法審査の機能を強化し国民の権利利益の実効的な救済を図ることにあると解される。これらの趣旨からすれば,同項にいう「一定の処分又は裁決がされることにより重大な 損害を生ずるおそれがある場合」とは,それを避けるために事前救済としての当該処分又は裁決をしてはならないことを命ずる方法による救済が必要な損害を生ずるおそれがある場合をいうものと解されるのであって,一定の処分又は裁決がされることにより損害を生ずるおそれがある場合であっても,当該損害がその処分又 ないことを命ずる方法による救済が必要な損害を生ずるおそれがある場合をいうものと解されるのであって,一定の処分又は裁決がされることにより損害を生ずるおそれがある場合であっても,当該損害がその処分又は裁決の取消しの訴えを提起して同法25条2項に基づく執行停止を受けることにより避けることができるような性質のものであるときは,同法37条の4第1項にいう「一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合」には該当しないものと解すべきである。 しかるところ,前記認定事実によれば,本件消除処分は,早ければ平成19年3月上旬ころにはされる可能性が認められ,遅くとも大阪市議会議員の一般選挙の告示日までに行われる蓋然性が高いと認められるものの,その具体的な時期は定かではない。このことに加えて,前記のとおり,本件消除処分によって侵害される権利(選挙権)は,当該権利又はその行使を制限することが原則として許されない国民の重要な権利であるにとどまらず,これを行使することができなければ意味がないものといわざるを得ず,侵害を受けた後に争うことによっては権利行使の実質を回復することができない性質のものであること及び申立人について公職選挙法48条の2の規定による期日前投票を行う機会の確保の必要性をも考えると,本件消除処分がされることにより生ずるおそれがある申立人の選挙権の行使の制限は,少なくとも現時点においては,本件消除処分の取消しの訴えを提起して同法25条2項に基づく執行停止を受けることにより避けることができるような性質のものであるということはできない。 オ以上検討したところによれば,本件消除処分がされることにより重大な損害を生ずるおそれがあると認められるから,本案訴訟は行政事件訴訟法37条の4第1項にいう「一定の処分又は裁決がされることに い。 オ以上検討したところによれば,本件消除処分がされることにより重大な損害を生ずるおそれがあると認められるから,本案訴訟は行政事件訴訟法37条の4第1項にいう「一定の処分又は裁決がされることにより重大な 損害を生ずるおそれがある場合」の要件を満たすものというべきである。 のみならず,以上説示したところによれば,本件申立ては,同法37条の5第2項にいう「その差止めの訴えに係る処分又は裁決がされることにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があり」の要件をも満たすものというべきである。 (3)本案訴訟と「その損害を避けるため他に適当な方法があるとき」相手方は,公職選挙法は,選挙管理委員会に選挙人名簿の記載の修正及び訂正義務並びに被登録資格を有しない者の抹消義務を課しているとともに,選挙人名簿の抄本閲覧制度や選挙管理委員会の名簿修正に関する調査請求制度を設けており,選挙人が既登録者の選挙人名簿への誤載について是正を求める方法も用意しているのであるから,行政事件訴訟法37条の4第1項ただし書にいう「その損害を避けるため他に適当な方法があるとき」に該当する旨主張する。 しかしながら,公職選挙法29条2項の規定は,選挙人に対し市町村の選挙管理委員会に選挙人名簿の修正に関し調査の請求をする権利を認めるにとどまり,選挙管理委員会に対し調査の上必要な修正をすることを請求する権利まで付与するものではないことからしても,同項の規定する調査の請求制度をもって行政事件訴訟法37条の4第1項ただし書にいう「その損害を避けるため他に適当な方法があるとき」に当たるということができないことは明らかである。 また,相手方は,申立人は,選挙後,公職選挙法202条に基づき異議の申出又は審査の申立てを行い,同法203条の規定による選挙の効力に関する るとき」に当たるということができないことは明らかである。 また,相手方は,申立人は,選挙後,公職選挙法202条に基づき異議の申出又は審査の申立てを行い,同法203条の規定による選挙の効力に関する訴訟を提起することができる旨主張するが,選挙権はこれを行使することができなければ意味がないものといわざるを得ず,侵害を受けた後に争うことによっては権利行使の実質を回復することができない性質のものであることなど以上説示したところにかんがみると,このような選挙後の異議の申出, 審査の申立てないし選挙訴訟の制度をもって行政事件訴訟法37条の4第1項ただし書にいう「その損害を避けるため他に適当な方法があるとき」に当たるということができないことも明らかである。 なお,公職選挙法24条及び25条は,選挙人名簿の登録に関し不服がある選挙人についての異議の申出及び訴訟の制度を規定しているが,同法27条1項の規定による選挙人名簿への住所を有しなくなった旨の表示及び同法28条2号の規定による選挙人名簿からの抹消は,いずれも,同法24条1項の規定による異議の申出の対象とならず,したがって,同法25条1項の規定による訴訟の対象ともならないから,これらの制度をもって行政事件訴訟法37条の4第1項ただし書にいう「その損害を避けるため他に適当な方法があるとき」に当たるということができないことも明らかである。また,他に本案訴訟について行政事件訴訟法37条の4第1項にいうその損害を避けるための他に適当な方法を見いだすこともできない。 (4)以上によれば,本件申立てについて適法な本案訴訟の係属を欠く旨の相手方の主張を採用することはできない。 本件消除処分がされることにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があるか(争点②)前記3(2)オにおいて説示した 案訴訟の係属を欠く旨の相手方の主張を採用することはできない。 本件消除処分がされることにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があるか(争点②)前記3(2)オにおいて説示したとおり,本件申立てについては,行政事件訴訟法37条の5第2項にいう「その差止めの訴えに係る処分又は裁決がされることにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があり」の要件を満たすものというべきである。 本案について理由があるとみえるか(争点③)(1)申立人の住民基本台帳法にいう住所ア住民基本台帳法4条は,住民の住所に関する法令の規定の解釈は,地方自治法10条1項に規定する住民の住所と異なる意義の住所を定めるものと解釈してはならないと規定し,同項は,市町村の区域内に住所を有する 者は,当該市町村及びこれを包括する都道府県の住民とすると規定する。 そこで,地方自治法10条1項にいう住所の意義について検討するに,およそ法令において人の住所につき法律上の効果を規定している場合,反対の解釈をすべき特段の事由のない限り,その住所とは各人の生活の本拠(民法22条参照)を指すものと解されるところ,地方自治法10条1項にいう住所は,これと別異に解すべき特段の事由は見いだせない。したがって,同項にいう住所とは,生活の本拠,すなわち,その者の生活に最も関係の深い一般的生活,全生活の中心を指すものであり,一定の場所がある者の住所であるか否かは,客観的に生活の本拠たる実態を具備しているか否かにより決すべきものと解される。 イ前記前提となる事実に加え,審尋期日における申立人の陳述等によれば,以下の各事実が一応認められる(申立人の陳述以外の疎明資料等により認定した事実については,末尾に当該疎明資料証拠等を示す。)。 (ア)申立人は,申立人あて ,審尋期日における申立人の陳述等によれば,以下の各事実が一応認められる(申立人の陳述以外の疎明資料等により認定した事実については,末尾に当該疎明資料証拠等を示す。)。 (ア)申立人は,申立人あての郵便物の郵送先をγとしており,γ1階所在のA労働組合事務所で保管してもらい,自己あての郵便物を受領するため,定期的に同事務所を訪れてγ1階に入り,その際,同事務所の事務員と雑談等をすることもあるが,γを起臥寝食の場所としたことはなく,γの2階以上に入ったこともない。 (イ)申立人が平成16年11月15日にγを住所とする転居届をしたのは,自動車運転免許証の更新のために住民票の写しが必要であったことから,知人等に相談したところ,γを住所として転入届をすることを助言されたためであった。 (ウ)申立人は,上記転居届をして以降,大阪市α×番地に所在する簡易宿所のいずれかに宿泊し,βにおいて求職活動を行った上,大阪近郊ないし遠方の建設現場での仕事に従事しており,遠方の建設現場の仕事に従事する際には,その間,簡易宿所を出て,いわゆる飯場生活を送って いる(以下,飯場生活を要する遠方の建設現場の仕事に従事することを「出張」という。)。申立人がβにいるのは,1年のうち5割から6割くらいの期間である。 申立人が遠方の仕事に行く際の出張先は近畿地方が多く,今までの出張先でもっとも遠かったのは山梨であった。 申立人は,大阪近郊の仕事も出張を要する遠方の仕事もβにおいて求職しており,出張先において求職することはない。 申立人が継続してβの簡易宿所に宿泊しない期間は長くて1箇月であり,遠方に出張しているときも,週末や仕事がないときには,原則仕事終了時に一括で支払われることとなっている賃金を一部前借りしてβに戻ることが相当程度ある。申立人が出張先からβに戻らずに て1箇月であり,遠方に出張しているときも,週末や仕事がないときには,原則仕事終了時に一括で支払われることとなっている賃金を一部前借りしてβに戻ることが相当程度ある。申立人が出張先からβに戻らずに次の出張の仕事に行くことはない。 申立人は,遠方の建設現場に出張に行く際は,荷物はすべて持っていき,βにおいて預けていくことは原則としてないが,郵便物についてはγを郵送先としてβにおいて受領している。 (エ)申立人がβにおいて宿泊する簡易宿所は,特定の2ないし3の簡易宿所のいずれかであり,いずれも,各部屋は3畳程度の広さの1人部屋で,テレビ,冷蔵庫,冷暖房施設が備え付けられているほか,共同の調理設備,洗面台,入浴施設,コインランドリー等がある。 申立人がβにおいて宿泊する簡易宿所の宿泊料は日払いの前払いであるが,1週間分等をまとめて支払えば割引となる制度となっている。 正月と盆の特に簡易宿所が混み合う時期を除いては,希望の設備等を有する簡易宿所に宿泊することができ,βにおいて宿泊するときは,特定の簡易宿所に宿泊することとすることはできるが,特定の簡易宿所の特定の部屋に宿泊することはできない。 申立人は,βにいるときは,必ず簡易宿所で寝泊まりし,入浴等も同 所で行っている。 ウ上記認定事実によれば,申立人は,βに滞在している間は必ず宿泊先の簡易宿所を起臥寝食の場所としており,γを起臥寝食の場所としたことはなく,単に同所を自己あての郵便物の郵送先として利用しているにすぎないということができるから,γ所在地が申立人の生活の本拠,すなわち申立人の生活にもっとも関係の深い一般的生活,全生活の中心であるとは到底いえない。 むしろ,上記認定事実によれば,申立人は,大阪市α×番地に所在する特定の2,3軒の簡易宿所に1年のうち5割ないし6割くらいの期間宿 もっとも関係の深い一般的生活,全生活の中心であるとは到底いえない。 むしろ,上記認定事実によれば,申立人は,大阪市α×番地に所在する特定の2,3軒の簡易宿所に1年のうち5割ないし6割くらいの期間宿泊し,βにおいて求職活動を行った上,大阪近郊ないし遠方の建設現場での日雇いの仕事に従事し,遠方の建設現場の仕事に従事する際には,その間,簡易宿所を出ていわゆる飯場生活を送ることになるが,週末や仕事がないときなどはβに戻って来ており,継続してβに戻らない期間は長くて1箇月というのであるから,申立人の生活の本拠は申立人がβにおける宿泊先としている上記簡易宿所の所在地にあると認める余地がある。 なお,申立人は,選挙権の制限は,選挙の正確性,円滑性を害する場合を除いては認められないところ,申立人のようにγを住所とする住民票の記載がされている者の大部分は,βに生活の本拠を有する者であり,これまでγを住所とする住民登録をすることがβに居住実態のあることの証明とされてきたのであるから,憲法15条により申立人らに保障される選挙権の行使を確保するためにも,γの所在地をもって申立人の住民基本台帳法上の住所と解すべきと主張する。 しかし,住民基本台帳の制度は,住民の居住関係の公証,選挙人名簿の登録その他の住民に関する事務の処理の基礎とするとともに住民の住所に関する届出等の簡略化を図り,あわせて住民に関する記録の適正な管理を図るため,住民に関する記録を正確かつ統一的に行い,もって住民の利便 を増進するとともに,国及び地方公共団体の行政の合理化に資することを目的とする制度である(住民基本台帳法1条)ところ,同一の市町村の区域内であっても,生活の本拠でない場所を住所として住民基本台帳に記録されると,住民の住所に関する正確な記録が妨げられ,その者に係る行政事務の円 度である(住民基本台帳法1条)ところ,同一の市町村の区域内であっても,生活の本拠でない場所を住所として住民基本台帳に記録されると,住民の住所に関する正確な記録が妨げられ,その者に係る行政事務の円滑かつ合理的な遂行に種々の支障を来すこととなって,同法の目的を阻害することとなるから,申立人の主張するような解釈の余地はないものといわざるをえない。したがって,申立人の上記主張は採用することができない。 (2)本件消除処分と信義則の適用ア申立人の主張の全趣旨をしんしゃくすれば,申立人は,西成区長ないしその職員は,住民基本台帳法3条1項の定める必要な措置を講じず,同法34条の定める調査を怠ってきたのみならず,βを生活の本拠とする建設労働者らに対し居住の実態を欠くにもかかわらずγを住所とする住民基本台帳法に基づく届出(転入届等)をするよう勧めてきた経緯があり,少なくともこのような届出がされることを長年にわたり黙認してきたのであるから,統一地方選挙の直前になってγを住所とする住民票の記載が居住の実態を欠くことを理由に職権による住民票の消除をし,もって統一地方選挙における選挙権の行使の機会を奪うことは,信義則に反し許されないという趣旨の主張に善解することができなくもない。そこで,以下,上記主張について検討することとする。 イ確かに,前記認定事実に加えて疎甲2の1,疎甲4,9,疎甲10の1,疎乙7,8及び審尋期日における申立人の陳述等によれば,申立人の場合と同様にγの所在地を住所として住民基本台帳に記録されている者は3000人を超えているところ,西成区役所においては,敷地約44平方メートルの上に建てられた鉄骨陸屋根造5階建て建物にすぎないγを住所とする住民票が数千人規模に及ぶ著しく多数の者について調製されている事実 をかなり以前から認識し 役所においては,敷地約44平方メートルの上に建てられた鉄骨陸屋根造5階建て建物にすぎないγを住所とする住民票が数千人規模に及ぶ著しく多数の者について調製されている事実 をかなり以前から認識していながら,平成18年12月上旬ころ当該事実が報道されるまで,これらの者の居住実態等について住民基本台帳法34条に基づく調査を行ったことはなく,同法14条1項の規定による届出義務者に対する届出の催告その他住民基本台帳の正確な記録を確保するため必要な措置を講じたりすることもなく,少なくとも上記の事態を黙認していた事実が一応認められる。のみならず,上記疎明資料等によれば,申立人を始めβを拠点として建設現場等での日雇労働に従事する者に対し西成区の職員においてγの所在地を住所とする転居届等をするよう促した例もあった様子がうかがわれないでもない。そして,これらの背景事情としては,これらのいわゆる建設労働者の多くが,申立人の場合と同様に,主としてβにおいて求職活動を行った上大阪近郊ないし遠方の建設現場等で稼働し,遠方の建設現場等で稼働する際にはいわゆる飯場生活を余儀なくされるものの,それ以外は簡易宿所の空き部屋に宿泊して仕事に赴くといった態様の生活をしており,その生活実態にかんがみると,βに生活の本拠を有するとみる余地があるが,住民基本台帳制度の適用上これらの者の住所の認定についての取扱いが必ずしも明らかでなかったところ,これらの者が雇用保険法の定める日雇労働求職者給付金の支給を受ける前提となる日雇労働被保険者手帳の交付を受けるためには,雇用保険法施行規則72条により日雇労働被保険者資格取得届に住民票の写し又は住民票記載事項証明書を添えて管轄公共職業安定所の長に提出しなければならないとされていることや,国民健康保険法5条により国民健康保険の被保険者資 条により日雇労働被保険者資格取得届に住民票の写し又は住民票記載事項証明書を添えて管轄公共職業安定所の長に提出しなければならないとされていることや,国民健康保険法5条により国民健康保険の被保険者資格として市町村の区域内に住所を有することが規定されていることなどから,便宜上の措置として,長期間にわたり,γの所在地を住所とする届出を黙認してきたことが考えられる。 しかるところ,前記疎明資料(疎甲2の1,疎甲10の1)等によれば,西成区長は,平成18年12月上旬ころγの所在地を住所として住民基本 台帳に記録されている者は3000人を超えている旨の報道がされたことを契機として,これらの住民票の記載が居住の実態を欠くものであり,これを是正しないまま平成19年4月に予定される大阪市議会議員の一般選挙等を施行すれば,選挙無効原因ともなり得ることから,その告示までに住民基本台帳の記録を住民基本台帳法の規定に従った適正なものに是正する措置をとる必要があると判断し,居住の実態を欠く住民票の消除処分に向けた手続を進めている事実が一応認められる。 ウ前記(1)において認定説示したとおり,申立人はγの所在地に生活の本拠を有するとは認められないから,西成区長は,住民基本台帳法8条,住民基本台帳法施行令12条3項の規定に基づき,職権により申立人に係る住民票の消除をすることができることになるが,住民票の消除がされると,申立人について選挙人名簿に公職選挙法27条1項の規定による住所を有しなくなった旨の表示がされて平成19年4月上旬に施行される予定の大阪市議会議員の一般選挙等において投票することが事実上不可能となるなど,その選挙権の行使が制限されるという回復困難な不利益を受けることになるところ,申立人は大阪市α×番地に所在する特定の簡易宿所に生活の本拠を有して 選挙等において投票することが事実上不可能となるなど,その選挙権の行使が制限されるという回復困難な不利益を受けることになるところ,申立人は大阪市α×番地に所在する特定の簡易宿所に生活の本拠を有していると認める余地があり,そうであるとすれば,申立人は上記選挙等に係る選挙権を有していることになるから,申立人に係る上記不利益の程度は著しく重大であるということができる。 他方で,前記イにおいて認定した事実によれば,上記選挙を目前にして西成区長において申立人に係る住民票を始めγの所在地を住所とする住民票について職権による消除処分を含めた是正措置をとることを余儀なくされた経緯については,大阪市(西成区)において,申立人らいわゆる建設労働者の生活の実態を踏まえた適正な住所の認定についての運用を確立するなど,住民基本台帳法3条1項に規定する住民に関する正確な記録が行われるように努めるとともに住民に関する記録の管理が適正に行われるよ うに必要な措置を講ずるよう努めることや,同法14条1項に規定する届出義務者に対する催告その他住民基本台帳の正確な記録を確保するため必要な措置を講ずることを怠り,長年にわたりこのような居住の実態を欠く住民票の記載等を便宜上の措置として少なくとも黙認してきた事実が挙げられるのである(申立人自身,審尋において,γの所在地を住所とする転居届をするに際し西成区の担当職員から居住の実態を欠くγへの住民登録を容認する趣旨のことを言われた旨陳述しているところである。)。 しかしながら,前記のとおり,γの所在地を住所として住民基本台帳に記録されている者の少なくとも大部分が同所に生活の本拠を有していない蓋然性が高く,しかも,大阪市選挙管理委員会においてその事実を認識していながら,このような者について公職選挙法42条1項の定める選挙人名簿 ている者の少なくとも大部分が同所に生活の本拠を有していない蓋然性が高く,しかも,大阪市選挙管理委員会においてその事実を認識していながら,このような者について公職選挙法42条1項の定める選挙人名簿の被登録資格ないし同法9条2項の定める住所要件を一律に認めて大阪市議会議員の一般選挙等におけるその投票を認めるとすれば,選挙の管理執行の手続に関する規定に違反するものとして,選挙無効の原因となり得るものといわなければならない。すなわち,申立人のように住民基本台帳法4条にいう住所すなわち生活の本拠でない場所を住所とする住民票の記載がされている者については,同法8条,住民基本台帳法施行令12条3項の規定に基づき,職権により申立人に係る住民票の消除をすることができるところ,住民基本台帳制度は,市町村において,住民の居住関係の公証,選挙人名簿の登録その他の住民に関する事務の処理の基礎とするとともに住民の住所に関する届出等の簡素化を図り,あわせて住民に関する記録の適正な管理を図るため,住民に関する記録を正確かつ統一的に行うことを目的とする制度として規定されたものであるが,住民基本台帳法において住民票の記載等は原則として住民としての地位の変更に関する届出によってするものとされており(8条,14条1項,21条,51条等),前記のとおり,住民基本台帳法及び公職選挙法は,住民基本台帳の記録等 に基づいて選挙人名簿の登録,抹消及び同法27条1項の規定による住所を有しなくなった旨の表示等をすることを予定していることにかんがみると,住民票の消除がされて市町村長から当該市町村の選挙管理委員会にその旨の通知がされた場合,その者が当該市町村の区域内に生活の本拠を有している可能性の有無いかんにかかわらず,当該選挙管理委員会は,その者が当該市町村長に対し当該市町村の区 市町村の選挙管理委員会にその旨の通知がされた場合,その者が当該市町村の区域内に生活の本拠を有している可能性の有無いかんにかかわらず,当該選挙管理委員会は,その者が当該市町村長に対し当該市町村の区域内に住所を有していることを証明して職権による住民票の回復を受け,市町村長から当該選挙管理委員会にその旨の通知がされ,又はその者が当該選挙管理委員会に対し上記の証明をしない限り,その者について選挙人名簿への同法27条1項の規定による住所を有しなくなった旨の表示及び同法28条2号の規定による選挙人名簿からの抹消をすべきであり,そのような措置を講じることなくその者について選挙における投票を認めた場合には,選挙の管理執行の手続に関する規定に違反するものとして,選挙無効の原因となると解される。そして,その趣旨からすれば,選挙管理委員会が選挙人名簿に登録されている者について生活の本拠でない場所を住所とする住民票の記載がされている事実を知った場合,職権による当該住民票の消除及びその旨の当該市町村長からの当該選挙管理委員会に対する通知がされていなくても,当該選挙管理委員会において同法27条1項の規定による住所を有しなくなった旨の表示をせずにその者の投票を認めることは,同様に選挙の管理執行の手続に関する規定に違反するものとして選挙無効の原因となると解する余地がある。前記認定事実によれば,γの所在地を住所として住民基本台帳に記録されている者の少なくとも大部分が同所に生活の本拠を有していない蓋然性が高く,しかも,その事実が報道されているというのであるから,大阪市選挙管理委員会においてこのような者につき同法27条1項の規定による住所を有しなくなった旨の表示をせずに大阪市議会議員の一般選挙等におけるその投票を認めるとすれば,選挙の管理執行の手続に関する規 管理委員会においてこのような者につき同法27条1項の規定による住所を有しなくなった旨の表示をせずに大阪市議会議員の一般選挙等におけるその投票を認めるとすれば,選挙の管理執行の手続に関する規 定に違反するものとして,選挙無効の原因となると解する余地があるというべきである。 以上のとおり,本件消除処分により申立人は平成19年4月上旬に施行される予定の大阪市議会議員の一般選挙等において投票することが事実上不可能となるなど,その選挙権の行使が制限されるという回復困難な不利益を受けることになり,申立人が上記選挙等に係る選挙権を有していると認められる余地があることにもかんがみると,申立人に係る上記不利益は著しく重大であり,他方で,上記選挙等を目前にして西成区長において申立人に係る住民票を始めγの所在地を住所とする住民票について職権による消除処分を含めた是正措置をとることを余儀なくされた経緯については,大阪市(西成区)において,住民基本台帳法3条1項や14条1項に規定する必要な措置を講ずることを怠り,長年にわたりこのような居住の実態を欠く住民票の記載等を便宜上の措置として少なくとも黙認してきた事実が認められるものの,上記のような是正措置を講じることなく上記選挙等を施行した場合には選挙の管理執行の手続に関する規定に違反するものとして選挙無効の原因となると解する余地があることに加えて,既に説示したとおり申立人については主たる拠点として利用している簡易宿所の所在地をもって生活の本拠と認める余地がある(のみならず,申立人以外にもγの所在地を住所として住民基本台帳に記録されている者で同様の住所を認定する余地のあるものが少なくないと推測されるところである。)のであって,申立人らにおいて生活の本拠である場所を立証することにより選挙権の行使の確保を図るみ 本台帳に記録されている者で同様の住所を認定する余地のあるものが少なくないと推測されるところである。)のであって,申立人らにおいて生活の本拠である場所を立証することにより選挙権の行使の確保を図るみちがなくもないことをも併せ考えると,本件消除処分により侵害される申立人の選挙権を行使する権利が憲法によって保障された国民の重要な権利であることをしんしゃくしても,住民に関する記録を正確かつ統一的に行うという住民基本台帳制度の目的及び選挙の適正な執行という要請を犠牲にしてもなお本件消除処分を差し止めなければ 正義に反するといえるような特別の事情があるとまでいうことはできず,本件消除処分について信義則の法理の適用を考える余地はないといわなければならない。 エ以上のとおりであるから,申立人の前記アの主張を採用することはできない。 (3)以上によれば,西成区長が本件消除処分をすべきでないことがその根拠となる法令の規定から明らかであるとは認め難く,また,西成区長が本件消除処分をすることがその裁量権の範囲を超え又はその濫用となるとも認め難いから(なお,以上認定説示したところによれば,本件消除処分が適正な調査に基づくものではなく適正手続に反する旨の申立人の主張を採用することもできない。),本件申立てについては,行政事件訴訟法37条の5第2項にいう「本案について理由があるとみえるとき」の要件を満たさないものというべきである。 第4 結論 以上によれば,本件申立ては理由がないから,これを却下すべきである。 よって,主文のとおり決定する。 平成19年2月20日大阪地方裁判所第2民事部裁判長裁判官西川知一郎裁判官岡田幸人 裁判官石川慧子 阪地方裁判所第2民事部 裁判長 裁判官 西川知一郎 裁判官 岡田幸人 裁判官 石川慧子

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