令和7年9月4日宣告令和5年(わ)第29号殺人被告事件判決被告人 A 主文 被告人は無罪。 理由 ※ 年は、月の前に年の表示がないものは、全て「平成21年」である。 (本件公訴事実) 本件公訴事実は、「被告人は、平成21年4月中旬頃から同年6月頃までの間に、長崎県大村市ab番地当時の被告人方において、B(当時48ないし49歳)に対し、殺意をもって、その右側頭部等を何らかの鈍体で複数回殴り、よって、その頃、同所において、同人を頭蓋骨骨折に伴う脳挫傷により死亡させて殺害したものである。」というものである。 (争点及び証拠構造)本件の争点は、被告人がB(以下「被害者」という。)を殺害した実行犯と認められるかである(なお、公判前整理手続において、被告人が氏名不詳者と共謀の上、被害者を殺害した旨の予備的訴因変更請求があったが、検察官は、これを撤回した。また、論告において、Cが単独又は被告人と共謀して被害者を殺害した可能性を否定 している。したがって、被告人の殺害への関与として想定される形態のうち、当裁判所の判断対象は、被告人が殺害の実行犯の場合である。)。本件は、被害者が殺害されたとされる時期から遺体発見までの間に約9年、被告人の起訴までに約14年が経過している。殺害に直接関与又はその現場を目撃したと供述する人物はいない。 したがって、後述する客観的な証拠のほか、被告人から指示されて当時の被告人方 (以下「aの家」という。)から被害者の遺体らしきものを運ぶなどの関与をした旨 をいうCの証言によって認められる事実関係を総合して、被告人が被害者殺害の実行犯であることが 告人方 (以下「aの家」という。)から被害者の遺体らしきものを運ぶなどの関与をした旨 をいうCの証言によって認められる事実関係を総合して、被告人が被害者殺害の実行犯であることが合理的な疑いを容れない程度に証明できるかが問題となる。 (当裁判所の判断)第1 被害者の死因が第三者による故意行為であること被害者の死因等に関する法医学者のDの証言は、専門的な知識・経験に基づい た具体的・合理的な推論であって、その信用性は高い。Dの証言によれば、被害者は、他者により、硬い鈍器で、ある程度の重量のあるものを用いて、少なくとも2回、右側頭部に意図的に限局的で極めて強い外力を加えられたことで、頭蓋骨骨折を伴う脳挫傷によって死亡したことが認められる。したがって、被害者が他者に殺害されたことは明らかである。 第2 C証言以外の証拠による事実認定検察官は、以下のとおり、いくつかの間接事実を指摘し、被告人が、被害者を殺害した実行犯でないとしたならば、これらの間接事実が同時に存在することを合理的に説明することができない事実関係があり、後述するC証言以外の証拠からでも、被告人が被害者を殺害した実行犯であることが認められる、と主張してい ることから、以下、順に検討する。 1 被害者の遺体が、被告人が独占的に管理するプレハブ倉庫から発見されたこと検察官は、長崎県諫早市cd番地所在の資材置場(以下「本件資材置場」という。)に設置されたプレハブ倉庫(以下「本件プレハブ倉庫」という。)から被 害者の遺体が発見されたところ、本件プレハブ倉庫は被告人が独占的に管理しており、この事実は被告人が被害者を殺害した実行犯であることを強く推認させる、と主張する。 そこで、検討するに、捜査報告書(甲134)によれば、被害者 ころ、本件プレハブ倉庫は被告人が独占的に管理しており、この事実は被告人が被害者を殺害した実行犯であることを強く推認させる、と主張する。 そこで、検討するに、捜査報告書(甲134)によれば、被害者の遺体は、平成30年5月12日、本件プレハブ倉庫内に置かれてあった木箱の中の土中か ら人の骨のような固形物が発見されたことを契機として、同月13日から同月 14日の2日間にわたって検証を実施した結果、前記土中から白骨化した状態で発見された。Eは、公判廷において、要旨、経営していた事業の客であった被告人から債権回収をするので倉庫を置く場所を探してほしいと依頼され、息子であるFの本件資材置場を紹介した、4月25日、被告人から電話で、ホームセンターで倉庫を購入しているので、本件資材置場に来てくれと言われ、翌26 日、業者が本件プレハブ倉庫を設置する際、被告人とFと共に立ち会った、業者から渡された工事発注連絡書にEがサインし、被告人は、現地でFに対して1年分の賃料として10万円を支払った、Eが業者から受領した倉庫の鍵は、その場で被告人に全て渡した旨証言する。また、Fは、公判廷において、要旨、本件プレハブ倉庫を設置した4月26日の前日か前々日に、Eから電話があり、 知人である被告人が物置を置きたいと言っているので本件資材置場を貸すとすればいくらで貸すことができるかと尋ねられた、同月26日朝、Eから物置を設置するので本件資材置場に来てくれと言われ、昼過ぎに運動会を途中で抜けて本件資材置場に赴いた、現場で被告人と運動会のことを話した記憶がある、Eと被告人のいずれからかは覚えていないが、1年分の賃料として10万円を 渡された、自分は設置工事の途中で帰った、その日から1か月も経っていないと思うが、本件資材置場で、被告人が物を がある、Eと被告人のいずれからかは覚えていないが、1年分の賃料として10万円を 渡された、自分は設置工事の途中で帰った、その日から1か月も経っていないと思うが、本件資材置場で、被告人が物を燃やしている現場を目撃したが、気まずさがあったので、すぐに立ち去った、後日、焼かれたマットレスのスプリングコイル等が同じ場所に放置されていた旨証言する。 これに対し、被告人は、公判廷において、当時、Cは暴力団組長から倉庫を準 備するようにと指示されており、被告人はCからその話を聞いて、一緒に条件に合う土地を探していたが見つからなかったため、被告人がEに土地の紹介を依頼したが、適当な土地が見つからず、本件資材置場を借りることになった、CがEの案内で現地を見に行くなどした上で、Cが本件資材置場を借りることになり、Cが1年分の賃料としてEに10万円を渡した、自分は4月26日の本 件プレハブ倉庫の設置には立ち会っておらず、後日、本件資材置場で物を燃や したこともない、そもそも同所に行ったこと自体がない旨供述する。 確かに、Eは、捜査段階においては、本件プレハブ倉庫の設置の際に被告人は本件資材置場におらず、Fもいなかった旨供述しており、この供述と前記証言とでは、その内容に変遷が見られる。当日の被告人の服装や会話内容等に関するEの証言内容は曖昧でもある。また、Fにとって被告人は本件プレハブ倉庫 を設置するまでは面識がなかった上、Eからも特に明確に紹介等はされておらず、被告人は帽子も被っていたことから、見間違えや勘違い等の可能性も考えられる。 しかし、①Eは、自営していた事業の客であった被告人とは、以前から付き合いがあった。本件資材置場を貸してほしいと依頼してきた人物が被告人である ことは、契約書も作成しないで息 考えられる。 しかし、①Eは、自営していた事業の客であった被告人とは、以前から付き合いがあった。本件資材置場を貸してほしいと依頼してきた人物が被告人である ことは、契約書も作成しないで息子の土地を使用させていることと整合している。そして、そうであるとすれば、本件プレハブ倉庫の設置の際に被告人が立ち会っていたというのが事の経過としては自然である。②また、Eは、その後、本件プレハブ倉庫の撤去を求めるため、被告人と連絡を取ろうとしたが、連絡が取れなかったので、被告人の弟に連絡をしたところ、被告人と連絡が取れて、被 告人に本件プレハブ倉庫の撤去を求めたことがあった。このような経過も、本件プレハブ倉庫の設置に被告人が深く関与していることを裏付けている。③さらに、Fは、設置時に現場にいた男性と運動会の話をしたと印象的な出来事を証言しているほか、設置の際に立ち会っていた男性(すなわち被告人)が、後日、現場でマットレスを燃やしていたことや、そのことについてEに苦情を言 ったところ、Eからその男性からということで、放置されていたスプリングコイル等の処分費用名目で五千円を渡されたことなど、一連の経過についても具体的に証言している。④スプリングコイル等が放置されていた状況やその処分経緯等に関するFの証言は、Fの友人であり、本件と直接利害関係を有していないGの証言によっても裏付けられている。⑤そして、EとFの証言は大筋で は一致してもいる。⑥加えて、EやFは、被告人のせいで迷惑を被っていること もあってか、被告人との関わりを避けたいとの様子が、その証言態度からも見て取れるものの、あえてうその証言をして被告人を陥れるまでの動機があるとは思われない。⑦この点、先に述べたとおり、Eは、捜査段階においては被告人やFが設置時に けたいとの様子が、その証言態度からも見て取れるものの、あえてうその証言をして被告人を陥れるまでの動機があるとは思われない。⑦この点、先に述べたとおり、Eは、捜査段階においては被告人やFが設置時にいなかったと述べている。Eがそのように供述した理由は必ずしも明らかではないものの、一度はそのように思って供述したが、その後の事 情聴取の過程で被告人やFがいた旨の記憶が喚起された可能性もあることから、供述の変遷は不自然、不合理とまではいえない。また、虚偽の内容について口裏合わせをする動機がEやFにないことは前述のとおりである。 以上によれば、EとFの証言はいずれも信用できる(なお、被告人もEやFが勘違いをしているのではないかと述べるにとどまる。)。 そして、EとFの証言によれば、Eに対して、倉庫を置くための土地探しを依頼し、本件資材置場の使用を直接依頼したのは被告人であり、同人は、4月26日に本件プレハブ倉庫の設置にも立ち会い、Fに賃料を支払い、設置後にはEから鍵を受け取るなどしていたことが認められ、さらに、後日、本件プレハブ倉庫の近くでマットレス等を燃やすという行動に及んでいたことも認められる。 このように、被告人は、本件プレハブ倉庫の設置時、あるいは、その後にも本件資材置場に出入りし、本件プレハブ倉庫の管理に深く関与していたことがうかがわれる。 他方で、被告人は、前記のとおり、倉庫を置く土地を探していたのはあくまでCから依頼されたからである旨供述している。暴力団組長の依頼でCが土地を 探していた事実に関しては、客観的な証拠による裏付けがないことから、その真偽は定かではないものの、①Eとは以前からの知り合いであった被告人が、Cを含めた被告人以外の者から依頼され、窓口となってEとの交渉を担当するなどしていた 観的な証拠による裏付けがないことから、その真偽は定かではないものの、①Eとは以前からの知り合いであった被告人が、Cを含めた被告人以外の者から依頼され、窓口となってEとの交渉を担当するなどしていた可能性を否定できるだけの確固たる証拠はなく、被告人がEに依頼して不動産を探していた事実から、直ちに被告人以外に本件プレハブ倉庫の 設置等に関与した人物が存在しなかったと断定することまではできない。②ま た、被告人が独占的に本件プレハブ倉庫を管理していたのであれば、倉庫の鍵を被告人が保管・管理していてもおかしくないはずであるのに、鍵は土台であるコンクリートブロックの空洞の中に置かれており、その場所を知っている人物であればいつでも取り出せる状態にあったこと、③本件プレハブ倉庫の棚板及び出入口の右側パネルの合計4か所からCの指掌紋が検出されているところ、 これらの指掌紋の付着時期は判然とはしておらず、指掌紋が付着した可能性があるとCが供述している機会(毛布に包まれた遺体らしきものの搬入時)とは、別の機会に付着した可能性も否定できないこと、④遺体が入っていた木箱の本件プレハブ倉庫への搬入時期やそれに関与した人物は不明であるところ、後述するような木箱の性状や重量等に照らせば、それを一人で、製作したり、本件プ レハブ倉庫に搬入したりすることは相当困難であることなどの事実も認められる。 以上に照らせば、本件プレハブ倉庫の設置・管理については、複数の人物が関与している可能性が否定できない。EやFの証言等によれば、被告人は、本件プレハブ倉庫の設置に関与しているだけではなく、その後の倉庫の管理について も深く関与している可能性が認められるものの、検察官が主張するように、被告人が本件プレハブ倉庫を独占的に管理していたとまで ハブ倉庫の設置に関与しているだけではなく、その後の倉庫の管理について も深く関与している可能性が認められるものの、検察官が主張するように、被告人が本件プレハブ倉庫を独占的に管理していたとまで言い切れるかについては疑問が残る。 2 被害者が、被告人と二人で暮らしていたaの家で殺害されたこと検察官は、被害者の殺害現場は、被害者が被告人と二人で暮らしていたaの 家であり、そのことは、被告人が被害者を殺害した実行犯であることを強く推認させる事情である、と主張する。 そこで、検討するに、捜査報告書(甲156、137から139等)によれば、①被害者の遺体は、平成12年6月18日に被害者の元夫(平成18年5月に死亡)が長崎市内で購入したシーツと、メーカー、素材、サイズが同じシーツに 包まれて木箱内の土中に遺棄されていたこと、②このシーツ内から発見された 繊維片は、被告人が3月25日に宿泊した熊本県上天草市内のホテルのフェイスタオルの刺繍の一部と一致していること、③被害者の遺体が埋められていた土中から発見された枕カバーは、被告人が平成20年12月7日に佐賀市内で購入した枕カバーと、メーカー、素材、サイズが同じであったこと、④本件プレハブ倉庫の土台であるコンクリートブロックの空洞から発見された白色包みの ポリ袋内に鍵を包むようにして入れられていたタオルは、被告人が4月2日から同月3日にかけて泊まった熊本県山鹿市内の旅館のタオルであったことが認められる。このように被害者の遺体の周辺からは、当時aの家にあったと考えて矛盾のない物品が複数発見されている。⑤また、Fの証言によれば、本件プレハブ倉庫の設置から1か月も経過しない時期に、本件資材置場に焼け焦げてス プリングコイルが露出したマットレスの残骸が放置されてお ない物品が複数発見されている。⑤また、Fの証言によれば、本件プレハブ倉庫の設置から1か月も経過しない時期に、本件資材置場に焼け焦げてス プリングコイルが露出したマットレスの残骸が放置されており、Fがこれを処分したことが認められる。そして、捜査報告書(甲155)によれば、被害者の元夫が平成12年6月18日に長崎市内で購入したマットレスは、長さ196cm、幅139cm、高さ20cmであり、ボンネル型スプリングコイルが使用されていたことが認められるところ、これとFが処分した燃やされたマットレ スの残骸の大きさがほぼ同じであることや、コイルの特徴も類似していることが認められる。 これらの物品は、あくまで同種品・類似品にすぎないものの、これら複数の物品が、被告人がその設置等に関与している本件プレハブ倉庫内やその周辺から発見されるといった偶然が重なるとは考え難い。また、限られた人しか出入り しない本件資材置場にマットレスをわざわざ持ち込んで燃やした上、その残骸は片付けもせず、現場に放置している事実からは、マットレスを燃やした理由は、もっぱら、マットレスに第三者には知られたくないような痕跡が残っており、これを燃やすことによって、その隠滅を図ることにあったと考えられる。 以上によれば、被害者が殺害された場所はaの家であったと認められ、この ことは、被告人が被害者の殺害に何らかの形で関与していることを強くうかが わせる事情である(なお、被害者の遺体それ自体や、遺体と共に発見された衣類や装飾品等から、殺害時における被害者の体勢等、具体的な状況を推測することには限界がある。もっとも、Dの証言によれば、被害者は体の左側を下にして横になっていた時に鈍体で殴られて殺害された可能性が最も高いことが認められる。そして、そのよう 勢等、具体的な状況を推測することには限界がある。もっとも、Dの証言によれば、被害者は体の左側を下にして横になっていた時に鈍体で殴られて殺害された可能性が最も高いことが認められる。そして、そのような事実に加えて、マットレスが燃やされていた事実や被 害者の遺体とともに枕カバー等の寝具が発見されている事実を総合すると、被害者は、aの家に置いてあったベッドのマットレスの上で殺害された可能性が高いといえる。)。 3 被告人が被害者の失踪当時や捜索差押え当日に不審行動をとっていたこと検察官は、以下の事実は、いずれも被害者を殺害した実行犯が警察の捜査が 及ぶことを恐れて、被害者の失踪を偽装し、又は罪証隠滅工作をしたことを示すものであって、被告人が被害者を殺害した実行犯でないとしたならば、このような事実関係が偶然重なることは常識に照らしてあり得ず、これらの事実関係から、被告人が被害者を殺害した実行犯であることが推認できる、と主張する。 (1) 被告人が被害者の失踪に関して周囲に虚偽の説明をしていたこと検察官は、被告人は、安否を心配する被害者の家族や、知人のHやHの当時の妻であるIから捜索願を提出されることを避けるため、あるいは、知人に被害者が病死したと信じさせて、警察への通報をさせないために被害者の失踪に関しては周囲に虚偽の説明をしているのであって、このことは、被告人 が殺害の実行犯であることを推認させる、と主張する。 捜査報告書(甲157)によれば、被害者の両親は、4月中旬頃、aの家で、被害者と会い、同月12日、被害者と電話で会話をしたことが認められるが、それ以降、被害者と会ったり、電話で会話をしたり、メールでやり取りをしたとされる者は、被告人以外にはおらず、被害者の両親や知人らは、被害者の誕 生日である 電話で会話をしたことが認められるが、それ以降、被害者と会ったり、電話で会話をしたり、メールでやり取りをしたとされる者は、被告人以外にはおらず、被害者の両親や知人らは、被害者の誕 生日である5月5日にも同人と連絡が取れなかったこと、被害者は、同月1 日に大村市役所に定額給付金を受け取りに行く予定になっていたが、受け取りに行かなかったことなどの事実が認められる。 この点に関して、被告人は、公判廷において、要旨、4月30日に被害者から、体調が悪く、姉のように信頼している友達が門司にいるので、門司の病院に入院して治してくる、帰ってきたら免許を取って車を買いたいから協力し てほしいと言われたので、その申出を了承し、翌5月1日に被害者をJR大村駅まで送り届けたが、それ以降、被害者とは連絡が取れなくなってしまった、そこで、5月10日、Hに頼んで、Iも伴って、門司まで連れて行ってもらい、現地で被害者を探したが、被害者に会うことはできなかった旨供述する。 しかしながら、仮に被告人の上記供述が真実であるとすれば、長崎県大村市内のaの家から北九州市内の門司に行ったはずの被害者が、被告人が設置に関与している長崎県諫早市内の本件プレハブ倉庫内の木箱の中から遺体となって発見されたという通常であれば想定し難い、不可解な事態が生じたことになる。そして、先に述べたとおり、被害者の殺害現場はaの家であること が認められるところ、通常であれば、その場合に被告人が被害者の死亡の事実やその原因を知らないということは考えられない。 以上によれば、被告人の上記供述は信用することができず、被告人は、被害者の失踪に関して、自己に不都合な何らかの事情を隠すために虚偽の供述をしていることが認められる。 その上で、本件の事実経過を見ると、 、被告人の上記供述は信用することができず、被告人は、被害者の失踪に関して、自己に不都合な何らかの事情を隠すために虚偽の供述をしていることが認められる。 その上で、本件の事実経過を見ると、H、I、不動産業者であるJ、被害者の兄であるK及び弟であるLの各証言、被害者の両親であるM(甲143)及びN(甲145)の各警察官調書抄本、捜査報告書(甲147、158等)等によれば、以下の事実が認められる。 すなわち、①被告人は、5月6日、門司付近の病院に入院している被害者を 探しに行くと言って、Hに依頼し、Hが運転する車で、Iと3人で門司に赴 き、現地では単独行動をした。再会後、被害者には会えなかったと説明し、H運転の車でaの家に戻った。②被告人は、5月10日、Hに対し、被害者が入院している場所が分かったので門司に連れて行ってほしい旨依頼し、Hの運転でIと3人で門司に赴き、現地では単独行動をした後、H運転の車でaの家に戻った。③被害者の両親は、5月14日、aの家を訪問したが、被害者と は会えず、被告人は、被害者の両親に対し、被害者が門司の病院に入院することになり、同月1日にJR大村駅まで送って行った旨説明し、KやLにも、電話で同様の説明をした。被告人は、Mに対し、門司で被害者の携帯電話機が拾得された旨の通知書が届いていたと言って、通知書を手渡し、Nは、被告人に対し、被害者から連絡があれば、連絡するように依頼して帰宅した。④被告人 の以上のような言動にかかわらず、被害者が4月以降に国民健康保険を利用して病院等で診察を受けた事実は認められないし、捜査機関が照会するなどした限りにおいても、被害者が北九州市内の産科・婦人科・産婦人科を置く病院を受診した事実等は確認できなかった、⑤被告人は、4月初旬から中旬頃、大村 受けた事実は認められないし、捜査機関が照会するなどした限りにおいても、被害者が北九州市内の産科・婦人科・産婦人科を置く病院を受診した事実等は確認できなかった、⑤被告人は、4月初旬から中旬頃、大村市役所において、Jと会った際、被害者ががんで入院していると話し、6 月22日、長崎県大村市ef丁目g番地所在の住宅(以下「eの家」という。)の賃借の件で、Jの事務所を訪れた際には、妻から被害者が亡くなったらしいと聞いたJが、被告人に対して、がんで亡くなったのかと尋ねたところ、被告人は、うなずいて、それを肯定した(Jの証言は、同人が業務上作成しているノートの記載内容とも一致しているし、Jは、被告人とは特に利害関係も なく、あえてうその供述をする動機もない。また、被告人から市役所で被害者が入院しているとの話を聞いた時期に関するJの供述には変遷が見られるものの、時間の経過等を踏まえると、単なる記憶違い等にすぎないといえる。したがって、Jの証言は信用することができる。)。 上記①及び②の点について、被告人は、公判廷において、Hはうその供述を しており、5月6日は門司に行っていない旨供述し、弁護人も、Hは、被告人 に個人的な恨みがあるため、真実と異なる証言をしている、と主張する。しかし、5月6日に門司に行ったというHの証言に合致する高速道路の領収書が存在しており、同人の供述は客観的な証拠により裏付けられている。また、Iは、被告人や被害者と直接利害関係はなく、その証言内容の信用性に特に疑いを生じさせる事情はないところ、5月6日に門司に行った事実は、Iも同 様に証言しており、この点に関するHの証言は、信用できるIの証言とも一致している。したがって、5月6日に被告人がHらと門司を訪れた事実が認められる。 以上によれば、 司に行った事実は、Iも同 様に証言しており、この点に関するHの証言は、信用できるIの証言とも一致している。したがって、5月6日に被告人がHらと門司を訪れた事実が認められる。 以上によれば、被告人は、被害者の親族や友人等、被害者と関係のある人物が被害者と連絡が取れなくなった後、被害者の親族や自身の知人らに対して、 被害者が病気で病院に入院している、あるいは病気で死亡したといった虚偽の説明をしていることが認められる。このことは、被告人が被害者の殺害に何らかの形で関与していることを強くうかがわせる事情である。 (2) 被告人が門司区を訪れた日に被害者の携帯電話機が同区内で発見されたこと 検察官は、5月6日に門司区内の公衆電話ボックスで被害者使用の携帯電話機が拾得されているところ、被告人は、被害者の家族やH、Iに被害者が門司区内の病院に入院していると説明していたことから、その説明と辻褄を合わせるために、同日門司区内に赴き、同所に携帯電話機を放置して、偽装工作に及んだのであり、この事実は、被告人が殺害の実行犯であることを推認さ せる、と主張する。 先に述べたとおり、被告人は、5月6日にもHに被害者を探しに行きたいと依頼して、Hが運転する車で門司区内に行き、同所で単独行動をしている。 前述のとおり、被害者が門司の病院に入院するためにaの家を出て行ったというのは虚偽であることからすると、被告人が、Hらに対し、被害者を探しに 行くとうそをついてまで、5月6日に門司区内に赴いたのは、門司区内に被 害者の携帯電話機を放置することで、同人が門司区内の病院に入院していることを装い、その後被害者の消息を尋ねてくるであろう被害者の親族等の関係者から失踪を疑われないようにする意図から出た行動であることが強くうか 話機を放置することで、同人が門司区内の病院に入院していることを装い、その後被害者の消息を尋ねてくるであろう被害者の親族等の関係者から失踪を疑われないようにする意図から出た行動であることが強くうかがわれる。 (3) 被告人が被害者と内縁関係にある者として採るべき対応を取らなかっ たこと検察官は、被告人は被害者が失踪したにもかかわらず、同人と内縁関係にある者として採るべき対応を取っていないところ、これは、警察に通報するなどの対応を取ることによって、内縁・同居関係にあった被告人が被害者の失踪に関与していると疑われることを避けるための行動であった、と主張す る。 被告人は、同居していた被害者と連絡が取れなくなり、その所在が分からなくなったにもかかわらず、そのことを心配し、被害者本人や門司にいるという被害者の友人等被害者が親しくしている関係者と連絡を取ろうとしたり、警察に捜索願を提出したりするなどして、その所在を詳しく調べようとした 形跡は認められず、被害者の親族と定期的に連絡を取って被害者の情報を共有するなどもしていない。このような一連の行動は、被害者と内縁関係にある者の行動として、不自然、不可解といわざるを得ない。 被告人は、公判廷において、被害者が過去にもしばらく所在不明になったことがあったので心配してはいなかった、複数の知人や警察OBに相談はし たなどと供述する。しかしながら、被告人がいう、それらの知人は、いずれも被害者との関係が希薄な人物ばかりである。また、警察に相談するのが普通の対応であるのに、それをしないで、警察のOBに相談したというのは不自然、不可解である。いずれについても、客観的な証拠による裏付けはなく、その供述の信用性は乏しい。また、被告人は、公判廷において、自ら被害者の捜 索願を提 で、警察のOBに相談したというのは不自然、不可解である。いずれについても、客観的な証拠による裏付けはなく、その供述の信用性は乏しい。また、被告人は、公判廷において、自ら被害者の捜 索願を提出しなかったのは、被害者の兄弟と話をした際に捜索願の話題が出 たので、同人らが提出すると思ったからであるなどとも供述する。しかし、被告人は、被害者の兄弟のことは信頼していなかったとも述べており、それにもかかわらず、捜索願の提出をもっぱら同人らに委ねて、自らは提出することはせず、その後、被害者の親族らから捜索願が提出されたのかの確認も一切しないまま、何もしないで放置しているのは不自然である。前記のような やり取りをした後、被害者の親族らは被告人と一切連絡が取れなくなっており、被告人が意図的に被害者の親族との連絡を絶ったことが強くうかがわれる。 以上のような被告人の行動状況からは、被告人が被害者の失踪に何らかの形で関与しており、そのことを意図的に隠そうとしていたことが強くうかが われる。 (4) 被告人が被害者の家族に内緒でaの家から転居したこと検察官は、被告人が6月26日に被害者の家族に内緒でaの家からeの家に転居したのは、被害者の失踪に関して、自分に警察の捜査が及ぶことを想定して所在を隠したり、aの家を売却することで売却代金を取得したりする とともに、別の者にaの家で生活を始めさせることにより、殺人の痕跡を隠滅するためであった、と主張する。 しかし、被告人は、公判廷において、被害者が、被告人の知らない間に、被告人を被害者の元夫による家賃の未払金の保証人としていたことが原因で、被告人がOから支払を求められる状況に陥っており、aの家が差し押さえら れる危険性があったことから、それを回避するためにaの 告人を被害者の元夫による家賃の未払金の保証人としていたことが原因で、被告人がOから支払を求められる状況に陥っており、aの家が差し押さえら れる危険性があったことから、それを回避するためにaの家を売却することにした旨供述している。このような被告人の供述が虚偽であるとして排斥できるだけの証拠はなく、同人が供述するような状況が存在していたことは前提に判断せざるを得ない。 そうすると、被告人が、検察官が主張するような意図のみからaの家を売 却したとまでは認められない。 もっとも、被告人は、aの家から転居したことを被害者の親族らに告げていないし、転居の段階では、被害者とは連絡が取れない状態になっていたというのに、被害者に無断でaの家を売却したというのは不自然である。特に、aの家の売却に際して、被害者が家族のように可愛がっていた犬数匹を第三者に譲り渡す等しているところ、被害者の意向を確認しないまま、そのよう な行為に及んでいるのは不自然である。また、被告人は、転居先であるeの家をC名義で賃借しているところ、そのようなことをすれば、被害者やその親族らが被告人の所在を把握することが困難になることは明らかであるのに、被告人が、その点に全く意を払った形跡がないのも不自然である。 この点に関し、被告人は、当時、自分は携帯電話を3台保有しており、被害 者はそれらの電話番号を知っていたし、知人を介して連絡を取ることもできることから、被害者と連絡が取れないのではないかとの心配は一切していなかった旨供述する。しかしながら、被害者の親族らは、実際に被告人と連絡が取れなくなっているのであり、客観的に被害者が被告人に連絡できる状態が確保されていたかは甚だ疑問であるし、知人を介して連絡を取ることができ るから心配してはいな 親族らは、実際に被告人と連絡が取れなくなっているのであり、客観的に被害者が被告人に連絡できる状態が確保されていたかは甚だ疑問であるし、知人を介して連絡を取ることができ るから心配してはいなかったというのも通常の感覚と乖離しており、にわかに納得し難い。したがって、この点に関する被告人の公判供述は信用することができない。 以上によれば、被告人は、何らかの意図をもって、aの家から転居した後の自己の所在を隠そうとしていたことが強くうかがわれる。 (5) 被告人が自宅の捜索差押えを受けた際、自殺を図ろうとしたこと検察官は、被告人は、令和5年3月2日、P警察官らが当時の被告人の自宅の捜索差押えを執行した際に、玄関の解錠の要請を拒否し、包丁で左右頸部や前頸部を合計5か所切り付けているところ、これは、被告人が、被害者を殺害した犯人であることを自覚した上で、逮捕される前に自殺を図ろうとした ものであり、罪の意識の表れである、と主張する。 しかしながら、Pの証言等によれば、被告人は、Pらの面前で自傷行為に及んだため、直ちに室内に立ち入った警察官らにその場で保護され、救急搬送されていることや、傷は入院の必要まではない程度のものであり、その日のうちに搬送先の病院で逮捕されていることが認められる。このような事実に照らせば、被告人が本気で自殺を企図していたかは疑問であり、以前から悪 感情を抱いていたPに対する嫌がらせの目的や、逮捕状の執行を遅らせる目的などといった、別の意図の下に、死に至らない程度の自傷行為に及んだ可能性も否定できない。 したがって、自傷行為に及んだ事実から、被告人が被害者の殺害を実行した事実が強くうかがわれるとは言い難い。 (6) まとめ以上のとおり、検察官が主張する被告人の不審 も否定できない。 したがって、自傷行為に及んだ事実から、被告人が被害者の殺害を実行した事実が強くうかがわれるとは言い難い。 (6) まとめ以上のとおり、検察官が主張する被告人の不審な行動については、その一部については必ずしも検察官の主張するような趣旨で取った行動とは断定できないものもある。もっとも、被害者の失踪当時に被告人が様々な不審な行動を取っていることが認められ、これらの一連の行動は、被告人が、被害者が 生存していることを偽装する意図の下に行ったことが強くうかがわれる。 したがって、このような事実関係は、被告人が被害者の殺害に何らかの関与をしていることを強くうかがわせる。 4 被告人に犯行動機として矛盾しない事情が存在していたこと検察官は、当時、被告人は、被害者の意に反して、被害者の元夫の交通事故に よる損害賠償金(以下単に「賠償金」ということがある。)のうちaの家の購入資金を除く約2300万円を8か月余りで費消している、また、実家の買戻しを巡り、被害者とトラブルを生じ得る状況にあった、このような事実関係は、被告人が被害者を殺害した実行犯であることと整合的な事情である、と主張する。 捜査報告書(甲160)によれば、①平成20年7月31日、賠償金から弁護 士費用等を控除した3575万9915円が被害者名義の口座に入金され、同 日、3576万円が引き出され、このうち3500万円が被告人名義の2つの口座に分けて入金され、平成20年10月27日、その一部が更に被告人名義の別の口座に移されていること、②賠償金のうち1260万円がaの家の購入資金に充てられたほか、被告人名義の前記各口座から順次出金があり、Q銀行R支店の口座から4月8日に505万円の出金がされたことで、前記各口座の されていること、②賠償金のうち1260万円がaの家の購入資金に充てられたほか、被告人名義の前記各口座から順次出金があり、Q銀行R支店の口座から4月8日に505万円の出金がされたことで、前記各口座の 残高がほぼなくなったことが認められる。 このようにして引き出された現金の使途は不明であるものの、当時の被害者の生活状況等からすれば、賠償金の入金後、約8か月間に被害者が多額の現金を必要とする事情もうかがわれないことから、aの家に関連する支出等があった可能性を踏まえても、被告人名義の前記各口座からの出金の多くには、被告 人が関与していた可能性が高いといえる。被害者がこれらの出金の事実を関知していたか否かは不明であるものの、被害者が取得した同人の元夫の賠償金が短期間にほぼ費消されているのであるから、仮に被告人が被害者に対しその使途を明らかにしていなかったのだとすれば、その事実を知った被害者との間でトラブルが発生したことが十分想定できる(なお、この点について、被告人は、 公判廷において、上記口座の通帳やカード等の管理状況について説明し、一部の引出しについては供述するが、引き出した現金の使途は知らないなどと現金の費消状況の全容について明らかにしておらず、その供述は不自然であって、そのまま信用することはできない。)。 また、捜査報告書(甲151)によれば、被告人は、実家の土地建物が競売に なることを回避するために、被害者が取得することが見込まれる同人の元夫の賠償金を当てにして、被害者を形式上の買主として実家の土地建物を知人のSから買い受ける形をとることを計画し、実質的には被告人とSとの間で、形式的には売主をS、買主を被害者とする売買契約を締結したものの、その後、売買代金の支払が滞ったため、担保権者(T信用金庫)から被害者に対 い受ける形をとることを計画し、実質的には被告人とSとの間で、形式的には売主をS、買主を被害者とする売買契約を締結したものの、その後、売買代金の支払が滞ったため、担保権者(T信用金庫)から被害者に対して何度も催 促の連絡が来ていたことが認められる。そうすると、被害者は、自己が直接的に は関与しておらず、実質的な判断権限もない買戻しの件に関して、その対応に苦慮していたと思われ、先に述べた賠償金の費消の問題と相まって、当時被告人との間でトラブルが生じていた可能性はある(4月24日に被害者の携帯電話から被告人に対してT信用金庫からの問合せに対する対応の仕方を尋ねるメールが送信されているところ、仮にこれを送信したのが被害者だとすれば、こ の時期に被告人と被害者との間でトラブルが生じたことも考えられる。)。 以上によれば、検察官が被害者の殺害時期として主張している4月下旬から6月頃にかけて、被告人と被害者との間に金銭等を巡るトラブルが発生、あるいは顕在化するなどし、被告人が被害者を殺害する動機になったと考えて矛盾しない事情が存在していた可能性があったことが認められる。 5 まとめ以上によれば、C証言以外の証拠から認められる事実関係としては、aの家で殺害された被害者が、被告人がEに依頼して設置し、管理にも関与していたことがうかがわれる本件プレハブ倉庫内から遺体となって発見されたところ、被告人には被害者が殺害されたとされる当時、様々な不審な行動が見られ、被 害者を殺害する動機として矛盾しない金銭トラブル等も存在していた可能性がある、ということになる。そして、このような事実関係は、被告人が被害者を殺害した実行犯であることを強くうかがわせるものであって、被告人には実行犯であるとの濃厚な嫌疑が存在することは していた可能性がある、ということになる。そして、このような事実関係は、被告人が被害者を殺害した実行犯であることを強くうかがわせるものであって、被告人には実行犯であるとの濃厚な嫌疑が存在することは確かである。 もっとも、このような事実関係は、被告人が被害者の殺害に実行犯でない関 与形態で関与していた場合であっても成り立ち得ることから、被告人が被害者を殺害した実行犯でなければ、合理的な説明ができない(あるいは、少なくとも説明が極めて困難である)事実関係であるとまではいえない。 したがって、検察官が主張するように、C証言以外の証拠のみから、被告人が被害者を殺害した実行犯であることが合理的な疑いを容れない程度に証明され ているとは認められない。 第3 C証言を加味した事実認定そこで、被告人が被害者を殺害した実行犯であると認められるか否かは、Cの証言が信用できるか、その証言からいかなる事実を認定することができるかによって決せられることになる。 1 C証言の要旨 Cは、公判廷において、被害者の殺害への関与は否定した上で、要旨、以下のとおり、殺害された被害者の遺体の遺棄等、いくつかの行為に関与したことを認める証言をする。すなわち、①固まる土を購入した5月28日の1か月くらい前のことで5月初旬頃ではなかったかと思うが、被告人が、長崎市h町にある会社事務所に来て、高速道路か一般道路でもめたので捨てとってくれんか、 と言って、茶色の袋を置いて行った、その袋の中には、コンビニエンスストアのビニール袋のような袋に入れられたハンマーのようなものが入っていた、袋を置いて行った際、被告人は、青ざめた顔をしており、コーヒーカップを持つ手が震えていた、一、二週間前に被告人が被害者と喧嘩をしたことで愚痴を言うなどし 入れられたハンマーのようなものが入っていた、袋を置いて行った際、被告人は、青ざめた顔をしており、コーヒーカップを持つ手が震えていた、一、二週間前に被告人が被害者と喧嘩をしたことで愚痴を言うなどしていたので、被告人が被害者に手を上げたのではないかと思って尋ねると、 被告人は返答をせず、下を向いたまま帰って行った、預かった物は海に捨てた、②その三、四日くらい後、1週間以内だったと思うが、被告人から荷物を運んでくれと頼まれ、その日は仕事があったので、翌日夜、aの家に車で行くと、ベッドのマットレスの上に毛布に包まれた遺体らしきものがあり、マットレスには六、七十cmくらいの波打った血痕のようなものがあった、被告人と2人でそ の遺体らしきものを車で本件プレハブ倉庫まで運び、倉庫の中に土が入った木箱が置かれていたのでその中に入れた、倉庫の出入口の鍵は被告人がかけた、運ぶに当たって、被告人から時間の指定はなく、準備するものなども指示されなかった、毛布の中身が何かは尋ねていない、運ぶ間、被告人とはほとんど会話はなかったと記憶している、倉庫に搬入する際、被告人は手袋をしていたが、自 分はしなかった、③更にその二、三日後か四、五日後くらい、1週間くらいの間 に、被告人から、マットレスを運びたいので手伝ってくれと言われ、aの家に行き、マットレスを車で本件資材置場まで運び、被告人は、現地で、持ってきた缶の中のガソリンらしき燃料をかけて、倉庫内にあった遺体らしきものを包んでいた毛布と共にマットレスを燃やして処分していた、被告人がマットレス等を燃やしている間、少し離れた場所にいたところ、姿は見ていないものの、誰かが 被告人に「何を燃やしよっとか」と言っているのを聞いた、④5月28日の二、三日前に、被告人から庭の手入れで使用する 等を燃やしている間、少し離れた場所にいたところ、姿は見ていないものの、誰かが 被告人に「何を燃やしよっとか」と言っているのを聞いた、④5月28日の二、三日前に、被告人から庭の手入れで使用すると言われて、固まる土の購入を依頼され、同月28日、インターネットで「永土」10袋(200kg)を購入し、その土は、6月2日に発送され、その頃、h町にあるCの会社事務所に配達された、被告人に土が届いたことを連絡したところ、土がなくなっていたので、その 日の内に被告人が土を取りに来たようだった、5月28日に被告人から「品物はいつ入りますか?」などとメッセージが送信されているのは、固まる土の購入に関する問い合わせである、⑤被告人から、事務所に使用したいという感じで依頼されたことから、当時仕事をしていなかった被告人の代わりにeの家の賃借人となって賃貸借契約を締結した、水道光熱費の契約者は名義上自分とな っているが、実際には家賃や水道光熱費を支払ったことはない、などと証言する。 2 C証言の信用性の検討そこで、検討するに、捜査報告書(甲157)等によれば、被害者の両親が最後に被害者と電話で話して連絡を取ることができたのは4月12日であり、そ の後、被告人以外の者で被害者と会ったり連絡を取ることができたりした者はいないこと、5月14日に両親がaの家を訪れた際に被告人から被害者が門司の病院に入院することになり、同月1日に家を出た旨を聞いたこと、それに先立って被告人が同月6日及び同月10日に門司に行っていることなどの経過に照らせば、被害者が殺害された日時を特定することまではできないものの、被 害者は4月中旬から5月6日頃までの間に殺害された可能性が高いと認められ る。そして、Cは、購入履歴から客観的に明らかな 者が殺害された日時を特定することまではできないものの、被 害者は4月中旬から5月6日頃までの間に殺害された可能性が高いと認められ る。そして、Cは、購入履歴から客観的に明らかな固まる土の購入日から遡って、それ以前の様々な出来事があった時期について証言するところ、その証言によれば、時期の正確性は厳密なものではないものの、被害者が殺害された可能性がある時期とほぼ同じ時期に、被告人からハンマーと思しきものの処分を依頼されたというのである。先に述べたとおり、被害者の殺害に使用されたと 推測される凶器は、重量のある鈍体であり、Cが被告人から処分を依頼されたハンマーらしきものは、これと合っている。また、殺害現場であるaの家から被害者の遺体やマットレスを本件資材置場まで運ぶ作業には複数の者で行ったほうが容易であり、被告人から依頼されて、運搬行為に関与したというCの証言はそのこととも整合的であるし、被告人がマットレスを燃やしていたことは、 本件資材置場に燃やされたマットレスのスプリングコイル等の残骸が放置されていた事実と合っており、Fの証言によっても裏付けられている。さらに、固まる土やeの家の賃借に関しては、Cが注文者となりインターネットで固まる土を購入した事実、Cがeの家の賃貸借契約の賃借人となっている事実によって裏付けられている。Cが個人的に土を購入したり、eの家屋を賃借したりする 理由はなく、これらが被告人の依頼によるものであるとのCの証言は合理的である。加えて、Cは、令和3年1月に連日取調べを受けるようになり、その後自己の関与について正直に供述することにした経緯について、Cの内縁の妻であるUから、素直に言うことが責任の取り方であり、自分は家で待ってますから、などと諭されたからであると証言する。その内容は、 後自己の関与について正直に供述することにした経緯について、Cの内縁の妻であるUから、素直に言うことが責任の取り方であり、自分は家で待ってますから、などと諭されたからであると証言する。その内容は、同趣旨を述べるUの証言 とも合っており、客観的な証拠から認められるCの供述経過とも齟齬がないものとうかがわれる。そして、公判廷において、処分を依頼されたハンマーと思しきものや、遺体らしきものを搬送した際に遺体が置かれていたaの家の様子等について、図に描いて説明するなど、相応に具体的な説明もしている。以上によれば、Cの証言は信用できるようにも思われる。 しかしながら、Cの証言は、被害者の殺害については、自分は関与していない し、被告人が殺害したのかという点についても、口を濁しており、周囲の状況から感じた憶測を述べるだけである。被告人とその点に関してした会話の内容等についても、ハンマーの処分を依頼されたときに被害者に手を上げたのかと尋ねたが、下を向いたまま返答がなかったといった限度で言及するのみであり、それ以上に詳しい内容を供述しておらず、不自然さを否めない。また、自己の関 与についても、ビニール袋の中身がハンマーであることや毛布の中身が被害者の遺体であることは直接見て確認していないというし、被告人に尋ねてもいないとして、自己の認識を曖昧に証言している。マットレスを被告人が燃やした際のことについても、自分は離れた場所にいたとして、被告人が燃やしている状況や声を掛けてきた人物のことについても具体的な供述をしていない。さら に、固まる土の購入に関しても、履歴が残っている注文事実は認めるものの、被告人が固まる土を取りに来た事実については、不在にしていたので取りに来たのが被告人であるかは見ていないとして推測を述べる に、固まる土の購入に関しても、履歴が残っている注文事実は認めるものの、被告人が固まる土を取りに来た事実については、不在にしていたので取りに来たのが被告人であるかは見ていないとして推測を述べるにとどまっている。これらの証言は、Cが実際にそのような経験をしたから証言していると理解することも可能ではあるものの、一連の出来事に関するCの証言の多くの部分は客観 的な証拠による裏付けを欠くものであって、真実と虚偽を織り交ぜて供述することも可能であることからすれば、Cは、被害者の殺害に関する被告人の関与や自己の認識等、被告人やCの刑事責任に関わるような核心的かつ重要な部分について、あえて明らかにせず、曖昧な供述をしているように見ることもできる。 個別の場面ごとに具体的に検討しても、①ハンマーらしきものの処分を依頼されたという点については、Cは、被告人のした話を前提にしても明らかに何らかの犯罪に使用したと思われるハンマーのようなものの処分を突然依頼されたことになる。Cは、当時執行猶予中の身でありながら、特に見返りもないのに、その依頼に唯々諾々と応じて、海中に投棄して処分したというのは不自然 さを否めない。また、海中に投棄したとされるハンマーと思われるものは発見 されていないようであり、それが誰のものかについても不明である。ハンマーが投棄されたとされる時期からCが投棄の事実を供述するまでの間に相応の年月が経過しており、ハンマーが未発見であること自体が不合理であるとはいえないにしても、結果的にハンマーの処分を依頼された事実の存在やハンマーが誰のものかは、客観的な証拠によって裏付けられてはいない。そもそも、ハンマ ー程度の凶器を投棄するのであれば、他人に頼まずとも、被告人が自分で投棄等すればよいはずであり、わ 実の存在やハンマーが誰のものかは、客観的な証拠によって裏付けられてはいない。そもそも、ハンマ ー程度の凶器を投棄するのであれば、他人に頼まずとも、被告人が自分で投棄等すればよいはずであり、わざわざ処分を依頼する合理的な理由は見当たらない(この点については、被告人がCに遺体の遺棄等に関与させることを意図して、まずはハードルの低い凶器の処分に関与させようとしたという仮説は成り立ち得るものの、一方で殺害行為がされるもっと前の段階からCが引き込まれ ている可能性も否定できないのであり、別の考え方が成り立たないわけではない。)。さらに、Cは、前記のとおり、被告人から依頼を受けた際に、被告人が被害者に手を上げたのではないかと思い、被告人にその旨尋ねたところ、被告人は何も答えなかったなどと証言している。しかし、Cは、被告人と被害者は仲の良い夫婦であると認識していたのであり、それにもかかわらず、1週間程前 に喧嘩をしたことがあったと被告人から聞いたというだけで、被告人が被害者に手を上げたと考えたというのは飛躍がある。このことは、Cにおいて、被告人と被害者との諍いの具体的な内容を何らかの方法で知っていたのではないかとの疑いを生じさせる。②毛布に包まれた被害者の遺体らしきものの運搬については、単独で運ぶより複数人で運ぶほうが容易であることから、Cが何らかの 形で関与していた可能性は高いものの、Cが証言するように、運ぶ対象や時刻、搬出方法、搬出先等について、事前にも当日にも一切説明もなく運んだというのは不自然である。また、Cは、aの家に到着後もベッドに置かれていた毛布に包まれたものを見て、遺体らしきものであると認識したにもかかわらず、被告人に対して、それが何かを尋ねていないし、その運搬を拒否することもしてい ないというのであ 後もベッドに置かれていた毛布に包まれたものを見て、遺体らしきものであると認識したにもかかわらず、被告人に対して、それが何かを尋ねていないし、その運搬を拒否することもしてい ないというのであるが、突然、詳しい事情も告げられずに、呼び出されたとこ ろ、遺体のようなものを運ぶように指示されたのだとすれば、通常であれば、そのことに驚いて事情を聴いたり、拒否したりするなど、何らかの行動に出るはずである。Cが、そのようなやり取りについて明確に記憶しておらず、具体的に言及していないのは、時間の経過により記憶が薄れている可能性を考慮しても不自然であって、Cが、遺体らしきものの運搬に関与した時点で、より詳しい事 情を既に知っていた可能性を否定することができない。加えて、遺体らしきものを運ぶという明らかな犯罪行為に加担するに際し、被告人から手袋を渡されたというのに意図的に手袋をせずに運んでいるというのもまた不自然である。 さらに、Cは、自分の車(ハイエース)をaの家の玄関先まで乗り入れて運んだと証言するところ、Cがいう「玄関先」の正確な位置は必ずしも明らかではない ものの、仮に、それが言葉どおり、玄関の直ぐ近くの場所を指しており、かつ、敷地内の縁石や樹木の状態が写真(甲148)を撮影した時点(9月や10月)と大きく変化していないとすれば、夜間に庭を通って玄関先にまで車を乗り入れて遺体を車に積載したというのは実行が難しく、aの家の客観的な状況とはそぐわないことになる。このようにCの証言には不確かな点が多いと言わざる を得ない。③さらに、本件プレハブ倉庫内への遺体の搬入についても、Cが述べる搬入方法は、体勢的にかなりの困難を伴うと思われる。Cは、車のテールランプの明かりだけを頼りとして本件プレハブ倉庫内に搬入して木箱の中に さらに、本件プレハブ倉庫内への遺体の搬入についても、Cが述べる搬入方法は、体勢的にかなりの困難を伴うと思われる。Cは、車のテールランプの明かりだけを頼りとして本件プレハブ倉庫内に搬入して木箱の中に入れたとか、木箱に入れる際に手に黒土が付いたのが分かった旨証言してもいるが、山中で周囲に照明等がない状況下で、そのようなことが可能であったかなどの 点で疑問が残る。④マットレスの運搬についても、Cが運搬に関わっている可能性は高いものの、突然呼び出されて、拒否することもなく、マットレスの運搬をしたという経緯からすれば、Cが、当初からより深く事情を知った上で関与している疑いを払拭できない。⑤固まる土の購入についても、被告人の依頼で固まる土を購入したのであれば、土の配達先をaの家に指定すればよいはずで あるのに、わざわざ長崎市内にあるCの会社事務所を配達先に指定して、被告 人が同所まで土を取りに来ることにした経緯は不明であるところ、このような選択をすること自体が不自然である。Cが購入したものと同じ種類の固まる土は、遺体があった木箱の黒土層の上にかぶせるように入れられており、これが被害者の遺体の発覚を困難にすることを意図して入れたものであることは明らかである。この固まる土が、本件プレハブ倉庫に運ばれた時期や方法は不明で はあるものの、土の注文時期や量からして、Cの会社の事務所に届いた土が、その後、何らかの方法で、本件プレハブ倉庫に運ばれた可能性が高いといえる。そうすると、固まる土の配達先をCの会社の事務所に指定したのは、届いた土をCが本件プレハブ倉庫に運ぶことが当初から予定されていたからとも考えられる。そうであるとすれば、Cは土の用途についても事前に知っていた可能性が あり、Cは、同人が証言するより深い関与があっ をCが本件プレハブ倉庫に運ぶことが当初から予定されていたからとも考えられる。そうであるとすれば、Cは土の用途についても事前に知っていた可能性が あり、Cは、同人が証言するより深い関与があったのではないかとの疑いが生じることになる。 また、被害者の遺体が入れられていた木箱は、捜査報告書(甲134)によれば、幅約100.4cm、高さ約119cm、奥行約182cm、重量が約61. 7kg(木箱の中にあった土の重量は合計約426.2kg)であることが認め られる。木箱の製作、入手や搬入の状況等は明らかとなっていないが、木箱の性状等からして、この木箱は、本件の用途のために製作されて本件プレハブ倉庫に搬入された可能性が高い。また、被告人にこのような木箱を一人で製作できるだけの技術や力量があるかは不明であって、被告人以外の者が製作した可能性が濃厚である(なお、Cは、被告人に作ることができないとは言わないが、難 しいと思う旨供述している。)。さらに、木箱が発見時の状態のまま、本件資材置き場に運び込まれたのか、現地で組み立てられたのかは不明ではあるものの、いずれにしても、他の場所から木箱あるいはその材料が本件資材置き場に運び込まれたのだとすれば、その作業には車が使用されているはずであるし、発見時の状態の木箱を車から降ろして本件プレハブ倉庫内に搬入したと仮定すると、 同倉庫の扉の最大開口部より木箱が大きいことから出入口の右側パネルを外す 必要もあり、相当程度の重量のある木箱を本件プレハブ倉庫内に搬入する作業には相当な困難を伴ったと推認できる。以上のような一連の作業を一人で行うことは困難であって、木箱の製作から本件プレハブ倉庫への搬入までの過程には、複数の人物が作業に関与した可能性が濃厚である。この点、Cは、警察から 伴ったと推認できる。以上のような一連の作業を一人で行うことは困難であって、木箱の製作から本件プレハブ倉庫への搬入までの過程には、複数の人物が作業に関与した可能性が濃厚である。この点、Cは、警察から取調べを受けた初期の段階では、木箱を運んだと供述したこともあり、その後、 その供述はうそであったと述べて、供述を変えているが、当初そのように供述していた理由に関する説明は納得のいくものではない。このような事情は、Cの証言の信用性に疑問を生じさせるとともに、Cと木箱の係わり合いについて疑念を生じさせる。さらに、長崎県警察本部刑事部鑑識課指紋係の鑑定官であるVの証言によれば、本件プレハブ倉庫の棚板及び出入口の右側パネルの合計 4か所からCの指掌紋が検出されていることが認められ、この事実によれば、時期は不明ではあるものの、設置後いずれかの時点でCが本件プレハブ倉庫の内部に立ち入ったことは明らかといえる。この点、指紋が付着した経緯に関して、Cにははっきりとした記憶がなく、毛布に包まれた遺体らしきものを運んだ際に付いたのではないかといった推測しか述べることができていない。先に 述べたように、遺体らしきものを運ぶのに手袋をしていないとの証言も不自然であることからすれば、Cが別の機会に本件プレハブ倉庫に立ち入った可能性も否定できない。このような木箱に関する事情は、Cの関与が、その証言しているものにとどまらない可能性があることをうかがわせる。 このように見てみると、Cの証言をその言葉どおりに信用してよいかについ ては疑問が残るといわざるを得ない。 Cと被告人が知り合った経緯やその後の関係性等については、本件への関与を含めCと被告人の説明には異なる部分があるものの、平成18年か19年頃に知り合ったことでは一致しており、被害者の失踪当時 い。 Cと被告人が知り合った経緯やその後の関係性等については、本件への関与を含めCと被告人の説明には異なる部分があるものの、平成18年か19年頃に知り合ったことでは一致しており、被害者の失踪当時は、約2年余りの付き合いであった。被告人は、建設業をする傍ら、業界紙を発行し、俗にブラック・ ジャーナリズムと呼ばれるような評価を受ける活動をしていた。他方、Cは、暴 力団組長と知人関係にあり、同組長の親族を自己が経営する会社で雇用する関係にあった。Cと被告人は、暴力団の組事務所で顔を会わせたこともあった。Cは、被告人のために自動車学校の費用を拠出して運転免許を取らせてやり、中古とはいえ車まで無償で提供したこと、aの家への転居の際には内装費用も一部支出したことなどがある。また、Cは、同人の会社事務所を訪れた被告人を通 じて建設業等に関する情報を得るといった関係にあったし、被告人は、Cに対して、同人が経営する会社の従業員給与等に使用するためとして、数十万円から二百万円程度の金銭を何度か貸している。被告人は、不動産探しのほか、家電製品の調達やバイクの購入等といった日常的なことに関してまでCに依頼してさせてもいた。Cは、被告人のことは年輩でもあり、心情的にも、父親のように 慕っていたと証言している。 以上のようなCと被告人の関係性からは、被告人は、Cに対して、有形無形の便宜を図ることでCの信頼を獲得しつつ、一方で、Cに依頼して自分のために動いてもらうといった、優位な立場にあったことが強くうかがわれる。Cは、被告人から強く依頼されれば、それを断わることが困難な立場にあった可能性は 高く、実際にも、Cは、同人の証言を前提にしても、被告人から指示されて、通常であれば、関与しないであろう遺体の運搬や証拠隠滅行為といった されれば、それを断わることが困難な立場にあった可能性は 高く、実際にも、Cは、同人の証言を前提にしても、被告人から指示されて、通常であれば、関与しないであろう遺体の運搬や証拠隠滅行為といった様々な行為に関与したというのである。もちろん、殺害行為に関与するとなると、一般的にそのハードルは相当高いが、現実に起きている殺人事件の実例を見ても、ささいな動機やわずかな利益のために殺人に及んでいる事例もあるし、犯行に加 担するか否かはその者の価値観等にも左右されることから、いかなる状況下であれば、殺害行為に関与するかを一概にいうことはできない。本件当時、Cは、経営する会社の従業員への給料の支払いに窮するほど資金繰りが困難な状況であった事実や前述のとおり賠償金のうち相当額が使途不明となっていることも考え合わせると、金銭関係が動機となった可能性もある。そうすると、C自身に は、被害者との関係でトラブル等が生じておらず、個人的な理由からその殺害 に関与する直接的な動機はないにしても、被害者を殺害する動機と矛盾しない事情が存在していた被告人の指示ないしは依頼により、殺害行為についても、何らかの関与をしていたのではないかとの疑いを完全に払拭することはできない。 実際にも、Cは、前記のような被告人との関係性もあって、被害者の遺体が発 見された当初は、被害者の殺害に関する事情を知っている可能性があるとして、警察の捜査対象となっていたことが認められる。そして、捜査機関がCに対して抱いていた被害者殺害に関する嫌疑がその後の捜査の過程でどのようにして払拭され、被告人のみが殺害の実行犯であると特定されることになったのかは、証拠上必ずしも明らかではないものの、殺人罪と死体遺棄罪とでは罪の重さに 格段の差がある上、本件は、平成 どのようにして払拭され、被告人のみが殺害の実行犯であると特定されることになったのかは、証拠上必ずしも明らかではないものの、殺人罪と死体遺棄罪とでは罪の重さに 格段の差がある上、本件は、平成21年に発生したとされる事件であるところ、殺人罪についてはその後の法改正によって公訴時効が廃止されたことから時効にかからないのに対し、死体遺棄罪については既に公訴時効期間が経過して時効が完成していることから、Cにとっては、いずれの罪についての刑事責任を問われるかは極めて大きな違いがある。そのような観点からしても、Cの証言 の信用性は慎重に判断する必要があるところ、確かに、Cの証言は、それなりに具体性をもった部分もあるものの、先に述べたように曖昧な部分も多く見られる。また、Cの証言は、先に述べたように一部については客観的な裏付けがあるものの、それ以外の部分は客観的な証拠による裏付けが得られていないし、裏付けがある部分についても、必ずしもCの証言により客観的な証拠が明らかに なったといった関係にあるわけでもない。さらに、Cが捜査機関の取調べに対して、遺体の運搬等について供述した経緯に関しても、CとUとの間で同人らが供述するようなやり取りがあったからといって、それだけでCが真実を述べていると軽々に認めることはできない。 また、殺害時期や殺害状況から、被害者の殺害が被害者と口論になるなどし て突発的に実行されたことが認められれば、被告人以外の第三者が殺害の実行 に関与する余地は否定されるようにも思われ、本件は計画的殺人というには杜撰な点も多々あることから、その可能性も高いともいえる。しかし、証拠を精査検討しても、被害者の殺害時期は、せいぜい4月中旬頃から被告人が最初に門司に赴いた5月6日頃までであるとしか絞り込むこと は杜撰な点も多々あることから、その可能性も高いともいえる。しかし、証拠を精査検討しても、被害者の殺害時期は、せいぜい4月中旬頃から被告人が最初に門司に赴いた5月6日頃までであるとしか絞り込むことはできず、殺害時期と本件プレハブ倉庫の設置の前後等も不明である。また、殺害状況についても、先に 検討したとおり、最終的にはaの家のマットレス上で横になった状態で殺害された可能性が高いとはいえ、それに至るまでの過程は不明と言わざるを得ず、具体的な殺害状況については様々な仮説が成り立ちうる。さらに、計画的であっても、杜撰な犯行態様であった事例も十分想定しうる。そうすると、本件が一定の事前の準備行為を経て行われた可能性も否定できないことになる。以上に よれば、被害者の殺害が突発的な犯行であることを理由として、被告人以外に実行犯たりえる人物はいないといった消去法的な認定によって、被告人を被害者殺害の実行犯であると認定することも困難である。 3 まとめ以上によれば、被告人の指示により被害者の遺体の遺棄等に関与した旨をい うCの証言は、客観的な証拠により裏付けられている部分を除いて、本件の全容について証言しているのかについては疑問を差し挟む余地があり、その供述の信用性については全面的に信用することはできない。 そうすると、Cが、4月中旬頃から6月頃までの間に、被害者が殺害された事実を何らかの方法により知った上で、被告人の依頼に基づいて、殺害に使用さ れたと思われる凶器を投棄したり、aの家から被害者の遺体らしきものを本件資材置場に運搬し遺体を本件プレハブ倉庫内の木箱の中に入れたり、マットレスを本件資材置場に運搬したことなどに関与した可能性は高いといえるものの、Cが、そのような行為に関与することになった経緯や時期等を含めた具 運搬し遺体を本件プレハブ倉庫内の木箱の中に入れたり、マットレスを本件資材置場に運搬したことなどに関与した可能性は高いといえるものの、Cが、そのような行為に関与することになった経緯や時期等を含めた具体的な内容は明らかではなく、被害者の殺害がどのようにして実行されたか、その殺 害現場において、被告人やCがどのような関与をしたか(あるいは、しなかった か)は結局のところ不明といわざるを得ない。 第4 被告人の公判供述の信用性被告人は、既に述べたとおり、5月1日に被害者が門司の病院に行くといってaの家を出て行ったのであり、それ以降被害者とは会っていないし、連絡も取っておらず、消息が不明となっていたと供述するところ、その供述が信用できない ことは、既に述べたとおりである。このように、被告人は被害者の死亡に関して、不合理な供述をしている。 そして、検察官は、仮に、Cが単独又は被告人と共謀して殺人及び死体遺棄に関与したのであれば、殺人で逮捕・起訴された被告人としては、特にCをかばう理由も見当たらないのであるから、Cが関与している、あるいは、Cから遺体の隠匿場 所を探すよう依頼されたという主張をするはずであるのに、Cが犯人であると主張しないのは極めて不可解である、と主張する。 しかしながら、被告人とCとは、少なくとも死体遺棄を含め殺人の罪証隠滅を依頼・協力し合う関係にあったところ、被告人とCの従前の関係性は必ずしもその全てが明らかになってはおらず、Cが被告人の依頼に応じて本件に関与するこ とになった理由の詳細は不明なままである。両者の間には密接な関係性があったことが強くうかがわれるところ、被告人において、Cを犯行に引き込んだ負い目から、あるいは、死体遺棄であれば公訴時効が完成しており、Cが刑事責任を問わ 明なままである。両者の間には密接な関係性があったことが強くうかがわれるところ、被告人において、Cを犯行に引き込んだ負い目から、あるいは、死体遺棄であれば公訴時効が完成しており、Cが刑事責任を問われることがないとの考えから、Cを庇うような供述をしている可能性がないと断定することはできない。また、仮に被告人が殺害の実行犯ではないとしても、被告 人が何らかの形態で被害者の死に関与していることは明らかであって、当然被告人にもその認識はあるはずである。被告人にとって、Cが実行犯であるとの主張をすることは、被告人自身が、被害者の殺害に関して何らかの事情を知っていることや、殺害に何らかの関与をしていることを自ら認めることにもつながりかねず、殺人罪について刑事責任を問われる可能性を高めるリスクをはらんでいると いえる。さらに言えば、そのような主張をすることで、Cが現状の証言内容より被 告人にとって不利な証言をする可能性もあるともいえる。 以上のような事情を踏まえると、被告人において、Cが被害者を殺害した犯人であると主張することが、被告人にとって必ずしも自己に向けられた嫌疑を晴らし、自己に有利に働くとばかりはいえない状況にあることが認められる。 したがって、本件における被告人の置かれた状況を前提とする限り、検察官の 主張のようにいうことはできない。 第5 結論 1 以上見たとおり、本件では、殺害現場はaの家であることが認められるほか、本件プレハブ倉庫の設置・管理への関与、被告人の被害者の失踪当時における不審な行動、被害者殺害の動機として矛盾のない事実の存在等が認められるの であり、これらの事実関係に照らせば、被告人が被害者の殺害に何らかの形態で関与している疑いはかなり濃厚である。しかし、被害者の殺害日時を特定す の動機として矛盾のない事実の存在等が認められるの であり、これらの事実関係に照らせば、被告人が被害者の殺害に何らかの形態で関与している疑いはかなり濃厚である。しかし、被害者の殺害日時を特定することはできず、凶器も鈍体であることまでは判明しているものの、未発見であり、それが何であるかは確定できていない。また、Cが被告人の指示ないしは依頼により本件に関与していることは認められるにしても、その関与が被害者 の殺害行為にまで及んでいるかやその場合における関与の程度を具体的に確定することも困難である。 以上によれば、間接事実中に被告人が殺害の実行犯でなければ、合理的に説明することができない(少なくとも説明が極めて困難である)事実関係が含まれているとはいえない。そうである以上、被告人が被害者を殺害した実行犯で あると認定するには合理的な疑いが残るといわざるを得ない(なお、既に述べたとおり、被害者が5月1日にaの家から門司に向けて出て行ったという被告人の公判供述は虚偽であると認められる。被害者やその遺族の置かれた状況やその心情を考えると、このような虚偽の主張を重ね続ける被告人の応訴態度は誠に遺憾と言わざるを得ない。)。 2 以上の次第であって、本件公訴事実については犯罪の証明がないことになる から、刑事訴訟法336条により、被告人に対し無罪の言渡しをする。 (検察官海津秀貴、同奧江隆太、同池田美尋、同松永竜樹、弁護人古舘悟(主任)、同山本真邦(いずれも国選)各出席)(求刑-懲役18年)令和7年9月5日 長崎地方裁判所刑事部裁判長裁判官太田寅彦裁判官上原美也子裁判官井上裕貴 長崎地方裁判所刑事部裁判長裁判官太田寅彦裁判官上原美也子裁判官井上裕貴
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