平成30年4月26日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成28年(ワ)第25537号特許法に基づく職務発明の対価請求事件口頭弁論終結日平成30年3月23日判決 原告 A 被告平河ヒューテック株式会社 同訴訟代理人弁護士髙橋淳 同補佐人弁理士平田忠雄同野見山孝同中村恵子 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告に対し,3810万5187円及びうち1584万5187円に対する平成3年9月30日から,うち2226万円に対する平成12年5月19 日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,原告が,被告在勤中に行った発明2件に係る特許を受ける権利を被告に承継したにもかかわらず,被告から各承継に係る相当対価額の支払を受けていない旨主張して,被告に対し,上記各承継時において適用される平成16年法律 第79号による改正前の特許法(以下,単に「特許法」という。)35条に基づき, 職務発明の相当対価額合計3810万5187円,及び,うち後記1(2)ア記載の発明に係る相当対価額1584万5187円に対する平成3年9月30日(同発明について承継補償金が支払われた日から3年後の日)から,うち後記1(2)イ記載の発明に係る相当対価額2226万円に対する平成12年5月19日(被告が同発明について特許 する平成3年9月30日(同発明について承継補償金が支払われた日から3年後の日)から,うち後記1(2)イ記載の発明に係る相当対価額2226万円に対する平成12年5月19日(被告が同発明について特許出願をしないと決定したとする日から3年後の日)から, 各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(証拠を掲げた事実以外は,当事者間に争いがないか,弁論の全趣旨により認められる。)(1) 当事者 ア原告は,昭和48年に被告に入社し,平成23年2月に被告を定年退職した。 イ被告は,電線・ケーブル及びその加工品の製造,販売等を業とする株式会社である(被告の旧商号は「平河電線株式会社」であった。)。 (2) 原告が行った各職務発明の概要等 原告は,被告在勤中,以下のア,イ記載の各発明(それぞれ本件発明1,2といい,両者を「本件発明」と総称する。)を,被告の職務として行った上で,これらについての特許を受ける権利を被告に承継した。なお,被告は,本件発明1について特許出願し,これは特許として登録された(以下「本件特許」という。)が,本件発明2については特許出願していない。 また,被告は,本件発明を他社にライセンスしたことはなく,専ら自社実施していた。被告は,本件発明1については,遅くとも昭和63年8月頃以降,実施しており(同実施の終期については争いがある。),本件発明2については,平成6年5月ないし6月頃から現在まで実施している。 ア発明の名称「シールド電線およびその製造方法」 特許出願日昭和63年2月16日 特許登録日平成7年1月27日特許番号第1900379号発明の内容別添特許公報記載のとおりイ発明の名 造方法」 特許出願日昭和63年2月16日 特許登録日平成7年1月27日特許番号第1900379号発明の内容別添特許公報記載のとおりイ発明の名称「ダブルツイストの撚り」同発明の内容別紙「本件発明2説明図」記載のとおり (3) 被告が本件発明に関し原告に対して支払った補償金ア被告は,原告に対し,本件発明1につき,補償金として以下の金員を支払った。 承継補償金 6000円(支払日:昭和63年9月末日)登録補償金 1万円(支払日:平成7年10月2日) 実施補償金 3万円(支払日:平成7年10月2日)イ被告は,原告に対し,本件発明2について,補償金を支払っていない。 (4) 被告における職務発明に関する規程の内容ア被告は,職務発明について,昭和55年1月21日に発明考案規程(乙8の1。以下「昭和55年規程」という。)を制定し,その後,以下のとおり改 訂を重ねている(以下,各改訂後の規程をそれぞれ改訂年により「平成元年規程」のようにいう(平成17年6月1日改訂のものを除く。)。)。 なお,被告の発明考案規程においては,発明者に対する補償金として,承継補償金,登録補償金,実施補償金,処分補償金が定められているところ,被告が本件発明を処分して収入を得たことはないため,本件発明に関して処 分補償金は発生しない。 平成元年7月12日改訂平成8年2月20日改訂平成10年12月10日改訂(乙7の1)平成17年6月1日改訂 平成17年9月1日改訂(乙6) イ被告は,平成17年6月1日に発明考案規程に統合するまでは,発明考案規程を補完するものとして発明考案取扱細則(乙7の2,8の2)を定め 日改訂 平成17年9月1日改訂(乙6) イ被告は,平成17年6月1日に発明考案規程に統合するまでは,発明考案規程を補完するものとして発明考案取扱細則(乙7の2,8の2)を定めており,同細則では具体的な手続等が定められていた。 ウ昭和55年規程(乙8の1)においては,補償金のうち承継補償金については被告が特許等を受ける権利を承継した時,登録補償金については被告が 特許証等の交付を受けた時,実施補償金については被告が職務発明等を実施して利益を得たとき,又は被告以外の者に実施を許諾して利益を得た時にそれぞれ支払う(なお,実施補償金の金額は,その都度委員会で審議し,役員会に答申,社長が決定する。)とされており(同規程12条),規程,取扱細則(乙8の2)を通じて,補償金の支払時期に関するその余の定めはなかっ た。 また,昭和55年規程においては,ノウハウについての定めはなかった。 エ平成元年規程,平成8年規程については,被告がこれらの規程を紛失したため,その内容は明確ではない。 オ平成10年規程(乙7の1)においては,補償金のうち承継補償金につい ては被告が特許を受ける権利を承継した時,登録補償金については被告が特許証等の交付を受けた時,実施補償金については,被告が登録した特許等及びノウハウを実施して利益を得たとき,又は被告以外の者に実施を許諾して利益を得た時にそれぞれ支払う(なお,実施補償金の金額は特許委員会で審議し社長が決裁する。)とされており(同規程11条),取扱細則(乙7の2) において,承継及び登録補償金については,前年の9月1日から当年の8月末日の期間内に処置されたものについて行い,当年の会社創立記念日に支払うとされ,実施補償金については,実施して3年経過後,委員会が審議し て,承継及び登録補償金については,前年の9月1日から当年の8月末日の期間内に処置されたものについて行い,当年の会社創立記念日に支払うとされ,実施補償金については,実施して3年経過後,委員会が審議し,その結果を社長に答申し,社長の決裁により該当年の会社創立記念日に一時金にて支払うとされていた(18条)。 また,平成10年規程においては,ノウハウについて,「発明等に準ずる内 容を有し特許とならないもの,特許とする事を回避したもの等で経済価値のあるものをいう」(2条9号)とされ,「会社の事情により出願を留保した発明等について,ノウハウと認められたものは出願したものと同じ扱いをする」(6条3項)と定められており,また,同取扱細則(乙7の2)において,被告が特許を受ける権利を承継し,政策上出願しないと決定した発明につい ては,ノウハウとして社内登録をし,出願した発明と同じ扱いとするとされていた(8条)。 カ被告の会社創立日は10月1日であるが,会社創立記念式典開催日は,休日や生産体制,役員の出張等の都合により前後することがある(乙60ないし64,弁論の全趣旨)。 被告では,毎年,会社創立記念式典において,発明者に対し,実施補償金等が支払われていた(弁論の全趣旨)。 (5) 消滅時効の援用被告は,平成28年10月20日の本件第1回口頭弁論期日において,原告の本件請求に係る相当対価請求権について消滅時効を援用する旨の意思表示 をした。 2 争点(1) 本件発明に係る特許を受ける権利の承継についての相当対価の有無及び額(2) 相当対価の履行期(3) 消滅時効の完成の有無 3 争点についての当事者の主張(1) 争点(1)(本件発明に係る特許を受ける権利の承継についての いての相当対価の有無及び額(2) 相当対価の履行期(3) 消滅時効の完成の有無 3 争点についての当事者の主張(1) 争点(1)(本件発明に係る特許を受ける権利の承継についての相当対価の有無及び額)について【原告の主張】ア本件発明1について (ア) 被告は,実施補償金の支給に当たり,権利存続可否評価表において, 実績の評価を行っており(甲4参照),ここに実績売上89560千円/4年AVEと記載されている。 これを製造原価286円/mで除すると,31万3146m/年となるところ,原価低減額50.6円/mからすると,相当対価額は,31万3146m/年×50.6円/m×0.05(対価比率)×20年(権 利存続期間)=1584万5187円となる。なお,この金額は,営業利益やこの発明を応用したことによる利益を含まない。 もっとも,89560千円/4AVEは製造原価であり,販売金額の合計ではない。利益に対する貢献度を考慮して実施補償金を支払うのであるから,本来は製造原価ではなく販売金額又は利益額を前提とすべき である。 被告は,本件発明1により,製品を安定的に生産できるようになり,納期を満足させ,原価低減もでき,営業的に他社に対して優位になった。 また,このケーブルに端末加工を加えての利益も大きい。 なお,被告は,昭和62年から本件発明1を実施しており,平成18 年に本件発明1に係る特許権を放棄したが,それ以降も,現在まで,本件発明1を実施してきた。 (イ) 被告の主張について本件発明1の目的は,電気特性を満足するケーブルの安定量産であり,工数削減は副次的な効果である。 原告は,被告からテープ巻き機の新規導入を依頼されたが,設備 (イ) 被告の主張について本件発明1の目的は,電気特性を満足するケーブルの安定量産であり,工数削減は副次的な効果である。 原告は,被告からテープ巻き機の新規導入を依頼されたが,設備の増設では問題解決にならないので新規製法の開発に至ったものであり,被告からシールド電線の改良を命じられてはいない。 被告は,乙4(「平成7年工業所有権補償金の件」)の記載を根拠に実施補償として3万円を支払ったが,ここに記載された累計売上8492 (千円),平均売上8492(千円)は根拠がない数字であり,実績を 改ざんしたものである。乙4と権利存続可否評価表(甲4参照)の記載には齟齬があり,乙4の記載は虚偽である。 また,ケーブルに端末加工を加えての金額が加算されていないが,ケーブルが完成しなければ端末加工は存在しないのであるから,ケーブルに端末加工を加えての金額を加算するのは当然である。 なお,原告は,全体としてみれば,人事上冷遇されていた。 イ本件発明2について(ア) 甲7の1(「ダブルバンチャー装置及びダブルバンチャー方法の件」)の記載からすると,ABSケーブルの月産数量は,長日向け300km/月+デンソー向け400km/月=700km/月であるから,相当 対価額は2.65円/m(原価低減額)×700km/月×12か月×0.05(対価比率)×20年(権利存続期間)=2226万円となる。 前記ア(ア)同様,この金額も,営業利益やこの発明を応用したことによる利益を含まない。 本件発明2は,増産(従来の撚合せ能力に対して約5倍の能力を発揮 し,得意先の要求を充たしたこと),コストダウン(材料比率が高く,単純な構造のケーブルで原価を下げることは非常に困難であり,製法だけで2.65円/m削減したのは画期 対して約5倍の能力を発揮 し,得意先の要求を充たしたこと),コストダウン(材料比率が高く,単純な構造のケーブルで原価を下げることは非常に困難であり,製法だけで2.65円/m削減したのは画期的である。),従来と比しての設備投資額の減少など,画期的で大きな利益をもたらした。 本件発明2は,工数の削減だけでなく,他に類を見ない品質のケーブ ルを完成させるものであり,特に,合金線を導体としたケーブルにおいてはその効果が顕著である。また,従来は不可能であった,横巻シールド作業への応用は,画期的である。 そして,本件発明2の製法は,甲7作成当時より進化し,発泡絶縁線の撚合せ(HDMIケーブル等)及び横巻シールドへの応用を可能にし た。これは,電線業界において革命的である。 (イ) 被告の主張についてなお,本件発明2については,経営会議において,ノウハウを公開しないために特許出願はしないと決定されたものであり,特許性の有無は論点ではなかった。 被告は,本件発明2の内容について甲11(「発明の届け出『撚り戻し 付きダブルツイスト・バンチャー』の件」)で改ざんし,その価値をゆがめている。 【被告の主張】ア本件発明1について(ア) 本件発明1は,甲2の2(本件特許に係る公報)の【従来の技術】欄 及び甲3の記載から認定できる発明に,工程の節約のために複数の工程をまとめることや,ラミネートテープを縦沿えすることといった周知技術(乙18ないし23参照)を適用することで想到でき,同適用に格別困難はなかったから,その進歩性には疑問がある。 このほか,原告によれば,本件発明1は,昭和62年から被告におい て実施されていたとのことであるが,そうであれば,同実施により本件発明1は新規性を喪失しており(特 その進歩性には疑問がある。 このほか,原告によれば,本件発明1は,昭和62年から被告におい て実施されていたとのことであるが,そうであれば,同実施により本件発明1は新規性を喪失しており(特許法29条1項2号),特許要件を欠くものである。 なお,原告は,原価の節約分をベースに相当対価額を計算しているが,これは相当対価を基礎付ける独占の利益ではないから,原告の主張はそ れ自体失当である。 (イ) 特許性の有無は措くとしても,本件発明1の製法により製造されたトランシーバ用ケーブルの特性インピーダンスの値は,取引先の仕様を充たさないものであった。それにもかかわらず,同ケーブルが取引先に納入できたのは,被告の営業努力によるものである。 また,被告は,原告に対し,従来のシールド電線を改良して生産性を 向上することを命じたものであり,本件発明1は,生産性向上という会社の命令に対する業務として行われたものであって,使用者の貢献度は極めて高い。 (ウ) 本件発明1についての相当対価算定根拠となる平成元年規程(後記(2)【被告の主張】ア(ア)のとおり)は,従業員に対して周知されており,異 議申立てなどはなく,当然のルールとして受容されていたものである。 そして,本件発明1の実施補償の対象となる平成6年の実施実績は849万2000円である。被告は,これを前提に,原告に対し,本件発明1について,昭和63年9月末日に承継補償金6000円を,平成7年10月2日に登録補償金1万円及び実施補償金3万円を支払ってお り,不足額は存在しない。 乙4と甲4の売上の数値に齟齬があるとしても,両者は作成主体が異なる文書であり,齟齬があっても不思議ではない。甲4の「実績売上げ」の数値は,権利存続可否評価表の記載を根拠 り,不足額は存在しない。 乙4と甲4の売上の数値に齟齬があるとしても,両者は作成主体が異なる文書であり,齟齬があっても不思議ではない。甲4の「実績売上げ」の数値は,権利存続可否評価表の記載を根拠とするようだが,同評価表が発見できないため,被告としては乙4の「実績売上げ」の数値が正し いものと判断する。 なお,本件発明1を実施した効果は,工数の削減であるから,ケーブルに二次加工を加えての売上金額を基準とする理由はない。 このほか,原告は,被告において,種々の技術的貢献が考慮され,人事上,十分な処遇を受けていた。 イ本件発明2について(ア) 本件発明2は,乙31(公開実用新案公報昭63-135996号)記載の発明に,内部応力を除去する方法として「線心が巻取側に導入される前に線心に対しより癖をつけること」といった周知技術(乙32ないし36)を適用することで容易想到であった。 また,線心のねじれの不安定性を回避するために,供給側のダブルツ イストと巻取側のダブルツイストとの間に,線材に対して供給側のダブルツイストと同一の回転数を与える回転体を設けることは周知技術であって(乙32,30,37参照),乙31記載の発明に対し上記の回転体を付加することで本件発明2に想到するのは容易である。 このほか,本件発明2は,乙31記載の発明に,乙33(特許公報昭 63-63293号)記載の発明(複数のローラにより構成されるものであって,送出側装置と巻取側装置の間に配置される中間送出装置)を適用することでも容易想到であったから,いずれにしても進歩性がない。 (イ) 相当対価請求権という法定の権利を付与することにより奨励すべき「発明」は,出願に値するものに限定されるべきであり,改善提案レベ ルの発 たから,いずれにしても進歩性がない。 (イ) 相当対価請求権という法定の権利を付与することにより奨励すべき「発明」は,出願に値するものに限定されるべきであり,改善提案レベ ルの発明に対しては,特許法35条の適用はないというべきである。したがって,本件発明2のように,工場等にて日常的に実施されている改善提案のレベルにすぎず,特許性がないか,又は出願に値しないものについては,特許法35条の適用はなく,相当対価請求権は発生しない。 本件発明2は出願されず,ノウハウとして登録もされず,社内報(甲9) において広く公開されている。 また,仮に本件発明2について特許を受ける権利が発生しているとした場合には,後記(2)【被告の主張】イのとおり,平成元年規程が適用されることになるが,本件発明2は特許出願もノウハウとしての登録もされていないから,被告は原告に対して同規程に従って補償金を支払う必 要はない。 原告は,原価の節約分をベースに相当対価額を計算しているが,これは相当対価を基礎付ける独占の利益ではないから,原告の主張はそれ自体失当である。 なお,本件発明2は原告の着想によるものであるが,その具体化に際 しては,原告以外の従業員の工夫も貢献している。 (2) 争点(2)(相当対価の履行期)について【原告の主張】本件発明1についての相当対価の履行期は,本件発明1についての承継補償金が支払われた昭和63年9月末日の3年後である平成3年9月末日であると解すべきである。 また,本件発明2についての相当対価の履行期は,被告が同発明について特許出願をしないと決定した平成9年5月19日の3年後である平成12年5月19日であると解すべきである。 【被告の主張】ア本件発明1について の相当対価の履行期は,被告が同発明について特許出願をしないと決定した平成9年5月19日の3年後である平成12年5月19日であると解すべきである。 【被告の主張】ア本件発明1について (ア) 本件発明1については,昭和63年2月頃にその特許を受ける権利が被告に承継されたから,本来,権利承継時の昭和55年規程が適用されるのが原則であるが,その後の平成元年規程の方が登録補償金額の点で発明者にとって有利であるため,同規程が適用されるべきである。この点については,規程管理規程(乙5)の6条3項の定めも根拠となる。 そして,実施補償金については,平成17年規程において,実施後3年経過後に社長の決裁により一時金として支払う旨(以下「3年ルール」という。)が規定されており(30条2項),平成10年版の取扱細則(乙7の2)においても同趣旨の規定がある(18条2項)。他方で,平成8年6月13日付け「工業所有権補償金に関する問題点」と題する書面(乙 10)では,実施補償金について「従来は実施1年経過後,特許委員会が審議し,社長の決裁により決定して支払われていたが…」との記載がある(以下,実施補償金について,発明実施から1年経過後に社長の決裁により一時金として支払う旨のルールを「1年ルール」という。)。同書面は,1年ルールから3年ルールへの改善を提案しており,これが受 け入れられたものと解されるところ,平成8年規程の改訂日は平成8年 2月20日であって,同改訂において3年ルールに変更されたものとは解されず,3年ルールへの変更は,平成10年規程において行われたものと解される。 以上によれば,平成元年規程においては,実施補償金の支払は1年ルールで行われていたものと推認できる。 また,被告においては,同一 への変更は,平成10年規程において行われたものと解される。 以上によれば,平成元年規程においては,実施補償金の支払は1年ルールで行われていたものと推認できる。 また,被告においては,同一の特許発明に関して,実施補償金の支払を二度受けた者はおらず,実施補償金については一括払いとされていた。 このほか,平成元年規程においては,特許発明については特許登録したものについて実施料を支払う旨規定されていたものと推認できる(乙7の1参照)。 本件発明1は,昭和63年から実施され,平成7年1月27日に特許登録されているところ,実施補償金の支払の要件として「1年経過後」という1年ルールを前提とすると,本件発明1の実施補償金については,(特許登録後であってかつ)実施して1年経過後に,該当年の会社創立記念日(平成7年10月2日)に一時金として一括で支払うものである。 したがって,本件発明1の相当対価請求権の弁済期は,平成7年10月2日である。 (イ) 仮に,本件発明1について昭和55年規程が適用されるとした場合,同規程では,実施補償金につき,「会社は,職務発明等を実施して利益を得たとき,または会社以外の者に実施を許諾して利益を得たときは,そ の発明者に対し貢献度等を考慮して実施補償金を支払う。その補償金額は,その都度委員会で審議し役員会に答申,社長が決定する」としている(乙8の1)。 この実施補償金については,当該特許が実施されていることを前提条件として,当該特許の登録日が属する年又は翌年の会社の創立記念日に, 上限を3万円として支払うことが慣行になっていた。 本件特許の登録日は平成7年1月27日であるから,本件発明1の実施補償金の支払日は,同年10月2日となる。 (ウ) 仮に本件発明1について平 3万円として支払うことが慣行になっていた。 本件特許の登録日は平成7年1月27日であるから,本件発明1の実施補償金の支払日は,同年10月2日となる。 (ウ) 仮に本件発明1について平成8年規程が適用されるとした場合,前記(ア)のとおり,同規程では,実施補償金の支払について「1年ルール」が採用され,特許発明については特許登録したものについて実施料を支払 う旨規定されていたことが推認できる。そして,本件発明1は,昭和63年から実施され,平成7年1月27日に特許登録されているから,実施補償金の支払日は,実施から1年以上経過し,かつ特許登録を受けた年の会社創立記念日(平成7年10月2日)となる。 (エ) 仮に本件発明1について被告の発明考案規程が適用されないとする と,弁済期は,特許を受ける権利の承継時であるから,遅くとも,本件発明1の特許出願日である昭和63年2月16日となる。 イ本件発明2について本件発明2については,遅くとも平成6年5月頃にその特許を受ける権利が被告に承継されたから,権利承継時の平成元年規程が適用されるべき である。 平成元年規程は既に廃棄されているため,改訂履歴等からその内容を推認することとする。乙7の1の改訂履歴表の記載からすると,平成元年規程の改訂箇所は特許委員会に関する規程の削除のみであり,その他の条項は昭和55年規程と同一と推認できるところ,昭和55年規程にはノウハ ウについての規程はないから,平成元年規程も同様と推認できる。 そして,本件発明2については,特許出願もノウハウとしての社内登録もされていないから,本件発明2については平成元年規程に基づく補償金は発生せず,特許法35条に基づく相当対価請求権の弁済期は,承継時である遅くとも平成6年5月頃となる。 ウとしての社内登録もされていないから,本件発明2については平成元年規程に基づく補償金は発生せず,特許法35条に基づく相当対価請求権の弁済期は,承継時である遅くとも平成6年5月頃となる。 (3) 争点(3)(消滅時効の完成の有無)について 【被告の主張】ア本件発明1について上記(2)のとおり,本件発明1について,平成元年規程,昭和55年規程又は平成8年規程のいずれが適用されても,本件発明1の相当対価請求権の弁済期は平成7年10月2日となるから,平成17年10月2日時点で10年 の消滅時効期間は経過しており,被告はこれを援用する。 仮に本件発明1について被告の発明考案規程が適用されないとすると,弁済期は,特許を受ける権利の承継時であるから,遅くとも,本件発明1の特許出願日である昭和63年2月16日が消滅時効の起算点となる。 イ本件発明2について 上記(2)のとおり,仮に本件発明2について特許を受ける権利が発生しているとすれば,相当対価の弁済期は承継時である遅くとも平成6年5月頃となる。したがって,遅くとも平成16年5月頃には消滅時効期間が経過しており,被告はこれを援用する。 【原告の主張】 そもそも,消滅時効の完成は,発明者の権利が尊重され守られていることを前提とするところ,原告の権利は無視されていた(特に平成12年4月に不服申立て等をしてから定年退職までの期間は顕著であった。)のであるから,消滅時効は成立しない。 原告が,権利を無視されている在職中に訴訟を起こせば,さらに不利益を 受けることは明らかであったため,定年退職後に対価請求を行い,回答を受けて,本件訴訟に至ったものである。 このほか,発明考案規程の適用に際して,発明者に有利ということを根拠とするのは不合 受けることは明らかであったため,定年退職後に対価請求を行い,回答を受けて,本件訴訟に至ったものである。 このほか,発明考案規程の適用に際して,発明者に有利ということを根拠とするのは不合理であり,被告が主張する発明考案規程の適用を拒否する。 第3 争点に対する判断 事案に鑑み,争点(2)及び争点(3)から先に判断する。 1 争点(2)(相当対価の履行期)及び争点(3)(消滅時効の完成の有無)について(1) 相当対価の履行期について,原告は,本件発明1については平成3年9月末日であり,本件発明2については平成12年5月19日である旨主張する(そして,これらの日を相当対価に係る遅延損害金の起算日としている。)。 これに対し,被告は,本件発明1については,平成元年規程,昭和55年規 程又は平成8年規程のいずれが適用されても,履行期は平成7年10月2日であり(仮に被告の発明考案規程が適用されないならば,昭和63年2月16日となる。),また,仮に本件発明2について特許を受ける権利が発生しているとすれば,履行期は遅くとも平成6年5月頃となる旨主張する。 以上のとおり,本件発明1についての相当対価の履行期が遅くとも平成7年 10月2日であり,本件発明2についてのそれが遅くとも平成12年5月19日であることについては,当事者間に争いがない。 (2) そして,特許法35条に基づく相当の対価の支払を受ける権利は,同条により認められた法定の債権であるから,権利を行使することができる時から10年の経過によって消滅すると解される(民法166条1 項,167条1項)。 そうすると,上記各履行期の10年後である日(本件発明1については遅くとも平成17年10月2日,本件発明2については遅くと 過によって消滅すると解される(民法166条1 項,167条1項)。 そうすると,上記各履行期の10年後である日(本件発明1については遅くとも平成17年10月2日,本件発明2については遅くとも平成22年5月19日)の経過により,消滅時効が完成したものである。 そして,前記第2,1(5)のとおり,被告は,平成28年10月20日の本件第1回口頭弁論期日において,原告の被告に対する相当対価請求権について消 滅時効を援用する旨の意思表示をした。 したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がない。 これに対し,原告は,消滅時効の完成は発明者の権利が尊重されていることを前提とするところ,原告の権利は無視されていたのであるから,消滅時 効は成立しない旨や,権利を無視されている在職中に訴訟を起こせば,さら に不利益を受けることは明らかであった旨等を主張するが,いずれも上記消滅時効の完成を妨げる法的理由とはなり得ない。 (3) なお,以下,念のため,相当対価請求権が存在するとした場合の履行期について更に検討しておく。 ア従業者等は,契約,勤務規則その他の定めにより,職務発明について特許 を受ける権利を使用者等に承継させたときに,相当の対価の支払を受ける権利を取得するから(特許法35条3項),かかる相当の対価の支払を受ける権利の消滅時効は,特段の事情のない限り,特許を受ける権利を使用者等に承継させた時から進行するが,勤務規則等に使用者等が従業者等に対して支払うべき対価の支払時期に関する条項がある場合には,その支払時期が相当 の対価の支払を受ける権利の消滅時効の起算点となると解するのが相当である(最高裁判所平成15年4月22日第三小法廷判決・民集57巻4号477頁参 関する条項がある場合には,その支払時期が相当 の対価の支払を受ける権利の消滅時効の起算点となると解するのが相当である(最高裁判所平成15年4月22日第三小法廷判決・民集57巻4号477頁参照)。 イ被告は,職務発明に関して発明考案規程を設けているところ,弁論の全趣旨によれば,同規程の内容は不合理ではなく,また従業員の間にも周知され ていたものと認められるから,本件発明に係る特許を受ける権利の被告への承継に関しても,同規程が適用されるものと解される。 被告においては,職務発明規程について改訂が累次行われているが,職務発明の承継について適用されるのは,承継当時に効力を有していた職務発明規程であり,別段の定めのない限り改正後の規程は遡及的に適用されないと 解すべきである。しかるところ,前記前提事実のとおり,本件発明1の特許出願日は昭和63年2月16日であり,また,本件発明2の実施が開始されたのは平成6年5月ないし6月頃であるから,本件発明について特許を受ける権利は,いずれもその頃に被告に承継されたものと推認される。したがって,当該承継に適用されるのは,承継当時に効力を有していた職務発明規程, すなわち,本件発明1につき昭和55年規程,本件発明2につき平成元年規 程であるというべきである。 この点に関し,被告は,上記の昭和55年規程について,改訂後の規程の内容がいずれも発明者に有利であり(補償金額が増えたこと),また,規程管理規程(乙5)の6条3項において,「旧規程類の条項に新たに制定,改訂された規程類の条項が抵触するときは,特に定めがない限り新規程類の条項を 優先し,旧規程類の条項は新規程類の実施と同時に消滅する」旨定められていること等を根拠として,改訂後の平成元年規程が適用される旨主張す の条項が抵触するときは,特に定めがない限り新規程類の条項を 優先し,旧規程類の条項は新規程類の実施と同時に消滅する」旨定められていること等を根拠として,改訂後の平成元年規程が適用される旨主張する。 しかし,補償金額の点のみをとらえて,直ちに改訂後の規程が改訂前よりも発明者にとって有利であるとはいえないし,仮にそうであるとしても,直ちに改定後の規程が遡及的に適用されると解すべき根拠とはならない。また, 規程管理規程(乙5)における6条3項の定めは,あくまで平成26年6月10日施行版の規程管理規程における定めであって,本件発明1が被告に承継された時点で,上記のような定めがあったことを認めるに足りる証拠はない。したがって,被告の上記主張は採用できない。 ウ以上を前提として,まず本件発明1について検討すると,昭和55年規程 においては,各補償金の支払時期につき,承継補償金については「承継時」と,登録補償金については「被告が特許証等の交付を受けた時」と,それぞれ定められているところ,被告は原告に対し,同発明の承継補償金を昭和63年9月末日に,登録補償金を平成7年10月2日に,それぞれ支払済みである。また,実施補償金の支払時期については,「被告が職務発明等を実施し て利益を得たとき,又は被告以外の者に実施を許諾して利益を得たとき」とされているところ,被告が本件発明1を遅くとも昭和63年8月頃から実施していたことは当事者間に争いがない。 以上によれば,本件発明1に係る相当対価の履行期は,遅くとも被告が原告に対して本件発明1に係る実施補償金を支払った平成7年10月2日で あるというべきであるから,既に相当対価請求権についての消滅時効が完成 している。 エ他方,本件発明2は,特許出願されていない 係る実施補償金を支払った平成7年10月2日で あるというべきであるから,既に相当対価請求権についての消滅時効が完成 している。 エ他方,本件発明2は,特許出願されていないため,登録補償金は問題とならず,承継補償金と実施補償金が問題となる。 被告は,本件発明2の承継に適用される平成元年規程を紛失しているため,承継補償金の支払時期について,単に「承継時」と定められていたか,又は 平成10年規程に対応する取扱細則(乙7の2)のように「前年の9月1日から当年の8月末日の期間内に処置されたもの」について「当年の会社創立記念日」に支払うと定められていたかは不明であるが,前者であれば,履行期は平成6年5月ないし6月頃となり,後者であれば,履行期は平成6年10月頃となる。 また,実施補償金についても,昭和55年規程のように「被告が職務発明等を実施して利益を得たとき,又は被告以外の者に実施を許諾して利益を得たとき」と定められていたか,平成10年規程に対応する取扱細則(乙7の2)のように「実施して3年経過後,(中略)社長の決裁により該当年の会社創立記念日に一時金にて支払う」と定められていたかは不明であるが,前者 であれば,履行期は被告が本件発明2の実施を開始した平成6年5月ないし6月となり,後者であれば,履行期は平成9年10月頃となる。 以上によれば,本件発明2に係る相当対価の履行期は,遅くとも平成9年10月頃であるというべきであるから,既に相当対価請求権についての消滅時効が完成している。 なお,被告は,平成元年規程においては昭和55年規程と同様にノウハウについての規程はないから,本件発明2に係る相当対価の履行期は承継時となると主張するが,昭和55年規程(乙8の1)は職務発明一般を対象にし 告は,平成元年規程においては昭和55年規程と同様にノウハウについての規程はないから,本件発明2に係る相当対価の履行期は承継時となると主張するが,昭和55年規程(乙8の1)は職務発明一般を対象にしており(1条,2条⑸等),ノウハウを除外する趣旨と解する根拠は見当たらないから,被告の上記主張はその前提を欠き採用できない。 2 結論 以上によれば,原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官沖中康人 裁判官髙櫻慎平 裁判官矢口俊哉は転補のため署名押印できない。 裁判長裁判官沖中康人 (別紙) 本件発明2説明図 (A)巻取側にダブルツイスト巻取装置を一つ配置し、送出側にダブルツイスト送出装置を二つ配置し、(B)ダブルツイスト巻取装置とダブルツイスト送出装置の間に、複数のロー ラにより構成されて、かつ、モータの回転数をダブルツイスト装置のモータの回転数の2倍とする中間送出装置を配置すること(C)を特徴とする硬線にも適用できる撚線機 添付図面(甲17Fig3)参照
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