平成6(行ツ)200 遺族補償給付等不支給処分取消

裁判年月日・裁判所
平成9年4月25日 最高裁判所第三小法廷 判決 破棄自判 仙台高等裁判所 秋田支部 平成3(行コ)1
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判決文本文2,794 文字)

主文 原判決を破棄する。 被上告人の控訴を棄却する。 控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。 理由 上告代理人沼田敏明、同虻川高範、同上柳敏郎、同玉木一成の上告理由について一 D(当時三九歳)は、電気工として配電作業に従事していた労働者であるが、昭和五三年一二月三〇日午前二時三五分、非外傷性の脳血管疾患(脳内出血またはくも膜下出血)によってもたらされた気道閉塞により死亡した。本件は、Dの死亡が、労働者災害補償保険法にいう業務上の死亡に当たるか否かが争われた事件であり、その死亡原因に関して原審が適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。 1 Dは、長兄が三五歳で脳溢血を起こし、母親も若年時ではないが脳溢血を起こすなど、その家族歴に照らすと脳血管疾患にかかりやすい素因又は高血圧症等の基礎疾患を有していた可能性が低くはない。しかし、Dの勤務先では定期健康診断を実施しておらず、また、同人が個人的に健康診断を受けたこともなかったので、同人が右基礎疾患等を有していたことを明らかにする資料はない上、少なくとも死亡前約三年間は同人が医療機関で受診した形跡はうかがわれず、妻である上告人を含む周囲の者からはその健康状態に格別異常はないとみられていた。 2 Dが死亡の原因となった脳血管疾患を発症する二日前である同月二七日午後一時三〇分ころ、Dの同僚が建柱車に積載していた木製古電柱二、三本をクレーンでつり上げ、地上に降ろす作業をしていた際に、巻き過ぎによりワイヤーが切断され、その全部又は一部、金車及びこれと一体をなすフック(金車及びフックの合計重量は約三〇・八キログラム)がつり荷である電柱と共に、地上約三メートルの高- 1 -さから落下し、右落下地点付近で仕事をしていたDは、後 一部、金車及びこれと一体をなすフック(金車及びフックの合計重量は約三〇・八キログラム)がつり荷である電柱と共に、地上約三メートルの高- 1 -さから落下し、右落下地点付近で仕事をしていたDは、後ずさるような逃避行動をとったが、着用していた保安帽が脱げ落ち、鼻の左下端と口唇部左側上下二箇所に比較的小さな擦過傷又は軽度の圧挫傷を負った(以下、右事故を「本件事故」という。)。 3 Dは、本件事故後、頭痛、食欲不振等の自覚症状があり、上告人にもこれを訴えてはいたものの、その翌日及び翌々日も通常どおりに勤務を続け、木製電柱のコンクリート電柱への建替え等の作業に従事していたところ、同月二九日午後四時二〇分ころ、秋田県鹿角市内において、地上約一〇メートルの電柱上で電気供給工事に従事中に、左手、左足をだらりとさせるなど、脳血管疾患の症状を示して具合が悪くなり、同六時五分ころ、救急車でE病院に搬入された。なお、同日の気象条件は、最低気温が零下四・一度、最高気温が零下〇・二度であった。 4 Dは、E病院入院時、左側片麻痺、歩行不能、発語・応答不能、意識不明瞭であったが、痛覚刺激に対する反応はあり、最高血圧二四〇、最低血圧一二〇であった。入院後、Dの意識状態等に一時改善がみられたが、翌三〇日午前〇時四五分ころ容態が急変し、前記のとおり死亡するに至った。 二右事実関係の下において、原審は、本件事故による負傷及び同人が従事していた業務の一方又は双方が相対的に有力な因子となってDの死亡原因となった非外傷性の脳血管疾患が発症したとは認め難いから、Dの死亡は、業務上の死亡に当たらないと判断した。 三しかし、原審の右判断は是認することができない。その理由は、以下のとおりである。 前記事実関係によれば、Dは、非外傷性の脳血管疾患を発症しているのであるから 死亡に当たらないと判断した。 三しかし、原審の右判断は是認することができない。その理由は、以下のとおりである。 前記事実関係によれば、Dは、非外傷性の脳血管疾患を発症しているのであるから、その発症の基礎となり得る素因又は疾患を有していたことは否定し難いが、その程度や進行状況を明らかにする客観的資料がないだけでなく、同人は、死亡当- 2 -時三九歳と比較的若年であり、死亡前約三年間は医療機関で受診した形跡はなく、周囲の者からは健康状態に格別異常はないとみられていたというのであるから、同人の家族歴を考慮しても、右基礎疾患等が確たる発症因子がなくてもその自然の経過により血管が破綻する寸前にまで進行していたとみることは困難である。そして、Dが脳血管疾患の症状を示す二日前に遭遇した本件事故は、金車及びこれと一体をなすフック等がつり荷である電柱と共に地上約三メートルの高さから同人の近くに落下し、その結果、同人が軽度とはいえ顔面を負傷したというものであり、右の事故態様に照らし、相当に強い恐怖、驚がくをもたらす突発的で異常な事態というべきであって、これによる精神的負荷及び本件事故後に生じた頭痛や食欲不振といった身体的不調は、同人の基礎疾患等をその自然の経過を超えて急激に悪化させる要因となり得るものというべきである。しかも、Dは、本件事故後も、右のような精神的、肉体的ストレスを受けながら、厳冬期に、地上約一〇メートルの電柱上での電気供給工事等の相当の緊張と体力を要する作業に従事していたというのである。 以上によれば、Dの死亡原因となった非外傷性の脳血管疾患は、他に確たる発症因子のあったことがうかがわれない以上、同人の有していた基礎疾患等が業務上遭遇した本件事故及びその後の業務の遂行によってその自然の経過を超えて急激に悪化したことによって発症し 疾患は、他に確たる発症因子のあったことがうかがわれない以上、同人の有していた基礎疾患等が業務上遭遇した本件事故及びその後の業務の遂行によってその自然の経過を超えて急激に悪化したことによって発症したものとみるのが相当であり、その間に相当因果関係の存在を肯定することができる。Dの死亡は、労働者災害補償保険法にいう業務上の死亡に当たるというべきである。 四以上によれば、Dの死亡は業務上の死亡に当たらないとした原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、この点をいう論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、前記説示によれば、上告人の請求を認容した第一審判決は正当として是認すべきものであるから、被上告人の控訴を棄却すべきである。 - 3 -よって、原判決を破棄し、被上告人の控訴を棄却することとし、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 最高裁判所第三小法廷裁判長裁判官大野正男裁判官園部逸夫裁判官千種秀夫裁判官尾崎行信- 4 -

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