平成6(オ)2302 慰謝料請求事件

裁判年月日・裁判所
平成12年3月17日 最高裁判所第二小法廷 判決 棄却 名古屋高等裁判所 平成3(ネ)656
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判決文本文15,959 文字)

主文 本件上告を棄却する。 上告費用は上告人の負担とする。 理由 上告代理人浅井正の上告理由第一点及び第二点について 検察官、検察事務官又は司法警察職員(以下「捜査機関」という。)は、弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(以下「弁護人等」という。)から被疑者との接見又は書類若しくは物の授受(以下「接見等」という。)の申出があったときは、原則としていつでも接見等の機会を与えなければならないのであり、捜査機関が現に被疑者を取調べ中である場合など、右接見等を認めると取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合に限り、接見等のための日時、場所及び時間を指定することができるが、その場合には、弁護人等と協議してできる限り速やかな接見等のための日時等を指定し、被疑者が弁護人等と防御の準備をすることができるような措置を採らなければならないものと解すべきである(最高裁平成五年(オ)第一一八九号同一一年三月二四日大法廷判決・民集五三巻三号五一四頁参照)。ところで、弁護人等から接見等の申出を受けた者が、接見等のための日時等の指定につき権限のある捜査機関(以下「権限のある捜査機関」という。)でないため、右指定の要件の存否を判断できないときは、権限のある捜査機関に対して右の申出のあったことを連絡し、その具体的措置について指示を受ける等の手続を採る必要があり、こうした手続を要することにより、弁護人等が待機することになり又はそれだけ接見等が遅れることがあったとしても、それが合理的な範囲内にとどまる限り、許容されているものと解するのが相当である。 そして、右接見等の申出を受けた者が右合理的な時間の範囲内で対応するために採- 1 -った権限のある捜査機関に対する連 れが合理的な範囲内にとどまる限り、許容されているものと解するのが相当である。 そして、右接見等の申出を受けた者が右合理的な時間の範囲内で対応するために採- 1 -った権限のある捜査機関に対する連絡等の措置が社会通念上相当と認められるときは、当該措置を採ったことを違法ということはできない(最高裁昭和六一年(オ)第八五一号平成三年五月三一日第二小法廷判決・裁判集民事一六三号四七頁参照)。 また、右連絡に対して、権限のある捜査機関から、指定する接見等の日時まで接見等をさせてはならない旨の指示を受けたときは、右接見等の申出を受けた者がこれに従ったとしても、特段の事情のない限り、このことをもって違法ということはできない。 これを本件について見ると、原審の適法に確定した事実は、次のとおりである。 上告人は、昭和六二年二月五日午後三時ころ、接見しようとする被疑者が勾留されている中川警察署に赴き、留置管理係員であるE巡査に対して右被疑者との接見の申出をした。同巡査は、権限のある捜査機関であるF検察官から被疑者と弁護人等との接見等の日時等を別に発すべき指定書(いわゆる具体的指定書)のとおり指定する旨を記載した接見等に関する指定書(いわゆる一般的指定書)が送付されていたのに、上告人が具体的指定書を所持しているか否かを確認しないまま、接見を開始させた。しかし、その一、二分後に上告人が具体的指定書を所持していないことに気付いた同巡査からその旨の報告を受けたG留置管理係長は、接見を中止させるとともに、直ちに被疑者の捜査を担当している中村警察署保安係に電話して捜査主任官の意向を聴いた後、午後三時一五分ころ電話で同検察官に上告人から接見の申出があった旨を連絡した。同検察官が具体的指定書によって接見の日時等を指定するのでその日時まで接見をさせてはならない旨を指示 任官の意向を聴いた後、午後三時一五分ころ電話で同検察官に上告人から接見の申出があった旨を連絡した。同検察官が具体的指定書によって接見の日時等を指定するのでその日時まで接見をさせてはならない旨を指示したため、同係長は、具体的指定書が届けられた午後四時五〇分ころまでの間、上告人を待機させた。 【要旨】右の事実関係の下においては、G留置管理係長の措置が合理的な時間の範囲内でF検察官の指示を求めるための社会通念上相当と認められる行為であることは明らかであり、前記特段の事情も認められないから、同係長が、上告人と被疑- 2 -者との接見を中止させた上、右指示に従い上告人を待機させたことに違法があるとはいえない。 これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、違憲をいう点を含め、独自の見解に基づいて原判決の法令違背をいうものにすぎず、採用することができない。 その余の理由について原審の適法に確定した事実関係の下においては、G留置管理係長がF検察官の違法行為を幇助したものとはいえないとした原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立って原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。 よって、裁判官河合伸一、同梶谷玄の各反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 裁判官河合伸一の反対意見は、次のとおりである。 一憲法三四条は、「何人も‥‥直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない」と定めている。これは、被疑者に対し、弁護人を選任した上で、その弁護人に相談し、助言を受けるなど、弁護人から援助を受ける機会を持つことを保障するものである。 刑訴法三九条一項は、身体を拘束されている被疑者が弁護人等 、被疑者に対し、弁護人を選任した上で、その弁護人に相談し、助言を受けるなど、弁護人から援助を受ける機会を持つことを保障するものである。 刑訴法三九条一項は、身体を拘束されている被疑者が弁護人等との接見交通権を有することを規定しているが、これは憲法の右保障をより具体的に定めるものである。そして、被疑者のこの権利と弁護人等が被疑者と接見交通する権利は表裏の関係にあるから、弁護人等の接見交通権もまた憲法三四条の保障に由来するものというべきである。 二刑訴法三九条は、さらに三項本文において、捜査機関が、接見等の日時、場所及び時間を指定することにより、接見交通権の行使に制限を加えることを認めてい- 3 -る。これは、国家刑罰権の発動としての捜査権の行使のため、捜査機関が身体を拘束されている被疑者を取り調べることもまた憲法の承認するところであることを前提として、右捜査権の行使と接見交通権の行使との間の調整を図る趣旨の規定である。 しかし、接見交通権の由来する憲法三四条の文言、捜査機関の接見指定権の行使に加えられた刑訴法三九条三項ただし書の制約、さらには、接見交通権が、被疑者の基本的人権のためのみならず、国家刑罰権の適正な実現のためにも機能するものであることなどからすると、捜査機関のする右接見の日時等の指定は、あくまで必要やむを得ない例外的措置として、されなければならない。すなわち、 1 弁護人等から被疑者との接見を求める申出があったときは、被疑者を拘束している捜査機関等は、原則として、いつでも、かつ直ちに、接見をさせなければならない(もっとも、ここで「直ちに」とは、「このような事務を処理するために社会通念上許容される合理的時間内に」の意味である。)。 2 刑訴法三九条三項本文の要件があるときは、捜査機関は、接見の日時等を指定すること 、ここで「直ちに」とは、「このような事務を処理するために社会通念上許容される合理的時間内に」の意味である。)。 2 刑訴法三九条三項本文の要件があるときは、捜査機関は、接見の日時等を指定することができ、適法にこの指定がされた場合は、そしてその場合に限り、右原則の例外として、その指定がされた時から指定された日時まで、接見交通権の行使は停止され、その間の接見の申出は拒絶される。 3 右指定の要件としての「捜査のため必要があるとき」とは、弁護人等から接見の申出を受けた時に、(一) 現に被疑者を取り調べているなど、捜査のためその身柄を利用中であって、申出どおりに、接見を認めるためにはその取調べ等を中断せざるを得ない場合、又は、(二) 間近い時に取調べ等をする確実な予定があって、申出どおりに接見を認めたのでは、右取調べ等が予定どおり開始できなくなるおそれがある場合などであって、(三) かつ、右取調べ等の中断又は開始不能により捜査に顕著な支障が生ずるときに限られると解すべきである(前項及び本項- 4 -につき、多数意見引用の最高裁大法廷判決参照)。 三監獄法一条三項により監獄として代用される警察官署付属の留置場に被疑者が勾留されている場合、被疑者の留置に関する業務を担当するのは、当該警察官署の総務又は警務部門所属の職員たる留置主任官及びその補助職員である(以下、併せて「留置担当官」という。)。 留置担当官は、その業務に関し、捜査機関の指揮命令下にあるものではなく、これとは独立し、その責任において留置業務を遂行すべき立場にある。留置担当官が、その留置している被疑者について弁護人等から接見の申出を受けた場合も、もとより同様であって、留置担当官は、前述の憲法及び刑訴法の趣旨に従い、右の立場において、適切に必要な措置を講じなければならない。留置担 置している被疑者について弁護人等から接見の申出を受けた場合も、もとより同様であって、留置担当官は、前述の憲法及び刑訴法の趣旨に従い、右の立場において、適切に必要な措置を講じなければならない。留置担当官がこの職務に違反し、弁護人等の接見交通権の行使を妨げたときは、国家賠償法上も違法となることは多言を要しない。 四ところで、原審の認定事実及び記録に徴すると、本件当時、被上告人警察の留置担当官においては、接見指定の権限を有する捜査機関の発する一般的指定書を受けている被疑者について弁護人等から接見申出を受けた場合、具体的指定書を持参していれば、その内容に従って接見させ、これを持参していなければ、右捜査機関に連絡して、指定権を行使するか否かを確認し、もしこれを行使しないというのであれば直ちに接見させ、もしこれを行使するというのであれば双方で協議してもらい、その協議の結果に従って接見させる取扱い(以下「本件取扱い」という。)をしており、本件において上告人が被疑者と申出どおりの接見をすることができなかったのも、右取扱いに起因するものであったことがうかがえる。 原審は、右の一般的指定書を、捜査機関が、留置担当官に対し、弁護人等から接見の申出があった時に接見指定権を行使することがあり得る旨を通知する内部的連絡文書と解した上、留置担当官が捜査部門から切り離されていて、接見指定の要- 5 -件の存否を判断し得る立場にないから、接見の申出に際し権限ある捜査機関にその判断と指定権行使の機会を与える必要があるとして、本件取扱いの適法性を肯定するごとくである。 五しかし、私は、本件取扱いを、少なくともそのまま適法とすることはできないと考える。 1 たしかに、留置担当官は、捜査部門から独立した立場にあるから、前記二項3の接見指定要件のすべてを判断することは しかし、私は、本件取扱いを、少なくともそのまま適法とすることはできないと考える。 1 たしかに、留置担当官は、捜査部門から独立した立場にあるから、前記二項3の接見指定要件のすべてを判断することはできない。しかし、その要件の(一)、すなわち、現に捜査機関が被疑者を取り調べるなどしていて、申出どおりの接見を認めるためにはこれを中断せざるを得なくなる場合に当たるかについては、容易に判断することができる。また、その(二)についても、捜査機関が間近い時に取調べなどをする確実な予定を立てていることを知っていれば、その予定開始時刻と弁護人の接見申出の内容を勘案して、申出どおりに接見を認めたのでは右取調べ等を予定どおり開始できなくなるおそれがある場合に当たるか否かを判断することができる。そして、右(一)及び(二)のいずれにも当たらないことが分かれば、接見指定の要件がないことは明らかなのであるから、直ちに接見をさせればよく、右(一)又は(二)の場合に当たると判断するときに初めて、その旨を権限ある捜査機関に連絡し、同機関に前記(三)の要件、すなわち、右取調べの中断又は予定どおりの開始の不能により捜査に顕著な支障が生じるかを判断して接見指定権を行使する機会を与えれば足りるはずである。もっとも、右の(二)についてこのような取扱いをするためには、捜査機関において、間近い時に取調べをする予定が確実なものとなったときに、その旨を留置担当官に予告しておくべきこととなるが、一般にそれが捜査機関にとって困難を伴うものとは考えられない。 2よしんば、右のように取り扱うことが困難な事情があるため、捜査機関が、留置担- 6 -当官に対し、ある被疑者について接見指定をする可能性があることのみを通知しておき、その被疑者について接見の申出があった時に留置担当官からその旨を権 困難な事情があるため、捜査機関が、留置担- 6 -当官に対し、ある被疑者について接見指定をする可能性があることのみを通知しておき、その被疑者について接見の申出があった時に留置担当官からその旨を権限ある捜査機関に連絡してその判断を待つとの取扱いをする必要のある場合があるとしても、その場合、留置担当官としては、権限ある捜査機関に連絡して、その指示どおりに行動すれば足りるものではない。もし、同機関の指示ないし対応が明らかに違法であるときには、その指示等に盲従することなく、速やかに申出に沿った接見をさせるなど、適切な措置を講じなければならない。けだし、留置担当官は捜査機関の指揮命令下にあるわけではなく、これとは独立した立場で、接見の業務を公正、適切に遂行する職責を負うものだからである。 六これを本件について見るに、原審認定の事実及び記録からうかがえる事実関係のうち問題とすべき点、及び、それについての私の意見は、次のとおりである。 1 上告人は、当日午後三時ころ、本件被疑者の在監する被上告人の中川警察署に赴き、本件被疑者との接見を適法に開始した。しかるに、同署の留置担当官たるG係長は、本件被疑者について接見指定の権限を有するF検察官から一般的指定書の送付を受けていたところ、上告人がこれに対応する具体的指定書を持参していないことに気付き、上告人に対し「指定書がない限り会わせられない」と告げて、事実上、右接見を中止させた。 しかし、弁護人等が適法に被疑者との接見を開始したときは、正当な理由がない限り、留置担当官は、これを中止させることは許されないと解すべきである。 それは、前記二項3の(二)に示したとおり、弁護人等から接見の申出を受けた時に、捜査機関が間近い時に取調べ等をする確実な予定がある場合は、原則として、接見指定の要件があるものと解釈 解すべきである。 それは、前記二項3の(二)に示したとおり、弁護人等から接見の申出を受けた時に、捜査機関が間近い時に取調べ等をする確実な予定がある場合は、原則として、接見指定の要件があるものと解釈されていること(前掲最高裁大法廷判決参照)からも明らかである。けだし、右解釈は、いったん弁護人等の接見が開始されれば、たとえその時間に捜査機関の取調べ予定があっても、右接見を中止させることはで- 7 -きないとの理解を前提としているからである。 そして、一般的指定は事務連絡文書に過ぎず、被疑者、弁護人等に対する関係で何らの法的効力も有しないことは、原審も認めるとおりである。したがって、本件被疑者について一般的指定があり、上告人が具体的指定書を持参していなかったことは、何ら右接見中止の正当理由となるものではない。 G係長の右措置は違法であったというべきである。 2 また、上告人が接見を求めた時点において、捜査機関は本件被疑者を取り調べておらず、G係長が捜査主任官及びF検察官に聞いても、間近い時に取調べをする確実な予定はなかった。すなわち、前記五項の1で述べたとおり、留置担当官にとっても、接見指定の要件がないことが明らかな場合であった(F検察官が具体的指定権を行使すべきであると判断したのは、上告人の接見により共犯者との通謀等、罪証湮滅のおそれがあることを考慮したためであった)。したがって、G係長としては、直ちに上告人の接見を再開させるべきであったのに、その措置を採らなかったのであって、この点もまた、留置担当官としての職務に違反したものというべきである。 3 さらに、G係長が、F検察官の違法な指示に盲従した点においても、職務違反があったものといわねばならない。 F検察官は、G係長に対し、具体的指定をするのでその指定書を取りに である。 3 さらに、G係長が、F検察官の違法な指示に盲従した点においても、職務違反があったものといわねばならない。 F検察官は、G係長に対し、具体的指定をするのでその指定書を取りに来るよう上告人に伝えさせ、あるいは電話で上告人に直接その旨を告げたのであるが、仮に当時接見指定の要件があったとしても(それがなかったことは原審の確定するところである)、接見指定は書面ですることを要するものではなく、具体的情況に応じて、適切な方法を採ればよいものである。既に被疑者の所在する代用監獄に臨場して接見を求めている弁護人に対し、往復一時間以上を要する検察庁に指定書を取りに来- 8 -させる合理性は全く存しない。しかるに、それを取りに来なければ接見をさせてはならないとするF検察官の指示は、上告人の接見交通権の行使を不当に制限するものであって、刑訴法三九条三項ただし書に照らし、違法なものであったことは明らかである。 G係長は、留置担当官として、捜査機関から独立し、自己の責任において接見に関する業務を適正に遂行すべき職責を有するのに、漫然と右の明らかに違法な指示に従い、結局H巡査が指定書を持って帰った当日午後四時五〇分ころまで、上告人の接見を拒否し続けたのである。 以上、いずれの点からしても、被上告人警察の留置担当官がその職務に違背し、それによって上告人の権利が侵害されたことは明らかである。 七しかるに、原審は、留置担当官の職務に関する法令の解釈、適用を誤り、右の職務違背をいずれも認めなかったのであって、この違法が原判決に影響を及ぼすことは明らかである。 よって、原判決を破棄し、右留置担当官の故意過失の存否等、上告人の本訴請求に関するその余の点につき審理をさせるため、本件を原審に差し戻すべきものである。 裁判官梶谷玄 ことは明らかである。 よって、原判決を破棄し、右留置担当官の故意過失の存否等、上告人の本訴請求に関するその余の点につき審理をさせるため、本件を原審に差し戻すべきものである。 裁判官梶谷玄の反対意見は、次のとおりである。 私は、多数意見とは意見を異にし、原審の確定した事実関係の下で、G留置管理係長が、いったんE巡査において認めた上告人の被疑者との接見を中止させ、その後捜査主任官であるF検察官の違法な指示に従い、午後三時過ぎころより午後四時五〇分ころまでの間、上告人に被疑者との接見を認めなかったことは違法と考える。 その理由は、次のとおりである。 一代用監獄における留置担当官の権限及び義務- 9 -代用監獄における留置担当官は、捜査機関から独立した機関であり、監獄法の規定に従って留置場を管理するとともに、被疑者の権利を擁護する義務、すなわち、捜査機関による被疑者の違法・不当な取調べを行わせず、また被疑者の弁護人又は弁護人となろうとする者(以下「弁護人等」という。)との接見交通権を確保する義務を負担するものである。このうち、被疑者とその弁護人等との接見交通に関しては、捜査のため必要があるとき、すなわち、現に取調べ中であるとか、間近い時に取調べの確実な予定があって捜査に顕著な支障を生ずるようなとき等の場合以外は、被疑者に弁護人等との接見交通を認めるべき権限と義務を有し、担当捜査官から事前に接見指定をするかもしれないとの内部的な連絡(以下「接見指定の内部連絡」という。)がされていたときであっても、これは何ら法的な効力を持つものではなく、留置担当官において、右捜査の必要が認められず、また、担当捜査官との連絡ができず又はその他の理由で合理的な時間を超えて弁護人等に被疑者との接見をさせなかったときには、弁護人等に被疑者との接見を認める 留置担当官において、右捜査の必要が認められず、また、担当捜査官との連絡ができず又はその他の理由で合理的な時間を超えて弁護人等に被疑者との接見をさせなかったときには、弁護人等に被疑者との接見を認める義務に違反し、違法となるというべきである。これを詳説すると、次のとおりである。 二刑事訴訟法及び監獄法の規定 1 弁護人等の被疑者との接見交通権及び刑訴法三九条三項における「捜査のため必要があるとき」の解釈身体の拘束を受けている被疑者が弁護人から援助を受ける権利は、憲法三四条によって保障されているものであり、弁護人等の被疑者との接見交通権も、右憲法三四条の趣旨にのっとり、身体の拘束を受けている被疑者が弁護人等と相談し、その助言を受けるなど弁護人等から援助を受ける機会を確保する目的で設けられたものであり、その意味で、刑訴法の右規定が憲法の保障に由来するものであることは、多数意見引用の最高裁大法廷判決の判示するところである。ところで、捜査機関は、弁護人等から、被疑者との接見等の申出があったときは、原則としていつで- 10 -も接見等の機会を与えなければならないところ、刑訴法三九条三項本文で「捜査のため必要があるとき」にはその日時、場所及び時間を指定することができるとされているが、同項ただし書にあるように、その指定が防御の準備をする被疑者の権利を不当に制限することは許されないのであって、右指定が許されるのは、取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合に限られ、弁護人等から接見等の申出を受けた時に、捜査機関が現に被疑者を取調べ中である場合や実況見分、検証に立ち会わせている場合、また、間近い時に右取調べ等をする確実な予定があって、弁護人等の申出に沿った接見等を認めたのでは、右取調べ等が予定どおり開始できなくなるおそれがある場合等は、原 況見分、検証に立ち会わせている場合、また、間近い時に右取調べ等をする確実な予定があって、弁護人等の申出に沿った接見等を認めたのでは、右取調べ等が予定どおり開始できなくなるおそれがある場合等は、原則として右にいう取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合に当たると解すべきものとされている(最高裁昭和五三年七月一〇日第一小法廷判決、同平成三年五月一〇日第三小法廷判決、同平成三年五月三一日第二小法廷判決、同平成一一年三月二四日大法廷判決)。すなわち、この「捜査の中断による支障が顕著な場合」とは、「接見申出時に間近い」という時間的接着性と、取調べ等の予定の「確実性」という二重の要件を加味して、捜査機関が刑訴法三九条三項の指定権を濫用しないように歯止めを掛けたもので、罪証湮滅の防止ないし捜査全般の必要性からこれを判断することは許されないものであり、この判断基準は極めて明確である。また、前記最高裁平成三年五月一〇日第三小法廷判決において、坂上裁判官が補足意見で「捜査機関が、弁護人の接見申出を受けた時に、現に被疑者を取調べ中であっても、その日の取調べを終了するまで続けることなく一段落した時点で右接見を認めても、捜査の中断による支障が顕著なものにならない場合がないとはいえないと思われるし、また、間近い時に取調べをする確実な予定をしているときであっても、その予定開始時刻を若干遅らせることが常に捜査の中断による支障が顕著な場合に結びつくとは限らない」と述べているように、捜査に顕著な支障があるとして接見指定をするのは、真にやむを得ない場合に限る- 11 -べきものとされているのである。 2 留置担当官の一般的義務について被疑者が代用監獄としての警察署の留置場において勾留されているときには、監獄法四五条一項が代用監獄における留置主任官に適用 べきものとされているのである。 2 留置担当官の一般的義務について被疑者が代用監獄としての警察署の留置場において勾留されているときには、監獄法四五条一項が代用監獄における留置主任官に適用され、また被疑者留置規則四条二項により、留置主任官は、警察署長を補佐し、看守勤務の警察官を指揮監督するとともに、被疑者の留置及び留置場の管理について、その責めに任ずるものとされている。 留置担当官は、監獄事務の本旨に従って、その権限を行使し、義務を履行すべきものであるところ、被疑者を捜査官と切り離して拘禁する監獄設置の趣旨、目的からして、監獄事務においては、捜査官の過度の取調べの防止とともに、弁護人等との接見交通の不当な制限の防止もその職責の中に含まれると解される。すなわち、刑訴法三九条一項に定める被疑者と弁護人等との接見交通の侵害の防止等、担当捜査官に対する関係における被疑者の権利の保障も、留置担当官の職責に含まれるものである。そして、留置担当官は、本来、監獄の長と同様に、接見について許否の権限を有するものであるから(監獄法四五条一項、被疑者留置規則二九条一項)、右のような機能を果たすためにも、刑訴法三九条三項による捜査機関の接見の指定につき、捜査の必要がないときには弁護人等に被疑者との接見を認めるべき権限と義務があり、これは、担当捜査官から事前に接見指定の内部連絡がある場合であっても同様であり、弁護人等から接見の申出があった場合において、捜査の必要の要件がないとき、又は担当捜査官との連絡を取って指示を受けるのに要する合理的な時間が経過したときには、同条一項によって保障された接見交通権を確保し、担当捜査官の不当な指定権の行使により接見交通の確保の権利が形がい化しないよう、この機能を果たす必要がある。 - 12 - な したときには、同条一項によって保障された接見交通権を確保し、担当捜査官の不当な指定権の行使により接見交通の確保の権利が形がい化しないよう、この機能を果たす必要がある。 - 12 - なぜなら、元来警察署の留置場を監獄の代用である代用監獄として使用するに至ったのは、拘置所が適当な場所に直ちに増設できないところから、やむを得ず警察署の留置場を使用しなければならないという実際上の必要から生じた暫定的な経過措置としてであるが、捜査を担当する警察署の中に代用監獄を設置することに対しては、捜査官が被疑者の身柄を常時捜査のために利用し、違法・不当な取調べ方法により自白を強要する危険があるとの批判があったので、代用監獄においても監獄業務を捜査業務と切り離し、監獄業務を独立した機関である留置担当官に担当させることとし、被疑者の人権について十分配慮するとともに、被疑者の弁護人等との接見の権利を確保し、その防御をする権利を不当に制限することがないようにする必要があるからである。 三代用監獄に対する国際的批判これに加えるに、日本の代用監獄制度は、近時国際的に大きな批判を浴びており、その批判に耐えるようその運用を図ることが強く要請されている。すなわち、 1 市民的及び政治的権利に関する国際規約(昭和五四年条約第七号。以下「規約」という。)の遵守に関し、国際(人権)規約委員会は、昭和六三年以降再三にわたり、日本国における拘禁が速やかにそして有効に裁判所の下に置かれないで警察の権限に放置されていること、及び代用監獄制度が警察と別個の権限の下に置かれていないこと等を規約違反と指摘し、代用監獄制度の運用が規約のすべての要求に適合しなければならないこと等を勧告している。また、平成一〇年一一月一九日に出された、日本政府の第四回報告書に対する同委員会の最終 いこと等を規約違反と指摘し、代用監獄制度の運用が規約のすべての要求に適合しなければならないこと等を勧告している。また、平成一〇年一一月一九日に出された、日本政府の第四回報告書に対する同委員会の最終見解においても、起訴前勾留は、警察の管理下で最長二三日間にも及び、保釈が認められず、刑訴法三九条三項に基づき弁護人との接見に厳しい制限があり、取調べが弁護人の立会いなしで行われるなど、規約九条、一〇条及び一四条に規定する保障が完全に満たされ- 13 -ていないこと(二二項)、代用監獄が警察から分離された当局の管理下にないのは、規約九条及び一四条に基づく被拘禁者の権利の侵害の機会を増加させる可能性があること(二三項)、自白が強要により引き出される可能性を排除するため、代用監獄における被疑者の取調べが厳格に監視されるべきこと(二五項)等が勧告されている。 日本政府は、右第四回報告書において、刑訴法三九条三項に基づく接見指定権の行使につき、最高裁判所の昭和五三年七月一〇日、平成三年五月一〇日及び同月三一日の判決について述べた後、実際の運用上も、検察官があらかじめ施設の長に対し接見指定をすることがある旨通知した事件において、弁護人が直接施設に赴いて接見を求めたときも、係官は、検察官に連絡し、検察官が接見指定の要否を前記最高裁判例の趣旨に従って判断し、接見指定をしないか、接見時間のみの指定をする場合は、弁護人と被疑者を直ちに接見させる取扱いとしていると述べ、また、代用監獄制度について、被留置者の人権保障のため、被留置者の処遇を担当する部門と犯罪捜査を担当する部門は厳格に分離されている旨報告している。それにもかかわらず、規約委員会は、前記最終見解を出しているのである。 2 さらに、平成六年と七年に、国際法曹協会(InternationalBar 当する部門は厳格に分離されている旨報告している。それにもかかわらず、規約委員会は、前記最終見解を出しているのである。 2 さらに、平成六年と七年に、国際法曹協会(InternationalBarAssociation)により、代用監獄に関して詳細な調査が行われ、代用監獄制度は、違法かつ不当な手段が使われる機会を提供するものであること等から、規約の七、九、一〇、一四条及び国連被拘禁者保護原則の諸原則に反し、又はそのおそれがあること、代用監獄が廃止できないならば、その管理が法務省矯正局の管轄下で警察から独立して行われるよう改善すべきこと等が勧告されている。 日本政府(警察庁)は、国際法曹協会に対し、拘禁担当の部署は捜査担当の部署から完全に分離され、日本の警察は、代用監獄に収容された被拘禁者の防御権の尊重- 14 -等、その人権保障に必要な措置を講じており、その所管を他の機関に移す必要はない旨回答しているが、それにもかかわらず、国際法曹協会は、前記勧告をしているのである。 3 このように、日本政府は、代用監獄における留置担当官と担当捜査官の分離の問題について、両者は実質的にも分離され、捜査官による不当な取調べの防止や弁護人等からの接見申出に対しても十分に配慮しており、規約違反はない旨前記国際機関等に説明している。そして、既に説示したところによれば、日本政府の説明は、現実に実施、運用されるべきものであり、留置担当官は、捜査担当官の違法な取調べに対して審査機能を果たすと共に、弁護人と被拘禁者との接見交通について、担当捜査官に連絡しその指示に従えば足りるというのではなく、接見指定要件がないときは自ら責任を持って接見を認めるべき義務がある。 四留置担当官の接見に関する権限と義務 このように、留置担当官は、捜査の必要のない限り 示に従えば足りるというのではなく、接見指定要件がないときは自ら責任を持って接見を認めるべき義務がある。 四留置担当官の接見に関する権限と義務 このように、留置担当官は、捜査の必要のない限り、弁護人等に被疑者との接見を認めるべき権限と義務がある。そして、この捜査の必要については、前述のとおり、最高裁判所の度重なる判決によって、担当捜査官により現に取調べ等が行われているとき、又は間近い時に確実な取調べの予定があって、弁護人等の必要とする接見を認めたのでは、取調べの中断によって捜査に顕著な支障を生ずるとき等の場合に限られ、捜査の全般的な必要のためであるとか、罪証隠滅のおそれがあるとして、接見指定(制限)することは許されない、とされているところであるから、留置担当官においては、この最高裁判所の明確な判示を理解し、これに従ってその職務を遂行する義務があり、もしそのような捜査の必要が見いだされないときには、直ちに弁護人等に被疑者との接見を認めるべき義務がある。もっとも、留置担当官は、具体的な捜査の必要について必ずしもその全ぼうを知り得ないこともあるので、担- 15 -当捜査官からの接見指定の内部連絡のある被疑者について、その弁護人等から接見の申出を受けたときは、担当捜査官と連絡を取り、捜査の必要に関し、その指示に従うこともあるが、このような指定の連絡は、捜査機関と監獄の長との間の内部的な事務連絡であって、対外的には何ら効力を与えるものではなく、接見指定をすることがある旨の連絡がある被疑者の場合であっても前記の捜査の必要がないとみられる場合には、留置担当官は直ちに弁護人等に被疑者との接見を許さなければならない義務がある。また、留置担当官が担当捜査官に連絡しても、右の趣旨からして連絡の事務処理のために許される合理的な時間(これは、連絡手段の 留置担当官は直ちに弁護人等に被疑者との接見を許さなければならない義務がある。また、留置担当官が担当捜査官に連絡しても、右の趣旨からして連絡の事務処理のために許される合理的な時間(これは、連絡手段の発達した今日、少ない時間で済むはずである。)以内に連絡が取れない場合又は弁護人等と担当捜査官との連絡がされない状態が経過する場合においては、留置担当官には、弁護人等に被疑者との接見を認めるべき義務がある。 担当捜査官と連絡が取れない場合に、弁護人等を合理的な時間以上被疑者と接見させないという取扱いをしてはならないことは、法務省と日本弁護士連合会との協議事項でも明示されており、弁護人等が担当捜査官との事前の連絡なしに当該留置場又は拘置所に赴き被疑者との接見を求めた場合、留置担当官において、担当捜査官と連絡するも、合理的な時間以内に担当捜査官から指定をするか否かについての連絡がないときには、指定はしないものとして接見を実現させる旨の取扱いが明示されているところである。もし具体的に確実な取調べ予定があれば、担当捜査官においては、あらかじめ前日に取調べの予定を留置担当官に通知しておくなどの方法を採れるわけであるし、また、当日被疑者の取調べを実行しようとすれば、留置担当官に連絡しておけばその取調べに支障を生ずることがないのである。 このように、留置担当官には、弁護人等に被疑者との速やかな接見を認める義務が- 16 -あり、担当捜査官に連絡する場合においても、一定時間を超えて弁護人等に接見をさせなかったときにはその行為が違法となり得ることは、前述の最高裁平成三年五月三一日第二小法廷判決においても認められていたところである。 それゆえに、現に具体的な取調べが行われておらず、担当捜査官から具体的な取調べに関する指示が合理的な時間以内にな 最高裁平成三年五月三一日第二小法廷判決においても認められていたところである。 それゆえに、現に具体的な取調べが行われておらず、担当捜査官から具体的な取調べに関する指示が合理的な時間以内にないとき、又は、担当捜査官が不在であり、合理的な時間以内に連絡が取れないときには、留置担当官に弁護人等と被疑者との接見を認める義務があるのであって、漫然と担当捜査官の指示を受けるまで、弁護人等に接見を行わせないことは、その職責に違反するものである。 五本件における留置担当官の行為の違法性 ところで、本件では、被疑者についての取調べが現に行われていないことは明白である。また、間近に確実な取調べの予定があるかどうかについても、原判決の認定によれば、被疑者の勾留されていた代用監獄である中川警察署と担当検察官との関係では、担当検察官から、被疑者について取調べの予定があるときには、通常前日に通告されており、本件ではこの通告がなかったし、またG留置管理係長において、本件被疑者の捜査を担当していた中村警察署保安係官に対して架電したが取調べ予定について何らの言及がなかったのであるから、間近い時点でそのような取調べの予定がなかったことも明らかである。他方、弁護人等との接見交通権の確保が被疑者にとって極めて重要であることにかんがみ、担当捜査官としては、常に被疑者の取調べの予定等については、あらかじめ留置担当官等において覚知し得る状況にしておくべきであるところ、G留置管理係長においては、前記のように、当日取調べの予定について事前に担当検察官から連絡を受けておらず、また間近い時点で確実な取調べの予定がないことが明らかであったのであるから、当日は弁護人となる予- 17 -定の上告人からの接見要請があれば、直ちに被疑者と接見させるべきであったのであり、いったんE 間近い時点で確実な取調べの予定がないことが明らかであったのであるから、当日は弁護人となる予- 17 -定の上告人からの接見要請があれば、直ちに被疑者と接見させるべきであったのであり、いったんE巡査において正当として認め、始まった接見を、担当捜査官との連絡のために中断させるべきではなかった。しかも、G留置管理係長が、その後も、担当捜査官の違法な指示に従い、そのために理由なく約一時間五〇分にわたって上告人に被疑者との接見を認めなかったのは、その職務に違反し、違法な行為を行ったものである。また同係長において前記最高裁判例によって示されている明確な捜査の必要の要件について認識していなかったことには過失がある。 六以上の理由により、原審の確定した事実関係の下では、留置担当官が担当捜査官と連絡し、接見指定の要件がないことが明らかであるにもかかわらず、上告人に被疑者との接見を許さなかったことは、違法であり、かつ、過失があるので、被上告人は、上告人に対して損害賠償をすべき義務がある。 (裁判長裁判官北川弘治裁判官河合伸一裁判官福田博裁判官亀山継夫裁判官梶谷玄)- 18 -

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