平成27(行ウ)491 療養費用給付等不支給処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
令和元年5月29日 大阪地方裁判所
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判決文本文27,112 文字)

主文 1 大阪中央労働基準監督署長が原告らに対して平成25年11月28日付けでした労働者災害補償保険法に基づく療養補償給付たる療養の費用,遺族補償給付及び葬祭料を支給しない旨の各処分をいずれも取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求主文同旨第2 事案の概要等 1 本件事案の概要 本件は,原告らが,大阪中央労働基準監督署長(以下「処分行政庁」という。)に対し,原告らの子であるA(以下「亡A」という。)が,勤務していたホストクラブにおいて飲酒による急性アルコール中毒により死亡したのは,勤務先の業務に起因するものであると主張して,労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づく療養補償給付たる療養の費用(療養費用給付),遺族 補償給付及び葬祭料の各請求をしたところ,処分行政庁は,これらをいずれも支給しない旨の処分(以下「本件各処分」という。)をしたことから,被告に対し,本件各処分の取消しを求める事案である。 2 前提事実(争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実) (1) 当事者等ア原告B(以下「原告B」という。)及び原告Cは夫婦であり,亡A(平成▲年▲月▲日生)は原告らの子である。 イ D株式会社(以下「本件会社」という。)は,飲食店の経営等を目的として平成▲年▲月▲日に設立された会社であり,平成24年当時,大阪市 【以下省略】においてホストクラブ「E」(以下「本件クラブ」という。) を経営していた(甲17の②,乙1・131,132頁)。 (2) 本件クラブにおける亡Aの勤務亡Aは,平成24年4月頃,本件会社に雇用されて,本件クラ ブ「E」(以下「本件クラブ」という。) を経営していた(甲17の②,乙1・131,132頁)。 (2) 本件クラブにおける亡Aの勤務亡Aは,平成24年4月頃,本件会社に雇用されて,本件クラブにおいてホスト(源氏名・a)として勤務していた(甲8,弁論の全趣旨)。 (3) 亡Aの死亡事故 亡Aは,平成24年8月1日早朝より本件クラブにおいて飲酒した後,体調に異変を生じ,同日午前8時34分,M病院に救急搬送されたが,同日午前9時11分,急性アルコール中毒による死亡が確認された(以下「本件事故」という。)。亡Aの急性アルコール中毒の原因は,アルコールの大量摂取であり,死亡時の血中アルコール濃度は3.6mg/mlであった。 (甲1,14,17の③,乙1・119,120,125頁)(4) 本件訴訟に至る経緯等ア原告ら(請求人代表者は原告B。以下の審査請求及び再審査請求についても同様である。)は,亡Aの死亡原因となった急性アルコール中毒は本件クラブにおける業務遂行中の飲酒に起因するものであるとして,平成25 年6月17日付けで,処分行政庁に対し,療養費用給付,遺族補償給付及び葬祭料の各請求を行った(甲2の①ないし⑥,弁論の全趣旨)。 イ処分行政庁は,平成25年11月28日,上記アの各請求について,亡Aの死亡原因となった急性アルコール中毒には業務起因性が認められないとして,いずれも支給しない旨の各処分(本件各処分)を行った(甲3)。 ウ原告らは,平成26年1月23日,本件各処分を不服として,大阪労働者災害補償保険審査官に対して審査請求を行ったが,同審査官は,平成26年9月12日付けで審査請求を棄却する決定をした(甲4,5)。 エ原告らは,平成26年11月11日,上記ウ して,大阪労働者災害補償保険審査官に対して審査請求を行ったが,同審査官は,平成26年9月12日付けで審査請求を棄却する決定をした(甲4,5)。 エ原告らは,平成26年11月11日,上記ウの決定を不服として,労働保険審査会に対して再審査請求を行ったが,同審査会は,平成27年7月 31日付けで,再審査請求を棄却する裁決をした(甲6,7)。 オ原告らは,平成27年12月7日,本件訴訟を提起した(当裁判所に顕著な事実)。 カなお,原告らは,大阪地方裁判所に対し,本件会社及び本件会社代表者等を被告として,安全配慮義務違反等を理由とする損害賠償請求事件(当事件」という。)を提起 し,平成31年2月26日,原告らの本件会社に対する請求を一部認容する内容の判決が言い渡された(甲21,弁論の全趣旨)。 第3 本件の争点亡Aの死亡の原因となった急性アルコール中毒の発症について,業務起因性が認められるか(亡Aの業務と急性アルコール中毒発症との間の相当因果関係 の有無)第4 争点に関する当事者の主張 1 原告らの主張(1) 業務起因性の判断枠組みア業務起因性としての相当因果関係を認めるためには,当該傷病等の結果 が,当該業務に内在する危険の現実化として発生したものであることが必要であるが,労働者の職種や経験等は様々であり,業務に内在する危険の程度を一律に定めることは労働者間の公平の観点から適当でないことから,危険性の判断基準とされる平均的労働者については,当該労働者の属性に基づく修正を施す必要がある。本件においては,亡Aが平成24年4月に 入社した新人ホストであったこと,年齢は21歳にすぎない若年労働者であったこと,酒が弱く本件クラブにおいても普段は薄い酒を飲んでいたこと,本件事故当日 本件においては,亡Aが平成24年4月に 入社した新人ホストであったこと,年齢は21歳にすぎない若年労働者であったこと,酒が弱く本件クラブにおいても普段は薄い酒を飲んでいたこと,本件事故当日は38度の熱を出していたこと等を踏まえ,かかる属性を持った平均的労働者を基準として判断されるべきである。 イまた,ホストクラブ等の接客業の労働者が,業務の遂行中,上司や同僚 による飲酒の強要によって急性アルコール中毒を発症して死亡した場合, かかる飲酒の強要は,職場におけるパワーハラスメントの側面を有することから,相当因果関係の有無は,職場におけるパワーハラスメントにつき優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われること,業務の適正な範囲を超えて行われること,身体的若しくは精神的な苦痛を与えること又は職場環境を害することが要素されていることを踏まえ,①優越的な関係 に基づいて飲酒が行われたか,②飲酒の強要が業務の適正な範囲を超えて行われたか,③過度の飲酒により急性アルコール中毒を発症して死亡したか,という要件に沿って判断されるべきである。 (2) 本件事故に関する事実関係ア本件クラブの実態 (ア) 本件クラブでは,店の売上げを増加させるべく,連日のように「シャンパンコール」や「ごちそうさまコール」が行われるなど,ホスト達が一気飲みや過度の飲酒をして泥酔することが常態化していた。 (イ) 本件クラブにおいては,F(源氏名・b。以下「F」という。)が,代表,部長に次ぐ主任の地位にあり,売上げ・勤務態度に関するホスト の指導や朝礼の仕切り等を行っていた。また,Fは本件クラブのナンバーワンホストであり,代表者であるGの来店時に指名を受けるなどして,本件クラブ内における一番の権力者とされていた。そのため,本件ク の指導や朝礼の仕切り等を行っていた。また,Fは本件クラブのナンバーワンホストであり,代表者であるGの来店時に指名を受けるなどして,本件クラブ内における一番の権力者とされていた。そのため,本件クラブ内に,Fに逆らったり,行動を止めたりできる人物はいなかった。 イ亡Aの立場・状況 (ア) 亡Aは,将来的に手堅い仕事をするために通信制高校に通っており,真剣に学業に取り組んでいた。亡Aは学費を稼ぐために本件会社に入社したが,本件事故当時,入社約4か月の新人ホストであった。 (イ) 亡Aは酒が弱く,本件クラブでは普段は薄い酒を飲んでいた。しかし,お笑い系のホストとして場を盛り上げたり,売上げを稼いだりするため に,テキーラショット,ビール直ビン,焼酎直ビンといった危険かつ過 度の飲酒をすることを事実上強いられていた。 (ウ) また,亡Aは,本件クラブの先輩ホストであるFやH(源氏名・c。 以下「H」という。)から日常的に様々ないじめ行為を受けていた。 ウ本件事故に至る経過(ア) 亡Aは,平成24年7月31日,38度の高熱があったため,本件ク ラブでの勤務を休みたいと考え,本件クラブに赴き,休ませてほしい旨頼んだ。しかし,Hらから,ヘルプとして席に着いてもらわないといけない,酒は飲まなくてよいから席にだけついてくれ,などと懇願されたことから,やむなく出勤した。 (イ) 同年8月1日午前3時頃,当時Hと交際していたI(以下「I」とい う。)が客として本件クラブに来店し,亡AはヘルプのホストとしてIの席に着き,接待に当たった。その際,亡Aは,Iのキープしていた焼酎のボトルから薄い水割りを作り,1ないし2杯程度飲んだ。 (ウ) しかし,その後FとHがIの席に加わり,非常に機嫌が悪かったFは,亡Aに対し,「な に当たった。その際,亡Aは,Iのキープしていた焼酎のボトルから薄い水割りを作り,1ないし2杯程度飲んだ。 (ウ) しかし,その後FとHがIの席に加わり,非常に機嫌が悪かったFは,亡Aに対し,「なに,ちびちび飲んでんねん。もっと飲めや」,「3人 で飲み比べをしよう」などと言って,焼酎の一気飲みを強要した。これに対して,亡Aは「いやー」,「うーん」などと述べていたが,Fが普通のコップに半分ほど焼酎を入れて水で割ったものを作ったため,仕方なく「もうじゃあそれ飲みます」などと述べて飲み始め,結局,強制的に新品の焼酎ボトル1本をほとんど一人で飲まされた。 (エ) Fは,焼酎のボトルが空くと,本件クラブに置いてあったテキーラゴールドを持ち出した上,普通のグラスに注ぎ,「もう無理です」などと飲酒を拒否し続ける亡Aに対し,「おらおら飲めよ」,「おまえ酒弱いんか」,「いやいや,もっと飲め」などと威圧的な態度で述べて一気飲みをさせた。Fは,亡Aがグラスを置くとまた注いで一気飲みさせるな どして,亡Aに飲酒を強要し続けた。 (オ) このようにして,亡Aは,テキーラゴールドを大量に飲酒したため,Iのいる席で嘔吐し,その後,Hと共にVIPルームのトイレに行った。 Hは,亡Aが嘔吐したことに逆上して暴行を加え,トイレから戻ってきた後,Iに対し,「めっちゃ吐いとったし,どついたったわ」,「あいつ調子のってる」などと述べていた。 (カ) 亡Aがトイレから戻った後も,FとHは,「客からもらった酒を吐くなや」,「飲んだ分出て行ってんねんからまだ入るやろ」などと述べ,顔色が悪くなった亡Aに対し,酒を注いだコップを渡すなどして,飲酒を強要し続けた。亡Aが飲酒を拒むと,F及びHは,亡Aを殴った。途中,Iは,「たくげろくらい仕方ないでしょ。 だ入るやろ」などと述べ,顔色が悪くなった亡Aに対し,酒を注いだコップを渡すなどして,飲酒を強要し続けた。亡Aが飲酒を拒むと,F及びHは,亡Aを殴った。途中,Iは,「たくげろくらい仕方ないでしょ。私が気が悪くなるから, A君に暴力をふるうのを止めて」と必死に述べたが,FとHは異常な興奮状態となっており,亡Aに対する飲酒の強要を止めようとしなかった。 (キ) その後,亡Aは一人でトイレに行ったものの,なかなか席に戻ってこなかったことから,Hが様子を見に行ったところ,亡Aが「ほんまに殺すよ」と述べたため,Hが逆上し,亡Aを殴打した上,引きずって吐し ゃ物で汚れたテーブルの上に倒した。 (ク) FとHが席を離れたため,Iと吐しゃ物の上に寝転がっている亡Aが取り残された。Iは,机の上の吐しゃ物を片付けながら,亡Aの首や顔を冷たいおしぼりで拭いた上で,潰れて寝ていた亡Aに対して水を渡したところ,亡Aは「ありがとう」と答えて水を飲んだ。その後,Iも 他のテーブルに移ったため,亡Aは一人で放置された。 (ケ) しばらく後,Iは,亡Aが泡を吹いているのを発見し,Hに対し,「やばない」と伝えた。Hは,30分から1時間程度,心肺蘇生を試みたが,蘇生できなかったため,救急車を呼んだ。 (3) 業務起因性があること ア以上のとおり,亡Aは,先輩ホストであるF及びHによる暴力を伴う飲 酒の強要により,大量の飲酒を余儀なくされたものである。この飲酒は,本件クラブでの接客中に客の前で行われたものであり,本件クラブにおける接客行為の一環であるところ,飲酒を伴うホスト業務において,飲酒の強要は時々起こる事象であることからすると,上記飲酒による亡Aの急性アルコール中毒の発症は,本件クラブにおけるホストの業務に内在する危 客行為の一環であるところ,飲酒を伴うホスト業務において,飲酒の強要は時々起こる事象であることからすると,上記飲酒による亡Aの急性アルコール中毒の発症は,本件クラブにおけるホストの業務に内在する危 険が現実化したものというべきである。 イまた,Fによる飲酒の強要は,本件クラブ内において,営業時間中に,顧客であるIに対する接客行為と同時並行しており,本件会社の支配下にある状態において行われている。そして,①Fと亡Aの関係性からは,Fによる飲酒の強要を亡Aが拒否することは極めて困難であり,優越的な関 係に基づくものであること,②酒に弱いことや当日の体調を認識しながら,威圧的な態度や暴行によって,拒否する亡Aに焼酎をほぼボトル一本飲ませた上,テキーラゴールドを繰り返し一気飲みさせるなどの飲酒の強要は,業務の適正な範囲を超えるものであること,③かかる飲酒の強要が,亡Aの急性アルコール中毒の発症及び死亡の明らかな原因であることからすれ ば,上記飲酒と亡Aの急性アルコール中毒の発症との間には相当因果関係が認められるというべきである。 (4) 結論以上のとおりであって,亡Aの急性アルコール中毒の発症は,亡Aの従事していたホスト業務に内在する危険が現実化したものとして,業務起因性が 認められるというべきである。 2 被告の主張(1) 業務起因性の判断枠組みア業務起因性が認められるには,当該労働者が当該業務に従事しなければ当該結果(疾病,死亡等)を生じなかったという条件関係があるのみでは 足りず,両者の間に法的にみて労災補償を認めるのを相当とする関係,す なわち,相当因果関係が必要である。そして,相当因果関係が認められるためには,当該傷病等が当該業務に内在する危険の現実化として発生したと認められるこ みて労災補償を認めるのを相当とする関係,す なわち,相当因果関係が必要である。そして,相当因果関係が認められるためには,当該傷病等が当該業務に内在する危険の現実化として発生したと認められること,すなわち,当該業務に当該傷病等発生の危険性が内在していること(危険性の要件),当該傷病等が当該業務に内在する危険の現実化として発生したと認められること(現実化の要件)が必要であると ころ,当該業務に,当該傷病等発生の危険性が内在しているか否かの判断に当たっては,使用者の災害補償責任の性質が危険責任の法理を根拠とすることからすれば,平均的な労働者,すなわち,日常業務を支障なく遂行できる労働者を基準にするのが相当である(平均的労働者基準説)。また,当該傷病の発症等が,業務に内在する危険の現実化といえるためには,当 該傷病等の発生に対し,業務による危険性が,その他の業務外の要因に比して相対的に有力な原因となったと認められることが必要である。 イ原告らは,業務起因性に関する判断枠組みについて,職場のパワーハラスメントの要素を引用しつつ,独自に定立した判断要素によるべきことを主張するが,上記のとおり,業務起因性の問題は,業務と結果との間に法 的に見て労災補償を認めるのを相当とするだけの関係(相当因果関係)が存在するか否かの問題であり,当該業務に関連して職場のパワーハラスメントが成立するか否かの問題とは無関係である。原告らの主張は,両者を混同し,又は強引に関連付けて,業務起因性の判断要素にパワーハラスメントの要素を理論的な根拠なく取り入れようとするものであり,正当とは いえない。 (2) 本件事故に関する事実関係ア本件クラブの営業実態本件会社は,「セレブの顧客を迎える店」という本件クラブの営業方針 り入れようとするものであり,正当とは いえない。 (2) 本件事故に関する事実関係ア本件クラブの営業実態本件会社は,「セレブの顧客を迎える店」という本件クラブの営業方針に従って,大量飲酒によってその場の雰囲気を盛り上げるような接客やホ ストによる過度の飲酒を厳に禁じており,顧客からの勧めがあったときに 飲み過ぎないようにする方策まで指導していた。すなわち,本件会社の従業員マニュアルには,「セレブを迎える店」という店のコンセプトの説明に加え,「お客を楽しませることを心がける」,「酒を飲んでも,飲まれるな」,「ホストからお客に対してシャンパンコールを勧めない」といった具体的な注意事項も記載されていた。また,日々のミーティングにおい て,ホストに対して,過度の飲酒に及ばないよう繰り返し指示がなされ,朝礼の場でも,接客や接待ができなくなるほどの飲酒をしないよう指導教育がなされていた。さらに,普段からも,接客マナーやホストの飲酒について,「自分たちが飲むな,客に飲ませろ,客をべろべろになるまで酔わすな」などと,口うるさいほどに指導がなされ,顧客からの勧めがあった ときに飲み過ぎないようにする具体的方策として,飲んだふりをする方法等も指導されていた。 イ亡Aの立場・状況亡Aは,本件会社に入社する以前にも,ホストとしての勤務経験があった。また,Fによれば,亡Aは普段から好んで飲酒をしており,プライベ ートで飲酒をする際は,ビールのほか,テキーラ等をショットグラスで氷なしのストレートで飲んでおり,テキーラ等をショットグラス10杯程度飲んだり,時には1人で焼酎ボトル1本を空けたりするほどの飲酒量であった。また,亡Aは,普段からガールズバー等に入り浸っており,その飲酒代の支払等のため でおり,テキーラ等をショットグラス10杯程度飲んだり,時には1人で焼酎ボトル1本を空けたりするほどの飲酒量であった。また,亡Aは,普段からガールズバー等に入り浸っており,その飲酒代の支払等のために,本件クラブから給料の前借りをしていたほか,知 人からも借金をしていた。さらに,家庭環境にも深刻な悩みを抱えており,Fと飲食すると,その悩みや愚痴ばかりをこぼしていた。 ウ本件事故に至る経過(ア) Fによれば,本件事故当日,亡Aは午前0時に来店し,既に60万円を借りていたFに対して更なる借金の申込みをして断られた後,ミーテ ィングのために同日午前3時に来店したが,いずれの時点においても, 店外で飲食をして既にかなり酒に酔った状態であった。このことからすれば,亡Aは,出勤時点で,致死量に至らないまでも相当な量の飲酒をしていた可能性が高い。 そして,①本件事故当日の来店客はそれぞれ単独で来店した女性客2名のみであり,1名(I)の注文はソフトドリンクのみであり,もう1 名(J)が注文した酒類は焼酎とスパークリングワインが数量1ずつ(数量1単位の具体的な容量は不明である。)であったこと,②酒を注文した客(J)の在店時間が3時間30分と長時間に及んでいることからすれば,亡Aが一気飲みなどの大量飲酒によって場を盛り上げたり,注文された酒を無理に短時間で消費したりする必要があったとは考えられな い。また,本件事故当日に店内に居合わせた従業員の供述からも,亡Aが場を盛り上げようとして酒を一気飲みするなどして騒いでいたとは認められない。このように本件事故当日に顧客に提供された酒の総量は決して多くない上,酒を注文した顧客(J)に提供された酒が接客中にどの程度消費されたのかも明らかではないことからすると,亡 でいたとは認められない。このように本件事故当日に顧客に提供された酒の総量は決して多くない上,酒を注文した顧客(J)に提供された酒が接客中にどの程度消費されたのかも明らかではないことからすると,亡Aは,顧客 に提供された酒に限らず,酔った勢いで,バックヤードに備蓄された在庫の酒や私的に持ち込んだ酒を飲んだ可能性がある。 以上によると,亡Aは,本件事故当日,経済的に困窮した状況にあり,家庭環境にも深刻な悩みを抱えて精神的にも疲弊した状態にあったところ,出勤前の飲酒量のみでは急性アルコール中毒には至らない状態であ ったとしても,本件クラブに出勤して以降,もともと飲酒を好む性格であり,かなり酔った状態で出勤してきたことも手伝って気が大きくなり,自身の酒の強さを過信し,あるいは,借金申込みの失敗の影響もあり自暴自棄になるなどして,業務上の必要とは全く無関係に大量飲酒に及んだ可能性が高いというべきである。 (イ) 他方,本件事故当日,他のホストや顧客が亡Aに対して大量に飲酒す ることを強要した事実はない。原告らが主張する事実経過は,本件事故当日に在店していたというIの供述内容に依拠するものであるが,原告らの主張を裏付ける他の有力な証拠は存在しない。そして,Iの供述は,①本件事故当時,IはHと交際していたものの,後に金銭トラブルになり別れた経緯があること,②供述内容が他の多くの関係者による供述内 容や客観的証拠と大きく食い違っていること,③原告らがIの証人尋問を申請したものの尋問期日に出頭しなかったため,本件の証人尋問を通じて供述の信用性が確認されることはなかったこと,④原告ら提出のIの陳述書と別件民事訴訟事件における証人尋問調書における供述内容との間には,Iの来店の頻度,飲酒強要や暴行の目撃状況,机の状況 問を通じて供述の信用性が確認されることはなかったこと,④原告ら提出のIの陳述書と別件民事訴訟事件における証人尋問調書における供述内容との間には,Iの来店の頻度,飲酒強要や暴行の目撃状況,机の状況等の 重要な点において食い違いや矛盾があることからして,信用性が認められない。 (3) 業務起因性があるとはいえないことア主位的主張ホストの業務は,接客及び接待をすることであり,大量の飲酒をするこ とではない。そして,①本件クラブにおいては,ホストに対し,酒に酔わないよう厳しく教育指導されていたこと,②亡Aをはじめとするホストらが連日のように過度の飲酒を余儀なくされていたといった事実も,本件事故当日に他のホストや顧客が亡Aに大量の飲酒を強要した事実もなく,業務による大量飲酒の必要性はなかったこと,③亡Aは,本件クラブによる 指示に違反し,自己の判断で,生命に危険が及ぶほどの大量の飲酒に及んだ可能性が高いことからすると,亡Aが大量に飲酒に及んで急性アルコール中毒を発症したことは,ホストの業務に内在する危険が現実化したものとはいえない。 イ予備的主張 仮に,Iの供述に依拠した飲酒強要等の経過が事実であると仮定しても, 本件において業務起因性があるとは認められない。 すなわち,ホスト業務において飲酒の強要が時々起こり得るという論理が通用する余地があるとしても,それは,飲酒行為が接待対象者(客)の要望に応え,場の盛り上がりや酒の消費による注文に繋がっているなど,ホスト業務としての必要性や関連性が充足される場合に限られる。しかし, I供述によれば,本件事故当日の亡Aに対する飲酒強要は,Fと亡Aの以前からの私的な人間関係に基づき,いじめという極めて私的な動機によって,本件クラブの業務と 充足される場合に限られる。しかし, I供述によれば,本件事故当日の亡Aに対する飲酒強要は,Fと亡Aの以前からの私的な人間関係に基づき,いじめという極めて私的な動機によって,本件クラブの業務とは無関係に行われたものである。その態様も,本件事故当日の亡Aの体調不良を知りながら,嘔吐する亡Aに対し,暴行や強迫により反抗を抑圧して執拗に飲酒を強要するなど,常軌を逸した極め て異常なものである。さらに,飲酒強要行為が終了した後も,トイレに行った亡Aに暴行を加えた上で長時間にわたって放置した上,亡Aが危険な状態にあることを察知した後も,素人による無謀な心肺蘇生にこだわり,直ちに救急車の出動を要請していないことなど,事後の対応も極めて異常なものである。このように,亡Aに対する飲酒強要は,極めて私的な人間 関係や動機に基づく暴力的で執拗ないじめであり,偶々そこに酒があったために,酒がいじめの手段として用いられたにすぎないのであって,本件クラブの酒の売上げに全く貢献しておらず,接待対象者の立場にあったIの希望にも沿わず,むしろ嫌悪感や恐怖心すら抱かせていることからしても,ホスト業務としての必要性や関連性を充足する余地はない。 したがって,亡Aの急性アルコール中毒の発症は,ホスト業務に内在する危険が現実化したものであるとは到底評価し得ない。 (4) 結論以上のとおりであって,亡Aの急性アルコール中毒の発症は,亡Aが従事していたホスト業務に内在する危険が現実化したものであるとはいえず,業 務起因性があるとは認められないというべきである。 第5 当裁判所の判断 1 業務起因性の判断基準について(1) 労災保険法に基づく保険給付は,労働者の業務上の災害に対して行われるものであり,業務上の傷病等に当たるために べきである。 第5 当裁判所の判断 1 業務起因性の判断基準について(1) 労災保険法に基づく保険給付は,労働者の業務上の災害に対して行われるものであり,業務上の傷病等に当たるためには,当該労働者が当該業務に従事しなければ当該結果が発生しなかったという条件関係が認められるだ けでは足りず,業務と傷病等との間に相当因果関係が認められることが必要である(最高裁昭和51年11月12日第二小法廷判決・裁判集民事119号189頁参照)。 (2) 労災保険法に基づく労働者災害補償制度は,使用者が労働者を自己の支配下に置いて労務を提供させるという労働関係の特質に鑑み,業務に内在又 は通常随伴する危険が現実化して労働者に傷病等を負わせた以上,使用者に無過失の補償責任を負わせるのが相当であるとする危険責任の法理に基づくものであると解されることから,業務と傷病等との間の相当因果関係の有無は,当該労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にあること(業務遂行性)を前提に,当該傷病等が当該労働者の従事していた業務に内在又は通常 随伴する危険が現実化したことによるものと評価できるかどうかによって決すべきである(最高裁平成8年1月23日第三小法廷判決・裁判集民事178号83頁,最高裁平成8年3月5日第三小法廷判決・裁判集民事178号621頁参照)。そして,当該労働者と同種の平均的な労働者(職種,職場における立場,年齢,経験等が類似する者をいい,健康な状態にある者だけ でなく,基礎疾患を有したとしても日常業務を支障なく遂行できる者を含む。)を基準として,業務による負荷が,他の原因と比較して相対的に有力な原因となって当該疾病を発症させる程度に過重であるといえる場合は,業務に内在又は通常随伴する危険が現実化したものとして,当該発症の 。)を基準として,業務による負荷が,他の原因と比較して相対的に有力な原因となって当該疾病を発症させる程度に過重であるといえる場合は,業務に内在又は通常随伴する危険が現実化したものとして,当該発症の業務起因性を肯定することができると解される。 (3) この点,原告らは,ホストクラブ等の接客業の労働者が,業務の遂行中, 上司や同僚による飲酒の強要によって急性アルコール中毒を発症して死亡した場合である本件においては,職場のパワーハラスメントの成立要件に沿って相当因果関係を判断すべき旨を主張するが,上記説示した点に照らせば,労働者の傷病等についての業務起因性の有無は,当該傷病等の原因行為に係るパワーハラスメントの成否とは,その制度趣旨も法的効果も異なることが 明らかであり,両者の判断が必然的に結び付くものと解すべき理由はない。 したがって,原告らの上記主張は採用できない。 2 認定事実前記前提事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 本件クラブの概要ア本件クラブの営業時間は2部制とされており,第1部(午後9時頃から翌午前1時頃)と第2部(翌朝日の出から午前9時頃)で一日の営業が構成されていた。もっとも,第1部の顧客が残っている場合は営業を続けていたため,第1部の終了時刻後も閉店することなくそのまま第2部の営業 に入ることもあった。本件クラブの定休日は週一日(水曜日)であった。 イ本件事故当時,本件クラブには亡A,F,Hを含めて合計8名前後のホストが在籍していた。Fは,本件クラブが開店した平成23年7月頃から本件クラブのホストをしており,本件事故当時,本件クラブのナンバーワンホストであり,かつ,主任という役職にあった。また,Hは,亡Aより 先に入社し は,本件クラブが開店した平成23年7月頃から本件クラブのホストをしており,本件事故当時,本件クラブのナンバーワンホストであり,かつ,主任という役職にあった。また,Hは,亡Aより 先に入社した先輩ホストであった。 ウ本件クラブの基本的な営業は,顧客に飲食物を提供するとともに,ホストらによる接客・接待サービスを提供し,その対価として遊興飲食代を得るというものであり,遊興飲食代は,基本料金(セット料金),指名料金,飲食した商品の金額等で構成されていた。 エ顧客から指名された指名ホストが席に着くときは,指名以外のホストも ヘルプで席に着くことになっていたが,ヘルプで席に着いたホストが顧客の対応や飲酒をしても手当が支給されるものではなかった。これとは別に,ヘルプホストは,本来の指名ホストが他の客の接客等のために席を離れたときに,代わりに客から指名されたホストであり,場内手当として指名料の半分が支給されていた。 (以上につき,甲19の②,乙1・24頁,乙6,7,10,11,弁論の全趣旨)(2) 亡Aの勤務状況ア亡Aは,通信制高校に在籍しながら,平成24年4月頃から本件クラブにおいてホストとして勤務しており,本件会社の社員寮で生活しながら, 本件クラブの定休日以外は基本的に毎日出勤していた。亡Aは,ネタや面白いことを言って客の気を引くタイプのいわゆるお笑い系のホストであった。 (甲8,10の①,②,弁論の全趣旨)イ本件クラブにおける亡Aの給与は,日給単価が5000円であり,その 他に歩合給(自身の売上げの20%)や皆勤・精勤手当,指名手当,場内手当等で構成されていた。亡Aの平成24年6月分の給与は,勤務日数が25日に対する日給12万5000円,歩合給2752円,皆勤・精勤手 歩合給(自身の売上げの20%)や皆勤・精勤手当,指名手当,場内手当等で構成されていた。亡Aの平成24年6月分の給与は,勤務日数が25日に対する日給12万5000円,歩合給2752円,皆勤・精勤手当3万円,指名手当4000円,場内手当3000円の支給額合計16万4752円であった。 (甲2の⑤・3枚目,弁論の全趣旨)ウ亡Aは,自身の手帳に本件クラブで行われたミーティングの内容等をメモしており,その中には,接客方法や売上目標についての記載のほか,「酒に酔わない」,「一人一人が自立心を持つ」,「店泊しない,お酒に溺れない!!」,「お酒に酔ったら寝るか帰る。」等の記載があった。また, 同メモには,シャンパンコールの歌詞が複数回にわたり記載されていた。 (乙1・21ないし40頁)(3) 亡Aの携帯電話におけるメール記録等ア知人宛ての送信メール記録亡Aの携帯電話には,知人等に宛てて送信したメール記録が残っており,平成24年4月15日から同年7月20日までのメール記録の中には,以 下のような文面(記号等は省略)のものがあった。 (ア) 平成24年5月12日午前7時17分39秒「バリバリ飲んで今終わったわあ」(イ) 平成24年5月12日午前8時5分29秒「みんなめっちゃ潰れてるわあ笑」「俺も今日は中々ヤバイわ笑」 (ウ) 平成24年6月30日午前6時32分30秒「来てくれるシャンパン一気してビンビール五本直びんライしてそのまえにビールやら焼酎やらめっちゃ飲みまくってるからなあ」(エ) 平成24年6月30日午前6時36分8秒「それでも生きてる俺天才やわ笑」 してそのまえにビールやら焼酎やらめっちゃ飲みまくってるからなあ」(エ) 平成24年6月30日午前6時36分8秒「それでも生きてる俺天才やわ笑」 (オ) 平成24年7月1日午後3時7分53秒「今店でバリ飲まされて今起きたわ! 振り込みはビミョーやわだから今日夜会える? めっちゃ電話かかってきてたわ後俺上の人等にバリバリキレられて代表にもババギレされる予定やわ本間ダルいわあ」 (カ) 平成24年7月1日午後4時11分48秒(送信先:F)「お疲れ様です。昨日はいろいろ迷惑掛けて申し訳ありませんでした。 俺は役立たずで自分にムカつきます。 どうゆう風に頑張っていいのかわからないのですがまたご相談など聞いてください。 昨日はほんとすいませんでした。」 (キ) 平成24年7月6日午前5時18分57秒 「そーやなあてかテキーラジョッキで5杯目突入やあ」(ク) 平成24年7月7日午後3時40分23秒「おはよう昨日全員ベロベロになって今店から帰ってきたわあ」(ケ) 平成24年7月8日午後5時44分18秒「おはよう昨日ずっと潰れてたわあ」 (コ) 平成24年7月8日午後11時32分19秒「昨日鏡月のビンボトル一気した後ハーフボトル一気してさらにテキーラ祭りやったねんさすがに死んだわ」(サ) 平成24年7月10日午後7時10分1秒「おはよー昨日テキーラサンライズ祭りやったわあ笑でも客増 えた~笑」(以上につき,甲8,乙1・53ないし56,58頁)イ本件クラブのホ 日午後7時10分1秒「おはよー昨日テキーラサンライズ祭りやったわあ笑でも客増 えた~笑」(以上につき,甲8,乙1・53ないし56,58頁)イ本件クラブのホスト間でのLINE記録本件クラブのホスト間では,LINEでのメッセージのやりとりがなされており,平成24年6月4日から同年7月23日までのやりとりの中に は,以下のような文面(記号等は省略)のものがあった。 (ア) 平成24年6月13日午後4時55分(送信者名:c)「昨日はすいませんでした。途中から記憶ないです」(イ) 平成24年6月13日午後5時7分(送信者名:d)「自分も記憶なかったっす申し訳ないです…」 (ウ) 平成24年6月16日午前9時27分(送信者名:d)「皆さんすいませんめっちゃ酔ってて大分粗相したと思います」(エ) 平成24年6月30日午後5時44分(送信者名:d)「おはようございますまた潰れて,すいませんでした…」(オ) 平成24年7月4日午前4時16分(送信者名:c) 「aさんIちゃんがおよびですよぉー」 (カ) 平成24年7月7日午後2時25分(送信者名:e)「ぉはょうございます。昨日の記憶がなぃです迷惑かけたと思うんでスミマセン」(キ) 平成24年7月7日午後2時30分(送信者名:c)「おはよございます。俺も起きたら家でした。迷惑かけてすいません。」 (ク) 平成24年7月8日午後5時31分(送信者名:f。なお,甲19の①及び弁論の全趣旨より,亡Aを指すものと認められる。)「おはようございます今起きました。 昨日は迷惑掛けてすいませんでした。僕まだまだお酒が弱いです」 1分(送信者名:f。なお,甲19の①及び弁論の全趣旨より,亡Aを指すものと認められる。)「おはようございます今起きました。 昨日は迷惑掛けてすいませんでした。僕まだまだお酒が弱いです」(ケ) 平成24年7月10日午後5時10分(送信者名:f) 「おはようございます昨日は潰れてすいませんでした。」(コ) 平成24年7月16日午前8時8分(送信者名:f)「お疲れ様です今日は皆さんありがとうございました。 本間に感謝してます後自分の席で潰れてすいませんでした。」(サ) 平成24年7月22日午後11時36分,午後11時37分(送信者 名:c)画像計4枚の送信各画像は,亡Aの顔及び衣服にセロハンテープ等が多数貼付されている姿が撮影されたものであり,鼻が割りばしで挟まれたり,襟元に「拾って下さい」と書かれた紙片が置かれたりしているものもあった。 (シ) 平成24年7月22日午後11時39分(送信者名:g)「ヤバイ,人間モドキ捕まえた」(ス) 平成24年7月22日午後11時40分(送信者名:g)「どこ売りに行こ~(うまー)」(以上につき,甲19の①ないし⑧) (4) 本件事故後の本件クラブ内の状況等 本件事故後,平成24年8月2日午前9時35分から午後7時32分までの間,本件クラブの従業員K(以下「立会人」という。)立会いの下で行われたL警察署による実況見分によれば,上記時点における本件クラブ内の状況等として,以下の事実が認められる。 ア店内中央部は接客フロアとなっており,接客フロアには西側に3席,東 側に4席の合計7席のボックス席が,南北方向に並んで配置されていた。 接客フロア 況等として,以下の事実が認められる。 ア店内中央部は接客フロアとなっており,接客フロアには西側に3席,東 側に4席の合計7席のボックス席が,南北方向に並んで配置されていた。 接客フロアの北には別室としてVIPルームが設けられ,VIPルーム内東側にはトイレが設けられていた。同トイレ内の洋式便器内には吐物や排泄物の汚れは見受けられず,床面には一見して便や吐物とわかる汚れは見受けられなかったが,液体が乾燥したような痕があった。 イ接客フロア西側北詰のボックス席には,椅子2脚の周囲に丸ソファーが置かれ,その上に丸ソファー3脚が積み上げられており,テーブル上には,ミネラルウォーターの空ペットボトル1本,消臭スプレー1個,たばこ1本が置かれていた。 ウ接客フロア西側北詰のボックス席とVIPルームの間はボックス席1席 が入る広さの空きスペースがあり,その床には布製おしぼり1枚が置かれ,その床面には吐物を拭いたような痕や錠剤様の物が見受けられた。 実況見分においては,上記イの接客フロア西側北詰のボックス席を上記空きスペースに移動して再現された上,立会人による指示説明の下,被害者(亡A)が最初に倒れているのに気付いた状況として,被害者がソファ ーで横になり倒れている状況が,その後の状況として,被害者が同ボックス席のテーブル横の床に倒れている状況が,それぞれ再現された。 エ接客フロア西側南詰のボックス席には,机2脚を囲む形で各ソファーが置かれ,長ソファーの上に小型の白色クッションや青色ビニール袋に入れられた布製おしぼりが置かれていた。また,テーブル上に茶色液体入りの コップ1個,空ビール瓶(小瓶・アサヒスーパードライ334ml・アル コール度数5%)21本,黒色スパークリング 入れられた布製おしぼりが置かれていた。また,テーブル上に茶色液体入りの コップ1個,空ビール瓶(小瓶・アサヒスーパードライ334ml・アル コール度数5%)21本,黒色スパークリングワイン(E・750ml・アルコール度数11%)の空ボトル2本,白色スパークリングワイン(CAFEDEPARIS・750ml・アルコール度数6.5%)の空ボトル1本,ジュース(レッドブル)の空缶1本が置かれていた。 オ南東側の厨房内には,ビールケースが置かれており,同ケース内には, 空ビール瓶18本,空き瓶(テキーラスピリッツ)1本,空き瓶(BlackTeu)1本等が入れられていた。 カ立会人は,上記エ,オの空き瓶等を含め,本件クラブ内のテーブル等に置かれたままになっている酒類の瓶やコップ類については,亡Aや他の従業員,客たちが飲んでいた酒や使用していたコップに間違いない旨説明し た。また,立会人は,グラス等各容器と注ぐ酒の種類との組合せについて質問されたのに対し,その組合せの一つとして,テキーラとショットグラスの組合せを説明した。 キ事務室内には,売上表が置かれており,同売上表には,「7月31日時現在」との記載の下に,3段・2列組みの表があり,上段から順に「e ¥504,000」「c ¥199,600」「h ¥475,800」との記載があり,その下部には「売上ランキング」との記載の下に3段・2列組みの表があり,上段から順に「NO.1 b」「NO.2 a」「NO.3 ???」との記載があった。 ク受付カウンター5段の引き出し最上段から,コースター2枚が発見され, うち1枚には,「明日後ってから即日に日払いで返します。7/26日A」との手書きの記載が,もう1枚には,「A」「e ク受付カウンター5段の引き出し最上段から,コースター2枚が発見され, うち1枚には,「明日後ってから即日に日払いで返します。7/26日A」との手書きの記載が,もう1枚には,「A」「e¥1,000- b¥650- c¥1600- i¥2,500- j¥4600-」「¥13,800-」「合計10,350-」等の手書きの記載があった。 ケ厨房南詰に設置された冷蔵庫の扉には,予定表1枚が貼付されており, 同予定表には,「7月締日」との記載があり,表中には,①「時間」欄に 「2時~4時」,「担当者」欄に「h」,「単価」欄に「A」との記載,②「時間」欄に「2時~4時」,「担当者」欄に「c」,「単価」欄に「C~B」,「備考」欄に「気分!aさんあざーす」「a+1人~3人」との記載,③「客単価ランク表 A→5万~,B→3万~5万円,C→3万円まで」等の記載があった。 コ事務室西側に設置された金庫の下から,会計票2枚が置かれていた。 このうち1枚には,「お会計票」とその下に「24年7月31日」との記載があり,「お客様の名前」欄に「J」,「入店時間」欄に「3:30」,「退店時間」欄に「7:00」,「係」欄に「h」,「合計」欄に「¥59000」との記載があり,「品名」「単価」の各欄に,それぞれ順に「s et(F)」「10000」,「指名」「2000」,「神の子」「12000」,「ソフト(グラス)」「1000」,「カフェパリ」「20000」との記載があり,末尾に「未収¥56000」との記載があった。 また,もう1枚には,「お会計票」とその下に「24年7月31日」との記載があり,「お客様の名前」欄に「I」,「入店時間」欄に「4:0 0」,「退店時間」欄に「6:00」,「係」欄に「c」,「合計」欄に「¥10,0 お会計票」とその下に「24年7月31日」との記載があり,「お客様の名前」欄に「I」,「入店時間」欄に「4:0 0」,「退店時間」欄に「6:00」,「係」欄に「c」,「合計」欄に「¥10,000」との記載があり,「品名」「単価」「金額」の各欄に,それぞれ順に「set」「5000」「5000」,「指名」「2000」「2000」,「ソフト(P)」「1500」「1500」との記載があった。 (以上につき,甲17の①,②,乙10,11,弁論の全趣旨)(5) 本件事故後のM病院の医療記録亡Aが本件事故当日に救急搬送されたM病院の入院記録には,「現病歴」欄に「午前5時ころから仕事中飲酒大量。トイレで吐いたため休憩室で休んでいた。何度か同僚が様子を見に行き,その際は返答あり。7:30ころ様 子を見に行くと,顔色不良,口から泡を吹いていた。」等の記載があり,看 護プロファイルには「入院までの経過」欄に「8/1 5時から仕事でテキーラ350ml程飲酒。トイレで吐いていたので休憩室で休ませており,何度か様子を見に行った際には返答があった。」等の記載があり,また,Nセンター診療録には「現病歴」欄に「am5~仕事中テキーラ等大量にのんでおり,トイレではいていた」等の記載がある。 (甲14)(6) 亡Aの司法解剖の結果亡Aの司法解剖の主要所見は,①急性死の所見,②肺水腫高度,脳浮腫,③頭部打撲傷(右側頭部等頭皮下出血,側頭筋内出血),④血中アルコール濃度3.6mg/mlであり,死因はアルコール大量摂取による急性アルコ ール中毒とされた。頭部打撲傷については,右側頭部に,右耳介上端から4. 5cmに2.7cm×1.5cmの皮下出血,同部頭皮下に4.5cm×2. 5cmの頭皮下出血が認められ,その下 急性アルコ ール中毒とされた。頭部打撲傷については,右側頭部に,右耳介上端から4. 5cmに2.7cm×1.5cmの皮下出血,同部頭皮下に4.5cm×2. 5cmの頭皮下出血が認められ,その下層で9.5cm×6cmの右側頭筋内出血が認められた。また,頭頂部やや左側に2.5cm×1.5cmの頭皮下出血,左側頭部の左耳介上端から上方9cmに5cm×3cmの軽微な 頭皮下出血,右外眼角から外側に3.5cmに5.2cm×0.6cmの皮下出血がそれぞれ認められた。 (甲17の③) 3 検討(1) 本件クラブの営業実態について 被告は,Fや本件クラブのホストであったО(以下「О」という。)の大阪労働局労働基準監督官に対する聴取結果(乙5,6)等に依拠して,本件クラブは「セレブの顧客を迎える店」という営業方針に従って,従業員マニュアルやミーティング等において,大量飲酒によってその場の雰囲気を盛り上げるような接客やホストによる過度の飲酒を厳に禁じており,顧客からの勧 めがあったときに飲み過ぎないようにする方策まで指導していた旨主張する。 ア上記認定した亡Aの手帳の記載や送信メール記録及びホスト間のLINE記録の内容(認定事実(2)ウ及び同(3))からすると,本件クラブにおいては,営業開始前のミーティング等において,従業員であるホストに対し,酒に酔わないよう指導がなされることがあった一方,シャンパンコールについて度々指導ないし練習が行われていたこと,接客業務中にホストが酒 に酔って潰れたり,接客業務中の記憶がなくなる程度に酒に酔った状態となるといった状況が繰り返されていたこと,以上の事実が認められる。これらの事実からすると,本件事故当時,本件クラブにおいては,酒に酔わないようにとの指導があったことはう くなる程度に酒に酔った状態となるといった状況が繰り返されていたこと,以上の事実が認められる。これらの事実からすると,本件事故当時,本件クラブにおいては,酒に酔わないようにとの指導があったことはうかがわれるものの,同指導は十分に守られておらず,ホストらが接客業務中に多量の飲酒をするような営業が 度々行われていた実態があったと認められる。 また,主任として他のホストを指導する立場にあったFも参加していたホスト間のLINE記録には,酒に酔って潰れたり,接客業務中の記憶がないことについてのメッセージが短期間に度々送信されていることが記録されており(認定事実(3)イ),同記録内容に照らせば,本件クラブにおい ては,上記指導は守られておらず,また,守るように指導や注意もなされておらず,多量の飲酒を伴う接客業務が行われることが,事実上黙認される状況にあったと認められる。 イ他方,Fは主任としてホストらを指導すべき役職にあり,本件事故に係る刑事上及び民事上の責任を問われる可能性のある立場にあったこと,О が本件クラブのホストとして在籍していたのは平成24年3月20日までであって,そもそもОは,本件事故当時(平成24年8月)の本件クラブにおける接客業務の実情を知る立場にあったとはいえないこと,F及びОはいずれも本件会社代表者の経営する別会社での勤務経験があるなど,本件会社代表者と個人的な繋がりを有していること,被告が依拠するFやО の説明内容を裏付けるに足りる客観的な証拠はないこと,以上の点に鑑み れば,ホストに対する指導状況等に関する上記2名の供述は信用できない。 ウ以上によれば,本件クラブの営業実態については,上記アで認定説示したとおりであると認めるのが相当であり,被告の上記主張は採用できない。 (2) 状況等に関する上記2名の供述は信用できない。 ウ以上によれば,本件クラブの営業実態については,上記アで認定説示したとおりであると認めるのが相当であり,被告の上記主張は採用できない。 (2) 本件事故当日の亡Aの飲酒状況についてア Iの証言(甲16。以下「I証言」という。)について (ア) I証言の要旨Iは,平成30年4月24日に実施された別件民事訴訟事件における証人尋問において,宣誓した上で,要旨,以下のとおり証言している。 a 本件事故当日の午前3時頃に本件クラブに入店したところ,締日であったので4,5組の客がいた。Iの席には,ヘルプホストとして, 亡Aが最初に席に着いた。亡Aは酒に酔っている様子はなく,Iがおろしていた新品同様の焼酎のボトルから薄い焼酎を飲んでいた。しばらくして,FとHが席に着いて4名となると,FとHは,亡Aに対し,「なにチビチビ飲んでんねん」などと述べ,Fが濃い酒(焼酎)を作り,亡Aに飲むように強要するようになった。FとHは薄めの酒(焼 酎)を作って飲み,亡Aには酒(焼酎)と水が半分半分くらいの濃い酒(焼酎)を作っていた。亡Aは仕方なく飲んでいる感じで,焼酎がなくなる程の量を飲んだ。 b その後,Iが,「新しいボトルはもうおろさない」,「お姉ちゃんの誕生日プレゼントを買いたいから,今日はほんまにお金使いたくない」 と言うと,Fが,店内にある冷蔵庫か,あるいはバーカウンターから新品のテキーラゴールドを持ち出してきた。Fは,亡Aに対し,テキーラゴールドを普通サイズのコップに注いで一気飲みさせ,グラスを置いたら休憩なしにまた注がれるという形で亡Aはテキーラゴールドを飲まされていた。何杯か飲んだ後に,亡Aは「もうほんまに無理で す」などと言っていたが,HもF プに注いで一気飲みさせ,グラスを置いたら休憩なしにまた注がれるという形で亡Aはテキーラゴールドを飲まされていた。何杯か飲んだ後に,亡Aは「もうほんまに無理で す」などと言っていたが,HもFも既に酔っぱらっていたこともあっ て,亡Aに対し,「いやいや」とか「おらおら飲めよ」などと威圧的な感じで飲むように強要していた。途中,亡Aが席で嘔吐したことから,Hが怒り,VIPルームのトイレに行って嘔吐していた亡Aを追いかけ,その後,再び席に戻ってきたHは,「どついたったわ」,「あいつ調子乗ってる」などと言っていた。 c その後も,亡Aは,FとHから,「飲んだ分出ていってんねんからまだ入るやろ」などという形で飲まされており,亡Aは,「もう無理」と言って嫌がっていたが,Fには逆らえず,飲まざるを得ない状況が続いていた。亡Aは,テキーラゴールドがほぼなくなるくらいまで飲まされていた。 d 亡Aが解放されたのは,Iが店に入ってから1時間半ないし2時間半くらい経ってからであった。亡Aは潰れてしまい,Hは吐きに行き,Fは知らない間にどこかに行っていた。亡AはIが渡した水を飲んでいたが,その後,通路に寝転がって倒れ,泡をふいている状態であった。 (イ) I証言の信用性被告は,前記第4の2(2)ウ(イ)のとおり,上記したI証言が信用できない旨主張する。 a そこで,I証言の信用性について検討すると,上記認定したとおり,①厨房内ビールケースからテキーラスピリッツの空き瓶1本が見つか ったこと(認定事実(4)オ)や救急搬送時にテキーラ350mlを飲酒した旨が病院に伝達されていること(同(5)),②接客フロア西側北詰のボックス席のあった空きスペース床面に吐物を拭いたような痕があったこと(同(4)ウ),③亡 や救急搬送時にテキーラ350mlを飲酒した旨が病院に伝達されていること(同(5)),②接客フロア西側北詰のボックス席のあった空きスペース床面に吐物を拭いたような痕があったこと(同(4)ウ),③亡Aに頭部打撲傷(右側頭部等頭皮下出血,側頭筋内出血)が認められたこと(同(6)),以上の事実が認められ, これらの点は,I証言のうち,亡Aがテキーラゴールドの飲酒を強要 されてほぼ1本飲まされたという証言(①),亡Aが席上で嘔吐したという証言(②),Hが亡Aを殴ったという証言(③)とそれぞれ整合していると認められる。 b この点,被告は,I証言について,前記第4の2(2)ウ(イ)の①ないし④の点を挙げて,信用性が認められない旨主張するので,以下,そ れぞれの点について検討する。 (①について)本件事故から5年8か月余が経過した証言時点において,IがなおHを陥れるべく虚偽の証言をする動機を有していると認めるに足りる個別具体的な証拠や事情は認められず,Iが上記証言をすることが, 同証言時点において,Hに対していかなる影響を与えるかについても判然としないのであって,現にIの証言中には,殊更にHに法的責任を負わせようとする意図を見いだすこともできない。 (②について)後記イのとおり,Fの供述は信用することができず,その他の本件 クラブ関係者も本件事故当日の亡Aの飲酒状況について具体的な供述をなし得ているとは認められないから(甲10の①,②・10ないし13頁,甲11・5,10頁),これらの者の供述とI証言の内容が食い違っているからといって,直ちにI証言の信用性が減殺されるとはいえない。 (③及び④について)Iは,本件における証人尋問が予定された口頭弁論期日に出頭しなかったものの,別件民事訴訟事件の っているからといって,直ちにI証言の信用性が減殺されるとはいえない。 (③及び④について)Iは,本件における証人尋問が予定された口頭弁論期日に出頭しなかったものの,別件民事訴訟事件の尋問期日において,宣誓をした上で,本件事故当日の亡Aの飲酒状況に関する具体的な質問を受けて証言し,かつ,同証言については,被告(本件会社や本件会社代表者等) からの反対尋問も行われており,この点に鑑みれば,Iの陳述書(甲 15)において,Iの来店の頻度,飲酒強要や暴行の目撃状況及び机の状況につき,不正確ないし不十分な説明部分が含まれているとしても,そのことをもって,I証言の核心部分に係る信用性が揺らぐものではない。 c 以上によれば,被告の上記主張①ないし④をもって,I証言の信用 性がないとはいえず,被告の上記主張は採用できない。 イ Fの供述(乙5。以下「F供述」という。)について(ア) F供述の要旨Fは,平成29年4月25日に行われた大阪労働局労働基準監督官による聴取調査において,要旨,以下のとおり述べている。 a 亡Aとは17歳頃からの付き合いで,当時は別のクラブで亡Aが先輩ホストであった。プライベートでも仲が良く,よく一緒に飲みに行った。亡Aはいつもビールとテキーラ等のアルコールをショットグラスでストレートで飲んでいた。よく飲むときには1人で焼酎ボトル1本を空けることもあった。テキーラをショットグラスでストレートで 飲むときも10杯くらいは飲んでいた。 b 亡Aは,本件クラブの近所で飲酒した上で2部営業に出ることがほとんどであった。ある程度以上酔うと言動が乱暴になり人に絡むタイプで,乱暴に店に入ってきて後輩ホストに絡んだりしていた。ガールズバーに入り浸っており,飲食代の付けを払 した上で2部営業に出ることがほとんどであった。ある程度以上酔うと言動が乱暴になり人に絡むタイプで,乱暴に店に入ってきて後輩ホストに絡んだりしていた。ガールズバーに入り浸っており,飲食代の付けを払うために店から給料の前 借りをしており,Fからも60万円程借金をしていた。 c 本件事故当日,亡Aは午前0時に来店し,Fに対して更なる借金の申込みをしたが,ひどく酔っていたので,借金の件を断わり,酔いがひどいので寮に帰るよう伝えた。しかし,ミーティングのために同日午前3時頃に本件クラブに戻ると亡Aはまだ店におり,酔っぱらって ソファーに座り,「金を貸してくれ」などと言っていた。 d ミーティング終了後に別の店で飲んでいたところ,午前7時か8時に電話があり,本件クラブに駆けつけると,亡Aの救命活動の最中であった。 (イ) F供述の信用性亡Aがミーティングの内容等を手帳にメモしていた内容(認定事実(2) ウ)や携帯電話のメールにおける知人への飲酒状況の報告内容,Fに対する送信内容(同(3)ア),更には,本件クラブのホスト間のLINEのやりとりにおける送信内容(同(3)イ(ク)ないし(コ))からすると,F供述のうち,亡Aの酒の強さや普段の飲酒量,飲酒時の態度に関する供述部分は,亡Aの人物像,他のホストに対する態度及び飲酒に対する積極性 のいずれの点とも整合しておらず,また,F供述のうち,本件事故当日の本件クラブへの来店状況や滞在状況に関する供述部分についても,亡AがIの接待をすることが予定されていたこと(同(4)ケ)と明らかに矛盾していると認められる。以上によれば,Fの上記供述については,いずれも信用することができないといわざるを得ない。 ウ本件事故当日の飲酒状況以上認定 )ケ)と明らかに矛盾していると認められる。以上によれば,Fの上記供述については,いずれも信用することができないといわざるを得ない。 ウ本件事故当日の飲酒状況以上認定説示した点からすると,本件事故当日における亡Aの飲酒状況については,上記3(2)アで説示したI証言のとおりであると認めるのが相当であり,この点を覆すに足りる的確な証拠は認められない。 (3) 本件における業務起因性の有無について ア上記認定したとおり,亡Aは,本件クラブにおいて,入社後約4か月のいわゆるお笑い系ホストであったこと,他方,Fは,本件クラブにおいて他のホストを指導する主任の立場にあり,かつHとともに亡Aとの関係では,先輩ホストに当たる地位にあったこと,以上の点が認められ,これらの点から認められる亡AとF及びHの経歴,立場及び役割の格差や優劣, 更には,亡AがFに対して送信したメールの内容(認定事実(3)ア(カ))や ホスト間でのLINEにおける亡Aの送信内容等(同(3)イ(ク)ないし(ス))をも併せ鑑みれば,亡Aが,本件事故当日のF及びHによる飲酒の強要に対して,これを拒絶することは極めて困難な状況にあったと認められる。 イまた,本件事故当日の亡Aの飲酒のうち,焼酎の飲酒については,本件クラブないし本件クラブのホスト側からみれば,もともとIがキープして いたボトルの焼酎を消費するとともに,新たなボトル等の注文に繋げ,売上げを伸ばすことができるという意味を有する行為であると解されるところ,F及びHが,この焼酎を早期に消費させるべく,ヘルプホストであり,後輩の立場にあった亡Aに対し,濃い酒(焼酎)を作って飲むように強要することは,かかる行為の道義上の当否はともかく,本件クラブの売上げ 増加 の焼酎を早期に消費させるべく,ヘルプホストであり,後輩の立場にあった亡Aに対し,濃い酒(焼酎)を作って飲むように強要することは,かかる行為の道義上の当否はともかく,本件クラブの売上げ 増加につながるという意味で,本件クラブにおけるホストの業務の一環ないし同業務に直接関連する行為であったと認めるのが相当である。 一方,テキーラゴールドの飲酒についてみるに,確かに,上記認定したF及びHによるテキーラゴールドに係る飲酒強要の態様や亡Aの飲酒の状況によれば,①Iや当時の来店客に対し,場を盛り上げて注文を呼び込む 効果はほとんど期待し難いこと,②Iの売上伝票にテキーラゴールドの料金は含まれておらず(認定事実(4)コ),酒の消費による本件クラブの売上げへの貢献という点もうかがえないこと,③顧客であるIが,このような接待を期待して来店・滞在しているものとは通常考え難く,顧客の維持・確保に有効に結び付く行為とも解されないこと,以上の点が認められ,こ れらの点からすると,通常ホストが従事する接客・接待業務とは趣を異にした状況にあったともいえる。 しかしながら,①上記テキーラゴールドの飲酒強要は,当初の通常のIに対する接待業務に引き続いて,いまだIが客として同じ席に着いている中で生じた出来事であること,②Iは,当日の来店に係る基本料金及び指 名料金(認定事実(4)ケ及びコ)を支払っており,Iが在店している以上, 本件クラブのホストとしてはIに対し接待業務を行う必要性があり,このことは,その内容が業務としての合理性を有するか否かによって左右されるものではないといえること,③本件クラブにおいては,ホストらが接客業務中に多量の飲酒をするような営業が度々行われ,これが事実上黙認されている実態にあり,亡A,F及びHのほか,本 かによって左右されるものではないといえること,③本件クラブにおいては,ホストらが接客業務中に多量の飲酒をするような営業が度々行われ,これが事実上黙認されている実態にあり,亡A,F及びHのほか,本件クラブのホストは,通 常の接客業務においても,大量飲酒によって,記憶がなくなる等の状態にしばしば陥っていたこと(認定事実(3),上記3(1)ア),④本件事故当日は締日であり,同日時点での売上表の状況からはHが同日中に売上げを上げる必要に迫られていたと考えられること(認定事実(4)キ)からすると,「新しいボトルはもうおろさない」,「金を使いたくない」旨述べるIに対し, その効果は乏しいとしても,新たな注文を呼び込む意図で開始された行為であったとも解し得ること,⑤F及びHも既に飲酒している状況にあったこと,以上の点が認められ,これらの点からすると,たとえその後に飲酒強要の態様がエスカレートし,歯止めがかからない状況になっていたとしても,この点をもって,本件クラブにおける接客業務であることが全く否 定されるということにはならないというべきである。 以上によれば,本件事故当日におけるF及びHによる飲酒強要及び亡Aの多量の飲酒は,客観的かつ全体的にみて,本件クラブにおけるホストとしての業務に関連ないし付随して生じた事態であったと認めるのが相当である。 ウ被告は,本件事故当日の亡Aに対する飲酒強要は,極めて私的な人間関係や動機に基づく暴力的で執拗ないじめであり,偶々そこに酒があったために,酒がいじめの手段として用いられたにすぎない旨を主張する。 確かに,亡AがHらホストから度を超した,からかいの対象とされたことがうかがわれる(認定事実(3)イ(サ)ないし(ス))。しかしながら,そもそ も亡Aは,本件クラブにおいて い旨を主張する。 確かに,亡AがHらホストから度を超した,からかいの対象とされたことがうかがわれる(認定事実(3)イ(サ)ないし(ス))。しかしながら,そもそ も亡Aは,本件クラブにおいて,いわゆるお笑い系ホストとして業務に従 事していたこと,本件クラブのホスト間でのLINEのやりとりにおいても,ホスト同士の悪ふざけとうかがわれるやりとりが多く,上記以外に亡Aが特に標的となっているものはみられないこと(甲19の①ないし⑧),本件全証拠を精査しても,F及びHとAとの間に,暴力的で執拗ないじめを行うだけの人間関係や動機の存在は認め難いこと(亡AとHは,以前か らの知り合いであり,特に人間関係が悪いという状況はうかがわれない。),以上の点からすると,FやHが亡Aに対する個人的な恨みや憎しみを抱いていたとは認め難く,被告の上記主張は採用できない。 エ以上認定説示した点を総合的に勘案すると,本件事故当日,本件クラブにおけるホストの接客業務に関連ないし付随してなされたF及びHによる 飲酒の強要に対して,事実上飲酒を拒否できない立場にあった亡Aが,多量の飲酒に及び,急性アルコール中毒を発症し,死亡するに至ったと認められ,亡Aの死亡の原因となった急性アルコール中毒は,客観的にみて,本件クラブにおけるホストとしての業務に内在又は通常随伴する危険が現実化したことによるものと評価することができる。したがって,亡Aの業 務と急性アルコール中毒発症との間には相当因果関係(業務起因性)があると認めるのが相当である。 4 結論以上のとおりであって,亡Aの死亡の原因となったアルコール中毒の発症について,業務起因性が認められないとした本件各処分は違法であって,その取 消しを求める原告らの請求はいずれも理由があ 以上のとおりであって、亡Aの死亡の原因となったアルコール中毒の発症について、業務起因性が認められないとした本件各処分は違法であって、その取消しを求める原告らの請求はいずれも理由があるから、これを認容することとし、主文のとおり判決する。 主文 大阪地方裁判所第5民事部 裁判長裁判官内藤裕之 裁判官大和之 裁判官池上裕康は、転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官内藤裕之

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