令和7年1月17日判決言渡同日原本受領裁判所書記官令和3年(ワ)第44号損害賠償請求事件口頭弁論終結日令和6年10月11日判決 主文 1 被告は、原告Aに対し、金2575万7372円及びこれに対する平成31年4月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は、原告Bに対し、金2465万7371円及びこれに対する平成31年4月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告らのその余の請求を棄却する。 4 訴訟費用はこれを100分し、その15を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。 5 この判決は、第1項及び第2項に限り、仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 請求 1 被告は、原告Aに対し、金2912万6035円及び平成31年4月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は、原告Bに対し、金2912万6035円及び平成31年4月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は被告の負担とする。 第2 事案の概要等 1 本件事案の概要本件は、頭痛を訴え、被告が設置する病院を2度にわたり救急受診した亡Cが、2度目の受診後に帰宅した翌日、意識障害を起こし慢性硬膜下血腫と診断され、緊急手術を受けたものの、高度意識障害等の後遺障害が残ったことについて、当 該女性の相続人である原告らが、当該女性の診療にあたった医師らには、遅くと も2度目の診察終了時までに、CT検査をして脳神経外科の医師に相談すべき義務があったのにこれを怠ったと主張して、被告に対し不法行為に基づき、合計5825万2070円の損害賠償及びこれに対する不法行為の日であ の診察終了時までに、CT検査をして脳神経外科の医師に相談すべき義務があったのにこれを怠ったと主張して、被告に対し不法行為に基づき、合計5825万2070円の損害賠償及びこれに対する不法行為の日である平成31年4月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める事案である。 以下、月日は、特段の断りのない限り、平成31年(令和元年)中を指す。 2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)⑴ 当事者ア亡Cは、昭和16年8月29日生まれ(2度目の診察終了日である4月3 0日当時77歳)の女性で、原告Aと同居する専業主婦であった。亡Cは、本件の原告であったが、老衰により、令和4年5月3日、死亡した(甲A5)。 イ原告Aは、亡Cの夫であり、原告Bは亡Cと原告Aの間の長男である。原告A及び原告Bは、亡Cの相続人である。 ウ被告は、彦根市立病院(以下「本件病院」という。)の開設者である。 エ D医師は、本件病院に勤務し、亡Cに対する4月28日の後記診療に当たった医師であり、E医師は、本件病院に勤務し、亡Cに対する同月30日の後記診療に当たった医師である(D医師及びE医師を合わせて以下「被告医師ら」という。)。 ⑵ 既往歴等 亡Cは、平成20年頃、深部静脈血栓症等により本件病院に入院していた。 亡Cには、深部静脈血栓症、高血圧の既往があり、G医院にてワーファリン及び降圧薬(カンデサルタン)を処方され服用していたが、平成31年4月25日、降圧薬がシルニジピンに変更された(甲A1・1、9、16頁)。 どちらの降圧薬についても、確率は低いものの副作用として悪心、嘔気の症 状が生じる場合があ 服用していたが、平成31年4月25日、降圧薬がシルニジピンに変更された(甲A1・1、9、16頁)。 どちらの降圧薬についても、確率は低いものの副作用として悪心、嘔気の症 状が生じる場合があるとされている(乙A3、E医師・16頁、弁論の全趣旨) ⑶ 事実経過ア亡Cは、4月28日、吐き気、頭痛の症状を呈し、同日午後8時頃、本件病院救急外来を受診した。D医師は、緊張性頭痛と診断し、解熱鎮痛剤と制吐薬を処方した上で帰宅させた(甲A1・1~5頁)。 イ亡Cは、同月30日、頭痛の症状を呈し、原告Aが要請した救急車により、 同日午前8時15分頃、本件病院に搬送された。E医師は、亡Cを一次性頭痛と診断し、解熱鎮痛薬を処方した上で帰宅させた(以下「本件診察」という。)(甲A1・7~10頁)。 ウ亡Cは、5月1日、発熱、意識障害の症状を呈し、原告Aが要請した救急車により、同日午後1時20分頃、本件病院へ搬送された。担当医師は、亡 Cに対しCT検査を実施し、慢性硬膜下血種及び脳梗塞と診断した上で緊急手術をしたが、すでに慢性硬膜下血種が進行し頭蓋内圧亢進により脳梗塞が起こったため、亡Cには高度意識障害、四肢麻痺が残存した(争いなし)。そして、障害固定日を令和元年9月1日として(甲A2)、令和2年1月9日、身体障害者手帳(1級)の交付を受けた(甲A3)。 2 争点⑴ 被告医師らに遅くとも4月30日午前9時頃までに、CT検査をして脳神経外科医師に相談すべき注意義務があったか⑵ ⑴と後遺障害との因果関係⑶ 損害 3 争点に関する当事者の主張⑴ 争点1(被告医師らに遅くとも4月30日午前9時頃までに、CT検査をして脳神経外科医師に相談すべき注意義務があったか との因果関係⑶ 損害 3 争点に関する当事者の主張⑴ 争点1(被告医師らに遅くとも4月30日午前9時頃までに、CT検査をして脳神経外科医師に相談すべき注意義務があったか)について【原告らの主張】頭痛の診断では、一次性頭痛と二次性頭痛の鑑別が重要であり、鑑別には問 診、身体、神経所見の診察、画像診断の実施が求められる。突然の頭痛、今ま で経験したことがない頭痛、いつもと様子の異なる頭痛、頻度と程度が増す頭痛、50歳以降に初発の頭痛、神経脱落症状を有する頭痛といった症状を認める場合には、二次性頭痛を疑って診察、検査を進める必要がある(甲B6、27)。また、一次性頭痛と診断するためには、まず二次性頭痛を除外するために少なくともCT検査を実施すべきである(甲B27・3頁)。特に、ワーファリ ン服用者で、高血圧、嘔気を伴う場合には、その必要性が高まる(甲B3、27)。二次性頭痛に必ずしも神経学的所見が伴うわけではない(甲B27・3頁)。 最近(日または週の単位)発症した頭痛、又は、次第に悪化する頭痛もしくは持続する頭痛でER(救急外来)を受診した成人患者に対しては、CT検査が必要とされている(甲B6・13頁)。 亡Cは、ワーファリンを服用する本件診察当時77歳の高齢者であり、4月28日は一人で歩いて救急受診をしたが、同月30日には動くことができず救急車で搬送された。同月28日には、突然ピークとなる、今まで経験したことのないような、これまでと異なる頭痛、高血圧、足のふらつきがあり、同月30日には、頭痛、高血圧に加え、救急搬送時に全身脱力感や体動困難という神 経脱落症状等、二次性頭痛を強く疑わせる臨床所見があったから、被告医師らは、遅くとも本件診療終了時点である あり、同月30日には、頭痛、高血圧に加え、救急搬送時に全身脱力感や体動困難という神 経脱落症状等、二次性頭痛を強く疑わせる臨床所見があったから、被告医師らは、遅くとも本件診療終了時点である同月30日午前9時頃までに、鑑別のために有用かつ適切なCT検査を実施した上で、脳神経外科の医師に相談すべき注意義務を負っていた。 被告は、本件診察時、鎮痛薬により頭痛が緩解したこと、神経学的所見に問 題がなかったことをもって一次性頭痛を第一に疑うことが自然であったと主張するが、二次性頭痛の場合でも鎮痛薬により緩解することはあること(甲B14・19頁)、二次性頭痛に神経学的所見は必発ではないことからすれば、被告の反論は失当である。また、被告は、くも膜下出血が疑われる場合を除き、必ずしもCT検査をする義務はないと主張するが、「緊急CT」を行い「原因を 至急明らかにする必要がある」二次性頭痛の原因はくも膜下出血に限られない のであり(甲B14・19~21、24頁、甲B15・1~4頁)、慢性硬膜下血腫は、症状が進行すると、重大な後遺症や死亡に至る疾患であるから(甲B15、17)、くも膜下出血が疑われる場合でなくとも、二次性頭痛の特徴を示す頭痛がある場合は、画像検査(特にCT検査)を実施すべきである(甲B8、9、27)。 【被告の主張】慢性頭痛の診療ガイドライン2013(甲B6)は、①から⑨の項目に該当する症例に対し、二次性頭痛を疑って積極的な検索が必要であると記載しているにとどまり、くも膜下出血が疑われる場合を除き、必ずしもCT検査を推奨しているわけではない。 亡Cは、降圧薬を変更していた上、4月28日受診時、一人で入室し、歩行に異常はなく、「同じ痛みが持続」、「今朝から食事をした時に嘔 場合を除き、必ずしもCT検査を推奨しているわけではない。 亡Cは、降圧薬を変更していた上、4月28日受診時、一人で入室し、歩行に異常はなく、「同じ痛みが持続」、「今朝から食事をした時に嘔気あり。今は大丈夫。」と説明し(甲A1・1頁)、同月30日受診時、「4月28日も救急受診しており、頭痛薬を内服したところ、かなりマシになっている。」と説明しており(甲A1・8頁)、一次性頭痛を第一に疑うことが自然であった。他方で、「こ れまでの人生で最もひどい頭痛」、「頻度と程度が増していく頭痛」、等とは述べておらず、診察時に神経学的所見も問題なかったことを総合考慮すれば、被告医師らが、本件診察時である同月30日までに二次性頭痛を強く疑うべきであったとはいえない。原告らは、救急搬送時に全身脱力感があったと主張とするが、救急要請をした家族の認識にすぎないし、そもそも神経脱落症状にあた らない。 亡Cの症状からすれば、被告医師らは、二次性頭痛を疑うべきであったとはいえないし、仮に二次性頭痛を疑うべきであったとしても、くも膜下出血が疑われる場合ではないから、被告医師らは、CT検査を実施すべき注意義務を負っていなかった。 ⑵ 因果関係 【原告らの主張】遅くとも4月30日の診察終了時点までに、CT検査を実施していれば、両側性の慢性硬膜下血腫であることが判明していた。そして、亡Cがワーファリンを内服していたこと(甲A1・1、16頁)及び亡Cが同時点で歩行が困難となっていたことを考慮すると、CT検査後、脳神経外科医に相談していれば、 緊急手術が行われた蓋然性が高い(甲B35の1、35の2)。緊急手術で外科的ドレナージを実施して、脳ヘルニア、脳梗塞及び脳梗塞により生じる後遺障害を回避することができた。5月1日 していれば、 緊急手術が行われた蓋然性が高い(甲B35の1、35の2)。緊急手術で外科的ドレナージを実施して、脳ヘルニア、脳梗塞及び脳梗塞により生じる後遺障害を回避することができた。5月1日に本件病院へ搬送された際、搬送から約1時間40分後に血腫穿孔洗浄術が実施されていることから明らかである。 慢性硬膜下血腫の予後は極めて良好であるし(甲B1、2)、亡Cは、本件診 察をした4月30日時点で脳ヘルニアを発症していない可能性が非常に高く(甲A1・9頁)、同時点で治療を開始すれば退院時に自立した日常生活を送ることができた可能性は約80%以上であり(甲B31の1、31の2)、後遺障害を避けられた高度の蓋然性がある。 【被告の主張】 争う。たしかに、4月28日、30日にCT検査を実施していれば、慢性硬膜下血腫の診断はついたものと思われる。しかし、外科的治療を開始するかは症状や所見に応じて判断するものであるところ、亡Cの症状は、4月30日の受診後から5月1日の間に急激に増悪したものであるから、4月30日の診察時点でCT検査をして脳神経外科医に相談したとしても、外科的治療を開始し たかは不明である。また、仮に外科的治療を開始していたとしても、高齢であるほど重症化しやすく、慢性硬膜下血種患者の約3割が退院時に何らかの介護を必要とするのであるから(甲B33)、後遺症の発生という結果を回避できたかは不明である。 ⑶ 損害の発生及び額 【原告らの主張】 被告医師らの上記義務違反により、亡Cは以下の損害を被った。損害の合計額は5825万2070円である。 ア治療関連費(ア) 医療費 254万0932円(本件病院甲C6―1~18、同C7-1~7、彦根中 損害を被った。損害の合計額は5825万2070円である。 ア治療関連費(ア) 医療費 254万0932円(本件病院甲C6―1~18、同C7-1~7、彦根中央病院C8-1 ~37)(イ) 入院雑費(本件病院) 25万5068円令和元年5月1日から同年9月1日まで124日分日額2057円(入院雑費1500円+入院セットレンタル費557円)×124日 イ亡Cの交通費 4万1030円(滋賀医科大学入退院日(甲A10)である令和3年7月13日及び同年8月13日分甲C10-1~3)ウ原告らの付添見舞い等の交通費 12万0265円(ア) 原告B 10万4140円 原告B宅~病院(62.9km)令和元年5月1日~同年9月1日の間の20日(15円/km×62.9km+1660円(高速))×2(往復)×20日(イ) 原告A 1万6125円原告A宅~病院(4.3km) 令和元年4月30日~同年9月1日の125日(15円/km×4.3km)×2(往復)×125日エ介護用品購入費用 157万0028円(甲C11-1~6、C12-1~31、C13-1~24、C14-1~2、C15-1~4) オ休業損害 101万4500円 8116円(平成30年賃金センサス女性学歴計日額)×125日カ逸失利益 897万6355円296万2200円(平成30年賃金センサス女性学歴計70歳年額)×4.329(ライプニッツ)×0.7キ慰謝料 (ア) 入院慰謝料 239万2000円 円296万2200円(平成30年賃金センサス女性学歴計70歳年額)×4.329(ライプニッツ)×0.7キ慰謝料 (ア) 入院慰謝料 239万2000円令和元年5月1日から同年9月1日まで約4か月重症事例のため184万円の1.3倍(イ) 後遺症慰謝料 3000万0000円亡Cには後遺障害等級1級相当の後遺障害が残存し、これに対する慰謝 料としては3000万円が相当である。 ク文書費用及びカルテ開示費用 4万6250円(甲C7-5、C8-12、C8-18、C8-37、C9-2、C16、C17)ケ損害合計 4695万6428円 コ弁護士費用 469万5642円サ近親者慰謝料 660万0000円330万×2人(原告A及び原告B)シ合計 5825万2070円原告Aと原告Bは、相続により上記損害賠償請求権の2分の1である29 12万6035円をそれぞれ取得した。 【被告の主張】争う。 第3 当裁判所の判断 1 前提事実に加え、後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ る。 ⑴ 医学的知見ア一次性頭痛と二次性頭痛一次性頭痛は、片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛などで、頭痛自体が疾患の頭痛である。二次性頭痛は、くも膜下出血、脳梗塞、脳出血、脳腫瘍、髄膜炎などの疾患が原因となり二次的に起こる頭痛である(甲B4)。二次性頭 痛の原因はくも膜下出血に限られない(甲B14・19~21、24頁、甲B15・1~4頁)。 なお、二次性頭痛は必ずしも神経学的所見を伴うわけではない(甲B27・3頁)。また、二次 。二次性頭 痛の原因はくも膜下出血に限られない(甲B14・19~21、24頁、甲B15・1~4頁)。 なお、二次性頭痛は必ずしも神経学的所見を伴うわけではない(甲B27・3頁)。また、二次性頭痛であっても、頭痛薬で緩解することがある(甲B14・19頁)。 イ慢性硬膜下血腫慢性硬膜下血腫は、硬膜内面の外側被膜(外膜)とくも膜表面の内側被膜(内膜)に包まれた暗赤色流動性の血腫である。軽微な外傷後3週間から数か月で血腫が徐々に増大して、圧迫による症状が現れてくる。初発症状は頭痛が多く、血腫の増大とともに血腫と反対側の片麻痺が生じ、長時間放置す れば脳ヘルニアを来たし、意識障害が高度となる(甲B2・454頁)。早期に正しい診断をして治療をしないと、脳ヘルニアにより死に至る可能性がある(甲B2・133頁、甲B24・136~137頁)。 慢性硬膜下血腫の場合、頭痛や歩行障害といった症状があれば、治療として外科的治療、すなわち手術(成人の場合穿頭血腫除去術)を行うことが一 般的であり(甲B34)、両側性慢性硬膜下血腫では脳ヘルニアが生じ、臨床症状が急速に悪化するリスクが高く、その結果、死亡や重大な障害を残すおそれがあるから、両側性慢性硬膜下血腫、特に凝固障害のある場合は、緊急手術を考慮すべきであるとされる(甲B35の1、35の2)。穿頭術により流動性血腫を除去後、血腫腔を生理食塩水で洗浄した後、血腫腔にドレーン を留置する(甲B1・267頁)。 また、頭蓋内圧亢進が長時間持続し、脳ヘルニアを生じて、脳に不可逆的な損傷が起こってしまった場合を除き、予後は極めて良好である(甲B1・267頁、甲B2)。 本邦における2010年4月から2013年3月までの間の慢性硬膜下血腫6万3358例の解 て、脳に不可逆的な損傷が起こってしまった場合を除き、予後は極めて良好である(甲B1・267頁、甲B2)。 本邦における2010年4月から2013年3月までの間の慢性硬膜下血腫6万3358例の解析において、70~79歳までの慢性硬膜下血腫患 者の治療結果を見ると、退院時に機能回復良好(mRS0-2)であった患者の割合は79.6%である(甲B31の1、31の2、33)。なお、mRSとは、脳卒中患者の機能回復程度の評価指標であり、0:全く症候がない(自覚症状及び他覚徴候がともにない状態)、1:症候はあっても明らかな障害はない(自覚症状及び他覚徴候はあるが、発症以前から行っていた仕事 や活動に制限はない状態)、2:軽度の障害(発症以前から行っていた仕事や活動に制限はあるが、日常生活は自立している状態)という基準である(甲B32・350頁)。 ウ脳ヘルニア脳ヘルニアとは、通常硬膜で仕切られたコンパートメントに収まっている 脳が、血腫などの占拠性病変によって本来の位置から押し出された状態をいい、脳ヘルニアが起こると、脳幹の圧迫等により意識障害や呼吸障害等を生じ、生命維持が困難になる危険性がある(甲B2・133~134頁)。 エ慢性頭痛の診療ガイドライン2013(甲B6、以下「診療ガイドライン」という。)及び検査方法 ①突然の頭痛、②今まで経験したことがない頭痛、③いつもと様子の異なる頭痛、④頻度と程度が増していく頭痛、⑤50歳以降に初発の頭痛、⑥神経脱落症状を有する頭痛、⑦癌や免疫不全の病態を有する患者の頭痛、⑧精神症状を有する患者の頭痛、⑨発熱・項部硬直・髄膜刺激症状を有する頭痛といった症状を認める場合には、二次性頭痛を疑って、神経学的な診察と評 価を行い、適切な画像検査、血液 する患者の頭痛、⑧精神症状を有する患者の頭痛、⑨発熱・項部硬直・髄膜刺激症状を有する頭痛といった症状を認める場合には、二次性頭痛を疑って、神経学的な診察と評 価を行い、適切な画像検査、血液検査、髄液検査などを選択して実施するこ とが重要であり、具体的には採血や頭部CT等を行う必要がある (甲B6・6~7、13頁、甲B8、9、甲B14・19~21頁、甲B27・2頁、E医師・15頁)。 頭痛を主訴として来院した患者については一次性頭痛と二次性頭痛の鑑別が最重要であり、まず生命に危険な頭痛をスクリーニングするのであって、 一次性頭痛の診断を行うには二次性頭痛の可能性を否定しなければならない(甲B6・12、17、23頁、甲B27・4頁、E医師・10頁)。 オ頭痛レッドフラッグ(redflag)二次性頭痛かもしれない危険な頭痛を示すサインであり、該当する場合には、二次性頭痛の除外として診察やCT検査をしなければならないことを意 味する(甲B11、16、18、27、30、E医師・14~15頁)。 カバレー徴候目をつぶって手や足を水平に上げ、軽微な脳梗塞があると手や足が下がってくるかを診る診察方法で、錐体路障害を証明する重要な兆候である。頭蓋内病変が存在していても必ずしもバレー徴候を伴うわけではなく、くも膜下 出血を含む頭蓋内病変で、錐体路に関係しない部位の病変ではバレー徴候は出ない(甲B23、E医師・13、23頁)。 キジョルトサイン(Joltaccentuationはジョルトサインとも呼ばれる。)ジョルトサインとは、頭痛を有する人が、頭を1秒間に2~3回左右に小 刻みに振ったとき頭痛が憎悪するかどうか髄膜刺激症状を見る検査で、感度が6 nはジョルトサインとも呼ばれる。)ジョルトサインとは、頭痛を有する人が、頭を1秒間に2~3回左右に小 刻みに振ったとき頭痛が憎悪するかどうか髄膜刺激症状を見る検査で、感度が64%以上と高い検査である(甲B14、15、E医師・3頁)。同検査は、髄膜炎などによる髄膜刺激症状を確認する場合に行われるが、頭蓋内病変すべてを診察できる検査ではない(甲B15)。 クワーファリン ワーファリンの服用は出血するリスクを高め、ワーファリン服用者では非 服用者の42.5倍慢性硬膜下血腫の発生率が増加すると言われている。ワーファリン服用者で、高血圧、嘔気を伴う場合には、頭部CT検査実施の必要性が高まる(甲B3、27・3~4頁)。 ケ意識障害レベル意識障害レベルの分類方法としてJCS(Japancomasca le。以下単に「JCS」という。)がある。 JCSとは、意識障害が疑われる症例に遭遇した場合、「Ⅰ:刺激しないでも覚醒している」「Ⅱ:刺激で覚醒するが、刺激をやめると眠り込む」「Ⅲ:刺激しても覚醒しない」の3つに分け、それぞれに対してさらに細かく3段階の状態が決められているもので、例えば、意識清明の場合は「JCS0」、 痛み刺激に対し、払いのけるような動作をすることができるが、閉眼したままの状態は「JCSⅢ-100」、閉眼のまま、かろうじて痛み刺激で少し手足を動かしたり、顔をしかめたりする動作ができる状態は「JCSⅢ-200」などと表現される。 ⑵ 診療経過 ア亡Cは、4月26日昼頃から頭痛、吐き気の症状があり、同月28日、頭痛、吐き気を訴え、午後8時頃、本件病院救急外来を受診した(甲A1・1~5頁)。なお、亡Cは、頭痛発症前の全身状態は ア亡Cは、4月26日昼頃から頭痛、吐き気の症状があり、同月28日、頭痛、吐き気を訴え、午後8時頃、本件病院救急外来を受診した(甲A1・1~5頁)。なお、亡Cは、頭痛発症前の全身状態は良好で、ADLは自立していた(甲A1・12頁、原告B・3~4頁)。 同日作成された救急センタートリアージシートには、亡Cの血圧について、 同日19時8分に161/70mmHgとあるほか、「いつも血圧130」と記載されている(甲A1・6頁)。 同日、亡Cを診察したD医師は、患者診療録(S:主観的情報)の欄に、「【主訴】頭痛、吐き気」、「【現病歴】4/26から上記症状あり。じわじわ痛み出した。昨日から頭痛がひどくなってきた。後頚部とこめかみ部分が痛 い。同じ痛みが持続。」、「【内服歴】ワーファリン」、患者診療録(O:客観的 情報)の欄に、「BP161/70」、「体温36.9度」、「頭痛redflag」の検討項目として、「突然ピークとなる」「今まで経験したことのない(+)」「これまでとは異なる(+)」「50歳以上で初発(+)」「増悪傾向(-)」「HIV・担癌(-)」「発熱・皮疹を伴う(-)」「意識障害・痙攣を伴う(-)」「神経学的所見がある(-)」「頭部外傷(-)」などと記載した(甲A1・1 ~3頁)。なお、診断の際に亡Cは妹がくも膜下出血になったので不安である旨述べていた(甲A1・3頁)。 以上のような事情を踏まえてD医師は、元々頭痛はあまりなかったので今までで一番痛いとのことだが神経学的所見が無く、急な発症でないことから、くも膜下出血は疑いにくく、動いたり入浴でましになることから緊張型頭痛 が一番疑わしい、嘔気は頭痛によるものか降圧薬が変更されたためか不明で緊急性は低いと考え、緊張型頭痛と診断して ことから、くも膜下出血は疑いにくく、動いたり入浴でましになることから緊張型頭痛 が一番疑わしい、嘔気は頭痛によるものか降圧薬が変更されたためか不明で緊急性は低いと考え、緊張型頭痛と診断して解熱鎮痛薬と制吐薬を処方して帰宅させた(甲A1・3頁)。 イ同日の診察終了後、亡Cは原告Aに肩を借りて支えられながらも独歩で車に乗って帰宅した。亡Cは、本件病院で処方された解熱鎮痛剤と制吐剤を服 用したが、翌29日も症状は改善せず、横になって過ごした(原告B・6~7頁)。 ウ亡Cは、同月30日午前6時起床時から後頭部痛及び全身脱力感を訴えたため、原告Aが救急車を依頼し、同日午前8時15分頃、救急車で本件病院へ搬送され、診察室へはストレッチャーで入室した(甲A1・8頁)。亡Cは、 午前8時15分に本件病院へ到着した際、血圧168/62mmHg、体温37.5度、意識レベルJCS0であった(甲A1・7頁)。 亡Cの血圧は、4月30日午前8時15分に本件病院へ到着した際は168/62mmHg、同日8時27分は169/91mmHgである(甲A1・7頁)。 搬送時に救急隊員が作成した傷病者搬送票には、発生状況等(主訴)とし て「後頭部痛があり、全身の脱力も出現し、動けない」、その他の状況、観察、処置内容として「後頭部のズキズキする持続痛、全身の脱力感」との記載があり、本件病院で救急隊員から引継ぎを受けた救急担当医のE医師は、傷病者搬送票の記載内容を確認し、「引継者・氏名」欄に署名した(甲A1・10頁、E医師・12~13頁)。 E医師は、ストレッチャーに乗って救急搬送された亡Cを、ストレッチャー上に寝かせたままの状態で診察した(原告A・1頁、E医師・11、20頁)。診察の際、亡Cは、頭痛につ 2~13頁)。 E医師は、ストレッチャーに乗って救急搬送された亡Cを、ストレッチャー上に寝かせたままの状態で診察した(原告A・1頁、E医師・11、20頁)。診察の際、亡Cは、頭痛について、「4月28日も救急受診しており、頭痛薬を内服したところ、かなりマシになっている。」、「カンデサルタンからシルニジピンに変更してから調子が悪い。」と説明している(甲A1・8~ 9頁)。 E医師は、診察の際、上下肢のバレー徴候、手を握れるかの確認を行ったが、寝た姿勢から起き上がれるか、歩行ができるかの確認はしなかった(E医師・12頁)。 E医師は、亡Cの収縮期血圧がいつもは130mmHg程度であるところ、 本件診察当時は160mmHgぐらいであることを認識していたが、当日朝に降圧薬を内服したか否かを質問しなかった(E医師・17頁)。亡Cの普段のADLについても、本人や原告Aに質問しなかった(同19頁)。 E医師は、瞳孔不同や対光反射の消失、緩慢がなく、眼球運動が正常で、呂律困難はなく、Joltaccentuation及び上下肢バレー徴 候が陰性で、四肢麻痺、項部硬直がないことを確認した(甲A1・9頁)。 E医師は、神経学的所見に乏しいことから一次性頭痛を一番に疑うとして、解熱鎮痛薬を処方して経過観察としたうえで、帰宅を指示した(甲A1・9頁)。この時、E医師は、二次性頭痛の可能性はかなり低いと考えていた(E医師・21頁)。 亡Cは、診察後、ストレッチャーから降り、車椅子に移乗したが、E椅子 はその様子を見ていなかった(E医師・18頁)。看護師は、帰宅時に家人が支えながらなんとか車椅子に移乗して帰宅した旨カルテに記載した(甲A1・7頁)。 E医師は、本件診察当時、診療ガイドラインの記載内容を知 を見ていなかった(E医師・18頁)。看護師は、帰宅時に家人が支えながらなんとか車椅子に移乗して帰宅した旨カルテに記載した(甲A1・7頁)。 E医師は、本件診察当時、診療ガイドラインの記載内容を知っていた(E医師・8頁)。 エ亡Cは、同月30日帰宅後、夕方、食事をとって就寝したが、5月1日午後0時50分頃、発熱、意識障害の症状を呈し、原告Aが要請した救急車により、同日午後1時20分頃、本件病院へ搬送された(甲A1・12~16頁)。 救急隊が亡C宅に到着した午後1時頃の亡Cの意識レベルは、JCSⅢ- 100であり(甲A1・14頁)、病院到着時にはJCSⅢ-200と意識障害が急激に悪化した(乙A2・31頁)。 担当医師は、亡Cに対しCT検査を実施し、慢性硬膜下血種及び脳梗塞と診断した上で緊急手術(血腫穿孔洗浄術)をした(甲A1・16頁、乙A1・57頁)。なお、遅くとも4月30日の診察終了時点までに、CT検査を実施 していれば、両側性の慢性硬膜下血腫であることが判明していた(争いなし)。 5月1日、本件病院脳外科医であるF医師は「昨日、impendingの状態だったのだろう」と診療録に記載している(甲A1・13頁。impendingは「差し迫った」、「切迫した」の意であるが、ここでは前後の記載(下記キ参照)から脳ヘルニアについて記載されたものと解される。)。 オ同日、緊急手術を行ったものの、すでに慢性硬膜下血種の増大によって頭蓋内圧が亢進し、脳ヘルニアにより両側の視床が圧迫されて脳梗塞が起こったため、亡Cには高度意識障害、四肢麻痺が残存した(争いなし)。 カ F医師は、同月2日に、原告Aらに対し、(圧迫が)「4/30までに解除されていれば梗塞に陥らなかった可能性は否定できない」と説明した 亡Cには高度意識障害、四肢麻痺が残存した(争いなし)。 カ F医師は、同月2日に、原告Aらに対し、(圧迫が)「4/30までに解除されていれば梗塞に陥らなかった可能性は否定できない」と説明した(甲A 1・20~21頁)。 キ亡Cは、障害固定日を令和元年9月1日として(甲A2)、令和2年1月9日、身体障害者手帳(1級)の交付を受けた(甲A3)。 2 争点⑴(被告医師らに遅くとも4月30日午前9時頃までに、CT検査をして脳神経外科医師に相談すべき注意義務があったか)について⑴ 上記1⑴で認定した医学的知見を踏まえ、本件について検討すると、亡Cは、 4月28日、頭痛、吐き気を訴え、本件病院救急外来を受診しており、同日の診察において、突然ピークとなる、今までで経験したことがなく、今までで一番痛い、これまでと異なる頭痛であり、4月26日から同症状が発症し、昨日から頭痛がひどくなってきたと訴えており、亡Cを診察したD医師は、患者診療録(O:客観的情報)の欄に、「50歳以上で初発(+)」と記載しているこ とからして、同医師は、亡Cの症状が二次性頭痛を疑うべき診療ガイドラインにおける9項目のうち、①突然の頭痛、②今まで経験したことがない頭痛、③いつもと様子の異なる頭痛、④頻度と程度が増していく頭痛、⑤50歳以降に初発の頭痛に該当することを認識していた。 加えて、D医師は患者診療録(O:客観的情報)の欄に、「頭痛redfl ag」という二次性頭痛かもしれない危険な頭痛を示す記載をしており、このことからも、二次性頭痛の除外として診察やCT検査をしなければならない状態にあることを認識していたと考えられる。 D医師は、上記のとおり認識したものの、神経学的所見がないこと、急な発症でないことから、くも膜下出血 性頭痛の除外として診察やCT検査をしなければならない状態にあることを認識していたと考えられる。 D医師は、上記のとおり認識したものの、神経学的所見がないこと、急な発症でないことから、くも膜下出血は疑いにくく、体動で緩和することから緊張 型頭痛と診断し、CT検査はしなかったが、二次性頭痛の原因はくも膜下出血に限られないのであり、くも膜下出血が疑われる場合でなくても、二次性頭痛が疑われる場合は、画像検査(特にCT検査)を実施し、原因を明らかにすべきであったと考えられる。 ⑵ さらに、E医師は、同月30日、亡Cについて、同月28日にも本件病院を 受診していること、同月30日午前6時起床時から後頭部痛及び全身脱力感を 訴えたため、家族が救急車を依頼し、同日午前8時15分頃、救急車で本件病院へ搬送されたこと、後頭部の持続痛及び全身の脱力感があること、ワーファリンを内服していること、収縮期血圧がいつもは130mmHg程度であるにもかかわらず、本件病院へ到着した際、168mmHgであったことを認識した上で、ストレッチャーに乗って入室した亡Cを、ストレッチャー上に寝かせ たままの状態で診察している。さらに亡Cは、「4月28日も救急受診しており、頭痛薬を内服したところ、かなりマシになっている。」と説明している。 上記の経緯からして、E医師は、4月30日の診察時点において、亡Cの症状が、診療ガイドラインにおいて二次性頭痛を疑うべきとされる9項目のうち、①突然の頭痛、②今まで経験したことがない頭痛、③いつもと様子の異なる頭 痛、④頻度と程度が増していく頭痛、⑤50歳以降に初発の頭痛に加え、全身脱力感や体動困難という⑥神経脱落症状を有する頭痛にも該当する状態に該当することを認識し得たといえるし、亡Cが高血圧の状態にあること ④頻度と程度が増していく頭痛、⑤50歳以降に初発の頭痛に加え、全身脱力感や体動困難という⑥神経脱落症状を有する頭痛にも該当する状態に該当することを認識し得たといえるし、亡Cが高血圧の状態にあることも認識していたといえる。 E医師は、以上の状況において、瞳孔不同や対光反射の消失、緩慢がなく、15眼球運動が正常で、呂律困難はなく、ジョルトサイン及び上下肢バレー徴候が陰性で、四肢麻痺、項部硬直がないことを確認したことで、神経学的所見に乏しいことから一次性頭痛を一番に疑うとして、解熱鎮痛薬を処方して経過観察としたうえで、帰宅を指示した。 この点、二次性頭痛であっても、頭痛薬で緩解することもあるため、頭痛薬20により緩解したことをもって当然二次性頭痛を除外することはできないし、また、ジョルトサインは髄膜炎等の髄膜刺激症状を確認する検査であり頭蓋内病変のすべてを診断できるものではないこと、頭蓋内病変が存在していても必ずしもバレー徴候を伴うわけではなく、バレー徴候がないからといって錐体路以外の障害による頭蓋内病変の場合は陽性とならないことからすれば、これらの25検査が陰性であることをもって頭蓋内出血の除外をすることもできない。E医18 師自身もバレー徴候では頭蓋内病変の除外診断ができない旨供述している(E医師・14、15頁)。 加えて、二次性頭痛は必ずしも神経学的所見を伴うわけではないから(甲B27・3頁)、神経学的所見が乏しかったことをもって二次性頭痛を除外することもできないといえる。したがって、E医師が二次性頭痛を除外できていた5とは認められない。 以上を踏まえれば、被告医師らは、遅くとも4月30日午前9時頃までに、二次性頭痛を疑うべきであり、鑑別のために有用かつ適切なCT検査を実施した上で、脳神経外科の医 とは認められない。 以上を踏まえれば、被告医師らは、遅くとも4月30日午前9時頃までに、二次性頭痛を疑うべきであり、鑑別のために有用かつ適切なCT検査を実施した上で、脳神経外科の医師に相談する義務があったといえる。 ⑶ これに対し、被告は、亡Cが「カンデサルタンからシルニジピンに変更して から調子が悪い。」と述べていたから、E医師は亡Cに対し「降圧薬の変更による血圧の乱高下などが影響しているかもしれない。そのせいでふらつくかもしれない。」と説明したと主張しているが、降圧薬の変更は二次性頭痛を除外する十分な理由とはならないし、亡Cの血圧は、普段130mmHg程度であるにもかかわらず、4月28日19時8分には161/70mmHg、4月30 日午前8時15分に本件病院へ到着した際は168/62mmHg、同日8時27分は169/91mmHgであったことからして、「血圧の乱高下」という推論に十分な裏付けがあったとも言い難い。 さらに、被告は、亡Cが「これまでの人生で最もひどい頭痛」、「頻度と程度が増していく頭痛」等とは述べておらず、原告らは、救急搬送時に全身脱力感 があった、救急要請をしたことは家族の認識にすぎないとも主張するが、亡Cは、4月28日の診察において、突然ピークとなる、今までで経験したことがなく、今までで一番痛い、これまでと異なる頭痛であり、4月26日から同症状があり、昨日から頭痛がひどくなってきたと訴えているのであって、亡Cが「これまでの人生で最もひどい頭痛」、「頻度と程度が増していく頭痛」等と述 べていないとはいえないし、搬送時に救急隊員が作成した傷病者搬送票には後 頭部の持続痛及び全身の脱力感がその他の状況等として記載されていること、亡Cはストレッチャーに乗って救急搬送された べていないとはいえないし、搬送時に救急隊員が作成した傷病者搬送票には後 頭部の持続痛及び全身の脱力感がその他の状況等として記載されていること、亡Cはストレッチャーに乗って救急搬送されたことからして、搬送当時、全身脱力感はあったと認められる。 被告は二次性頭痛より一次性頭痛が疑われたと主張するが、上記医学的知見のとおり、頭痛の診療においては、まずは二次性頭痛を念頭において、頭部C T検査等必要な検査や診療を行ってから二次性頭痛を否定した後に、一次性頭痛を考えることが求められており(甲B6・17、23頁、甲B27・4頁)、E医師も一次性頭痛と診断するには二次性頭痛の可能性を否定しなければならず、そのために診察や検査をしなければならない、くも膜下出血であればCT検査を行うと供述していることからして(E医師・10、15頁)、被告の主 張は認められない。 ⑷ よって、被告医師らには、遅くとも4月30日の本件診療終了時点である午前9時頃までに、亡Cの二次性頭痛を疑って、鑑別のために有用かつ適切なCT検査を実施した上で、脳神経外科の医師に相談すべき注意義務があったと認められる。 ⑸ そして、E医師は、4月30日の本件診察当時、「頭痛redflag」等が記載された4月28日の患者診療録(甲A1・1~3頁)や、全身脱力感がある旨記載された4月30日作成の傷病者搬送票に目を通した上で診察を行っているものの、同日の降圧剤の服用の有無やADLの聴取を行わず(E医師・17、19頁)、ストレッチャーから降ろして歩行状態を確認することなく、寝 かせたまま亡Cを診察しており(E医師・11~12頁)、二次性頭痛を除外することができない状況にあったにもかかわらず、上記診察のみで一次性頭痛であると判断し、CT検査等を実施するに至 く、寝 かせたまま亡Cを診察しており(E医師・11~12頁)、二次性頭痛を除外することができない状況にあったにもかかわらず、上記診察のみで一次性頭痛であると判断し、CT検査等を実施するに至っていないのであるから、上記注意義務違反が認められる。 3 争点⑵(⑴と後遺障害との因果関係)について ⑴ 慢性硬膜下血腫に関する医学的知見によれば、頭蓋内圧亢進が長時間持続し、 脳ヘルニアを生じて、脳に不可逆的な損傷が起こってしまったりした場合を除き、予後は極めて良好であり、そのような不可逆的な損傷が生じる前であれば、穿頭術により流動性血腫を除去後、血腫腔を生理食塩水で洗浄した後、血腫腔にドレーンを1日留置することにより症状は劇的に改善するとされる(甲B1・267頁)。 また、本邦における2010年から2013年までの間の慢性硬膜下血腫6万3358例の解析において、70~79歳までの慢性硬膜下血腫患者の治療結果を見ると、退院時に機能回復良好(mRS0-2)であった患者の割合は79.6%である(甲B31の1、31の2、33)。 そして、慢性硬膜下血腫の場合、頭痛や歩行障害といった症状があれば、手 術を行うことが一般的であり(甲B34)、両側性慢性硬膜下血腫では脳ヘルニアが生じ、臨床症状が急速に悪化するリスクが高く、その結果、死亡や重大な障害を残すおそれがあるから、両側性慢性硬膜下血腫、特に凝固障害のある場合は、緊急手術を考慮すべきであるとされる(甲B35の1、35の2)。 ⑵ 本件において、亡Cの後遺障害は、慢性硬膜下血腫の増大によって頭蓋内圧 が亢進し、脳ヘルニアとなったことで両側の視床が圧迫されて生じた脳梗塞によるものであるところ(争いなし)、亡Cは、頭痛発症前の全身状態は良好で、ADLは 慢性硬膜下血腫の増大によって頭蓋内圧 が亢進し、脳ヘルニアとなったことで両側の視床が圧迫されて生じた脳梗塞によるものであるところ(争いなし)、亡Cは、頭痛発症前の全身状態は良好で、ADLは自立しており、4月28日及び同月30日の診察時には意識障害は見られなかったことや、本件病院脳外科医であるF医師が、5月1日、「昨日、impendingの状態だったのであろう」と診療録に記載していることから、 4月30日にE医師が診察した時点では、脳ヘルニアの直前の段階であるもののいまだ脳ヘルニアを生じていなかったことが窺える。 また、亡Cは、4月30日の本件診察時、JCS0(意識清明)であったにもかかわらず、5月1日午後1時に救急隊が到着したときの意識レベルはJCSⅢ-100(痛み刺激に対し、払いのけるような動作をすることができるが、 閉眼したままの状態)であり、同日午後1時25分頃、病院到着時にはJCS Ⅲ-200(閉眼のまま、かろうじて痛み刺激で少し手足を動かしたり、顔をしかめたりする動作ができる状態)まで悪化しているから、5月1日午後1時頃以降に脳ヘルニアの状態に陥ったと考えられる(甲B27・7頁)。 ⑶ そして、遅くとも4月30日の診察終了時点までに、CT検査を実施していれば、両側性の慢性硬膜下血腫であることが判明していたのであって、上記医 学的知見を前提として、亡Cが同時点で頭痛及び歩行困難という症状を有し、ワーファリンを内服しており、凝固障害があったことを考慮すると、CT検査後に脳神経外科医に相談していれば、緊急手術が行われた蓋然性が高いと認められる(甲B35の1、35の2)。 さらに、頭蓋内圧亢進が長時間持続し、脳ヘルニアを生じて、脳に不可逆的 な損傷が起こってしまったりした場合を除き、 緊急手術が行われた蓋然性が高いと認められる(甲B35の1、35の2)。 さらに、頭蓋内圧亢進が長時間持続し、脳ヘルニアを生じて、脳に不可逆的 な損傷が起こってしまったりした場合を除き、予後は極めて良好であって、70~79歳までの慢性硬膜下血腫患者の治療結果において、退院時に機能回復良好(mRS0-2)であった患者の割合は79.6%であること(甲B31の1、31の2、33)、F医師も、5月2日に、原告Aらに対し、「4/30までに解除されていれば梗塞に陥らなかった可能性は否定できない」と説明し ていることを踏まえれば、亡C(当時77歳)が脳ヘルニアの状態には至っていない4月30日段階で、CT検査及び手術を実施していれば、脳ヘルニア、脳梗塞及び脳梗塞により生じる後遺障害を回避することができた高度の蓋然性があると認めるのが相当である。 ⑷ これに対し、被告は、亡Cの症状は、4月30日の受診後から5月1日の間 に急激に増悪したものであるから、4月30日の診察時点でCT検査をして脳神経外科医に相談したとしても、外科的治療を開始したかは不明であると主張するが、既に説示したところから、CT検査を行った前提で考えると、同日の亡Cの状態は緊急手術を要する状態にあったといえ、被告の主張は採用できない。 また、被告は、仮に外科的治療を開始していたとしても、高齢であるほど重 症化しやすく、慢性硬膜下血種患者の約3割が退院時に何らかの介護を必要とするのであるから、後遺症の発生という結果を回避できたかは不明であると主張するが、約3割という数値は、慢性硬膜下血腫患者のうち80代や90代も含めた結果であって、その数値のみから判断するのは適切ではないといえるし、本件診察当時77歳であった亡Cに関して考慮すべき数値は70~79 約3割という数値は、慢性硬膜下血腫患者のうち80代や90代も含めた結果であって、その数値のみから判断するのは適切ではないといえるし、本件診察当時77歳であった亡Cに関して考慮すべき数値は70~79歳ま での慢性硬膜下血腫患者の治療結果であるといえる。そして、同結果において、退院時に機能回復良好(mRS0-2)であった患者の割合は79.6%であること(甲B31の1、31の2、33)から、この点に関する被告の主張は裁判所の認定判断を左右するものと言えない。 ⑸ 以上によれば、被告医師らにおいて、遅くとも4月30日の診察終了時点ま でに、CT検査を実施し、脳神経外科医に相談していれば、緊急手術が実施され、脳ヘルニア、脳梗塞及び脳梗塞により生じる後遺障害を回避することができた高度の蓋然性があると認められる。 4 争点⑶(損害)について⑴ 以上によると、損害額については、次のとおり認めるのが相当である。 ア治療関連費(ア) 医療費 254万0932円亡Cに高度意識障害、四肢麻痺といった後遺障害が残存したことにより、彦根市立病院の通院費用として6590円(甲C6-1~18)、彦根市立病院の入院費用として68万1112円(C7-1~7)、彦根中央病 院の入院費用として185万3230円(C8-1~37)の支出を余儀なくされたのであり、いずれも被告医師らによる上記注意義務違反と相当因果関係にある損害と認められる。なお、障害固定日は令和元年9月1日であるが(甲A2)、障害固定時に高度意識障害、四肢麻痺といった後遺障害がみられ、亡Cは令和4年5月3日の死亡に至るまで寝たきりの状態で 入院生活を余儀なくされたところ、後遺障害の内容・程度からすると入院 治療は必要かつ相当であったことから、障害固 害がみられ、亡Cは令和4年5月3日の死亡に至るまで寝たきりの状態で 入院生活を余儀なくされたところ、後遺障害の内容・程度からすると入院 治療は必要かつ相当であったことから、障害固定後の治療費についても被告医師らによる上記注意義務違反と相当因果関係にある損害と認められる。 (イ) 入院雑費 18万6000円入院雑費は、1日あたり1500円が相当である(介護用品費用は別に 判断)。そして、亡Cが彦根市立病院に入院したのは令和元年5月1日であり、障害固定日である同年9月1日までの入院期間は124日間であるから、入院雑費は、次の計算式のとおり、合計18万6000円である。 1500円×124日=18万6000円イ亡Cの交通費 4万1030円 亡Cは障害固定時に高度意識障害、四肢麻痺といった後遺障害が残存し、死亡するまで寝たきりの状態であり、障害固定日後も自力で移動することは困難だったといえるから、令和3年7月13日に彦根中央病院から滋賀医科大学医学部附属病院に転院する際に要した交通費3万6450円(基本料金3万1370円+ETC料金1580円+ストレッチャー利用代3500 円)(甲C10の1)及び令和3年8月13日に滋賀医科大学医学部附属病院から彦根中央病院に転院する際に要した交通費4580円(運賃料金3000円+高速道路通行料金1580円)(甲C10の2、10の3)は、必要かつ相当なものと認める。 ウ原告らの付添見舞いの交通費 10万6720円 証拠(甲A1、6~8、乙A1)及び弁論の全趣旨によれば、本件病院では24時間看護態勢がとられていることが窺われ、亡Cについて付添を医師から指示されたような事情を認めるに足りないし、介護用品の費用として考慮するものの中には親族の負 弁論の全趣旨によれば、本件病院では24時間看護態勢がとられていることが窺われ、亡Cについて付添を医師から指示されたような事情を認めるに足りないし、介護用品の費用として考慮するものの中には親族の負担を軽減する介護用品も含まれている(甲C19、20)。もっとも、5月1日に緊急手術を受けた亡Cの上記症状や、原告らに 対する本件病院からの説明の状況を総合すると、原告らそれぞれ20日間の 往復交通費の限度で必要かつ相当なものと認める(ア) 原告B 10万4140円原告B宅~病院(62.9km)20日分(15円/km×62.9km+1660円(高速))×2(往復)×20日 (イ) 原告A 2580円原告A宅~病院(4.3km)20日分(15円/km×4.3km)×2(往復)×20日エ介護用品購入費用 153万7156円 亡Cに高度意識障害、四肢麻痺といった後遺障害が残存したことにより、原告らは、介護用品費用の支出を余儀なくされたものと認められるが、5月1日以降の亡Cの症状の推移や後遺障害の程度にかんがみると、滋賀医科大学(甲A10)において上行結腸癌の手術を行った際のもの(甲C14、15、24)を除き必要かつ相当な損害と認める。 甲C11-1~6、C12-1~31、C13-1~24の合計は153万7156円である。 オ休業損害 40万5800円亡Cは、本件診察当時、夫である原告Aと同居する77歳の専業主婦であり、家事を行っていたこと(甲A4、原告B3~4頁)を踏まえれば、亡C の基礎収入は日額8116円(平成30年賃金センサス女性学歴計70歳~の平均賃金296万2200円÷365日)と認めるのが相当である。 そして、亡Cは、不法行為の日である平成31年 亡C の基礎収入は日額8116円(平成30年賃金センサス女性学歴計70歳~の平均賃金296万2200円÷365日)と認めるのが相当である。 そして、亡Cは、不法行為の日である平成31年4月30日から障害固定日である令和1年9月1日までの間(125日間)、家事労働をすることができなかったことが認められるものの、原告が主張する手術が行われていた 場合にも入通院や自宅等での安静療養を要すると考えられることから、上記 期間の4割に限り不法行為と相当因果関係のある損害と認める。 8116円×125日×0.4=40万5800円カ逸失利益 897万6355円前掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、亡Cは、昭和16年8月29日生まれで、障害固定時78歳であることが認められ、その平均余命は約13年 であるから、原告らが主張する労働能力喪失期間5年間(ライプニッツ係数4.3295)は相当である。また、亡Cの後遺障害等級は1級に相当し、障害固定後、労働能力を100パーセント喪失したということができる。そして、基礎収入は、上記オのとおり296万2200円(平成30年賃金センサス女性学歴計70歳~の平均賃金)とすると、亡Cの後遺障害による逸 失利益は、次の計算式のとおり、1282万3364円となる。 296万2200円(平均賃金)×4.329(ライプニッツ)=1282万3364円原告の主張する額は、上記の金額より少額であることから、原告の主張する897万6355円を採用する。 キ慰謝料 2900万0000円(ア) 入院慰謝料 100万0000円亡Cの入院期間(彦根市立病院への入院日である令和元年5月1日から障害固定日である同年9月1日までの約4か月)、亡Cの症状の程度 000円(ア) 入院慰謝料 100万0000円亡Cの入院期間(彦根市立病院への入院日である令和元年5月1日から障害固定日である同年9月1日までの約4か月)、亡Cの症状の程度、治療内容等のほか、原告らが主張する手術を行った場合にも一定の入通院等 の負担が生じたと考えられることを考慮し、入院慰謝料は100万0000円とするのが相当である。 (イ) 後遺症慰謝料 2800万0000円亡Cには後遺障害等級1級相当の後遺障害が残存し、死亡するまで寝たきりの状態を余儀なくされたこと等本件にあらわれた事情を考慮すると、 これに対する後遺症慰謝料としては2800万0000円を認めるが相 当である。 ク文書費用及びカルテ開示費用 4万0750円原告らは、彦根市立病院における文書料として5460円(甲C7-5、16)、彦根市立病院におけるカルテ開示費用として1万9890円(甲C17)、彦根中央病院における文書料として1万5400円(甲C8-12、 C8-18、C8-37)、滋賀医科大学医学部附属病院における文書料として5500円(C9-2)の支出しているところ、5月1日以降の亡Cの症状の推移や後遺障害の程度にかんがみると、滋賀医科大学における文書料を除き必要かつ相当な損害と認める。 ケア~クの合計及び原告ら各自の相続額 上記ア~カの損害額合計は、4283万4743円となる。 原告A及び原告Bは、亡C死亡に伴って上記亡Cが有する損害賠償請求権を2分の1ずつ相続した。 上記相続により、原告Aは2141万7372円、原告Bは2141万7371円の損害賠償請求権を有する(1円未満の端数は原告Aに取得させ た)。 コ原告ら固有の慰謝料前記のとおりの 相続により、原告Aは2141万7372円、原告Bは2141万7371円の損害賠償請求権を有する(1円未満の端数は原告Aに取得させ た)。 コ原告ら固有の慰謝料前記のとおりの後遺障害に至った経緯、後遺障害の程度、介護状況、亡Cとの関係等にかんがみれば、原告A及び原告Bは、亡Cが亡くなった場合と同視し得る程度の苦痛を受けたというべきである。そこで原告Aの精神的苦 痛に対する慰謝料は200万円、原告Bの精神的苦痛に対する慰謝料は100万円と認めるのが相当である。 サケ、コの合計原告A 2341万7372円原告B 2241万7371円 シ弁護士費用 本件事案の内容、経過、原告らについて認められるその他の損害額、原告の主張の趣旨等の諸般の事情に照らすと、弁護士費用の額は、原告Aについて234万0000円、原告Bについて224万0000円とするのが相当である。 スサ、シの合計 原告A 2575万7372円原告B 2465万7371円第4 結論以上によれば、原告らの請求は主文掲記の限度で理由があるから、その限度で認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 大津地方裁判所民事部 裁判長裁判官池田聡介 裁判官脇田奈央 裁判官中村隼太
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