平成26(行コ)10003 特許料納付書却下処分取消請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成26年7月16日 知的財産高等裁判所 4部 判決 控訴棄却 東京地方裁判所 平成25(行ウ)467
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平成26年7月16日判決言渡同日原本受領裁判所書記官平成26年(行コ)第10003号特許料納付書却下処分取消請求控訴事件原審・東京地方裁判所平成25年(行ウ)第467号(甲事件),平成25年(行ウ)第468号(乙事件),平成25年(行ウ)第469号(丙事件)口頭弁論終結日平成26年6月25日判決控訴人独立行政法人理化学研究所訴訟代理人弁護士宮嶋学同髙田泰彦同柏延之同大野浩之被控訴人国処分行政庁特許庁長官指定代理人中野康典同山田明徳同駒利徳同平川千鶴子同古閑裕人 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 特許番号第3421184号の特許権に係る第9年分特許料納付書について,特許庁長官がした平成24年5月21日付け手続却下処分を取り消す。 3 特許番号第3421193号の特許権に係る第9年分特許料納付書について,特許庁長官がした平成24年5月21日付け手続却下処分を取り消す。 5月21日付け手続却下処分を取り消す。 3 特許番号第3421193号の特許権に係る第9年分特許料納付書について,特許庁長官がした平成24年5月21日付け手続却下処分を取り消す。 4 特許番号第3421194号の特許権に係る第9年分特許料納付書について,特許庁長官がした平成24年5月21日付け手続却下処分を取り消す。 第2 事案の概要本判決の略称は,原判決に従う。 1 本件は,控訴人が,特許第3421184号(甲事件),特許第3421193号(乙事件),特許第3421194号(丙事件)の各特許権(本件各特許権)を有しており,いずれも第8年分までの特許料が支払われていたが,それらの第9年分の特許料を追納することができる期間は平成23年10月18日までであったところ,控訴人は,代理人弁理士を通じ,追納期間を経過した同年11月21日付けで,特許庁長官に対し,本件各特許権につき,それぞれ第9年分の特許料及び割増特許料を納付する旨の特許料納付書(本件各納付書)を提出したが,平成24年5月21日付けで,それぞれにつき手続却下の処分(本件各処分)を受けたため,同年7月30日,特許庁長官に対し,本件各処分について,それぞれ異議申立てをしたものの,平成25年1月29日付けで,異議申立てがそれぞれ棄却されたことから,被控訴人に対し,本件各処分の取消しを求める事案である。 原判決は,本件各特許権に係る第9年分の特許料等を追納期間内に納付することができなかったことについて,控訴人に,平成23年法律第63号による改正前の特許法(改正前特許法)112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」があったと認めることはできないから,特許庁長官が本件各納付書を却下する旨の本件各処分をしたことについて,これを取り消すべき 前特許法)112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」があったと認めることはできないから,特許庁長官が本件各納付書を却下する旨の本件各処分をしたことについて,これを取り消すべき違法はないとして,控訴人の請求をいずれも棄却したことから,控訴人が,これを不服として控訴したものである。 2 前提となる事実 原判決の「事実及び理由」の第2の2記載のとおりであるから,これを引用する。 3 争点原判決の「事実及び理由」の第2の3記載のとおりであるから,これを引用する。 第3 争点に関する当事者の主張次のとおり,当審における当事者の主張を付加するほか,原判決の「事実及び理由」の第3記載のとおりであるから,これを引用する。 〔当審における控訴人の主張〕 1 原判決は,改正前特許法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」の意義について,「通常の注意力を有する当事者が通常期待される注意を尽くしてもなお避けることができないと認められる事由により追納期間内に納付できなかった場合」であるとし,その理由として,同条項の定める要件は,拒絶査定不服審判(特許法121条2項)や再審の請求期間(同法173条2項)を徒過した場合の救済条件や他の法律との整合性を考慮するとともに,そもそも特許権の管理は特許権者の自己責任の下で行われるべきものであり,失効した特許権の回復を無制限に認めると第三者に過大な監視負担をかけることとなることを踏まえて立法されたものと認められることを挙げる。 しかし,拒絶査定不服審判の請求期間に係る特許法121条2項及び再審の請求期間に係る同法173条2項では,改正前特許法112条の2第1項と同じ「その責めに帰することができない理由」との文言が使用されているが,前者については,特許 間に係る特許法121条2項及び再審の請求期間に係る同法173条2項では,改正前特許法112条の2第1項と同じ「その責めに帰することができない理由」との文言が使用されているが,前者については,特許要件を欠くものとして拒絶査定がされた場合に適用される条項であるため,既に特許として保護するに値することが確立している特許権の回復に係る改正前特許法112条の2第1項の適用場面に比べ,第三者の監視負担等を考慮して拒絶査定不服審判の請求期間を厳格に制限す ることはやむを得ない。後者についても,特許要件を欠く旨を判断する拒絶審決,無効審決がされた場合は,拒絶査定不服審判の請求期間が厳しく制限されてもやむを得ないことと同様の理由で,再審の請求期間が厳しく制限されてもやむを得ず,特許権を維持すべき旨の審決がされた場合は,再審の請求期間が制限されても,特許されるべき価値ある発明の保護に資することになるので,特許法の法目的(特許法第1条)にもとることはない。一方,改正前特許法112条の2第1項が適用される場合は,問題となる特許権の有効性自体には何ら疑義が生じていない場合であり,改正前特許法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」を厳格に解しすぎると,保護に値する発明に対する保護が不当に失われ,特許法の法目的にもとることになる。 したがって,特許法の法目的に鑑みれば,改正前特許法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」を厳格に解しすぎるべきではなく,「相当の注意が払われたにもかかわらず,特許料の追納期間が経過するまでに特許料を納付することができなかった場合」を意味するものと解するべきである。 そして,このように解しても,長期にわたり特許権の回復が認められる可能性が残ることによって第三者に過度の監視負 るまでに特許料を納付することができなかった場合」を意味するものと解するべきである。 そして,このように解しても,長期にわたり特許権の回復が認められる可能性が残ることによって第三者に過度の監視負担を負わせるといった弊害が生じないように,改正前特許法112条の2は,同条の下で特許権の追納が認められる期間を「(特許料の追納)期間の経過後六月以内」に限定しており,また特許法112条の3により回復した特許権の効力を制限しているので,不当な結果を生じることもない。 上記解釈に基づけば,本件各特許権に係る第9年分の特許料等を追納期間内に納付することができなかったことについて,控訴人に,改正前特許法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」があったことは明らかである。 2 本件特許事務所においては,権利継続指示の回答情報のデータ入力により納付手続の当日に出力される送付状及び請求書等と手続原因書である年金納付回答書との事務担当者による突合せ作業,当該事務担当者の上司に当たる職員による二重の確認,回答情報のデータ入力がされていないときにシステムから出力される注意喚起の警告,特許料等納付手続がされていない場合には依頼人に送付状及び請求書等が送付されないことにより各依頼人が特許料納付の有無を確認できるシステムといった幾重ものチェック体制が設けられている。しかし,控訴人が本件各特許権に係る第9年分の特許料等を追納期間内に納付することができなかったのは,本件納付指示書を受領した平成23年3月17日が折しも東日本大震災の6日後(4営業日後)であり,大震災の揺れ自体が引き起こした混乱に加え,直後の福島第一原子力発電所の事故による放射能被爆の恐れ,水道水の放射能汚染,計画停電,交通機関の麻痺等,尋常ではない物理的・心理的執務環境 日後)であり,大震災の揺れ自体が引き起こした混乱に加え,直後の福島第一原子力発電所の事故による放射能被爆の恐れ,水道水の放射能汚染,計画停電,交通機関の麻痺等,尋常ではない物理的・心理的執務環境下にあったことから,通常であれば機能する幾重ものチェック体制が機能しなかったためである。本件特許事務所は,控訴人を含め,多数の特許権者から多数の特許料納付手続の依頼を受けているが,上記の幾重ものチェック体制が十分に機能していたものであり,本件各特許権に係る第9年分の特許料等を追納期間内に納付することができなかったのは,極めて特殊な要因,すなわち,未曾有の災害である東日本大震災及び福島第一原子力発電所の事故等に起因する尋常ではない物理的・心理的執務環境下にあったことに原因があったと考えるほかない。 したがって,たとえ改正前特許法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」の意義を,原判決が判示するように「通常の注意力を有する当事者が通常期待される注意を尽くしてもなお避けることができないと認められる事由により追納期間内に納付できなかった場合」と解釈するとしても,本件各特許権に係る第9年分の特許料等を追納期間内に納付することができなかったことについて,控訴人に,改正前特許法112条の 2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」があったことは明らかである。 〔当審における控訴人の主張に対する被控訴人の主張〕 1 控訴人は,改正前特許法112条の2第1項が適用される場面は,問題となる特許権の有効性自体には何ら疑義が生じていない場合であるから,同項の「その責めに帰することができない理由」とは,「相当の注意が払われたにもかかわらず,特許料の追納期間が経過するまでに特許料を納付することができなかった場合」を意 が生じていない場合であるから,同項の「その責めに帰することができない理由」とは,「相当の注意が払われたにもかかわらず,特許料の追納期間が経過するまでに特許料を納付することができなかった場合」を意味するものと解すべきである旨主張する。 しかし,控訴人の上記主張の趣旨は,結局,「通常の注意力を有する当事者が通常期待される注意」に満たない注意で足りるとするものであるが,そのような注意しか払われていなかったにもかかわらず,これを「その責めに帰することができない理由」に当たるとすることは文理に合致しない。そして,改正前特許法112条の2は,納付すべきであった特許料等を追納することを条件に特許権の回復を認めるものであるが,その要件として「その責めに帰することができない理由」を規定しているのは,既に特許法上設けられている拒絶査定不服審判や再審の請求期間を徒過した場合の救済の条件や他の法律との整合性を考慮するとともに,そもそも特許権の管理は特許権者の自己責任の下で行われるべきものであること,失効した特許権の回復を無期限に認めると第三者に過大な監視負担をかけることを考慮したことによるものである。そうすると,当該特許権の特許としての有効性自体に疑義がなかったとしても,そのことから直ちに,改正前特許法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」の意義を緩やかに解さなければならないとはいえず,むしろ,他の制度との整合性,第三者の監視負担,同条が特許法112条1項による救済の更なる救済という例外的な規定であること等に鑑みれば,「その責めに帰することができない理由」は厳格に解さなければならない。 したがって,改正前特許法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」の意義については,原判決の判示するとおり, ることができない理由」は厳格に解さなければならない。 したがって,改正前特許法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」の意義については,原判決の判示するとおり,「通常の注意力を有する当事者が通常期待される注意を尽くしてもなお避けることができないと認められる事由により追納期間内に納付できなかった場合」をいうものと解するのが相当である。 2 控訴人は,たとえ改正前特許法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」の意義を「通常の注意力を有する当事者が通常期待される注意を尽くしてもなお避けることができないと認められる事由により追納期間内に納付できなかった場合」と解釈するとしても,本件各特許権に係る第9年分の特許料等を追納期間内に納付することができなかったのは,東日本大震災及び福島第一原子力発電所の事故等に起因する尋常ではない物理的・心理的執務環境下にあったことから,通常であれば機能する幾重ものチェック体制が機能しなかったためであり,改正前特許法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」があると主張する。 しかしながら,本件特許事務所においては,本件管理システムへのデータ誤入力を回避するための確認がされておらず,また,本件納付指示書の適切な管理がされていなかったのであるから,「通常の注意力を有する当事者が通常期待される注意を尽くしてもなお避けることができないと認められる事由により追納期間内に納付できなかった場合」とはいえず,改正前特許法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」があるとは認められない。 第4 当裁判所の判断当裁判所も,控訴人の本訴請求は,いずれも理由がなく,これを棄却すべきものと判断する。その理由は,次のとおり,付加,訂 に帰することができない理由」があるとは認められない。 第4 当裁判所の判断当裁判所も,控訴人の本訴請求は,いずれも理由がなく,これを棄却すべきものと判断する。その理由は,次のとおり,付加,訂正等し,当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」の第4の1ないし5のとおりであるから,これを引用する。 1 原判決の付加・訂正等原判決21頁19行目の「無制限に」とあるのを,「無期限に」に改める。 原判決23頁14行目の「納付の報告をすることとなる。」の後に,以下を挿入する。 「さらに,当該納付書データに基づいて自動的に作成される特許料納付リスト及び当該リストに係る年金納付回答書を,データ入力担当者の上司に提出し,当該上司が,当該リストと年金納付回答書との突合せ作業をすることによって,最終的な点検を行っていた。」原判決25頁9行目から10行目にかけての「本件納付指示書との上記担当上司による最終確認作業である突合せ作業もされなかった。」を,以下のとおり改める。 「データ入力担当者による本件納付指示書との突合せ作業による確認も,さらには上記担当上司による特許料納付リストと本件納付指示書との突合せ作業による最終点検も行われなかった。」原判決27頁16行目の「当たるということはできない。」の後に,以下を挿入する。 「なお,本件特許事務所は,控訴人から本件各特許権に係る第9年分の特許料の納付について委託を受けた者であるが,控訴人自らの判断に基づき,本件特許事務所に委託して特許料の納付を行わせることとした以上,委託を受けた本件特許事務所にその責めに帰することができない理由があるといえない状況の下で追納期間を徒過した場合には,控訴人に改正前特許法112条の2第1項所定の「その責め 行わせることとした以上,委託を受けた本件特許事務所にその責めに帰することができない理由があるといえない状況の下で追納期間を徒過した場合には,控訴人に改正前特許法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」があるということはできない(最高裁判所昭和33年9月30日第三小法廷判決・民集12巻13号2029頁参照)。」 2 当審における控訴人の主張について控訴人は,拒絶査定不服審判の請求期間に係る特許法121条2項及び再 審の請求期間に係る同法173条2項では,改正前特許法112条の2第1項と同じ「その責めに帰することができない理由」との文言が使用されているが,改正前特許法112条の2第1項が適用される場合は,上記二つの場合と異なり,問題となる特許権の有効性自体には何ら疑義が生じていない場合であって,改正前特許法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」を厳格に解しすぎると,保護に値する発明に対する保護が不当に失われ,特許法の目的にもとることから,改正前特許法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」とは,「相当の注意が払われたにもかかわらず,特許料の追納期間が経過するまでに特許料を納付することができなかった場合」を意味するものと解するべきであること,そのように解しても,長期にわたり特許権の回復が認められる可能性が残ることによって第三者に過度の監視負担を負わせるといった弊害が生じないように,改正前特許法112条の2は,同条の下で特許料の追納が認められる期間を「(特許料の追納)期間の経過後六月以内」に限定しており,また特許法112条の3により回復した特許権の効力を制限しているので,不当な結果を生じることもない旨主張する。 しかし,前記において引用する原判決の「事実 期間の経過後六月以内」に限定しており,また特許法112条の3により回復した特許権の効力を制限しているので,不当な結果を生じることもない旨主張する。 しかし,前記において引用する原判決の「事実及び理由」の第4の1のとおり,改正前特許法112条の2は追納期間が経過した後の特許料納付により特許権の回復を認めることとした規定であり,同条1項の定める要件は,拒絶査定不服審判(特許法121条2項)や再審の請求期間(同法173条2項)を徒過した場合の救済条件や他の法律との整合性を考慮するとともに,そもそも特許権の管理は特許権者の自己責任の下で行われるべきものであり,失効した特許権の回復を無期限に認めると第三者に過大な監視負担をかけることとなることを踏まえて立法されたものである。 そうすると,改正前特許法112条の2第1項が適用される場合が,追納期間が経過した特許権の有効性自体には何ら疑義が生じていない場合であ るとしても,そのことは,拒絶査定不服審判及び再審の請求期間に係る上記各法条と同一の文言をもって規定された「その責めに帰することができない理由」との要件を,当該文言が通常有する意味から乖離して,改正前特許法112条の2第1項の場合のみ,これを「相当の注意」が払われたにもかかわらず法定期間を遵守できなかった場合を意味するというように別異に解すべき根拠となるものではない。また,発明の保護及び利用を図ることにより,発明を奨励し,もって産業の発達に寄与するとの特許法の目的(特許法1条)は,それだけでは,控訴人の主張する解釈を採用すべき根拠となるものではない。 そして,改正前特許法112条の2が,同条の下で特許料の追納が認められる期間を「(特許料の追納)期間の経過後六月以内」に限定したのは,失効した特許権の回復を無期限に認め 拠となるものではない。 そして,改正前特許法112条の2が,同条の下で特許料の追納が認められる期間を「(特許料の追納)期間の経過後六月以内」に限定したのは,失効した特許権の回復を無期限に認めると第三者に過大な監視負担をかけることとなることを考慮したものと解されるが,改正前特許法112条の2が上記の特許権回復の期間制限の要件とは別に,「その責めに帰することができない理由」との要件を定めている以上,かかる特許権回復の期間制限の規定が設けられているからといって,そのことは,改正前特許法112条の2の「その責めに帰することができない理由」との要件を,当該文言が通常有する意味から乖離して緩やかに解すべきことを正当化する理由となるものではない。また,特許法112条の3が,同法112条1項の追納期間の経過後特許権の回復の登録前における第三者の一定の行為について特許権の効力が及ばないこととしたのは,同法112条の2第1項の規定に基づき特許料等が追納されたときは,一旦失効した特許権が納付期間の経過の時に遡って回復することとなるが,この場合に,特許権が消滅した後に特許発明の実施をしていた第三者にまで遡及的に特許権の効力を及ぼすことは妥当でないことを考慮したものであり,かかる回復した特許権の効力を制限する規定が設けられているからといって,そのことは,改正 前特許法112条の2の「その責めに帰することができない理由」との要件を,当該文言が通常有する意味から乖離して緩やかに解すべきことを正当化する理由となるものではない。 したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。 控訴人は,本件特許事務所においては,権利継続指示の回答情報のデータ入力により納付手続の当日に出力される送付状及び請求書等と手続原因書である年金納付回答書との事務 主張は採用することができない。 控訴人は,本件特許事務所においては,権利継続指示の回答情報のデータ入力により納付手続の当日に出力される送付状及び請求書等と手続原因書である年金納付回答書との事務担当者による突合せ作業等の幾重ものチェック体制が設けられているが,控訴人が本件各特許権に係る第9年分の特許料等を追納期間内に納付することができなかったのは,本件納付指示書を受領した平成23年3月17日が折しも東日本大震災の6日後(4営業日後)であり,大震災の揺れ自体が引き起こした混乱に加え,直後の福島第一原子力発電所の事故による放射能被爆の恐れ,水道水の放射能汚染,計画停電,交通機関の麻痺等,尋常ではない物理的・心理的執務環境下にあったため,通常であれば機能する幾重ものチェック体制が機能しなかったことに原因があったのであるから,たとえ改正前特許法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」の意義を,「通常の注意力を有する当事者が通常期待される注意を尽くしてもなお避けることができないと認められる事由により追納期間内に納付できなかった場合」と解釈するとしても,本件各特許権に係る第9年分の特許料等を追納期間内に納付することができなかったことについて,控訴人に,改正前特許法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」があったことは明らかである旨主張する。 しかし,前記において引用する原判決の「事実及び理由」の第4の2及び3のとおり,本件各特許権の第9年分の特許料等が不納付となったのは,本件特許事務所において,本件各特許権の特許料の納付期限のデータ入力が適切でなかったことに加え,本件納付指示書自体が他の書類と紛れてし まって適切な管理がされなかったという,本件特許事務所における手続上の単純な人的な 特許権の特許料の納付期限のデータ入力が適切でなかったことに加え,本件納付指示書自体が他の書類と紛れてし まって適切な管理がされなかったという,本件特許事務所における手続上の単純な人的な過誤によるものといわざるを得ない。 そして,控訴人の上記主張に係る大震災の揺れ自体が引き起こした混乱,直後の福島第一原子力発電所の事故による放射能被爆の恐れ,水道水の放射能汚染,計画停電,交通機関の麻痺等による尋常ではない物理的・心理的執務環境というものについては,これら事象が控訴人の本件納付指示書に基づく本件各特許権の特許料納付の指示に対する応答処理において,具体的にどのような物理的又は心理的な支障ないし影響があったがために,上記の本件特許事務所における手続上の人的な過誤が生じざるを得なかったのかについて,控訴人からは何ら具体的な主張立証はない。 すなわち,本件納付指示書と特許料領収書の送付状及び納付報告を兼ねた請求書又は特許料納付リストとのデータ入力担当者や上司の職員による突合せ作業がされなかった経緯・理由等,控訴人の主張によれば,通常であれば機能する幾重ものチェック体制が機能しなかったとする本件特許事務所の本件納付手続の事務処理の具体的な状況や,これが東日本大震災及び福島第一原子力発電所の事故等に起因する具体的にいかなる物理的又は心理的な支障ないし影響によるものかが何ら明らかにされていない。 したがって,控訴人からは,本件各特許権の特許料等の納付ができなかったことが,通常の注意力を有する当事者が通常期待される注意を尽くしてもなお避けることができないと認められる事由によるものであることを基礎付ける具体的事実についての主張立証がないといわざるを得ない。かえって控訴人の主張によれば,特許料等納付手続がされていない場合には,依 避けることができないと認められる事由によるものであることを基礎付ける具体的事実についての主張立証がないといわざるを得ない。かえって控訴人の主張によれば,特許料等納付手続がされていない場合には,依頼人に対して,納付手続当日に出力される特許料領収書の送付状及び請求書等が送付されないことにより各依頼人が特許料納付の有無を確認できるシステムであったというのであるから,本件においては,依頼人である控訴人が,本件特許事務所から特許料領収書の送付状及び請求書等が送付 されないことについて,本件各特許権の特許料が納付されているか否かを確認することを怠ったという控訴人本人の落ち度も認められるところである。 そうすると,控訴人の主張立証に係る前記事情のみでは,通常の注意力を有する当事者が通常期待される注意を尽くしてもなお避けることができないと認められる事由により本件各特許権の特許料等を追納期間内に納付できなかったものと認めることはできず,控訴人の上記主張は採用することができない。 3 結論以上によれば,控訴人の本訴請求はいずれも理由がないから,これを棄却した原判決は相当である。よって,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第4部 裁判長裁判官富田善範 裁判官田中芳樹 裁判官柵木澄子

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