要旨: 地方税滞納者が「納付誓約書」を作成した後,滞納地方税の一部を納付した場合には,その時点で納付誓約書に記載された租税債権をも承認したものとしてその消滅時効は中断する。 平成14年5月7日判決言渡奈良地方裁判所葛城支部平成12年(ワ)第390号配当異議事件判決 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求奈良地方裁判所葛城支部が同裁判所平成12年(ケ)第49号不動産競売事件につき作成した,平成12年12月1日付別紙配当表(=省略)の被告に対する配当額1478万7492円とあるを0円と,原告に対する配当額0円とあるを1478万7492円とそれぞれ変更する。 第2 事案の概要本件は,不動産競売事件の配当表が地方公共団体の地方税の時効消滅を看過して作成されたものであるとして,配当表の変更を求めた配当異議の事案である。 1 争いのない事実等(1) 奈良地方裁判所葛城支部は,同裁判所平成12年(ケ)第49号不動産競売事件(以下「本件競売事件」という。)につき,平成12年12月1日,別紙配当表(=省略)(以下「本件配当表」という。)を作成した。 なお,本件競売事件は,AことB(以下「B」という。)所有にかかる,別紙物件目録1,2記載(=省略)の土地建物(以下「本件土地建物」という。)を対象とするものである。 (2) 原告は,本件競売事件の配当期日の平成12年12月1日午前11時において,本件配当表全部に異議を申し出た。 (3) 原告は,本件配当表記載のとおり,本件土地建物につき昭和62年5月1日付抵当権を設定しており,その被担保債権として,合計1628万2513円 時において,本件配当表全部に異議を申し出た。 (3) 原告は,本件配当表記載のとおり,本件土地建物につき昭和62年5月1日付抵当権を設定しており,その被担保債権として,合計1628万2513円の債権を有している。 (4) 被告は,Bに対し,別紙「滞納内訳」記載のとおりの昭和55年度から昭和61年度までの住民税,固定資産税及び国民健康保険税の債権(以下「本件租税債権」という。)を有している。 (5) 被告は,昭和60年2月5日,奈良地方裁判所葛城支部昭和59年(ケ)第157号事件について,Bに対する本件租税債権の一部を含む,昭和53年度から昭和59年度までの軽自動車税,国民健康保険税,固定資産税,町県民税及び滞納処分費を交付要求した。 なお,上記事件は,昭和62年2月14日に取り下げられた。 (6) 被告は,平成元年1月31日,奈良地方裁判所葛城支部昭和63年(ヌ)第36号事件について,Bに対する本件租税債権を含む,昭和55年度から昭和63年度までの軽自動車税,国民健康保険税,固定資産税,町県民税及び滞納処分費を交付要求した。 なお,上記事件は,平成元年2月1日に取り下げられた。 (7) 被告は,平成12年7月18日,本件競売事件について,Bに対する本件租税債権を含む,昭和55年度から平成12年度までの軽自動車税,国民健康保険税,固定資産税,住民税及び滞納処分費を交付要求した。 (8) Bは,平成2年7月27日から平成6年1月24日にかけて,被告に対する滞納税のうち,本件租税債権以外の滞納税を別紙「町税納付経過表」記載のとおり,納付(以下「本件一部納付行為」という。)した(なお,被告作成の町税納付経過表のうち,「平成5年11月17日」とあるのは「平成5年12月17日」の誤記と認める。)。 2 争点(本件租税債権の時効 ,納付(以下「本件一部納付行為」という。)した(なお,被告作成の町税納付経過表のうち,「平成5年11月17日」とあるのは「平成5年12月17日」の誤記と認める。)。 2 争点(本件租税債権の時効消滅の有無)に関する当事者双方の主張の要旨(1) 原告の主張ア上記「争いのない事実等(6)」記載の事件が取り下げられた平成元年2月1日の翌日から5年間が経過した,平成6年2月1日の経過により,本件租税債権は時効消滅した(地方税法18条1項)。 イそもそも,本件一部納付行為は,本件租税債権自体の一部の納付行為ではないし,本件租税債権と税目・年度も異なっているのであるから,本件一部納付行為の際,本件租税債権の存在を知っていたとしても,弁済の趣旨が本件租税債権を含む全債務を承認するものであることが明らかであるとはいえないから,本件租税債権の承認にはあたらない。 ウ昭和62年6月26日付のBの納付誓約書は,その筆跡からしても,被告職員が偽造したものである。 エ毎年のようにあるいは窓口納付の際に,Bに対し,未納明細書等を交付ないし送付したことを認めるに足りる証拠はないし,窓口納付がB本人によるものか不明であるし,納付の際に未納明細書を交付するとしても,その時期は納付の手続が終わった後であるから,Bが未納明細書等により本件租税債権全体を認識していたとはいえない。 (2) 被告の主張ア債務の一部弁済については,「債務の一部弁済は債務の承認を表白するもの」であるから,時効中断の効力が認められるし(大審院大正8年12月26日判決・民録25巻2429頁),「同一当事者間に数個の消費貸借上の元本債務存在する場合に債務者が単に元本債務の弁済として全債務を完済するに足らざる額の弁済をなしたる事実あるときは特別なる事情の見るべきものなき限り債務者 29頁),「同一当事者間に数個の消費貸借上の元本債務存在する場合に債務者が単に元本債務の弁済として全債務を完済するに足らざる額の弁済をなしたる事実あるときは特別なる事情の見るべきものなき限り債務者は其数個の債務の存在を承認し弁済の提供を為し足るものと認定し得る」(大審院昭和13年6月25日判決・判決全集5・14・4)。 本件のような場合も,滞納者が滞納町税の全額を認識した上で,滞納税額の一部を納付した場合は,滞納町税の残額全体について債務承認をしたことになるものと解するべきである。 イ Bは,本件一部納付行為のうち,窓口納付の際(少なくとも,平成2年7月27日,平成4年8月27日,平成5年11月30日,平成5年12月17日,平成6年1月24日の納付は被告町役場税務課の窓口における納付である。)には納付当日に未納明細書を受領している。のみならず,Bは,昭和62年6月26日付の納付誓約書を作成したのを始めとして,それ以前や以後にも,次のとおり,再三にわたって直接交付ないし送付された未納明細書等(納税催告書,町税滞納明細書,町税課税未納明細書)により繰り返し督促を受けていて,本件租税債権の全体を十分認識していたのであるから,本件一部納付行為によって,本件租税債権を承認したものである。従って,本件一部納付行為によって,本件租税債権の時効は中断している。 ① 昭和58年12月7日町税課税未納明細書② 昭和61年12月18日納税催告書③ 平成元年8月10日納税催告書④ 平成2年9月20日町税滞納明細書⑤ 平成4年9月3日町税滞納明細書⑥ 平成5年9月17日納税催告書ウ昭和62年6月26日付の納付誓約書は,Bにより作成されたものである。 第3 当裁判所の判 細書⑤ 平成4年9月3日町税滞納明細書⑥ 平成5年9月17日納税催告書ウ昭和62年6月26日付の納付誓約書は,Bにより作成されたものである。 第3 当裁判所の判断 1 原告主張の時効期間の経過について地方税法18条1項によれば,本件租税債権のような地方税の徴収権は,法定納期限の翌日から起算して5年間行使しないことによって時効消滅するものである。 そうすると,本件租税債権の時効は,前記「争いのない事実等(6)」記載のとおり,被告の交付要求により一旦中断したものであるが(地方税法18条の2第1項3号),当該交付要求にかかる事件が取り下げられた平成元年2月1日の翌日から再び時効期間が進行するものであり,その満了日である平成6年2月1日が経過したことは当裁判所に顕著である。 2 被告主張の時効中断(承認)の有無について(1) 地方税の時効は,地方税法18条の2の中断事由によって中断するほか,民法の規定する中断事由(民法147条)によっても中断する(地方税法18条3項)。 税目・年度が多岐にわたる地方税を滞納している者が,そのうちの一部の税目・年度の地方税のみを納付した場合,当然には,その納付が他の滞納地方税の承認に当たるということはできないが,その納付が,その者の納付すべき滞納地方税の一部の納付であり,なお納付すべき滞納地方税の残額があることを承知している場合に限り,その一部納付にかかる地方公共団体の滞納地方税全部について承認があったものと認めるのが相当である。 ところで,実務上,地方税の滞納者がいわゆる「納付誓約書」を作成する場合がある。その内容は,当該納付誓約書に記載のある税目・年度にかかる地方税については,その作成時点で明確に支払義務を承認し,分納を約すると共に,今後の税 の滞納者がいわゆる「納付誓約書」を作成する場合がある。その内容は,当該納付誓約書に記載のある税目・年度にかかる地方税については,その作成時点で明確に支払義務を承認し,分納を約すると共に,今後の税金のついても納期限の納付を約するものである。このような納付誓約書の作成の趣旨及び体裁からすると,それ自体が当該滞納地方税の「承認」に当たることはもちろん,それ以後に当該納付誓約書に記載のない税目・年度の地方税の一部のみを納付した場合であっても,当該納付が納付誓約書作成時点から著しく長期間が経過してされたとか,当該納付の際に納付者が納付誓約書に記載のある滞納税について明確に支払拒絶の意思を表示したなどの特段の事情のない限り,当該納付誓約書に記載のある地方税の存在を承知した上で,滞納地方税全体の一部を納付したものと認めるのが相当であるから,当該納付誓約書に記載のある滞納地方税の「承認」にも当たるものと解するべきである。 (2) これを本件についてみるに,B名義の昭和62年6月26日付納付誓約書が存在するが,原告は同書面がB以外の者により作成された旨主張するので,まずその真否について検討する。 証拠によれば,Bは,被告町税務課の呼出しに応じて昭和62年6月26日に被告役場に来庁したこと,Bは,その際,被告町税務課職員と面談し,滞納税額の確認をした上,「毎月10万円ずつ月末か月初めに町職員が徴収に行く,62年度以降は年度内に支払う。」との約束をしたこと,そこで,Bは,被告町税務課職員があらかじめ,納付誓約書の用紙にBの住所(税務課で把握していた住所を記載)・氏名・電話番号を記載すると共に滞納税額の明細を記載した書面の氏名横に自ら押印して「納付誓約書」を作成したことが認められる。 上記事実によれば,B名義の昭和62年6月26日付納付誓約書は真 載)・氏名・電話番号を記載すると共に滞納税額の明細を記載した書面の氏名横に自ら押印して「納付誓約書」を作成したことが認められる。 上記事実によれば,B名義の昭和62年6月26日付納付誓約書は真正に成立したものと認めることができる。 原告は,証人Cが当公判廷において,氏名も自署したものと証言しているところ,同氏名の筆跡がB本人の筆跡と異なることから,その証言の信用性に疑問を呈し,ひいては上記納付誓約書自体が被告職員により偽造されたものであると主張している。 しかしながら,C証人は後に陳述書により,Bが氏名を自署したとする点は記憶違いであった旨公判廷の証言を訂正しているのであって,同書面の体裁自体からしても,同書面には被告町幹部職員の決裁印が押捺されていること,同書面の作成時期に被告職員がわざわざ同書面を偽造する必要性に乏しいことからすると,同書面の氏名の筆跡がBの筆跡と異なることだけを根拠に同書面が被告職員により偽造されたものということはできない。原告の上記主張は採用できない。 (3) そうすると,Bは,前記「争いのない事実等(8)」記載のとおり,上記「納付誓約書」作成後であって,原告主張の時効期間中に,数度にわたり,軽自動車税ないし国民健康保険税の一部を納付しているのであるから,他に特段の事情の認められない本件においては,その納付により納付誓約書に記載された本件租税債権をも承認したものと認められるから,本件租税債権の時効もその時点で中断したものというべきである。 従って,原告の本件租税債権の時効消滅の主張は理由がない。 3 結論以上によれば,本件租税債権が時効消滅したことを理由とする原告の本件配当表に対する異議の申し出は理由がない。 よって,主文のとおり判決する。 奈良地方裁判所葛城支部 3 結論以上によれば,本件租税債権が時効消滅したことを理由とする原告の本件配当表に対する異議の申し出は理由がない。 よって,主文のとおり判決する。 奈良地方裁判所葛城支部裁判官神山隆一・町税納付経過表① 平成2年7月27日平成元年度及び平成2年度の軽自動車税合計8000円を納付② 平成2年9月18日平成2年度の軽自動車税1200円を納付③ 平成3年3月4日平成2年度の国民健康保険税4000円を納付④ 平成3年3月20日平成2年度の国民健康保険税4000円を納付⑤ 平成3年9月5日平成3年度の軽自動車税5200円を納付⑥ 平成4年8月27日平成4年度の軽自動車税4000円を納付⑦ 平成5年11月30日平成5年度の国民健康保険税7万4200円を納付⑧ 平成5年12月17日平成5年度の国民健康保険税3万7000円を納付⑨ 平成6年1月24日平成5年度の国民健康保険税3万7000円を納付以上
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