平成27年1月28日判決言渡平成26年(行ケ)第10131号審決取消請求事件口頭弁論終結日平成26年12月18日判決 原告株式会社タイキ 訴訟代理人弁理士長谷部 善太郎同山田泰之同中村理弘 被告特許庁長官 指定代理人蓮井雅之同山口 直同松下 聡同窪田治彦同内山 進主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求特許庁が不服2012-1824号事件について平成26年4月4日にした審決を取り消す。 第2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない。)原告は,発明の名称を「化粧用チップ」とする発明について,平成22年1月18日に特許出願(特願2010-7777号。以下「本願」という。請求項の数は3である。)をしたが,平成23年10月26日付けで拒絶査定を受けたので,平成24年1月31日,これに対する不服の審判を請求するとともに,手続補正書を提出した(以下「本件補正」という。)特許庁は,この審判請求を,不服2012-1824号事件として審理し,同年10月16日,本件補正を却下した上,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「原審決」という。)をし,原審決の謄本を,同月30日,原告に送達した。 原告は,同年11月28日,知的財産高等裁判所に対し,原審決の取消しを求める訴えを提起し,同裁判所は,これを平成24年(行ケ)第10412号審決取消請求事件として審理した上,平成25年8月9日,原審決を取り消すとの判決を言い渡し,同判決は, に対し,原審決の取消しを求める訴えを提起し,同裁判所は,これを平成24年(行ケ)第10412号審決取消請求事件として審理した上,平成25年8月9日,原審決を取り消すとの判決を言い渡し,同判決は,その後,確定した。 特許庁は,不服2012-1824号事件についてさらに審理した上,平成26年4月4日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下,単に「審決」という。)をし,審決の謄本を,同月22日,原告に送達した。 原告は,同年5月22日,審決の取消しを求めて本件訴えを提起した。 2 特許請求の範囲本件補正後の本願の特許請求の範囲における請求項1の記載は次のとおりである(甲2。この請求項に係る発明を,以下「本願発明」という。また,本願の明細書を,以下「本願明細書」という。)。 【請求項1】塗布部先端の端縁部を直線状又は平面状にしてなる化粧用チップであって,支持具の一端に繊維束ではない多孔性の基材が接着又はアウトサート成形されることにより設けられた化粧用チップ。 3 審決の理由別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,実願昭60-203064号(実開平2-112211号)のマイクロフィルム(以下「引用刊行物1」という。),実願平5-55889号(実開平7-24213号)のCD-ROM(以下「引用刊行物2」という。)及び特開2003-189929号公報(以下「引用刊行物3」という。)に記載の各発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができず,本願は,他の請求項について言及するまでもなく拒絶すべきであるというものである。 審決が,上記結論を導くに当たり認定した引用刊行物1に記載の発明(以下「引用発明 定により特許を受けることができず,本願は,他の請求項について言及するまでもなく拒絶すべきであるというものである。 審決が,上記結論を導くに当たり認定した引用刊行物1に記載の発明(以下「引用発明」という。)の内容,本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。 ア引用発明の内容「塗布体の先端部を丸みをおびた形状にしてなる化粧用塗布具であって,軸の一端部に連続気泡のウレタンフォームの塗布体が設けられた化粧用塗布具。」イ一致点「塗布部先端の端縁部を有する化粧用チップであって,支持具の一端に繊維束ではない多孔性の基材が設けられた化粧用チップ。」である点。 ウ相違点相違点1化粧用チップの塗布部先端の端縁部を,本願発明では,「直線状又は平面状にしてなる」のに対し,引用発明では,丸みをおびた形状にしてなる点。 相違点2支持具の一端に基材を設けるに当たり,本願発明では,「接着又はア ウトサート成形されることにより設けられ」ているのに対し,引用発明では,「接着又はアウトサート成形されることにより設けられ」ているのか否か不明な点。 第3 原告の主張審決には,相違点1に係る本願発明の構成の容易想到性についての判断に誤りがあり,この誤りは審決の結論に影響するから,審決は取り消されるべきである。 1 引用発明の認定の誤り引用発明は,「塗布体の先端部を丸みをおびた形状にしてなる化粧用塗布具であって,軸の一端部に表皮として東洋ポリマー(株)製の商品名「ルビセル」の名で入手できる連続気泡のウレタンフォームの塗布体が設けられた,微粉末を圧縮成形などの手段により固化してなる白粉,頬紅,アイシヤドウなどの固形化粧料を皮膚などへ塗布する化粧用塗布具」と認定されるべきであり,審決による 泡のウレタンフォームの塗布体が設けられた,微粉末を圧縮成形などの手段により固化してなる白粉,頬紅,アイシヤドウなどの固形化粧料を皮膚などへ塗布する化粧用塗布具」と認定されるべきであり,審決による引用発明の認定には誤りがある。 確かに,引用刊行物1には,従来技術として,単に連続気泡のウレタンフォームよりなる化粧用塗布具が記載されている。しかし,同文献の全体を理解した当業者は,単にその従来技術のみを理解するのではなく,それを固形化粧料用として使用するには課題があり,従来技術どおりの化粧用塗布具を採用しないようにすること,その結果,同文献の実用新案登録請求の範囲に記載の固形化粧料用の化粧用塗布具とすることを理解する。 また,引用刊行物1の実用新案登録請求の範囲に記載の化粧用塗布具は,固形化粧料用として使用するときの課題を解決したものであって,それ以外の化粧料を使用することまで考慮していないことも当業者は理解できる。 そうすると,仮に,従来技術のみを引用発明として認定するとしても,併せてその化粧用塗布具が固形化粧料用であることも認定する必要があり,審決には,これを看過した点で誤りがある。 2 引用発明と引用刊行物2に記載の発明との組合せの誤り審決は,引用刊行物2に記載の発明を「筆先の先端部を略平面状にした紅筆。」(以下「引用発明2」という。)と認定した上,引用発明と引用発明2とは互いに技術分野が共通し,これらの発明を組み合わせることができる旨判断した。 しかるに,引用発明の化粧用塗布具は,微粉末を圧縮成形などの手段により固化してなる白粉,頬紅,アイシャドウなどの固形化粧料を塗布するためのものである。これに対し,引用発明2の紅筆は,エマルション型や油性型の化粧料である口紅を唇に塗布するためのものである。この により固化してなる白粉,頬紅,アイシャドウなどの固形化粧料を塗布するためのものである。これに対し,引用発明2の紅筆は,エマルション型や油性型の化粧料である口紅を唇に塗布するためのものである。このため,両者は用途を交換することができず,このような使用の対象となる化粧料の種類,形態,用途の相違を無視して,技術分野が同一であるとはいえない。よって,引用発明の化粧用塗布具に,引用発明2の紅筆の形状を組み合わせることはできない。 審決の上記判断には,引用発明の化粧用塗布具と引用発明2の紅筆の具体的な用途及びこれに基づく構造の違いを看過し,また,引用発明及び引用発明2が意図する分野を拡大解釈し,無理に上位概念化した結果,両発明の組合せが容易想到であるとした誤りがある。 3 引用発明と引用刊行物3に記載の発明との組合せの誤り審決は,引用刊行物3には「化粧の塗布具の先端が略平面状に形成されている化粧の塗布具。」(以下「引用発明3」という。)が記載されていると認定し,当業者は,これと引用発明とを組み合わせることに容易に想到し得ると判断した。 しかるに,引用刊行物3に記載の発明は,合成樹脂製の多孔質スポンジ状材料を穂先とする成形品を塗布部材としたアイシャドウチップ等を従来技術とし,この従来技術の材質では経時による変化が大きく,変色したり硬化するなどの劣化のおそれがあるという課題を解決するために,繊維束を合成樹脂で接着して塗布具本体を形成するに際し,塗布具本体の外周部の硬度が中心部の硬度よ りも高くなるよう接着するとともに,一方又は両方の端部の外周部を研削して塗布部とし,研削されない外周部を保持部としたことを特徴とする塗布具としたものである。 審決は,引用刊行物3に記載された発明のうち塗布具本体の形状のみを示して,引用発明 端部の外周部を研削して塗布部とし,研削されない外周部を保持部としたことを特徴とする塗布具としたものである。 審決は,引用刊行物3に記載された発明のうち塗布具本体の形状のみを示して,引用発明と組み合わせることに容易に想到し得るとしているが,これは,引用刊行物3に記載された事項から都合の良い部分のみを取り出して組み合わせた,いわゆる後知恵である。審決には,引用刊行物3に記載された事項からあえて塗布具本体の形状のみを取り出して,引用発明と組み合わせる動機付けは示されていない。 むしろ,引用刊行物3に接した当業者は,引用発明の化粧用塗布具を包含する従来技術の化粧用塗布具に,上記のような材質面の課題が存在すると認識でき,これを解決するために,引用刊行物3に記載の繊維束を有する構造及び形状を備えた塗布具とすべきことを理解するとともに,引用刊行物1に記載の構造を備えた化粧用塗布具を採用すべきではないことを理解する。 その結果,引用発明と引用刊行物3に記載された発明を組み合わせて想到できる化粧用塗布具は,本願発明の,支持具の一端に繊維束ではない多孔性の基材が接着又はアウトサート成形されることにより設けられた化粧用チップではない。 よって,審決の上記判断は誤りである。 4 引用発明と周知技術との組合せの誤り審決は,引用刊行物2及び3に加えて,さらに,特開平10-155542号公報,特開2005-21215号公報,特開2001-63268号公報及び特開2002-172019号公報(これらの4つの文献を併せて,以下「周知技術文献」という。)を示して,化粧用塗布具の先端の端縁部を直線状又は平面状とすることは本願の出願前に周知の技術であると判断している。 しかしながら,周知技術文献に記載された発明は,いずれも用途及び材料の いう。)を示して,化粧用塗布具の先端の端縁部を直線状又は平面状とすることは本願の出願前に周知の技術であると判断している。 しかしながら,周知技術文献に記載された発明は,いずれも用途及び材料の 点で本願発明のものとは明らかに異なることを考慮すると,引用発明2及び3と同様のものとすることはできない。そのため,これらの文献を示して上記のように周知の技術とすることは不適切である。 仮に,この事項が周知であるとしても,個別の文献に記載された事項及び事情を全く無視して示された事項にすぎず,審決の判断は,本願発明の構成となるようにあえて組み合わせた,いわゆる後知恵である。 よって,これらの周知とされる事項によっても,本願発明は,当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず,審決の上記判断は誤りである。 5 本願発明の予測できない顕著な効果本願発明は,単に細かい部分を塗布するのではなく,まぶたや二重の幅,目頭等の箇所に対して確実に意図したとおりに化粧料を塗布することができ,そのため,意図した太さで線を引くことができ,線を引く際の化粧料の伸びが良好で,より均一になめらかな線を描くことができるという効果を奏する。 このような効果は,引用発明による効果や引用刊行物2及び3に記載の効果に対して別の予測できない顕著な効果である。 第4 被告の主張 1 引用発明の認定の誤りについて審決は,引用刊行物1の従来技術に関する記載に基づいて,引用発明を認定した。 引用発明の認定に当たっては,刊行物の記載から,その技術的思想を過不足なく認定するものであるが,引用刊行物1の上記従来技術に関する記載から,ひとまとまりの技術的思想として審決の認定した引用発明を理解できることは,技術的に明らかである。表皮として特定の連 思想を過不足なく認定するものであるが,引用刊行物1の上記従来技術に関する記載から,ひとまとまりの技術的思想として審決の認定した引用発明を理解できることは,技術的に明らかである。表皮として特定の連続気泡のウレタンフォームの塗布体が設けられていることまで認定する必要はない。 そして,審決は,引用発明が,微粉末を圧縮成形などの手段により固化して なる白粉,頬紅,アイシャドウなどの固形化粧料を皮膚などへ塗布するものであることは理解した上で,容易想到性の判断を行っているから,何ら問題はない。 2 引用発明と引用発明2との組合せの誤りについて化粧用塗布具において,所望幅の線を描いたり,細かい部分を塗ったりするために,塗布部分の端縁部を直線状又は平面状にすることは,技術常識である(以下,これを「本件技術常識」という。)。 引用発明と引用発明2の紅筆とは,いずれも化粧用塗布具である点で共通の技術分野に属する。そして,引用発明は,二重の幅に面状に化粧料を塗布したり,目頭の部分など細かな部分を塗布することを想定したものであるから,所望幅の線を引いたり,細かい部分を塗布することに係る課題が内在する。 さらに,引用刊行物1に,軸の両端部に形状の異なる塗布体を設けることにより,一本の塗布具でいろいろな塗布内容に対応できるようにする点が記載されていることを踏まえれば,引用発明において,所望幅の線を引いたり,細かい部分に塗布する点に関してより好適なものとするために,本件技術常識に基づき先端部分の形状を工夫したことが明らかな引用発明2の紅筆を組み合わせる動機は,十分に認められる。 よって,審決の判断に誤りはない。 3 引用発明と引用発明3との組合せの誤りについて引用刊行物3に記載の塗布具の形状が,本件技術常識と同様の機能を み合わせる動機は,十分に認められる。 よって,審決の判断に誤りはない。 3 引用発明と引用発明3との組合せの誤りについて引用刊行物3に記載の塗布具の形状が,本件技術常識と同様の機能を希求したものであることは,技術的に明らかである。 そして,引用発明と引用発明3の塗布具は,いずれもアイシャドウの塗布を用途としており,引用発明には,所望幅の線を引いたり,細かい部分を塗布することに係る課題が内在し,引用刊行物1に,軸の両端部に形状の異なる塗布体を設けることにより,一本の化粧用塗布具でいろいろな塗布内容に対応できるようにすることが記載されていることを踏まえれば,引用発明において,所 望幅の線を描いたり,細かい部分に塗布する点に関してより好適なものとするために,先端部分の形状を工夫した引用発明3の塗布具を組み合わせる動機は十分に認められる。 原告は,引用刊行物3に触れた当業者は,引用発明の化粧用塗布具を含む従来技術の課題を解決するために,同文献に記載された構造及び形状の塗布具とするべきことに想到し,引用発明の構造を備えた化粧用塗布具を採用すべきではないことを理解すると主張する。 しかし,引用刊行物3に図示された先端形状はよく知られたもので,引用刊行物3の特許請求の範囲に記載された繊維束からなる塗布具に特有の形状ではなく,他の素材からなるものでも採用可能であることは技術的に明らかであって,当業者であれば,化粧用塗布具の先端形状を例示したものと容易に理解するはずである。 よって,引用発明において,引用発明3の塗布具の先端の形状が略平面状である点を適用することは,当業者にとって格別困難なことではなく,審決の判断に誤りはない。 4 引用発明と周知技術との組合せの誤りについて審決は,引用刊行物2及び3に の先端の形状が略平面状である点を適用することは,当業者にとって格別困難なことではなく,審決の判断に誤りはない。 4 引用発明と周知技術との組合せの誤りについて審決は,引用刊行物2及び3に加えて,周知技術文献を例示して,化粧用塗布具の先端の端縁部を直線状又は平面状にすることは周知の技術としている。 このような周知の技術が,本件技術常識と同様の機能を希求したものであることは技術的に明らかであって,当業者であれば容易に理解できるから,引用発明に上記周知の技術を適用することは,当業者にとって格別困難なことではなく,その旨判断した審決に誤りはない。 5 本願発明の予測できない顕著な効果について本願発明の効果は,当業者が予測し得た程度のものであって格別なものではなく,その旨判断した審決に誤りはない。 第5 当裁判所の判断 当裁判所は,原告の主張は理由がないものと判断する。その理由は以下のとおりである。 1 引用発明の認定の誤りについて原告は,引用発明の認定に当たっては,①塗布体が表皮を備える点,②化粧用塗布具が固形化粧料用である点,を含めて認定すべきであり,審決による引用発明の認定には誤りがあると主張する(前記第3の1)。 そこで,上記①及び②の各点について検討する。 塗布体が表皮を備える点(①)についてア審決が引用発明の認定に当たって引用した引用刊行物1(甲3)の記載は,次のとおりである。 「産業上の利用分野本考案は弾性を有する化粧用塗布具に関するものであり,主に固形化粧料を皮膚などに塗布する際に使用される。」(2枚目10行目ないし13行目)「従来技術とその問題点微粉末を圧縮成形などの手段により固化してなる白粉,頬紅,アイシヤドウなどの固形化粧料を皮膚などへ塗布するにあた る際に使用される。」(2枚目10行目ないし13行目)「従来技術とその問題点微粉末を圧縮成形などの手段により固化してなる白粉,頬紅,アイシヤドウなどの固形化粧料を皮膚などへ塗布するにあたり,刷毛に代つて連続気泡のウレタンフォームよりなる化粧用塗布具を使用することが多い。そのなかで狭い部分に塗布する場合には例えば第4図に示すように軸21の両方の端部22,22にウレタンフォームよりなる塗布体23,23を具えた化粧用塗布具24が用いられる。」(2枚目14行目ないし3枚目7行目)そして,審決は,第4図(次頁右上のとおり)に関して,「第4図には,化粧用塗布具24において,軸21の一端部に,先端部を丸みをおびた形状にした塗布体23を,軸21の他端部に,先端部を紡錘形状にした塗布体23を備えた点が図示されている。」とする。 イ一方,引用刊行物1の「実用新案登録請求の範囲」には,「塗布体が弾力性を有する芯材とその表面を覆つた超微細気孔のウレタンフォームの表皮とから構成されていることを特徴とする化粧用塗布具。」との考案(以下「考案1」という。)が記載され,「考案の詳細な説明」には,従来技術に関して,化粧料の原材料である微粉末は極めて微細であるため,塗布体のウレタンフォームの気孔の深部に容易に入り込んで皮膚などへ塗布されにくく塗りむらができやすい上,気孔内に残留した化粧料が酸化して固化すると塗布体が弾性を失って使用に適さなくなる等の問題があること(従来技術とその問題点),これを解決するため,考案1に係る化粧用塗布具は,塗布体が弾力性を有する芯材とその表面を覆った超微細気孔のウレタンフォームの表皮とから構成されることを特徴としたこと(考案の構成),これにより,超微粒子粉末の固形化粧料であっても気孔深部へ入り込むことな が弾力性を有する芯材とその表面を覆った超微細気孔のウレタンフォームの表皮とから構成されることを特徴としたこと(考案の構成),これにより,超微粒子粉末の固形化粧料であっても気孔深部へ入り込むことなく付着して皮膚などへ容易にかつ塗りむらなく塗布されるとともに,化粧料が気孔内にほとんど残留しないので弾性を失うことなく長期にわたり良好な状態で使用できるなどの効果を奏すること(考案の効果)が,それぞれ記載され,実施例においては,考案1に係る化粧用塗布具の塗布体の表皮について,「東洋ポリマー(株)製の商品名「ルビセル」の名で入手できるポリウレタンフォームが吸水,吸油性を有していることから好ましい。」(9枚目6行目ないし8行目)と記載されている(甲3)。 ウ前記イのとおりの引用刊行物1の記載に照らせば,考案1に係る化粧用塗布具は,超微粒子粉末の固形化粧料の塗布に用いる際の課題を解決するために,塗布体が超微細気孔のウレタンフォームの表皮を備える構成としたものと認められる。 第4図 しかしながら,審決は,考案1ではなく従来技術に係る化粧用塗布具についての前記アのとおりの記載に基づいて,引用発明を認定したと認められ,従来技術については塗布体が表皮を備えるとの記載はないから,審決が,引用発明の化粧用塗布具における塗布体が表皮を備える点を認定しなかったことに誤りはない。 エ原告は,引用刊行物1の全体を理解した当業者は,従来技術に係る化粧用塗布具には固形化粧料用として使用するには課題があるためこれを採用しないようにすることを理解すると主張する。 しかしながら,ひとまとまりの技術的思想として把握することができる限り,公知文献からいかなる引用発明を認定するかは審判合議体に委ねられており,原告の上記主張を踏まえても,引用刊行物1の従 る。 しかしながら,ひとまとまりの技術的思想として把握することができる限り,公知文献からいかなる引用発明を認定するかは審判合議体に委ねられており,原告の上記主張を踏まえても,引用刊行物1の従来技術についての記載から,審決が認定したとおりの引用発明を認定することは何ら阻害されるものではない。 化粧用塗布具が固形化粧料用である点(②)について引用発明の認定に当たっては,本願発明の発明特定事項に相当する事項を過不足のない限度で認定すれば足り,特段の事情がない限り,本願発明の発明特定事項との対応関係を離れて,引用発明を必要以上に限定して認定する必要はないというべきである。 そうすると,本願発明の化粧用チップは,塗布する化粧料の種類について発明特定事項としては何ら限定するものではないから,引用発明の認定において,引用発明の化粧用塗布具が固形化粧料用であることを認定しなかった審決の認定に誤りはない。 なお,本願発明の構成の容易想到性を検討するに当たり,引用発明と他の公知技術とを組み合わせることへの動機付けの有無に関して,引用発明の化粧用塗布具が固形化粧料を塗布するために用いられるものであることを考慮すべき場合はあり得るものの,そうであるからといって,引用発明の認定そ れ自体に誤りがあるということはできない。 以上によれば,引用発明の認定に誤りがあるとの原告の前記主張は,いずれも採用することができない。 2 引用発明と引用発明3との組合せの誤りについて相違点1についての審決の判断の概要審決は,相違点1に関して,引用発明2又は引用発明3の先端形状を引用発明の塗布体の先端部の形状に適用して平面状の形状とし,相違点1における本願発明の特定事項とすることは,当業者であれば格別困難なくなし得たと判断すると して,引用発明2又は引用発明3の先端形状を引用発明の塗布体の先端部の形状に適用して平面状の形状とし,相違点1における本願発明の特定事項とすることは,当業者であれば格別困難なくなし得たと判断するとともに,化粧用塗布具の先端の端縁部を直線状又は平面状にするという化粧用塗布具の分野における周知技術を,引用発明の化粧用塗布具の先端部に適用して,相違点1に係る本願発明の特定事項のようにすることは,当業者にとって格別困難なくなし得ることであると判断した。 そこで,事案に鑑み,引用発明に引用発明3を適用することの容易想到性について,まず検討する。 引用刊行物3の記載内容引用刊行物3(甲5)には,次の記載がある。 「【特許請求の範囲】【請求項1】繊維束を合成樹脂で接着して塗布具本体を形成するに際し,塗布具本体の外周部の硬度が中心部の硬度よりも高くなるよう接着するとともに,一方又は両方の端部の外周部を研削して塗布部とし,研削されない外周部を保持部としたことを特徴とする塗布具。」「【請求項7】前記塗布部は,角状,円筒状,略半球状又は砲弾状であることを特徴とする請求項1に記載の塗布具。」「【発明の詳細な説明】【0001】 【発明の属する技術分野】この発明は,化粧,筆記,絵画,医療などの分野において,各種の粉末や液体の塗布に用いられる塗布具とその製造方法に関するものである。より詳しくは,アイシャドウを付けるためのチップ又はアプリケーターとして好適な塗布具とその製造方法に関し,化粧用具,筆記用具,画具,医療用具などの技術分野に属するものである。 【0002】【従来の技術】筆記具を始めとして,絵画や医療など広い分野で種々の塗布具が使用されている。しかしながら,その形態は用途に応じて千差万別である。例 の技術分野に属するものである。 【0002】【従来の技術】筆記具を始めとして,絵画や医療など広い分野で種々の塗布具が使用されている。しかしながら,その形態は用途に応じて千差万別である。例えば,化粧用としては,フェイスブラシ,チークブラシ,アイシャドウブラシ,アイシャドウチップ(アプリケーター),アイカラーブラシ,アイカラーチップ,リップブラシなどとして,ブラシ状のもの,スポンジ状のものなど種々のものが市販されている。」「【0004】【発明が解決しようとする課題】これら種々の塗布具については,それぞれより良いものを求めて常に検討がおこなわれている。なかでも,パウダーアイシャドウの塗布具,アイシャドウチップ(アプリケーター)やアイシャドウブラシは,下記のような種々の問題点が存在し,その解消が強く求められている。 【0005】すなわち,スポンジチップ(アプリケーター)やNBRチップ(アプリケーター)は,経時による変化が大きく,変色や硬化することが多いため,ボロボロに劣化するおそれがある。…【0006】発明者はかかる現状に鑑み…繊維束を合成樹脂によって結束接着させるに際し,繊維束の接着に用いられる合成樹脂を,繊維束の外周部に多く,中心部に少なくなるよう偏在させることによって,外周部を硬く,中心部を軟らかくすることで,化粧用の塗布具として優れたものが得られることを見出し,この発明を完成させた。」 【図2】「【0034】樹脂の偏在する外周部を,角状又は略半球状あるいは砲弾状に研削して露出させた中心部(塗布部)は,樹脂があまり附着していないので柔らかく,使用するときの僅かな応力で,その先端が解れ,柔らかい使用感を与えるものである。その際,図2(判決注・右のとおり)に示すように,中心部に揉むなどの応 ,樹脂があまり附着していないので柔らかく,使用するときの僅かな応力で,その先端が解れ,柔らかい使用感を与えるものである。その際,図2(判決注・右のとおり)に示すように,中心部に揉むなどの応力を加えて,繊維束を良く解して図2Aのように円筒状のブラシ状に,あるいは図2B(砲弾状)や図2C(チーゼル状)のように部分的に解して柔らかくし,ブラシ状とすることによって,さらに柔らかな使用感を与えるものである。 【0035】…さらに,繊維束の形状を,円柱状,角柱状,板状などに形成することによっても調整することもできる。 【0036】この発明の塗布具は,図3や図4(判決注・いずれも省略)に示すように,所要の径を有する繊維束14の両端の外周部を研削して塗布部22,23とすることもできる。すなわち,図3に示す塗布具20は,保持部21の一端をブラシ状(22)とし,他端を砲弾状(23)としたもので,図4に示す塗布具30は,保持部31の一端を先鋭角状(33)に,他端を半球状(32)にしたもので,用途,目的に応じて任意に組み合わせることが可能である。」「【0048】【発明の効果】この発明の塗布具は…耐候性に優れ,脱毛などの問題点がなく,化粧用の塗布具,特に,パウダーアイシャドウの塗布具,アイシャドウチップ(アプリケーター)やアイシャドウブラシが有する経時による 変化の大きさ,変色や,樹脂硬化による劣化などのおそれがない。」検討ア引用発明の化粧用塗布具について,「微粉末を圧縮成形などの手段により固化してなる白粉,頬紅,アイシヤドウなどの固形化粧料を皮膚などへ塗布する」との用途が示されている。一方,引用刊行物3には,同文献に開示された塗布具の用途に関して,「パウダーアイシャドウの塗布具,アイシャドウチップ(アプリケー ヤドウなどの固形化粧料を皮膚などへ塗布する」との用途が示されている。一方,引用刊行物3には,同文献に開示された塗布具の用途に関して,「パウダーアイシャドウの塗布具,アイシャドウチップ(アプリケーター)やアイシャドウブラシ」と記載されている。 そうすると,引用発明の化粧用塗布具と引用刊行物3に開示された塗布具とは,パウダー(微粉末)状のアイシャドウの塗布に用いられる点で,その技術分野を共通にすると認められる。 イ引用刊行物1には,引用発明の化粧用塗布具は,アイシャドウなどの固形化粧料を,狭い部分に塗布する場合に用いられると記載されているが,第4図に,軸21の一端部には先端部が丸みを帯びた形状の塗布体23が,他端部には先端部が紡錘形状の塗布体23が,それぞれ設けられているものが図示されていることからすると,塗布の部位や方法に応じて,異なる形状の塗布体が必要となることが示唆されているということができる。 一方,引用刊行物3には,パウダーアイシャドウの塗布具,アイシャドウチップ(アプリケーター)等に用いられるスポンジチップは,変色や硬化等の経時変化でボロボロに劣化するおそれがあるため(【0004】,【0005】),このようなおそれのない塗布具として,繊維束を合成樹脂で接着して塗布具本体を形成するに際し,塗布具本体の外周部の硬度が中心部の硬度よりも高くなるよう接着するとともに,一方又は両方の端部の外周部を研削して塗布部とし,研削されない外周部を保持部とした塗布具(【請求項1】)が開示されているが,塗布部の具体的な形状については,「角状,円筒状,略半球状又は砲弾状」(【請求項 7】)や,円筒状,砲弾状,チーゼル状(【0034】),「円柱状,角柱状,板状など」(【0035】),様々な形状にできることが記載されており,【図 ,円筒状,略半球状又は砲弾状」(【請求項 7】)や,円筒状,砲弾状,チーゼル状(【0034】),「円柱状,角柱状,板状など」(【0035】),様々な形状にできることが記載されており,【図2】(C)には,「チーゼル状」の塗布部として,先端部分が略平面状の塗布部の形状が図示されている(なお,「チーゼル」とは,英語で「のみ(鑿)」を意味する“chisel”の片仮名表記であると解される。)。そして,これらの形状については,「用途,目的に応じて」任意に選択可能であることが示されている(【0036】)。 そうすると,引用刊行物3に開示された塗布具は,塗布部が特定の形状である場合を前提にしたものではなく,むしろ,塗布部の形状自体は,用途や目的に応じて上記のとおりの様々な形状があり得ることを前提に,その構造(材質)を,従来のスポンジチップに代えて,繊維束を合成樹脂で接着して塗布具本体を形成するに際し,塗布具本体の外周部の硬度が中心部の硬度よりも高くなるよう接着して形成されるという構造(材質)にした点に,技術的な意義があるというべきである。 そして,引用刊行物3に接した当業者であれば,塗布部におけるこのような様々な形状は,上記の構造(材質)に特有のものではなく,他の弾性を有する構造(材質)の塗布具に対して転用可能であることを容易に理解することができる。 さらに,引用刊行物3に開示された様々な形状のうち,チーゼル状の塗布部については,皮膚へ当てる箇所や角度によって,化粧料を種々の幅で線状や面状に塗布できることは当業者にとって明らかであるといえるから,塗布の部位や方法に応じて異なる形状の塗布体が必要になることを示唆している引用発明において,塗布体の形状をチーゼル状にすること,すなわち,塗布体の塗布部先端の端縁部を直線状ないし平面 といえるから,塗布の部位や方法に応じて異なる形状の塗布体が必要になることを示唆している引用発明において,塗布体の形状をチーゼル状にすること,すなわち,塗布体の塗布部先端の端縁部を直線状ないし平面状にし,相違点1に係る本願発明の構成とすることは,当業者であれば容易になし得ることであるということができる。 原告の主張について原告は,引用刊行物3に接した当業者は,引用発明の化粧用塗布具を含む従来技術の化粧用塗布具に存在する材質面の課題を解決するために,引用刊行物3に記載の繊維束を有する構造及び形状を備えた塗布具とすべきことを理解するから,引用発明に引用刊行物3に記載された発明を組み合わせて想到できる化粧用塗布具は,本願発明の,支持具の一端に繊維束ではない多孔性の基材が接着又はアウトサート成形されることにより設けられた化粧用チップとはならないと主張する(前記第3の3)。 しかしながら,引用刊行物3に開示された化粧用塗布具は,塗布部が特定の形状である場合を前提にしたものではなく,むしろ,塗布部の形状自体は,用途や目的に応じて様々な形状があり得ることを前提とするものであることイのとおりである。よって,当業者にとって,チーゼル状を含む引用刊行物3に開示された塗布部の形状を,塗布具本体の外周部の硬度が中心部の硬度よりも高くなるように繊維束を接着して形成されるという,同文献に開示された塗布具の構造とは別に,引用発明に転用することに想到することは容易であり,また,引用発明の化粧用塗布具との構造の相違が,かかる転用に対する阻害事由になるということもできない。 よって,原告の上記主張は,採用することができない。 小括以上によれば,引用発明に引用発明2の紅筆の先端形状を適用すること,あるいは,引用発明に,審決が周知 るということもできない。 よって,原告の上記主張は,採用することができない。 小括以上によれば,引用発明に引用発明2の紅筆の先端形状を適用すること,あるいは,引用発明に,審決が周知技術文献等から認められるとする周知技術を適用することへの容易想到性について判断するまでもなく,引用発明に引用発明3の塗布部の形状を適用して,相違点1に係る本願発明の構成に至ることは,当業者が容易に想到し得ることであると認められ,少なくともこれと同旨の限度で,審決の判断に誤りはない。 3 本願発明の予測できない顕著な効果について 原告は,本願発明が,引用発明による効果や引用刊行物2及び3に記載の効果とは別の予測できない顕著な効果を奏すると主張する(前記第3の5)。 しかしながら,引用発明の化粧用塗布具の塗布体をチーゼル状とすることによって,皮膚へ当てる箇所や角度によって化粧料を線状や面状に塗布することができるという効果を奏すると考えられるところ,かかる効果は,引用発明の化粧用塗布具にチーゼル状の塗布体を採用する場合に,当業者がその効果として当然に予想することのできる範囲を超えるものではなく,他に,かかる組合せに当業者の予測できない顕著な効果があることを裏付けるに足りる事情も見当たらない。 よって,原告の上記主張は,採用することができない。 4 結論以上のとおりであり,原告の主張は理由がない。よって,原告の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官石井忠雄 裁判官田中正哉 裁判官神 裁判長 裁判官石井忠雄 裁判官田中正哉 裁判官神谷厚毅
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