令和3(お)6 再審請求事件

裁判年月日・裁判所
令和5年2月1日 名古屋高等裁判所 棄却
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判決文本文11,091 文字)

1主 文本件再審請求を棄却する。 理 由第1 再審請求の趣意等1 本件再審請求の趣意及び理由は、請求人及び主任弁護人郷原信郎ほか4名連名作成の再審請求書並びに主任弁護人作成の令和4年4月20日付け意見書記載のとおりであり、要するに、確定判決に係る上記被告事件について、刑訴法435条6号所定の無罪を言い渡すべき明らかな証拠をあらたに発見したから、再審の開始を求めるというのである。そして、弁護人は、その新証拠として、A作成の令和2年10月6日付け(弁第1号証)及び令和4年4月1日付け(同第4号証)各陳述書、B作成の令和2年10月24日付け陳述書(同第2号証)、C及びD連名作成の平成31年3月22日付け鑑定書(同第3号証)を提出する。 2 これに対する検察官の意見は、検察官作成の令和4年3月3日付け意見書のとおりであり、弁護人の提出する証拠がいずれも明白性を欠くから、本件再審請求は棄却されるべきであるというのである。 第2 確定判決の存在及び概要等1 判決確定までの経緯請求人は、本件被告事件について、平成26年7月15日、名古屋地方裁判所に起訴され、同裁判所において、平成27年3月5日、請求人に対する2度の現金授受があったと認めるには合理的疑いが残るとして無罪が言い渡されたが、検察官による控訴の申立てを受けて、名古屋高等裁判所は、平成28年11月28日、上記第1審判決を破棄し、「被告人を懲役1年6月に処する。この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。被告人から金30万円を追徴する。」との判決を言い渡し、平成29年12月11日上告棄却決定、同月26日異議申立て棄却決定により、同月27日控訴審の上記有罪判決が確定し ら3年間その刑の執行を猶予する。被告人から金30万円を追徴する。」との判決を言い渡し、平成29年12月11日上告棄却決定、同月26日異議申立て棄却決定により、同月27日控訴審の上記有罪判決が確定した(以下「確定判決」という。)。 なお、以下において、「第1審」「控訴審」は、確定審のそれらを意味する。 22 確定判決が認定した罪となるべき事実の概要(以下、略称は、おおむね確定判決に従う。)「被告人(請求人)は、平成22年10月13日から平成25年5月8日までの間、E市議会議員として、同市議会における質問、質疑及び発言等の権限を有し、同年6月2日施行の同市長選挙に当選して同市長に就任した後は、同市長として、同市が行う契約の締結等の事務を統括掌理する職務を行うものであるが、⑴ 同年3月7日、名古屋市内の飲食店「F」において、株式会社Gの代表取締役であるHから、GがE市との間で災害時の給水設備である自然循環型雨水浄水プラントを同市立の学校に設置する契約が締結できるように同市議会議員としての権限を行使するとともに同市職員に働き掛けるなど有利かつ便宜な取り計らいをしてほしい旨の請託を受け、これを承諾し、同月14日、同年同市議会第1回定例会本会議で、同市に対する質疑を行い、同市での浄水プラントの導入を検討されたい旨発言し、同月22日、名古屋市内の飲食店「I」において、Hから、前同様の有利かつ便宜な取り計らいをしてほしい旨の請託を受け、これを承諾し、同月25日頃、E市役所において、防災対策、消防防災施設の設置及び管理等の職務に従事していた同市職員に対し、浄水プラントの資料を交付して検討を促し、同市議会議員としての質疑及び質問等の権限に基づく影響力を行使して、同市がGと浄水プラントを設置する契約を締 置及び管理等の職務に従事していた同市職員に対し、浄水プラントの資料を交付して検討を促し、同市議会議員としての質疑及び質問等の権限に基づく影響力を行使して、同市がGと浄水プラントを設置する契約を締結するように申し入れてあっせんした上、同年4月2日、同市内の飲食店「J」において、Hから、上記質疑、発言及びあっせんをしたことの報酬並びに今後も同様の取り計らいをすることの報酬として供与されるものであることを知りながら、現金10万円の供与を受け(第1授受)、もって自己の職務に関し、請託を受けて、賄賂を収受するとともに、自己の権限に基づく影響力を行使して公務員にその職務上の行為をさせるようにあっせんをしたこと及び今後も同様にあっせんをすることにつき、その報酬として財産上の利益を収受し、⑵ 上記⑴のとおり、Hから、GがE市と浄水プラントを設置する契約が締結できるように同市職員に働き掛けるなど有利かつ便宜な取り計らいをしてほしい旨の請3託を受け、これを承諾していたところ、同月15日頃、同市役所において、上記⑴の同市職員に対し、浄水プラントの件を早急に取り組むように要望した文書を送付し、同市議会議員としての質疑及び質問等の権限に基づく影響力を行使して、同市がGと浄水プラントを設置する契約を締結するように申し入れてあっせんした上、同月25日、名古屋市内の飲食店「K」において、Hから、E市議会議員として引き続き同市職員に働き掛けてGが同市と浄水プラントを設置する契約が締結できるように有利かつ便宜な取り計らいをしてほしい旨の請託を受けるとともに、E市長選挙に立候補して同市長になろうとしていた請求人が同市長に就任した後も上記契約ができるように有利かつ便宜な取り計らいをしてほしい旨の請託を受け、これを承諾し、同日、同 の請託を受けるとともに、E市長選挙に立候補して同市長になろうとしていた請求人が同市長に就任した後も上記契約ができるように有利かつ便宜な取り計らいをしてほしい旨の請託を受け、これを承諾し、同日、同店において、Hから、同市議会議員として上記あっせんをしたことの報酬、今後も同様のあっせんをすることの報酬及び同市長に就任した後も上記有利かつ便宜な取り計らいをすることの報酬として供与されるものであることを知りながら、現金20万円の供与を受け(第2授受)、もって自己の権限に基づく影響力を行使して公務員にその職務上の行為をさせるようにあっせんをしたこと及び今後も同様にあっせんをすることにつき、その報酬として財産上の利益を収受するとともに、公務員になろうとする者が、その担当すべき職務に関し、請託を受けて、賄賂を収受した。」というものである。 3 確定判決が各現金授受の存在を認定した判断の概要(確定判決の証拠構造)⑴ 確定判決は、本件の各現金授受を明確に認めているHの第1審公判証言(H証言)に信用性を認め、同証言により各現金授受の存在を認めることができるとしたものであり、H証言の信用性判断に当たり、①供述内容自体(具体性・合理性・一貫性)、②情況証拠との整合性(㋐授受の資金の流れ、㋑各現金授受に至る経緯、㋒選挙戦の応援、㋓HのB及びAへの発言)、③供述経過、④H証言の信用性に疑問があるとした第1審判決の証拠評価(㋐核心場面について具体的で臨場感を伴う供述がなされていないという点、㋑供述経過、㋒虚偽供述の動機)、⑤相反する証拠(Lの第1審公判証言、被告人の第1審公判供述)について順次検討し、信用性4を高める事情として①②を肯定し、③につきHが自己の記憶に従って供述したものと認められるとし、④につき第1審 人の第1審公判供述)について順次検討し、信用性4を高める事情として①②を肯定し、③につきHが自己の記憶に従って供述したものと認められるとし、④につき第1審判決の指摘は当たらず、⑤もH証言の信用性に疑問を抱かせるようなものではないとした。 ⑵ 上記②㋓(HのB及びAへの発言との整合性)の判断の概要は、以下のとおりである。 Bの第1審公判証言によれば、Hが、平成25年4月24日頃、Bに対して借金を申し込むに際し、市長選で前市長の地盤を引き継ぎ当選が確実な被告人に今のうちに恩を売っておきたいから50万円貸してくれないかと頼んだことが認められ、これは、その時点でHが被告人に金銭を供与することを企図していたことを推認させる事実であるから、第2授受において被告人に現金を渡したとするH証言の信用性を高める。また、Aの第1審公判証言によれば、浄水プラントの実証実験が始まった後の同年8月22日、HとAが中学校に浄水プラントを見に訪れた際、Aが「よくこんなとこに付けれたね」と言うと、Hが「接待はしてるし、食事も何回もしてるし、渡すもんは渡してる」と述べたこと、Aが「何百万か渡したのか」と尋ねると、Hが「30万くらい」と述べたことが認められ、この事実は、各現金授受に関するH証言と金額も含めて整合している。B及びAの両者共に、偽証罪という制裁を覚悟してまで、あえて虚偽の証言をするだけの理由や必要は見出せず、B証言について、時期や市長選挙の関係からみて第2授受に際してのことであると認められ、Bが自己の記憶に従って証言していることは疑いなく、A証言について、被告人に対する金銭授受に関する部分は具体的で臨場感があり、いずれも信用性が認められるところ、各証言により認められる上記各事実は、後から作為して作り上げること ていることは疑いなく、A証言について、被告人に対する金銭授受に関する部分は具体的で臨場感があり、いずれも信用性が認められるところ、各証言により認められる上記各事実は、後から作為して作り上げることのできない事実であるという意味において、H証言の信用性を質的に高めるものと評価できる。 ⑶ 上記④㋑(H証言の信用性に疑問があるとした第1審判決の証拠評価のうち供述経過に係る部分)の判断の概要は、以下のとおりである。 Hが、平成26年3月16日付け及び同月17日付け各上申書(第1審甲第735号証及び同第74号証)に第2授受についてしか記載しておらず(第1授受の記載がない)、その段階で、第1授受の際いついくら渡したか思い出せなかったとする点(再審弁第3号証が検討する「初回授受供述の変遷」の問題)について、第2授受があったとされるKでは、被告人、L及びHの間で被告人の市長選への立候補が話題となっており、Hとしては、被告人が市長に当選することで浄水プラントの導入が更に前進することを強く期待していたことがうかがわれるのであり、そのような状況での被告人への現金授受の方が、Hにとってより強く印象に残っていて、そのために先に供述したことになったと考えられ、ことさら、虚偽を作り上げたとの疑いを生じさせるものではない。 Hの平成26年3月27日付け警察官調書(第1審弁第3号証)には第1授受の記載があるが、JにHと請求人の二人だけで行った(Lはいなかった)という記載になっている点(再審弁第3号証が検討する「L同席供述の変遷」の問題)について、取調べ警察官の控訴審公判証言に照らして、Hが曖昧な供述をしていたのにLはいなかったという内容になったという点は、決して不自然ではない。そうであっても、Hにおいて、第1授受に 遷」の問題)について、取調べ警察官の控訴審公判証言に照らして、Hが曖昧な供述をしていたのにLはいなかったという内容になったという点は、決して不自然ではない。そうであっても、Hにおいて、第1授受について思い出した当初の時点で、Lの同席について記憶が曖昧であったことには変わりないが、Lに現金授受を見られることにさほど抵抗がなかったのであれば、Lの同席の有無というのはHにとってそれほど強く印象に残る事実とはいえず、当初記憶が曖昧であったのは決して不自然ではないというべきであり、この点で曖昧であったことが、被告人にこのとき現金を渡したという供述の信用性を特段に損なうものと解すことはできない。 そのほかにも第1審判決が疑義を呈している点を含めてHの供述経過に関する疑義(各現金授受に関連しないものも多い。)も、通常の記憶の減退、又は記憶喚起の過程として十分説明ができる事柄であり、Hが虚偽供述を作り上げていく過程ではないかと疑われる事情と評価すべきものはない。 第3 当裁判所の判断1 A作成の各陳述書(弁第1号証、同第4号証)について6⑴ いずれも主任弁護人がAから聞き取った内容を陳述書としてまとめ、Aが署名押印した形式のものであり、その内容は、おおむね以下のとおりである。 ア 令和2年10月6日付け陳述書(弁第1号証)Hの贈賄の件で話を聞きたいという連絡を受けて、検察庁に行き、伊藤検事の取調べを受けた。Hとの関係や浄水プラントの事業に太陽光パネルの設置工事で関わろうと考えていたことを話し、Hから「E市長になる議員を接待したり足代を渡したりしたいので、金を貸してほしい」と言われて50万円貸したことや、中学校の浄水プラントを見に行ったことも話した。数日後に再び検察庁に行ったとき、検察 、Hから「E市長になる議員を接待したり足代を渡したりしたいので、金を貸してほしい」と言われて50万円貸したことや、中学校の浄水プラントを見に行ったことも話した。数日後に再び検察庁に行ったとき、検察官から、AがHに貸した50万円のうち20万円がすぐに請求人の銀行口座に入金されていたことがわかった、その前にHが請求人に10万円の賄賂を贈っているが、それも渡した翌日にそのまま請求人の銀行口座に入金されているなどという話を聞かされて、Hが合計30万円を請求人に渡したことは間違いないだろうと思った。 その次の取調べで、中学校の浄水プラントの現場を見に行った際にHと話した内容について聞かれた。「よくこんなところに付けれたね」と言ったことははっきり覚えていたし、「何百万か渡したん?」と聞いたら、Hが「そんなに渡しとらんよ」と言ったことも覚えていたが、それ以外のやり取りについて詳しくは覚えていなかった。しかし、Hから請求人に30万円が渡ったことは間違いないと思っていたので、その前提で推測も含めて話をした。「請求人にいくら渡したのか聞いたら、Hが30万円と答えた」という供述調書の記載について、Hから30万円という金額の話が出た記憶はなく、調書でどうしてそういう内容になったのか、よく思い出せない。検察官が調書を作り、内容を読んでもらったが、特に違うところはないと思い、署名した。証人尋問の際にも、調書に書いてあることは大体そのとおりだろうと思っていたから、そのとおり証言した。伊藤検事に請求人の口座への入金のことを聞いて、30万円が請求人に渡ったことは間違いないと思ったので、伊藤検事の話に合わせた話をし、供述調書に署名し、調書の内容のとおり、証人尋問でも証言した。 7イ 令和4年4月1日付け陳述書(弁第4号証) たので、伊藤検事の話に合わせた話をし、供述調書に署名し、調書の内容のとおり、証人尋問でも証言した。 7イ 令和4年4月1日付け陳述書(弁第4号証)中学校に行ったときのことで覚えていたのは、Hに「よくこんなところに付けれたね」と言ったことと「何百万か渡したん?」と言ったことの2点だけである。「何百万か渡したん?」と聞いた際のHの回答が、「そんなに渡しとらんよ」だったのか、「そんな。渡しとらんよ」だったのか「いやぁ、渡してないよ」だったのか厳密に一言一句覚えているわけではない。具体的な言葉までは覚えていないが、Hは、そういうことはしていないという意味の答えだった。請求人の通帳にはっきりとした証拠が残っているから金が渡ったことは間違いないと思い込んでいたので、主任弁護人から、Aが貸したお金が請求人の口座に入金されているというようなことは請求人の裁判に出ていないと聞かされて、事実と違うことを思い込まされて裁判で証言したことがわかったので、訂正しておかなければならないと思い、記憶していることを正直に話した。 ⑵ A作成の本件各陳述書は、Hに「何百万か渡したの?」と聞くと、「30万くらい」と言うのを聞いて、少ないなと思ったなどという第1審公判証言と異なる内容を含むものであり、その部分については証拠の新規性が認められる。 しかし、本件各陳述書によっても、Aは、検察官から読み聞かされた供述調書の内容に特に違うところはないと思い署名した、第1審公判証言時に自己の記憶に反する証言をしたわけではない、というのであって、検察官の発言から請求人が30万円を受け取ったことは間違いないだろうと思っていたからといって、直ちに第1審公判証言の信用性に影響するとはみられない。のみならず、平成25年8月の体験 いうのであって、検察官の発言から請求人が30万円を受け取ったことは間違いないだろうと思っていたからといって、直ちに第1審公判証言の信用性に影響するとはみられない。のみならず、平成25年8月の体験時から本件各陳述書の作成までに相当長期間(弁第4号証では8年数か月、同第1号証でも7年余。なお、第1審甲第55号証の検察官調書の作成年月日は平成26年7月23日である。)が経過していることからすれば、その間に記憶が減退するのはむしろ当然のことといえる上、令和2年10月6日付け陳述書(弁第1号証)では、Hが「そんなに渡しとらんよ」と言ったことも覚えていたとしていたのに、検察官の令和4年3月3日付け意見書において、Hが、Aの想定よりは少ない金額8の現金を請求人に渡したことを認める供述をしていたと解される旨指摘されるや、同年4月1日付け陳述書(弁第4号証)において、「そんなに渡しとらんよ」だったのか、「そんな。渡しとらんよ」だったのかはっきりしないなどと、合理的な理由なく供述を後退させ、不自然な供述をしていることに照らしても、本件各陳述書の根幹をなす上記新規供述部分は、にわかに信用することができない。 加えて、確定判決の証拠構造、すなわち、Aの第1審公判証言から認められる事実は、H証言の信用性を高めるとはいえ、あくまでも周辺的な一事情にすぎないことにも鑑みると、弁護人が縷々指摘する点を踏まえても、A作成の本件各陳述書は、無罪を言い渡すべき明らかな証拠に当たらない。 2 B作成の陳述書(弁第2号証)について⑴ 主任弁護人がBから聞き取った内容を陳述書としてまとめ、Bが署名押印した形式のものであり、その内容は、おおむね以下のとおりである。 Bが、Hから請求人に金を渡したいので貸してくれと言われて50 ⑴ 主任弁護人がBから聞き取った内容を陳述書としてまとめ、Bが署名押印した形式のものであり、その内容は、おおむね以下のとおりである。 Bが、Hから請求人に金を渡したいので貸してくれと言われて50万円を貸したことを警察官に話したのは、Hの弁護人だったM弁護士が絵を描いたものだった。 M弁護士は、Bが弁護料を払ってHの弁護をしてもらっていた。警察の捜査を融資詐欺ではなく贈収賄の方に向けようというのがM弁護士の作戦だった。Hは、Bから金を借りるときに、いろいろな名目で貸してほしいと頼んできており、その中に、E市長になる請求人に金を渡したいから貸してほしいと言ってきて、貸してやった記憶があった。そのことをM弁護士にも話しており、同弁護士は、Hにその話を警察にさせると言っていた。M弁護士が、Bにも、請求人に渡す金を50万円Hに貸したという話を警察の取調べでするようにと言ってきたので、そのように話した。 請求人とHが贈収賄で逮捕された後、検察庁で取調べを受けて調書が作成され、第1審でもそのとおりに証言した。平成29年にM弁護士が亡くなったので、以上のことを話すことにした。 ⑵ Bは、第1審公判証言において、融資詐欺の捜査上で、Hにどういった経緯で金を貸してきたかという説明を求められ、その中で出たことの一つとして、請9求人に渡す金として50万円貸したという話をした旨供述していたもので、これと異なり「M弁護士が絵を描いた」などという経緯を述べる部分については、一応新規性が認められる。 しかし、M弁護士が亡くなり、もはやその言い分を聴くことができない時期に至って唐突に述べられた上記新規供述部分は、にわかに信用し難いといわざるを得ない。のみならず、確定判決も、H証言の信用性に疑問があるとした第1審判決の証 、もはやその言い分を聴くことができない時期に至って唐突に述べられた上記新規供述部分は、にわかに信用し難いといわざるを得ない。のみならず、確定判決も、H証言の信用性に疑問があるとした第1審判決の証拠評価を検討する中で、虚偽供述の動機について(上記第2の3⑴中の④㋒部分)、Hが、自らの融資詐欺に対する捜査や起訴が進むのを嫌って、捜査機関の目をそらすために、あるいは、検察官等から自己の融資詐欺等の事件処理や求刑に手心を加えるなどの優遇等を期待して、本件を話し出したという可能性は否定できないとしている(そのことからH証言が虚偽であると推認されることはなく、虚偽だとするとかえって説明困難な点が存在するといわざるを得ないとする。)のであって、その発案者がM弁護士であったか否かはともかくとして、既に確定判決において織り込み済みの事情ともいえる。そして、B作成の陳述書によっても、HがE市長になる請求人に金を渡したいから貸してほしいと言ってきて、貸してやった記憶があったというのであるから、なおH証言と整合するものといえ、同証言の信用性を揺るがせるものではない。 加えて、確定判決の証拠構造、すなわち、Bの第1審公判証言から認められる事実も、H証言の信用性を高めるとはいえ、あくまでも周辺的な一事情にすぎないことにも鑑みると、弁護人が縷々指摘する点を踏まえても、B作成の陳述書は、無罪を言い渡すべき明らかな証拠に当たらない。 3 鑑定書(弁第3号証)について⑴ 2名の大学教授が、主任弁護人の依頼を受けて、Hの捜査段階における供述の変遷(「L同席供述の変遷」及び「初回授受供述の変遷」)が体験記憶の忘却と回復の過程の反映として理解可能か否かを検討した、いわゆる供述心理鑑定書である。 10結論として、「初回 」及び「初回授受供述の変遷」)が体験記憶の忘却と回復の過程の反映として理解可能か否かを検討した、いわゆる供述心理鑑定書である。 10結論として、「初回授受供述の変遷」にみられるJにおける賄賂授受に関する出来事の全体的忘却は、心理学的にみて通常は生じにくい相当に特異な現象であり、その発生を説明できる特別な要因が特定できない限り、このような忘却が実際に生じた可能性は非常に低いと判断するのが妥当であると考えられ、「L同席供述の変遷」についても、それが実体験に基づくものであると仮定した場合、心理学的には生じにくい忘却及び記憶回復の過程であると考えられるとし、加えて、スキーマ・アプローチによるH証言の検討から、Jにおける賄賂授受場面におけるHと請求人の言語的なやり取りについての説明は希薄であり、特に請求人の行為と意図の解釈についての供述が欠けており、その供述特徴は、実際の体験記憶に基づかない供述であるために生じている可能性が高いことが示唆されるという。 ⑵ 本件鑑定書は、H証言の信用性につき、「L同席供述の変遷」及び「初回授受供述の変遷」に焦点を当て、供述心理学的見地からあらたに検討したものであり、証拠の新規性は認められる。 しかしながら、弁護人は、本件再審請求において、本件鑑定書を、第1審判決と確定判決の判断の異なる点、すなわち、H証言が「体験供述であるか否か疑問」とした第1審判決と、供述の変遷を「通常の記憶の減退、又は記憶喚起の過程として十分説明ができる」と判示して供述の信用性を認めた確定判決(上記第2の3⑶)とで、いずれの判断が正しいのかを考える参考資料としての認知心理学の専門知見に基づく意見と位置付けているというのであって(令和4年4月20日付け意見書)、本件鑑定書を踏まえても、そも 記第2の3⑶)とで、いずれの判断が正しいのかを考える参考資料としての認知心理学の専門知見に基づく意見と位置付けているというのであって(令和4年4月20日付け意見書)、本件鑑定書を踏まえても、そもそもH証言の信用性に及ぼす影響は、相当限定的なものといわざるを得ない。すなわち、確定判決は、供述経過のみならず、供述内容自体や情況証拠との整合性等多角的な観点から検討して、H証言の信用性を判断している上、供述経過の検討に当たっても、第1審で取調べ済みのH証言自体及び捜査段階の供述書・供述調書に加えて、Hの取調べ警察官の証人尋問及び同警察官作成の取調べメモの取調べを行い、それらの証拠をも踏まえて、Hの捜査段階における供述経過をみても、その時々における自己の記憶に従って供述していたものと推11認され、その結果としてのH証言も、供述経過を理由にその信用性を否定されることはないというべきである、と判断しているのである。 また、本件鑑定書において、スキーマ・アプローチによるH証言の検討から、賄賂授受場面におけるHと請求人との言語的なやり取りについての説明が希薄で、特に請求人の行為と意図についての解釈についての供述が欠けており、その供述特徴は、体験記憶に基づかない供述であるために生じている可能性が高いとする点も、確定判決における信用性評価(「贈賄という行為の性質上、当事者としては目立たないように手早く済ませようとするのが通常であろう。ましてや個室ではないから、現金を渡すことが了解されれば、最小限の言葉しか交わさない方が自然である。第1授受と第2授受で当事者間のやり取りが同じ内容のものとなったとしても、特に不自然であるとはいえない。」「渡した後の被告人(請求人)側の反応が、Hの予想どおり、何のためらいもなく受け取 然である。第1授受と第2授受で当事者間のやり取りが同じ内容のものとなったとしても、特に不自然であるとはいえない。」「渡した後の被告人(請求人)側の反応が、Hの予想どおり、何のためらいもなく受け取ったことから、渡す際の緊張感などの印象が一層弱まっていた可能性も十分考えられる。」などとする。)に対する説得的な非難となっていない。 以上のとおり、弁護人が縷々指摘する点を踏まえても、本件鑑定書は、無罪を言い渡すべき明らかな証拠に当たらない。 4 結論確定審(第1審及び控訴審)において取り調べた旧証拠に新証拠(弁第1ないし4号証)を加えて検討してみても、H証言に信用性を認め、同証言により各現金授受の存在を認めることができるとした確定判決の事実認定に合理的疑いが生じる余地はなく、新証拠は、いずれも刑訴法435条6号所定の明白な証拠に該当しない。 よって、本件再審請求は理由がないから、刑訴法447条1項により、主文のとおり決定する。 令和5年2月1日名古屋高等裁判所刑事第2部 12裁判長裁判官 田 邊 三 保 子 裁判官 後 藤 眞 知 子 裁判官 海 瀬 弘 章

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