令和4(ワ)357 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和6年9月18日 静岡地方裁判所 沼津支部
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判決文本文4,054 文字)

主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 被告は、原告に対し、10万円を支払え。 第2 事案の概要原告は、平成23年2月25日に静岡県熱海市(住所省略)の土地を取得した者である(以下、原告の取得した土地を「本件土地」という。)。 本件は、原告が、令和3年7月3日に静岡県熱海市(住所省略)の逢初川に おいて発生した土石流(以下「本件土石流」という。)発生時の熱海市長である被告に対し、静岡県土採取等規制条例(以下「本件条例」という。)等に違反する被告の違法行為と、熱海市及び静岡県の違法行為とが相まって本件土石流が発生し、本件土地から流出した土砂により本件土石流の被害を発生させたこと及び本件土石流による本件土地の崩落により利用が困難な形状の土地になった こと等により本件土地の交換価値が失われたなどと主張して、民法709条に基づき、本件土地の購入代金(3億円)の一部である10万円の支払を求める事案である。 1 争点被告の行為に係る不法行為の成否(争点1) 被告の公務員個人としての責任の成否(争点2) 2 争点に関する当事者の主張被告の行為に係る不法行為の成否(争点1)(原告の主張)被告は、熱海市長就任時(平成18年9月)から本件土石流発生まで本件 条例上の規制権限を行使する立場にあったところ、被告の以下の行為には重 過失があり、熱海市及び静岡県の違法行為と相まって本件土石流の発生に至らしめ、これによって本件土地の交換価値が失われたから、本件土地の所有者である原告に対して不法行為が成立する。 ア被告は、本件条例上、「土砂の崩壊、流出等による災害が発生するおそれがあると認める」場合、土採取等の計画変 土地の交換価値が失われたから、本件土地の所有者である原告に対して不法行為が成立する。 ア被告は、本件条例上、「土砂の崩壊、流出等による災害が発生するおそれがあると認める」場合、土採取等の計画変更の勧告や措置命令を出す必要 があったところ、本件土地の前所有者が本件土地に形成した盛土が、同人が熱海市に提出した届出の内容を大幅に超えていたにもかかわらず、平成19年から本件土石流発生までの約14年間もの間、計画変更の勧告や措置命令を発出しなかった(以下「本件規制権限の不行使」という。)。 イ被告は、静岡県と気象庁が令和3年7月2日12時30分「土砂災害警 戒情報」を出していたにもかかわらず避難指示を見送り、その後も断続的に1時間当たり20ミリリットルの雨量を観測し、同月3日午前4時30分時点では100年以上に一度の土砂災害発生危険度となっていたこと等により避難指示を出す必要が生じていたにもかかわらず、避難指示を発令しなかった(以下「本件避難指示不発出」という。)。 (被告の主張)ア原告の上記主張は否認ないし争う。 イなお、本件規制権限の不行使及び本件避難指示不発出はいずれも被告が市長である熱海市の裁量権の範囲を逸脱等するものではなく、違法ではない。 被告の公務員個人としての責任の成否(争点2)(原告の主張)本件において、被告の公務員個人としての責任は肯定されるべきであり、その理由は以下のとおりである。 ア民法709条の「他人の権利(中略)を侵害した者」に公務員が含まれ ないとはされておらず、むしろ、国家賠償責任の代位責任としての法的性 質からすると公務員の個人責任は肯定されるべきである。 イ本件は、上記「原告の主張」欄記載のとおり、本件規制権限の不行使及び本 れておらず、むしろ、国家賠償責任の代位責任としての法的性 質からすると公務員の個人責任は肯定されるべきである。 イ本件は、上記「原告の主張」欄記載のとおり、本件規制権限の不行使及び本件避難指示不発出という不作為に対して責任追及をしているものであるから、損害賠償義務の発生を恐れるがゆえに公務員が公務の執行をためらうというような弊害はなく、また、上記各不作為は故意と同視できる 重過失に当たるから、公務員の個人責任を肯定することはかえって公務の適正な執行を促すこととなる。 ウ現行の法制度においては、公務員に対する求償が確実に行われることにはなっておらず、公務員の個人責任を否定した場合の被害者の報復感情の満足や公務員の権限濫用防止の観点から設けられている制度はないから、 国や地方公共団体から損害の補填が得られることを根拠に公務員の個人責任を否定すると、損害賠償制度が有する制裁としての機能や不法行為を抑止する機能を無視する結果となる。 (被告の主張)原告の上記主張は争う。 国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づき国又は公共団体が賠償責任を問われた場合に、その職務に従事した公務員個人の行為が故意又は重過失によるか否かを問わず、当該公務員の賠償責任を否定することは確立された判例法理であり、同判例法理は、①公務員に過失がある場合に民法709条に基づく損害賠償責任を負うとなると、国賠法1条2項が国又は公 共団体による求償を公務員の故意又は重過失がある場合に限定していることと均衡を失することとなること、②国又は公共団体が賠償責任を負担する場合には被害者に対する救済に欠けるところはないこと、③公務員個人に対する求償権の行使が不十分であるとすればその制度・運用の問題として検討すべきであり、地方公共 ②国又は公共団体が賠償責任を負担する場合には被害者に対する救済に欠けるところはないこと、③公務員個人に対する求償権の行使が不十分であるとすればその制度・運用の問題として検討すべきであり、地方公共団体が適切に公務員個人への求償権を行使しない場合 には住民訴訟(地方自治法242条の2第1項)によって求償権の行使を求 めれば足りることからも正当である。したがって、本件土石流について熱海市長としてした行為(不作為を含む。)の賠償責任が問われている本件においては、同行為の責任主体は公共団体である熱海市であり(国賠法1条1項)、熱海市長である被告は責任主体にはならない。 第3 当裁判所の判断 1 本件においては、事案の性質・内容に鑑み、争点2から検討することとする。 公権力の行使に当たる公共団体の公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には、公共団体がその被害者に対して賠償の責に任ずるのであって、公務員個人はその責任を負わないものと解するのが相当である(最高裁判所昭和28年(オ)第625号同 30年4月19日第三小法廷判決・民集9巻5号534頁、最高裁判所昭和49年(オ)第419号同53年10月20日第二小法廷判決・民集32巻7号1367頁参照)。 原告が本件において主張する被告の不法行為の内容は、上記第2・2の「原告の主張」欄記載のとおり、被告が、熱海市の公権力の行使に当たる熱 海市長として、その職務についてした行為(不作為を含む。)に関するものであるから(この点につき当事者に争いはない。)、仮に、その行為により、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えた場合でも、公共団体である熱海市が被害者に対してその賠償の責に任ずるのであって、被告は、個人として民法7 き当事者に争いはない。)、仮に、その行為により、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えた場合でも、公共団体である熱海市が被害者に対してその賠償の責に任ずるのであって、被告は、個人として民法709条等に基づく損害賠償責任を負うものではない。 したがって、原告の請求は、争点1について検討するまでもなく、理由がない。 2 なお、原告は、被告の個人責任が肯定されるべき理由につき種々主張するので、この点について検討する。 国賠法1条1項の文言上、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員 がその職務を行うについて故意又は過失によって違法に他人に損害を加えた 際の賠償責任の主体が「国又は公共団体」となっていることからすると、同項の規定により、公務員個人と被害者との間の民法709条等の不法行為の規定の適用は排除されているものと解するのが相当である。また、被害者は国又は公共団体から確実に得られる賠償によって救済が図られることになり、これに加えて公務員個人の責任を追及させる必要はないと考えられ、他方、 仮に公務員個人が個人責任を追及されるおそれがあるということになると、公務員を萎縮させ、公務の適正な執行(不作為を含む。)まで抑制されるおそれがある。さらに、国賠法1条2項により定められる、公務員に故意又は重大な過失があったときに国又は公共団体が当該公務員に対して有する求償権は、公務員個人に対する違法な職務行為の抑止機能を有するものといえる。 以上からすると、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員がその職務について、故意又は過失によって違法に他人に損害を加え、そのため国又は公共団体が国賠法1条1項により賠償責任を負う場合には、当該公務員個人に故意又は重過失がある等の事情の有無にかかわらず、当該公務員 について、故意又は過失によって違法に他人に損害を加え、そのため国又は公共団体が国賠法1条1項により賠償責任を負う場合には、当該公務員個人に故意又は重過失がある等の事情の有無にかかわらず、当該公務員個人は、上記損害を被った被害者に対して民法709条等に基づく損害賠償責任を負 うものではないと解するのが相当であって、被告の個人責任に係る原告の主張は上記1の結論を左右するものではない。 3 よって、原告の請求は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 静岡地方裁判所沼津支部民事部 裁判長裁判官寺本昌広 裁判官篠原絵理 裁判官横井靖世

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