令和7年1月28日判決言渡令和6年(行ウ)第148号行政処分取消請求事件 主文 1 豊島区長が、令和5年2月9日付けで、Aに対してした戸籍謄本を交付しない旨の処分を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求主文同旨第2 事案の概要 本件は、原告の代理人であるA弁護士(以下「本件弁護士」という。)が、豊島区長に対し、戸籍法10条の2第4項に基づき、「面会交流調停申立事件代理業務」のため必要があるとして、原告を筆頭者とする戸籍の謄本(以下、この戸籍を「本件戸籍」といい、その謄本を「本件戸籍謄本」という。)の交付の請求(以下「本件請求」という。)をしたところ、豊島区長から、本件戸 籍に記載されている者について、「ドメスティック・バイオレンス、ストーカー行為等、児童虐待及びこれらに準ずる行為の被害者の保護のための住民基本台帳事務における支援措置」(以下「支援措置」という。)がとられており、同法10条2項に該当するとして、本件戸籍謄本を交付しない旨の処分(以下「本件処分」という。)を受けたため、原告が、被告を相手に、本件処分の取 消しを求める事案である。 1 関係法令等の定め⑴ 戸籍の謄本等の戸籍法等の定めア交付の請求戸籍法10条1項は、戸籍に記載されている者等は、その戸籍の謄本 若しくは抄本又は戸籍に記載した事項に関する証明書(以下「戸籍謄本 等」という。)の交付の請求をすることができる旨を規定し、同条2項は、市町村長は、同条1項の請求が不当な目的によることが明らかなときは、これを拒むことができると規定している。 戸籍法10条の2第1項柱書き前段は、同法10条1項に規定する者以外の者は、①自己の権利を行使し、 は、同条1項の請求が不当な目的によることが明らかなときは、これを拒むことができると規定している。 戸籍法10条の2第1項柱書き前段は、同法10条1項に規定する者以外の者は、①自己の権利を行使し、又は自己の義務を履行するために 戸籍の記載事項を確認する必要がある場合、②国又は地方公共団体の機関に提出する必要がある場合、③上記各場合のほか、戸籍の記載事項を利用する正当な理由がある場合に限り、戸籍謄本等の交付の請求をすることができる旨を規定している。 戸籍法10条の2第4項柱書き前段及び同項1号は、同条第1項等の 規定にかかわらず、弁護士等は、受任している事件について裁判手続又は裁判外における民事上若しくは行政上の紛争処理の手続についての代理業務を遂行するために必要がある場合等には、戸籍謄本等の交付の請求をすることができる旨を規定している。 イ戸籍の記載事項 戸籍法13条は、戸籍には、本籍のほか、戸籍内の各人について、氏名(1号)、出生の年月日(2号)、戸籍に入った原因及び年月日(3号)、実父母の氏名及び実父母との続柄(4号)、養子であるときは、養親の氏名及び養親との続柄(5号)、夫婦については、夫又は妻である旨(6号)、他の戸籍から入った者については、その戸籍の表示(7 号)、その他法務省令で定める事項(8号)を記載しなければならない旨を規定している。そして、戸籍法施行規則30条は、上記の法務省令で定める事項として、戸籍法13条1号から7号までに掲げる事項のほか、身分に関する事項(1号)、届出又は申請の受付の年月日等(2号)、報告の受付の年月日及び報告者の職名(3号)、請求、嘱託又は 証書等の謄本の受付の年月日(4号)、他の市町村長又は官庁からその 受理した届書、申請書その他の書類の送付を 日等(2号)、報告の受付の年月日及び報告者の職名(3号)、請求、嘱託又は 証書等の謄本の受付の年月日(4号)、他の市町村長又は官庁からその 受理した届書、申請書その他の書類の送付を受けた場合には、その受付の年月日及びその書類を受理した者の職名(5号)、戸籍の記載を命ずる裁判確定の年月日(6号)を掲げている。 ⑵ 支援措置に関する通知等の定め支援措置に関する通知等の定めは、別紙2のとおりである。 2 前提事実(証拠等を掲記した事実を除き、当事者間に争いがない。)⑴ 本件戸籍は、原告を筆頭者とする戸籍であり、原告、原告の妻であるB(以下「原告妻」という。)及び原告と原告妻の長男であるC(平成29年▲月▲日生まれ。以下「原告長男」という。)の氏名等が記載され、本籍は、東京都豊島区(住所省略)とされている(乙4)。 ⑵ 豊島区長は、令和4年12月5日、原告妻及び原告長男を支援対象者とする支援措置の申出について、当該申出の受付区市町村長から、当該申出に係る支援を決定した旨の通知を受け、被告においても、当該申出に係る支援の必要があるものとして取り扱うこととした。 ⑶ 原告は、令和5年1月25日、豊島区長に対し、本件戸籍の附票の交付の 請求をしたところ、豊島区長から、上記⑵のとおり取り扱うこととしたことを理由として、上記附票を交付しない旨の処分を受けた。 ⑷ 本件弁護士は、令和5年1月27日、豊島区長に対し、「面会交流調停申立事件代理業務」のために必要がある旨を請求書に記載して、戸籍法10条の2第4項に基づき、本件戸籍謄本1通の交付の請求(本件請求)をした。 豊島区職員は、本件弁護士に対し、面会交流調停の申立てを行う上で本件戸籍謄本が必要であれば、家庭裁判所からの調査嘱託による方 項に基づき、本件戸籍謄本1通の交付の請求(本件請求)をした。 豊島区職員は、本件弁護士に対し、面会交流調停の申立てを行う上で本件戸籍謄本が必要であれば、家庭裁判所からの調査嘱託による方法がある旨を案内したところ、本件弁護士は、仮に本件戸籍謄本を交付できないのであれば、不交付とする旨の処分をしてその通知をするよう求めた。 豊島区長は、令和5年2月9日付けで、本件弁護士に対し、本件戸籍に記 載されている者について、支援措置が実施されているところ、本件戸籍謄本 の記載の一部がその不当な利用につながるものであって、戸籍法10条2項に該当するとして、本件戸籍謄本を交付しない旨の本件処分をした。 ⑸ 原告は、上記⑷の間の令和5年1月31日頃、D家庭裁判所に原告妻を相手方とする面会交流調停の申立てをした(以下、同申立てに係る事件を「本件面会交流調停申立て事件」という。)。本件弁護士は、原告の手続代理人 弁護士として、同日付けで、同裁判所に対し、豊島区長から本件戸籍謄本の交付を拒否されているとして、調査嘱託により本件戸籍謄本を取得されたい旨の上申書を提出した。(甲11)なお、D家庭裁判所は、令和5年3月3日付けで、原告と原告妻との間の夫婦関係調整(円満調整)調停申立て事件に関し、豊島区長に対し、本件戸 籍謄本の送付を求める内容の調査嘱託をしたものの(乙1)、本件面会交流調停申立て事件に関し、豊島区長に対し、本件戸籍謄本に係る調査嘱託をしたことはないが、本件面会交流調停申立て事件は、その後も本件戸籍謄本の提出等がされないまま、手続が進行している(甲13)。 ⑹ 原告は、令和5年3月9日、本件処分を不服として、東京法務局長に対し、 審査請求をしたところ、東京法務局長から、同年11月1日付けで、上記審 がされないまま、手続が進行している(甲13)。 ⑹ 原告は、令和5年3月9日、本件処分を不服として、東京法務局長に対し、 審査請求をしたところ、東京法務局長から、同年11月1日付けで、上記審査請求を棄却する旨の裁決を受けた。 ⑺ 原告は、令和6年4月29日、本件訴えを提起した(顕著な事実)。 3 争点及び争点に関する当事者の主張⑴ 原告適格の有無(争点1) (原告の主張)本件弁護士は、原告から受任した代理業務を遂行するために本件請求を行ったのであり、本件処分により不利益を被るのは本件弁護士に上記業務を委任した原告であるから、原告は、本件処分の取消しを求める原告適格を有するというべきである。 (被告の主張) 本件弁護士は、戸籍法10条の2第4項に基づくいわゆる職務上の請求として本件請求をし、豊島区長は、本件弁護士に対して本件処分をしたのであるから、仮に原告が本件処分により何らかの不利益を被ったとしても、それは事実上の不利益にすぎないというべきである。したがって、原告は、本件処分の取消しを求める原告適格を有しない。 ⑵ 訴えの利益の有無(争点2)(原告の主張)原告は、本件処分により、本件面会交流調停申立て事件に関し、D家庭裁判所に本件戸籍謄本を提出することができておらず、裁判を受ける権利の制約を受けている。本件処分が取り消されることによって、同一理由による戸 籍謄本の交付の請求が可能となることから、本件処分には取消判決によって除去すべき法的効果がある。したがって、原告は、本件処分の取消しを求める狭義の訴えの利益を有する。 (被告の主張)本件面会交流調停申立て事件の手続は、D家庭裁判所において、現に進行 き法的効果がある。したがって、原告は、本件処分の取消しを求める狭義の訴えの利益を有する。 (被告の主張)本件面会交流調停申立て事件の手続は、D家庭裁判所において、現に進行 している上、仮に本件戸籍謄本が必要になった場合には、D家庭裁判所から豊島区長に調査嘱託がされることになるから、同事件の手続に不都合は生じない。したがって、原告には、本件処分を取り消す実際上の必要性がないから、原告は、本件処分の取消しを求める訴えの利益を有しない。 ⑶ 本件処分の適法性(争点3) (被告の主張)本件通達及び本件事務連絡の内容は、合理性を有するから、本件処分が違法となるのは、本件処分に係る豊島区長の判断が、本件通達及び本件事務連絡の記載の趣旨に反する場合に限られるというべきである。 豊島区職員は、本件弁護士から本件請求を受けた後、本件弁護士に対し、 面会交流調停の申立てを行う上で本件戸籍謄本が必要であれば、家庭裁判所 からの調査嘱託による方法がある旨を案内したにもかかわらず、本件弁護士は、本件請求を維持した。また、本件請求は、原告が本件戸籍の附票を交付しない旨の処分を受けてから2日後にされたものである。これらの事情からすれば、本件請求は、「面会交流調停申立事件代理業務」以外の目的によるものであると考えられる。そして、戸籍謄本は、本籍の表示及び届書の受理 者等、支援対象者の居住地を想起させる内容を含み得るものである。そうすると、本件請求は、本件通達における「不当な目的」(戸籍法10条2項)の解釈に照らし、支援対象者である原告妻らのプライバシー侵害につながるものとして、「不当な目的」による請求に該当するというべきである。 また、本件事務連絡においても、本件と類似する事案につき、戸籍全 の解釈に照らし、支援対象者である原告妻らのプライバシー侵害につながるものとして、「不当な目的」による請求に該当するというべきである。 また、本件事務連絡においても、本件と類似する事案につき、戸籍全部事 項証明書を不交付とするのが相当とされ、また、本人等以外の者による戸籍謄本等の交付請求であっても、少なくとも本人等による交付請求において「不当な目的」による請求と判断する事案であれば、戸籍法10条2項を類推適用するのが相当とされている。 したがって、本件処分は、本件通達及び本件事務連絡の記載の趣旨に反す るものではないから、適法である。 (原告の主張)戸籍謄本は、本件事務処理要領等においては、交付の請求を拒否する対象とはされていない。 また、本件は、本件事務連絡において元妻等の住所が判明するおそれがあ るなどとして交付しないこととされた事例とは、事情が異なる。すなわち、戸籍には、本籍地のほか、筆頭者氏名、同一の戸籍に入っている者の氏名、生年月日、父母の氏名、出生地、婚姻日、従前戸籍等が記載されているところ、原告と原告妻は離婚しておらず、同一の戸籍に入っており、本件戸籍謄本は、原告を筆頭者とする原告自身の戸籍謄本であるから、原告にとっては、 本件戸籍に記載されている上記の各記載事項の内容は既知である上、原告妻 らの現在の住所を推察することができる情報は存在しない。 本件弁護士は、面会交流調停の申立てに当たって、戸籍謄本を裁判所に提出することが求められているため、本件請求をしたにすぎず、原告又は本件弁護士は「不当な目的」(戸籍法10条2項)を有していなかった。なお、原告が本件請求の2日前に本件戸籍の附票の交付の請求をしたのは、離婚の 不受理届の申出に原告妻の住所を記載 ぎず、原告又は本件弁護士は「不当な目的」(戸籍法10条2項)を有していなかった。なお、原告が本件請求の2日前に本件戸籍の附票の交付の請求をしたのは、離婚の 不受理届の申出に原告妻の住所を記載する必要があったためであり、本件請求とは関係がない。 したがって、本件処分は違法である。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(原告適格の有無)について 戸籍法10条1項は、戸籍に記載されている者等は、戸籍謄本等の交付の請求をすることができる旨を規定しているところ、同法10条の2第1項は、同法10条1項に規定する者以外の第三者も、自己の権利を行使するために戸籍の記載事項を確認する必要がある場合や、国等の機関に提出する必要がある場合等には、戸籍謄本等の交付の請求をすることができる旨を規定し、同法10 条の2第4項は、弁護士等による戸籍謄本等の交付の請求について、受任事件に紛争性があり、紛争処理手続の代理業務を遂行するために必要がある場合における同条1項等の特則について規定している。これらの規定の内容に鑑みれば、同条4項は、弁護士等が、紛争処理手続の代理業務を遂行するために必要がある場合には、逐一委任を受けることなく、戸籍謄本等の交付の請求をする ことができることとすることにより、迅速に必要十分な紛争処理手続の代理業務を行うことができるようにしたものと解される。 そうすると、紛争処理手続の代理業務の委任を受けた弁護士が、戸籍法10条の2第4項に基づき、戸籍謄本等の交付の請求をしたが、交付しない旨の処分を受けた場合には、当該処分の名宛人は当該弁護士であるものの、当該処分 により、当該業務の委任をした依頼者は、当該弁護士による必要十分な当該業 務の遂行を迅速に受けることが困難になり、ひいては当該紛争処理手続 分の名宛人は当該弁護士であるものの、当該処分 により、当該業務の委任をした依頼者は、当該弁護士による必要十分な当該業 務の遂行を迅速に受けることが困難になり、ひいては当該紛争処理手続における自己の権利の行使等に支障が生ずるおそれがあるのであるから、自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれがあるものといえる。 したがって、原告は、本件処分の取消しを求める原告適格を有するというべ きである。 2 争点2(狭義の訴えの利益の有無)について本件弁護士は、本件処分が取り消された場合には、本件戸籍謄本の交付を受ける可能性を回復することができるのであるから、前記1で述べたところによれば、原告は、本件処分の取消しを求める訴えの利益を有するというべきであ る。この点に関し、被告は、本件戸籍謄本を提出しなくても本件面会交流調停申立て事件の手続は進行している旨の主張をするが、処分の取消しを求める訴えの利益は、被告の主張するような事実上の利益の有無により判断されるものではないから、被告の主張する事情は、上記の判断を左右するものではない。 3 争点3(本件処分の適法性)について ⑴ 被告は、①本件請求に係る経緯や、②戸籍謄本が、本籍の表示、届書の受理者等の支援対象者の居住地を想起させる内容を含み得るものであることからすれば、本件請求は、「不当な目的」(戸籍法10条2項)によるものであるから、同項の類推適用により、本件請求を拒んだ本件処分は適法である旨を主張する。 ⑵アまず、上記⑴②について検討すると、住民票や戸籍の附票については住所が記載事項とされているのと異なり(住民基本台帳法7条7号、17条3号)、戸籍については住所が記載事項とされておらず(戸籍法13条、戸籍法施行規 について検討すると、住民票や戸籍の附票については住所が記載事項とされているのと異なり(住民基本台帳法7条7号、17条3号)、戸籍については住所が記載事項とされておらず(戸籍法13条、戸籍法施行規則30条)、一般的には、戸籍法13条及び戸籍法施行規則30条が掲げる戸籍の記載事項から直ちに支援対象者の住居所 が明らかになるおそれがあるとまではいえない。 もっとも、事案によっては、本件事務連絡の事例1及び2(別紙2の2⑵ア及びイ)のように、戸籍の記載事項から、支援対象者の住居所が明らかになるおそれがある場合もあり得る。 イ本件についてみると、被告は、戸籍謄本について、一般的に、本籍の表示、届書の受理者等の支援対象者の居住地を想起させる内容を含み得ると 主張するのみで、本件戸籍謄本のうち原告妻及び原告長男の居住地を想起させる記載が本籍の表示、届書の受理者及びその他の記載のいずれであるかを明らかにしない。 しかしながら、原告と原告妻との間には、本件処分後においても夫婦関係調整調停事件が係属していたこと(前記前提事実⑸)からすれば、 原告と原告妻は、本件処分当時、婚姻関係にあったと認められるから、本件処分当時、原告、原告妻及び原告長男の本籍は同一であったと認めることができる。そうすると、本件戸籍の本籍の表示が原告妻及び原告長男の住所の探索の端緒となるとは考え難い。 また、上記のとおり、本件処分当時、原告と原告妻とが婚姻関係にあ った以上、本件戸籍には、本件事務連絡の事例1及び2(別紙2の2⑵ア及びイ)のような、離婚後の入籍戸籍(婚姻前の戸籍又は新戸籍)や離婚の届出の受理者の記載がなかったことは明らかである。 そして、本件全証拠によっても、他に、本件戸籍に、原告妻及び原告長男の住所の探索の端緒となる な、離婚後の入籍戸籍(婚姻前の戸籍又は新戸籍)や離婚の届出の受理者の記載がなかったことは明らかである。 そして、本件全証拠によっても、他に、本件戸籍に、原告妻及び原告長男の住所の探索の端緒となるような届書の受理者等の記載があったこと をうかがわせる事情は見当たらない。 ⑶ 次に、上記⑴①については、確かに、本件弁護士は、調査嘱託により本件請求の目的を達することができる旨の案内がされた後も本件請求を維持したものであるが(前記前提事実⑷)、家庭裁判所は、家事調停の申立てをした者又はしようとする者に対し、当該申立てに係る身分関係について の資料の提出を求めることができるとされており(家事事件手続規則(令 和5年最高裁判所規則第7号による改正前のもの)127条、37条)、実務上、面会交流調停申立て事件について、未成年者の戸籍謄本(全部事項証明書)の提出を求める取扱いがされていることは、当裁判所に顕著な事実である。他方で、上記⑵アのとおり、住所は戸籍の記載事項とされておらず、本件事務処理要領等(別紙2の1⑴及び⑶)においても、支援措 置がとられている場合に一般的に戸籍謄本の交付の請求の拒否をすることができるとはされていないのであって、本件事務連絡(別紙2の2⑵)においても、当該事案の事実関係の下で戸籍謄本の記載から被害者の住所が判明するおそれがある場合に戸籍謄本の交付をしない事例が1例紹介されているにとどまり(他の2例は、交付をした事例及び上記のおそれがある 記載をマスキング処理した上で交付した事例である。)、最高裁事務連絡(別紙2の3)にも、戸籍謄本の交付の請求に関する明示的な記載はない。 これらのことからすれば、本件弁護士において、調査嘱託により本件請求の目的を達することができる旨の案内がされた後も本件請 事務連絡(別紙2の3)にも、戸籍謄本の交付の請求に関する明示的な記載はない。 これらのことからすれば、本件弁護士において、調査嘱託により本件請求の目的を達することができる旨の案内がされた後も本件請求を維持したとしても、そのことから直ちに本件請求の目的が本件戸籍謄本の記載を原告 妻及び原告長男の居住地の探索の端緒とすることにあったものと認めることは困難である。 また、原告は、本件請求の2日前に、本件戸籍の附票の交付の請求をし、交付しない旨の処分を受けたが(前記前提事実⑶)、原告が、上記処分を受けた後、同日中に、申出書の原告妻の住所欄を空欄にしたまま、離婚届 の不受理申出をしたこと(甲13、14の2、甲15)からすれば、上記請求は、上記申出書の原告妻の住所欄に原告妻の住所を記載するためにしたものと認められる。そして、原告が、上記申出をした後においても、原告妻の住所を把握しようとしていたことをうかがわせる事情はない。 ⑷ 以上からすれば、本件弁護士が、原告又は本件弁護士において本件戸籍謄 本の記載を原告妻及び原告長男の住所の探索の端緒とするために、本件請 求をしたと認めることはできない。 そうすると、戸籍法10条の2第4項に基づく請求について、同法10条2項の類推適用がされるとしても、本件請求が「不当な目的によることが明らかなとき」(同項)に当たるということはできないから、被告の上記⑴の主張は採用することができない。 したがって、本件処分は、違法であるといわざるを得ない。 第4 結論よって、原告の請求は理由があるからこれを認容することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第38部 裁判長裁判官鎌野 結論 よって、原告の請求は理由があるからこれを認容することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第38部 裁判長裁判官鎌野真敬 裁判官志村由貴 裁判官都 築 健太郎 (別紙1 省略) (別紙2)支援措置に関する通知等の定め 1 支援措置に関するもの⑴ 住民基本台帳事務処理要領(昭和42年10月4日付け法務省民事甲第26 71号等各都道府県知事宛て民事局長等通知。以下「本件事務処理要領」という。乙2)本件事務処理要領においては、市町村長は、ドメスティック・バイオレンス等の加害者(以下、単に「加害者」といい、ドメスティック・バイオレンス等の被害者を、単に「被害者」という。)が、住民基本台帳の一部の写し の閲覧及び住民票の写し等の交付並びに戸籍の附票の写し等の交付の制度を不当に利用して被害者の住所を探索することを防止し、もって被害者の保護を図ることを目的として、支援措置を講ずるものとされている(本件事務処理要領第5-10柱書き)。また、支援措置の内容については、①支援措置の対象者(以下「支援対象者」という。)に係る住民基本台帳の一部の写し の閲覧については、加害者から申出がされる場合に、住民基本台帳法11条の2第1項各号に掲げる活動に該当しないとして申出を拒否し(本件事務処理要領第5-10コ(ア)(A))、②住民票(世帯を単位とする住民票を作成している場合にあっては、支援対象者に係る部分)の写し等及び戸籍の附票(支援対象者に係る部分)の写しの交付については、 事務処理要領第5-10コ(ア)(A))、②住民票(世帯を単位とする住民票を作成している場合にあっては、支援対象者に係る部分)の写し等及び戸籍の附票(支援対象者に係る部分)の写しの交付については、加害者から請求又は申 出がされた場合、不当な目的があるものとして請求を拒否し、又は同法12条の3第1項各号、15条の4第3項各号、20条3項各号若しくは21条の3第3項各号に掲げる者に該当しないとして申出を拒否する(本件事務処理要領第5-10コ(イ)(A))などとされている。 ⑵ 「ドメスティック・バイオレンス、ストーカー行為等、児童虐待及びこれ らに準ずる行為の被害者の保護のための住民基本台帳事務における支援措置 に関する取扱いについて」と題する通知(平成30年3月28日付け総行住第58号各都道府県住民基本台帳担当部長等宛て総務省自治行政局住民制度課長通知。甲5の6)同通知は、支援措置に関し、住民基本台帳法12条の3第1項の規定により、特定事務受任者から加害者の代理人として住民票の写し等の交付の申出 があった場合、又は同条第2項の規定により、受任している事件又は事務の依頼者が加害者である特定事務受任者から住民票の写し等の交付の申出があった場合、加害者から当該申出があったものと同視し、本件事務処理要領第5-10コ(イ)(A)により対応することとしている。 ⑶ 豊島区ドメスティック・バイオレンス、ストーカー行為等、児童虐待及び これらに準ずる行為の被害者の支援に関する住民基本台帳事務取扱要綱(以下、本件事務処理要領と併せて「本件事務処理要領等」という。甲5の4)同要綱は、加害者が、住民基本台帳の一部の写しの閲覧及び住民票の写し等の交付並びに戸籍の附票の写しの交付の制度を不当に利用して、被害者の と併せて「本件事務処理要領等」という。甲5の4)同要綱は、加害者が、住民基本台帳の一部の写しの閲覧及び住民票の写し等の交付並びに戸籍の附票の写しの交付の制度を不当に利用して、被害者の住所を探索することを防止し、もって被害者の支援を図ることを目的として 定められたものであり、支援措置の内容についての定めは本件事務処理要領における定め(上記⑴)と同旨である。 2 戸籍法10条2項の「不当な目的」等に関するもの⑴ 「戸籍法及び戸籍法施行規則の一部改正に伴う戸籍事務の取扱いについて」平成20年4月7日付け法務省民一第1000号法務省民事局長通達。以下 「本件通達」という。甲5の7)同通達は、戸籍法10条2項にいう「不当な目的」に該当する場合とは、嫡出でない子であることや離婚歴等他人に知られたくないと思われる事項をみだりに探索し又はこれを公表するなどプライバシーの侵害につながるもの、その他戸籍の公開制度の趣旨を逸脱して戸籍謄本等を不当に利用する場合を いうとしている。 ⑵ 「DV被害者等の記載がある戸籍謄本等の取扱いについて」と題する事務連絡(令和2年4月3日付け法務局民事行政部戸籍課長等宛て法務省民事局民事第一課補佐官事務連絡。以下「本件事務連絡」という。甲5の8、乙3)同事務連絡は、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律1条2項に規定する被害者等の記載がある戸籍謄本等の扱いについて、戸籍法 10条2項の「不当な目的」による請求であるか否かを判断するための参考事例として、次の各事例を紹介している。 ア事例1加害者である元夫から戸籍全部事項証明書の交付の請求がされたところ、被害者である元妻等の除籍後の本籍と住所とが一致しているため、当該戸 事例として、次の各事例を紹介している。 ア事例1加害者である元夫から戸籍全部事項証明書の交付の請求がされたところ、被害者である元妻等の除籍後の本籍と住所とが一致しているため、当該戸 籍の全部事項証明書の離婚事項欄や入籍事項欄に記載されている入籍戸籍の記載により、元妻等の住所が判明するおそれがあることから、面会交流調停の申立てに当該戸籍を必要とするのであれば、最寄りの家庭裁判所に調査嘱託による方法について相談するよう案内した事例(なお、同事例に係る「その他」欄には、同事例が戸籍法10条の2による請求の場合、本 人等による交付請求において「不当な目的」による請求と判断し得る事案であれば、同法10条2項を類推適用して、不交付とするのが相当と考える旨の記載がある。)。 イ事例2加害者である元夫から戸籍の一部事項証明書(元夫に係る部分)の交付 の請求がされたところ、被害者である元妻は元夫と裁判離婚をした上で単独で元妻の住所地の市長に対して離婚の届出をし、上記一部事項証明書の離婚事項欄においても受理者として上記市長が記載されているため、この記載により被害者の住所探索の端緒となるおそれがあることから、上記受理者の記載についてマスキング処理をした上で上記一部事項証明書の交付 をした事例。 ウ事例3加害者である元夫から被害者である元妻を筆頭者とする戸籍の全部事項証明書の交付の請求がされたところ、元妻の本籍と住所は同一であるものの、元夫は既に本籍を把握しているため、上記全部事項証明書を交付して差支えないと判断した事例。 3 裁判所の対応等に関するもの「DV等支援措置に関する取扱いの総務省自治行政局住民制度課長通知への対応等について(事務連絡)」と題する事務連絡(平成30年11月3 いと判断した事例。 3 裁判所の対応等に関するもの「DV等支援措置に関する取扱いの総務省自治行政局住民制度課長通知への対応等について(事務連絡)」と題する事務連絡(平成30年11月30日付け訟ろ-01高等裁判所事務局長等宛て最高裁判所事務総局民事局第一課長等事務連絡。以下「最高裁事務連絡」という。甲8の5) 同事務連絡の別紙においては、上記1⑵の通知に関し、民事訴訟事件、人事訴訟事件及び家事事件の処理に際して留意すべき事項等がまとめられているところ、同別紙には、「原告等又はその代理人から、被告等の住所を住居所不明と記載した訴状等と共に、被告等の住民票の写し等がDV等支援措置の対象となっているため被告等の住所を調査することができない事情を報告する資料が提出された場 合には(中略)、裁判所が、当事者の特定や被告に対する訴状等の送達場所等の特定をするため、市町村に対して被告等の住所に関する調査嘱託(中略)を行うことが考えられる」との記載がある。 以上
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