平成14年(ワ)第1392号損害賠償請求事件判決 主文 1被告は,原告Aに対し,5216万5759円並びにうち3476万5759円に対する平成4年12月25日から支払済みまで,及びうち1740万円に対する平成12年6月15日から支払済みまで,それぞれ年5分の割合による金員を支払え。 2被告は,原告Bに対し,1738万8586円並びにうち1158万8586円に対する平成4年12月25日から支払済みまで,及びうち580万円に対する平成12年6月15日から支払済みまで,それぞれ年5分の割合による金員を支払え。 3原告らのその余の請求を棄却する。 4訴訟費用は,これを16分し,その3を原告A,その1を原告Bの負担とし,その余は被告の負担とする。 5この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1請求(原告ら)1被告は,原告Aに対し,6846万7500円並びにうち4795万5000円に対する平成4年12月25日から支払済みまで,及びうち2051万2500円に対する平成12年6月15日から支払済みまで,それぞれ年5分の割合による金員を支払え。 2被告は,原告Bに対し,2282万2500円並びにうち1598万5000円に対する平成4年12月25日から支払済みまで,及びうち683万7500円に対する平成12年6月15日から支払済みまで,それぞれ年5分の割合による金員を支払え。 3訴訟費用は被告の負担とする。 4仮執行宣言(被告)1原告らの請求を棄却する。 2訴訟費用は原告らの負担とする。 第2事案の概要本件は,Cの相続人である原告らが,①Cが被告の設置運営するD病院(以下「被告病院」という。)において左腓骨神経麻痺と診断されて通院治療中に閉塞性動脈硬化症によって左下腿に壊疽を来たし,左股関節離断及び下肢機能障害の後遺症を 告らが,①Cが被告の設置運営するD病院(以下「被告病院」という。)において左腓骨神経麻痺と診断されて通院治療中に閉塞性動脈硬化症によって左下腿に壊疽を来たし,左股関節離断及び下肢機能障害の後遺症を負ったこと(以下「第1事故」という。)並びに②Cが被告病院にイレウスの治療目的で入院していたところ穿孔性腹膜炎によって死亡したこと(以下「第2事故」という。)につき,被告に対し,それぞれ(a)主位的に民法715条1項に基づき,(b)予備的に同法415条に基づき,損害の賠償を求めた事案である。 1前提事実(1)当事者間に争いのない事実並びに甲A2号証,甲C1,3及び4号証,乙A1,12及び13号証,証人E,同Fの各証言,原告B本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。 ア(原告ら)原告Aは,平成12年6月15日に被告病院で死亡したC(昭和8年9月18日生)の妻であり,原告AとCとの間には,原告B及び亡G(平成14年6月2日死亡。)の二人の子がいる。 原告Aは,亡Gの死亡に伴いその地位を承継した。 Cは,第1事故当時,個人で左官や造園の仕事を営んでいた。 イ(第1事故の経過。なお,第1事故につき平成4年は月日のみで表示する。)(ア)a9月9日,Cは,「10日前から突然左足関節が腫れ,痛みが出た。その後,足関節の屈曲が不自由になって,歩行が困難になった。」旨を訴えて被告病院外科外来を受診した。 同科から依頼を受けた整形外科のE医師が診察したところ,Cは,「10日くらい前,木に登った際に無理な体勢となり,左足関節をねじった。その日の夕方には左足関節に腫れ,痛みが生じ,歩きづらくなった。その後も歩行痛がある。」旨などを述べた。 b診察の結果,Cには,①左足関節の腫脹,足関節の動きの減少があり,局所熱感はなし,②背屈(足首を甲側に曲げる 左足関節に腫れ,痛みが生じ,歩きづらくなった。その後も歩行痛がある。」旨などを述べた。 b診察の結果,Cには,①左足関節の腫脹,足関節の動きの減少があり,局所熱感はなし,②背屈(足首を甲側に曲げること)不可能,底屈(足首を足裏側に曲げること)可能,③長母趾伸筋,総趾伸筋,前脛骨筋の徒手筋力テストの結果が0(徒手筋力テストは,0から5までの6段階で評価され,5が正常で,0は筋肉の収縮が全く見られない状態をいう。),④左下腿外側から足背の母趾にかけての知覚鈍麻,⑤左腓骨小頭部にチネル徴候(末梢神経の障害において,障害部位をたたいたときに,障害部位から当該神経の支配領域にかけて放散する痛みがあること)ありの各所見が認められた。 cE医師は,上記所見からCの疾患を左腓骨神経麻痺と診断し,Cに対し,いずれもビタミン剤であるメチコバール(1日分3錠),ユベラN(同3錠)及びアリナミンF(同3錠)をそれぞれ14日分処方した。 (イ)a同月18日,Cは,被告病院整形外科を再診した。 同科のH医師が診察したところ,Cは,「しびれと痛みが大分楽になった。歩けるようになった。」旨述べた。 b診察の結果,Cには,①足背部の第3趾から第5趾にかけての知覚鈍麻,②長母趾伸筋及び総趾伸筋の徒手筋力テストの結果が2弱(2は,重力による抵抗を除けば可動域を動かすことができる状態をいう。)の各所見が認められた。 cH医師は,Cに対し,9月9日と同じ薬剤を処方した。 (ウ)その後,Cは,10月2日,同月16日,同月30日,11月13日,同月27日及び12月11日に被告病院に来院したが,いずれの場合も医師による診察を受けず,整形外科にて薬剤の処方を受けただけであった。 (エ)12月25日,Cは,被告病院整形外科を受診し,医師による診察を受けたところ,左膝より下に壊死を来しており,手術 れの場合も医師による診察を受けず,整形外科にて薬剤の処方を受けただけであった。 (エ)12月25日,Cは,被告病院整形外科を受診し,医師による診察を受けたところ,左膝より下に壊死を来しており,手術目的で同科に入院となった。 同日,被告病院心臓血管外科において血管造影検査が実施された結果,Cの腹部下行大動脈の腎動脈分岐部直下に完全閉塞が認められたことから,両下肢閉塞性動脈硬化症と診断され,同日,被告病院整形外科において,Cに対して左股離断の緊急手術が実施された。 (オ)平成5年1月21日,Cは手術目的で被告病院胸部外科に転科し,同日,同科において腹部大動脈等のバイパス手術及び左内腸骨動脈再建術が実施された。 (カ)Cは,同月22日に術後の離床を早める目的で被告病院リハビリ科に転科した後,同年2月5日,被告病院整形外科に転科し,同年3月31日,同科を退院した。 (キ)同年6月14日,Cは,左下肢動脈閉塞症による左股関節離断及び下肢機能障害を理由として,愛知県から身体障害者等級表による級別3級の認定を受けた。 ウ(第2事故の経過。なお,第2事故につき平成12年は月日のみで表示する。)(ア)Cは,前記腹部大動脈等のバイパス手術等を受けた後,イレウスを患うようになり,平成10年2月21日から同年3月9日まで,平成11年1月1日から同年2月2日まで,同年7月3日から同月22日まで及び同年12月11日から同月22日までの計4回にわたり,いずれもイレウスに対する保存的治療の目的で被告病院内科に入院した。 (イ)その後,Cは,1月14日から6月6日までの間,計10回にわたり,被告病院内科に通院した。 (ウ)Cは,6月10日夜から腹痛を覚え,同月11日には一旦軽快したものの,同月13日には再び腹痛が増悪したことから,同日午後8時55分,被告病院救急外来を受診し,術 り,被告病院内科に通院した。 (ウ)Cは,6月10日夜から腹痛を覚え,同月11日には一旦軽快したものの,同月13日には再び腹痛が増悪したことから,同日午後8時55分,被告病院救急外来を受診し,術後の癒着によるイレウス(癒着性イレウス)と診断された。 (エ)同月14日午後2時ころ,Cは,空床を待って被告病院内科に入院し,F医師が主治医となった。 (オ)同月15日午後5時ころ,Cは,敗血症性ショック状態に陥った。 そこで,被告病院の医師らがCに対する緊急手術を行おうとしたが,Cは,麻酔を投与した段階で心停止を来たし,同日午後11時48分,絞扼性イレウスを原因とする穿孔性腹膜炎によって死亡した。 (2)腓骨神経麻痺について(甲B5号証,乙B1号証)ア腓骨神経は,総腓骨神経とそこから分岐する浅腓骨神経及び深腓骨神経とから成る。 イ総腓骨神経麻痺は,腓骨頭部での外部からの圧迫が原因となることが多く,下腿外側から足背(第5趾を除く。)に知覚障害を示し,しびれ感や知覚鈍麻を訴える場合が多い。また,足関節及び足趾の背屈力が低下ないし消失し,高度麻痺例では下垂足を呈する。神経圧迫部位や絞扼部位に圧痛やチネル徴候を認める。 ウ浅腓骨神経麻痺は,腓骨骨折や下腿挫傷による急性区画症候群に伴い発生し,下腿遠位部での障害の場合,純粋に知覚障害となり,第1趾ないし第2趾の間と第5趾を除く足背部に知覚障害が発生する。 エ深腓骨神経麻痺は,下腿区画症候群のほか,足根骨の背側における靴による反復性の圧迫が原因となることがあり,第1趾ないし第2趾間部の知覚障害と足趾の背屈力の低下が出現する。 (3)閉塞性動脈硬化症について(甲B1号証,乙B1号証)ア閉塞性動脈硬化症は,四肢及び四肢につながる主幹動脈に粥状硬化性変化が起き,狭窄,閉塞を生じて種々の虚血性変化を呈する疾患であって, する。 (3)閉塞性動脈硬化症について(甲B1号証,乙B1号証)ア閉塞性動脈硬化症は,四肢及び四肢につながる主幹動脈に粥状硬化性変化が起き,狭窄,閉塞を生じて種々の虚血性変化を呈する疾患であって,50歳以上の男性に多く認められ,①趾(指)のしびれ,冷感,皮膚の色調異常,②腓腹筋部,臀部,大腿部の疼痛,③間欠性跛行,④脛骨動脈,足背動脈,膝窩動脈,大腿動脈などの拍動消失などの所見が認められる。問診では,虚血性心疾患,糖尿病,高脂血症,喫煙など,動脈硬化の危険因子を持っていないかを確認することが必要とされる。 イ閉塞性動脈硬化症の重症度判定(フォンテイン分類)は,次のとおりとされている。 第1度四肢の冷感,しびれ感,皮膚色調異常第2度間欠性跛行(運動負荷時の血液供給が不十分なため,歩行時に足底筋,排腹筋,大腿筋,臀筋に疼痛を来たして立ち止まらざるを得なくなる症状。)第3度安静時疼痛(側副血行路の代償が悪く,安静時に要する血液供給さえも不足することにより生じ,夜間に強く自覚される。)第4度指趾の壊死,潰瘍(足部全体が高度の虚血に陥った結果,虚血の程度が最も強い足趾から徐々に壊疽を来す。)(4)イレウスについて(甲B2,4,9,11号証,乙B2,3号証)ア(ア)イレウスとは,何らかの原因によって腸管内容の通過障害を来した病態をいい,腸内腔が機械的に閉塞されている機械的イレウスと,腸管に分布する神経や血管の障害によって腸内容が停滞する機能的イレウスとに大別される。さらに,前者は,腸管への血流障害を伴わない単純性イレウス(閉塞性イレウス)と,腸管への血流障害を伴う絞扼性イレウス(広義)(複雑性イレウス。以下,特に断りのない限り,絞扼性イレウスとは広義の意味で使用する。))とに分類される。 (イ)単純性イレウスの原因としては,①先天的なもの, の血流障害を伴う絞扼性イレウス(広義)(複雑性イレウス。以下,特に断りのない限り,絞扼性イレウスとは広義の意味で使用する。))とに分類される。 (イ)単純性イレウスの原因としては,①先天的なもの,②異物(回虫,胆石など)による閉塞,③腸壁の器質的変化(腫脹,屈曲や癒着,圧迫等)による閉塞などがあり,絞扼性イレウスの原因としては,①絞扼によるもの(狭義の絞扼性イレウス),②腸重積,③腸管軸捻症や腸管結節形成症,④内・外ヘルニアの嵌頓などがある。 イ(ア)絞扼性イレウスでは,絞扼部の腸管に静脈系の閉塞が起こり,静脈の拡張,浮腫が起こるとともに,反応性に動脈系の攣縮が起こる。そこで,粘膜出血,血栓形成などによって腸管は阻血状態となる。粘膜は壊死を来し,容易に感染症が惹起され,腸管内の細菌のみならず,壊死によって生じた他の代謝物も腹腔内に漏出することとなる。この状態は,全身性の敗血症に移行し,重篤な多臓器不全へと進展することとなる。腸管壁の壊死が進行すると,ついには穿孔を来たし,汎発性腹膜炎の状態となる。このような病態の変化は比較的急速であり,早期に治療を開始しないと容易に細菌性ショックの状態となって致死的であり,極めて重篤な病態である。 (イ)そのため,絞扼性イレウスは,外科的治療の絶対適応とされ,保存的治療による経過観察や処置の遅延は致命的となる。これに対し,単純性イレウスでは,保存的治療が第一選択となり,絶飲食による腸管の安静とチューブによる減圧,補液による脱水や電解質異常の補正が基本となる。減圧チューブには,胃管とイレウス管(全長が胃管より長く,先端が小腸から大腸にまで進めることが可能)がある。 2争点(第1事故)(1)鑑別検査を怠った過誤の有無(2)経過観察を怠った過誤の有無(3)因果関係の存否(第2事故)(4)腹痛の患者に対す 先端が小腸から大腸にまで進めることが可能)がある。 2争点(第1事故)(1)鑑別検査を怠った過誤の有無(2)経過観察を怠った過誤の有無(3)因果関係の存否(第2事故)(4)腹痛の患者に対する診察等を怠った過誤の有無(5)急性腹症の鑑別を怠った過誤の有無(6)絞扼性イレウスの鑑別を怠った過誤の有無(7)穿孔性腹膜炎の鑑別を怠った過誤の有無(8)経過観察を怠った過誤の有無(9)包括的義務違反の有無(10)ソセゴンを投与した過誤の有無(11)因果関係の存否(第1事故・第2事故共通)(12)損害額3争点についての当事者の主張(1)鑑別検査を怠った過誤の有無(第1事故)(原告らの主張)ア以下の事情によると,Cは,9月9日時点で,又は遅くとも9月18日時点ですでに閉塞性動脈硬化症を発症しており,フォンテイン分類で第2度の状態にあったものと考えられる。 (ア)Cが,12月25日までに閉塞性動脈硬化症を発症したこと自体は争いがない。 (イ)9月9日時点及び9月18日時点の症状と12月25日時点の症状とは,その部位が一致しているだけでなく,症状に連続性が認められ,フォンテイン分類による症状の進行状況ともよく一致している。 (ウ)Cの9月9日時点の主訴,具体的には,歩行困難,左足の腫脹,疼痛及びしびれは,閉塞性動脈硬化症の症状に符合する。特に,歩行困難は,間欠性跛行という閉塞性動脈硬化症の典型的な症状である。 (エ)Cには,喫煙の習慣があった上,糖尿病の徴候のあった可能性も否定できず,閉塞性動脈硬化症を起こす危険因子があった。 (オ)E医師は,9月9日時点でCの疾患を腓骨神経麻痺と診断しているが,Cの現病歴からは腓骨神経麻痺の発症原因が不明であり,腓骨神経麻痺以外の病変である可能性を否定できない。Cは,上記時点の診察時に,「木に登って無理 月9日時点でCの疾患を腓骨神経麻痺と診断しているが,Cの現病歴からは腓骨神経麻痺の発症原因が不明であり,腓骨神経麻痺以外の病変である可能性を否定できない。Cは,上記時点の診察時に,「木に登って無理な体勢をとった。」旨述べているが,腓骨頚部付近で腓骨神経が圧迫され,外傷を負うような外圧が加わるとは考えられない。 イしかるところ,上記ア(ウ)ないし(オ)の事情を考慮すると,E医師は9月9日時点で,H医師は9月18日時点で,それぞれ閉塞性動脈硬化症の可能性を念頭に置くべきであり,その時点で,血管外科医に相談して,同医師の下,Cに対して超音波ドプラー聴診器及び血管造影検査による鑑別検査を行うべきであったにもかかわらず,これを怠った。 (被告の主張)ア原告らの主張は,Cが9月9日時点で左足の歩行困難,腫脹,疼痛及びしびれを訴えていたことを主たる根拠として,Cが9月9日時点,又は遅くとも9月18日時点で閉塞性動脈硬化症(フォンテイン分類第2度)を発症していたことを前提にするものであるところ,以下の事情によると,Cが9月9日時点及び9月18日時点で閉塞性動脈硬化症(フォンテイン分類第2度)を発症していたものとは認めることができないから,原告らの主張には理由がないというべきである。 (ア)腫脹は著明なものではなかったし,そもそも,腫脹そのものは閉塞性動脈硬化症の所見とは無関係である。 (イ)Cは,知覚鈍麻を訴えたのであり,当時,鎮痛剤が投与されていないことによると,疼痛の訴えはなかったか,鎮痛剤の投与を必要とする程度のものではなかったものと考えられる。 (ウ)閉塞性動脈硬化症の場合,しびれは知覚鈍麻というよりも,むしろ知覚異常であり,安静時にもぴりぴりするとか,物が触れた時などに普通とは異なる感覚を受けるものをいい,末梢神経の支配領域に一致した範囲に出 閉塞性動脈硬化症の場合,しびれは知覚鈍麻というよりも,むしろ知覚異常であり,安静時にもぴりぴりするとか,物が触れた時などに普通とは異なる感覚を受けるものをいい,末梢神経の支配領域に一致した範囲に出現するものではなく,四肢の末端に手袋状,足袋状などの形で現れるところ,Cの訴えたしびれは,これと異なり左腓骨神経領域の知覚鈍麻であった。 (エ)歩行困難にはいろいろな状態があるから,歩行困難が必ずしも間欠性跛行であるとはいえないところ,Cは,9月9日及び9月18日に歩行ができない状態であったことから,間欠性跛行ではなかった。 (オ)9月9日時点におけるCの所見は,左腓骨神経支配領域の知覚鈍麻,足関節及び足趾の徒手筋力テストの結果が0,背屈不可能,底屈可能,左腓骨小頭部のチネル徴候であり,これらは,典型的な腓骨神経麻痺の所見である。 イ仮に,Cが9月9日時点ですでに閉塞性動脈硬化症を発症していたとしても,(a)上記ア(ア)ないし(オ)によると,E医師がこの時点でCの疾患を腓骨神経麻痺と診断したことは適切であり,閉塞性動脈硬化症の可能性を念頭に置き,鑑別検査を行う義務があったとはいえない。また,(b)9月18日時点では,Cが「しびれと痛みがだいぶ楽になった。 歩けるようになった。」旨述べたこと,並びに長母趾伸筋及び総趾伸筋の筋力が0から2に改善されていたことによると,H医師が9月9日と同様の薬剤を処方したことは適切であり,この時点でも,閉塞性動脈硬化症の可能性を念頭に置き,鑑別検査を行う義務があったとはいえない。 (2)経過観察を怠った過誤の有無(第1事故)(原告らの主張)仮に,9月9日時点及び同月18日時点で鑑別検査を怠った過誤が認められないとしても,以下の事情によると,被告病院の整形外科医らは,Cの診察をすべきであったにもかかわらず,10月2日か 原告らの主張)仮に,9月9日時点及び同月18日時点で鑑別検査を怠った過誤が認められないとしても,以下の事情によると,被告病院の整形外科医らは,Cの診察をすべきであったにもかかわらず,10月2日から12月11日までの約3か月間,計6回にわたり,Cに対して薬剤を処方するのみで全く診察していない。 ア診察することなく薬を処方することは,違法である。すなわち,医師が患者に対して薬剤を処方する際には,患者を診察し,その結果に基づいて行うことが医師としての当然の義務であって,仮に患者が受診を拒否したとしても,医師は上記義務を免れるものではなく,患者が飽くまでも受診を拒否する場合には,薬剤を処方すべきではない。 イCは,9月9日の診察時から,痛みによる歩行困難のために病院内で車いすを使用していたから,上記整形外科医らは,Cの症状の深刻さを十分知り得る状況にあった。 ウ9月18日にCを診察した整形外科医は,Cに対し,処方した薬剤がなくなる10月6日に再診するように指示しており,経過観察の必要性を認識していた。 エCは,処方された薬剤を飲み続けても症状が改善しないばかりか,かえって痛みが激しくなったことから,再診を予約した10月6日より4日も早い10月2日に被告病院を受診していた。 オ上記整形外科医らは,Cが薬剤の処方を受けに来た際に同人のカルテを読めば,Cに再診が予定されていたことを知り得る立場にあった。 カ腓骨神経麻痺の場合,3か月間経過を観察すべきものとされている。 (被告の主張)ア被告病院の整形外科医らが経過観察を怠ったのではなく,Cが再診の予約をしておきながら受診しなかったのである。本来,治療を受ける意思があるのであれば,患者が主体的に受診すべきであって,受診を希望していない患者に対して医師が受診するように無理強いすることはできない。 被告病院では, ら受診しなかったのである。本来,治療を受ける意思があるのであれば,患者が主体的に受診すべきであって,受診を希望していない患者に対して医師が受診するように無理強いすることはできない。 被告病院では,再診の外来患者が投薬のみを希望した場合には,無診療で薬剤を処方する仕組みを取っていたが,これは,被告病院が患者の便宜を考えたものであるから,これを医師の過失ということは本末転倒である。 イ仮に,Cが10月2日には下肢の疼痛のために寝たきりになっていたのであれば,Cの家族が,薬剤を受け取るために被告病院に来院した際に,Cの状態を告げるべきだったのである。 (3)因果関係の存否(第1事故)(原告らの主張)ア鑑別検査を怠った過誤との因果関係(ア)9月9日時点又は同月18日時点で鑑別検査が行われていれば,その時点で下肢血流の異常が察知され,直ちに血管造影検査が行われて閉塞性動脈硬化症の診断ができたはずである。 (イ)仮に,上記時点で閉塞性動脈硬化症の診断ができなかったとしても,E医師又はH医師が閉塞性動脈硬化症の発症を疑って,その旨をカルテ上に記載していれば,被告病院の整形外科医らは,10月2日から12月11日までの間にCを診察したはずであり,その時点で,閉塞性動脈硬化症の症状に気付いたことは明らかであるから,鑑別検査が行われて,上記(ア)と同様に閉塞性動脈硬化症の診断ができたはずである。 (ウ)そして,上記(ア)及び(イ)いずれの場合であっても,直ちに血行再建術等の処置が執られたはずであるから,その時点で,閉塞性動脈硬化症の進行は阻止されて,左股関節離断及び下肢機能障害という結果を回避することができたというべきである。 イ経過観察を怠った過誤との因果関係被告病院の整形外科医らが10月2日から12月11日までの間にCの診察を一度でもしていれば,閉塞性動 下肢機能障害という結果を回避することができたというべきである。 イ経過観察を怠った過誤との因果関係被告病院の整形外科医らが10月2日から12月11日までの間にCの診察を一度でもしていれば,閉塞性動脈硬化症の症状に気付いたことは明らかであるから,直ちに鑑別検査が行われて閉塞性動脈硬化症の診断ができ,上記ア(ウ)と同様に左股関節離断及び下肢機能障害という結果を回避することができたというべきである。 (被告の主張)ア前記のとおり,Cの疾患は,9月9日時点及び同月18日時点では,左腓骨神経麻痺だったのであり,閉塞性動脈硬化症ではなかった。 イそして,Cが12月11日に被告病院に来院後,12月25日に被告病院整形外科を受診するまで被告病院を受診した事実がないことによると,Cの場合,12月23日又は同月24日に動脈閉塞が急速に進行したものと考えられる。 (4)腹痛の患者に対する診察等を怠った過誤の有無(第2事故)(原告らの主張)アCは腹痛を訴えて被告病院救急外来を受診し,被告病院内科に入院したのであるから,F医師又はその他の被告病院の内科医らは,上記入院の時点でCを診察し,同人に対してレントゲン検査,血液検査及び腹部CT検査を行って,より緊急かつ慎重に鑑別すべきであったにもかかわらず,F医師らはCを診察すらしていない。なお,カルテには,F医師が記載したと思われる上記時点の記事があるが,これは,おそらく同日午後9時ころに記載されたものにすぎない。 イ被告は,Cが上記時点で,看護師に対して症状の緩和を伝えていたとして,上記時点で上記検査を行う必要性はなかった旨主張し,これに沿う看護記録の記載もある。しかし,この記載は,上記カルテ記事の内容と矛盾している上,仮に上記記載の内容が正しく,上記時点でCの症状が緩和していたとしても,消化管穿孔の場合には,漏出液が 張し,これに沿う看護記録の記載もある。しかし,この記載は,上記カルテ記事の内容と矛盾している上,仮に上記記載の内容が正しく,上記時点でCの症状が緩和していたとしても,消化管穿孔の場合には,漏出液が反応性腹水で希釈されることにより,痛みの軽減することがあり得るし,絞扼性イレウスの場合には,腸管の内圧亢進,虚血による内臓痛が余りに強いために腸管が壊死を来し,内臓痛が感じられなくなったり,相対的に痛みが軽減したりすることがあり得るから,上記主張には理由がないというべきである。 (被告の主張)被告病院内科に入院した時点では,Cは,看護師に対して症状の緩和を伝えていた上,絶食,輸液及び抗生剤投与が行われて体温及び血圧も落ち着いていたから,上記時点で,腹部レントゲン検査,血液検査及び腹部CT検査を行う必要性はなかった。 (5)急性腹症の鑑別を怠った過誤の有無(第2事故)(原告らの主張)ア急性腹症とは,急激に起こる腹痛を主徴とする腹部疾患の総称であって,緊急開腹手術の必要性を可及的速やかに判断することが重要であるとされているところ,Cには,6月14日午後9時ころ時点で鎮痛剤が効かないほどの強度の腹痛,腹膜刺激症状(腹部硬),腸雑音の低下が認められたにもかかわらず,F医師は,上記時点で,Cの腹痛が急性腹症に当たるか否かを鑑別するために必要な,腹痛の部位(圧痛の最強点の確認)及び疼痛の性質(筋性防御反応の有無)の鑑別も,血液検査,尿検査,単純レントゲン検査,腹部超音波検査,腹部CT検査及び血液ガス検査などの検査を行っていない上,腹部外科や消化器外科にコンサルトもしていない。 イ特にCの場合,閉塞性動脈硬化症の既往があることから虚血を来したり,血管置換術によって人工血管が体内に留置されていることから血栓が形成されたりして,腸管壊死に至る可能性が高く,穿孔 もしていない。 イ特にCの場合,閉塞性動脈硬化症の既往があることから虚血を来したり,血管置換術によって人工血管が体内に留置されていることから血栓が形成されたりして,腸管壊死に至る可能性が高く,穿孔性腹膜炎を併発しやすかったのであるから,迅速かつ周到な鑑別検査を行うことが不可欠だったのである。 (被告の主張)Cの症状とこれに対する鎮痛剤の投与は,前4回の入院と同様であり,Cの腹痛は,保存的治療では対処できないと判断しなければならないほど強いものではなかった。腹膜刺激症状(腹部硬)の腹部所見についても,Cには以前から腹部が硬い傾向があり,必ずしも重篤な病態を思わせるほどの所見ではなかった。 (6)絞扼性イレウスの鑑別を怠った過誤の有無(第2事故)(原告らの主張)ア(6月14日午後9時ころ)(ア)Cには,6月14日午後9時ころ時点で鎮痛剤が効かないほどの強度の腹痛,腹膜刺激症状(腹部硬),腸雑音の低下が認められたにもかかわらず,F医師は,上記時点で,Cの腹痛の原因疾患が絞扼性イレウスか否かを鑑別するために必要な,腹痛の部位(圧痛の最強点の確認)及び疼痛の性質(筋性防御反応の有無)の鑑別も,血液検査,尿検査,単純レントゲン検査,腹部超音波検査,腹部CT検査及び血液ガス検査などの検査も行っていない上,腹部外科や消化器外科にコンサルトもしていない。 (イ)特にCの場合,閉塞性動脈硬化症の既往があることから虚血を来したり,血管置換術によって人工血管が体内に留置されていることから血栓が形成されたりして,腸管壊死に至る可能性が高く,穿孔性腹膜炎を併発しやすかったのであるから,迅速かつ周到な鑑別検査を行うことが不可欠だったのである。 イ(6月15日午前9時)6月15日午前9時時点でも,Cは腹部の強度の持続痛を訴えていたにもかかわらず,F医師は,絞扼性イレ のであるから,迅速かつ周到な鑑別検査を行うことが不可欠だったのである。 イ(6月15日午前9時)6月15日午前9時時点でも,Cは腹部の強度の持続痛を訴えていたにもかかわらず,F医師は,絞扼性イレウスを鑑別するためにCT検査,小腸造影検査,大腸ファイバースコープ検査,血管造影検査等の諸検査を行うことを怠った。 (被告の主張)ア(6月14日午後9時)絞扼性イレウスには,腸閉塞の発症直後から絞扼の生じる場合と,癒着性イレウスの経過の中で絞扼が進行していく場合とがあり,どの時点で絞扼性イレウスであると判断するのかは,臨床上非常に難しく,臨床現場では,経時的な所見の変化や検査データの変化を観察することで絞扼性イレウスを疑い,手術によって初めて確定診断を得る場合も多いところ,Cの場合には,①腹部の痛みが6月14日午後2時ころには軽快していたこと,②前4回の入院においても保存療法によって改善していたことから,6月14日午後9時時点でも,絞扼性イレウスを疑う所見には乏しかったというべきである。 イ(6月15日午前9時)絞扼が始まったのは6月15日の時点であると推測されるところ,同日午前中にはF医師と消化器部長がCの腹部所見をとっており,その時点では,手術の適応があるとは判断されなかったことから,この時点ですでに腸管壊死に陥っていたものとは考えられない。 したがって,Cについて,経過観察としたことに誤りはない。 (7)穿孔性腹膜炎の鑑別を怠った過誤の有無(第2事故)(原告らの主張)6月15日午前9時時点でも,Cは腹部の強度の持続痛を訴えていたにもかかわらず,F医師は,穿孔性腹膜炎の診断をするために腹部単純レントゲン検査(立位,側臥位),造影レントゲン検査,腹部超音波検査,腹水検査及び血液検査を行うことを怠った。 (被告の主張)6月15日午前9時時点で, 医師は,穿孔性腹膜炎の診断をするために腹部単純レントゲン検査(立位,側臥位),造影レントゲン検査,腹部超音波検査,腹水検査及び血液検査を行うことを怠った。 (被告の主張)6月15日午前9時時点で,Cは,体温37.4℃,血圧100/80,脈拍76であり,腹部に圧痛が認められたものの強いものではなく,筋性防御,反跳痛など,穿孔性の腹膜炎を疑わせる所見は認められなかった。 (8)経過観察を怠った過誤の有無(第2事故)(原告らの主張)イレウスの診断を受けた患者の経過観察に必要な検査は,血液検査と単純レントゲン検査であり,Cに対しても,6月14日午後9時ころには腹部レントゲン検査の指示が出され,同月15日午前5時ころから午前6時ころの間には血液検査のための採血がされているもかかわらず,上記血液検査については,F医師は同日午後5時ころまで検査結果を確認せず,上記腹部レントゲン検査については,F医師が検査結果を確認した事実を認めることができない。したがって,F医師が6月15日にCに対する経過観察を怠ったことは明らかである。 (被告の主張)カルテ上,F医師が腹部レントゲン検査の結果を認識した時点が不明であることは認めるが,Cに対する経過観察を怠った旨の主張は争う。 (9)包括的義務違反の有無(第2事故)(原告らの主張)F医師は,6月13日午後10時ころから同月14日午後6時30分ころまでの間,以下の義務を怠っており,これら一連の不作為は,社会通念上,全体として不法行為又は債務不履行を構成するというべきである。 ア鑑別診断等の義務(ア)医師には,一般的に,患者が腹痛(特に,救急外来を訪れる程度の強度の腹痛)を訴える場合には急性腹症か否かを鑑別診断すべき義務があるというべきである。なぜなら,急性腹症の場合,早期に緊急手術等の外科的な処置をしなければ患者 者が腹痛(特に,救急外来を訪れる程度の強度の腹痛)を訴える場合には急性腹症か否かを鑑別診断すべき義務があるというべきである。なぜなら,急性腹症の場合,早期に緊急手術等の外科的な処置をしなければ患者の生命に危険が生じるからである。 そして,医師は,急性腹症ではないとの確実な認定や判断ができない限り,急性腹症に準じた扱いをすべきである。すなわち,①腹痛の部位が腹部正中線上にあるか,腹痛の部位が特定できないこと,②疼痛が持続的でなく,間欠的であること,③筋性防御反応がないこと,④鎮痙剤のブスコバンが著効する等の条件をすべて満たす場合でない限り,急性腹症に準じた扱いをすべきである。 (イ)仮に腹痛の原因がイレウスであると診断された場合であっても,医師には,当該イレウスが絞扼性イレウスか否かを鑑別診断すべき義務があるというべきである。なぜなら,絞扼性イレウスの場合,重篤な経過を示すため緊急な外科的処置を要し,これを怠ると患者の生命に危険が生じるからである。 そして,医師は,絞扼性イレウス等の緊急疾患ではないとの確実な認定や判断ができない限り,絞扼性イレウス等の緊急疾患に準じた扱いをすべきである。すなわち,①腹痛が間欠痛から持続痛に変わった場合,②平滑筋弛緩剤(鎮痙剤)が効かない痛みを訴える場合,③明らかに局在した圧痛があり,次第に増強する場合,④腹膜刺激症状がある場合,⑤体温,白血球数,CRP値,LDH値,CKP値が検査を行うごとに上昇している場合などには,絞扼性イレウス等の緊急疾患に準じた扱いをすべきである。 イコンサルテーション義務医師には,急性腹症又は絞扼性イレウス等の緊急疾患との確定診断ができない場合であっても,これらの緊急疾患が疑われる場合には直ちに腹部外科専門医にコンサルトすべき義務があるというべきである。なぜなら,これらの緊急疾患は, は絞扼性イレウス等の緊急疾患との確定診断ができない場合であっても,これらの緊急疾患が疑われる場合には直ちに腹部外科専門医にコンサルトすべき義務があるというべきである。なぜなら,これらの緊急疾患は,その性質上,外科的処置が遅れると患者の生命や予後に影響を及ぼすからである。 (被告の主張)ア鑑別診断等の義務違反についてCが救急外来を受診してから入院するまでの間,①腹痛の部位が特定できなかったこと,②疼痛が持続的ではなく,時々軽快していたこと,③筋性防御反応が認められなかったこと,④イレウスの疑いや循環器系の合併症のおそれがある場合には,鎮痙剤はあまり使用されないことから,Cは,入院当初は明らかに急性腹症と呼ばれる病態ではなかった。 そして,Cの場合,①腹痛は持続的ではなく,時々軽快していたこと,②鎮痙剤は本来使用されないこと,③局在する圧痛がなかったこと,④腹膜刺激症状も判然としなかったこと,⑤体温,白血球数,CRP値,LDH値及びCPK値についても著増が認められなかったことから,Cは,当初は,前4回の入院の場合と同様に単純性イレウスであった可能性を否定することはできないというべきである。 イコンサルテーション義務違反についてCの当初の病状は,絞扼性イレウスを思わせるものではなく,保存的治療で軽快したこれまでの入院と何ら変わりがなかったものである。なお,被告病院では,コンサルテーションは,まず消化器内科上級医に対して行うことになっている。本件では,消化器科部長が入院翌日である6月15日午前10時ころに回診しており,これによってコンサルテーション義務は果たされたものである。 (10)ソセゴンを投与した過誤の有無(第2事故)(原告らの主張)強力な鎮痛剤は,患者の意識を低下させて病態把握に必要な痛みの情報を失わせ,急性腹症又は絞扼性イレウスの 務は果たされたものである。 (10)ソセゴンを投与した過誤の有無(第2事故)(原告らの主張)強力な鎮痛剤は,患者の意識を低下させて病態把握に必要な痛みの情報を失わせ,急性腹症又は絞扼性イレウスの鑑別診断を不可能又は著しく困難にする危険性があるにもかかわらず,F医師は,外科医にも相談せず,腹部症状の原因疾患や病態の鑑別もできず,治療方針も定まらない状況下で,6月14日午後9時ころ,Cに対して強力な鎮痛剤であるソセゴンを投与している。 (被告の主張)F医師は,Cの過去の病歴から保存的に治療できるイレウスであると判断した上で鎮痛剤を用いているのであるから,同医師がCに対してソセゴンを投与したことを誤りであるということはできない。 (11)因果関係の存否(第2事故)(原告らの主張)遅くとも6月15日の午前中にCに対してCT検査が実施されていれば,直ちに穿孔性腹膜炎の鑑別診断ができたはずであり,その場合には,緊急手術を実施することによって死亡の結果を回避できたというべきである。もっとも,患者の兆候から急性腹症又は絞扼性イレウスが疑われたにもかからわず,医師が何らの措置も執らず,結果的に患者が穿孔性腹膜炎又は絞扼性イレウスによって死亡した場合には,特段の反証がない限り,上記不作為と死亡との間の因果関係が推認されるべきである。 (被告の主張)ア絞扼性イレウスは診断が困難で,外科医が経過観察していても,手術に至った時にはすでに腸管壊死を来していて,腸切除となるケースが多い疾患である。特に,Cにはバイパス手術の既往歴があって合併症として敗血症や多臓器不全を起こす可能性が高かったこと,動脈硬化の基礎疾患があったこと,腸管壊死を来して以後の進展が早かったことから,死亡という不幸な転帰をたどったのである。 イ6月15日午前5時に採取された血液の検査結果を回 こす可能性が高かったこと,動脈硬化の基礎疾患があったこと,腸管壊死を来して以後の進展が早かったことから,死亡という不幸な転帰をたどったのである。 イ6月15日午前5時に採取された血液の検査結果を回顧的に見ると,同日の午前中にCに対してCT検査が実施され,腸穿孔に対する手術が行われていたとしても,死亡の結果を回避することはできなかったというべきである。 (12)損害額(第1事故・第2事故)(原告らの主張)アCは,第1事故によって以下の損害を被った。 (ア)逸失利益4025万1470円Cは,第1事故当時59歳で,第1事故において左股関節離断及び下肢機能障害の後遺障害を負ったことから,労働能力の喪失率を92%とし,第1事故当時の男子労働者の学歴計平均年収664万0500円を基礎収入として,Cの第1事故当時の就労可能年数8年に対応する新ホフマン係数6.5886を乗じて計算した。 (イ)後遺障害慰謝料1550万円(ウ)介護費用819万円1日当たりの介護費用を3000円として,Cが死亡するまでの日数2730日を乗じて計算した。 イCは,第2事故によって以下の損害を被った。 (ア)逸失利益14万8825円(イ)死亡慰謝料2000万円(ウ)葬儀費用120万円ウ弁護士費用600万円原告らが本件訴訟を遂行するために必要な弁護士費用の合計額は,963万円であるが,本件訴訟では,そのうち600万円を損害として計上する。 第3 当裁判所の判断1第1事故について(1)争点(1)(鑑別検査を怠った過誤の有無)についてア前掲前提事実のとおり,E医師は,9月9日,Cの症状を左腓骨神経麻痺と診断し,Cに対してビタミン剤を処方したのみで,Cに対して超音波ドプラー聴診器及び血管造影検査を行って閉塞性動脈硬化症を鑑別することはもとより,血管外科医に相談することもしてい 状を左腓骨神経麻痺と診断し,Cに対してビタミン剤を処方したのみで,Cに対して超音波ドプラー聴診器及び血管造影検査を行って閉塞性動脈硬化症を鑑別することはもとより,血管外科医に相談することもしていない。 しかし,上記不作為をもって,E医師に閉塞性動脈硬化症に対する鑑別検査を怠った過誤があると解することは相当でない。その理由は次のとおりである。 (ア)aE医師は,9月9日の診察について,閉塞性動脈硬化症を念頭に置いた診察はしておらず,動脈触知も行っていない旨述べ,その理由として,Cの場合,①足の痛みが著明ではなかったこと,②足に冷感が認められなかったこと,③知覚障害の部位や症状が閉塞性動脈硬化症の場合と異なったこと,④間欠性跛行がなかったことを挙げ,閉塞性動脈硬化症を疑わせる所見が認められなかった旨述べる(証人Eの証人調書3,8,21,24頁)。 しかし,E医師が上記所見から閉塞性動脈硬化症を除外したことについては,以下のとおり,合理的な理由があるとは認めらない。 (a) 甲B1号証及び乙B1号証によると,閉塞性動脈硬化症の臨床所見として,足の疼痛及びしびれを挙げることができるが,疼痛の程度,しびれの具体的な症状やその部位によって,それらが他の原因によるものかどうかを的確に鑑別することは困難であることがうかがわれる。そうすると,上記①及び③の所見をもって直ちに閉塞性動脈硬化症を原因疾患から除外することはできないと解するのが相当である。 (b)E医師の上記供述のほかに,9月9日の診察時にCの足趾に冷感が認められなかったことをうかがわせる証拠はないこと,特に,整形外科外来診療録(乙A1号証34頁以下)にも上記供述を裏付ける記載がないことを考慮すると,上記供述から直ちに上記②の所見を認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。なお,同診療 に,整形外科外来診療録(乙A1号証34頁以下)にも上記供述を裏付ける記載がないことを考慮すると,上記供述から直ちに上記②の所見を認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。なお,同診療録の現症欄(同34頁)には,「局所熱感(-)」の記載があるが,この記載から,E医師がCの足趾に冷感が認められないことを確認したことまでは読み取ることができないものと解するのが相当である。 (c)証人E(同人の調書21頁以下)によると,E医師は9月9日の診察時にCの実際の歩行状況を見て間欠性跛行の有無を確認したわけではないことが認められる上,本件各証拠によっても,E医師が上記診察時に,間欠性跛行の有無についてCに対して問診した事実を認めることができないことによると,上記④の所見を前提として,Cの症状が閉塞性動脈硬化症か否かを診断することは相当ではないというべきである。 b一方,前掲前提事実のとおり,Cは,9月9日の診察時に歩行痛を訴えていたほか,問診票(乙A1号証38頁)の「症状は?」との問に対して「しびれ」の部分に○を付けていたことが認められるところ,同前提事実のとおり,閉塞性動脈硬化症では,趾(指)のしびれ,大腿部の疼痛等が臨床所見として認められることによると,Cの症状は,閉塞性動脈硬化症の臨床所見のいくつかに当てはまっていたものと認められるから,9月9日の診察時点で,閉塞性動脈硬化症も同人の症状の原因の一つとして念頭に置くべき疾患であったものということが相当である。 (イ)しかしながら,前掲前提事実のとおり,E医師は,Cの臨床所見から原因疾患を左腓骨神経麻痺と診断しているところ,上記診断が医学的知見に反するものであると認めるに足りる証拠はない。この点,原告らは,Cの場合,左腓骨神経麻痺の発症原因が不明である旨主張するが,腓骨神経麻痺は足組みに 神経麻痺と診断しているところ,上記診断が医学的知見に反するものであると認めるに足りる証拠はない。この点,原告らは,Cの場合,左腓骨神経麻痺の発症原因が不明である旨主張するが,腓骨神経麻痺は足組みによる圧迫によっても発症するとされている(甲B5号証)ことによると,腓骨神経麻痺は非常に軽微な圧迫によっても生じるものであると認められるから,腓骨神経麻痺の発症原因を特定できないからといって,上記診断が医学的知見に反するとまでは認められない。 (ウ)そうすると,Cの症状については,9月9日時点で原因疾患が診断され,これに対する投薬治療も行われていることになるのであるから,E医師が9月9日の診察時に,更に閉塞性動脈硬化症が原因疾患か否かを鑑別するための検査を行うべき義務まで負っていたものと解することは相当でない。 イまた,前掲前提事実のとおり,H医師も,9月18日,Cに対して超音波ドプラー聴診器及び血管造影検査を行って閉塞性動脈硬化症を鑑別することはもとより,血管外科医に相談することもしていない。 しかし,本件各証拠によっても,9月18日の診察時点で,Cに,左腓骨神経麻痺の臨床所見と矛盾する所見のあったことを認めることはできない。かえって,前掲前提事実によると,①知覚鈍麻の領域が,左下腿外側から足背の母趾までの部分から足背部の第3趾から第5趾までの部分に縮小していたこと,②長母趾伸筋及び総趾伸筋の徒手筋力テストの結果が,0から2に改善していたことが認められる。 そうすると,H医師としては,左腓骨神経麻痺の症状が改善したものと判断するのが相当であるということができるから,H医師が9月18日の診察時点で,Cに対して閉塞性動脈硬化症に対する鑑別検査を行うべき義務を負っていたものと解することは相当でない。 (2)争点(2)(経過観察を怠った過誤の有無)について きるから,H医師が9月18日の診察時点で,Cに対して閉塞性動脈硬化症に対する鑑別検査を行うべき義務を負っていたものと解することは相当でない。 (2)争点(2)(経過観察を怠った過誤の有無)について前掲前提事実のとおり,被告病院の整形外科医らは,10月2日から12月11日までの間,計6回にわたり,Cに対して9月9日及び同月18日に処方されたものと同じビタミン剤を処方するのみで,Cの診察をしていないことが認められるところ,上記医師らには,Cに対する経過観察を怠った過失があるものと解するのが相当である。その理由は次のとおりである。 ア被告病院の整形外科医らが,自らCを診察することなく,9月9日及び同月18日に処方されたものと同じビタミン剤を処方していることによると,同医師らは,E医師が9月9日にCの症状を左腓骨神経麻痺と診断したことに基づいて上記薬剤を処方したものと解される。 イしかし,①本件各証拠によっても,腓骨神経麻痺を鑑別診断する方法が採られたことを認めることはできないこと,②実際,E医師は臨床所見のみから左腓骨神経麻痺と診断していること,一方,③前記のとおり,E医師が閉塞性動脈硬化症を除外診断したことについては合理的な理由が認められないことによると,E医師による左腓骨神経麻痺の診断は,鑑別診断を経て確定診断されたものではなく,9月9日時点の臨床所見に基づく一応の診断にとどまるものであると認められる。 ウまた,9月18日にCを診察したH医師は,10月6日に再診を予定し,経過観察を必要とすると判断していたことがうかがわれる(乙A1号証41頁,証人Eの証人調書37ないし38頁)。 エそうすると,上記医師らとしては,漫然と同様の薬剤を処方するのではなく,左腓骨神経麻痺の診断に疑いが生じた場合には迅速に対処することができるように,10月2日以降 の証人調書37ないし38頁)。 エそうすると,上記医師らとしては,漫然と同様の薬剤を処方するのではなく,左腓骨神経麻痺の診断に疑いが生じた場合には迅速に対処することができるように,10月2日以降,自らCを診察し,Cの症状の経過を観察する義務を負っていたものというべきである。 したがって,上記医師らには,Cを自ら診察せず,漫然と従前と同様の薬剤を処方したことにつき,Cに対する経過観察を怠った過失があるものと解することが相当である。 オこれに対し,被告は,Cが自ら投薬のみを希望し,医師による診察を受けなかったのであるから,被告病院の整形外科医らに経過観察の懈怠はない旨主張する。 しかし,前記義務を負っていた上記医師らとしては,仮にCが投薬のみを希望したとしても,Cに対して経過を観察する必要性のあることを説明し,診察を受けるように説得する必要があったというべきであるところ,本件各証拠によっても,上記医師らが,Cに対して診察を受けるように説得した事実を認めることはできないから,Cが自ら投薬のみを希望し,医師による診察を受けなかったからといって,上記医師らがその責任を免れるものではないというべきである。 (3)争点(3)(因果関係の存否)について前掲前提事実のとおり,Cは,12月25日時点で,腹部下行大動脈の腎動脈分岐部直下に完全閉塞を来たしており,その結果,左股関節離断及び下肢機能障害の後遺障害を負ったものであるところ,被告病院の整形外科医らが,10月2日以降12月11日までの間に,自らCを診察し,Cの症状の経過を観察していたとすれば,早期に閉塞性動脈硬化症の診断をすることができ,その結果,Cが上記障害を負うことを避けることができた高度の蓋然性があったものというべきである。その理由は次のとおりである。 ア(ア)前掲前提事実のとおり,閉塞性動脈硬化症 化症の診断をすることができ,その結果,Cが上記障害を負うことを避けることができた高度の蓋然性があったものというべきである。その理由は次のとおりである。 ア(ア)前掲前提事実のとおり,閉塞性動脈硬化症はフォンテイン分類で,①四肢の冷感,しびれ感,皮膚色調異常(第1度),②間欠性跛行(第2度),③安静時疼痛(第3度),④指趾の壊死,潰瘍(第4度)という経過をたどるところ,Cは,12月25日時点で,すでに下肢に壊死を来していたことから,フォンテイン分類の第4度の状態であったものと認められる。 そして,平成4年10月末ころから同年11月初めころには,Cの足の指が黒ずみ始めていたこと(原告B本人調書21頁)によると,Cは,このころから,上記第4度の状態に陥っていたものと認められる。 (イ)これに対し,被告は,下肢にわずかでも壊疽を来せば患者が受診せずに放置しておくことは考えられないとして,Cは12月11日以降に下肢の壊死を来したはずであると主張する。しかし,Cは12月25日時点でも従前と同様に投薬を受けるために被告病院に行っていること(甲A2号証,原告B本人調書9頁以下)に照らすと,12月25日に至るまで医師による診察を受けなかったことをもって,Cが12月11日以降に下肢の壊死を来したものと認めることはできないというべきであるから,上記主張を採用することはできず,他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。 イそうすると,Cは,平成4年10月末ころから同年11月初めころよりも前に,腹部下行大動脈の腎動脈分岐部直下に閉塞を来たし始めていたものと認めることができる。そして,前記のとおり,閉塞性動脈硬化症では,指趾の壊死を来たしてフォンテイン分類の第4度の状態に至るよりも前に,四肢の冷感,しびれ感,皮膚色調異常などの症状を現すことによると,被告病院の整形外科医ら て,前記のとおり,閉塞性動脈硬化症では,指趾の壊死を来たしてフォンテイン分類の第4度の状態に至るよりも前に,四肢の冷感,しびれ感,皮膚色調異常などの症状を現すことによると,被告病院の整形外科医らが,10月2日以降,Cを診察し,症状の経過を観察していたとすれば,Cが,上記動脈に完全閉塞を来たして下肢に壊死を来す前に,閉塞性動脈硬化症の診断ができたものと認められる。 そして,その時点で直ちに,上記医師らが,Cに対して閉塞性動脈硬化症に対する治療を開始していれば,Cが前記障害を負うことを避けることができた高度の蓋然性があったものというべきである。 2第2事故について(1)括弧内に摘示の各証拠及び弁論の全趣旨によると,Cが被告病院救急外来を受診してから緊急手術に至るまでの経緯は,次のとおりであると認められる。 ア6月13日午後8時55分,Cは,腹痛を訴えて被告病院救急外来を受診した。 当直のI医師が診察したところ,Cには,腹部膨満感と腸雑音の上昇が見られたが,腹部の圧痛,反跳痛,筋性防御反応はなかった。腹部単純レントゲン検査では,鏡面形成(ニボー)像が見られた。もう一人の当直医が診察したところ,腸雑音は低下し,腹部に圧痛が見られた。 上記当直医から上申を受けたF医師は,上記のとおり,腹部単純レントゲン検査でニボー像が見られたこと,Cには腹部大動脈等のバイパス手術及び左内腸骨動脈再建術の既往歴のあったことから,Cの疾患を術後の癒着によるイレウスであると診断し,被告病院への入院を決定する一方,翌14日午前10時まで救急外来にて輸液し,抗生剤を投与した。(乙A1号証25,26頁,12号証,証人F6頁以下)イ同日午前10時,F医師は,看護師から,Cが腹痛を訴えている旨の連絡を受け,同35分,Cに対して鎮痛剤のボルタレンを投与するとともに,看護師に対し,C 1号証25,26頁,12号証,証人F6頁以下)イ同日午前10時,F医師は,看護師から,Cが腹痛を訴えている旨の連絡を受け,同35分,Cに対して鎮痛剤のボルタレンを投与するとともに,看護師に対し,Cが腹痛を訴えた時には,鎮痛のために,まずソセゴンを投与し,それでも腹痛が軽減しない場合にはボルタレンを投与するように指示した。(乙A1号証200,201,217頁,12号証,証人F12頁以下)ウ同日午後2時,Cは,救急外来から内科病棟へ入室し,その際,看護師に対して腹痛はない旨述べた。看護師が観察したところ,腸雑音は微弱で,腹部は固めであった。(乙A1号証204頁)エ同日午後5時45分,Cは,看護師に対して心窩部の腹痛と嘔気を訴え,同日午後6時のF医師の回診時にも,心窩部の腹痛と嘔気を訴えた。そこで,F医師は,胃管を挿入して減圧を図るとともに,ボルタレンを投与した。(乙A1号証206頁,12号証,証人F14頁以下)オ同日午後8時50分,Cは,看護師に対して強度の腹痛を訴えた。そこで,看護師は,Cに対してソセゴンを投与した。 同日午後9時,F医師は訪室し,15分ほど前にCが腹痛を訴えたこと,ボルタレンが効かないことからソセゴンが投与され,その結果腹痛がやや軽快してきたことを知った。同医師が診察したところ,腹部硬と腸雑音の低下が見られた。そこで,同医師は,点滴を一晩続けてみても症状が軽快しないようであれば,イレウス管を使用する必要があると考えた。(乙A1号証184,206頁,12号証,証人F15頁以下)カ同日午後11時20分,Cは,看護師に対して我慢できないほどの腹痛を訴え,鎮痛剤を投与するように求めた。看護師が観察したところ,冷汗は著明で,腸雑音は微弱であったが,腹部は柔らかかった。そこで,看護師は,Cに対してソセゴンを投与した。(乙A1号 きないほどの腹痛を訴え,鎮痛剤を投与するように求めた。看護師が観察したところ,冷汗は著明で,腸雑音は微弱であったが,腹部は柔らかかった。そこで,看護師は,Cに対してソセゴンを投与した。(乙A1号証204,206頁)キ翌15日午前零時20分,Cは,看護師に対して腰のあたりがつって痛い旨訴えた。Cは苦痛様の表情をしており,看護師が観察したところ,腸雑音があり,腹部は固かった。 そこで,同30分,看護師は,Cに対してボルタレンを投与した。 同日午前4時,Cは,腹痛を叫び訴えた。そこで,看護師は,Cに対してソセゴンを投与した。 同日午前5時から同日午前6時までの間に,看護師は,Cから採血し,血液検査に出した。(乙A1号証204,206頁)ク同日午前9時,F医師が訪室した際,Cは,腹痛が持続していることを訴えた。同医師は,痛みが軽快しないことから,イレウス管を使用した方が良いのではないかと考え,消化器部長の回診時に,Cを診察してもらうこととした。 同日午後12時ころ,F医師は,前記血液検査の結果を見るために病棟へ行ったが,結果がまだ出ていなかったことから,そのまま午後の業務に就き,Cの様子をうかがうことをしなかった。(乙A1号証184,205頁,証人F17頁以下)ケ同日午後2時,Cは,看護師に対して腹痛を訴え,ベッドの上でのたうち回った。看護師が観察したところ,冷汗が見られ,腸雑音は弱めで,腹部は固かった。同20分,看護師は,Cに対してソセゴンを投与し,同40分,ボルタレンを投与した。(乙A1号証204,206頁)コ同日午後5時,Cは,強い腹痛を訴え,ベッドの上で七転八倒した。看護師が観察したところ,冷感が見られ,腸雑音はなく,腹部は緊張していた。左腹部と右膝後面にはチアノーゼを来していた。 同日午後6時,Cは,腹痛が軽減傾向になったが,体全体の ッドの上で七転八倒した。看護師が観察したところ,冷感が見られ,腸雑音はなく,腹部は緊張していた。左腹部と右膝後面にはチアノーゼを来していた。 同日午後6時,Cは,腹痛が軽減傾向になったが,体全体の痛みを訴えた。看護師は,F医師に対して上記の状況を上申した。同30分,F医師が来棟し,Cに対して腹部CT検査を行うように指示した。上記検査の結果,遊離空気と腹水が見られたことから,同医師は,腸穿孔であると判断し,外科医にコンサルトした。 その結果,消化管穿孔による汎発性腹膜炎と診断され,腹腔洗浄ドレナージ術を施行することとなった。(乙A1号証185,191,192,204頁ないし206頁)(2)争点(6)(絞扼性イレウスの鑑別を怠った過誤の有無)についてア前記認定事実のとおり,F医師は,Cの疾患を癒着性イレウスと診断し,Cに対し,保存的治療として,6月13日の救急外来受診時以降は輸液管理を,同月14日午後6時以降は胃管による減圧を行っている。 しかし,甲B9号証,乙B2号証及び弁論の全趣旨によると,イレウスの病態が癒着性イレウスから絞扼性イレウスに移行する場合のあることが認められるところ,前掲前提事実のとおり,絞扼性イレウスは,外科的治療の絶対適応とされている。 そして,甲B4及び9号証並びに乙B2号証によると,絞扼性イレウスの場合には,腹部超音波検査で,絞扼分節で腸内容の浮動性や腸蠕動の減弱を早期から認め,時間が経過し,虚血が進行すると絞扼腸管周囲の腹水,腸管壁の肥厚,層構造の明瞭化が認められ,さらに腸管壊死に至ると,腸内容の移動性や腸蠕動の停止,壁の菲薄化,ケルクリング皺襞の破壊像,腹水の増加が描出されることから,絞扼性イレウスの鑑別には,腹部超音波検査が最も有用であるとされている。 そうすると,F医師としては,Cの病態が絞扼性イレウスに移行す 薄化,ケルクリング皺襞の破壊像,腹水の増加が描出されることから,絞扼性イレウスの鑑別には,腹部超音波検査が最も有用であるとされている。 そうすると,F医師としては,Cの病態が絞扼性イレウスに移行する可能性のあることを念頭に置き,これに移行した場合には迅速に外科的治療を行うことができるように,緊張感を持ってCの症状を観察し,癒着性イレウスの診断に疑いが生じた場合には,直ちに絞扼性イレウスとの鑑別を行うために,少なくとも腹部超音波検査を行うべき義務があったものというべきである。 イそこで検討するに,前記認定事実によると,F医師には,6月14日午後9時時点で,絞扼性イレウスを鑑別するための腹部超音波検査を怠った過誤があったものと解するのが相当である。その理由は次のとおりである。 (ア)F医師は,6月14日午後9時の訪室時に,Cに腹部硬と腸雑音の低下の所見を認め,胃管による減圧では症状が軽快していないことから,イレウス管を使用する必要があると認識していた。 (イ)また,Cは,6月13日午後8時55分に腹痛を訴えて被告病院救急外来を受診して以後,同月14日午前10時時点及び午後5時45分時点で腹痛を訴えているが,その程度は,いずれの場合も強度とまでは認められなかったこと,Cは,胃管による減圧が図られていたにもかかわらず,同日午後8時50分に強度の腹痛を訴えていたことを考慮すると,F医師としては,同日午後9時の訪室時点で,Cの症状は増悪していると判断すべきであったものということが相当である。 (ウ)さらに,F医師は,腹部単純レントゲン検査とCの既往歴からCの疾患を癒着性イレウスと診断したにすぎず,Cに対しては,被告病院救急外来を受診して以後,腹部超音波検査が行われていないことによると,上記診断は,絞扼性イレウスを除外診断した確定的な診断ではなかったも 患を癒着性イレウスと診断したにすぎず,Cに対しては,被告病院救急外来を受診して以後,腹部超音波検査が行われていないことによると,上記診断は,絞扼性イレウスを除外診断した確定的な診断ではなかったものと解するのが相当である。 (エ)以上の事情を考慮すると,F医師としては,6月14日午後9時時点で,癒着性イレウスの診断に疑問を持つべきであったものということが相当であるから,F医師には,上記時点で,Cに対して腹部超音波検査を行わなかったことにつき,過誤があったものと解するのが相当である。 (オ)aなお,Cの腹痛は,午後9時時点では,やや軽快しているが,Cには,午後8時50分に鎮痛剤であるボルタレンが投与されていたことを考慮すると,上記事実をもって,上記判断を覆すには足りない。 bまた,証人Fは,Cの症状経過が前4回の入院時と同様だったことから,6月14日午後9時時点で,絞扼性イレウスを疑わなかった旨述べているが(証人調書18頁以下),前記のとおり,本件では,胃管による減圧後も腹痛が増強しているのに対し,乙A1号証(124頁以下,134頁以下,138頁以下)によると,1回目ないし3回目の入院では,少なくとも胃管による減圧を行えば腹痛が軽快していたことがうかがわれることによると,Cの症状経過が前4回の入院時と同様だったとまでは認められず,F医師が6月14日午後9時時点で癒着性イレウスの診断に疑問を持たなかったことにつき,他に合理的な理由を認めるに足りる証拠もない。 (3)争点(11)(因果関係の存否)について前掲前提事実のとおり,Cは,絞扼性イレウスを原因とする穿孔性腹膜炎によって死亡したものであるところ,F医師が,6月14日午後9時時点で,Cに対して腹部超音波検査を行っていれば,Cの死亡は避けることができた高度の蓋然性があったものというべきである する穿孔性腹膜炎によって死亡したものであるところ,F医師が,6月14日午後9時時点で,Cに対して腹部超音波検査を行っていれば,Cの死亡は避けることができた高度の蓋然性があったものというべきである。その理由は次のとおりである。 ア証人Fは,Cに腸穿孔が生じた時期について,6月14日午後6時から翌15日朝にかけては,Cがかなり腹が痛いと訴えていて,鎮痛剤も投与されていたのに対し,その後は,主訴が腹痛というよりも痛い感じに変わってきており,鎮痛剤の投与回数も減っていることによると,腸穿孔は,6月14日深夜から翌15日朝までの間に生じたものと考えられる旨述べているところ(証人調書25頁以下),本件において,この証言を覆すに足りる証拠はない。 イそして,前掲前提事実及び前記認定のとおり,絞扼性イレウスでは,腸穿孔を来すより前に,腸管が阻血状態となって壊死を来すところ,腹部超音波検査では,腸管の虚血が進行した段階で絞扼腸管周囲の腹水,腸管壁の肥厚,層構造の明瞭化が認められ,さらに腸管壊死の段階に至ると,腸内容の移動性や腸蠕動の停止,壁の菲薄化,ケルクリング皺襞の破壊像,腹水の増加が描出される。 ウそうすると,F医師が6月14日午後9時時点で,Cに対して腹部超音波検査を行っていれば,同検査において,上記のいずれかの所見が認められたものと推測される。そして,その時点で直ちに,Cに対して適切な処置,治療が行われていれば,Cが死亡することは避けることができた高度の蓋然性があったものというべきである。 3争点(12)(損害額)について(1)第1事故についてアCの逸失利益3235万4346円前掲前提事実のとおり,Cは,第1事故によって左股関節離断及び下肢機能障害の後遺障害を負っていることによると,労働能力を92%喪失したものと解することが相当である。そこで, 利益3235万4346円前掲前提事実のとおり,Cは,第1事故によって左股関節離断及び下肢機能障害の後遺障害を負っていることによると,労働能力を92%喪失したものと解することが相当である。そこで,左股離断術の施行された当時59歳であったCの逸失利益は,前掲前提事実のとおり,同人が第1事故当時,個人で左官や造園の仕事を営んでいたことから,基礎収入額を544万1400円(賃金センサス平成4年第1巻第1表・平成4年男子労働者全年齢平均)と解することが相当であることによると,3235万4346円となる。 544万1400円×6.463(59歳の就労可能年数を前提としたライプニッツ係数)×0. 92(労働能力喪失92%)=3235万4346円イCの後遺障害慰謝料 1000万円前記のとおり,Cは,被告病院の医師らが経過観察を怠った過誤によって下肢に壊死を来たし,左股関節離断及び下肢機能障害の後遺障害を負ったものであること,一方,Cは,その間,被告病院に来院しており,自ら受診することによって上記後遺障害を回避する機会を持ち合わせていたこと等本件における諸般の事情を考慮すると,Cの精神的苦痛に対する慰謝料としては,1000万円が相当であると解する。 ウ介護費用0円前掲前提事実のとおり,Cは,第1事故によって左股関節離断及び下肢機能障害の後遺障害を負ったものではあるが,後遺障害の部位,程度等を考慮すると,療養上介護を要するとまでは認められない。 エ相続アないしウのとおり,Cについて,合計4235万4346円の損害が生じたものと認められるところ,前掲前提事実によると,原告AはCの損害賠償請求権を4分の3の割合で,原告Bはこれを4分の1の割合で,それぞれ相続したことが認められ,その額は,次のとおりとなる。 (ア)原告A(Cの相続分4分の3)3176万5759円 ,原告AはCの損害賠償請求権を4分の3の割合で,原告Bはこれを4分の1の割合で,それぞれ相続したことが認められ,その額は,次のとおりとなる。 (ア)原告A(Cの相続分4分の3)3176万5759円4235万4346円(逸失利益3235万4346円+後遺障害慰謝料1000万円)÷4×3(イ)原告B(同4分の1)1058万8586円4235万4346円÷4オ弁護士費用原告らは,原告ら固有の損害として弁護士費用相当額を請求しているものと解されるところ,第1事故において,被告の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用としては,原告Aにつき300万円が,原告Bにつき100万円がそれぞれ相当であると解する。 カ合計第1事故について,原告ら各自について認容すべき額は,次のとおりとなる。 (ア)原告A3476万5759円3176万5759円(Cの相続分)+300万円(弁護士費用)(イ)原告B1158万8586円1058万8586円(Cの相続分)+100万円(弁護士費用)(2)第2事故についてアCの逸失利益0円Cは,死亡当時,第1事故のために左股関節離断及び下肢機能障害の後遺障害を負っていたものではあるが,労働能力の喪失は92%にとどまるものと解することが相当であることによると,Cの死亡による逸失利益を観念し得なくもない。 しかし,本件各証拠によっても,第1事故以後,Cが仕事をしていたことを認めることはできず,かえって甲A2号証によると,Cは第2事故当時,訪問看護を受けていたことが認められる。 以上の事情等を考慮すると,第2事故によるCの逸失利益を算定することは困難であるといわざるを得ない。 そこで,慰謝料を算定する際にこの点を考慮することとする。 イCの慰謝料 2000万円前記のとおり,Cは,絞扼性イレウスによる穿孔性腹膜炎に伴う腹痛等の症状に苦 ことは困難であるといわざるを得ない。 そこで,慰謝料を算定する際にこの点を考慮することとする。 イCの慰謝料 2000万円前記のとおり,Cは,絞扼性イレウスによる穿孔性腹膜炎に伴う腹痛等の症状に苦しみ,被告病院の医師の過誤によって死亡するに至ったものであること等本件における諸般の事情を考慮すると,Cの慰謝料としては,2000万円が相当であると解する。 ウ葬儀費用120万円本件における諸般の事情を考慮すると,葬儀費用としては,120万円が相当であると解する。 エ相続アないしウのとおり,Cについて,合計2120万円の損害が生じたものと認められるところ,原告ら各自の相続分は,前記のとおりであるから,原告ら各自が相続した額は,次のとおりとなる。 (ア)原告A(Cの相続分4分の3)1590万円2120万円(慰謝料2000万円+葬儀費用120万円)÷4×3(イ)原告B(同4分の1)530万円2120万円÷4オ弁護士費用第2事故において,被告の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用としては,原告Aにつき150万円が,原告Bにつき50万円がそれぞれ相当であると解する。 カ合計第2事故について,原告ら各自について認容すべき額は,次のとおりとなる。 (ア)原告A1740万円1590万円(Cの相続分)+150万円(弁護士費用)(イ)原告B580万円530万円(Cの相続分)+50万円(弁護士費用)4上記認定のとおりであって,被告は,被告病院医師の不法行為に基づき,原告らに対し,(a)第1事故について上記3(1)カの各金額及びこれらに対するCが左股離断の手術を受けた平成4年12月25日から支払済みまでの遅延損害金を,(b)第2事故について上記3(2)カの各金額及びこれらに対するCの死亡した平成12年6月15日から支払済みまでの遅延損害金を支払う義務を を受けた平成4年12月25日から支払済みまでの遅延損害金を,(b)第2事故について上記3(2)カの各金額及びこれらに対するCの死亡した平成12年6月15日から支払済みまでの遅延損害金を支払う義務を負う。 5結論以上の次第で,その余の点について判断するまでもなく,原告らの本件請求は,主文掲記の限度において理由があるから認容し,その余の請求については理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条,64条,65条を,仮執行の宣言について同法259条1項をそれぞれ適用し,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第4部裁判長裁判官佐久間邦夫裁判官樋口英明裁判官横山真通
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