令和5(ワ)70276 不正競争行為差止請求事件

裁判年月日・裁判所
令和6年1月30日 東京地方裁判所
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令和6 年1 月30 日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和5 年(ワ)第70276 号不正競争行為差止請求事件口頭弁論終結日令和5 年11 月20 日判決当事者の表示別紙当事者目録記載のとおり 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 略語は略語一覧表のとおり。 第1 事案の要旨本件は、原告書籍を製造、販売する出版社である原告が、被告が製造、販売等する被告書籍は、原告の周知の商品等表示である原告表示を使用するものであり、これを製造、販売等する行為は、不正競争防止法2 条1 項1 号所定の不正競争に該当すると主張して、被告に対し被告書籍の製造等の差止め及び廃棄並びに損害賠償を 求める事案である。 第2 当事者の求めた裁判 1 被告は、被告書籍を製造し、販売し、販売のために展示してはならない。 2 被告は、前項記載の書籍を廃棄せよ。 3 被告は、原告に対し、62 万7000 円及びこれに対する令和5 年6 月7 日から 支払い済みまで年3%の割合による金員を支払え。 (請求の法的根拠) 1 不正競争防止法3 条1 項に基づく差止請求 2 同条2 項に基づく廃棄請求 3 主たる請求:同法4 条(5 条2 項)に基づく損害賠償請求 附帯請求:遅延損害金請求(起算日:訴状送達日の翌日、利率:民法所定のもの) 第3 前提事実、争点及び争点に対する当事者の主張の要旨 1 前提事実(証拠等の記載のないものは当事者間に争いがない。なお、証拠を摘示する場合には、特に記載のない限り、枝番を含むものとする。以下同じ。)(1) 当事者原告及び被告は、いずれも書籍の出 1 前提事実(証拠等の記載のないものは当事者間に争いがない。なお、証拠を摘示する場合には、特に記載のない限り、枝番を含むものとする。以下同じ。)(1) 当事者原告及び被告は、いずれも書籍の出版、販売等を行う株式会社である。 (2) 原告書籍の販売等原告は、原告書籍1 を令和元年7 月20 日に発売して以降、別紙原告書籍目録記載の各発売日に、同目録記載の各書籍の販売を開始し、現在も原告書籍を製造、販売している(電子書籍の有料配信を含む。)。原告書籍は、特定の職業のノンフィクション・エッセイであり、その表紙は、別紙「原告書籍の表紙一覧」のとおりであ る。(甲3)(3) 被告書籍の販売等被告は、令和5 年2 月19 日、被告書籍の販売を開始し、現在もこれを製造、販売している(電子書籍の有料配信を含む)。被告書籍は、AV 監督のノンフィクション・エッセイであり、その表紙は、別紙被告書籍目録のとおりである。(甲4) 2 争点(1) 原告表示の「商品等表示」該当性(2) 原告表示の周知性(3) 原告表示と被告表示との類似性(4) 被告書籍と原告書籍との混同のおそれの有無 (5) 原告の営業上の利益の侵害の有無(6) 被告の故意の有無(7) 損害額 3 争点に関する当事者の主張(1) 争点(1)(原告表示の「商品等表示」該当性)及び争点(2)(原告表示の周知性) (原告の主張) ア原告表示について次の表紙の題号、色、イラスト、コメント及びインターネット上で試し読みできる範囲での書籍本文の体裁の組合せからなる原告書籍の形態は、一見して原告書籍がシリーズ物であることを示し、原告の一連の商品である「日記シリーズ」に属する商品であることを示す出所表示機能を有し、 できる範囲での書籍本文の体裁の組合せからなる原告書籍の形態は、一見して原告書籍がシリーズ物であることを示し、原告の一連の商品である「日記シリーズ」に属する商品であることを示す出所表示機能を有し、「商品等表示」(不正競争防止法2 条 1 項1 号)に該当する。 (表紙)① 「特定の職業・二文字を二度繰り返したオノマトペ・日記」との題号が縦書きで表記されている。 ② 表紙は白色を基調としている。 ③ 表紙には、その書籍のテーマとなった職業に従事する者のイラストが描かれている。 ④ 各職業の苦労を悲哀とユーモアを交えて端的に表現したコメントが縦書きで記されている。 (インターネット上で試し読みできる範囲での書籍本文の体裁) ⑤ 目次の前に冒頭数頁にわたって著者の前書が記載されている。 ⑥ 目次は、第●章として章の見出しが縦書きで表記され、各章の中には、「某月某日」で統一された小見出しが複数記載されている。 イ特別顕著性原告書籍は、いずれも、特定の職業に従事する労働者(主として高齢者)に焦点 を絞り、その職業特有の苦労や喜びといったテーマについて、ユーモアを織り交ぜながら取り上げたシリーズ物である。このようなテーマに沿うように、表紙は上記①~④の特徴で統一されており、著者(テーマとなった職業に従事する者)の苦労や喜びが悲哀とユーモアを交えて伝わるような視覚的印象を与えている。また、「日記」という形式に沿うように、前書及び目次は全て縦書きで統一され、目次におけ る各章の小見出しには、全て「某月某日」という月日の表記を加えている。そのた め、原告書籍の本文全体は、あたかも著者の職業日記そのままのような体裁となっている。 原告表示は、題号の形式、イラスト、「某月某日」が付された 日」という月日の表記を加えている。そのた め、原告書籍の本文全体は、あたかも著者の職業日記そのままのような体裁となっている。 原告表示は、題号の形式、イラスト、「某月某日」が付された小見出しなど、各要素のみでも特徴的といえる要素が含まれている。白色の表紙、表紙のコメント、前書きといった個別に見ればさほど特徴的ではない要素についても、他の要素との組 み合わせにより、原告表示の内容を限定し、他の書籍との差別化をもたらしている。 このため、原告表示は、全体として特別顕著性を有する。 ウ周知性(ア) 原告は、令和元年7 月以降、合計14 種類の原告書籍を発売してきた。特定の職業に従事する労働者の職業日記というコンセプトに従い、原告表示で外観を統 一し、シリーズ化されて14 冊も発行された書籍は、既存のノンフィクション・エッセイでは類を見ないものである。原告書籍は、発売から現在までのわずか4 年間で、電子書籍を除いたシリーズ累計発行部数だけでも46 万部以上に上っている。 (イ) 原告は、これまで原告書籍の新刊が出るたびに、定期的に、複数の大手全国紙のほか、日本全国の地方紙やスポーツ紙に広告を掲載してきた(別紙「原告書籍 の広告実績」)。また、複数のウェブメディアにおいて、原告が原告書籍に関して受けた取材記事も公開されている。 (ウ) 原告表示は、一般消費者にとって周知であり、需要者においても、原告表示の外観を有する書籍が原告を識別するものとして周知されている。 原告書籍は、書籍ごとの売上の差が大きくないことから、多くの需要者は、職業 ではなく、日記シリーズであることに着目して、シリーズを通じて原告書籍を継続的に購入しているとみられる。 (被告の主張)ア原告は商品等表示の主体(「他人」(不正競 くの需要者は、職業 ではなく、日記シリーズであることに着目して、シリーズを通じて原告書籍を継続的に購入しているとみられる。 (被告の主張)ア原告は商品等表示の主体(「他人」(不正競争防止法2 条1 項1 号))に当たらないこと 「他人」として保護される周知な商品等表示主体たる事業者について、具体的名 称までは知られていなくとも足りるが、製造元・販売元が分かれている場合など、複数の事業者が提供を分担する場合、「他人」に該当するかどうかは、当該商品等表示の内容や態様、当該商品の広告・宣伝の規模や内容、品質保証表示のあり方などに照らし、当該商品等表示が何人のものとして需要者に認識されているかによって定めるのが相当である。しかし、原告書籍には、各書籍の著者の氏名が最も大きく 記載されており、発行者である原告の名称は表面及び奥付に小さく表示されているに過ぎない。また、例えばAmazon の販売画面でも、「続きを読む」のボタンを押して折り畳まれている表示を展開しない限り、原告の名称は表示されず、登録情報上の出版社として表示されているのはフォレスト出版株式会社のみである。 したがって、原告は、商品等表示の主体(「他人」)に当たらない。 イ原告表示には自他識別機能又は出所表示機能がないこと原告書籍は、いずれも、互いに関連性のない職業に関するエッセイであり、題号・作者・イラストの内容等がそれぞれ異なっており、表紙には特定のシリーズである旨の記載等もないことから、シリーズ化されている一連の商品と認識されるものとはいえない。 原告が主張する原告書籍の表紙の形態について、書籍の題号は、書籍の内容を指標するのであって、商品や営業の出所を示すものではない。原告書籍の題号を個別に見ても、特定の ものとはいえない。 原告が主張する原告書籍の表紙の形態について、書籍の題号は、書籍の内容を指標するのであって、商品や営業の出所を示すものではない。原告書籍の題号を個別に見ても、特定の職業について、その題号に含まれるヨレヨレなどの形容動詞、副詞等で表現される日常を日記形式でつづった書籍の内容を指標するものであって、商品ないし営業の出所として原告を示すものではない。表紙のイラストやコメント についても、書籍の内容をわかりやすく表現したものに過ぎず、出所表示を行うものではない。 また、原告が主張する原告書籍の本文の体裁についても、書籍の内容そのものであり、商品や営業の出所を示すものではない。そもそも、書籍の前書や目次、見出しの体裁は、書籍購入の際に注目するものではなく、需要者が、商品を識別・選択 するにあたり、書籍本文を試し読みした上で、前書等の体裁から、当該書籍の出所 が原告であると判断することは考え難い。 したがって、原告表示は、自他識別機能又は出所表示機能を備えていない。 ウ特別顕著性がないこと特定の職業の実情・悲哀を主観的な日記形態で描いた作品は数十年前から多数存在している。これらの書籍のうちには、「特定の職業・当該特定の職業の日常を表し た言葉・日記」といった構成を取り、表紙に当該書籍のテーマとなった職業に従事する者のイラストが描かれているものが複数ある。また、これらのうちには、題号を縦書きで記載したものや、白色を基調とした表紙のもの、各職業の苦労と悲哀をユーモアを交えて端的に表現したコメントを記したもの、オノマトペを題号に使用したものもそれぞれ複数見受けられ、原告表示を構成する要素は、他の同種商品に 一般にみられる。 さらに、原告表示の各要素が組み合わされたからといって、客 トを記したもの、オノマトペを題号に使用したものもそれぞれ複数見受けられ、原告表示を構成する要素は、他の同種商品に 一般にみられる。 さらに、原告表示の各要素が組み合わされたからといって、客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しているとはいえない。 加えて、白色を基調とした表紙については、文字の視認性の高さから、書籍の表紙に白色が用いられるのは格別特殊なことではなく、白色自体と書籍の結びつきが 強度なものとはいえず、白色を書籍に使用すること自体の新規性、特異性は甚だ乏しい。原告自身も当該色彩自体を宣伝広告するものではないため、消費者がその色彩に着目して書籍を識別、選択して購入するとは考え難い。 しかも、ノンフィクション・エッセイの書籍では、冒頭数頁にわたる著者の前書、目次という構成を有するのはごく一般的である上、日記の形式をとる以上、「某月某 日」という見出しを設けることも何ら特殊なことではない。 したがって、原告表示には特別顕著性がない。 エ周知性がないこと原告表示の使用期間は4 年に過ぎず、長期間継続的に使用されてきたとはいえない。また、原告表示の各要素と完全に一致する書籍が現に発売されており、原告が 原告表示を独占的に使用してきたともいえない。これらの書籍の外観が模倣された ものであるか、原告の使用許諾を受けたものであるかは、需要者にとっては関係のない事柄であり、原告表示と類似する外観の書籍が市場に複数存在し、販売が継続されていれば、需要者は、原告表示又はこれと類似する外観の書籍を出版する出版社が多数あると認識し、原告表示が、原告という特定の出版社を出所として表示されるものと広く認識されることはない。 発行部数についても、1 冊単位の売上平均は3.2 万部に過ぎず、一般 る出版社が多数あると認識し、原告表示が、原告という特定の出版社を出所として表示されるものと広く認識されることはない。 発行部数についても、1 冊単位の売上平均は3.2 万部に過ぎず、一般的にベストセラーとされる10 万部に及ばない。なお、原告に倣って原告書籍の推定販売部数を計算しても、累計30 万3240 部に過ぎない。また、各書籍の販売部数はまちまちであり、3 万部を超えているのは1 冊のみである。 また、原告書籍に関する取材記事が公開されているのはいずれもインターネット 上であり、そのアクセス数の多寡及び影響の程度は不明である。 加えて、原告書籍は、それぞれ取り上げる職業や作者が異なり、独立しているため、需要者の多くが原告発行のシリーズであることを理由に横断的に日記シリーズを購入しているとは考え難い。原告書籍の表紙には特定のシリーズである旨や発行者である原告の名称の記載もないことから、どの程度の需要者が、各書籍がシリー ズを構成する1 冊と認識の上、原告表示に着目して購入しているものかも疑問である。 したがって、原告表示には周知性がない。 (2) 争点(3)(原告表示と被告表示との類似性)(原告の主張) ア書籍の類似性被告書籍は、題号が「AV 監督ヒヤヒヤ日記」と縦書きで記されており、「特定の職業・二文字を二度繰り返したオノマトペ・日記」の形式による題号が付されている。また、表紙は白色であり、AV 監督のイラストも記載されている。さらに、表紙には、縦書きで「少子化阻止、セックスレス解消のために撮りつづけます」との記 載があり、AV 監督の苦労について、ユーモアをもって自虐的に表現したコメントが ある。 被告書籍の本文においても、著者の前書及び目次はいずれも縦書きで表記 りつづけます」との記 載があり、AV 監督の苦労について、ユーモアをもって自虐的に表現したコメントが ある。 被告書籍の本文においても、著者の前書及び目次はいずれも縦書きで表記され、目次は、章ごとに見出しが付けられ、さらに章の中で、「某月某日」ではじまる小見出しが複数表記されている。 以上のとおり、被告書籍の外観は、原告表示の要素を有しており、原告書籍に類 似する。 イウェブサイト上での類似性ウェブサイトでは、帯が巻かれた状態の被告書籍の表紙が画像として表示されているところ、外観上、表紙の画像と帯の画像が一体となっているため、ウェブサイト上での被告書籍の外観は、原告書籍それぞれの外観とほぼ区別がつかない。 また、ウェブサイト上では、被告書籍の書籍名として、「AV 監督ヒヤヒヤ日記-少子化阻止、セックスレス解消のために撮りつづけます-」と表示されており、日記という名称のみならず、その後に「-」で続け、「~ます」といった形で終了する文章形式の副題が記載されている。書籍名において、「-」に続けて「ます調」で終わる文章を提示する例は、他の書籍には見られない原告書籍固有の特徴である。 また、Amazon などのウェブサイトにおける試し読みページにおいても、被告書籍は、原告書籍とほぼ同程度の分量で、数ページの前書・目次・15 ページ程度の本文という同様の構成により表示される。殊に目次は、「第●章」として章の見出しが縦書きで表記され、各章の中では、「某月某日」で始まる小見出しが複数表記されており、原告書籍の目次の構成と全く違いはない。 ウ以上より、被告書籍の外観は、原告表示と類似する。 (被告の主張)ア被告書籍は、AV 新法に対するアンチテーゼを読者が関心を抱きやすい柔らかい文体で表 次の構成と全く違いはない。 ウ以上より、被告書籍の外観は、原告表示と類似する。 (被告の主張)ア被告書籍は、AV 新法に対するアンチテーゼを読者が関心を抱きやすい柔らかい文体で表そうとした結果、日記の形態になったに過ぎず、著者も苦労と共に仕事の楽しさを伝えているのであって、取り扱う職業を通して人生の悲哀等を伝えん とする原告書籍とはテーマが異なる。このため、書籍の内容を指標する表示である 商品の外観や印象も全く異なる。 イ書籍の表紙(外観)についても、次のとおり、被告書籍と原告書籍とは全く異なる。 原告書籍被告書籍題号黒の鉛筆調の手書きの文字茶系色の新ゴB というゴシック体フォントコメント表紙左上に、茶系の色・ゴシック体ではないフォントで4 行にわたり記載題号のすぐ左横に、黒色2 行で新ゴB のフォントで記載書籍のテーマとなる職業のイラスト 表紙の中央に、帯から表紙全面にまでまたがる大きさで描かれ、苦労や悲哀を表す皺や汗、筋張った体形等の表現が特徴的である。 帯のみに記載され、これに収まるように表紙の10 分の1 程度のサイズであり、記載された人物はいずれも笑みを浮かべ、曲線的なフォルムで描かれている。 帯①茶系の吹き出し内に黒の鉛筆調の手書きの文字のコメント②ゴシック体ではない黒字のフォントで、縦書き及び鉤括弧で当該職業を端的に表すコメント③ゴシック体ではない黒字のフォントで、書籍の内容を紹介する縦書きのコメント①黒、青及び赤色の新ゴB 及びAPプフピクニックのフォントで縦書きの紹介コメント②黒色の新ゴDB、茶系色の新ゴHのフォントで、著者の意気込みや自負をいずれも横書きで記載したコメントウウェ 青及び赤色の新ゴB 及びAPプフピクニックのフォントで縦書きの紹介コメント②黒色の新ゴDB、茶系色の新ゴHのフォントで、著者の意気込みや自負をいずれも横書きで記載したコメントウウェブサイト上の書影の外観及び印象も、原告書籍と被告書籍とは全く異なる。また、需要者は、原告書籍と被告書籍を販売するウェブサイトを個別に閲覧す るのであり、原告書籍名に「-」に続けて「ます調」で終わる文章が提示されていることや、原告書籍の前書・目次・本文の構成や見出し等といった細部については、通常書籍を購入するにあたり注目しない。 エしたがって、原告書籍と被告書籍に類似性はない。 (3) 争点(4)(被告書籍と原告書籍との混同のおそれの有無) (原告の主張)原告書籍の需要者は、広くノンフィクション・エッセイに関心のある読者であるところ、原告と被告はいずれも出版社であり、被告書籍も原告書籍と同様に特定の職業のノンフィクション・エッセイであるため、需要者は共通する。そのため、需要者において、原告表示の要素のうち表紙に係る各要素を備えた被告書籍は、原告 書籍のシリーズに含まれる書籍であるとの混同を生じさせるおそれが高い。 また、一部の書店では、原告書籍及び被告書籍がいずれも表紙を前面に向けた状態で陳列されており、被告書籍も原告書籍のシリーズの一部かのように扱われている。これは、需要者である読者だけでなく、書店員においても、原告書籍と被告書籍とを実際に混同したか、少なくとも混同する可能性を与えられていることをうか がわせる。 さらに、ウェブサイト上では、被告書籍の販売画面上でのレコメンド欄に原告書籍が複数表示されるようになっている。そのため、多くの需要者が、被告書籍を原告書籍と実際に混同したか、少なくとも、混 せる。 さらに、ウェブサイト上では、被告書籍の販売画面上でのレコメンド欄に原告書籍が複数表示されるようになっている。そのため、多くの需要者が、被告書籍を原告書籍と実際に混同したか、少なくとも、混同する可能性を与えられている。 仮に、需要者につき被告の主張を前提としても、高齢者の男性という範囲で需要 者層が共通しており、少なくともこの範囲で混同のおそれがあるといえる。 (被告の主張)特定の職業に関するノンフィクション・エッセイの需要者は、当該書籍がテーマとする特定の職業や、当該職業に従事する人の生活や人生、関連する業界自体に関心を有することから、対象となる職業に着目して購入するといえる。原告書籍は、 交通誘導員等の身近な職業をテーマとし、読者自身の生活と地続きで、読者自身が 当該職業に就くことを想起させるものであり、その主たる需要者は、当該職業の働き方に関心を持つ高齢者である。これに対し、被告書籍が対象とする職業はAV 監督であり、読者は、被告書籍を通じて、平素接することのない世界の裏側にエンターテインメントとして接するものであって、主たる需要者は広く男性である。このように、相互に需要者が異なるのであるから、原告書籍と被告書籍に混同が生じる ことはない。 (4) 争点(5)(原告の営業上の利益の侵害の有無)(原告の主張)被告書籍は、被告が販売した令和5 年2 月19 日から現在に至るまで、日本全国の書店及びインターネットにて販売され続けており、原告の営業上の利益が侵害さ れている。また、被告は、被告書籍を在庫として保有しており、これも近い将来市場に流通し、原告の営業上の利益を侵害することになる。 (被告の主張)争う。 (5) 争点(6)(被告の故意の有無) (原告の主張) 告書籍を在庫として保有しており、これも近い将来市場に流通し、原告の営業上の利益を侵害することになる。 (被告の主張)争う。 (5) 争点(6)(被告の故意の有無) (原告の主張)被告は、出版社として、出版業界で流行している書籍は当然把握している立場である。このため、令和5 年2 月19 日時点で、シリーズ累計46 万部以上を発行し、ヒットシリーズとなっていた原告書籍を知っていた。むしろ、ウェブサイト上の被告書籍の体裁を見る限り、積極的に被告書籍を原告書籍に類似する体裁にしており、 意図的に原告書籍を模倣していたことがうかがわれる。 また、被告は、被告書籍発売前の同月15 日、原告から警告を受けており、遅くとも同日までには、被告書籍が原告書籍と類似する体裁であることを認識しながら、被告書籍の出版を強行した。 したがって、被告には、原告の営業上の利益の侵害につき故意がある。 (被告の主張) 被告が出版社であること、原告から令和5 年2 月15 日に内容証明郵便の送付を受けたことは認める。その余は否認ないし争う。 (6) 争点(7)(損害額)(原告の主張)ア法5 条2 項の損害額 (ア) 被告書籍の店頭での販売価格は1540 円(税込)であるところ、被告の規模に応じた取次会社への卸値(1047 円)から平均的な製造原価率及び印税を考慮した原価(385 円)を控除すると、被告書籍の1 冊当たりの限界利益は662 円である。 (イ) 被告書籍の実売数は、推計860 冊である。 (ウ) したがって、不正競争防止5 条2 項に基づく原告の推定損害額は57 万円(利 益額662 円×実売総数860 冊程度)である。 イ弁護士費用相当損害金原告は、被告に対する損害賠償請求を したがって、不正競争防止5 条2 項に基づく原告の推定損害額は57 万円(利 益額662 円×実売総数860 冊程度)である。 イ弁護士費用相当損害金原告は、被告に対する損害賠償請求をするため、弁護士である原告訴訟代理人らに委任した。その費用のうち、上記推定損害額の1 割が被告による不正競争と相当因果関係を有する支出であるから、5 万7000 円も原告の損害となる。 ウ損害合計原告の損害額は、合計62 万7000 円である。 (被告の主張)否認ないし争う。 第4 当裁判所の判断 1 争点(1)(原告表示の「商品等表示」該当性)及び争点(2)(原告表示の周知性)(1) 「商品等表示」の意義「商品等表示」とは、「人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの」をいう(不正競争防止法2 条1 項 1 号)。商品の形態は、商標等と異なり、本来的には商品の出所を表示する目的を有 するものではないが、商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有する に至る場合があるところ、このように商品の形態自体が「商品等表示」に該当するためには、商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性)、かつ、その形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され、又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により、需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていること (周知性)を要すると解する。 (2) 原告表示の周知性についてア原告書籍の需要者について原告書籍の需要者については、証拠(甲5、9、10、15)及び弁論の全趣旨によれば、原告書籍が一般的な書店及び書籍販売 と解する。 (2) 原告表示の周知性についてア原告書籍の需要者について原告書籍の需要者については、証拠(甲5、9、10、15)及び弁論の全趣旨によれば、原告書籍が一般的な書店及び書籍販売サイトで販売されていること、電子書籍 の有料配信が行われていること、原告書籍の新聞広告が全国紙、地方紙及びスポーツ紙に広く掲載されたこと、一般向けのウェブ記事で紹介されたことなどに鑑みると、原告書籍は、広くノンフィクション・エッセイに関心を有する者を需要者とするとみるのが相当である。これに反する被告の主張は採用できない。 イ原告書籍の販売実績等について 原告書籍の販売実績に関し、原告は、シリーズとしての原告書籍の累計発行部数は46 万部以上である旨を主張する。これを裏付けるに足りる的確な証拠はないものの、令和4 年5 月31 日付け「DIAMONDonline」の記事(甲10 の1)では、同年4 月時点での原告書籍(コミカライズ版2 作を含む。)の発行部数は累計40.4 万部とされ、また、原告書籍1(交通誘導員ヨレヨレ日記)は「7 万6000 部のベスト セラー」と紹介されている。令和2 年8 月29 日付け「幻冬舎GOLDONLINE」の記事(甲10 の2)にも、原告書籍1 につき、「昨年7 月に発刊するや、1 年余りで 7 万6000 部を突破した。」と紹介されている。さらに、令和4 年10 月6 日付け「中央公論.jp」の記事(甲10 の3)では、原告書籍の累計発行部数は45 万部と紹介されている。なお、書籍の一般的な流通形態に鑑みると、販売実績は、発行部数以下 ではあるものの、これに比較的近い数字であることが合理的に推認される。また、 原告書籍は、インターネット上で電子書籍として販売ないし有料 形態に鑑みると、販売実績は、発行部数以下 ではあるものの、これに比較的近い数字であることが合理的に推認される。また、 原告書籍は、インターネット上で電子書籍として販売ないし有料配信されていることもうかがわれる。 ウ原告書籍の宣伝広告等について前記のとおり、原告書籍についてはインターネット上に複数の紹介記事が掲載されているほか、証拠(甲9)及び弁論の全趣旨によれば、別紙「原告書籍の広告実 績」のとおり、令和元年7 月~令和5 年4 月の間、毎月のように原告書籍に関する新聞広告が全国紙、地方紙及びスポーツ紙に広く掲載されていたことが認められる。 もっとも、新聞広告につき仔細にみると、令和2 年1 月までは原告書籍1 のみの広告であり、原告書籍2 以降は、それぞれの書籍が発売されるたびに個別に又は既刊の原告書籍と共に広告が掲載された。その広告には「3 段8 割」がかなりの割合 を占めるところ、「3 段8 割」とは、新聞の1 面下部にある文字だけの書籍広告欄を指すものと理解される(甲10 の3)。「全5 段」、「5 段2 割」といった広告も少なからず見受けられるが、これらは基本的に原告書籍を含む原告の発行する複数の書籍を一括して掲載したものとみられる。その具体的態様は必ずしも詳らかではないものの、仮に令和5 年3 月2 日付け読売新聞に掲載された広告(甲8)と類似するも のであるとすると、原告書籍の各表紙と共通する一部のイラスト及びコメントは掲載されているものの、掲載された原告書籍の全てにつき、原告書籍の表紙(甲3)にみられる原告表示の要素全部が掲載されてはいない。上記広告掲載の直近に発売された原告書籍12 については、原告書籍12 の表紙(甲3)と同一書体による題号並びに同一内容のイラスト及びコメン 甲3)にみられる原告表示の要素全部が掲載されてはいない。上記広告掲載の直近に発売された原告書籍12 については、原告書籍12 の表紙(甲3)と同一書体による題号並びに同一内容のイラスト及びコメントが示されているものの、原告書籍12 の表 紙とは配置(コメントの一部につき、縦書きか、横書きか)が異なり、表紙が白色を基調とするものであることをうかがわせる記載等はなく、さらに、原告書籍12 の表紙には存在しない読者等のコメントの記載がある。すなわち、「全5 段」の新聞広告において、原告表示の表紙における要素の全て(①~④)が表紙と同じ配置で掲載されていることを認めるに足りる証拠はない。 エ以上の事情を総合的に考慮すると、原告書籍については、仮に原告主張のと おりシリーズ累計発行部数が46 万部であったとしても、その需要者が広くノンフィクション・エッセイに関心を有する者であることをも踏まえると、原告書籍それ自体が周知といえるほどの販売実績があるとまではいい難い。その点を措くとしても、その販売期間はシリーズを通算しても4 年半程度に過ぎず、原告表示につき原告によって長期間独占的に使用されたものとは認められない。また、その宣伝広告 の実情等をみても、極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により、需要者であるノンフィクション・エッセイに関心を有する者において、原告表示をもって、これを有する原告書籍の出所が特定の事業者である原告(ないし「原告書籍の発行者」)であることを表示するものとして周知になっていたとは認められない。 以上より、原告表示は、一般消費者にとって、原告書籍の出所として原告を表示 するものとして周知になっているものとはいえないから、「商品等表示」に該当するとはいえず、また、「需要者の間に広く認 以上より、原告表示は、一般消費者にとって、原告書籍の出所として原告を表示するものとして周知になっているものとはいえないから、「商品等表示」に該当するとはいえず、また、「需要者の間に広く認識されている」ということもできない。 (3) 小括したがって、その余の点につき論ずるまでもなく、原告は、被告に対し、不正競争防止法3条(同法2条1項1号)に基づく差止(同条1項)及び廃棄請求権(同条2項)並びに同法4条に基づく損害賠償請求権を有しない。 第5 結論 よって、原告の請求はいずれも理由がないから、これらをいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 杉浦正樹 裁判官 久野雄平 裁判官 吉野弘子 (別紙)当事者目録 原告 株式会社三五館シンシャ 同訴訟代理人弁護士 矢野領 森真信 被告 ワック株式会社 同訴訟代理人弁護士 野中信敬 安田修 辻美和 同訴訟代理人弁護士野中信敬同安田修同辻美和 (別紙)略語一覧表被告書籍別紙被告書籍目録記載の書籍原告書籍1~14別紙原告書籍目録記載の書籍原告書籍原告書籍1~14 の総称原告表示原告が原告書籍の商品等表示として主張する要素①~⑥又は①~④を備えたもの (別紙原告書籍目録省略)(別紙原告書籍の表紙一覧省略)(別紙被告書籍目録省略)(別紙原告書籍の広告実績省略)

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