令和4年5月31日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和元年(ワ)第12715号損害賠償請求事件口頭弁論終結日令和4年3月29日判決 原告株式会社SHIFT 同訴訟代理人弁護士平山剛 被告株式会社モノビット訴訟承継人monoAitechnoLogy株式会社(以下「被告monoA I」という。) 同訴訟代理人弁護士髙橋正樹 同近藤純司 被告モリカトロン株式会社(以下「被告モリカトロン」という。) 同訴訟代理人弁護士富田直由 被告A(以下「被告A」といい、被告monoAI及び被告モリカトロンと併せて「被告ら」という。) 同訴訟代理人弁護士塚本鳩耶 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 被告らは、原告に対し、連帯して12万5136円及びこれに対する平成30年11月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨 本件は、ソフトウェア等のテスト業務を専門に行う株式会社である原告が、原告の元従業員である被告Aによって、テスト業務に使用するテスト設計書の電子ファイルを無断で持ち出して転職先である被告モリカトロンに持ち込まれ、被告モリカトロンにおいて、同電子ファイルを、株式会社モノビットの受託に基づいて実施したテスト業務や被告Aが講師を務めた社内研修で使用されたなどと主張して、①被告ら(被告monoAIは株式会社モノビットの訴訟承継人) 、同電子ファイルを、株式会社モノビットの受託に基づいて実施したテスト業務や被告Aが講師を務めた社内研修で使用されたなどと主張して、①被告ら(被告mon oAIは株式会社モノビットの訴訟承継人である。)が不当利得を得たことを理由とする不当利得返還請求権、②被告Aが原告に提出した各誓約書に違反したことを理由とする債務不履行による損害賠償請求権、③原告のノウハウを侵害したことを理由とする共同不法行為による損害賠償請求権、④原告の著作権を侵害したことを理由とする共同不法行為による損害賠償請求権、又は⑤被告A及び被告モリカトロンが不正競争 をしたことを理由とする不正競争防止法4条による損害賠償請求権に基づき、上記①から⑤の順序で請求に順位を付けて、被告らに対し、連帯して12万5136円及びこれに対する平成30年11月7日(原告が被告Aによる上記持ち出しに気付いた日)から支払済みまで民法704条による法定利息又は平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(証拠等の掲示のない事実は、当事者間に争いがない。なお、枝番号の記載を省 略したものは、枝番号を含む。)(1) 当事者原告は、コンピューターシステム・ソフトウェアのテスト業務を専門に行う株式会社である。 被告モリカトロンは、AIシステムの研究開発及びテスト業務等の業務を行う株式 会社である。 株式会社モノビット(以下「モノビット」という。)は、ゲームソフト及びデジタルコンテンツの企画、デザイン、開発、制作等の業務を行う株式会社であったところ、本件訴え提起後の令和2年1月1日に被告monoAIに吸収合併された。 被告monoAIは、ゲームソフト及びデジタルコンテンツの企画、デザイン、開 ン、開発、制作等の業務を行う株式会社であったところ、本件訴え提起後の令和2年1月1日に被告monoAIに吸収合併された。 被告monoAIは、ゲームソフト及びデジタルコンテンツの企画、デザイン、開発、 制作等の業務を行う株式会社であり、上記吸収合併により、モノビットの訴訟承継人となった。 被告Aは、平成29年5月1日に原告に入社し、平成30年7月31日に退職した原告の元従業員である。原告に入社する前からソフトウェアのテスト事業に従事しており、原告に入社した平成29年5月から原告を退職するまでの間、原告のソフトウェア テスト事業本部に所属し、東京テストセンターグループのグループ長を務めた。その後、平成30年9月1日に被告モリカトロンに入社し、同年12月頃に同社のテスト事業部門の事業部長に就任した。(甲12、乙ロ37)(2) テスト業務原告及び被告モリカトロンが行うテスト業務は、ゲームソフトの制作会社等から委 託を受けて、ゲームソフト等のソフトウェアが仕様どおりに動作するかを確認し、プログラムの不具合の有無を検出することを内容とするものである。テスト業務の担当者は、テスト業務で確認すべき事項や確認結果を可視化して作業の抜け漏れを防止すること等を目的として、通常、それらを記録する「テスト設計書」と呼ばれる資料を作成する。 (3) 本件各ファイル 原告の従業員らは、平成28年4月頃、●(省略)●テスト設計書のひな型として、●(省略)●別紙1記載の電子ファイルを作成した(以下「本件ファイル1」という。)。 (甲5)原告の従業員らは、平成28年5月頃、●(省略)●テスト設計書のひな型として、●(省略)●別紙2記載の電子ファイルを作成した(以下「本件ファイル2」といい、 本件ファイル1と総称し (甲5)原告の従業員らは、平成28年5月頃、●(省略)●テスト設計書のひな型として、●(省略)●別紙2記載の電子ファイルを作成した(以下「本件ファイル2」といい、 本件ファイル1と総称して「本件各ファイル」という。)。(甲18)(4) 被告Aによる本件ファイル1の持ち出し等被告Aは、平成30年6月頃、原告から貸与されていた業務用パソコンを使用して、本件ファイル1の電子データをチャットツールの自身のアカウントにアップロードして保存した。そして、被告モリカトロンに入社した後、私用パソコンを使用して、上記 アカウントから同電子データをダウンロードして同パソコンに保存し、自身のUSBメモリスティックを介して被告モリカトロンの業務用パソコン及びローカル・エリア・ネットワークに保存した。さらに、被告モリカトロンの社内研修で使用するために、本件ファイル1を加工修正して研修資料(以下「本件研修資料」という。)を作成し、被告モリカトロンの従業員7名が出席した被告モリカトロンの社内研修(以下「本件研 修」という。)において、同研修資料を用いて指導を行った。(甲6、弁論の全趣旨)(5) 被告モリカトロンによる本件研修資料の利用等モノビットは、取引先の会社からゲーム開発業務を受託し、被告モリカトロンに対し、同ゲーム開発業務に係るテスト業務を委託した。 被告モリカトロンは、同テスト業務において、被告Aが作成した前記研修資料を用い てテスト設計書を作成し、同テスト設計書をモノビットに提出した。 モノビットは、同テスト設計書を取引先の会社に提出した。(甲4、6)(6) 本件各誓約書ア入社時誓約書被告Aは、平成29年5月1日、原告に入社するに当たり、次の記載がある誓約書に 署名押印して原告に提出した(以下「入社時 社に提出した。(甲4、6)(6) 本件各誓約書ア入社時誓約書被告Aは、平成29年5月1日、原告に入社するに当たり、次の記載がある誓約書に 署名押印して原告に提出した(以下「入社時誓約書」という。)。(甲1) 「このたび貴社従業員として入社するにあたり、以下の事項を厳守することを誓約致します。 (中略) 3 在職中及び退職後においても業務上知り得た機密情報及び個人情報などいかなる情報も他へ漏らさないこと。 4 故意または重大な過失により貴社に損害を与えた際は、退職後に発覚した場合でも、その賠償責任を負うこと。」イ退職時誓約書1被告Aは、平成30年7月31日、原告を退職するに当たり、次の記載がある「秘密保持、競業避止およびインサイダー取引防止に関する誓約書」に署名押印して原告に提 出した(以下「退職時誓約書1」という。)。(甲1)「今般、貴社を退職するにあたり、私は、下記の事項を遵守することを誓約いたします。 ■ 秘密保持の確認第1条私は、在職時に従事した業務において知り得た貴社(子会社、関係会社を含 む)が秘密として管理している以下の技術上・営業上の情報(以下「秘密情報」という)について、退職後においても、これらを他に開示、漏洩、または自ら使用しないことを誓約します。 (1) 技術上の情報、知的財産権に関する情報(中略) (5) 前各号のほか、貴社が特に秘密保持対象として指定した情報第2条私は、在籍中に入手した文書、資料、図面、写真、サンプル、磁気テープ、フロッピーディスク等業務に使用したものは、現状のまますべて返却するとともに、そのコピー及び関係資料等も返還し、一切保有していないことを誓約します。 (中略) ■ 損害賠償 フロッピーディスク等業務に使用したものは、現状のまますべて返却するとともに、そのコピー及び関係資料等も返還し、一切保有していないことを誓約します。 (中略) ■ 損害賠償 第7条本誓約書の各条項に違反して、貴社の秘密情報を開示、漏えい又は使用した場合、法的な責任を負担するものであることを確認し、これにより貴社が被った一切の損害(社会的な信用失墜を含みます。)を賠償することを約束いたします。」ウ退職時誓約書2被告Aは、平成30年7月31日、原告を退職するに当たり、次の記載がある「誓約 書」に署名押印して原告に提出した(以下「退職時誓約書2」といい、退職時誓約書1と総称して「退職時各誓約書」といい、入社時誓約書と退職時各誓約書を総称して「本件各誓約書」という。)。(甲12)「私は、貴社を退社するにあたり、2年間貴社の許可なく次の行為をしないことを誓約いたします。また、本誓約に違反し貴社に損害を与えた場合は責任をもって賠償いた します。 1)貴社と競合関係にある事業者に就職又は役員に就任すること(中略)4)名目の如何を問わず、また、直接・間接を問わず、貴社との競業関係を発生させる活動を行うこと」 第3 本件の争点及び当事者の主張 1 不当利得返還請求に係る争点被告らは原告の財産又は労務によって「利益」を得たか(争点1)【原告の主張】被告Aは本件ファイル1を用いて本件研修を行っているところ、原告は、原告が運営 する教育専門機関である「ヒンシツ大学」で同様の資料を用いて有料の研修を行っている。仮に原告が被告らから依頼を受けて同種の研修を提供する場合には、原告は「ヒンシツ大学」の参加者から受領する研修費に相当する金額を受領することになるところ、被告Aないし被告モリカト 研修を行っている。仮に原告が被告らから依頼を受けて同種の研修を提供する場合には、原告は「ヒンシツ大学」の参加者から受領する研修費に相当する金額を受領することになるところ、被告Aないし被告モリカトロンは、本件ファイル1を用いることで研修費を支払うことなく同種の研修を提供できた。 したがって、被告らは、原告の財産又は労務によって少なくとも上記研修費相当額で ある29万4000円(1名当たり4万2000円×7名)の「利益」(民法703条)を得た。 【被告らの主張】本件研修でヒンシツ大学の研修資料を使用した事実はない。被告Aが本件研修で使用した資料とヒンシツ大学の研修資料とは内容が異なっている。 また、ヒンシツ大学の研修資料においてテスト設計書が引用されているのはほんの一部に過ぎない。ヒンシツ大学の研修の重要な点はそれ以外の研修資料や研修担当者の講義内容に含まれており、テスト設計書が引用されている部分だけを見ても当該研修で講義を予定されているテスト業務の方法論等を学習することはできない。 そもそも、本件ファイル1は単なる表の枠組みに過ぎず、ノウハウや重要情報が記載 されたものではない。創作性もなく、記述も構成もありふれたものに過ぎない。また、原告のテスト設計書は営業資料として取引候補先に広く開示されており、パスワード設定や「秘密」である旨を示す明示的な記載もされていない。要するに、本件ファイル1は、著作物、営業秘密又は重要なノウハウのいずれにも当たらず、原告に独占的に帰属すべき実質的な経済的価値のないものである。 したがって、被告らは原告の財産又は労務によって「利益」を得ていない。 2 本件各誓約書違反を理由とする債務不履行による損害賠償請求に係る争点(1) 被告Aは本件ファイル2を原告から持 したがって、被告らは原告の財産又は労務によって「利益」を得ていない。 2 本件各誓約書違反を理由とする債務不履行による損害賠償請求に係る争点(1) 被告Aは本件ファイル2を原告から持ち出すなどしたか(争点2-1)【原告の主張】被告Aは、平成30年6月頃、原告から貸与されていた業務用パソコンを使用して本 件ファイル2をチャットツールの自身のアカウントに送信し、原告を退職した後、私用パソコンを使用して同アカウントから同ファイルをダウンロードして同パソコンに保存し、自身のUSBメモリスティックに保存した。 【被告Aの主張】チャットツールのアカウントに送信した電子ファイルの中に本件ファイル2が含ま れていたか否かは記憶にないため、本件ファイル2の取扱いについては認否できない。 (2) 本件各ファイルは入社時誓約書3条の「情報」に該当するか(争点2-2)【原告の主張】本件各ファイルは、入社時誓約書3条の「いかなる情報も」にいう「情報」に該当する。 同条項は秘密情報であることを要件とするものではない。 【被告Aの主張】入社時誓約書3条には「業務上知り得た機密情報及び個人情報」という例示があることから、ここでいう「情報」とは、原告にとって「機密情報及び個人情報」と同程度に重要度の高い情報に限られると解釈すべきである。 本件ファイル1は、それ自体は単なる書式に過ぎず、テスト業務を実施するに当たっ て重要な価値を持つものではない。また、原告社内においても何ら秘密として管理されておらず、原告自らが外部に開示して既に公知となっていたものである。 したがって、本件ファイル1は「機密情報及び個人情報」と同程度に重要度が高い情報であるとはいえず、入社時誓約書3条の「情報」に該当しない。 ( 自らが外部に開示して既に公知となっていたものである。 したがって、本件ファイル1は「機密情報及び個人情報」と同程度に重要度が高い情報であるとはいえず、入社時誓約書3条の「情報」に該当しない。 (3) 本件各ファイルは退職時誓約書1の1条柱書の「秘密情報」又は2条の「業務 に使用したもの」に該当するか(争点2-3)【原告の主張】本件各ファイルは、退職時誓約書1の1条柱書の「秘密情報」及び2条の「業務に使用したもの」に該当する。 退職時誓約書1の2条の「業務に使用したもの」は秘密情報であることを要件とする ものではない。 【被告Aの主張】本件ファイル1は原告社内において「秘密として管理」されておらず、退職時誓約書1の1条(1)ないし(5)に挙げられた「技術上・営業上の情報」にも該当しないから、同条の「秘密情報」に該当しない。 また、退職時誓約書1の2条は「秘密保持の確認」という項目内に1条と共に規定さ れていることから、そこでいう「業務に使用したもの」は1条で定める「秘密情報」に該当する範囲の資料に限定される。したがって、本件ファイル1は2条の「業務に使用したもの」にも該当しない。 (4) 被告Aは退職時誓約書2が定める競業避止義務に違反したか(争点2-4)【原告の主張】 被告Aは、原告を退職した2か月後に原告と競合関係にある被告モリカトロンに入社し、テスト事業部門の事業部長に就任して原告と競業関係を発生させる活動を行っている。 したがって、被告Aは退職時誓約書2が定める競業避止義務に違反した。 【被告Aの主張】 退職後の競業避止に関する合意は、従業員の就職及び職業活動それ自体を直接的に制約するものであり、退職した従業員の有する職業選択の自由に極めて大きな制約を及ぼすもの た。 【被告Aの主張】 退職後の競業避止に関する合意は、従業員の就職及び職業活動それ自体を直接的に制約するものであり、退職した従業員の有する職業選択の自由に極めて大きな制約を及ぼすものである。そのため、同合意の効力は競業行為を制約することの合理性を基礎づけ得る必要最小限度の内容に限定して認めるのが相当である。 被告Aが原告に在籍していた当時の地位は他の企業でいうところの課長程度の職位 でしかなく、給与も年収600万円程度と決して高いものではなかった。また、原告社内において被告Aが接することのできる情報の範囲は限られており、機密性の高い情報に接することは許可されていなかった。そもそも、被告Aが原告社内で担当していたテスト業務は、個々のゲーム作品を離れて何らかの情報を他に利用できる性質のものではない。被告Aがテスト業務を行う上で培った知識や技術も同業務に特化したもの であり、同じゲーム関連の業務であってもこれを利用できるものではない。そのため、原告退職後2年間テスト事業を行う会社に就職できないとなれば、事実上、被告Aの再就職は非常に厳しいものになる。また、2年間という期間は被告Aにとって余りにも長い。テスト事業は技術革新の目覚ましい分野であるから、2年間もテスト事業に携わることができなければこの間の技術の進歩に付いていけず、結局のところ、競業避止期間 が経過した後であっても再度テスト業務に従事することは事実上非常に困難になる。 加えて、原告は被告Aに対し何らの代償措置も講じていない。 これらの事情を総合考慮すれば、被告Aが被告モリカトロンに就職したことは退職時誓約書2に抵触しないと解すべきである。 (5) 本件各誓約書に係る合意は有効に成立したものか(争点2-5)【原告の主張】 本件各 慮すれば、被告Aが被告モリカトロンに就職したことは退職時誓約書2に抵触しないと解すべきである。 (5) 本件各誓約書に係る合意は有効に成立したものか(争点2-5)【原告の主張】 本件各誓約書に係る合意は有効に成立したものである。 被告Aは、誓約書につき何かしら懸念する点があるのであれば原告に確認を求めることができたにもかかわらず、自らの意思で何らの確認も行わなかった。また、原告による「強圧性」をもって誓約書に署名押印させたという事実もない。 【被告Aの主張】 ア入社時誓約書に係る合意について被告Aは、平成29年5月1日当時、原告から入社時誓約書の提出を求められていた。入社予定者がこのような誓約書を提出しない場合は入社を拒否されることが通常であり、少なくとも被告Aはそのように考えた。再就職の機会を棒に振る危険を冒してまで原告からの要請を拒否できるものではないという点で、誓約書を提出することに 強圧性が働いていたといえる。すなわち、被告Aは、秘密保持義務の対象が不限定であったがやむなくこれに署名押印して提出したに過ぎない。 したがって、入社時誓約書に係る合意は有効に成立したものではない。 イ退職時各誓約書に係る合意について被告Aは、原告を退職する際に、退職時各誓約書の提出を拒否したものの、原告の人 事部の担当者や管理部長から「誓約書を提出しないと退職を受け付けられない。」などと言われ、もはや提出しないことには退職ができず転職にも支障が生じると懸念するに至り、内容に同意していない退職時各誓約書を提出せざるを得なくなった。すなわち、退職時各誓約書の提出に強圧性が働いていたものであり、被告Aが退職時各誓約書の内容に真摯に同意した事実はない。 したがって、退職時各誓約書の合意も有効に成立したもの 得なくなった。すなわち、退職時各誓約書の提出に強圧性が働いていたものであり、被告Aが退職時各誓約書の内容に真摯に同意した事実はない。 したがって、退職時各誓約書の合意も有効に成立したものではない。 (6) 本件各誓約書に係る合意は公序良俗違反により無効か(争点2-6)【被告らの主張】ア入社時誓約書について入社時誓約書は、「業務上知り得た機密情報及び個人情報など」と例示しつつ「いかなる情報」を含むものとして対象が無限定とされており、過度に広範である。すなわち、 義務の対象が不限定であるため合意として無効である。 イ退職時誓約書1について退職時誓約書1では秘密情報の範囲が無限定とされており、実質的に競業避止義務を課したものと同視できる。また、本件各ファイルは原告事業の存立に関わりかねないような重要資産には当たらないものであり、原告自身が経済的に無価値であることを 事実上認めており、営業秘密として厳重な管理をしていなかった。退職時誓約書1は、そのようなテスト設計書まで対象に含まれるとする無限定な秘密保持義務を含むものである。 したがって、退職時誓約書1に係る合意は公序良俗違反により全面的に無効である。 ウ退職時誓約書2について 退職時誓約書2では、競業避止義務を負うべき期間、地域及び範囲に限定がない。また、退職者に広範かつ無限定な競業避止義務を負わせるものであるにもかかわらず、原告は一切の代替措置を講じていない。かかる競業避止義務を含む退職時誓約書2は、被告Aが約20年近くテスト業務で築いたキャリアを失わせる定めであり、被告Aの職業選択の自由を著しく損なうものである。 したがって、退職時誓約書2に係る合意は公序良俗違反により全面的に無効である。 【原告の主張】争う 築いたキャリアを失わせる定めであり、被告Aの職業選択の自由を著しく損なうものである。 したがって、退職時誓約書2に係る合意は公序良俗違反により全面的に無効である。 【原告の主張】争う。退職時誓約書2では競業避止義務について期限が2年間と明確に定められており、本件各誓約書に係る合意は公序良俗違反により無効であるとはいえない。 (7) 原告は本件各誓約書違反によって損害を被ったか(争点2-7) 【原告の主張】 原告は、被告らの共同不法行為により少なくとも前記研修費相当額である29万4000円(1名当たり4万2000円×7名)の損害を被った(原告は、このうち、12万5136円を請求するものである。)。 【被告Aの主張】原告は、本件各誓約書違反による原告の損害の発生とその額及び被告Aの行為との 間の因果関係につき何ら具体的な事実を主張立証していないから、原告の主張は失当である。 3 ノウハウの無断使用を理由とする不法行為による損害賠償請求に係る争点(1) 被告らの行為は原告のノウハウを侵害する不法行為に該当するか(争点3-1)【原告の主張】 被告らは、次のとおり、原告のノウハウが記載された本件各ファイルを公正な競争として社会的に許容される限度を超える態様で利用した。したがって、被告らの行為は原告のノウハウを侵害する不法行為に該当する。 ア本件各ファイルについて本件各ファイルのうち、●(省略)●シート等に記載されているテスト項目は、●(省 略)●ものである。これは、バグ等を見つけやすくするための知見を可視化・共有化することで、テスト実施者の経験・能力等に左右されずに誰もが一定の水準以上のテストを実施できるようにしたものであり、原告のノウハウそのものである。このように、本件 すくするための知見を可視化・共有化することで、テスト実施者の経験・能力等に左右されずに誰もが一定の水準以上のテストを実施できるようにしたものであり、原告のノウハウそのものである。このように、本件各ファイルは、テスト事業を行う原告において相当程度の労力及び資金を投じて作成された経済的価値の高い電子ファイルであり、競合他社に対する優位性を確保する 上で非常に重要なものである。本件各ファイルが他社に流出した場合、原告が行っているテストの質と同品質のテストを他社でも容易に実施できてしまうため、原告にとって流出を避けなければならない情報であり、産業上も利用可能な情報である。特に、平成31年3月14日にテスト専門事業を開始するに至った被告モリカトロンのような企業にとっては、本件各ファイルを利用することによって、費用や年月をかけてテスト のノウハウを蓄積させることなく直ちにテストを実施できることとなってしまう。 したがって、原告が本件各ファイルをテスト業務で使用することによって得る経済的利益は、法律上保護に値する利益である。 イ被告Aの行為について被告Aは、原告に本件各誓約書を提出したにもかかわらず、本件各ファイルを持ち出し、本件研修で使用し、被告モリカトロンにおけるテスト業務に利用させた。 ウ被告モリカトロンの行為について被告モリカトロンは、本件研修で本件ファイル1を使用したほか、本件ファイル1に依拠して「釣りスタ」とのタイトルのゲームソフトに係るテスト業務を行い、テスト設計書の作成及びテストの実行を行った上で、これをモノビットに提出した。 エ被告monoAIの行為について 被告monoAIは、本件ファイル1を使用して実施されたテスト結果が入力されたファイルを取引先の会社に納品することで使用 、これをモノビットに提出した。 エ被告monoAIの行為について 被告monoAIは、本件ファイル1を使用して実施されたテスト結果が入力されたファイルを取引先の会社に納品することで使用した。 【被告らの主張】次のとおり、本件各ファイルは法律上保護に値する情報ではなく、被告Aの行為は社会通念上自由競争の範囲を逸脱したものではないから、被告Aの行為は原告のノウハ ウを侵害する不法行為には該当しない。 ア本件各ファイルについて本件各ファイルは、単なる枠のひな型に過ぎず、テスト業務に従事する者であれば容易に着想に至る程度のものであるから、取引対象となり得るような経済的価値を有しておらず、また、その作成について多大な投資費用や労力が費やされたものでもない。 したがって、本件各ファイルは法律上保護に値する情報ではない。 イ被告Aの行為について被告Aは、原告の営業秘密を殊更に利用する、原告の信用を貶めるといった不当な営業行為を行っていない。 (2) 被告Aに故意又は過失があったか(争点3-2) 【原告の主張】 被告Aは、本件各ファイルの持ち出し等について原告の許可を得ておらず、原告のノウハウを侵害していることにつき当然に故意又は過失があった。 【被告Aの主張】原告の上記主張は争う。 (3) 被告モリカトロンに過失があったか(争点3-3) 【原告の主張】被告モリカトロンは、被告Aが被告モリカトロンで使用していない大量のファイルを用いて本件研修を行っていたのだから、他社からの流用を疑うべきであり、本件各ファイルの出所等について被告Aに質問するなどして調査するべき義務を負っていたが、調査を行わなかった。 したがって、被告モリカトロンには過失が認められる。 【被告 を疑うべきであり、本件各ファイルの出所等について被告Aに質問するなどして調査するべき義務を負っていたが、調査を行わなかった。 したがって、被告モリカトロンには過失が認められる。 【被告モリカトロンの主張】原告の上記主張は争う。経営陣は、個々の従業員が業務で使用する資料について逐一確認する法的義務を負うものではない。被告モリカトロンとして、被告Aが本件ファイル1を使用していたことは認識し得なかったことであり、そもそも、被告Aが本件ファ イル1を使用することに法的な問題はなかった。 したがって、被告モリカトロンに過失はなかった。 (4) 被告monoAIに過失があったか(争点3-4)【原告の主張】被告monoAI及び被告モリカトロンは、緊密な役割分担の下、ゲームソフトの開 発プロジェクトを開発業務とテスト業務とに分けて相互に補完し合いながら進めていた。両被告は、同じ所在地の事業所を使用し、電話番号も共通しており、被告monoAIの従業員が被告モリカトロンの業務にも携わるという関係にあった。そして、両被告の代表取締役は同一人物である。そのため、被告monoAIは、被告モリカトロンと同様に本件各ファイルの著作権の帰属や出所等を容易に知り得たといえ、被告モリ カトロンや被告Aに質問・調査するべき義務を負っていながら、かかる調査を行わなか った。 したがって、被告monoAIには過失が認められる。 【被告monoAIの主張】原告の上記主張は争う。 (5) 原告はノウハウ侵害によって損害を被ったか(争点3-5) 【原告の主張】原告は、被告らにノウハウを侵害されたことによって、著作権侵害行為、不正競争行為と同様に、少なくとも12万5136円の損害を被った。 【被告らの主張】争う 争点3-5) 【原告の主張】原告は、被告らにノウハウを侵害されたことによって、著作権侵害行為、不正競争行為と同様に、少なくとも12万5136円の損害を被った。 【被告らの主張】争う。ノウハウの侵害については、著作権侵害や不正競争行為と異なり、法律上損害 の推定規定がない。そして、原告はノウハウ侵害による損害について具体的な主張立証を尽くしていない。したがって、原告がノウハウ侵害によって損害を被ったとは認められない。 4 著作権侵害を理由とする不法行為による損害賠償請求に係る争点(1) 本件各ファイルは「著作物」(著作権法2条1項1号)に該当するか(争点4- 1)【原告の主張】本件各ファイルは、次のとおり、原告独自の表現方法で原告の個性を表したものであるから、創作性が肯定でき著作物性が認められる。 ア本件ファイル1について (ア) 各シートの選択と組合せ(配列)テスト観点に漏れがないよう、テストに必要な項目を●(省略)●となるように組み合わせた。また、●(省略)●配列した。 このようなシートの選択や配列(組合せ)は、●(省略)●できるようにするための工夫が表現されたものである。特に、●(省略)●工夫が表現されたものである。これ らの表現には他社のテスト設計書に見られない原告独自の個性が表されている。 (イ) レイアウト及び配色の組合せ各シートにおいてレイアウト及び配色を統一することは、テスト区分が異なっても汎用的にテスト仕様書を使用できるようにするための工夫が表現されたものであり、原告独自の表現方法であって原告の個性が表されている。 (ウ) 各シートに記載されている文言 ●(省略)●テストを実施するために必要な情報としては●(省略)●といった記載にして ものであり、原告独自の表現方法であって原告の個性が表されている。 (ウ) 各シートに記載されている文言 ●(省略)●テストを実施するために必要な情報としては●(省略)●といった記載にしている。また、●(省略)●また、●(省略)●工夫に基づき表現している。 また、●(省略)●記載している。ここでは、●(省略)●また、●(省略)●との記載になっている。このような記載は、●(省略)●工夫を具体的に表現したものである。 以上の文言は、それぞれ多数ある他の記載方法から特定の表現を選択し、視認性、網羅性及び汎用性確保のために工夫して表現したものである。 イ本件ファイル2について(ア) ●(省略)●シートについて●(省略)●記載されている。●(省略)●さらに、●(省略)●と表現している。 これらの表現は他社が保有している同種のファイルには見られず、原告の個性が表されている。 (イ) ●(省略)●シートについて原告作成の●(省略)●これらの記載は他社の保有するテスト設計書には見られない表現である。 また、●(省略)●これにより、●(省略)●工夫が表現されている。これも他社には見られない項目である。 そして、●(省略)●これにより、●(省略)●工夫が表現されている。これも他社には見られない項目である。 以上のように、●(省略)●を記載する表現は、他社が保有している同種のファイル には見られず、原告の個性が表現されている。 さらに、●(省略)●特に、●(省略)●では、●(省略)●と記載され、●(省略)●をしている。●(省略)●工夫が表れているといえる。 【被告らの主張】本件各ファイルは、没個性的なひな型(ブランクフォーム)であってテスト業務で確認した事項を記載する「枠」にすぎ 、●(省略)●をしている。●(省略)●工夫が表れているといえる。 【被告らの主張】本件各ファイルは、没個性的なひな型(ブランクフォーム)であってテスト業務で確認した事項を記載する「枠」にすぎないこと、専ら実用的側面に着目されて作成された ものであること、表現された文字は確認事項そのもの(アイデア)の域にとどまり、テスト設計書としての一覧性を確保する目的からありふれた表現にせざるを得ず、表現の幅が相当限定的であること、「実行パターン表」については業界で一般的に活用される「ディシジョンテーブル」と酷似し独創性を欠いていることなどから、著作物に該当する余地はない。 また、どのテスト事業者もテスト項目に関する確認結果を可視化し顧客に確認結果を報告するべくテスト設計書を作成するものであり、テスト事業者ごとにテスト業務として実施すべき事項や作業内容には本質的な差異がないことから、テスト事業者ごとに作成されるテスト設計書にも本質的な差異は生じにくい性質のものである。仮にそのような性質である本件各ファイルに「著作物」性を認め独占権を許容するとすれ ば、原告以外のテスト事業者はもはや原告の許諾なくして自社のテスト設計書を使用することができないリスクが生じる。 したがって、本件各ファイルは「著作物」に該当しない。 (2) 原告は本件各ファイルの著作権を有するか(争点4-2)【原告の主張】 本件各ファイルは、原告の発意に基づいて原告の従業員が会社の業務として職務上作成したものである。また、一般に公開することを予定していない社内限定の電子ファイルであるものの、仮に公表する場合は当然原告の著作名義で公表するものである。なお、原告の就業規則において、従業員が業務中に制作した著作物に関し、その著作者を当該従業員とする規定は定め 定の電子ファイルであるものの、仮に公表する場合は当然原告の著作名義で公表するものである。なお、原告の就業規則において、従業員が業務中に制作した著作物に関し、その著作者を当該従業員とする規定は定められていない。 したがって、原告は、著作権法15条1項に基づき本件各ファイルの著作権を有す る。 【被告らの主張】争う。本件各ファイルはウェブサイト上に一般公開されているテスト設計書と内容面及び形式面で酷似するものであり、同テスト設計書にそのまま依拠した可能性が否定できず、原告が独立して創作したものということはできない。 (3) 被告Aに故意又は過失があったか(争点4-3)【原告の主張】被告Aは本件各ファイルの持ち出し等について原告の許可を得ておらず、原告の著作権を侵害していることにつき当然に故意又は過失があった。 【被告Aの主張】 原告の上記主張は争う。 (4) 被告モリカトロンに過失があったか(争点4-4)【原告の主張】被告モリカトロンは、被告Aが本件研修を行うに当たって被告モリカトロンで使用していない大量のファイルを用いていれば、他社からの流用を疑うべきであり、その出 所等について被告Aに質問・調査するべき義務を負っていた。しかし、被告モリカトロンは調査を行わなかった。 したがって、被告モリカトロンには過失が認められる。 【被告モリカトロンの主張】被告モリカトロンは、本件各ファイルが他社から不正に流用されたものと認識して いなかったし、それを認識することも期待できなかった。むしろ、本件各ファイルは、ひな型例がウェブサイト上でも公表されているなど、被告モリカトロンとして他社からの無断の流用を疑うべきという事情がなかった。そのため、被告モリカトロンは、被告Aに対して、 むしろ、本件各ファイルは、ひな型例がウェブサイト上でも公表されているなど、被告モリカトロンとして他社からの無断の流用を疑うべきという事情がなかった。そのため、被告モリカトロンは、被告Aに対して、本件各ファイルの持ち出しを問いただして調査する義務を負っていたとはいえない。 したがって、被告モリカトロンに過失はなかった。 (5) 被告monoAIに過失があったか(争点4-5)【原告の主張】被告monoAI及び被告モリカトロンは、緊密な役割分担の下、ゲームソフトの開発プロジェクトを開発業務とテスト業務とに分けて相互に補完し合いながら進めていた。両被告は、同じ所在地の事業所を使用し、電話番号も共通しており、被告mono AIの従業員が被告モリカトロンの業務にも携わるという関係にあった。そして、両被告の代表取締役は同一人物である。そのため、被告monoAIは、被告モリカトロンと同様に本件各ファイルの著作権の帰属や出所等を容易に知り得たといえ、被告モリカトロンや被告Aに質問・調査するべき義務を負っていながら、これを行わなかった。 したがって、被告monoAIには過失が認められる。 【被告monoAIの主張】原告の上記主張は争う。 (6) 原告は著作権侵害によって損害を被ったか(争点4-6)【原告の主張】著作権法114条2項により、被告モリカトロンが著作権侵害行為によって得た利 益は原告が受けた損害の額と推定されるところ、被告モリカトロンが得た利益額は少なくとも11万3760円を下らない。また、原告は、弁護士費用相当額として少なくともその10%相当額に当たる1万1376円の損害を被った。 したがって、原告は、著作権侵害行為により少なくとも合計12万5136円の損害を被った。 【 告は、弁護士費用相当額として少なくともその10%相当額に当たる1万1376円の損害を被った。 したがって、原告は、著作権侵害行為により少なくとも合計12万5136円の損害を被った。 【被告らの主張】原告の上記主張は争う。 5 不正競争を理由とする損害賠償請求に係る争点(1) 本件各ファイルは「営業秘密」(不正競争防止法2条6項)に該当するか(争点5-1) 【原告の主張】 本件各ファイルは、次のとおり「営業秘密」に該当する。 ア秘密管理性原告においては、本件各ファイルを社内の共用サーバーに蔵置し、これにアクセスする業務用パソコンの監視を通じて従業員のアクセス状況を監視していた。また、原告は、業務用パソコンからインターネットに接続した際のアクティブウィンドウの監視 も行うなど厳重な情報管理体制を敷いていた。 原告が貸与していた業務用パソコンは、各従業員に割り当てられたIDとパスワードを入力しなければ使用することができず、情報の重要度や必要性に応じ情報にアクセスできる従業員を制限するなどアクセス制限を設けていた。また、USBメモリなどを業務用パソコンに接続しても、反応せず社内情報の持ち出しができない技術的な設 定が施されていた。仮にUSBメモリを業務用パソコンに差し込んだ場合、アラートが鳴り、原告の役員に対し直接報告が入る仕組みになっていた。また、インターネットなどの外部へのアクセスも原則として禁止されており、申請して許可を受けた従業員のみがインターネットにアクセスすることを許されていた。 さらに、原告は、執務室やテストセンター内に加え、廊下の至るところに情報の持ち 出しを禁止する旨掲示していた。また、執務室やテストセンターに入室するには必ず指紋認証又は顔認証を経なければな さらに、原告は、執務室やテストセンター内に加え、廊下の至るところに情報の持ち 出しを禁止する旨掲示していた。また、執務室やテストセンターに入室するには必ず指紋認証又は顔認証を経なければならず、無関係な従業員の入室は禁止されていた。営業上の必要から許可を受けた従業員を除き、携帯電話などの私物の持ち込みも禁止されていた。 このほか、原告は、原告が保有する全ての情報を退職後であっても第三者に漏らして はならないことなどを明記した機密情報管理規程を定めており、各事業部門において、上長が教育を行い原告の保有する情報を持ち出さないよう指導していた。 以上に加え、被告Aの退社時には、退社時に通常提出を受ける誓約書のほか、被告Aが東京テストセンターのグループ長という責任ある立場にいたことから、別途競業禁止について定めた誓約書を提出させていた。 以上の事情から、本件各ファイルにアクセスした者は、本件各ファイルが営業秘密で あることを認識できた。 イ有用性本件各ファイルは、原告が長年にわたって行ってきたテスト業務において蓄積されてきたテスト観点などの知見が記載されたものであり、有用な技術上営業上の情報に当たる。 ウ非公知性本件各ファイルは、原告が事業として行っているテスト業務において一般に公開されていない情報である。 【被告らの主張】本件各ファイルは、次のとおり、営業秘密としての管理の実態が認められず、非公知 性も認められないため、「営業秘密」に該当しない。 ア秘密管理性原告は、本件各ファイルに記載される情報を営業秘密として管理しておらず、むしろ、取引検討先に広く提供する資料に掲載している。また、本件各ファイルについては、他の一般情報と区別して秘密である旨が明示されておらず、秘密 ァイルに記載される情報を営業秘密として管理しておらず、むしろ、取引検討先に広く提供する資料に掲載している。また、本件各ファイルについては、他の一般情報と区別して秘密である旨が明示されておらず、秘密であるものとして取 り扱う運用も行われていなかったため、原告の従業員に対して営業秘密として取り扱うべきことが明確化されていたとはいえない。さらに、原告社内においてアクセス制限は課されておらず、全従業員がID及びパスワードを入力した会社のPCを通じてアクセスすることが可能という状況であった。 したがって、原告においては、本件各ファイルについて、営業秘密として管理するに 足る程度の情報管理体制が存在していなかったといえる。 イ非公知性本件各ファイルに係る情報は、原告自身が社外の者に対して広く情報提供している。 また、本件各ファイルの作成方法はウェブサイト等の公表情報からも容易に取得することができる。 したがって、本件電子ファイルに含まれる情報に非公知性を認めることはできない。 (2) 被告Aは原告から本件各ファイルを「示された」(不正競争防止法2条1項7号)か(争点5-2)【原告の主張】被告Aは、東京テストセンターグループのグループ長という責任ある立場におり、本件各ファイルにアクセスして職務上使用する権限を有していた。 したがって、被告Aは原告から本件各ファイルを「示された」者に当たる。 【被告らの主張】原告の上記主張は、争う。 (3) 被告Aは「不正の利益を得る目的」又は「その営業秘密保有者に損害を加える目的」(不正競争防止法2条1項7号)を有していたか(争点5-3) 【原告の主張】被告Aは、本件各誓約書を提出したにもかかわらず、原告を退職する1か月前の時期にあえて本件各フ 害を加える目的」(不正競争防止法2条1項7号)を有していたか(争点5-3) 【原告の主張】被告Aは、本件各誓約書を提出したにもかかわらず、原告を退職する1か月前の時期にあえて本件各ファイルをチャットツールの個人アカウントにアップロードして不正に取得し、原告と競合関係にある被告モリカトロンに就職し、被告モリカトロンの従業員に本件各ファイルを提供してその業務に使用させている。 以上から、被告Aが「不正の利益を得る目的」又は原告に「損害を加える目的」を有していたことは明らかである。 【被告らの主張】原告の上記主張は争う。 (4) 被告Aは本件各ファイルを「使用し、又は開示する行為」(不正競争防止法2条 1項7号)に及んだか(争点5-4)【原告】被告Aは、本件ファイル1を被告モリカトロンのローカル・エリア・ネットワーク内に共有し、他の同社業務用パソコンからも複製できる状態に置き、被告モリカトロンの従業員7名に提供し、被告モリカトロンに開示した。 また、被告Aは、本件ファイル1を複製・改変し、本件研修で自ら使用した。 さらに、被告Aは、本件ファイル1を複製・改変し被告モリカトロンのテスト業務で自ら使用した。 これらによれば、被告Aは、本件各ファイルを「使用し、又は開示する行為」に及んだといえる。 【被告らの主張】 被告Aが本件ファイル1を複製して本件研修で使用した限りで認める。その余は争う。 (5) 被告Aに故意又は過失があったか(争点5-5)【原告の主張】被告Aには、当然に不正競争行為についての故意があった。 【被告Aの主張】原告の上記主張は争う。 (6) 被告モリカトロンは本件各ファイルについて「営業秘密不正開示行為であること」若しくは「営業秘密 然に不正競争行為についての故意があった。 【被告Aの主張】原告の上記主張は争う。 (6) 被告モリカトロンは本件各ファイルについて「営業秘密不正開示行為であること」若しくは「営業秘密不正開示行為が介在したこと」を知って、又は重大な過失により知らないで取得したか(不正競争防止法2条8号)(争点5-6) 【原告の主張】被告モリカトロンは、原告の下でテスト事業に携わっていた経歴を見込んで被告Aを採用したことが明らかである。したがって、被告Aが研修を行うに当たって被告モリカトロンで使用していない大量のファイルを用いていれば他社からの流用を疑うべきであり、被告モリカトロンは、その出所等について被告Aに質問・調査するべき義務を 負っていた。しかし、被告モリカトロンは調査を行わなかった。 したがって、被告モリカトロンは、被告Aによる本件各ファイルの開示行為が介在していることを知って、又は重大な過失により知らないで、本件各ファイルを取得した。 【被告モリカトロンの主張】原告の上記主張は争う。原告が主張する義務の内容や根拠が明確ではない。 (7) 原告は不正競争によって損害を被ったか(争点5-7) 【原告の主張】不正競争防止法5条2項により、被告モリカトロンが著作権侵害によって得た利益は原告が被った損害の額と推定されるところ、被告モリカトロンが得た利益は11万3760円を下らない。そして、原告は、弁護士費用相当額としてその10%相当額に当たる1万1376円の損害を被った。 したがって、原告は、不正競争行為によって少なくとも12万5136円の損害を被った。 【被告らの主張】原告の上記主張は争う。 6 使用者責任を理由とする損害賠償請求に係る争点 被告Aの行為(ノウハウ侵害 不正競争行為によって少なくとも12万5136円の損害を被った。 【被告らの主張】原告の上記主張は争う。 6 使用者責任を理由とする損害賠償請求に係る争点 被告Aの行為(ノウハウ侵害、著作権侵害及び不正競争に係る行為)は被告モリカトロンの「事業の執行について」(民法715条1項)なされたものか(争点6)【原告の主張】被告モリカトロンの従業員である被告Aは、本件各ファイルを、被告モリカトロンのローカル・エリア・ネットワーク内に共有し、被告モリカトロンの従業員7名に提供し、 被告モリカトロンに開示した。被告モリカトロンは本件各ファイルを用いてテスト業務を行った。さらに、被告Aは本件研修で本件各ファイルを使用した。 これらの事業はいずれも被告Aの職務の範囲内の行為であり、被告Aの著作権侵害ないし不正競争行為は被告モリカトロンの事業に関しなされたものである以上、被告モリカトロンの事業の執行に当たる。 【被告モリカトロンの主張】原告の上記主張は争う。 7 共同不法行為を理由とする損害賠償請求に係る争点被告らの行為(ノウハウ侵害、著作権侵害及び不正競争に係る行為)は「共同の不法行為」(民法719条前段)に該当するか(争点7) 【原告の主張】 被告らは、緊密な役割分担の下、ゲームソフトの開発プロジェクトを開発業務とテスト業務とに分けて相互に補完し合いながら進めていた。 したがって、被告Aによるノウハウ侵害、著作権侵害及び不正競争行為について、被告らの行為には関連共同性が認められ、被告らの行為は「共同の不法行為」に該当する。 【被告らの主張】 原告の上記主張は争う。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(不当利得に係る争点‐被告らは原告の財産又は労務によって「利益」を得たか)に は「共同の不法行為」に該当する。 【被告らの主張】 原告の上記主張は争う。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(不当利得に係る争点‐被告らは原告の財産又は労務によって「利益」を得たか)について(1) 原告は、被告Aが本件研修において本件ファイル1に基づいて作成した資料を 使用して研修を行ったことによって、被告らが原告講座の教育効果を享受するという「利益」を得た旨主張するので検討するに、証拠(甲22ないし24)及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。 ア原告は、「ヒンシツ大学」の名称でソフトウェアのテスト業務に関する講座を有料で提供しており、そのうちの1つに「テスト設計(機能テスト)」という名称の講座 (受講料は税別4万2000円)がある(以下、この講座を「原告講座」という。)。 イ原告講座は、効率的に漏れのないテスト設計手法を習得することを目的としたものであり、その内容は、講師がテスト設計の基礎を解説(約60分間)した後、受講者に実践形式の演習として「確認項目一覧」表の作成(約120分間)、「実行パターン表」の作成(約150分間)及び「テスト設計書」のチェック(約20分間)を行って もらい、アンケートに回答してもらって終了するというものである。また、上記演習は、講師が受講者に対して実際の案件を想定した問題を与え、「確認項目一覧」表等のテンプレートを配布し、受講者がそれらのテンプレートにテスト項目等を記入し、講師が記入例を示すなどして解説するというものである。 ウ原告講座で配布されるテンプレートには、少なくとも、原告がテスト業務で使用 する「テスト設計書」を構成する●(省略)●の各テンプレートが含まれている。もっ とも、それらのテンプレートは、本件ファイル1のベースとなるもの なくとも、原告がテスト業務で使用 する「テスト設計書」を構成する●(省略)●の各テンプレートが含まれている。もっ とも、それらのテンプレートは、本件ファイル1のベースとなるものであるが、本件ファイル1と同一のものではなく、また、本件ファイル1の内容は、上記演習で問題として与えられる案件に対応したものではない。 (2) 本件全証拠によっても、原告講座の詳細な内容や、原告講座において受講者に配布される●(省略)●表等のテンプレートの内容は明らかでないが、前記(1)の事実 によれば、少なくとも、原告講座は、講師が約60分の時間をかけてテスト設計の基礎について解説した上で、実際の案件を想定した問題を使った実践形式の演習を行い、講師がそれらについて記入例を示すなどして解説することなどを内容としており、これらの総合的な教育効果として、受講生において効率的に漏れのないテスト設計手法を習得するという目的を達成させようとするものである。そうすると、原告講座は、● (省略)●の記入例を利用しさえすればその目的が達成できるというものではない。また、本件ファイル1はそもそも上記演習で問題として与えられる案件に対応したものではないため、本件ファイル1に基づいて被告Aが作成した資料のみから,原告講座の具体的な内容を感得して研修生にその内容を享受させることはできないというべきである。 これらによれば、本件ファイル1において原告講座がそのまま具現されているものとは到底評価できないものであって、そうである以上、被告Aが本件ファイル1を利用しただけで当然に原告講座の教育効果を享受するという「利益」を得たということはできず、被告らが原告の財務又は労務によって「利益」を得たとは認められないというべきである。 (3) これに対 しただけで当然に原告講座の教育効果を享受するという「利益」を得たということはできず、被告らが原告の財務又は労務によって「利益」を得たとは認められないというべきである。 (3) これに対し、原告は、本件ファイル1はいわば演習問題の解答例のようなものであり、これがあれば被告らにおいて演習形式の研修を行うことは容易である旨主張するが、上記説示に照らせば、本件ファイル1は、これさえあれば原告講座と同じ内容の研修を実施できるという性質のものでないことは明らかであり、また、本件研修が原告講座と同じ内容のものであったことを認めるに足りる証拠もない。 したがって、原告の上記主張は採用できない。また、原告のその他の主張を慎重に検 討しても、採用すべきものは見当たらない。 (4) よって、原告の被告らに対する不当利得返還請求は、被告らにおいて「利益」が認められない以上、その余を検討するまでもなく、いずれも理由がない。 2 争点2-7(原告は本件各誓約書違反によって損害を被ったか)について(1) 原告は、被告Aが本件各誓約書に違反して持ち出し行為等を行ったことによっ て少なくとも12万5136円の損害を被った旨主張するので、検討する。 原告は、被告モリカトロンが著作権侵害によって得た利益の額が著作権法114条2項によって原告が被った損害の額と推定される旨主張する。しかしながら、同項は、著作権、出版権又は著作隣接権が侵害された場合に適用される規定であり、原告が主張する本件各誓約書違反を理由とする債務不履行があった場合に適用される規定でない ことは明らかである。なお、原告の主張について、同項の適用を前提とするものではないと善解するとしても、原告は、本件各誓約書違反がなければ被告モリカトロンが得た利益(研修費相当額) 規定でない ことは明らかである。なお、原告の主張について、同項の適用を前提とするものではないと善解するとしても、原告は、本件各誓約書違反がなければ被告モリカトロンが得た利益(研修費相当額)を原告が得られたことについて具体的な主張立証をしていない。 したがって、原告が本件各誓約書違反によって損害を被ったとは認められない。 (2) よって、原告の被告Aに対する本件各誓約書違反を理由とする損害賠償請求は、 その他の争点について検討するまでもなく、いずれも理由がない(念のためこの点を措いて検討しても、下記3ないし5記載のとおり、同請求はいずれも理由がない。)。 3 争点2-2(本件各ファイルは入社時誓約書3条の対象たる「情報」に該当するか)について(1) 前記前提事実によれば、入社時誓約書3条は「在職中及び退職後においても業 務上知り得た機密情報及び個人情報などいかなる情報も他へ漏らさないこと。」というものであり、漏洩が禁止される「情報」の例示として「機密情報及び個人情報」との文言が記載されている。また、秘密保持義務を定める特約は、その性質上、退職する労働者の職業選択の自由に対する過度な制約となるおそれがあり、そのようにならないよう、その対象等を限定して解釈すべきものであるといえる。このような、入社時誓約書 3条の規定振り及び当該特約の性質を考慮すると、入社時誓約書3条の「情報」との文 言は、客観的見地からみて、原告において「機密情報及び個人情報」と同程度に秘密にしておくべき必要性が高い情報を指すものと解するのが相当である。 そこで、本件各ファイルが、上記のような情報に当たるかについて検討する。 (2) 前提事実、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 ア本件各ファイルは、原告が が相当である。 そこで、本件各ファイルが、上記のような情報に当たるかについて検討する。 (2) 前提事実、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 ア本件各ファイルは、原告がテスト業務で使用するテスト設計書のひな型として 作成したものであり、個別案件についてのテスト結果や個人情報等についての記載はない。(甲5、18)イ本件各ファイルは、秘密情報であることを示す「マル秘」等の表示がされず、パスワードも設定されず、アクセス権限者についての限定もされていない状態で原告の社内の共有フォルダに保存されていたものであり、原告の従業員は誰でも容易に本件 各ファイルにアクセスすることができた。 ウ原告は、平成26年4月頃、取引先に対し、本件各ファイルの●(省略)●に相当する各表と、それらの表についての説明が記載されている営業資料を配布した。(乙ロ5)(3) 上記認定事実によれば、本件各ファイルは、客観的見地からみて,秘匿性の高 い情報が記載されたものであるとはいえず、また、本件各ファイルが原告において秘匿性の高い情報として扱われていたとも認められない。 したがって、本件各ファイルは、客観的見地からみて,原告において「機密情報及び個人情報」と同程度に秘密にしておくべき必要性が高い情報に当たるものとはいえず、被告Aが入社時誓約書に違反したとの主張は、その前提を欠くものである。 4 争点2-3(本件各ファイルは退職時誓約書1の1条柱書の「秘密情報」又は2条の「業務に使用したもの」に該当するか)について(1) 退職時誓約書1の1条柱書の「秘密情報」に該当するか前提事実によれば、退職時誓約書1の1条柱書の「秘密情報」とは、「在職時に従事した業務において知り得た貴社(子会社、関係会社を含む)が秘密とし ) 退職時誓約書1の1条柱書の「秘密情報」に該当するか前提事実によれば、退職時誓約書1の1条柱書の「秘密情報」とは、「在職時に従事した業務において知り得た貴社(子会社、関係会社を含む)が秘密として管理している 以下の技術上・営業上の情報」を意味するものであり、「以下の技術上・営業上の情報」 として、「技術上の情報、知的財産権に関する情報」、「前各号のほか、貴社が特に秘密保持対象として指定した情報」等と規定されており、これらの文言に照らし、入社時誓約書3条の「情報」と同様に解するのが相当である。 しかして、前記第4の3(3)記載のとおり、本件各ファイルは、原告において秘匿性の高い情報として扱われていたものとは認められず、原告が秘密として管理している 情報に当たるとはいえない。 したがって、本件各ファイルは、退職時誓約書1の1条柱書の「秘密情報」に該当するものであるとはいえない。 (2) 退職時誓約書1の2条の「業務に使用したもの」に該当するか前提事実によれば、退職時誓約書1の表題は「秘密保持、競業避止およびインサイダ ー取引防止に関する誓約書」であり、退職時誓約書1の1条及び2条はいずれも「■秘密保持の確認」という見出しの下に規定されている。また、退職時誓約書1の1条は、無体物である「秘密情報」を対象とする規定であるのに対し、退職時誓約書1の2条は、その対象として、「在職中に入手した文書、資料、図面、写真、サンプル、磁気テープ、フロッピーディスク等業務に使用したもの」及び「そのコピー及び関係資料等」と記載 しており、ここに例示されている対象はいずれも有体物である。このような規定の構造を前提とすると、退職時誓約書1の2条の「業務に使用したもの」という文言は、労働者が業務に使用した原告の所有する有 しており、ここに例示されている対象はいずれも有体物である。このような規定の構造を前提とすると、退職時誓約書1の2条の「業務に使用したもの」という文言は、労働者が業務に使用した原告の所有する有体物であり、かつ原告が秘密として管理している情報を知ることができるものを指すものと解するのが相当である。 そうすると、無体物である本件各ファイルは、そもそも退職時誓約書1の2条の「業 務に使用したもの」には当たらないため、被告Aが原告を退職した後に本件各ファイルを保有していたとしても、それ自体は退職時誓約書1の2条に違反する行為とはいえない。 また、仮に、退職時誓約書1の2条は返還義務の対象を有体物に限るものではないと解したとしても、前記第4の3(3)記載のとおり、本件各ファイルは、客観的にみて秘 匿性の高い情報が記載されたものであるとはいえず、原告において秘匿性の高い情報 として扱われていたものとも認められないため、原告が秘密として管理している情報を知ることができるものに当たらない。 したがって、本件各ファイルは、いずれにせよ退職時誓約書1の2条の「業務に使用したもの」に該当しない。 (3) 以上によれば、被告Aが退職時誓約書1の1条又は2条に違反して債務の履行 を怠ったとは認められない。 5 争点2-7(退職時誓約書2に係る合意は公序良俗違反により無効か)について(1) 退職時誓約書2に係る合意は、その内容に照らし、退職後の労働者の競業を禁止するいわゆる競業避止特約であると認められる。しかして、競業避止特約によって課される退職後の競業避止義務は、その性質上、労働者の営業の自由を相当程度制限する ものであるから、同特約に係る合意が公序良俗違反により無効であるか否かは、労働者が負う競業避止義務による不 て課される退職後の競業避止義務は、その性質上、労働者の営業の自由を相当程度制限する ものであるから、同特約に係る合意が公序良俗違反により無効であるか否かは、労働者が負う競業避止義務による不利益の程度、使用者の利益の程度、競業避止義務が課される期間、労働者への代償措置の有無等の事情を考慮し、労働者の職業選択の自由等を過度に制限することがないかとの見地から慎重に判断すべきである。 (2) そこで検討するに、退職時誓約書2に係る合意は、被告Aが、原告と競合関係 にある事業者に就職又は役員に就任することだけでなく、「名目の如何を問わず、また、直接・間接を問わず」(4項)原告との競業関係を発生させる活動を行うことを禁止するものであるため、被告Aに対し、原告との競業関係を発生させるあらゆる活動を禁止したものと解するほかない。原告の業務はソフトウェアのテスト業務であるから、同合意は、テストウェアのテスト業務に関わるあらゆる活動を禁止したものということに なる。 被告Aは、原告に就職する前からソフトウェアのテスト業務に従事していた者であり、原告に在籍している間も同業務に従事していたのであるから、原告退職後ソフトウェアのテスト業務に関わるあらゆる活動が禁止されるとなると、それまでの職業生活で得た知識や経験を活かすことが不可能になり、その職業選択の自由等が制限される 程度は極めて大きい。その一方で、原告において、被告Aが負う不利益を緩和するため に何らかの代償措置を講じていたことを認めるに足りる証拠はない。 そうすると、競業避止義務を課される期間が退職後2年間に限定されていること等を考慮しても、上記合意は、被告Aの職業選択の自由等を過度に制約するものであって、公序良俗に反して無効であるといわなければならない。 競業避止義務を課される期間が退職後2年間に限定されていること等を考慮しても、上記合意は、被告Aの職業選択の自由等を過度に制約するものであって、公序良俗に反して無効であるといわなければならない。 (3) 以上によれば、被告Aが退職時誓約書2に違反して債務の履行を怠ったとは認 められない。 6 争点3-1(被告らの行為は原告のノウハウを侵害する不法行為に該当するか)について(1) 原告は、本件各ファイルがノウハウとして法律上の保護に値するものであり、被告らの行為はこれを侵害するものであるから不法行為に該当する旨主張する。 しかし、本件各ファイルは、下記7に記載のとおり、著作権法2条1項1号所定の「著作物」に該当せず、また、下記8に記載のとおり、不正競争防止法2条6項所定の「営業秘密」にも該当しないものである。しかして、本件各ファイルの利用行為は、著作権法や不正競争防止法が規律の対象とする利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り、不法行為を構成するものではないと解するの が相当である(最高裁平成23年12月8日第一小法廷判決・民集65巻9号3275頁参照)。 もっとも、これを前提としても、原告の主張は、被告らによる本件各ファイルの利用行為が、自由競争の範囲を逸脱し、原告の営業の自由を侵害するものであるとして、前記特段の事情が存在する旨をいうものと解する余地がある。 そこで、被告らが、自由競争の範囲を逸脱し、原告の営業を妨害する態様において、本件各ファイルを利用したといえるかについて検討する。 (2) 前提事実、証拠(甲4、5、18)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 ア本件ファイル1(甲5) 本件ファイル1は、テスト業務で確認すべき事項や確認結果を記載 る。 (2) 前提事実、証拠(甲4、5、18)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 ア本件ファイル1(甲5) 本件ファイル1は、テスト業務で確認すべき事項や確認結果を記載するために使用 されるテスト設計書のひな型であり、別紙1記載のとおり、●(省略)●が記載されている。このうち、●(省略)●の各シートの具体的内容は、次のとおりである。なお、本件ファイル1には、具体的なテスト業務を想定したテスト観点やテスト結果等は記載されていない。 (ア) ●(省略)● ●(省略)●(イ) ●(省略)●●(省略)●(ウ) ●(省略)●●(省略)● イ本件ファイル2(甲18)本件ファイル2は、テスト設計書のひな型の一部であり、別紙2記載のとおり、●(省略)●が記載されている。それらの具体的内容は次のとおりである。 (ア) ●(省略)●●(省略)● (イ) ●(省略)●●(省略)●(3) 上記認定事実によれば、本件ファイル1は、テスト業務で確認すべき事項や確認結果を記載するために使用されるテスト設計書のひな型であることが認められ、具体的なテスト業務を想定したテスト観点やテスト結果等は記載されておらず、それら を記入すべき枠としての表が記載されているものに過ぎない。加えて、本件研修資料が具体的にどのような資料であったのかについては証拠上明らかでないが、本件研修資料は、少なくとも、被告Aが本件ファイル1を加工修正して作成したものであって、本件研修や被告モリカトロンにおけるテスト業務において本件ファイル1がそのまま使用されたものではない。これらの事情を考慮すれば、被告らの行為が、具体的、客観的 見地からみて、直ちに自由競争の範囲を逸脱し、原告の営 トロンにおけるテスト業務において本件ファイル1がそのまま使用されたものではない。これらの事情を考慮すれば、被告らの行為が、具体的、客観的 見地からみて、直ちに自由競争の範囲を逸脱し、原告の営業を妨害するものであるとま ではいえない。 また、本件ファイル2は、テスト設計書のひな型の一部であるところ、原告の主張によれば、原告は、テスト業務に使用するテスト項目を●(省略)●本件ファイル2に係る●(省略)●ものであるという。しかして、これを前提としても、本件ファイル2は、●(省略)●が記載されたもので、原告が整理したテスト項目のわずかな一部分を記載 したものに過ぎないということになる。また、前提事実によれば、テスト業務は、ゲームソフト等のソフトウェアが仕様どおりに動作するかを確認してプログラムの不具合の有無を検出することを内容とするものであるため、そこで確認すべき事項は、ソフトウェアの仕様として明示的に記載されている事項か、当該ソフトウェアが当然有すべき性能に係る事項に限定されると考えられる。このようなテスト業務の性質にも照ら して検討すると、上記認定のような本件ファイル2自体が、客観的,具体的見地からみて、原告独自のテスト観点等を記載したものとして、著作権法や不正競争防止法が規律の対象とする利益とは異なる法的に保護された利益を有するとまではいいがたく、被告らの行為が、自由競争の範囲を逸脱し、原告の営業を妨害するものであるとはいえない。 以上によれば、本件において、上記特段の事情があるとはいえず、被告らの行為が、原告に対する不法行為を構成するものではないというべきである。 (4) よって、原告の被告らに対するノウハウの無断使用を理由とする不法行為による損害賠償請求は、いずれも理由がない。 7 争点4- 原告に対する不法行為を構成するものではないというべきである。 (4) よって、原告の被告らに対するノウハウの無断使用を理由とする不法行為による損害賠償請求は、いずれも理由がない。 7 争点4-1(本件各ファイルは「著作物」に該当するか)について (1) 著作権法による保護の対象となる「著作物」とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)をいう。 しかして、「創作的に表現したもの」に当たるというためには、その表現を行った者の個性が発揮されていればよいと考えられるが、本件においてその意義について検討 すると、まず、前記のとおり、テスト業務において確認すべき事項は、テスト業務の性 質上、テストの対象となるソフトウェアの仕様として明示的に記載されている事項か、当該ソフトウェアが当然有すべき性能に係る事項に限定されると考えられることが指摘できる。また、前提事実によれば、テスト設計書は、テスト業務の担当者が、テスト業務で確認すべき事項や確認結果を可視化して作業の抜け漏れを防止すること等を目的として通常作成する資料であるため、確認対象、確認方法及び確認結果を必須の構成 要素とするものであり、かつ、テスト業務の担当者らや委託者等の様々な関係者がこれを参照等することが想定され、その記載内容に高度の簡潔さや明瞭さが求められるものであることも指摘できる。このようなテスト業務の性質やテスト設計書の機能に照らすと、テスト設計書は、誰が制作してもある程度同じような表現方法を採用せざるを得ないものであるといえ、その表現に制作者の個性が発揮されていると評価すべき余 地は狭くなると考えられる。そのため、テスト設計書の創作性の有無については、このような事 な表現方法を採用せざるを得ないものであるといえ、その表現に制作者の個性が発揮されていると評価すべき余 地は狭くなると考えられる。そのため、テスト設計書の創作性の有無については、このような事情をも踏まえ、特定の制作者に表現方法の過度の独占を認める結果とならないよう慎重に判断する必要があるというべきである。 そこで、上記のような事情を踏まえつつ、本件各ファイルに制作者の個性が発揮されているといえるかについて、原告が本件各ファイルの創作性を基礎付ける事情として 指摘するものを中心に検討する。 (2) 原告は、本件ファイル1に関し、①シートの選択及び配列、②各シートのレイアウト及び配色並びに③各シートに記載された文言について、原告独自の表現方法であって、原告の個性が表されている旨主張する。 しかしながら、次のとおり、原告の上記各主張について、上記のような事情を踏まえ て検討すると、本件ファイル1に制作者の個性が発揮されているとまではいえないというべきである。 まず、上記①について、原告は、テストに必要な項目を●(省略)●を行ったこと、●(省略)●ことなどを主張するが、これらの工夫はアイデアというべきものであり、著作権法が保護の対象とする表現には当たらない。 また、上記②について、原告は、レイアウト及び配色を統一したことなどを主張する が、一定の目的の下に複数のシートを作成する場合に、見やすさ等を考慮して各シートのレイアウトや配色を統一することは、テスト設計書に限らず広く一般的に行われる工夫にすぎず、本件各ファイルの制作者の個性が発揮されたものと評価することはできない。 さらに、上記③について、原告は、●(省略)●こと、●(省略)●こと、それらの 名称や説明等の表現は多数ある他の記載方法から選択 ァイルの制作者の個性が発揮されたものと評価することはできない。 さらに、上記③について、原告は、●(省略)●こと、●(省略)●こと、それらの 名称や説明等の表現は多数ある他の記載方法から選択したものであることなどを主張するが、表の中の限られたスペースに名称や説明等を記載する場合に、見やすさ等を考慮して文章形式ではなく記号や改行等を用いた簡潔な表現とすることは、テスト設計書に限らず広く一般的に行われる工夫にすぎず、本件各ファイルの制作者の個性が発揮されたものと評価することはできない。 そして、この他の原告の主張を踏まえて検討しても、本件ファイル1に制作者の個性が発揮されたものと評価すべき表現の存在は認められない。 したがって、本件ファイル1が著作権法の保護の対象となる「著作物」に当たるということはできない。 (3) 原告は、本件ファイル2に関し、①●(省略)●テスト観点等の選択及び配列、 ②●(省略)●記載、③●(省略)●記載事項の選択及び配列●(省略)●並びに④●(省略)●具体的な記載内容について、原告独自の表現方法であって、原告の個性が表されているなどと主張する。 しかしながら、次のとおり、原告の上記各主張について、前記のような事情を踏まえて検討すると、本件ファイル2に制作者の何らかの個性が発揮されているとはいえな いというべきである。 まず、上記①について、原告は、●(省略)●ことなどを主張するが、テスト設計書の機能に照らせば、本件ファイル2の具体的な記載内容は、いずれも基本的なテスト項目やテスト観点等について簡潔な言葉で表現したものにすぎず、制作者の個性が発揮されたものと評価すべき表現は見当たらない。 また、上記②について、原告は、●(省略)●を目的として、●(省略)●ことなど て簡潔な言葉で表現したものにすぎず、制作者の個性が発揮されたものと評価すべき表現は見当たらない。 また、上記②について、原告は、●(省略)●を目的として、●(省略)●ことなど を主張するが、●(省略)●という工夫は、著作権法の保護の対象とならないアイデアに属する事柄であり、また、その具体的な記載内容は平凡なものであって、制作者の個性が発揮されたものとはいえない。 また、上記③について、原告は、●(省略)●ことなどを主張するが、そのような工夫自体はアイデアというべきものであり、著作権法が保護の対象とする表現には当た らない。 さらに、上記④について、原告は、●(省略)●が表れているなどと主張するが、本件ファイル2の実行パターン表の具体的な記載内容は、いずれも基本的なテスト項目やテスト方法等について簡潔な言葉で表現したものにすぎず、制作者の個性が発揮されたものと評価すべき表現は見当たらない。 そして、この他の原告の主張を踏まえて検討しても、本件ファイル2に制作者の個性が発揮されたものと評価すべき表現の存在は認められない。 したがって、本件ファイル2が著作権法の保護の対象となる「著作物」に当たるということはできない。 (4) 以上によれば、原告の被告らに対する著作権侵害を理由とする不法行為による 損害賠償請求は、いずれも理由がない。 8 争点5-1(本件各ファイルは「営業秘密」に該当するか)について(1) 不正競争防止法による保護の対象となる「営業秘密」とは、「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」をいう(不正競争防止法2条6項)。 (2) 前記3(2)イ及びウ記載の事実によれば、本件各ファイルが原告 法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」をいう(不正競争防止法2条6項)。 (2) 前記3(2)イ及びウ記載の事実によれば、本件各ファイルが原告において秘密として管理されていたものとは認められず,本件全証拠をみても,これを認めるに足りる証拠はない。 原告は、①各従業員はIDとパスワードを入力しなければ業務用パソコンを使用することができなかった、②USBメモリなどをパソコンに接続しても社内情報の持ち 出しができない技術的な設定を施していた、③社内に情報の持ち出しを禁止する旨の 掲示をしていた、④機密情報管理規程として原告が保有する全ての情報を第三者に漏らしてはならないことを定めていた、⑤退社時には秘密保持義務や競業避止義務を定めた誓約書を提出させていたなどと主張する。しかし、仮にこのような事情があったとしても、それらの事情は、各事柄の性質に照らし、原告が本件各ファイルについて営業秘密としての格別の取扱いをしていたことを示すものとまではいえず、前記3(2)イ及 びウ記載の事実から本件各ファイルが原告において秘密として管理されていたと認められないことを左右するものではないというべきである。 したがって、本件各ファイルが「営業秘密」に該当するとはいえない。 (3) よって、原告の被告らに対する不正競争を理由とする損害賠償請求は、いずれも理由がない。 9 結論以上によれば、原告の被告らに対する請求は、使用者責任又は共同不法行為を理由とする損害賠償請求を含め、いずれも理由がない。 よって、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 主文 も理由がない。よって、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判決する。 理由 東京地方裁判所民事第47部 裁判官鈴木美智子 裁判官稲垣雄大 裁判長裁判官田中孝一は、転補につき、署名押印することができない。 裁判官鈴木美智子 (別紙1)及び(別紙2)省略
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