平成20(む)80

裁判年月日・裁判所
平成20年5月30日 水戸地方裁判所
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判決文本文2,959 文字)

20む80水戸地裁平成20・5・30316条の20第1項棄却 主文 本件証拠開示命令請求を棄却する。 理由 第1本件請求の概要 請求の趣旨及び理由本件請求の趣旨及び理由は,弁護人ら作成の平成20年5月2日付証拠開示命令請求書,同月19日付意見書に記載されているとおりであるが,要するに,下記の各証拠は,刑事訴訟法316条の20第1項により検察官が開示をすべき証拠に当たるのに,検察官が開示をしないので,その開示を請求するというものである。 開示を求める証拠弁護人らが開示を求めている証拠は以下のとおりである。 ア平成12年ないしその2~3年前ころに,被告人が通常人とは違った言動(おかしな言動や極めて粗暴な言動等)をしたり,そのような様子を示していたことを示す全ての証拠。例えば,その旨述べる被告人自身の供述調書,それを示す捜査報告書等。 イアの時期に,被告人が覚せい剤に関わっていたこと(覚せい剤の入手,使用,所持,譲渡等関わりの態様を問わない。)を示す全ての証拠。例えば,覚せい剤との関わりを述べる被告人の供述調書,同じく被告人と覚せい剤との関わりを述べる第三者の供述調書,被告人と覚せい剤との関わりを示す捜査報告書等。 (以下,それぞれ証拠ア,イという。) 弁護人らの予定主張本件請求の基礎となる弁護人らの予定主張は,「被告人は,平成11年1月ころから覚せい剤を使い始め,本件犯行時にかけて,ほぼ毎日のように覚せい剤を使用していた。 その覚せい剤の量は,一回につき0.2~0.3グラムと多量であった。平成12年8月12日にも,A方に行く前に服用している。犯行当時は,幻覚妄想状態ないし急性の意識変容と精神運動性興奮状態にあり,限定責任能力であった疑いがある。」というものである。 第2当裁判所の判断 弁護人らの主張 も,A方に行く前に服用している。犯行当時は,幻覚妄想状態ないし急性の意識変容と精神運動性興奮状態にあり,限定責任能力であった疑いがある。」というものである。 第2当裁判所の判断 弁護人らの主張明示義務違反について刑事訴訟法316条の20に基づく証拠開示の対象となり得る証拠は,「316条の17第1項の主張に関連すると認められるもの」に限られることから,上記証拠開示の請求をする被告人又は弁護人は,その前提として,同法316条の17の主張明示義務を果たす必要がある。具体的には,弁護人等は,争点を明確化し,裁判所が証拠の採否を判断する前提として,証拠による証明の直接の対象となるべき具体的事実について明示する必要がある。以下,本件において,弁護人らが同義務を果たしているかどうかを検討する。 本件において,弁護人らは,被告人が犯行当時,覚せい剤使用による幻覚妄想状態ないし急性の意識変容と精神運動性興奮状態にあり,限定責任能力であった疑いがある旨の予定主張を示しているが,いつどのような幻覚妄想が生じていたのか,どのような意識変容があったのかなど,被告人に生じていた精神障害の具体的内容,あるいはそれらが犯行に与えた影響について主張を明示していないし,被告人の精神障害を推認させる,犯行時の病状や犯行前の生活状態に関する具体的事実についても明示していない。これらの事実は,本件において証拠による証明の直接の対象となるべき具体的事実であるところ,弁護人らはこれを明示しておらず,主張明示義務を果たしているということはできない。 この点,弁護人らは,責任能力における生物学的要素は,極めて専門的な精神医学上の考察が必要とされるのであって,いかなる事実や行動が精神障害にあたるかは,まさに精神科医による意見により検討されるべきものであって,全ての基礎事実を明らかにし 学的要素は,極めて専門的な精神医学上の考察が必要とされるのであって,いかなる事実や行動が精神障害にあたるかは,まさに精神科医による意見により検討されるべきものであって,全ての基礎事実を明らかにしなければならないというのは,弁護人に無理を強いるものであると主張する。 しかしながら,少なくとも,責任能力に疑いがあることをうかがわせる事実が明らかにされなければ,裁判所は,精神鑑定の要否を判断することすらできない。弁護人においては,法律的・規範的見地から責任能力に疑いがあるとの主張をする以上,これまでに接した証拠資料の検討結果を踏まえて,「通常人とは違った言動」に関する何らかの具体的事実をその根拠として想定しているはずであるから,その事実を明らかにすることは,弁護人に無理を強いるものではない。また,仮に,弁護人が,具体的事実を根拠としないで,単に責任能力に疑いがある旨の主張をして,開示を受けた証拠からその根拠を発見しようとするのであれば,それはいわゆる証拠あさりにすぎず,主張関連証拠開示の制度趣旨に反するものといわざるを得ない。 したがって,本件における弁護人らの責任能力に関する主張は,具体的事実の明示が不十分であり,主張明示義務を果たしているとはいえない。 個別の証拠について(1)証拠アについて上記のとおり,弁護人らは,被告人の犯行時の病状や犯行前の生活状態に関する具体的事実を明らかにしておらず,主張明示義務を果たしていないから,本件当時ないし本件以前の被告人の行動に関する証拠である証拠アの開示請求は認められない。 (2)証拠イについて証拠イは,本件当時ないし本件以前の被告人による覚せい剤使用あるいは覚せい剤との関わりに関する証拠であるところ,弁護人は,覚せい剤の使用状況について,頻度,分量,方法等を具体的に示している。 証拠イは,本件当時ないし本件以前の被告人による覚せい剤使用あるいは覚せい剤との関わりに関する証拠であるところ,弁護人は,覚せい剤の使用状況について,頻度,分量,方法等を具体的に示している。 しかしながら,一般に,覚せい剤の多量使用が精神障害を生じさせ,責任能力に影響を及ぼす場合があり得るとしても,弁護人らの主張するような覚せい剤の使用によっても必ず精神障害が発生するわけではないし,発生する精神障害の内容や程度も一定していないと考えられるから,覚せい剤使用の事実自体から責任能力の有無を判断することはできない。責任能力の判断にあたって問題となるのは,覚せい剤使用によりどのような精神障害が生じ,それが犯行にどのような影響を与えたかという点なのであって,そのような具体的事実について主張がなされない限り,覚せい剤使用の事実それ自体は,直ちに被告人の防御に資する事情とはならない。 本件において,弁護人らは,覚せい剤の使用によって生じた被告人の精神障害の具体的内容,あるいはそれらが犯行に与えた影響について主張を明示していない以上,証拠イは,被告人が限定責任能力であった疑いがあるとの弁護人らの主張に関連するとは認められず,あるいは,その関連性の程度は低く,被告人の防御の準備に必要とはいえないから,開示することが相当とは認められない。 よって,本件証拠開示請求には理由がないから,主文のとおり決定する。 (裁判長裁判官・河村潤治,裁判官・小野裕信,裁判官・水越壮夫)

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