令和2(ワ)8506 特許権に基づく製造販売禁止等請求事件

裁判年月日・裁判所
令和3年10月29日 東京地方裁判所
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令和3年10月29日判決言渡同日原本交付裁判所書記官 令和2年(ワ)第8506号特許権に基づく製造販売禁止等請求事件 口頭弁論終結日令和3年8月25日判決 原告株式会社東和コーポレーション 同訴訟代理人弁護士山上祥吾 濵田建介 生野悟朗 同訴訟代理人弁理士松尾憲一郎 市川泰央 同補佐人弁理士小林武 被告ヨツギ株式会社 (以下「被告ヨツギ」という。) 被告ヨツギテクノ株式会社 (以下「被告ヨツギテクノ」という。) 上記両名訴訟代理人弁護士宮本督 深井麻里 溝口哲史 竹下博將 野口敏彦 秋山正裕 上記両名訴訟代理人弁理士山下幸彦 上記両名補佐人弁理士小橋立昌 鈴木祐輔 八木健一 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由 第1 請求の趣旨 1 被告らは,別紙物件目録記載の手袋(以下「被告製品」という。)を製造,譲渡,輸出又は販売のための展示その他の販売の申出をしてはならない。 2 被告らは,被告製品を廃棄せよ。 3 (主位的請求)被告らは,原告に対し,連帯して,2356万2000円及びこれに対する平成26年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 (予備的請求)被告ヨツギは,原告に対し,357万円及びこれに対する令和2年6月18日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 5 仮執行宣言 え。 4 (予備的請求)被告ヨツギは,原告に対し,357万円及びこれに対する令和2年6月18日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 5 仮執行宣言 第2 事案の概要 1 本件は,その発明の名称を「電気工事作業に使用する作業用手袋」とする特許権(以下「本件特許権」といい,同特許権に係る特許を「本件特許」という。)を有する原告が,被告製品は,本件特許の特許請求の範囲請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)の技術的範囲に属するとして,①特許法 100条に基づき,これを販売等する被告らに対し,その製造販売の差止め等 を求めるとともに,②主位的に,被告らに対し,民法709条,719条1項に基づく損害賠償金2356万2000円及びこれに対する不法行為の日である平成26年3月1日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前)所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求め,③予備的に,被告ヨツギに対し,民法703条に基づく不当利得金357万円及びこれに対 する支払催告の後の日である令和2年6月18日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記した証拠及び弁論の全趣旨により認定できる事実。なお,本判決を通じ,証拠を摘示する場合には,特に 断らない限り,枝番を含むものとする。)(1) 当事者ア原告は,手袋の製造販売等を目的とする株式会社である。 イ被告ヨツギは,絶縁用・耐油用・工業用ゴム製品販売等を目的とする株式会社である。 ウ被告ヨツギテクノは,絶縁用,工業用,ゴム製品及び合成樹脂製品の製造販売等を目的とする株式会社であり,被告ヨツ ツギは,絶縁用・耐油用・工業用ゴム製品販売等を目的とする株式会社である。 ウ被告ヨツギテクノは,絶縁用,工業用,ゴム製品及び合成樹脂製品の製造販売等を目的とする株式会社であり,被告ヨツギの完全子会社である。 (2) 本件特許権ア原告は,以下の本件特許権を保有する(甲1)。 発明の名称電気工事作業に使用する作業用手袋 出願日平成22年6月15日出願番号特願2010-135942登録日平成24年8月17日特許番号第5065448号イ本件特許の特許請求の範囲及び明細書は,平成28年11月7日確定の 訂正審決(訂正2016-390105)により,訂正された(以下,同 訂正審決による訂正後の本件特許に係る明細書及び図面を「本件明細書等」という。甲3)。 (3) 特許請求の範囲及び構成要件の分説ア本件発明の特許請求の範囲の記載は,以下のとおりである(甲2)。ただし,下線部(点線)は平成24年6月11日付け手続補正書(甲22) による補正部分であり,下線部(実線)は,前記訂正審決による訂正箇所である。 「弾性材料により形成された手袋基体と,アラミド繊維などの難燃性を有する素材によりなり,前記手袋基体の外側に装着して貼着されている手袋状に形成された所定の面積を有する生地体とを備える電気工事作業に使 用する作業用手袋であって,前記生地体は,前記手袋基体の掌部に貼着されている部位と,前記手袋基体の親指部及び人差し指部に貼着されている指袋状の部位とを少なくとも備え,前記生地体を構成する繊維内に前記生地体の表面側から含浸し,かつ接 着機能を有するコーティング材料により,前記生地体の表面に,同生地体の厚み以下に形成されたコーティング被膜を有し,前 ,前記生地体を構成する繊維内に前記生地体の表面側から含浸し,かつ接 着機能を有するコーティング材料により,前記生地体の表面に,同生地体の厚み以下に形成されたコーティング被膜を有し,前記コーティング被膜は,前記生地体よりも摩擦係数が高く,前記コーティング被膜により前記生地体の繊維や目部に沿って凹凸が形成されている ことを特徴とする電気工事作業に使用する作業用手袋。」イ本件発明の構成要件は,以下のように分説することができる。 A 弾性材料により形成された手袋基体と,B アラミド繊維などの難燃性を有する素材によりなり,C 前記手袋基体の外側に装着して貼着されている手袋状に形成された所 定の面積を有する生地体と D を備える電気工事作業に使用する作業用手袋であって,E 前記生地体は,前記手袋基体の掌部に貼着されている部位と,前記手袋基体の親指部及び人差し指部に貼着されている指袋状の部位とを少なくとも備え,F 前記生地体を構成する繊維内に前記生地体の表面側から含浸し,かつ 接着機能を有するコーティング材料により,前記生地体の表面に,同生地体の厚み以下に形成されたコーティング被膜を有し,G 前記コーティング被膜は,前記生地体よりも摩擦係数が高く,H 前記コーティング被膜により前記生地体の繊維や目部に沿って凹凸が形成されている I ことを特徴とする電気工事作業に使用する作業用手袋。 (4) 被告製品及び被告らの行為ア被告製品が,別紙被告製品説明書記載の構成を有し(甲4),これが本件発明の構成要件を充足することは,当事者間に争いがない。 イ被告製品は,被告ヨツギテクノが製造した上,その納入を受けた被告ヨ ツギが販売していた。 ウ平成26年3月31日号の「ゴムタ 件発明の構成要件を充足することは,当事者間に争いがない。 イ被告製品は,被告ヨツギテクノが製造した上,その納入を受けた被告ヨ ツギが販売していた。 ウ平成26年3月31日号の「ゴムタイムス」誌には,被告製品の販売が同年2月に開始された旨の記事が掲載されている。(甲12)(5) 乙1手袋被告らは,「低圧二層手袋(小)」,「製造年月 04年3月」などの表 示がされた使用済みの手袋(乙1)を所持している(以下,この特定の手袋を「乙1手袋」,これと同種の製品を「乙1製品」,乙1製品に開示された発明を「乙1発明」という。)。 (6) 先行文献本件特許の出願前に,発明の名称を「作業用手袋とその製造方法」とする 公開特許公報(特開20008-248439号,平成20年10月16日 公開。乙5。以下,「乙5公報」といい,同公報に記載された発明を「乙5発明」という。)が存在した。 3 争点(1) 乙1発明に基づく進歩性欠如の有無ア乙1発明が公然実施されたものかどうか(争点1-1) イ乙1発明に基づく進歩性欠如の有無(争点1-2)(2) 明確性要件違反の有無(争点2)(3) 損害又は不当利得の額(争点3)(4) 消滅時効の抗弁(争点4)第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1-1(乙1発明が公然実施されたものかどうか)について(被告らの主張)(1) 被告ヨツギは,以下のような経緯の下,本件特許の出願前に,東北電力株式会社(以下「東北電力」という。)などに対し,乙1製品を販売し,乙1発明を公然実施した。 ア被告ヨツギは,昭和61年7月頃から,電気回路の活線作業等に使用する低圧二層手袋を販売してきた。低圧二層手袋には,ヨツギ製品であることを示す「YS-」 売し,乙1発明を公然実施した。 ア被告ヨツギは,昭和61年7月頃から,電気回路の活線作業等に使用する低圧二層手袋を販売してきた。低圧二層手袋には,ヨツギ製品であることを示す「YS-」から始まる型式が付されて広く市販されていたが(乙10~15),これを使用する現場作業員からの要望に基づき,手袋の繊維・構造等は変えず,手首部分にマジックテープ式の絞りバンドを加えた 型式「YS-108」モデルを販売することとした。 同モデルの手袋は,他の低圧二層手袋と同様に,平成13年頃までは販売代理店である株式会社中北電機「以下「中北電機」という。」を介し,それ以降は代理店を介することなく,広く市販されており,東北電力の下請工事会社や東北各県の配電工事協力会に対しても継続的に納品されてい た。 イ被告ヨツギは,平成2年頃には,中北電機を介して,東北電力に対し,乙1製品のサイズ違いである,低圧二層手袋(大)(型式YS-108-2-1)及び同(中)(型式YS-108-3-1)を販売することになった。 被告ヨツギは,平成2年11月26日,上記低圧二層手袋の社内試験を 実施した後,平成3年1月23日及び24日頃,東北電力担当者の立会いの下,上記低圧二層手袋(大・中)の試験を実施し,その結果は,「物品審査成績書」にまとめられ,被告ヨツギ及び東北電力との間で共有された(乙16)。 東北電力は,平成3年2月4日,上記各試験結果を踏まえ,低圧二層手 袋(大・中)の性能・品質を承認し,被告ヨツギにその旨を通知した(乙18)。被告ヨツギは,それ以後,中北電機を介し,東北電力に対し,上記各製品を定期的に納品するようになった。 ウ被告ヨツギは,平成8年4月頃には,上記低圧二層手袋の小サイズ品も販売していたが(乙31),平成 ヨツギは,それ以後,中北電機を介し,東北電力に対し,上記各製品を定期的に納品するようになった。 ウ被告ヨツギは,平成8年4月頃には,上記低圧二層手袋の小サイズ品も販売していたが(乙31),平成16年1月頃,現場の作業員の要望を受 け,その寸法を変更し,「極小サイズ」(型式YS-108-5-1)を試作し,東北電力に対し,その試用に供した(乙19)。東北電力は,その作業員から試用品に対する意見・要望を募り,報告書にまとめて,同年2月10日,被告ヨツギに提供した。同報告書では小サイズの低圧二層手袋の早期導入に好意的な意見が多かったことから,東北電力は,同年3月 20日を納期として,被告ヨツギから,現在の「小サイズ」品(「極小」サイズ(乙19,29),「SS」サイズ(乙28)などと表示されることもある。)である乙1製品を購入し,各支店に配布することを決定した。 これを受けて,被告ヨツギは,乙1製品のQC工程図を作成した上で(乙20~22),東北電力の立会いの下で型式試験(当該型式の製品の 性能を確認する試験)及び受入試験(納入された製品の性能を確認する試 験)を実施し(乙20~26),これに合格した。そして,同被告は,平成16年3月15日,東北電力から本件製品660双の正式な発注を受け,これを同社に納入した(乙27~29)。 エ乙1製品は,以後,下請業者の従業員などの手にもわたり,日常的に使用された。また,このような製品は,通常の使用の下では,3年程度で経 年劣化する消耗品であり,現場の判断で適宜に廃棄されることから,被告ヨツギは,東北電力などに対し,乙1製品を継続的に納入してきた。 オ乙1製品の一つである乙1手袋は,従前の取引先である東北電力白石営業所の未使用ロッカー内に乙1手袋が残置されていたものであ ,被告ヨツギは,東北電力などに対し,乙1製品を継続的に納入してきた。 オ乙1製品の一つである乙1手袋は,従前の取引先である東北電力白石営業所の未使用ロッカー内に乙1手袋が残置されていたものである。乙1手袋は,平成16年3月23日に新品未使用の状態で絶縁性能試験に合格し, その後,平成23年10月26日,労働安全衛生規則上の絶縁性能に関する再試験に合格している。被告ヨツギは,本件特許に関する特許無効審判を請求したが,請求を不成立とする審決が出たため(甲10),本件特許権が無効であることの証拠となり得る低圧二層手袋が現存していないか調査したところ,乙1手袋が存在することが判明した。 (2) 原告は,乙1手袋が本件特許出願前に東北電力に販売されたとの事実を争うが,以下のとおり,理由がない。 ア原告は,乙1手袋の製造年月日の欄の「04年3月」との記載は,「0」の部分だけが半角の大きさとなっていると主張するが,事実無根である。 イ原告は,この種の手袋の耐用年数は5年であり,耐用年数を超えた時期 に検査を行い,また,これを廃棄せずに保管していたのは不自然であると主張する。 しかし,原告が主張する5年という耐用年数は,他社のウェブサイトに掲載されていた同社の取扱いにすぎない。しかも,同社自身,未使用のまま5年が経過してもその物性に変化が認められなかったとしているのであ るから(甲17),原告の主張する耐用年数は根拠がない。 仮に,低圧二層手袋の耐用年数が5年であるとしても,それは通常の態様で使用した場合のことである。一日使用しただけの手袋であっても,損傷が激しければ当然に廃棄される一方,保管状態の良い手袋が購入から10年以上経過してもなお使用可能ということは往々にしてあり得ることであり,手袋の使用年限 ある。一日使用しただけの手袋であっても,損傷が激しければ当然に廃棄される一方,保管状態の良い手袋が購入から10年以上経過してもなお使用可能ということは往々にしてあり得ることであり,手袋の使用年限は具体的な使用態様による。 乙1手袋は,平成16年3月23日に新品未使用の状態で絶縁性能試験に合格して以来,約7年半にわたり良好な状態で保管され,使用回数もわずかであった。その後,「六月を超える期間使用しない絶縁用保護具」について「その使用を再び開始する際に,その絶縁性能について自主検査を行わなければならない」との労働安全衛生規則351条1項但 書及び同条2項に基づき,平成23年10月26日に同手袋の絶縁性能に関する再試験が行われ,これに合格した。以上の事実関係に不自然な点はない。 (3) これに対し,原告は,乙1手袋が,本件特許の出願前に東北電力に販売されていた乙1製品であったとしても,乙1発明が公然実施されたとは評価し 得ないと主張するが,以下のとおり,理由がない。 ア原告は,東北電力は,乙1製品の共同開発者的な地位にあったと主張するが,東北電力は,被告ヨツギに対し,従前の手袋のサイズの見直しをした乙1製品の試作品について,現場作業員の意見・要望を伝達しただけにすぎず(乙19),手袋のサイズの変更に関与した事実のみをもって,東 北電力を共同開発者と評価することはできない。 イ原告は,東北電力が,商慣習上,乙1発明の内容を第三者に開示することはないと主張するが,東北電力と被告ヨツギとの間において,乙1発明の内容に係る秘密保持義務を負う旨の明示又は黙示の合意や商慣習は存在せず,購入した乙1製品を使用・処分することは,東北電力の自由であっ た。また,被告ヨツギは,乙1製品を東北電力のみに販売していたわけ 係る秘密保持義務を負う旨の明示又は黙示の合意や商慣習は存在せず,購入した乙1製品を使用・処分することは,東北電力の自由であっ た。また,被告ヨツギは,乙1製品を東北電力のみに販売していたわけで もない。 ウ原告は,乙1製品が東北電力に販売されたのみでは,乙1発明が不特定の者に知り得る状況で実施されたことにならないと主張するが,東北電力は,乙1製品を購入すれば,その所有権を取得し,これを自由に使用,譲渡又は処分し得る立場を得る。 しかも,乙1製品は,東北電力管内の60以上の営業所に納品され(乙29),下請業者の従業員の手にも渡っている。その取扱いも,東北電力が一括管理するようなものではなく,現場の裁量で日常的に使用され,使用不良になれば適宜に廃棄するなどされるものであった。 このように,乙1製品は,東北電力社内で限定的に使用されていたもの ではなく,第三者が容易に入手することができたものであるから,乙1発明は不特定の者に知り得る状況で実施されたといえる。 (原告の主張)(1) 乙1手袋には,以下のような不自然な点があり,それが本件特許の出願前に東北電力に販売されたものであるとは断じ得ない。 ア乙1手袋の製造年月日の欄の「04年3月」との記載は,「0」の部分だけが半角の大きさとなっている。当該「0」は,もともとは「1」であり,2014年3月を意味していた可能性があるから,乙1手袋が,2004年3月に製造されたかどうかには疑義がある。 イ乙1手袋は,絶縁用保護具であるから,定期的な絶縁性能の自主検査を 行わなければならない(労働安全衛生規則351条)。絶縁性能の自主検査には,耐用年数超過検査というものがあるが,感電を防止する保護具としての手袋の耐用年数は,5年が目安とされる(甲15,1 行わなければならない(労働安全衛生規則351条)。絶縁性能の自主検査には,耐用年数超過検査というものがあるが,感電を防止する保護具としての手袋の耐用年数は,5年が目安とされる(甲15,16)。 乙1手袋には,「23.10.26」(平成23年10月26日)という日付による試験合格証の押印がある。仮に,被告らが主張するように, 乙1手袋が平成16年3月23日に販売されたとすれば,前記の耐用期間 を大きく超過した時期に検査が行われたことになり,不自然である。 この5年という耐用年数は,新品未使用の場合を含め,良好な保管状態における経年劣化の期間である(甲17)。通常の使用をすれば,被告ら自身が認めるとおり,3年で使用不可能になる。東北電力が,7年半も保管されていた手袋を使用すれば事故のリスクがあるにもかかわらず,コス トをかけて検査をしたというのは不自然である。 仮に,平成23年10月26日の試験において,耐用年数検査が行われていれば,平成16年に製造されたという乙1手袋は,不合格になっていたはずである。乙1手袋が,平成16年に製造されたものであるとの証明はなされていないというべきである。 ウ被告らは,平成30年8月2日,本件特許の無効審判を提起したが,同審判においては,公然実施の証拠として,本件特許の出願後に製造された手袋が提出されていた。そうすると,被告らも自認するとおり,被告は,乙1手袋を同日以前には入手していなかったはずである。 しかし,安全保護具は,誤使用の防止のため,耐用年数の経過後,速や かに廃棄されるのが一般であるから(甲15),東北電力が,これを同日以後まで保管していたとは考え難い。乙1手袋が,本件特許の出願前に東北電力に販売されたものかどうかには疑義がある。 被告らの釈明 かに廃棄されるのが一般であるから(甲15),東北電力が,これを同日以後まで保管していたとは考え難い。乙1手袋が,本件特許の出願前に東北電力に販売されたものかどうかには疑義がある。 被告らの釈明によれば,東北電力の従業員が,乙1手袋を廃棄する前に退職するに至り,これをロッカーに残置したまま退去した上,当該ロッカ ーを平成31年まで誰も使用しなかったということになるが,そのような多数の偶然が積み重なるとは考え難い。 (2) そもそも,被告らが,本件特許の出願前に,東北電力に対し,乙1手袋を含む乙1製品を販売していたとして,これは公然実施に当たらない。 ア被告らの主張を前提とすれば,乙1製品は,小さなサイズの手袋を求め る東北電力の作業員の作業経験に基づいた仕様要求に基づき,被告ヨツギ が設計したものであり,東北電力は,乙1製品の共同開発者的な地位にあった。 イ乙1製品は,東北電力のみに販売されたものであり,それ以外の者に販売されたことを示す証拠はない。共同開発者的な地位にあり,乙1製品を独占的に使用していた東北電力がその技術内容を第三者に開示することは, 商慣習に照らしてもなかったと考えられる。 ウ東北電力が,自社の従業員や下請業者に対し,乙1製品を提供していたことや,提供していたとしても,どのような条件で提供していたのかについての立証はされてない。確かに,乙1製品は現場の作業員が使用するものであるが,東北電力が,これを分析し,その知識を第三者に提供するこ とまで許容していたとは考え難い。また,乙1製品が公開の場所での作業に使用されていたとしても,外観から乙1発明の内容は認識し得ないから,これが不特定の者に知り得る状況で実施されたということもできない。 2 争点1-2(乙1発明に基づく進歩性欠如 公開の場所での作業に使用されていたとしても,外観から乙1発明の内容は認識し得ないから,これが不特定の者に知り得る状況で実施されたということもできない。 2 争点1-2(乙1発明に基づく進歩性欠如の有無)について(被告らの主張) (1) 乙1発明の構成ア乙1発明は,以下の構成を備えている(乙1~4)。 A 天然ゴム(NR)またはイソプレンゴム(IR)からなる内層部と,B′ポリアミド6(PA6)によりなり,C 内層部の外側に装着して貼着されている手袋状に形成された所定の 面積を有する中間部とD を備える電気工事作業に使用する作業用手袋であって,E 中間部は,内層部の掌部に貼着されている部位と,内層部の親指部及び人差し指部に貼着されている指袋状の部位とを少なくとも備え,F 中間部を構成する繊維内に中間部の表面側から含浸し,かつ接着機 能を有する天然ゴム(NR)またはイソプレンゴム(IR)により,中間 部の表面に,中間部の厚み以下に形成された外層部を有し,G 外層部は,中間部よりも摩擦係数が高く,H 外層部により中間部の繊維や目部に沿って凹凸が形成されているI ことを特徴とする電気工事作業に使用する作業用手袋。 イ構成Hについて 原告は,乙1発明が構成Hを備えることを否認するが,以下のとおり,乙1発明は同構成を備えている。 (ア) 第三者機関である一般財団法人化学物質評価研究機構(以下「本件機構」という。)作成に係る乙3の試験報告書(以下「乙3報告書」という。)によれば,乙手袋の中間部には網目状の模様が存在し,その外層 部の厚みA(平均値33μm)と中間部の厚みC(平均値324μm)の和が中間部の目部膜体の厚みB(304μm)より厚いので,生地体の繊維や目部に沿 の中間部には網目状の模様が存在し,その外層 部の厚みA(平均値33μm)と中間部の厚みC(平均値324μm)の和が中間部の目部膜体の厚みB(304μm)より厚いので,生地体の繊維や目部に沿って凹凸が形成されているということができる。 (イ) これに対し,原告は,乙1手袋の外層部外面はほぼ平坦であり,当業者は凹凸があると認識できないと主張するが,そもそも,作業用手袋の 技術分野における凹凸はμm単位の微細なものであり,上記(ア)のとおり,同手袋では生地体の繊維や目部に沿って凹凸が形成されているので,これをほぼ平坦ということはできない。 また,本件明細書等には凹凸の高低差に係る具体的な記載は存在せず,その段落【0057】において,「生地体表面に形成するコーティング 層は,生地体の目部による凹凸を残しつつ形成するのが好ましい。」と記載されているにすぎないので,生地体の目部に凹凸が残ってさえいれば構成要件Hの「凹凸」を充足すると解すべきである。 (ウ) 原告は,構成要件Hの「凹凸」は意図的に形成されたものでなければならず,乙1手袋の凹凸は製造工程において不可避に生じた微細な凹凸 にすぎないと主張するが,乙1手袋の外装部表面の凹凸は,中間層を構 成する繊維の編み目が表面に現れることにより生じているため,規則的な凹凸となっている。同手袋の凹凸は,意図的に形成されたものである。 (エ) 原告は,本件明細書等の記載などを根拠に,構成要件Hの「凹凸」は,滑り止め効果を有する程度の高低差である必要があると主張するが,滑り止め効果は,凹凸の高低差以上に表面のコーティング層の摩擦係数に 左右されるから,凹凸の高低差との関連性は薄い。 (オ) 原告は,構成要件Hの「凹凸が形成されている部位」は,生地の貼着部位である掌部 果は,凹凸の高低差以上に表面のコーティング層の摩擦係数に 左右されるから,凹凸の高低差との関連性は薄い。 (オ) 原告は,構成要件Hの「凹凸が形成されている部位」は,生地の貼着部位である掌部,親指部及び人差し指部と関連付けられた部位をいうと主張するが,特許請求の範囲には,「前記手袋基体の外側に装着して貼着されている手袋状に形成された所定の面積を有する生地体」,「前記 生地体は,…掌部に貼着されている部位と,…親指部及び人差し指部に貼着されている指袋状の部位とを少なくとも備え」,「前記生地体の繊維や目部に沿って凹凸が形成されている」と記載されているにすぎず,本件明細書等にも凹凸が形成される部位を限定する旨の記載はない。 ウ構成Fについて なお,原告は乙1発明が構成Fを備えることも否認するが,乙3報告書によれば,外層部の厚みが中間部の厚みを大きく下回り,本件機構作成に係る乙4の試験報告書(以下「乙4報告書」という。)によれば,中間層の繊維束の中に外層が含浸しているのであるから,同発明は構成Fを備えている。 (2) 一致点及び相違点ア一致点及び相違点乙1発明の前記構成は,以下の相違点1を除き,それぞれ対応する本件発明の構成要件A~Iと一致する。 〔相違点1〕 生地体の素材が,本件発明では「アラミド繊維などの難燃性を有する素 材」(構成要件B)であるのに対し,乙1発明では,「ポリアミド6」(構成B′)である点イ原告の主張する相違点2について原告は,乙1発明には凹凸の構成が存在しないとして,本件発明との間に構成要件Hに係る相違点2が存在すると主張するが,上記(1)イのとお り,乙1発明は構成Hを備えるので,相違点1以外の相違点は存在しない。 (3) 相違点1に係る容易想到 して,本件発明との間に構成要件Hに係る相違点2が存在すると主張するが,上記(1)イのとお り,乙1発明は構成Hを備えるので,相違点1以外の相違点は存在しない。 (3) 相違点1に係る容易想到性当業者は,本件特許の出願当時,乙発明に乙5発明及び周知技術(乙6~8)を組み合わせることにより,相違点1に係る構成を容易に想到することができたというべきである。 ア乙1発明が採用するポリアミド6は,一定の耐切創性を有する素材であるが,電気工事という危険性を伴う作業に使用する手袋であるため,それ以上に耐切創性の高い生地体を採用する必要があった。 イ乙5発明は,本件発明や乙1発明と同一の技術分野に属するものであるが,乙1発明と同じ耐切創性を高めるという課題について,「シームレス 手袋」に「アラミド繊維などの難燃性を有する素材」を採用することにより解決している。 また,手袋の素材としてアラミド繊維を採用することは,乙6~8の公開特許公報や耐切創性手袋シリーズのカタログの記載からも明らかなように,本件発明に係る特許出願時に周知の事項であった。 ウそのため,当業者は,作業用手袋にアラミド繊維を採用する乙5発明等を参照し,乙1発明の「ポリアミド6」を「アラミド繊維などの難燃性を有する素材」に変更することを容易に推考し得た。 (原告の主張)(1) 乙1発明の構成 乙1発明が構成F及びHを備えることは否認する。 ア被告らは,乙1手袋の中間層の上部の外層の厚さA及び中間層の高さCの合計と目地部の外層の厚さBに差があるので,乙1発明は構成Hの「凹凸」を備えていると主張するが,両者の差はわずかなものであり,その程度のものを「凹凸」ということはできない。 すなわち,乙3の外層部の厚みA(平均値33μm) に差があるので,乙1発明は構成Hの「凹凸」を備えていると主張するが,両者の差はわずかなものであり,その程度のものを「凹凸」ということはできない。 すなわち,乙3の外層部の厚みA(平均値33μm)と中間部の厚みC (平均値324μm)の和(357μm)と中間部の目部膜体の厚みB(304μm)の差は53μmであり,日本人女性の髪の毛の直径にも満たず,外層部の厚みAと中間部の厚みCの和と中間部の目部膜体の厚みBの比は0.938にすぎないので,当業者は,乙1手袋の外層表面は,中間層の目地の部分を埋めるように平坦にされていると認識すると考えられ る。 乙1手袋は,一見して,表面全体が均一に見えるものであり,表面に触れても,概ね滑々しており,凹凸は感じられず,特に,人差し指の腹側の部分は,全く凹凸が感じられない。 イ手袋の製造に当たっては,切削や研削により加工された表面に不可避的 に微細な凹凸(表面粗さ)が生じる。乙2及び4によれば,乙1手袋は編み物に天然ゴム又はイソプレンゴムを含浸させることにより手袋表面を製造したものと認識し得るが,乙1手袋の凹凸は極めて微細なものであるから,当業者が,表面に凹凸を形成するように設計されたものであるとは認識しない。 実際,電気用手袋のJIS規格をみても,厚みの許容誤差は,1.6mm~1.8mm程度はあるので(甲18),50μm程度の表面粗さは製造上の許容誤差としか認識されない。 ウ本件明細書等には,手袋に凹凸を形成するために,生地体の目開きの大きさやコーティング液の粘度や組成を調整する旨の記載(段落【0037】 ~【0040】,【0061】)があるのであるから,構成要件Hの「凹 凸」は,製造工程から不可避的に生ずるものでは足りず,意図的に形成されたものでなけれ する旨の記載(段落【0037】 ~【0040】,【0061】)があるのであるから,構成要件Hの「凹 凸」は,製造工程から不可避的に生ずるものでは足りず,意図的に形成されたものでなければならないと解すべきところ,乙1手袋の凹凸は,製造工程から不可避的に生ずる程度のものであり,意図的に形成されたものに当たらない。 エ本件明細書等の段落【0057】には,凹凸部は,「形成した作業用手 袋の表面に優れた滑り止め効果を付与することができる」と記載されているのであるから,構成要件Hの「凹凸」は,わずかでも凹凸があれば足りるというものではなく,凹部と凸部の高さに有意な差があり,滑り止め効果がある程度のものをいうと解すべきである。 乙1手袋の外層部の表面は,浅い皿状の窪みを形成しているにすぎず, その窪みの深さも53μmとわずかなものであるから,そのような窪みがあることにより滑り止め効果が生ずるというものではなく,滑り止め効果がある手袋に見られるザラザラした感じもないので,乙1手袋は構成Hを備えていない。 オ本件特許の特許請求の範囲は,生地の貼着部位について「手袋基体の掌 部に貼着されている部位と,前記手袋基体の親指部及び人差し指部に貼着されている指袋状の部位とを少なくとも備え,」と特定しているので,構成要件Hの「凹凸が形成される部位」も,構成要件Eが特定する生地の貼着部位である「掌部」,「親指部及び人差し指部」と関連付けられた部位であると解すべきである。 被告らが主張の根拠とする乙3の外層部の厚みは,中指の掌側付け根部を試料とするものであり,上記掌部,親指部及び人差し指部の凹凸の有無は明らかでない。 (2) 相違点の認定及び容易想到性ア相違点1に係る構成の容易想到性 本件特許の出願当時 付け根部を試料とするものであり,上記掌部,親指部及び人差し指部の凹凸の有無は明らかでない。 (2) 相違点の認定及び容易想到性ア相違点1に係る構成の容易想到性 本件特許の出願当時の当業者が相違点1に係る構成が容易に想到し得た との被告らの主張は争う。 イ相違点2の存在及び同相違点に係る構成の容易想到性上記(1)のとおり,乙1発明は,相違点1に加え,構成要件Hの「凹凸」を有しない点において本件発明と相違する(相違点2)。 そして,当業者が,乙1発明及び乙5~8に記載された技術事項に基づ いて,相違点2に係る構成を容易に想到し得たと解すべき証拠はないので,本件発明は進歩性を欠くものではない。 3 争点2(明確性要件違反の有無)について(被告らの主張)本件発明の特許請求の範囲の記載のうち,「アラミド繊維などの難燃性を有 する素材」という部分は,難燃性を有する素材のうち,どこまでが権利範囲に含まれるのか不明確であるから,本件特許は,特許法36条6項2号の明確性要件に違反し,無効事由を有する。 原告は,「アラミド繊維」が,「難燃性を有する素材」の例示にすぎないなどと主張するが,「など」という文言からは,権利範囲に含まれる難燃性素材 が一義的に明らかではない。 原告は,平成24年6月11日付けの手続補正において,「アラミド繊維,炭素繊維など」という記載から意図的に「炭素繊維」を除外し,「アラミド繊維などの難燃性を有する素材」という表現を選択したと主張するが,そうであれば,「アラミド繊維など」は例示列挙ではなく,特定の素材を意味している にもかかわらず,その内容は不明確である。 (原告の主張)被告らが指摘する「アラミド繊維などの難燃性を有する素材」という記載部分は,本件発明の生地体 挙ではなく,特定の素材を意味している にもかかわらず,その内容は不明確である。 (原告の主張)被告らが指摘する「アラミド繊維などの難燃性を有する素材」という記載部分は,本件発明の生地体が繊維により構成されることを考慮すると,「アラミド繊維などの難燃性を有する繊維」を意味し,難燃性を有する繊維の例示とし て,「アラミド繊維」が挙げられているものと理解するのが自然である。 本件明細書等の段落【0041】には,「例えば,難燃性を付与する場合にはアラミド繊維,炭素繊維など,繊維自体に難燃性を有するものが好適に用いられ」とあり,「アラミド繊維」は難燃性を有する繊維の例示として挙げられている。 構成要件Bの「アラミド繊維などの難燃性を有する」という記載部分は,平 成24年6月11日付け手続補正書による補正で追加されたものであるが(甲22,23),同補正において,本件明細書等の段落【0041】の「アラミド繊維,炭素繊維など,繊維自体に難燃性を有するもの」という記載のうち,「炭素繊維」という部分が削除された。これは,発明の対象を電気工事用作業手袋に限定したことから,導電性のある「炭素繊維」を素材に例示することが 不適当になったことによるものであって,本件発明における難燃性素材の定義を何ら変更するものではない。 加えて,「難燃性を有する繊維」は技術文献にも用いられる一般的な技術用語であり,その意味は明確であるから,本件特許は明確性要件に違反しない。 4 争点3(損害又は不当利得の額)について (原告の主張)(1) 主位的主張(損害賠償請求)ア特許法102条2項による場合被告らは,平成26年3月1日から現在まで,少なくとも3000双の被告製品(単価1万1900円)を販売しており,その売上高は35 1) 主位的主張(損害賠償請求)ア特許法102条2項による場合被告らは,平成26年3月1日から現在まで,少なくとも3000双の被告製品(単価1万1900円)を販売しており,その売上高は3570 万円を下らない。そして,被告は,少なくとも,売上高の60%の利益を得ていたと考えられるから,特許法102条2項で推定される損害の額は前記3570万円に60%を乗じた2142万円である。 したがって,原告の受けた損害の額は,2142万円に弁護士費用及び弁理士費用に相当する214万2000円を加えた2356万2000円 である。 イ特許法102条3項による場合原告が,被告らに対し,本件特許権の実施許諾をする場合,その実施に対し受けるべき金銭の額は,売上高の10%を下らない。 したがって,特許法102条3項で算定される損害の額は,前記アの売上高に10%を乗じた357万円となり,これに弁護士費用及び弁理士費 用に相当する35万7000円を加えた392万7000円が原告の損害である。 (2) 予備的請求(不当利得返還請求)原告が,被告ヨツギに対し,本件特許権の実施許諾をする場合,その実施に対し受けるべき金銭の額は,前記(1)イのとおり,平成26年6月11日 から現在まで,合計357万円を下らない。 したがって,原告は,被告ヨツギに対し,357万円の不当利得返還請求権を有する。 (被告らの主張)原告の主張は争う。原告が主張する被告製品の譲渡数量,販売単価,売上高 及び利益率は,いずれも不正確である。また,原告が主張する実施料率は,平均的な実施料率と大きな乖離がある。 5 争点4(消滅時効の抗弁)について(被告の主張)(1) 原告は,被告ヨツギに対し,平成26年6月11日付書面において, た,原告が主張する実施料率は,平均的な実施料率と大きな乖離がある。 5 争点4(消滅時効の抗弁)について(被告の主張)(1) 原告は,被告ヨツギに対し,平成26年6月11日付書面において,被告 製品が本件特許権の技術的範囲に属し,その製造販売が本件特許権の侵害行為に該当すると判断したと述べている(乙9)。そうすると,原告は,遅くとも同日時点までに,「損害及び加害者を知った」はずであり,本件訴訟が提起された令和2年3月26日の3年前に当たる平成29年3月25日以前の行為に基づく損害賠償請求権については,消滅時効が完成している。そこ で,被告らは,原告に対し,令和2年8月28日付け準備書面をもって,同 消滅時効を援用する旨の意思表示をした。 (2) これに対し,原告は,特許庁における判定(甲9)や原告における試験結果(甲7)を得た時点が消滅時効の起算日であると主張する。しかし,「損害及び加害者を知った」というためには,必ずしも加害行為の違法性を確定的に知ることは要さず,損害賠償等の請求ができる程度に,その蓋然性を認 識すれば足りる。原告は,前記書面において,被告製品が原告の本件特許権を侵害していると断じた上で,法的措置もやむを得ないと警告しているのであるから,被告製品の製造販売が,本件特許権の侵害に当たる蓋然性を認識していたことは明らかである。 (原告の主張) (1) 原告は,特許庁において,被告製品が本件発明の技術的範囲に属するという判定(甲9)がされた平成30年3月14日,「加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとに,その可能な程度にこれを知った」(最高裁昭和45年(オ)第628号同48年11月16日第二小法廷判決・民集27巻10号1374頁参照)。 したがって,本件特許権の 事実上可能な状況のもとに,その可能な程度にこれを知った」(最高裁昭和45年(オ)第628号同48年11月16日第二小法廷判決・民集27巻10号1374頁参照)。 したがって,本件特許権の侵害行為に基づく損害賠償請求権について,消滅時効が成立する余地はない。 (2) そうでないとしても,原告は,構成要件Gについて,被告製品のコーティング被膜の静摩擦係数が平均0.228μs,動摩擦係数が平均0.281であったのに対し,編み地の繊維の静摩擦係数が平均0.168μs,動摩 擦係数が平均0.147μKである旨の試験結果(甲7)を得た平成29年11月6日,本件特許の侵害を確信し,「加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとに,その可能な程度にこれを知った」というべきである。 第4 当裁判所の判断 1 本件発明の内容 (1) 本件明細書等には,以下の記載がある(甲3)。 ア技術分野「本発明は,電気工事作業に使用する作業用手袋に関する。」(段落【0001】)イ背景技術「従来,作業用手袋には,作業の特性に応じた機能が数多く付与されて いる。」(段落【0002】)「例えば,電気工事作業等に使用する作業用手袋は,耐電圧性が必須の物性であり,その他に指先作業性,防滑性,防水性などの性質を備えている必要がある。」(段落【0003】)「このような性質を有する作業用手袋を形成するために,一例として, 布又は編み物で形成した原手の表面を,弾性材で複数層状に被覆したものが知られている(例えば,特許文献1参照。)。」(段落【0004】)「ところがこのような手袋は,使用を繰り返すうちに表面の弾性材が摩耗して被覆が薄くなり,クラックやピンホールが生じてしまう場合があった。」(段落【0005】) 照。)。」(段落【0004】)「ところがこのような手袋は,使用を繰り返すうちに表面の弾性材が摩耗して被覆が薄くなり,クラックやピンホールが生じてしまう場合があった。」(段落【0005】) 「そこで,原手表面を被覆する複数の弾性材の層のうち,表層よりも下に着色層を形成し,弾性材が摩耗した場合にはこの着色層を露出させて,作業者に摩耗を視認させるようにした作業用手袋が提案されている(例えば,特許文献2参照。)。」(段落【0006】)「この着色層を設けた作業用手袋によれば,クラックやピンホールの発 生前に被覆層の摩耗を検出することができ,感電事故等を未然に防ぐことができるとしている。」(段落【0007】)ウ発明が解決しようとする課題「しかしながら,上記従来の作業用手袋は,被覆層の摩耗状態を使用者に認識させることを目的としたものであり,耐摩耗性の改善については着 目されておらず,根本的な解決とは言い難いものであった。」(段落【0 009】)「なお,電気工事等の現場では,上記従来の作業用手袋の上に革製の手袋や不織布製の手袋をさらに重ね履きすることで,耐摩耗性の問題の解決を図っている場合もある。」(段落【0010】)「しかし,このような方法では,重ね履きした革製の手袋や不織布製の 手袋の弾性手袋への追従性が悪いため,作業性が極度に低下し,作業効率が著しく悪化することとなっていた。また,着脱の際の面倒さも増していた。」(段落【0011】)「本発明は,斯かる事情に鑑みてなされたものであって,耐電圧性や防水性の機能を担保しながらも,着脱性に優れ,さらに耐摩耗性や作業性を 向上させた電気工事作業に使用する作業用手袋を提供する。」(段落【0012】)エ課題を解決するための手段「上記従来 水性の機能を担保しながらも,着脱性に優れ,さらに耐摩耗性や作業性を 向上させた電気工事作業に使用する作業用手袋を提供する。」(段落【0012】)エ課題を解決するための手段「上記従来の課題を解決するために,請求項1に係る発明では,電気工事作業に使用する作業用手袋において,弾性材料により形成された手袋基 体と,アラミド繊維などの難燃性を有する素材によりなり,前記手袋基体の外側に装着して貼着されている手袋状に形成された所定の面積を有する生地体とを備える電気工事作業に使用する作業用手袋であって,前記生地体は,前記手袋基体の掌部に貼着されている部位と,前記手袋基体の親指部及び人差し指部に貼着されている指袋状の部位とを少なくとも備え,前 記生地体を構成する繊維内に前記生地体の表面側から含浸し,かつ接着機能を有するコーティング材料により,前記生地体の表面に,同生地体の厚み以下に形成されたコーティング被膜を有し,前記コーティング被膜は,前記生地体よりも摩擦係数が高く,前記コーティング被膜により前記生地体の繊維や目部に沿って凹凸が形成されている。」(段落【0013】) オ発明の効果 「請求項1に係る発明では,弾性材料により形成された手袋基体と,アラミド繊維などの難燃性を有する素材によりなり,前記手袋基体の外側に装着して貼着されている手袋状に形成された所定の面積を有する生地体とを備える電気工事作業に使用する作業用手袋であって,前記生地体は,前記手袋基体の掌部に貼着されている部位と,前記手袋基体の親指部及び人 差し指部に貼着されている指袋状の部位とを少なくとも備え,前記生地体を構成する繊維内に前記生地体の表面側から含浸し,かつ接着機能を有するコーティング材料により,前記生地体の表面に,同生地体の厚み以下 差し指部に貼着されている指袋状の部位とを少なくとも備え,前記生地体を構成する繊維内に前記生地体の表面側から含浸し,かつ接着機能を有するコーティング材料により,前記生地体の表面に,同生地体の厚み以下に形成されたコーティング被膜を有し,前記コーティング被膜は,前記生地体よりも摩擦係数が高く,前記コーティング被膜により前記生地体の繊維 や目部に沿って凹凸が形成されているため,生地体を貼付した箇所の耐電圧性や防水性の機能を担保しながらも,着脱性に優れ,さらに耐摩耗性や作業性を向上させた電気工事作業に使用する作業用手袋を提供することができる。また,生地体は,少なくとも手袋基体の親指部及び/又は人差し指部に貼付されていることとしたため,さらに指先作業性を向上させるこ とができる。また,生地体は,指袋状に形成されていることとしたため,指先作業性を高めることができると共に,手袋基体への生地体の貼付をより容易とすることができる。また,生地体は,少なくとも手袋基体の掌部に貼付されていることとしたため,掌部の耐摩耗性や作業性を向上させることができる。また,生地体は手袋状に形成されており,手袋基体の外側 に装着して貼付していることとしたため,作業量の多い指先部や掌部に加え,指の付け根部分など屈伸運動に伴う摩耗をさらに広範囲に亘って防止することができる。また,把持対象物との摩擦力を大きくすることができ,作業性をさらに向上させることができる。」(段落【0019】)カ発明を実施するための形態 「ここで,手袋基体を形成する弾性材料は,一般に作業用手袋に使用さ れるものであって,形成する作業用手袋の目的に適合する素材であれば特に限定されるものではない。例えば,天然ゴム,EPDM(エチレン-プロピレン-ジエンゴム)等の合成ゴム, 作業用手袋に使用さ れるものであって,形成する作業用手袋の目的に適合する素材であれば特に限定されるものではない。例えば,天然ゴム,EPDM(エチレン-プロピレン-ジエンゴム)等の合成ゴム,ポリ塩化ビニル,ポリウレタン等を挙げることができる。」(段落【0033】)「また,手袋基体は,上述の弾性材料のみで構成されていても良く,ま た,裏地材を有していても良い。例えば,布手袋又は編み手袋である原手の表面に弾性材料の被膜を形成することにより,裏地材を有する手袋基体とすることができる。このような裏地材を有する手袋基体は,手を挿入した際の風合いを良好としたり,手袋と手との間の摩擦を増して防滑性を高めることができる。また,原手を構成する繊維が汗を吸い取ることとなる ため,手袋内に挿入した手の蒸れを防止することができる。」(段落【0034】)「また,手袋基体に貼付される生地体は,布地,編み地,メッシュ地等から形成したものとするのが好ましい。特に,これらの生地体は,作業用手袋を着用して対象物を把持した際に,布地の織り目や,編み地の編み目 や,メッシュ地の網目(以下,これらを総称して生地体の目部ともいう。)が対象物に接触しない程度の目開きとするのが良い。」(段落【0035】)「このような目開きの幅は,生地体に使用する繊維の太さや生地体の厚みにもよるが,その開口面積で言うと概ね100平方mm以下が良く,特 に50平方mm以下が好ましい。100平方mmを上回ると,目部に露出した手袋基体(表面のコーティング被膜)が把持対象物と接触しやすくなり,手袋基体の摩耗抑制が困難となる場合がある。さらに開口面積を50平方mm以下となるような目開きの幅とすると,把持物は専ら生地体と接触することとなり,把持物が手袋基体に直接接触する 接触しやすくなり,手袋基体の摩耗抑制が困難となる場合がある。さらに開口面積を50平方mm以下となるような目開きの幅とすると,把持物は専ら生地体と接触することとなり,把持物が手袋基体に直接接触するのを防止することが でき,作業用手袋の耐摩耗性を飛躍的に向上させることができる。」(段 落【0036】)「また,生地体の目部は,生地体の表面にコーティング被膜を形成した際に,凹凸が形成される程度の目開きとすると良い。」(段落【0037】)「このような目開きの幅や面積についても,コーティング材料を分散又 は溶解したコーティング液の粘性や組成によって左右されるため一概に決定するのは困難であるが,目開きが細かすぎるとコーティング液が生地体の表面に厚塗り状に付着してしまい,凹凸が表出しないおそれがある。」(段落【0038】)「換言するならば,生地体の目開きは,目部に露出した手袋基体が把持 物と直接接触しにくく,また,コーティング被膜が生地体の繊維や目部に沿って凹凸を形成できる幅や面積とするのが良い。」(段落【0039】)「また,敢えて実用的な範囲で生地体とコーティング皮膜の関係について規定するならば,コーティング被膜の膜厚は,例えば,生地体の厚み以下とするのが好ましい。コーティング被膜の膜厚が,生地体の厚みを越え ると,コーティング膜が生地体の凹凸を完全に覆ってしまい,繊維や目部による凹凸が形成できなくなるため好ましくない。コーティング被膜の膜厚は,生地体の厚みの1/4~3/4の範囲内とすることで,良好なコーティング被膜を形成することができる。」(段落【0040】)「また,生地体を構成する繊維は,一般に作業用手袋に使用されるもの であって,形成する作業用手袋の目的に適合する素材であれば特に限定され グ被膜を形成することができる。」(段落【0040】)「また,生地体を構成する繊維は,一般に作業用手袋に使用されるもの であって,形成する作業用手袋の目的に適合する素材であれば特に限定されるものではないが,例えば,難燃性を付与する場合にはアラミド繊維,炭素繊維など,繊維自体に難燃性を有するものが好適に用いられ,また,耐切創性を付与する場合には,アラミド繊維,高強力ポリエチレン繊維,金属系繊維等の高強力繊維を好適に用いることができる。また,耐摩耗性 を付与する場合には,アラミド繊維,高強力ポリエチレン繊維,ポリエチ レン,ポリエステル,綿,ポリウレタン,レーヨンなどが好適に用いられる。」(段落【0041】)「また,生地体として編み地を使用する場合,その編織方法は,一般に手袋の形成の際に用いられる編織方法であれば特に限定されるものではないが,好ましくはメッシュ編み,メリヤス編みを挙げることができる。」 (段落【0042】)「また,生地体として布地を使用する場合,その布地の織り方は,一般に布地の形成の際に用いられる織り方であれば特に限定されるものではないが,好ましくは平織り,綾織りを挙げることができる。」(段落【0043】) 「コーティング被膜は,生地体を手袋基体に貼着させるとともに,生地体表面に防滑性を付与する役割を有している。」(段落【0044】)「このコーティング被膜を形成するコーティング材料は,生地体よりも摩擦係数の高い材料,さらに詳細には,生地体を構成する繊維(糸)の摩擦係数よりも高い摩擦係数を有する被膜を形成可能なコーティング材料と するのがよい。このようなコーティング材料としては,例えば,天然ゴム系接着剤や,合成ゴム系接着剤を挙げることができる。」(段落【0045】)「こ 有する被膜を形成可能なコーティング材料と するのがよい。このようなコーティング材料としては,例えば,天然ゴム系接着剤や,合成ゴム系接着剤を挙げることができる。」(段落【0045】)「このようなコーティング材料で,生地体の表面にコーティング被膜を形成することにより,生地体で手袋基体の耐摩耗性を向上させながらも, 防滑性の優れた作業用手袋とすることができる。すなわち,耐摩耗性と防滑性とを両立した作業用手袋とすることができる。」(段落【0046】)「また,前述の生地体を構成する繊維は,コーティング材料が含浸しやすい素材や構造とするのが好ましい。例えば,繊維の素材や構造を,綿,麻,化学繊維などの短繊維(スパン糸)にすることで,毛羽が出来,その 毛羽に,より多くのコーティング材料を取り込みやすくすることができる。 また,フィラメント糸の場合では毛羽が発生しないため,コーティング材料を取り込むことが難しいが,多孔性繊維,中空繊維,異型繊維などいくつかの繊維を集合もしくは引き揃えたりすることや,また,繊維の加工法として,撚り加工糸や,仮撚り加工糸,押し込み加工糸などを用いることにより,繊維が複雑化した構造となり,コーティング材料を溜める空間が できやすく,繊維内にコーティング材料を含浸しやすくすることができる。」(段落【0047】)「このような素材を使うことによって,この生地体の表面に,コーティング材料が小さな塊状となった塊状防滑体を形成することができるため好ましい。」(段落【0048】) 「この塊状防滑体は,スパン糸表面の毛羽や繊維内の空間にコーティング液が液滴状に付着して固化することにより形成されたものであり,生地体の表面に弾性を有する小径の粒が多数存在することとなり,作業用手袋の防滑性をさら は,スパン糸表面の毛羽や繊維内の空間にコーティング液が液滴状に付着して固化することにより形成されたものであり,生地体の表面に弾性を有する小径の粒が多数存在することとなり,作業用手袋の防滑性をさらに向上させることができる。」(段落【0049】)「繊維内に含浸したコーティング材料は,繊維を固定することで繊維の 耐久性を向上させることができる。」(段落【0050】)「しかも,繊維表面に形成したコーティング被膜が摩耗して繊維本体が露出した場合でも,繊維内部にコーティング材料が含浸されているため,防滑性を可及的維持することができる。」(段落【0051】)「また,手袋基体に貼着する生地体の面積は,特に限定されるものでは ない。作業用手袋を用いて行う作業毎に,耐摩耗性や防滑性を付与したい部位が異なるため,耐摩耗性が必要な部位や,滑りによる作業性を改善したい部位を覆える程度の大きさがあれば良い。」(段落【0052】)「例えば,手袋基体の指の腹に相当する部位,より限定的に言うならば少なくとも手袋基体の親指部及び/又は人差し指部に生地体を貼着するこ とにより,指先に耐摩耗性と防滑性とを付与することができ,指先作業性 を飛躍的に向上することができる。なお,ここで「少なくとも手袋基体の親指部及び/又は人差し指部に生地体を貼着」とは,親指部及び/又は人差し指部以外の部位へ生地体を貼着することを妨げるものではない。」(段落【0053】)「また,生地体は指袋状に形成しても良い。このような構成とすること により,指部全体の耐摩耗性や指先作業性を高めることができると共に,手袋基体への生地体の貼付をより容易とすることができる。」(段落【0054】)「また,少なくとも手袋基体の掌部に生地体を貼着しても良い。このような構成と や指先作業性を高めることができると共に,手袋基体への生地体の貼付をより容易とすることができる。」(段落【0054】)「また,少なくとも手袋基体の掌部に生地体を貼着しても良い。このような構成とすることにより,掌部の耐摩耗性や作業性を飛躍的に向上させ ることができる。なお,ここで「少なくとも手袋基体の掌部に生地体を貼着」とは,掌部以外の部位へ生地体を貼着することを妨げるものではない。」(段落【0055】)「このように,手袋基体の表面に,生地体を部位別に貼付することにより,貼付した部位に耐摩耗性や作業性を向上させることが可能となるが, 生地体を手袋状に形成し,手袋基体の外側に装着して貼付することで,より広範囲において耐摩耗性や作業性を向上させることも可能である。」(段落【0056】)「また,生地体表面に形成するコーティング層は,生地体の目部による凹凸を残しつつ形成するのが好ましい。このように形成することにより, 形成した作業用手袋の表面に優れた滑り止め効果を付与することができる。」(段落【0057】)「特に,コーティング層を形成するためのコーティング材料は,溶液状のコーティング液として生地体と手袋基体との両者に付着させコーティング被膜を形成するのが好ましい。」(段落【0058】) 「付着の方法としては,塗布や浸漬により行うことができる。塗布によ りコーティング液を付着させる場合には,手袋基体の表面に生地体を重ね,その生地体の表面に刷毛塗りやスプレーを行うことで実現することができる。刷毛塗りやスプレーにより付着したコーティング液は,生地体の目部を介して手袋基体にも付着することとなり,手袋基体に生地体を貼着することができる。」(段落【0059】) 「また,浸漬によりコーティング液を付着さ により付着したコーティング液は,生地体の目部を介して手袋基体にも付着することとなり,手袋基体に生地体を貼着することができる。」(段落【0059】) 「また,浸漬によりコーティング液を付着させる場合も,製造手型に被せた手袋基体の表面に生地体を配置しコーティング液中に浸漬することで実現することができる。浸漬とともにコーティング液は,生地体の目部を介して手袋基体に付着し,手袋基体に生地体を貼着することができる。」(段落【0060】) 「また,付着させるコーティング液は,塗布や浸漬などその付着方法に応じて適宜粘度や組成を調整するのが望ましい。具体的には,前述のように,形成されたコーティング被膜が生地体の繊維や目部に沿って凹凸を形成できる程度の粘度や組成とすると良い。」(段落【0061】)「また,更に好ましくは,コーティング液は,生地体を構成する繊維中 にも含浸可能な粘度や組成とすると良い。」(段落【0062】)「このようなコーティング液とすることにより,生地体を構成する繊維そのものの強度を向上させることができ,また,繊維自体の防滑性をも向上させることができる。」(段落【0063】)「以下,本実施形態に係る作業用手袋について,図面を参照しながら具 体的に説明する。」(段落【0064】)キ実施例1「図1は本実施形態に係る作業用手袋Aの掌側を示した説明図である。 作業用手袋Aは,弾性材料としての天然ゴムで形成した手袋基体10と,同手袋基体10の表面に貼着した生地体としての編み地11とを備えてい る。」(段落【0065】) 「手袋基体10は,図中一部切り欠いて示すように,編織して手袋状とした原手12の表面に,天然ゴム層13を形成することにより構成している。なお,天然ゴム層13は,耐電圧 落【0065】) 「手袋基体10は,図中一部切り欠いて示すように,編織して手袋状とした原手12の表面に,天然ゴム層13を形成することにより構成している。なお,天然ゴム層13は,耐電圧性を有する程度の厚みに形 成している。」(段落【0066】)「一方,編み地11は,アラミド繊維(スパン糸)を編織して形成しており,手袋基体10の小指部15,薬指部16,中指部17,人差し指部18,親指部19の外表面にそれぞれ貼着している。」(段落【0067】) 「特に,本実施形態に係る作業用手袋Aでは,小指部15,薬指部16,中指部17の編み地11は,それぞれの指の腹の位置に貼着しており,その面積は,指の腹に相当する面積と同程度に形成している。」(段落【0068】)「また,人差し指部18及び親指部19に貼着した編み地11は指袋状 に形成し,その面積は,それぞれの指全体をほぼ覆うことのできる面積としている。」(段落【0069】)「このように編み地11が貼付された部位の断面を図2(a)に示す。 作業用手袋Aの内方から外方へ順に,原手12,天然ゴム層13,編み地11が重畳されており,同編み地11の表面は図中破線で示すように,編 み地11の編み目22による凹凸に沿ってコーティング被膜21が形成されている。」(段落【0070】)【図1】 「このコーティング被膜21は,コーティング材料としての天然ゴムラテックス系接着剤を付着させて形成したものであり,手袋基体10に編み地11を貼着する接着剤の役割を有している。これにより,手袋 基体10の編み地11が貼着された部位は,天然ゴム層13の表面が網状に覆われて,摩耗や突刺等から保護されることとなる。」(段落【0071】)「したがって,作業用手袋Aの編 れにより,手袋 基体10の編み地11が貼着された部位は,天然ゴム層13の表面が網状に覆われて,摩耗や突刺等から保護されることとなる。」(段落【0071】)「したがって,作業用手袋Aの編み地11を貼付した部位の耐摩耗性を 向上させることが可能となる。」(段落【0072】)「また,コーティング被膜21は,編み地11表面を被覆して,編み地11表面に防滑性を付与する。特に,本実施形態に係る作業用手袋Aでは,アラミド繊維の繊維体20よりも摩擦係数が高い天然ゴムラテックス系接着剤でコーティング被膜を形成しており,作業用手袋Aの編み地11を貼 付した部位に,さらに防滑性を付与することができる。」(段落【0073】)「また,コーティング被膜21の一部は,図2(b)に示すように,編み地11の編み目22にて,薄膜状の目部膜体23を形成している。なお,図2(b)では,目部膜体23を明瞭に図示するために,繊維体20上に 形成されたコーティング被膜21は省略して記載している。」(段落【0074】)「また,繊維体20上には,アラミド繊維の短繊維にコーティング液が液滴状に付着して形成された塊状弾性体33が形成されている。」(段落【0075】) 「このような構成を備える作業用手袋Aは,指先で摘んだ物体に対して【図2】 大きな摩擦力を生起するため,指先の防滑性が向上する。しかも,図2(c)に示すように,白抜きの矢印方向への摩擦力が働いた場合には,繊維体20が起立するとともに,塊状弾性体33もまた物体に対して絡みつき,摩擦力をさらに増大させることができる。」(段落【0076】)「また,目部膜体23の一部は,作業用手袋Aの使用に伴い,手袋基体 10に付着したまま一部が僅かに剥離してくるが,この剥離部分が把 ,摩擦力をさらに増大させることができる。」(段落【0076】)「また,目部膜体23の一部は,作業用手袋Aの使用に伴い,手袋基体 10に付着したまま一部が僅かに剥離してくるが,この剥離部分が把持物に対して摩擦力を生起することとなるため,使用に伴う防滑性の低下を可及的防止することができる。」(段落【0077】)「また,繊維体20はコーティング被膜21にて覆われているため,起立した後に摩擦力が無くなれば,コーティング被膜21の弾性力により再 び図2(a)に示す元の状態に戻るため,毛羽立ちを可及的に防ぐことができる。」(段落【0078】)「なお,本実施形態に係る作業用手袋Aでは,生地体として編み地11を使用したが,編み地11に変えて布地を使用しても良い。手袋基体10の表面に,布地24を貼付した変形例に係る作業用手袋A'の断面構造を 図3(a)に示す。」(段落【0079】)「図に示すように,内方から外方へ,原手12,天然ゴム層13,布地24が重畳されており,同布地24の表面は図中破線で示すように,布地24の織り目25による凹凸に 沿ってコーティング被膜21を形成している。」(段落【0080】)「また,布地24の繊維29には,図3(b)に示すように,塊状弾性体33が形成されている。」(段落【0081】) 「このような構成とすることにより,前述 【図3】 の編み地11と同様,優れた耐摩耗性と作業性とを有する作業用手袋A'とすることができる。」(段落【0082】)「また,更なる変形例として,手袋基体10に貼付する生地体を編み地11や布地24に替えて,メッシュ生地26を用いるようにしても良い。 手袋基体10の表面に,メッシュ生地26を貼付した更なる変形例に係る 作業用手袋A''の断 手袋基体10に貼付する生地体を編み地11や布地24に替えて,メッシュ生地26を用いるようにしても良い。 手袋基体10の表面に,メッシュ生地26を貼付した更なる変形例に係る 作業用手袋A''の断面構造を図4(a)に示す。」(段落【0083】)「図に示すように,内方から外方へ,原手12,天然ゴム層13,メッシュ生地26が重畳されており,表面は図中破線で示すようにメッシュ生地26の網目28による凹凸に沿ってコ ーティング被膜21を形成している。」(段落【0084】)「また,メッシュ生地26の網目28には,図4(b)に示すように,繊維29間に目部膜体23を形成している。」(段落【008 5】)「このような構成とすることにより,前述の編み地11や布地24と同様,優れた耐摩耗性と作業性とを有する作業用手袋A''とすることができる。なお,本変形例においてメッシュ地はフィラメント糸を使用しており,毛羽が少ないため塊状弾性体33は形成されていないが,スパン糸や 撚り加工糸にて形成したメッシュ地を使用することにより,表面に塊状弾性体33を形成するようにしても良いのは勿論である。」(段落【0086】)ク実施例2「次に,実施例2について述べる。前述の実施例1で示した作業用手袋 Aは,生地体を各指部に貼着することとしたが,本実施例2における作業 【図4】 用手袋Bでは,生地体を掌部に貼着している点に特徴を有している。なお,以下の説明では,前述の実施例と同様の構成については同じ符号を付して説明を省略する。」(段落【0087】)「作業用手袋Bでは,具体的には,四本胴部位置30と,小指丘位置31と,母指丘位置32に編み地11を貼付している。」(段落【008 8】)「このような構成を有する作 」(段落【0087】)「作業用手袋Bでは,具体的には,四本胴部位置30と,小指丘位置31と,母指丘位置32に編み地11を貼付している。」(段落【008 8】)「このような構成を有する作業用手袋Bによれば,掌部の耐摩耗性や防滑性を飛躍的に向上させることができる。なお,前述の作業用手袋Aと同様,本作業用手袋Bにおいても,編み地11に替えて,布地24やメッシュ生地26を貼付したり,これらを混在させて貼付しても良いのは言うま でもない。」(段落【0089】)ケ実施例3「次に,実施例3に係る作業用手袋Cを図6に示す。作業用手袋Cは,生地体を手袋状に形成し,手袋基体10に装着し貼付している点に特徴 を有している。」(段落【0090】)「このような構成を有する作業用手袋Cによれば,各指部や掌部を含む手全体の防滑性を高めることができる。なお,この場合,手の甲部において防滑性が必要とされない場合には,背抜きされ た手袋状の生地体を用いるようにしても良い。また,前述の作業用手袋A,Bと同様,本作業用手袋Cにおいても,編み地11に替えて,布地24やメッシュ生地26を貼付したり,これらを混在させて貼付しても良いのは言うまでもない。」(段落【0091】)(2) 本件発明の意義 前提事実記載の特許請求の範囲及び本件明細書等の上記記載によれば,本 【図6】 件発明は,①電気工事作業に使用する作業用手袋に関する発明であり,②従来の作業用手袋は耐摩耗性の改善については着目されておらず,耐摩耗性の改善のために手袋を重ね履きすると,作業性や着脱性が低下するという課題を解決するため,③手袋基体の外表面に生地体を装着した上,同生地体の表面に,同生地体よりも摩擦係数の高いコーティング被膜及び同被膜による凹 に手袋を重ね履きすると,作業性や着脱性が低下するという課題を解決するため,③手袋基体の外表面に生地体を装着した上,同生地体の表面に,同生地体よりも摩擦係数の高いコーティング被膜及び同被膜による凹 凸を形成することにより,④着脱性に優れ,耐摩耗性や作業性を向上させた電気工事作業に使用する作業用手袋を提供するという効果を奏するものであると認められる。 2 争点1-1(乙1発明が公然実施されたものかどうか)について(1) 認定事実 前記前提事実に加え,後掲各証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実を認めることができる。 ア低圧二層手袋(型式「YS-108-5-1」)の販売について(ア) 被告ヨツギは,平成3年1月25日頃,東北電力に対し,「低圧二層手袋」の「大」(YS-108-2-1)及び「中」(YS-108- 3-1)に係る物品審査成績書(乙16)を提出した。同成績書(4枚目)には,「表示図」として,以下の表(大サイズのみ掲げる。)が掲載されている。 低圧二層手袋大製造年月年月使用電圧 300V以下試験電圧 1,000V 1分間型式名称 YS-108-2-1製造番号ヨツギテクノ(株)(イ) 東北電力は,平成3年2月24日頃,被告ヨツギに対し,同年1月2 5日の検査に基づき,「低圧2層手袋(大)(中)」に係る物品審査承認通知書を送付した。(乙18)(ウ) 東北電力は,平成8年4月9日,前記(ア)と同サイズの「二層構造低圧作業用手袋」の「大」及び「中」のサイズに加え,「小」のサイズを記載した購入仕様書を制定した。(乙30,31) (エ) 被告ヨツギは,平成16年頃,東北電力の各支店の作業員に対し,「サイズ「小」の見直しの試作品」を提供し,「低圧ゴム手袋の現行 のサイズを記載した購入仕様書を制定した。(乙30,31) (エ) 被告ヨツギは,平成16年頃,東北電力の各支店の作業員に対し,「サイズ「小」の見直しの試作品」を提供し,「低圧ゴム手袋の現行サイズ「中」「小」に不便を感じている人などを対象に,今回の試作品のサイズ等に対する意見・要望をお願いします。」として,これに対する意見・要望を募った。 東北電力は,同年2月10日,その結果をとりまとめ,「早期導入を望む意見が多いことから試作品のサイズで仕様書を見直しし,年度内導入を図ることとしたい」などと記載された報告書を被告ヨツギに交付した。(乙19)(オ) 被告ヨツギは,平成16年2月,「二層構造低圧作業用手袋」の仕様 書を改訂し,同仕様書には,型式「YS-108-5-1」の「小」サイズの製品が掲載されているが,上記(ウ)の小サイズ製品とは,指の長さ部分等が短いなどの差違がある。 また,同仕様書(4頁)には,低圧手袋には,袖口付近の見やすいところに,容易に消えない方法で,「品名」,「種類」,「使用電圧」, 「試験電圧」,「製造者名またはその略号」「,製造年月(西暦)」,「製造番号」及び「型式名称」を表示するものとするとの記載がある。 (乙17)(カ) 被告ヨツギは,平成16年3月3日頃,東北電力に対し,小サイズの低圧二層手袋の仕様変更に伴い,社内試験成績書などを添付し,「二層 構造低圧作業用手袋(小)」の型式(物品)審査申請書を提出した。 (乙20~24)(キ) 東北電力は,平成16年3月10日,社内において,「二層構造低圧作業用手袋小」(全660双)の購入手続をとり,被告ヨツギは,同日,その購入の申込みを受けた。(乙27)(ク) 東北電力は,平成16年3月23日,被告ヨツギテクノの社内 において,「二層構造低圧作業用手袋小」(全660双)の購入手続をとり,被告ヨツギは,同日,その購入の申込みを受けた。(乙27)(ク) 東北電力は,平成16年3月23日,被告ヨツギテクノの社内におい て,「二層構造低圧作業用手袋」の「小サイズ(改良)」に係る受入試験を実施し,全660双に合格印を押印した。(乙26)(ケ) 被告ヨツギは,平成16年3月24日,東北電力の各地の営業所の関係部署などに宛てて,同月26日を着日とし,「立会試験分低圧二層手袋 SS」を出荷した。(乙28,29) イ乙1手袋の存在について(ア) 乙1手袋は,天然ゴム又はイソプレンゴム(乙2)を外層とする黄色の手袋であり,その袖口に以下の表示が存在する。 低圧二層手袋(小)製造年月 04年3月使用電圧 300V以下試験電圧 1,000V 1分間製造番号 0002型式名称 YS-108-5-1ヨツギテクノ(株)(イ) 前記(ア)の表示は,前記ア(オ)の仕様書において,袖口付近に記載すべきものとされた事項を満たすものであり,前記(ア)の物品審査成績書に 掲載された「表示図」と同一の書式である。(乙16,17)(ウ) 乙1手袋は,①「検査合格証」,「’16.3.23」,「東北電力株式会社」と表示された円形印,②「試験合格証」,「23.10.26」,「(財)東北電気保安協会」と表示された円形印を有し,③バン ド部分に「A」と手書きで記載されたものであり,④若干の汚れを有しているほかは,特段の損傷は見られない。(乙1~3)(2) 検討ア上記(1)イのとおり,乙1手袋には,四角形の枠内に「低圧二層手袋(小)」,「製造年月 04年3月」「型式名称 YS-108-5- 1」,「ヨツギテクノ(株)」などの 3)(2) 検討ア上記(1)イのとおり,乙1手袋には,四角形の枠内に「低圧二層手袋(小)」,「製造年月 04年3月」「型式名称 YS-108-5- 1」,「ヨツギテクノ(株)」などの表示が存在するとともに,二つの円形印,すなわち,①「検査合格証」,「’16.3.23」,「東北電力株式会社」と表示された円形印,及び,②「試験合格証」,「23.10. 26」,「(財)東北電気保安協会」と表示された円形印が存在する。 これらの表示事項は,平成16年2月改訂に係る「二層構造低圧作業用 手袋」の仕様書において袖口付近に記載すべきものとされた事項を満たすとともに,平成3年1月25日付けの物品審査成績書に掲載された「表示図」の書式とも合致するものであり,他にこれらの四角形の枠内の表示や円形印内の表示に不自然な点は見当たらない。そうすると,乙1手袋は,その表示どおり,2004(平成16年)3月に被告ヨツギテクノが製造 した,型式名称を「YS-108-5-1」とする小サイズの低圧二層手袋であると認めるのが相当である。 イ被告ヨツギにおける小サイズの低圧二層手袋(型式「YS-108-5-1」)の開発の経緯に至る事実関係は,上記(1)アのとおりであるが,これによれば,被告ヨツギは,平成16年頃,東北電力の各支店の作業員 の意見・要望を聴いた上で,従前の小サイズの低圧二層手袋の改良版である型式「YS-108-5-1」の同手袋の仕様を確定し,東北電力による受入試験に合格して,合格印の押印を受けた上で,同年3月24日に,東北電力の各地の営業所の関係部署などに宛てて,同型式の低圧二層手袋660双を出荷したとの事実が認められる。こうした事実経過及びその時 期等を踏まえると,乙1手袋は,上記660双のうちの1双であると認め の営業所の関係部署などに宛てて,同型式の低圧二層手袋660双を出荷したとの事実が認められる。こうした事実経過及びその時 期等を踏まえると,乙1手袋は,上記660双のうちの1双であると認め るのが相当である。 ウ乙1手袋を含む乙1製品(型式「YS-108-5-1」の低圧二層手袋)は,上記のとおり,少なくとも660双が東北電力に販売されて,同社の各支店の作業員がこれを使用したと推認されることに照らすと,被告ヨツギは,本件特許の出願前である平成16年3月,乙1手袋を含む乙1 製品を販売したことによって,乙1発明を公然実施していたものというべきである。 (3) 原告の主張についてア原告は,乙1手袋の袖口の「製造年月 04年3月」の「0」の数字の文字幅が狭くなっていることを指摘し,当該「0」は,もともとは「1」 であり,これが事後に書き換えられた可能性があると主張する。 確かに,上記の「0」の数字には,若干の歪みや左右に濃淡の差があるが,これを仔細に観察しても,「1」を「0」に書き換えたとは認められない。 イ原告は,感電を防止する保護具としての手袋の耐用年数は5年であり, 乙1手袋が平成16年3月23日に販売されたとすれば,耐用期間を大きく超過した時期に検査が行われたことになり,不自然であると主張する。 しかし,原告が乙1製品の耐用期間の根拠とする証拠(甲17)は,電機絶縁手袋のメーカーが同社の目安として絶縁手袋の耐久年数を5年としているというにすぎず,これをもって乙1製品の耐用期間や経年劣化の期 間であると認めることはできない。 また,原告が指摘する労働安全衛生規則351条は,絶縁用保護具を使用している間,定期的に検査を行うことを義務付けているものの(同条1項),当該保護具が使用されて 間であると認めることはできない。 また,原告が指摘する労働安全衛生規則351条は,絶縁用保護具を使用している間,定期的に検査を行うことを義務付けているものの(同条1項),当該保護具が使用されていない場合は,その使用を再び開始する際にその絶縁性能について自主検査を行なわなければならないと規定してい る(同条2項)ことからすると,乙1手袋について検査が行われたのが平 成23年であるとしても不自然ではなく,また,試験や検査するたびに押印するとは限らないことからすると,乙1手袋上に押印がないとしても,この間,同手袋について検査が行われていなかったということもできない。 ウ原告は,本件特許の無効審判においては乙1手袋が証拠として提出されていないことを指摘するとともに,乙1手袋が速やかに廃棄されず,たま たま退職した従業員のロッカーに残置されていたという偶然が生じるとは考え難いと主張する。 しかし,特許無効審判の不成立審決を受けて,証拠となり得る低圧二層手袋が現存していないか調査したとの事実経過が不自然であるということはできず,また,前記判示のとおり,乙1製品に出荷数に照らすと,その うちの1双である乙1手袋が東北電力内に残っている可能性は否定できず,その現況も若干の汚れはあるものの特段の損傷は見られないというものであって,ロッカー内に残置されていたとの保管状況と整合し得るものである。 エ原告は,乙1製品の設計が東北電力の作業員の要求に基づいたものであ るとして,東北電力は共同開発者に当たると主張する。 しかし,東北電力は,従前の製品のサイズの見直しについて,その作業員から意見や要望を集約し,その結果を被告ヨツギに伝えていたにすぎず,他に東北電力が被告ヨツギと共同して乙1製品を開発したと認めるに足りる証 東北電力は,従前の製品のサイズの見直しについて,その作業員から意見や要望を集約し,その結果を被告ヨツギに伝えていたにすぎず,他に東北電力が被告ヨツギと共同して乙1製品を開発したと認めるに足りる証拠はない。 オ原告は,東北電力は,乙1製品の独占的な購入者であり,商慣習上,乙1発明の内容を第三者に開示することはないと主張する。 しかし,原告の主張するような商慣習があったことを認めるべき証拠は存在せず,被告ヨツギは,これを東北電力に販売し,その所有権を譲渡しており,東北電力が,その購入した製品の構成について,第三者に開示し ないという義務を負っていたと認めるに足りる証拠はない。実際のところ, 乙1製品は,東北電力の現場の作業員に使用されていたのであるから,乙1発明の内容は第三者に開示されていたものというべきである。 カ原告は,東北電力が,作業員等に対し,乙1製品の分析をし,その知識を第三者に提供することを許容していたとは考え難く,その外観から乙1発明の内容を認識し得ないと主張する。 しかし,上記オのとおり,東北電力は乙1製品の構成についてその作業員等に開示しないという義務を負っていたものではなく,また,その構成等は,外部機関に委託するなどし,通常の分析方法から知り得るものであることに照らすと(乙1~4),乙1発明は不特定多数の者が知り得る状況で実施されていたというべきである。 キしたがって,原告の上記各主張はいずれも理由がない。 3 争点1-2(乙1発明による進歩性欠如の有無)について(1) 乙1発明の構成について原告は,乙1発明は,構成要件Hに相当する構成Hを有しないので,乙1発明は,相違点1に加え,構成要件Hの構成の有無という点においても本件 発明と相違すると主張する。 ア 明の構成について原告は,乙1発明は,構成要件Hに相当する構成Hを有しないので,乙1発明は,相違点1に加え,構成要件Hの構成の有無という点においても本件 発明と相違すると主張する。 アしかし,証拠(乙3)によれば,乙1手袋の表面には,その中間部に存在する編み物により形成された網目状の模様が認められ,その中指の指元の腹側部分において,中間層の繊維の厚さ(C1,C2),それらの繊維の上部の外層の厚さ(A1,A2),中間層の繊維と繊維の間に含浸した 外層の厚さ(B)は,以下のとおりであると認められる。 (乙3・表1) A1A2BC1C2厚さ30㎛36㎛304㎛330㎛318㎛(模式図) これによれば,乙1手袋は,①凹部(B=304μm)と凸部(A1+C1=334μm,A2+C2=354μm)を有し,②中間部の表面に中間部の厚み(C1=330μm,C2=318μm)以下に形成された外層部(A1=30μm,A2=36μm)を有することになり,凹部(B)と凸部(A1+C1,A2+C2)の間には50μm~56μmの 差が生じているものと認められる。 そうすると,乙1手袋においては,生地体の繊維や目部に沿って凹凸が形成されているということができる。 イこれに対し,原告は,前記認定に係る数値によれば,凹部と凸部の差は日本人女性の髪の毛の直径(約80μm)にも満たない程度にすぎず(甲 25),当業者は,これを凹凸であるとは認識しないと主張する。 しかし,構成要件Hは,「前記コーティング被膜により前記生地体の繊維や目部に沿って凹凸が形成されている」というものであり,凹凸の高低差は規定していない。また,本件明細書等にも,「凹凸が形成される」(段落【0037】),「 前記コーティング被膜により前記生地体の繊維や目部に沿って凹凸が形成されている」というものであり,凹凸の高低差は規定していない。また,本件明細書等にも,「凹凸が形成される」(段落【0037】),「凹凸が表出しない」(段落【0038】), 「凹凸が形成できる」(段落【0039】)などの記載が存在するにすぎず,その高低差に関する記載は存在しない。 このように,本件特許の特許請求の範囲及び本件明細書等は構成要件Hの凹凸の高低差等については何ら限定していないところ,上記のとおり,乙1手袋の凹部(B)と凸部(A1+C1,A2+C2)の間には50μ m~56μmの差が生じているのであるから,乙1手袋は構成要件Hにい う凹凸が形成されているということができる。 ウ原告は,構成要件Hの「凹凸」が意図して形成されたものであることを要するとした上で,当該凹凸は,製造上不可避に生じる「表面粗さ」にすぎないと主張する。 しかし,前記判示のとおり,乙1手袋の表面には,その中間部に存在す る編み物により形成された網目状の模様が認められ,生地体の繊維や目部に沿って凹凸が形成されているのであるから,その凹凸が製造上不可避に生じたものということはできず,意図して形成されたものというべきである。 エ原告は,構成要件Hの「凹凸」は,凹部と凸部の高さに有意な差があり, 滑り止め効果がある程度のものをいうと解すべきであると主張する。 この点に関し,確かに,本件明細書等の段落【0057】には,「生地体表面に形成するコーティング層は,生地体の目部による凹凸を残しつつ形成するのが好ましい。このように形成することにより,形成した作業用手袋の表面に優れた滑り止め効果を付与することができる。」との記載が 存在するが,本件明細書等は,凹凸の形成 る凹凸を残しつつ形成するのが好ましい。このように形成することにより,形成した作業用手袋の表面に優れた滑り止め効果を付与することができる。」との記載が 存在するが,本件明細書等は,凹凸の形成について,どの程度の大きさの凹凸であれば,どのように効果を生ずるのかなどについて,何ら記載をしていない。むしろ,当該段落が,「目部による凹凸」を残すことにより,「優れた滑り止め効果」を付与することができると記載するのみであることからすれば,本件明細書等は,凹凸があれば滑り止めの効果が生じるこ とを開示し,その高低差を特に限定していないと理解するのが相当である。 オ原告は,構成要件Hの「凹凸」であるというためには,生地体の貼着部位であると特定される「掌部」,「親指部及び人差し指部」と関連付けられた部位における凹凸であることを要すると主張する。 しかし,本件発明の構成要件Cは,「生地体」が「手袋基体の外側に装 着して貼着されている手袋状に形成された所定の面積を有する」ものであ るとした上で,構成要件Eは,当該「生地体」が「手袋基体の掌部に貼着されている部位と,前記手袋基体の親指部及び人差し指部に貼着されている指袋状の部位とを少なくとも備え」ると規定し,生地体の部位を「掌部」,「親指部」及び「人差し指部」に限定していない。そして,構成要件Hは,これを踏まえ,「前記コーティング被膜により前記生地体の繊維 や目部に沿って凹凸が形成されている,」としているのであり,これらの文言からしても,凹凸が形成されるのは,「掌部」,「親指部」及び「人差し指部」に限定されないものというべきである。 カ以上によれば,乙1手袋は構成Hを備えているので,相違点1以外の相違点が存在するとは認められない。 なお,原告は乙1発明が構成Fを備 人差し指部」に限定されないものというべきである。 カ以上によれば,乙1手袋は構成Hを備えているので,相違点1以外の相違点が存在するとは認められない。 なお,原告は乙1発明が構成Fを備えることも否認するが,乙2報告書及び乙4報告書によれば,中間部の表面に中間部の厚み(C1=330μm,C2=318μm)以下に形成された外層部(A1=30μm,A2=36μm)を有し,接着機能を有する天然ゴム(NR)またはイソプレンゴム(IR)を成分とする当該外層が,中間部を構成する繊維内に中間部の 表面側から含浸していることが認められるので,同発明は構成Fを備えているということができる。 (3) 相違点1に係る構成の容易想到性相違点1は「生地体の素材が,本件発明では「アラミド繊維などの難燃性を有する素材」(構成要件B)であるのに対し,乙1発明では,「ポリアミ ド6」(構成B′)である点」であるところ,原告は,乙1発明に乙5発明や乙6~8に開示された周知技術を組み合わせることにより,同相違点に係る構成を容易に想到し得たので,本件発明は進歩性を欠くと主張する。 アそこで検討するに,乙5公報は,「耐切創性を高めた作業用手袋」(段落【0001】)に係る技術分野において,従来の作業用手袋は, 「防水性や耐油性に優れるが,例えば牡蠣殻などを扱う作業のように強 度や耐切創性などが要求される作業の場合は必ずしも十分ではない」(段落【0002】)という課題があったことから,「内層手袋に用いる合成繊維として…アラミド繊維…などの,高機能繊維を含める」(段落【0013】)ことにより,「作業用手袋の強度や耐切創性等を高く維持しながら,繊維を細くしてシームレス手袋を薄く形成」することを可能にする発 明(乙5発明)を開示しているも 繊維を含める」(段落【0013】)ことにより,「作業用手袋の強度や耐切創性等を高く維持しながら,繊維を細くしてシームレス手袋を薄く形成」することを可能にする発 明(乙5発明)を開示しているものと認められる。 イ本件特許の出願前に頒布されていたものと認められる「耐切創性手袋」に係る市販品のカタログ(乙8)には,アラミド繊維の一種(弁論の全趣旨)であると認められる「ケブラー紡績糸」を使用した,板金,機械加工,金属加工を適応業種とする軍手タイプの手袋が掲載され,これが綿を用い た手袋と比較し,耐切創性に優れていることを示すグラフが掲載されていると認められる。 また,本件特許の出願前の公開特許公報(特開2002-201511号。乙6)には,「電気工事作業者を線路短絡により発生するアークから保護することができるアーク対応難燃衣」(段落【0001】)の布地と してアラミド繊維が最良であり,「アラミド繊維は,…安全で,融解エントロピーが小さく,分解温度が既存の有機繊維に対し著しく高く,非常に燃えにくく,自己消火性を有し,…難燃性に優れたものである。」(段落【0017】)ことが開示されている。 ウ上記乙5発明並びに乙6及び8に開示された技術事項によれば,本件特 許の出願前において,アラミド繊維は,作業用手袋の分野において,耐切創性に優れた素材であると知られ,また,アラミド繊維が難燃性に優れた素材であることは技術常識であったということができる。 他方,乙1発明は,電気工事という危険性ある作業に使用する手袋に係る発明であり,その耐切創性や難燃性を高めるという課題を有していた ことは明らかである。 そうすると,乙1発明と上記技術事項とは,同一又は密接に関連する技術分野に関するものであり,耐切創性や難燃性を高 耐切創性や難燃性を高めるという課題を有していた ことは明らかである。 そうすると,乙1発明と上記技術事項とは,同一又は密接に関連する技術分野に関するものであり,耐切創性や難燃性を高めるという課題を共通にするということができるので,本件特許出願当時の当業者であれば,乙6及び8等に開示された技術常識を前提としつつ,乙1発明に乙5発明を適用し,乙1発明の「ポリアミド6」(構成B′)に代えて,本件発明 と同様の「アラミド繊維などの難燃性を有する素材」(構成要件B)とすることは,容易に想到し得たものというべきである。 (4) 小括以上によれば,本件発明は,本件特許の出願前に公然実施された乙1発明による進歩性欠如の無効理由を有するというべきである。 4 結論よって,その余の点を検討するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部裁判長裁判官 佐藤達文 裁判官 𠮷野俊太郎 裁判官 齊藤敦 (別紙)物件目録 商品名「耐切創低圧手袋」と称される手袋 (別紙)被告製品説明書被告製品は以下のとおりの構成を備えている。 a 天然ゴムにより形成された手袋基体(10)と,b アラミド繊維によりなり,手袋基体(10)の外側に装着して貼着されている手袋 状に形成された編み地(11)とc を備える電気工事作業に使用する作業用手袋であって,d 編み地(11)を構成する繊維(20)内に編み地(11)の表面側から天然ゴムラテックスが含浸され,コーティング被膜(21)を形成しており,e コーティング被膜(21 する作業用手袋であって,d 編み地(11)を構成する繊維(20)内に編み地(11)の表面側から天然ゴムラテックスが含浸され,コーティング被膜(21)を形成しており,e コーティング被膜(21)については静摩擦係数(μs)が平均0.228,動摩擦 係数(μK)が平均0.281であり,編み地(11)(アラミド繊維)の繊維(20)については静摩擦係数(μs)が平均0.168,動摩擦係数(μK)が平均0.147であり,f コーティング被膜(21)により編み地(11)の繊維(20)や目部(22)に沿って凹凸が形成されている g 電気工事作業に使用する作業用手袋。

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