平成14(ネ)695 保険金請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成15年12月25日 福岡高等裁判所 福岡地方裁判所 久留米支部 平成12(ワ)246
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判決文本文21,109 文字)

主文 1 原判決を次のとおり変更する。 (1) 被控訴人は,控訴人に対し,124万5410円及びこれに対する平成12年10月13日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 (2) 控訴人のその余の請求を棄却する。 2 訴訟費用は,第1,2審を通じて8分し,その7を控訴人の負担とし,その1を被控訴人の負担とする。 3 この判決の第1項(1)は仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は,控訴人に対し,958万5912円及びこれに対する平成12年10月13日から支払い済みまで年6分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,店舗1階部分を賃借して居酒屋を経営していた控訴人が,平成11年5月2日午前1時47分ころ,同店舗2階(保険の目的となっていない。)で発生した火災によって,保険の目的となっていた同店舗1階部分が類焼し,損害が生じたとして,店舗休業保険及び動産総合保険に基づき,被保険者として,保険者である被控訴人に対し,店舗休業保険金358万5912円及び動産総合保険金600万円,以上合計958万5912円並びにこれに対する本訴状送達日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 第3 前提となる基本的事実当事者間に争いのない事実,証拠(甲1,4,8,11,12,乙3,4,5の1~21,10,控訴人本人)及び弁論の全趣旨(双方の主張)によれば,次のとおり認められる。 1 当事者(1) 控訴人は,仲介業者A株式会社(取引主任者 B)の仲介で,平成8年8月20日,Cから,同人所有の別紙1物件目録記載の建物の1階1号室(以下「本件店舗」という。)を,次の内容で 1 当事者(1) 控訴人は,仲介業者A株式会社(取引主任者 B)の仲介で,平成8年8月20日,Cから,同人所有の別紙1物件目録記載の建物の1階1号室(以下「本件店舗」という。)を,次の内容で賃借し(乙5の9),「D」の名称で,居酒屋を経営していた。 ア使用目的飲食業イ期間平成8年8月20日より同11年8月19日まで。ただし,期間満了までに双方から契約更新しない旨の申入れがない場合は,さらに期間を2年延長したものと認めて契約を継続する。 ウ賃料月額12万円(消費税別途),毎月末日限り翌月分支払エ支払方法 Cへの直接払いか,同人名義銀行預金口座への振込みオ契約解除賃料支払を続けて2か月以上怠ったときは,Cは催告その他何らの手続を要しないで,契約を解除することができる。 (2) 被控訴人は,火災保険,各種財産保険その他の保険業務を行うことを業とするアメリカ合衆国ニューヨーク州の法人である。 2 本件店舗賃料未払を巡る紛議・その1(1) 控訴人は,本件店舗賃貸借契約当初から,月額賃料は1と月遅れで支払っていた(消費税分も不足気味であった。)が,平成10年8月分は同月12日入金したものの,同年6,7月分は支払を滞ったままであったため,Cは,同年8月13日付け内容証明郵便で2か月分24万円の未払賃料を催促し(乙5の10),併せて,同日,前記B立会のもとに,控訴人と協議し,上記滞納金を早期(遅くとも同年末まで)に完済することを合意した(乙5の13)。 (2) しかし,控訴人は,(1)の合意に反し,同年6,7月分を支払わなかったのみか,同年12月分以降の賃料も支払わなかったので(乙5の14),Cは,控訴人に対し,翌11年2月15日付け内容証明郵便(乙5の11)で,同年2月 1)の合意に反し,同年6,7月分を支払わなかったのみか,同年12月分以降の賃料も支払わなかったので(乙5の14),Cは,控訴人に対し,翌11年2月15日付け内容証明郵便(乙5の11)で,同年2月分までの5か月分の賃料60万円(消費税別途)を10日内に支払うこと,同支払がないときは,賃貸借契約書に基づき,同契約を解除する旨意思表示した。 3 本件保険契約の締結(甲1)控訴人を保険契約者兼被保険者,被控訴人を保険者として,両者は,平成10年10月12日,店舗休業保険,動産総合保険及び賠償責任保険がセットになった保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結した。その内容を,主に,被控訴人が同年12月23日発行した保険証券(経営保全プラン保険証券。証券番号9878835851。甲1)に基づいてたどると,次のとおりである(なお,本件請求は,店舗休業保険及び動産総合保険に基づく保険金請求であるので,賠償責任保険に関しては必要に応じて触れるに留める。)。 (1) 保険種類店舗休業保険,動産総合保険及び賠償責任保険(2) 保険期間同10年10月12日午後8時から同11年10月12日午後4時まで(3) 保険の目的・施設の所在地本件店舗所在地に同じ。 (4) 店舗休業の保険金額・月額保険料保険金  1日あたり5万円以内保険料  1700円(5) 借家人賠償の保険金額・月額保険料保険金  1000万円以内保険料  610円(6) 動産総合の保険金額・月額保険料保険金  600万円以内保険料  2050円(7) 賠償責任の保険金額・月額保険料ア施設分保険金  5000万円以内(1事故分)保険料  200円イ生産物保険金  5000万円以内(1事故分)保険料  1090円 7) 賠償責任の保険金額・月額保険料ア施設分保険金  5000万円以内(1事故分)保険料  200円イ生産物保険金  5000万円以内(1事故分)保険料  1090円(8) (4)ないし(7)の月額保険料合計5650円(9) 保険料払込方法口座振替12分割11回払(10) 保険料払込期日毎月の口座振替日(27日。乙3)(11) 領収保険料1万1300円 4 本件店舗賃料未払を巡る紛議・その2(1) Cと控訴人は,平成11年2月27日,前記B立会のもとに,滞納賃料(同10年6,7,12月及び同11年1月分から3月分までの合計6か月分)の支払方法について協議し,控訴人は,Cに対し,ア同11年3月4日までに差し当たり2か月分24万円を支払い,イ同年3月1日より毎日5000円ずつを銀行振込で支払い,残りの滞納賃料に充当する旨の念書を差し入れた(乙5の13・15)。 (2)しかるに,控訴人は,(1)の念書で約束したことを全く守らなかったので,Cは,同年3月5日,控訴人に対し,口頭で本件店舗賃貸借契約を解除する旨意思表示した上,4月2日,控訴人に対し,本件店舗明渡請求訴訟を提起した(久留米簡易裁判所平成11年(ハ)第525号事件。以下「別訴」という。乙5の1~3)。別訴の呼出状は,同月22日,控訴人に送達された。 5 保険料の支払・未払状況(乙3)(1) 控訴人は,ア本件保険契約締結(平成10年10月12日)に際し,1回目(10月分)の保険料5650円を支払い,イ 2回目(11月分)の保険料5650円は口座振替により支払っていたが(以上合計1万1300円),ウ同年12月27日払込分(3回目)の保険料の口座振替は資金不足で不能 円を支払い,イ 2回目(11月分)の保険料5650円は口座振替により支払っていたが(以上合計1万1300円),ウ同年12月27日払込分(3回目)の保険料の口座振替は資金不足で不能になり,同状態は1か月経過後も続いた結果,被控訴人は,本件保険契約に関し,同年12月28日以降に発生した保険事故については,保険金を支払うことが免責される状態となった(甲8。保険料分割払特約条項(一般)1条,2条,4条)。 (2) そこで,控訴人は,平成11年4月30日,ア同月分までの延滞保険料に同年5月分の保険料をあわせた6か月分相当の保険料3万3900円を現金で支払い,イ口座振替手続を再開してもらうことにより,ウ同年5月1日以降に発生した保険事故について保険金を支払ってもらえる状況を復活させた。 6 保険事故の発生(甲3,乙10)平成11年5月2日午前1時47分ころ,本件店舗2階付近で火災が発生し(以下「本件火災」という。),当時空室となっていた同2階部分が全焼するとともに,本件店舗にも,天井板が一部炭化してクロスが垂れ下がり,店舗内部が水損する等の被害が生じた。 7 その後(1) 保険金の請求と一部支払ア控訴人は,本件火災発生後間もなく,被控訴人に同火災の発生とこれにより控訴人が被災したことを通知し,保険の目的に損害が生じたとして店舗休業保険金及び動産総合保険金の支払を請求したところ,イ被控訴人は,アの通知,請求を受けて,控訴人から,将来,本件保険契約に基づき保険金が支払われることになった場合にはその一部に充当する旨,及び同契約に基づく保険金支払の責任がないことが明らかになった場合には返還する旨の,同年5月25日付け念書(乙4)を差し入れさせて,ウ同月31日,控訴 なった場合にはその一部に充当する旨,及び同契約に基づく保険金支払の責任がないことが明らかになった場合には返還する旨の,同年5月25日付け念書(乙4)を差し入れさせて,ウ同月31日,控訴人に対し,50万円を支払った。 〔以上,甲11,12〕(2) 別訴については,同年10月18日,Cと控訴人間に和解が成立し,ア本件店舗賃貸借契約を同日限りで合意解除し,イ控訴人は,Cに対し,同年11月15日までに本件店舗を明け渡し,ウ控訴人は,本件店舗内に残置した備品の所有権を放棄し,エ Cは同日までの延滞賃料の支払を免除すること等で合意した。 第4 争点 1 錯誤無効 2 保険金請求訴訟における立証責任の所在等 3 被保険利益ないし損害発生 4 損害の不実表示と保険金支払免責事由第5 争点についての当事者の主張 1 争点1(契約の有効性・錯誤無効)関係(被控訴人の主張)(1) 控訴人は,本件店舗の賃料支払を,本件保険契約締結(平成10年10月)当時2か月分,本件保険契約復活(同11年4月)当時半年分以上遅滞していた上,同店舗開設(同8年8月)に際しての内装工事費398万円が未払いのほか,消費者金融に約200万円,親族に305万円の負債があり,Dの経営は明らかに行き詰まっていた。 (2) 保険契約者の経営状況は,被控訴人が保険契約を締結するにあたり重要な要素である。 (3) 被控訴人は,(1)の事実が判明していれば,控訴人と本件保険契約を締結することはなかった。 (4) よって,ア本件保険契約は錯誤により締結されたものであるから,無効である。 イ仮にそうでないとしても,いったん失効した保険契約を同11年4月30日に復活させた行為は,錯誤により無効である。 (控訴 本件保険契約は錯誤により締結されたものであるから,無効である。 イ仮にそうでないとしても,いったん失効した保険契約を同11年4月30日に復活させた行為は,錯誤により無効である。 (控訴人の主張)被控訴人の主張を争う。 2 争点2(立証責任)関係(被控訴人の主張)(1) 本件保険契約は,「偶然な事故」によって生じた店舗の休業補償と店舗内の什器・備品等の動産の損害補填をその目的とするものである(自動追加条項(店舗休業保険用)1条(甲8,乙1)。動産総合保険普通保険約款1条(甲9,乙2))。 (2)したがって,保険事故が偶然生じたものであることは,上記両保険とも,保険金の支払を請求する者が立証すべき責任を負う。 (3) 次の事情を勘案すれば,本件火災は「偶然な事故」とは言い難く,この点につき控訴人の立証責任は尽くされていない。 ア本件火災は,控訴人が5か月分にわたって遅滞した保険料を支払って,保険契約を復活させた平成11年4月30日の翌々日未明に発生している。 イ控訴人は,第5の1(被控訴人の主張)(1)のとおり,本件店舗賃料を半年分以上遅滞していたほか,多額の負債を負っていた。 ウ同火災発生1か月前の同年4月2日には,Cから本件店舗明渡請求訴訟を提起され,同訴状は同月22日に控訴人に届いていた。同火災発生はそのわずか10日後である。 エ同火災の火元は本件店舗2階床部分と推測されるが,当時同2階部分は空室で火の気がなく,焼き状況から見ても人為的な原因によるものである可能性が強い。 オ同2階部分に上がる昇降用階段出入り口はシャッターで施錠されていたが,控訴人はシャッターの鍵を所持しており,自由に2階に出入りすることができた。実際,2階部分を物置として使用していた。 オ同2階部分に上がる昇降用階段出入り口はシャッターで施錠されていたが,控訴人はシャッターの鍵を所持しており,自由に2階に出入りすることができた。実際,2階部分を物置として使用していた。 (4) 仮に,火災については保険金請求者に「偶然な事故」であることの立証責任はなく,保険者において当該保険事故が保険契約者等の故意もしくは重過失または法令違反行為によるものであることを立証して初めて支払が免責されることとなると解する余地があるとしても,(3)記載の事情を勘案すれば,本件火災が控訴人の故意もしくは重過失に基づくものであることは明らかである。 (控訴人の主張)(1) 被控訴人の主張を争う。 ア店舗休業保険については,同保険普通保険約款1条において,火災はそれだけで保険金請求の対象となることが明記されている(甲8,乙1)。 イまた,動産総合保険については,保険事故が火災であれば,それだけで「偶然な事故」という要件が充たされ,保険金請求権が発生するというべきである。 ウしたがって,本件保険契約においては,保険者である被控訴人の側で,本件火災が保険契約者である控訴人の故意もしくは重過失によって発生したことを立証した場合にのみ保険金支払を免責されると解するのが相当である。 (2) 仮に,両保険とも,「偶然な事故」について,保険金請求者である控訴人に立証責任があるとしても,次の事情を勘案すれば,本件火災が「偶然な事故」であることは明らかである。 ア本件火災は本件店舗2階の高い部分で出火しており,火災原因としては漏電の可能性もある。 イ仮に出火原因が人為的なものであったとしても,控訴人とその妻及び従業員らは,本件火災発生当時本件店舗内でDの営業に従事しており,出火当時及び出火前のかなりの としては漏電の可能性もある。 イ仮に出火原因が人為的なものであったとしても,控訴人とその妻及び従業員らは,本件火災発生当時本件店舗内でDの営業に従事しており,出火当時及び出火前のかなりの時間とも,同店舗から外へ出たことはない。 ウ同店舗2階部分に上がる昇降用階段出入り口が施錠されていたかどうかは明らかでない。仮に施錠されていたとしても,シャッターの鍵はCその他複数の者も所持していた。 (3) 控訴人に故意若しくは重過失がなかったことはいうまでもない。 3 争点3(被保険利益ないし損害の発生)関係(控訴人の主張)(1) 休業損失 358万5912円控訴人が,本件火災により被った休業損失は,次のとおり合計439万7919円になるが,うち358万5912円を請求する。 ア本件火災発生前の本件店舗の1日あたりの粗利益は,2万4847円である。 イ休業期間は,本件火災日から,本件店舗明渡しの和解が成立した平成11年10月18日までの177日間であった。 ウしたがって,休業損失は,439万7919円となる。 2万4847円×177=439万7919円(2) 動産 600万円本件火災により焼失した動産類の損失等は,次のとおりになるので,控訴人は,保険限度額600万円を請求する。 ア機器・什器・備品は,300万円相当である。 イ在庫及び顧客から預かり保管中の酒類は,70万円相当である。 ウ食材は,20万円相当である。 エ有田焼の陶器類等は,80万円相当である。 オ未償却の内装費は,544万7750円相当である。 カ建物残存物の取り壊し・搬出・復元費用は,272万5000円相当である(仮に,カの金額が認められない場合は,ア 0万円相当である。 オ未償却の内装費は,544万7750円相当である。 カ建物残存物の取り壊し・搬出・復元費用は,272万5000円相当である(仮に,カの金額が認められない場合は,アないしオの合計額の10%)。 キ臨時費用アないしオの合計額の30%(被控訴人の主張)(1) 休業損失についてア控訴人は本件店舗の家賃すら払えなかったのであり,1日あたり2万4847円の営業利益があったとは考えられない。 イ同店舗営業を再開できなかったのは,控訴人の賃料不払を理由としてCが同店舗明渡請求訴訟を提起したからであり,本件火災があったからではない。 (2) 動産についてア什器・機器・備品のうち,ガステーブル,冷蔵庫等はリース物件であり,控訴人に被保険利益はない。 イ(ア) その他の動産についても,本件店舗には焼損はなく,水損も食材や什器,備品を使用不能にまでいたらしめるものではなかったから,損害は発生していない。 (イ) 仮に損害が発生しているとすれば,その金額を争う。 ウ(ア) 建物残存物の取り壊し・搬出・復元費用及び未償却の内装費はそもそも保険の目的ではない。 (イ) 残存物片づけ費用を認める余地があるとしても,店舗内の動産の損害保険金の10%が限度である。 4 争点4(損害の不実表示)関係(被控訴人の主張)(1) 動産総合保険普通保険約款15条5項(甲9)及び店舗休業保険普通保険約款18条2項(甲8)は,保険契約者が提出書類に不実の記載をしたときは保険者は保険金の支払を免責される旨規定している。 (2) E消防署作成の火災調査書によれば,本件店舗の収容物に生じた損害は2万円相当である(乙10の2ページ)。 (3)しかるに,控訴人は 保険者は保険金の支払を免責される旨規定している。 (2) E消防署作成の火災調査書によれば,本件店舗の収容物に生じた損害は2万円相当である(乙10の2ページ)。 (3)しかるに,控訴人は,本件火災により動産類285万円の損失を被った,本件店舗は火災以前には多大な利益を上げていた等と,損害額を真実より多額に記載した不実の書類(甲5~7)を提出した。 (4) 店舗休業保険と動産総合保険はセットになった一体の商品であり,一方への不実表示は他方の保険へも免責の効果をもたらす。 (5) よって,被控訴人は,両保険ともその支払を免責される。 (控訴人の主張)被控訴人の主張を争う。 第6 当裁判所の判断 1 認定事実前記認定の事実に,当事者間に争いない事実及び証拠(甲11,12,14~18,20,23の1~3,32の1・2,乙5の17,6,8の1・2,9~11,乙10,控訴人本人)を加えれば,次のとおり認められる。 (1) 本件火災による焼けの状況と出火場所ア本件店舗及びその周辺の建物の立地状況(ア) 標記状況は,別紙2図面記載のとおりである。 (イ) 本件店舗とその西側のF宅及び本件店舗の1軒おいて北側のG本店は木造,本件店舗南側のH及び北側のIは耐火構造であった。 〔以上,乙10〕イ本件店舗及びその周辺の建物の焼き状況本件火災により,(ア) 本件店舗の2階部分は全焼した。2階内部では,東側より西側が,北側より南側の方が激しく焼け,西側の屋根と壁は完全に焼け抜けた。 (イ) F宅も,1階には焼け残った部分があるものの,2階は完全に焼失した。特に南東隅の焼けが激しかった。 (ウ) G本店は,2階西側を中心に類焼を被った。 (エ) HとIは, (イ) F宅も,1階には焼け残った部分があるものの,2階は完全に焼失した。特に南東隅の焼けが激しかった。 (ウ) G本店は,2階西側を中心に類焼を被った。 (エ) HとIは,耐火構造であったことから,焼けの程度は他の建物に比べ軽かったが,Hの北側外壁及びIの南側外壁には,本件店舗2階部分から燃え上がった炎を受けたことによる変色及びすすの付着が認められた。その程度は,Hの方が格段に激しかった。 (オ) 本件店舗は,天井板の一部が炭化し,同部分の天井クロスが垂れ下がったが,基本的には焼損はなく,2階からの水漏れによる水損が発生したのみであった。 〔以上,甲23の1~3,32の1・2,乙5の17,6,8の1・2,9~11〕ウ出火建物と火の流れイ認定の,本件店舗2階部分とF宅2階が完全に焼失した事実,本件店舗2階部分では特に南側と西側が激しく焼け,F宅2階では南東隅の焼けの程度が激しかった事実,及び本件店舗南側のHの外壁には本件店舗2階部分から立ち上がった炎による変色が認められた事実等を総合勘案すると,(ア) 出火建物は本件店舗2階部分であり,(イ) 火は,耐火構造のH及びIに遮られて西側へと向かい,(ウ) F宅2階を全焼して,(エ) G本店にもF宅を通じ西側から火が入って,その2階を類焼したと推認される。 エ出火箇所(ア)a 本件店舗2階部分では,特に南西隅の焼けが激しい。 b 特に,2階南西隅付近の土台は深く焼けこんでいる。 c 室内と屋外では,室内の焼けの方が激しい。 〔以上,甲23の1~3,32の1・2,乙5の17,6,8の1・2及び9~11〕(イ) 以上によれば,本件火災の出火箇所は,本件店舗2階の南西隅付近の床面ないし床面 内の焼けの方が激しい。 〔以上,甲23の1~3,32の1・2,乙5の17,6,8の1・2及び9~11〕(イ) 以上によれば,本件火災の出火箇所は,本件店舗2階の南西隅付近の床面ないし床面にごく近い高さの低い場所であったと推認される。 (ウ) なお,出火点が壁体か床面かについては,これを確定することは困難であるが,後に述べるとおり,出火原因として漏電は考えにくいので,床面である可能性が高い。 (2) 本件火災の出火原因ア(ア) 本件店舗の2階部分は,本件火災当時空室であって,基本的に人の出入りはなかった。 (イ) 本件店舗2階部分の西側の壁は根底から焼失し,南側の桁材が完全に焼け切れていて,南西隅の土台も激しく焼けこんでいること等からすると,火は出火箇所から急速に立ち上がったものであり,その勢いは極めて強かったことが推測される。 (ウ) 漏電の可能性は完全には否定できないが,本件店舗2階部分は空室であり,当時通電されていなかったこと,焼け跡からは漏電特有の燻焼痕が見受けられないこと,及び(イ)で認定した焼けの状況からすると,出火原因が漏電である可能性は極めて低い。 (エ) 控訴人が私的に依頼した鑑定人Jは,(イ)で認定したような焼き状況となるためには可燃性の液体が不可欠であると指摘している(甲32の1)。 (オ) 本件火災現場からは,一定時間経過後に自動的に発火するよう工夫された装置等は発見されていない。 〔以上,甲18,20,23の1~3,32の1・2,乙5の17,6,8の1・2,9~11,控訴人本人〕イアの事実を総合勘案すると,本件火災の出火原因は人為的な接炎出火(放火)の可能性が極めて高いと判断される。 (3) 本件火災への控訴人ないしその意を受けた者の関与 9~11,控訴人本人〕イアの事実を総合勘案すると,本件火災の出火原因は人為的な接炎出火(放火)の可能性が極めて高いと判断される。 (3) 本件火災への控訴人ないしその意を受けた者の関与の有無そこで,次に,標記について検討を進める。 ア本件火災発生当時の控訴人の経済状況(ア) 本件火災発生当時,控訴人の家族は,妻Nのほか,子どもが3人いた。 なお,本件火災前の平成10年12月には生後3か月で三男が死亡したほか,長女Kは,心臓病のため入退院を繰り返していた(甲20)。 (イ) 控訴人は,平成8年8月からDを経営しているが,開店時に行った内装工事代金(421万5340円)のうち398万円は本件火災発生当時も未払いであった。 (ウ) 第3の2及び4で認定したとおり,本件店舗の賃料が,平成10年6,7月分及び同年12月分以降で8か月分滞納されていた。そのため,家主側から,本件店舗明渡請求訴訟まで提起されていた。 (エ) 前妻の実家からの借金も305万円残っていた。 (オ) 厨房機器のリース代金が約200万円残っていた。 (カ) 消費者金融会社にも約200万円の負債があった。 (キ) (ア)のとおり,病気の長女や三男にも費用がかかる状態であった。 〔以上につき,甲17,20,乙6,控訴人本人〕イ本件火災発生当時の本件店舗2階の状況及び2階へ人が出入りする可能性(ア) 同2階は本件火災発生当時空室であった。 (イ) 同2階に上がるには,1階表通りにあるシャッターを開けて昇降用階段を登っていくのであるが,同シャッターは通常は施錠されており,その鍵を所持しているのは,控訴人,Cを含めてごく少数であった。 (ウ) 控訴人は,所持する上記鍵を使えば自由に同 けて昇降用階段を登っていくのであるが,同シャッターは通常は施錠されており,その鍵を所持しているのは,控訴人,Cを含めてごく少数であった。 (ウ) 控訴人は,所持する上記鍵を使えば自由に同2階に出入りでき,実際,同2階に至る階段部分には,掃除機,コップ類及び陶器類等を置いて,事実上物置として使用していた。 (エ) なお,F宅2階南東隅の居室の窓は,本件店舗2階西側の窓と近接しており,F宅の窓ないしF宅と本件店舗との隙間からは,本件店舗2階西側の窓を破壊してその2階に侵入することないしは侵入せずとも可燃性液体の散布や火源の投げ入れが可能であった(甲32の1)。 〔以上につき,甲20,32の1・2,乙6,控訴人本人〕ウ出火当時のDの営業状況と本件火災前後の控訴人及びその家族の行動(ア) 控訴人は,平成11年5月2日,通常どおり午後5時ころ本件店舗に出勤し,午後6時からの開店の準備をした。 (イ) 店の営業には,控訴人夫婦とアルバイト店員のほか,調理の補助及び客の世話係として,長男も参加した(当時,カウンター席9席,ボックス席12席,合計21名が入店可能であった。)。 (ウ) 午後10時ころ,知人のLが,続いて,結婚式の流れ客10名あまりが来店し,その後,常連客が2名来店し,飲食を継続していたので,本件火災発生当時Dでは約15名の客がいたことになる。 (エ) 控訴人は,調理場で料理をし,客の注文等へ忙しく応対していた。 妻と長男も注文の連絡,料理の運搬等に忙しかった。 (オ) Lは,来店後,控訴人とその妻らが店外へ外出するのを目撃していない。 (カ) 控訴人は,本件火災発生を覚知後,まず来客を避難させるべく誘導し,その後到着した消防隊員に協力して,本件店舗2階昇降用階段出入 控訴人とその妻らが店外へ外出するのを目撃していない。 (カ) 控訴人は,本件火災発生を覚知後,まず来客を避難させるべく誘導し,その後到着した消防隊員に協力して,本件店舗2階昇降用階段出入り口のシャッターの鍵を開けるのを手伝った。 〔甲11,12,14~16,18,20,乙6,控訴人本人〕エ近隣店舗の営業状況(別紙2図面参照)(ア) 本件店舗の前面道路(東側)は,通称「M」と呼ばれる繁華街で,道路の両側には飲食店や風俗店が密集して建ち並び,深夜まで営業を続けていた。 (イ)本件店舗北隣の焼き鳥店「I」も,本件火災発生当時まだ営業中で,1,2階あわせて約10人の客が飲食していた。 〔甲18,21,乙6,10〕(4) 考察(1)ないし(3)の認定判断によれば,さらに次のとおり判断される。 ア(ア) 本件火災は人為的なものである可能性が高かった。 (イ) 控訴人は,a 本件店舗2階に至る昇降用階段出入り口のシャッターの鍵を保管するごく少数者のひとりであった。 b 本件火災発生前,約半年前には幼子を亡くし,同火災発生当時は,心臓病で闘病中の長女を抱えて,また本件店舗開設関係等の多額の負債を抱えていた上,同店舗家賃は半年分以上も滞納し,明渡訴訟まで提起され,窮地に立っていた。 (ウ) しかも,同火災発生は,控訴人が,平成10年12月分以降の保険料を滞納し,いったん失効していた保険契約を,滞納保険料を同11年4月30日に一括して支払い,ようやく再度保険事故が発生した場合に保険金を支払ってもらえる状態を復活させた日の翌々日未明であった。 (エ) そうとすれば,控訴人は,客観的には,本件建物に放火をして店舗休業保険金と動産総合保険金を取得する動機がまったく 合に保険金を支払ってもらえる状態を復活させた日の翌々日未明であった。 (エ) そうとすれば,控訴人は,客観的には,本件建物に放火をして店舗休業保険金と動産総合保険金を取得する動機がまったくなかったわけではなく,タイミング的にも,火災への関与が疑われてもやむをえない立場にあった。 イしかし,(ア) 本件火災発生当時本件店舗には約15名の客が来店し,控訴人は料理の注文等に忙しく応対していたから,控訴人自身が多数の来客の目をかいくぐって表通りに出て,同店舗2階に至る昇降用階段出入り口のシャッターを鍵を使って開け,同2階に赴いて,そこで放火をすることは極めて困難であった。この事情は妻と長男とて(さらにアルバイト店員も)同様であった。 (イ) Mは深夜営業の店が多く,営業時間内に本件店舗2階から火災が発生すれば,階下のDの客を含め,多数の死傷者が出る危険性が高かった。 (ウ) 同店舗2階に通じるシャッターの鍵は控訴人以外にも,Cら複数の者も保管していたし,同2階にはF宅の側から西側の窓を経て侵入することも不可能ではなかった。 (エ) 本件火災現場からは,一定時間経過後に自動的に発火するよう工夫された装置等は発見されていない。 (オ) 本件店舗は控訴人の所有ではなく,保険金として取得できるのは休業補償と動産損害に限られる。 ウ(ア) 以上説示した事情を総合勘案すると,控訴人には多数の死傷者が出る危険を冒してまで営業時間内に放火をする動機に乏しいというべきである。本件火災発生当時の来客状況にかんがみても,多数の来客の目をかいくぐって自ら本件店舗2階に赴いたとは認め難い。 (イ) 本件火災現場からは一定時間経過後に発火する自動発火装置等は発見されておらず,営業時間前に放火行為を完了 がみても,多数の来客の目をかいくぐって自ら本件店舗2階に赴いたとは認め難い。 (イ) 本件火災現場からは一定時間経過後に発火する自動発火装置等は発見されておらず,営業時間前に放火行為を完了していたと認めることも困難である。 (ウ) 控訴人は,到着した消防隊員に協力してシャッターの鍵を開けているのであるから,事前に鍵を他人に渡していたとも考え難い。 (エ) そのほかには,控訴人の意を受けた第三者が本件店舗2階に赴いたとまで認めるに足りる証拠はなく,控訴人の意を受けた第三者の関与を認めることも困難である。 エしてみると,本件火災は,人為的な放火である可能性が高いというべきではあるが,控訴人ないしその意を受けた第三者がこれに関与したとまでは認め難い。 2 争点1(錯誤無効の主張)について(1) 店舗経営者にとって,(ア) 各営業日に店舗が確実に顧客を受け入れられる状態で開店できることは,収入を確保するための最低限必要な条件であって,(イ) 店舗内の什器,備品は,営業のため不可欠の財産であり,(ウ) 万一,火災等に遭遇したときには,不時の出費により営業は苦境に陥るから,火災等に備え,損害保険を掛けておくことは経営者として当然の心得である。 (2) (1)のことは,経営が順調か否かに左右されない。経営が順調でない者は保険に加入してはならないという倫理則があるものではないし,逆に,経営が苦しければ,よけいに備えが必要であるということもできる。 (3)アしてみると,店舗休業保険,動産総合保険及び賠償責任保険をその内容とする本件保険契約においては,保険契約者の経営が好調か否か(少なくとも行き詰まってはいないこと)は,契約の要素となるものではないというのが相当である。経営不振は保険料支 及び賠償責任保険をその内容とする本件保険契約においては,保険契約者の経営が好調か否か(少なくとも行き詰まってはいないこと)は,契約の要素となるものではないというのが相当である。経営不振は保険料支払の困難をもたらすにすぎず,契約者側で契約を締結するか否か,どの程度の保険に入るかの考慮要素となるにすぎないというべきである。 イ仮に契約の要素となる余地がありうるとしても,被控訴人が,本件保険契約締結にあたり,控訴人の経営が順調であるか否か(あるいは行き詰まっていたか否か)を動機として表示していたことを認めるに足りる証拠はない。 (4) よって,被控訴人の錯誤無効の主張は,採用できない。 3 争点2(立証責任の所在等)について(1) 立証責任の所在ア店舗休業保険について(ア) 店舗休業保険普通保険約款は,a 1条において,「当会社は,この約款に従い,保険の目的が次に掲げる事故により損害(消防または避難に必要な処置によって保険の目的について生じた損害を含みます。以下同様とします。)を受けた結果,営業が休止または阻害されたために生じた損失(以下「損失」といいます。)に対して,保険金を支払います」とし,事故の例として「火災」を明記し(甲8,乙1),b 2条において,「次に掲げる事由による損害を受けた結果生じた損失に対しては,保険金を支払いません」として,「保険契約者,被保険者またはこれらの者の法定代理人の故意もしくは重大な過失または法令違反」をあげている(甲8,乙1)。 (イ) (ア)の規定内容を素直に読めば,火災を原因とする保険事故については,a 被保険者は,事故が火災であることを立証すれば店舗休業保険金を請求することができ,b 保険者は,当該事故が保険 規定内容を素直に読めば,火災を原因とする保険事故については,a 被保険者は,事故が火災であることを立証すれば店舗休業保険金を請求することができ,b 保険者は,当該事故が保険契約者,被保険者等の故意もしくは重過失等によるものであることを立証して初めて,aの保険金支払を免れることができると解するのが相当である。 (ウ)a この点につき,被控訴人は,店舗休業保険の自動追加条項1条(甲8,乙1)が「当会社は,…(中略)… 保険の目的がすべての偶然な事故により損害を受けた結果,営業が休止または阻害されたために生じた損失に対しても保険金を支払います」としている点を捉え,同保険においても,被保険者は「偶然な事故」であることを立証しなければ保険金を請求することはできないと主張する。 b しかし,同条の(中略)部分には,「この条項が付帯された店舗休業保険普通保険約款第1条の事故による損害のほか」と記されている。 c してみると,店舗休業保険普通保険約款1条と上記自動追加条項1条を併せ読めば,被保険者は,① 火災や落雷その他,店舗休業保険普通保険約款1条各号が明記する8つの事故(甲8,乙1)以外の事故により保険の目的が損害を受け,その結果,営業が休止または阻害されたために生じた損失については,当該保険事故が「偶然な事故」であることを立証しなければ保険金を請求することはできないが,② 火災等については,店舗休業保険普通保険約款1条各号が明記する8つの事故に当たることを立証するだけで保険金を請求することができる旨を規定したものと解するのが相当である。 d したがって,上記追加条項1条を根拠に,火災についても,偶然な事故であることを被保険者が立証しなければ るだけで保険金を請求することができる旨を規定したものと解するのが相当である。 d したがって,上記追加条項1条を根拠に,火災についても,偶然な事故であることを被保険者が立証しなければ保険金を請求することができないとする被控訴人の主張は採用できない。 イ動産総合保険について(ア) これに対し,動産総合保険普通保険約款1条は,「当会社は,この約款に従い,すべての偶然な事故により保険の目的について生じた損害に対して,損害保険金を支払います」として,同保険については,偶然な事故に対してしか保険金が支払われないことを明記している(甲9,乙2)。 (イ) とすれば,同保険においては,被保険者は,当該事故が偶然な事故であることを立証しなければ,保険金を請求することができないというのが相当である。 (ウ) 控訴人は,保険事故が火災の場合,同保険においても,当該火災が保険契約者,被保険者等の故意もしくは重過失によるものであることを保険者が立証しなければ,保険金の支払を免れることができないと主張するが,(ア)の条文の構造に反し,採用できない。 (2) 保険金請求の可否(1)の見地にたって,次に控訴人請求の各保険金請求の可否を検討する。 ア店舗休業保険について(ア)先に述べたとおり,上記保険については,保険者である被控訴人は,本件火災が保険契約者兼被保険者である控訴人またはその意を受けた者等の故意もしくは重過失等によるものであることを立証しなければ,同保険金支払を免れることはできない。 (イ) 前記説示のとおり,本件火災は放火の可能性が極めて強いものの,これに控訴人ないしその意を受けた者が関与して発生したとまでは推認することができない。 (ウ) とすれば,本件においては (イ) 前記説示のとおり,本件火災は放火の可能性が極めて強いものの,これに控訴人ないしその意を受けた者が関与して発生したとまでは推認することができない。 (ウ) とすれば,本件においては,被控訴人は,本件火災が保険契約者兼被保険者である控訴人ないしその意を受けた者等の故意もしくは重過失等によるものであることについての被控訴人の立証責任を尽くすには至っていないと解するのが相当である。 (エ) してみれば,控訴人は,被控訴人に対し,本件火災により営業が休止または阻害されたために生じた損失について保険金を請求することができる筋合いである。 イ動産総合保険について(ア) 被保険者である控訴人は,本件火災が偶然な事故によるものであることを立証しなければ,同保険金を請求することができない。 (イ) しかし,出火原因が放火であったとしても,保険契約者,被保険者又はその意を受けた第三者が当該事件にまったく関与していないことを完全に立証しなければ,偶然な事故であることについて立証責任を尽くしたことにならないとすれば,保険金請求者に悪魔の証明を強いることとなって,相当でない。 (ウ) 前記説示のとおり,本件火災は放火の可能性が極めて強いものの,これに控訴人ないしその意を受けた者が関与して発生したとまでは推認することができない。 (エ) とすれば,本件においては,本件火災が偶然な事故によるものであることについての控訴人の立証責任は尽くされていると解するのが相当である。 (オ) してみれば,控訴人は,被控訴人に対し,動産総合保険の目的について生じた損害に対して,同保険金を請求することができる筋合いである。 4 争点3(被保険利益ないし損害金額)についてそこで,進んで,本件火災により,控 控訴人に対し,動産総合保険の目的について生じた損害に対して,同保険金を請求することができる筋合いである。 4 争点3(被保険利益ないし損害金額)についてそこで,進んで,本件火災により,控訴人に被保険利益ないし損害が発生しているか,いるとしてその金額について検討するに,前記認定の事実を併せれば,次のとおり判断される。 (1) 店舗休業保険金の額 74万5410円ア(ア) 本件店舗は,本件火災によって,天井板の一部が炭化し,その部分のクロスが垂れ下がりはしたが,そのほかには水損があるのみで,基本的に焼損はなかった。 (イ) とはいえ,控訴人本人尋問の結果によれば,本件店舗は,その2階が全焼したため,天井の一部に破損が生じ,養生シートを被せても,その場をしのぐことができる程度で,一定期間後には再度雨漏りが起こるのを避けられない状態となったことが認められる。 (ウ) Dが,清潔を要する飲食店であることに想到すれば,本件店舗での営業が,同2階部分の焼失により,養生シートを被せても雨漏りが避けられないような状態下で継続することができないことは,容易に理解できる。 イ(ア) 被控訴人は,控訴人が営業を再開できなかったのは,控訴人の賃料不払を理由としてCが契約を解除し,本件店舗明渡訴訟を提起したからであって,本件火災が生じたからではないと主張する。 (イ) しかしながら,本件火災がなければ,同訴訟係属中も控訴人は同店舗営業を継続できていたであろうことは疑いの余地がない。 ウしてみると,控訴人には,本件火災により,保険の目的たる本件店舗が損害を受け,その結果,営業を休止せざるをえなくなって損失が生じたと認められるところ,同店舗営業再開に必要な限度の修理をなすのに通常要する期間については,C 本件火災により,保険の目的たる本件店舗が損害を受け,その結果,営業を休止せざるをえなくなって損失が生じたと認められるところ,同店舗営業再開に必要な限度の修理をなすのに通常要する期間については,Cが同店舗2階部分の修理を拒絶したか否かと関わりなく,その間に控訴人に生じた営業損失と本件火災との間に相当因果関係を認めるのが相当である。 エそこで,次に控訴人の損失額について判断する。 (ア) 1日あたりの損失金a 控訴人は,Dの収支状況を知る証拠として,平成8年から同11年までの所得税確定申告書及び青色申告決算書の控え(甲7,13,25,27~29)を提出する。 b 上記書類には,① 平成8年は,8月31日から12月31日までの間で,売上が849万6520円,売上原価が270万4268円で,粗利益が579万2252円であったこと(甲27),② 同9年は,1年間で,売上が1643万4760円,売上原価が762万8128円で,粗利益が880万6632円であったこと(甲28),③ 同10年は,1年間で,売上が1701万6010円,売上原価が794万6855円で,粗利益が906万9155円であったこと(甲25),④ 同11年は,1月1日から5月1日までの間で,売上が853万2760円,売上原価が396万5741円で,粗利益が456万7019円であったこと(甲7,29)が記載されており,その記載が真実であるとすれば,それぞれの年の1日あたりの粗利益は,計算上,平成8年が4万7091円,同9年が2万4127円,同10年が2万4847円,同11年が3万7743円ということになる。 c① しかし,平成11年は,本件火災で被災した年である。きちんとした資料に 4万7091円,同9年が2万4127円,同10年が2万4847円,同11年が3万7743円ということになる。 c① しかし,平成11年は,本件火災で被災した年である。きちんとした資料に基づいて申告ができたか,そもそも疑問がある。 ② 申告内容をみても,同年は家賃の支払も困難となっていたのに,それまでの年と比べて1日あたりの粗利益が増えていて,不自然なところがある。 ③ してみると,同年の税務申告書(甲7,29)には重大な疑問があり,その記載どおりには信用し難い。 d これに対し,平成9,10年は,1日あたりの粗利益が2万4000円前後で安定しており,1日の売上も4万5,6千円程度であって,D程度の規模の店舗として不自然なものではないと推測されるから,これらの税務申告書類には信用性があるということができる。 e よって,本件火災により近い平成10年の1日あたりの粗利益2万4847円(控訴人主張額)を1日あたりの損失金であると認める。 (イ) 復旧期間本件店舗は,基本的には焼損がなかったのであるから,営業を再開するに必要な限度の修理としては,2階部分の床(1階部分の天井)を雨漏りがしないように修繕し,かつ,見た目にも営業に支障が生じないような程度に化粧を施せば,それで足りるというのが相当であるところ,同修復工事をなすのに通常要する期間は,1か月(30日)をもって相当と判断する。 (ウ) 店舗休業保険金以上によれば,被控訴人が控訴人に支払うべき店舗休業保険金は,74万5410円となる。 2万4847円×30=74万5410円(2) 動産総合保険金 100万円ア控訴人が動産総合保険金として請求するもののうち,(ア) 険金は,74万5410円となる。 2万4847円×30=74万5410円(2) 動産総合保険金 100万円ア控訴人が動産総合保険金として請求するもののうち,(ア) 建物残存物の取り壊し・搬出・復元費用及び未償却の内装費は,そもそも保険の目的ではない。 (イ) 証拠(甲10,控訴人本人)によれば,什器・機器・備品のうち,ガステーブル,冷蔵庫等はリース物件であり,控訴人の所有物ではないから,特段の事情がない限り,被保険利益を認めることはできないと解するのが相当であるところ,本件においては,特段の事情を認めるに足りる証拠はない。 (ウ) 結局,上記保険の目的に含まれて,同保険金支払の対象としうる損害は,水損を被った食材や什器,備品のみである。 イ(ア) 被控訴人は,本件店舗が水損を被ったといっても,その程度は僅少で,食材も,什器・備品も使用不能にまでいたってはいないから,控訴人には損害は発生していないと主張する。 (イ) しかしながら,飲食店の客は,気持ちよい雰囲気のもと,安全な食材に基づいて調理されたものが,清潔な食器に盛られて提供されたものを飲食すべく,来店するものである。また,水損を被った食材等を使用している等の噂が立つことは確実に店のイメージをダウンさせる。そうであれば,水損が無視しうる程度に些少である等の特段の事情がない限り,水損を被った食材,什器・備品,預かり置きの酒類等を再度使用することは困難であると言わなければならない。 (ウ) 本件では,(イ)の特段の事情を認めるに足りる証拠はない。 (エ) 以上によれば,被控訴人の主張はこれを採用することはできない。 ウところで,本件店舗内で水損を被った動産については,その損害がどれくらいであったかを証する明 足りる証拠はない。 (エ) 以上によれば,被控訴人の主張はこれを採用することはできない。 ウところで,本件店舗内で水損を被った動産については,その損害がどれくらいであったかを証する明確な証拠がない。 エしかし,本件火災は突然生じたものであるから,損害を被った動産の明細と正確な価額を証明することが極めて困難であることは容易に推認できる。 オしたがって,民事訴訟法248条を適用して,弁論の全趣旨及び本件全証拠に基づき,控訴人が本件火災によって被った動産損害(片づけ費用を含む。)として100万円を相当と認める。 5 争点4(損害の不実表示による免責の可否)について(1) 最後に,保険契約者等が保険会社に提出する損害に関する書類について不実の記載をしたときには,動産損害保険金のみならず,これと一体をなす店舗休業保険金についても保険金請求権を喪失するとの被控訴人主張について検討する。 (2) 確かに,動産総合保険普通保険約款15条5項(甲9)は,保険契約者や被保険者が「書類に故意に不実の記載をなしまたは書類もしくは証拠を偽造しもしくは変造したときは,当会社は,保険金を払いません」と規定し,店舗休業保険普通保険約款18条2項(甲8)も保険契約者や被保険者が「提出書類につき知っている事実を表示せずもしくは不実の表示をしたときは,当会社は,保険金を払いません」と規定している。 (3) しかし,不実記載があったとしても,保険者としては,調査の上,確定できた損害額を保険金として支払えばよいことである。 (4) とすれば,これらの規定は,保険契約者や被保険者が,保険契約当事者の信義誠実の原則に反し,かつ,倫理,公序良俗等の公益上の要請を損なうような看過し難い言動等によって保険会社の調査を妨害する等の手段に訴えて ,これらの規定は,保険契約者や被保険者が,保険契約当事者の信義誠実の原則に反し,かつ,倫理,公序良俗等の公益上の要請を損なうような看過し難い言動等によって保険会社の調査を妨害する等の手段に訴えて協力せず,その結果,保険会社において損害額を確定できない,もしくは著しく困難になるなどの特段の事情があるときには保険金を支払わないことができる旨を定めることにより,もって,保険会社の調査への協力を心理的に強制するものと解すべきである。不実記載をすれば,その軽重を問うことなく,直ちに保険金請求権を喪失することまでを定めた趣旨であるとは解すべきでない。 (5) 本件においては,(4)の特段の事情を認めるに足りる証拠はない。 (6) したがって,被控訴人の上記主張は採用できない。 6 保険金の一部支払被控訴人が,控訴人に対し,平成11年5月31日,本件保険契約に基づく保険金の一部として,50万円を支払い,控訴人がこれを受領したことは先に認定したとおりである。 7 弁済期(1) 店舗総合保険普通保険約款31条(甲8)は,保険金の支払時期を,原則として,保険契約者又は被保険者が,保険の目的に損害が生じたこと及び被控訴人の要求する書類を添付して損害見積書を提出した日から30日以内と規定している。 (2) しかし,被控訴人は,(1)の提出書類の損害の記載に不実記載があったとして免責の主張をしている。 (3) してみると,本件においては,弁論の全趣旨により,遅くとも訴状送達の日には,保険金支払の弁済期は到達しており,被控訴人は,同送達日経過後は,遅滞の責めを負うことになると解するのが相当である。 8 まとめ(1) 以上によれば,控訴人の本訴請求は,被控訴人に対し,4(1)エ(ウ)の店舗休業保険金74万5410円及び同(2)オ 過後は,遅滞の責めを負うことになると解するのが相当である。 8 まとめ(1) 以上によれば,控訴人の本訴請求は,被控訴人に対し,4(1)エ(ウ)の店舗休業保険金74万5410円及び同(2)オの動産総合保険金100万円,以上合計174万5410円から,6の保険金の一部支払分50万円を差し引いた124万5410円及びこれに対する平成12年10月13日(同日が訴状送達日の翌日であることは本件記録より明らかである。)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。 (2) よって,ア (1)と結論を一部異にし,控訴人の請求を棄却した原判決は,一部不当であるから(1)の趣旨に従って変更し,イ訴訟費用は,第1,2審を通じて8分し,その7を控訴人の負担とし,その1を被控訴人の負担とし,ウ控訴人の勝訴部分には仮執行の宣言を付して,主文のとおり判決する。 福岡高等裁判所第1民事部裁判長裁判官簑田孝行裁判官駒谷孝雄裁判官藤本久俊(別紙物件目録及び図面省略)

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