- 1 - 令和5年10月24日宣告令和5年第307号 主文 本件控訴を棄却する。 当審における未決勾留日数中180日を原判決の刑に算入する。 理由 本件控訴の趣意は、弁護人髙橋宗吾作成の控訴趣意書に記載のとおりであるから、これを引用するが、論旨は、事実誤認及び法令適用の誤りである。 本件は、被告人が、実子A及びB(以下、両名と被告人を合わせて「被告人ら3名」という。)と共謀の上、平成23年3月5日、東京都内のマンションの一室(以下「本件現場」という。)等で、精神障害を有していた被告人の夫V(当時77歳)を、手段不詳により殺害したという事案である。 原審では、Vが殺害されたか、殺害されたとして被告人ら3名の間に共謀があったかが争われたが、原判決はいずれも肯定し、概ね公訴事実どおりの事実を認定した(懲役11年)。 原判決は、証拠に照らして、被告人ら3名の関係、Vの殺害計画等に関する被告人ら3名のメールのやりとり、被告人ら3名の本件当日やその前後の行動と、当日の午前9時30分頃に良好な健康状態で入院先から退院したVが、被告人とAに連れられてa駅に到着し、AとBの手により同駅から本件現場に連行されて、午後4時までに死亡し、Aが偽造した死亡診断書と一体となった死亡届を被告人が届け出るなどした事実、事後の被告人らのメールのやりとりなどを認定した。その上で、Vが退院から7時間以内に死亡するに至っていて、そのような短時間で病死・自然死に至った可能性をうかがわせる事情はなく、死亡診断書が偽造されていることなどに照らせば、Vが殺害されたと推認できるとした。そして、被告人ら3名の共謀に関しては、Aから被告人に殺害計画に関する情報が送信され、被告人がAにその意味内容を確認した経過もうかがわれず、かえって死亡届の らせば、Vが殺害されたと推認できるとした。そして、被告人ら3名の共謀に関しては、Aから被告人に殺害計画に関する情報が送信され、被告人がAにその意味内容を確認した経過もうかがわれず、かえって死亡届の情報が記載されたUR - 2 - LをAに送信し、本件現場に近い葬儀場への事前確認を了承したり、Vの預金を全額出金したりした被告人の言動は、殺害計画を正しく理解し、近い時期にVが死亡することを前提としなければ説明がつかないものであるとして、遅くとも、本件当日までに殺害計画を認識していたと推認できるとし、その上で、本件現場の下見をし、病院に虚偽の説明をしてVの退院手続を行い、AとともにVを搬送してBに引き渡したことなどから、殺害計画を受け入れ、加担していたと認められる等と説示し、被告人ら3名は、遅くとも本件当日までに順次共謀を遂げたなどと認定した。 第1 事実誤認の控訴趣意について論旨は、原判決が①被告人ら3名の間の殺人の共謀を認定したこと、②その共謀に基づいてVが殺害されたと認定したことには、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認があるというのである。 所論は、①に関して、ア原判決は、主として被告人とAのメールを参照して、被告人が殺害計画を正しく理解したと認定しているが、被告人とAの間のメールのやりとりは、口汚く愚痴を言い合える仮想空間のような世界のもので、被告人はメールを読まないときもあったし、理解が追い付かないこともあり、Vの自然死を希望するやりとりもしていたから、B及びAの間の殺害計画を具体的に認識していなかったとみるべきである、イ退院手続や死亡届についてのやりとりなどは、被告人がVの胃ろう手術を避けるために退院させると考えていただけで殺害計画を知らなかったとしても説明できる、などと指摘し、被告人が殺害計画を認識し、受け入 イ退院手続や死亡届についてのやりとりなどは、被告人がVの胃ろう手術を避けるために退院させると考えていただけで殺害計画を知らなかったとしても説明できる、などと指摘し、被告人が殺害計画を認識し、受け入れ、加担をしたとの原判決の認定を論難する。 しかしながら、所論アがその根拠として挙げる被告人とAのメールのやりとりは、本件の事件性や共謀の認定についての本質的な部分ではなく、原判決の認定を左右するものではない。所論が被告人の理解不足やVの自然死への希望を示すとして挙げたメールは、すべて平成23年2月中旬頃までのものであるのに対し、同月下旬以降、Aとの間で本件現場の賃借、死亡診断書や死亡届の手続、虚偽の入院先を告げてVを退院させる手段等に関して交わされたメールに対し、被告人は、概ね的確 - 3 - な応答をしている上、本件現場の部屋の鍵を受け取り、室内に点滴を吊り下げられるような設備の有無を確認してAに伝えたほか、長野県内の病院には退院する意向を伝え、Aとともに実際にVを退院させて搬送するなど、メールで交わされた内容をほぼそのとおりに実践している。もともと、Vを世間にそれと知られることなく殺害するには、怪しまれることなく退院手続をとることや、自然死を装って死後の手続をとることが非常に重要であったと考えられるから、上記のようなメールのやりとりや被告人の行動に照らし、被告人が殺害計画を正しく理解していたとみた原判決の認定に不合理な点はない。また、この当時、入院先の病院において、家族の反対を押し切ってまでVの胃ろう造設を行おうとしていた事情はなかったと認められ、Vの死期がまだ遠いことは被告人がAに対するメールで愚痴を言っていた程度であるから、イの点も失当である。 次に、所論は、②に関し、Aは、Bに対して計画の中止を了承させていたことを証言 と認められ、Vの死期がまだ遠いことは被告人がAに対するメールで愚痴を言っていた程度であるから、イの点も失当である。 次に、所論は、②に関し、Aは、Bに対して計画の中止を了承させていたことを証言するところ、Vの死を知った後の被告人の行動は、思いがけずA及び被告人の直接かかわりのないところでVが死亡したことを前提としても説明可能であるし、Bは、老人医療に異常な思想を有しており、独断でVを殺害する可能性が十分あるから、Aの証言を信用できないと決めつけることはできないはずで、当初の殺害計画に基づいてVが殺害されたと断定できない旨を主張する。しかし、Aの証言が信用できないことを含め、この点に関する原判決の認定説示に不合理な点はない。被告人は、新幹線内で、Aに対し、やめよう、病院に戻ろうと言った旨供述するが、仮にこのような事実があったとしても、前記のとおり、本件犯行は、事前の殺害計画どおりに進行していて、既にVを病院から連れ出している以上、被告人において、格別それ以後の犯行を防止する措置を講じることもなく、AとBにVを引き渡したというのであるから、共謀関係が解消したとも、Bが共謀とは無関係に独断でVを殺害したともいえない。Bが老人医療に関する異常な思想を有していたとしても、この判断を左右するものではない。 所論はいずれも採用できず、共謀についての原判決の認定に誤りはなく、論旨は - 4 - 理由がない。 第2 法令適用の誤りの控訴趣意について論旨は、原判決の事実認定を前提としても、殺害計画を立てたのはB及びAで、計画段階で被告人は共犯者になっておらず、同人らと意思を明確に通じ合っていたとも、重要な役割を果たしたともいえない上、Bの犯罪に必要な一部を手助けする意思があったにすぎず正犯意思はないから、幇助の故意以上の認識を認定できな になっておらず、同人らと意思を明確に通じ合っていたとも、重要な役割を果たしたともいえない上、Bの犯罪に必要な一部を手助けする意思があったにすぎず正犯意思はないから、幇助の故意以上の認識を認定できないはずであるのに、被告人が共同正犯に当たるとして刑法60条を適用した原判決には法令適用の誤りがある旨を主張する。 しかし、殺害計画の立案者は所論のとおりであるものの、計画では、被告人が退院手続をするなど、被告人にしかできない役割を果たすことが含まれているし、Vの殺害後に火葬する火葬場の下調べや本件現場の下見も被告人が行っていたなど、被告人は計画段階から本件犯行の実現に向けた行動をとっており、それ自体重要な役割を果たしていたと認められる。主観面をみても、Vを本件現場で殺害するという殺害計画の核心部分をあらかじめ知っていたのでなければ、Vの死亡前から本件現場近くの火葬場を下調べする話が出るなど考えられないし、何より被告人自身がVの死を強く望んでいたのであるから、V殺害に関する被告人自身の利益は大きかったというほかなく、到底Bの犯罪を手伝う意思にとどまるものとはいえず、被告人に正犯意思があったことは明らかである。したがって、原判決が、被告人が共同正犯になるとの事実認定の上で、刑法60条を適用したことに誤りはない。 所論は採用できず、論旨は理由がない。 第3 結論よって、刑訴法396条により本件控訴を棄却し、刑法21条、刑訴法181条1項ただし書をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。 令和5年10月24日大阪高等裁判所第5刑事部 - 5 - 裁判長裁判官坪井祐子 裁判官武田 正 裁判官神原 浩 裁判長 裁判官坪井祐子 裁判官武田正 裁判官神原浩
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