- 1 -平成23年(わ)第363号自動車運転過失致死傷被告事件判決 主文 被告人を禁錮5年4月に処する。 未決勾留日数中60日をその刑に算入する。 理由 (犯罪事実)被告人は,平成23年2月15日午後4時56分頃,中型貨物自動車を運転し,静岡県浜松市北区三ヶ日町三ヶ日地内東名高速道路下り線253.9キロポスト先道路を,浜松西インター方面から豊川インター方面に向かい進行中,連日の勤務による疲労のため眠気を覚え,前方注視が困難な状態になったのであるから,直ちに運転を中止して眠気を解消した後に運転を継続すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り,漫然前記状態のまま運転を継続した過失により,同日午後5時6分頃,愛知県豊橋市賀茂町地内東名高速道路下り線266.5キロポスト先道路に差し掛かった際に仮睡状態に陥り,そのまま自車を時速約80ないし90キロメートルで進行させて,その頃,同市賀茂町地内東名高速道路下り線267.1キロポスト先道路において,折から,渋滞のため停止中のA運転の普通乗用自動車に自車前部を衝突させて,A運転車両をはじき飛ばして中央分離帯ガードレール等に衝突させ,次いで,A運転車両の前方で停止中のB運転の普通乗用自動車に自車前部を衝突させ,B運転車両をはじき飛ばしてその前方で渋滞停止中のC運転の普通乗用自動車後部に衝突させ,さらに,C運転車両の前方で低速度で走行中のD運転の普通乗用自動車後部に自車を衝突させてD運転車両をはじき飛ばし,よって,A運転車両の後部座席に同乗していたE(当時18歳)及びF(当時17歳)をいずれも即時同所においてそれぞれ脳挫傷により死亡させ,さらに,A運転車両の助手席- 2 -に同乗してい き飛ばし,よって,A運転車両の後部座席に同乗していたE(当時18歳)及びF(当時17歳)をいずれも即時同所においてそれぞれ脳挫傷により死亡させ,さらに,A運転車両の助手席- 2 -に同乗していたG(当時47歳)を同日午後10時5分,同県豊川市光明町1丁目19番地豊川市民病院において出血性ショックにより死亡させたほか,A(当時44歳)に対し加療約3週間を要する頭部挫創等の傷害を,B(当時49歳)に対し加療約2週間を要する左肋骨骨折等の傷害を,C(当時27歳)に対し加療約1週間を要する見込みの頸椎捻挫の傷害を,C運転車両に同乗していたH(当時57歳)に対し加療約1週間を要する見込みの頸部挫傷等の傷害を,D(当時47歳)に対し加療約10日間を要する見込みの両手挫傷等の傷害を,D運転車両に同乗していたI(当時39歳)に対し全治約17日間を要する見込みの頸部挫傷等の傷害を,それぞれ負わせた。 (証拠)省略(法令の適用)省略(量刑の理由)本件は,被告人が,中型貨物自動車を運転して運送業務に従事中,高速道路で居眠り運転をしたため,渋滞で停止していた前方車両に被告人運転車両を追突させたほか,上記停止車両よりも更に前方に位置していた2台の前方車両にも被告人運転車両を次々と追突させ,3名死亡,6名負傷の結果の事故(以下「本件事故」という。)を引き起こした自動車運転過失致死傷の事案である。 過失の内容は,居眠り運転という運転手に課せられた基本的な注意義務違反であり,被告人の一方的な過失である。そもそも高速度運転においては,僅かな運転操作上のミスでさえも重大な危険を発生させかねないが,被告人は,職業運転手として,積載物を抱えて相当な重量になっていた事業用の冷蔵冷凍車を運転していた。 したがって,被告人が細心の注意を払って適切な運 作上のミスでさえも重大な危険を発生させかねないが,被告人は,職業運転手として,積載物を抱えて相当な重量になっていた事業用の冷蔵冷凍車を運転していた。 したがって,被告人が細心の注意を払って適切な運転を遵守しなければ,高速度運転と相まって車両自体が走る凶器となり,甚大な事故を引き起こしかねない危険性をはらんでいたことは明らかである。しかるに,被告人は,眠気を催していたにも- 3 -かかわらず,運転を中止せず,仮睡状態に陥ったため,被告人運転車両を高速度で走行させたまま,かつブレーキをかけることもなく,前方車両に追突させたものである。いかに危険性の高い行為であったかは,追突態様や各車両の破損状況からも十分うかがい知ることができる。以上の次第で,本件の過失は誠に重大である。 本件事故により,3名の尊い生命が失われている。亡くなったE,F及びGは,いずれもA運転車両に同乗し,共に東京ディズニーリゾートへ遊びに出掛けた帰りに被害に遭った。Eは,小学校の頃から野球に親しみ,高校では投手として活躍し,大学進学後も野球を続ける予定であったし,Fは,中学,高校と陸上部で頑張り,大学進学後はスポーツ科学科で学ぶ予定であった。両名とも10代の若さで突然その人生を終わることを余儀なくされたものであり,その無念さは察するに余りある。 Gは,Fの母であり,仕事をしながら子育ても頑張る女性であったが,最愛の娘とともに自らも無念の死を遂げなければならなかった。かけがえのない家族を失った遺族の悲しみは筆舌し難く,被告人に対して最低でも法律で定められた最高刑を望むなど,当然のことながら,処罰感情には大変厳しいものがある。また,本件事故により,6名の被害者が傷害の結果を負っているが,受傷自体の肉体的苦痛はもちろん,追突時に受けた衝突の恐怖,ガソリンが漏れて車体が燃えるの ことながら,処罰感情には大変厳しいものがある。また,本件事故により,6名の被害者が傷害の結果を負っているが,受傷自体の肉体的苦痛はもちろん,追突時に受けた衝突の恐怖,ガソリンが漏れて車体が燃えるのではないかという不安などを経験し,怖くて自動車の運転をしたくないと述べている被害者もいるなど,精神的苦痛も相当大きい。 ところで,被告人は,連日の勤務により疲労し,特に前日の休日出勤では雪の影響で帰宅時間が大幅に遅れたため,睡眠時間にも影響が生じた様子も認められるから,疲労の原因まで,被告人のみが責められるべき立場にあるとはいえない。もっとも,被告人は,運行行程等の細部まで会社から指示されていたものではなく,運行行程,休憩時間,休憩場所等については,被告人の判断に任されていたものであり,本件事故の5日ほど前に風邪の自覚症状が出た際には,勤務先に体調不良を申告し,上司から早く帰って休んでよいと言われて,これに従っている様子なども認められる。しかるに,被告人は,本件事故当日,眠気を催し,サービスエリアやパ- 4 -ーキングエリア等の具体的な休憩場所を認識していたにもかかわらず,岡崎インターチェンジ付近で渋滞に巻き込まれることを懸念し,運転しながら眠気が解消されるだろうと思ったり,後で一気に休みを取ればよいなどと考え,勤務先に対して体調の変調を申告することすら試みず,運転を継続していたものである。そうすると,眠気を催した後の被告人自身の職業運転手としての対応にもかなり甘さがみられ,被告人が疲労状態にあったことを理由に,刑事責任を大きく軽減することは相当ではない。 加えて,被告人には,複数の交通違反歴があるほか,平成21年3月にも,カーナビゲーションの画面に気を取られて一時停止をせずに交差点内に進入するなどの過失を犯したとして自動車運転過失 ではない。 加えて,被告人には,複数の交通違反歴があるほか,平成21年3月にも,カーナビゲーションの画面に気を取られて一時停止をせずに交差点内に進入するなどの過失を犯したとして自動車運転過失傷害罪で罰金40万円に処せられた前科もある。このような経験を教訓とすることができず,本件の過失を犯していることからすると,被告人には交通法規軽視の態度がみられるというべきである。 以上を総合すると,被告人の刑事責任は誠に大きい。 そうすると,被告人運転車両には,勤務先の会社において対人賠償無制限及び対物賠償無制限の任意保険が付されているため,それによって被害者及び遺族に対する補償が行われる見込みであり,各被害者との間で物損関係の示談が成立しているほか,人損関係の示談も進行中であること,被告人が犯行を認め,被害者や遺族に対する謝罪文を書いたり,日記にも謝罪,後悔,反省の言葉を綴ったりするなど,反省している様子が認められること,被告人の父は,被害者や遺族の許にお詫びに行き,さらに当公判廷にも出廷して被告人の今後の監督を誓約していること,被告人がいまだ20代前半であることなどの,被告人にとって有利ないし酌むべき事情を考慮してもなお,被告人の刑事責任の大きさ,特に過失の態様,結果の重大性に照らし,かつ同種事案とも比較考量した結果,今回は,主文程度の実刑を科した上で,時間をかけてその内省を深めさせることが必要であると思料する。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑-禁錮7年)- 5 -平成23年7月8日名古屋地方裁判所刑事1部裁判官鈴木秀雄 裁判官鈴木秀雄
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