令和2(ワ)19920等 特許権侵害差止請求事件

裁判年月日・裁判所
令和4年1月19日 東京地方裁判所
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判決文本文95,070 文字)

令和4年1月19日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和2年(ワ)第19920号特許権侵害差止請求事件同年(ワ)第22284号特許権侵害差止請求事件口頭弁論終結日令和3年10月6日判決 原告ワーナー-ランバートカンパニーリミテッドライアビリティーカンパニー同訴訟代理人弁護士飯村敏明磯田直也森下梓 同訴訟復代理人弁護士永島太郎同訴訟代理人弁理士泉谷玲子同補佐人弁理士小野新次郎被告日本ケミファ株式会社(以下「被告日本ケミファ」という。) 被告日本薬品工業株式会社(以下「被告日本薬品工業」という。)上記両名訴訟代理人弁護士牧野知彦服部謙太朗 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。 事実及び理由 第1 請求 1 被告日本ケミファは,別紙物件目録記載1の医薬品を製造し,販売し,販売 の申出をしてはならない。 2 被告日本ケミファは,別紙物件目録記載1の医薬品を廃棄せよ。 3 被 1 被告日本ケミファは,別紙物件目録記載1の医薬品を製造し,販売し,販売 の申出をしてはならない。 2 被告日本ケミファは,別紙物件目録記載1の医薬品を廃棄せよ。 3 被告日本薬品工業は,別紙物件目録記載2の医薬品を製造し,販売し,販売の申出をしてはならない。 4 被告日本薬品工業は,別紙物件目録記載2の医薬品を廃棄せよ。 5 仮執行宣言第2 事案の概要本件は,発明の名称を「イソブチルGABAまたはその誘導体を含有する鎮痛剤」とする発明に係る特許権(特許第3693258号。以下「本件特許権」といい,同特許権に係る特許を「本件特許」という。)を有する原告が,被告 らに対し,被告日本ケミファにおいて別紙物件目録記載1の医薬品の製造,販売及び販売の申出をし,被告日本薬品工業において同目録記載2の医薬品(以下,同目録記載1の医薬品と併せて「被告医薬品」という。)の製造,販売及び販売の申出をすることが本件特許権の侵害に当たると主張して,特許法100条1項及び2項に基づき,被告医薬品の製造,販売,販売の申出の差止め及 び廃棄を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いがない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により認定できる事実。なお,本判決を通じ,証拠を摘示する場合には,特に断らない限り,枝番を含むものとする。)(1) 当事者 ア原告は,アメリカ合衆国の法人である。 イ被告らは,医薬品の販売等を目的とする会社である。 (2) 本件特許権原告は,以下の特許権を有している(以下,本件特許の願書に添付された明細書及び図面を「本件明細書等」と,本件特許の優先日を「本件優先日」 という。)。原告は,ファイザー株式会社に対して専用実施権を設定し,同 以下,本件特許の願書に添付された明細書及び図面を「本件明細書等」と,本件特許の優先日を「本件優先日」 という。)。原告は,ファイザー株式会社に対して専用実施権を設定し,同 社は,神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛の治療薬である先発医薬品(商品名:リリカカプセル,リリカOD錠)を販売している。(甲1,2,5)発明の名称:イソブチルGABAまたはその誘導体を含有する鎮痛剤特許番号:特許第3693258号 出願日:平成9年7月16日(特願平10-507062号)優先日:平成8年7月24日優先権主張国:米国登録日:平成17年7月1日(3) 本件特許権の延長登録 原告は,別紙延長登録目録記載のとおり,本件特許権について,延長登録の出願をし,その登録を受けた。(甲1)(4) 本件特許権の特許請求の範囲(後記(7)ウ記載の本件訂正前のもの)ア請求項1(以下,同請求項に係る発明を「訂正前発明1」という。)「式I (式中,R1 は炭素原子1〜6個の直鎖状または分枝状アルキルであり,R2は水素またはメチルであり,R3 は水素,メチルまたはカルボキシルである)の化合物またはその医薬的に許容される塩,ジアステレオマー,もしくはエナンチオマーを含有する痛みの処置における鎮痛剤。」 イ請求項2(以下,同請求項に係る発明を「訂正前発明2」という。)「化合物が,式IにおいてR3 およびR2 はいずれも水素であり,R1 は-(CH2)0-2-iC4H9 である化合物の(R),(S),または(R,S)異性体である請求項1記載の鎮痛剤。」 ウ請求項3(以下,同請求項に係る発明を「訂正前発明3」という。)「化合物が, iC4H9 である化合物の(R),(S),または(R,S)異性体である請求項1記載の鎮痛剤。」 ウ請求項3(以下,同請求項に係る発明を「訂正前発明3」という。)「化合物が,(S)−3−(アミノメチル)−5−メチルヘキサン酸または3−アミノメチル−5−メチルヘキサン酸である請求項1記載の鎮痛剤。」エ請求項4(以下,同請求項に係る発明を「訂正前発明4」といい,訂正前発明1~3と併せて「訂正前各発明」という。) 「痛みが炎症性疼痛,神経障害による痛み,癌による痛み,術後疼痛,幻想肢痛,火傷痛,痛風の痛み,骨関節炎の痛み,三叉神経痛の痛み,急性ヘルペスおよびヘルペス後の痛み,カウザルギーの痛み,特発性の痛み,または線維筋痛症である請求項1記載の鎮痛剤。」(5) 本件特許権の特許請求の範囲(後記(7)ウ記載の本件訂正後のもの。下線部 が訂正箇所)ア請求項1(以下,同請求項に係る発明を「本件発明1」という。)「式I (式中,R1 は炭素原子1〜6個の直鎖状または分枝状アルキルであり,R 2 は水素またはメチルであり,R3 は水素,メチルまたはカルボキシルである)の化合物またはその医薬的に許容される塩,ジアステレオマー,もしくはエナンチオマーを含有する,痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤。」イ請求項2(以下,同請求項に係る発明を「本件発明2」という。) 「式I (式中,R3 およびR2 はいずれも水素であり,R1 は-(CH2)0-2-iC4H9 である)の化合物の(R),(S),または(R,S)異性体を含有する,神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤。」ウ請求項3(以下,同請求項に係る C4H9 である)の化合物の(R),(S),または(R,S)異性体を含有する,神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤。」ウ請求項3(以下,同請求項に係る発明を「本件発明3」という。)「(S)−3−(アミノメチル)−5−メチルヘキサン酸または3−アミノメチ ル−5−メチルヘキサン酸を含有する,炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みの処置における鎮痛剤。」エ請求項4(以下,同請求項に係る発明を「本件発明4」といい,本件発明1~3と併せて「本件各発明」という。)「式I (式中,R1 は炭素原子1〜6個の直鎖状または分枝状アルキルであり,R2は水素またはメチルであり,R3 は水素,メチルまたはカルボキシルである)の化合物またはその医薬的に許容される塩,ジアステレオマー,もしくはエナンチオマーを含有する,炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後 疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤。」(6) 本件発明1等の構成要件本件発明1及び訂正前発明1,本件発明2及び訂正前発明2,本件発明3並びに本件発明4を構成要件に分説すると,以下のとおりである(以下,請求項記載の式1の化合物を「本件化合物」という。)。 ア本件発明1及び訂正前発明1(ア) 訂正前発明11A 式I (式中,R1 は炭素原子1〜6個の直鎖状または分枝状アルキルであり,R2 は水素またはメチルであり,R3 は水素,メチルまたはカルボキシルである)の化合物またはその医薬的に許容される塩,ジアステレオマー,もしくはエナンチオマーを含有する 1B´痛みの処置における1C 鎮痛剤。 (イ) 本件発明1 はカルボキシルである)の化合物またはその医薬的に許容される塩,ジアステレオマー,もしくはエナンチオマーを含有する 1B´痛みの処置における1C 鎮痛剤。 (イ) 本件発明11A 式I (式中,R1 は炭素原子1〜6個の直鎖状または分枝状アルキルであり,R2 は水素またはメチルであり,R3 は水素,メチルまたはカルボキシルである)の化合物またはその医薬的に許容される塩,ジアステレオマー,もしくはエナンチオマーを含有する,1B 痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における 1C 鎮痛剤。 イ本件発明2及び訂正前発明2(ア) 訂正前発明22A´化合物が,式IにおいてR3 およびR2 はいずれも水素であり,R1 は-(CH2)0-2-iC4H9 である化合物の(R),(S),または(R,S)異 性体である請求項1記載の2C 鎮痛剤。 (イ) 本件発明22A 式I (式中,R3 およびR2 はいずれも水素であり,R1 は-(CH2)0-2-iC4H9 である)の化合物の(R),(S),または(R,S)異性体を含有する, 2B 神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における2C 鎮痛剤。 ウ本件発明33A (S)−3−(アミノメチル)−5−メチルヘキサン酸または3−アミノメ チル−5−メチルヘキサン酸を含有する,3B 炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みの処置における3C 鎮痛剤。 エ本件発明44A 式I (式中,R1 は炭素原子1〜6個の直鎖状または分枝状アルキルであり,R2 は水素またはメチルであり,R3 は水素,メチルま 3C 鎮痛剤。 エ本件発明44A 式I (式中,R1 は炭素原子1〜6個の直鎖状または分枝状アルキルであり,R2 は水素またはメチルであり,R3 は水素,メチルまたはカルボキシルである)の化合物またはその医薬的に許容される塩,ジアステレオマー,もしくはエナンチオマーを含有する, 4B 炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛みの処置における 4C 鎮痛剤。 (7) 本件特許に関する無効審判及び審決取消訴訟ア沢井製薬株式会社は,平成29年1月16日付けで,本件特許の特許請求の範囲の請求項1~4に係る発明の特許を無効にすることについて,特許庁に対し,特許無効審判(無効2017-800003号。以下「本件 無効審判」という。)の請求をし,その後,被告日本ケミファほか14名が,同審判手続に参加した。(甲9)イ特許庁は,平成31年2月28日,訂正前各発明についての特許を無効にする旨の審決の予告をした(甲21,乙10)。その理由は,①本件明細書等の記載は,訂正前各発明を実施することができる程度に明確かつ十 分に記載されたものということができないので,実施可能要件に違反する,②本件明細書等の記載に接した当業者が,訂正前各発明によりその課題を解決できると認識し得ず,サポート要件に違反する,というものであった。 ウ原告は,上記審決の予告を受け,令和元年7月1日付け訂正請求書(甲3)をもって,本件特許に係る特許請求の範囲の記載を,上記(5)のとおり 訂正すること(以下「本件訂正」という。なお,本件訂正による本件明細書等の訂正部分はない。)を求める旨の訂正請求を行った。 エ特許庁は,令和2年7月14日付けで審決 を,上記(5)のとおり 訂正すること(以下「本件訂正」という。なお,本件訂正による本件明細書等の訂正部分はない。)を求める旨の訂正請求を行った。 エ特許庁は,令和2年7月14日付けで審決(以下「本件審決」という。 甲9)をし,新規事項の追加を理由に請求項1及び2に係る訂正を認めず,訂正前発明1及び2は実施可能要件及びサポート要件に違反するとして, 同各発明に係る特許を無効とし,請求項3及び4に係る訂正は認めた上で,本件訂正後の本件発明3及び4についての本件無効審判の請求は成り立たないとした。本件審決のうち請求項3及び4に係る部分は確定した。 オ原告は,令和2年11月19日,本件審決の請求項1及び2に係る部分の取消しを求める審決取消訴訟(知財高裁令和2年(行ケ)第10135 号)を提起した。 (8) 被告医薬品の構成等ア被告医薬品の構成は,以下のとおりである。 a (S)-3-(アミノメチル)-5-メチルヘキサン酸(一般名:プレガバリン)を有効成分とし,b 効能・効果を神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛とする, c 疼痛治療剤イ被告日本ケミファは,別紙物件目録記載1の販売名の被告医薬品の製造販売について,被告日本薬品工業は,同目録記載2の販売名の被告医薬品の製造販売について,それぞれ令和2年8月17日付けで,医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律(平成25年法律 第84号による改正前の題名は,薬事法。以下,同改正の前後を通じて「医薬品医療機器等法」という。)14条1項に基づき,厚生労働大臣の承認を受けた。(甲12) 2 争点(1) 訂正前発明1及び2 ア訂正前発明1及び2に係る特許は特許無効 薬品医療機器等法」という。)14条1項に基づき,厚生労働大臣の承認を受けた。(甲12) 2 争点(1) 訂正前発明1及び2 ア訂正前発明1及び2に係る特許は特許無効審判により無効にされるべきものであるか(争点1)(ア) 無効理由1(実施可能要件違反の有無)(争点1-1)(イ) 無効理由2(サポート要件違反の有無)(争点1-2)イ本件発明1及び2に係る訂正の再抗弁の成否(争点2) (ア) 無効理由の解消の有無(争点2-1)a 無効理由1の解消の有無(争点2-1-1)b 無効理由2の解消の有無(争点2-1-2)(イ) 訂正要件の具備の有無(争点2-2)a 本件発明1の訂正要件の具備の有無(争点2-2-1) b 本件発明2の訂正要件の具備の有無(争点2-2-2) (2) 本件発明3及び4被告医薬品が本件発明3及び4の技術的範囲に属するか(争点3)ア構成要件3B及び4Bの充足性(争点3-1)イ均等侵害の成否(争点3-2)(3) 本件特許権の存続期間の延長登録 ア延長登録により存続期間が延長された本件特許権の効力は被告医薬品に及ぶか(争点4)イ延長登録の無効理由の有無(争点5)第3 争点に関する当事者の主張争点に関する当事者の主張は,別紙「原告の主張」及び別紙「被告らの主張」 (当裁判所の提示した争点に従い,当事者がその主張を総括的にまとめた準備書面の記載に基づくもの)に記載されたとおりである。 第4 当裁判所の判断 1 訂正前各発明及び本件各発明の内容(1) 本件明細書等(甲2)には,以下の記載等が存在する。 ア発明の詳細な説明(ア) 発明の背景「本 当裁判所の判断 1 訂正前各発明及び本件各発明の内容(1) 本件明細書等(甲2)には,以下の記載等が存在する。 ア発明の詳細な説明(ア) 発明の背景「本発明は,痛みの治療において鎮痛/抗痛覚過敏作用を発揮する化合物としてのグルタミン酸およびγ-アミノ酪酸(GABA)の類縁体の使用である。これらの化合物の使用の利点には,反復使用により耐性 を生じないことまたはモルヒネとこれらの化合物の間に交叉耐性がないことの発見が包含される。 本発明の化合物は,てんかん,ハンチントン舞踏病,大脳虚血,パーキンソン病,遅発性ジスキネジアおよび痙性のような中枢神経系疾患に対する抗発作療法に有用な既知の薬物である。また,これらの化合物は抗 うつ剤,抗不安剤および抗精神病剤としても使用できることが示唆され ている。WO 92/09560(米国特許出願第618,692 号,1990 年11 月27 日出願)およびWO 93/23383(米国特許出願第886,080 号,1992 年5 月20日出願)参照。」(2頁4~12行目)(イ) 発明の概要「本発明は,以下の式Iの化合物の,痛みの処置とくに慢性の疼痛性 障害の処置における使用方法である。このような障害にはそれらに限定されるものではないが炎症性疼痛,術後疼痛,転移癌に伴う骨関節炎の痛み,三叉神経痛,急性疱疹性および治療後神経痛,糖尿病性神経障害,カウザルギー,上腕神経叢捻除,後頭部神経痛,反射交感神経ジストロフィー,線維筋痛症,痛風,幻想肢痛,火傷痛ならびに他の形態の神経 痛,神経障害および特発性疼痛症候群が包含される。 化合物は式I (式中,R1 は炭素原子1~6個の直鎖状または分枝状アルキル,フ 維筋痛症,痛風,幻想肢痛,火傷痛ならびに他の形態の神経 痛,神経障害および特発性疼痛症候群が包含される。 化合物は式I (式中,R1 は炭素原子1~6個の直鎖状または分枝状アルキル,フェニルまたは炭素原子3~6個のシクロアルキルであり,R2 は水素またはメチ ルであり,R3 は水素,メチルまたはカルボキシルである)の化合物またはその医薬的に許容される塩である。 式Iの化合物のジアステレオマーおよびエナンチオマーも本発明に包含される。 本発明の好ましい化合物は式Iにおいて,R3 およびR2 は水素であり,R1 は-(CH2)0-2-iC4H9 の化合物の(R),(S),または(R,S)異性体である。 本発明のさらに好ましい化合物は(S)-3-(アミノメチル)-5-メチ ルヘキサン酸および3-アミノメチル-5-メチルヘキサン酸である。」(2頁14~33行目)イ発明の詳述(ア) 「本発明は,上記式Ⅰの化合物の上に掲げた痛みの処置における鎮痛剤としての使用方法である。痛みにはとくに炎症性疼痛,神経障害の痛 み,癌の痛み,術後疼痛,および原因不明の痛みである特発性疼痛たとえば幻想肢痛が包含される。神経障害性の痛みは末梢知覚神経の傷害または感染によって起こる。これには以下に限定されるものではないが,末梢神経の外傷,ヘルペスウイルス感染,糖尿病,カウザルギー,神経叢捻除,神経腫,四肢切断,および血管炎からの痛みが包含される。神 経障害性の痛みはまた,慢性アルコール症,ヒト免疫不全ウイルス感染,甲状腺機能低下症,尿毒症またはビタミン欠乏からの神経障害によっても起こる。神経障害性の痛みには,神経傷害によって起こる痛みに限らず,たとえば糖尿病による痛みも包含される。 上に 全ウイルス感染,甲状腺機能低下症,尿毒症またはビタミン欠乏からの神経障害によっても起こる。神経障害性の痛みには,神経傷害によって起こる痛みに限らず,たとえば糖尿病による痛みも包含される。 上に掲げた状態が,現在市場にある鎮痛剤たとえば麻薬性鎮痛剤または 非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)では,不十分な効果または副作用からの限界により不完全な処置しか行われていないことは周知である。」(3頁45行目~4頁6行目)(イ) ラットホルマリン足蹠試験におけるギャバペンチン,CI-1008,および3-アミノメチル-5-メチル-ヘキサン酸の効果 「雄性Sprague-Dawley ラット(70~90g)を試験前に少なくとも15 分間パースペックスの観察チャンバー(24cm×24cm×24cm)に馴化させた。 ホルマリン誘発後肢リッキングおよびバイティングを5%ホルマリン溶液(等張性食塩溶液中5%ホルムアルデヒド)50μl の左後肢の足蹠表面への皮下注射によって開始させた。ホルマリンの注射直後から,注射し た後肢のリッキング/バイティングを60 分間5分毎に評価した。結果 はリッキング/バイティングを合わせた平均時間として初期相(0~10分)および後期相(10~45 分)について示す。 ギャバペンチン(10~300mg/kg)またはCI-1008(1~100mg/kg)のホルマリン投与1時間前の皮下投与は,ホルマリン応答の後期相におけるリッキング/バイティング行動を,それぞれ最小有効用量(MED)30 および 10mg/kg で用量依存性にブロックした(図1)。しかしながら,いずれの化合物も試験した用量では初期相には影響しなかった。3-アミノメチル-5-メチル-ヘキサン酸の同様の投与は 0 および 10mg/kg で用量依存性にブロックした(図1)。しかしながら,いずれの化合物も試験した用量では初期相には影響しなかった。3-アミノメチル-5-メチル-ヘキサン酸の同様の投与は100mg/kg で後期相の中等度のブロックを生じたのみであった。」(5頁49行目~6頁10行目)【図1a】 【図1b】 【図1c】 【図1d】 【図1e】 【図1f】 (図面の簡単な説明)「図1.ギャバペンチン[1-(アミノメチル)-シクロヘキサン酢酸],CI-1008[(S)-3-(アミノメチル)-5-メチルヘキサン酸],および3-アミノメチル-5-メチル-ヘキサン酸のラット足蹠ホルマリン試 験における効果。 試験化合物は50μl のホルマリンの足蹠内注射の1時間前に皮下投与した。初期および後期相に注射された足蹠のリッキング(舐める行動)/バイティング(咬む行動)に費やされる時間を記録した。結果は各群6~8匹の平均±SEM として示す。*P<0.05 および**P<0.01 はビヒクル (Veh.)処置対照から有意に異なることを示す(ANOVA, Dunnett'st-検定による)。」(2頁35~42行目)(ウ) ギャバペンチンおよびCI-1008のカラニゲン誘発痛覚過敏に対する効果「試験日にラット(雄性Sprague-Dawley 70~90g)に2~3のベース ライン測定を行ったのち,2%カラゲニン100μl を右後肢の足蹠表面に皮下注射した。痛覚過敏のピークの発症後,動物に試験薬物を投与した。機械的および熱的痛覚過敏に対する試験には別個の ース ライン測定を行ったのち,2%カラゲニン100μl を右後肢の足蹠表面に皮下注射した。痛覚過敏のピークの発症後,動物に試験薬物を投与した。機械的および熱的痛覚過敏に対する試験には別個の動物群を使用した。」(6頁12~15行目)a 機械的痛覚過敏 「侵害受容圧閾値を,ラット足蹠加圧試験により鎮痛計(UgoBasile) を用いて測定した。足蹠への傷害を防止するため,250gのカットオフ点を使用した。カラゲニンの足蹠内注射は注射後3~5時間の間侵害受容圧閾値を低下させ,痛覚過敏の誘発を示した。モルヒネ(3mg/kg,皮下)は痛覚過敏の完全なブロックを生じた(図2)。ギャバペンチン(3~300mg/kg,皮下)およびCI-1008(1~100mg/kg,皮下)は用量 依存性に痛覚過敏に拮抗し,MED はそれぞれ10 および3mg/kg であった(図2)。」(6頁17~22行目)【図2a】 【図2b】 (図面の簡単な説明) 「図2.ギャンバペンチンおよびCI-1008 のカラゲニン誘発機械的痛覚過敏に対する効果。 侵害受容圧閾値を,足蹠加圧試験を用いてラットで測定した。足蹠内注射により動物に100μl の2%カラゲニンを投与する前に,ベースライン(BL)の測定を行った。結果は各群について8匹の動物の平均 (±SEM)として示す。ギャバペンチン(GP),CI-1008 またはモルヒネ(MOR;3mg/kg)をカラゲニン後3.5 時間に皮下投与した。*P<0.05および**P<0.01 は同時点でのビヒクル対照群と有意に異なる(ANOVA, Dunnett'st-検定による)。」(2頁43~48行目) .5 時間に皮下投与した。*P<0.05および**P<0.01 は同時点でのビヒクル対照群と有意に異なる(ANOVA, Dunnett'st-検定による)。」(2頁43~48行目)b 熱痛覚過敏 「ベースライン足蹠回避潜時(PWL)を各ラットについてHargreaves モデルを用いて測定した。上述のようにカラゲニンを注射した。カラゲニン投与2時間後に,動物を熱痛覚過敏について試験した。ギャバペンチン(10~100mg/kg)またはCI-1008(1~30mg/kg)は,カラゲニン投与後2.5 時間に皮下に投与し,PWL をカラゲニン投与3および4時間後に再評価した。カラゲニンは注射後2,3および4時間に足蹠 回避潜時の有意な低下を誘発し,熱痛覚過敏の誘発を示した(図3)。 ギャバペンチンおよびCI-1008 は用量依存性に痛覚過敏に拮抗し,MEDは30 および3mg/kg を示した(図3)。」(6頁24~30行目)【図3a】 【図3b】 (図面の簡単な説明)「図3.ギャバペンチンおよびCI-1008 のカラゲニン誘発熱痛覚過敏に対する効果。 侵害受容熱閾値をHargreaves の装置を用いてラットで測定した。足蹠内注射により動物に100μl の2%カラゲニンを投与する前にベー スライン(BL)の測定を行った。結果は各群8匹の動物の平均(±SEM)として示す。ギャバペンチン(GP)またはCI-1008 はカラゲニン投与後2.5時間に皮下に投与した。*P<0.05 および**P<0.01 は同時点でのビヒクル対照群から有意に異なる(ANOVA, Dunnett'st-検定による)。」(2頁49行目 ラゲニン投与後2.5時間に皮下に投与した。*P<0.05 および**P<0.01 は同時点でのビヒクル対照群から有意に異なる(ANOVA, Dunnett'st-検定による)。」(2頁49行目~3頁4行目) c 「これらのデータはギャバペンチンおよびCI-1008 が炎症性疼痛の 処置に有効であることを示す。」(6頁31~32行目)(エ) 末梢性神経障害の動物モデル「BennettG.J.のアッセイはヒトに認められるのと類似の疼痛感覚の障害を生じるラットにおける末梢性単発神経障害の動物モデルを提供する(Pain, 1988; 33: 87-107)。 KimS.H.らのアッセイは,ラットにおける分節脊椎神経の結紮によって生じる末梢神経障害の一つの実験モデルを提供する(Pain, 1990; 50:355-363)。」(6頁33~36行目)(オ) 術後疼痛のラットモデル「術後疼痛のラットモデルも報告されている(Brennan ら,1996)。そ れには,後肢足蹠面の皮膚,筋膜および筋肉の切開が包含される。これは数日間続く再現可能かつ定量可能な機械的痛覚過敏の誘発を招く。このモデルはヒトの術後疼痛状態にある種の類似性を示す。本研究においては,本発明者らは術後疼痛のこのモデルでギャバペンチンおよびS-(+)-3-イソブチルギャバの活性を調べ,モルヒネの場合と比較した。」 (6頁37~41行目)a 方法「BantinandKingmen(Hull, U.K.)から入手した雄性Sprague-Dawley ラット(250~300g)をすべての実験に使用した。手術の前に動物は6匹の群として飼育ケージに入れ,12 時間明暗サイクル(07 時0 l, U.K.)から入手した雄性Sprague-Dawley ラット(250~300g)をすべての実験に使用した。手術の前に動物は6匹の群として飼育ケージに入れ,12 時間明暗サイクル(07 時00 分に点灯)下に置いて飼料および水は自由に与えた。動物は手術後,同じ条件下に,空気を含んだセルロースから構成される“Aqua-sorb”床(BetaMedicalandScientific, Sale, U.K.)上に対で収容した。すべての実験は薬物処置に盲検とした観察者により行われた。」(6頁43~48行目) b 手術 「動物は2%イソフルオランおよび1.4 O2/NO2 混合物で麻酔し,鼻円錐により手術中を通じて麻酔下に維持した。右後肢足蹠表面を50%エタノールで準備して踵の端から0.5cm に開始し足指の方向に皮膚および筋膜を通して1-cm 縦に切開した。足蹠の筋肉は鉗子によって持ち上げ縦に切開した。傷口を編んだ絹の縫合糸によりFST-02 の針を 用いて2個所で閉じた。傷口の部位はテラマイシンスプレーおよびオーロマイシン末で被覆した。手術後,すべての動物において感染の徴候は認められず,創傷は24 時間後には良好に治癒した。縫合糸は48時間後に抜糸した。」(6頁50行目~7頁6行目)c 熱痛覚過敏の評価 「熱痛覚過敏はラット足蹠試験(UgoBasile, Italy)を用い,Hargreaves らの方法(1988)の改良法に従い評価した。ラットは上方に傾斜したガラステーブル上3個の個々のパースペックスの箱からなる装置に順化させた。テーブルの下に可動性放射熱源を置き,後肢足蹠に焦点を合わせ足蹠回避潜時(PWL)を記録した。組織の傷害を回避する 傾斜したガラステーブル上3個の個々のパースペックスの箱からなる装置に順化させた。テーブルの下に可動性放射熱源を置き,後肢足蹠に焦点を合わせ足蹠回避潜時(PWL)を記録した。組織の傷害を回避する ため,自動カットオフ点を22.5 秒に設定した。各動物の両後肢について2~3回PWL を測定し,その平均を左右後肢のベースラインとした。 装置は約10 秒のPWL が得られるように検量した。PWL(秒)は上述のプロトコールに従い術後2,24,48 および72 時間に再評価した。」(7頁8~14行目) d 接触異痛の評価「接触異痛はシーメンス・ワインシュタイン・フォン・フライの毛(Stoelting, Illinois, USA)を用いて測定した。動物は,針金の網の底のケージに収容して,足蹠に接触できるようにした。動物は実験の開始前に,この環境に順化させた。接触異痛試験は動物の後肢の足蹠 表面に,順次力を増大させて(0.7,1.2,1.5,2,3.6,5.5,8.5,11.8, 15.1,および29g)フライの毛で触れ,後肢の回避が誘発されるまで試験した。フライの毛はそれぞれ6秒間または反応が起こるまで後肢に適用した。回避反応が確立されたならば,後肢を次に下降するフライの毛で試験を始めて反応が起こらなくなるまで再試験した。したがって,後肢を上げて反応が誘発される最高の力29gがカットオフ点と なった。各動物を,この様式で両後肢について試験した。反応が誘発されるのに必要な最低の力量を回避閾値としてグラムで記録した。化合物を手術前に投与する場合には,接触痛覚過敏,接触異痛および熱痛覚過敏に対する薬物効果の試験に同一の動物を使用し,各動物について熱痛覚過敏試験の1時間後に接触異痛の試験 としてグラムで記録した。化合物を手術前に投与する場合には,接触痛覚過敏,接触異痛および熱痛覚過敏に対する薬物効果の試験に同一の動物を使用し,各動物について熱痛覚過敏試験の1時間後に接触異痛の試験を行った。術後にS -(+)-3-イソブチルギャバを投与する場合には,接触異痛および熱痛覚過敏の検査に別個の群の動物を使用した。」(7頁16~28行目)e 統計「熱痛覚過敏試験で得られたデータは一元(分散分析)ANOVA に付し, ついでDunnett'st-検定を実施した。フライの毛で得られた接触異痛の結果は個別のMannWhitneyt-検定に付した。」(7頁30~32行目)f 結果「ラット足蹠筋肉の切開は熱痛覚過敏および接触異痛を生じた。い ずれの侵害受容反応も手術後1時間以内にピークに達し,3日間維持された。実験期間中,動物はすべて良好な健康状態を維持した。」(7頁34~36行目)g 手術前に投与したギャバペンチン,S-(+)-3-イソブチルギャバおよびモルヒネの熱痛覚過敏に対する効果 「手術1時間前におけるギャバペンチンの単回用量投与(3~30mg /kg,皮下)は,用量依存性に熱痛覚過敏の発生を遮断し,MED は30mg/kg であった(図4b)。最大用量のギャバペンチン30mg/kg は痛覚過敏の反応を24 時間防止した(図4b)。S-(+)-3-イソブチルギャバを同様に投与した場合も用量依存性(3~30mg/kg,皮下)に熱痛覚過敏の発生が遮断され,MED は30mg/kg であった(図4c)。30mg /kg 用量のS-(+)-3-イソブチルギャバは3日まで有効であった(図4c)。手術0.5 kg,皮下)に熱痛覚過敏の発生が遮断され,MED は30mg/kg であった(図4c)。30mg /kg 用量のS-(+)-3-イソブチルギャバは3日まで有効であった(図4c)。手術0.5 時間前のモルヒネの投与は,用量依存性(1~6mg/kg,皮下)は熱痛覚過敏の発生に拮抗し,MED は1mg/kg であった(図4a)。この作用は24 時間維持された(図4a)。」(7頁39~46行目) 【図4a】 【図4b】 【図4c】 (図面の簡単な説明) 「図4.ラット術後疼痛モデルにおける熱痛覚過敏に対する(a)モ ルヒネ,(b)ギャバペンチン,および(c)S-(+)-3-イソブチルギャバの効果。 ギャバペンチンまたはS-(+)-3-イソブチルギャバは術前1時間に投与した。モルヒネは術前0.5 時間に投与した。ラット足蹠試験を用いて同側および対側足蹠の両者について熱足蹠回避潜時(PWL)を測 定した。明瞭にするため薬物処置動物の対側足蹠のデータは示していない。術前にベースライン(BL)の測定を行い,術後2,24,48 および 72 時間にPWL を再評価した。結果は各群につき8~10 匹の動物の平均PWL(秒,縦線は±SEM を示す)として表す。*P<0.05,**P<0.01は各時点で薬物処置群の同側足蹠をビヒクル処置群の同側足蹠と比較 して有意に異なる(ANOVA. Dunnett'st-検定による)。図中,図4aでは,-●-はビヒクル対側,-○-はビヒクル同側,-△-,-□-および-◇-はそれぞれモルヒネ1,3および6mg/kg である。図4bでは,-△-は3,-□-は10 および-◇-は30mg/kg では,-●-はビヒクル対側,-○-はビヒクル同側,-△-,-□-および-◇-はそれぞれモルヒネ1,3および6mg/kg である。図4bでは,-△-は3,-□-は10 および-◇-は30mg/kg のギャバペンチンである。図4cでは-△-は3,-□-は10 および-◇- は30mg/kg のS-(+)-3-イソブチルギャバである。」(3頁5~17行目)h 手術前に投与したギャバペンチン,S-(+)-3-イソブチルギャバおよびモルヒネの接触異痛に対する効果「接触異痛の発生に対する薬物の効果は上述の熱痛覚過敏に用いた のと同じ動物で測定した。熱痛覚過敏試験と接触異痛試験の間には1時間の間隔を置いた。ギャバペンチンは,用量依存性に接触異痛の発生を防止し,MED は10mg/kg であった。ギャバペンチン10 および30mg/kg の用量はそれぞれ25 および49 時間有効であった(図5b)。S-(+)-3-イソブチルギャバも同様に用量依存性(3~30mg/kg)に接 触異痛の発生を遮断し,MED は10mg/kg であった(図5c)。この侵害 受容応答の遮断は30mg/kg 用量のS-(+)-3-イソブチルギャバにより3日間維持された(図5c)。これに反して,モルヒネ(1~6mg/kg)は,6mg/kg の最大用量で術後3時間,接触異痛の発生を防止したのみであった(図5a)。」(7頁49行目~8行目6行目)【図5a】 【図5b】 【図5c】 (図面の簡単な説明)「図5.ラット術後疼痛モデルにおける接触異痛に対する(a)モル ヒネ,(b)ギャバペンチン,および(c)S-(+)-3-イソブチルギ (図面の簡単な説明)「図5.ラット術後疼痛モデルにおける接触異痛に対する(a)モル ヒネ,(b)ギャバペンチン,および(c)S-(+)-3-イソブチルギャバの効果。 ギャバペンチンまたはS-(+)-3-イソブチルギャバは術前1時間に投与した。モルヒネは術前0.5 時間に投与した。フライ毛フィラメントに対する足蹠回避閾値を同側および対側足蹠の両者について測定 した。明瞭にするため,薬物処置動物の対側足蹠のデータは示してい ない。術前にベースライン(BL)の測定を行い,術後3,25,49 および 73 時間に回避閾値を再評価した。結果は,各群について8~10 匹の動物の足蹠回避を誘発するのに要した中間力(g)として表す(縦線は第1および第3四分位を示す)。*P<0.05 は各時点において薬物処置群の同側足蹠をビヒクル処置群の同側足蹠と比べた有意差である(Mann Whitneyt-検定)。図5中,-●-はビヒクル対側,-○-はビヒクル同側である。モルヒネ(図5a)については-△-は1,-□-は3および-◇-は16mg/kg である。 図5b中,ギャバペンチンおよびS-(+)-3-イソブチルギャバについては,-△-は3,-□-は10および-◇-は30mg/kgである。」 (3頁18~30行目)i 手術1時間後に投与したS-(+)-3-イソブチルギャバの接触異痛および熱痛覚過敏に対する効果「接触異痛および熱痛覚過敏はすべての動物で1時間以内にピークに達し,以後5~6時間維持された。30mg/kg のS-(+)-3-イソ ブチルギャバの手術1時間後における皮下投与は接触異痛および熱痛覚過敏の維持を3~4時間ブロックした。この時 にピークに達し,以後5~6時間維持された。30mg/kg のS-(+)-3-イソ ブチルギャバの手術1時間後における皮下投与は接触異痛および熱痛覚過敏の維持を3~4時間ブロックした。この時間後に,侵害受容の両応答はいずれも対照レベルに復し,これは抗熱痛覚過敏および抗接触異痛作用の消失を示す(図6)。 ギャバペンチンおよびS-(+)-3-イソブチルギャバは,すべての 実験で試験された最大用量まで,対側後肢の熱痛覚過敏試験または接触異痛評点におけるPWL に影響しなかった。これに反して,モルヒネ(6mg/kg,皮下)は熱痛覚過敏試験おける対側後肢のPWL を増大させた(データは示していない)。 ここに掲げた結果はラット足蹠筋肉の切開は少なくとも3時間続く熱 痛覚過敏および接触異痛を誘発することを示している。本試験の主要 な所見は,ギャバペンチンおよびS-(+)-3-イソブチルギャバがいずれの侵害受容反応の遮断に対しても等しく有効なことである。これに反し,モルヒネは接触異痛よりも熱痛覚過敏に有効であることが見出された。さらに,S-(+)-3-イソブチルギャバは接触異痛および熱痛覚過敏の誘発および維持を完全に遮断した。」(8頁9~2 3行目)【図6a】 【図6b】 (図面の簡単な説明)「図6.ラット術後疼痛モデルにおける(a)熱痛覚過敏および(b) 接触異痛の維持に対するS-(+)-3-イソブチルギャバの効果。 S-(+)-3-イソブチルギャバ[S-(+)-IBG]は術後1時間に投与した。熱足蹠回避潜時はラット足蹠試験を用いて測定し,フライ毛フィラメントに対する足蹠回避閾値は同側および対側足蹠の両者について別個の群で測定 ソブチルギャバ[S-(+)-IBG]は術後1時間に投与した。熱足蹠回避潜時はラット足蹠試験を用いて測定し,フライ毛フィラメントに対する足蹠回避閾値は同側および対側足蹠の両者について別個の群で測定した。明瞭にするために,同側足蹠のデータのみ を示す。術前にベースライン(BL)の測定を行い,術後6時間まで回避閾値を再評価した。熱痛覚過敏については,結果は各群について6匹の動物の平均PWL(秒)として表す(縦線は±SEM を示す)。*P<0.05,**P<0.01 は各時点で薬物処置群の同側足蹠をビヒクル(Veh-○-)処置群の同側足蹠と比較した有意差を示す(対のないt-検定)。接触 異痛については,結果は各群について6匹の動物の足蹠回避を誘発す るのに要した中間力(g)として表す(縦線は,第1および第3四分位を示す)。*P<0.05 は各時点において薬物処置群の同側足蹠をビヒクル処置群の同側足蹠と比較した場合の有意差である(MannWhitneyt-検定)。-●-はS-(+)-IBG 30mg/kg。」(3頁31~43行目)(2) 本件特許の特許請求の範囲及び上記(1)の記載によれば,訂正前各発明及 び本件各発明は,本件特許出願当時に市場にある鎮痛剤,例えば麻薬性鎮痛剤又は非ステロイド性抗炎症薬ではその効果が不十分であり,又は副作用からの限界により痛みの処置が不完全であるとの課題を解決するため,てんかん等の中枢神経系疾患に対する抗発作療法に有用であるとされていた既知の薬物である本件化合物が,各請求項に記載の痛みの治療において,反復使用 による耐性やモルヒネとの交叉耐性が生じることなく,鎮痛,抗痛覚過敏作用を発揮することを新たに見出したことにより,本件化合物を包含する鎮痛剤の提供を可能にした の痛みの治療において,反復使用 による耐性やモルヒネとの交叉耐性が生じることなく,鎮痛,抗痛覚過敏作用を発揮することを新たに見出したことにより,本件化合物を包含する鎮痛剤の提供を可能にした医薬の用途発明であると認められる。 2 争点1-1(無効理由1(実施可能要件違反の有無))について(なお,以下,証拠の摘示に当たっては,本件無効審判手続で提出された証拠を「審判甲 1」などとして並記する。)(1) 判断基準特許法36条4項(平成14年法律第24号による改正前のもの。以下同じ。)は,発明の詳細な説明の記載が,「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分 に,記載しなければならない」と定めるところ,この規定にいう「実施」とは,物の発明においては,当該発明にかかる物の生産,使用等をいうものであるから,実施可能要件を満たすためには,明細書の発明の詳細な説明の記載が,当業者が当該発明に係る物を生産し,使用することができる程度のものでなければならないと解される。 そして,医薬の用途発明においては,一般に,物質名,化学構造等が示さ れることのみによっては,当該用途の有用性及びそのための当該医薬の有効量を予測することは困難であり,当該医薬を当該用途に使用することができないから,医薬用途発明において実施可能要件を満たすためには,明細書の発明の詳細な説明は,その医薬を製造することができるだけでなく,出願時の技術常識に照らして,医薬としての有用性を当業者が理解できるように記 載される必要がある。 (2) 本件明細書等の記載内容ア訂正前発明1の構成要件1B´及び1Cは,「痛みの処置における鎮痛剤」であり,訂正前発明2は訂正前 性を当業者が理解できるように記 載される必要がある。 (2) 本件明細書等の記載内容ア訂正前発明1の構成要件1B´及び1Cは,「痛みの処置における鎮痛剤」であり,訂正前発明2は訂正前発明1に係る請求項を引用するものであるところ,これらの発明に係る請求項には,構成要件1B´の「痛み」の種 類や原因を限定する記載はない。 そして,本件明細書等には,本件化合物を含む鎮痛剤が使用される痛みについて,「本発明は,…痛みの処置とくに慢性の疼痛性障害の処置における使用方法である。このような障害にはそれらに限定されるものではないが,炎症性疼痛,術後疼痛,転移癌に伴う骨関節炎の痛み,三叉神経痛, 急性疱疹性および治療後神経痛,糖尿病性神経障害,カウザルギー,上腕神経叢捻除,後頭部神経痛,反射交感神経ジストロフィー,線維筋痛症,痛風,幻想肢痛,火傷痛ならびに他の形態の神経痛,神経障害および特発性疼痛症候群が包含される。」(2頁14~19行目),「痛みにはとくに炎症性疼痛,神経障害の痛み,癌の痛み,術後疼痛,および原因不明の痛み である特発性疼痛たとえば幻想肢痛が包含される。神経障害性の痛みは末梢知覚神経の傷害または感染によって起こる。これには以下に限定されるものではないが,末梢神経の外傷,ヘルペスウイルス感染,糖尿病,カウザルギー,神経叢捻除,神経腫,四肢切断,および血管炎からの痛みが包含される。」(3頁46~50行目)との記載がある。 これらの記載によれば,構成要件1B´の「痛み」には,本件明細書等 に記載された上記の様々な痛みが全て包含されるものと解される。 イ証拠(甲78・乙2〔審判甲3〕,甲79・乙1〔審判甲4〕,甲80・乙3〔審判甲5〕,甲81・乙4〔審判甲6〕,甲88〔審判 に記載された上記の様々な痛みが全て包含されるものと解される。 イ証拠(甲78・乙2〔審判甲3〕,甲79・乙1〔審判甲4〕,甲80・乙3〔審判甲5〕,甲81・乙4〔審判甲6〕,甲88〔審判甲14〕,甲90〔審判甲18〕,甲91〔審判甲19〕)によれば,痛みには,様々なものがあり,その発生原因に応じ,①侵害受容性疼痛(組織損傷による 侵害受容体への過剰刺激や炎症により発痛増強物質等が同受容体を刺激することにより発生する痛み。炎症性疼痛や術後疼痛等がこれに該当する。),②神経障害性疼痛(末梢神経や中枢神経の損傷に起因して発生する痛み。三叉神経痛,糖尿病性神経障害,カウザルギー,帯状疱疹後神経痛等がこれに該当する。),③心因性疼痛(精密検査を行っても原因とな るような器質的病変ないし病態生理的機序が見出されないにもかかわらず訴えられる疼痛,また,器質的病変が存在する場合であっても,その身体的所見から予期される以上の強さの疼痛の訴えがあり,背景に心理的要因が関与していると考えられるもの。線維筋痛症等がこれに該当する。)に区分されるものと認められる。 ウ本件特許請求の範囲の請求項2に記載された化合物は請求項1記載の化合物(本件化合物)を特定したものであり,請求項3に記載した化合物は請求項2記載の化合物を特定したものであるところ,本件明細書等には,薬理試験結果のデータとして,①CI-1008((S)-3-(アミノメチル)-5-メチルヘキサン酸。請求項3記載の化合物)及び3-アミノメチ ル-5-メチル-ヘキサン酸(同請求項記載の化合物)等を用いたラットホルマリン足蹠試験結果,②CI-1008を用いたカラゲニン痛覚過敏に対する試験結果,③本件化合物に該当するS-(+)-3-イソブチルギャバ(先発医薬品の名 (同請求項記載の化合物)等を用いたラットホルマリン足蹠試験結果,②CI-1008を用いたカラゲニン痛覚過敏に対する試験結果,③本件化合物に該当するS-(+)-3-イソブチルギャバ(先発医薬品の名称や化学構造(甲5)に照らし,CI-1008と同一であると認められる。)を用いたラット術後疼痛モデルにおける熱痛 覚過敏及び接触異痛に対する試験結果が記載されている。 (ア) このうち,術後疼痛が侵害受容性疼痛に当たることは上記イのとおりであり,当業者は,上記③の試験を侵害受容性疼痛に対する医薬品等の効果を評価するための動物実験であると認識すると考えられる。 (イ) 次に,本件明細書等には,カラゲニン痛覚過敏に対する試験結果について,「これらのデータは…CI-1008 が炎症性疼痛の処置に有効である ことを示す。」(6頁31,32行目)と記載されており,本件特許出願前に公表された甲57〔審判乙34〕(「Alterationsinneuronalexcitabilityandthepotencyofspinalmu, deltaandkappaopioidsaftercarrageenan-inducedinflammation」351頁左欄11,12行目。平成4年公表。なお,文献については著者名,出版社又は雑誌 の名称・号数等の記載は省略する。以下同様。)にも「カラゲニンは,炎症及び痛覚過敏を誘発するために広く使用されている。」などの記載が存在する。これらによれば,当業者は,上記試験を,侵害受容性疼痛に属する炎症性疼痛に対する医薬品等の効果を評価するための試験であると認識するものと認められる。 (ウ) さらに,ラットホルマリン足蹠試験について,本件特許出願前に公 試験を,侵害受容性疼痛に属する炎症性疼痛に対する医薬品等の効果を評価するための試験であると認識するものと認められる。 (ウ) さらに,ラットホルマリン足蹠試験について,本件特許出願前に公表された甲27〔審判乙4〕(「Effectsoflocalanaesthesiaonformalin-inducedFosexpressionintheratdorsalhorn」2301頁序論左欄1,2行目。平成7年公表)には,「ホルマリン試験は,動物における侵害刺激のモデルとして使用されてきている。」との記載が, 甲45〔審判乙22〕(「Theformalintest: anevaluationofthemethod」)13頁左欄末行~右欄2行目。平成4年公表)には,「ホルマリン試験は…侵害受容の標準的動物モデルの1つと考えるべきである。」との記載が存在する。これによれば,当業者は,上記試験を,炎症性の痛み,すなわち侵害受容性疼痛に対する医薬品等の効果を評価するため の試験であると認識するものと認められる。 (エ) 以上によれば,本件明細書等に記載された三つの薬理試験は,いずれも,本件化合物が侵害受容性疼痛に対して鎮痛効果を有することを確認したものであり,当業者もそのように認識するものと考えられる。 エ他方,神経障害性疼痛については,本件明細書等に「BennettG.J.のアッセイはヒトに認められるのと類似の疼痛感覚の障害を生じるラットに おける末梢性単発神経障害の動物モデルを提供する(Pain, 1988; 33:-107)。KimS.H.らのアッセイは,ラットにおける分節脊椎神経の結紮によって生じる末梢神経障害の一つの実験モデルを提供する 経障害の動物モデルを提供する(Pain, 1988; 33:-107)。KimS.H.らのアッセイは,ラットにおける分節脊椎神経の結紮によって生じる末梢神経障害の一つの実験モデルを提供する(Pain, 1990;50: 355-363)。」(6頁33~36行目)との記載が存在するにとどまり,本件化合物が神経障害性疼痛又は心因性疼痛による痛覚過敏又は接触異 痛の痛みの治療に有効であることを示す薬理試験結果は,動物実験の結果も含め,何ら開示されていない。 医薬の用途発明においては,一般に,物質名,化学構造等が示されることのみによっては,当該用途の有用性を予測することは困難であり,当該医薬を当該用途に使用することができないから,医薬の用途発明において 実施可能要件を満たすためには,明細書の発明の詳細な説明にその医薬の有用性を当業者が理解できるような薬理試験結果を記載する必要があるが,前記判示のとおり,本件明細書等には,本件化合物が神経障害性疼痛又は心因性疼痛による痛覚過敏又は接触異痛の痛みの治療に有効であると当業者が理解し得るような薬理試験結果の記載は存在しない。 (3) 本件特許出願当時の技術常識ア本件明細書等には,本件化合物が侵害受容性疼痛による痛覚過敏又は接触異痛に対して有効であれば,神経障害又は心因性による痛覚過敏又は接触異痛についての薬理試験を要することなく治療効果が予測されることを明示又は示唆する技術常識の記載は存在しない。また,侵害受容性疼痛, 神経障害性疼痛,心因性疼痛などの種類を問わず,痛覚過敏又は接触異痛 などの痛みの発症原因や機序が同一であり,いずれかの種類の痛みに対して有効な医薬品であれば,他の種類の痛みに対しても有効であることが本件特許出願 類を問わず,痛覚過敏又は接触異痛 などの痛みの発症原因や機序が同一であり,いずれかの種類の痛みに対して有効な医薬品であれば,他の種類の痛みに対しても有効であることが本件特許出願当時の当業者に知られていたなどの記載もない。 イ本件特許出願前に公表された文献である甲79・乙1〔審判甲4〕(「病態生理よりみた内科学」652頁2~18行目,653頁7~13行目。 平成8年公表)には「慢性疼痛は極めて多彩な特徴を持ち,その基礎となる病態生理に著しい差違がある」とした上で,①侵害受容性疼痛について,侵害受容神経路に進行しつつある侵害刺激による痛みであり,その痛みの質は「体性であればチクチクする,脈打つような,あるいは差し込むような痛みであり,内臓性なら鈍いあるいは絞るような痛み」であって,「鎮 痛薬としてのモルヒネは有効である」,②神経障害性疼痛について,求心路遮断性,交感神経依存性及び末梢性の三つの亜型に分類され,その痛みは,「神経損傷により急激に現れ,臨床的には,異常感覚…,感覚異常…,あるいは神経学的障害または局在性自律神経障害のような特徴を合併」し,神経障害性疼痛のうち交感神経依存性疼痛と求心路遮断性疼痛には「モル ヒネは無効で」ある,③心因性疼痛について,「この痛みは,器質性病変を伴うものと伴わないものとがあ」り,「この種の痛みを特徴付けるのは困難で」,「診断には器質的要因と心理的要因とがどの程度疼痛経験に寄与しているかを識別する必要があり,問題はしばしば複雑となる」などと記載されている。 同様に,甲80・乙3〔審判甲5〕(「最新脳神経外科学」200頁左欄3~19行目。平成8年公表)には,侵害受容性疼痛について,「組織損傷による機械的な侵害レセプターへの過剰刺激や炎症によ 同様に,甲80・乙3〔審判甲5〕(「最新脳神経外科学」200頁左欄3~19行目。平成8年公表)には,侵害受容性疼痛について,「組織損傷による機械的な侵害レセプターへの過剰刺激や炎症による内因性発痛物質や発痛増強物質がレセプターを刺激することにより発生する痛み」であり,「刺激となる組織障害に対処し,抗炎症療法を施行し,それらが 効果をみる前には,モルフィンなどの鎮痛薬で対処することが可能であ」 り,神経性疼痛について,「末梢神経に対する圧迫や絞扼によって発生するもので,脱髄や虚血のために異常知覚が発生したり,細系線維と太系線維との間でエファプス伝達…が発生したり,細経(判決注:ママ)線維に過剰興奮を惹起させたりして,脊髄後角へ有害刺激の信号を大量に送り込み,脊髄視床路を介して,激しい痛みとして認識される」などと記載され ている。 さらに,甲84〔審判甲9〕(「神経内科 QuickReference 第2版新しい神経学の進歩をふまえた診療の実際-診察から治療まで-」199頁下から4行目~200頁7行目。平成7年公表)には,心因性疼痛について,「中枢神経系に器質的病変がなく,直接末梢からの侵害刺激がないに もかかわらず存在する痛みで,通常慢性疼痛の形をとるもの」であって,痛む部位は「精神的な影響を受けやす」く,「常に1個所に固定しているのでなく,他の部位に移動しやすく,しばしば同時に2個所以上に痛みが存在し,しかもそれぞれが互いに関連のない部位であることも特徴的」であり,痛みの強さは「一般にあまり強くなく,痛みの内容も漠然としてお り」,治療は「精神安定薬,抗うつ薬の投与や精神療法が行われるが,一般になかなか治りにくい」などと記載されている。 上記各文献は,本 一般にあまり強くなく,痛みの内容も漠然としてお り」,治療は「精神安定薬,抗うつ薬の投与や精神療法が行われるが,一般になかなか治りにくい」などと記載されている。 上記各文献は,本件の技術分野に属する専門家により執筆されたものであり,その当時の技術常識を反映した書籍であるというべきところ,上記に摘示した各記載によれば,侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛及び心因性 疼痛は,その発症原因,痛みの態様・程度及び治療方法がそれぞれ異なるというのが本件特許出願当時の技術常識であり,痛みの種類を問わず,痛覚過敏又は接触異痛などの痛みの発症原因や機序は同一であり,いずれかの種類の痛みに対して有効な医薬品であれば,他の種類の痛みに対しても有効であるとの技術常識が存在したということはできない。 ウ以上によれば,本件化合物が神経障害又は心因性による痛覚過敏又は接 触異痛の痛みの治療に有効であることを示す薬理試験結果の記載もなく,本件明細書等の記載に接した当業者が,本件化合物がこれらの痛みの治療に有効であると認識し得たとは考えられない。 (4) したがって,本件明細書等の記載は訂正前発明1及び2を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであるということはできず,実施可 能要件を充足しない。 (5) 原告の主張についてこれに対し,原告は,本件特許出願当時,慢性疼痛は,それが侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛又は心因性疼痛のいずれによるものであっても,末梢や中枢の神経細胞の感作という神経の機能異常で生ずる痛覚過敏や接触異痛 の痛みであるとの技術常識が存在したので,当業者は,本件明細書等の記載及び同明細書等に記載された薬理試験から,本件化合物が同明細書等に記載された各種の痛みに有用である ずる痛覚過敏や接触異痛 の痛みであるとの技術常識が存在したので,当業者は,本件明細書等の記載及び同明細書等に記載された薬理試験から,本件化合物が同明細書等に記載された各種の痛みに有用であると認識することができたと主張する。 アその理由として,原告は,本件特許出願当時,ホルマリン試験等を用いた研究により,組織損傷や炎症の後に,興奮性アミノ酸を伝達物質とする NMDAレセプター作動性の中枢性感作を生ずることが知られ(甲39,46,47,49等),カラゲニンの炎症や,術後疼痛における感作についても,これと同様の機序であると理解されていた上(甲15の1,甲50,52,57,133,146等),神経損傷の後にも,同様にNMDAレセプター作動性の中枢性感作を生ずることが知られていたこと(甲4 1,42,46,55,59,80,86,128~130,134等)などを指摘する。 (ア) 確かに,傷害後疼痛過敏に関し,例えば,甲39・乙16〔審判乙16〕(「TheinductionandmaintenanceofcentralsensitizationisdependentonN-methyl-D-asparticacidreceptoractivation; i mplicationsforthetreatmentofpost-injurypainhypersensitiv itystates」293頁要約14,15行目,序論左欄1~6行目。平成3年公表)には,「中枢感作はヒトにおける損傷後疼痛過敏状態の原因となる可能性がある」,「末梢組織の損傷に続いて生じる痛覚過敏は,損傷付近の一次求心性侵害受容器の感受性の増大(末梢性感作)…および,脊髄におけるニューロンの興 ヒトにおける損傷後疼痛過敏状態の原因となる可能性がある」,「末梢組織の損傷に続いて生じる痛覚過敏は,損傷付近の一次求心性侵害受容器の感受性の増大(末梢性感作)…および,脊髄におけるニューロンの興奮性の増大(中枢性感作)の結果生じ る」との記載が,甲46〔審判乙23〕(「EvidenceforspinalN-methyl-D-aspartatereceptorinvolvementinprolongedchemicalnociceptionintherat」218頁要約下から3行目~末行。平成2年公表)には「ホルマリンによって生成される求心性集中砲火(が)…比較的に短いタイムスパンでNMDA介在性の中枢性活性を誘発し,この誘 発された活性が長期間の痛みの状態における侵害受容とその調節の変化の一つの基礎となっている可能性がある」との記載が,甲49〔審判乙26〕(「TheRoleofNMDAReceptor-operatedCalciumChannelsinPersistentNociceptionafterFormalin-inducedTissueInjury」3671頁左欄の要約部分下から6行目〜末行。平成4年公表)には 「この結果は,ホルマリン損傷により誘発された組織損傷後の中枢性感作および持続性侵害受容は,主にNMDA受容体作動性(比較的程度は低いが電位依存性の)カルシウムチャネルを介したカルシウム流入に依存することを示す。」との記載が存在する。 (イ) また,術後疼痛に関し,例えば,甲15の1〔審判丙四6〕(「Char acterizationofaratmodelofincisionalpain」500頁左欄36~39行目。平成8年公表)には し,例えば,甲15の1〔審判丙四6〕(「Char acterizationofaratmodelofincisionalpain」500頁左欄36~39行目。平成8年公表)には,「著者らは,傷の上10cmの位置での疼痛閾値の減少を検出し,これが中枢性感作による二次痛覚過敏であったことを示した。」との記載が,甲50〔審判乙27〕(「SpinalnitricoxidesynthesisinhibitionblocksNMDA-inducedtherma lhyperalgesiaandproducesantinociceptionintheformalintes tinrats」291頁要約下から3行目~末行,299頁左欄2~6行目。平成5年公表)には「この痛覚過敏要素は,脊髄のNMDA受容体の活性化によって開始され,それはNO 生成を介して求心性インプットの実際の増大処理および続く疼痛行動の関連する痛覚過敏要素に導く。」,「ヒトの術後疼痛状態は,…長引く求心性の活動や脊髄のNM DAレセプターを用いた動物モデルやシステムと少なからず類似している」との記載が,甲146(「IntrathecalAmitriptylineActsasanN-Methyl-D-AspartateReceptorAntagonistinthePresenceofInflammatoryHyperalgesiainRats」1046頁右欄13〜19行目。 平成7年公表)には「神経損傷と炎症のモデルは,結果として得られる 痛覚過敏の脊椎での薬理学及び生理学に一般的に違いはない。両方の種類のモデルにおいて,介入から維持される有害な感覚入力は,脊椎でのN−メ )には「神経損傷と炎症のモデルは,結果として得られる 痛覚過敏の脊椎での薬理学及び生理学に一般的に違いはない。両方の種類のモデルにおいて,介入から維持される有害な感覚入力は,脊椎でのN−メチル−D−アスパルテート(NMDA)レセプターの活動に依存して痛覚過敏を生ずるという強い証拠がある。」との記載がある。 (ウ) さらに,神経障害性疼痛に関し,甲42〔審判乙19〕(「Response ofchronicneuropathicpainsyndromestoketamine: apreliminarystudy」56頁左欄26~35行目。平成6年公表)には「動物の神経障害性疼痛モデルにおいて示唆されるように…,痛覚過敏はNMDA受容体によって介在される「ワインドアップ現象」の提示である可能性がある。これに関して神経障害性疼痛症候群における痛覚過敏はホルマ リン誘発性の痛みの第二相…に類似する。これらはすべて,NMDA受容体介在性の中枢性促通による脊髄レベルでのワインドアップ現象によって生じると思われる。」との記載が,前掲甲46〔審判乙23〕(218頁序論1~15行目)には「持続したあるいは慢性的な痛みに関連する多くの問題の一つは,長く持続する痛みのある種の形態を緩和する 難しさにあり,これは特に,神経損傷に関連する形態についてである。 …動物についての様々な研究は,末梢の侵害受容繊維(判決注:ママ)の感作が発生し得ること…を明らかに示し,さらに最近では,マイナー入力に対する後角の侵害受容的システムの反応を顕著に促進する,急速に誘発された中枢性過敏についての証拠が蓄積している。このようなメカニズムは,痛みを増幅し,持続する痛みの状態の問題に貢献する可能 性がある。」との記載 容的システムの反応を顕著に促進する,急速に誘発された中枢性過敏についての証拠が蓄積している。このようなメカニズムは,痛みを増幅し,持続する痛みの状態の問題に貢献する可能 性がある。」との記載がある。 (エ) 他方,前記(3)イ判示のとおり,甲79・乙1〔審判甲4〕,甲80・乙3〔審判甲5〕,甲84〔審判甲9〕等によれば,侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛及び心因性疼痛は,その発生原因,発現する痛みの態様や程度,治療方法等が異なるものと認められ,さらに,本件特許出願前 に公表された甲41〔審判乙18〕(「Nociceptormodulatedcentralsensitizationcausesmechanicalhyperalgesiainacutechemogenicandchronicneuropathicpain」588頁右欄32~43行目。平成6年公表)には,神経障害性疼痛について,「神経因性疼痛を有する患者が異種性であることは,以前に指摘されており…本研究により確認 された。調査により,異なる型の痛覚過敏が個々の患者に同時に存在し得ること,および単一の感覚異常が必ずしも他の感覚機能障害と関連するわけではないことが明らかとなった。また,機械的疼痛閾値の低下などの1つの症状が,同じ患者においても,異なる神経メカニズムによって媒介され得ることも指摘されている。」との記載がある。 また,心因性疼痛に分類される線維筋痛症について,甲60〔審判乙37〕(「BecomingFamiliarwithFibromyalgia」33頁左欄5~7行目,右欄下から18行目~末行。平成8年公表)には,「線維筋痛症は,睡眠障害に関連していると思われる筋肉の微小外傷によって引き起こされる可能性があるこ Fibromyalgia」33頁左欄5~7行目,右欄下から18行目~末行。平成8年公表)には,「線維筋痛症は,睡眠障害に関連していると思われる筋肉の微小外傷によって引き起こされる可能性があることも示唆されている。…神経伝達物質の不均衡もこ の疾患の原因として調査されている。…これらの不均衡に対する遺伝的 素因があるかもしれない…身体的外傷,心理社会的外傷,または感染が症状の発現を引き起こす可能性がある」,「原因は謎のままである。線維筋痛症に対する治療法はない。」との記載がある。 (オ) 以上によれば,上記(ア)ないし(ウ)の各記載から,侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛等で出現する痛覚過敏と,脊髄のNMDA受容体の活性化 による中枢性感作との間に関連性があるといい得るとしても,本件特許出願当時,本件明細書等に記載された侵害受容性疼痛(炎症性疼痛,術後疼痛,転移癌に伴う骨関節炎の痛み,痛風,火傷痛等)や神経障害性疼痛(三叉神経痛,急性疱疹性神経痛,糖尿病性神経障害,カウザルギー等)により出現する痛覚過敏がすべて末梢や中枢の神経細胞の感作と いう神経の機能異常により生じるとの技術常識が存在したとは認め難く,まして,これらの記載から,当業者が,薬理試験結果の記載もなく,本件化合物が神経障害性疼痛の治療に有効であると認識し得たということはできない。 イ原告は,甲129等を根拠に,組織損傷や炎症により神経を損傷し,逆 に神経損傷により炎症を生じるなどして,神経細胞の感作を生じて痛覚過敏や接触異痛を生ずることから,痛みを組織損傷,炎症,神経損傷,心因性の要因などの原因では明確に区別することはできず,炎症性疼痛や術後疼痛と神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛とは,相互に重複する痛みであると理解さ ることから,痛みを組織損傷,炎症,神経損傷,心因性の要因などの原因では明確に区別することはできず,炎症性疼痛や術後疼痛と神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛とは,相互に重複する痛みであると理解されていたと主張する。 (ア) しかし,本件特許出願当時の技術常識として,痛みは,侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛,心因性疼痛に区分され,それぞれの区分により,痛みの態様や程度が異なると認められることは,前記判示のとおりであり,甲129(「Painduetonervedamage: Areinflammatorymediatorsinvolved?」平成7年公表)にも,痛みを組織損傷,炎症,神経損 傷,心因性の要因などの原因で明確に区別することはできない旨の記載 は存在しない。 そうすると,侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛,心因性疼痛に共通して痛覚過敏や接触異痛の症状がみられるとしても,そのことから,痛みを組織損傷,炎症,神経損傷,心因性の要因などの原因では明確に区別することができず,炎症性疼痛,術後疼痛,神経障害性疼痛,線維筋痛 症に伴う疼痛とが相互に重複する痛みであると当業者から理解されていたということはできない。 (イ) 原告は,痛みを原因では明確に区別できず,各種の疼痛が相互に重複する痛みであると理解されていた例として,神経障害性疼痛を生ずる椎間板ヘルニアや手術後に神経障害性疼痛を生ずる複合性局所疼痛症候 群において,炎症により神経細胞の感作を生ずることが知られ(甲128,130),神経損傷の後にも神経細胞の感作を生ずることが知られていたことを挙げるが,甲128は神経根の炎症,甲130は反射神経の炎症によりそれぞれ生じた痛みであり,組織の損傷というよりも,神 8,130),神経損傷の後にも神経細胞の感作を生ずることが知られていたことを挙げるが,甲128は神経根の炎症,甲130は反射神経の炎症によりそれぞれ生じた痛みであり,組織の損傷というよりも,神経の損傷に起因して発生する痛みというべきものであるので,これらの 証拠から,本件特許出願当時,痛みを原因では明確に区別できず,各種の疼痛が相互に重複する痛みであると当業者から理解されていたということはできない。 また,原告は,糖尿病性神経障害においては神経損傷により直ちに疼痛を生ずるわけではなく,また,複合性局所疼痛症候群は神経損傷だけ でなく組織損傷によっても神経障害性疼痛を生ずる疾患とされていたなどと主張するが,仮に原告の主張するとおりであるとしても,そのことは,むしろ,痛みの発生する機序や態様等が多様であり,本件化合物の効果を確認するためには薬理試験が必要であることを示唆するものというべきである。 実際のところ,糖尿病性神経障害については,甲87(「糖尿病学」 783頁右欄下から9~8行目)に「糖尿病神経障害の疼痛に関する病態生理学的な基礎は確立していない」との記載があり,この記載に照らしても,本件化合物の神経障害性疼痛に対する効果を確認するためには薬理試験が必要であったというべきである。 ウ原告は,本件明細書等に記載された「炎症性疼痛」は,神経細胞の感作 による痛覚過敏や接触異痛による痛みであり,侵害受容性疼痛を意味しないとした上で,ホルマリン試験は,後期相が痛覚過敏や接触異痛の原因である中枢性感作を反映したものであることが知られ,神経障害性疼痛治療薬の研究に用いられており,本件明細書等においても,本件化合物が,ホルマリンの侵害刺激を反映した前期相には効果を奏さず,痛覚過敏や接触 る中枢性感作を反映したものであることが知られ,神経障害性疼痛治療薬の研究に用いられており,本件明細書等においても,本件化合物が,ホルマリンの侵害刺激を反映した前期相には効果を奏さず,痛覚過敏や接触 異痛の直接の原因である中枢性感作を反映した後期相に効果を奏することが確認されていると主張する。 (ア) しかし,炎症性疼痛が侵害受容性疼痛に該当することは,前掲甲80・乙3〔審判甲5〕(199頁右欄下から9~7行目)に「炎症や組織損傷による痛覚レセプターを異常に刺激することにより,痛覚求心系を激 しく興奮させる侵害受容性疼痛」と記載されていることなどからも明らかであり,本件明細書等における「炎症性疼痛」が侵害受容性疼痛以外に該当するとの原告の主張は採用し得ない。 (イ) また,前記判示のとおり,本件特許出願前に公表された前掲甲27〔審判乙4〕には,「ホルマリン試験は,動物における侵害刺激のモデルと して使用されてきている。」との記載が,前掲甲45〔審判乙22〕には,「ホルマリン試験は…侵害受容の標準的動物モデルの1つと考えるべきである。」との記載があることに加え,乙5〔審判甲22〕(「医薬品の開発」106頁22~25行目。平成2年公表)には,「侵害受容反応は希釈ホルマリン注射直後より発現し(第1相)5~10分後に いったん収まったのち,15分前後から再度発現し始め30~40分間 持続する(第2相)。第1相の反応はホルムアルデヒドにより侵害受容線維が直接刺激されて発現し,第2相は炎症性反応でプロスタグランジンの生成が関与していると考えられている。」との記載が存在する。これらの記載によれば,本件特許出願当時,ホルマリン試験は,侵害受容性疼痛に属する炎症性疼痛に対する医薬品等の効果を評 プロスタグランジンの生成が関与していると考えられている。」との記載が存在する。これらの記載によれば,本件特許出願当時,ホルマリン試験は,侵害受容性疼痛に属する炎症性疼痛に対する医薬品等の効果を評価する上で有 用なモデルと当業者から認識されていたと認めるのが相当である。 (ウ) これに対し,原告は,ホルマリン試験は,その後期相が痛覚過敏や接触異痛の原因である中枢性感作を反映したものであることは当業者に知られていたため,神経障害性疼痛治療薬の研究に用いられていたと主張する。 この点について,例えば,甲47〔審判乙24〕(「TheContributionofExcitatoryAminoAcidstoCentralSensitizationandPersistentNociceptionafterFormalin-inducedTissueInjury」3665頁右欄1~16行目。平成4年公表)には「我々は以前…損傷に誘導される中枢性感作の行動モデルとして,ホルマリン試験を用いた。…こ れは,ホルマリン応答の初期相の間に生じた神経作用が中枢神経系の機能の変化(すなわち,中枢性感作)を引き起こし,それが次いで後期相の間の処理に影響すること,をもたらし得ることを示唆する。」との記載が,前掲甲49〔審判乙26〕(3671頁左欄要約1~26行目。 平成4年公表)には,「ラットにおける組織損傷に対する応答である中 枢性感作および持続性侵害受容への細胞内カルシウムの貢献が,後肢へのホルマリンの皮下注射の後に調べられた。…この結果は,ホルマリン損傷により誘発された組織損傷後の中枢性感作および持続性侵害受容は,主にNMDA受容体作動性…カルシウムチャネルを介したカルシウム流入に依 マリンの皮下注射の後に調べられた。…この結果は,ホルマリン損傷により誘発された組織損傷後の中枢性感作および持続性侵害受容は,主にNMDA受容体作動性…カルシウムチャネルを介したカルシウム流入に依存することを示す」との記載があり,甲49~51〔審判乙 26~28〕の各文献には,ホルマリン試験の後期相を抑制する効果の ある化合物が痛覚過敏を抑制したことが記載されている。 上記各記載等によれば,ホルマリン試験による組織損傷に対する応答として中枢性感作が生じ,これが同試験の後期相の発現に影響を及ぼしている可能性があるとはいい得るが,上記各記載等をもって,同試験の後期相が中枢性感作の反映であるという技術常識が存在したとまでは 認められず,また,ホルマリン試験が,本件特許出願当時,神経障害性疼痛治療薬の研究に用いられていたと認めるに足りる証拠は存在しない。 さらに,本件化合物と異なる上記の化合物がホルマリン試験の後期相を抑制したことがあり,また,同試験により神経障害性疼痛治療薬の効 果が検討されることがあったとしても,そのことから,本件化合物が薬理試験もなく神経障害性疼痛や心因性疼痛に効果があると当業者が認識したとは考えられない。 エ原告は,当業者にカラゲニン試験が侵害受容性疼痛の試験と理解されることはないとした上で,同試験は,神経細胞の感作を反映したものとして 知られ,神経障害性疼痛治療薬の研究にも用いられており,本件明細書等においても,神経細胞の感作で生じた痛覚過敏に対する本件化合物の効果が確認されていると主張する。 (ア) しかし,本件明細書等には,カラゲニン痛覚過敏に対する試験結果について,「これらのデータは…CI-1008 が炎症性疼痛の処置に有効であ 効果が確認されていると主張する。 (ア) しかし,本件明細書等には,カラゲニン痛覚過敏に対する試験結果について,「これらのデータは…CI-1008 が炎症性疼痛の処置に有効であ ることを示す。」(6頁31,32行目)と記載されている上,本件特許出願前に公表された甲44〔審判乙21〕(「Anewandsensitivemethodformeasuringthermalnociceptionincutaneoushyperalgesia」77頁要約3,4行目。昭和63年公表)には「カラゲニンに誘発された炎症は,食塩水で処置した足と比較して有意に短い足回避潜時を もたらし,そしてこれらの潜時変化は熱侵害受容閾値の低下に対応し た。」との記載が,前掲甲57〔審判乙34〕(351頁左欄11~17行目)には,「カラゲニンは,炎症と痛覚過敏を誘発するために広く使用されている。カラゲニンで処理された動物における多くの行動試験は,炎症状態によって引き起こされる変化およびこれらの変化に対する様々な薬物の効果を決定するために,侵害性の圧力(足圧力試験)およ び侵害性の熱に対する足蹠回避を使用してきた。」との記載が存在する。 これらによれば,カラゲニン試験は,本件特許出願当時,侵害受容性疼痛に属する炎症性疼痛に対する医薬品等の効果を評価するものとして,当業者に広く知られていたものと認められる。 (イ) これに対し,原告は,本件特許出願当時,カラゲニン試験が侵害受容 性疼痛の試験と理解されることはなく,同試験により出現する疼痛は,神経細胞の感作を反映したものとして知られ,神経障害性疼痛治療薬の研究にも用いられていたと主張する。 しかし,カラゲニン試験が侵害受容性疼痛の ることはなく,同試験により出現する疼痛は,神経細胞の感作を反映したものとして知られ,神経障害性疼痛治療薬の研究にも用いられていたと主張する。 しかし,カラゲニン試験が侵害受容性疼痛の試験として知られていたことは前記判示のとおりであり,原告の挙げる証拠(甲56,57,1 46等。なお甲72は本件特許出願後に公表された文献である。)を総合しても,同試験により出現する疼痛が神経細胞の感作を反映したものとして当業者に認識されていたと認めることはできず,また,同試験が神経障害性疼痛の治療薬の研究に用いられていたとの事実を認めるに足りる証拠もない。 さらに,カラゲニン試験において,神経障害性疼痛治療薬の効果が研究されることがあったとしても,そのことから,本件化合物が薬理試験もなく神経障害性疼痛や心因性疼痛に効果があると当業者が認識したということはできない。 オ原告は,術後疼痛試験は,神経細胞の感作を反映したものであることが 知られており,本件明細書等においても,術後疼痛試験により,切開創の 治癒後も持続する,神経細胞の感作で生じた痛覚過敏や接触異痛に対する本件化合物の効果が確認されていると主張する。 (ア) しかし,術後疼痛が侵害受容性疼痛に該当することは,甲81・乙4〔審判甲6〕(「TheMassachusettsGeneralHospitalHandbookofPainManagement」32頁末行。平成8年公表)に「術後疼痛」が侵害受 容性疼痛に該当するものとして例示されているとおりであり,術後疼痛試験は,皮膚や筋膜,筋肉を切開することによって生じる侵害受容性疼痛に対する侵害受容反応を評価するものであると認められる。 (イ) こ 該当するものとして例示されているとおりであり,術後疼痛試験は,皮膚や筋膜,筋肉を切開することによって生じる侵害受容性疼痛に対する侵害受容反応を評価するものであると認められる。 (イ) これに対し,原告は,甲15の1,甲58等を挙げ,動物の皮膚を切開することにより,神経細胞の感作が起こり,痛覚過敏などの神経の機 能異常による症状が生ずることが知られており,これを痛覚過敏等の研究に使用することが技術常識であったと主張するが,原告の挙げる証拠のうち,例えば,甲15の1には「このモデルにより,手術を原因として生じた感作の機序を理解すること,及びヒトの術後疼痛に対する新たな治療の研究が可能になる。」(493頁要約下から2行目~末行)と の記載があるにとどまり,これらの証拠から,術後疼痛が神経細胞の感作を反映したものであるとの技術常識があったということはできない。 また,原告は,カプサイシン試験やマスタードオイル試験について記載された証拠(甲41等)も根拠に挙げるが,これらの試験は本件明細書等に記載された試験ではなく,術後疼痛試験が侵害受容性疼痛に対す る医薬品等の効果を評価するためのものとして知られていたとの上記結論を左右するものではない。 カ原告は,本件化合物は,本件明細書等において中枢神経疾患である「てんかん」に対して効果を有する既知の化合物であることが記載され,更に神経障害性疼痛や線維筋痛症を含む慢性疼痛の全体に対し,抗痛覚過敏作 用を有することにより効果を奏することが明示されていたと主張する。 しかし,本件明細書等には「本発明の化合物は,てんかん…のような中枢神経系疾患に対する抗発作療法に有用な既知の薬物である。」(2頁8~10行目)と記載されているとおり,抗発作作用を有 しかし,本件明細書等には「本発明の化合物は,てんかん…のような中枢神経系疾患に対する抗発作療法に有用な既知の薬物である。」(2頁8~10行目)と記載されているとおり,抗発作作用を有することが既知であったにすぎず,当業者が,同記載から,本件化合物が神経障害性疼痛や線維筋痛症を含む痛み全体に対し鎮痛効果を有すると認識するとは考え られない。 キ原告は,甲26,42,46,52〜55,70等に基づき,ホルマリン試験で中枢性感作を抑制することが確認されたケタミンが,広く神経障害性疼痛や線維筋痛症を含む慢性疼痛に効果を奏することも知られていたと主張する。 しかし,ケタミンが侵害受容性疼痛及び神経障害性疼痛等による痛覚過敏や接触異痛に効果を奏するとしても,本件化合物とは異なる化合物であり,侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛及び心因性疼痛により出現する痛覚過敏や接触異痛がすべて末梢や中枢の神経細胞の感作という神経の機能異常により生じるとの技術常識が存在したとは認められないことにも照 らすと,本件特許出願当時の当業者が,ケタミンに関する知見に基づき,薬理試験結果の記載もなく,本件化合物が神経障害性疼痛や心因性疼痛の治療に有効であると認識し得たとは考えられない。 ク原告は,本件明細書等において,組織損傷や炎症による通常の痛みに対して効果のあるモルヒネを比較例としていることから,当業者は,本件化 合物が,組織損傷や炎症による侵害刺激で生ずる通常の痛みではなく,神経細胞の感作による痛覚過敏や接触異痛に直接効果を奏すると理解すると主張する。 しかし,本件明細書等の薬理試験においては,ラットホルマリン足蹠試験についてギャバペンチンが,カラゲニン試験についてモルヒネ及びギャ バペンチンが,術後疼痛試験に ると理解すると主張する。 しかし,本件明細書等の薬理試験においては,ラットホルマリン足蹠試験についてギャバペンチンが,カラゲニン試験についてモルヒネ及びギャ バペンチンが,術後疼痛試験についてモルヒネ及びギャバペンチンが,そ れぞれ比較例として使用されているところ,本件明細書等にはモルヒネを比較例として使用した理由の記載はなく,侵害受容性疼痛に対する効果を確認する試験においてモルヒネを比較例として使用したからといって,そのことから,本件化合物が侵害受容性疼痛以外の痛みに効果があると当業者が認識するとは考えられない。 また,原告は,本件明細書等では,慢性疼痛である神経障害性疼痛に有効なギャバペンチンを比較例としてより優れた効果を有することも確認していることからすると,本件化合物は神経障害性疼痛にも効果があると当業者は認識すると主張する。 しかし,モルヒネと同様に,本件明細書等にはこれらの化合物を比較例 として使用した理由の記載はなく,侵害受容性疼痛に対する効果を確認する試験においてギャバペンチンを比較例として使用したからといって,そのことから,本件化合物が侵害受容性疼痛以外の痛みに効果があると当業者が認識するとは考えられない。 ケ原告は,本件明細書等において,当時まだ一般的に用いられていなかっ た動物モデルであるチャングモデルやベネットモデルがあることについても紹介しており,当業者はこれらの動物モデルにより容易に追試が可能であったと主張する。 しかし,本件明細書等に「BennettG.J.のアッセイはヒトに認められるのと類似の疼痛感覚の障害を生じるラットにおける末梢性単発神経障害の 動物モデルを提供する…。KimS.H.らのアッセイは,ラットにおける分節脊椎神経の結紮 J.のアッセイはヒトに認められるのと類似の疼痛感覚の障害を生じるラットにおける末梢性単発神経障害の 動物モデルを提供する…。KimS.H.らのアッセイは,ラットにおける分節脊椎神経の結紮によって生じる末梢神経障害の一つの実験モデルを提供する」(6頁33~36行目)との記載が存在するにとどまることは前記判示のとおりであり,他に,本件特許出願当時,本件化合物が侵害受容性疼痛以外の痛みに有効であることを上記動物モデル等により明らかにしたデ ータや資料等は存在しない。 (6) 以上によれば,本件明細書等の記載は訂正前発明1及び2を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではなく,同各発明に係る特許は特許法36条4項の規定に違反してされたものであるので,特許法123条1項4号に基づき特許無効審判により無効にされるべきものである。 3 争点1-2(無効理由2(サポート要件違反の有無))について (1) 特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術 常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高裁平成17年(行ケ)第10042号同年11月11日判決・判タ1192号164頁参照)。 (2) これを本件についてみると,前記1及び2で判示したとおり,訂正前発明1及び2が解決しようとする課題は,本件明細書等記載の神経障害性疼痛や 月11日判決・判タ1192号164頁参照)。 (2) これを本件についてみると,前記1及び2で判示したとおり,訂正前発明1及び2が解決しようとする課題は,本件明細書等記載の神経障害性疼痛や 心因性疼痛を含む様々な痛みの処置に有効な鎮痛剤を提供することにあるところ,本件明細書等には,本件化合物が侵害受容性疼痛に対して効果を有することは記載されているものの,本件特許出願当時の技術常識を斟酌しても,それ以外の疼痛に対して効果を有すると当業者が認識することはできない。 そうすると,本件明細書等の記載に接した当業者が訂正前発明1及び2に より,上記の課題を解決できると認識できるということはできない。 (3) したがって,訂正前発明1及び2に係る特許は,サポート要件に違反する。 4 争点2-1(無効理由の解消の有無)及び争点2-2(訂正要件の具備の有無)について(1) 願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面の訂正は,その記載した 事項の範囲内においてしなければならない(特許法134条の2第9項,1 26条5項)。ここでいう「明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内」とは,当業者によって,明細書又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであることをいう。 (2) これを本件についてみると,本件訂正は,本件訂正請求前の請求項1及び 2に記載された鎮痛剤の処置対象を,それぞれ,「痛み」から「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」に(構成要件1B),「…である請求項1記載の鎮痛剤」から「…を含有する,神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤」(構成要件2A~2C)に訂正しようとする み」に(構成要件1B),「…である請求項1記載の鎮痛剤」から「…を含有する,神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤」(構成要件2A~2C)に訂正しようとするものである。 前記2で判示したとおり,本件明細書等には,本件化合物が侵害受容性疼痛に対して効果を有することは記載されているものの,本件特許出願当時の技術常識を斟酌しても,それ以外の疼痛に対して効果を有すると当業者が認識することはできない。 このように,本件明細書等には,神経障害又は線維筋痛症を含む侵害受容 性疼痛以外の疼痛により生じた痛覚過敏や接触異痛について本件化合物が効果を有すると認識し得るだけの記載はないところ,請求項1を「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」に訂正することは,本件明細書等からはその効果を認識し得ない,侵害受容性疼痛以外の疼痛により生じた痛覚過敏や接触異痛の痛みの処置を請求項1に導入するものであり,また,請求項2に「神経障害又 は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置」を加えることも,同様に,本件明細書等からはその効果を認識し得ない,侵害受容性疼痛以外の疼痛である神経障害や線維筋痛症により生じた痛覚過敏や接触異痛の痛みの処置を請求項2に特定して導入するものであるということができる。 (3) そうすると,請求項1及び2に係る上記訂正は,いずれも,本件明細書等 の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において, 新たな技術的事項を導入するものであるというべきであり,訂正要件を具備しない。 (4) 仮に,請求項1及び2に係る本件訂正が訂正要件を具備するとしても,前記2で判示したとおり,本件明細書等には,神経障害又は線維筋痛症を含む侵害受容性疼痛以外の疼痛に 訂正要件を具備しない。 (4) 仮に,請求項1及び2に係る本件訂正が訂正要件を具備するとしても,前記2で判示したとおり,本件明細書等には,神経障害又は線維筋痛症を含む侵害受容性疼痛以外の疼痛により生じた痛覚過敏や接触異痛について本件化 合物が効果を有すると認識し得るだけの記載はないので,同明細書等は,当業者が本件発明1及び2を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものとは認められず,また,当業者がその記載により同各発明の課題を解決できると認識し得たとも認められない。 したがって,訂正前発明1及び2に係る特許の無効理由は本件訂正により 解消されるものではなく,本件発明1及び2に係る特許は実施可能要件及びサポート要件に反し,特許無効審判により無効にされるべきものである。 5 争点3-1(構成要件3B及び4Bの充足性)について(1) 本件発明3に係る構成要件3Bは「炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みの処置における」というものであり,本件発明4に係る構成要 件4Bは「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛みの処置における」というものである。 上記各発明に係る請求項の訂正の趣旨について,原告は,本件訂正の際に原告が特許庁に提出した上申書(甲18,乙11)において,「訂正発明3及び4において,鎮痛剤の処置対象である痛みを,審決の予告において実施 可能要件及びサポート要件を満たすと判断された『炎症を原因とする痛み(炎症性疼痛)』及び『手術を原因とする痛み(術後疼痛)』に限定した。」(9頁)などと説明しているところ,前記第4の2(2)イのとおり,構成要件3Bの「炎症を原因とする痛み」,「手術を原因とする痛み」及び構成要件4Bの「炎症性疼痛」,「術後疼痛」は,いずれ 定した。」(9頁)などと説明しているところ,前記第4の2(2)イのとおり,構成要件3Bの「炎症を原因とする痛み」,「手術を原因とする痛み」及び構成要件4Bの「炎症性疼痛」,「術後疼痛」は,いずれも,侵害受容性疼痛に分類され る炎症性疼痛や術後疼痛を意味し,神経障害性疼痛や線維筋痛症は含まれな いものと解するのが相当である。 (2) 被告医薬品の充足性について前記前提事実(8)アによれば,被告医薬品は「効能・効果を神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛とする」ものであり,「炎症を原因とする痛み」,「手術を原因とする痛み」,「炎症性疼痛」又は「術後疼痛」を処置対象と するものではないから,構成要件3B及び4Bを充足しない。 (3) 原告の主張について原告は,慢性疼痛は,原因にかかわらず,神経細胞の感作という神経の機能異常で生ずることが知られていたことや,痛みを原因で区別することはできず,炎症性疼痛や術後疼痛と,神経障害性疼痛や線維筋痛症とは,相互に 重複することが理解されていたことなどを根拠として,構成要件3B及び4Bの充足性を否定するが,原告のかかる主張が採用し得ないことは前記2で判示したとおりである。 また,原告は,炎症や手術による組織損傷から神経細胞の感作という神経の機能異常を生じ,痛覚過敏や接触異痛を生ずることなどを理由に,神経障 害性疼痛を効能,効果とする被告医薬品は,炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みを用途とするものであると主張するが,侵害受容性疼痛において神経細胞の感作が生じることがあるとしても,そのことから,「神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛」を効能・効果とする被告医薬品の用途が炎症を原因とする痛み又は手術を原因とする痛み等であるということ の感作が生じることがあるとしても,そのことから,「神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛」を効能・効果とする被告医薬品の用途が炎症を原因とする痛み又は手術を原因とする痛み等であるということ はできない。 さらに,原告は,痛みは患者の主観的心理状態であるから,混合性疼痛において,侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛とは,同一の患者において生ずる一つの痛みであり,両者を区別できないなどと主張するが,実際の臨床の場において患者の訴える痛みがいかなる種類の疼痛に当たるかの判断が困難な 場合があるとしても,そのことは,構成要件充足性に関する上記議論を左右 しない。 (4) したがって,被告医薬品が本件発明3及び4の技術的範囲に属するということはできない。 6 争点3-2(均等侵害の成否)について原告は,被告医薬品が構成要件3B及び4Bの文言を充足しない場合であっ ても,均等侵害が成立すると主張する。 しかし,相手方が製造等をする製品(対象製品)が,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属すると認められるためには,当該対象製品が特許請求の範囲に記載された構成と異なる部分が特許発明の本質的部分ではないことを要する(第1要件)。 本件発明3及び4と被告医薬品との相違部分は,その用途にあるところ,同各発明は,既知の薬物である本件化合物が,侵害受容性疼痛の治療に有効であることを新たに見出したことにあるので,その用途が同各発明の本質的部分を構成することは明らかである。 したがって,被告医薬品は,第1要件を充足しないので,均等侵害は成立し ない。 7 まとめ以上によれば,訂正前発明1及び2に係る特許は,実施可能要件及びサポート要件の各違反を理由に特許 したがって,被告医薬品は,第1要件を充足しないので,均等侵害は成立し ない。 7 まとめ以上によれば,訂正前発明1及び2に係る特許は,実施可能要件及びサポート要件の各違反を理由に特許無効審判により無効にされるべきものであり,本件訂正は訂正要件を具備せず,同訂正によっても上記各無効理由が解消されな い。また,被告医薬品は,本件発明3及び4の技術的範囲に属しない。 したがって,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がない。 第5 結論よって,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも 理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 佐藤達文 裁判官 小田誉太郎 裁判官 齊藤敦 (別紙)物件目録 1 (S)−3−(アミノメチル)−5−メチルヘキサン酸(一般名:プレガバリン)を有効成分とし,「効能又は効果」として「神経障害性疼痛」又は「線維筋痛症 に伴う疼痛」を含む医薬品(商品名が以下のものを含む。)・プレガバリンOD錠25mg「ケミファ」・プレガバリンOD錠75mg「ケミファ」・プレガバリンOD錠150mg「ケミファ」 2 (S)−3−(アミノメチル)−5−メチルヘキサン酸(一般名:プレガバリン) を有効成分とし,「効能又は効果」として「神経障害性疼痛」又は「線維筋痛症に伴う疼痛」を含む医薬品( ミファ」 2 (S)−3−(アミノメチル)−5−メチルヘキサン酸(一般名:プレガバリン) を有効成分とし,「効能又は効果」として「神経障害性疼痛」又は「線維筋痛症に伴う疼痛」を含む医薬品(商品名が以下のものを含む。)・プレガバリンOD錠25mg「NPI」・プレガバリンOD錠75mg「NPI」・プレガバリンOD錠150mg「NPI」 以上 (別紙)延長登録目録 1 出願年月日平成22年6月25日出願番号 2010-700105号 延長の期間 4年9月14日登録年月日平成22年11月24日特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容(1) 特許権の存続期間の延長理由となる処分薬事法第14条第1項に規定する医薬品に係る同項の承認 (2) 処分を特定する番号承認番号 22200AMX00297000(3) 処分の対象となった物プレガバリン(販売名:リリカカプセル25mg)(4) 処分の対象となった物について特定された用途 帯状疱疹後神経痛 2 出願年月日平成22年6月25日出願番号 2010-700106号延長の期間 4年9月14日 登録年月日平成22年11月24日特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容(1) 特許権の存続期間の延長理由となる処分薬事法第14条第1項に規定する医薬品に係る同項の承認(2) 処分を特定する番号 承認番号 22200AMX00298000 (3) 処分の対象となった物プレガバリン(販売名 に係る同項の承認(2) 処分を特定する番号 承認番号 22200AMX00298000 (3) 処分の対象となった物プレガバリン(販売名:リリカカプセル75mg)(4) 処分の対象となった物について特定された用途帯状疱疹後神経痛 3 出願年月日平成22年6月25日出願番号 2010-700107号延長の期間 4年9月14日登録年月日平成22年11月24日特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容 (1) 特許権の存続期間の延長理由となる処分薬事法第14条第1項に規定する医薬品に係る同項の承認(2) 処分を特定する番号承認番号 22200AMX00299000(3) 処分の対象となった物 プレガバリン(販売名:リリカカプセル150mg)(4) 処分の対象となった物について特定された用途帯状疱疹後神経痛 4 出願年月日平成23年1月14日 出願番号 2011-700002号延長の期間 5年登録年月日平成24年2月15日特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容(1) 特許権の存続期間の延長理由となる処分 薬事法第14条第9項に規定する医薬品に係る同項の承認 (2) 処分を特定する番号承認番号 22200AMX00297000(3) 処分の対象となった物プレガバリン(販売名:リリカカプセル25mg)(4) 処分の対象となった物について特定された用途 末梢性神経障害性疼痛(帯状疱疹後神経 (3) 処分の対象となった物プレガバリン(販売名:リリカカプセル25mg)(4) 処分の対象となった物について特定された用途 末梢性神経障害性疼痛(帯状疱疹後神経痛を除く) 5 出願年月日平成23年1月14日出願番号 2011-700003号延長の期間 5年 登録年月日平成24年2月15日特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容(1) 特許権の存続期間の延長理由となる処分薬事法第14条第9項に規定する医薬品に係る同項の承認(2) 処分を特定する番号 承認番号 22200AMX00298000(3) 処分の対象となった物プレガバリン(販売名:リリカカプセル75mg)(4) 処分の対象となった物について特定された用途末梢性神経障害性疼痛(帯状疱疹後神経痛を除く) 6 出願年月日平成23年1月14日出願番号 2011-700004号延長の期間 5年登録年月日平成24年2月15日 特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容 (1) 特許権の存続期間の延長理由となる処分薬事法第14条第9項に規定する医薬品に係る同項の承認(2) 処分を特定する番号承認番号 22200AMX00299000(3) 処分の対象となった物 プレガバリン(販売名:リリカカプセル150mg)(4) 処分の対象となった物について特定された用途末梢性神経障害性疼痛(帯状疱疹後神経痛を除く) 7 出願年月日平成24年8月30日 出願番号 50mg)(4) 処分の対象となった物について特定された用途末梢性神経障害性疼痛(帯状疱疹後神経痛を除く) 7 出願年月日平成24年8月30日 出願番号 2012-700107号延長の期間 5年登録年月日平成25年10月23日特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容(1) 特許権の存続期間の延長理由となる処分 薬事法第14条第9項に規定する医薬品に係る同項の承認(2) 処分を特定する番号承認番号 22200AMX00297000(3) 処分の対象となった物プレガバリン(販売名:リリカカプセル25mg) (4) 処分の対象となった物について特定された用途線維筋痛症に伴う疼痛 8 出願年月日平成24年8月30日出願番号 2012-700108号 延長の期間 5年 登録年月日平成25年10月23日特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容(1) 特許権の存続期間の延長理由となる処分薬事法第14条第9項に規定する医薬品に係る同項の承認(2) 処分を特定する番号 承認番号 22200AMX00298000(3) 処分の対象となった物プレガバリン(販売名:リリカカプセル75mg)(4) 処分の対象となった物について特定された用途線維筋痛症に伴う疼痛 9 出願年月日平成24年8月30日出願番号 2012-700109号延長の期間 5年登録年月日平成25年10月23日 特許法第67条第2項 9 出願年月日平成24年8月30日出願番号 2012-700109号延長の期間 5年登録年月日平成25年10月23日 特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容(1) 特許権の存続期間の延長理由となる処分薬事法第14条第9項に規定する医薬品に係る同項の承認(2) 処分を特定する番号承認番号 22200AMX00299000 (3) 処分の対象となった物プレガバリン(販売名:リリカカプセル150mg)(4) 処分の対象となった物について特定された用途線維筋痛症に伴う疼痛 10 出願年月日平成25年4月26日 出願番号 2013-700062号延長の期間 5年登録年月日平成26年4月23日特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容(1) 特許権の存続期間の延長理由となる処分 薬事法第14条第9項に規定する医薬品に係る同項の承認(2) 処分を特定する番号承認番号 22200AMX00297000(3) 処分の対象となった物プレガバリン(販売名:リリカカプセル25mg) (4) 処分の対象となった物について特定された用途神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛(末梢性神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛を除く) 11 出願年月日平成25年4月26日 出願番号 2013-700063号延長の期間 5年登録年月日平成26年4月23日特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容 4月26日 出願番号 2013-700063号延長の期間 5年登録年月日平成26年4月23日特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容(1) 特許権の存続期間の延長理由となる処分 薬事法第14条第9項に規定する医薬品に係る同項の承認(2) 処分を特定する番号承認番号 22200AMX00298000(3) 処分の対象となった物プレガバリン(販売名:リリカカプセル75mg) (4) 処分の対象となった物について特定された用途 神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛(末梢性神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛を除く) 12 出願年月日平成25年4月26日出願番号 2013-700064号 延長の期間 5年登録年月日平成26年4月23日特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容(1) 特許権の存続期間の延長理由となる処分薬事法第14条第9項に規定する医薬品に係る同項の承認 (2) 処分を特定する番号承認番号 22200AMX00299000(3) 処分の対象となった物プレガバリン(販売名:リリカカプセル150mg)(4) 処分の対象となった物について特定された用途 神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛(末梢性神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛を除く)以上 (別紙)原告の主張 第1 訂正前発明1及び2 1 訂正前発明1及び2に係る特許は特許無効審判により無効にされるべきもの であ 筋痛症に伴う疼痛を除く)以上 (別紙)原告の主張 第1 訂正前発明1及び2 1 訂正前発明1及び2に係る特許は特許無効審判により無効にされるべきもの であるか(争点1)(1) 無効理由1(実施可能要件違反の有無)(争点1-1)ア本件各発明(及び訂正前各発明)は,これまで有効な治療法の存在しなかった,神経障害性疼痛や線維筋痛症の画期的治療薬であり,多額の研究開発投資を重ねて生まれたパイオニア発明である(訴状。甲123,12 5)。また,本件優先日当時,疼痛分野の技術発展は目覚ましく,本件各発明(及び訂正前各発明)は,本件優先日直前である1990年代中頃までに,組織損傷や炎症の侵害刺激から生ずる通常の痛みと区別された,神経の機能異常による慢性疼痛の存在が理解され,ホルマリン試験等を用いて感作のメカニズムの理解が進んだことにより(甲68,69,124), 中枢神経系に作用する既知の薬剤の疼痛治療効果が再検討され,その中から,本件化合物が感作を抑制することを見出してなされたものである(甲5)。本件明細書等は,本件優先日当時の技術常識に照らして可能な限りの記載がなされているから,記載要件は必要以上に厳格に適用されるべきではない(原告第4準備書面「第2の1」,原告第8準備書面「第1」。 甲101)。痛みの詳細なメカニズムを論ずるまでもなく,通常の痛みと区別された慢性疼痛のうち,ホルマリン,カラゲニン,術後の痛みに効果を奏したことで,記載要件としては十分である。 イ訂正前発明1及び2の痛みは,本件明細書等を参照すると,麻薬性鎮痛剤やNSAID(非ステロイド性抗炎症薬)では効果が不十分な慢性疼痛 と解釈できる(原告第4準備書面「第7」)。 慢性疼痛は, 痛みは,本件明細書等を参照すると,麻薬性鎮痛剤やNSAID(非ステロイド性抗炎症薬)では効果が不十分な慢性疼痛 と解釈できる(原告第4準備書面「第7」)。 慢性疼痛は,組織損傷や炎症の侵害刺激による通常の痛みとは異なり,原因にかかわらず,組織損傷や炎症によるものであっても,神経損傷その他神経の障害によるものであっても,心因性の要因によるものであっても,神経障害性疼痛や線維筋痛症におけるものであっても,いずれも末梢や中枢の神経細胞の感作という神経の機能異常で生ずる痛覚過敏や接触異痛 の痛みである(原告第3準備書面「第1」,「第2」,原告第8準備書面「第2の3」,原告第9準備書面「第2の1」,「第4の3」,原告第11準備書面「第1」)。かかる痛覚過敏や接触異痛の痛みに対しては,ケタミン等の研究により,その直接の原因である神経細胞の感作を抑制することで,原因にかかわらず痛みを治療できることが知られていた(原告第 3準備書面「第6」,原告第9準備書面「第4の7」)。 具体的には,慢性疼痛に共通する痛覚過敏や接触異痛の機序として,ホルマリン試験等を用いた研究により,組織損傷や炎症の後に,興奮性アミノ酸を伝達物質とするNMDAレセプター作動性の中枢性感作を生ずることが知られており(甲39,46,47,49等),カラゲニンの炎症 や,術後疼痛における感作も,これと同様の機序であると理解されていた(甲15の1,甲50,52,57,133,146等)。 「この結果は,ホルマリン損傷により誘発された組織損傷後の中枢性感作および持続性侵害受容は,主にNMDA受容体作動性(比較的程度は低いが電位依存性の)カルシウムチャネルを介したカルシウム 流入に依存することを示す。」(甲49〔3671頁左欄Summar 性感作および持続性侵害受容は,主にNMDA受容体作動性(比較的程度は低いが電位依存性の)カルシウムチャネルを介したカルシウム 流入に依存することを示す。」(甲49〔3671頁左欄Summary 下から6行目〜末行〕)「モデルは急増しているけれども,神経損傷と炎症のモデルは,結果として得られる痛覚過敏の脊椎での薬理学及び生理学に一般的に違いはない。両方の種類のモデルにおいて,介入から維持される有害な 感覚入力は,脊椎でのN−メチル-D−アスパルテート(NMDA)レ セプターの活動に依存するという強い証拠がある。そのため,NMDAレセプターアンタゴニストのクモ膜下腔内注射は,かかるモデルにおいて痛覚過敏を妨げ,元に戻すのであり,さらにNMDAレセプターアンタゴニストのクモ膜下腔内注射により長く続く神経障害性疼痛の患者の痛覚過敏や異痛が減少するという事実は,これらのモデルが 臨床と関係することを示す。」(甲146〔1046頁右欄12〜25行目〕)一方,神経損傷の後にも,同様にNMDAレセプター作動性の中枢性感作を生ずることが知られていた(甲41,42,46,55,59,80,86,128~130,134等)。 「興奮性アミノ酸(EAA)は,神経系における侵害受容情報の伝達に関与する。N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体は,EAAグルタミン酸の受容体サブタイプの1 つであり,神経傷害疼痛の発症において重要な役割を果たすと考えられる(概説については,Coderre ら,1993 を参照されたい)。中枢性NMDA受容体の遮 断は,神経傷害によって引き起こされる侵害受容挙動を低減し(Seltzer ら,1991),一次求心性C線維の刺激の延長によって引き起こされる侵害 を参照されたい)。中枢性NMDA受容体の遮 断は,神経傷害によって引き起こされる侵害受容挙動を低減し(Seltzer ら,1991),一次求心性C線維の刺激の延長によって引き起こされる侵害受容細胞における過剰興奮性を減少させる(Davies およびLodge 1987; Dickenson およびSullivan 1987)。」(甲55〔221頁左欄2行目〜右欄2行目〕) 「過興奮の認められる痛覚求心路では,興奮性アミノ酸を伝達物質とするNMDAレセプターが著しく増加し(図5.46),その拮抗薬であるMK−801の投与で,過興奮を60%以上,用量依存性に抑制できることが判明した。」(甲80〔202頁左欄下から3行目〜右欄2行目〕) 「障害部位での過放電とそれより上位の痛覚求心系を異常興奮させて 除神経性疼痛を発生せしめるものと考えられる。」(甲80〔202頁右欄11〜13行目〕)そのため当業者は,原因にかかわらず,痛覚過敏や接触異痛を生ずる感作の機序は同一であると考えており(甲146等),組織損傷や炎症の疼痛モデルの結果を用いて,神経障害性疼痛や線維筋痛症等の慢性疼痛が研 究されていた(甲26,41~43,46,59,64,69,73等)。 そして,ホルマリン試験で中枢性感作を抑制することが確認されたケタミンが(甲46),広く神経障害性疼痛や線維筋痛症を含む慢性疼痛に効果を奏することも知られていた(甲26,42,52〜55,70等)。 ウまた,本件優先日当時,上記のように原因にかかわらず神経細胞の感作 により痛覚過敏や接触異痛を生ずることに加え(原告第3準備書面「第2」),組織損傷や炎症により神経を損傷し,逆に神経損傷により炎症を生じ,更にはストレスで侵害刺激を生じ,侵 ず神経細胞の感作 により痛覚過敏や接触異痛を生ずることに加え(原告第3準備書面「第2」),組織損傷や炎症により神経を損傷し,逆に神経損傷により炎症を生じ,更にはストレスで侵害刺激を生じ,侵害刺激がストレスで増幅され,これらの原因で神経細胞の感作を生じて痛覚過敏や接触異痛を生ずることから,痛みを組織損傷,炎症,神経損傷,心因性の要因といった原因では明確に 区別できず,炎症性疼痛や術後疼痛と神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛とは,相互に重複する痛みであることが理解されていた(原告第8準備書面「第2の2」,「第3」,原告第9準備書面「第3の2(1)」,「第4の2及び6(1)」,原告第10準備書面「第2の2ないし5」,原告第11準備書面「第2」等)。 例えば,優先日当時,神経障害性疼痛を生ずる椎間板ヘルニアは,筋肉や関節等の末梢組織の損傷と,神経の圧迫等の両方から,炎症により神経細胞の感作を生ずることが知られており(甲128),神経障害性疼痛を生ずる複合性局所疼痛症候群(反射性交感神経性ジストロフィーを含む。)も,炎症により神経細胞の感作を生ずることが知られていた(甲130)。 また,本件優先日当時,組織損傷や炎症の痛みにおいて,マクロファー ジや交感神経が作用し,プロスタグランジン(PG)E2及びPGI2,IL−1β,IL−6,IL−8,TNFαなどの物質を生じ,これらが神経細胞の感作を生ずることが知られていた(甲9)。 「BKはまた,他の細胞や交感神経終末からPGE2やPGI2などのプロスタノイドを放出させ,マクロファージからはIL−1やTNF −α などのサイトカインを放出させる。(中略)TNF−α や,IL−1β,IL−6,IL−8などのサイトカインも,プロスタノイドの産 タノイドを放出させ,マクロファージからはIL−1やTNF −α などのサイトカインを放出させる。(中略)TNF−α や,IL−1β,IL−6,IL−8などのサイトカインも,プロスタノイドの産生を刺激し,交感神経終末を興奮させることにより,炎症時のhyperalgesia の形成に関与している。」(甲9〔50頁13〜17行目〕)一方,神経損傷の後にも全く同様に,マクロファージや交感神経が作用 し,PGE2及びPGI2,IL−1β,IL−6,IL−8,TNFαなどの物質を生じ,神経細胞の感作を生ずることが知られていた(甲129)。 「末梢神経は在住マクロファージを含有し,ラットの坐骨神経細胞の1〜4%を構成する[37]。末梢神経が損傷すると,マクロファージが傷害された神経に集まり[38,39],縮退した軸索とミエ リン鞘を除去するのに貢献する[40]。マクロファージは,幅広い範囲の物質を分泌し[41],そのいくつかは直接又は間接に侵害受容器を活性化する。これらの物質は,プロスタグランジンE2及びI2を含み,一次求心性入力を感作させる[19,23]。マクロファージはまた,サイトカインであるIL1−β,IL−6,IL−8及びTN Fα,更にロイコトリエンLTB4を放出する[41,42]。上記のサイトカインは全て,痛覚過敏を生じるが[24],この場合には間接作用を有する。IL1−β及びIL−6の場合には痛覚過敏の効果はプロスタグランジンの合成により媒介される[24]。ロイコトリエンB4もまたおそらく間接的なメカニズムにより痛覚過敏を生じ[3 1],多形核ロイコサイトの活性化を伴う(後記)。マクロファージ はまた,一酸化窒素を放出し[43],これは末梢の痛覚過敏に寄与し得る[44,45]。 り痛覚過敏を生じ[3 1],多形核ロイコサイトの活性化を伴う(後記)。マクロファージ はまた,一酸化窒素を放出し[43],これは末梢の痛覚過敏に寄与し得る[44,45]。それ故に,Frisenにより提案されているとおり[38],神経傷害で生ずる痛覚過敏にマクロファージが寄与するというのがもっともであろう。」(甲129〔408頁左欄27行目〜右欄4行目〕) 「節後交感神経ニューロンは,それ故に,炎症に役割を果たし得る。 交感神経切除によるこれらのニューロンの除去により,末梢神経障害の動物モデルにおいて[5,52,53],そしてカウザルギーの患者においても[2]痛覚過敏が緩和された。」(甲129〔409頁左欄27〜31行目〕) 「この考えに従うと,ノルアドレナリンは,交感神経終末に位置するアデノレセプターに作用する[22]。この作用により,プロスタグランジンE2及びI2の合成が促進され[54,55],そしてこれらのプロスタグランジンの放出は痛覚過敏を生じ,交感神経切除により緩和する。それ故に,神経障害による痛覚過敏は,インドメタシン 等のプロスタグランジン合成阻害剤によって緩和されるべきであると予期される。これは,神経傷害の2つの動物モデルで示されている[5,22]。」(甲129〔409頁左欄42〜51行目〕)このように,原因にかかわらず,痛覚過敏や接触異痛は,等しく神経細胞の感作で生ずることに加え(上記イ),感作に至るまでの炎症性メディ エーターの動作等を含めて同様のものであり,区別できないことが理解されていた。そのため,神経障害性疼痛に対し,抗炎症薬であるステロイドの投与による治療も行われていた(甲137,138)。 さらに,手術で末梢神経損傷に至らない場合でも,皮神経終末を ないことが理解されていた。そのため,神経障害性疼痛に対し,抗炎症薬であるステロイドの投与による治療も行われていた(甲137,138)。 さらに,手術で末梢神経損傷に至らない場合でも,皮神経終末を損傷するし(甲123,125,126),糖尿病性神経障害の例から明らかな ように,神経損傷により直ちに疼痛を生ずるわけではない(甲123,1 31,132)。また,複合性局所疼痛症候群(反射性交感神経性ジストロフィーを含む。)は,手術後に神経障害性疼痛を生ずるところ,神経損傷だけでなく組織損傷によっても神経障害性疼痛を生ずる疾患とされていた(甲62,134)。したがって,手術により神経を損傷したか否かにより,術後疼痛と神経障害性疼痛とを区別できないことも明らかであっ た。 エそのため,当業者は,既に述べたとおり,実験的疼痛状態を生じさせる動物またはヒトの疼痛モデルの症状に着目し,炎症や組織損傷により痛覚過敏や接触異痛を生じさせるモデルを利用して,神経障害性疼痛や線維筋痛症等の慢性疼痛の研究を行っていた(原告第3準備書面「第3」,「第 4」,原告第9準備書面「第2の4」,「第4の5」)。 例えば,ホルマリン試験により神経障害性疼痛治療薬であるケタミン,MK−801,オピオイド,その他中枢神経系抑制薬の効果が検討され(甲46,47,49,64),中枢性感作の機序が研究されていた(甲45~51)。また,カラゲニン試験でも,神経障害性疼痛治療薬であるアミ トリプチリン,オピオイド等の効果が検討され(甲56,146),神経細胞の感作の機序も研究されていた(甲57,72)。術後疼痛試験も,神経細胞の感作を研究する動物モデルとして生み出された(甲15の1)。 さらに,カプサイシン試験やマスタードオイル試験により ),神経細胞の感作の機序も研究されていた(甲57,72)。術後疼痛試験も,神経細胞の感作を研究する動物モデルとして生み出された(甲15の1)。 さらに,カプサイシン試験やマスタードオイル試験により,神経細胞の感作で生ずるヒトの神経障害性疼痛に対する薬剤の効果及び機序が研究さ れていた(甲26,39,41,59,73)。 疼痛治療薬の分野だけでなく,抗がん剤や糖尿病治療薬,認知症治療薬,うつ病治療薬等の隣接分野でも,同様の理由から当業者は症状に着目して動物モデルを用いていた(原告第4準備書面「第6の8」。甲14,31~37)。疼痛の動物モデルは,人工的に痛みを生じさせるモデルであり, かつヒトではなく動物のモデルであることから,ヒトの具体的な疾患とは 原因や病態生理が異なり,動物モデルでは効果のあった薬剤が,ヒトの治療薬として認められないことがあるが,そのことにより,動物モデルが疼痛治療薬のスクリーニングに利用できないということにはならない(原告第4準備書面「第5の3(3)」,原告第9準備書面「第2の2」,「第4の4(8)」)。仮に動物モデルによりヒトの疾患の病態生理を正確に模倣する ことを要求した場合,そのような動物モデルなど存在しないことから,特許の取得は不可能となる(原告第9準備書面「第4の4(8)」)。 オ本件優先日当時,ベネットモデルやチャングモデルなどの神経障害によって痛みを生じさせる動物モデルは開発途上であり,広く用いられていなかった(原告第8準備書面「第1」,原告第9準備書面「第2の3」。甲 2,85)。神経細胞の感作の機序が共通するのであるから,ベネットモデルやチャングモデルが存在したからといって,ホルマリン試験,カラゲニン試験,術後疼痛試験を用いて慢性疼痛の研究ができない 2,85)。神経細胞の感作の機序が共通するのであるから,ベネットモデルやチャングモデルが存在したからといって,ホルマリン試験,カラゲニン試験,術後疼痛試験を用いて慢性疼痛の研究ができないということにはならない(原告第9準備書面「第2の3」,「第4の5(4)」)。 カ本件化合物は,本件明細書等において,中枢神経系に作用するGABA 類縁体であり,中枢神経の過活動により生ずる疾患である「てんかん」に対して効果を有する既知の化合物であることが述べられ,更に神経障害性疼痛や線維筋痛症を含む慢性疼痛の全体に対し,抗痛覚過敏作用を有することにより効果を奏することが明示されている。 キホルマリン試験は,慢性疼痛の試験として誕生し,後期相が痛覚過敏や 接触異痛の原因である中枢性感作を反映したものであることが知られていたため,神経障害性疼痛治療薬の研究に用いられていた(原告第3準備書面「第3」,「第6」,原告第9準備書面「第4の4」。甲45~51,64,86)。本件明細書等では,ホルマリンの侵害刺激を反映した前期相には効果を奏さず,痛覚過敏や接触異痛の直接の原因である中枢性感作 を反映した後期相に本件化合物が効果を奏することを確認している。 クカラゲニン試験は,痛覚過敏の試験として適合されており,神経細胞の感作を反映したものであることも知られており,神経障害性疼痛治療薬の研究に用いられていた(原告第3準備書面「第4」,原告第8準備書面「第2の4」,原告第9準備書面「第4の5(1)」,原告第10準備書面「第2の7」。甲56,57,72,146)。本件明細書等のカラゲニン試験 では,神経細胞の感作で生じた痛覚過敏に対する本件化合物の効果を確認している。 ケ術後疼痛試験は,神経細胞の感作を反映 の7」。甲56,57,72,146)。本件明細書等のカラゲニン試験 では,神経細胞の感作で生じた痛覚過敏に対する本件化合物の効果を確認している。 ケ術後疼痛試験は,神経細胞の感作を反映したものであることが知られており,感作のメカニズムを研究する動物モデルである(原告第3準備書面「第4」,原告第9準備書面「第4の5(2)」。甲15の1)。本件明細書 等では,術後疼痛試験により,切開創の治癒後も持続する,神経細胞の感作で生じた痛覚過敏や接触異痛に対する本件化合物の効果を確認している。 コさらに,本件明細書等では,組織損傷や炎症による通常の痛みに対して効果を奏し,慢性疼痛に効果の不十分な麻薬性鎮痛剤であるモルヒネ(甲80,84,90,91)を比較例として,本件化合物の効果を確認して いる。例えば術後疼痛試験では,本件化合物がモルヒネの効かない痛覚過敏や接触異痛に有効であることや,モルヒネと異なり対側後肢のPWLに影響を与えないことが示されている。 「上に掲げた状態が,現在市場にある鎮痛剤たとえば麻薬性鎮痛剤または非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)では,不十分な効果ま たは副作用からの限界により不完全な処置しか行われていないことは周知である。」(甲2〔4頁4〜6行目〕)「S−(+)−3−イソブチルギャバも同様に用量依存性(3〜30mg/kg)に接触異痛の発生を遮断し,MEDは10mg/kgであった(図5c)。この侵害受容応答の遮断は30mg/kg用量のS −(+)−3−イソブチルギャバにより3日間維持された(図5c)。こ れに反して,モルヒネ(1〜6mg/kg)は,6mg/kgの最大用量で術後3時間,接触異痛の発生を防止したのみであった(図5a)。」(甲2〔8頁 り3日間維持された(図5c)。こ れに反して,モルヒネ(1〜6mg/kg)は,6mg/kgの最大用量で術後3時間,接触異痛の発生を防止したのみであった(図5a)。」(甲2〔8頁2〜6行目〕)「ギャバペンチンおよびS−(+)−3−イソブチルギャバは,すべての実験で試験された最大用量まで,対側後肢の熱痛覚過敏試験または 接触異痛評点におけるPWLに影響しなかった。これに反して,モルヒネ(6mg/kg,皮下)は熱痛覚過敏試験おける対側後肢のPWLを増大させた(データは示していない)。」(甲2〔8頁14〜17行目〕)そのため,本件化合物が,麻薬性鎮痛剤やNSAIDの有効な,組織損 傷や炎症による侵害刺激で生ずる通常の痛みではなく,神経細胞の感作による痛覚過敏や接触異痛に直接効果を奏することが明らかであるし,麻薬性鎮痛剤と同じオピオイド作用や,NSAIDと同じ抗炎症作用を有すると理解することもない(原告第7準備書面「第1の1(2)」,原告第9準備書面「第3の2(2)」,「第4の1」,原告第10準備書面「第2の1」)。 サ本件明細書等では,慢性疼痛である神経障害性疼痛に有効なギャバペンチン(甲61,136)を比較例として,これと同じ作用により,より優れた効果を有することも確認している。ギャバペンチンも本件化合物も,ともにホルマリン試験,カラゲニン試験,術後疼痛試験の全てにおいて用量依存性で痛覚過敏や接触異痛に拮抗しており,機序の同一性が明らかで ある(原告第8準備書面「第1の2」)。 シ加えて,本件明細書等では,当時まだ一般的に用いられていなかった動物モデルであるチャングモデルやベネットモデルがあることについても紹介しており,当業者はこれらの動物モデルにより容易に追試が可能である えて,本件明細書等では,当時まだ一般的に用いられていなかった動物モデルであるチャングモデルやベネットモデルがあることについても紹介しており,当業者はこれらの動物モデルにより容易に追試が可能である(原告第4準備書面「第2」)。 ス上記アないしシの理由により,当業者は,本件化合物が慢性疼痛に有用 であることを十分に理解する。 (被告の主張への反論)セこれに対し,被告は,痛みが侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛,心因性疼痛に分類されると主張する。しかし,このことは,原因にかかわらず,神経細胞の感作により痛覚過敏や接触異痛を生じ,神経細胞の感作を抑制 することで鎮痛できることを否定するものではない(原告第7準備書面「第1の1(1)」,原告第10準備書面「第1の3」)。 ソ神経障害性疼痛に上腕神経叢捻除,帯状疱疹後神経痛,幻肢痛,視床痛,カウザルギー,三叉神経痛,糖尿病性神経障害等の様々な疾患が含まれるとしても,それらは結局のところ神経障害性疼痛に分類され,求心路遮断 性,交感神経依存性,末梢性といった分類にかかわらず(上腕神経叢捻除,帯状疱疹後神経痛,幻肢痛,視床痛は求心路遮断痛であり,カウザルギーは交感神経依存性疼痛であり,三叉神経痛,糖尿病性神経障害は末梢性疼痛である。甲79~81等),等しく神経細胞の感作により痛覚過敏や接触異痛を生ずる。 例えば,求心路遮断痛は,上記イで述べたとおり,中枢性感作の痛みであると理解されていた(甲80)。また,交感神経依存性疼痛も,中枢性感作の痛みであることが理解されていた(甲134)。 「機械的受容器が交感神経依存性疼痛(SMP)の接触誘起痛の原因であり,この入力への中枢の侵害受容ニューロンの感作が生じてい ることの十分な証拠が存在する。 理解されていた(甲134)。 「機械的受容器が交感神経依存性疼痛(SMP)の接触誘起痛の原因であり,この入力への中枢の侵害受容ニューロンの感作が生じてい ることの十分な証拠が存在する。」(甲134〔618頁20〜22行目〕)さらに,末梢性疼痛も,例えば椎間板ヘルニアについて(甲80),組織や神経の炎症で生ずる,中枢性感作の痛みであることが理解されていた(甲128)。 「疼痛の状況が末梢組織で生ずると,侵害信号の脊髄への継続的な バラージにより後角における体性感覚ニューロンを感作させ得る。これらの感作されたニューロンは,慢性疼痛状態に寄与し得る。」(甲128〔1808頁右欄14〜18行目〕)心因性疼痛も,結局のところ,心因性の要因で侵害刺激が生じ,又は器質的病変が心理的要因で増幅され,神経細胞の感作により痛覚過敏や接触 異痛を生ずる。心因性疼痛に分類されることもある線維筋痛症も,中枢性感作の痛みとされている(甲26,65,88)。 「これらの結果は,NMDA 受容体が線維筋痛症の疼痛機構に関与するという仮説を支持する。これらの知見から,FM に中枢性感作があること,および圧痛点が二次痛覚過敏を示すことも示唆される。」(甲2 6〔360頁Summary7行目〜末行〕)一方,侵害受容性疼痛は,侵害受容器への刺激により生じ,侵害刺激に比例する通常の痛みであると理解されており(甲79,80),ホルマリン試験,カラゲニン試験,術後疼痛試験において,神経細胞の感作により生ずる痛覚過敏や接触異痛等の病的な慢性疼痛を含まない(原告第9準備 書面「第3の1」。甲2,43,46,146等)。本件明細書等に記載された「炎症性疼痛」や「術後疼痛」も,神経細胞の感作による痛覚過敏や接 接触異痛等の病的な慢性疼痛を含まない(原告第9準備 書面「第3の1」。甲2,43,46,146等)。本件明細書等に記載された「炎症性疼痛」や「術後疼痛」も,神経細胞の感作による痛覚過敏や接触異痛の痛みであり,侵害受容性疼痛を意味しない。本件明細書等のホルマリン試験,カラゲニン試験,術後疼痛試験が侵害受容性疼痛の試験と理解されることはない(原告第7準備書面「第1の1(1)及び(2)」,原 告第11準備書面「第3」)。「侵害受容」との用語は,侵害受容性疼痛であることを意味しない(原告第9準備書面「第4の4(2)」)。 タ先行技術文献に「示唆されている」といった断定形でない記載があるのは,実験結果を論ずる際の作法であり,動物モデルにおける薬剤の作用からヒトの疾患の機序を述べる必要があること等によるものであり,神経細 胞の感作により痛覚過敏や接触異痛を生ずること,ホルマリン試験が中枢 性感作を反映したものであること,ケタミンが中枢性感作を抑制し,神経障害性疼痛や線維筋痛症に効果を奏すること等が仮説であることを意味しない(原告第9準備書面「第4の3」)。 チ末梢から脳に至るまでの痛覚求心路の伝達をどこかで阻害すれば,痛覚過敏や接触異痛を緩和できる。そのため,神経細胞の感作により痛覚過敏 や接触異痛を生ずるからといって,薬物の作用点が感作を生じた部位になければ痛覚過敏や接触異痛に効果を奏しないというわけではない(原告第9準備書面「第4の7」)。本件明細書等の記載からは,本件化合物が,侵害刺激による通常の痛みではなく,神経細胞の感作により生じた痛覚過敏や接触異痛に直接作用したことが明らかであるから,本件化合物の作用 点が開示されていなくとも,本件化合物が原因にかかわらず痛覚過敏や接触異痛に効果 ではなく,神経細胞の感作により生じた痛覚過敏や接触異痛に直接作用したことが明らかであるから,本件化合物の作用 点が開示されていなくとも,本件化合物が原因にかかわらず痛覚過敏や接触異痛に効果を奏したことが理解できる。なお,末梢及び中枢の神経細胞の感作の意義は明確であり,様々な神経細胞の感作が存在するということはない(原告第11準備書面「第1」)。 (2) 無効理由2(サポート要件違反の有無)(争点1-2) 上記第1の1(1)アないしチにおいて述べたことと同様の理由により,当業者は,本件化合物が慢性疼痛に効果を奏することを十分に理解する。 2 本件発明1及び2に係る訂正の再抗弁の成否(争点2)(1) 無効理由の解消の有無(争点2-1)ア無効理由1の解消の有無(争点2-1-1) (ア) 上記第1の1(1)アないしチにおいて述べたとおり,当業者は,痛みの原因にかかわらず,本件化合物が痛覚過敏や接触異痛に効果を奏することを十分に理解する。 (イ) また,本件発明1及び2では,処置対象となる痛みが,慢性疼痛のうち「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」に明確に限定されている。これは, ホルマリン試験の後期相に反映された中枢性感作で生じる痛みであり (甲27,86等),本件明細書等のカラゲニン試験及び術後疼痛試験において,本件化合物の効果が明示的に確かめられた痛みである(原告第3準備書面「第2」ないし「第4」,原告第8準備書面「第2の4」)。 (ウ) 本件発明2では,処置対象となる痛みが更に「神経障害又は線維筋痛症による」痛覚過敏又は接触異痛に限定されている。本件優先日当時, 神経障害性疼痛は,一次的な神経損傷又は神経の機能異常の痛みとして定義されており(原告第3準備書面「第5」,原告第9準備書 筋痛症による」痛覚過敏又は接触異痛に限定されている。本件優先日当時, 神経障害性疼痛は,一次的な神経損傷又は神経の機能異常の痛みとして定義されており(原告第3準備書面「第5」,原告第9準備書面「第4の6(1)」,原告第10準備書面「第2の8」。甲77),炎症や組織損傷だけでなく,神経損傷によっても神経細胞の感作という神経の機能異常を生じて,神経障害性疼痛における痛覚過敏や接触異痛を生ずること が知られていた(原告第3準備書面「第2」。甲41,42,46,55,59,80,86,128~130,134等)。また,線維筋痛症も,痛覚過敏を伴う慢性疼痛症候群として定義されており(原告第3準備書面「第5」),中枢性感作により痛覚過敏や接触異痛を生ずることが知られていた(原告第3準備書面「第2」。甲26,65,88)。 すなわち,神経障害又は線維筋痛症による痛覚過敏や接触異痛は,神経細胞の感作で生じたものであることがますます明らかである。本件明細書等では,上記のように,本件優先日当時に神経障害又は線維筋痛症の痛みであると理解されていた,神経細胞の感作による痛覚過敏や接触異痛に対する本件化合物の効果が確かめられている。 (エ) 上記(ア)ないし(ウ)の理由により,当業者は,本件化合物が痛覚過敏又は接触異痛の痛み,並びに神経障害又は線維筋痛症による痛覚過敏又は接触異痛の痛みに有用であることを十分に理解する。 イ無効理由2の解消の有無(争点2-1-2)上記第1の2(1)ア(ア)ないし(ウ)において述べたことと同様の理由によ り,当業者は,本件化合物が痛覚過敏又は接触異痛の痛み,及び神経障害 又は線維筋痛症による痛覚過敏又は接触異痛の痛みに効果を奏することを十分に理解する。 (2) 訂正要件 り,当業者は,本件化合物が痛覚過敏又は接触異痛の痛み,及び神経障害 又は線維筋痛症による痛覚過敏又は接触異痛の痛みに効果を奏することを十分に理解する。 (2) 訂正要件の具備の有無(争点2-2)ア本件発明1の訂正要件の具備の有無(争点2-2-1)(ア) 本件明細書等のカラゲニン試験では,機械的痛覚過敏及び熱痛覚過敏 に対する本件化合物の効果が確認されており,術後疼痛試験では,熱痛覚過敏及び接触異痛に対する本件化合物の効果が確認されているから,痛覚過敏又は接触異痛の痛みに対して本件化合物を用いることが開示されている。痛覚過敏や接触異痛は痛みの症状を示す用語であり(甲77),痛みの原因に応じて複数の痛覚過敏や複数の接触異痛が存在する わけではない(原告第8準備書面「第2の1」)。 (イ) さらに,上記第1の1(1)アないしチにおいて述べたとおり,当業者は,痛みの原因にかかわらず,痛覚過敏や接触異痛が神経細胞の感作によって生じ,本件化合物が効果を奏することを十分に理解する。このことからも,原因に応じて複数の痛覚過敏や接触異痛が存在するわけでは ないことが明らかである。 (ウ) したがって,構成要件1Bは,本件明細書等に記載した事項の範囲内で訂正されたものであり,新規事項の追加に該当しない。訂正の目的が痛みの減縮であり,訂正により拡張変更に該当しないことは明らかである(以上,原告第4準備書面「第1の2(1)」)。 (エ) なお,訂正要件は,訂正事項が明細書等を総合することにより導かれる技術的事項であるか否かによって判断され,本件化合物が痛覚過敏や接触異痛に有用であり,或いは効果を奏することが本件明細書等から理解できるかどうかは,実施可能要件又はサポート要件の問題である(原告第4 術的事項であるか否かによって判断され,本件化合物が痛覚過敏や接触異痛に有用であり,或いは効果を奏することが本件明細書等から理解できるかどうかは,実施可能要件又はサポート要件の問題である(原告第4準備書面「第4」)。仮にそうでないとしても,上記第1の2(1) で述べたことにより訂正要件を満たす。 イ本件発明2の訂正要件の具備の有無(争点2-2-2)(ア) 上記第1の2(2)ア(ア)ないし(ウ)において述べたとおり,構成要件2Bのうち,「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」については,訂正要件を満たす。 (イ) また,本件明細書等には,本件化合物の処置対象となる慢性疼痛に含 まれる痛みとして,神経障害の痛み,線維筋痛症が記載されている(原告第4準備書面「第1の2(2)ウ」)。 (ウ) さらに,上記第1の1(1)イにおいて述べたとおり,神経障害の痛みや,線維筋痛症において痛覚過敏や接触異痛を生ずることは,本件優先日当時の技術常識である(原告第3準備書面「第2」,「第5」)。 (エ) したがって,構成要件2Bは,本件明細書等に記載した事項の範囲内で訂正されたものであり,新規事項の追加に該当しない。訂正の目的が引用関係の解消及び痛みの減縮であり,訂正により拡張変更に該当しないことは明らかである(以上,原告第4準備書面「第1の2(2)」)。 なお,適用されるべき訂正要件の規範は,上記第1の2(2)ア(エ)のと おりである。 第2 本件発明3及び4被告医薬品が本件発明3及び4の技術的範囲に属するか(争点3) 1 構成要件3B及び4Bの充足性(争点3-1)(1) 本件発明3について(構成要件3Bの充足性) ア神経障害性疼痛が炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みであること( 1 構成要件3B及び4Bの充足性(争点3-1)(1) 本件発明3について(構成要件3Bの充足性) ア神経障害性疼痛が炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みであること(クレーム解釈)(ア) 本件発明3の処置対象となる痛みは,「炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛み」である。 (イ) 「炎症を原因とする痛み」は,本件明細書等のカラゲニン試験の痛み であり,「手術を原因とする痛み」は,術後疼痛試験の痛みである。これらの試験では,炎症や手術から神経細胞の感作を生じ,痛覚過敏や接触異痛を生ずるまでの機序は限定されていない。 (ウ) 本件明細書等では,炎症性疼痛や術後疼痛が,神経障害性疼痛や線維筋痛症と並んで,麻薬性鎮痛剤やNSAIDでは不十分なことのある慢 性疼痛として記載されており,カラゲニン試験や術後疼痛試験がかかる慢性疼痛の試験であることが明らかである(原告第5準備書面「第3の1」)。 (エ) そして,上記第1の1(1)イで述べたとおり,慢性疼痛は,原因にかかわらず,神経細胞の感作という神経の機能異常で生ずることが知られ ており,神経細胞の感作を抑制することで,原因にかかわらず痛みを治療できることも知られていた。 (オ) また,上記第1の1(1)ウで述べたとおり,本件優先日当時,炎症で神経の病変や疾患を生じ,手術で末梢神経や神経終末を損傷し,神経の損傷によっても炎症が生ずることなどから,痛みを原因で区別できず, 炎症性疼痛や術後疼痛と,神経障害性疼痛や線維筋痛症とは,相互に重複することが理解されていた。 (カ) そのため,上記第1の1(1)エないしケで述べたとおり,当業者は,痛みの症状に着目して動物モデルを用いており,カラゲニン試験や術後疼痛試験は 症とは,相互に重複することが理解されていた。 (カ) そのため,上記第1の1(1)エないしケで述べたとおり,当業者は,痛みの症状に着目して動物モデルを用いており,カラゲニン試験や術後疼痛試験は,神経細胞の感作により痛覚過敏や接触異痛を生じさせる動 物モデルとして,神経障害性疼痛治療薬の探索や,感作のメカニズムの研究に利用されていた。 (キ) したがって,上記第1の1(1)クないしサで述べたとおり,本件明細書等のカラゲニン試験や術後疼痛試験は,神経細胞の感作により生ずる,神経障害性疼痛や線維筋痛症などの慢性疼痛に共通する痛覚過敏や接 触異痛に対する効果を見たものであることが明らかである。 (ク) 上記(ア)ないし(キ)の理由により,本件発明3の技術的範囲には,神経の病変,疾患,損傷が関与するか否かにかかわらず,炎症や手術によって生ずる痛覚過敏や接触異痛の全てが含まれる(原告第5準備書面「第3」)。 (被告医薬品の充足性) (ケ) 被告医薬品は,変形性関節症,リウマチ性関節炎,癌性疼痛,帯状疱疹後神経痛,アレルギー性肉芽腫性血管炎,結合組織病(血管炎),結節性多発動脈炎,多発性単神経炎,神経叢炎,炎症性脱髄性多発性神経障害,有痛性糖尿病性神経障害,尿毒症性ニューロパチー,椎間板ヘルニア,反射性交感神経性ジストロフィー,手根管症候群,自己免疫疾患 等において,炎症を原因として生じた神経障害性疼痛を用途とする(訴状,原告第5準備書面「第2」,原告第8準備書面「第2の2」,「第3の2」。甲6,11,17,92,95~97,99,126~130,137~139等)。 (コ) また,被告医薬品は,術後遷延性疼痛,開胸術後疼痛症候群,外傷後 後遺症,手術後後遺症,乳房切除術後痛,ヘルニア縫 17,92,95~97,99,126~130,137~139等)。 (コ) また,被告医薬品は,術後遷延性疼痛,開胸術後疼痛症候群,外傷後 後遺症,手術後後遺症,乳房切除術後痛,ヘルニア縫合術後痛,複合性局所疼痛症候群,手根管症候群,橈骨遠位端骨折,デュプイトラン拘縮,CM関節症,股関節置換術等において,手術を原因として生じた神経障害性疼痛を用途とする(訴状,原告第5準備書面「第2」,原告第8準備書面「第2の2」,「第3の3」。甲6,23,93,98,125, 139,142等)。 (サ) 上記第1の1(1)イで述べたとおり,上記(ケ)及び(コ)で挙げた神経障害性疼痛の疾患において,炎症や手術による組織損傷から神経細胞の感作という神経の機能異常を生じ,痛覚過敏や接触異痛を生ずる(原告第3準備書面「第1の1及び2」,原告第8準備書面「第2の3」)。そ れだけでなく,上記第1の1(1)ウで述べたとおり,炎症により神経の病 変や疾患を生じ,手術により神経を損傷し,これらの神経の病変,疾患,損傷により神経細胞の感作を生じ,痛覚過敏や接触異痛を生ずる。さらに,神経の病変,疾患,損傷により,組織や神経の炎症を生じ,炎症により神経細胞の感作を生じ,痛覚過敏や接触異痛を生ずる(以上,原告第8準備書面「第2の2」,「第3」)。 例えば,帯状疱疹後神経痛は,帯状疱疹ウイルスによる炎症が原因で,神経が変性してしまったことによる痛みである(甲11)。これは,炎症で神経の病変や疾患を生ずる例である。また,手術により末梢神経や神経終末を損傷することは当然である(原告第8準備書面「第3」)。 逆に,上記第1の1(1)ウで述べたとおり,椎間板ヘルニア等の腰部神経 根症において,神経の圧迫により組織や神経の炎症を生 経や神経終末を損傷することは当然である(原告第8準備書面「第3」)。 逆に,上記第1の1(1)ウで述べたとおり,椎間板ヘルニア等の腰部神経 根症において,神経の圧迫により組織や神経の炎症を生じ,抗炎症薬が投与されていたし(甲128,137,138),複合性局所疼痛症候群(反射性交感神経性ジストロフィーを含む。)も,神経の炎症の痛みである(甲129,130)。さらに,神経損傷による炎症の機序は,組織損傷の場合と全く同じである(甲9,129,130)。そして, これらの疾患において,炎症を原因として神経細胞の感作を生じ(甲128~130,134),神経障害性疼痛となる。 (シ) さらに,明確に神経の病変や疾患が見出されない場合でも,痛覚過敏や接触異痛といった,神経細胞の感作で生ずる症状により,神経障害性疼痛と診断され,先発医薬品や被告医薬品が投与される(原告第3準備 書面「第5」,原告第8準備書面「第2の2,3及び5」,「第3」,原告第9準備書面「第4の6(1)」,原告第10準備書面「第2の8」)。 そのため,神経障害性疼痛を神経の病変,疾患,損傷が明確な態様に限定することは誤りである。 例えば,有痛性糖尿病性神経障害は神経損傷が原因とされていないし (甲2,81,87,131,132),椎間板ヘルニアや複合性局所 疼痛症候群は,神経損傷のみならず,組織損傷で神経障害性疼痛を生ずる疾患である(甲23,128,129,134,142)。 このように,神経損傷から痛みを生じていることが明らかでない場合や,そもそも神経の病変,疾患の有無が不明な場合にも,神経細胞の感作による痛覚過敏や接触異痛を基準として被告医薬品が用いられる(甲 6,93,125~127,135,142)。 (ス) 上記(ア) そもそも神経の病変,疾患の有無が不明な場合にも,神経細胞の感作による痛覚過敏や接触異痛を基準として被告医薬品が用いられる(甲 6,93,125~127,135,142)。 (ス) 上記(ア)ないし(シ)の理由により,被告医薬品の効能,効果である「神経障害性疼痛」は,本件発明3の「炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛み」に該当する。なお,被告医薬品の用途の解釈の基準時は,被告医薬品の実施時である(原告第9準備書面「第6の1(4)」)。 イ神経障害性疼痛を効能,効果とする被告医薬品が,炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みを用途とすること(ア) 上記第2の1(1)ア(サ)で述べたとおり,炎症や手術で神経細胞の感作を生ずるし,炎症により神経の病変や疾患を生じ,手術により神経を損傷し,神経の病変や疾患,損傷により,神経細胞の感作を生ずる。さら に,神経の病変や疾患,神経損傷により,組織の炎症や神経の炎症を生じ,炎症により神経細胞の感作を生ずる。そして,これらは全て神経障害性疼痛を生ずる。そのため,神経障害性疼痛は,侵害受容性疼痛との混合性疼痛とされている(原告第5準備書面「第2のの2(2)」)。 例えば,腰痛,変形性関節症,リウマチ性関節炎,癌性疼痛,術後遷 延性疼痛は,いずれも侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛との混合性疼痛とされている(甲92~98)。 (イ) 痛みは患者の主観的心理状態であるから,混合性疼痛において,侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛とは,同一の患者において生ずる一つの痛みであり,両者を区別できない(原告第5準備書面「第2の2(1)」,原 告第9準備書面「第6の1(1)」。甲77,92,93)。 (ウ) 先発医薬品は,適応症に用いられることにより,かかる 区別できない(原告第5準備書面「第2の2(1)」,原 告第9準備書面「第6の1(1)」。甲77,92,93)。 (ウ) 先発医薬品は,適応症に用いられることにより,かかる混合性疼痛を生ずる患者の痛みの処置に用いられて効果を奏しており(原告第8準備書面「第3」。甲126。なお,本件発明3の痛みが侵害受容性疼痛であると判断された場合に,本件化合物がかかる痛みに効果を奏することは,本件明細書等の実施例から明らかである。),被告医薬品も,同じ 効能,効果を有するジェネリックとして,混合性疼痛を生じた患者の痛みの処置に用いられる(原告第5準備書面「第2の2(3)及び3」,原告第9準備書面「第6の1(1)」)。 (エ) 上記(ア)ないし(ウ)の理由により,被告医薬品の用途は,神経障害性疼痛と侵害受容性疼痛との混合性疼痛の処置を含むものである(原告第5 準備書面「第2」,原告第9準備書面「第6の1」)。 (オ) したがって,本件発明3の技術的範囲が侵害受容性疼痛に限られるか否かにかかわらず,また,侵害受容性疼痛の定義とは無関係に,神経障害性疼痛を効能,効果とする被告医薬品の処置用途は,本件発明3の「炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛み」に該当する。 ウ線維筋痛症が炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みであること(ア) 上記第2の1(1)アの理由により,本件発明3の技術的範囲には,線維筋痛症に伴って生ずるか否かにかかわらず,炎症や手術によって生ずる痛覚過敏や接触異痛の全てが含まれる。 (イ) 被告医薬品は,関節炎,胃炎,アレルギー炎症,リウマチ等の炎症性疾患から生ずる線維筋痛症に伴う疼痛を用途とする(原告第5準備書面「第2の2(2)」,原告第8準備書面「第3の2」。甲7 (イ) 被告医薬品は,関節炎,胃炎,アレルギー炎症,リウマチ等の炎症性疾患から生ずる線維筋痛症に伴う疼痛を用途とする(原告第5準備書面「第2の2(2)」,原告第8準備書面「第3の2」。甲7,22)。また,線維筋痛症は腱付着部炎を生ずる疾患であり,腱付着部炎を生じた線維筋痛症に伴う疼痛は,被告医薬品の保険診療上の適応症である(原告第 8準備書面「第3の2」。甲127,140)。 (ウ) 同様に,被告医薬品は,手術により生ずる線維筋痛症に伴う疼痛を用途とする(原告第5準備書面「第2の2(2)」。甲7,22)。 (エ) 上記(イ)及び(ウ)で挙げた線維筋痛症に伴う疼痛において,炎症や手術を原因として神経細胞の感作を生じ,痛覚過敏や接触異痛を生ずる(原告第3準備書面「第2」)。 (オ) 上記(ア)ないし(エ)の理由により,被告医薬品の効能,効果である「線維筋痛症に伴う疼痛」は,本件発明3の「炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛み」に該当する。 エ線維筋痛症に伴う疼痛を効能,効果とする被告医薬品が,炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みを用途とすること (ア) 上記第2の1(1)ウ(イ)及び(ウ)で述べたとおり,線維筋痛症は,炎症性疾患や手術により生じ,更に炎症を生ずる疾患であるので,線維筋痛症に伴う疼痛は,侵害受容性疼痛との混合性疼痛である。 (イ) そして,上記第2の1(1)イ(イ)ないし(エ)の理由により,被告医薬品の用途は,線維筋痛症に伴う疼痛と侵害受容性疼痛との混合性疼痛の処 置を含むものである。このことは,線維筋痛症「に伴う疼痛」との効能,効果の記載からも明らかである。 (ウ) したがって,本件発明3の技術的範囲が侵害受容性疼痛に限られるか否かにかかわら 処 置を含むものである。このことは,線維筋痛症「に伴う疼痛」との効能,効果の記載からも明らかである。 (ウ) したがって,本件発明3の技術的範囲が侵害受容性疼痛に限られるか否かにかかわらず,また,侵害受容性疼痛の定義とは無関係に,線維筋痛症に伴う疼痛を効能,効果とする被告医薬品の処置用途は,本件発明 3の「炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛み」に該当する。 オ神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛が訂正により除外されていないこと(ア) 禁反言の法理(無効審判における訂正の経緯に基づき,発明の技術的範囲を限定するような他の法理を含む。)は,原告が無効審判と本件訴 訟とで矛盾挙動を取ったような場合に生ずる可能性があるが,原告は, 訂正の前後にかかわらず,本件発明3の訂正の根拠となったカラゲニン試験や術後疼痛試験により,神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛に対する本件化合物の効果を確認できることを一貫して主張しており,矛盾挙動はない(原告第7準備書面「第4の1」。甲18,19)。実際に,参加人1名は,訂正後の本件発明3に侵害受容性疼痛以外の痛みが 含まれていると主張し,原告もこれを争った(原告第5準備書面「第4の1及び2」,原告第7準備書面「第4の1」。甲19,20)。また,訂正後になされた審決の判断により,禁反言の法理が成立する余地はない(原告第5準備書面「第4の1」)。さらに,審判請求人が,本件発明3の技術的範囲に神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛が含まれ るかどうかを争わなかったことにより,禁反言の法理が成立することもない。 (イ) 本件訂正前になされた審決の予告は,カラゲニン試験や術後疼痛試験により本件化合物の効果が確かめられた,炎症や手術を原因とする痛み以外の ったことにより,禁反言の法理が成立することもない。 (イ) 本件訂正前になされた審決の予告は,カラゲニン試験や術後疼痛試験により本件化合物の効果が確かめられた,炎症や手術を原因とする痛み以外の部分について,本件化合物の効果を確認することができないと述 べているにすぎず,神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛のうち,カラゲニン試験や術後疼痛試験の痛みに含まれる部分についてまで本件化合物の効果を確認することができないとは判断していないし,カラゲニン試験や術後疼痛試験の痛みが,神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛と重複しないという判断もしていない(原告第5準備書面「第4の 2」,原告第7準備書面「第4の1」。甲21)。したがって,審決の予告の判断に基づき,禁反言の法理が成立する余地はない。 (ウ) さらに,本件発明4に関し,原告は本件訂正において,訂正前発明4に係る請求項から「神経障害による痛み」及び「線維筋痛症」との記載を削除したが,上記第1の1(1)ウで述べたとおり,訂正前発明4に係る 請求項の痛みは相互に重複するものであるから,かかる訂正により,神 経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛が本件発明4の技術的範囲から除外されることはない(原告第5準備書面「第4の3」,原告第7準備書面「第4の2」,原告第9準備書面「第6の3」)。 (エ) また,上記(ウ)の事情は,本件発明3とは関係がない(原告第5準備書面「第4の3」)。 (オ) 上記(ア)ないし(エ)の理由により,本件発明3の技術的範囲から,神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛が除外されることはない。 (カ) なお,上記第2の1(1)イ及びエに係る混合性疼痛の主張は,本件発明3の技術的範囲が侵害受容性疼痛に限られるか否かにかかわらず成り立 性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛が除外されることはない。 (カ) なお,上記第2の1(1)イ及びエに係る混合性疼痛の主張は,本件発明3の技術的範囲が侵害受容性疼痛に限られるか否かにかかわらず成り立つ主張であるから,訂正の経緯にかかわらず,被告医薬品の用途は, 本件発明3の「炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛み」に該当する(原告第10準備書面「第3の2」)。 (2) 本件発明4について(本件発明4Bの充足性)ア神経障害性疼痛が炎症性疼痛,術後疼痛に該当すること(ア) 本件発明4の処置対象となる痛みは,「炎症性疼痛による痛覚過敏の 痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」である。 (イ) 上記第2の1(1)アの理由により,被告医薬品の効能,効果である「神経障害性疼痛」は,本件発明4の「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」に該当する。 (ウ) 本件発明4で特定された炎症性疼痛や術後疼痛は,神経障害性疼痛を 含む混合性疼痛として定義されている(原告第5準備書面「第2の2(2)」。甲95,96,98等)。これも,被告医薬品の用途が本件発明4の痛みに該当することを裏付ける。 イ神経障害性疼痛を効能,効果とする被告医薬品が,炎症性疼痛,術後疼痛を用途とすること 上記第2の1(1)イ(ア)ないし(オ)の理由により,本件発明4の技術的範 囲が侵害受容性疼痛に限られるか否かにかかわらず,神経障害性疼痛を効能,効果とする被告医薬品の処置用途は,本件発明4の「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」に該当する。 ウ線維筋痛症が炎症性疼痛,術後疼痛に該当すること 上記第2の1(1) 途は,本件発明4の「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」に該当する。 ウ線維筋痛症が炎症性疼痛,術後疼痛に該当すること 上記第2の1(1)ウ(ア)ないし(オ)の理由により,被告医薬品の効能,効果である「線維筋痛症に伴う疼痛」は,本件発明4の「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」に該当する。 エ線維筋痛症に伴う疼痛を効能,効果とする被告医薬品が,炎症性疼痛, 術後疼痛を用途とすること上記第2の1(1)エ(ア)ないし(ウ)の理由により,本件発明4の技術的範囲が侵害受容性疼痛に限られるか否かにかかわらず,線維筋痛症に伴う疼痛を効能,効果とする被告医薬品の処置用途は,本件発明4の「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛 の痛み」に該当する。 オ神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛が訂正により除外されていないこと上記第2の1(1)オ(ア)ないし(ウ),(オ)及び(カ)の理由により,本件発明4の技術的範囲から,神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛が除外される ことはない。 2 均等侵害の成否(争点3-2)(1) 被告医薬品は本件発明3の構成と均等であることア第1要件に関し,本件発明3は,本件化合物を慢性疼痛である炎症を原因とする痛み,手術を原因とする痛みの処置に用いることを本質的部分と しており,処置対象となる痛みが侵害受容性疼痛であるか,神経障害性疼 痛や線維筋痛症に伴う疼痛であるかは,本質的部分ではない(原告第5準備書面「第5の1及び2」)。本件優先日当時,神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛に対しては有効な治療薬がなく,本件化合物を慢性疼 痛や線維筋痛症に伴う疼痛であるかは,本質的部分ではない(原告第5準備書面「第5の1及び2」)。本件優先日当時,神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛に対しては有効な治療薬がなく,本件化合物を慢性疼痛の処置に用いることも知られていなかったから(訴状,原告第5準備書面「第1」,原告第8準備書面「第1」。甲123,125),技術常識を参酌 して,本件発明3の本質的部分を侵害受容性疼痛に限定すべき事情もない。 イ第2要件に関し,本件発明3は,神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛の処置に用いても,効果を奏する(原告第5準備書面「第5の2」。甲5)。 ウ第3要件に関し,本件化合物を神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛 の処置に用いることは,被告医薬品の実施時において容易想到である(原告第5準備書面「第5の2」。甲5)。 エ第4要件に関し,本件優先日当時,本件化合物を痛みの処置に用いることは全く知られておらず,本件優先日当時の公知技術から容易に推考できない(原告第5準備書面「第5の2」)。 オ第5要件に関し,上記第2の1(1)オ(ア)ないし(カ)の理由により,本件発明3の技術的範囲から,神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛が除外されることはない(原告第5準備書面「第5の2」)。 カ上記アないしオの理由により,仮に本件発明3の「炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛み」が侵害受容性疼痛であると解釈された場 合であっても,神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛のうち,炎症や手術を原因として生ずる痛みについては,本件発明3の均等の範囲に含まれる。なお,延長登録期間中であっても,充足論において均等の適用は否定されない(原告第9準備書面「第6の4」)。 (2) 被告医薬品は本件発明4の構成と均等であること 明3の均等の範囲に含まれる。なお,延長登録期間中であっても,充足論において均等の適用は否定されない(原告第9準備書面「第6の4」)。 (2) 被告医薬品は本件発明4の構成と均等であること 上記第2の2(1)アないしオの理由により,仮に本件発明4の「炎症性疼痛 による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」が侵害受容性疼痛であると解釈された場合であっても,神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛における痛覚過敏や接触異痛のうち,炎症性疼痛や術後疼痛については,本件発明4の均等の範囲に含まれる。 第3 本件特許権の存続期間の延長登録 1 延長登録により存続期間が延長された本件特許権の効力は被告医薬品に及ぶか(争点4)(1) 実質同一性は,「成分,分量,用法,用量,効能及び効果」に関し,特許発明の内容に基づき,その内容との関連で,技術的特徴及び作用効果の同一性を比較検討して判断すべきであり,処分対象物と被告医薬品との差異が, 技術的特徴や作用効果に関わるものでなければ,実質同一性が肯定される(原告第6準備書面「第1」,「第2の1」)。 (2) また,有効成分を特徴とする特許において,添加物について政令処分申請時の周知慣用技術に基づき成分を付加,転換等した場合には,実質同一性が推認される(原告第6準備書面「第2の3」)。 (3) 上記(2)において,周知慣用技術の基準時は被告医薬品の政令処分申請時であると解すべきであるし,仮に周知慣用技術でないとしても,実質同一性は妨げられない(原告第6準備書面「第2の3」。甲102の12)。 (4) 剤形は実質同一性の考慮要素でないから,剤形の違いは実質同一性に影響を及ぼさない(甲102の19)。延長登録の制度趣旨からも,カプセル ない(原告第6準備書面「第2の3」。甲102の12)。 (4) 剤形は実質同一性の考慮要素でないから,剤形の違いは実質同一性に影響を及ぼさない(甲102の19)。延長登録の制度趣旨からも,カプセルに 係る延長登録の効力範囲を市場の競合するOD錠に及ぼさなければ,先発医薬品が保護されない(原告第6準備書面「第2の4」,原告第7準備書面「第3の2」,原告第9準備書面「第7の2」。甲102の13,14)。また,延長登録の要件と延長登録の効力範囲とは別個の問題であるから(甲102の15),カプセルとOD錠とでそれぞれ登録が可能であるとしても,カプ セルの延長登録の効力範囲はOD錠に及ぶ(原告第6準備書面「第3」,原 告第7準備書面「第3の3」)。 (5) 本件各発明(及び訂正前各発明)は,有効成分である本件化合物を,痛みの処置に用いることを見出したものであり,添加物は本件各発明(及び訂正前各発明)の技術的特徴とは無関係であり,添加物の違いにより痛みの処置に関する作用効果に影響はない(原告第6準備書面「第2の2」,原告第7 準備書面「第3の2」。甲102の2)。 (6) また,被告医薬品に用いられている添加物は全て処分対象物の政令処分申請時の周知慣用技術に基づく付加,転換等であるから(甲102の4〜11,17,18),実質同一性が推認される(原告第6準備書面「第2の3」,原告第7準備書面「第3の1」,原告第9準備書面「第7の1」)。 (7) さらに,処分対象物と被告医薬品とは,分量,用法,用量,効能及び効果が同一である(原告第6準備書面「第1」,原告第9準備書面「第7の2」。 甲5,13,102の1の1〜3)。 (8) したがって,処分対象物と被告医薬品とは実質同一であり,被告医薬品は,延長後の が同一である(原告第6準備書面「第1」,原告第9準備書面「第7の2」。 甲5,13,102の1の1〜3)。 (8) したがって,処分対象物と被告医薬品とは実質同一であり,被告医薬品は,延長後の本件各発明(及び訂正前各発明)の効力範囲に含まれる。 (9) なお,上記第2の1オで述べたことのほか,延長登録出願の審査過程を含め,禁反言により延長登録の効力範囲から被告医薬品が除外される事情はない(原告第6準備書面「第4」。甲102の3,16)。 2 延長登録の無効理由の有無(争点5)ア上記第2において述べたとおり,本件発明3及び4は,被告医薬品をその 技術的範囲に含むものである。処分対象物は,被告医薬品と効能,効果が同一であるから,被告医薬品と同様の理由により,処分対象物は,本件発明3及び4の技術的範囲に含まれる。 イしたがって,本件特許権の存続期間の延長登録は,本件発明3及び4の実施に政令処分を受けることが必要であった場合の出願に対してされたもので あり,平成28年法律第108号による改正前の特許法125条の2第1項 1号の延長登録無効理由はない(原告第7準備書面「第2」)。 (別紙)被告らの主張 第1 訂正前発明1及び2 1 訂正前発明1及び2に係る特許は特許無効審判により無効にされるべきもの であるか(争点1)(1) 無効理由1(実施可能要件違反の有無)(争点1-1)ア原告は本件明細書等に開示も示唆もない「感作」なる概念を用いて,痛みの原因は異なっても結局,痛覚過敏などが生じるメカニズムは一つのものとして説明できるとして種々主張している。 しかしながら,そもそも,原告自身が「感作」として「末梢性感作」と「中枢性感作」とい 因は異なっても結局,痛覚過敏などが生じるメカニズムは一つのものとして説明できるとして種々主張している。 しかしながら,そもそも,原告自身が「感作」として「末梢性感作」と「中枢性感作」という明らかにメカニズムが異なる2つの原因を挙げていることからしても,メカニズムは1つとする原告の主張はその前提からして成り立っていない。 したがって,これ以上の検討をするまでもなく原告の主張は失当といわ ざるを得ないものではあるが,一応,この点を措くとして,実施可能性要件の判断においては明細書及び技術常識に基づいた議論を行う必要があり,本件化合物が神経障害又は線維筋痛症による痛覚過敏等に対して治療効果を有することを当業者が技術常識を踏まえて認識するに足りる薬理試験結果が記載されているか否かが本来の争点である。このため,以下で は,本件明細書等にどのような記載があるか,及び,その前提となる技術常識について検討する。 イ(ア) 本件特許に係る各発明は鎮痛剤に関する発明であるところ,痛み(pain)は,その基礎となる病態生理に著しい差異があり,様々な分類の仕方があり得るが,典型的な分類の仕方が,被告らが主張している① 侵害受容性疼痛,②神経障害性疼痛,及び③心因性疼痛(原因不明の痛 み)の3つの分類である(乙1〔652頁〕及び乙12〔2頁以下〕)。 当然のことながら,痛みの種類・原因が異なれば,痛みの発生するメカニズムは異なるし,また,その治療法も異なる。このことは,甲9の本件審決74頁においても,当業者の誰もが習得又は知得しているべきものと認定されているとおりである。ある痛みに効果がある薬剤が別の原 因の痛みに全く効果を示さないことがあることは日常的な経験則に照らしても明らかである。 (イ) 本件明細書 知得しているべきものと認定されているとおりである。ある痛みに効果がある薬剤が別の原 因の痛みに全く効果を示さないことがあることは日常的な経験則に照らしても明らかである。 (イ) 本件明細書等では,「痛みの処置とくに慢性の疼痛性障害の処置における使用方法である。このような障害にはそれらに限定されるものではないが炎症性疼痛,術後疼痛,転移癌に伴う骨関節炎の痛み,三叉神経 痛,急性疱疹性および治療後神経痛,糖尿病性神経障害,カウザルギー,上腕神経叢捻除,後頭部神経痛,反射交感神経ジストロフィー,線維筋痛症,痛風,幻想肢痛,火傷痛ならびに他の形態の神経痛,神経障害および特発性疼痛症候群が包含される。」(2頁14行目以下),「本発明は,上記式Ⅰの化合物の上に掲げた痛みの処置における鎮痛剤として の使用方法である。痛みにはとくに炎症性疼痛,神経障害の痛み,癌の痛み,術後疼痛,および原因不明の痛みである特発性疼痛たとえば幻想肢痛が包含される。神経障害性の痛みは末梢知覚神経の傷害または感染によって起こる。これには以下に限定されるものではないが,末梢神経の外傷,ヘルペスウイルス感染,糖尿病,カウザルギー,神経叢捻除, 神経腫,四肢切断,および血管炎からの痛みが包含される。神経障害性の痛みはまた,慢性アルコール症,ヒト免疫不全ウイルス感染,甲状腺機能低下症,尿毒症またはビタミン欠乏からの神経障害によっても起こる。神経障害性の痛みには,神経傷害によって起こる痛みに限らず,たとえば糖尿病による痛みも包含される。」(3頁45行目~4頁3行目) などとして痛みの種類を列挙している。明示的には被告らが指摘してい る上記の3分類に基づく整理はされていないが,少なくとも,「炎症性疼痛」,「神経障害の痛み」及び「術 目) などとして痛みの種類を列挙している。明示的には被告らが指摘してい る上記の3分類に基づく整理はされていないが,少なくとも,「炎症性疼痛」,「神経障害の痛み」及び「術後疼痛」を明確に区別しており,上記で引用した明細書の記載(3頁45行目~4頁3行目)における「神経障害性の痛み」として列挙されている中に「炎症性の痛み」や「術後疼痛」が含まれていないことからも明らかなとおり,本件明細書等自体 が「炎症性の痛み」や「術後疼痛」を「神経障害性の痛み」あるいは「線維筋痛症」とは異なる種類の痛みとして取り扱っている。 そして,本件明細書等では炎症性疼痛や術後疼痛にかかる動物実験とは別に神経障害性疼痛の動物モデルが存在することを記述し(6頁33~36行目),あるいは,ラットの足蹠筋肉を切開した実験(ラットに 外傷を作った実験)において「侵害受容応答」などの用語を使用していることからも明らかなとおり,実際には,①侵害受容性疼痛,②神経障害性疼痛及び③心因性疼痛(原因不明の痛み)という技術常識である3分類を意識した記載になっている。 (ウ) また,訂正前発明4に係る請求項の記載は「痛みが炎症性疼痛,神経 障害による痛み,癌による痛み,術後疼痛,幻想肢痛,火傷痛,痛風の痛み,骨関節炎の痛み,三叉神経痛の痛み,急性ヘルペスおよびヘルペス後の痛み,カウザルギーの痛み,特発性の痛み,または線維筋痛症である請求項1記載の鎮痛剤」であったところ,原告は,訂正によって,「神経障害による痛み」,あるいは「線維筋痛症」等の痛みを除外し, 痛みを「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は,術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」に限定している。このような原告の対応からしても,原告自身が,「炎症性疼痛」と「神経障害 除外し, 痛みを「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は,術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」に限定している。このような原告の対応からしても,原告自身が,「炎症性疼痛」と「神経障害の痛み」又は「線維筋痛症」とを異なる痛みとして区別していること,また,訂正によって「痛覚過敏」や「接触異痛」という新たな限定を入れていることから しても,「炎症性疼痛」や「術後疼痛」という痛みのさらに下位概念と して,それぞれ「痛覚過敏」や「接触異痛」といった痛みの分類があることが示されている。 (エ) 以上のとおり,「炎症性疼痛」や「術後疼痛」と「神経障害性疼痛」や「線維筋痛症」とはそれぞれ異なる痛みとされ,また,その下位概念である「炎症性疼痛に基づく痛覚過敏」,「炎症性疼痛に基づく接触異 痛」,「術後疼痛に基づく痛覚過敏」,「術後疼痛に基づく接触異痛」,「神経障害性疼痛に基づく痛覚過敏」,「神経障害性疼痛に基づく接触異痛」,「線維筋痛症に基づく痛覚過敏」,「線維筋痛症に基づく接触異痛」などもそれぞれ異なる痛みとして区別しているというのが本件明細書等の立場である。 ウ(ア) 本件明細書等の詳細な説明には,㋐ラットホルマリン足蹠試験におけるCI-1008(本件化合物)の鎮痛効果(本件明細書等5頁下から4行目以下)と,㋑カラゲニン誘発痛覚過敏に対する効果(本件明細書等6頁11行目以下),及び㋒術後疼痛のラットモデル(ラット後肢足蹠面の皮膚,筋膜及び筋肉を切開することによって生じた熱痛覚過敏及 び接触異痛に対する試験)(本件明細書等6頁37行目以下)という3種の試験についてのみ,本件化合物を使用した結果が記載されている。 (イ) ㋐のラットホルマリン試験については接触異痛とも痛覚過敏とも記載されて 対する試験)(本件明細書等6頁37行目以下)という3種の試験についてのみ,本件化合物を使用した結果が記載されている。 (イ) ㋐のラットホルマリン試験については接触異痛とも痛覚過敏とも記載されていないので,ホルマリン試験は「接触異痛」あるいは「痛覚過敏」にかかる薬理効果を示すものではない。 また,ホルマリン試験はラットにホルマリンを注射することにより生じる外因性刺激(初期相)及びホルマリンによって腫れるといった内因性刺激(後期相)に対する反応を確認する試験(リッキング/バイティング),すなわちラットに本件化合物を投与することにより,ラットがホルマリンを注射した箇所を舐めたり噛んだりするという反応に変化 があるかを確認する試験である。動物にホルマリンを注射することによ り炎症を起こさせることは,本件特許の出願時において周知技術(乙5(審判甲22)〔106頁の実験例2及び108頁〕,乙6(審判甲16)〔132頁〕,甲27(審判乙4)〔2302頁〕,甲43(審判乙20)〔173頁〕,甲9(本件審決)〔70頁〕参照))であることからすると,上記㋐の試験及び本件化合物の効果は,侵害受容性疼痛 の一種である炎症性疼痛に関する薬理試験結果に関する記載であると理解される。 この点,本件明細書等では,㋐のホルマリン試験と㋑のカラゲニン試験の結果を記載したうえで,6頁31行目において「これらのデータはギャバペンチンおよびCI-1008 が炎症性疼痛の処置に有効であることを 示す。」とあるから,この点からも,ホルマリン試験及びカラゲニン試験が「炎症性疼痛」にかかる動物実験として記載されていると理解される。もっとも,本件明細書等の記載は曖昧なところが多く,「これらのデータはギャバペンチンおよびCI-1008 ン試験及びカラゲニン試験が「炎症性疼痛」にかかる動物実験として記載されていると理解される。もっとも,本件明細書等の記載は曖昧なところが多く,「これらのデータはギャバペンチンおよびCI-1008 が炎症性疼痛の処置に有効であることを示す。」における「これら」についてもカラゲニン試験の「機 械的痛覚過敏」と「熱痛覚過敏」の試験のことを述べているとも解釈でき,その場合には炎症性疼痛にかかる記載はカラゲニン試験について述べていることになる。この場合には,本件明細書等にはホルマリン試験がいかなる痛みの動物実験であるかは明示されてはいないことになるが,本文に記載のとおり,周知技術を踏まえて理解すれば,これが侵害 受容性疼痛にかかる動物実験であることは明らかであるし,少なくとも「痛覚過敏」や「接触異痛」の動物実験ではない。 (ウ) ㋑のカラゲニン試験については,「A.機械的痛覚過敏」(ラットの足を押した際の反応を観察),「B.熱痛覚過敏」(ラットを熱源に置いて,熱刺激に対する反応を観察)の際に痛覚過敏に拮抗する(痛覚過 敏を抑える)かの確認を行っており,このような試験につき,本件明細 書等では「これらのデータはギャバペンチンおよびCI-1008が炎症性疼痛の処置に有効であることを示す。」(本件明細書等6頁31行目)と明記されているから,カラゲニン試験が侵害受容性疼痛の一種である炎症性疼痛に関する薬理試験結果に関する記載であることが明らかである(本件審決70頁参照)。 (エ) ㋒の術後疼痛モデルにつき,本件明細書等ではラット後肢足蹠面の皮膚,筋膜及び筋肉を切開することによって生じた熱痛覚過敏及び接触異痛に対する試験を行っている。この試験モデルでは,ラットの後肢足蹠面の皮膚,筋膜及び筋肉切開は,術後に痛 書等ではラット後肢足蹠面の皮膚,筋膜及び筋肉を切開することによって生じた熱痛覚過敏及び接触異痛に対する試験を行っている。この試験モデルでは,ラットの後肢足蹠面の皮膚,筋膜及び筋肉切開は,術後に痛覚過敏及び接触異痛という痛みを生じさせる手技であるとされているから,手術に相当するものであ り,侵害受容性疼痛の一種である術後疼痛(本件明細書等における「手術を原因とする痛み」)に関する記載である。この点,本件明細書等において,術後疼痛モデルについて「侵害受容応答の遮断」とか「侵害受容の両応答」といった用語が使用されていることからも,この実験が「侵害受容性疼痛」の一種としての術後疼痛にかかる動物実験であることが 理解できる。 また,この術後疼痛モデルでは,熱痛覚過敏につき「術後2,24,48および72時間」(本件明細書等7頁14行目。図4参照)経過時の本件化合物による効果を確認している。また,接触異痛についても図5にあるように術後73時間までの効果を確認している。しかし,わず か3日程度の試験では神経障害性疼痛や線維筋痛症のモデルとして成立しないことからも,この試験が神経障害性疼痛や線維筋痛症に関する薬理試験結果でないことは明らかである(乙12〔5頁〕)。甲15の1(審判丙四6)はこの実施例の元となる文献であるが,その493頁には術後疼痛が急性痛である記載があることからも,この実験が慢性疼 痛を評価するモデルではないことがわかる。 エ一方,本件明細書等には,神経障害性疼痛に関する試験方法として,「BennettG.J.のアッセイはヒトに認められるのと類似の疼痛感覚の障害を生じるラットにおける末梢性単発神経障害の動物モデルを提供する(Pain,1988; 33: 87-107)。KimS ennettG.J.のアッセイはヒトに認められるのと類似の疼痛感覚の障害を生じるラットにおける末梢性単発神経障害の動物モデルを提供する(Pain,1988; 33: 87-107)。KimS.H.らのアッセイは,ラットにおける分節脊椎神経の結紮によって生じる末梢神経障害の一つの実験モデルを提供する(P ain, 1990; 50: 355-363)。」(本件明細書等6頁33~36行目)との記載があり,本件明細書等では「炎症性疼痛」と「神経障害性疼痛」とが異なる痛みであり,これらの痛みに対する効果の確認のために行われる実験モデルが異なることが明記されている(本件明細書等に記載された神経障害性疼痛にかかる実験が典型的な神経障害性疼痛のモデルであることにつ いては乙12〔3頁以下〕参照。)。しかし,本件明細書等では神経障害性疼痛に関する上記試験を行っていない。 また,本件明細書等では原因不明な痛みである線維筋痛症についてどのような動物モデルを用いることができるのかについては記載も示唆もない。線維筋痛症の原因は現在においても確定しておらず,本件優先日当時, 動物実験は確立していなかった(乙12〔5頁〕)。 このことからしても,㋐~㋒の試験が神経障害疼痛や線維筋痛症に関する薬理試験結果に関する記載でないことが端的に示されている(上記につき準備書面(被告らその1)「第1」参照)。 オ以上のとおり,本件明細書等では,これらの動物実験を神経障害性疼痛 や線維筋痛症とは区別された,炎症性疼痛や術後疼痛の動物実験として記載しているから,これらの動物実験が「神経障害性疼痛」や「線維筋痛症」に関する動物実験といえないことは明らかである上,まして「神経障害性疼痛に基づく痛覚過敏」や「神経障害性疼痛に基づく接触異痛」な 載しているから,これらの動物実験が「神経障害性疼痛」や「線維筋痛症」に関する動物実験といえないことは明らかである上,まして「神経障害性疼痛に基づく痛覚過敏」や「神経障害性疼痛に基づく接触異痛」などを含んだ「痛覚過敏」及び「接触異痛」全般にかかる動物実験とされていない ことは明らかというほかない。 この点について更に補足すると,本件明細書等の動物試験は,いずれも,インドメタシンのような非ステロイド性抗炎症薬(NSAID) の効果確認試験として行われる実験であるところ(ホルマリン試験につき,乙5(審判甲22)〔106頁の実験例2及び108頁〕,乙6(審判甲16)〔132頁〕,甲27(審判乙4)〔2302頁〕,甲43(審判乙20)〔1 73頁〕。カラゲニン試験につき乙6(審判甲16)〔132頁〕,甲44(審判乙21)〔77頁Summary〕,甲56(審判乙33)〔135頁Introduction〕。術後疼痛につき,甲15の1(審判丙四6)〔493頁〕,甲86・乙18(審判甲12)〔29頁〕,乙19の【用法・用量】参照。 術後疼痛は急性痛であり(甲15の1),NSAIDが有効な疼痛である (甲86・乙18〔29頁右欄13~17行目〕,乙19)。),本件明細書等3頁44行目~4頁6行目にも記載されているとおり,神経障害性の痛みにはもちろん,原因不明な痛みである線維筋痛症にもNSAIDは効果がないのであるから,これらの実験が神経障害性又は線維筋痛症の痛みにかかる実験でないことは,当業者に明らかである(本件特許公報4頁 3~6行目。甲86〔表3-3〕及び乙13〔1959頁〕にも同様の記載があり,NSAIDが線維筋痛症に効かないことについては乙14〔141頁〕にも記載されている。)。 カ上記の本件明細 3~6行目。甲86〔表3-3〕及び乙13〔1959頁〕にも同様の記載があり,NSAIDが線維筋痛症に効かないことについては乙14〔141頁〕にも記載されている。)。 カ上記の本件明細書等の記載に基づく主張が正しいことは,専門家の見解(国際医療福祉大学の河野達郎教授の見解書(乙12))によっても裏付 けられている。 乙12には,概略,以下の内容が記載されている。 ① 本件優先日当時において,痛みの分類は,その原因や病態に基づいて,侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛,心因性疼痛に大別されていたところ(乙1〔652頁〕も同様),ある痛みに効く鎮痛剤が,異な る原因や病態を有する他の痛みには効かないということや,鎮痛剤で あれば原因や病態に関係なくあらゆる痛みに有効であるわけではないことは共通認識であった。 ② 本件明細書等の㋐~㋒の薬理試験(ホルマリン試験,カラゲニン試験,術後疼痛試験)は,それぞれ,ホルマリン,カラゲニン又は切開により,皮膚に炎症を生じさせることにより,非ステロイド性消炎鎮 痛薬(NSAID)の薬効を観察するために開発されたモデルである(ホルマリン試験につき,乙5(審判甲22)〔106頁の実験例2及び108頁〕,乙6(審判甲16)〔132頁〕,甲27(審判乙4)〔2302頁〕,甲43(審判乙20)〔173頁〕。カラゲニン試験につき乙6(審判甲16)〔132頁〕,甲44(審判乙21) 〔77頁Summary〕,甲56(審判乙33)〔135頁Introduction〕。 術後疼痛につき,甲15の1(審判丙四6)〔493頁〕,甲86・乙18(審判甲12)〔29頁〕,乙19の【用法・用量】参照。)。 ③ NSAIDが鎮痛作用をもたらす機序は,炎症による発痛増強物質の 術後疼痛につき,甲15の1(審判丙四6)〔493頁〕,甲86・乙18(審判甲12)〔29頁〕,乙19の【用法・用量】参照。)。 ③ NSAIDが鎮痛作用をもたらす機序は,炎症による発痛増強物質の生成を抑制することによるので,NSAIDは,炎症性疼痛には効 果があるが,神経障害性疼痛には効果がない(NSAIDが炎症性疼痛には効果があるが神経障害性疼痛には効果がないことについては,本件明細書等4頁4行目以下にも記載されている。甲86〔表3-3〕,乙13〔1959頁〕,乙14〔141頁〕にも同様の記載があり,線維筋痛症にNSAIDが効かないことについては乙14に記載され ている。)。 ④ ㋐~㋒の薬理試験は,疼痛発現は長くとも3日程度しか痛みが持続しないため,神経障害性疼痛のモデルとして成立しないのに対し,本件特許出願当時に神経障害性疼痛のモデルとして認知されていたBennett モデル,Seltzer モデル及びKim&Chung モデル(これらのモデル のうち,Bennett モデル及びKim&Chung モデルが神経障害性疼痛(末 梢神経障害)のモデルであることは,本件明細書等6頁33行目以下にも明記されている。)は,疼痛が数か月程度持続するため,疼痛発現のタイムコースがまったく異なる(ホルマリン試験は1時間程度(甲45(審判乙22)〔12頁〕),カラゲニン試験は5時間程度(甲2〔6頁19行目〕),術後疼痛試験は数日間(甲2〔6頁38行目〕) である。)。 ⑤ 本件明細書等に記載された㋐~㋒の薬理試験(ホルマリン試験,カラゲニン試験,術後疼痛試験)の結果から評価できるのは侵害受容性疼痛に対する鎮痛作用であるから,試験した化合物が神経障害性疼痛や線維筋痛症に対して有効であったとはいえない。 試験(ホルマリン試験,カラゲニン試験,術後疼痛試験)の結果から評価できるのは侵害受容性疼痛に対する鎮痛作用であるから,試験した化合物が神経障害性疼痛や線維筋痛症に対して有効であったとはいえない。 以上のとおり,被告らの主張が正当であることは当該専門家の見解によって直接的に示されている(準備書面(被告らその2)「第2の2」参照)。 なお,原告は,河野教授が自身の著書において,「原因にかかわらず神経細胞の感作により痛覚過敏や接触異痛を生ずると述べている」として,河野教授の見解は自身の著作とも矛盾するとしている(原告第9準備書面 〔6頁下6~5行目〕)が,河野教授は,その見解書において「感作」については述べていないのであるから,感作について述べる著作と河野見解書は矛盾していない(準備書面(被告らその4)「第2」参照)。 キさらに,線維筋痛症に関し,本件明細書等には本件化合物の線維筋痛症に関する痛みに対する薬理効果については一切記載がないばかりか,線維 筋痛症の原因は未だに不明であって,少なくとも,本件優先日当時,これに適した動物実験さえ開発されていない状況であった。この点は乙12の5頁に,「線維筋痛症は未だ原因がわかっておらず,複雑な因子が関連して多様な症状を呈するため動物モデルの確立は難しい。1990年代後半に確立された線維筋痛症モデルは存在しなかった」と記載されているとお りである。 ク以上からすると,本件明細書等の発明の詳細な説明には,本件化合物が,炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みの処置以外の痛み,すなわち本件明細書等2頁14~19行目,3頁46~47行目でこれらの痛みとは別の痛みとして明記された神経障害の痛み及び線維筋痛症に対して鎮痛効果を有することを 術を原因とする痛みの処置以外の痛み,すなわち本件明細書等2頁14~19行目,3頁46~47行目でこれらの痛みとは別の痛みとして明記された神経障害の痛み及び線維筋痛症に対して鎮痛効果を有することを認識するに足りる記載はなく,当業者は,本件 明細書等㋐~㋒の薬理試験結果の記載に接しても,訂正前発明1及び2に係る鎮痛剤が「炎症性疼痛」及び「術後疼痛」以外の本件特許明細書に記載されている各痛みの処置における鎮痛効果を有することを認識することができず,まして,「痛覚過敏」及び「接触異痛」全般にかかる効果を認識できるはずがない。 したがって,本件明細書等の発明の詳細な説明は,当業者において,訂正前発明1及び2に係る鎮痛剤が,「炎症を原因とする痛み」(炎症性疼痛)及び「手術を原因とする痛み」(術後疼痛)以外の各痛みに対する鎮痛効果を有することが認識できる程度に明確かつ十分に記載されていないから,これらの発明につき,実施可能要件違反があり,無効とされるべ きものである。 ケ以上に対し,原告は,原告第3準備書面で,本件明細書等に神経障害性疼痛及び線維筋痛症による痛覚過敏及び接触異痛に関する開示があることの根拠として,「末梢性ないし中枢性の感作」等の技術常識に関する主張を行い,これを前提に原告第4準備書面で実施可能要件違反ではないと主 張する。 しかし,本件審決が「ホルマリン足蹠試験の後期相における反応と中枢性感作との関係は仮説または推論の域にとどまるものと理解されるものであって,本件特許出願当時,ホルマリン足蹠試験の後期相における反応が,中枢性感作等の痛みの処置における何らかの特性やメカニズムに基づ くものであるとか,それらを反映した結果であり,それら特性やメカニズ ムの関与を証明するための確 ける反応が,中枢性感作等の痛みの処置における何らかの特性やメカニズムに基づ くものであるとか,それらを反映した結果であり,それら特性やメカニズ ムの関与を証明するための確立された試験であるとの技術常識が存在していたと認めることはできない。また,ホルマリン足蹠試験が,末梢及び中枢神経の痛み全般についての試験であるとの技術常識が存在していたともいえない。」(甲9〔18頁〕)と判断したように,原告の主張は仮説にすぎない。 この点をあらかじめ指摘した上で,以下,被告らの反論の概略をまとめる(詳細については準備書面(被告らその2)「第3」,「第4」参照)。 (ア) 原告は,「痛みには,組織の損傷や炎症による侵害刺激で生ずる通常の痛みと,それとは区別される痛覚過敏や接触異痛などの神経の機能異常による慢性の痛み(慢性疼痛)が存在する」として,「侵害刺激で生 じる痛み」(侵害受容性疼痛の趣旨と理解される)と「痛覚過敏や接触異痛などの神経の機能異常による慢性の痛み」とを対比しているが,前述のとおり,本件明細書等自体が(侵害受容性疼痛の一種である)「炎症性疼痛」や「術後疼痛」と,「神経障害性疼痛」とを区別した上で,それぞれの下位概念として「痛覚過敏」や「接触異痛」という区別をし ているのであるから,原告の主張は本件明細書等に従った分類になっていない。原告の主張は,原告独自の分類であって,このような分類を行うべき根拠がない。 そもそも,本件明細書等の6頁31行目以下には,実施例について,「これらのデータはギャバペンチンおよびCI-1008が炎症性疼痛 の処置に有効であることを示す。」として(侵害受容性疼痛の一種である)炎症性疼痛に関する実験であることを明示している(準備書面(被告らその2)「2」参照 チンおよびCI-1008が炎症性疼痛 の処置に有効であることを示す。」として(侵害受容性疼痛の一種である)炎症性疼痛に関する実験であることを明示している(準備書面(被告らその2)「2」参照)。 (イ) 原告は「本件優先日当時,痛覚過敏や接触異痛が,その原因にかかわらず(炎症や手術を原因とするものであっても,神経障害性疼痛や線維 筋痛症におけるものであっても),末梢や中枢の神経細胞の感作という 神経の機能異常により生ずることが知られていた」と主張するが,これは誤りであって,せいぜい,一部にそのような仮説があった程度のことである。原告の主張の主たる根拠である甲77には,「最近明らかになった事実から,痛覚過敏は中枢または末梢,あるいはそれら双方の感作による侵害受容系の混乱によって生じることが示唆されている」と記載 されており,仮説にすぎない。実際には,「痛覚過敏」や「接触異痛」は様々な原因(メカニズム)によって生じると理解する方が技術常識である(甲26(審判乙3)〔364頁〕,乙18(審判甲12)〔Table3-2〕,甲9(本件審決)〔19頁〕,乙13〔1959頁〕,乙25〔訳文1頁〕,乙26〔訳文1頁〕。)。 仮に,本件明細書等が「痛覚過敏や接触異痛が,その原因にかかわらず末梢や中枢の神経細胞の感作という神経の機能異常により生ずる」という理解の下で作成されているというのであれば,本件明細書等にはその旨が明記されているはずであるが,本件明細書等には原告の主張する内容は記載も示唆もされておらず,「感作」なる用語についても一切使 用されていないばかりか,それぞれの痛みを別の痛みとして明確に区別した記載になっている。したがって,原告の主張は本件明細書等の開示に反している。 また, ,「感作」なる用語についても一切使 用されていないばかりか,それぞれの痛みを別の痛みとして明確に区別した記載になっている。したがって,原告の主張は本件明細書等の開示に反している。 また,原告が主張するような仮説に従ったとしても,本件明細書等自体に,炎症性疼痛などに効果を示すNSAIDが神経障害性疼痛に効果 がないと明示されている(4頁4~6行目)ことからすれば,原告の主張は,実施例に示された炎症性疼痛に基づく痛覚過敏に効果がある薬剤が,神経障害性疼痛や線維筋痛症に基づく痛覚過敏に効果があるとする理由にはなっていないから,原告の議論は本件において意味のある主張になっていない(以上について,準備書面(被告らその2)「3」参照)。 (ウ) ホルマリン試験に関し,原告の主張する「ホルマリン試験が,中枢の 神経細胞の感作による痛覚過敏の試験であることが知られていた」との事実はない上,そもそも,本件明細書等は,ホルマリン試験を「痛覚過敏」の試験とはしていない。 また,原告の主張する「当業者が痛覚過敏や接触異痛という痛みの症状に着目して動物モデルを用いていたことから,カラゲニン試験や術後 疼痛試験により,原因にかかわらず(神経障害性疼痛や線維筋痛症における痛みであっても)痛覚過敏や接触異痛に対する効果を確かめることができると考えられていた」との事実もなく,本件明細書等においても,「痛覚過敏」にかかるカラゲニン試験の結果として「炎症性疼痛の処置に有効であることを示す」(6頁31行目)としているのであるから, 「当業者が痛覚過敏や接触異痛という痛みの症状に着目して動物モデルを用いていた」のではなく,炎症性疼痛にかかる効果を確認するために動物実験を行っていることが示されている。したがって,原告の主 「当業者が痛覚過敏や接触異痛という痛みの症状に着目して動物モデルを用いていた」のではなく,炎症性疼痛にかかる効果を確認するために動物実験を行っていることが示されている。したがって,原告の主張は,技術常識はおろか本件明細書等の記載にも反する。 さらにいえば,仮に「当業者が痛覚過敏や接触異痛という痛みの症状 に着目して動物モデルを用いていた」と仮定しても,そのことから,「カラゲニン試験や術後疼痛試験により,原因にかかわらず(神経障害性疼痛や線維筋痛症における痛みであっても)痛覚過敏や接触異痛に対する効果を確かめることができると考えられていた」ことにはならない。 いずれにせよ,原告が述べるような仮定に基づいたとしても,せいぜ い,そこで導かれることは,侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛あるいは線維筋痛症に基づく痛覚過敏が神経細胞の感作によって生じており,本件明細書等の実験では,そのうちの侵害受容性疼痛に基づく痛覚過敏について本件化合物が効果を示したというだけのことであって,そのことから,神経障害性疼痛あるいは線維筋痛症に基づく痛覚過敏についてま で本件化合物の効果があったことには全く繋がらない(以上,準備書面 (被告らその2)「6」及び「7」参照)。 (エ) 原告は,「本件優先日当時,神経障害性疼痛は神経の機能異常に基づく疼痛と理解されており,線維筋痛症は,痛覚過敏を伴う疼痛と理解されていた。」と主張するが,本件優先日当時,神経障害性疼痛や線維筋痛症の定義については種々のものがあり,原告の主張はそのうちの一つ を示すものにすぎず,線維筋痛症は現在においても原因不明な痛みである。また,仮に,原告の主張を前提としても,本件明細書等自体が「痛覚過敏」や「接触異痛」は炎症性疼痛に基づく 張はそのうちの一つ を示すものにすぎず,線維筋痛症は現在においても原因不明な痛みである。また,仮に,原告の主張を前提としても,本件明細書等自体が「痛覚過敏」や「接触異痛」は炎症性疼痛に基づくものもあれば,神経障害性疼痛に基づくものもあるとしているのであるから,本件明細書等の動物実験によって,炎症性疼痛に基づく痛覚過敏や接触異痛にかかる効果 が確認されたとしても,「本件明細書等において,神経細胞の感作という神経の機能異常により生ずる痛覚過敏や接触異痛に対する本件化合物の効果を確かめたことにより,当業者は,神経障害性疼痛や線維筋痛症に対して本件化合物が効果を奏すると理解する。」ことには繋がらない。 繰り返しになるが,本件明細書等に開示されているのは,炎症性疼痛 や術後疼痛に基づく痛覚過敏や接触異痛について本件化合物が効果を示したというだけのことであるから,本件優先日当時,「神経障害性疼痛は神経の機能異常に基づく疼痛と理解されており,線維筋痛症は,痛覚過敏を伴う疼痛と理解されていた」か否かにかかわりなく,本件明細書等の記載から,神経障害性疼痛あるいは線維筋痛症に基づく痛覚過敏に ついてまで,本件化合物の効果があったことが理解できるはずがない(以上,準備書面(被告らその2)「8」参照)。 (オ) 原告は,「本件優先日当時に,中枢の神経細胞の感作を阻害することにより,原因にかかわらず痛覚過敏や接触異痛に効果を奏するケタミンという物質が知られていた。」と主張するが,原告も認めるとおり,ケ タミンは本件化合物とはその構造も作用も全く異なる別の薬剤である上 に,本件優先日当時,ケタミンの作用機序が「中枢の神経細胞の感作を阻害する」と理解されていたともいえない(甲66(審判乙43)〔229頁〕にお 作用も全く異なる別の薬剤である上 に,本件優先日当時,ケタミンの作用機序が「中枢の神経細胞の感作を阻害する」と理解されていたともいえない(甲66(審判乙43)〔229頁〕において,作用点は脊髄後角ではなく,主として中枢上位(つまり,脳)であるとする報告がある。)。 また,仮に,ケタミンが「原因にかかわらず痛覚過敏や接触異痛に効 果を奏する」と仮定したとしても,これとはその構造も作用も全く異なる別の薬剤である本件化合物について,「ケタミンの存在により,当業者は,ホルマリン試験等において神経細胞の感作に対する作用が確かめられた本件化合物もまた,神経障害性疼痛や線維筋痛症における痛覚過敏や接触異痛に対して効果を奏することを理解する。」はずがない(以 上,準備書面(被告らその2)「9」参照)。 コ以上のとおり,原告の主張は,その前提となる事実認定において誤った上で,誤った事実認定に基づいて,論理の飛躍を重ねた主張を展開しているにすぎない。また,仮に,原告の主張する事実認定を前提にしたとしても,本件明細書等の実験によって神経障害性疼痛や線維筋痛症による痛覚 過敏などが実施可能要件を充足しているという原告が主張する結論を導くことはできない(原告の技術常識に関する主張が誤りであることについては,準備書面(被告らその3)「第2」,「第3」,準備書面(被告らその4)「第Ⅱ」,「第Ⅲ」参照)。 (2) 無効理由2(サポート要件違反の有無)(争点1-2) 訂正前発明1及び2は,発明の詳細な説明に記載したものでなく,本件出願時の技術常識に照らしても,請求項に係る発明の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないから,訂正前発明1及び2についての特許は,平成14年法律 でなく,本件出願時の技術常識に照らしても,請求項に係る発明の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないから,訂正前発明1及び2についての特許は,平成14年法律第24号による改正前の特許法36条6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してさ れたものであって,サポート要件違反がある。 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発 明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 しかし,上記 (1)で主張したとおり,本件明細書等の発明の詳細な説明に,本件化合物が,訂正前発明1及び2に記載の各痛みや「炎症性疼痛」及び「術後疼痛」以外の各痛みの処置において鎮痛効果を有することは,当業者にお いて認識することができない。 訂正前発明1及び2は,本件明細書等の発明の詳細な説明に記載された発明であるとは認められず,本件特許にはサポート要件違反があり,無効とされるべきものである(準備書面(被告らその2)58頁参照)。 2 本件発明1及び2に係る訂正の再抗弁の成否(争点2) (1) 無効理由の解消の有無(争点2-1)ア無効理由1の解消の有無(争点2-1-1)上記1で主張したとおり,本件優先日当時の技術常識を踏まえてもこれらの記載から神経障害性疼痛及び線維筋痛症による痛覚過敏や接触異痛についても本件化合物が鎮 1の解消の有無(争点2-1-1)上記1で主張したとおり,本件優先日当時の技術常識を踏まえてもこれらの記載から神経障害性疼痛及び線維筋痛症による痛覚過敏や接触異痛についても本件化合物が鎮痛効果を有することが読み取ることは不可能であ るから,本件発明1及び2は実施可能要件に違反し,無効である(準備書面(被告らその2)「第4の2」参照)。 イ無効理由2の解消の有無(争点2-1-2)上記アのとおり,本件明細書等の発明の詳細な説明に,本件化合物が,本件発明1及び2に記載の各痛みにおいて鎮痛効果を有することは,当業 者において認識することができないので,本件発明1及び2は,本件明細 書等の発明の詳細な説明に記載された発明であるとは認められず,本件特許1及び2はサポート要件違反があり,無効とされるべきものである(準備書面(被告らその2)「第4の2」参照)。 (2) 訂正要件の具備の有無(争点2-2)ア本件発明1の訂正要件の具備の有無(争点2-2-1) 上記のとおり,本件発明2への訂正が認められないため,訂正前の請求項2と共に一群の請求項を構成する訂正前の請求項1に係る訂正も,一体的に認められない(準備書面(被告らその2)「第4の1」参照)。 イ本件発明2の訂正要件の具備の有無(争点2-2-2)本件審決が正しく認定するとおり,本件明細書等に記載のホルマリン試 験,カラゲニン試験及び術後疼痛試験の結果から確認できるのは,炎症性疼痛にかかる痛覚過敏や接触異痛に対する鎮痛作用のみであり,この結果から神経障害性疼痛や線維筋痛症に対する作用効果を確認できるとはいえない。また,本件優先日当時,上記三種の実験結果から,神経障害性疼痛及び線維筋痛症による痛覚過敏や接触異痛についても本 り,この結果から神経障害性疼痛や線維筋痛症に対する作用効果を確認できるとはいえない。また,本件優先日当時,上記三種の実験結果から,神経障害性疼痛及び線維筋痛症による痛覚過敏や接触異痛についても本件化合物が鎮 痛効果を有することが読み取れるとの技術常識がないことは,前記1で述べたとおりである。 このため,本件明細書等に実質的に何ら記載されていない新たな技術的事項を追加するものとして,訂正要件に違反するものである(準備書面(被告らその2)「第4の1」)。 第2 本件発明3及び4被告医薬品が本件発明3及び4の技術的範囲に属するか(争点3) 1 構成要件3B及び4Bの充足性(争点3-1)(1) 前記第1の無効論でも主張したように,本件明細書等では「炎症を原因とする痛み」すなわち「炎症性疼痛」や「手術後疼痛」と神経障害性疼痛や線 維筋痛症を別の痛みとして区別している。また,技術常識によれば,痛みは ①侵害受容性疼痛,②神経障害性疼痛及び③心因性疼痛の3つに大別できるところ,術後疼痛や,炎症性疼痛は侵害受容性疼痛の一種であって,神経障害性疼痛や心因性疼痛(この一種が線維筋痛症である。)とは区別される。 このため,構成要件3Bの「炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛み」,構成要件4Bの「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛 による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」には,「神経障害性疼痛」及び「線維筋痛症」は含まれない。 このことは,本件無効審判での原告の主張(包袋禁反言)及び本件審決の内容からも明らかである。このため,「神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛」に対して被告医薬品が用いられたとしても,被告医薬品の構成bは 本件発明3の構成要件3B及び本件発明4の構成要件4Bに 容からも明らかである。このため,「神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛」に対して被告医薬品が用いられたとしても,被告医薬品の構成bは 本件発明3の構成要件3B及び本件発明4の構成要件4Bに該当しない。 すなわち,本件無効審判では,被告らと同様に,構成要件3Bの「炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛み」は,「神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛」とは明確に区別される痛みであって,これらを含むものではないとの解釈に基づいて訂正前の各発明は,実施可能要件及びサポート 要件に違反し,無効とされるべきである旨の審決の予告(乙10)がなされている。原告は,当該審決の予告を受け,本件訂正を行った。その際,訂正請求書と同時に提出された令和元年7月1日付け上申書(乙11)では,原告は訂正の趣旨について以下のように述べている。 「被請求人は,訂正発明3及び4において,鎮痛剤の処置対象である 痛みを,審決の予告において実施可能要件及びサポート要件を満たすと判断された『炎症を原因とする痛み(炎症性疼痛)』及び『手術を原因とする痛み(術後疼痛)』に限定した。したがって,訂正発明3及び4は実施可能要件及びサポート要件を充足する。」(乙11〔9頁9~13行目〕)。 このように,原告は上申書において,炎症を原因とする痛みは炎症性疼痛 と,手術を原因とする痛みは術後疼痛と同義である(神経障害性疼痛及び線維筋痛症候群を含まない)と主張し,また,その意味について審決の予告が「実施可能要件及びサポート要件を満たすと判断された」ものであることを明記している。このような原告の主張を踏まえ,当該審決は,本件発明1及び2に関する訂正については訂正要件を満たさないとしてこれを認めず,ま た,訂正前発明1及び2は実施可能 た」ものであることを明記している。このような原告の主張を踏まえ,当該審決は,本件発明1及び2に関する訂正については訂正要件を満たさないとしてこれを認めず,ま た,訂正前発明1及び2は実施可能要件及びサポート要件を欠くと判断する一方で,本件発明3に係る,構成要件3Bを追加する本件訂正については,本件特許明細書の記載の範囲内においてするものであるとして,これを認め,実施可能要件及びサポート要件を充足するとの判断をした。 以上の本件無効審判における審理経過を踏まえると,原告の主張は包袋禁 反言の法理により認められるべきものではない。また,被告らの技術的範囲論に関する主張が正しいことは,当該審決の上記判断が裏付けるものである。 また,本件発明4については,訂正前の請求項4は「痛みが炎症性疼痛,神経障害による痛み,癌による痛み,術後疼痛,幻想肢痛,火傷痛,痛風の痛み,骨関節炎の痛み,三叉神経痛の痛み,急性ヘルペスおよびヘルペス後 の痛み,カウザルギーの痛み,特発性の痛み,または線維筋痛症である請求項1記載の鎮痛剤。」として,「神経障害による痛み」,「特発性の痛み」あるいは,「線維筋痛症」他を挙げていたが,その中から痛みの種類を「炎症性疼痛」及び「術後疼痛」に限定し,更に「痛覚過敏」や「接触異痛」との限定を入れたのであるから,原告は意図的に「神経障害性疼痛」や「線維 筋痛症」やこれに基づく「痛覚過敏」や「接触異痛」などを除外している(意識的除外)。 なお,本件無効審判における上記審理経過に基づき,本件審決が,本件発明4の訂正事項につき,「「炎症性疼痛による・・・痛み」,「術後疼痛による・・・の痛み」は,各々,「炎症を原因とする・・・痛み」,「手術を 原因とする・・・痛み」の誤りであることもまた明らかである。」と述 項につき,「「炎症性疼痛による・・・痛み」,「術後疼痛による・・・の痛み」は,各々,「炎症を原因とする・・・痛み」,「手術を 原因とする・・・痛み」の誤りであることもまた明らかである。」と述べて いる(28頁下から8行目)ことからも,本件発明3に関する主張が本件発明4にも当てはまることは明らかである(準備書面(被告らその1)「第4」参照)。 (2) これに対し,原告は,原告第5準備書面で,① 医薬品の用途発明においては,当該用途に使用されるものとして医薬 品を製造販売すれば発明の実施に当たるということができ,必ずしも医薬品医療機器等法の承認とは直接関係しない(4~5頁)。 ② 神経障害性疼痛は侵害受容性疼痛とオーバーラップする痛みであり,神経障害性疼痛を生ずる患者に被告医薬品を用いると,侵害受容性疼痛を含んだ痛み(混合性疼痛)の処置に用いられることになる。そのため, 被告医薬品は侵害受容性疼痛を伴う疾患に処方することを用途として含んでいる(5~8頁)。 などとして,被告医薬品は本件発明3及び4の技術的範囲に属すると主張する。 (3) 上記①についての被告らの主張は,以下のとおりである。 すなわち,医薬品は,添付文書を備えることが法律上義務付けられており(医薬品医療機器等法52条),それ以外の用途での製造販売を禁止されているのであるから,当該医薬品の用途(効能・効果)は,添付文書及びインタビューフォームの記載に基づき客観的に認定判断されなければならない。 知財高裁平成28年(ネ)第10023号同年7月28日判決(メニエー ル病治療薬事件)は,添付文書及びインタビューフォームの記載を根拠に,被告製品が当該特許の技術的範囲に属さないとしている。 本件発明3及び4 (ネ)第10023号同年7月28日判決(メニエー ル病治療薬事件)は,添付文書及びインタビューフォームの記載を根拠に,被告製品が当該特許の技術的範囲に属さないとしている。 本件発明3及び4は,用途発明であるのに対し,被告医薬品の添付文書(甲12)に記載された効能又は効果は,「神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛」であり,本件発明3及び4の用途あるいは「混合性疼痛」を用途(効 能・効果)としているものではない。また,被告らは,「混合性疼痛」の治 療に用いられることを意図して被告医薬品を製造販売しているものでもなく,混合性疼痛の患者に対して処方される場合があったとしても,その場合に対象となっている痛みは,あくまでも神経障害性疼痛などであって,併存している侵害受容性疼痛ではない。 (4) 上記②についての被告らの主張は,以下のとおりである。 すなわち,被告医薬品の用途(効能・効果)は,あくまで「神経障害性疼痛」及び「線維筋痛症に伴う疼痛」であって,「混合性疼痛」の治療に用いられることを意図しているわけでもなく,被告医薬品を投与される患者が「混合性疼痛」といわれる症例を示しているとしても,その場合における被告医薬品の用途はあくまでも,被告医薬品の添付文書(甲12)に記載された「神 経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛」であるから,「混合性疼痛」を持ち出す原告の主張には理由がない(準備書面(被告らその2)「第5の1」参照)。 2 均等侵害の成否(争点3-2)本件特許権については,平成29年7月16日をもって20年の存続期間が 満了しているところ,延長登録された特許権の効力範囲は技術的範囲の問題とは別個の問題であるから,あえて均等論の適用について論じるまでもない。 したがって,原告によ をもって20年の存続期間が 満了しているところ,延長登録された特許権の効力範囲は技術的範囲の問題とは別個の問題であるから,あえて均等論の適用について論じるまでもない。 したがって,原告による均等論の主張は主張自体が失当である。 また,本件発明3及び4において,少なくとも均等の第1要件及び第5要件によって,均等侵害は成立しない。 (1) 第1 要件について本件発明3及び4の本質的部分は,「炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みの処置における鎮痛剤」ないし「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤」として用いるものである。 一方,被告医薬品は,本件化合物を「神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う 疼痛」に対する疼痛治療薬として用いるものであるから,本質的部分において本件発明3及び4と相違している。 したがって,均等の第1要件を充足しない。 (2) 第5要件について本件発明3及び4に係る特許庁における無効審判における本件訂正の経緯 に鑑みれば,原告は,神経障害性疼痛及び線維筋痛症を本件発明3及び4の特許請求の範囲から意識的に除外したものと認められる。 したがって,均等の第5要件により均等侵害は成立しない(以上につき準備書面(被告らその2)71頁及び準備書面(被告らその4)13頁以下参照)。 第3 本件特許権の存続期間の延長登録 1 延長登録により存続期間が延長された本件特許権の効力は被告医薬品に及ぶか(争点4)原告は,知財高裁平成28年(ネ)第10046号同29年1月20日特別部判決が判示する実質同一性に関する基準に基づき,被告医薬品が処分対象物 と実質同一であると主張している。 この点,原 原告は,知財高裁平成28年(ネ)第10046号同29年1月20日特別部判決が判示する実質同一性に関する基準に基づき,被告医薬品が処分対象物 と実質同一であると主張している。 この点,原告が依拠する上記判決の判示事項は,「①医薬品の有効成分のみを特徴とする特許発明に関する延長登録された特許発明において,有効成分ではない「成分」に関して,対象製品が,政令処分申請時における周知・慣用技術に基づき,一部において異なる成分を付加,転換等しているような場合」と あるように,新規な物質特許に関する判示であるが,本件特許に係る発明は前述のとおり医薬用途発明であるため,原告が引用する上記判決の基準は適用されない。 一方,上記判決の「存続期間が延長された特許権に係る特許発明の効力は,政令処分で定められた「成分,分量,用法,用量,効能及び効果」によって特 定された「物」(医薬品)のみならず,これと医薬品として実質同一なものに も及ぶというべきであり,第三者はこれを予期すべきである。…したがって,政令処分で定められた上記構成中に対象製品と異なる部分が存する場合であっても,当該部分が僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異にすぎないときは,対象製品は,医薬品として政令処分の対象となった物と実質同一なものに含まれ,存続期間が延長された特許権の効力の及ぶ範囲に属するものと解するのが 相当である。」との判示は,延長登録された特許権の効力についての一般論であって,用途発明にも妥当すると理解される。そこで,両者の実質同一性について検討すると,処分対象物は甲1にあるように,いずれもカプセル型の薬剤であるのに対し,被告医薬品はOD錠(口腔内崩壊錠)であるため,両者は剤形や添加物が異なっており,成分が異なる。また,原告がOD錠の 検討すると,処分対象物は甲1にあるように,いずれもカプセル型の薬剤であるのに対し,被告医薬品はOD錠(口腔内崩壊錠)であるため,両者は剤形や添加物が異なっており,成分が異なる。また,原告がOD錠の発売に際し て行ったプレスリリース(乙7)では,「リリカの適応症である,神経障害性疼痛,および線維筋痛症に伴う疼痛を有する患者さんには,高齢の方も多く,中には嚥下機能が低下しているケースもあります。リリカOD錠は,そのような患者さんにも服用しやすい剤形となっており,口腔内で速やかに崩壊することで,服用時の利便性向上につながることが期待されています。」とあるよう に,カプセルと比較してOD錠は,水なしでも服用できるため,本件医薬品の効能効果である神経障害性疼痛および線維筋痛症に伴う疼痛を有する患者に多い高齢者にとって,格段に嚥下しやすいという本件医薬品の用法に関連する相違といえる。さらに,医薬用途発明では,剤型が異なる場合(例えば,カプセルとOD錠)に,剤形毎に延長登録が認められている例が多数あり(乙8) , この点からしてもOD錠とカプセル錠では延長登録の関係において別の薬剤として取り扱われていることが明らかである。 これらを踏まえると,処分対象物(カプセル)と被告医薬品(OD錠)との相違は,わずかな差異であるとか,全体的にみて形式的な差異にすぎないとは到底いえず,両者は実質同一とはいえないため,被告医薬品は延長登録後の特 許権の範囲に属さない。 これに対し,原告は,医薬品実務において,厚生労働省通知に基づき,処方箋に記載されたカプセルの先発医薬品について,処方医に確認することなく,OD錠に変更して後発医薬品に変更する調剤が許可されていることを挙げて,市場での競合という観点において,カプセルの 基づき,処方箋に記載されたカプセルの先発医薬品について,処方医に確認することなく,OD錠に変更して後発医薬品に変更する調剤が許可されていることを挙げて,市場での競合という観点において,カプセルの先発医薬品と同一に評価されていると主張する(原告第6準備書面9~10頁)。 しかしながら,本件で問題とすべきは,医薬品として実質同一といえるかであるところ,剤型が異なる場合(例えば,カプセルとOD錠)に,剤形ごとに延長登録が認められている例が多数あり(乙8),OD錠とカプセル錠では延長登録の関係において別の薬剤として取り扱われていることからすると,両者は実質同一とはいえない。 原告の主張は既に製造販売承認がされている医薬品につき,カプセルに代えてOD錠を調剤することが許可されているというにとどまり,上記の延長登録とは次元が異なり,妥当でない。 また,先発医薬品メーカーとしては,カプセルとは別個にOD錠について延長登録が可能なのであるから,後発医薬品メーカーがカプセルに代えてOD錠 を製造することを阻止したいのであれば,OD錠について延長登録出願を行えばいいのであり,このことをもってカプセルについての延長登録の効力範囲をOD錠についてまで及ぼす理由とはならない。 この点に関連して,最高裁平成26年(行ヒ)第356号同27年11月17日第三小法廷判決・民集69巻7号1912頁(ベバシズマブ事件最高裁判 決)は,「先行処分の対象となった医薬品の製造販売が,出願理由処分の対象となった医薬品の製造販売を包含するか否かは,…延長登録出願に係る特許発明の種類や対象に照らして,医薬品としての実質的同一性に直接関わることとなる審査事項について,両処分を比較して判断すべきである」ところ,「医薬品の成分を対象とする物の発 ,…延長登録出願に係る特許発明の種類や対象に照らして,医薬品としての実質的同一性に直接関わることとなる審査事項について,両処分を比較して判断すべきである」ところ,「医薬品の成分を対象とする物の発明において,医薬品としての実質的同一性に直接 関わることとなる両処分の審査事項は,医薬品の成分,分量,用法,用量,効 能及び効果である」と判示している。 このように,先行処分の対象となった医薬品の製造販売が,出願理由処分の対象となった医薬品の製造販売を包含するとして延長登録出願を拒絶すべきか否かと,存続期間が延長された特許権の効力の及ぶ範囲は,いずれも,「医薬品の成分,分量,用法,用量,効能及び効果」を考慮して判断している以上, 延長登録の可否においての判断は,延長後の特許権の効力の検討においても十分に尊重されるべきである。 しかるところ,前記のとおり,延長登録の可否においては,カプセルとOD錠とが実質同一ではないとして,OD錠につきカプセルとは別に延長登録が認められてきたことからすると,本件において処分対象物(カプセル)と被告医 薬品(OD錠)との相違は,わずかな差異であるとか,全体的にみて形式的な差異にすぎないとは到底いえず,両者の差異は実質的といえる。このことは,被告医薬品の効能効果である神経障害性疼痛および線維筋痛症に伴う疼痛を有する患者に多い高齢者にとって,OD錠はカプセルと比較して水無しでも服用可能なため,格段に嚥下しやすいという実情も踏まえると,より一層明らかで ある(以上につき,準備書面(被告らその1)「第3」及び準備書面(被告らその2)「第6」,「第7の3」参照)。 2 延長登録の無効理由の有無(争点5)前記のとおり,本件発明1,2あるいは本件訂正前発明1,2は記載不備により 告らその1)「第3」及び準備書面(被告らその2)「第6」,「第7の3」参照)。 2 延長登録の無効理由の有無(争点5)前記のとおり,本件発明1,2あるいは本件訂正前発明1,2は記載不備により無効である。一方,本件発明3及び4は神経障害性疼痛や線維筋痛症を含 まない発明としては記載不備により無効とはいえない。しかしながら,そのような前提に立ったとしても,本件発明3及び4の延長登録は無効である。 すなわち,本件特許権の存続期間は平成29年7月16日までであったところ,以下の4種の存続期間の延長が認められている。 ① 処分の対象となった物:プレガバリン(販売名:リリカカプセル25m g,75mg,150mg) 処分の対象となった物についての特定の用途:帯状疱疹後神経痛延長を認める期間:4年9月14日② 処分の対象となった物:プレガバリン(販売名:リリカカプセル25mg,リリカカプセル75mg,リリカカプセル150mg) 処分の対象となった物についての特定の用途:末梢性神経障害性疼痛延長を認める期間:5年③ 処分の対象となった物:プレガバリン(販売名:リリカカプセル25mg,リリカカプセル75mg,リリカカプセル150mg) 処分の対象となった物についての特定の用途:線維筋痛症に伴う疼痛延長を認める期間:5年④ 処分の対象となった物:プレガバリン(販売名:リリカカプセル25mg,リリカカプセル75mg,リリカカプセル150mg) 処分の対象となった物についての特定の用途:神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛(末梢性神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛を除く)延長を認める期間:5年 この点,本件特許権の存続期間の延長が認められるには,特許発明の 用途:神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛(末梢性神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛を除く)延長を認める期間:5年 この点,本件特許権の存続期間の延長が認められるには,特許発明の実施に平成28年法律第108条による改正前の特許法67条2項の政令で定める処分を受けることが必要であることが要件となり(同条の3第1項1号),この要件を欠く場合,延長登録は無効となる(特許法125条の3第1項1号)。 しかるに,上記の延長処分の対象となった用途は,いずれも本件発明3及び 4に係る炎症性疼痛,術後疼痛とは別の痛みに対する用途であり(これらの痛 みは別の痛みである。),これらの用途は本件発明3及び4の実施とはいえない。 このため上記延長登録は特許法125条の3第1項1号に基づき無効とされるべきである。 本件発明3及び4は存続期間を満了しており,延長登録が無効とされるべき である以上,原告の請求は直ちに棄却されるべきである(以上につき,準備書面(被告らその1)「第2」及び準備書面(被告らその2)「第7の2」参照)。

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