- 1 - 主文 1 原判決を次のとおり変更する。 第1審被告は,第1審原告に対し,528万円及びこれに対する平成22年9月17日から支払済まで年5%の割合による金員を支払え。 第1審原告のその余の請求を棄却する。 2 訴訟の総費用はこれを10分し,その1を第1審被告の負担とし,その余を第1審原告の負担とする。 事実 第1 控訴の趣旨 1 第1審被告は,第1審原告に対し,損害賠償金9397万円及びこれに対する国家賠償法(以下「国賠法」という。)違反行為日後の平成22年9月17日から支払済みまで民事法定利率年5%の割合による遅延損害金を支払え。 2 訴訟の総費用は第1審被告の負担とする。 3 仮執行の宣言第2 事案の概要本件は,第1審原告が,第1審被告の公務員の国賠法1条に違反する行為により,株式会社地域開発研究所(以下「RDC」という。)の取締役辞任を余儀なくされたと主張して,損害賠償を求める事案である。RDCは,国土交通省発注の建設コンサルタント業務(ウォーターフロント開発等の調査企画立案業務)の請負又は孫請を業務の中心としていた。第1審被告の公務員が,RDCの取締役である第1審原告の個人的な請願活動(国と公益法人との随意契約問題の解消及び東京湾第2海堡保存を訴えるもの)が気に入らないと考えて,RDCの他の取締役にRDCへの発注中止を示唆して企業存続の危機に怯えさせ,このような威嚇牽制の下で,RDCの他の取締役に第1審原告を取締役辞任に追い込ませたと第1審原告は主張している。 - 2 - 第3 第1審原告の主張 1 本件の概要第1審原告は,平成21年までRDCの代表取締役社長,平成22年までRDCの取締役であった。第 ませたと第1審原告は主張している。 - 2 - 第3 第1審原告の主張 1 本件の概要第1審原告は,平成21年までRDCの代表取締役社長,平成22年までRDCの取締役であった。第1審原告は,個人として,公益法人・随意契約問題(国から発注される建設コンサルタント業務の多くが,公益法人に対して随意契約で発注されて,民間企業はその孫請として業務を行っているという問題)を解決して,業務の多くが実際に業務を行う民間企業に対して競争により直接発注されるようにしたいと考えていた。また,第1審原告は,個人として,東京湾第2海堡(以下「第2海堡」という。)の保存活動をしていた。第1審被告の公務員は,RDCの他の取締役にRDCへの発注中止を示唆する威嚇牽制行為を行い(国賠法1条違反行為),RDCの他の取締役をして第1審原告をRDCの取締役辞任に追い込ませた。 2 加害行為(公益法人・随意契約関係)第1審原告は,随意契約問題解決のための請願活動の一環として,A衆議院議員に,RDCの会社概要中の業務実績の部分(甲14の44頁以降。以下「RDC資料」という。)を手渡した。A議員は,平成21年2月25日の衆議院予算委員会において,RDC資料(会社名を伏せたもの)を,資料作成会社に対する制裁を行わないという条件を付して国土交通大臣に手渡した。 同年3月以降,第1審原告の随意契約問題の活動を理由に,国土交通省本省(以下「本省」という。)の担当官は,出先機関や関係の公益法人に対してRDCへの発注中止の指示(いわゆる「お触れ」)を行い,RDCのB取締役に対して第1審原告をRDCの代表取締役から退任させることを要求した。その結果,第1審原告は,平成21年6月,RDCの代表取締役からの退任を余儀なくされた。 の本省担当官の行為は,職務上知り得た 対して第1審原告をRDCの代表取締役から退任させることを要求した。その結果,第1審原告は,平成21年6月,RDCの代表取締役からの退任を余儀なくされた。 の本省担当官の行為は,職務上知り得た情報及び影響力を利用して所管の業務に関して行ったものであるから,公務員がその職務を行うについてさ- 3 - れたものである。 の本省担当官の行為は,第1審原告の請願権,表現の自由及び平等権を侵害するものとして,国賠法1条違反行為である。 3 加害行為(第2海堡関係)平成22年7月頃,第1審原告は,個人として,東京湾海堡ファンクラブ(以下「海堡FC」という。)の事務局長の職にあった。海堡FCは,平成22年7月27日,国土交通省の出先機関である関東地方整備局(以下「関東地整」という。)の副局長に,第2海堡の保存の要望書を提出した。その前日に,本省港湾局の元局長及び第1審原告の2人は,港湾行政分野の公務員OBとして第2海堡の保存問題の解決策を探るために,関東地整の副局長と面談した。関東地整の港湾空港部担当官は,第1審原告の第2海堡の保存活動を理由に,部下の公務員及び関係の公益法人に対してRDCへの発注中止の指示(いわゆる「お触れ」)を行い,RDCのB取締役に対して,第1審原告をRDCの取締役から退任させることを要求した。その結果,第1審原告は,平成22年9月,RDCの取締役からの退任及び保有するRDC発行株式の全部の譲渡を余儀なくされた。 の関東地整担当官及びその部下の行為は,職務上知り得た情報及び影響力を利用して所管の業務に関して行ったものであるから,公務員がその職務を行うについてされたものである。 の関東地整担当官及びその部下の行為は,第1審原告の請願権等を侵害するものとして,国賠法1条違反行為である。 して行ったものであるから,公務員がその職務を行うについてされたものである。 の関東地整担当官及びその部下の行為は,第1審原告の請願権等を侵害するものとして,国賠法1条違反行為である。 4 損害2及び3の行為の結果,第1審原告を除いたRDCのすべての取締役は,RDC倒産の恐怖から,第1審原告に対してRDCの役員から辞任することを迫った。その結果,第1審原告は,平成21年6月15日にRDCの代表取締役を辞任し,平成22年9月17日にRDCの取締役を辞任することを余儀なく- 4 - された上,保有していたRDC発行株式の全部を譲渡することを余儀なくされた。これにより第1審原告に生じた損害は,下記のとおりである。 役員報酬相当額 4743万円(年収実績1169万円の5年分から平成21年及び22年に受領した報酬1102万円を控除した金額)退職金相当額 2800万円(退職金予定額3500万円から実際に受領した退職金額700万円を控除した金額)慰謝料 1000万円弁護士費用相当額 854万円 (からまでの合計額の約1割) 5 消滅時効不成立本件訴訟提起日は平成27年10月15日である。国賠法に基づく損害賠償請求をするには,加害行為を特定することが必要である。第1審原告は,弁護士のアドバイスにより,平成26年に複数の関係者からの事情聴取を開始して,加害公務員等を知り,加害行為を特定できるようになった。第1審原告が加害者を知ったのは,事情聴取による調査が終了した平成27年7月10日である。 同日から3年経過前に本件訴訟が提起されたから,消滅時効は完成していない。 第4 第1審被告の主張 1 本件の概要第1審被告の公務員に国賠法1条違反行為があったことは否認する。 2 加害 同日から3年経過前に本件訴訟が提起されたから,消滅時効は完成していない。 第4 第1審被告の主張 1 本件の概要第1審被告の公務員に国賠法1条違反行為があったことは否認する。 2 加害行為(公益法人・随意契約関係)第1審原告の主張2のの事実のうち,平成21年2月25日の衆議院予算委員会においてA議員による質疑があったことは認め,その余の事実は否認する。 第1審原告の主張2の及びの主張は争う。国土交通大臣は,所管の公益法人に対して特定の民間企業への発注を停止するように指示したり,特定の民間企業の役員を解任するように要求したりする権限は有していない。よって,第1審原告の主張事実を前提としても,第1審原告主張行為は,公務- 5 - 員の職務権限外の行為であるから,社会通念に照らして客観的・外形的にみて,職務の範囲に属する行為に当たらない。また,職務と密接に関連する行為や,職務に付随する行為であるともいえない。 3 加害行為(第2海堡関係)第1審原告の主張3のの事実のうち,平成22年7月27日頃の要望書提出や関東地整の副局長との面談があったことは,事実関係を確認できなかったため不知であり,その余の事実は否認する。 第1審原告の主張3の及びの主張は争う。その趣旨は,前記2のとおりである。 4 損害第1審原告の主張4の事実は否認し,争う。第1審原告の取締役辞任はRDC内部の経営判断によるところが大きいので,第1審原告主張の加害行為があったとしても損害との間の因果関係はない。 5 消滅時効第1審原告は,平成21年や平成22年の時点で,第1審原告主張のお触れが出ていたことを認識していた。したがって,第1審原告の主張によっても,第1審原告は,平成22年8月の時点において,第1審原告主張 第1審原告は,平成21年や平成22年の時点で,第1審原告主張のお触れが出ていたことを認識していた。したがって,第1審原告の主張によっても,第1審原告は,平成22年8月の時点において,第1審原告主張の行為が本省又は関東地整に所属する国家公務員によってされたことを知っていたことになる。そうすると,第1審原告は,遅くともRDCの取締役を辞任した平成22年9月17日の時点で,第1審被告に対する損害賠償が可能な程度に損害及び加害者を知っていたことになる。同日から3年以上経過したので,第1審被告は消滅時効(国家賠償法4条,民法724条)を援用する。 理由 第1 認定事実証拠(甲1~9,12,14~33,37~68,71~83,87~94,101,104~108,乙1,2,証人C,同B,同D,同E,第1審原告- 6 - 本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認定することができる。 1 RDCの設立等RDCは,昭和58年に,建設コンサルタント業務等を営むことを目的として設立された株式会社である。設立時は,第1審原告が発行済株式総数の過半数を有していた。第1審原告は,自身がRDC内部においてワンマンの独裁者になってはいけないと考えて,昭和61年以降は,持株比率を発行済株式総数の43%程度に減らし,平成22年までこの状態を維持していた。したがって,第1審原告以外の株主全員が第1審原告の取締役解任に賛成した場合には,第1審原告は自らの取締役解任を阻止できない状況に置かれていた。 RDCの決算書類においては,設立後のすべての事業年度について,損益計算書においては利益を出し,貸借対照表においては資本欠損や債務超過に陥ったことがなく,常に配当可能利益がある状態であった。RDCは,昭和63年以降,無配当の事業年度もあったが, 年度について,損益計算書においては利益を出し,貸借対照表においては資本欠損や債務超過に陥ったことがなく,常に配当可能利益がある状態であった。RDCは,昭和63年以降,無配当の事業年度もあったが,株主に対して株式払込金の2.5%又は5%の割合による配当をした事業年度も多かった。 RDCは,建設コンサルタント業務の発注を受けて仕事を完成させることを業務としてきた。建設コンサルタント業務のそもそもの発注の大元は第1審被告が半分以上を占め,その余の部分も地方公共団体又はこれに準じる組織(公的な地域協議会など)などの公的セクターであった。しかしながら,RDCに対する直接の発注元は,第1審被告や地方公共団体から発注を受けた公益法人からの孫請けとして注文を受けるものが全体の4割程度を占めていた。いずれにせよ,発注の大元の半分以上を占める国からの直接,間接の発注を止められると,企業の存亡の危機に陥るというビジネスモデルであった。 2 公益法人・随意契約問題第1審原告は,個人として,RDCが業務の中心としていた建設コンサルタント業務のうち,第1審被告が大元の発注元であるものについて,随意契約問題があるという政治的意見を有していた。すなわち,会計法等に基づけ- 7 - ば発注を民間業者等の競争に付さなければならないのに,競争に付さずに随意契約により公益法人に発注して,公益法人から民間企業に再発注されるものが多いことが問題であるという意見を有していた。非効率な公益法人が公務員の現役出向先や天下り先として温存され,民間企業の収入が減少することが問題であるからであった。また,民間企業にとって,第1審被告の入札に応じた実績が増えないため,第1審被告等の指名競争入札の参加基準が得られる民間企業が増えないことにも問題があるからであった。 平成21 あるからであった。また,民間企業にとって,第1審被告の入札に応じた実績が増えないため,第1審被告等の指名競争入札の参加基準が得られる民間企業が増えないことにも問題があるからであった。 平成21年1月頃,第1審原告は,公益法人との随意契約を原則として廃止するという自己の政治的意見実現のための請願活動の一環としてA衆議院議員と面会した際,A議員に,RDC資料(甲14の44頁以降)及び関東地整の港湾航空局に属する東京湾口航路事務所(以下「湾口事務所」という。)からの文書(甲15。RDCの業務実績についてウェブサイトで「国発注の財団からの再受注に関しては公表されては困ります。」と注意する内容のもの)を手渡した。第1審原告としては,A議員の勉強用資料として交付したものであって,A議員がこれらの資料を他に公表することは,RDCの社名を隠しての公表も含めて,想定していなかった。 ところが,平成21年2月25日の衆議院予算委員会(甲16)において,A議員が第1審被告と公益法人との随意契約問題についての質疑を行った際,RDC資料(RDCの社名を隠したもの)及び湾口事務所からの文書(甲15のうちRDCの社名を隠したもの)を,当時の国土交通大臣に手渡してしまった。A議員は,資料記載の会社に制裁を加えないという条件を付し,国土交通大臣は,制裁を加えないと明示的に約束して,RDC資料等を受領した。また,A議員は,同日の予算委員会における質問の中でRDC資料(甲14の50頁)に記載がある公益法人(第1審被告等を発注元とする随意契約の当事者で,第1審被告等からの請負人・民間企業への再発注者となる者)として「財団法人リバーフロント整備センター」(以下「リバフロ」という。)- 8 - 及び「財団法人港湾空間高度化環境研究センター」(以下「WAVE」という 人・民間企業への再発注者となる者)として「財団法人リバーフロント整備センター」(以下「リバフロ」という。)- 8 - 及び「財団法人港湾空間高度化環境研究センター」(以下「WAVE」という。)などの名称を,名指しして指摘した。 本省の担当者は,制裁を加えないという国土交通大臣の約束の趣旨に反して,RDC資料の出典の調査を開始した。リバフロ及びWAVEにも,本省担当者からの調査が入った。本省の担当者は,資料の出典がRDCであり,RDCの企業概要等がA議員の手に渡ったことを突き止めた。本省港湾局建設企画室長は,平成21年3月9日に第1審原告を本省に呼び出して,RDC資料をA議員に渡したかどうか問い質した。第1審原告が肯定する回答をしたため,本省担当者には,A議員にRDC資料等を手渡したのが第1審原告であることが判明した。 WAVEは,第1審被告等からの請負人かつ民間企業への再発注者で,RDCの大口発注元の公益法人であった。WAVEは,A議員質問でWAVEの名前も出たことから,A議員に資料を渡したのがRDCの第1審原告であることを本省の担当官から知らされて,A議員質問及び第1審原告の行為を迷惑であると感じていた。WAVEの理事は,同年3月13日に,格別の用事もないのに第1審原告を呼び出して無言の圧力をかけるという牽制行為をした。本省の担当者は,RDCへの発注の見直しがあり得ることを示唆した上で自主的にA議員質問の再発防止策を示すようにRDCの役員を牽制することを,関東地整や公益法人に口頭で指示した。同年5月頃になると,A議員質問で法人名を出されたWAVEの主任研究員及びリバフロの専務理事は,RDCのB取締役を呼び出して,「関東地整の指示でRDCに仕事は出せない」と通告した。これを皮切りに,B取締役は,前年まで発注を受けていた 人名を出されたWAVEの主任研究員及びリバフロの専務理事は,RDCのB取締役を呼び出して,「関東地整の指示でRDCに仕事は出せない」と通告した。これを皮切りに,B取締役は,前年まで発注を受けていた他の公益法人からも呼び出されて,A議員質問へのRDC(第1審原告)の関与が原因との示唆を受けつつ,RDCへの発注の見直しをほのめかされるようになった。RDCの社長である第1審原告も,同年6月上旬,WAVEの理事長から「RDCが自主的に再発防止策を示さないと,RDCに対して- 9 - 発注することができない」と通告された。 第1審原告以外の3名のRDC取締役(B取締役,F及びD)は,公益法人経由の第1審被告からの牽制を受けて,第1審原告についてけじめを付けた人事を実行しないと,第1審被告を発注の大元とするRDCの直接間接の受注が減って,RDCが企業の存続の危機に陥ると考えるようになった。平成21年6月15日のRDCの取締役会(当時の取締役は4名)において,B取締役ら前記3名の取締役は,第1審原告の代表取締役社長辞任(平取締役に降格して会長就任)を要求した。第1審原告は,本省若しくは関東地整の公務員又はその意を受けた公益法人の職員がB取締役らに圧力をかけたのだと推察したが,具体的にどの役職者がどのように圧力をかけたのかは,皆目分からなかった。第1審原告は,取締役会での多数決でも勝てないし,総株主の過半数の議決権を有しておらず株主総会でも勝てないため,不本意ながら,他の3名の取締役の意見に従って,代表取締役社長を辞任し,取締役会長に退くこととした。 RDCは,代表取締役社長が第1審原告からB取締役に交代したことを関係の省庁や公益法人に報告し,プロポーザル(公募で受注業者選定を行う方法)への応募を自粛するなど,自発的に謹慎しているかの姿 た。 RDCは,代表取締役社長が第1審原告からB取締役に交代したことを関係の省庁や公益法人に報告し,プロポーザル(公募で受注業者選定を行う方法)への応募を自粛するなど,自発的に謹慎しているかの姿勢を示して,事業活動を続けた。第1審被告や第1審被告から発注を受けた公益法人からのRDCへの発注総額は,平成21年においては減少した。特に、リバフロなど本省河川局関係の公益法人からの発注は激減し,平成23年以降は完全に消滅したまま現在に至っている。本省港湾局関係の公益法人(WAVEなど)からの発注は,減少したもののある程度の額を維持した。全体として,RDCの企業としての存続が危うくなるところまでは減少しなかった。 3 第2海堡問題 大鑑巨砲時代である明治時代から大正時代にかけて,東京湾のうち神奈川県横須賀市と千葉県富津市にはさまれた海域には,砲台を備えた人工島(海堡)- 10 - が第1海堡から第3海堡まで3島建設された。第3海堡は,建設後まもなく関東大震災により被災して危険な状態になったため,撤去された。第1海堡及び第2海堡(いずれも千葉県富津市の富津岬沖にある。)は,砲台設置の使命を終え,大鑑巨砲時代の名残りの遺構として残っている。文化庁は,文化財保護法95条の規定により,歴史的遺構たる第1海堡及び第2海堡について,埋蔵文化財包蔵地として周知の徹底を図る措置をとった。この結果,第1海堡及び第2海堡において発掘等の開発工事を行うには,同法93条又は94条の規定により,文化庁への事前協議や事前届出が必要となった。 平成14年9月1日,東京湾海堡を保存すべしという政治的意見を有する者らが任意団体として海堡FCを設立した。第1審原告は,設立時の発起人8人のうちの1人で,海堡FCの事務局長に就任し,RDCの本店事務所及び従業員の ,東京湾海堡を保存すべしという政治的意見を有する者らが任意団体として海堡FCを設立した。第1審原告は,設立時の発起人8人のうちの1人で,海堡FCの事務局長に就任し,RDCの本店事務所及び従業員の一部を海堡FCの事務所及び事務員として提供していた。また,RDCは,海堡FCの法人会員となっていた(甲30)。公務員OBの経歴を有する海堡FCの個人会員には,第1審原告のほか本省港湾局元局長などがいた。 湾口事務所は,多数隻の船舶の運航により常時混雑している東京湾の航路整備の観点からは,第2海堡(陸地に非常に近い第1海堡よりも更に沖合に位置する。)は,船舶の運航にとって危険な存在であり,できれば取り壊したいと思っていた。このような考え方は対外公表していなかった。 平成22年7月に,朝日新聞記者から海堡FCに対して,第2海堡の砲台などの遺構が湾口事務所の手により破壊されたという情報提供があった。これを受けて,海堡FCは,関東地整に対して,第2海堡保存の要望書(甲25)を提出することになった。 第1審原告は,この問題を穏便に治めるには,要望書提出前に,港湾事業関係公務員OBの海堡FC会員(本省港湾局元局長及び第1審原告)が,港湾事業関係公務員の先輩として関東地整を訪問して,先輩後輩の関係を通じて海堡FCと関東地整を非公式に調停し,工事停止と遺構保存を納得させるのがよい- 11 - という牧歌的な考え方を有していた。平成22年7月26日に,本省港湾局元局長及び第1審原告が,公務員OBの海堡FC会員として,関東地整の港湾関係の事務所(横浜市)に関東地整の副局長を訪問して面談し,第2海堡の保存を要請した。本省港湾局元局長及び第1審原告は,翌8月にも,非公式の調停のため,関東地整の副局長と面談する約束を取り付けていた。関東地整の副局長は に関東地整の副局長を訪問して面談し,第2海堡の保存を要請した。本省港湾局元局長及び第1審原告は,翌8月にも,非公式の調停のため,関東地整の副局長と面談する約束を取り付けていた。関東地整の副局長は,港湾航路関係の業務内容がよくわかっておらず,部下の関東地整の港湾空港部長に対して,港湾事業関係公務員OBたる海堡FC会員との面談の事実を知らせなかった。翌27日,海堡FCは,海堡FCのG会長名で,第2海堡保存の要望書(甲25)を関東地整副局長(横浜の港湾空港部)に提出した。 要望書(甲25)には「第2海堡の整備は,海堡の歴史的な意義を認識した上で進めていただきたい。第2海堡は埋蔵文化財包蔵地で,歴史的に貴重なものであり,遺構を保存した上での整備を要望いたします。」との記載があり,海堡FCの住所がRDC内と表示され,海堡FCの電話番号もRDCの電話番号と同じ番号が表示されていた。 その直後の平成22年7月29日付け朝日新聞朝刊(甲26)に,埋蔵文化財包蔵地として周知されている第2海堡の砲台等の遺構の破壊工事を,湾口事務所が文化庁との事前協議を怠ったまま実行したことを報じる記事が掲載された。記事には,湾口事務所の担当者が「海堡を所有する第3管区海上保安本部からも,海堡が埋蔵文化財包蔵地との引き継ぎはなく,認識がなかった。壊したものは元通りにならないが残っている部分もあり,県と話し合って慎重に扱っていきたい」と述べたことが記載された。 海堡FCは,平成22年8月4日には,海堡FCのG会長名で,湾口事務所長宛ての要望書(甲27)を湾口事務所(横須賀市)に提出した。要望書(甲27)には「第2海堡の工事状況について,地元へ報告していただきたい。第2海堡の遺構の工事着手前と現況について,地元に対し,詳しい報告をしていただくことを要望いたします。第2海堡 出した。要望書(甲27)には「第2海堡の工事状況について,地元へ報告していただきたい。第2海堡の遺構の工事着手前と現況について,地元に対し,詳しい報告をしていただくことを要望いたします。第2海堡の現地を視察させていただきたい。第- 12 - 2海堡は現在,海上保安庁の管理にあり,上陸が禁じられているが,第2海堡の遺構の現況を把握するため,第2海堡の現地視察を要望いたします。」と記載され,海堡FCの住所がRDC内と表示され,海堡FCの電話番号もRDCの電話番号と同じ番号が表示されていた。 さらに,平成22年8月30日付け朝日新聞朝刊の千葉版(甲28)には,海堡FCのG会長らが同月18日に湾口事務所長に対して第2海堡の砲台部分の保存を申し入れた旨の記事が掲載された。記事には,湾口事務所長が「認識不足だった。今後は守るべきものは守って工事を進めたい」と述べ,工事の状況については今後担当官庁に報告する方針を明らかにしたと記載された。 B取締役は,平成22年7月29日の朝日新聞記事掲載後まもない同年8月頃に,関東地整から呼び出された。関東地整の役職者は,平成21年の公益法人・随意契約問題(A議員へのRDC資料提供問題)の時とは比べものにならないくらい厳しい口調で,B取締役に対して,第1審原告を名指しにして「第1審原告の辞表を持ってこい」と威嚇し,第1審原告及びRDCが湾口事務所の政策(船舶運航上のリスク排除のための第2海堡撤去)に反する政治的意見(歴史的遺構としての第2海堡の保存)を有し,その実現のための請願活動をしていることを指摘した。その上で,関東地整の役職者は,B取締役に対して,第1審原告がRDCから手を切らない限り,国はRDCには発注しないという強い警告をした。B取締役は,同じころ,WAVEなどの有力公益法人(RDCの 。その上で,関東地整の役職者は,B取締役に対して,第1審原告がRDCから手を切らない限り,国はRDCには発注しないという強い警告をした。B取締役は,同じころ,WAVEなどの有力公益法人(RDCの発注元)の役職者からも呼び出されて,同様の警告を受けた。 これらの警告は,当時の関東地整の港湾空港部長(副局長よりも下位で,湾口事務所長よりも上位のポストであり,関東地整の港湾部門における実質的な実力者の地位にあった。)の次のような考え方によるものであった。すなわち,RDC及びその取締役である第1審原告は関東地整の協力会社(発注先)及びその役員として,関東地整と一緒に仕事をすべき立場なのに,海堡FCの中心的活動家となって関東地整の政策に反対する政治的意見に基づく請願活動(第- 13 - 2海堡保存活動)をするのは,後ろから関東地整を撃ったようなものだという考え方であった。関東地整の港湾空港部長は,部下に対して,第1審原告が海堡FCの活動を止めないのならRDCへの発注を考えないといけないという指示を出した(甲41の8頁,10頁,21頁)。この指示は,関東地整の政策に反対の意見に基づく請願活動を抑制する効果を持つものであった。 関東地整の港湾空港部長からの指示を受けて,港湾航空部の部下の公務員やその指示を受けた公益法人の役職者が,B取締役への威嚇的な警告を実行した。 しかしながら,当時は,第1審原告もB取締役も,威嚇的警告がどの公務員のどのような指示によるものか,皆目見当が付かなかった。 関東地整やWAVEからの厳しい威嚇に強い衝撃を受けたB取締役は,RDCの企業防衛と20名余りの従業員の雇用確保のためには,第1審原告が取締役を辞任し,RDC発行株式も全部手放すなど,第1審原告がRDCから完全に手を切ってもらわないといけないと考えるよ 締役は,RDCの企業防衛と20名余りの従業員の雇用確保のためには,第1審原告が取締役を辞任し,RDC発行株式も全部手放すなど,第1審原告がRDCから完全に手を切ってもらわないといけないと考えるようになった。第1審原告以外の他のRDC取締役(B取締役のほか,F,D及びH)も,関東地整やWAVEからの厳しい口調による威嚇(第1審原告の辞表をもってこい)に関するB取締役の説明を聞いて,企業存続と従業員の雇用確保のためには,B取締役の意見に従うほかないと考えるようになった。RDCの従業員の多くも,B取締役からの説明を聞いて,同様に考えるようになった。B取締役は,平成22年8月に予定されていた海堡FC会員(本省港湾局元局長及び第1審原告)と関東地整の副局長との面談約束を知り,これをキャンセルさせた。 同月28日開催のRDCの取締役会では,第1審原告も出席の上で,海堡FCについて,RDCが海堡FCの法人会員から退会すること及び海堡FCの事務局にRDCの本店事務所を提供することを返上することが決議された。また,同日の取締役会では,第1審原告以外の取締役の全員が第1審原告の取締役辞任とRDC発行株式を手放すことを求めた。第1審原告は,本省若しくは関東地整の公務員又はその意を受けた公益法人の職員がB取締役らに圧力をかけた- 14 - のだと推察したが,具体的にどの役職者がどのように圧力をかけたのかは,皆目分からなかった。 同月31日に開催されたRDCの役員と従業員との意見交換会では,従業員からは,第1審原告の行動はRDCの存続とその従業員の雇用を危うくするという意見が圧倒的多数を占めた。その後にRDCの従業員から第1審原告宛てに提出された要望書(甲32)には「私どもは,平成22年8月31日における意見交換会の内容を踏まえ,第1審原告が取った くするという意見が圧倒的多数を占めた。その後にRDCの従業員から第1審原告宛てに提出された要望書(甲32)には「私どもは,平成22年8月31日における意見交換会の内容を踏まえ,第1審原告が取った行動(公益法人問題,東京湾海堡問題)に対して,社会正義を貫く観点からは理解を示しますが,会社経営の一端を担う取締役としては会社存続を危うくする行動であったと考えております。長年にわたってRDCを支えていただいた功績を踏まえても,今後,第1審原告が会社経営を担う取締役に留まることに対して不都合があると考え,今回を期に取締役会長を辞任していただくように要望いたします。」などの記載があった。第1審原告は,取締役会での多数決でも勝てないし,総株主の過半数の議決権を有しておらず株主総会でも勝てないため,不本意ながら,同年9月17日,取締役を辞任し,保有するRDC発行株式も全部譲渡することとした。 第1審原告の退職金額は700万円と決定され,そのころ,同額をRDCから受領した。第1審原告は,多くの民間企業の通例に従えば,第1審原告の退職金額は3000万円以上が相当であると考えている(役員報酬月額40 万円×勤続年数27.4 年×功績倍率3.0=3288 万円)。株式の譲渡価額は,1株2万5000円(174株合計で435万円)とされた。第1審原告は,1株5万円又は1株3万8500円(時価純資産額をもとに算定した額)が相当であると考えていた。 4 訴訟提起の経緯第1審原告は,第1審被告の公務員が,法令上の根拠なく民間企業であるRDCの経営に介入し,RDCへの発注停止の実行をほのめかしてB取締役に圧- 15 - 力をかけて第1審原告をRDCの代表取締役や取締役から解任するようにB取締役に仕向けることは,公務員等による国賠法1条違反行為であると考え 発注停止の実行をほのめかしてB取締役に圧- 15 - 力をかけて第1審原告をRDCの代表取締役や取締役から解任するようにB取締役に仕向けることは,公務員等による国賠法1条違反行為であると考えていた。しかしながら,具体的にどの組織に属するどの職位にある者がどのような行為をしてB取締役に圧力をかけたのかが,第1審原告には皆目分からず,公務員の国賠法1条違反行為を特定して責任追及をすることができなかった。 第1審原告は,平成26年から平成27年にかけて,弁護士のアドバイスにより,平成22年前後のRDCの取締役や,同じ時期の関東地整の港湾航空部長に面談してインタビューを試みた。その結果,インタビュー内容をもとにして,公務員の国賠法1条違反行為についての主張を,公務員の属する組織や役職をある程度具体的に記述した上で組み立てることが可能となり,主張事実を裏付ける具体的な間接事実の立証(インタビューの結果を書証(甲39~44)として提出)をすることも可能となった。インタビューの結果,第1審原告は,平成21年のA議員質問の際のRDCの経営への介入は本省港湾局関係の幹部が主導したことを確信し,平成22年の第2海堡問題の際のRDC経営への介入は出先機関たる関東地整の幹部が主導したことを確信するに至った。訴状に,公務員の国賠法1条違反行為について,想定される役職者をある程度具体的に特定して記載することも,できるようになった。第1審原告は,平成27年10月15日に本件訴訟を提起した。 第2 認定事実に基づく判断 1 公益法人・随意契約問題省庁と深い関係を有する社団法人・財団法人は,公益法人改革の前後を通じて,公務員の現役出向の受入先や退職者の再就職先となっている。そのため,公益法人改革前の公益法人たる社団法人や財団法人が,省庁から各種業務の発 を有する社団法人・財団法人は,公益法人改革の前後を通じて,公務員の現役出向の受入先や退職者の再就職先となっている。そのため,公益法人改革前の公益法人たる社団法人や財団法人が,省庁から各種業務の発注を安定的に受け,剰余金を確保しつつ安定した財務運営をしながら継続企業のように存続し,現役出向公務員や退職公務員を雇用するための人件費等の経費を確実に支払えるようにすることは,省庁にとって重要なことであった。競- 16 - 争入札等により,民間企業が,公益法人等からの孫請けでなく,第1審被告から直接受注する事業が増加することは,避けたいという思いがあった。第1審被告や公益法人からコンサルタント業務の発注を受ける建設コンサルタント会社たるRDCが,公益法人・随意契約問題を追及するA議員質問に関与していたことは,本省の公務員からは許しがたいことにみえた。 公務員が,法令の根拠なく,所管の政策に反対の政治的意見を持って請願その他の活動を行う民間人や民間企業に対して,当該活動を理由に差別的取扱いや不利益な取扱いをすることはできない。前記認定事実によれば,当時RDCの代表取締役である第1審原告がA議員質問に関与したことを把握した本省職員は,大臣の約束の趣旨に反して,発注の見直しなどを示唆して,RDCのB取締役を通じてRDCを牽制し,自発的に自粛とけじめをつけることを暗に求めた。その結果,RDCが自発的に実行するという形による第1審原告のRDC代表取締役辞任とプロポーザルへの応募自粛というけじめが実現された。自発的に自粛とけじめを付けることを暗に求めることも,法律上の権限がなければ,行うことはできない。本省職員が所管の業務(コンサルタント業務の発注)に関して,権限もないのに,自ら又は所管の公益法人を介して,民間企業に役員の選解任を自発的な形で実行 も,法律上の権限がなければ,行うことはできない。本省職員が所管の業務(コンサルタント業務の発注)に関して,権限もないのに,自ら又は所管の公益法人を介して,民間企業に役員の選解任を自発的な形で実行するように求める行為は,国賠法1条に違反する。他方において,A議員質問があったことを受けての本省職員の行為は,結果的には,第1審原告個人への攻撃というよりは,RDCという民間企業の自主的な経営への,法令の根拠に基づかない介入であった。企業体であるRDCに対する賠償責任が認められる可能性はあるが,第1審原告個人に対する賠償責任を肯定するには無理がある。 2 第2海堡問題湾口事務所(関東地整の港湾空港部に属する。)は,平成22年当時,東京湾における船舶運航のリスク除去という観点からの政策目標として,第2海堡撤去の方針を有していた。この方針は,文化庁による第2海堡の埋蔵文化財包蔵- 17 - 地としての周知という障害を抱えていた。第2海堡の工事には,文化庁との事前協議が必要となるほか,工事の実行が世論から文化財軽視という批判にさらされるというリスクがあった。海堡FCは,第2海堡保存を訴える任意団体であって,関東地整の政策(第2海堡撤去)に反対する立場の政治的意見を有していた。 関東地整から業務の発注を受ける企業でありながら,関東地整の政策に反する意見を標榜する団体(海堡FC)に加盟し,海堡FCの事務局にRDCの本店事務所を提供し,海堡FCが第2海堡保存の要望書を提出することは,関東地整の港湾航空部長にとっては,許し難いことにみえた。文化庁との事前協議を怠ったまま第2海堡の砲台等撤去工事を実行した湾口事務所を非難する内容の新聞記事が,要望書提出直後に掲載されたことが,火に油を注いだとみられる。公務員が法令の根拠なく所管の政策に反対の立場 前協議を怠ったまま第2海堡の砲台等撤去工事を実行した湾口事務所を非難する内容の新聞記事が,要望書提出直後に掲載されたことが,火に油を注いだとみられる。公務員が法令の根拠なく所管の政策に反対の立場の政治的意見を持って請願その他の活動をする民間人や民間企業に対して,当該活動を理由に差別的取扱いや不利益な取扱いをすることはできない。前記認定事実によれば,関東地整の港湾航空部長は,第1審原告の請願その他の活動が止まないならRDCへの発注を考えないといけないという包括的指示を部下に発した。部下の公務員は,自ら又は所管の公益法人の役職者を介して,RDCへの発注停止の示唆による牽制にとどまらず,第1審原告の辞表を持ってこいとB取締役に対して威嚇的に警告して,第1審原告個人に対する制裁としての第1審原告のRDC取締役からの完全な退任を求めた。これは,RDCという民間企業の自主的な経営への法令の根拠に基づかない介入であると同時に,第1審原告個人の出処進退への法令の根拠に基づかない介入であって,第1審原告個人に対する関係でも国賠法1条に反する行為となる。何人も請願をしたためにいかなる差別待遇も受けないことは,日本国憲法16条において保障されている。なお,関東地整の港湾空港部長の指示は,表面上は,RDCへの発注を減らせというものである。しかし,その究極目的は,RDCへの発注額減少ではなく,海堡FC及- 18 - び第1審原告に関東地整の政策遂行への障害となる政治的活動を止めさせること,関東地整の協力会社(RDC)に対して関東地整の政策に賛同させること(RDCが第2海堡保存活動を止めない場合には,やむを得ず協力会社から排除すること)である。第1審原告が自発的に海堡FCの活動を止めない場合には,港湾空港部長の部下職員が海堡FCの活動を活発に行う第1審 DCが第2海堡保存活動を止めない場合には,やむを得ず協力会社から排除すること)である。第1審原告が自発的に海堡FCの活動を止めない場合には,港湾空港部長の部下職員が海堡FCの活動を活発に行う第1審原告のRDC取締役辞任や退職を求めることにより,関東地整の協力会社から関東地整の政策に反対する者を追放しようとすることもあり得ることは,港湾空港部長にも容易に予測できることであった。仮に,港湾空港部長にそこまでの予測可能性がなかったとしても,部下職員の行為(RDCへの発注停止を示唆しつつ,これにとどまらず第1審原告の取締役辞任や退職を威嚇的にB取締役に要求した行為)は,何人も請願をしたためにいかなる差別待遇も受けないという日本国憲法16条の保障を無視したもので,その職務に関して国賠法1条に反する行為をしたことになる。 3 損害 公共事業の受注が売上の大半を占め,これがなくなると経営危機に陥る民間の中小企業が,大元の発注元たる行政官庁から発注見直しの示唆の下に取締役の解任を威嚇的に要求されれば,民間の中小企業がこれに応じてしまうことは,わが国においては,自然な成り行きである。そうすると,関東地整の公務員による国賠法1条違反行為と第1審原告の取締役辞任との間には,相当因果関係がある。そこで,辞任による損害額を,以下で検討する。 役員報酬相当額株式会社の役員報酬は,最終的には株主総会の決議により定まる(会社法361条。なお,RDCの定款23条は,取締役の報酬は株主総会決議で定める旨を規定する。甲72参照)。また,株式会社の役員報酬は,企業業績や役員としての実績にも左右されるものであって,過去の支給実績と同額を将来5年間にわたり確実に獲得することができるわけではない。そこで,最終- 19 - 役員報酬月額40万円(甲8 ,企業業績や役員としての実績にも左右されるものであって,過去の支給実績と同額を将来5年間にわたり確実に獲得することができるわけではない。そこで,最終- 19 - 役員報酬月額40万円(甲88)を取締役退任後1年間にわたり受けた場合と同額に相当する480万円(400,000×12)を,損害として認めるのが適切である。 退職金相当額退職金は,最終的には株主総会の決議により支給の可否や額が決められるものであり,確実に受領が見込めるものではない。第1審原告が受領した700万円を上回る退職金を獲得できたかどうかは不透明であって,損害発生は認められない。 慰謝料精神的損害の発生を認めるに足りる証拠はない。 弁護士費用相当額 の1割である48万円を損害と認める。 4 消滅時効 平成22年までに第1審原告が知り得た情報等前記認定事実によれば,平成22年までの事実関係については,次のように整理することができる。 第1審原告は,RDCの他の取締役全員による辞任要求を受けた。第1審原告は,平成21年にRDCの代表取締役を辞任した公益法人・随意契約問題の際にも,平成22年にRDCの取締役を辞任した第2海堡問題の際にも,他の取締役全員による辞任要求の原因は,本省若しくは関東地整の公務員又はその意を受けた公益法人の職員によるB取締役らに対する牽制・威嚇行為にあると推察していた。平成22年当時の第1審原告は,公務員が法令上の根拠なく発注停止をほのめかすという牽制・威嚇行為により,民間企業の経営に介入し,第1審原告を代表取締役や取締役から解任するようにB取締役らに圧力をかけることは,公務員による国賠法1条違反行為であると考えていた。しかしながら,当時の第1審原告は,具体的に第1審被告のどの組織- 第1審原告を代表取締役や取締役から解任するようにB取締役らに圧力をかけることは,公務員による国賠法1条違反行為であると考えていた。しかしながら,当時の第1審原告は,具体的に第1審被告のどの組織- 20 - に属するどの職位にある者がどのような行為をしてB取締役らに圧力をかけたのかが皆目分からず,これを解明する証拠もなく,証拠を取得する手がかりも分からなかった。その結果,第1審原告は,公務員の国賠法1条違反行為を特定して責任追及をすることができなかった。平成22年の段階では,第1審原告が訴状を作成したとしても,国賠法1条違反行為の点については「A議員質問により第1審原告が公益法人・随意契約問題の請願行為をしたことを知り,海堡FCの要望書提出等により第1審原告が第2海堡問題の請願行為をしたことを知った国の公務員(本省又は関東地整に属する者のうちの誰か)が,RDCへの発注停止などをほのめかしてB取締役らに圧力をかけ,第1審原告を代表取締役や取締役から解任するように仕向けた」という程度の記載しかできなかったことになる。 当時は,第1審原告は,後記のインタビュー結果を記録した書証(甲39~44)を有していなかった。そのため,第1審原告がどの公務員の怒りをかい,これを受けて第1審被告の組織の中でどの公務員によりどのような検討・判断が行われ,その結果どの公務員によりRDCのB取締役らへの圧力が加えられたが,第1審原告にとっては完全なブラックボックスであって,その具体的内容が全く分からなかった。国賠法1条違反行為をした公務員がどの部局のどのような役職者か(大臣・事務次官・技監等の高官か,本省の局長・審議官級か,課長・課長補佐級又はヒラ職員か,出先機関の幹部・管理職又はヒラ職員か)が,全く分からなかったものである。これでは,攻撃防御方法と 役職者か(大臣・事務次官・技監等の高官か,本省の局長・審議官級か,課長・課長補佐級又はヒラ職員か,出先機関の幹部・管理職又はヒラ職員か)が,全く分からなかったものである。これでは,攻撃防御方法として具体性を欠く。前記のような訴状を提出しても,第1審被告の訴訟対応が,国賠法1条違反行為の点の主張は具体性を欠くので認否不能であり,具体的事実を裏付ける証拠提出がなければ早期の口頭弁論終結を希望するというようなものになることは必定であり,裁判所の訴訟指揮がこのような第1審被告の主張に影響される可能性も高かった。平成22年の時点における第1審原告は,訴訟において,国賠法1条違反行為の点について,- 21 - 公務員の行為を具体的に主張立証することができないために,実効性のある訴訟活動ができない状態にあったというほかはない。 以上によれば,平成22年当時の第1審原告は,民法724条に規定する「加害者」を知っていたとはいえない。したがって,平成22年においては,消滅時効は進行していないと解される。 第1審原告が加害者を知った時期前記認定事実によれば,第1審原告が加害者を知った時期についての事実関係を次のように整理することができる。 第1審原告は,平成26年から平成27年までの間,弁護士のアドバイスにより,平成22年前後のRDCの取締役や,同じ時期の関東地整の港湾航空部長に面談してインタビューを試みた。インタビューの記録を作成し,書証(甲39~44)として提出することが可能になった。インタビューの結果,第1審原告は,平成21年のA議員質問の際のRDCの経営への介入は本省港湾局関係の幹部が主導したことを確信し,平成22年の第2海堡の際のRDC経営への介入は関東地整の幹部が主導したことを確信するに至った。 そして,インタビュー 議員質問の際のRDCの経営への介入は本省港湾局関係の幹部が主導したことを確信し,平成22年の第2海堡の際のRDC経営への介入は関東地整の幹部が主導したことを確信するに至った。 そして,インタビュー内容をもとに国賠法1条違反行為についての主張を具体的に組み立て,訴状に公務員の国賠法1条違反行為を具体的に記載することが可能になった。公務員をある程度特定して主張することも可能になった。 主張事実を裏付ける間接事実の立証をすること(インタビューの結果を書証(甲39~44)として提出)も可能となった。第1審原告は,平成27年10月15日に本件訴訟を提起した。 以上によれば,第1審原告が民法724条に規定する「加害者」を知った時期は,平成26年から平成27年にかけてのインタビューが終了した時である。それまでの間は,消滅時効は進行しないものと解される。 結論 第1審原告が加害者を知った時期は,平成27年のインタビュー終了時で- 22 - ある。第1審原告は平成27年10月15日に本件訴訟を提起したから,消滅時効が成立したということは困難であるというほかはない。消滅時効の主張は,採用することができない。 第3 結論以上によれば,第1審原告の請求は,528万円及びこれに対する第1審原告の取締役辞任日である平成22年9月17日から支払済みまで民事法定利率年5%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がないから,原判決をそのように変更すべきである。訴訟費用の負担について民事訴訟法61条,64条,67条を適用する。仮執行の宣言については不必要と認めるので,同法310条によりこれを付さないこととする。よって,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第11民事部裁判長裁判 を適用する。仮執行の宣言については不必要と認めるので,同法310条によりこれを付さないこととする。よって,主文のとおり判決する。 主文 東京高等裁判所第11民事部裁判長裁判官野山宏 裁判官橋本英史 裁判官吉田彩は転補のため署名押印することができない。
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