【DRY-RUN】主 文 原判決を破棄する。 本件を大阪高等裁判所に差し戻す。 理 由 弁護人中垣清春、同高谷昌弘、同井戸田侃、同佐伯千仭四名連名の上告趣意第一 点の
主文原判決を破棄する。 本件を大阪高等裁判所に差し戻す。 理由弁護人中垣清春、同高谷昌弘、同井戸田侃、同佐伯千仭四名連名の上告趣意第一点のうち、判例違反をいう点は、所論引用の各判例は事案を異にし本件に適切でなく、その余は、憲法三一条違反をいう点を含め、その実質はすべて単なる法令違反の主張であり、同第二点のうち、憲法三八条一項、二項違反をいう点は、その実質において被告人Aa及び同Abの各自白の任意性判断の基礎となるべき事実関係についての事実誤認の主張であり、最高裁昭和五五年(あ)第七九〇号同五八年七月一二日第三小法廷判決・刑集三七巻六号七九一頁を引用して判例違反をいう点は、右判例は事案を異にし本件に適切でなく、最高裁昭和四〇年(あ)第一九六八号同四一年七月一日第二小法廷判決・刑集二〇巻六号五三七頁及び同昭和四二年(あ)第一五四六号同四五年一一月二五日大法廷判決・刑集二四巻一二号一六七〇頁を引用して判例違反をいう点は、原判決の認定しない事実を前提とするものであり、最高裁昭和二八年(あ)第一五一六号同三二年五月三一日第二小法廷判決・刑集一一巻五号一五七九頁を引用して判例違反をいう点は、原判決は所論の点につきなんら法律判断を示していないから、その前提を欠き、その余は、憲法三一条、三三条違反をいう点を含め、その実質はすべて単なる法令違反の主張であり、同第三点は、判例違反をいうが、所論引用の各判例は事案を異にし本件に適切でなく、同第四点は、憲法三一条違反をいうが、その実質は事実誤認の主張であり、弁護人中垣清春、同高谷昌弘、同井戸田侃三名連名の上告趣意は、すべて事実誤認の主張であり、いずれも適法な上告理由に当たらない。 なお、不告不理の原則違反をいう所論にかんがみ、職権で判断すると、被告人三 人中垣清春、同高谷昌弘、同井戸田侃三名連名の上告趣意は、すべて事実誤認の主張であり、いずれも適法な上告理由に当たらない。 なお、不告不理の原則違反をいう所論にかんがみ、職権で判断すると、被告人三- 1 -名に対する起訴状記載のAc殺害関係の公訴事実は、後記のとおりであり、起訴状には、これに対する罪名及び罰条として「殺人刑法一九九条、六〇条」「なお被告人Abにつき、同法三八条二項、二二〇条一項」と記載されており、これに対し原判決が被告人Ad及び同Aaにつき認定判示した事実は、後記のとおりであり、原判決は適条として「被告人Adの所為は刑法一九九条(逮捕監禁の限度では更に同法六〇条)に、被告人Aaの所為は同法六〇条、二二〇条一項にそれぞれ該当する」旨判示している。右起訴状の記載及び第一審における検察官の釈明等から、検察官としては、被告人Ad及び同Aaについては逮捕監禁行為の開始自体が殺人の実行の着手に当たり、逮捕監禁の事実は殺人の実行行為の一部を組成するものであるとしていることが明らかであり、原判決も被告人Adの関係につき右と同様の見解をとつているものと思われる。しかし、原判決認定事実においても、被告人Adは逮捕監禁に及ぶ以前に殺意を固めていたとはいえ逮捕監禁行為自体によりAcを殺害しようとしたものではなく、後に別個の殺害行為を予定してまず逮捕監禁に及んだとされているのであるから、逮捕監禁の事実を殺人の実行行為の一部とみるのは相当でなく、右認定事実を前提とすれば、被告人Adについては逮捕監禁罪と殺人罪が共に成立し、両罪は併合罪であると解するのが相当である。このように、原判決には、罪数判断の誤りがあるといわなければならないが、本件起訴状における逮捕監禁の事実は、単に被告人Abについての逮捕監禁罪の構成要件を示す趣旨で記載されているにと が相当である。このように、原判決には、罪数判断の誤りがあるといわなければならないが、本件起訴状における逮捕監禁の事実は、単に被告人Abについての逮捕監禁罪の構成要件を示す趣旨で記載されているにとどまらず、被告人Ad及び同Aaについては、その殺人の実行行為の一部を組成するものとして記載されていると解されるのであつて、検察官は右被告人両名に対しても犯罪事実としてその処罰を求めているというべきであるから、原判決が前記のとおり被告人Adにつき殺人罪の実行行為の一部として右逮捕監禁の事実を認定判示し、被告人Aaにつき逮捕監禁罪の成立を認めたことは、刑訴法三七八条三号にいう審判の請求を受けない事件について判決した場合には当た- 2 -らない。 しかしながら、さらに所論にかんがみ、職権で調査すると、原判決は刑訴法四一一条三号によつて破棄を免れない。その理由は、以下に述べるとおりである。 一被告人三名に対する公訴事実は、昭和五三年七月一一日京都市aa区内のキヤバレー「Ae」店内で暴力団三代目Af組組長Agを拳銃で狙撃した犯人として指名手配されていた暴力団Ah組系Ai組内Aj団幹部Ac(以下「Ac」という。)を匿つたという犯人蔵匿の事実と、Acを逮捕監禁のうえ殺害したという事実とから成るが、争点となつている後者の公訴事実は、「被告人Adは、神戸市ab区ac町ad丁目aeに本拠を置く暴力団Ak会の幹事長(若頭)、同Aaは同会幹事長補佐(若頭補佐)、同Abは同会若衆であるが、被告人三名は、かねて同会と友誼関係にある暴力団Ah組系Ai組内Aj団二代目会長Alから依頼を受け、Ak会組員ほか数名と共同して、さきに暴力団三代目Af組組長Agをけん銃で狙撃して負傷させ、殺人未遂事件の犯人として警察から指名手配されていた右Aj団幹部Ac(当時二六年)を昭和五 lから依頼を受け、Ak会組員ほか数名と共同して、さきに暴力団三代目Af組組長Agをけん銃で狙撃して負傷させ、殺人未遂事件の犯人として警察から指名手配されていた右Aj団幹部Ac(当時二六年)を昭和五三年七月一六日ころから兵庫県三木市af町agah丁目ai番地のAk会理事長AmのAn事務所ほか三か所等に宿泊させてかくまつていたものであるが、右Acにおいて被告人Adらに無断で大阪市aj区akal丁目amのanaoap号の自室に舞い戻るなどの身勝手な行動に出た上、被告人Adらの説得にもかかわらず再度右aj区近辺に戻ろうとする同人の所為をもてあましたことや、かねて被告人Adらにおいて右Acに前記Agに対する挑戦状の手紙を書かせてこれを同人あてに郵送させていたため、右Acの口から被告人Adらの属するAk会の組織ぐるみで右Acを隠匿した事実や右挑戦状を書かせた事実が発覚することを恐れるあまり、被告人Ad、同Aaの両名は、右Acを殺害するに如かずと決意し、同Abは、右殺害の目的を有しないまま、ここに被告人三名は、共謀の上、同年九月一日午後一一時四〇分ころ、- 3 -前記AnのAn事務所階下六畳間で、被告人Abにおいて右Acの背後から羽交絞めにし、被告人Aaにおいて右Acの両足首を日本手拭で緊縛するとともに両手首を同様の日本手拭で後手に緊縛し、被告人Ad、同Abの両名において布粘着テープで右Acの顔面及び頭部を鼻部だけ空けるようにして一〇数回にわたりぐるぐる巻きにし、更に同テープで両手首、両足首、膝部それに胸腹部辺りをそれぞれ何重にも重ねてぐるぐる巻きにし、そのころ、同所玄関前路上に停めていた普通乗用自動車(神戸三三そ一八九七号)の後部トランク内に同人を押し込んだ上、同月二日午前〇時過ころ、同所先から被告人Adにおいて運転し、同Aaにおいて助手席に そのころ、同所玄関前路上に停めていた普通乗用自動車(神戸三三そ一八九七号)の後部トランク内に同人を押し込んだ上、同月二日午前〇時過ころ、同所先から被告人Adにおいて運転し、同Aaにおいて助手席に同乗して同車を発進させ、同所から約五四・二キロメートル離れた神戸市aq区ar町asat番の一先の県道明石・神戸・宝塚線au付近路上まで右乗用自動車後部トランク内に右Acを閉じ込めたまま搬送し、同日午前二時前ころ、同所付近路上において、被告人Ad、同Aaの両名において同車後部トランク内から右Acを路上に抱え降ろし、被告人Adにおいて右Acを同所路肩から西側auへ向け約一五二メートル下方の同谷堰堤下付近まで滑り落しあるいは引きずり降ろし、同所において、身動きできない同人の胸背部を所携の登山ナイフ様のもので数回突き刺してとどめをさし、よつて、そのころ同所で同人を心臓刺創により失血死させて殺害したが、被告人Abにおいては右Acの身体の自由を奪つて同人を不法に逮捕監禁したものである。」というのである。 被告人らをAc殺害と結びつける直接証拠としては、被告人Aa及び同Abの捜査官に対する各自白があるだけであるが、一、二審判決ともこれらの自白を主たる根拠として右公訴事実(被告人Aaについてはその一部)につき被告人らを有罪としたものであるところ、これらの自白の内容は、第一審判決が六〇頁九行目から七一頁四行目まで及び一一八頁一二行目から一二〇頁一二行目までに要約していると- 4 -おりである(以下、被告人Aaの自白を「Aa自白」と、被告人Abの自白を「Ab自白」と、Aa自白のうち、第一審判決が「avを出発するまでの部分」としている部分を「Aa自白前半」と、「avを出発してからの部分」としている部分を「Aa自白後半」という。)。 第一審判決は、Aa自白前半 、Aa自白のうち、第一審判決が「avを出発するまでの部分」としている部分を「Aa自白前半」と、「avを出発してからの部分」としている部分を「Aa自白後半」という。)。 第一審判決は、Aa自白前半及びAb自白の信用性を肯定して、AcをAn事務所(「av」ともいう。)玄関前に停車していた普通乗用自動車の後部トランク内に押し込んだところまでは、被告人Aaの殺意の点を除きほぼ公訴事実のとおりの事実を認定し、Aa自白後半についてはその信用性を否定したものの、その余の証拠を総合して「殺害時刻及び場所の詳細や殺害の具体的態様は必ずしも明らかではないものの、Acは前示のように被告人Ad及び同Aaによりavから搬出された後、程なく、その拘束の続く中で被告人Adにより死体発見場所又はその近辺において殺害されたものと認定するのが相当である。もつとも、右殺害に他の者が関わりあつており、かつ直接Acの殺害行為を行つたのはその者である可能性も否定できないと思われるが、そうであつたとしても、その者の殺害行為が被告人Adの意思と無関係に実行されたとの事態は想定し得ないところであり、被告人Adは、その者といわば一心同体となつてAcを殺害したものと評価し得るのであつて、この場合においても被告人Adの刑責に変わりはないというべきである。」との判断を下して、前記認定事実に引き続き「更に、被告人Adにおいて、Acを自動車の後部トランク内に積んだままAn事務所から連れ去り、同日ころ、神戸市aq区ar町asat番地のadau山中又はその近辺において、緊縛されたままの同人の胸背部をナイフ様の刃物で数回突き刺し、よつて、そのころその場所付近において、同人を右刺創により失血死させて殺害した。」旨の事実を認定判示し、被告人Adにつき殺人罪、被告人Aa及び同Abにつき各逮捕監禁罪の成立を 様の刃物で数回突き刺し、よつて、そのころその場所付近において、同人を右刺創により失血死させて殺害した。」旨の事実を認定判示し、被告人Adにつき殺人罪、被告人Aa及び同Abにつき各逮捕監禁罪の成立を認め、それぞれ、犯人蔵匿罪と合わせて、被告人Adを懲役一〇年に、同Aa及び同Abを各懲役三- 5 -年六月に処した。 これに対し、検察官及び被告人らの双方が控訴したところ(但し検察官は被告人Ad及び同Aaに関する部分についてのみ)、原判決は、検察官の控訴を一部容れ、かつ、一部職権判断により、第一審判決がAa自白後半の信用性を否定した点を誤りとし、被告人Ad及び同Aaの犯行態様について事実誤認があるとして、第一審判決中の右被告人両名に関する部分を破棄し、ほぼ全面的にAa自白及びAb自白に沿つて、被告人Aaの殺意等の点を除きほぼ公訴事実どおりの事実を認定し、第一審判決と同様に、被告人Adにつき殺人罪、被告人Aaにつき逮捕監禁罪の成立を認め、それぞれ、犯人蔵匿罪と合わせて懲役一〇年及び同三年六月に処した。なお、原判決は被告人Abについては控訴を棄却した。 原判決が被告人Ad及び同Aaにつき認定判示した事実と、原判決が是認した被告人Abに関する第一審判決の認定判示した事実を、犯人蔵匿の関係をも含めてまとめると、次のとおりである。 「第一 (犯人蔵匿関係) 昭和五三年七月一一日京都市aa区所在のキヤバレー「Ae」店内において、暴力団三代目Af組組長Agが拳銃で狙撃され負傷する事件が発生し、間もなく、警察当局によりその犯人は暴力団Ah組系Ai組内Aj団幹部Acであると断定され、同人は殺人未遂事件の犯人として指名手配され、その所在捜査が開始された。ところで、反Af組系暴力団Ak会の理事長であるAmは、同月一五日までに、右Aj団二代目会長Alから、右狙 Acであると断定され、同人は殺人未遂事件の犯人として指名手配され、その所在捜査が開始された。ところで、反Af組系暴力団Ak会の理事長であるAmは、同月一五日までに、右Aj団二代目会長Alから、右狙撃事件の犯人がAcであることを打ち明けられるとともに同人の蔵匿方を依頼されてこれを引受け、同日、神戸市ab区内所在のAk会本部事務所三階において、同会幹事長である被告人Adを同席させたうえ、同会幹事長補佐Aoに対し、当時名古屋市内のApホテルに潜伏していたAcを同会幹事長補佐である被告人Aaとともに迎えに行くよう指示し、これを受けてAqは、そのころAnから右同様の指示を受けた被告人Aaとと- 6 -もに名古屋市に赴いた。そして、Aq及び被告人Aaは、同市内から兵庫県三木市af町agah丁目ai所在のAnのAn事務所までAcを連れて行つたうえ、同月一六日早朝、同所において、予めAqからの連絡により同所で待機していた同会組員である被告人Abに対してAcの蔵匿方を指示し、右指示に基づいて被告人Ab及びAn事務所の管理人であるArにおいて、Acを同所に住まわせて匿うこととなり、以後、同年九月一日までの間、Ak会関係者らにおいてAcを蔵匿したのであるが、その際、(一) 被告人三名は、前記An、Aq、Ar及びAsらと共謀のうえ、同年七月一六日から同月一九日ころまでの間、前記An事務所にAcを宿泊させ、(二) 被告人三名は、前記An、Aq、At、Auらと共謀のうえ、同月一九日ころから同月二四日ころまでの間、神戸市ab区所在AvのAq方にAcを宿泊させ、(三) 被告人三名は、前記An、Aq、At及びAwらと共謀のうえ、同月二四日ころから同年八月八日ころまでの間、三木市aw町所在のAw方にAcを宿泊させ、(四) 被告人Adは、前記An、Aq、A (三) 被告人三名は、前記An、Aq、At及びAwらと共謀のうえ、同月二四日ころから同年八月八日ころまでの間、三木市aw町所在のAw方にAcを宿泊させ、(四) 被告人Adは、前記An、Aq、At及びAxらと共謀のうえ、同月八日ころから同月二二日ころまでの間(同月一〇日ころから同月一五日ころまでを除く)、兵庫県加古郡ax町所在ay荘のAy方にAcを宿泊させ、(五) 被告人Ad、同Abは、前記An、At、Arらと共謀のうえ、同月二二日ころから同年九月一日までの間、前記An事務所にAcを宿泊させ、もつて、殺人未遂犯人であるAcを蔵匿した。第二 (殺人、逮捕監禁関係)被告人三名は、前記のとおり、Ac(当時二六年)を匿つていたところ、同人が被告人らに無断で大阪市aj区内のaoの自室に舞い戻るなどの身勝手な行動に出たうえ、被告人Adらの強い指示により前記ay荘に帰つた後も再度右aj区近辺に戻- 7 -りたがるなどのことがあつて、これを持て余したことや、Acの蔵匿の間に被告人Adが前記Alを介しAcを唆してAgに対する挑戦状を書かせ、これを同人に郵送させていたため、Acの口からAk会関係者らがAcを匿つていた事実や挑戦状を書かせた事実がAf組関係者や警察当局に発覚することを恐れるあまり、被告人Adにおいて、当時Acが匿われていた前記An事務所から、同人を縛り上げて連れ出したうえ殺害しようと企て、同年九月一日午後一一時過ぎころ、被告人AaとともにAn事務所に赴き、同所一階応接間において、被告人Aa及び予め被告人Adから指示を受けて同所に待機していた被告人Abに対し、Acを押え付けたうえ同人を縛り上げるよう命じ、被告人Aa及び同Abはこれを承諾した。ここにおいて、被告人Adは、Acを殺害する目的を持ち、同Aa及び同Abは、右殺害の目的を有し 被告人Abに対し、Acを押え付けたうえ同人を縛り上げるよう命じ、被告人Aa及び同Abはこれを承諾した。ここにおいて、被告人Adは、Acを殺害する目的を持ち、同Aa及び同Abは、右殺害の目的を有しないまま、Acの身体を緊縛することを共謀のうえ、同日午後一一時四〇分ころ、An事務所一階六畳間で、被告人Abにおいて、Acを同所二階から呼び降ろしたうえ、その背後から両腕を締め付け、被告人田中において、Acの両足首及び後手にした両手首をそれぞれ日本手拭で緊縛し、被告人Ad、同Abの両名において、布粘着テープでAcの顔面、頭部、両手首、両足首及び膝のあたり等に幾重にも巻き付けたうえ、翌二日午前零時過ぎころ、同所玄関前路上に停めていた普通乗用自動車の後部トランク内に同人を押し込んだうえ(被告人Abはここまでの逮捕監禁の限度で刑責を負う。)、被告人Ad及び同Aaは、前同様の目的で、共謀のうえ、被告人Adにおいて運転し、同Aaにおいて助手席に同乗して同車を発進させ、西神戸有料道路、神戸市ab区内のaz交差点、ba交差点、ar街道、bb有料道路を経て、同日午前二時前ころ、An事務所から約五四・二キロメートル離れた神戸市aq区ar町asat番の一先の県道明石・神戸・宝塚線au付近路上まで、Acを乗用自動車後部トランク内に閉じ込めたまま搬送し、もつて、Acの身体の自由を奪つて同人を不法に監禁し、更に、被告人Adは、同時刻ころ、- 8 -トランクから路上に抱え降ろしたAcを同所路肩から西側auに向け、約一五二メートル下方の同谷堰堤下付近まで、滑り落しあるいは引きずり降ろすなどして運んだうえ、同所において、身動きできない同人の胸背部を所携の登山ナイフ様の刃物で数回突き刺し、よつて、そのころ同所において同人を心臓刺創により失血死させて殺害した。」二 Aa自 降ろすなどして運んだうえ、同所において、身動きできない同人の胸背部を所携の登山ナイフ様の刃物で数回突き刺し、よつて、そのころ同所において同人を心臓刺創により失血死させて殺害した。」二 Aa自白及びAb自白の信用性に関しては、多岐にわたる論点があるが、まず第一に、第一審判決と原判決が判断を異にしているAa自白後半の信用性について検討する。 第一審判決は、疑問点として、「1」 Aa自白によると、被告人Adは、車のトランクから降ろしたAcを道路脇の藪の中に投げ込んだ後、自らも藪の中に飛び込んで行き、約二〇分後に息を切らせながら戻つて来たというのであるが、関係証拠によると、死体発見現場は県道上の被告人Aaの指示する地点から約一五〇メートルの距離にあり、その間は、終始三〇ないし四五度の急な傾斜面であるうえ、足場も脆く、途中には傾斜六〇度ないし九〇度、高さ一・一メートルないし二・四メートルの石積みも三か所あり、所によつては、樹木、熊笹、雑草が繁茂している状況にあり、裁判所の検証の際の模擬人体を用いての実験によると、日中においても右往復には一九分二七秒を要しており、夜間においては現場が暗く同じ実験を行うのは危険であるとされているのであつて、Aa自白にあるように、被告人Adが夜間照明器具を用いることなしに危険防止と道に迷わないことに配慮しつつ約二〇分間で同所を往復することは極めて困難であるといわざるをえないこと、「2」 Aa自白によると、被告人Adは右のように藪の中から県道上に戻つて来て車の運転席に座り、約二、三分ないし数分の間、息をはずませ、ぐつたりしていたが、その後エンジンをかけて車を発進させたというのであるが、裁判所の実験の際の実験者の極度の疲労状況のほか、運転のできる被告人Aaがそばにおり同人に運転を代わ- 9 -つて貰うのに何らの していたが、その後エンジンをかけて車を発進させたというのであるが、裁判所の実験の際の実験者の極度の疲労状況のほか、運転のできる被告人Aaがそばにおり同人に運転を代わ- 9 -つて貰うのに何らの支障もなかつたと考えられることなどからみて、右Aa自白は相当疑わしいといわざるをえないこと、「3」 Aa自白によると、被告人Adは一人でAcを死体発見現場まで運搬したことになり、Aa自白からは同人が運搬のための道具を用いたことは窺われないから、同所付近の地形等を考慮すると、被告人AdによるAcの運搬方法としては、裁判所の実験において行われたような身体を斜面に沿つて滑らせたり、引きずつたりするなどの態様しか想定しえないが、右実験結果によると模擬人体に着用させた着衣には多数の損傷が生じているのに、Acの死体の着衣には刃物によると思料されるもののほかには目立つた損傷はなく、Aa自白には客観的状況に符合しない不合理な部分があるといわざるをえないこと、「4」 Aa自白は、被告人Adが右のようにして車を発進させ、ユーターンしてから神戸市の市街地に向かつたとしているが、そのユーターンの場所について何ら理由を付することなく供述を変更しており、不自然と思われること、「5」 Aa自白によると、被告人Aaは被告人Adから行き先を告げられないで単に夜間同乗していたにすぎないのに、検察官調書中において、車をとめた場所について、本件犯行当時の記憶に基づくものとして詳細な供述を行つているのは、それ自体不自然であること、以上の五点を指摘したうえ、「6」捜査報告書によると、昭和五三年一一月一〇日実施の同行見分の際、被告人Aaが死体発見現場の上方の、Acを車から降ろしたと自白した地点と客観的に認められる場所を的確に指示したとされていること、「7」 Aa自白において被告人Adが 年一一月一〇日実施の同行見分の際、被告人Aaが死体発見現場の上方の、Acを車から降ろしたと自白した地点と客観的に認められる場所を的確に指示したとされていること、「7」 Aa自白において被告人AdがAcを運び降ろしたとする地点から、死体発見現場まで降りることは、現実に可能であり、捜査官証言によれば、この経路はAa自白によつて初めて判明したとされていること、「8」右経路の途中からAcの死体に巻かれていたものと同質のガムテープ片及びボタン一個が発見され、鑑定の結果、右ガムテープ片にはAcの着用していたパジヤマの繊維及びAn事務所一階六畳間のじゆうたん繊維とそれぞれ同色同質の繊維片、並びにAc- 10 -の頭髪と酷似する毛髪が付着しており、右ボタンもAcの着用していたパジヤマ上衣のそれと同質であるとされていること、「9」 Acを搬送する途中通過したbb有料道路の料金所が当時無人であつた旨のAa自白が捜査照会の結果と符合していること、「10」逮捕監禁、殺人幇助容疑についての勾留質問時においても、被告人Aaは被疑事実を認めていることを列挙し、以上の証拠状況は、一見Aa自白を裏付け、その信用性を高めるもののようにみえるが、仔細に検討すると右に現れた各捜査資料や捜査官証言は必ずしも信用できず、また、そうでないものも事実自体真犯人でなければ知りえないものではないなど、いずれもAa自白の裏付けとなるものとは認められないとして、結局Aa自白後半の信用性を否定した。 これに対し原判決は、「1」については、Aa自白にいう「約二〇分」という時間はある程度の誤差を伴うものとして理解すべきであり、往復経路の嶮岨さや、本件犯行時と裁判所実験時との条件の差異を考慮しても、本件犯人はその実験値に二、三分、多くても数分プラスした時間内に往復できたものと考えられること、 うものとして理解すべきであり、往復経路の嶮岨さや、本件犯行時と裁判所実験時との条件の差異を考慮しても、本件犯人はその実験値に二、三分、多くても数分プラスした時間内に往復できたものと考えられること、「2」については、Aa自白にいう被告人Adの疲労状況と裁判所の実験結果とは、実によく合致しているように思われ、また、Aa自白によると、被告人Adが戻つて来たとき、被告人Aaは助手席に座つていたのであり、同人は行き先について全く知らされていなかつたし、自分の方から運転の交替を申し出なかつたのは、Acを殺害したらしい被告人Adに対して反感を覚えていたためであるというのであるから、被告人Adが運転したことにも何ら不自然というべきかどはないこと、「3」については、裁判所の実験に用いた模擬人体の着衣に生じた損傷と、Acの死体の着衣に存した損傷との間にかなり顕著な相違はあるが、模擬人体の場合は、パジヤマの上衣とズボンとがガムテープによつてしつかりと繋がれ、上衣がめくれ上がつたりズボンがずれたりしていないのに対し、死体発見時のAcのパジヤマは、上衣はボタンがはずれたりちぎれたりして、両肩部がずり落ち、裾がめくれ上がるなどし、- 11 -ズボンは膝から足元付近にずり落ちており、Acの着衣には損傷が生じにくかつたということも十分考えられるうえ、Acの死体に巻かれていたガムテープには、山肌で擦過したために生じたと思われる損傷が明瞭に存するのであるから、被告人AdがAcを引きずり降ろすなどしたことが十分推認されること、「4」「5」については、被告人Aaについて同行見分が行われていることを考慮すると、そのような供述変更や詳細な供述が不自然とは思われず、Aa自白の信用性を考えるうえでさほど重大視すべき点ではなく、第一審判決の判断は形式論に過ぎると思われることを理由 行われていることを考慮すると、そのような供述変更や詳細な供述が不自然とは思われず、Aa自白の信用性を考えるうえでさほど重大視すべき点ではなく、第一審判決の判断は形式論に過ぎると思われることを理由に、第一審判決が疑問点とした五点はいずれも首肯しがたいとし、第一審判決が指摘する「6」ないし「10」の点については、各捜査資料や捜査官証言は十分信用しうるものであり、これらの証拠状況は、いずれも程度の差はあれAa自白の信用性を裏付けるに足るものと認められるとして、Aa自白後半についてもその信用性を全面的に肯定している。 記録に照らして検討すると、「1」の点については、Aa自白にいう「約二〇分」という時間を問題にするまでもなく、被告人Adがたつた一人で、Aa自白から想定される約一五〇メートルもの嶮岨な深夜暗闇の山中を、照明器具や運搬道具も用いず、しかも背広に革靴という普通の服装で、体重約七〇キログラムのAcを運搬することは、不可能とまではいえないとしても著しく困難な作業であることは明らかというべきであり、また、両手、両足を手拭及びガムテープで緊縛した状態の人体は(手は後手)そのままではかなり運びにくいことも想像にかたくないところであるが、死体のガムテープ等に手で握つたと思われる部分は見当たらない。Aa自白によると、被告人Adはas中の県道上で迷うことなく藪の中に飛び込んだ地点のすぐ近くに停車したことになつているところ、このAa自白が真実であるとすると、被告人Adは予め入念な下見等をしていたことになるが(検察官も第一審論告でそのように主張している。)、そうだとすると、照明器具、運搬道具及び服装等- 12 -の準備をしていないというのはおかしいし、そもそも被告人Adほどの幹部が事前の計画に基づきこのような危険で骨の折れる作業を一人で行うということ うだとすると、照明器具、運搬道具及び服装等- 12 -の準備をしていないというのはおかしいし、そもそも被告人Adほどの幹部が事前の計画に基づきこのような危険で骨の折れる作業を一人で行うということ自体が極めて不自然と思われるのである。のみならず、Aa自白においては、被告人Adが被告人AaにAcの運搬等の実行を命ずることなく、被告人Adが危険な作業をしている間被告人Aaはただ車内で待つていただけであるとなつているが、そのような役割分担自体が不自然というほかないであろう。「2」は、右の全体の役割分担の問題からみれば、かなり細かい点であるが、Aa自白によると、そもそも被告人Aaは気が進まないながらも被告人Adの命令によつてAcに対する逮捕監禁行為へ加担したのであり、Adに対する反感があつたといつても、その地位の上下関係からその命令には従わざるをえなかつたはずであり、Aa自白において、疲労しているはずの被告人Adが被告人Aaに運転を命じなかつたとされていることは、やはりやや不自然というべきであろう。「3」の点については、原判決の指摘するような実験との条件の違いや、その引用する原審で取り調べた証拠を検討しても、被告人AdがAa自白等から想定されるような運搬方法をとつたにしては、Acの死体の着衣及びガムテープの損傷や死体自体の損傷は、軽微に過ぎるように思われる。 このようにみてくると、「4」ないし「10」の点について判断するまでもなく、Aa自白後半のうち、少なくとも、被告人Adが深夜たつた一人でAcをas中の停車地点から死体発見現場まで運んで殺害したことを推定させる部分については、これをこのまま信用することは困難である(右に述べたところからは、仮にAc(ないしその死体)がAa自白から想定される経路を運搬されたとしても、それは、おそらく複数の者によ 推定させる部分については、これをこのまま信用することは困難である(右に述べたところからは、仮にAc(ないしその死体)がAa自白から想定される経路を運搬されたとしても、それは、おそらく複数の者により何らかの道具等を用いるなどして行われたものとみるのが自然であると思われる。)。 三第二に、弁護人らが第一審以来強調しているにもかかわらず、一、二審判決とも特に論点として取り上げて判断を示していないAcの下前歯四本の欠如の点に- 13 -ついて検討する。 記録によると、発見当時のAcの死体の状況は、ほぼ第一審判決二三頁ないし三一頁に説明されているとおりであり、死体の頭部及び顔面には幅五センチメートルのガムテープが幾重にも巻かれており、頭頂部及び鼻腔部の周辺が露出しているにすぎず、口の上にも幾重にも巻き付けられていたが、下顎歯の切歯四本が欠如していた。この下前歯四本の欠如については、死体解剖をした医師Azは、死後に腐敗によつて脱落した可能性が高いが、生前の脱落ではないとも断定はできないと述べるにとどまつている。捜査官証言中には、下前歯四本は野犬が食いちぎつたのではないかとか、被告人Adが山中を運搬中岩などに当たつた衝撃で脱落したのを、Acがガムテープの隙間から吐き出したのではないかなどという説明があるが、前者については、野犬が口の上に巻かれているガムテープをそのままにして下前歯四本だけを食いちぎることができるわけがないといわなければならないし、後者については、上前歯及び歯茎に何らの損傷もないことと整合しないし、ガムテープは口から物を吐き出せるような隙間がないようにしつかり巻かれているのであつて、いずれの説明も無理というほかなく、下前歯四本の欠落は、とにかくその口にガムテープが巻き付けられる前に起こつたものではないかとの疑いは否定できないと な隙間がないようにしつかり巻かれているのであつて、いずれの説明も無理というほかなく、下前歯四本の欠落は、とにかくその口にガムテープが巻き付けられる前に起こつたものではないかとの疑いは否定できないというべきである(前記Ba医師の説明もこの疑いを否定するものではない。)。しかるに、Aa自白及びAb自白によると、Acは殆ど抵抗をしないまま被告人らにより逮捕監禁されたとされており、ガムテープが口に巻き付けられる前に下前歯四本が欠落するような事態はなかつたことになつているのであるから、Aa自白及びAb自白は、下前歯四本の欠如の点と矛盾することになり、これら自白は、Acがガムテープ等を巻き付けられるなどされるに至つた具体的態様について、少なくとも一部虚偽をまじえている疑いが否定できないというべきである。一、二審判決が共に、この論点について明示的判断を何ら示すことなく、Acが無抵抗であつたとしても不- 14 -自然ではない旨の判断を示し、An事務所における逮捕監禁の事実に関し、全面的にAa自白前半及びAb自白に従つてこれを認定していることには、疑問を差し挾まざるをえない。 四以上みてきた二点のみからも、Aa自白及びAb自白のとおりに、Ac殺害についての具体的事実関係を認定することはできないというべきであり、Aa自白及びAb自白の信用性をめぐるその余の論点についても、右二点の疑問点を前提とした慎重な検討が必要であつたといわなければならない。なお、このように、Aa自白及びAb自白には、その重要部分において信用しがたい点があるのであるが、全面的に信用性がないというべきか、信用できる部分も残るというべきかについては、さらに、これら自白以外の証拠関係の慎重な検討が必要であるように思われる。 すなわち、パジヤマ姿で緊縛されていた死体の状況自体が、Acが気を いというべきか、信用できる部分も残るというべきかについては、さらに、これら自白以外の証拠関係の慎重な検討が必要であるように思われる。 すなわち、パジヤマ姿で緊縛されていた死体の状況自体が、Acが気を許していたところを不意をつかれたのではないかと思わせるものであるうえ、Ac殺害と被告人らAk会関係者を結び付ける物的証拠としてAcの死体とともに発見された日本手拭や、前記二の「8」のガムテープ片に付着した繊維片についての鑑定結果等があるが、Ac殺害に関係した犯人らの特定に関しては、これらのほかに、大筋においては争いのない犯人蔵匿をめぐる事実関係(特に被告人らAk会関係者の周到な蔵匿の態様やその間におけるAt会等を含むAh組系関係者の深い関与等)、AcによるAg組長狙撃事件を含むAf組とAh組の一連の暴力団抗争の推移などの背景事情の分析も重要であろう(なお、原判決は、被告人Ad特有の犯行動機をうかがわせる事情として、同被告人がAcを唆してAgに対する挑戦状を書かせた旨認定しているが、背景事情にかんがみると、右認定には疑問があるように思われる。)。 このような物的証拠や情況証拠の面から、Acがこれら暴力団関係者の中の何者かによつて殺害されたことはまちがいないところと考えられるが、さらに、その犯行が、被告人らAk会関係者によるものか、Acを預けた側のAt会等を含むAh組- 15 -系関係者によるものか、両者の共同によるものかなどといつた点に関する検討を行うことが、Aa自白及びAb自白の信用性を判断するうえで不可欠であると思われる。 五原判決は、前記二、三で指摘したとおりの証拠の正当な評価に基づかない明らかに不合理な判断を示し、ほぼ全面的にAa自白及びAb自白に依拠して、被告人Adにつき殺人罪、被告人Aa及び同Abにつき逮捕監禁罪の成立を認めてい 三で指摘したとおりの証拠の正当な評価に基づかない明らかに不合理な判断を示し、ほぼ全面的にAa自白及びAb自白に依拠して、被告人Adにつき殺人罪、被告人Aa及び同Abにつき逮捕監禁罪の成立を認めているのであり、原判決には、重大な事実誤認をした疑いが顕著であつて、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであり、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。 よつて、刑訴法四一一条三号により原判決を破棄し、同法四一三条本文に従い、さらに右四で述べたような点の審理を尽くさせるため、本件を原審である大阪高等裁判所に差し戻すこととし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 検察官田中豊公判出席昭和六三年一月二九日最高裁判所第二小法廷裁判長裁判官藤島昭裁判官牧圭次裁判官島谷六郎裁判官香川保一裁判官奥野久之- 16 -
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