- 1 -判決 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求被告らは,原告に対し,連帯して1億7256万0989円及びうち9375万9089円に対する平成29年2月22日から,うち1600万円に対する平成13年7月4日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,原告運転の自転車(以下「原告車」という。)と被告A所有・被告B運転の普通乗用自動車(以下「被告車」という。)が接触した事故(以下「本件事故」という。)につき,原告が,本件事故によりリンパ管損傷等の後遺障害を負ったなどと主張して,被告Bに対しては自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」 という。)3条又は民法709条に基づき,被告Aに対しては自賠法3条に基づき,連帯して1億7256万0989円(損害賠償金1億0975万9089円及び確定遅延損害金6280万1900円の合計)及びうち9375万9089円(弁護士費用以外の部分)に対する平成29年2月22日(自賠責保険金支払日の翌日)から,うち1600万円(弁護士費用部分)に対する平成13年7月 4日(本件事故日)から各支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(証拠等を掲記した事実以外は当事者間に争いがない。)(1) 原告原告は,昭和50年2月生まれの女性である。 (2) 本件事故- 2 -次のとおり,本件事故が発生した(甲1,2,原告本人〔11頁〕,被告B本人〔4頁〕)。 発生日時平成13年7月4日午前8時40分頃発生場所札幌市α区(以下記載省略)先交差 - 2 -次のとおり,本件事故が発生した(甲1,2,原告本人〔11頁〕,被告B本人〔4頁〕)。 発生日時平成13年7月4日午前8時40分頃発生場所札幌市α区(以下記載省略)先交差点(以下「本件交差点」という。) 関係車両原告運転の自転車(原告車)被告A所有・被告B運転の普通乗用自動車(被告車)事故態様徐行しながら本件交差点に進入してきた被告車と,その左側から歩道上を走行してきた原告車とが接触し,原告が転倒した。 (3) 被告らの責任原因 被告Bは自賠法3条又は民法709条に基づき,被告Aは自賠法3条に基づき,原告に対する損害賠償責任を負う。 (4) 後遺障害診断書の記載C医師作成の平成28年4月27日付け後遺障害診断書(甲7)には,原告の後遺障害として,①腹部外傷による腸間膜根リンパ管損傷とそれに伴う リンパ管閉塞,②後腹膜,左鼠径部,左臀部,左外陰部リンパ嚢腫,③開腹後腸管癒着障害,子宮付属器癒着障害が認められ(以下,上記①ないし③の後遺障害を併せて「本件後遺障害」という。),同月6日に症状固定したとの記載がある。 (5) 本訴での経緯 本訴において,被告らは,当初は本件事故により本件後遺障害が生じたことを認めていたが,後にこれを錯誤に基づくものとして撤回し,原告の主張する外傷性リンパ管損傷は確認されておらず,仮に損傷が生じていたとしても本件事故との因果関係を欠くのであって,本件後遺障害は本件事故により生じたものではない旨主張した(当裁判所に顕著な事実)。 2 争点- 3 -(1) 過失相殺の可否及び過失割合(2) 原告の損害の有無及び額ア本件後遺障害の存否及びその原因イ各損害項目の当否ウ素因減額の可否 第3 2 争点- 3 -(1) 過失相殺の可否及び過失割合(2) 原告の損害の有無及び額ア本件後遺障害の存否及びその原因イ各損害項目の当否ウ素因減額の可否 第3 争点に対する当事者の主張 1 争点(1)(過失相殺の可否及び過失割合)について(被告らの主張)被告Bは,本件交差点の手前で一時停止し,左右を見ながら被告車を最徐行で再発進させるとともに,右を見て左を見た。そうしたところ,左側の歩道上 から原告車が徐行せずに走行して車道を横断し,被告車の前部に接触したものである。 自転車は,歩車道の区別のある道路では,車道部分の左端に寄って走行しなければならないところ,原告は自転車に乗って,道路の右側の歩道上から徐行せずに漫然と交差点に進入してきたものであり,過失相殺がされるべきである。 そして,本件事故に係る過失割合は,本件交差点の見通しの悪さや上記の事故態様に照らし,被告B75%に対して原告25%とするのが相当である。 (原告の主張)被告Bは,視界を遮る建物があることなど,本件交差点に進入するに当たって最徐行する必要を十分に認識していたところ,これを怠ったものであり,被 告Bには著しい過失がある。他方,原告は速度を落とした上で本件交差点に進入し,とっさにブレーキをかけて避けようとしたが,間に合わず衝突したものである。そして,本件交差点付近は車両の交通量が多く,自転車が車道を走行すると危険があるため,歩道を走行し得る場所(道路交通法17条1項参照)といえる。 これらの点からすれば,原告には何ら落ち度はなく,過失相殺がされるべき- 4 -事情はない。また,仮に過失相殺がされるとしても,上記のとおり原告車は速度を落として走行していたものであって,歩行者と同視して過 らすれば,原告には何ら落ち度はなく,過失相殺がされるべき- 4 -事情はない。また,仮に過失相殺がされるとしても,上記のとおり原告車は速度を落として走行していたものであって,歩行者と同視して過失割合を定めるべきである。 2 争点(2)ア(原告の損害の有無及び額-本件後遺障害の存否及びその原因)について (原告の主張)以下のとおり,本件後遺障害は,①本件事故により,原告の胸管入口付近(腹腔動脈分岐部近傍)のリンパ管が損傷し(外傷性リンパ管損傷),②この損傷箇所からリンパ液が流出して左側後腹膜腔に貯留し,腹部の炎症を引き起こすなどして生じたものである(以下,この機序を「本件機序」という。)。 (1) 本件事故による外傷性リンパ管損傷の発生ア本件事故の際,原告車(自転車)のハンドル又はサドルが原告の腹部に差し込み,その結果,原告の胸管入口付近のリンパ管が損傷したのであって,原告のリンパ管損傷は本件事故により生じたものである。 イこの点につき被告らは,そもそも原告においてリンパ管損傷が確認され ていないと主張する。 しかし,原告のリンパ管損傷は画像診断の結果から認められる上,現にリンパ液が漏出していることからも明らかである。 ウまた,被告らは,①本件事故においてハンドル等が腹部にぶつかったのであれば,本件事故直後に腹部に異変を訴えたりするはずなのに,そのよ うな記録は一切ない,②本件事故によりリンパ管が損傷したのであれば,これと並走する血管等の周囲の組織も同時に損傷するはずなのに,そのような損傷はない,③リンパ管が損傷すれば直ちにその症状が現れるのに,原告の発症は本件事故から47日後のことであるなどとして,原告の症状は本件事故との因果関係を欠くとも主張する。 しかし,上記①について い,③リンパ管が損傷すれば直ちにその症状が現れるのに,原告の発症は本件事故から47日後のことであるなどとして,原告の症状は本件事故との因果関係を欠くとも主張する。 しかし,上記①については,原告は頭部から脚部にかけて左側面を強く- 5 -地面に打ち付けており,その痛みのために腹部痛を訴えなかったとしても不思議なことではない。上記②については,リンパ管は血管や臓器と比べて脆弱な組織であり,可動域がないことなどから,外力の方向によってはリンパ管のみを損傷することもあり得る。上記③については,リンパ液が流出し,大量に貯留して,感染による発熱が生じるまでの期間は,数週間 から数か月程度と考えられるのであって,不自然ではない。 (2) リンパ液の流出・貯留ア上記(1)のリンパ管の損傷箇所からリンパ液が流出し,左側後腹膜腔に漏れ出した後,左骨盤後腹膜へと流出して,これが貯留することになった。 そして,貯留したリンパ液が死腔液となり,腹部の炎症を引き起こした。 このことは,画像所見のほか,リンパ液が脆弱化した腹壁から会陰部へ流出していることからも明らかである。 イこの点につき被告らは,単回の損傷であればリンパ管が自然治癒し,原告に生じているようなリンパ液の流出や貯留は生じないと主張する。 しかし,本件においては,貯留したリンパ液の量に照らすと太いリンパ 管が損傷したものと考えられるのであって,こうした損傷の場合,自然治癒は考えられない。 ウまた,被告らは,リンパ液の貯留は本件事故によるものではなく,疾病によるものであるとし,①先天的・後天的な原因により胸管入口付近の狭窄が生じ,またリンパ管の広範な閉塞が生じた,②その結果,リンパ液が うっ滞してリンパ管に内圧がかかり,リンパ管に穿孔が生じたなどと主張 あるとし,①先天的・後天的な原因により胸管入口付近の狭窄が生じ,またリンパ管の広範な閉塞が生じた,②その結果,リンパ液が うっ滞してリンパ管に内圧がかかり,リンパ管に穿孔が生じたなどと主張する。 しかし,①については,狭窄ではなく損傷が生じたものであり,また広範な閉塞は生じていないのであるし,②についても,うっ滞や内圧などは生じていないのであって,被告らの主張はそもそもその前提を欠く。 (3) 自白の撤回の可否- 6 -本件では,自賠責保険においても本件事故と本件後遺障害との間の因果関係が認定されている。そして,被告らの任意保険会社は,本件事故から15年にわたり,本件事故と本件後遺障害との間の因果関係を当然のものとして損害賠償金の支払を行ってきたものであり,被告ら申立ての民事調停においても同様であった。 しかるに,被告らは,本訴提起から約2年経過した時期に因果関係を否定し,自白を撤回したのであって(前提事実(5)),このような自白の撤回は信義則に反し,許されない。 (被告らの主張)以下のとおり,本件においては,①原告の主張する外傷性リンパ管損傷は確 認されておらず,仮に損傷が生じていたとしても本件事故との因果関係を欠くものであって,②リンパ液の流出・貯留は他の原因によるものである。 (1) 本件事故による外傷性リンパ管損傷の発生についてアリンパ管損傷の有無本件では,本件事故後数年にわたる治療の過程で,外傷によるリンパ管 の損傷個所を客観的に発見することができていない。この点につき原告は,画像診断の結果から明らかであると主張するが,これは,本件事故から10年後,3度にわたる手術を経てから撮影された画像であって,これにより本件事故直後の病態の確認・確定をすることは不可能である 告は,画像診断の結果から明らかであると主張するが,これは,本件事故から10年後,3度にわたる手術を経てから撮影された画像であって,これにより本件事故直後の病態の確認・確定をすることは不可能である。 したがって,原告の主張する外傷性リンパ管損傷は,確認されていない。 イ本件事故との因果関係仮に外傷性リンパ管損傷が生じていたとしても,その原因が本件事故にあると特定することはできない。 そもそも,本件事故においてハンドル等が腹部にぶつかったのであれば,本件事故直後に腹部に異変を訴えたりするはずなのに,そのような記録は 一切ない。また,本件事故によりリンパ管が損傷したのであれば,これと- 7 -並走する血管等の周囲の組織も同時に損傷するはずなのに,そのような損傷はない。加えて,リンパ管が損傷すれば直ちにその症状が現れるのに,原告の発症は本件事故から47日後のことである。 したがって,仮に外傷性リンパ管損傷が生じていたとしても,本件事故との因果関係を欠くものといわざるを得ない。 (2) リンパ液の流出・貯留について原告は,リンパ管の損傷個所からリンパ液が流出し,貯留することにより,腹部の炎症を引き起こしたと主張する。 しかし,そもそも単回の損傷であれば,自然に損傷部位が癒着して回復するはずなのに,原告は,本件事故後,複数回にわたってリンパ管の修復手術 を受けたにも関わらず,症状が治まっていない。したがって,こうした症状の原因を本件事故による単回の損傷に求めることはできない。 むしろ,原告のリンパ液の流出・貯留は,①本件事故前までは,乳び槽から胸管の狭窄部を含め,広範にリンパ管の閉塞があったものの,側副リンパ行路で補填ないし代替されて微妙なバランスが保たれていた,②しかるに, 原因は不 流出・貯留は,①本件事故前までは,乳び槽から胸管の狭窄部を含め,広範にリンパ管の閉塞があったものの,側副リンパ行路で補填ないし代替されて微妙なバランスが保たれていた,②しかるに, 原因は不明であるが(年齢を経てこの部位の狭窄が徐々に大きくなったことなどが想定される。),本件事故後にリンパ液のインとアウトのバランスが崩れた状態となり,しかも精密検査をしないままに徹底したリンパ管の結紮手術が実施されたためにこのバランスが悪化した,③これにより,流れる先を失ったリンパ液がうっ滞し,これによりリンパ管の内圧が高まって身体のど こかのリンパ管に穿孔が生じ,流出したリンパ液が後腹膜や左鼠径部,左臀部,左外陰部に貯留したものと考えられる。 したがって,原告の症状は,本件事故とは全く無関係である。 (3) 自白の撤回について原告は,①自賠責保険において本件事故と本件後遺障害との因果関係が認 定されており,②被告らの任意保険会社も損害賠償金の支払を行ってきたの- 8 -であって,本訴提起後約2年を経過した時期に因果関係を否定するのは信義則に反すると主張する。 しかし,上記①については,事故態様やリンパ液漏れのメカニズムを検証して因果関係を認めたものではないし,自賠責保険における認定が裁判所を拘束するものでもない。上記②については,訴訟に至って医師の意見を確認 するなどした結果,本件事故と本件後遺障害の間の因果関係について誤解があったことが判明したため,被告らは自白の撤回を主張したにすぎないのであって,何ら問題のある対応ではない。 3 争点(2)イ(原告の損害の有無及び額-各損害項目の当否)について(原告の主張) 本件事故により,原告に以下の損害が発生した。 (1) 治療費 65万2037円本件後 い。 3 争点(2)イ(原告の損害の有無及び額-各損害項目の当否)について(原告の主張) 本件事故により,原告に以下の損害が発生した。 (1) 治療費 65万2037円本件後遺障害の症状固定日である平成28年4月6日までに原告が支払負担をした治療費は,以下のとおりである。 ア D産婦人科(平成24年4月25日) 4615円 イ E病院(平成25年4月3日~平成28年4月6日) 64万7422円(2) オムツ代 20万6395円原告は,本件事故後,リンパ嚢腫破裂によるリンパ液漏出のためにオムツを着用する必要があり,平成24年3月から平成28年4月6日までの間, 上記オムツ代を支出した。 (3) 通院交通費 16万3240円ア F病院 13万9320円(ア) 平成13年8月20日~平成18年11月2日 4万4800円(通院日数112日×400円) (イ) 平成18年11月18日~平成25年8月15日 9万4520円- 9 -(通院日数139日×680円)イ D産婦人科 680円(通院日数1回〔平成24年4月25日〕×680円)ウ E病院 2万3240円(ア) 平成25年4月3日~平成26年9月30日 1万3640円(通院 日数22日×620円)(イ) 平成26年10月1日~平成28年4月6日 9600円(通院日数15日×640円)(4) 入院雑費 123万4500円ア原告は,平成13年8月20日から平成28年4月6日(症状固定日) までの間,以下のとおり合計823日間入院した。 (ア)F病院(平成13年8月20日~平成24年9月21日) 690日(イ)E病院(平成25年4月3日~平成28年4月6日) 133日イ上記入院に伴う入院雑費 おり合計823日間入院した。 (ア)F病院(平成13年8月20日~平成24年9月21日) 690日(イ)E病院(平成25年4月3日~平成28年4月6日) 133日イ上記入院に伴う入院雑費 123万4500円(1500円×823日)(5) 症状固定日後の治療費,オムツ代,交通費及び入院雑費 264万151 8円ア原告は,症状固定日の翌日である平成28年4月7日から平成29年4月6日までの1年間にわたり,E病院で治療を受け,手術入院するなどし,以下のとおり治療費,オムツ代,交通費,入院雑費が発生したものであって,その合計は14万8617円となる。 (ア) 治療費 8万8320円(イ) オムツ代 2万7757円(ウ) 交通費 7040円(640円×11日)(エ) 入院雑費 2万5500円(1500円×17日)イ原告においては,リンパ液が貯留する以上はリンパ嚢腫の破裂を防止す ることができないために,今後も治療やオムツ代等の負担が生じ,1,2- 10 -年に1回程度の頻度で形成外科に手術入院する必要がある。また,腹部のリンパ液の貯留により,腹膜炎などを発症して入院が必要となる可能性もあるし,今後新たな症状を引き起こすことによる治療の可能性もある。 したがって,原告は,症状固定日後の治療費,オムツ代,交通費,入院雑費等として,1年間当たり少なくとも上記アの14万8617円を要す るものであり,これに症状固定日から平均余命(簡易生命表平成27年度41歳女子平均余命)に至るまでの46年間のライプニッツ係数17.774を乗じると,以下の計算式のとおり264万1518円となる(小数点以下切捨て)。 (計算式)14万8617円×17.774≒264万1518円 (6) 夫の給与 イプニッツ係数17.774を乗じると,以下の計算式のとおり264万1518円となる(小数点以下切捨て)。 (計算式)14万8617円×17.774≒264万1518円 (6) 夫の給与減額分 202万6650円原告の夫(G)は,北海道全域に店舗を展開する会社に勤務しており,道内各地での勤務を前提に採用されていた。しかるに,原告の夫は,原告の通院の付添いや,入院中及び自宅安静中の身の回りの世話や家事を行う必要があって,札幌を離れることができなかったため,勤務先に転居停止制度の適 用を申請し,平成25年2月から勤務場所を札幌市内の勤務地に限定することとなった。 これにより,原告の夫の給与は同月から平成28年4月までの間に202万6650円減額され,そのため原告夫婦の収入が減少することとなったところ,この減額は本件事故により発生したものであるから,原告の損害に含 まれる。 (7) 将来の夫の給与減額分 818万8965円原告の症状固定日後の1年間(平成28年5月~平成29年4月),原告の夫の給与は62万2120円減額された。 そして,原告の夫は,原告の症状固定日後の平成28年5月当時には満4 3歳であり,勤務先会社の定年は65歳であるため,同月から22年間勤務- 11 -することが予定されるところ,原告の症状は上記(5)イのとおり改善の見通しがないから,今後も転居停止制度の適用を受けざるを得ず,上記減額分の損害が毎年発生する。 そこで,上記金額に22年のライプニッツ係数である13.163を乗じると,以下の計算式のとおり,818万8965円となる(小数点以下切捨 て)。 (計算式)62万2120円×13.163≒818万8965円(8) 休業損害 2011万2740円ア平成13 ,以下の計算式のとおり,818万8965円となる(小数点以下切捨 て)。 (計算式)62万2120円×13.163≒818万8965円(8) 休業損害 2011万2740円ア平成13年10月~平成15年9月及び平成21年1月の合計 362万0232円 イ平成15年10月~平成20年12月及び平成21年2月~平成22年2月の合計 125万7208円平成13年の原告の年間給与額305万9207円を日割計算した額に,入院日数64日に通院日数の2分の1である86日を加えた150日分を乗じると,以下の計算式のとおり,125万7208円となる(小数点以 下切捨て)。 (計算式)305万9207円÷365日×150日≒125万7208円ウ平成22年3月~平成28年4月の合計 1523万5300円(ア) 基礎収入月額29万0750円原告は平成22年3月以降は主婦となっているため,同月以降の休業 損害については,平成21年度賃金センサス第1表の産業計・学歴計・女性労働者全年齢平均月額29万0750円(年額348万9000円÷12)を基礎収入とするのが相当である。 (イ) 平成22年3月~平成23年10月の合計 174万4500円原告は,上記の期間に少なくとも月1回以上は通院治療を受けており, 平成22年秋頃から陰部に嚢腫による変形が出始め,次第に嚢腫部が大- 12 -きくなり,歩行中に下着と擦れると痛みが出るようになっていき,平成23年3月頃にリンパ嚢腫であることが確認された。したがって,上記期間において3割の稼働能力の喪失があったものとして,この間の休業損害は,以下の計算式のとおり,174万4500円となる。 (計算式)29万0750円×20月×0.3=174万4500円 上記期間において3割の稼働能力の喪失があったものとして,この間の休業損害は,以下の計算式のとおり,174万4500円となる。 (計算式)29万0750円×20月×0.3=174万4500円 (ウ) 平成23年11月から平成28年4月までの間の入院・安静期間の16か月分の合計 465万2000円原告は,上記期間のうち254日(約8か月)入院し,そのうち4回の入院は手術入院であり,退院後も2か月は安静にする必要があったものである。したがって,入院期間(8か月)及びこれに伴う安静期間 (8か月)の合計16か月については,家事労働は全部不能であり,この間の休業損害は,以下の計算式のとおり,465万2000円となる。 (計算式)29万0750円×16月=465万2000円(エ) 平成23年11月~平成28年4月の合計(上記(ウ)の部分を除く)883万8800円 平成23年11月以降,リンパ嚢腫の破裂によりオムツの着用が必要となり,嚢腫破裂により痛みなどの症状が現れるようになったところ,8割の稼働能力を喪失したもので,上記の54か月のうち上記(ウ)の16か月を除いた38か月の休業損害は,以下の計算式のとおり,883万8800円となる。 (計算式)29万0750円×38月×0.8=883万8800円(9) 逸失利益 4232万円ア労働能力喪失率について原告の本件後遺障害は,自動車損害賠償保障法施行令別表第二の後遺障害等級(以下,特記する場合を除き,等級は同等級をいう。)5級に相当 するものである。 - 13 -すなわち,①開腹後腸管癒着障害については,腹痛や消化・吸収障害を起こすものであり,小腸の狭窄などと同様に11級に相当し,②子宮付属器癒着障害については,子宮や付属器に消化 ある。 - 13 -すなわち,①開腹後腸管癒着障害については,腹痛や消化・吸収障害を起こすものであり,小腸の狭窄などと同様に11級に相当し,②子宮付属器癒着障害については,子宮や付属器に消化管が癒着して妊娠の可能性がなくなることから,9級を下回ることはない。そして,上記①及び②は機能を異にする複数の臓器障害であるから併合の手法を用いるべきものであ り,繰上げにより8級となる。 また,③後腹膜,左鼠径部,左臀部,左外陰部リンパ嚢腫については,リンパ嚢腫の内圧が上昇すると皮膚を破裂させて多量のリンパ漏が起きるため,オムツを着用する必要があり,日によっては外出時に大量のオムツを持ち歩くなど必要があることなどからすると,7級と評価されるべきも のであり,上記①及び②と同様に併合又は併合の手法により繰り上げて5級と評価されるべきである。 以上に指摘したところのほか,リンパ漏が激しい痛みを伴うこと,リンパ嚢腫やリンパ漏の原因となる歩行や立位を避けるため,自宅ではソファで横になる必要があること,年齢や体調の変化に伴う新たな症状により入 院治療を受ける可能性もあることなどを考慮すると,原告の後遺障害については,特に軽易な労務以外の労務に服することができないものとして5級に該当すべきものであり,その労働能力喪失率は79%となる。 イ逸失利益の算定原告は,症状固定時は41歳であり,上記のとおり79%の労働能力を 喪失したものとし,基礎収入を平成27年度賃金センサス産業計・学歴計・女性全年齢年額372万7100円とし,67歳に至るまでの26年のライプニッツ係数14.375をもとに,その逸失利益を計算すると,以下の計算式のとおり,4232万円となる(1万円未満切捨て)。 (計算式)372万7100円×14.375× 歳に至るまでの26年のライプニッツ係数14.375をもとに,その逸失利益を計算すると,以下の計算式のとおり,4232万円となる(1万円未満切捨て)。 (計算式)372万7100円×14.375×0.79≒4232万0000円 (10) 慰謝料 2700万円- 14 -ア入通院慰謝料 1000万円原告は,本件事故までは健康状態に全く問題はなく,手術を受けたこともなかったのに,本件事故後,多数回の開腹手術や入院治療を受けることとなり,その後もリンパ液の漏出を止めることはできず,2度目の開腹手術の後には将来子供を産めない状態となったほか,結婚した後にリンパ嚢 腫が生じ,日常生活上の支障のみならず夫婦生活上も重大な支障を来たすようになったもので,入通院慰謝料としては1000万円を下回らない。 イ後遺障害慰謝料 1700万円原告は,本件後遺障害により,日常生活,社会生活及び夫婦生活において重大な影響を受けており,後遺障害慰謝料としては1700万円を下回 らない。 (11) 既払金 1078万6956円被告側の保険会社から原告に対し,1078万6956円が支払われた。 (12) 弁護士費用を除く損害金元本 9375万9089円上記(1)ないし(10)の合計額から上記(11)を控除した。 (13) 自賠責保険金充当後の平成29年2月21日までの遅延損害金の額280万1900円原告は,平成29年2月21日,自賠責保険金として1051万円を受領したところ,本件事故日である平成13年7月4日から上記自賠責保険金受領日まで(15年233日)の遅延損害金は,以下の計算式のとおり,73 31万1900円となる(小数点以下切捨て)。 (計算式)9375万9089円×0.05×15≒70 ら上記自賠責保険金受領日まで(15年233日)の遅延損害金は,以下の計算式のとおり,73 31万1900円となる(小数点以下切捨て)。 (計算式)9375万9089円×0.05×15≒7031万9316円9375万9089円×0.05×(233÷365)≒299万2584円7031万9316円+299万2584円=7331万1900円そして,上記自賠責保険金を上記の遅延損害金に充当すると,以下の計算 式のとおり,6280万1900円となる。 - 15 -(計算式)7331万1900円-1051万円=6280万1900円(14) 弁護士費用 1600万円(被告らの主張)(1) 本件事故と本件後遺障害との間の因果関係が欠ける場合の損害額ア争点(2)アにおいて主張したとおり,本件後遺障害は本件事故との因果 関係を欠くのであって,本件事故直後に通院していたH医院(以下「H整形外科」という。)での治療が終了した平成13年7月18日までの治療費及び入通院慰謝料のみを認め,その余は否認ないし争う。個別の費目についての主張は,以下に特記するとおりである。 (ア) 治療費(原告の主張(1))につき,H整形外科での治療費は3万54 96円であるが,本訴において請求されていない。 (イ) 通院交通費(同(3))につき,H整形外科への通院交通費については本訴で請求されていない。 (ウ) 休業損害(同(8))につき,原告はH整形外科への通院中も通常どおり仕事をしていたというのであって,0円である。 (エ) 入通院慰謝料(同(10)ア)につき,2週間程度の通院であるから,10万円が相当である。 イ以上を合計すると,被告らが賠償責任を負う額は10万円となるところ,既払金 円である。 (エ) 入通院慰謝料(同(10)ア)につき,2週間程度の通院であるから,10万円が相当である。 イ以上を合計すると,被告らが賠償責任を負う額は10万円となるところ,既払金合計3408万3015円によってその全額が填補されている。 (2) 本件事故と本件後遺障害との間の因果関係がある場合の損害額 仮に本件事故と本件後遺障害との間の因果関係が認められるとした場合,各費目についての被告らの主張は,以下のとおりである。 ア治療費(原告の主張(1)),オムツ代(同(2))はいずれも不知。 イ通院交通費(原告の主張(3))については,8万6000円の限度で認め,その余は不知。 ウ入院雑費(原告の主張(4))については,85万9500円の限度で認- 16 -め,その余は不知。 エ症状固定日後の治療費,オムツ代,交通費及び入院雑費(原告の主張(5))はいずれも不知ないし争う。 オ夫の給与減額分(原告の主張(6))及び将来の夫の給与減額分(同(7))については,原告の夫の会社や転居停止制度の内容は不知,その余は争う。 原告は随時介護が必要な状態にはないのであり,夫の収入の減額と本件事故との間には相当因果関係はない。 カ休業損害(原告の主張(8))については,362万0232円の限度で認め,その余は否認する。後記のとおり,原告の症状は平成22年9月の時点で固定しており,その後は休業損害は発生していない。 キ逸失利益(原告の主張(9))について,原告は平成15年6月以降は休業損害の請求をしておらず,F病院で治療を受けていた平成22年9月以降は病院からの治療費の請求もなかったため,同月頃から病態の変化はなかったというべきであり,この時点で原告の症状が固定したものといえる。 また, をしておらず,F病院で治療を受けていた平成22年9月以降は病院からの治療費の請求もなかったため,同月頃から病態の変化はなかったというべきであり,この時点で原告の症状が固定したものといえる。 また,本件後遺障害は,胸腹部臓器の障害として評価することが妥当であ り,さらに,原告の主張のように分析的に後遺障害を捉えて併合加重をすることは相当でないのであって,こうした観点から本件後遺障害を評価すると,7級5号にとどまる。 ク慰謝料(原告の主張(10))のうち,入通院慰謝料については400万円の限度で認め,その余は争い,後遺障害慰謝料については1000万円の 限度で認め,その余は争う。 ケ既払金(原告の主張(11))は,合計3408万3015円である。 コ自賠責保険金充当後の平成29年2月21日までの遅延損害金の額(原告の主張(13))について,自賠責保険金額は認め,その余は争う。 サ弁護士費用相当損害金は争う。 4 争点(2)ウ(原告の損害の有無及び額-素因減額の可否)について- 17 -(被告らの主張)仮に本件事故と本件後遺障害との間の因果関係が認められる場合でも,素因減額がされるべきである。 本件事故のような軽微な事故において,本件後遺障害が残存することは通常はなく,極めて稀である。本件事故後の症状には原告の素因が極めて大きく関 わっていると考えられ,具体的には,リンパ管の動きが一部低下してしまう,リンパ液漏れが起きやすいといった体質があったと考えて何ら不合理ではない。 したがって,損害の公平な分担という見地から,少なくとも8割の減額をするのが相当である。 (原告の主張) 争う。原告は,本件事故当時,心身ともに健康な20代の女性であって,既往歴もなく,被告らの主張するような素因 という見地から,少なくとも8割の減額をするのが相当である。 (原告の主張) 争う。原告は,本件事故当時,心身ともに健康な20代の女性であって,既往歴もなく,被告らの主張するような素因となる事情もない。このことは,争点(2)アにおいて指摘した点に照らしても明らかである。 第4 当裁判所の判断 1 認定事実 後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) リンパ管について(別紙図面参照(添付省略))リンパ管は,リンパ液を全身の末梢の細胞から鎖骨の静脈を経て心臓へ運び,リンパ節とともにリンパ系を形成するものであって,動静脈血管と並走することが多い(乙22,35の2,弁論の全趣旨)。 胃や腸周辺のリンパ管及びリンパ節は,小腸などのある腹腔内にある。小腸で吸収されたリンパ液は,腸管(小腸)を取り囲む腸間膜付近のリンパ管(腸間膜リンパ管)を通り,腸間膜リンパ管が,後腹膜に沿う形で存在する複数のリンパ管で網目状のネットワークを形成しつつ,上方(頭部方向)へ合流していって腸間膜リンパ管本幹となり,さらに上方で腹部リンパ管と合 流して乳び槽となり,その後,上方で胸管となり,鎖骨下静脈と合流する- 18 -(乙28,29,35の2,36,証人I〔2ないし5頁〕)。 リンパ管が何らかの原因で閉塞されると,リンパ液のうっ滞が起き,リンパ管が異常に拡張することがある(甲46,48,弁論の全趣旨)。 (2) 本件事故の状況及び本件事故直後の原告の状況ア原告は,本件事故(平成13年7月4日)において,原告車(自転車) に乗った状態で被告車と接触して地面に倒れ,左のこめかみ付近から左手,左大腿部などの身体の左側面を打ち,1週間程度の通院治療を要する頭部打撲及び擦過傷,左手関節捻挫, おいて,原告車(自転車) に乗った状態で被告車と接触して地面に倒れ,左のこめかみ付近から左手,左大腿部などの身体の左側面を打ち,1週間程度の通院治療を要する頭部打撲及び擦過傷,左手関節捻挫,左大腿部打撲の傷害を負った(乙4,原告本人〔2頁〕,被告B本人〔4頁〕,弁論の全趣旨)。 本件事故による損傷は被告車には生じておらず,また,本件事故後,救 急要請や警察への通報もされなかった(乙3,原告本人〔13,14頁〕,被告B本人〔5頁〕)。 イ原告は,本件事故当日,H整形外科を受診し,傷の処置や消炎剤による治療を受けるなどし,その後順調に経過して,平成13年7月18日,治療を終えた。H整形外科での受診当時,原告は,腹部の痛みや打撲につい て医師に申告することはなかった(乙4,原告本人〔14頁〕)。 その後,原告は,体調不良を感じることなく,レジ打ちの仕事を行っていた(原告本人〔15,16頁〕)。 (3) 平成13年8月20日の発症原告は,平成13年8月20日,発熱及び腹部痛を生じ,翌21日,左後 腹膜にリンパ液が貯留していることが確認された。原告を診察したI医師は,この頃,リンパ液貯留の原因としてリンパ管が損傷したものと考えたが,本件事故から46日後に発症したもので,機序が不明であるとして,「特発性」(原因不明)のリンパ管損傷と判断した(甲34の2,乙20の1〔38頁〕,乙38,証人I〔35頁〕,原告本人〔3頁〕)。 原告に対しては,貯留したリンパ液をチューブ経由で体外に排出する方法- 19 -(ドレナージ術)による対処が施された(甲3の1,甲34の2,乙25)。 (4) 1回目の開腹手術I医師は,平成14年9月10日,原告の開腹手術を実施し,リンパ管が損傷していると考えられる部位を ドレナージ術)による対処が施された(甲3の1,甲34の2,乙25)。 (4) 1回目の開腹手術I医師は,平成14年9月10日,原告の開腹手術を実施し,リンパ管が損傷していると考えられる部位を徹底的に結紮したが,この際,リンパ管の損傷部位を確認することはできなかった。なお,同手術の際,I医師は,左 腎静脈から2,3cm尾側の動脈左側と並走するリンパ管に直径2mmの孔を確認し,その頭側と尾側を結紮切離した(甲3の2,乙20の13〔106,107頁〕,証人I〔37,38頁〕)。 (5) 2回目の開腹手術I医師は,平成15年2月19日,原告の2回目の開腹手術を実施し,1 回目の手術と同様,リンパ管が損傷していると考えられる部分を全て結紮した。この際も,1回目の開腹手術と同様に,リンパ管の損傷部位を確認することはできなかった(乙20の12〔104,105頁〕,証人I〔38頁〕)。 (6) リンパ嚢腫の発生 原告は,平成23年4月頃から,左外陰部に腫脹を生じるようになり,同年11月頃から左陰部粘膜下にリンパ嚢腫を生じ,これがしばしば自然破裂することで,大量の排液が生じるようになった(甲3の4,甲4,6,弁論の全趣旨)。 (7) 3回目の開腹手術 原告は,平成24年5月24日,発熱を生じて緊急入院したところ,左下腹部手術創瘢痕部の切迫破裂状態が確認された。そのため,I医師は,同年7月6日,外科的処置及び3回目の開腹手術を実施し,その際,椎体周囲のリンパ管を広範囲に結紮した(甲3の4,乙20の1〔7頁〕)。 原告には,その後もリンパ液が貯留する症状が現れ,平成25年9月には E病院に入院して左卵巣静脈・腹部リンパ管吻合術を受け,更にその後もリ- 20 -ンパ管静脈吻合術,リンパ瘻部分切除術 原告には,その後もリンパ液が貯留する症状が現れ,平成25年9月には E病院に入院して左卵巣静脈・腹部リンパ管吻合術を受け,更にその後もリ- 20 -ンパ管静脈吻合術,リンパ瘻部分切除術を受けるなどした(甲5の1~5の4,弁論の全趣旨)。 (8) 本件後遺障害の診断C医師は,平成28年4月6日,原告につき,同日を症状固定日として,①腹部外傷による腸間膜根リンパ管損傷とそれに伴うリンパ管閉塞,②後腹 膜,左鼠径部,左臀部,左外陰部リンパ嚢腫,③開腹後腸管癒着障害,子宮付属器癒着障害の後遺障害(本件後遺障害)が認められる旨診断した(前提事実(4))。 2 争点(2)ア(原告の損害の有無及び額-本件後遺障害の存否及びその原因)について 事案に鑑み,争点(2)アから先に検討する。 原告は,本件後遺障害は,①本件事故により,原告の胸管入口付近(腹腔動脈分岐部近傍)のリンパ管が損傷し(外傷性リンパ管損傷),②この損傷箇所からリンパ液が流出して左側後腹膜腔に貯留し,腹部の炎症を引き起こすなどして生じたものである(本件機序)と主張する。 しかし,以下に述べるとおり,原告の上記主張は採用することができない。 (1) リンパ管の損傷の有無についてア原告は,本件事故により胸管入口付近のリンパ管が損傷したと主張する。 しかし,本件証拠上,本件事故直後の時点において,原告の胸管入口付近のリンパ管が損傷したことを端的に示す証拠は何ら見当たらない。 かえって,本件事故の翌年の平成14年9月に1回目の開腹手術が行われ,翌々年の平成15年2月に2回目の開腹手術が行われているが,いずれの手術の際にもリンパ管の損傷部位は確認されなかったものである(認定事実(4),(5))。 したがって,そもそも本件事故直 われ,翌々年の平成15年2月に2回目の開腹手術が行われているが,いずれの手術の際にもリンパ管の損傷部位は確認されなかったものである(認定事実(4),(5))。 したがって,そもそも本件事故直後の時点において,果たしてリンパ管 損傷が存在していたものなのか,疑問を差し挟まざるを得ない。 - 21 -イこの点につき原告は,画像所見によればリンパ管損傷が認められる旨の意見書(甲51)を提出する。 しかし,そもそも上記意見書が根拠とする画像は平成25年撮影のMRI画像であり,既に本件事故から10年以上が経過し,その間,3度にわたる開腹手術においてリンパ管の徹底的な結紮を施された後のものであっ て,もはやこのようなMRI画像から本件事故当時のリンパ管の状態を確認することは不可能ないし著しく困難であるものといわざるを得ない。しかも,上記画像から判明するのは,下肢及び腹腔内のリンパ液の流れが腸間膜根のレベルで途絶えており,それよりも中枢側にはほとんど流れていないという限度であって(甲7別紙参照),リンパ管が損傷しているとま で断定し得るのか疑問がある。 したがって,上記意見書によっても,本件事故当時にリンパ管損傷が存在していたものと断じることはできない。 ウ以上によれば,本件証拠上,原告の主張するリンパ管損傷があったものと認めることは困難である。 (2) 本件事故との因果関係について①-本件事故の態様念のため検討するに,仮に原告においてリンパ管の損傷が存在していたとしても,その原因が本件事故にあると断ずるのは,本件事故の態様に照らすと,以下のとおり極めて困難であるものといわざるを得ない。 アそもそも,本件において損傷したとされる腸間膜リンパ管ないし胸管入 口付近のリンパ管は,腹腔背側という は,本件事故の態様に照らすと,以下のとおり極めて困難であるものといわざるを得ない。 アそもそも,本件において損傷したとされる腸間膜リンパ管ないし胸管入 口付近のリンパ管は,腹腔背側という身体の深部にあるのであり(認定事実(1),弁論の全趣旨),身体に対して鈍的に大きな力が加わるのでなければ,そうした深部にある組織の損傷が生じるとはにわかに考え難い(乙35の1〔5頁〕参照)。このことは,医学文献上も,鈍的外傷後にリンパ管の損傷が生じた例は稀であり,その大多数は児童虐待の被害によるもの で,自動車接触事故による事例は珍しいとされること(甲51,59,乙- 22 -39),本件事故と本件後遺障害との間に因果関係があると判断したI医師においても,自転車のハンドルやサドル等による鈍的外傷を想定していたこと(甲34の2)からも裏付けられる。 しかるに,本件事故は,前提事実(2)及び認定事実(2)アのとおり,自転車である原告車と被告車が交差点で接触し,原告が転倒したというもので, 双方の車両は比較的低速であって(原告車の速度につき,甲30の1・2,原告本人〔1,2,11頁〕),救急要請や警察への通報などもされていない上,被告車にも損傷がないなど,事故態様自体は軽微なものである。そして,原告は,身体の左側面を地面に打ったものの,本件事故後に受診した際には腹部の痛みは訴えておらず(認定事実(2)),本件証拠上,腹部を 地面に打ち付けたとか,自転車のサドルやハンドルが原告の腹部に当たったなどと述べていたようにもうかがわれない。むしろ,原告自身,本件事故後の平成13年10月頃,保険会社の担当者に対し,腹部をハンドルで打ってはいないと思うなどと述べており(乙32),原告を診察したI医師においても,鈍的な外傷について「はっき しろ,原告自身,本件事故後の平成13年10月頃,保険会社の担当者に対し,腹部をハンドルで打ってはいないと思うなどと述べており(乙32),原告を診察したI医師においても,鈍的な外傷について「はっきりしない」ことを確認してい る(証人I〔40頁〕)。 しかも,原告のリンパ管については,本件事故後に徹底的に結紮されているにもかかわらず(認定事実(4)ないし(7)),その後もリンパ液の流出を抑制できていないのであって,このことは,本件事故によりリンパ管損傷が生じ,そこからリンパ液が流出したとの原告の主張と必ずしも整合し ない。 そもそも,腹部に外力が加わるような事態というものは,日常生活の中で起こり得ないわけではなく(例えば,原告は,平成15年10月16日,同月13日に家のロフトから落ちて胸を打ったとして受診している。乙20の2〔21頁〕,原告本人〔16頁〕),本件事故以外の出来事によって 原告にリンパ管損傷が生じた可能性もあり得るところである。 - 23 -イまた,本件においてはリンパ管以外の器官や組織は損傷していないところ,損傷が生じたとされる腸間膜リンパ管ないし胸管入口付近のリンパ管は,他の器官の周辺に所在し,動静脈などと並走することが多いのであって(認定事実(1)),こうした他の器官や組織を傷つけることなくリンパ管のみの損傷を生じるというのは,にわかに考え難い(乙35の1〔5頁〕 参照)。現に,文献(甲51,乙39)上も,自動車接触事故によるリンパ管の損傷は珍しく,多系統の損傷と常に結びついているものとされ,報告されている症例も,自動車接触事故による時速約64kmの横衝撃があった,事故での接触時にシートベルトの圧力が腹部にかかった,追突により呼吸困難や胸水の所見があったなど,本件事故とは相当に乖 れ,報告されている症例も,自動車接触事故による時速約64kmの横衝撃があった,事故での接触時にシートベルトの圧力が腹部にかかった,追突により呼吸困難や胸水の所見があったなど,本件事故とは相当に乖離のある事 案である。 ウこの点につき原告は,リンパ管の単独損傷の原因は椎体骨過伸展・過屈曲の可能性があるとし,これがどのような衝撃や身体のどのような動きによるものかは解明されていないのであり,本件の因果関係の有無を判断するに当たっては,こうした事実を前提としなければならない旨主張する。 しかし,原告のこうした主張は,結局のところ,本件事故によって椎体骨過伸展・過屈曲が生じ,これによってリンパ管損傷が生じたという抽象的な可能性を指摘するにすぎないものであるし,仮に椎体骨過伸展・過屈曲による損傷であるとしても,後記(3)の点を合理的に説明し得るものではない。 また,原告は,リンパ管には神経がないために,リンパ管に損傷があっても痛みを感じず,腹部痛を訴えていないとしても因果関係が否定されるものではない旨主張する。しかし,本件においては,そもそもそうしたリンパ管の損傷を生じさせるような外力が本件事故により加わったようにはうかがわれないのであって(上記ア),原告の主張はその前提を欠くもの といわざるを得ない。 - 24 -さらに,原告は,リンパ管が脆弱な組織であり,リンパ管のみの損傷が起こり得る旨を主張し,これに沿う医師の報告書(甲51)を提出する。 しかし,当該報告書においては,抽象的に交通事故があったことを前提としてリンパ管のみの損傷が起こり得ると指摘するにとどまり,当該報告書において引用される症例も,本件事故により身体に強い外力が加わったよ うにはうかがわれない本件とは乖離があるのであって,原告の上 してリンパ管のみの損傷が起こり得ると指摘するにとどまり,当該報告書において引用される症例も,本件事故により身体に強い外力が加わったよ うにはうかがわれない本件とは乖離があるのであって,原告の上記主張は採用することができない。 (3) 本件事故との因果関係について②-発症時期また,仮に原告においてリンパ管の損傷が存在していたとしても,原告の発症時期に照らせば,以下のとおり,その原因が本件事故にあるとするのは 困難である。 ア本件機序によれば,本件事故での外傷によりリンパ管が損傷し,リンパ液の流出という事態が生じるに至ったこととなるが,こうしたリンパ管の損傷が生じたとすれば,①若干の損傷の場合であれば,ネットワーク状になっている他のリンパ管によって代替され,リンパ液の流出といった事態 が生じることは考え難く,②他方で,大規模な損傷の場合であれば,短期間のうちに症状が生じるものと考えられるところである(認定事実(1)参照)。 しかるに,本件においては,本件事故後,1か月半程度経過してから突然症状が生じたというのである。そして,この間,原告は従前と同様に仕 事をするなどしていたものであって(認定事実(2),(3)),他に何らかの症状の発生をうかがわせるような事情もない。 したがって,リンパ管損傷が本件事故により生じたというのは,このような発症時期に照らしても,にわかに考え難い。 イこの点につき,原告の主治医であったI医師は,リンパ液の貯留してい た後腹膜は神経がなく,細菌数が相当増えて発熱するような状況でなけれ- 25 -ば症状が出ない旨証言する(証人I〔27頁〕)。しかし,I医師は,当初,本件事故から発症まで46日間の間隔があることから,発症の原因が不明であるとして,上記の見解とは異なる判断を れ- 25 -ば症状が出ない旨証言する(証人I〔27頁〕)。しかし,I医師は,当初,本件事故から発症まで46日間の間隔があることから,発症の原因が不明であるとして,上記の見解とは異なる判断をしていたのであり(認定事実(3)),リンパ液の貯留部分についての認識が変わらないにもかかわらず,当時の判断と異なる見解に至った理由は明らかではないのであって,上記 の46日間の間隔が生じたことを合理的に説明するものとみるのは困難である。 また,I医師は,上記のような間隔について,平成13年10月の退院後,無症状で経過し,平成14年1月に再度入院するまでに85日間を要したのであるから,本件事故による影響が現れるのに46日間を要しても 長すぎることはないなどと指摘する(乙38)。しかし,本件証拠上,平成13年10月の退院後の症状の経過につき無症状と断定し得る根拠は見当たらないのであるから,I医師の上記指摘は前提を欠くものであって採用することができない。 (4) 本件事故との因果関係について③-他の機序による症状との符合 かえって,原告の症状をみると,被告らの主張するとおり,これらは他の機序により生じたのではないかと考えざるを得ない。 ア被告らは,①本件事故前までは,乳び槽から胸管の狭窄部を含め,広範にリンパ管の閉塞があったものの,側副リンパ行路で補填ないし代替されて微妙なバランスが保たれていたところ,②原因は不明であるが(年齢を 経てこの部位の狭窄が徐々に大きくなったことなどが想定される。),本件事故後にリンパ液のインとアウトのバランスが崩れた状態となり,精密検査をしないままに徹底したリンパ管の結紮手術が実施されたために,上記のバランスが悪化し,③流れる先を失ったリンパ液がうっ滞し,これによりリンパ管の内圧が高ま ウトのバランスが崩れた状態となり,精密検査をしないままに徹底したリンパ管の結紮手術が実施されたために,上記のバランスが悪化し,③流れる先を失ったリンパ液がうっ滞し,これによりリンパ管の内圧が高まって身体のどこかのリンパ管に穿孔が生じ,流出 したリンパ液が後腹膜や左鼠径部,左臀部,左外陰部に貯まったことによ- 26 -るものと考えられる旨主張する。 そして,上記①について,原告は,本件事故前の平成13年3月,発熱や腹痛などの症状を訴えて受診しており(乙20の15〔13頁〕),これは,原告のリンパ管に本件事故前から異常があったり,本件事故以前からリンパ液漏れによる感染症が生じていたりしたとみることもできるもので あって,被告らの主張する機序と符合する。 また,上記②及び③については,リンパ管の機能の低下によるリンパ性浮腫が35歳前後で起きるなど,加齢に伴ってリンパ管の機能の低下が起きるものと認められる(乙25〔23頁〕)。そして,本件においては,認定事実(4)のとおり,1回目の開腹手術の際に,左腎静脈から2,3cm 程度尾側の動脈左部に2mm程度のリンパ管の孔が存在していたところ,当該部位は正常なリンパ管の直径(1mm)よりも拡張し,4mm以上になっていたこと,外力による損傷であれば,こうした孔ではなく断裂を生じるものと考えられる一方,内圧上昇によって穿孔が生じ得ること(乙35の1〔5頁〕,弁論の全趣旨)からすれば,これらの点は,本件事故と は別に穿孔が生じたとの事実,ひいては被告らの主張する機序により生じたとの事実と符合するものである。 さらに,原告に対し,本件事故後合計3回にわたり,徹底したリンパ管の結紮術が行われたものの,リンパ液の流出が抑制されていないこと(認定事実(4)ないし(7))も,リンパ 事実と符合するものである。 さらに,原告に対し,本件事故後合計3回にわたり,徹底したリンパ管の結紮術が行われたものの,リンパ液の流出が抑制されていないこと(認定事実(4)ないし(7))も,リンパ液の流出が外傷によって生じた損傷を原 因とするものではないことをうかがわせるばかりか,かえって被告らの主張する機序と符合する。 以上の諸点に照らせば,原告の症状は,むしろ,被告らの主張する機序により生じたもののようにうかがわれる。 イこれに対し,原告は,①リンパ管の広範な範囲での閉塞は生じていない し,リンパ液のうっ滞やこれによる内圧などは生じていないのであって,- 27 -被告らの主張はその前提を欠く旨を主張する。 しかし,原告がその根拠として指摘する画像は,いずれもリンパ液の漏出が生じ,複数回のリンパ管の結紮術が施された後,約10年を経過した後のリンパ管の画像に基づくものか,個々のリンパ管の閉塞の有無まで判断し得るとまではいい難い平成13年当時のCT画像(甲39)などに基 づくものにすぎない。 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。 ウなお,手術を実施したI医師は,①1回目の手術の際に確認された孔については,本件事故か手術操作に由来する可能性がある,②貯留していたリンパ液が乳白色であるところ,孔があったのは大循環系のリンパ管であ り,貯留していたリンパ液とは無関係である旨を指摘する(甲50の2)。 しかし,上記①については,1回目の手術の際に孔が存在したのは動脈に並走するリンパ管であり,上記(2)のとおり,本件事故によって動脈を損傷することなくリンパ管のみを損傷させるとは考え難いことからすれば,こうした孔が本件事故によるものとも考え難い。また,手術操作によるも のである場合には 2)のとおり,本件事故によって動脈を損傷することなくリンパ管のみを損傷させるとは考え難いことからすれば,こうした孔が本件事故によるものとも考え難い。また,手術操作によるも のである場合には孔ではなく切創となると考えられるところであるし,医療記録(乙20)上も,手術操作によることをうかがわせる記載はない。 さらに,上記②については,被告らの主張する機序によれば,リンパ管の内圧が上がり,様々な場所でリンパ液の漏れが生じていた可能性があるのであって,現に貯留していたリンパ液が乳び槽や腸間膜のリンパ管のみ に由来すると断定し得る根拠はないことも併せ考慮すると,上記②の指摘によって被告らの主張する機序が否定されるものではない。 したがって,I医師の上記指摘は,いずれも採用することができない。 (5) 小括以上によれば,本件証拠上,原告の主張するリンパ管損傷があったものと 認めることは困難である上,仮にリンパ管損傷が存在していたとしても,本- 28 -件事故態様及び発症時期に照らすと,その原因が本件事故にあるということはできず,かえって原告の症状は他の機序によるものと符合するところである。 したがって,他に原告の主張に沿う証拠も見当たらない以上,原告の主張する症状(本件後遺障害)は,本件機序によって生じたものではなく,本件 事故との因果関係を欠くものといわざるを得ない。 そして,本件事故と本件後遺障害との因果関係に関する被告らの自白は錯誤に基づくものであると認められるのであって,その撤回を認めるのが相当である(なお,原告は,被告らにおいて,自白の前に撤回の主張の基礎となった事実を認識していたとして錯誤がなかった旨を指摘するが,被告らは, こうした事実を踏まえ,医師の意見書〔乙33〕などの医学的知見を併せ 原告は,被告らにおいて,自白の前に撤回の主張の基礎となった事実を認識していたとして錯誤がなかった旨を指摘するが,被告らは, こうした事実を踏まえ,医師の意見書〔乙33〕などの医学的知見を併せ考慮して,錯誤があったとして撤回するに至ったものであって,こうした経過に照らせば,錯誤の事実を認めることができるというべきである。)。 (6) その余の原告の主張について原告は,これまで指摘したところのほか,以下のとおり主張するが,いず れも採用することができないか,上記判断を左右しない。 ア I医師及びC医師の診断について原告は,原告を現実に診察したり手術したりしたI医師やC医師が外傷性リンパ管損傷と診断していることを指摘する。 しかし,I医師においては,自転車のハンドルやサドルなどによる鈍的 な外傷があったかどうか「はっきりしない」ことを確認しながら(証人I〔40頁〕),その後,本件事故の原因を自転車のハンドルやサドルなどでの鈍的外傷と想定するなど,本件事故の態様に即した検討を行ったものとはいい難い。そもそも原告の症状の原因に関するI医師の指摘を採用し難いことは,上記(2)ないし(4)において個別に指摘したとおりであって,I 医師の診断をもって本件後遺障害と本件事故との間に因果関係があるもの- 29 -と断ずることはできない。 また,後遺障害診断書(甲7)を作成したC医師においても,本件事故の態様を把握していたとはうかがわれないのであって,結局のところ,I医師と同様に,その診断をもって本件後遺障害と本件事故との間に因果関係があるものと断ずることはできない。 したがって,原告の指摘によっても,因果関係についての判断が左右されるものではない。 イ後腹膜の間隙について原告は,右後腹膜に との間に因果関係があるものと断ずることはできない。 したがって,原告の指摘によっても,因果関係についての判断が左右されるものではない。 イ後腹膜の間隙について原告は,右後腹膜に流出したリンパ液が左側へ交差して流れ出ていることを指摘し,これは,腹部にある程度大きな範囲で横方向に外力がかかっ たことにより後腹膜に間隙が生じたもので,本件事故によるものである旨主張するほか,I医師も同旨の証言をする(証人I〔19,20,28頁〕)。 しかし,原告の指摘する間隙について,発症翌日である平成13年8月21日のCT画像(甲39)にはこれをうかがわせる箇所は見当たらない のであって,原告の主張はこうした画像所見と整合しない。そもそも原告の指摘する間隙は,事故から10年以上が経過した時点でのMRI画像(甲50の2)によって確認されたものにすぎないのであって,これまで述べてきたところにも照らせば,当該間隙が本件事故によって生じたものとするのは困難である。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 ウ会陰部のリンパ液の貯留について原告は,会陰部のリンパ液の貯留について,リンパ液を排出(ドレナージ)した際のチューブを留置した腹壁部分が脆弱化したことによるものである旨主張する。 しかし,この点についてはI医師も同旨の指摘をし(証人I〔22頁〕),- 30 -これに沿う画像所見があるものの(甲56参照),このことによってリンパ液の流出の原因を特定することはできないのであって,本件機序を的確に裏付けるものとはいえないし,被告らの主張する機序を否定し得るようなものでもない。 したがって,原告の主張は,因果関係の有無についての判断を左右する ものではない。 エ自賠責保険の認定 に裏付けるものとはいえないし,被告らの主張する機序を否定し得るようなものでもない。 したがって,原告の主張は,因果関係の有無についての判断を左右する ものではない。 エ自賠責保険の認定について原告は,自賠責保険においても,本件事故と本件後遺障害との間の因果関係があることを前提として支払がされている旨を主張する。 しかし,自賠責保険の認定は,これまで指摘した本件事故の態様や原告 の発症の経緯を踏まえて行われたものではないのであって,上記判断を左右するものではない。 オ信義則違反について原告は,被告らの任意保険会社も損害賠償金の支払を行ってきたものであって,本訴提起から約2年を経過した時期に因果関係を否定するのは信 義則に反する旨主張する。 しかし,被告らにおいては,本件訴訟において,医師の意見を確認するなどして,改めて原告の主張する因果関係の有無について検討した上で,自白を撤回するに至ったものであり,撤回に至る経緯その他本訴の被告らの対応等の一切の事情を考慮しても,自白の撤回が信義則に反するとまで はいえない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 3 争点(2)イ(原告の損害の有無及び額-各損害項目の当否)について(1) 上記2によれば,原告の主張する本件後遺障害は,本件事故との因果関係を欠くものといわざるを得ない。 また,原告は,平成13年8月20日以降の原告の症状及びこれに伴う- 31 -損害につき,いずれも本件機序に基づく旨主張するものと解されるところ,上記2によれば,本件事故によって本件機序が発生したものではないと認められるから,平成13年8月20日以降の症状に伴う損害は,本件事故と相当因果関係の範囲内にはないことになる。 したがって,本件 上記2によれば,本件事故によって本件機序が発生したものではないと認められるから,平成13年8月20日以降の症状に伴う損害は,本件事故と相当因果関係の範囲内にはないことになる。 したがって,本件事故と相当因果関係のある損害は,平成13年8月20 日の発症より前の損害,すなわち本件事故直後に原告の通院したH整形外科への通院慰謝料の限度となるところ(H整形外科における治療費及び通院交通費は本訴において請求されておらず,当該通院期間における休業損害については,本件証拠上,当該期間に原告が休業していたと認めるに足りない。),証拠(乙4)によれば,原告は,頭部打撲及び擦過傷,左手関節捻挫,左大 腿部打撲により平成13年7月4日から同月18日までの間,H整形外科に通院(実通院日数8日)したことが認められ,その他本件で現れた一切の事情に照らせば,本件事故と相当因果関係のある通院慰謝料としては,10万円を認めるのが相当である。 (2) これに対し,原告に対する既払金は,原告が自認するだけでも,被告側の 保険会社からのものが1078万6956円,自賠責保険からのものが1051万円に及ぶというのであって(争点(2)イの「原告の主張」(11)及び(13)参照),過失相殺の当否について判断するまでもなく,本件事故により生じた上記(1)の損害額は,その全てが填補されたものといわざるを得ない。 したがって,被告らにおいて損害賠償義務を負うべき額はない。 4 結論よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 札幌地方裁判所民事第5部 裁判長裁判官瀬 孝- 32 - 裁判官宇野直紀 裁判 いから棄却することとして,主文のとおり判決する。 主文 札幌地方裁判所民事第5部 裁判長裁判官瀬孝 裁判官宇野直紀 裁判官佐藤克郎
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