令和2年2月21日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和元年(ワ)第1729号請求異議事件口頭弁論終結日令和元年12月27日判決 主文 1 被告の原告に対する札幌地方裁判所平成28年(ワ)第2097号発信者情報開示等請求事件の執行力のある判決正本に基づく強制執行は,別紙発信者情報目録記載1及び3の発信者情報の開示を命じる部分の全部並びに同目録記載2の発信者情報の開示を命じる部分のうち60万円を超える部分につき,これを許さない。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを5分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。 4 本件につき当裁判所が令和元年9月11日にした強制執行停止決定は,第1項において強制執行を許さないものとした限度でこれを認可し,そ の余の部分を取り消す。 5 この判決は,第4項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求被告の原告に対する札幌地方裁判所平成28年(ワ)第2097号発信者情報 開示等請求事件の執行力のある判決正本に基づく強制執行は,これを許さない。 第2 事案の概要本件は,別紙1発信者情報目録記載1ないし3の各発信者情報(以下「本件発信者情報1」などといい,併せて「本件各発信者情報」という。)の被告への開示を命じる確定判決を受けた原告が,本件発信者情報1及び3については開示を履 行しており,また本件発信者情報2についてはその開示を求める強制執行が権利 濫用に該当すると主張して,被告に対し,上記確定判決に基づく強制執行の不許を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いがないか,掲記の根拠により容易に認められる事実)(1) 当事者 すると主張して,被告に対し,上記確定判決に基づく強制執行の不許を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いがないか,掲記の根拠により容易に認められる事実)(1) 当事者 ア原告は,ウェブサーバの提供等を業とする会社である(弁論の全趣旨)。 イ被告は,写真家である(乙33)。 (2) 前訴の経緯ア被告は,別紙写真目録記載の各写真(以下「本件写真」と総称する。)を撮影し,自身のウェブサイトで公表していた(甲1)。 イ氏名不詳者は,本件写真を複製・改変した上,その画像データを「甲」と題するウェブサイト(以下「本件侵害サイトA2」という。)で公表した。 また,氏名不詳者は,本件写真を複製・改変した上,その画像データを「乙」と題するウェブサイト(以下「本件侵害サイトB2」といい,本件サイトA2と併せて「本件各侵害サイト」という。)で公表した。 本件各侵害サイトは,いずれも,原告の提供するウェブサーバ上に設けられていた(甲1)。 ウ被告は,平成28年10月17日,本件各侵害サイトの各発信者に対する著作権(複製権,公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)侵害による損害賠償請求権を行使するために,原告に対し,特定 電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき,①本件侵害サイトB2上の画像データに係る発信者の電子メールアドレス(本件発信者情報1),②本件侵害サイトA2上の画像データに係る発信者のIPアドレス及びタイムスタンプ(同2),③上記②の発信者の電子メールアド レス(同3)その他の発信者情報の開示を求める訴えを札幌地方裁判所に 提起した(札幌地方裁判所平成28年(ワ) Pアドレス及びタイムスタンプ(同2),③上記②の発信者の電子メールアド レス(同3)その他の発信者情報の開示を求める訴えを札幌地方裁判所に 提起した(札幌地方裁判所平成28年(ワ)第2097号。以下「本件前訴」という。)(甲1,弁論の全趣旨)。 エ札幌地方裁判所は,平成30年4月27日,本件各侵害サイトでの画像データの公表により,被告の著作権(複製権,公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)が侵害されたことが明らかであるとこ ろ,原告が本件発信者情報1及び3を保有しているものと認められ,また原告が本件発信者情報2を保有していることは当事者間に争いがないとして,原告に対し,本件各発信者情報その他の情報の開示を命じる旨の判決をした(甲1。以下「本件前訴判決」という。)。 これに対し,原告が控訴した(甲2)。 オ被告は,札幌高等裁判所での控訴審において,本件前訴に係る訴えのうち,本件各発信者情報以外の情報の開示を命ずる部分を取り下げた。これにより,本件前訴判決は,本件各発信者情報のみの開示を命ずるものに変更された(甲2)。 カ原告は,控訴審において,本件発信者情報2については保存期間の経過 により消去され,現時点では保有していない旨主張した。 しかるに,札幌高等裁判所は,平成30年12月13日,原告の上記主張は自白の撤回に当たるところ,この点につき反真実及び錯誤の主張立証がないから,自白の撤回は許されないなどとして,原告の控訴を棄却する旨の判決をした(甲2。なお,口頭弁論終結の日は同年10月16日。)。 これに対し,原告が上告及び上告受理申立てをしたが,最高裁判所は,令和元年6月21日,原告の上告を棄却し,上告受理申立てを不受理とする旨の決定をした。これによ は同年10月16日。)。 これに対し,原告が上告及び上告受理申立てをしたが,最高裁判所は,令和元年6月21日,原告の上告を棄却し,上告受理申立てを不受理とする旨の決定をした。これにより,本件前訴判決は上記オにおいて変更された限度で確定した(当事者間に争いがない)。 (3) 本件発信者情報1及び3の開示 原告は,本件前訴の控訴審の口頭弁論終結後である平成30年12月21 日頃,被告に対し,本件発信者情報1及び3を開示した(当事者間に争いがない)。 (4) 間接強制の申立てア被告は,令和元年7月29日,本件前訴判決に掲げられた本件各発信者情報の開示請求権のうち本件発信者情報2に係る部分について,札幌地方 裁判所に間接強制の申立てをした(甲8)。 イ札幌地方裁判所は,令和元年8月20日,原告に対し,本件発信者情報2の開示を命じるとともに,決定書送達の日から7日以内にこれを履行しないときは,同期間経過の翌日から履行済みまで1日につき1万円の割合による金員の支払を命じる旨の決定をした(甲9。以下「本件間接強制決 定」という。)。 本件間接強制決定は,同月26日,原告に送達された(当事者間に争いがない)。 ウ原告は本件間接強制決定に対して執行抗告をしたが,札幌高等裁判所は,令和元年11月5日,これを棄却する旨の決定をした(乙38)。 (5) 強制執行停止の申立て原告は,令和元年8月29日,本訴を提起するとともに,本件前訴判決に基づく強制執行について強制執行停止の申立てをし,当裁判所は,同年9月11日,これを認容する旨の決定をした(当裁判所に顕著な事実)。 2 争点 (1) 本件発信者情報1及び3-開示請求権の消滅の有無(2) 本件発信者情報2-強制執 当裁判所は,同年9月11日,これを認容する旨の決定をした(当裁判所に顕著な事実)。 2 争点 (1) 本件発信者情報1及び3-開示請求権の消滅の有無(2) 本件発信者情報2-強制執行の権利濫用該当性 3 争点についての当事者の主張(1) 争点(1)(本件発信者情報1及び3-開示請求権の消滅の有無)について(原告の主張) 前記1(3)のとおり,原告は既に被告に対して本件発信者情報1及び3を開 示しており,その開示義務は履行済みである。 したがって,本件発信者情報1及び3の開示請求権は消滅しているから,本件前訴判決のうち上記の開示を命じる部分に基づく強制執行は許されない。 (被告の主張)争う。 (2) 争点(2)(本件発信者情報2-強制執行の権利濫用該当性)について(原告の主張)以下のとおり,被告が本件前訴判決のうち本件発信者情報2の開示を命じる部分に基づいて強制執行を行うことは,信義則に反し,権利濫用となる。 ア本件発信者情報2の価値 被告が本件侵害サイトA2の発信者に対して損害賠償請求権を行使するためには,①原告からIPアドレス及びタイムスタンプ(本件発信者情報2)の開示を受け,②これに基づき,経由プロバイダに対してその発信者情報の開示請求をし,発信者の住所,氏名等の開示を受ける必要がある。 しかし,経由プロバイダにおけるアクセスログの保存期間は極めて短い のであって,本件前訴の提起から既に3年もの期間が経過している現在において,被告が原告から本件発信者情報2の開示を受けたとしても,アクセスログがなお保存されているとは考えられず,発信者に対して損害賠償請求権を行使することは不可能である。 また,本件侵害サイトA2については,既に被告は原告からそのメール を受けたとしても,アクセスログがなお保存されているとは考えられず,発信者に対して損害賠償請求権を行使することは不可能である。 また,本件侵害サイトA2については,既に被告は原告からそのメール アドレス(本件発信者情報3)の開示を受けている。しかも,被告によれば,本件侵害サイトA2の運営者は「丙」として特定できているというのである。 したがって,本件発信者情報2は被告にとって必要のないもので,無価値である。 イ本件発信者情報2の開示可能性 本件発信者情報2のような通信履歴は,総務省の「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン」(平成29年総務省告示第152号)により限定的な記録のみが許されているのであって,保存義務がないばかりか,速やかな消去が求められている。本件発信者情報2は,上記ガイドラインを遵守している原告において,保存期間の経過により既に消去され ているものであって,この点につき被告からあらかじめ発信者情報の消去禁止の仮処分が申し立てられているといった事情もなかった。 したがって,本件発信者情報2の開示は,もはや不可能である。 ウ強制執行による原告の負担及び被告の満足本件発信者情報2は画像データのファイル1個に係る発信者の情報にす ぎず,その掲載期間及び使用料金についての被告の主張を前提としても,著作権の行使につき「受けるべき金銭の額に相当する額」(著作権法114条3項)は5万円程度であるから,被告が本件発信者情報2の開示を受け,発信者を特定して損害賠償請求をしたとしても,被告が得られる額はその程度にすぎない。 しかるに,本件前訴判決に基づく強制執行としてされた本件間接強制決定においては,原告に対して1日当たり1万円の間接強制金の支払が命じられ としても,被告が得られる額はその程度にすぎない。 しかるに,本件前訴判決に基づく強制執行としてされた本件間接強制決定においては,原告に対して1日当たり1万円の間接強制金の支払が命じられている。これにより,被告は上記損害賠償額を大きく超える過大な金銭的満足を得られてしまう一方,原告は,本件前訴判決に基づく強制執行により,永久に累積する間接強制金を負担し,強制執行による風評被害を 含め多大な損害を受けるのであって,その損害を後日回復することは困難である。 (被告の主張)本件前訴判決に基づく強制執行が権利濫用となるとの主張は争う。原告は,確定判決に基づく債務を全く履行しておらず,このような態度は容認される べきではない。また,以下のとおり,原告の主張する事情はいずれも理由が ない。 ア本件発信者情報2の価値について被告が本件侵害サイトA2の発信者を特定して損害賠償請求をするためには,本件発信者情報2が必要であるにもかかわらず,原告がこれを開示しないため,被告は発信者の特定に至っていない。 この点につき原告は,開示済みの本件発信者情報3によって発信者の特定が可能であると主張するが,原告から開示を受けたメールアドレスからは発信者の特定ができなかった。また,原告は,経由プロバイダにおけるアクセスログの保存期間が極めて短いと主張するが,アクセスログの保存期間はプロバイダによって異なる。 イ本件発信者情報2の開示可能性について原告は,本件前訴の控訴審において,本件発信者情報2を消去した旨の主張をしたものの,その立証をせず,本件前訴判決が維持されて確定したものである。 したがって,本訴において原告が本件発信者情報2の不保有を主張する ことは,本件前訴における主張の蒸し返しであって をしたものの,その立証をせず,本件前訴判決が維持されて確定したものである。 したがって,本訴において原告が本件発信者情報2の不保有を主張する ことは,本件前訴における主張の蒸し返しであって許されない。 ウ強制執行による原告の負担及び被告の満足について被告は写真の利用に係る料金表を公表しているところ,本件侵害サイトA2の発信者は,本件写真を少なくとも13か所で120日間にわたって利用したものであり,上記料金表に基づいて通常の利用料を算定した場合, 1か所当たり5万4000円として計70万2000円となる。これに加え,これまで被告において上記利用料を超える額で和解した事例が多数存在することなどを考慮すると,著作権侵害による著作権法114条3項所定の額としては,少なくとも上記利用料の2倍に当たる140万4000円が認められるべきである。 また,上記発信者は,13か所にわたって本件写真の無断改変,氏名表 示の削除をしており,このような著作者人格権侵害については,1か所あたり10万円として計130万円の慰謝料が認められるべきである。 したがって,本件発信者情報2が開示されないことによって,原告は,少なくとも270万4000円及び遅延損害金相当額の損害を受けていることになる。 そもそも,間接強制金を定めるに当たっては,不履行によって債権者に生じる損害額だけではなく,債務の性質等をも考慮して,執行裁判所が債務の履行を確保するために相当と認める額を定めるものである。大手プロバイダである原告が確定判決を無視しているという本件においては,不履行によって生じる損害額にとらわれることなく,確実に履行を強制し得る 額を定める必要がある。 以上によれば,本件間接強制決定の定める1日1万円という間接強制金の額 という本件においては,不履行によって生じる損害額にとらわれることなく,確実に履行を強制し得る 額を定める必要がある。 以上によれば,本件間接強制決定の定める1日1万円という間接強制金の額は,高額とはいえない。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(本件発信者情報1及び3-開示請求権の消滅の有無)について 原告は,本件前訴判決で本件発信者情報1及び3の開示を命じられ,その事実審の口頭弁論終結後である平成30年12月21日頃,被告に対し,これを開示したものであって(前記第2,1(3)),これにより,被告の原告に対する本件発信者情報1及び3の開示請求権は消滅した。こうした事情は,事実審の口頭弁論終結後に生じたものであり,明らかに請求異議事由に当たる。 したがって,本件前訴判決のうち本件発信者情報1及び3の開示を命じる部分に基づく強制執行の不許を求める原告の請求は,理由がある。 2 争点(2)(本件発信者情報2開示部分に基づく強制執行が権利濫用となるか)について(1) 確定判決に基づく強制執行であっても,当該判決で確定された権利の行使 が権利の濫用となるときは,請求異議の訴えによりその執行力の排除を求め ることができるものと解される(最高裁判所昭和37年5月24日第一小法廷判決・民集16巻5号1157頁参照)。 そして,強制執行は債権者の権利の実現方法であることからすると,強制執行による処分が,実現されるべき権利の趣旨・内容,債権者の権利保護の必要性,当事者双方の現在の状況その他の事情に照らし,当該権利の内容を 著しく超過し,債務者に過大な負担をもたらす場合には,当該強制執行による権利の行使は権利の濫用になるものと解するのが相当である。 (2) 本件についてこれをみるに,本件前訴判決は,プロ 内容を 著しく超過し,債務者に過大な負担をもたらす場合には,当該強制執行による権利の行使は権利の濫用になるものと解するのが相当である。 (2) 本件についてこれをみるに,本件前訴判決は,プロバイダ責任制限法4条1項に基づく発信者情報開示請求権として,原告に対し,本件発信者情報2の開示を命じたものである。 そして,プロバイダ責任制限法によれば,同法4条1項に基づく発信者情報開示請求権は,自己の権利を侵害されたことによる損害賠償請求権の行使のために必要がある場合その他の正当な理由があるときに生じるところ(同項2号),被告は,著作権及び著作者人格権侵害による損害賠償請求権の行使のために必要があるとして本件発信者情報2の開示を求めたのであるから (前記第2,1(2)ウ),被告による発信者情報開示請求の目的は,開示された発信者情報に基づいて発信者を特定した上で,当該発信者に対して著作権及び著作者人格権侵害による損害賠償請求を行うところにあるものというべきである。 したがって,本件前訴判決に掲げられた本件発信者情報2の発信者情報開 示請求権は,被告の被った著作権及び著作者人格権侵害について損害の賠償を受け,金銭的な満足を得るという終局的な目的を達成するための手段というべきであって,本来的には,損害賠償相当額の金銭的な満足を得ることで,その目的を一応達することになるものと解するのが相当である。 (3) そこで,被告の得られる損害賠償相当額について検討するに,被告は,本 件侵害サイトA2においては本件写真を複製・改変した画像データが13か 所で公表されているとして,①著作権侵害については,著作権法114条3項所定の額として140万4000円が認められ,②著作者人格権侵害については,慰謝料として130 た画像データが13か 所で公表されているとして,①著作権侵害については,著作権法114条3項所定の額として140万4000円が認められ,②著作者人格権侵害については,慰謝料として130万円が認められると主張する。 しかし,本件発信者情報2というのは,あくまでも本件侵害サイトA2のうち1か所のみで公表された画像データに係る発信者情報にすぎない。しか も,被告の主張する「13か所」というのは,原告によれば,単一の記事を複数カウントしたり,被告によるサイト内検索の結果により表示されたものをカウントしたりしたものにすぎないというのであるし,念のために検討しても,本件証拠上,氏名不詳者が上記画像データを2か所以上にアップロードし,もって公表したことをうかがわせる証拠は見当たらない。 そして,これを前提に,まず著作権侵害により得られる損害賠償額を算定するに,仮に上記画像データの公表期間を被告の主張どおり120日間とし,その通常の利用料を被告の主張するとおり被告の料金表(乙36)どおり算定するとしても,上記画像データの公表に係る通常の利用料は5万4000円でしかない。そして,被告の主張するとおり,本件においては通常の利用 料の2倍の額が著作権法114条3項所定の額として認められるとしても(ただし,なにゆえ2倍の額が認められることになるのか,被告の主張をみても判然としない。),著作権侵害により被告の得られる損害賠償金の額は,10万8000円にとどまる。 また,著作者人格権侵害により得られる損害賠償額を算定するに,仮に被 告の主張どおり画像データの公表1か所当たり10万円の慰謝料が発生するとしても,上記のとおり本件では1か所で公表されたにすぎないのであるから,著作者人格権侵害により被告の得られる損害賠 に被 告の主張どおり画像データの公表1か所当たり10万円の慰謝料が発生するとしても,上記のとおり本件では1か所で公表されたにすぎないのであるから,著作者人格権侵害により被告の得られる損害賠償金の額は10万円にとどまる。 したがって,本件発信者情報2に関し,被告の得られる損害賠償金の額は, 被告の主張によっても合計20万8000円にすぎないことになる。 (4) ところで,本件発信者情報2の開示請求権は,原告のみが有する発信者情報の開示を求めるといういわゆる非代替的作為請求権であって,その強制執行は間接強制によらざるを得ず,その場合,①遅滞の期間に応じて間接強制金の支払を命じる定期払の方式,②一定の期間内に履行がないときは直ちに一定額の間接強制金の支払を命じる一時払の方式,③両者を併用する方式の いずれかにより,債務の履行が促されることになる(本件間接強制決定においても,1日につき1万円という定期払の方式により履行が促されている。)。 もとより,間接強制における間接強制金は,その支払義務の累積又は発生という心理的負担により債務の履行を促すものであって,強制に必要な限りでは,間接強制金の額が現実の損害額を超えたからといって,直ちに間接強 制それ自体が無効となるものではない。しかし,本件においては,被告が本件発信者情報2に関して得られる損害賠償金の額は,被告の主張によっても合計20万8000円にすぎないのであって(上記(3)),原告に対し,これを大きく超える額の間接強制金を支払うよう命じることは,被告において実現されるべき権利の内容を著しく超過し,原告に過大な負担をもたらすもの といわざるを得ない。 (5) 加えて,本件においては,以下のような事情が存する。 アまず,原告は現在な 実現されるべき権利の内容を著しく超過し,原告に過大な負担をもたらすもの といわざるを得ない。 (5) 加えて,本件においては,以下のような事情が存する。 アまず,原告は現在なお本件発信者情報2の開示を履行していないが,これは,原告によれば当該情報を総務省のガイドラインに従って既に消去したためというのである。もとより,その消去の時期は本件前訴の控訴審の 口頭弁論終結時より前というのであって,それゆえこのことが直ちに請求異議事由に当たるものではないが(民事執行法35条2項参照),その真偽はともかくとしても,原告の主張する上記理由自体,特段不自然,不合理というほどのものではない(なお,本件前訴の控訴審では原告の上記主張が排斥されているが,これは,当該主張が自白の撤回に当たると判断され, なおかつ原告において反真実及び錯誤の主張立証をしなかったためという のであって,専ら原告の訴訟活動上の問題による。)。 イまた,上記(4)のとおり,本件発信者情報2の開示請求権の強制執行は間接強制によるべきところ,原告が本件発信者情報2を既に消去したものと現在でも主張し続けている以上,原告による当該情報の任意の開示というものはおよそ期待することができないのであって,その結果,本件におい ては,間接強制金の額が半永久的に累積し続け(定期払の場合),又は,被告による再度の間接強制の申立てが半永久的に可能となる(一時払の場合)という状況にある。 ウそもそも,本件発信者情報2の開示請求というのは,いわゆるコンテンツプロバイダである原告の有するIPアドレス及びタイムスタンプの開示 を求めるものであるところ,被告が発信者の氏名及び住所を知るためには,上記IPアドレス及びタイムスタンプに基づき経由プ テンツプロバイダである原告の有するIPアドレス及びタイムスタンプの開示 を求めるものであるところ,被告が発信者の氏名及び住所を知るためには,上記IPアドレス及びタイムスタンプに基づき経由プロバイダを特定し,当該経由プロバイダに対してそのアクセスログに基づき氏名及び住所の開示を請求する必要がある。 しかるに,原告によれば,アクセスログなどの通信履歴については一般 に6か月程度の保存が認められ,例外的に1年程度の保存が許容されているにすぎないというのであって,これに反する証拠等も見当たらない。そして,本件前訴の控訴審判決でも,既に「経由プロバイダが侵害サイトA2①〔判決注:本件侵害サイトA2〕に係るアクセスログを保存していない可能性が高い」と判断されていたのであって(甲2〔11頁〕),控訴審 の口頭弁論終結時(平成30年10月16日)から既に1年以上も経過した現時点においては,もはや,上記アクセスログが保存されている可能性は極めて少なくなったものといわざるを得ない。 そうすると,仮に被告が本件発信者情報2(IPアドレス及びタイムスタンプ)の開示を受けたとしても,被告がこれに基づいて発信者の氏名及 び住所を知ることはもはや期待し得ないのであって,現時点においては, 被告が本件発信者情報2の開示を受ける必要性があるのか,疑問を差し挟まざるを得ない。 (6) 以上によれば,本件においては,本件前訴判決のうち本件発信者情報2の開示を命じる部分に基づく強制執行によって課される間接強制金の額が一定額を超える場合には,その強制執行による処分は,実現されるべき権利の内 容を著しく超過し,原告に過大な負担をもたらすものであって,当該強制執行による権利の行使は権利の濫用になるものというべきところ,当該権利 合には,その強制執行による処分は,実現されるべき権利の内 容を著しく超過し,原告に過大な負担をもたらすものであって,当該強制執行による権利の行使は権利の濫用になるものというべきところ,当該権利の趣旨・内容,被告が本来得られる損害賠償金の額,当事者双方の現在の状況その他本件に現れた一切の事情を総合考慮すると,ここにいう一定額というのは,60万円をもって相当とするものというべきである。 したがって,本件前訴判決のうち本件発信者情報2の開示を命じる部分に基づく強制執行は,60万円を超える部分については,権利の濫用として許されない。 第4 結論よって,原告の請求は,本件前訴判決のうち,本件発信者情報1及び3の開示 を命じる部分の全部と,本件発信者情報2の開示を命じる部分のうち60万円を超える部分とにつき,それぞれ強制執行の不許を求める限度で理由があるからこの限度で認容し,これに応じて民事執行法37条1項により強制執行停止決定の認可及び取消しをすることとし,主文のとおり判決する。 札幌地方裁判所民事第5部 裁判長裁判官瀬孝 裁判官萩原孝基 裁判官河野文彦 別紙発信者情報目録 1 別紙侵害サイト目録記載の侵害サイトB2における,別紙写真目録記載の写真に係る情報の発信者の電子メールアドレス 2 別紙侵害サイト目録記載の侵害サイトA2①に係るIPアドレス及びタイムスタンプ 3 第2項の発信者の電子メールアドレス ①に係るIPアドレス及びタイムスタンプ 3 第2項の発信者の電子メールアドレス
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