- 1 -平成14年(ワ)第362号出し平ダム排砂差し止め等請求事件主文 被告は,原告飯野栽培組合に対し,2728万1294円を支払え。 原告飯野栽培組合のその余の請求及びその余の原告らの請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は,原告飯野栽培組合に生じた費用の3分の2と被告に生じた費用の50分の1を被告の負担とし,原告飯野栽培組合に生じたその余の費用と被告に生じた費用の50分の2を原告飯野栽培組合の負担とし,被告に生じたその余の費用をその余の原告らの負担とし,その余は各自の負担とする。 この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1請求 被告は,出し平ダムにおいてダム底に堆積しているヘドロその他の微細泥を別紙1記載の斜線部分の海域に流入させてはならない。 被告は,別紙1記載の斜線部分の海域にある黒色及び黒褐色のヘドロその他の微細泥を除去せよ。 被告は,原告らに対し,別紙2記載の各請求額を支払え。 訴訟費用は,被告の負担とする。 3項につき仮執行宣言第2事案の概要 本件は,原告飯野栽培組合(以下「原告組合」という。)及び同Aを除く原告ら並びにB(以下「原告組合を除く原告ら」という。)は,いずれも黒部川河口以東の沿岸海域(別紙1記載の斜線部分の海域。以下「本件海域」という。 )で従前より刺し網漁業を営んでいる者であり,原告組合は本件海域でワカメ養殖業を営んでいた者であるが,原告ら(ここで「原告ら」とは,原告Aを除く原告ら及びBのこと指すが,原告AはBの訴訟承継人であるから,以下では- 2 -いずれも区別せずに「原告ら」とする。)の漁獲量(重量)ひいては漁獲高(金額)が減少したのは被告が黒部川に設置した出し平ダムの排砂の実施により本件海域の魚類及びワカメの生育環境が悪化 は- 2 -いずれも区別せずに「原告ら」とする。)の漁獲量(重量)ひいては漁獲高(金額)が減少したのは被告が黒部川に設置した出し平ダムの排砂の実施により本件海域の魚類及びワカメの生育環境が悪化して魚類の減少及びワカメの不作を来したためであると主張して,被告に対し,①不法行為(民法717条又は709条)に基づき損害賠償の支払を(原告らの各請求額は別紙2記載のとおり),②原告らの漁業行使権に基づき,(ア)妨害予防としてヘドロその他の微細泥の本件海域への流入禁止(以下「排砂の差止め」という。),及び,(イ)妨害排除として本件海域内のヘドロその他の微細泥の除去(以下「ヘドロの除去」という。)を求めた事案である。 前提となる事実 当事者( )ア原告組合を除く原告らは,本件海域において,各漁業協同組合が有する共同漁業権により,漁業を営む権利(漁業行使権)を有し,主に底刺し網による漁業を営む者であり,各自の漁業を営む海域及び行使する漁法は,別紙3に記載のとおりである。原告組合は,昭和62年に結成され,旧飯野漁業協同組合(現入善漁業協同組合)が有する第1種区画漁業権により,漁業行使権を有し,同年ころからワカメの養殖を開始したが,平成10年ころには養殖を廃止した(争いのない事実)。Bは,平成17年11月18日に死亡し,その妻である原告Aが相続した(弁論の全趣旨)。 イ被告は,出し平ダムを設置し,その管理をしている者である(争いのない事実)。 黒部川の流域及びダム(争いのない事実)( )ア黒部川の流域は,その主要な部分を占める山岳地帯では,年間降水量が4000ミリメートルを超える我が国有数の多雨多雪地帯である。また,その山々は,第三紀以降に断層活動を伴い急激に隆起して形成されたもので,急峻である上,基盤がもろく保水能力の低い花 は,年間降水量が4000ミリメートルを超える我が国有数の多雨多雪地帯である。また,その山々は,第三紀以降に断層活動を伴い急激に隆起して形成されたもので,急峻である上,基盤がもろく保水能力の低い花崗岩類等でできている- 3 -ため非常に崩れやすく,上流部の崩壊面積比率は約5パーセントで(通常は,1から2パーセント),年間約100万立方メートルの土砂が流出しており,倒木や落ち葉などの流出も多量である。黒部川は,平均勾配が40分の1という我が国有数の急流河川であり,また,流域の人口が少ないため,出洪水時を除いては清流であり,鮎の遡上もある。 イ被告は,昭和60年,黒部川の河口から約26キロメートル上流の標高約270メートルの場所に出し平ダムを完成させ,その供用を開始した。 このダムは,ダム湖への土砂の堆積によるダム機能の低下を防ぐとともに,下流ないし海域への土砂の供給を自然なものに近付けて環境への負荷を低減することを目的として,ダム湖底に堆積した土砂を排出する排砂ゲートを堤体に持つ排砂式ダムである。排砂式ダムの排砂の方法は,ダム湖の湖水を全部排出した上,湖底の表面を流れるようになった水の流勢を利用して湖底に堆積した土砂を排砂ゲートから排出するというものである。 なお,出し平ダムの下流約7キロメートルの標高約200メートルの場所に,国(国土交通省)は,平成13年,宇奈月ダムを完成させ,その供用を開始したが,このダムも,出し平ダム同様の排砂式ダムである。 また,黒部川には,出し平ダムよりさらに約32キロメートル上流の標高約1300メートルの場所に黒部ダムが存在し,黒部ダムと出し平ダムとの間には,小屋平ダムと仙人谷ダムの二つのダムがある。これらの3つのダムも被告が設置・管理するものであるが,戦前に完成した小屋平ダムと仙人谷ダムは,ダム湖への土 ダムが存在し,黒部ダムと出し平ダムとの間には,小屋平ダムと仙人谷ダムの二つのダムがある。これらの3つのダムも被告が設置・管理するものであるが,戦前に完成した小屋平ダムと仙人谷ダムは,ダム湖への土砂の堆積が著しい。 排砂とこれに関連する事実の経過(争いのない事実)( )ア被告は,平成3年12月,出し平ダムについて,供用開始以来6年後にして初めての排砂を行ったところ,黒いヘドロ状となったダム湖底の堆積物が黒部川を流下し,黒部川の水とその河口付近の海水を濁らせた。この濁りのため,漁業者等から排砂を中止するよう求められて,被告は46万- 4 -立方メートルで排砂を中止した。 イ平成4年9月,周辺自治体の長,学者,漁業関係者などの委員からなる「黒部川出し平ダム排砂影響検討委員会」が設置され,同検討委員会の判断により,平成6年2月,試験排砂8万立方メートルが実施された。 ウ平成7年6月,上記検討委員会の提言により,「出し平ダム排砂影響調査委員会」が設置され,同年7月,試験排砂1.6万立方メートルが実施されたが,その直後の同月11日から黒部川流域で集中豪雨があり,同月26日から29日にかけての出し平ダム湖の堆積測量の結果,343万立方メートルもの大量の土砂が出し平ダム湖に流れ込んだことが判明したため,富山県,建設省,林野庁,流域市町及び被告からなる「黒部川災害復旧対策関係機関連絡調整会議」が設置され,この会議において二次災害防止の目的で,緊急排砂を実施することが合意され,同年10月に172万立方メートル,平成8年6月に80万立方メートル,平成9年7月に46万立方メートルの計3回の緊急排砂が実施された。 エ以上の試験排砂及び緊急排砂の際には,被告は河川・海域での環境影響調査を実施しており,その結果を踏まえ,上記連絡調整会議は,「自然の 9年7月に46万立方メートルの計3回の緊急排砂が実施された。 エ以上の試験排砂及び緊急排砂の際には,被告は河川・海域での環境影響調査を実施しており,その結果を踏まえ,上記連絡調整会議は,「自然の出水状態に近づけて土砂を排出するための出洪水時の排砂方法がほぼ確立された」として平成9年11月に解散し,上記排砂影響調査委員会も平成10年2月に解散し,同年3月,その後に行う排砂の影響を評価・検討するための「黒部川ダム排砂評価委員会」が発足した。 オその後,同年6月に34万立方メートル,平成11年9月に70万立方メートルの各排砂が実施された。 カ被告は,平成4年以降,本件海域で,底質調査を行い,平成12年5月から6月にかけては,本件海域の53地点で底質調査を実施した。 キ平成13年,上記のとおり,国(国土交通省)は,出し平ダム下流に宇奈月ダムを完成させ,供用を開始した。 - 5 -ク同年6月,連携排砂59万立方メートルが実施された。連携排砂とは,出し平ダムからの排砂がそのまま宇奈月ダムを通過して下流ないし海へ流下するように,出し平ダムと宇奈月ダムとが連携して排砂を行うことであり,以後の排砂は,常に連携排砂として行われることとなった。 ケ同月,原告ら漁業者は,出し平ダム及び宇奈月ダムの排砂により被害を受けていると主張して,排砂方法の改善検討や被害の補償などを求めて,被告及び国を被申請人(相手方)として,富山県公害審査会に調停を申請した。 コ同年11月,被告は,平成12年に調査した53地点のうち26地点に原告らの一部を含む漁業関係者の希望する8地点を加えた34地点で底質調査を実施した。その後,被告は,現在に至るまで,本件海域の20地点で,底質調査を継続している。 サ平成14年7月,連携排砂6万立方メートルが実施された。 シ同年11月 地点を加えた34地点で底質調査を実施した。その後,被告は,現在に至るまで,本件海域の20地点で,底質調査を継続している。 サ平成14年7月,連携排砂6万立方メートルが実施された。 シ同年11月,富山県公害審査会における調停は不成立により打ち切られ,原告らは,同年12月,本件訴訟を提起した。 スその後,平成15年6月に9万立方メートル,平成16年7月に28万立方メートル,平成17年6月から7月にかけて51万立方メートル,平成18年7月に24万立方メートルの各連携排砂が実施されている。 セなお,以上に示した平成15年度以前の排砂量については,前年12月に測量した時点でのダム湖底の堆積量と当該年度の排砂直後の時点での堆積量の差により算出しており,前年12月から当年排砂時までの間に堆積した土砂量(その量はいずれも不明である。)は算入されていない。 本件海域の環境(争いのない事実)( )ア本件海域は,原告らが所属する漁業協同組合が漁業権を有し,原告らがそこで漁業を営む海域であり,その範囲は,別紙1記載のとおり,黒部川河口付近から朝日町宮崎地区沿岸部までの東西の長さが約18キロメート- 6 -ル,幅(海岸から沖合まで)が3キロメートル強から4キロメートル弱である。黒部川河口付近では,西から東への海流があることが多いため,排砂や出洪水による土砂(有機物を含む。)は,黒部川河口以東の本件海域の方向に拡散することが多い。 イなお,本件海域からその西側の富山湾内にかけては,海岸から沖合方向へ比較的急角度で深度を増す海域であるが,特に黒部川河口西側に位置する黒部市,魚津市及び滑川市などの沿岸部では,その傾向が顕著である。 本件海域の大部分は水深約300メートルまでの海域であり,一部には水深が400メートルを超える部分もあるが,原告組合を除く に位置する黒部市,魚津市及び滑川市などの沿岸部では,その傾向が顕著である。 本件海域の大部分は水深約300メートルまでの海域であり,一部には水深が400メートルを超える部分もあるが,原告組合を除く原告らが行う底刺し網漁は,海底に刺し網を仕掛ける漁法であるため,水深100メートル前後より浅い海域で行われている。原告組合によるワカメ養殖は,黒部川河口から約2.5キロメートル東方の入善町飯野地区の沖合約300メートルないし約500メートル,水深約10メートルないし約20メートルの海域(以下「本件養殖場」という。)で行われていた。 ウ本件海域では,秋から冬,特に冬期には,北寄りの季節風を受けて波浪が高く,春から夏にかけては比較的穏やかである。 エ本件海域には幾つかの海底渓谷が存在し,特に黒部川河口に近い側に多い。 漁業補償契約の締結( )被告は,関係漁業協同組合(原告らが所属していた飯野,吉原,横山,赤川,泊及び宮崎浦の各漁業協同組合のほか,境,黒部及び石田の計9つの各漁業協同組合(以下「9漁協」という。))を代理する富山県漁業協同組合連合会(以下「県漁連」という。)との間で交渉を開始し,平成4年10月,県漁連と漁業補償契約を締結した。なお,被告は,平成6年8月,平成8年9月にも同様に,県漁連と漁業補償契約を締結している(争いのない事実。 以下,3つの漁業補償契約を合わせて「本件補償契約」という。)。 - 7 -本件補償契約等の内容は,次のとおりである。 ア県漁連及び9漁協と被告は,平成4年10月22日,被告が平成3年12月に実施した出し平ダムからの排砂に伴う漁業被害及び漁場価値低下に対する補償について,以下のとおりの契約を締結した(乙A5の1)。 第1条甲(県漁連及び9漁協)及び乙(被告)は,漁業被害補償を金5億円也とする。ただ ダムからの排砂に伴う漁業被害及び漁場価値低下に対する補償について,以下のとおりの契約を締結した(乙A5の1)。 第1条甲(県漁連及び9漁協)及び乙(被告)は,漁業被害補償を金5億円也とする。ただし,平成4年7月24日付け甲乙間で締結した契約書により,既に支払済みの直接経費(679万5000円)は,この金員に含めるものとする。 乙は,本契約締結後速やかに,前項の漁業被害補償から既支払済みの直接経費を差し引いた金4億9320万5000円也を甲の指定する銀行口座に振り込むことによって,甲に支払うものとする。 第2条甲及び乙は,本契約の締結をもって,乙が平成3年12月に実施した出し平ダムからの排砂に伴う補償問題が解決したことを双方確認するものとする。 第3条本契約の締結に関し,万一甲の構成員から異議求償等の申出があった場合は,すべて甲の責任において解決を図るものとする。 イ県漁連及び9漁協と被告は,同日,上記契約に附帯して,以下のとおりの覚書を取り交わした(乙A5の2)。 第1条乙(被告)は,契約書第1条に定める平成3年12月に実施した出し平ダムからの排砂に伴う漁業被害に関連し,当該漁業被害に係る漁業振興対策として,金3億円也を本覚書交換後速やかに,甲(県漁連及び9漁協)の指定する銀行口座に振り込むことによって甲に支払うものとする。 第2条甲は,富山県の黒部川出し平ダム排砂影響検討委員会に参加するものとし,誠意をもって審議するものとする。 甲及び乙は,甲の乙に対する平成4年1月13日付け3富漁発第12- 8 -2号「黒部川流域における排砂流出について」の問題が解決したことを確認するものとする。 3以下略第3条本覚書の交換に関し,万一甲の構成員から異議求償等の申出があった場合は,すべて甲の責任において解決するものとする。 る排砂流出について」の問題が解決したことを確認するものとする。 3以下略第3条本覚書の交換に関し,万一甲の構成員から異議求償等の申出があった場合は,すべて甲の責任において解決するものとする。 ウ県漁連及び9漁協と被告は,平成6年8月29日,同年2月に実施された出し平ダムからの試験排砂に伴う漁業補償及び漁業振興対策に関し,以下のとおりの契約を締結した(乙A6)。 第1条乙(被告)は,甲(県漁連及び9漁協)に対し,試験排砂に伴う漁業補償及び漁業振興対策として,金1億3500万円也を支払うものとする。 乙は,本契約書締結後速やかに甲の指定する銀行口座に振り込むことにより,支払うものとする。 第2条甲及び乙は,本契約書の締結により,乙が平成6年2月に実施した出し平ダムからの試験排砂に伴う漁業補償及び漁業振興対策がすべて解決したことを双方確認するものとする。 第3条本契約書の締結に関し,万一甲の構成員から異議求償等の申出があった場合は,すべて甲の責任において解決するものとする。 エ県漁連と被告は,平成8年9月27日,被告が実施する,平成7年7月の大出水に起因した復旧対策及び出し平ダムからのダム排砂(以下「緊急排砂」という。)並びに,出し平ダムからの恒常排砂(以下「通常排砂」という。)によって生じる,県漁連の海面漁業への漁業被害に係る漁業補償等に関し,以下のとおりの契約を締結した(乙A7の1)。 第1条乙(被告)は,甲(県漁連)に対し,緊急排砂並びに通常排砂によって生ずる漁業補償等を行うこととし,甲,乙誠意をもって協議の上,決定する。 - 9 -第2条乙の排砂は,次によるものとし,甲はその実施に協力する。 (1)緊急排砂富山県が設置した「黒部川災害復旧対策関係機関連絡調整会議」の協議結果を踏まえた内容により甲と乙は誠意をもっ - 9 -第2条乙の排砂は,次によるものとし,甲はその実施に協力する。 (1)緊急排砂富山県が設置した「黒部川災害復旧対策関係機関連絡調整会議」の協議結果を踏まえた内容により甲と乙は誠意をもって協議し実施する。 (2)通常排砂「出し平ダム排砂影響検討委員会」の提言(平成7年4月24日)及び「出し平ダム排砂影響調査委員会」の協議結果を踏まえた内容により実施する。 乙は,環境調査を実施することとし,その調査内容については,甲,乙誠意をもって協議し,定型化等する。 第3条甲及び乙は,この契約書の締結をもって,緊急排砂及び通常排砂に係る漁業補償等がすべて解決したことを確認する。 第4条この契約書の締結に関し,万一甲の構成員から異議求償等の申出があった場合は,すべて甲の責任と負担において解決するものとする。 オ県漁連と被告は,同日,上記契約に基づき,以下のとおりの覚書を取り交わした(乙A7の2)。 第1条乙(被告)は,緊急排砂並びに通常排砂に係る漁業補償等として,甲(県漁連)に対し,次のとおりの金員を支払う。なお,支払は,甲の指定する銀行口座に振り込むことにより,支払う。 (1)この覚書交換後速やかに金31億2000万円也(2)出し平ダムを運用する限り,平成9年以降,毎年9月末までに,金7000万円也 前項金員は,理由の如何を問わず,一切変更しない。 第2条甲は,前条の金員をもって,漁業補償措置及び漁業回復のための振興対策を実施する。 - 10 -第3条甲及び乙は,この覚書の交換をもって,緊急排砂及び通常排砂に係る漁業補償及び漁業回復のための振興対策に関する件がすべて解決したことを確認する。 カ県漁連と被告は,同日,上記金員を,県漁連が以下のとおり取り扱うとする確認書を交換した(乙A7の4)。 漁業補償措置分(ア)一 回復のための振興対策に関する件がすべて解決したことを確認する。 カ県漁連と被告は,同日,上記金員を,県漁連が以下のとおり取り扱うとする確認書を交換した(乙A7の4)。 漁業補償措置分(ア)一時金4億8000万円也漁業回復のための振興対策分(イ)一時金25億円也年金平成7年度以降毎年7000万円也キ県漁連と被告は,同日,上記一時金25億円が,平成10年度以降の通常排砂分であることを確認した(乙A7の5)。 補償金等の受領(争いのない事実)( )原告らは,それぞれ別紙3記載のとおりの補償金等を受領した。 争点 排砂と原告らの損害との因果関係と被告の責任(争点1)( ) 原告らの損害(争点2)( ) 本件補償契約の効力が原告らに及ぶか(争点3)( ) 排砂の差止め等の必要性(争点4)( ) 争点に対する当事者の主張 争点1(排砂と原告らの損害との因果関係と被告の責任)について( )ア原告らの主張排砂が魚類等に影響を及ぼす機序(ア)a出し平ダム湖には,上流からカオリナイトやスメクタイト等の粘土類,倒木や落ち葉等の有機物が大量に流入して沈殿・堆積する。 また,ダム湖底に沈殿・堆積したカオリナイトの一部は,その機序- 11 -の詳細は不明であるが,湖底の環境下(微生物の存在や水圧等)で短期間(数年単位)でスメクタイトに変化するため,湖底のスメクタイトの総量は増加する。 ダム湖に流入する倒木・落ち葉などの有機物は,ダム湖底及びその上流域で,嫌気的・好気的に分解されてダムのない自然状態よりも低分子化された状態(半分解状態)で堆積する。また,何でも抱え込む性質を持つスメクタイトは,このような有機物の一部を抱え込む。 以上により,ダム湖底においてはスメクタイト(一部はダム湖底でカオリナイ 分子化された状態(半分解状態)で堆積する。また,何でも抱え込む性質を持つスメクタイトは,このような有機物の一部を抱え込む。 以上により,ダム湖底においてはスメクタイト(一部はダム湖底でカオリナイトから変化したもの)やカオリナイト等の粘土類,半分解状態の有機物及びスメクタイトに抱え込まれた半分解状態の有機物が堆積する。 b出し平ダムの排砂(平成13年以降は,出し平ダムと宇奈月ダムとの連携排砂)によって,ダム湖底に堆積したカオリナイトやスメクタイト等の粘土類及び有機物は,一斉かつ大量に黒部川を流下し,河口から富山湾に流出し,潮流に乗って本件海域に浮遊し,やがて沈殿・堆積する。特に,刺し網対象魚の好漁場である海底渓谷の谷筋や海底のくぼみ部分に多く堆積する。 c本件海域のうち原告らが操業していた区域はもともと砂質であったが,上記のとおり排砂による粘土類の沈殿・堆積が多いために泥質化した。国土地理院作成の沿岸海域地形図などから初回排砂前に底質が砂質であったと認められる場所の中には,現在の調査で,シルト質ないし泥質に変化したり,ヘドロが溜まっていると認められる場所がある。泥質化は,浅海域(水深20メートル以浅の海域)のみならず,中深海域(水深20メートル以深100メートル以浅の海域)にも見られる。ヒラメは,泥場ではなく,きれいな砂あるいは小砂利,礫等が点在する場所を好んで生息するため,泥質化により本件海域に居着- 12 -かなくなった。 d堆積した後に海流や波浪などで舞い上がった粘土類は,ワカメなど海藻類に付着して光合成や海水との物質交換を阻害したり,岩石などの表面に付着して海藻の胞子の着生を阻害すること等によってその発育を阻害する。また,海藻類の減少は,漁獲対象魚の食餌となるプランクトンや小魚を寄りつかなくさせ,漁獲対象魚の生育環 害したり,岩石などの表面に付着して海藻の胞子の着生を阻害すること等によってその発育を阻害する。また,海藻類の減少は,漁獲対象魚の食餌となるプランクトンや小魚を寄りつかなくさせ,漁獲対象魚の生育環境も悪化させる。 e以上のとおり,海底の泥質化により,本件海域(そのうち特に好漁場である海底渓谷の谷筋や海底のくぼみ部分)では,ヒラメ等魚類の生育環境・生息環境が悪化し,漁獲対象魚は他の漁場に回避し,散逸するとともに,ワカメの発育は阻害され,良質なワカメを収穫できなくなっている。しかも,以上のような機序による本件海域の漁業環境の悪化は,古い排砂の影響の上に新しい排砂の影響が加わって,年々累積的なものとなっている。これが原告らの漁獲高の減少を生じさせたほか,原告組合の養殖ワカメの品質低下・収穫量減を来し,ワカメ養殖自体を困難にした。被告は,本件海域の水質・底質の測定結果が問題ない数値を示していると主張するが,従来の測定は,限られた地点で,限られた範囲でしか行われておらず,原告らがヘドロが堆積していると指摘している地点の重点的な調査は行われていない。 漁獲量から見た排砂の影響(イ)a排砂が行われて以降,本件海域での漁獲量が減少していることは,別紙4記載の原告らの漁獲数の変化からも認められるとおりである。 b黒部川河口を境とする東西の地域のヒラメの漁獲量を比較すると,平成6年までは近似しており,富山県全体の増減傾向とも類似していたが,平成7年以降大量排砂が継続して行われるに及び,漁獲量に顕著な差が生じ,河口西側海域では同年以降ヒラメ漁獲量が年々上昇し,- 13 -これは富山県全体の傾向とも概ね一致するのに対し,本件海域は平成13年に若干上昇したもののほぼ横ばい傾向が続き,平成15年からの3年間は年々減少しており,平成10年以降は全体と 昇し,- 13 -これは富山県全体の傾向とも概ね一致するのに対し,本件海域は平成13年に若干上昇したもののほぼ横ばい傾向が続き,平成15年からの3年間は年々減少しており,平成10年以降は全体として減少傾向にある。その差は,平成18年までにはさらに拡大している。これは,本件海域から他の海域へヒラメ等が移動していることを示している。 c本件海域での定置網による漁獲が減少していないのは,上記のとおり海底の底質が悪化したため,魚類が,本件海域を移動する際に,海底及び海底近くを避けて行動する結果,定置網にかかると推測される。 原告らの主に行う底刺し網漁法では,排砂による底質の悪化による影響を直接に受けている。 d原告C及び同Dが保管している販売仕切書(魚市場での販売量・販売価格を記録した書類)の集計・分析によれば,大量の排砂が行われるとしばらくして(数ヶ月から1年以上して)漁獲量が減少し,排砂が行われないとある程度回復するという関係があること(甲A13),排砂直後には,短期的な漁獲量の減少が生じることがわかる。また,原告Cについては,平成6年以降,漁獲高の顕著な減少がある。 e漁業統計から排砂の影響を読み取れないとする被告の主張は争う。 漁業統計からも本件海域での水産資源量の減少が他の海域より著しいことがわかる。 f富山県の漁業統計である「富山県水産業の動き」(甲A56の1ないし9),「富山県漁業の動き」(甲A57の1ないし12)によれば,クルマエビについては「飯野」地域の漁獲量が,ガザミ類については「横山」地域の漁獲量が,平成3年の初回排砂以降に減少したことが見て取れる。 g原告組合のワカメの収穫高が減少し,原告組合がワカメ養殖をやめたのは,上記のとおり,ワカメの品質低下と収穫量減によるもので,- 14 -被告の主張するような輸 降に減少したことが見て取れる。 g原告組合のワカメの収穫高が減少し,原告組合がワカメ養殖をやめたのは,上記のとおり,ワカメの品質低下と収穫量減によるもので,- 14 -被告の主張するような輸入ワカメやブランド間競争によるものではない。 不法行為責任(ウ)出し平ダムは,上記のように,排砂ゲートを有し,ダム上流から流下する有機物及び粘土鉱物を一定期間堆積させ,それを下流に放流する運用を予定していたものであるから,これら堆積物が下流及び流入海域の環境に影響を与えないような構造を持たせるか,又は,これら一定期間を経過した堆積物が下流及び海域に流入しないような保存(運用)をし,あるいは,排砂するに際して,下流及び流入海域の環境に悪影響を与えないことを十分確認し,悪影響を与えないことが確実と判断された上で排砂を実施すべき義務があったのに,これを怠り,原告らが漁業行使権を有する本件海域の環境に有害なヘドロを流入させて海域に堆積させ,又は海藻に付着させて,原告らに損害を被らせた。 したがって,出し平ダムの設置及び保存に瑕疵があり,また,被告が上記注意義務を怠り,原告らの上記漁業行使権を侵害して損害を生じさせたものであるから,被告には民法717条(工作物責任)又は民法709条により損害賠償責任がある。 イ被告の主張排砂が魚類等に影響を及ぼす機序(ア)a出し平ダム湖に,スメクタイトやカオリナイト等の粘土類,倒木や落ち葉等の有機物が上流から流入し,沈殿することは認めるが,スメクタイトがダム湖底で短期間に生成されるとする点は否認する。ダム湖の上流側から堤体に近づくに従って堆積物中のカオリナイトが減り,スメクタイトが増えるとの調査結果は,堤体近くで水の流速が穏やかになることから,粒径がカオリナイトより微細で沈降しにくいスメクタイトが堤体近 側から堤体に近づくに従って堆積物中のカオリナイトが減り,スメクタイトが増えるとの調査結果は,堤体近くで水の流速が穏やかになることから,粒径がカオリナイトより微細で沈降しにくいスメクタイトが堤体近くで沈降するという粒径選別が生じるためであり,ダ- 15 -ム湖でスメクタイトが生成されるものではない。 b出し平ダムからの排砂は,現在では,自然の出洪水時に時期を合わせて実施しており,これによる環境影響は,一過的な懸濁物質の浮遊による漁業への影響は避け難いとしても,それはダムがない場合の自然な出洪水と大きく異なるものではない。また,排砂による土砂や有機物のすべてが本件海域に沈殿・堆積するものではなく,粘土類のような微粒子や比重の軽い有機物は,海水より比重の軽い河川水とともに海面付近を流れる沿岸流によって運ばれ,その多くは沖合まで流れていくと考えるのが自然であるし,本件海域に沈殿・堆積する量は,河口正面の防砂堤のような特殊な場所以外では,わずかである。 c本件海域の海底のうち砂質であった場所が排砂により泥質化したとする原告らの主張は否認する。 本件海域には,初回排砂以前から泥質の場所が相当程度存在した(乙B7の1004頁の第12図)。上記のとおり,排砂により海底に堆積する微細泥の量はわずかであり,かつ毎年一時的な堆積と流失を繰り返し年々堆積し続けるものでもないことから,現在泥質の場所は,排砂以前から泥質であったと考えるのが合理的である。 黒部川河口より西側の富山湾内では,東側の本件海域以上に泥質の海底が多いのに,原告らの主張によればヒラメ等魚類は豊富だというのであるから,このような原告らの主張を前提にすると,泥質あるいは粘土質であることが理由で漁獲量が減少した旨の原告らの主張は理由がない。 d海底に堆積している粘土類(泥)が冬季の荒天 豊富だというのであるから,このような原告らの主張を前提にすると,泥質あるいは粘土質であることが理由で漁獲量が減少した旨の原告らの主張は理由がない。 d海底に堆積している粘土類(泥)が冬季の荒天時などの潮の流れなどで舞い上がることがあるが,上記のとおり排砂による粘土類の堆積はわずかだから,その舞い上がった粘土類(泥)は,排砂によって堆積したものではない。原告組合は,11月に種ワカメの植付けを行い,- 16 -翌年4月にこれを収穫していたということであるが,現在の排砂は,概ね6月ないし8月に実施されており,海水の状態は排砂1日後には元に戻ること(乙A29の本文7頁)から,ワカメが排砂の影響を受けることはない。仮にワカメの成育中に排砂が行われるとしても,本件養殖場から北西方向の近くにある地点では,排砂中,いずれの水質項目についても排砂実施前とほとんど変わらない数値を示していることから,排砂がワカメの養殖に直接影響を及ぼすこともない。 e排砂により排出されたダム湖底の堆積物の変質の原因・機序及び変質に伴う生物等への影響については,十分解明されるには至っていない。しかし,前記のとおり,本件海域に存在している微細泥(粘土類)及び有機物の全てが出し平ダム由来のものであるわけではない。また,排砂に由来する微細泥及び有機物が本件海域に存在しているとしても,以下のとおり,それらは水生生物等に特段の影響を与える状態にない。すなわち,被告は,今日までに数多くの環境影響調査を実施しており,排砂中の水質調査だけでなく,定期的な調査(毎年5月,9月,水生生物についてはさらに11月も追加)として,水質調査,底質調査(20地点),水生生物調査を実施し,中長期的な観点より本件海域の環境モニタリングを行い,排砂の影響評価に努めているが,いずれの調査においても ついてはさらに11月も追加)として,水質調査,底質調査(20地点),水生生物調査を実施し,中長期的な観点より本件海域の環境モニタリングを行い,排砂の影響評価に努めているが,いずれの調査においても,特に問題となるような現象は認められていない。これらの調査地点は,平成6年2月の試験排砂における濁水拡散状況の調査結果を含む一連の調査結果や海流の状況などを勘案して選定しており,また,平成12年5月から6月の調査では,関係漁業協同組合と協議して調査地点を定めて実施しており,平成13年11月の調査では,原告らの一部を含む漁業関係者の要望地点8地点を含めて底質調査を実施している。 漁獲量から見た排砂の影響(イ)- 17 -a北陸農政局編集の漁業統計(乙A10の1ないし24,乙A11の1ないし4,乙A12の1ないし4,乙A13の1ないし4)によると,ヒラメの漁獲量について,まず,昭和56年から排砂が実施される平成3年までの間でも,ヒラメの漁獲量には大きな変動がある。次に,排砂による影響が比較的少ないと考えられる黒部市の漁獲量と,本件海域である入善町,朝日町の漁獲量の推移を比較しても,特徴ある差異は見出せない。平成3年以降の入善町,朝日町のヒラメの漁獲量の増減傾向は,富山県全県の漁獲量の増減傾向と概ね合致しており,排砂の影響を見出すことはできない。特に平成14年には,黒部川河口に近い入善町より遠い朝日町の方が減少している。また,富山県全県の漁獲量の動向は,近隣の新潟県,石川県,福井県と同様の傾向が認められ,日本海北部地域全体に共通した傾向といえるので,この地域全体の漁獲量に影響を及ぼす要因によって変動していると考えるのが合理的であり,排砂との関連性を認めることはできない。 b原告らは,ヒラメが海底や海底近くを嫌うため,定置網に入るものが で,この地域全体の漁獲量に影響を及ぼす要因によって変動していると考えるのが合理的であり,排砂との関連性を認めることはできない。 b原告らは,ヒラメが海底や海底近くを嫌うため,定置網に入るものが増えたと推論するが,魚種別・漁業種類別統計では,富山県のヒラメは,「小型定置網」,「大型定置網」で増加して「その他の刺し網」で減少するという関連は見出せない。また,漁業地区別・漁種別統計でも,漁獲量(全魚種)は,朝日町,入善町,黒部市のいずれにおいても,「定置網」で増加して「その他刺し網」で減少するという関連は見出せない。 c別紙4記載の原告ら主張の漁獲数の根拠は,ほとんどが各原告の記憶によるもので,客観的証拠に基づくものではないから,因果関係を判断する資料とすることはできない。なお,仕切書の集計に基づく原告Cのヒラメの漁獲数は,平成3年12月の初回排砂以降,平成8年ころまで大幅な減少は見られず,むしろ増えている。 - 18 -dワカメは,全国的に収穫量が減少してきており,その原因として,中国等から安価な乾燥ワカメが輸入されていること等が考えられる。 原告組合によるワカメの養殖は,その量からみて試験的に行っていたものではないかと推測されるところ,ブランド間競争もあり,採算面で事業化することができなかったため,廃業に至ったものではないかと思われる。 被告の不法行為責任(民法717条及び709条)は争う。 (ウ) 争点2(原告らの損害)について( )ア原告らの主張原告ら各自の損害は,漁獲高の減少(消極損害)及び漁獲高の減少を(ア)防止・回復するために生じた増加費用(積極損害)であり,その明細は別紙3記載のとおりである。 被告は,漁獲高の減少を直ちに損害として主張することは許されない(イ)と主張するが,原告らは,本件のような紛争が 復するために生じた増加費用(積極損害)であり,その明細は別紙3記載のとおりである。 被告は,漁獲高の減少を直ちに損害として主張することは許されない(イ)と主張するが,原告らは,本件のような紛争が生じることを予想していなかったため,過去の出漁日数,販売魚種,販売方法,魚の相場などの資料を保管してこなかったし,原告らは各自の持っている条件の中で最大の漁獲高を挙げられるように,その都度最適と考えられる漁場や漁法を選択して操業上の努力を重ねてきたのだから,漁獲高の減少を損害として主張することはやむを得ないし,合理性もある。なお,各原告によって損害発生年次が異なるのは,各原告の漁場によって,海流や海底地形が異なることや,魚種によって影響の出る早さや時期が異なるためと考えられ,これが不合理であるとか矛盾があるとする被告の主張は争う。 ワカメの損害(ウ)a水揚高表(原告組合分)(甲C4)は,原告組合が栽培したワカメの水揚金額を,原告組合所属の漁業協同組合において証明した書類であり,原告組合が,実際の額以上の水揚高を漁業協同組合に申告する- 19 -理由はないから,水揚高表(原告組合分)の金額は,実際の水揚高を反映している。 b原告組合によるワカメ養殖の経費は,入善町から支払われていた年30万円の補助金でまかなっていた。 c原告組合は,被告の不法行為に基づく損害賠償請求を行っているのであり,公共補償の際に用いられる損失補填額算定基準を引用して不法行為に基づく損害賠償額を制限すべきとする被告の主張には理由がない。 イ被告の主張原告らは,出し平ダムの排砂によって原告らの漁獲高が減少したとし(ア)て,原告ら個々の一定の時期における漁獲高(基準漁獲高)とその後の漁獲高との差額及び漁獲高の減少を回復するための増加費用を損害として主張する。 ダムの排砂によって原告らの漁獲高が減少したとし(ア)て,原告ら個々の一定の時期における漁獲高(基準漁獲高)とその後の漁獲高との差額及び漁獲高の減少を回復するための増加費用を損害として主張する。しかし,原告らが損害を主張するのであれば,本件海域の水産資源量の変動を,漁獲量と出漁日数等の漁獲努力との相関関係から推定し,それが原告らの漁獲量ひいては漁獲高に及ぼした影響としてこれを把握する必要がある。漁獲高は,出漁日数,漁法,販売方法及び魚の相場など,水産資源量以外の要因によっても左右されるから,漁獲の減少をもって直ちに損害と主張するのは失当である。 なお,原告らは,上記の基準漁獲高について,別紙3記載のとおり,(イ)原告によって,平成元年から同3年までの平均と定めたり(平成4年からの被害発生を主張),平成元年から同5年までの平均と定めたり(平成6年からの被害発生を主張),平成2年から同6年までの平均と定めたり(平成7年からの被害発生を主張)しているが,このように被害発生年次が原告毎に異なるのは不合理であるし,黒部川河口から遠い漁場で近い漁場よりも早く排砂による被害が発生するという矛盾もある。おそらく,これは,各原告の漁獲高がある程度減少していると思われる年- 20 -以降に被害が発生したとみなしているにすぎず,この点でも原告らの損害に関する主張は失当である。 ワカメの損害(ウ)a書証ごとに収穫量が区々であり,他地区から購入したワカメの分も含まれるなど原告組合の養殖ワカメの収穫量の減少を裏付ける証拠がない。また,販売単価がいくらであったのか信頼できる資料がなく,不明確である。したがって,原告らが主張する水揚高表(原告組合分)(甲C4)記載のワカメ養殖の水揚高は信頼できない。 b原告らは,損害の算定に当たって,ワカメ養殖の経費を のか信頼できる資料がなく,不明確である。したがって,原告らが主張する水揚高表(原告組合分)(甲C4)記載のワカメ養殖の水揚高は信頼できない。 b原告らは,損害の算定に当たって,ワカメ養殖の経費を考慮していない。 c損害賠償の場合であっても,営業廃止後も無制限に請求できるとするのは不合理であり,損失補償等の場合(営業廃止の場合の収益補償として,従前の所得相当額の2年分の範囲)に準じて考えるべきである。 争点3(本件補償契約の効力が原告らに及ぶか)について( )ア被告の主張漁業補償の帰属主体性(ア)共同漁業権は,法人としての漁業協同組合に帰属し,組合員の漁業を営む権利は社員権的権利であって,漁業権消滅の対価としての消滅補償のみならず,同じく漁業権の処分という性質を持つ,特定の区域において,一定期間その権利行使を不可能とするなどその区域の漁業権行使に支障を生じさせる場合の制限補償,水質の汚濁等による漁業被害が予見される場合に行われる事前補償,漁業被害が現に発生した場合に行われる事後補償も,漁業権者である漁業協同組合に帰属し,組合員は,内部分配に与ることができるにすぎない。したがって,本件補償契約の効力が原告らに及び,その結果,原告らは,被告に対し,漁業被害による損- 21 -害賠償請求権を有しない。多数の漁業者に関する漁業補償は,個別算定の困難さや被害の共通性等から漁業権者である漁業協同組合が交渉の当事者となって行われているのが実情であり,合理的である。 原告らによる委任(イ)原告らは,県漁連が被告との間で漁業被害の交渉を行っていることを知っており,そのことについて何ら異議等を申し述べた形跡がないことなどから原告らが県漁連に交渉を委ねようという意思を有していたこと,他方,県漁連も,被告と漁業補償交渉を行うに当たり, っていることを知っており,そのことについて何ら異議等を申し述べた形跡がないことなどから原告らが県漁連に交渉を委ねようという意思を有していたこと,他方,県漁連も,被告と漁業補償交渉を行うに当たり,各漁業協同組合及びその傘下の組合員のために行うという認識を有していたこと,原告らが,「今后将来理由の如何を問わず貴職及び関西電力㈱(被告)に対し,一切の請求・異議をなさないことを確認する」と記載された領収書兼確認書(乙C2の1ないし15。以下「本件領収書兼確認書」という。 )に署名・押印していることからすれば,県漁連は,各漁業協同組合を通じ,原告ら組合員の明示若しくは黙示的委任を受けて,被告と漁業補償交渉を行い,本件補償契約を締結したものであり,本件補償契約は,傘下漁業協同組合及び原告らその所属組合員を拘束する。 原告らによる追認(ウ)少なくとも,原告らが本件領収証兼確認書に署名・押印して各漁業協同組合に提出する際には,被告と県漁連との本件補償契約の効力を前提としており,原告らはこれを追認した。 本件補償契約の範囲について(エ)a本件補償契約の合意書に,漁業補償の内容が一過性のものに限られ,継続的な被害は含まれないなどとする限定はない。 b県漁連と被告が合意した金額が少額に過ぎるというのであればともかく,そうでない以上,本件補償契約締結時に予測できなかった損害には本件補償契約の効力が及ばないという原告らの主張には理由がな- 22 -い。 c本件領収証兼確認書に印字されたところを見れば,その意味するところは容易に理解できるものであり,「今后将来理由の如何を問わず貴職及び関西電力㈱(被告)に対し,一切の請求・異議をなさないことを確認する」との記載が単なる例文とする原告らの主張には理由がない。上記記載がある本件領収証兼確認書に2度署名 将来理由の如何を問わず貴職及び関西電力㈱(被告)に対し,一切の請求・異議をなさないことを確認する」との記載が単なる例文とする原告らの主張には理由がない。上記記載がある本件領収証兼確認書に2度署名押印させたのは,補償金が2度に分けて支払われたためであり,確認の趣旨にすぎない。 イ原告らの主張漁業補償の帰属主体性(ア)漁業協同組合の共同漁業権と,組合員の漁業を営む権利とは,権利の主体を異にする別個独立の権利であって,第三者によって組合員の漁業を営む権利が侵害された場合には,組合員は,その第三者に対して,妨害排除や損害賠償を請求できるし,その帰属主体となることができる。 漁業協同組合がその有する漁業権を放棄した場合の補償金配分の議決方法に関する事案(被告のいう消滅補償の場合)と,組合員が自らの漁業を営む権利を侵害されたことを理由に,侵害した第三者に対して損害賠償請求等を求めている本件とは事案が異なる。 原告らによる委任(イ)原告らは,所属する各漁業協同組合にも,県漁連にも,出し平ダムの排砂に伴う損害の賠償について被告と交渉して合意する権限を個別に与えたことはないし(本件補償契約には顕名もない。),また,各漁業協同組合において,漁業協同組合又は県漁連が漁業被害の補償について被告と交渉し,合意することについて,組合員総会において議論したことも決議したこともない。したがって,原告らは,各漁業協同組合又は県漁連に対し,本件補償契約の締結を委任していない。補償契約締結後に本件領収書兼確認書を差し入れたからといって事前に委任があったとす- 23 -ることはできないし(原告らは,補償金等を受け取るに当たり,その算出基準について県漁連から説明を受けておらず,本件領収書兼確認書への署名押印と引換でないと金員を受け取れなかったことからすれば,こ ることはできないし(原告らは,補償金等を受け取るに当たり,その算出基準について県漁連から説明を受けておらず,本件領収書兼確認書への署名押印と引換でないと金員を受け取れなかったことからすれば,これをもって委任と評価すべきでない。),原告らが被告と県漁連が漁業補償交渉を知りながら,それに異議を述べなかったからといって黙示に委任をしていたということもできない。 原告らによる追認については争う。 (ウ)本件補償契約の範囲(エ)a本件補償契約は,一過性の被害を前提としており,本件のように一過性にとどまらない被害が生じた場合にまでその効力は及ばない。 b本件補償契約締結の際,原告らはこれほど大きな漁業被害が発生することを予測できなかったこと,原告らが受け取った金員は,実際に生じた被害の1割にも満たない額であったことからすれば,本件補償契約の効力は,原告らが予測できなかった漁業被害にまで及ばない。 c事前に県漁連と被告との交渉経緯,合意内容等を説明されていないこと,「今后将来理由の如何を問わず貴職及び関西電力㈱(被告)に対し,一切の請求・異議をなさないことを確認する」との記載のある本件領収証兼確認書に署名押印して補償金を受け取りながら,その後同じ記載のある書面に署名押印して再び補償金を受け取っていることなどから,本件領収証兼確認書の上記記載は例文であって,効力を有しない。 争点4(排砂の差止め等の必要性)について( )ア原告らの主張出し平ダムの排砂が行われると,ヘドロ等が本件海域に流入して堆積(ア)し,また,ワカメ等の海藻に付着して,原告らの漁業の対象となる魚種,海藻等を死滅又は本件海域から回避させ,原告らの漁獲を激減させて,- 24 -原告らの漁業行使権を妨害するおそれがある。 これまでの排砂で堆積したヘドロ等が,底棲生 ,原告らの漁業の対象となる魚種,海藻等を死滅又は本件海域から回避させ,原告らの漁獲を激減させて,- 24 -原告らの漁業行使権を妨害するおそれがある。 これまでの排砂で堆積したヘドロ等が,底棲生物の成育を妨げるなど(イ)して原告らの漁業の対象となっている魚種の流入及び居着き並びにワカメ等の海藻の生育を妨げ,原告らの漁業行使権を妨害している。 したがって,原告らの漁業行使権に基づく妨害予防又は妨害排除請求(ウ)として排砂の差止め及びヘドロの除去が必要である。 イ被告の主張争う。被告は,出し平ダムの初回排砂において地域に影響を及ぼした反省に立ち,「黒部川出し平ダム排砂影響検討委員会」の提言等を踏まえ,できる限りダムに土砂を貯めず,毎年の出洪水時に合わせて,通常の河川と同じ自然流下の状態で行うなど排砂方法の改善を行い,現在においても,「黒部川ダム排砂評価委員会」等の意見を得ながら,排砂方法の改善に向けた努力を行っている。また,「黒部川ダム排砂評価委員会」の調査の結果,これまでに確立された上記の方法による排砂について,現状において特に大きな問題はないと評価されている。したがって,原告らの出し平ダムの排砂の差止めを求める請求には理由がない。 第3争点に対する判断 争点1(排砂と原告らの損害との因果関係と被告の責任)について 浅海域の泥質化について( )ア前提となる事実のほか,証拠(甲A27,43,公害等調整委員会(以下「公調委」という。)に対する原因裁定嘱託の結果)によれば,以下の事実が認められる。 Eは,昭和63年7月から平成14年3月まで富山県水産試験場主任(ア)研究員,同年4月から平成15年7月まで富山県水産漁港課主任,同年8月から東京海洋大学海洋科学部生物資源学科助教授の地位にあるものであるが,同人が平成10年6 年3月まで富山県水産試験場主任(ア)研究員,同年4月から平成15年7月まで富山県水産漁港課主任,同年8月から東京海洋大学海洋科学部生物資源学科助教授の地位にあるものであるが,同人が平成10年6月2日に「飯野」の離岸堤付近で潜水し- 25 -た際,離岸堤の上に泥が堆積し,その上に藻が生えていた。 Eが,平成13年7月10日ころ,藻場の現況把握のために朝日町元(イ)屋敷海岸等で潜水調査を実施した際,岩盤・礫地帯である同海岸の水深4から10メートルの範囲に生育しているイシモズク等の海藻が全体的に泥を被っていたほか,広さ1ヘクタール未満の範囲で,砂だまりとなっている窪みを中心に,厚さ10センチメートル未満の泥がぬかるみ状に堆積していた。その泥は新しいものであった。Eは,同海域で以前にも何度か潜水していたが,そのような状態の泥を認めたことがなかった。 Eが,平成16年8月25日から同月26日,入善町による魚礁投入(ウ)場所選定のための調査として,同町田中沖で潜水調査を実施したところ,海底が全般的に浮泥に覆われており,漂砂帯(海岸から200から300メートル,水深10から15メートル)の窪みにはぬかるみ状態で泥が顕著に堆積し,その深さは深い場所で20センチメートル以上に及び,その面積は1ヘクタール以上あった。また,泥が堆積する地帯では,ウニやアワビの新しい死骸も幾つか見付かった。 Eが,平成17年7月15日,入善町田中沖で増加しているキタムラ(エ)サキウニの有効利用を検討するため,同海域で潜水調査を実施したところ,上記(ウ)の調査で認めた漂砂帯のぬかるみ状の泥は見当たらなかったが,藻場の下限周辺(水深約20メートル)に至るまでの広範囲に浮泥による被覆が見られた。 Eが,平成18年8月から9月にかけて,公調委からの委託により,(オ)本 のぬかるみ状の泥は見当たらなかったが,藻場の下限周辺(水深約20メートル)に至るまでの広範囲に浮泥による被覆が見られた。 Eが,平成18年8月から9月にかけて,公調委からの委託により,(オ)本件海域で潜水調査を実施したが,その結果,次のとおり,本件海域の浅海域の各所においてぬかるみ状に堆積した泥や浮泥があった。 a入善町木根(同年8月24日午前に調査)以前からの泥の薄い被覆のほか,今回初めてぬかるみ状の泥の堆積が所々であった。 - 26 -b入善町田中西(同月23日午前,同年9月26日午前に調査)ヌケ(波浪により礫の離合集散が進んで起伏が生じ,窪みに砂がたまり上から白く抜けて見える海底部分)の周辺部に厚さ5センチメートル前後のぬかるみ状の泥が随所で確認された。 c入善町田中中央(同年8月23日午後に調査)ヌケの周辺部に厚さ5センチメートル前後のぬかるみ状の泥が随所にあった。 d入善町横山(同月24日午後に調査)遊泳範囲内の4か所の礫場の各周囲にぬかるみ状の泥が見られた。 e朝日町元屋敷(同月22日午前に調査)岩陰や砂漣の窪みにぬかるみ状の泥が堆積していた。 f朝日町宮崎漁港東(同日午後に調査)水深とともに泥を被った石が増え,水深8メートル以深でぬかるみ状の泥があった。 g朝日町沖の瀬(同日午前に調査)水深15メートル以深で濁りと泥が観察された。 h入善町飯野(同年9月26日午後に調査)造成漁場の投石間の砂地の一部に, ぬかるみ状の泥が堆積していた。 i入善町五十里(同日午前に調査)従来同様,海底は薄く泥を被っていた。 j朝日町入川沖(9月26日午前に調査)遊泳区間の範囲で2か所,砂を被ったぬかるみ状の泥が見つかった。 公調委の委託により,平成18年8月22日から同月24日にEが浅(カ)海域において採取した浮泥 朝日町入川沖(9月26日午前に調査)遊泳区間の範囲で2か所,砂を被ったぬかるみ状の泥が見つかった。 公調委の委託により,平成18年8月22日から同月24日にEが浅(カ)海域において採取した浮泥ないしぬかるみ状の泥を分析した結果(別紙5及び6記載のとおり),粒度分布は一様ではないものの,いずれも有機物含有量が比較的多いことが認められた。 - 27 -イ公調委の示す機序について公調委が示す排砂により本件海域での微細泥(粘土粒子)及び有機物(ア)の堆積を促進する機序は,以下のとおりである(公調委に対する原因裁定嘱託の結果)。 すなわち,ダム湖に流入する落葉・落枝などの植物組織は,主にセルロースとリグニンから構成されているが,セルロースはリグニンより不安定で,嫌気的な条件下でも分解されやすく,ダム湖底で堆積する間に微生物によって分解され,分子量の小さい断片的な有機物(半分解状態の有機物)となる。この半分解状態の有機物は,水に溶けて黒褐色の溶液を生成するが,親水性のカルボキシル基(-COOH)やヒドロキシル基(-OH)を持った化合物であり,金属イオンと結合する能力があるため,排砂時には,粘土粒子とともに懸濁状態で黒部川を流下して海域に至ると,弱アルカリ性の海水に触れることで粘土粒子相互間に橋かけ結合をつくり,多数の粘土粒子を凝集させて「粘土鉱物-有機物複合体」を形成する。この複合体は,個々の粘土粒子より粒径の大きな粒子となることから,海水中で沈降しやすく,複合体とならなければ遠方まで運搬・拡散されるはずの微細な粘土粒子も,このようにして本件海域に沈殿し,本件海域での粘土類及び有機物の堆積量を増大させる。 公調委の示す機序に対する被告の反論(イ)a被告は,植物組織のセルロースとリグニンは,遊離して存在するわけではなく,ヘミセルロ 海域に沈殿し,本件海域での粘土類及び有機物の堆積量を増大させる。 公調委の示す機序に対する被告の反論(イ)a被告は,植物組織のセルロースとリグニンは,遊離して存在するわけではなく,ヘミセルロースとともにリグノセルロースを構成し,リグノセルロースは,難分解性のリグニンが存在するため,セルロースの部分も分解しにくくなっている,セルロース分解菌の種類は,好気性細菌が多く,嫌気性細菌は少ない,泥温が夏場でも20度程度にしかならない出し平ダム湖においては,微生物による有機物分解の活性はかなり低い,以上のことから,植物組織に含まれるリグノセルロー- 28 -スは,出し平ダム湖においてはほとんど分解されないと主張し,F作成の意見書(乙B27)には,これに沿う記載がある。 確かに,植物組織のセルロースは,リグニンと結びついてその影響を受け,遊離して存在する場合に比べ,分解しにくいことが認められる(乙B27ないし29)。しかしながら,このことは,出し平ダム湖においてセルロースが分解されないことを意味するものではないし,また,水田における炭素(有機物)の分解率は,リグニン含有率と密接な関係を持っており,リグニン含有率が多いほど有機物の分解がすすみにくくなる(乙B27,33),あるいは,植物体のリグニンのメトキシル基が増大するほど分解速度が低下する(乙B29)旨の指摘もあり,そうであれば,出し平ダム湖には様々な植物組織が存在するから,リグニンの割合によって分解しやすいものから分解しにくいものまで存在することになる。また,F作成の意見書(乙B27)のセルロース分解菌の種類は,好気性細菌が多く,嫌気性細菌は少なく,一般に,低温における微生物による有機物分解の活性が低いとの指摘を裏付けるに足りる資料は提出されていないが(乙B27が引用する乙B28, ロース分解菌の種類は,好気性細菌が多く,嫌気性細菌は少なく,一般に,低温における微生物による有機物分解の活性が低いとの指摘を裏付けるに足りる資料は提出されていないが(乙B27が引用する乙B28,33の該当箇所にもそのような指摘がない。),仮にそうだとしても,ダム湖底の温度でセルロースを分解する嫌気性細菌が出し平ダム湖に存在しないとか少ないことを示すものではなく,公調委の示す機序を否定できるものではない。これらのことから,植物組織に含まれるリグノセルロースは,出し平ダム湖においてはほとんど分解されないとは認められず,被告の上記主張によって公調委の示す機序は覆されない。 b被告は,嫌気的条件下で分解されたリグノセルロースも,生成した分解物は,微生物により速やかに分解されて無機物となり,分解されにくい部分等は縮重合して腐植物質となり,ダム湖底において速やか- 29 -に「粘土-腐植物質複合体」等を作って安定化するから,半分解状態の有機物が生成するともいえないと主張し,F作成の意見書(乙B27)にもこれに沿う記載がある。しかしながら,上記腐植化は,森林土壌や水田といった環境を前提にしており,ダム湖底においても同一の現象が生じるのかは疑問がある。仮に,上記のような現象が生じたとしても,出し平ダム湖底において生成された「粘土-腐植物質複合体」等が排砂により本件海域に堆積することになり,排砂と本件海域の泥質化との因果関係は否定されない。なお,半分解状態の有機物なる概念が講学上一般的か否かは上記判断に影響するものではない。 cそのほか,被告は,出し平ダム湖で発生していたメタンガスの気泡は,有機物が分解された根拠になり得ても,セルロースが嫌気的な条件下でも分解されやすく,ダム湖底で堆積する間に微生物によって分解される根拠にはならないとか,セ 平ダム湖で発生していたメタンガスの気泡は,有機物が分解された根拠になり得ても,セルロースが嫌気的な条件下でも分解されやすく,ダム湖底で堆積する間に微生物によって分解される根拠にはならないとか,セルロースの分解生成物は,オリゴ糖であり,その一番小さいものであるセロビオースでも水に難溶性であって,結晶は白色であるから,それが水に溶けて黒褐色の溶液を生成するとは考えられないと主張するが,前者については,公調委も有機物分解が行われている根拠として指摘するのみであり,後者についてもセルロースが水に溶けた色が黒色であるといっているものでもないから,被告の上記主張によって公調委の示す上記機序が否定されるものでもない。 d出し平ダム湖の底質を用いた実験結果(乙B27,34)も,あくまで室内実験の結果であり(出し平ダム湖では発生していると認められる(公調委に対する原因裁定嘱託の結果)メタンガスの発生が認められなかった。),上記実験の結果,顕著な有機物分解が見られなかったとしても,公調委の示す上記機序が否定されるものではない。 ウ上記認定事実によれば,本件海域の浅海域には,Eが確認できたものだ- 30 -けでも,排砂後,浮泥やぬかるみ状の泥が大量に堆積していることが認められる。そして,排砂前にそのような泥が堆積していたことを認めるに足りる証拠がないこと,Eが,本件海域での豊富な潜水経験において,本件海域の浅海域(岩盤・礫地帯である元屋敷海岸以東を除く。)は,もともとどこも「砂,砂,砂」であり,自然な出水後に黒部川河口近くの海域で薄い泥の被覆を認めることはあっても,このような大量の泥の堆積を見たことはなく,非常に奇異に感じ,排砂によるものと思った旨供述していること(公調委に対する原因裁定嘱託の結果),排砂により本件海域での微細泥(粘土粒子)及び はあっても,このような大量の泥の堆積を見たことはなく,非常に奇異に感じ,排砂によるものと思った旨供述していること(公調委に対する原因裁定嘱託の結果),排砂により本件海域での微細泥(粘土粒子)及び有機物の堆積を促進する機序として,公調委の示す機序が考えられることからすれば,出し平ダムの排砂は,本件海域の浅海域の海底に,自然な出水の場合とは異なる浮泥ないしぬかるみ状の泥の堆積を生じさせていると認めるのが相当である。ただし,上記のような堆積の場所や範囲,程度は,排砂の規模やその際の海流等の自然条件によって,一様ではあり得ず,また,当該堆積は,一年を通して存在するものではなく,冬期などの波浪により巻き上げられ,翌春ころまでに多くは流失するものと推認される(公調委に対する原因裁定嘱託の結果)。仮に,公調委の示す機序が事実と異なるとしても,上記認定事実及びEの上記供述等により排砂と本件海域の浅海域の泥質化との因果関係を優に認めることができ(具体的な機序が明らかにならない限り,因果関係を認定できないというものでもない。),上記判断に影響しない。 中深海域の泥質化について( )ア前提となる事実のほか,証拠(乙A39,公調委に対する原因裁定嘱託の結果)によれば,以下の事実が認められる。 自然な出水や排砂により黒部川河口から流れ出た土砂については,砂(ア)や礫などは河口前面や河口に極めて近い場所に堆積するが,河川水に浮遊する粘土類や有機物からなる懸濁物質は,河川水が海水より比重が軽- 31 -いために海面近くに滞留する河川水中に浮遊したまま潮流に乗って本件海域方向に流され,広範囲に広がり(乙A44の1ないし6),海水中に沈降し海底に堆積するものと本件海域から流出するものがある。 公調委の実施した底質調査の調査地点及び調査結果は,別紙5及び6 って本件海域方向に流され,広範囲に広がり(乙A44の1ないし6),海水中に沈降し海底に堆積するものと本件海域から流出するものがある。 公調委の実施した底質調査の調査地点及び調査結果は,別紙5及び6(イ)記載のとおりである。原告らが,排砂前に砂質であった場所で泥質化が進み,現在ヘドロが堆積している場所として指定し,公調委が底質調査を実施した各地点(別紙5記載の各地点)のうち,№1ないし№3地点は,現在も砂質であり,有機物も多くないが,№4地点については,現在泥質である。 イ№4地点について№4地点の海底での採泥を分析した結果では,中央粒径値(D)が,(ア) 表層(厚さが12から19センチメートルくらい)で0.033ミリメートル,底層で0.10ミリメートルで,目視粒度組成も,表層が砂混シルト,底層が砂であって,№4地点の底質が,過去には砂質であったものが泥質に変化したものであることが推測され,また,同地点の調査では,COD値,強熱減量値,全有機炭素(TOC)値は,いずれも表層が底層より高く,表層の有機物含有量が多いことを窺わせる。 しかしながら,このことから直ちに№4地点が排砂前に砂質であったとはいえず,排砂により泥質化したとまで認められるものではない。 昭和55年に行った調査を基にして作成された沿岸海域基礎調査報告(イ)書(乙A55の2)によれば,音響測探機による調査では,大陸棚が分布しない常願寺川河口から「吉原」までの地域では海岸沿いに50から100メートルの幅で砂,その沖合はほぼ同様な幅で泥質砂,さらに沖合には砂質泥が水深300から400メートルまで分布し,「吉原」から「境」は,底質は地形,水深に応じた分布を示しており,中でも砂の分布域は広く,大陸棚平坦面に幅2キロメートル前後で水深50メート- 32 -ル付近まで 0から400メートルまで分布し,「吉原」から「境」は,底質は地形,水深に応じた分布を示しており,中でも砂の分布域は広く,大陸棚平坦面に幅2キロメートル前後で水深50メート- 32 -ル付近まで分布し,これらの砂は細砂が主であり,その沖合は水深100メートル付近まで泥質砂,水深500メートルまでは砂質泥,それ以深は泥が分布すると記載されている。一方,№4地点は,昭和61年11月発行の海岸工学講演会論文集(乙B9)の図-7では,同図のほぼ右端に位置すると認められるところ,同地点の水深は43メートルであるから,同図によれば,同地点はシルト質であったこととなり,また,同地点は,上記沿岸海域基礎調査報告書(乙A55の2)の第60図の上では,図面上微妙ではあるが,概ね砂質泥として表示された範囲に含まれるものではないかとの指摘もある(公調委に対する原因裁定嘱託の結果)。この点,沿岸海域地形図(甲A51の1)及び沿岸海域土地条件図(乙A55の1)に表示された底質を示す記号は,その記号を付された地点の底質を示しているものであって,その記号の付近一帯の底質がすべてその記号の示す底質であるとまではいえない(乙A55の2,公調委に対する原因裁定嘱託の結果)。また,同図の凡例によれば,同図における「・」の記号は,砂を示すとされているが,これは「音波探査等による沖積層構成物質」を表示したもので,その記号の付された場所の底質が砂を含むという程度のことしか判らない。さらに,沿岸海域基礎調査報告書(乙A55の2)の第60図は,同書証から窺われる調査の経過などからすると,同書証の第59図に示された地点の調査に音波探査の結果を加えて作成されたものと推測される。したがって,№4地点が沿岸海域地形図等で砂質とされる地域に含まれるからといって,直ちにその地点が砂質であ ,同書証の第59図に示された地点の調査に音波探査の結果を加えて作成されたものと推測される。したがって,№4地点が沿岸海域地形図等で砂質とされる地域に含まれるからといって,直ちにその地点が砂質であったとまではいえず,上記認定を左右するものではない。 ウG教授の調査について原告らは,沿岸海域地形図(甲A51の1)において「fS」(細砂(ア)),「mS」(中砂)等と記載されている7地点について平成19年6- 33 -月24日及び25日にGが底質調査を行った結果,地点St.2ないし4及び6において,底質がシルトであったと主張し,G作成の報告書(甲B64)にもこれに沿う記載がある。しかしながら,上記各地点の中央粒径値は,St.2(北緯36度57分58.0秒,東経137度29分00.0秒,水深68.0メートル)が0.070ミリメートル,St.3(北緯36度58分31.0秒,東経137度30分13.6秒,水深55.0メートル)が0.063ミリメートル以下,St.4(北緯36度58分34.0秒,東経137度30分55.5秒,水深41.0メートル)が0.072ミリメートル,St.6(北緯36度58分35.7秒,東経137度32分28.6秒,水深23.6メートル)が0.069ミリメートルであり,上記各地点はいずれも沿岸海域地形図(甲A51の1)では「fS」(細砂)と記載されているところ,同図の凡例では,「fS」(細砂)は,1/16から1/4(0. 0625から0.25)ミリメートルであり,これに従えば,上記各地点はいずれも「fS」(細砂)に分類されることになる。そうすると,Gの上記調査によっても,上記各地点が泥質化しているとまでは認められない。原告らは,沿岸海域地形図(甲A51の1)作成時の調査の際には,上記各地点の底質は現在のような極めてシ とになる。そうすると,Gの上記調査によっても,上記各地点が泥質化しているとまでは認められない。原告らは,沿岸海域地形図(甲A51の1)作成時の調査の際には,上記各地点の底質は現在のような極めてシルトに近い極細砂状態ではなかったと主張するが,これを裏付けるに足りる証拠はなく(沿岸海域地形図(甲A51の1)作成時の調査の際には,上記各地点では中央粒径値の測定は行われておらず(甲A51の1,乙A55の2),どのような状態であったのかは必ずしも明らかでない。原告らは,上記調査において,指触,色調,臭気等を観察した上で,底質が決定されており,このことから上記各地点の底質は現在のような極めてシルトに近い極細砂状態ではなかったと主張するが,これも原告らの推測にとどまる。 ),上記判断に影響しない。 - 34 -原告らは,Gの上記調査において,地点St.7(北緯36度58分(イ)37.3秒,東経137度33分00.2秒,水深24.2メートル)の中央粒径値が0.077ミリメートルとなっており,平成13年に隣接地点で採取された底土の中央粒径値が0.15ミリメートルであったものから(乙A32)泥質化が進行していると主張するが,沿岸海域地形図(甲A51の1)の凡例に従えば,いずれも「fS」(細砂)の範囲にとどまるものであり,このことから直ちに地点St.7が排砂前に砂質であったとはいえず,排砂により泥質化しているとまでいえない。 エ原告Dらが,排砂後,網や錨に黒っぽい泥が付着するようになったなどと供述(甲A30,31,66,71等)するが,排砂前後の底質の状況を裏付けるに足りる客観的な資料がなく,原告Dらの上記供述によって,本件海域の中深海域において排砂後に泥質化した場所があると認めることもできない。そのほか,本件全証拠によっても,本件海域の中深海域に を裏付けるに足りる客観的な資料がなく,原告Dらの上記供述によって,本件海域の中深海域において排砂後に泥質化した場所があると認めることもできない。そのほか,本件全証拠によっても,本件海域の中深海域において,排砂後に泥質化した場所があるとまで認められない。 オ仮に,№4地点やGの調査地点St.2ないし4,6及び7が排砂の前後で泥質化していたとしても,底質が砂質であるか泥質であるかは,排砂による影響がない限り,不変とはいえず,漂砂の供給量やその動向の変化も考えられるし,海底谷に堆積する泥は,数年規模で斜面崩壊が生じる可能性もあると考えられ,このことから直ちに排砂により本件海域の中深海域が泥質化したとまで認められるものでもない。 カ公調委の事実調査調書(甲A90)には,平成18年7月12日の調査の際,北緯36度55分52秒,東緯137度25分72秒,水深73メートル地点(黒部川河口に近い地点。第一地点)及び北緯36度57分13秒,東緯137度28分54秒,水深73メートル地点(上記より東方の吉原地先。第二地点)で採取した泥について,黒よりはこげ茶に近く(第二地点は,第一地点の泥をやや薄くした感じ),泥を手に取り,直接嗅- 35 -ぐと,僅かながらドブ臭い臭いが感じられ,指にくっついてくるような粘りがあった旨の記載があるが,いずれも主観的なものであって,このことの故に,上記各地点で採取した泥が,排砂により堆積したものであるとまで認められるものではない。 キ以上によれば,本件海域の中深海域については,泥質化していたとしても,本件全証拠によるも,出し平ダムの排砂との因果関係を認めることはできない。 浅海域の泥質化が各魚種(ワカメについては後述)に与える影響について( )ア原告らが,排砂により影響を受けたと主張する,ヒラメ,アカガレイ し平ダムの排砂との因果関係を認めることはできない。 浅海域の泥質化が各魚種(ワカメについては後述)に与える影響について( )ア原告らが,排砂により影響を受けたと主張する,ヒラメ,アカガレイ,アカエビ,フクラギ,マゴチ,キス,アマダイ,ワタリガニ(ガザミ),シタビラメ,クルマエビ,マダコ及びツブ貝のうち,浅海域にも生息するのは,マゴチ,シロギス,ワタリガニ,マダコ,クルマエビ及びツブ貝である(公調委に対する原因裁定嘱託の結果)。 しかしながら,本件全証拠によっても,浅海域に堆積する泥が上記各魚種の生息環境に悪化をもたらすかどうかは明らかではない。 イ原告らは,本件海域の浅海域においてヒラメが産卵等を行っていると主張し,原告Dもこれに沿う供述をしているが(甲A66),これを裏付ける証拠はなく(富山県水産試験場のホームページ(甲A63の2)には,ヒラメが富山県沿岸で産卵する旨の記載があるが,それが本件海域かどうかまでは明らかでない。),仮にそうであったとしても,浅海域に堆積する泥が,ヒラメの生息環境に悪化をもたらし,さらには,その漁獲量の減少をもたらすかどうか明らかでないことは上記と同様である。 ウ原告らは,浅海域に堆積した泥がワカメ以外の海藻にも悪影響を及ぼし,さらにそのことが上記各魚種及びその捕獲にも悪影響を及ぼすと主張するが,海藻への悪影響が上記各魚種及びその捕獲にも悪影響を及ぼすことを認めるに足りる証拠がない。 - 36 - 各魚種の漁獲量から見た排砂の影響について( )上記のとおり排砂が各魚種に影響を及ぼす具体的な機序が明らかでないとしても,排砂後に漁獲量の特異な減少が認められるような場合には,そのことから因果関係を肯定する余地がある。そこで,以下,漁獲量から見た排砂の影響について検討する。 アヒラメについて らかでないとしても,排砂後に漁獲量の特異な減少が認められるような場合には,そのことから因果関係を肯定する余地がある。そこで,以下,漁獲量から見た排砂の影響について検討する。 アヒラメについて前提となる事実のほか,証拠(甲A56の1ないし9,甲A57の1(ア)ないし12,甲A85,乙A10の1ないし24,公調委に対する原因裁定嘱託の結果)によれば,以下の事実が認められる。 a富山県の漁業地区別ヒラメの漁獲量は,別紙7記載のとおりである。 b平成18年の漁業地区別ヒラメの漁獲量は,「朝日」3トン,「横山」1トン,「吉原」8トン,「飯野」5トン,「黒部」27トン,「石田」5トンであり,富山県全体では164トンである。 上記認定事実及び証拠(甲B52,乙A39,公調委に対する原因裁(イ)定嘱託の結果)によれば,富山県における漁獲量の増減の推移は,新潟県,特に新潟県南部とは極めてよく類似していること,昭和50年(1975年)以降,富山県と石川県との間でも有意な相関関係が認められること,平成9年(1997年)までの「入善」及び「朝日」の漁獲量を見ると,富山県全体と同様に,平成5年(1993年)前後をピークとする増加の山を形成しながら低下する傾向にあり,「入善」,「朝日」の平成3年から9年(1991年から1997年)の各漁獲量の変動は,いずれも初回排砂前である1980年代(昭和56年から平成2年)の変動幅の範囲内で推移しているなど初回排砂の前後における漁獲の変動傾向の継続性,初回排砂の前後を問わない富山県全体との類似性があること,平成10年から平成12年(1998年から2000年)は,過去の漁獲量との比較において相当低いものとなっているが,富山県全- 37 -体の漁獲量においても同様の傾向であり,「黒部」等の県内他海域や石川県,新潟 平成12年(1998年から2000年)は,過去の漁獲量との比較において相当低いものとなっているが,富山県全- 37 -体の漁獲量においても同様の傾向であり,「黒部」等の県内他海域や石川県,新潟県においても,時期の前後や程度の差はあるが,漁獲量の低下が生じていること,平成14年(2002年)以降「黒部」や県全体では漁獲量の回復が見られるが,「朝日」や「横山」では,同年以降においても,引き続き漁獲量の不振が続いていることが認められる。 以上によれば,ヒラメの漁獲量についての富山県全体及び隣接海域との比較及び過去の漁獲変動幅との比較からは,本件海域において,排砂を原因とする特異的な漁獲量の減少(不漁)が生じているとは認められない(「朝日」や「横山」の漁獲量の不振については後述)。 原告らは,平成10年(1998年)を境に,黒部川河口以西の地域(ウ)と以東の地域で,ヒラメの漁獲量について顕著な差が生じていると主張する。確かに,平成14年以降,「黒部」等他の地域の漁獲量が回復していったのに対し,黒部川河口以東の地域に属する「朝日」や「横山」の漁獲量に不振が続いていることは上記のとおりである。しかしながら,黒部川河口以東の地域であっても,より黒部川河口に近い「吉原」,「飯野」の漁獲量は県全体や「黒部」等と同じく回復傾向にある(なお,原告らが比較する平成10年(1998年)と平成18年(2006年)を見ると,「吉原」が4トンから8トン,「飯野」が3トンから5トンに上昇している。)。平成3年(1991年)の初回排砂以降,10年余が経過した後に生じていること(その間8回の排砂が行われている。 ),「朝日」及び「横山」は,「飯野」及び「吉原」より黒部川河口から遠くに位置する海域であり,排砂の影響がより顕著に生じるとは考えにくいこと(排砂の影響であれ こと(その間8回の排砂が行われている。 ),「朝日」及び「横山」は,「飯野」及び「吉原」より黒部川河口から遠くに位置する海域であり,排砂の影響がより顕著に生じるとは考えにくいこと(排砂の影響であれば,より黒部川河口に近い「飯野」,「吉原」にその漁獲量の減少が顕著に表れる。)にかんがみると,「朝日」や「横山」の漁獲量の不振が排砂の影響によるものであるとは認められない。 - 38 -イクルマエビについて証拠(甲A56の1ないし9,甲A57の1ないし12,乙A10の(ア)1ないし24)及び弁論の全趣旨によれば,クルマエビの漁獲量は,別紙8記載のとおりである。 原告らは,「飯野」地域について,富山県の漁業統計(甲A56の1(イ)ないし9,甲A57の1ないし12)に基づき,排砂後の平成4年(1992年)以降,漁獲があったのは平成5年(1993年)と平成14年(2002年)のみであり,その余は漁獲がなく,排砂後に漁獲量が顕著に減少していると主張する。しかしながら,排砂前に漁獲があるときもその漁獲量は「0」(1トン未満)か「1」であり,もともと漁獲量は多くはなく,具体的な漁獲量が明らかでない上,「朝日」,「横山」,「吉原」,「黒部」及び「石田」等のその他の地域においても漁獲量が「0」か「1」,あるいは「-」(なし)であるため,県全体との比較(県全体でも昭和60年をピークに減少傾向にあり,平成6年以降6トン以下しかない。)や他の地域との比較において,漁獲量から見た排砂の影響を検討するのは困難であり,飯野地域のクルマエビの漁獲量について,排砂により,県全体や他地域に比べ特異的な減少があったとまでは認められない。 ウワタリガニ(ガザミ)について証拠(甲A56の1ないし9,甲A57の1ないし12,乙A10の(ア)1ないし24)及び弁論の全 ,県全体や他地域に比べ特異的な減少があったとまでは認められない。 ウワタリガニ(ガザミ)について証拠(甲A56の1ないし9,甲A57の1ないし12,乙A10の(ア)1ないし24)及び弁論の全趣旨によれば,ワタリガニ(ガザミ)の漁獲量は,別紙8記載のとおりである。 原告らは,「横山」地域について,上記漁業統計に基づき,排砂後の(イ)平成4年以降,漁獲があったのは平成11年と平成17年のみであり,その余は全く漁獲がなく,排砂後に漁獲量が顕著に減少していると主張する。しかしながら,排砂前に漁獲があるときもその漁獲量は「0」(- 39 -1トン未満)か「1」であること,「朝日」,「横山」,「吉原」,「黒部」及び「石田」等のその他の地域においても同様であることはクルマエビの場合と同様であり,県全体との比較や他の地域との比較において,漁獲量から見た排砂の影響を検討するのは困難といわざるを得ない。 また,漁獲量がないのは排砂前の平成2年からであり,「横山」地域のワタリガニの漁獲量について,排砂により特異的な減少があったとまでは認められない。 上記認定事実及び公調委に対する原因裁定嘱託の結果によれば,本件(ウ)海域である「朝日」及び「入善」の1990年代の漁獲量は,1980年代の変動幅との比較において低いものとなっているが,「黒部」も同様の傾向を示しており,富山県全体の変動傾向と類似していると認められ,排砂の影響によりワタリガニ(ガザミ)の漁獲量に本件海域に特異的な減少(不漁)が生じているとは認められない。 エその他の魚種について公調委に対する原因裁定嘱託の結果によれば,本件海域で排砂の影響によりアカガレイの漁獲量に特異的な減少(不漁)が生じているとは認められない。その他の魚種についても,漁業資源量の減少の有無を検討するに足りる漁獲統 原因裁定嘱託の結果によれば,本件海域で排砂の影響によりアカガレイの漁獲量に特異的な減少(不漁)が生じているとは認められない。その他の魚種についても,漁業資源量の減少の有無を検討するに足りる漁獲統計等の資料が存在しないため,漁獲量から見た排砂の影響は明らかではない。 排砂がワカメ養殖に与えた影響について( )ア前提となる事実のほか,証拠(甲A12,70,83,乙A39,公調委に対する原因裁定嘱託の結果)によれば,以下の事実が認められる。 原告組合は,昭和62年秋からワカメの養殖を開始したが,これは,(ア)毎年10月末から11月初めころ,養殖綱を佐渡から購入し,これを本件養殖場の海中に設置し,翌年4月から5月初めに成長したワカメを収穫するというものであった。 - 40 -当初,収穫したワカメの品質は良好で,試食会での評判も良く,「入(イ)善ワカメ」のブランドで販路の見通しも立ったため,平成2年の養殖綱設置からは養殖綱をそれまでの8本くらいから12本くらいに増やし,さらに平成3年の養殖綱設置からは,区画漁業権をそれまでの1か所から2か所に増やした。 ところが,養殖綱設置後に平成3年12月の初回排砂があった平成4(ウ)年産ワカメの収穫は,葉先が黄色に変色して商品価値が低いものとなり,平成5年以降の収穫でも,同様の変色のほか,ヨコエビの巣の付着,幼芽の脱落,成長不良があって,品質・収穫量とも不満足なものとなった。 原告組合は,その後,投資が無駄になるのを恐れて養殖規模を縮小し(エ)たが,さらに,その後も収穫ワカメの品質・量とも不振な状況が続いたため,平成10年の収穫をもってワカメ養殖を廃止した。 イ被告の反論について被告は,原告組合がワカメ養殖を廃止したのは,養殖の普及や輸入の(ア)増大,天然物も含めた全国的な生産過剰によ が続いたため,平成10年の収穫をもってワカメ養殖を廃止した。 イ被告の反論について被告は,原告組合がワカメ養殖を廃止したのは,養殖の普及や輸入の(ア)増大,天然物も含めた全国的な生産過剰による価格低迷が原因ではないかと主張するが,Eは,同組合の生産するワカメについて,「地場産としての需要はあったはず」と述べ,原告組合の組合員であるHも,ほぼ同旨を述べており(甲A83,公調委に対する原因裁定嘱託の結果),養殖の廃止は,その背景に価格低迷もあったことは否定し難いとしても,直接的には上記のとおり収穫の不振によるものと認めることができる。 被告の指摘するように富山県東部(黒部市・入善町・朝日町)沿岸域(イ)の漁場環境(乙A39)とわかめ養殖漁業地区別収穫量(乙A42の6の2)の示す収穫量には明らかな食い違いがあり,ワカメの正確な収穫量は必ずしも明らかでないが,いずれにしても平成5年以降収穫量に不振があることに異ならず,また,上記認定のとおり,収穫量だけでなく,その質も問題であるから,このことから直ちにワカメの養殖が不振であ- 41 -ったことまで否定されるものではなく,上記認定に影響しない。 ワカメ養殖の不振については,後記排砂がワカメに影響を及ぼす機序(ウ)により裏付けられるものであるから,Hの供述や富山県東部(黒部市・入善町・朝日町)沿岸域の漁場環境(乙A39)が信頼性や客観性に疑わしい証拠であるということもできない。 また,平成8年4月23日付けの北日本新聞(乙C5)に原告組合の(エ)当年のワカメの品質は上々とのコメントが記載されていることについて,実際にワカメの品質が上々であったことを裏付ける証拠はなく(広報にゅうぜん(乙C4の1)等の同様の記載について,Hは悪い評判を立てないためにそのような発言があったのではないかと供 いることについて,実際にワカメの品質が上々であったことを裏付ける証拠はなく(広報にゅうぜん(乙C4の1)等の同様の記載について,Hは悪い評判を立てないためにそのような発言があったのではないかと供述している。),上記認定に影響しない。 ウ排砂がワカメに影響を及ぼす機序について公調委に対する原因裁定嘱託の結果によれば,以下の事実が認められ(ア)る。 aワカメは,他の海藻類と比較しても,特に濁りに弱い海藻であり,海水の濁りは,ワカメの成長を阻害することを通じてワレカラやヨコエビの付着・繁殖の誘因となり,また,ヨコエビの営巣の材料となる。 bEは,平成7年4月29日ころ,本件養殖場のワカメについて,ヨコエビの巣の付着による被害の状況を調査したが,その結果,①ワカメの成長は悪く,ほとんどが1メートル未満であったこと,②岸側より沖側の養殖綱で成長が悪く,その原因として濁りによる光不足が考えられたこと,③一本の養殖綱では,波浪の影響が大きい浮きの周囲では比較的成長が良く,浮きと浮きの間では着生密度もまばらであったこと,④ワカメに着いている泥状の付着物は,ヨコエビの巣(棲管)で,珪藻など微小藻類の付着も多く,通常の「漬け洗い」では落ちないこと,⑤ワレカラは例年も良く見られるが,ヨコエビ類はその年- 42 -が初めてであったこと,⑥同年5月に魚津市と朝日町で天然ワカメを採集したが,特に異常はなかったこと,⑦ワレカラはマルエラワレカラ,ヨコエビはカマキリヨコエビなどで,ワカメ1藻体に少なくとも数十から数百個体が付着しており,特に葉状部の先端で多かったことが確認された。 以上の事実に加え,ワカメの先端部の黄変,ヨコエビの巣の付着,幼(イ)芽の脱落,成長不良は,一般論として,いずれも濁りに起因するものである可能性を肯定できるとする科学的知見 たことが確認された。 以上の事実に加え,ワカメの先端部の黄変,ヨコエビの巣の付着,幼(イ)芽の脱落,成長不良は,一般論として,いずれも濁りに起因するものである可能性を肯定できるとする科学的知見(公調委に対する原因裁定嘱託の結果)等を総合すれば,本件養殖場のワカメ収穫の不振の原因は,海域に浮遊する泥による日照不足又は浮遊する泥が藻体に付着したことによる成長不良,これらに伴う珪藻等藻類の繁殖,以上を誘因とするワレカラ,ヨコエビの繁殖,さらに,浮遊する泥等の懸濁物質を利用したヨコエビの営巣によるものであると推認できる。 本件海域の浅海域には,各所に排砂を原因とする浮泥又はぬかるみ状(ウ)の泥の堆積が生じること,これらの泥は,翌年春ころまでには多くが消失すること,本件海域では,特に冬期(11月から3月)の波高が高いことは上記のとおりである。これらの泥は,冬期の波浪により巻き上げられ,拡散・流失し,その過程では,これらの泥が海水中で懸濁状態になることが推認される。以上に加え,冬期は本件養殖場のワカメの生育期であること,上記のとおり,初回排砂以前には,本件養殖場で収穫されたワカメの品質は良好で,原告組合は養殖規模を拡大してきたこと,平成7年のヨコエビ被害が生じたのと同時期に他の近隣海域のワカメには異常がなかったこと(公調委に対する原因裁定嘱託の結果)にかんがみれば,これらの泥がワカメ養殖不振の原因となった泥の主な供給源であったことを推認し得る。 そうすると,原告組合がワカメ養殖をしていたころ,排砂により付近(エ)- 43 -の浅海域に生じていた浮泥又はぬかるみ状の泥は,冬期の波浪により巻き上げられて海水の濁りとなり,また,これがワカメの藻体にも付着して,ワカメの成長を阻害したり,珪藻類を誘引したりして,ヨコエビやワレカラを繁殖させ, た浮泥又はぬかるみ状の泥は,冬期の波浪により巻き上げられて海水の濁りとなり,また,これがワカメの藻体にも付着して,ワカメの成長を阻害したり,珪藻類を誘引したりして,ヨコエビやワレカラを繁殖させ,さらにヨコエビはワカメの藻体に営巣し,ワカメの収穫量の減少と品質低下を引き起こしたと認められる。 不法行為責任について( )ア証拠(乙A19)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 出し平ダムは,黒部川の河口から約26キロメートルの上流地点に被(ア)告が建設したダムである。一般にダム湖は,治水,利水の面で大きな効力を持つが,出洪水時に多量の土砂がダム湖に流入するため,予め将来の堆砂に対応できるだけの貯水容量を見込むが,出し平ダムにおいては,国内で初めての大規模な排砂設備の設置が計画された。この排砂設備の設置は,ダム湖の堆砂対策のためだけでなく,従来から提起されているダム上流の河床の上昇やダム下流での土砂供給が断たれることによる河床の低下,その一因をなすといわれている海岸浸食の問題等への解決策のひとつとして考えられていた。 出し平ダムは,昭和60年9月に完成し,被告は,ダム湖の堆積量に(イ)ついて,毎年深浅測量を行ってきたが,平成3年末において出し平ダム湖の音沢発電所の取水口より下部に必要な空容量が100万立方メートルを割ることになり,被告は,初めて排砂ゲートを用いた堆積土砂の除去作業(排砂)の実施を計画した。「出し平ダム操作規程」によれば,排砂は原則として洪水処理時に合わせて実施すると定められていたが,上記の状況により,出し平ダムの上流発電所からの放流水を利用して実施された。 初回の排砂の目標排砂量は,昭和61年から平成2年の過去5年間の(ウ)年間平均土砂流入量に相当する約30万立方メートルとし,堆積形状の- 44 ムの上流発電所からの放流水を利用して実施された。 初回の排砂の目標排砂量は,昭和61年から平成2年の過去5年間の(ウ)年間平均土砂流入量に相当する約30万立方メートルとし,堆積形状の- 44 -実測結果をもとにシミュレーションを実施した結果,7日間の排砂期間で約30万立方メートルを排砂する計画が立てられた。計画時点では,排出される砂のほとんどが粒径の大きな砂礫分と想定されたため,これらの土砂は河川域でその大部分が沈降すると予想されており,また濁質による海域での拡散も通常の洪水程度とされていた。 ところが,流出土砂量は,当初の予想を大幅に超え,黒く腐敗臭を伴(エ)っていたことから,黒部川のほか,沿岸海域にまでもその影響を及ぼしたため,漁業団体等の強い中止要請を受け,排砂は3日間で作業を中止した。この間で排出された土砂量は,46万立方メートルであった。 排砂の実施に当たり,被告は,関係団体や県等との事前の協議,調整(オ)が不十分であり,観測体制も大部分が沈降するものと予想していたため,作業時の流域における河川水質の観測は「愛本」地点よりも下流では行わなかった。 さらに,出し平ダム上流の峡谷斜面から樹木や木の葉及び腐植土等の有機物が大量の土砂とともにダム湖に流れ,堆積し,それらが嫌気分解を受け変質したことやそれに伴う流域への影響について全く予想していなかった。 イ平成3年の出し平ダムの排砂について以上によれば,被告は,ダム湖に堆積する土砂を排砂する設備を備えた出し平ダムを建設しながら,ダム完成後6年間の長きにわたり,「出し平ダム操作規程」による排砂作業を実施してこなかったために,平成3年12月の排砂の実施により,前記のとおり,本件海域の浅海域への悪影響を及ぼすに至ったものといえる。そうすると,出し平ダムの保存に瑕疵があり,また 」による排砂作業を実施してこなかったために,平成3年12月の排砂の実施により,前記のとおり,本件海域の浅海域への悪影響を及ぼすに至ったものといえる。そうすると,出し平ダムの保存に瑕疵があり,また,被告は,出し平ダムの管理上の注意義務を怠ったものといえ,これにより原告らの権利を侵害して被らせた損害について,民法717条及び709条により損害賠償責任を負う。 - 45 -なお,漁業権については,漁業協同組合に帰属するが,組合員は,漁業協同組合という団体の構成員としての地位に基づき,組合の制定する漁業行使規則の定めるところに従って漁業を営む権利(漁業行使権)を有するところ(漁業法8条),漁業行使権は,物権的性格を有し,第三者がその権利行使の円満な状態を侵害したときには,組合員はその第三者に対し,妨害排除請求若しくは損害賠償を請求することができ,また,漁業権侵害罪で告訴することもできる(同法143条)。 ウその後の出し平ダムの排砂について前記で認定した事実によれば,被告は,平成3年の出し平ダムの排砂により本件海域への悪影響を認識したものであり,その後の排砂の実施に当たっては,本件海域の環境に悪影響を与えずにこれを実施すべき注意義務を負うものということができる。そうすると,被告の排砂により本件海域に悪影響を与えたことで,上記注意義務を怠ったものであり(なお,必ずしも被告の個々の排砂による本件海域への個別的な悪影響を認定することは困難であるが,被告の個々の排砂の積み重ねが本件海域への悪影響を与えているものであり,不法行為の成立を認めることはできる。),これにより原告らの権利を侵害して被らせた損害について,民法709条により損害賠償責任を負う。 争点2(原告らの損害)について 原告組合の損害について( )ア上記認定によれば,出し ),これにより原告らの権利を侵害して被らせた損害について,民法709条により損害賠償責任を負う。 争点2(原告らの損害)について 原告組合の損害について( )ア上記認定によれば,出し平ダムの排砂により浅海域に堆積した泥の巻き上がりがワカメの成長不良等を生じさせたため,原告組合のワカメ養殖が不振となり,原告組合に損害が発生したことは明らかである。 イ前提となる事実のほか,証拠(甲A12,C4,8ないし12,証人H)によれば,以下の事実が認められる。 原告組合の金銭出納帳には,平成8年度(平成8年1月1日から12(ア)- 46 -月31日)の収支繰越金として,漁協78万0057円,農協1万3885円の合計79万3942円の残高が記帳されており(その収支状況等は不明である。),入善漁業協同組合が証明した原告組合によるワカメ養殖の水揚高は,別紙3の④に記載の「実際の漁獲高(A)」のとおりである。 原告組合は,入善町から平成9年1月20日に30万円の補助金を受(イ)け取っていた。 平成9年には,原告組合は,漁協に対する行使料,塩代,箱代,シー(ウ)ル代,共同作業所使用量,用船料,保管料,種ワカメ代等の経費として22万9376円を支出している。また,人件費として,23万1000円を支出した。 ワカメの卸価格については,当初1キログラム当たり800円であっ(エ)たが,平成3年ないし5年ころから1000円になったり,その時期等によって変遷がある。 ウ被告は,算定根拠である収穫量及び販売単価について信頼し得る客観的資料に乏しく,水揚高表(原告組合分)(甲C4)の水揚高の数値は信用できないと主張するところ,確かに,収穫量や販売単価について客観的資料に乏しく,正確な数値が不明であることは被告の指摘するとおりであるが,原告組合の金 表(原告組合分)(甲C4)の水揚高の数値は信用できないと主張するところ,確かに,収穫量や販売単価について客観的資料に乏しく,正確な数値が不明であることは被告の指摘するとおりであるが,原告組合の金銭出納帳に記載された平成8年度の収支繰越金と入善漁業協同組合の証明した平成8年水揚額と大差がないこと,原告組合が所属する漁業協同組合に虚偽の申告をするとは考えにくいこと,他にこれに反する証拠もないこと等からすれば,入善漁業協同組合が証明した水揚高をもって,原告組合のワカメ養殖の漁獲高と認めることができる。 エ原告らは,平成元年から平成3年までの平均漁獲高を基準漁獲高とした上で,その後の各年の漁獲高と基準漁獲高の差額をすべて損害として主張するところ,出し平ダムの排砂による影響を受ける前の漁獲高は,平成元- 47 -年から平成3年までしかなく,原告組合の損害額を算定するために,この間の平均漁獲高を基礎とするのが合理的である。なお,漁獲高の減少には,収穫量の減少の原因は排砂のみではなく,また,市場価格の変動等収穫量の減少以外の要因も影響することも考えられるが,その影響の程度を算定することは事実上不可能であり,原告組合の損害額を算定する上では,原告らの主張する方法が相当である。 オまた,原告らは,平成10年のワカメ養殖の廃止後,平成18年までの基準漁獲高との差額を損害として主張している。Hは,排砂の影響がなければ,現在までワカメ養殖を続けていた旨供述するが(証人H),ワカメ養殖の不振には,養殖の普及や輸入の増大等による市場価格の低迷といった他の要因の影響も考えられたことからすると,Hの上記供述によっても現在までワカメ養殖が継続されていたことまで認められないが,ワカメ養殖の廃止の原因が主として排砂にあったことや原告組合が排砂後にワカメの収穫が不 響も考えられたことからすると,Hの上記供述によっても現在までワカメ養殖が継続されていたことまで認められないが,ワカメ養殖の廃止の原因が主として排砂にあったことや原告組合が排砂後にワカメの収穫が不振となった後も平成10年まで事業を継続していたことからすれば,排砂の影響がなければ平成10年の時点にワカメ養殖を廃止していたとは考えにくく,原告組合の行使する第1種区画漁業権の存続期間は,漁業法上,5年であること(漁業法21条)も考慮すると,排砂との因果関係を認める原告組合の損害の算定としては,少なくとも5年間の損害額は発生したものとするのが相当である。 カ原告らは,ワカメ養殖における人件費については,組合員及びその家族で行っていたものであって,売上げの分配とみなすべき金員であり,経費ではないと主張するが,たとえ相手が組合員等であっても,売上げの分配としてではなく,ワカメの加工等の際,日当として支払われている以上,経費であることは明らかであり,原告らの上記主張は採用できない。そして,平成9年で見ると,ワカメ養殖の経費が入善町からの補助金を上回っているが,その金額は16万円程度と少額である。 - 48 -キ以上のとおり,漁獲高は上記のとおりであり,ワカメ養殖が不振となった主な原因が,出し平ダムの排砂により浅海域に堆積した泥の巻き上がりがワカメの成長不良等を生じさせたことにあるが,他方,ワカメ養殖の不振には,養殖の普及や輸入の増大等による市場価格の低迷といった他の要因の影響も考えられること,原告組合が平成10年でワカメ養殖を廃止しているが,区画漁業権の存続期間は5年であり,上記の他の要因の影響を考えると,原告組合の損害としては,平成15年までの分を損害額とするのが相当であること,損害算定の基礎漁獲高を出し平ダムの排砂による影響を受ける前の 権の存続期間は5年であり,上記の他の要因の影響を考えると,原告組合の損害としては,平成15年までの分を損害額とするのが相当であること,損害算定の基礎漁獲高を出し平ダムの排砂による影響を受ける前の平成元年から平成3年までの平均漁獲高とすることが不当とまでいえないことなどを考慮すると,排砂による原告組合の損害としては別紙3の④記載の損害額(B-A)の平成4年から平成15年までの合計額3623万9996円と認めるのが相当である。 その他の原告らについては,排砂との因果関係が認められないので,損害( )については検討しない。 争点3(本件補償契約の効力が原告らに及ぶか)について 原告らの損害賠償請求権の帰属主体性について( )前記したとおり,漁業権は漁業協同組合に帰属するが,これらに所属する組合員である原告らは,漁業を営む権利(漁業行使権)を有し,これが第三者に侵害された場合には損害賠償請求をすることができる。このことは,被告のいうとおり漁業を営む権利が社員権的権利であっても異なるものではない。そうすると,原告らの有する漁業行使権を侵害されたことによる損害賠償請求権は,漁業協同組合が有する漁業権とは別に,原告組合員ら個々に帰属するものであり,これを行使,処分できるのは,原告ら自身であって,漁業協同組合が原告らの委任を受けることなく,その意思に反して行使,処分することはできない。本件補償契約の内容は,前記のとおりであり,既に発生した漁業被害の補償,将来発生する漁業被害の補償,漁業振興対策費等を- 49 -内容とするものであり,県漁連や9漁協が漁業権を全部又は一部放棄する内容でないことは明らかであるから(被告もそのような主張はしていない。),原告らの漁業を営む権利も失われておらず,原告らの本件補償契約締結後に発生する損害賠償請 9漁協が漁業権を全部又は一部放棄する内容でないことは明らかであるから(被告もそのような主張はしていない。),原告らの漁業を営む権利も失われておらず,原告らの本件補償契約締結後に発生する損害賠償請求権も失われない。被告の引用する最高裁判所平成元年7月13日第一小法廷判決(民集43巻7号866頁)は,共同漁業権放棄の対価としての補償金の事案であり,本件とは事案を異にする。 原告らの委任について( )ア本件補償契約の締結について,本件全証拠によるも,原告らが個別的に委任を行っていたことを認めるに足りる証拠はなく,各漁業協同組合の総会において決議した事実すら認められない。 イ被告は,原告らが,県漁連と被告との間で補償交渉を行っていることについて,新聞等で報道されており,これをを知っていたこと,原告Dにおいては,ビデオテープ「新世紀への選択黒部川・ダム排砂はほんとうに安全か」(甲A14の1)の中で県漁連に任せることになった旨発言していたこと,原告らが受領した補償金等の出所が県漁連であり,これを被告から受領したものであると思っていたこと,原告らが特に異議を述べていないことなどから,原告らが被告との補償交渉を県漁連に委ねようという意思があったと主張する。 しかしながら,被告の上記主張からも,原告らが,県漁連が被告との間で何らかの交渉をしていることを容認していたということはいえても,そこから直ちに県漁連に原告ら各自の漁業行使権の侵害に対する損害賠償に関する漁業補償交渉を委任していたとまではいえず,ましてや,交渉のみならず,損害賠償金額の合意を含む全面的な契約締結権限まで委任したとまでいえないのは明らかである。 本件のように多数の損害賠償請求権者が代表者を立てて相手方との間で補償契約を締結しようとすることは,集団交渉若しくは組合員の集団の む全面的な契約締結権限まで委任したとまでいえないのは明らかである。 本件のように多数の損害賠償請求権者が代表者を立てて相手方との間で補償契約を締結しようとすることは,集団交渉若しくは組合員の集団の力- 50 -を背景にしてより有利な成果を期待できるといえなくもないが,そのような場合,代表者と相手方との間の交渉の過程や契約案がまとまった段階で,代表者が,各損害賠償請求権者に対し,契約案を開示して,各損害賠償請求権者の同意を得た上で,最終的な契約締結に至るのが一般的であるが,本件においてそのような手続がとられた事実は認められない。 ウ被告は,原告らが,「今后将来理由の如何を問わず貴職及び関西電力㈱(被告)に対し,一切の請求・異議をなさないことを確認する」と記載された本件領収書兼確認書(乙C2の1ないし15)に署名・押印していることからも県漁連に補償交渉を委ねようという意思があったと主張するが,事後的に本件領収書兼確認書に署名・押印したからとって,事前に委任する意思があったことにはならず,上記認定を左右するものではない。 エ被告は,多数の漁業者に関する漁業補償については,漁業協同組合が交渉を行う慣行があったなどと主張するが,そのような慣行が成立していると認めるに足りる証拠はない。 オ以上によれば,原告らが本件補償契約の締結について,個別的に,明示又は黙示的に委任していたとは認められない。 原告らの追認について( )証拠(乙C2の1ないし15)によれば,原告らが,別紙3記載のとおりの補償金等を受領する際,「今后将来理由の如何を問わず貴職及び関西電力㈱(被告)に対し,一切の請求・異議をなさないことを確認する」と記載された本件領収書兼確認書に署名・押印したことが認められる。 しかしながら,証拠(証人H,原告D)及び弁論の全趣旨によれば び関西電力㈱(被告)に対し,一切の請求・異議をなさないことを確認する」と記載された本件領収書兼確認書に署名・押印したことが認められる。 しかしながら,証拠(証人H,原告D)及び弁論の全趣旨によれば,原告らは,県漁連と被告との交渉の具体的な経過の詳しい説明を聞いたことがないこと,県漁連からは,県漁連が総額でいくらの金額を受領したか,また,県漁連が受領した補償金額をどのように配分したかの説明もなく,本件領収書兼確認書の署名・押印を求められたことが認められるところ,本件領収書- 51 -兼確認書により,原告らの損害賠償請求権がすべて解決し,今後一切の請求ができない内容の法的効果を与えるのであれば,その効果の大きさからして,その具体的内容及び効果について,十分な説明を行った上,慎重,確実に,その意思確認が行われるべきであるが,上記のとおり,そのような説明が行われなかったことからすれば,本件領収書兼確認書に署名・押印したことをもって,本件補償契約の締結を追認したとまで認めることはできない。 以上によれば,本件補償契約の効果は原告らには及ばない。 ( ) そうすると,排砂による原告組合の損害が上記のとおり3623万999( )6円であり,補償金等として895万8702円を受け取ったことは前提となる事実のとおりであるから,これを控除した残額は,2728万1294円となる。 争点4(排砂の差止め等の必要性)について原告らは,漁業行使権を有し,この権利は物権的性格を有することは前記したとおりであり,漁業行使権に基づき,妨害排除請求や妨害予防請求を求めることができる。 まず,妨害排除請求としてのヘドロの除去について検討する。本件海域の( )浅海域において,出し平ダムの排砂により堆積した泥が原告組合の漁業行使権を侵害していることは前記 求めることができる。 まず,妨害排除請求としてのヘドロの除去について検討する。本件海域の( )浅海域において,出し平ダムの排砂により堆積した泥が原告組合の漁業行使権を侵害していることは前記したとおりであるが,現に残存している泥のうち排砂により堆積したヘドロその他の微細泥を区別することは事実上不可能であること,また,原告組合はワカメ養殖を平成10年に廃止していることなどを考慮すると,原告組合の漁業行使権に基づく妨害排除請求としてのヘドロの除去を認める必要性もなく,理由がないといわざるを得ない(なお,原告組合を除く原告らの漁業行使権が侵害されたものと認められないことは前記のとおりであり,原告組合を除く原告らの上記請求も理由がない。)。 次に,妨害予防請求としての排砂の差止めについて検討する。 ( )出し平ダムの排砂が,本件海域の環境に影響を及ぼし,原告組合の漁業行- 52 -使権を侵害していることは前記したとおりであり,漫然と排砂を継続することが容認できないことはいうまでもない。しかしながら,黒部川出し平ダム排砂影響検討委員会において,出し平ダムの排砂について検討したところによれば,出し平ダム湖に堆積した土砂等を除去する方法として,①堆積物を除去せず,放置する場合,②排砂ゲートを使用しないで対処する場合((ア)出し平ダム湖に土砂が流入することを抑制する方策,(イ)出し平ダム湖の堆積物を他の方法により除去し,処理する方策),③排砂ゲートを用いて排砂する場合等を総合的に検討すると,③排砂ゲートを用いて排砂する場合において,出洪水時に排砂するなど,流域への影響を低減させるべき排砂方法の選択と補助的な方策を併用することにより実現は可能と考えられ,「発電設備による発電用水の放流」によるSS濃度の低減という補助的方策を併用し,更に「堆 するなど,流域への影響を低減させるべき排砂方法の選択と補助的な方策を併用することにより実現は可能と考えられ,「発電設備による発電用水の放流」によるSS濃度の低減という補助的方策を併用し,更に「堆積物の質の改善」等のとり得る補助的方策を実証試験等により検証しながら,出洪水時に合わせ排砂ゲートを用いて排砂せざるを得ないと判断されていること(乙A19),そして,原告組合はワカメ養殖を平成10年に廃止しており,現時点では原告らの漁業行使権が侵害されているとまでは認められないことなどを考慮すると,被告が上記黒部川出し平ダム排砂影響検討委員会の検討結果を尊重して,今後の排砂を実施していく限り,原告らの漁業行使権に基づく妨害予防請求としての排砂の差止めまで認める必要性はなく,理由がないものといえる。もっとも,出し平ダムによる排砂が本件海域に及ぼす影響のすべてが解明されたものではなく,今後も,継続して調査される必要があるとともに,被告を含む関係各機関には,原告ら利害関係を有する者の意見を反映した調査体制が確立されることが望まれる。 第4 結論 以上によれば,その余の点を検討するまでもなく,原告らの請求は,被告に,原告組合に対する2728万1294円の支払を求める限度で理由があるが,その余はいずれも理由がない。よって,主文のとおり判決する。 - 53 -富山地方裁判所民事部裁判長裁判官佐藤真弘裁判官大野博隆裁判官松本武人
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