平成15(行ス)64 一部執行停止決定に対する抗告事件(原審・東京地方裁判所平成14年(行ク)第197号(第1事件),平成15年(行ク)第21号(第2事件))

裁判年月日・裁判所
平成15年12月25日 東京高等裁判所 公用負担・公用収用など
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判決文本文23,456 文字)

主文 1 原決定主文2項(1)(抗告人東京都知事に対し明渡裁決の執行〔代執行手続の続行〕の停止を命じた部分)を取り消す。 2 上記取消しに係る部分の相手方らの本件申立てをいずれも却下する。 3 申立費用及び抗告費用は相手方らの負担とする。 理由 第1 当事者の申立て 1 抗告の趣旨主文と同旨 2 相手方ら本件抗告をいずれも却下する。 第2 事案の概要(抗告審の対象となった部分) 1 抗告人国及び抗告人日本道路公団(以下「抗告人公団」という。)は,都心から約40ないし60㎞圏に位置する都市を相互に連絡し,放射状の幹線道路と接続することとした総延長約300㎞の環状の自動車専用道路であるα1自動車道(以下「α1道」という。)新設等の事業の起業者である。相手方らは,当該事業の一部である区間の道路とインターチェンジの建設予定地内に土地建物を所有する者である。起業者は,東京都収容委員会が相手方らに対し前記土地建物についての権利取得裁決及び明渡裁決をしたため,行政代執行法に基づいて,抗告人東京都知事(以下「抗告人知事」という。)に対し,明渡裁決の代執行の請求を行い,抗告人知事は,一部の土地を除き代執行手続に着手している。 相手方らは,東京都収容委員会を被告として東京地方裁判所に上記裁決の取消訴訟を提起した上,行政事件訴訟法25条に基づき,抗告人知事を相手方として,明渡裁決の執行(代執行手続の続行)の停止を命ずる申立てをした。 2 原審は,① 当該区間の工事の進行がα1道全体の完成に直ちに影響を及ぼすものではなく,同区間以南の工事についてはその完成時期が明確でない状況にあって,同区間のみの完成を急ぐべき具体的必要性があるか否かは明らかでないこと,同区間の工事について代執行手続を採ったとしてもその後に行うべき遺跡調査の内容如何 いてはその完成時期が明確でない状況にあって,同区間のみの完成を急ぐべき具体的必要性があるか否かは明らかでないこと,同区間の工事について代執行手続を採ったとしてもその後に行うべき遺跡調査の内容如何によっては,なお相当期間工事に着手できない可能性があること,抗告人らが主張する工事遅延による損失等については,その信憑性を検討する必要などがあることなどからすると,代執行の手続が停止されることによって公共の福祉に与える影響は軽微である,② 相手方らの中には代執行が行われることにより居住の利益を奪われる者があるから,相手方らには直接居住の用に供していない部分についても公共の福祉に与える影響との対比において回復困難な損害を生じるものと認めることができる,③ 抗告人らは,相手方らが事業認定には違法事由があると指摘しているのに,本件ではもとより本案訴訟でも収用裁決には事業認定の違法は承継されないとの見解を前提に事業認定が適法であることを主張立証しないから,本案に理由があることは明白であると考えられるとして,抗告人知事に対し明渡裁決に基づいて行う代執行の手続の続行を停止することを命じる決定をした。 第3 当事者の主張 1 抗告人らは,抗告の理由について,別紙「抗告理由書」及び別紙「補充意見書」のとおり,抗告人知事は更に別紙「補充理由書」のとおり述べた。 2 相手方らは,抗告の理由に対する反論を,別紙「意見書(抗告理由に対する反論)」のとおり述べた。 第4 前提となる事実本件記録によれば,以下のとおりの事実を一応認めることができる。 1 当事者等(1) 相手方らは,いずれもα1道新設工事に必要とされる原決定別紙物件目録記載の土地(以下「本件各土地」という。)ないしはその地上建物の所有者又は共有持分権者であって,後記の権利取得裁決及び明渡裁決の各処分を受けた ,いずれもα1道新設工事に必要とされる原決定別紙物件目録記載の土地(以下「本件各土地」という。)ないしはその地上建物の所有者又は共有持分権者であって,後記の権利取得裁決及び明渡裁決の各処分を受けた者である。 (2) 原審第1事件相手方東京都収用委員会は,土地収用法(以下「収用法」という。)51条に基づき設置された,収用法記載の権限を行う独立行政委員会である。 (3) 抗告人国及び抗告人公団(なお,抗告人国及び抗告人公団は,いずれも原審第2事件相手方兼参加人〔原審第1事件相手方東京都収用委員会及び原審第2事件相手方東京都知事に訴訟参加したもの〕)は,いずれもα1道新設事業の起業者であり,収用法102条の2第2項に基づき,抗告人知事(原審第2事件相手方)に対して,代執行の請求をし得る権限を有する者である。抗告人知事は,同項に基づく抗告人国及び抗告人公団の請求により,行政代執行法に基づく代執行を行う権限を有する者である。 2 相手方らの土地の使用状況等(1) 相手方A相手方A(相手方らは,いずれも原審第1事件と原審第2事件の各申立人)は,原決定別紙物件目録記載1ないし8の各土地(以下,同目録各番号記載の土地を「本件土地1」などという。)を所有し,本件土地14ないし17の各土地の共有持分(各2分の1)を有している。 相手方Aは,本件土地2,4,5,14及び16の各土地を私道として,本件土地3及び6ないし8の各土地を畑としてそれぞれ使用している。 なお,本件土地1は,土地改良事業が行われた農地であるが,東京都収用委員会の現況調査の際には耕作は行われておらず,また,本件土地15及び17の各土地は未使用の雑種地の状態であった。 (2) 相手方B相手方Bは,本件土地9及び10の各土地の共有持分(各2分の1)と本件土地11及び12の各土地の共 れておらず,また,本件土地15及び17の各土地は未使用の雑種地の状態であった。 (2) 相手方B相手方Bは,本件土地9及び10の各土地の共有持分(各2分の1)と本件土地11及び12の各土地の共有持分(各10分の1)を有している。 相手方Bは,本件土地9及び10の各土地上に存する建物の共有持分(各2分の1)を有し,同建物に居住している。また,本件土地11及び12の各土地を私道として使用している。 なお,相手方B以外の共有持分権者らは,土地収用について特段の異議を述べてはいない。 (3) 相手方C及び相手方D相手方Cは,本件土地13を所有し,本件土地14ないし17の各土地の共有持分(各2分の1)を有している。また,相手方Cと相手方Dは,本件土地13に存する建物を共有(相手方Cが5分の2,相手方Dが5分の3)し,それぞれ同建物に居住している。 また,(1)記載のとおり,本件土地14及び16の各土地は私道として使用されているが,本件土地15及び17の各土地は,東京都収用委員会の現況調査の際には,未使用の雑種地の状態であった。 (4) 相手方E及び相手方F相手方Eは,本件土地18ないし26の各土地を所有し,本件土地27について,相手方Fとともに共有持分(各2分の1)を有している。 相手方Eは,本件土地19ないし26の各土地上に存する複数の建物を所有し,相手方Fとともに同建物に居住していたが,平成15年7月25日以降,ネフローゼ症候群によりあきる野市所在の病院において入院加療を続けている。 本件土地27は,G家(編注 GはEの姓である。)代々の墓地として使用されてきた。 なお,本件土地18は,土地改良事業が行われた農地であるが,東京都収用委員会の現況調査の際には耕作は行われていなかった。 3 事業の概要(1) 建設大臣(当時)は, の墓地として使用されてきた。 なお,本件土地18は,土地改良事業が行われた農地であるが,東京都収用委員会の現況調査の際には耕作は行われていなかった。 3 事業の概要(1) 建設大臣(当時)は,平成12年1月19日,東京都あきる野市α2地内から同市α3地内までの区間,青梅市α4地内から同市α5地内までの区間及び同市α6地内から同市α7地内までの区間についての,一般国道α8(一般有料道路「α1自動車道」)を新設し,併せてその付帯工事並びに市道付替工事を行う事業(以下「本件事業」という。)について,収用法20条に基づく事業認定(以下「本件事業認定」という。)の告示をした。 本件事業は,α9インターチェンジからα10インターチェンジを経てα11インターチェンジに至るまでの区間のα1道建設及びその付帯工事並びに市道付替工事を行うものであるが,本件事業区間のα1道路線のうち,α9インターチェンジからα10インターチェンジまでの区間(約8.7㎞)は,既に平成14年3月に供用が開始されている。 本件各土地は,いずれも上記本件事業区間のうち,東京都あきる野市α2地内から同市α3地内までの区間(以下「本件区間」という。)においてα1道建設予定地(その一部がα11インターチェンジ建設予定地)とされている土地である。 (2) α1道は,東京都心からおおよそ半径40ないし60㎞の位置に計画されている総延長約300㎞の環状の自動車専用に係る高規格幹線道路であり,α12高速道路,α13自動車道,α14自動車道,α15自動車道,α16自動車道,α17自動車道α18線などの都心から放射状の幹線道路と接続することにより都心を通過するのみの交通を排除し,また,都心近郊の交通を適切に分散導入することにより首都圏の交通混雑を緩和するとともに,横浜市,厚木市,八王子市,青梅 の都心から放射状の幹線道路と接続することにより都心を通過するのみの交通を排除し,また,都心近郊の交通を適切に分散導入することにより首都圏の交通混雑を緩和するとともに,横浜市,厚木市,八王子市,青梅市,川越市,つくば市,成田市,木更津市などの業務核都市を始めとする中核都市を連絡することにより,業務機能等を適切に分散させ,地域開発を促進するなどの首都圏の更なる発展のための役割を担うことなどを目的にする事業である。 α1道は,昭和60年度に事業化され,昭和61年度に首都圏基本計画として策定され,また,平成元年3月13日に抗告人知事により「α1道路」として都市計画決定(東京都告示第246号ないし249号)されている。そして,首都圏の環状道路としての機能を発揮させるために,まず本件土地の所在する東京都の西側外周区間について緊急に整備を行い,早期に効果の実現を図るために,順次部分供用を行うこととされている。 計画されているα1道のうち,現在既に完成し,供用が開始されている区間は,上記α9インターチェンジからα10インターチェンジまでの区間を含む,埼玉県α19ジャンクションからα10インターチェンジまでの約28.5㎞である。 4 明渡裁決に至る経緯(1) 本件事業の起業者である抗告人国及び抗告人公団(以下「起業者」ともいう。)は,平成12年10月31日,東京都収用委員会に対し,本件土地1ないし11及び13ないし15の各土地について,収用法39条1項及び47条の2第3項に基づき,収用の裁決の申請及び明渡裁決の申立て(以下「本件第1次申請」という。)をした。 また,起業者は,同年11月30日,東京都収用委員会に対し,本件土地18ないし21,25及び27について,前記各条項に基づき,収用の裁決の申請及び明渡裁決の申立て(以下「本件第2次申請」という。 また,起業者は,同年11月30日,東京都収用委員会に対し,本件土地18ないし21,25及び27について,前記各条項に基づき,収用の裁決の申請及び明渡裁決の申立て(以下「本件第2次申請」という。)をした。 (2) 東京都収用委員会は,平成12年11月10日以降,収用法42条1項及び47条の4第1項に基づき,上記各土地が所在する東京都あきる野市の市長に対し,裁決申請書及び明渡裁決申立書等を送付し,これとともに,上記各土地の所有者及び関係人(以下「土地所有者等」という。)に対し,裁決の申請があった旨の通知をした。 あきる野市長は,収用法42条2項及び47条の4第2項に基づき,本件第1次申請については平成12年11月16日,本件第2次申請については同年12月14日,それぞれ収用の裁決の申請及び明渡裁決の申立てがあったこと等を公告し,公告の日から2週間,公衆の縦覧に供した。 (3) 東京都収用委員会は,平成12年12月4日,収用法45条の2に基づき,本件第1次申請について裁決手続の開始を決定し,その旨公告し,同月20日,東京法務局福生出張所に,裁決手続開始の登記を嘱託した。 また,東京都収用委員会は,平成13年1月11日,上記条項に基づき,本件第2次申請について裁決手続の開始を決定し,その旨公告し,同月31日及び同年2月7日,上記出張所に,裁決手続開始の登記を嘱託した。 (4) 東京都収用委員会は,本件第1次申請及び本件第2次申請(以下「本件申請」という。)にかかる審理を次のとおり実施した。 ア東京都収用委員会は,本件申請にかかる審理を平成13年5月31日に行うことを決定し,同年4月26日以降,起業者,土地所有者等に対し,審理の期日及び場所を通知した(収用法46条2項)。 イ東京都収用委員会は,平成13年5月31日,同年8月2日,同年10月 31日に行うことを決定し,同年4月26日以降,起業者,土地所有者等に対し,審理の期日及び場所を通知した(収用法46条2項)。 イ東京都収用委員会は,平成13年5月31日,同年8月2日,同年10月11日,同年11月26日,同年12月20日,平成14年1月31日,同年2月21日,同年3月25日(本件第1次申請のみ),同年4月11日(本件第2次申請のみ)及び同年5月2日(本件第2次申請のみ)と審理を実施した。 ウ東京都収用委員会は,これに並行して,収用法65条1項3号に基づき,本件申請にかかる現地調査等を実施した。 (5) 上記審理の過程で,相手方Aは本件土地8,16(持分2分の1)及び17(持分2分の1),相手方Bは本件土地12(持分10分の1),相手方Cは本件土地16(持分2分の1)及び17(持分2分の1),相手方Eは本件土地22ないし24及び26について,それぞれ残地収用の請求をした。 (6) 東京都収用委員会は,平成14年9月30日,原決定別紙権利取得裁決及び明渡裁決一覧表記載のとおり,それぞれ権利取得裁決及び明渡裁決(以下,明渡裁決を「本件明渡裁決」といい,権利取得裁決と併せて「本件裁決」という。)を行い,同年10月10日までに,相手方らに対し,裁決書正本を送達した。 5 本案事件相手方らは,平成12年12月15日,東京地方裁判所に対し,本件事業認定取消訴訟を提起し(東京地方裁判所平成12年(行ウ)第349号),さらに,平成14年11月11日,本件裁決取消訴訟を提起した(東京地方裁判所平成14年(行ウ)第421号)。東京地方裁判所は,両事件の弁論を併合して審理を進め,平成15年9月10日の第14回口頭弁論期日において人証調べを終了し,それ以降3回の口頭弁論期日を指定するとともに,その最終回である平成16年2月24日には弁論を終 事件の弁論を併合して審理を進め,平成15年9月10日の第14回口頭弁論期日において人証調べを終了し,それ以降3回の口頭弁論期日を指定するとともに,その最終回である平成16年2月24日には弁論を終結することを予定しており,双方当事者もこれに同意している。 6 行政代執行手続の経緯起業者は,平成15年6月27日,抗告人知事に対して,本件土地2ないし17,19ないし27について収用法102条の2第2項に定める代執行の請求を行ったところ,抗告人知事は,これを受けて,相手方B,相手方C,相手方D及び相手方Aに対しては同年9月15日を期限とする戒告を行い,相手方E及び相手方Fに対しては同月24日を期限とする戒告を行った。 また,起業者は,当初,本件土地1及び18については代執行の請求を行っておらず,地権者から任意の明渡を受けたものとして本件申立ての審理中に上記各土地について土地の造成工事等を進めたが,相手方らから強い抗議を受けたこともあって,いったん工事を中止し,平成15年9月11日,抗告人知事に対し,本件土地1及び18についても同様に代執行の請求を行っている。 第5 当裁判所の判断 1 相手方らは,東京都収用委員会を被告とする本案訴訟(収用裁決取消請求事件)の提起に伴って,抗告人知事に対する本件明渡裁決の執行(代執行手続の続行)の停止を求めている。 この点につき,抗告人知事は,執行停止は,本案の原告の利益を保全するための制度であり,また,その消極的要件として,本案について理由がないとみえることが規定されていることからすると,これを本来防御すべき,又は,防御し得る者は,本案の被告処分庁でしかないから,執行停止申立事件における相手方適格を有する者は本案訴訟における被告処分庁でなければならない旨主張する。行政事件訴訟法25条2項は,処分の取消しの ,防御し得る者は,本案の被告処分庁でしかないから,執行停止申立事件における相手方適格を有する者は本案訴訟における被告処分庁でなければならない旨主張する。行政事件訴訟法25条2項は,処分の取消しの訴えの提起があった場合に処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止を認めるものであるから,処分庁とその処分の執行等をする庁が異なっていて,処分庁以外の行政庁が処分を前提にその執行等を行うものである場合には,当該執行等を停止しないと原告の損害,不利益を回避することができないときがあるから,処分庁以外の行政庁を相手方とする執行等の停止の申立ても認める必要があり,執行等をする後行の処分庁も本件申立ての相手方適格を有すると解すべきである。この点に関する抗告人知事の主張は失当である。 また,抗告人知事は,行政事件訴訟法25条2項の「手続の続行の停止」とは,あくまで本案の対象である処分の効力の停止をいい,当該処分とは目的を異にする別個の処分や手続の執行停止は許されない旨主張するが,前記のとおり,代執行は,明渡裁決によって課された引渡義務等を強制的に実現させることを目的とする公権力の行使であって,これによって当初の処分の効果を完成させる性質を持つものであるから,同項にいう「処分の執行」に該当するのであり,抗告人知事の主張は失当である。 2 抗告人知事に対し,本件明渡裁決の執行行為としての代執行手続の停止を求めることの可否について検討する。 (1) 行政処分における執行停止の要件とその主張,疎明の責任ア行政処分における執行の停止は,処分,処分の執行又は手続の続行により生ずる回復困難な損害を避けるため緊急の必要がある場合にすることができる(行政事件訴訟法25条2項)ものであるが,この「回復困難な損害」とは,昭和23年に制定された行政事件特例法における執行停 より生ずる回復困難な損害を避けるため緊急の必要がある場合にすることができる(行政事件訴訟法25条2項)ものであるが,この「回復困難な損害」とは,昭和23年に制定された行政事件特例法における執行停止の要件である「償うことのできない損害」(同法10条)が厳格にすぎるとして,昭和37年に制定された現行の行政事件訴訟法において改正されたものであることを考慮すると,処分を受けることによって被る損害が金銭賠償不能あるいは原状回復不能な場合だけでなく,代替的な回復あるいは金銭賠償のみではその被る有形無形の損害が実質的に填補されないと認められる場合をいうものと解すべきである。そして,「償うことのできない損害」は,執行停止を求める申立人において主張疎明すべき積極要件である。 イまた,執行停止の消極要件として,「執行停止は」これにより「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき」にはすることができないこととされている(行政事件訴訟法25条3項)。この趣旨は,本案判決前の暫定的措置としてなされる執行停止をする必要があるか否かについては,主として処分により相手方の受けた損害の有無及び程度によって判断すべきであるが,執行停止が公共の福祉に及ぼす影響をも考慮してなされるべきことを明らかにしたものである。その影響が重大かどうかは,処分の執行により原告が受ける損害との関係において,処分が違法であることの疎明が高く無効である可能性があるか,取り消される可能性が著しく高いにもかかわらず,原告の損害を看過してまでもなお公共の福祉に対する影響を重大としてこれを守るほどの必要があるかどうかという見地から相対的に判断すべきものである。この消極要件については,処分庁,執行等をする相手方行政庁において主張疎明すべきである。 ウ執行停止の消極要件として,「本案について理由がな あるかどうかという見地から相対的に判断すべきものである。この消極要件については,処分庁,執行等をする相手方行政庁において主張疎明すべきである。 ウ執行停止の消極要件として,「本案について理由がないとみえる」ことも規定されている(行政事件訴訟法25条3項)が,これは,本案について既に理由がなく,勝訴の見込みが認められないような場合にまで執行停止を行うことは,これが消極要件の形で規定されていることからすれば,原告に回復困難な損害が生じこれを避けるため執行停止をする緊急の必要があるか否かの点を除いても,行政庁において,本案について原告が主張する事情が法律上理由がないとみえ,又は事実上の点について疎明がないことを主張し疎明し得ることを示したものであると解される。そうすると,行政庁から上記主張がされた以上,原告は,本案について理由があることも,本案の証明責任の分配に従い行政処分の無効事由や取消事由の要証事実を疎明しなければならないと解すべきである。 (2) 相手方らの受ける損害まず,本件明渡裁決の執行が行われることによって相手方らが被る損害の性質,程度について検討する。 ア抗告人知事が相手方らに対して行う本件明渡裁決の執行は,本件各土地に対するものである。前提となる事実と本件記録によれば,相手方E,相手方F,相手方B,相手方C及び相手方D(相手方Aを除く相手方ら)は,本件各土地の一部の上にそれぞれ建物等を所有(又は共有)し,相手方Aは本件各土地の範囲外ではあるが,その付近に建物を所有し,いずれもこれまで長年にわたってこれらの建物に居住してきたが,その余の土地を私道等として建物の敷地と一体として使用してきたこと,具体的には,本件土地9及び10には相手方B,本件土地13には相手方C及び相手方D,本件土地19ないし24には相手方E及び相手方Fが その余の土地を私道等として建物の敷地と一体として使用してきたこと,具体的には,本件土地9及び10には相手方B,本件土地13には相手方C及び相手方D,本件土地19ないし24には相手方E及び相手方Fがそれぞれ居住する建物が存在すること,本件土地11,12は相手方B宅,本件土地14,16は相手方C及び相手方D宅,本件土地2,4及び5は相手方A宅の私道として,本件土地3,6ないし8は相手方Aの農地としてそれぞれ使用されてきたこと,本件土地1,15,17及び18は地目は畑となっているが,現況は本件裁決申請前から雑種地であって耕作されていないこと,本件土地25及び26は相手方Eの旧宅が存在する土地であるが相手方E及び相手方Fは同所に居住していないこと,本件土地27は墓地として使用されてきたことが認められる。 イ相手方らは,本件明渡裁決の執行により,本件各土地を前記のような居住地や農地等として使用をすることができないことにより有形無形の損害を被るところ,このような損害のうち有形の財産的な損害は金銭賠償が可能であり,その余の損害も,次のとおり金銭賠償あるいは原状回復が可能であるか,代替的な回復あるいは金銭賠償により十分に填補することができるものと認められる。 (ア) 相手方Aを除く相手方らは,本件明渡裁決の執行(代執行手続の続行)に基づき,土地とともにその居住建物を引き渡し,これらが取り壊されることによって,財産的な損害のほか,慣れ親しんだ家などを離れ新たな場所への転居を余儀なくされ,相応の精神的,肉体的負担を強いられることになるといえる。また,相手方Aも,本件明渡裁決の執行の対象となっている土地に隣接した土地に居住建物を所有するから,私道等を収用される結果,財産的な損害のほか,その居住建物から新たな場所への転居を余儀なくされ,相応の精神的,肉体的負 本件明渡裁決の執行の対象となっている土地に隣接した土地に居住建物を所有するから,私道等を収用される結果,財産的な損害のほか,その居住建物から新たな場所への転居を余儀なくされ,相応の精神的,肉体的負担を強いられる可能性があるといえる。しかし,居住の利益は,自己の居住する場所を自ら決定するという憲法上保障された居住の自由(憲法22条1項)に由来して発生するものであって,人格権の基盤をなす重要な利益といえるが,この居住の自由は,国土利用や社会的基盤の上に成り立つものにすぎず,この利益は経済的,社会的,文化的に同一な地域社会ないし地縁社会に住む限り直ちに失われるというものではなく,現住の土地自体に居住し続けなければ失われるものではない。そうすると,相手方らは,前記のとおり新たな場所への転居を余儀なくされ,相応の精神的,肉体的負担を強いられるとはいえ,あきる野市内ないしその付近において現住居と経済的,社会的,文化的に同一な地域社会ないし地縁社会の範囲内に移転することは十分可能である(なお,相手方E及びその妻である相手方Fは,現住居地からほとんど離れていない場所に移転地を確保しており,相手方Bについても,現住居地とは別にあきる野市内に土地建物を所有しており,容易に転居することができるものである。)から,転居により直ちに故郷や居住の利益を失うというものではないし,その精神的,肉体的負担も土地建物に対する金銭賠償により十分に填補することができるものというべきである。 (イ) 相手方らは,本件土地25及び26上に江戸時代の古民家,古墳が存在すると主張するところ,本件記録によっても,上記各土地上にある民家が一般の朽ちかけた小型の木造家屋であってこれが民俗学的に貴重なものであるとか文化財として保存するに値するものであるとか,その敷地内にある盛土がそのような ,本件記録によっても,上記各土地上にある民家が一般の朽ちかけた小型の木造家屋であってこれが民俗学的に貴重なものであるとか文化財として保存するに値するものであるとか,その敷地内にある盛土がそのような文化財といえるものであるとは認め難い。仮に主観的に文化財のようなものであるとしても,本件記録によれば,起業者は,上記各土地に施工する予定であった橋梁の形式を変更し,これに伴い橋脚の位置を変更したことから,相手方らが古民家や古墳が存在すると主張する箇所については,橋脚が設置されないこととなったことが認められる。そうすると,上記各土地についても,土地を使用できないということ以上に格別の不利益はない。 (ウ) 前提となる事実によれば,本件土地27は墓地として使用されているところ,これについては移転が可能であるから,金銭賠償あるいは原状回復が可能であるか,代替的な回復あるいは金銭賠償により十分に填補することができるものと認められる。 (エ) その余の私道,農地,雑種地に対する本件明渡裁決の執行については,原状に回復することが容易であるから,土地を使用できないということ以上に格別の不利益はなく,金銭賠償あるいは原状回復が可能であるか,代替的な回復あるいは金銭賠償により十分に填補することができるものと認められる。 ウ以上によれば,相手方らは,本件明渡裁決の執行によって行政事件訴訟法25条2項にいう「回復困難な損害」を被ると認めることはできない。 (3) 公共の福祉に及ぼす影響と相手方らの被る損害との衡量ア前提となる事実に本件記録によれば,次の事実が認められる。 (ア) α1道の公共的意義a α1道は,東京都心からおおよそ半径40ないし60㎞の位置に計画されている総延長約300㎞の環状の自動車専用に係る高規格幹線道路であり,その内側に計画されている首都高 (ア) α1道の公共的意義a α1道は,東京都心からおおよそ半径40ないし60㎞の位置に計画されている総延長約300㎞の環状の自動車専用に係る高規格幹線道路であり,その内側に計画されている首都高速中央環状線及び東京外かく環状道路の2本の環状道路とともに,首都圏の3環状道路を構成する。これらの3環状道路が,都心から放射状に延びる高速自動車国道であるα12高速道路,α13自動車道,α14自動車道,α15自動車道,α16自動車道,α17自動車道α18線及びα17自動車道α20線並びに主要な一般国道であるα21道路及びα22国道からなる9本の放射方向道路と相互に接続することにより,3環状9放射方向道路として高速道路ネットワークを形成して,都心を通過するのみの交通を排除し,また,都心近郊の交通を適切に分散導入することにより首都圏の交通混雑を緩和するものである。それとともに,横浜市,厚木市,八王子市,青梅市,川越市,つくば市,成田市,木更津市などの業務核都市を始めとする中核都市を連絡することにより,都心部に過度に集中した業務機能等を適切に分散させて地域開発を促進し,現在の一極依存構造から拠点分散型構造へと変換を図ることで,周辺の中核都市を中心に自立性の高い地域を形成し,都心部との相互の機能分担と連携交流を行う東京圏における分散型ネットワーク構造の基本的骨格を形成するなどの首都圏の更なる発展のための役割を担うことなどを目的にする事業である。この事業は,昭和60年度に事業化され,昭和61年度に首都圏基本計画として策定され,また,東京都を対象とする部分については平成元年3月13日に抗告人知事により「α1道路」として都市計画決定(東京都告示第246号ないし249号)されていて,首都圏の環状道路としての機能を発揮させるために,まず西側区間について緊急に整 ては平成元年3月13日に抗告人知事により「α1道路」として都市計画決定(東京都告示第246号ないし249号)されていて,首都圏の環状道路としての機能を発揮させるために,まず西側区間について緊急に整備を行い,早期に効果の実現を図るために,順次部分供用を行うこととされている。 b 上記9本の放射方向道路の整備は進んでいるが,環状道路の整備は遅れていて,平成14年度における東京圏の環状道路の整備率は23%である。このうちのα1道は,平成15年4月現在において,総延長300㎞のうち28.5㎞(埼玉県α19ジャンクションからα10インターチェンジの間)について供用が開始されたにすぎない。環状道路の整備が遅れているため,例えば,首都高速道路公団の調査によれば,慢性的な交通渋滞が日常的に発生している首都高速道路の都心環状線では平成7年値として通行量の約60%を通過交通が占めているとの報告があり,国土交通省資料によれば,東京都区部の自動車交通のうち東京都区部境界をまたぐ平成11年値の交通量1日約210万台のうち約20%に相当する1日約42万台が東京都区部に用事のない通過交通であり,東京都区部内のみを移動する走行量を加えた東京都区部内における自動車の全走行量の14%を占めているとの報告がある。また,国土交通省道路局,同省関東地方整備局,東京都建設局,首都高速道路公団の調査検討によれば,東京地域においては,これまでの環境対策にもかかわらず,二酸化窒素,浮遊粒子状物質についての環境基準の達成率は依然として低いところ,α1道等の3環状道路が整備されることにより都心の通過交通量全体の減少と渋滞の緩和ないし解消による走行速度の増加によって,窒素酸化物及び浮遊粒子状物質の排出量が削減することが可能となり,3環状道路が完成した場合の東京都区部における削減量は,窒素酸 過交通量全体の減少と渋滞の緩和ないし解消による走行速度の増加によって,窒素酸化物及び浮遊粒子状物質の排出量が削減することが可能となり,3環状道路が完成した場合の東京都区部における削減量は,窒素酸化物が年間約4100トン,浮遊粒子状物質が年間約4300トンと推定され,窒素酸化物については現況の排出量の約12%が削減できると推計している報告もある。 c α1自動車道建設促進会議(東京都,神奈川県,埼玉県,茨城県,千葉県,横浜市及び千葉市の知事及び市長並びに同会議の目的に賛同する102の市町村長をもって構成されている。)は,首都圏においては,多くの道路で交通渋滞が見られ,多大な時間損失,経済損失,更に沿道環境の悪化が生じているなど,都民のみならず首都圏の住民の生活や産業活動に深刻な影響を与えているとして,α1道の整備促進を国会,政府に要望している。 (イ) 本件事業の意義a 本件事業は,α9インターチェンジからα10インターチェンジを経てα11インターチェンジに至るまでの区間のα1道建設及びその付帯工事並びに市道付替工事を行うものである。本件事業区間のα1道路線のうち,α9インターチェンジからα10インターチェンジまでの区間(約8.7㎞)は,既に平成14年3月に供用が開始されており,α10インターチェンジからα11インターチェンジまでの区間についても,相手方らにより明渡しがされない約370mの区間を除いて工事はほぼ完了し,起業者は,本件各土地の明渡しが完了すれば,速やかに工事に着手し,これを完成させ,供用を開始する予定である。 b α11インターチェンジとα10インターチェンジとの間は約2㎞にすぎないが,α11インターチェンジは,旧秋川市南部及び八王子市北部方面等から発生する交通に対応し,α10インターチェンジは,α23,旧秋川市北部及び福 ェンジとα10インターチェンジとの間は約2㎞にすぎないが,α11インターチェンジは,旧秋川市南部及び八王子市北部方面等から発生する交通に対応し,α10インターチェンジは,α23,旧秋川市北部及び福生市方面等から発生する交通に対応することを目的としていて,両インターチェンジは,出入り交通を適切に分担して分散するように設置が計画されている。 なお,両インターチェンジ間やその付近においては,その供用に伴って発生する交通に対応するなどのため,α1道に沿って市道が,またこれと交差する東西方向の道路が都道として整備されるなどした。 c α10インターチェンジからα11インターチェンジまでの区間と南北に並行する国道α24の対応区間は,自動車の通行量が多い上,これが増加傾向にあって慢性的な交通渋滞が発生している区間であるが,国土交通省関東地方整備局相武国道事務所作成の資料には,α11インターチェンジの供用により渋滞が緩和され,平成15年に供用を開始した場合には,国道α24α25交差点からα26交差点間において,その供用初年度の交通量が1日当たり2万6000台ないし5万3000台から2万5000台ないし4万9000台に減少するものと算定されたとの記載がある。 d α11インターチェンジと接続する国道α27(α28街道)についても,片側1車線で道路幅が狭いことや自動車の通行量が多いことなどから慢性的な交通渋滞が発生している区間であるが,国土交通省関東地方整備局相武国道事務所作成の資料には,α11インターチェンジの供用により渋滞が緩和され,平成15年に供用を開始した場合には,α11インターチェンジからα29交差点までの区間の交通量は,1日当たり1万5000台ないし2万2000台から1万3000台ないし1万5000台に減少するものと算定されたとの記載がある。 た場合には,α11インターチェンジからα29交差点までの区間の交通量は,1日当たり1万5000台ないし2万2000台から1万3000台ないし1万5000台に減少するものと算定されたとの記載がある。 また,このように国道α24,国道α27の交通量が減少することによってその周辺地域における大気汚染が緩和するという効果も見込まれることになる。 なお,東京都は,α10インターチェンジ,α11インターチェンジ,α30インターチェンジの供用により交通需要の増大が予想されるため,アクセス道路として5路線を整備する予定であるが,その1路線として国道α27に代わりα11インターチェンジ付近からα31街道までの間における国道α24への新たなバイパスとして新α28街道を平成19年度までの事業期間の予定で建設中であり,総距離約7㎞のところ,現在1.7㎞の部分が開通している。 e 国土交通省関東地方整備局相武国道事務所が,平成15年度にα10インターチェンジからα11インターチェンジまでの区間の供用が開始された場合における同区間における供用初年度1年間の便益(走行時間短縮便益,走行経費減少便益,交通事故減少便益)の効果を「費用便益分析マニュアル(案)」(平成10年6月)に基づいて算定した結果は,α11インターチェンジ以南の開通がない場合においても,37.3億円である。 (ウ) その他の事情a 本件各土地を含む周辺地は,埋蔵文化財包蔵地と指定されており,文化財の調査については,本発掘調査の前に試掘調査を行い,東京都教育委員会において,その結果に基づき本発掘調査の必要の有無を判断することとされている。これまでも,α1道建設に供される本件各土地の周辺地については,既に試掘調査を経て東京都埋蔵文化財センターによる発掘調査が行われている。 もっとも,東京都教育委員会及 無を判断することとされている。これまでも,α1道建設に供される本件各土地の周辺地については,既に試掘調査を経て東京都埋蔵文化財センターによる発掘調査が行われている。 もっとも,東京都教育委員会及びあきる野市教育委員会は,本件土地9ないし11を含む区域について,既に試掘調査の結果,本調査を実施する必要がなく,工事の実施について差し支えないとしている。上記各土地について更に遺跡調査が必要であることを認めるに足りる疎明はない。また,本件土地19ないし27については,道路が橋梁構造となるところ,橋脚構造となる地域については基本的に橋脚を設置するなど掘削工事を伴う範囲の土地について調査を行えば足りるものであって,事業用地内のすべてについて調査を要するものではないが,中でも本件土地25及び26については,橋梁の形式が設計変更されたことに伴い,橋脚が設置されないこととなり,調査はほとんど必要でない。本件土地2ないし8,13ないし17,19ないし24及び27については試掘調査の結果次第で発掘調査が必要であると判断されることもあり得るが,仮に,上記各土地について本発掘調査が必要になったとしても,特段の事情のない限り,短期間に行われると見込まれている。 b α11インターチェンジから八王子ジャンクションまでの区間については,平成16年度の供用を目標としている。平成15年9月末現在において,用地買収を99%,工事発注を64%完了しており,同区間に計画されている本線部の五つの橋梁のうち四つの橋梁については,既に本体工事が完成しており,残るα32橋も含めて平成15年度内にはすべての橋梁が完成する予定である。また,上記区間に計画されている四つのトンネルのうち,2本は既に貫通しており,残る2本のトンネルについても,α33トンネルについては約80%,α34トンネルに 内にはすべての橋梁が完成する予定である。また,上記区間に計画されている四つのトンネルのうち,2本は既に貫通しており,残る2本のトンネルについても,α33トンネルについては約80%,α34トンネルについては約50%以上の掘削を完了している。 c α35インターチェンジ建設予定地においては,ダイオキシン類を含む焼却灰等が確認され,測定した5箇所において環境基準を上回る濃度が検出された。起業者は,平成14年2月に学識経験者等からなる「α1自動車道地盤改良に関する技術検討委員会」を設置したところ,同技術検討委員会から,ダイオキシン類の飛散防止が図られ,周辺地盤,地下水への汚染の拡大は認められないとした上,推計される焼却灰等の総量約4800立方メートルの処理について場外搬出して無害化処理することを第一次順位として検討するなどの方針と具体的な処理方法についての意見が示されことから,起業者は,当該意見を踏まえて,現在,関係機関との調整を図っており,今後速やかな処理を行うことを予定している。 イ以上によれば,α1道事業は通過交通の排除と分散導入による首都圏の交通混雑を緩和し,これによる大気汚染の削減等沿道環境を改善するとともに,中核都市の連絡による業務機能の分散と地域開発の促進などの首都圏の更なる発展を目的としたものであり,その一環にある本件事業もα10インターチェンジとは異なった交通対応をする独自の意義を有するもので,国道α24,国道α27の渋滞や交通量の減少を図ったり,年間37億円を超える経済的効果も期待できる上,沿線自治体等もα1道事業そのものの必要性を前提として早期供用を求めているのであるから,いずれもその公共的必要性は極めて高い事業であると認められる。また,α1道は,まず西側区間について緊急に整備を行い,早期に効果の実現を図るために,順次 を前提として早期供用を求めているのであるから,いずれもその公共的必要性は極めて高い事業であると認められる。また,α1道は,まず西側区間について緊急に整備を行い,早期に効果の実現を図るために,順次部分供用を行うこととされ,本件事業区間のα1道路線のうちα9インターチェンジからα10インターチェンジまでの区間(約8.7㎞)は既に平成14年3月に供用が開始されており,α10インターチェンジからα11インターチェンジまでの区間についても供用を開始することによる交通混雑の緩和等や経済的効果が見込まれるところ,これは様々な予測や推計によるものであるから必ずしもその見込み通りの結果が得られるとは限らないとはいえ,その予測や推計が事業推進のための宣伝本位の作為的な不合理なものであるとまでは認め難い。そうすると,この見込みを前提とする限り本件事業は極めて公共性の高い事業であるということができるし,この交通混雑の緩和等や経済的効果は新α28街道の開通以前においても認められているのであり,工事についても相手方らにより明渡しがされない約370mの区間を除いてはほぼ完了し,周辺においては市道や都道も整備が図られてきているのであるから,本件区間について早急に工事を完了する必要性もあると認められる。さらに,α11インターチェンジから八王子ジャンクションまでの区間についても,平成16年度内の供用を目標として既に多くの構造物が完成するなど速やかな進捗が図られているところであるが,このことも考慮すると,本件区間について早急に工事を完了する必要性は一層高いことになる。 そうすると,本件明渡裁決の執行を停止することは,公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあり,相手方らが本件裁決の執行等によって被る前記(2)の損害と衡量しても無視できないものである。 ウなお,念のため, と,本件明渡裁決の執行を停止することは,公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあり,相手方らが本件裁決の執行等によって被る前記(2)の損害と衡量しても無視できないものである。 ウなお,念のため,公共の福祉に対する影響についての相手方らのその余主張についても以下判断をしておく。 相手方らは,都心の通過交通量は5%にすぎず,α1道が供用されるとかえって都心部への新たな流入交通を誘発して渋滞を招くと主張する。都心の通過交通量が5%にすぎないとの根拠は明らかとはいえないし,α1道の供用により自動車の通行量が増大しても,通過交通の排除と分散導入により交通混雑の緩和が図られることからすると,かえって渋滞を招くとの根拠も明らかとはいえない。また,相手方らは,バブル経済の崩壊によりα36開発計画などの地域開発が次々と破綻したからα1道は地域間の交流の拡大,産業活動の活性化に役立つものではないと主張し,甲74の1,丙83(いずれもHの尋問調書)の中にはこれに沿う部分もあるが,同疎明資料によっても,α36開発計画などの地域開発が次々と破綻したと認められるかは明らかでない上,α1道の目的の1つである地域開発の促進は中核都市を連絡することにより首都圏の更なる発展の中で図られるものとされ,本件記録により認められる東京都がその後に計画した環状メガロポリス構造の考え方もα1道の目的とする地域開発を踏まえているとみられることに照らすと,前掲疎明資料によっては,α1道が目的とする地域開発の促進等が経済や社会情勢の変化の中で既に破綻しており実現可能性がないものとなっているとまで認めることはできない。さらに,相手方らは,α1道建設計画が全体として遅れていることやα35インターチェンジ建設予定地において確認されたダイオキシン類を含む焼却灰等の処理のため建設工事が中断して で認めることはできない。さらに,相手方らは,α1道建設計画が全体として遅れていることやα35インターチェンジ建設予定地において確認されたダイオキシン類を含む焼却灰等の処理のため建設工事が中断していることから,執行停止によって公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれはないとも主張する。しかし,計画が全体として遅れているからといって本件明渡裁決の執行を停止をすることによる本件区間の工事完成とこれによるα10インターチェンジとα11インターチェンジとの間の開通供用の遅れによる影響がないとか軽微であるといえないことは自明のことであり,ダイオキシン類を含む焼却灰等が確認されたのは本件区間外のことである上,当該焼却灰は今後速やかな処理を行うことが予定されるのであるから,当該焼却灰の存在も本件明渡裁決による代執行手続を進行させなくてもよいとする事情となるものではない。 相手方らは,α11インターチェンジ付近の需要はすべてα10インターチェンジで足り,α11インターチェンジを建設する必要はないとも主張する。本件記録によれば,確かに,α10インターチェンジからα11インターチェンジ付近までは約2㎞の距離にすぎず,周辺の市道や都道の整備もあって,現在では普通自動車で通常は約6分程度で走行できると認められる。しかし,本件各土地のほとんどは道路本体の予定地内にあるのであって,その道路部分とα11インターチェンジを建設してα10インターチェンジとの間のみについても部分開通する利益と必要性があることは前記のとおりであり,その間の開通に加えて将来α30インターチェンジとの間などより広域の供用が開始されて自動車の通行量が増大し,α11インターチェンジへのアクセス道路と位置付けられている新α28街道が開通し供用された場合には,α11インターチェンジの目的とされる独自の役 などより広域の供用が開始されて自動車の通行量が増大し,α11インターチェンジへのアクセス道路と位置付けられている新α28街道が開通し供用された場合には,α11インターチェンジの目的とされる独自の役割がより発揮されることは容易に予想されるところである。 また,相手方らは,本件区間が開通した場合に得られる便益は,いわゆる得べかりし利益であってそもそも本件区間の開通の遅れによって現実の国家財政に発生する積極的な損害とはいえないし,その便益自体も重大な疑問があるなどと主張する。しかし,得べかりし便益であるからといって,これを無視ないし軽視することはできないし,その便益の金額も相応の根拠の下に経済的利益として年間約37億円を超えると推計されたものであるから,これが推計通り得られるかはともかく,無視ないし軽視することはできない経済的利益があることは否定できない。 さらに,相手方らは,本件各土地の遺跡調査には相当の期間を要し本件事業を予定時期までに完了できないと主張する。しかし,本件各土地の中には遺跡調査をすることになる可能性がある土地があるものの,遺跡調査が必要になったとしても,その期間は短期間で足りると考えられる上,そもそも,本件明渡裁決の執行が停止されれば,その停止期間についても遺跡調査が遅れ,本件区間の工事の完成も遅れることになるのであるから,遺跡調査の必要性は本件明渡裁決の執行を進行させなくてもよいとする事情となるものではない。 以上によれば,本件明渡裁決の執行を停止しても公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがないことをいう相手方らの各主張は理由がない。 (4) 次に,原決定の説示にかんがみ,「本案について理由がないとみえるとき」の該当性とその主張,疎明についても判断しておく。 ア抗告人らは,相手方らの本件事業認定には重大かつ明白な瑕疵 由がない。 (4) 次に,原決定の説示にかんがみ,「本案について理由がないとみえるとき」の該当性とその主張,疎明についても判断しておく。 ア抗告人らは,相手方らの本件事業認定には重大かつ明白な瑕疵があるあるいは本件明渡裁決について独自の違法事由があるから本件裁決は違法で取り消されるべきであるとの主張に対して,これらの事由は本件明渡裁決を取り消すべき事由とはならないから「本案について理由がないとみえるとき」に該当すると主張する。 (ア) 相手方らが本件事業認定には重大かつ明白な瑕疵があるから本件裁決は違法で取り消されるべきであると主張する点について検討する。 収用裁決を行う収用委員会は,もともと裁決に当たって事業認定の適法性について審理する権限もなく,事業認定に重大な瑕疵による無効事由ないしその他の事由による取消原因に相当する瑕疵があると判断した場合でも収用法47条に該当する場合以外は収用等の裁決をしなければならないから,その事業認定に瑕疵があっても収用裁決に固有の瑕疵があるということにはならない。しかしながら,事業認定に重大かつ明白な瑕疵があり,収用委員会においてもそのことが容易に判断でき,その事業認定を前提とする収用等が国民の権利や利益を侵し,その不利益や損害等を無視できないものである場合には,事業認定と収用裁決の間にいわゆる違法性の承継があるものと認めて,当該国民の不利益を救済するため,収用裁決の申立てを却下すべきものと解される。そして,これを看過した可能性のある収用裁決について取消訴訟を受けた裁判所は,事業認定の無効について審理しこれを是認するときは,収用裁決にも取り消し得べき瑕疵があるものとして,その取消しの判決をすべきものと解される(最高裁判所大法廷平成8年8月28日判決・民集50巻7号1952頁もこの理を採用するものと解さ 認するときは,収用裁決にも取り消し得べき瑕疵があるものとして,その取消しの判決をすべきものと解される(最高裁判所大法廷平成8年8月28日判決・民集50巻7号1952頁もこの理を採用するものと解される。)。本件事業認定については本件事業認定取消訴訟(東京地方裁判所平成12年(行ウ)第349号事件)において取消しの可否を巡り現に審理中であって,取り消されていないのであるから,これに重大かつ明白な瑕疵があって当然に無効と解されない限りは,本件収用裁決又は明渡執行は,仮に本件事業認定に取消事由が存在するとしても,取り消すことはできないものと解するのが相当である。そうすると,仮に本件事業認定に取り消されるべき違法な瑕疵があったとしても,この違法な瑕疵があることを理由に本件裁決を取り消すことはできないというべきである。 この点,収用法における事業認定と収用又は明渡の裁決は,その主体は異なっていても(収用法17条,47条の2),土地収用という一個の目的に向けた一連の行為であるから,例外的に,先行行為である事業認定の違法性が当然に後行行為である収用又は明渡の裁決に承継されると解すべきであるとの見解も存するところである。しかし,事業認定と収用又は明渡の裁決は,先行処分と後行処分との関係があり,前者が無効ないし取消しとなれば,後者はその実益を失うのが一般的であるが,それぞれは別個の行政処分であり,各別にその瑕疵を理由として取消訴訟を提起し,その適法性を争うことができるのであるから,原則として,裁決取消訴訟において,事業認定の取消事由の有無を審理判断しなければならない必要性はなく,前記の見解は採用できない。 なお,念のため,相手方らが主張する,本件事業認定に重大かつ明白な瑕疵が,本件事業認定を当然に無効とすべきものと認められるか否かについて検討する。相 らない必要性はなく,前記の見解は採用できない。 なお,念のため,相手方らが主張する,本件事業認定に重大かつ明白な瑕疵が,本件事業認定を当然に無効とすべきものと認められるか否かについて検討する。相手方らは,本件事業は,①道路公害を激化させて周辺住民の健康を害し,②自然環境や歴史的文化遺産を破壊するものである上,③隣接するα10インターチェンジと僅か1.93キロメートルしか離れていない位置にα11インターチェンジを建設する必要はなく,事業の必要や公益性も認められないと主張するが,これらの事由が理由のないことは前記説示から明らかである。また,相手方らは,本件事業は,④本件事業計画の策定に当たって,適切なアセスメントも行われておらず,その結果,道路公害等を防止するために,地下構造による道路の建設をすべきかどうかも検討していないという,調査検討の面においても極めて杜撰なものであったとも主張するが,本件記録によれば,本件事業計画の策定に当たってアセスメントが行われたことが認められるから,仮にこれが適切でないとか,道路公害等を防止するために,地下構造による道路の建設をすべきかどうかを検討していないとしても,このことから本件事業認定に重大かつ明白な瑕疵があるとまでは認められず,上記主張も理由がない。そうすると,本件記録によっては,本件事業認定には相手方らが主張する重大かつ明白な瑕疵があり,これが当然に無効であるとも認められない。 (イ) 相手方らは,本件裁決の審理手続において,相手方らは上記①ないし④のような問題点を具体的に指摘したにもかかわらず,起業者は,これらの問題点の指摘に対して何ら回答をせず,東京都収用委員会においても,これらの問題点についてまともに審理検討をすることはなく,裁決書においても,相手方らの指摘に対して何ら答えていないから,本 ,これらの問題点の指摘に対して何ら回答をせず,東京都収用委員会においても,これらの問題点についてまともに審理検討をすることはなく,裁決書においても,相手方らの指摘に対して何ら答えていないから,本件明渡裁決には独自の違法事由があると主張する。しかし,本件裁決の審理手続において相手方らの指摘に対し起業者が回答するか否かは起業者の判断に任されるべきもので,起業者が回答をしない結果,不利益な裁決がされたとしても自己責任にすぎないものであるし,本件記録によれば,裁決書には相手方らの指摘を検討しても本件事業認定にはこれを無効とすべき収用法20条3号及び4号に関する重大かつ明白な瑕疵があるとは認められないので,本件事業認定が無効であるとはいえないと記載されていることが認められるから,東京都収用委員会は,相手方らの指摘については検討した上,応答していることが明らかであり,相手方らの主張は理由がない。 イ以上によれば,相手方らが主張する事由は本件明渡裁決を取り消すべき事由とはならないから,「本案について理由がないとみえるとき」に該当するというべきである。 (5) 結論以上によれば,本件明渡裁決の執行により相手方らが被る損害は,その執行を停止することによる公共の福祉に対する影響の程度と衡量しても回復困難なものであるとは認められないから,本件明渡裁決の執行を停止することは相当でない。 そうすると,本件執行停止の申立ては理由がなく,いずれも棄却すべきである。 3 よって,これと異なる原決定主文2項(1)(抗告人知事に対し明渡裁決の執行〔代執行手続の続行〕の停止を命じた部分)を取り消すこととして,主文のとおり決定する。 平成15年12月25日東京高等裁判所第16民事部裁判長裁判官鬼頭季郎裁判官瀧澤泉裁判官納谷肇 命じた部分)を取り消すこととして,主文のとおり決定する。 平成15年12月25日東京高等裁判所第16民事部裁判長裁判官鬼頭季郎裁判官瀧澤泉裁判官納谷肇

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