主文 1 被告は,原告に対し,84万7809円及びこれに対する平成22年11月10日から支払済みまで年14.6%の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告に対し,84万7809円及びこれに対する本判決確定の日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は被告の負担とする。 4 この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 請求主文同旨第2 事案の概要本件は,被告においてタクシー運転手として勤務していた原告が,被告に対し,原告の実労働時間に照らすと被告の賃金支払額は最低賃金法違反となると主張し,平成21年4月から平成22年10月までの最低賃金法に定める賃金と支給額との差額及び原告退職日かつ賃金支払日である平成22年11月10日から支払済みまで賃金の支払確保等に関する法律所定の年14.6%の割合による遅延損害金,並びに未払賃金と同額の付加金及びこれに対する判決確定から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求した事案である。 1 前提となる事実争いのない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨によると,次の事実を認めることができる。 当事者ア原告は,被告に雇用され,平成19年1月頃から同22年10月頃まで,タクシー運転手として勤務していた。 イ被告は,旅客運送事業を目的とする有限会社である。 被告における労働条件乗務員賃金協定書には,以下の定めがある(甲1)。 ア 1か月の所定水揚額が42万円未満の者に対しては39%を賃金総額として保障する。(基本110,840円+深夜残業手当)イ指定休憩時間外の待機客待時間は休憩とみなす。 ウ別勤(公休日等に出勤した場合)の支給率は,一定運収以下の場合45% %を賃金総額として保障する。(基本110,840円+深夜残業手当)イ指定休憩時間外の待機客待時間は休憩とみなす。 ウ別勤(公休日等に出勤した場合)の支給率は,一定運収以下の場合45% 原告が支払を受けた賃金原告が,被告から,平成21年4月から同22年10月まで支払を受けた賃金は,別紙2「支払額」のとおりである。 2 争点及び当事者の主張 実労働時間【原告の主張】原告は,平成21年4月から同22年10月までの間,出勤日には,ほぼ毎回,午前6時から翌午前4時まで就労し,実労働時間は休憩時間を除く19時間,うち時間外労働4時間,深夜労働6時間であった。 労働基準法上の労働時間とは,労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい,労働時間に該当するか否かは,労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであり,労働者が労働から離れることを保障されていて初めて,労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないものと評価することができる。 原告が客待ちのために車両を停車させている時間も,客が来れば原告が対応せざるを得ない以上,労働契約上の役務の提供が義務づけられていると評価され,労働時間に該当する。 なお,被告は,「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(平成元年3月1日付基発第93号労働基準局長あて労働省労働基準局長通達, 以下「93号通達」という。)が,3時間を超えて休憩を取ることを禁じるものではない旨主張するが,93号通達が「事業場外における仮眠時間を除く休憩時間は3時間を超えてはならないもの」としているのは,特に歩合給の賃金体系の場合,労働者が休憩時間中に働く可能性があり,結果的に長時間労働に結びつくおそれがあるからである における仮眠時間を除く休憩時間は3時間を超えてはならないもの」としているのは,特に歩合給の賃金体系の場合,労働者が休憩時間中に働く可能性があり,結果的に長時間労働に結びつくおそれがあるからである。そのため,当該基準では,事業場外における休憩時間が3時間を超えても差し支えない場合として,①業務の必要上やむを得ない場合であって,あらかじめ運行計画により3時間を超える休憩時間が定められている場合,②運行記録計等により3時間を超えて休憩がとられたことが客観的に明らかな場合の2つを挙げているのであり,車両が停止した状態にあれば,常に休憩時間として取り扱うことができるものではない。また,被告は,5分を超える停車を休憩時間とする労使協議が整っていた等と主張するが,5分以上の客待ちを一律禁止することと,5分以上の停止を休憩として取り扱うことは,次元の異なるものであり,また労働者側代表選挙が行われたこともなく,93号通達にも反するし,労働者の過半数を組織する労働組合も存在せず,実体的にも手続的にも無効である。 【被告の主張】原告の主張する実労働時間は否認する。 93号通達が,事業場外での休憩時間は仮眠時間を除き,原則として3時間を超えてはならないとしているのは,労働者が休憩時間中に働く可能性があるためであり,3時間を超えて休憩を取ることを禁じるものではない。通達が,事業場外における休憩時間を「所定の休憩時間」休憩したものとして取り扱うとしているのは,一種の擬制であり,このことから,第1に,就業規則等に基づいて経済合理性を備えた賃金体系による一定のルールを周知した上で,当該ルールに基づく労働時間の算定が認められること,第2に,一種の擬制である以上,より客観的な根拠に基づく労働時間の算定がなされるべきこと,第3に,周知されたルールに基づいて算 ールを周知した上で,当該ルールに基づく労働時間の算定が認められること,第2に,一種の擬制である以上,より客観的な根拠に基づく労働時間の算定がなされるべきこと,第3に,周知されたルールに基づいて算出された賃金以外の賃金 請求権は放棄したと考えるのが実態に沿う,という命題が導かれる。 被告は,タクシー運転手固有の労働の特質に由来する労働時間管理の困難さに対応するため,労働密度が小さく,使用者の指揮監督が及んでいない5分以上の駐停車を休憩時間とすることについて,労使で協議を行った上定められ,これを周知徹底し,国土交通省が推奨するデジタルタコグラフを導入して機械的に休憩時間の算定を行い,可能な限り労働時間の管理を行ってきた。すなわち,福岡市における駐停車違反検挙の厳格化に伴い,被告と従業員代表との間で協議を行い,本社車庫以外で5分以上停車した場合は休憩とみなすこととし,このことは,出庫時の掲示伝言板に記載すると共に,点呼等の際にも乗務員に対し周知した。 また,原告については,その運行状況等に鑑みれば,所定の休憩時間以外を全て実労働時間と評価することができない。すなわち,タクシー運転手の場合,私用のための車両の移動時間と実労働時間の区別は困難であり,乗客獲得可能性との関連で労働時間性を判断する必要がある。原告の場合,5分以上低速で移動し停止しているのに乗客を乗せずに走行している回数が異常に多く,1時間以上停止ないし低速移動した後に乗客を乗せずに走行していることも珍しくない。運行場所についても,原告は,売上の効率が悪く,他の乗務員が行くことがないO町に頻繁に行っており,被告がO町に行くことをやめるよう指導してもこれに従わなかった。また,原告は,N町まで頻繁に空車で往復しているが,N町は流し営業で乗客を拾える可能性が低い。これらは とがないO町に頻繁に行っており,被告がO町に行くことをやめるよう指導してもこれに従わなかった。また,原告は,N町まで頻繁に空車で往復しているが,N町は流し営業で乗客を拾える可能性が低い。これらは,私用での往復であったとみる他ない。さらに,原告は,休憩時間と自認している時間中にも,タコグラフ上車両が少しずつ移動している時間があり,客待ち時間と客観的な区別が困難であること,休憩場所とその後の実車場所との整合性がないものもあること,またデジタルタコグラフ導入後,合理的な理由なく休憩時間の申告を行わなくなっていること等からも,恣意的な申告をしていた可能性があり,原告の申告の信用性は認められない。 被告の賃金体系はタクシー業界でも一般的であり,経済合理性を有しているし,毎年従業員との協議を経て協定書に明示し,営業所にぶら下げる等して周知していること,また5分以上の停止時間を休憩とみなす取扱も周知されていたし,デジタルタコグラフ導入後は,5分以上の停止時間を休憩時間とした実労働時間も明確に告知されていたところ,給与明細上時間外手当の金額を明示して賃金が支給されてきたにもかかわらず,原告以外に未払時間外手当の存在を主張する者がいないことから,売上39%以上の賃金については放棄されたとみるのが実態に沿う。 付加金【原告の主張】本件は,刑罰が科せられるべき最低賃金法違反という,被告の賃金未払の悪質性が正面から問われている事案であり,また被告の悪質性は,福岡県内のタクシー会社の中で際だっているから,付加金の支払いを免れることはできない。 【被告の主張】被告は,タクシー業界においては一般的な賃金体系を採用していたというだけでなく,労務時間管理がきわめて困難である中,現実的になしうる労働時間管理を行い,これ できない。 【被告の主張】被告は,タクシー業界においては一般的な賃金体系を採用していたというだけでなく,労務時間管理がきわめて困難である中,現実的になしうる労働時間管理を行い,これに基づいて賃金を支払ってきたのであり,使用者としての不誠実さや悪質さを見いだすことはできない。 第3 争点に対する判断 1 争点について 休憩時間の判断基準ア労働基準法32条にいう労働時間とは,労働者が使用者の指揮命令下におかれて労務を提供する時間をいい,この労働時間に該当するか否かは,使用者の指揮命令下におかれているか否かにより客観的に定まる。また,使用者には,労働者の労働時間を適正に把握する義務が課されている。 本件についていえば,タクシーの客待ち時間は,客が来ればいつでもタクシーを運行させるのであるから,タクシー運転手に対して労働契約上の役務の提供が義務づけられており,客待ち時間を含む長時間の駐停車を一律に休憩時間と評価することはできない。他方で,タクシー運転手の休憩時間は,場所,時間帯や気候等の諸状況により乗客獲得見込みが異なるため,一定程度,タクシー運転手の判断に委ねざるを得ず,使用者において把握することが困難な特質があることに鑑みると,経営上の必要性から,使用者により事前に,客待ち時間の制限や客待ち場所の指定等の指導がされ,使用者の指導を超えた駐停車時間を,休憩時間と評価する就業規則等を定めることも,一定の合理性があるといえる。 そして,使用者の指導を超えた駐停車時間を休憩時間と評価するには,①当該指導の内容が使用者の経営方針やタクシー営業の実態に鑑みて合理的であると認められること,及び②使用者から当該指導の内容について,職場の見える場所に掲示して周知する他,点呼等の際に,タコグラフ等によって把握でき 使用者の経営方針やタクシー営業の実態に鑑みて合理的であると認められること,及び②使用者から当該指導の内容について,職場の見える場所に掲示して周知する他,点呼等の際に,タコグラフ等によって把握できる各タクシー運転手の勤務状況に応じて,当該指定が遵守されていないタクシー運転手に対し,使用者の指定を遵守するよう個別に指導をする等,従業員であるタクシー運転手に対し,一般的な注意に止まらず,指導を超えた駐停車時間が休憩時間と評価されることが,実質的に周知されていると認められることが必要であるとするのが相当である。 イ被告は,従業員に対し,被告本社車庫以外で5分を超えて駐停車しないことを指導しており,これを超える駐停車時間は休憩とみなすことを指定していた旨主張する。しかし,5分との基準の根拠は,駐停車禁止違反による検挙を防止することを目的とするところ,場所,時間帯や気候等の諸状況により乗客獲得見込みが変化するタクシー営業に導入する基準として,合理性があるとはいえない。また,駐停車時間が5分を超えた場合に,直ちに休憩時間とすることは,休憩時間と評価されないために,所定労働時 間のうち休憩時間以外は被告本社車庫に帰るか,常に走行しながら客を取る,いわゆる流し営業しかできず,駐停車禁止に違反することがないタクシー待機所等での客待ちによる営業を事実上禁止することになる。しかし,タクシー待機所等での客待ちによる営業を禁止することは,タクシー営業の現在の実態に鑑みれば一般的とは言い難く,このような被告の指導の内容に合理性は認めがたい。 また,仮に被告の当該指導の内容に合理性が認められるとしても,当該指導を超えた駐停車時間が休憩時間と評価されることが,実質的に周知されていることを要する。被告は,5分以上の駐停車は休憩時間と取り扱うことを,掲示伝 当該指導の内容に合理性が認められるとしても,当該指導を超えた駐停車時間が休憩時間と評価されることが,実質的に周知されていることを要する。被告は,5分以上の駐停車は休憩時間と取り扱うことを,掲示伝言板に記載をし,従業員に告知し,また原告にも注意をしていた旨主張し,これに沿う証言もあるが(乙25,乙28,証人A),被告が,点呼等の際に,原告を含む従業員に対し,乗務員記録簿やタコグラフの記録に基づいて,5分を超えて駐停車しないことを,一般的な注意に止まらず,5分を超えて駐停車した場合は休憩時間と取り扱うことを明示した上で,当該指定をどのように遵守すれば良いか等の具体的な指導をしたことは認められず,また原告の運行状況を見ても,5分を超える駐停車の際に被告本社車庫に戻ることは殆どなく(乙2の1から5の14),原告が当該指導を理解していなかったことからも,当該指導内容が原告を含む従業員に対し実質的に周知されていたと認められない。 よって,原告が休憩時間として申告した時刻以外に,被告が指導していたとする5分を超えて駐停車した時間を,直ちに休憩時間と評価することはできない。 原告の実労働時間前項の基準に照らし,原告の勤務時間のうち,休憩時間と評価される時間を,乗務員記録簿(乙5の1~14),タコグラフ(乙6の1~14,乙11の1~14),乗務記録報告(乙2~4)に基づいて検討する。平成21 年6月2日から平成22年7月10日までは,原告が「休憩した時間」として乗務記録報告上申告している時刻の直近前後の停車時間を休憩時間と解し(なお,被告は,原告の申告が恣意的なものであることを窺わせる事情があり,信用性がない旨主張するが,被告の指摘する事実のみをもって乗務記録報告上の記載の信用性は否定できず,採用できない。),同月12日から平 告は,原告の申告が恣意的なものであることを窺わせる事情があり,信用性がない旨主張するが,被告の指摘する事実のみをもって乗務記録報告上の記載の信用性は否定できず,採用できない。),同月12日から平成22年10月25日までは,原告が休憩した時間を申告した記載が認められないため,停車時間のうち最も長い時間を休憩時間と評価すると,これらの休憩時間が一日当たり3時間を超えている日と3時間を超える時間は,平成21年12月1日(195分,15分超),平成22年1月13日(230分,50分超),同月17日(218分,38分超)及び同月19日(190分,10分超)である。 所定労働時間については,隔日勤務については始業時間が午前7時,終業時間が午前3時で所定労働時間が15時間,休憩時間は3時間,隔日勤務以外については,所定労働時間8時間,休憩時間は1時間とした(弁論の全趣旨)。 また,始業時間については,原告がタクシーを出庫する前に,被告事務所において点検,点呼を受け,乗務記録報告,乗務員証等を受領する等の時間(甲13,原告本人)を考慮し,タコグラフから確認される原告の運転開始時間から30分前,終業時間については,原告がタクシーを入庫した後に,洗車,納金,点呼を受け,乗務員記録報告等を提出する等の時間(甲13,原告本人)を考慮し,タコグラフから確認される原告の運転終了時間から30分後とした。 以上に基づいて計算した原告の労働時間及びこれに最低賃金法に定める賃金を乗じて計算した金額は,別紙1の「賃金日額」のとおりである。この「賃金日額」の各月の合計と支払額との差額は,別紙2のとおりであり,被告の原告に対する未払賃金の総額は,平成21年6月から同22年10月ま でで,104万8090円となる(なお,被告は,平成24年8月9日に行われた第 支払額との差額は,別紙2のとおりであり,被告の原告に対する未払賃金の総額は,平成21年6月から同22年10月ま でで,104万8090円となる(なお,被告は,平成24年8月9日に行われた第6回弁論期日において,平成24年8月6日付準備書面を陳述することにより,これを援用し,原告の被告に対する,平成21年4月及び同年5月分の未払賃金請求権は,時効により消滅した。)よって,原告の未払賃金請求は理由がある。 この点,被告は,乗客の獲得可能性がなければ労働時間と認められない旨主張し,原告の運行状況について,他の乗務員が行かないO町や,流し営業の可能性の低いN町に頻繁に行っている,一定時間駐停車後に乗客を乗せずに走行する,いわゆるお茶引きが頻繁である等の事情を挙げる。 しかし,タクシーの乗客は,前述のとおり,場所のみならず,時間帯や気候等の諸状況により乗客獲得見込みが変化するところ,走行場所ないし駐停車場所のみによって乗客の獲得可能性は判断できず,被告の主張する基準によって労働時間を判断することは困難である。 原告が頻繁に行っていたとするO町には,H港国際ターミナルが存在し(甲13),船で同ターミナルに着いた後,H駅等へタクシーで移動する乗客がいる可能性は認められること,また他の乗務員があまり行かない場所で営業をすることも,営業方法の一つとして不合理とまではいえない。原告が走行していたN町についても,着時間や駐停車時間(乙22)等に鑑みれば,原告が同所付近で食事をしていたことも否定できず(甲13,原告本人),私用等で走行していたことを窺わせる事情は認められない。さらに,一定時間駐停車していても,必ず乗客がいるとは限らず,お茶引きの頻度が高いからといって,直ちに原告の駐停車時間が労働時間であるとの推認を覆すものではない。 を窺わせる事情は認められない。さらに,一定時間駐停車していても,必ず乗客がいるとは限らず,お茶引きの頻度が高いからといって,直ちに原告の駐停車時間が労働時間であるとの推認を覆すものではない。 2 争点について上記のとおり,被告は,最低賃金法に照らし,時間外労働割増賃金,深夜労働割増賃金の支払を怠っていたところ,被告の賃金制度が他のタクシー会社と 比べ特異なものではなく,またタクシー運転手の労働時間管理に一定の困難が認められるとしても,平成元年以降,93号通達等の厚生労働省等タクシー運転手の労働時間管理について通達等が出されており(甲9,10,12等),タクシー運転手の労働時間を適切に管理すべきことを認識し得,また平成21年に至るまで労働時間管理の方法について検討する期間が十分にあったこと,さらに原告の実車率や運収が平成22年8月以前から問題視されていた(乙25)とすれば,被告は原告の実車率を向上させるための実質的な指導ができたはずであること等の事情を踏まえると,労働基準法114条所定の付加金の支払を免れることはできないと解するのが相当であり,被告に対して,認容された未払賃金と同額の付加金の支払を命じることとする。 よって,被告に対し,付加金として,原告に対し未払賃金と同額の支払を命じる。 3 以上によれば,原告の請求は理由があるから認容することとし,主文のとおり判決する。 福岡地方裁判所第5民事部裁判官吉田祈代
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