平成27年6月10日判決言渡平成26年(行コ)第10004号,同第10005号行政処分取消義務付け等請求控訴事件,同附帯控訴事件(原審東京地方裁判所平成24年(行ウ)第591号)口頭弁論終結日平成27年2月18日判決 控訴人兼附帯被控訴人(以下「控訴人」という。)国 処分行政庁特許庁審査官裁決行政庁特許庁長官 指定代理人田辺昌紀同前村俊二同吉田一作同駒崎利徳同平 川 千鶴子同古閑裕人同石原徹弥 被控訴人兼附帯控訴人(以下「被控訴人」という。)レクサンファーマシューティカルズインコーポレイテッド 被控訴人兼附帯控訴人(以下「被控訴人」という。)コーリアリサーチインスティテュートオブケミカルテクノロジー 上記2名訴訟代理人弁護士中村 稔同松尾和子同熊倉禎男同富岡英次同辻居幸一同田 中 伸一郎同吉田和彦補佐人弁理士箱田 篤同西島孝喜主文 1 本件控訴について(1) 原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。 (2) 被控訴人らの予備的請求のうち,特許庁審査官がした特許査定の取消しを求める部分(予備的請求第1項)に係る訴えを却下する。 (3) 被控訴人らの予備的請求のうち,特許庁長官がした行政不服審査法による異議申立てを却下する旨の決定の取消しを求める部分(予備的請求第2項)に係る請求を棄却する。 2 本件附帯控訴について(1) 被控訴人らの主位 的請求のうち,特許庁長官がした行政不服審査法による異議申立てを却下する旨の決定の取消しを求める部分(予備的請求第2項)に係る請求を棄却する。 2 本件附帯控訴について(1) 被控訴人らの主位的請求及び予備的請求のうち,特許庁長官に対し特許査定の取消しの義務付けを求める部分(当審における訴え変更後の主位的請求第3項及び予備的請求第3項)に係る訴えをいずれも却下する。 (2) 被控訴人らのその余の本件附帯控訴を棄却する。 3 訴訟費用は,第1,2審を通じ,被控訴人らの負担とする。 4 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 事実 及び理由第1 当事者の求めた裁判 1 控訴人(本件控訴)主文第1項(1)ないし(3)と同旨 2 被控訴人ら(本件附帯控訴)(1) 原判決中,被控訴人ら敗訴部分を取り消す。 (2)(主位的請求)ア(主位的請求第1項)特許庁審査官が被控訴人らに対し特許出願2007-542886につき平成23年10月31日付け(平成23年11月7日発送)でした「原査定を取り消す。この出願については,拒絶の理由を発見しないから,特許査定をする。」旨の特許査定が無効であることを確認する。 イ(主位的請求第2項)特許庁長官が,被控訴人らに対し平成24年4月26日付けでした行政不服審査法による異議申立て(20120329行服特許第2号)を却下する旨の決定を取り消す。 (3)(当審において訴えの変更)ア(主位的請求第3項)特許庁長官は,特許庁審査官が被控訴人らに対し特許出願2007-542886につき平成23年10月31日付け(平成23年11月7日発送)でした「原査定を取り消す。この出願については,拒絶の理由を発見しないから,特許査定をする。」旨の らに対し特許出願2007-542886につき平成23年10月31日付け(平成23年11月7日発送)でした「原査定を取り消す。この出願については,拒絶の理由を発見しないから,特許査定をする。」旨の特許査定を取り消さなければならな い。 イ(予備的請求第3項)上記ア(主位的請求第3項)と同旨第2 事案の概要 1 被控訴人らは,共同出願に係る特願2007-542886号の審査において,誤って真意と異なる内容を記載した手続補正書(以下,これに係る補正を「本件補正」という。)を提出した。担当審査官は,本件補正を前提として特許査定(以下「本件特許査定」という。)をした。 本件は,被控訴人らが,本件特許査定には,担当審査官が本件補正の内容について審査をせずに査定をしたか,被控訴人らの真意と異なる内容の手続補正書であることを看過し,実質的な審査をしなかった重大な瑕疵があるなどと主張して,(1)主位的に,①本件特許査定が無効であることの確認を求めるとともに,これを前提として,②本件特許査定の取消しを求めて被控訴人らがした行政不服審査法(以下「行服法」という。)に基づく異議申立てについて,特許庁長官が,本件特許査定はその対象にならないから不適法であるとしてした却下決定(以下「本件却下決定」という。)の取消し,及び③特許庁審査官に対して本件特許査定を取り消すことの義務付けを求め,(2)予備的に,①本件特許査定の違法を理由とする同処分の取消し,これを前提とする②本件却下決定の取消し,及び③特許庁審査官に対して本件特許査定を取り消すことの義務付けを求める事案である。 原審は,本件特許査定の担当審査官には,本件補正が被控訴人らの真意に基づくものであるかどうかを確認すべき手続上の義務があったにもかかわらずこれを怠った重大な手続違背が 付けを求める事案である。 原審は,本件特許査定の担当審査官には,本件補正が被控訴人らの真意に基づくものであるかどうかを確認すべき手続上の義務があったにもかかわらずこれを怠った重大な手続違背があるとし,かかる瑕疵をもって本件特許査定が無効であるとは認められないものの,本件特許査定は違法として取消しを免れないとし,被控訴人らがした上記異議申立ては適法であるから,これを不適法とした本件却下決定は誤りであり,本件特許査定取消しの訴えは出訴期間を遵守 しているなどとして,主位的請求のうち本件特許査定の無効確認(上記(1)①)及びこれを前提とする本件却下決定の取消しを求める部分(上記(1)②)に係る請求をいずれも棄却し,予備的請求のうち本件特許査定の取消し(上記(2)①)及びこれを前提とする本件却下決定の取消し(上記(2)②)を求める限度で,被控訴人らの請求を認容した。なお,主位的請求及び予備的請求とも,特許庁審査官に対して本件特許査定の取消しの義務付けを求める部分(上記(1)③及び(2)③)に係る訴えは不適法であるとして,いずれも却下した。 控訴人は,原判決が被控訴人らの請求を一部認容した部分(上記(2)①及び②)を不服として控訴した。 被控訴人らは,原判決が被控訴人らの訴えを却下ないし請求を棄却した部分(上記(1)①ないし③及び(2)③)を不服として附帯控訴をするとともに,当審において,主位的請求及び予備的請求のうち義務付けの訴えに係る部分(上記(1)③及び(2)③)について,本件特許査定の取消しを義務付ける行政庁を「特許庁審査官」から「特許庁長官」に変更した。なお,控訴人は,この変更につき異議なく応訴し,変更後の各訴えの却下を求めた。 2 前提事実,争点,争点に対する当事者の主張は,原判決を次のとおり補正し,当審における から「特許庁長官」に変更した。なお,控訴人は,この変更につき異議なく応訴し,変更後の各訴えの却下を求めた。 2 前提事実,争点,争点に対する当事者の主張は,原判決を次のとおり補正し,当審における当事者の補充的主張を後記3のとおり付加するほか,原判決の「事実及び理由」第2の1及び2並びに第3に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決6頁12行目の「抗潰瘍活性」を「抗腫瘍活性」と改める。 (2) 原判決7頁10行目の「本願発明」を「本件特許出願に係る発明(以下「本願発明」という。)」と,同頁14行目の「ついて」を「について」と,同頁16行目の「引用文献3の」を「引用文献3記載の」と,同行目及び同頁23行目の「抗潰瘍活性」をいずれも「抗腫瘍活性」と,それぞれ改める。 (3) 原判決8頁1行目の「作用」を削り,同頁3行目の「【0247】」を「【0248】」と改める。 (4) 原判決9頁18行目の「本願発明10の化合物」を「本願発明の化合物10」と改める。 (5) 原判決10頁6行目及び同頁22行目の「本件特許査定の取消義務付け」並びに同頁19行目の「本件特許査定の取消しの義務付け」を,いずれも「当審における訴え変更後の本件特許査定の取消義務付け」と改める。 (6) 原判決12頁7行目末尾に,次のとおり加える。 「なお,被控訴人らは,原審においては,特許庁審査官に対して,特許査定取消しの義務付けを求めていたが,当審においては,これを本件却下決定をした主体と同一の,特許庁長官に対する義務付けに変更した。」(7) 原判決12頁9行目の「本件査定」を「本件特許査定」と改める。 (8) 原判決16頁6行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。 「エなお,行訴法37条の3第7項は,「処分についての審査請求がされた場合に 2頁9行目の「本件査定」を「本件特許査定」と改める。 (8) 原判決16頁6行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。 「エなお,行訴法37条の3第7項は,「処分についての審査請求がされた場合において,当該処分に係る処分の取消しの訴え又は無効等確認の訴えを提起することができないときに限り,提起することができる。」と規定している。この規定は,処分の義務付けの訴えに対する裁決の義務付けの訴えの補充性を明らかにする趣旨の規定であり,行政庁が一定の裁決をすべき旨を命ずることを求める義務付けの訴えは,当該裁決に係る原処分について処分の取消しの訴え又は無効確認の訴えを提起することができない場合(例えば,裁決主義がとられている場合)に提起することができると解されている。 ところで,特許法184条の2は,「この法律又はこの法律に基づく命令の規定による処分(第百九十五条の四に規定する処分を除く。)の取消しの訴えは,当該処分についての異議申立て又は審査請求に対する決定又は裁決を経た後でなければ,提起することができない。」と規定しているところ,被控訴人らの本件特許査定取消しの訴えについては,上記規定に基づく適法な異議申立てに対する裁決を経ていないから訴えの要件を欠く と解する可能性も形式的にはあり得るところ,仮に,そのような解釈を前提とする場合においては,被控訴人らが同要件を充足するためには,まず,本件却下決定の取消しを得た上で,更に特許庁における行政不服審査手続において特許庁長官による本件特許査定の取消しを求め,改めて審理を経た上で,特許査定取消しの裁決を得るか,あるいは同異議申立てが棄却された場合に,本件特許査定の取消しの訴えを提起し,判決により特許査定の取消しを得るかしなければならず,救済が著しく遅れ,回復できない莫大な損害を被る可 しの裁決を得るか,あるいは同異議申立てが棄却された場合に,本件特許査定の取消しの訴えを提起し,判決により特許査定の取消しを得るかしなければならず,救済が著しく遅れ,回復できない莫大な損害を被る可能性がある。したがって,特許法184条の2の上記解釈を前提とすれば,行訴法37条の3第7項の規定する要件を充足することになるというべきである。また,特許法184条の2は「取消しの訴え」としているが,無効確認の訴えについても同様の問題が生じ得る。無効確認の訴えにおいて,違法事由の重大性は認められるが,明白性が認められないとする場合も,上記義務付け訴訟の補充性の要件を充たすと解することが可能である。」(9) 原判決26頁17行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。 「これに対し,控訴人は,審査官による面接は単なる行政サービスにすぎず,また,審査官にこのような義務を課することは審査の遅滞を招くと主張する。 しかしながら,面接の際には応対記録の作成が義務付けられ,この応対記録は公衆の閲覧に供されること,審査官との面接において,審査官が述べた意見を覆して,面接結果と異なった処分をするには,その後に新たな証拠を発見するなど,正当化できる理由がなければならないことからすれば,審査官が面接に際して述べた意見は一定の拘束力を持つものであり,単なる行政サービスと同視することはできない。また,前置審査には十分な時間があるとの担当審査官の供述によれば,本件特許出願のような具体的事情の下,審査官に上記義務を課すことは,決して過大なものではない。 さらに,控訴人は,「当該補正書が,出願人の真意に基づき作成されたも のとはおよそ考え難い場合」であるか否かの判断を行うこと自体難しいと指摘するが,本件では,具体的事実を踏まえて,本件補正書が出願人の真意に は,「当該補正書が,出願人の真意に基づき作成されたも のとはおよそ考え難い場合」であるか否かの判断を行うこと自体難しいと指摘するが,本件では,具体的事実を踏まえて,本件補正書が出願人の真意に基づき作成されたものでないことが担当審査官には明らかであったのであるから,控訴人の指摘は的外れである。」(10) 原判決35頁1行目の「証言している。」の次に「さらに,化合物10は,抗腫瘍活性の観点から優位性があることを示した例示にすぎず,本件拒絶査定の内容も,少なくとも引用文献3に記載された化合物と同等レベルの抗腫瘍活性しか得られていない化合物は,特許請求の範囲から削除してほしいということであり,それらの抗腫瘍活性に劣る化合物を除く範囲であれば,本願明細書に記載された類似化合物の特性なども勘案して特許性を判断できると説明したにすぎない。」を加える。 (11) 原判決35頁21行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。 「この点,出願人の利益を考慮して,審査官が出願人の補正の趣旨や真意の確認を行うことが,行政サービスとして一般的に好ましいものであることは否定できず,実際にも,特許庁では,出願人との意思疎通を支援する手段として,審査官が電話やファクシミリによる連絡や面接を行うことを許容するなどしている。しかしながら,このような支援施策は,あくまで行政サービスとして行われ,法律上の根拠に基づくものではなく,また,このような支援施策があることを根拠に,特許法の原則である書面審査の原則から逸脱して,面接の内容が正式な書面の内容に優越すると考えることはできない。 特許審査の実情からしても,審査官に出願人の出願内容が真意に沿うものであることを確認する義務を課すのであれば,特許審査の著しい遅滞を招きかねず,その悪影響は甚大である。 仮に, きない。 特許審査の実情からしても,審査官に出願人の出願内容が真意に沿うものであることを確認する義務を課すのであれば,特許審査の著しい遅滞を招きかねず,その悪影響は甚大である。 仮に,審査の経緯及び補正の内容等からみて当該補正書が出願人の真意に基づき作成されたものとみられない場合であったとしても,それによる不利益は,本来出願人において責任を負うべきものであって,手続補正書の記載 内容に従えば特許査定すべきであるにもかかわらず,審査官において殊更,補正の趣旨・真意について出願人に確認すべき法的義務を負わせる根拠はない。さらに,実際の特許審査を行う過程では,「当該補正書が,出願人の真意に基づき作成されたものとはおよそ考え難い場合」であるか否かの判断を行うこと自体難しく,この判断を徹底するとすれば,結局,拒絶査定を行う場合を含む多くの場合に補正の趣旨や真意について出願人に確認する作業が必要となりかねない。」(12) 原判決37頁16行目の「本件特許査定の取消しの義務付けの成否」を「当審における訴え変更後の本件特許査定の取消義務付けの成否」と,同頁19行目の「特許庁審査官」を「特許庁長官」と,それぞれ改める。 3 当審における当事者の補充的主張(1) 特許法195条の4の「査定」の意義(争点(1)ア(ア)及びイに関し)(被控訴人らの主張)仮に,特許法195条の4の「査定」に特許査定は含まれないと解することができないとしても,同条にいう「査定」には,少なくとも,処分に審査官の手続違背があると主張される場合の特許査定は含まれないと解するのが相当である。 控訴人は,このような解釈は,同条の文理に反し,予測可能性を害する,実体的理由と手続的理由との区別は不明確で手続を不安定にする,さらに,補正等に誤りがあっ 含まれないと解するのが相当である。 控訴人は,このような解釈は,同条の文理に反し,予測可能性を害する,実体的理由と手続的理由との区別は不明確で手続を不安定にする,さらに,補正等に誤りがあった場合の救済手段として訂正審判がある,などと指摘する。 しかしながら,審査官の側に職権取消しという是正措置があることからすれば,現実に審査官による手続違背は存在するのであり,このような場合に出願人の側に行服法による救済が認められないのは,行服法の趣旨に反する。 本件では,担当審査官に,単なる手続上の瑕疵ではなく,特許査定制度において制度が適正に運用されるために必要な手続上の義務の重大な違背があ ったのであり,特許出願人の手続的利益を確保し,審査の適正と本来的に価値ある発明の保護を確保するため,行服法による救済の途が認められるべきである。 控訴人が指摘する文理解釈論は,このような実質的な解釈をすることの妨げとはならない。実体的理由と手続的理由の区別は,行訴法及び行服法において広く行われており,このような区別が手続を法的に不安定にすることはあり得ないし,上記のような重大な手続上の義務の違背がある場合に行服法上の救済を認めたからといって,法的安定性や予測可能性を害するものではなく,手続を過度に不安定にすることもない。 さらに,本件のように誤って過小な記載をしてしまった場合には,訂正審判により救済されるものではない。加えて,拒絶査定不服審判における特許審決に対しては審決取消訴訟が可能であるから,前置審査による特許査定に対して行服法上の不服申立てを認めることによって,特許審決の場合と比較して均衡を失するということもない。 (控訴人の主張)被控訴人らは,特許法195条の4の「査定」には,少なくとも処分に審査官の手 法上の不服申立てを認めることによって,特許審決の場合と比較して均衡を失するということもない。 (控訴人の主張)被控訴人らは,特許法195条の4の「査定」には,少なくとも処分に審査官の手続違背があると主張される場合の特許査定は含まれないと主張する。 しかしながら,このような制限解釈は,同条の文理からは到底導くことができず,予測可能性を害する。また,特許査定に対する不服について,実体的理由と手続的理由とに明確に区分することが常に可能であるとはいえず,このような不明確な区分により,同条の例外を認めるのは,手続を過度に不安定にする。さらに,もともと出願人の判断で行うべき特許請求の範囲の設定やその補正等について出願人が自ら誤ったにもかかわらず,敢えてこれを取り消して補正という有利な手続を利用し得るようにするため,行訴法上の救済手段以外の救済手段を設ける必要性は,必ずしも高いとはいえないし,上記のような場合には,訂正審判において争う途もある。加えて,拒絶査定 不服審判請求後の前置審査による特許査定について,上記のような場合に行服法上の不服申立てが可能であるとすると,前置審査から審判移行後の特許審決については再審事由がない限り不服申立てが認められないことと比較して,著しく均衡を欠く。 よって,このような解釈は,到底妥当とはいえない。 (2) 本件特許査定の瑕疵(争点(2)ア,イ及びエに関し)(被控訴人らの主張)本件特許査定には,①本件補正につき出願人である被控訴人らのみならず担当審査官も錯誤に陥っていたという主体に関する瑕疵,②行政処分の対象を取り違えたに等しく,様々な内容上の瑕疵を有するという内容に関する瑕疵,③担当審査官が被控訴人らへの確認義務及び実質的な審査義務を怠ったという手続に関する瑕疵があり,これ る瑕疵,②行政処分の対象を取り違えたに等しく,様々な内容上の瑕疵を有するという内容に関する瑕疵,③担当審査官が被控訴人らへの確認義務及び実質的な審査義務を怠ったという手続に関する瑕疵があり,これらを個別に評価しても,総合的に評価しても,重大かつ明白な違法がある。 よって,本件特許査定は,法律上当然に無効であり,又は取り消し得るというべきである。 ア主体に関する瑕疵について行政行為の前提として行われる私人の公法行為については,表意者の意思に基づかず又は本人の意思に反して第三者がした行為は無効であると解され,また,表意者の錯誤の場合に,錯誤であることが普通の社会見解によって外部から認識され得べき場合は,その誤りを正し,正しきに従って効力を生ずるとされ,また,錯誤であることが外部的に認識され得ない場合は,表示されたところに従って判断されるべきであるが,その要素に錯誤があるときは,その行為は原則として無効となると解される。また,私人の公法行為が絶対無効な場合にあっては,それに基づいて行われた行政行為は,前提を欠く行為として無効となるものと解すべきである。 本件補正における担当弁理士の錯誤は,特許請求の範囲という特許査定 の対象となる事項について,その発明の最も中核となる部分を含む極めて広い範囲にわたる部分を誤って削除し,これに気付かないまま,上記の発明の核となる部分を中心とした所期の特許請求の範囲を残す補正であると誤信していたものであるから,要素の錯誤である。 そして,本件に関連して,特許庁審査官や弁理士と同等の専門的知識を与えられた一般人が,本件拒絶査定以後の審判,審査手続に関する情報を与えられた場合には,被控訴人らが本来予定していた補正案がどのようなものであったかを推認することができ,この推認される補正案 知識を与えられた一般人が,本件拒絶査定以後の審判,審査手続に関する情報を与えられた場合には,被控訴人らが本来予定していた補正案がどのようなものであったかを推認することができ,この推認される補正案と実際に提出された本件補正書に記載された補正内容とを比較すれば,後者が明らかに錯誤に基づくものであると認識することは確実である。よって,本件補正における上記誤りは,錯誤であることが普通の社会見解によって外部から認識され得べきものであるということができる。 また,上記一般人が,意図していた補正案までを正確に認識することが必ずしも確実とはいえないとしても,要素の錯誤がある以上,本件補正は無効であり,同補正を前提とした本件特許査定も無効となる。 なお,本件では,担当審査官が,電話面接において話し合われた内容に基づく補正が適正に行われたと誤信し,実質的に審査することなく本件特許査定をしており,担当弁理士と担当審査官の双方が,共通に錯誤に陥っている。よって,本件では,表意者である被控訴人らの重過失を理由に,被控訴人らが本件補正の錯誤による無効を主張することができないと解するべきではない。 イ内容に関する瑕疵について内容上無効な行政行為として,内容の不能な行為及び内容の不明確な行為があり,さらに前者の例として,虚無の物を対象とする行為や,行政行為の対象とし得ない物を対象とした行為といった,行政行為の目的たる物に関する不能がある。 本件では,本件補正書を提出した被控訴人らも,またこれを受領してそのまま特許査定をした担当審査官も,特許査定の対象となる特許請求の範囲について,双方とも錯誤によって,各内心の意図とは全く異なる特許請求の範囲,すなわち,被控訴人らにおいては出願当初から想定も希望もしていなかった発明部分について ,特許査定の対象となる特許請求の範囲について,双方とも錯誤によって,各内心の意図とは全く異なる特許請求の範囲,すなわち,被控訴人らにおいては出願当初から想定も希望もしていなかった発明部分についての特許請求の範囲,担当審査官においては,本件拒絶査定における拒絶理由を解消したかどうかを含む特許要件について検討もしていなかった特許請求の範囲について特許査定したものである。 これは,行政処分の対象を取り違えたに等しい内容上の瑕疵というべきである。 そして,この錯誤に基づく本件補正によって特許査定の対象となった特許請求の範囲は,被控訴人らによっても,担当審査官によっても,両者のやり取りを含む手続の積み上げによって発明の形式・内容を確定し,完成させようとしてきた発明部分とは無関係な部分であるから,このような部分について,特許権としての効力を付与することは,事実上不能となる可能性が高い。 したがって,本件特許査定における上記内容に関する瑕疵は,行政行為の目的たる物に関する不能中の,虚無の物を対象とする行為や行政行為の対象とし得ない物を対象とした行為と同質の瑕疵を備えるということができる。 また,本件特許査定は,その内容において,①本件補正後の発明について,本件拒絶査定記載の拒絶理由が解消されていないのに,これを看過していること,②本件補正後の発明は,本件拒絶査定において特許性があると判断された発明を包含していないのに,これを看過していること,③本件補正後の発明には,特許法36条4項1号(実施可能要件),6項1号(サポート要件),2号(明確性要件)違反の新たな拒絶理由が生じているのに,これを看過していること,④本件補正後の発明は,担当審査官と 担当弁理士の電話面接により担当審査官から示唆され,担当弁理士が了承した発明の内 確性要件)違反の新たな拒絶理由が生じているのに,これを看過していること,④本件補正後の発明は,担当審査官と 担当弁理士の電話面接により担当審査官から示唆され,担当弁理士が了承した発明の内容と異なるものであったのに,これを看過していること(以上につき,原判決の「事実及び理由」第3の3(2)アないしエのとおり。)という重大な瑕疵を有しており,このような重大な瑕疵を全て備える特許査定は,通常想定することができない。 さらに,本件補正後の本願の特許請求の範囲は,本文とただし書とが全く矛盾しており,このままでは,特許請求の範囲の記載に基づいて発明の技術的範囲を確定することができず,本件特許査定は,その対象とする発明の範囲が不明確であり,特許査定の内容が不明確であるといわざるを得ない。したがって,本件特許査定は,行政行為の内容が不明確なときに該当するということができる。 これらを総合して考慮すると,本件特許査定の内容上の瑕疵は,救いがたいほどに重大なものであり,無効というを免れない。 ウ手続に関する瑕疵について「発明の保護及び利用を図ることにより,発明を奨励し,もつて産業の発達に寄与する」との特許法1条の目的を有効に達成するためには,産業の発達に寄与するような価値のある発明を十分に保護することが必要である。このことを出願人の側から見れば,出願人は,特許法所定の拒絶理由のない限り,自ら公開した発明の範囲内において,同開示の代償としてふさわしい価値を有する特許権を得る権利,利益を有するということができる。 担当審査官は,被控訴人らのこのような利益を保護するため,前置審査を含む審査において,被控訴人らが拒絶理由を理解し,これを解消するために必要な対策を講じられるように配慮し,面接等による意思疎通を積極的に行って, 被控訴人らのこのような利益を保護するため,前置審査を含む審査において,被控訴人らが拒絶理由を理解し,これを解消するために必要な対策を講じられるように配慮し,面接等による意思疎通を積極的に行って,適切に補正等をさせることによって,被控訴人らが発明公開の代償としてふさわしい特許権を取得できるように,審査手続を主宰し, 被控訴人らに重大な錯誤等がうかがえれば,釈明するなどして,正当な利益,権利を取得できるように努める義務を負うというべきである。また,特許査定の可否を決定するに当たっては,出願書類を再検討し,最終的に拒絶理由がないかを確認する審査義務を負うというべきである。 しかしながら,担当審査官は,電話面接におけるやり取りの結果がそのまま本件補正に反映されていると誤信し,本文とただし書との間の矛盾の看過にみられるような,本件補正書に記載された特許請求の範囲の形式的なチェックもしなかったため,同補正書の記載内容と拒絶査定や電話面接を含むこれまでの出願手続や担当弁理士の言動とが著しく食い違っていることに気付かず,あるいは,万一気付いたとしても,その齟齬について確認をすべき義務を怠り,補正書の不審な部分について何ら釈明することなく,また,補正書に記載された特許請求の範囲について,改めて拒絶理由の解消の有無を検討することなく,そのまま特許査定をしたものである。 したがって,本件特許査定に係る担当審査官の被控訴人らへの確認義務及び実質的な審査義務を怠ったという手続上の瑕疵は,出願から特許査定までの一連の手続を定めた趣旨・目的に鑑み,また,それらの手続が出願人の権利又は利益を保護することを目的として定められていることを考慮すれば,これに基づく本件特許査定の無効事由となるというべきである。 エ控訴人は,仮に,本件特許査定が無効と ,それらの手続が出願人の権利又は利益を保護することを目的として定められていることを考慮すれば,これに基づく本件特許査定の無効事由となるというべきである。 エ控訴人は,仮に,本件特許査定が無効とされ,あるいは取り消されたとしても,特許請求の範囲を被控訴人らが望む内容に変更するように補正し直すことは認められないと指摘する。 この点,本件特許査定が無効とされ,あるいは取り消された場合には,前置審査において特許査定がされなかった状態に戻るのであり,担当審査官は,改めて審査した上,本件補正後の本願発明は拒絶理由を解消しておらず,特許要件を具備していないので,特許庁長官に前置解除の報告をすることとなる。 そして,被控訴人らは,前置報告書を閲覧の上で上申書及び補正案を提出し,再考を求めることができる。補正案に対して拒絶理由を通知して補正の機会を与えることは,審判合議体の裁量によることとなるが,裁量処分であっても恣意的であってはならず,本件特許出願のように明らかに適切な補正を行えば特許すべき発明が開示されている場合には,審判合議体は,拒絶理由通知を発して被控訴人らに補正の機会を与えるべきである。 さらに,本件補正後の特許請求の範囲を,被控訴人らが意図した特許請求の範囲に改めることは,ただし書が存在することにより不明瞭となっている本願の特許請求の範囲の記載を明瞭にするものであり,特許請求の範囲の拡張や変更には当たらない。 (控訴人の主張)ア主体に関する瑕疵について(ア) 特許出願は,特許を受けようとする者が特許権を得ようとする意思を客観的に表示する行為であって,特許庁長官を名宛人とした願書の提出という要式行為によって行われるものであり,このことは,手続補正書等の提出についても,同様である。そうであれば,書面の うとする意思を客観的に表示する行為であって,特許庁長官を名宛人とした願書の提出という要式行為によって行われるものであり,このことは,手続補正書等の提出についても,同様である。そうであれば,書面の提出を受けて行われる特許審査も,提出された書面に記載された内容に基づいて行われなければならず,それで足りるというべきであり,このように解して初めて,大量の特許出願を迅速に処理するという要請に応えられる。 また,特許権は,第三者に多大な影響を及ぼすことから,特許された出願の内容を特許公報を通じて公示することに加え,審査段階での手続書面の閲覧を第三者に認めるなど,審査手続の透明性を書面の公開によって担保している。このように第三者との関係に配慮しなければならない点でも,書面の記載内容を重視する必要が,通常の行政過程における申請とそれに対する応答としての行政処分とは大きく異なる。 これらの事情に照らせば,本件特許査定が,出願人の真意に沿わない 特許請求の範囲の記載を基に行われたものであっても,本件特許査定は無効とはならないというべきである。 (イ) 特許査定の前提である出願人の表示行為に錯誤がある場合に,民法の錯誤無効の規定が適用されるとしても,特許手続が,特許秩序の早期安定の要請が強く働く手続であり,書面に記載されていることが正確であることを前提とせざるを得ないこと,特許査定は対世的効力を有し,第三者への影響が生じる処分であることからすれば,その適用は,特許査定の効力を維持することが正義に反すると考えられるような特段の事情がある場合に限られると解すべきである。そして,本件特許査定が特許要件を満たした発明に対して行われていること,本件特許査定について担当審査官に錯誤はないこと,下記のとおり,被控訴人らの重過失が明らかであること 限られると解すべきである。そして,本件特許査定が特許要件を満たした発明に対して行われていること,本件特許査定について担当審査官に錯誤はないこと,下記のとおり,被控訴人らの重過失が明らかであることからすれば,本件特許査定の効力を維持することが正義に反すると考えられるような特段の事情がある場合には該当しない。 ところで,民法95条が適用されるのであれば,同条ただし書の適用もあると解すべきことになる。本件補正書における記載ミスは,最も注意深く記載しなければならない特許請求の範囲の記載について,特許手続の専門家である担当弁理士の過誤により生じたものであり,極めて重大な過誤に基づくものであったと評価される。よって,被控訴人らに重過失があることは明らかであるから,被控訴人らは,本件補正書の提出行為について錯誤無効を主張することはできない。 なお,担当審査官に錯誤がなかったのは上記のとおりであり,被控訴人らによる共通錯誤の主張は,その前提を欠いている。 イ内容に関する瑕疵について担当審査官は,本件補正書の記載内容に沿って本件特許査定を行っており,特許査定の対象を取り違えたということはないし,特許要件は全て満たしているから,本件特許査定に内容に関する瑕疵はない。 ウ手続に関する瑕疵について被控訴人らが主張するような義務が審査官に課されている旨の特許法上の規定はなく,どの範囲で権利を取得するかは出願人の意思と責任によって決定されることになっていることからすれば,提出された書面が出願人の真意に基づくものではなかったとしても,それを見た審査官が,出願人の錯誤に気付くことは,特許法上何ら保障されているものではない。 また,審査官においては,特許請求の範囲を減縮する補正が行われた場合に,出願人の補正の真意など知る も,それを見た審査官が,出願人の錯誤に気付くことは,特許法上何ら保障されているものではない。 また,審査官においては,特許請求の範囲を減縮する補正が行われた場合に,出願人の補正の真意など知る余地もなく,審査官が出願人の真意を確認することは,出願に係る手続書類は第三者が閲覧することが可能であることや,侵害訴訟時の均等論の主張との関係で,出願人の不利益になり得ることであり,それゆえ,特許制度上全く想定されていない。これに加え,本件では本件補正後の請求項1に関して内容面に矛盾が見られなかったことなどに照らせば,担当審査官が,書面の外形上,本件補正書における請求項1の記載が明らかな誤記であって,真意とは全く別の発明に補正されたものと認識することは到底できない。 よって,本件補正が錯誤に基づくものであることを担当審査官が認識することができたことを前提に,同審査官に手続上の義務違反があったということはできない。 エ仮に,本件補正が錯誤に基づくものであるとの理由で本件特許査定が無効とされ,あるいは取り消されたとしても,そのことは,結局,被控訴人らが補正の時期的制限内に適切な補正をしなかったことを意味するにすぎない。また,本件補正の内容を前提とする限り,拒絶理由通知を行う余地はないし,拒絶査定後は,拒絶査定不服審判を請求する場合に限り,特許請求の範囲の補正が認められているにすぎず,改めて審判請求を行う余地はないから,特許請求の範囲を被控訴人らが望む内容に変更するように補正し直すことは認められない。 それにもかかわらず,再び補正の機会を与えるべきと解することは,特許法が補正期間に制限を設けた趣旨を没却するものであり,許されない。 第3 当裁判所の判断当裁判所は,本件控訴に係る部分については,原判決とは異なり,被控 の機会を与えるべきと解することは,特許法が補正期間に制限を設けた趣旨を没却するものであり,許されない。 第3 当裁判所の判断当裁判所は,本件控訴に係る部分については,原判決とは異なり,被控訴人らの予備的請求のうち,本件特許査定の取消しを求める部分に係る訴えは不適法であり却下を免れず,本件却下決定の取消しを求める部分は理由がないと判断する。本件附帯控訴に係る部分については,原判決と同様に,被控訴人らの主位的請求のうち,本件特許査定の無効確認及び本件却下決定の取消しを求める部分はいずれも理由がないと判断し,また,被控訴人らの主位的請求及び予備的請求のうち,当審における訴えの変更後の本件特許査定の取消しの義務付けを求める部分に係る訴えは,いずれも不適法であり却下を免れないと判断する。 その理由は,次のとおりである(なお,以下,特許法(昭和34年法律第121号)を,単に「法」というが,同法制定前の旧特許法と区別するに当たり,特に「現行法」ということがある。また,以下,特に断らない限り,「法」とは,本件補正や本件異議申立てがされた当時の,平成20年法律第16号(平成21年4月1日完全施行)による改正後のものをいう。)。 (本件控訴について) 1 本件特許査定の取消しの訴えの適法性について(争点(1)イ)(1) 争点の所在について本件では,本案前の争点として,本件特許査定の取消しの訴えが,出訴期間を徒過したものかどうかが争われている。 被控訴人らは,平成23年11月7日,本件特許査定謄本の送達を受けたところ,本件特許査定の取消しの訴えを提起したのは,平成24年8月27日であった(前提事実(7)及び(9))。そうすると,本件特許査定の取消しの訴えは,被控訴人らが,処分があったことを知った日から6か月(行訴法1 4条 訴えを提起したのは,平成24年8月27日であった(前提事実(7)及び(9))。そうすると,本件特許査定の取消しの訴えは,被控訴人らが,処分があったことを知った日から6か月(行訴法1 4条1項)を経過して提起されたものであることは明らかである。 そこで,控訴人は,本件特許査定の取消しの訴えは,出訴期間を徒過した不適法な訴えであると主張する。 もっとも,被控訴人らは,平成24年1月6日,行服法に基づき,特許庁長官に対し,本件異議申立てをし,同年4月26日付けで本件却下決定を受けた(前提事実(8))。 被控訴人らは,本件特許査定の取消しの訴えは,本件却下決定を受けた日から6か月以内に提起したものであり,行訴法14条3項にいう「処分・・・につき審査請求をすることができる場合・・・において,審査請求があつたとき」に当たるから,同項の規定により,出訴期間を遵守したものであると主張している。 これに対し,控訴人は,行服法4条1項ただし書は「・・・他の法律に審査請求又は異議申立てをすることができない旨の定めがある処分については,この限りでない。」として,行服法による不服申立てができない場合を規定しているところ,法195条の4は,「査定又は審決及び審判又は再審の請求書の却下の決定並びにこの法律の規定により不服を申し立てることができないこととされている処分については,行政不服審査法による不服申立てをすることができない。」と規定しているから,「査定」については,行服法による不服申立てをすることはできないとし,本件異議申立てをしたとしても,それ自体不適法であり,行訴法14条3項の規定の適用はないから,出訴期間を遵守したことにはならないと主張する。 そこで,本件においては,本件特許査定に対し,行服法に基づく異議申立てが認められるか否か,端的に 適法であり,行訴法14条3項の規定の適用はないから,出訴期間を遵守したことにはならないと主張する。 そこで,本件においては,本件特許査定に対し,行服法に基づく異議申立てが認められるか否か,端的に,法195条の4の「査定」に特許査定が含まれるか否かが問題となる(したがって,争点(2)ウと共通する。)。 ところで,特許出願についての「査定」には,法49条に定める特許出願について拒絶をすべき旨のいわゆる拒絶査定と,法51条に定める特許出願 について特許をすべき旨のいわゆる特許査定とがある。したがって,法において,単に「査定」という場合には,特段の理由がない限り,その両者を含むものと解するのが文理に忠実であり,かつ,自然である。 しかし,この点につき,被控訴人らは,法195条の4の「査定」は拒絶査定のみを指すものと主張し,また,少なくとも処分に審査官の手続違背がある場合の特許査定は含まないなどと主張する。 (2) そこで,以下,法195条の4の「査定」の意義について検討する。 ア法における「査定」の用法についてまず,法における「査定」の語の用法について,法195条の4以外の規定について確認してみると,次のとおりである。 法が「査定」の語を用いているものとして,①「拒絶査定」や「拒絶をすべき旨の査定」,「拒絶の査定」との語で用いているもの(9条,14条,17条の2第1項4号,34条の2第6項,39条5項,44条1項3号,46条2項,49条柱書,50条,53条3項,65条5項,67条の2第5項,67条の3第1項柱書,121条,158条,159条,160条1項,161条,162条,163条1項・2項,164条1項,169条3項,174条1項,184条の18,186条1項2号,193条2項1号),②「特許をすべき旨の査定」と 8条,159条,160条1項,161条,162条,163条1項・2項,164条1項,169条3項,174条1項,184条の18,186条1項2号,193条2項1号),②「特許をすべき旨の査定」との語で用いているもの(17条の2第1項柱書,44条1項2号,51条,53条1項,108条1項,128条,164条1項),③「延長登録をすべき旨の査定」との語で用いているもの(67条の3第2項・第3項,108条2項)があるほか,④単に「査定」のみの語で用いているもの(22条1項,41条1項4号,42条1項,52条,54条2項,139条6号,159条2項,160条1項,163条2項,164条3項,195条9項柱書及び4号)がある。 上記①ないし③は,それぞれ,どのような査定を指すものかは,規定自 体から明らかである。そこで,上記④で,単に「査定」の語が用いられているものについてみると,上記のうち,法139条6号から164条3項までの規定は,いずれも法「第6章審判」に置かれ,法の定める審判手続に関する規定であるところ,これを個別に見ると,法139条6号は,審判に関与する審判官の除斥理由として,「審判官が事件について不服を申し立てられた査定に審査官として関与したとき。」を掲げており,ここにいう「不服を申し立てられた査定」とは,拒絶査定不服審判の対象となる拒絶査定を指すものであることが明らかである(特許無効審判の対象となる特許に係る特許査定については,同審判が査定を不服として請求する性質のものではないことや,特許査定に係る審査との間に事件の同一性を肯定することが困難であることなどからも,「不服を申し立てられた査定」には当たらないものと容易に理解することができる。)。 また,法159条2項,160条1項,163条2項については,いずれも を肯定することが困難であることなどからも,「不服を申し立てられた査定」には当たらないものと容易に理解することができる。)。 また,法159条2項,160条1項,163条2項については,いずれも拒絶査定不服審判を前提とする規定であることから,ここにいう「査定」がいずれも拒絶査定を意味することも明らかであり,法164条3項は,拒絶査定不服審判の請求と同時に補正がされたため,法162条に基づき当該請求が審査官の前置審査に付された場合に,法164条1項の規定により拒絶査定を取り消して特許査定をする場合を除いて,すなわち,依然として拒絶理由があると判断する場合には,当該審判請求について査定をすることなくその審査の結果を特許庁長官に報告しなければならないというものであることからすれば,ここにいう「査定」についても,拒絶査定を意味することは明らかである。 これに対し,上記④のうち,法22条1項は法「第1章総則」に置かれた規定であり,また,法41条1項4号,42条1項は法「第2章特許及び特許出願」に,法52条,54条2項は法「第3章審査」に,195条9項柱書及び4号は法「第10章雑則」に,それぞれ置かれた規 定である。これらの規定は,それぞれの位置付けに照らしても一般的な規定と解され,また,内容的にも,これらの「査定」が,条文の趣旨や文脈に照らして,拒絶査定ないし特許査定のいずれかに限定されるものと解すべき根拠は見当たらず,文言どおり,拒絶査定及び特許査定のいずれをも含む趣旨と解することができる。 以上によれば,法において,「査定」の語の多くは,拒絶査定ないしは特許査定,あるいは延長登録をすべき旨の査定のいずれであるかが文言上明確に特定されており(上記①ないし③),単に「査定」のみの語が用いられた場合(上記④)については,そ 語の多くは,拒絶査定ないしは特許査定,あるいは延長登録をすべき旨の査定のいずれであるかが文言上明確に特定されており(上記①ないし③),単に「査定」のみの語が用いられた場合(上記④)については,その語の置かれた条文の位置付け,趣旨,文脈等に照らして拒絶査定を指すことが明らかであるか,少なくとも容易に理解することができる場合を除いては,拒絶査定及び特許査定のいずれをも含むものとして用いられているものと解され,用語法において,疑義が生ずるところはない。 上記のような法の用法に照らすと,法195条の4の規定についても,法「第10章雑則」に置かれているという規定の位置や,前後の条文から,明らかに拒絶査定や特許査定を特定して指すものと解されるものではないから,同条の「査定」には,特許査定,拒絶査定のいずれも含むものと解するのが自然であるということができる。 イ法195条の4の制定経過等について次に,被控訴人らは,法121条により審判請求が認められない特許査定に対する不服申立ての途を確保するために,法195条の4にいう「査定」を拒絶査定に限定して解すべきであると主張する。そこで,法における査定に対する不服申立手続の制定経過に照らして,法195条の4の「査定」の意義を検討する。 (ア) 証拠(甲25)及び弁論の全趣旨によれば,法195条の4の規定の制定経過等について,次のとおり認められる。 a 法195条の4の規定の前身となる規定として,昭和35年4月1日に施行された現行法(昭和34年法律第121号)は,177条において,当時の訴願法(明治23年法律第105号)との関係について,「この法律又はこの法律に基く命令の規定により行政庁がした処分(補正の却下の決定,査定,審決及び審判又は再審の請求書の却下の決定を除く。)に不服が 願法(明治23年法律第105号)との関係について,「この法律又はこの法律に基く命令の規定により行政庁がした処分(補正の却下の決定,査定,審決及び審判又は再審の請求書の却下の決定を除く。)に不服がある者は,通商産業大臣に訴願することができる。ただし,この法律の規定により不服を申し立てることができないこととされているときは,この限りでない。」と定めていた。 その後,昭和37年の行服法の制定及び施行,訴願法の廃止に伴い,昭和37年法律第161号による法の一部改正により,上記177条が削除され,現在の法195条の4に当たる法195条の2(以下「旧195条の2」という。)が追加された。当時の条文は,「補正の却下の決定,査定,審決及び審判又は再審の請求書の却下の決定並びにこの法律の規定により不服を申し立てることができないこととされている処分については,行政不服審査法による不服申立てをすることができない。」というものであった(後に,「補正の却下の決定」は削られた。)。 上記各規定においてはいずれも,「査定」が訴願法による訴願ないしは行服法による不服申立ての対象から除外されている。 b 査定に対する審判請求の規定についてみると,現行法には,特許査定に対する同法固有の不服申立てを定めた規定は置かれていない。 大正10年特許法(大正10年法律第96号)においては,「査定又ハ審判ノ審決ヲ受ケタル者不服アルトキハ其ノ査定又ハ審決ノ送達ヲ受ケタル日ヨリ三十日以内ニ抗告審判ヲ請求スルコトヲ得」(109条)と規定されていたことから,拒絶査定だけでなく,特許査定に対する審判請求も可能であるとの見解も唱えられていた(甲25)。 これに対し,現行法121条1項は,「拒絶をすべき旨の査定を受けた者は,その査定に不服があるときは,その査定の謄本の送達があ 対する審判請求も可能であるとの見解も唱えられていた(甲25)。 これに対し,現行法121条1項は,「拒絶をすべき旨の査定を受けた者は,その査定に不服があるときは,その査定の謄本の送達があつた日から三十日以内に審判を請求することができる。」と規定し(後に,審判請求期間は三月に改められた。),審判請求をすることのできる査定を拒絶査定に限定し,特許査定に対しては審判を請求することができないものとした。 c 文献には,「旧第百九条は・・・特許査定に対しても抗告審判の請求ができると解する余地がありえた。しかし,それはおかしいということで,現行法では,審判請求ができる者は拒絶査定を受けた者に限定したもののようである。特許査定を受けた出願人がこれに対する不服の審判を請求できるというのは,たしかに,どこかが変であるし,実益もないことであろう。」との記載がある(三宅正雄「特許争訟雑感」。なお,同文献は,特許査定を受けた出願人がその特許査定を争う利益が絶対ないとは断言できないとも指摘している。甲25)。 (イ) 以上のとおり,大正10年特許法の下では,109条の「査定」には特許査定も含まれ,これに対する審判請求が可能であるとの見解も存在していたところ,現行法は,121条において,特許査定に対しては審判請求ができないことを明確にしたものである。しかし,その際,訴願法との関係を定めた旧177条,行服法との関係を定めた旧195条の2(現在の法195条の4)の規定は,「査定」という用語を使用し,審判請求の対象を拒絶査定に限定したことに合わせて,これを拒絶査定に限定することはなかったのである。 このような制定の経緯に照らせば,法は,特許査定を含めて,「査定」を,行政上の不服申立ての対象から除外する趣旨であったと解するのが相当というべきである 査定に限定することはなかったのである。 このような制定の経緯に照らせば,法は,特許査定を含めて,「査定」を,行政上の不服申立ての対象から除外する趣旨であったと解するのが相当というべきである。 ウ被控訴人らの主張について (ア) 被控訴人らは,瑕疵ある特許査定に対する出願人の利益を保護するためには,法121条が審判請求を認めない特許査定に対する不服につき,行服法による不服申立ての利益を確保する必要があるから,法195条の4の「査定」から特許査定は除外されると解すべきであると主張する。 しかし,現行法の下では,行服法による不服申立てが認められないとしても,行訴法に基づく抗告訴訟を提起することにより司法的救済を求めることができることはいうまでもないから,特許査定に対する不服申立ての途が閉ざされるものではない。そして,ある処分に対する不服について,司法的救済以外に救済ルートを設けるかについては,立法政策に属する問題であり,立法府の合理的裁量に委ねられたものというべきである。 そして,法121条が,審判請求の対象を拒絶査定に限定したことについては,前記イ(ア)cの文献の記載からもうかがわれるように,特許査定については,審判請求の対象として認める実益もないというところにあったと解される。確かに,出願どおり特許査定を受けた出願人が,不服の申立てをすること自体,想定しにくいところであり,一般的には,不服申立ての利益も認め難いものと考えられる。そうすると,特許査定に対する不服申立てとしては,不服申立ての利益の有無が問題とされるような,極めて例外的な事案であって,非定型的な内容を含むものであることが想定されるところであるから,このような類型の紛争については,特許庁としての専門性を前提とした審査より,法的判断に関わる審査を うな,極めて例外的な事案であって,非定型的な内容を含むものであることが想定されるところであるから,このような類型の紛争については,特許庁としての専門性を前提とした審査より,法的判断に関わる審査を優先し,行服法に基づく行政的救済ではなく,直接,司法的救済のルートに委ねるという選択がされたとしても不合理ということはできない。 (イ) 被控訴人らは,法195条の4の規定について,特許法上の各種処 分のうち,①審判という不服申立ての途を設けているもの,②行服法による不服申立てを省略して直接に裁判所に訴訟を提起すべきとされるもの,③個別の理由に基づき,特別に不服申立てが禁止されるものを,同法による不服申立てをすることができない処分として列挙するものであり,特許査定は,これらには含まれないと主張する。 しかし,上記の点については,前記(ア)に見たとおりであって,例外的,非定型的な紛争について,直接司法審査のルートに委ねることが,それ自体,不合理,不自然ということはできない。 (ウ) 被控訴人らは,「工業所有権法(産業財産権法)逐条解説」の記載に,「査定」が行服法による不服申立ての対象とならないことについて,審判という不服申立ての途を設けているとの説明があることを指摘する。 しかし,同文献の記載は,通常不服申立てが想定される場合を念頭に置いた説明と解され,前記理解を左右するものとは認められない。 (エ) 被控訴人らは,特許査定が誤りによってされた場合に審査官が職権取消通知を行うこととしていることとの均衡からしても,特許査定に対する行服法による異議申立てが認められるべきであるとして,「職権取消通知等に関する審査官用マニュアル」(甲14の3)の存在を指摘する。 同マニュアルには,対象案件を取り違えて特許査定した場合,補正書が特許 による異議申立てが認められるべきであるとして,「職権取消通知等に関する審査官用マニュアル」(甲14の3)の存在を指摘する。 同マニュアルには,対象案件を取り違えて特許査定した場合,補正書が特許査定の謄本と行き違いで提出された場合など,重大かつ明白な誤りを発見した場合に,職権取消通知を行うこととすることとされているが,これは,関係者に異論のない範囲で,その効力を消滅させ,速やかに法の趣旨に沿ったものとすることを目的とするものと認められる。しかし,特許庁においてこのような運用があるからといって,特許査定に対する行服法による不服申立てを認めないことが,直ちに合理性に欠けるということはできない。 (オ) 被控訴人らは,法195条の4の「査定」には,少なくとも,処分に審査官の手続違背があると主張される場合の特許査定は含まれないと主張する。 しかしながら,法の文理に照らして,法195条の4の「査定」から,処分に審査官の手続違背があると主張される場合の特許査定のみが除外されると解すべき理由があるとは認められない。 (カ) よって,被控訴人らの上記主張は,いずれも採用することができない。 (3) まとめ以上のとおり,法における「査定」の用法,法195条の4の規定の制定経過等に照らして,「査定」の文言は文理に照らして解することが自然であり,このように解しても,特許査定の不服に対する司法的救済の途が閉ざされるものではないこと,特許査定に対し,司法的救済のほかに行政上の不服申立ての途を認めるべきかどうかは立法府の裁量的判断に委ねられており,その判断も不合理とはいえないことからすれば,法195条の4の「査定」が拒絶査定のみに限定され,あるいは,処分に審査官の手続違背があると主張される場合の特許査定はこれに含まれないと解すべ れており,その判断も不合理とはいえないことからすれば,法195条の4の「査定」が拒絶査定のみに限定され,あるいは,処分に審査官の手続違背があると主張される場合の特許査定はこれに含まれないと解すべき理由があるとは認めることができない。 そうすると,法195条の4の規定により,本件特許査定に対して行服法による不服申立てをすることは認められないから,本件異議申立ては不適法なものであって,これを前提として,本件訴訟における本件特許査定の取消しの訴えについて行訴法14条3項の規定を適用することはできない。 そして,本件特許査定の取消しの訴えが,本件特許査定謄本の被控訴人らへの送達から6か月を経過した後に提起されていることは,前記(1)のとおりである。また,その期間の徒過に正当な理由があることについては,被控訴人らから何らの主張立証もない(なお,本件却下決定がされたのは,上記 6か月が経過する前であり,同決定(甲15)において,法195条の4の「査定」に特許査定が含まれる旨の説示もされていた。)。 よって,本件特許査定の取消しの訴えは,行訴法14条1項の定める出訴期間を徒過して提起された不適法な訴えであるといわざるを得ず,却下を免れない。 したがって,予備的請求に係る本件特許査定の取消しの訴えについて,出訴期間を遵守した適法な訴えであるとした原判決は,取消しを免れない。 2 本件却下決定についての取消事由の有無について(争点(2)ウ)(1) 本件却下決定(甲15)は,特許査定について行服法により異議申立てをすることは法195条の4及び行服法4条1項に違背し不適法であるとして,同法47条1項に基づき,本件異議申立てを却下したものである。 (2) 前記1において説示したとおり,法195条の4の「査定」には拒絶査定のみならず特許査定 服法4条1項に違背し不適法であるとして,同法47条1項に基づき,本件異議申立てを却下したものである。 (2) 前記1において説示したとおり,法195条の4の「査定」には拒絶査定のみならず特許査定も含まれると解される。そうすると,特許査定は,行服法4条1項ただし書の「他の法律に審査請求又は異議申立てをすることができない旨の定めがある処分」に当たる。したがって,本件特許査定に対して行服法に基づく異議申立てをすることは認められないから,本件異議申立ては,同項に違反し不適法であり,却下を免れない。 (3) そうすると,これと同旨の理由に基づき,本件異議申立てを却下した本件却下決定に誤りはなく,同決定に取消事由があるということはできない。 この点に関する被控訴人らの主張は,採用することができない。 したがって,原判決中,予備的請求に係る本件却下決定の取消請求を認容した原判決は,取消しを免れない。 なお,同じ理由により,主位的請求に係る本件却下決定の取消請求も理由がないことは明らかである。したがって,これを棄却した原判決は,結論において相当である。 (本件附帯控訴について) 3 本件特許査定の無効事由の有無について(争点(2)ア)(1) 被控訴人らの主張被控訴人らの無効事由の主張は多岐にわたるものがあるが,概要,①担当審査官が,本件補正後の本願発明について全く審査せず,又は実質的に審査をすることなく本件特許査定をした,②担当審査官は,行政処分の対象を誤った,③担当審査官は,本件補正の内容が被控訴人らの真意に沿うものであるかどうかを確認すべき手続上の義務を怠った,などとして,本件特許査定には重大かつ明白な瑕疵があると主張するものである。 そして,担当審査官が審査をしていないことの根拠として,本件補正が,㋐本件拒絶査定にお を確認すべき手続上の義務を怠った,などとして,本件特許査定には重大かつ明白な瑕疵があると主張するものである。 そして,担当審査官が審査をしていないことの根拠として,本件補正が,㋐本件拒絶査定における拒絶理由を解消していないこと,㋑本件拒絶査定において特許性があると担当審査官が判断していた発明を除外していること,㋒実施可能要件,サポート要件及び明確性要件をいずれも充足しないという新たな拒絶理由を生じさせていること,㋓電話面接において担当審査官と担当弁理士との間で事実上合意した補正内容と著しく異なること,などの点で,重大な誤りを含むものであったことを指摘する。 また,被控訴人らは,当審において,本件特許査定には,④本件補正につき出願人である被控訴人らのみならず担当審査官も錯誤に陥っていたという主体に関する瑕疵,⑤行政処分の対象を取り違えたに等しく,様々な内容上の瑕疵を有するという内容に関する瑕疵(上記②の主張を含むものと解される。),⑥担当審査官が被控訴人らへの確認義務及び実質的な審査義務を怠ったという手続に関する瑕疵(上記①及び③の主張を含むものと解される。)があり,これらを個別に評価しても,総合的に評価しても,重大かつ明白な違法があると主張する。 さらに,本件において,担当審査官の過誤の重大性,被控訴人らの被る不利益の深刻さ,第三者保護の要請が妥当しないことなどに照らせば,本件特許査定に係る瑕疵は,明白性の有無にかかわらず無効原因となると主張する。 以上の被控訴人らの主張内容には,本件特許査定に係る審査自体の無効に係る主張とともに,本件補正が錯誤により無効であるからこれを前提とする本件特許査定は当然に無効である旨の主張が含まれており,これらは問題点を異にするものと考えられる。そこで,以下では,まず,本件における審査の もに,本件補正が錯誤により無効であるからこれを前提とする本件特許査定は当然に無効である旨の主張が含まれており,これらは問題点を異にするものと考えられる。そこで,以下では,まず,本件における審査の前提となる本件補正の錯誤無効に関する被控訴人らの主張について検討し,次に,本件特許査定の無効事由に関する被控訴人らの主張について検討することとする。 (2) 本件補正の錯誤無効に関する被控訴人らの主張についてア出願に関する書面についての錯誤とその主張の許否等について本件においては,被控訴人らの担当弁理士により,被控訴人らが意図していたところとは異なる補正内容を記載した手続補正書が特許庁に提出され,これに基づいて本件特許査定がされたものであるところ,被控訴人らは,本件補正について,いわゆる表示上の錯誤があったとし,このような錯誤に基づく本件補正は無効であり,無効な補正を前提とする本件特許査定も無効であると主張する。 出願に関する書面の記載内容が作成者の真意と異なるとされる場合,そもそも錯誤無効の主張が許されるのかどうか,また,そのような書面を前提とする特許査定の効力をどのように解するかは,法において,このような錯誤に対する救済手段についての特別の定めを置いているかどうかを検討し,何らかの救済手段が定められているのであれば,その規定の趣旨,目的,内容等を検討し,法の規定に照らし,上記主張の許否や限度が判断されるべきである。 そこで,出願に関する書面についての錯誤とその主張の許否等について,法の考え方を検討することとする。 (ア) 法は,特許出願等の手続につき,書面主義を採用している。 すなわち,法は,手続の補正(17条4項),特許出願(36条1 項),出願公開の請求(64条の3),特許権の存続期間の延長登録の出願(6 ,特許出願等の手続につき,書面主義を採用している。 すなわち,法は,手続の補正(17条4項),特許出願(36条1 項),出願公開の請求(64条の3),特許権の存続期間の延長登録の出願(67条の2),審判請求(131条1項),再審の請求(174条)等は,書面の提出によって行わなければならない旨を定め,その記載事項を具体的に定めるなどしている。また,法施行規則1条1項は,特許出願,請求その他特許に関する手続は,法令に別段の定めがある場合を除き,書面でしなければならないと定めている。 とりわけ,特許出願に当たっては,所定の事項を記載した願書を特許庁長官に提出しなければならないこと(法36条1項),願書には明細書,特許請求の範囲,必要な図面及び要約書を添付しなければならないこと(同条2項)が定められるとともに,これらの添付書類に記載しなければならない事項等が具体的に定められている(同条3項ないし7項)。 (イ) 法が,上記の各手続を書面の提出によって行わなければならないと定めているのは,書面に記載されたところをもって手続の対象とすることによりその対象を明確にし,手続の円滑迅速な処理を図ろうとするものであり,特に,特許出願においては,願書や上記のとおりの添付書類に記載されたところの特許出願(補正が行われた場合には,補正書に記載されたところの補正後の特許出願を含む。)が,審査官による審査(法47条1項)の対象となるからであると解される。 このような書面主義の建前においては,書面の記載内容はその提出者の意思を反映しているものとして取り扱われるから,書面の提出者は,どのような内容を記載するのかを十分に検討した上で記載内容を決定すべきこととなる。 (ウ) 法は,書面主義を採用する一方,書類に不備があるなどした場合,その補充や修正を行 るから,書面の提出者は,どのような内容を記載するのかを十分に検討した上で記載内容を決定すべきこととなる。 (ウ) 法は,書面主義を採用する一方,書類に不備があるなどした場合,その補充や修正を行う手段に関して具体的に定めている。すなわち,法17条1項においては,手続をした者は事件が特許庁に係属している場 合に限り,その補正をすることができると定める。また,明細書,特許請求の範囲,図面若しくは要約書については,法17条の2ないし4の規定により補正をすることができる場合を除き,補正をすることができないと定めている。 (エ) そして,法17条の2第1項は,特許出願人は,特許をすべき旨の査定の謄本の送達前においては,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面について補正をすることができると定める一方,法50条の定める拒絶理由通知を受けた後は,拒絶査定不服審判を請求する場合において,その審判の請求と同時にするとき(法17条の2第1項4号)など,同項各号に定める場合に限り補正をすることができると定め,同条3項は,1項の規定により明細書,特許請求の範囲又は図面について補正をするときは,誤訳訂正書を提出してする場合を除き,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならないと定めている。 (オ) また,法17条の2第5項は,同条3項及び4項(省略)に定めるほか,1項4号等に掲げる場合において特許請求の範囲についてする補正は,㋐法36条5項に規定する請求項の削除,㋑特許請求の範囲の減縮,㋒誤記の訂正,㋓明瞭でない記載の釈明を目的とするものに限ると定めている。 (カ) さらに,特許権成立後に,願書に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面の訂正をすることに関しては,特許権者による訂正審判請求 正,㋓明瞭でない記載の釈明を目的とするものに限ると定めている。 (カ) さらに,特許権成立後に,願書に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面の訂正をすることに関しては,特許権者による訂正審判請求(法126条)又は特許無効審判手続中での訂正請求(法134条の2)の途が定められているが,いずれも,㋐特許請求の範囲の減縮,㋑誤記又は誤訳の訂正,㋒明瞭でない記載の釈明を目的とするものに限られ(法126条1項ただし書,134条の2第1項ただし書。なお,平成23年法律第63号による改正により,「他の請求項の記載を引用す る請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」が追加された。),願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(誤記又は誤訳の訂正に関しては,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面)に記載した事項の範囲内においてしなければならず(法126条3項。訂正の請求については,同項が法134条の2第5項において準用される。),また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものであってはならない(法126条4項。訂正の請求については上記に同じ。)とされている。 (キ) 法が,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面について,補正の途を認めつつ,補正のできる時期や範囲について,上記のとおりの制限を設けているのは,先願主義(法39条)の下,可能な限り早期の出願日を確保する必要があることによる明細書等の作成における時間的制約や,出願人の不慣れなどにより当初から完全な明細書等を作成できない場合も考えられることなどを踏まえ,発明を適切に保護するためには補正を認める必要がある一方,補正が出願時への遡及効を持つことから,無制限に明細書等の補正を許すと,先願主義に反し第三者の利益を害する上,特許庁の審査にお などを踏まえ,発明を適切に保護するためには補正を認める必要がある一方,補正が出願時への遡及効を持つことから,無制限に明細書等の補正を許すと,先願主義に反し第三者の利益を害する上,特許庁の審査においても,その都度,先行技術調査や特許性判断を行う必要から審査の負担増大及び遅延が生じ,手続の複雑化及び混乱化を招来することになりかねず,さらに,当初から完全な明細書等の作成に努めている者との間で不公平となることなどから,手続の効率化や出願人と第三者の利益の調整等の観点に照らして,一定の時期的制限及び内容的制限の下で明細書等の補正を許すこととしたものと解される。 また,特許法が特許権成立後の明細書等の訂正を認めつつ,その範囲について上記のような制限を設けているのは,登録後に無効理由を含んでいることが発見されたり,記載に誤りがあったり,記載が明瞭でない ことが判明することもあることから,これらに対処するための手段を特許権者に認めつつ,既に権利内容がいったん確定していることから,第三者に対して不測の損害を与えることのないよう,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものであってはならないとされているものと解される。 (ク) このように,法は,手続に当たり書面主義を採用しており,書面の記載内容はその提出者の意思を反映しているものとして取り扱われること,一方,書面の記載の不備を補充・修正する手段として明細書等の補正や訂正の途を認めつつ,その範囲等について制限を設けていることに照らせば,法は,補正や訂正の手続において認められた限度においてのみ,書面の記載の不備の補充・修正を許容しているものと解すべきである。 (ケ) そして,上記(ク)のことは,書面の記載内容と,その書面の提出者の真意との間に齟齬がある場合も同様であると解される。法 み,書面の記載の不備の補充・修正を許容しているものと解すべきである。 (ケ) そして,上記(ク)のことは,書面の記載内容と,その書面の提出者の真意との間に齟齬がある場合も同様であると解される。法の定める補正や訂正の手続によって対処することができないにもかかわらず,書面の記載内容と真意との間に不一致があるとして,いったん提出された書面の記載内容を真意に沿うように改めることは,手続の効率化や出願人と第三者の利益の調整等の観点から,補正や訂正の途を限定的に許容した趣旨を没却するものであり,法の許容しないところというべきである。 この点は,法において,手続の局面を問わず最低限許容される補正や訂正の類型として,「誤記の訂正」が定められていることからも明らかといえる。すなわち,「誤記の訂正」とは,本来その意であることが明細書等の記載等から明らかである場合に,誤りを意味本来の字句に正すこと,あるいは,錯誤により本来の意を表示していないものとなっている記載を,本来の意を表す記載に訂正することであるから,これは,出願人が,錯誤により,その真意と異なる記載をした場合に,その誤りで あることが他の記載から明らかであり,実質上特許請求の範囲の拡張又は変更とならないものに限って,真意に沿う記載に改めることを許容するものということができる。そうすると,法は,出願人が,錯誤により,その真意と異なる記載をすることがあり得ることを想定しつつ,その補正や訂正が許容される限度を上記のとおり定めたものと解される。 したがって,法は,その限度を超えるものに対して,補正や訂正を許容するものではないというべきである。 イ本件補正書の記載は錯誤により無効となるか(ア) 以上のとおり,法は,書面主義の下で,錯誤による書面の記載内容と真意との間の齟齬の是正につい や訂正を許容するものではないというべきである。 イ本件補正書の記載は錯誤により無効となるか(ア) 以上のとおり,法は,書面主義の下で,錯誤による書面の記載内容と真意との間の齟齬の是正については厳格な要件の下にのみこれを許容しているものといえるから,ある書面が,作成者の真意とは異なる内容の記載になっていたとしても,その真意を問わず,書面の記載に従って手続が進められるものであって,そのことは,我が国における特許出願,審査のルールとして,手続に関わる者において周知のことといえる。 そうすると,仮に,真意と異なる記載について,法の規定によらずに,一般的な意思表示の錯誤を理由としてその効果を否定することができる余地があり得るとしても,それは,上記のような法の趣旨に照らしても許容することができる場合に限られるというべきである。そして,上記の法の趣旨を勘案すると,そのような錯誤が認められる場合としては,その齟齬が重大なものであることに加えて,少なくとも,当該書面の記載自体から,錯誤のあることが客観的に明白なものであり,その是正を認めたとしても第三者の利益を害するおそれがないような場合であることが必要であるというべきである。 そこで,上記の観点から,本件補正書の記載内容について錯誤による無効が認められるか否かを,以下に検討する。 (イ) 前提事実及び弁論の全趣旨によれば,本件補正書に記載された本件 補正の内容は,被控訴人らが真に意図していたところとは異なるものであると認められる。 しかしながら,本件補正書の記載内容は,補正前の特許請求の範囲を減縮しようとするものであって,同書面の記載上,特段の問題があるとは認められない。また,本件補正書と同時に提出された審判請求書(甲9)の記載を見ても,同請求書には,「上記補正は,請求項1にお 範囲を減縮しようとするものであって,同書面の記載上,特段の問題があるとは認められない。また,本件補正書と同時に提出された審判請求書(甲9)の記載を見ても,同請求書には,「上記補正は,請求項1において,R1をフッ素に限定し,R2を塩素に限定し(特許請求の範囲の限定的減縮にあたります)・・・適法な補正です。」と,R1及びR2の組合せが明確に特定されており,この記載に照らしても,一見して本件補正の内容に疑義を容れる余地があるとは認められない。そうすると,本件補正書の記載については,上記のとおり,審判請求書の記載内容とも整合し,それ自体整ったものといえるから,その記載自体から,錯誤があることが客観的に明白なものと認めることはできないし,その是正を認めた場合に第三者の利益を害するおそれがないということもできない。 したがって,被控訴人らに錯誤があったことを理由に,本件補正が無効であるということはできず,この点に関する被控訴人らの主張は,採用することができない。 ウ被控訴人らの主張について(ア) 被控訴人らは,本件補正が,本件拒絶査定において指摘された拒絶理由を解消していないこと,本願発明から化合物10を除外していること,実施可能要件,サポート要件及び明確性要件を充足しないという新たな拒絶理由を生じさせていること,担当審査官との電話面接において事実上合意した補正内容と著しく異なることからすれば,本件補正が被控訴人ら(担当弁理士)の過誤・誤記によるものであることが担当審査官に明らかであったとして,担当審査官が,本件補正の内容が被控訴人らの真意に沿うものであるかどうかを確認すべき義務を怠ったと主張す る。 (イ) しかしながら,前記アにおいて検討した書面主義の考え方からすれば,書面の記載内容はその提出者の意思を反映しているもの に沿うものであるかどうかを確認すべき義務を怠ったと主張す る。 (イ) しかしながら,前記アにおいて検討した書面主義の考え方からすれば,書面の記載内容はその提出者の意思を反映しているものとして取り扱われるのであり,特許出願においては,願書や添付書類,補正書に記載されたところの特許出願が審査官による審査の対象となる。そうすると,審査官は,出願人の出願に係る上記書面に記載された発明が,特許要件を満たすかどうかを判断すれば足り,これを超えて,出願人の出願内容がその真意に沿うかどうかを確認すべき義務を負うものではないというべきである。 (ウ) なお,仮に,上記書面の記載内容が出願人の真意に沿うものではないことが審査官において明らかな場合に限り,上記のような義務を観念する余地があるとしても,本件において,本件補正についての被控訴人らの錯誤が客観的に明白であるとはいえないことは前記イのとおりである。 (エ) 被控訴人らは,さらに,担当審査官にとって,被控訴人らの上記錯誤が特に明白であったということのできる事情があるとして,本件補正が,本件拒絶査定において指摘された拒絶理由を解消していないこと,本願発明から化合物10を除外していること,実施可能要件,サポート要件及び明確性要件を充足しないという新たな拒絶理由を生じさせていること,担当審査官との電話面接において事実上合意した補正内容と著しく異なることなどを指摘する。 しかし,上記指摘の内容は,多くは本件特許査定に係る審査自体に関わる問題というべきである。そして,後記(5)における検討に照らせば,それらの主張を勘案してみても,本件補正書における本件補正の内容が,担当審査官において,錯誤によるものであることが明白なものであったと認めることができるような事情があったということはでき 照らせば,それらの主張を勘案してみても,本件補正書における本件補正の内容が,担当審査官において,錯誤によるものであることが明白なものであったと認めることができるような事情があったということはできない。 したがって,被控訴人らの指摘する事情から,担当審査官において,本件補正が被控訴人らの真意に基づいていないことを知り,又は真意に基づいていないと疑うべきことが明らかであったということはできないから,同審査官が,被控訴人らが主張する確認義務を負うということはできない。 よって,被控訴人らの上記主張は,いずれも採用することができない。 そうすると,本件補正が錯誤により無効であることを前提とする本件特許査定の無効の主張は理由がない。 (3) 無効確認訴訟において特許査定が無効とされる場合について次に,本件特許査定に無効事由があるとする被控訴人らの主張について検討する。 被控訴人らの前記(1)の主張に鑑み,まず,行政処分の無効確認訴訟において,特許査定が無効とされる場合について,検討することとする。 ア行政処分は,それが国家機関の権限に属する処分としての外観的形式を具有する限り,仮にその処分に関し違法の点があったとしても,その違法が重大かつ明白である場合のほかは,これを法律上当然無効というべきではない(最高裁昭和25年(オ)第206号昭和31年7月18日大法廷判決・民集10巻7号890頁)。 イ特許出願に係る審査について,法47条は,特許庁長官は政令で定める資格を有する審査官に特許出願を審査させなければならない旨を規定し,特許法施行令12条(平成20年政令第67号による改正後のもの。平成27年政令第26号による改正後の同施行令4条に当たる。)は,審査官の資格を有する者につき,職務の級が一定以上であり,同条各号所定の 特許法施行令12条(平成20年政令第67号による改正後のもの。平成27年政令第26号による改正後の同施行令4条に当たる。)は,審査官の資格を有する者につき,職務の級が一定以上であり,同条各号所定の審査事務従事歴ないし学識経験等を有し,独立行政法人工業所有権情報・研修館における所定の研修を修了したものとすると定めている。そして,法49条1号ないし7号は,実体的な特許要件に関わる拒絶理由を詳細に定 め,審査官は,審査の結果,特許出願が同条各号所定の拒絶理由のいずれかに該当するときは拒絶査定を(同条柱書),特許出願について拒絶理由を発見しないときは特許査定を(法51条),それぞれしなければならないと定めている。 また,法162条は,拒絶査定不服審判の請求と同時にその請求に係る特許出願の願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面について補正があったときは,審査官にその請求を審査させなければならないと規定しており(いわゆる前置審査),法163条3項は,上記審査において審判の請求を理由があるとする場合について,法51条を準用している。 以上の規定によれば,法は,特許を付与する手続について,資格を有する審査官による審査を経た上で特許を付与する,いわゆる審査主義を採用しており,審査官には,拒絶ないし特許の査定をするに当たっては,拒絶理由に当たる事由があるか,それともこれを発見しないか等についての審査を行うことが要求される。したがって,このような審査官による審査は,審査主義を採用する我が国の特許制度の根幹に関わるものということができる。 そうすると,被控訴人らが主張するように,審査官が,特許出願に対する審査を全くすることがなかったか,あるいは実質的にこれと同視すべき場合には,これによる査定には,法の予定する審査を欠く重大な違法がある すると,被控訴人らが主張するように,審査官が,特許出願に対する審査を全くすることがなかったか,あるいは実質的にこれと同視すべき場合には,これによる査定には,法の予定する審査を欠く重大な違法があるというべきである。もっとも,法が特許無効審判の制度を設けていることからすれば,特許要件の判断等について審査官がした審査の内容に誤りがあるとされるにとどまる場合には,同審判における無効理由として,同審判による是正が検討されるべきことになるものと解される。 ウ以上によれば,本件においては,担当審査官による本件特許査定に至る本件特許出願に対する審査について,審査を全くすることがなかったか,あるいは実質的にこれと同視すべき場合と評価し得るような事情が認めら れ,本件特許査定の無効事由を導く重大な違法があるかどうかを検討すべきことになる。 (4) 認定事実前提事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件特許出願及びこれに対する審査の経過等について,次の事実が認められる。 ア本件特許出願に係る出願当初の特許請求の範囲(なお,請求項の数は12であった。)の請求項1(以下,特に断らない限り,補正の前後を問わず,単に「本願請求項1」という。)の記載は,次のとおりであった(前提事実(1)ウ)。 「【請求項1】下記化学式1で表される1-[(6,7-置換-アルコキシキノキサリニル)アミノカルボニル]-4-(ヘテロ)アリールピペラジン誘導体又は薬剤学的に許容可能なそれらの塩。 (化学式1~省略~)前記化学式1において,X及びYは各々NまたはC-R7であり,R1及びR2は各々水素原子,C1-C6アルコキシ,C1-C6アルキルまたはハロゲンであり,R3はC1-C6アルキルであり,R4,R5,R6及びR7は各々水素,C1-C6アルコキシ C-R7であり,R1及びR2は各々水素原子,C1-C6アルコキシ,C1-C6アルキルまたはハロゲンであり,R3はC1-C6アルキルであり,R4,R5,R6及びR7は各々水素,C1-C6アルコキシ,C1-C6アルキル,C1-C6ハロアルキル,C1-C6アルキルカルボニル,ハロゲン,シアノまたはニトロである。」イ平成20年3月25日付けの手続補正により,本願請求項1は,次のとおり補正された(甲1・61頁。なお,補正箇所に下線を付す。この補正後の請求項の数は10であった。)。 「【請求項1】下記化学式1で表される1-[(6,7-置換-アルコキシキノキサリニル)アミノカルボニル]-4-(ヘテロ)アリールピペラジン誘導体又 は薬剤学的に許容可能なそれらの塩。 (化学式1~省略~)前記化学式1において,X及びYは各々NまたはC-R7であり,R1及びR2は各々水素原子,C1-C3アルコキシ,C1-C3アルキルまたはハロゲンであり,R3はC1-C3アルキルであり,R4,R5,R6及びR7は各々水素,C1-C3アルコキシ,C1-C3アルキル,C1-C3ハロアルキル,C1-C3アルキルカルボニル,ハロゲン,シアノまたはニトロである。」ウ上記補正に対し,担当審査官から平成22年7月8日起案の拒絶理由通知(甲2。以下「本件拒絶理由通知」という。)がされた。 同通知に記載された拒絶理由の1点目の(1)(以下「拒絶理由1(1)」という。)は,本件特許出願の請求項8につき,該当する化合物が記載された引用文献の存在を理由に新規性を欠くとするものであり,同(2)(以下「拒絶理由1(2)」という。)は,本件特許出願の請求項1ないし6,9,10につき,特表2002-538153号公報(引用文献3。甲26)を引用文献とし,「引用文献 とするものであり,同(2)(以下「拒絶理由1(2)」という。)は,本件特許出願の請求項1ないし6,9,10につき,特表2002-538153号公報(引用文献3。甲26)を引用文献とし,「引用文献3には,本願の化学式1に該当する化合物が記載され,さらに該化合物が抗腫瘍活性を示すことも記載されている」として,新規性を欠くとするものであった。 また,拒絶理由の2点目(以下「拒絶理由2」という。)として,同請求項について次のとおり述べ,進歩性の欠如を理由に特許を受けることができないとするものであった。 「請求項1-6,9,10に係る発明と引用文献3に記載された発明を対比すると,同項に係る発明はキノキサリン環の6位,7位の置換基としてアルコキシ,アルキル,ハロゲンといった水素原子以外の官能基を有する化合物が含まれる点で,引用文献3に記載された発明と相違する。 しかしながら,創薬化学の技術分野において,活性向上を期待して,中 心骨格構造を固定し,その周辺の置換基を種々改変した化合物を創製することは,当業者が一般的に行う技術的事項に過ぎないから,引用文献3記載のキノキサリン化合物において,キノキサリン環の6位,7位にアルコキシ,アルキル,ハロゲンといった創薬化学で汎用される置換基を導入した化合物を創製し,その抗腫瘍活性を確認することは,当業者が容易に想到するものである。また,明細書の記載をみても,本願発明の奏する効果が当業者にとって進歩性を推認するに足る格別顕著なものとは認められない。」エ被控訴人らは,本件拒絶理由通知に対し,平成23年1月20日付けで手続補正書(甲4)を提出し,本件特許出願から請求項8を削除するとともに,本願請求項1の末尾に「ただし,R1及びR2が同時に水素原子であることはない。」との記載を追加する補正をした 1月20日付けで手続補正書(甲4)を提出し,本件特許出願から請求項8を削除するとともに,本願請求項1の末尾に「ただし,R1及びR2が同時に水素原子であることはない。」との記載を追加する補正をした。 被控訴人らは,同日付けの意見書(甲3)において,請求項8を削除したため拒絶理由1(1)は解消され,拒絶理由1(2)についても,本願請求項1に係る発明はキノキサリン環の6,7位の置換基R1及びR2が同時に水素原子であることはないから引用文献3に記載の化合物とは明確に区別されるなどとして,同拒絶理由は解消されたと述べた。 さらに,拒絶理由2について,「キノキサリン環の6位,7位にアルコキシ,アルキル,ハロゲン等の置換基を導入した本願発明の化合物は当業者が予測し得ない程度の優れた抗腫瘍効果を奏するものです。」と指摘し,その裏付けとして,本願発明の化合物10(R1がフッ素,R2が水素のものである。本願明細書【表1】(【0248】)参照。)と,引用文献3の化合物の中でこれに最も構造が類似するとする実施例42の化合物(1-[(2-メトキシキノキサリン-3-イル)アミノカルボニル]-4-(3,5-ジメチルフェニル)ピペラジン。以下「引用化合物42」という。キノキサリン環の6,7位の置換基R1及びR2が同時に水素で ある化合物である。)の,ヒトの癌細胞株に対する細胞成長抑制効果について,本願発明者が行った試験結果を示し,上記試験結果によれば,本願発明の化合物は,引用文献3記載の化合物と比較して顕著な抗腫瘍活性を有することなどから,拒絶理由2は解消されたと述べた。 オこれに対し,担当審査官は,前提事実(4)のとおり,平成23年2月14日付けで本件拒絶査定をした。本件拒絶査定には,その理由として,次のとおりの記載があった(甲5)。 解消されたと述べた。 オこれに対し,担当審査官は,前提事実(4)のとおり,平成23年2月14日付けで本件拒絶査定をした。本件拒絶査定には,その理由として,次のとおりの記載があった(甲5)。 「出願人は意見書にて本願発明の奏する効果について,引用文献3の化合物42との比較試験結果を示し,キノキサリン環の6位,7位にアルコキシ,アルキル,ハロゲン等の置換基を導入した本願発明の化学式1で表される化合物は当業者が予測し得ない程度の優れた抗腫瘍活性を奏する旨主張する。 確かに意見書中の比較試験結果に使用される本願発明の化合物10は,引用文献3の化合物42に比して優れた抗腫瘍活性を示すものと認められる。 しかしながら,本願明細書の表2に記載される薬理試験結果をみると,引用文献3の化合物42と同程度の活性又は劣る活性を示す化合物も存在する(例えば化合物52,73,115,136,157,172,193など)ことから,化学式1で表される化合物全体についてまで格別顕著な効果を奏するものと認めることができない。 したがって,上記出願人の主張は採用することができない。」カ本願明細書(甲1)の実施例(【0023】ないし【0246】)には,化合物1ないし196の製造方法が記載され,そのうち,化合物2,3,5,8,10,11,15,24,26,29,31,32,36,45,47,50,52,53,57,66,71,73,78,87,92,94,95,108,110,113,115,116,120,129, 131,134,136,141,150,155,157,158,162,167,172,177,191,193,194,196の50個の化合物について,本願明細書【表2】(【0258】,【0259】)において,ヒトの癌細胞株に 150,155,157,158,162,167,172,177,191,193,194,196の50個の化合物について,本願明細書【表2】(【0258】,【0259】)において,ヒトの癌細胞株に対する細胞成長抑制実験の結果が示されている。これらの化合物におけるR1,R2の組合せは,次のとおりである。 化合物1ないし21 R1 フッ素 R2 水素化合物22ないし42 R1 塩素 R2 水素化合物43ないし63 R1 メチル R2 水素化合物64ないし84 R1 メトキシ R2 水素化合物85ないし105 R1 水素 R2 フッ素化合物106ないし126 R1 水素 R2 塩素化合物127ないし147 R1 水素 R2 メチル化合物148ないし168 R1 水素 R2 メトキシ化合物169ないし175 R1 フッ素 R2 フッ素化合物176ないし182 R1 塩素 R2 塩素化合物183ないし189 R1 メチル R2 メチル化合物190ないし196 R1 メトキシ R2 メトキシそして,担当審査官が,本件拒絶査定において,引用化合物42と活性において同程度又は劣ると指摘した本願発明の化合物におけるR1,R2の組合せは,次のとおりである。 化合物52 R1 メチル R2 水素化合物73 R1 メトキシ R2 水素化合物115 R1 水素 R2 塩素化合物136 R1 水素 R2 メチル化合物157 R1 水素 R2 メトキシ 化合物172 R1 フッ素 R2 フッ素化合物193 R1 メトキシ R2 メトキシキ担当弁理士は,韓国所在の被控 7 R1 水素 R2 メトキシ 化合物172 R1 フッ素 R2 フッ素化合物193 R1 メトキシ R2 メトキシキ担当弁理士は,韓国所在の被控訴人らの本国代理人に,本件拒絶査定の内容等について報告した上,少なくとも効果の顕著性が認められないと指摘された化合物を削除するような補正が望ましいとして,その検討を依頼したところ,平成23年6月7日付けで,上記代理人から,R1をハロゲンのみ,又はさらに減縮してフッ素に限定することにより,本件特許出願が特許査定されるか否かにつき,担当審査官との電話面接を行うよう,電子メールで依頼を受けた(証人A,甲6)。 なお,ハロゲンとは,周期表において第17族に属する元素の総称であり,フッ素,塩素,臭素,ヨウ素などがこれに分類されることは,当業者の技術常識に属する。 ク担当弁理士は,平成23年6月8日,担当審査官に架電し(以下,同日に担当弁理士と担当審査官との間で行われた,この電話の際のやり取りを,「本件電話面接」という。),R1をフッ素に限定する意向を伝え,担当審査官から肯定的な回答を得た。さらに,担当弁理士は,本件拒絶査定において引用化合物42と同程度又は劣る活性を示す化合物の例として挙げられた化合物中に,R1が及びR2がいずれもフッ素のもの(本願明細書の化合物172)が含まれており,R1をフッ素に限定しただけでは,なお,上記化合物も本願請求項1の化合物に含まれてしまうことを念頭に置いて,R2の選択肢中の「ハロゲン」を塩素に限定することによる特許査定の可否について担当審査官の見解を尋ね,この点についても肯定的な回答を得た(甲7,14の10,23,証人A,証人B)。 なお,R2には,他に「水素原子,C1-C3アルコキシ,C1-C3アルキ 定の可否について担当審査官の見解を尋ね,この点についても肯定的な回答を得た(甲7,14の10,23,証人A,証人B)。 なお,R2には,他に「水素原子,C1-C3アルコキシ,C1-C3アルキル」という選択肢があったが,これらをどのように取り扱うかについて,本件電話面接では明示的には取り上げられなかった(証人A)。 ケ担当弁理士は,本件電話面接の終了後,同日中に,被控訴人らの本国代理人に対し,電子メールで,本件電話面接の結果として,「審査官は,6位が塩素である化合物115(判決注・ここに,6位はR1を,7位はR2をそれぞれ意味するが,化合物115はR1を水素,R2を塩素とするものであるから,この記載中「6位が塩素である」の部分は誤記と思われる。)と6位及び7位が共にフッ素である化合物172はその効果が顕著でないため進歩性が欠如していると判断しています。そのため,審査官は,仮にR1がフッ素に限定され,R2がフッ素以外の置換基に限定されるのであれば,本出願は特許査定されるであろうと考えています。」と述べた上,本願請求項1の「R1及びR2は各々水素原子,C1-C3アルコキシ,C1-C3アルキルまたはハロゲンであり,」の部分を「R1はフッ素であり,R2は水素原子,C1-C3アルコキシ,C1-C3アルキルまたは塩素であり,」と補正する補正案(ただし,この補正案においては,末尾の「ただし,R1及びR2が同時に水素原子であることはない。」との記載は削除されていなかった。このただし書を,以下「本件ただし書」という。)を提案し(甲7。この補正案に基づく補正後の本願請求項1を,以下「被控訴人らが意図した本願請求項1」という。),同月9日,本国代理人の了承を得た(甲8)。 コ被控訴人らは,平成23年6月20日,特許庁長官に対し,本件拒 案に基づく補正後の本願請求項1を,以下「被控訴人らが意図した本願請求項1」という。),同月9日,本国代理人の了承を得た(甲8)。 コ被控訴人らは,平成23年6月20日,特許庁長官に対し,本件拒絶査定に対する拒絶査定不服審判を請求するとともに,本件補正書(甲10)を提出した。 本件補正は,補正前の本願請求項1の「前記化学式1において,」以下の部分を,次のとおりとすることなどを内容とするものであり,担当弁理士が,「R1はフッ素であり,R2は水素原子,C1-C3アルコキシ,C1-C3アルキルまたは塩素であり,」と記載すべきところを,誤って「R1はフッ素であり,R2は塩素であり,」と記載したものであった(なお, 補正箇所に下線を付す。)。 「前記化学式1において,X及びYは各々NまたはC-R7であり,R1はフッ素であり,R2は塩素であり,R3はC1-C3アルキルであり,R4,R5,R6及びR7は各々水素,C1-C3アルコキシ,C1-C3アルキル,C1-C3ハロアルキル,C1-C3アルキルカルボニル,ハロゲン,シアノまたはニトロである。ただし,R1及びR2が同時に水素原子であることはない。」このとき,担当弁理士が提出した審判請求書(甲9)には,上記のとおりの本件補正後の本願請求項1の引用がされた上,次のとおりの記載がされていた。 「上記補正は,請求項1において,R1をフッ素に限定し,R2を塩素に限定し(特許請求の範囲の限定的減縮にあたります),請求項3を削除し(請求項の削除にあたります),これに伴い請求項4~9を請求項3~8と改める(不明瞭な記載の釈明にあたります)ものであり,適法な補正です。 上記補正により,本願発明の化合物は,本願明細書の表2に記載される薬理試験結果において,当業者が予測し得ない程度の優れ と改める(不明瞭な記載の釈明にあたります)ものであり,適法な補正です。 上記補正により,本願発明の化合物は,本願明細書の表2に記載される薬理試験結果において,当業者が予測し得ない程度の優れた抗腫瘍活性を奏するもの及びこれらと同視される化合物に限定され,審査官殿が指摘された,「引用文献3の化合物42と同程度の活性又は劣る活性を示す化合物(例えば化合物52,73,115,136,157,172,193など)」は明確に排除されています。 よって,本願に対する拒絶理由は解消されましたので,請求の趣旨に記載のとおりの審決を求めます。」サその後,本件特許出願は前置審査に付され,担当審査官は,本件補正の内容に関して特に被控訴人ら側に質すなどすることなく,平成23年10月31日,本件補正に係る本件特許出願につき本件特許査定をした(前提 事実(6),(7))。 (5) 担当審査官の審査について以上のとおり,前記(4)の事実が認められるところ,被控訴人らは,担当審査官は審査をしなかったか,実質的にこれと同視し得るような審査しかしなかったと主張するのに対し,控訴人は,担当審査官は審査を遂げたと主張し,担当審査官自身も,概ね控訴人の主張に沿う供述をする(証人B)。 そこで,被控訴人らが,担当審査官において審査をしなかった根拠として指摘する点について,以下,検討する。 ア担当審査官の供述内容担当審査官の供述は,概要次のとおりである。 (ア) すなわち,担当審査官は,本件特許査定に至る審査に関して,①出願人の意見書にキノキサリン環の6位(R1。以下,単に「R1」という。)及び7位(R2。以下,単に「R2」という。)に置換基を入れたことが本願発明の特徴であるとの記載があったこと,②引用化合物42とはR1がフッ素である リン環の6位(R1。以下,単に「R1」という。)及び7位(R2。以下,単に「R2」という。)に置換基を入れたことが本願発明の特徴であるとの記載があったこと,②引用化合物42とはR1がフッ素である点で異なり,R2が水素である点で共通する化合物10の薬理試験結果に照らして,R1がフッ素であることが抗腫瘍活性の点で重要と考えられたこと,③ただし,R1及びR2がいずれもフッ素である化合物については,引用化合物42と比較して優れた抗腫瘍活性が認められないとのデータがある以上,本願発明から除外されるべきであるが,本件補正の結果,本件拒絶査定において抗腫瘍活性が認められないと指摘された化合物は本願発明に含まれなくなったこと,④本願明細書には,本発明は実施例に限定されないとの記載があったこと,⑤本件補正後の本願発明に係る化合物について,抗腫瘍活性が劣るとする根拠は見当たらなかったことなどを総合的に考慮して,本件補正後の本願発明について進歩性を認めたと思うとの供述をしている(証人B)。 (イ) また,担当審査官は,本件ただし書については,当然のことを記載したものにすぎず,不明確ではないと思う,不要かもしれないがあっても害のあるものではないと考える旨供述し,さらに,当初の請求項から大幅に減縮された形の補正書が出されたとしても,減縮後のものが出願人が真に特許を望んだ範囲であると思うにとどまる,あくまで手続補正書で出されてきた特許請求の範囲が審査対象であるし,特許請求の範囲をどのように記載するのかは出願人に決定権があるから,補正内容について出願人に確認することはしない,出願人とのやり取りで補正の方向性がある程度見えてきたとしても,そのままのとおりに補正書が出てくることもあるが,そうではない場合も多々ある,本件補正により本願発明から化合物1 確認することはしない,出願人とのやり取りで補正の方向性がある程度見えてきたとしても,そのままのとおりに補正書が出てくることもあるが,そうではない場合も多々ある,本件補正により本願発明から化合物10の組合せに係る化合物が除かれたことについては,出願人にとって不要であったものと思うだけで,特に違和感を感じなかった,などと供述している(前同)。 イ担当審査官の審査内容について(ア) 特許請求の範囲の減縮を目的とする補正が適法であるためには,補正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない(法17条の2第6項,法126条5項)ところ,本願発明の進歩性に関しては,前記(4)クの認定のとおり,本件電話面接の際,担当弁理士が担当審査官に対し,R1をフッ素とし,R2の「ハロゲン」を塩素に限定することを打診し,同審査官から,特許査定できることについて肯定的な回答を得ていることが認められる。そして,この電話面接の際,R2におけるハロゲン以外の「水素原子,C1-C3アルコキシ,C1-C3アルキル」という選択肢については,担当弁理士からも担当審査官からも何ら言及がなく,とりわけ,「C1-C3アルコキシ,C1-C3アルキル」という選択肢を削除するかどうかについても,担当審 査官から何らの示唆もなかったことからすれば,担当審査官は,特にこれらの選択肢を否定する趣旨ではなかったと推認することができる。そして,本件電話面接において,具体的な補正案の内容について合意ができたとは認められないが,担当審査官は,補正前の本願請求項1のR1をフッ素とし,R2の「ハロゲン」を塩素に限定するという担当弁理士が示す補正の方向性について,それにより特許査定が可能であるとの心証 きたとは認められないが,担当審査官は,補正前の本願請求項1のR1をフッ素とし,R2の「ハロゲン」を塩素に限定するという担当弁理士が示す補正の方向性について,それにより特許査定が可能であるとの心証を前提に,肯定的な対応をしたものと認めることができる。 これに加えて,前記(4)オに認定のとおり,本件拒絶査定において,担当審査官は,本願発明に係る化合物について,引用文献3の化合物42と同程度ないし劣る効果しか奏しない化合物が含まれることを理由に,その全体について顕著な効果を奏するとは認められないとするものの,化合物10以外の本願発明に係る化合物について顕著な効果が示されていないとは述べていないことに照らすと,担当審査官が拒絶理由で指摘した化合物を除き,本願請求項1におけるR1及びR2の記載を,「R1はフッ素であり,R2は水素原子,C1-C3アルコキシ,C1-C3アルキルまたは塩素であり,」との組合せに改めた場合には,担当審査官は,顕著な効果に関する拒絶理由は解消されたとの判断をするものと推認することができる。 そうすると,担当審査官においては,化合物10の組合せに係る化合物(R1がフッ素,R2が水素のもの)だけでなく,R1がフッ素であり,R2がC1-C3アルコキシ,C1-C3アルキル又は塩素のいずれかである化合物についても進歩性が認められるとの判断があったものと認められるが,これは,担当審査官が,本件補正後の本願発明,すなわちR1がフッ素,R2が塩素である組合せに係る化合物につき,進歩性を肯定した根拠として,前記ア(ア)において供述するところに沿うものと認めることができる。 よって,担当審査官の前記供述の内容は合理的に理解することができ,担当審査官は,本件補正後の本願発明について,その供述に沿う審査を行った上 るところに沿うものと認めることができる。 よって,担当審査官の前記供述の内容は合理的に理解することができ,担当審査官は,本件補正後の本願発明について,その供述に沿う審査を行った上,進歩性についての拒絶理由は解消したと判断したものと認められる。 (イ) 次に,本件ただし書の存在は,本文の記載と併せてみるときには,当然のことを記載したそれ自体としては無意味な記載にすぎないものと解され,これによって,本文に他の元素ないし置換基の組合せを容れる余地が生じ,本文の内容が不明確になるとは解されない。 そして,本件補正後の本願請求項1の記載は,全体としては当業者がその構成を明確に理解することができないということはできず,明確性要件に欠けるということはできないから,担当審査官による,前記ア(イ)の本件ただし書は不明確な記載ではない旨の供述が,合理性に欠けるということはできない。 そうすると,担当審査官の供述内容は合理的に理解することができ,担当審査官は,その供述に沿う審査を行った上,本件ただし書の存在によって明確性要件に欠けることはないと判断したものと認められる。 (ウ) なお,記載要件について,担当審査官は,明確な記憶はないが,サポート要件の審査を行った旨の供述をしている(証人B)。 その具体的な判断過程は,供述から定かではないものの,本件電話面接において担当弁理士から示された補正の方向性を前提とする,被控訴人らが意図した本願請求項1については,本願明細書に,R1がフッ素,R2が水素の組合せのものは化合物10として製造方法及び細胞成長抑制実験結果が開示されているほか,それ以外の組合せのものは,当該組合せに係る化合物それ自体について製造方法及び細胞成長抑制実験結果の開示はないものの,R1がフッ素である化合物と,R 法及び細胞成長抑制実験結果が開示されているほか,それ以外の組合せのものは,当該組合せに係る化合物それ自体について製造方法及び細胞成長抑制実験結果の開示はないものの,R1がフッ素である化合物と,R2がメトキシ(アルコキシに属する。),メチル(アルキルに属する。),塩素であ る化合物について,製造方法及び細胞成長抑制実験結果が開示されていることに照らすと,担当審査官が,被控訴人らが意図した本願請求項1の化合物の全体については,製造及び抗腫瘍剤として用いられ得ることが示されているとして,実施可能要件及びサポート要件のいずれも具備していると判断したことがうかがわれる。 そして,本件補正後の本願請求項1は,被控訴人らが意図した本願請求項1を減縮したものであるから,担当審査官はこれについても同様に実施可能要件及びサポート要件が満たされていると判断したものと考えられる。 担当審査官の供述内容は上記のとおり理解することができ,担当審査官は,審査の上,実施可能要件及びサポート要件についてもこれを満たすと判断したと認められる。 ウ新規事項の追加について(ア) ところで,特許請求の範囲に対する補正が適法であるためには,当該補正が,「願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面・・・に記載した事項の範囲内において」したものでなければならないとされている(法17条の2第3項)。 そして,特許庁作成の「特許・実用新案審査基準」(以下,単に「審査基準」という。)第Ⅲ部第Ⅰ節3.1には,「新規事項を含む補正か否かの具体的な判断手法」について記載され,さらに,同4.2(2)には,特許請求の範囲がいわゆるマーカッシュ形式で記載されている場合の補正が,特許法17条の2第3項の定める当初明細書等に記載した事項の範囲内であると 手法」について記載され,さらに,同4.2(2)には,特許請求の範囲がいわゆるマーカッシュ形式で記載されている場合の補正が,特許法17条の2第3項の定める当初明細書等に記載した事項の範囲内であるといえるかどうかに関して,次の記載がある(甲41の6及び7)。 「(a) マーカッシュ形式などの択一形式で記載された請求項において,一部の選択肢を削除する補正は,残った発明特定事項で特定される ものが,当初明細書等に記載した事項の範囲内のものである場合は,許される。 ⒝ 当初明細書等に化学物質が多数の選択肢群の組み合わせの形で記載されている場合に,当初明細書等に記載された多数の選択肢の範囲で特定の選択肢の組み合わせを請求項に追加するとき,あるいは選択肢を削除した結果として特定の選択肢の組み合わせが請求項に残るときに,その特定の選択肢の組み合わせが当初明細書等に記載されていたとは認められない場合がある。とりわけ,補正の結果,出願当初に複数の選択肢を有していた置換基について選択肢が唯一となり,選択の余地がなくなる場合には,そのような特定の選択肢の組み合わせを採用することが当初明細書等に記載されている場合(・・・)を除き,選択肢としての当初記載は特定の選択肢の採用を意味していたとは認められないので,その補正は許されない。」なお,審査基準第Ⅲ部第Ⅳ節1.には,上記記載の具体例が,「新規事項の判断に関する事例12」として掲げられている(甲29,38の1ないし5)。 (イ) そうすると,本件補正は,本願請求項1に記載の化合物の組成について,R1及びR2がそれぞれ複数の選択肢の組合せによって特定されていたのを,その組合せのうちR1をフッ素,R2を塩素とするものに限定するものであるから,法17条の2第5項2号の「特許請求の範囲の減縮」 R1及びR2がそれぞれ複数の選択肢の組合せによって特定されていたのを,その組合せのうちR1をフッ素,R2を塩素とするものに限定するものであるから,法17条の2第5項2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものではあるが,実施例に製造方法及び細胞成長抑制実験結果が何ら示されていない特定の組合せに限定するに至るものであるから,審査基準の上記記載に従う限り,いわゆる新規事項の追加に当たり,同条3項に反し許されない補正であったことになる。 (ウ) 担当審査官は,本件補正が新規事項の追加に当たるかどうかについても審査した旨供述する(証人B)。 しかし,本件補正が審査基準において新規事項の追加に当たるとされる態様のものであることを認識したかどうかについての陳述や供述はなく,担当審査官が,この点について具体的に何らかの検討をした形跡はうかがわれない。 そうすると,担当審査官は,本件補正におけるR1とR2の組合せが,本件電話面接の際に担当弁理士との間で話し合われた補正後の本願請求項1におけるR1とR2の複数の組合せ(担当審査官が,これについては特許要件を満たすと判断していたことは,前記のとおりである。)のうちの一つの組合せに限定するものであったことから,補正要件について検討するまでもなく特許査定は可能であると判断し,かかる補正が新規事項の追加に当たり,法17条の2第3項違反という新たな拒絶理由が生じることを看過して,本件特許査定に至ったものと認められる。 エ検討以上の認定判断を踏まえ,本件特許査定について,担当審査官による審査がされなかったか,実質的にこれと同視することができる場合であるかについて検討する。 前記ウによれば,担当審査官は,本件補正が審査基準に照らせば新規事項の追加に当たることについては,これ 審査がされなかったか,実質的にこれと同視することができる場合であるかについて検討する。 前記ウによれば,担当審査官は,本件補正が審査基準に照らせば新規事項の追加に当たることについては,これを看過したといわざるを得ない。 しかし,前記イに検討したところによれば,本件補正後の本願発明が特許要件を具備しているかどうかについては,本願発明の進歩性,請求項の明確性,明細書のサポート要件及び実施可能要件について,それぞれ検討を経た上で本件特許査定に至ったと評価することができ,その検討過程や検討結果が,明らかに不合理であるとまでいうことはできない。 このような担当審査官による審査の内容を全体としてみれば,それが,およそ審査の体を成すものではなかったとか,あるいは審査していないに等しいものであったと評価することはできないものというべきである。そ して,担当審査官が新規事項の追加の点を看過したことによって,本件特許査定に係る特許が無効理由を含むこととなったとしても,その点は,無効審判請求における判断対象となるにとどまり,これによって直ちに,担当審査官が全く審査をせず,あるいは実質的に審査をしなかったのと同視すべき場合において本件特許査定をしたことが裏付けられるということはできない。 以上によれば,担当審査官が,審査を全くすることなく,あるいは実質的に審査をしなかったのと同視すべき場合において本件特許査定を行ったと認めることはできない。 オ被控訴人らの主張について(ア) 被控訴人らは,担当審査官が,本件補正が拒絶理由を解消していないこと,本件補正後の本願発明が化合物10の組合せに係る化合物を含んでいないこと,本件補正後の本願発明が実施可能要件,サポート要件及び明確性要件をいずれも充足していないこと,本件補正の内容が本件 いこと,本件補正後の本願発明が化合物10の組合せに係る化合物を含んでいないこと,本件補正後の本願発明が実施可能要件,サポート要件及び明確性要件をいずれも充足していないこと,本件補正の内容が本件電話面接の際に検討対象となった補正内容と異なっていることをいずれも看過したから,実質的な審査をしなかったものであると主張する。 a しかるに,前記イ(ア)の説示によれば,本件補正後の本願発明の進歩性を肯定した根拠として担当審査官が供述するところは,化合物10の組合せに係る化合物に顕著な抗腫瘍活性が認められることを踏まえつつも,本件補正後の本願発明から,引用化合物42と比較して同等あるいは劣る抗腫瘍活性しか示さない化合物が排除されていることを重視して顕著な効果を肯定したという趣旨において,その合理性を一応首肯することができる。 b 次に,担当審査官は,前記ア(イ)のとおり,本件補正により本願発明から化合物10の組合せに係る化合物が除かれたことについて,特に違和感を感じなかったと供述しており,その内容も首肯し得るもの であること,前記エのとおり,化合物10の組合せに係る化合物を除いた本件補正後の本願発明について,その特許性を肯定した判断が明らかに不合理であるとまでいうことができないことに照らせば,担当審査官が,本件補正により本願発明から化合物10の組合せに係る化合物が除かれたことを看過していたと認めることはできない。 c また,本件ただし書の存在については,前記(4)エに認定したところによれば,本件ただし書は,本件補正の前の補正により追加された文言であり,本件補正により本願請求項1の本文の部分を改めることによって無意味となった記載である。そして,担当審査官は,前記ア(イ)のとおり,本件ただし書について,不要ではあるもののあっても害 た文言であり,本件補正により本願請求項1の本文の部分を改めることによって無意味となった記載である。そして,担当審査官は,前記ア(イ)のとおり,本件ただし書について,不要ではあるもののあっても害のあるものではないと解しており,特段違和感を抱かなかったものであるが,前記イ(イ)で説示したところによれば,このただし書があることによって,直ちに本願請求項1が不明確なものになるとはいえないと判断したことや違和感を抱かなかったことに,特段の問題があるとは認められない。 さらに,記載要件に関する担当審査官の判断についても,明らかに不合理であるとまでいうことはできない。この点,本件補正後の本願発明によって特定された,R1がフッ素,R2が塩素の組合せの化合物それ自体については,本願明細書に製造方法及び細胞成長抑制実験結果の開示がないことを重視すると,本件補正後の本願発明について,サポート要件及び実施可能要件をいずれも満たしていないとの判断もあり得るところかと思われるが,そうであるからといって,担当審査官が実質的な審査を行わなかったということはできない。 d 加えて,本件電話面接の内容については前記(4)クに認定したとおりであって,具体的な補正案の内容について合意ができたとは認められないことは前記イ(ア)で説示したとおりである。なお,証拠(乙7, 17,証人B)及び弁論の全趣旨によれば,審査官の面接に当たっては,補正案について,ファクシミリ等による紙媒体での提示がされるのが通常であるが,本件では,口頭のやり取りに終始したものであるから,この点からも,本件電話面接においては,補正の方向性について意見交換がされたというにとどまり,特許請求の範囲の記載について,具体的な特定の補正案の合意があったということはできない。 よって,本願請求項 点からも,本件電話面接においては,補正の方向性について意見交換がされたというにとどまり,特許請求の範囲の記載について,具体的な特定の補正案の合意があったということはできない。 よって,本願請求項1を被控訴人らが意図した本願請求項1のとおり改める旨の補正を行うことが,担当弁理士と担当審査官との間で合意されたことを前提に,担当審査官が,本件補正の内容がかかる合意に沿うものではないことを看過していたと認めることはできない。 (イ) 被控訴人らは,担当審査官が特許査定の対象を誤ったか,あるいは取り違えたに等しく,担当審査官も対象につき錯誤に陥っていたとも主張する。 しかし,担当審査官が,本件補正後の本願発明の内容につき何らかの錯誤に陥っていたと認めるに足りる証拠はない。前記(ア)dのとおりの本件電話面接の際の補正案の位置付けからすれば,本件補正が,本件電話面接の際に話し合われた補正内容とは異なるものであったとしても,本件電話面接において意見交換した補正の方向性と矛盾するものではないのであるから,担当審査官がこれを前提に本件特許査定をしたからといって,担当審査官に,補正内容について何らかの誤認があったことが,直ちに裏付けられるものではない。 なお,本件補正によって化合物10が本願請求項1の化合物から除外されているが,本件補正後の本願発明について,なお特許性を肯定することができるとの判断を担当審査官がしたことは,既に説示したとおりであり,前記ア(イ)のとおりの,本件補正後の本願発明が化合物10の組合せに係る化合物を含まないことに特に違和感を感じなかったとの担 当審査官の供述に照らしても,本件補正後の本願発明につき本件特許査定をした担当審査官が,本願発明が化合物10を含まない点について錯誤に陥っていたとは認められない。 じなかったとの担 当審査官の供述に照らしても,本件補正後の本願発明につき本件特許査定をした担当審査官が,本願発明が化合物10を含まない点について錯誤に陥っていたとは認められない。 なお,被控訴人らは,本件特許査定には,虚無の物や行政行為の対象とし得ない物を対象とした行政行為と同質の内容上の瑕疵があるとも主張する。しかしながら,前提となる本件特許査定について,担当審査官に錯誤があったとは認められない以上,本件特許査定に被控訴人らの主張するような内容上の瑕疵があるということはできない。 (ウ) 被控訴人らは,本件特許査定が,進歩性や明確性要件,記載要件を充足しておらず,その内容に重大な瑕疵があると主張する。 しかし,被控訴人らが問題視する本願発明の進歩性や明確性要件,記載要件については,本件補正に係る本願発明についての担当審査官の判断が一応首肯でき,あるいは明らかに不合理とはいえないことは,前記エ及びオ(ア)で説示したとおりである。また,担当審査官が実質的な審査を遂げたと評価することができる以上,個々の要件についての判断の適否それ自体は,無効審判請求における無効理由として審査されることがあるとしても,本件特許査定を当然に無効とすべき事由に当たるものではないことは,前記(3)において既に述べたとおりである。 さらに,審査の過程で審査官から顕著な効果を奏すると指摘された具体的な化合物が,補正後の特許請求の範囲に含まれないからといって,そのことによって,当該補正を前提とする特許査定が当然に違法となるものではないことも明らかである。 (エ) その他,被控訴人らが種々主張する点は,前記エの説示に照らし,いずれも採用することができない。 (6) まとめ以上のとおりであるから,本件特許査定が無効であるということはで ある。 (エ) その他,被控訴人らが種々主張する点は,前記エの説示に照らし,いずれも採用することができない。 (6) まとめ以上のとおりであるから,本件特許査定が無効であるということはできず, この点に関する被控訴人らの主張は,いずれも採用することができない。 (当審における訴え変更後の主位的請求第3項及び予備的請求第3項について) 4 本件特許査定の取消義務付けの訴えの適法性について(争点(1)ア)(1) 被控訴人らは,本件特許査定につき,本件異議申立てをしたことから「法令に基づく申請又は審査請求がされた場合」(行訴法3条6項2号)に該当するとして,原審において,特許庁審査官に対し同審査官がした本件特許査定の取消しを義務付けることを求めていたが,当審において訴えを変更し,本件異議申立ての名宛人である特許庁長官に対し,同申立てにつき,本件特許査定の取消しを義務付けることを求めている。この訴えの変更につき,控訴人は異議なく応訴し,変更後の各訴えの却下を求めるので,判断する。 (2) 既に説示したとおり,法195条の4の「査定」には拒絶査定のみならず特許査定も含まれると解される結果,同条により,本件特許査定に対する行服法による不服申立てをすることはできない。したがって,本件異議申立ては,行訴法3条6項2号所定の「法令に基づく申請又は審査請求」に当たるものということができないから,同項所定の場合に当たるとする被控訴人らの前記主張は,失当である。 (3) また,行訴法37条の3第1項2号所定の義務付けの訴えのうち,行政庁が一定の裁決をすべき旨を命ずることを求めるものは,処分についての審査請求がされた場合において,当該処分に係る処分の取消しの訴え又は無効確認の訴えを提起することができないときに限り,これを提起すること 一定の裁決をすべき旨を命ずることを求めるものは,処分についての審査請求がされた場合において,当該処分に係る処分の取消しの訴え又は無効確認の訴えを提起することができないときに限り,これを提起することができるところ(同条7項),特許査定に対しては,行訴法による取消しの訴え又は無効確認の訴えができることも既に説示したとおりである。そうすると,特許庁長官に対し,本件特許査定の取消しの義務付けを求める訴えは,行訴法37条の3第7項により不適法といわざるを得ない。被控訴人らは,法184条の2の規定の解釈に照らして,行訴法37条の3第7項の要件を充足すると主張するが,法184条の2の規定は,異議申立てないし審査請求前 置を定めるものであって,いわゆる裁決主義を定めるものではないし,そもそも同条は,明文で法195条の4に規定する処分をその対象から除いているから,同規定の解釈を根拠とする被控訴人らの前記主張は,失当である。 (4) 以上によれば,いずれにしても,本件特許査定の取消しの義務付けを求める訴えは,主位的請求,予備的請求とも不適法というほかない。 5 結論以上の次第であるから,次のとおり判決する。 (1) 本件控訴について被控訴人らの予備的請求のうち,本件特許査定の取消しを求める部分に係る訴えは不適法であり,本件却下決定の取消しを求める部分は理由がないから,本件控訴に基づき,これと異なる限度で原判決を取り消し,本件特許査定の取消しを求める訴えについてはこれを却下し,本件却下決定の取消請求についてはこれを棄却することとする。 (2) 本件附帯控訴について被控訴人らの主位的請求及び予備的請求のうち,当審における訴えの変更後の本件特許査定の取消しの義務付けを求める部分に係る訴えは,不適法であるからこれをいずれも却 (2) 本件附帯控訴について被控訴人らの主位的請求及び予備的請求のうち,当審における訴えの変更後の本件特許査定の取消しの義務付けを求める部分に係る訴えは,不適法であるからこれをいずれも却下することとし(なお,原判決主文第4項は,被控訴人らの訴えの変更により,失効した。),被控訴人らの主位的請求のうち,本件特許査定の無効確認及び本件却下決定の取消しを求める部分はいずれも理由がないから,被控訴人らのその余の本件附帯控訴を棄却することとする。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官石井忠雄 裁判官田中正哉 裁判官神谷厚毅
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