平成20(医へ)1 医療を受けさせるために入院をさせる旨の決定に対する抗告棄却決定に対する再抗告事件

裁判年月日・裁判所
平成20年6月18日 最高裁判所第三小法廷 決定 棄却 東京高等裁判所 平成19(医ほ)32
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判決文本文2,437 文字)

- 1 -主文本件抗告を棄却する。 理由 本件抗告の趣意は,違憲をいうが,実質は単なる法令違反の主張であって,心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(以下「医療観察法」という。)70条1項の抗告理由に当たらない。 なお,所論にかんがみ職権により判断する。 原決定の認定及び記録によれば,本件の事実関係は,次のとおりである。 (1)対象者は,本件当日,ビルの5階にあるB方居室(以下「本件居室」という。)内に無施錠の入口ドアから無断で立ち入り,同所にあったBの二男C所有のベルト1本及びB所有の靴下1足(時価合計約3200円相当。以下「本件各物品」という。)を手に取り,ベルトを肩にたすき掛けのように掛けるなどして,それらを自己の占有下に置いた。 (2)その際,たまたま本件居室を訪れたBの妻Dは,対象者に対し,泥棒ではないかなどと尋ねた上,Bに対し,泥棒がいるなどと電話で連絡をし,Cと共に本件居室に駆けつけたBに対し,対象者を捕まえるよう求めた。Bは,警察に対し,泥棒を捕まえたので早く来てくれなどと電話で通報した。 (3)Cは,対象者が逃げないように,対象者が肩に掛けていたベルトを手でつかんだところ,対象者は,急に暴れ出し,Cに対し,その顔面等を手けんで数回殴打するなどの暴行を加えて全治約1週間を要する顔面打撲,胸部打撲及び右下腿擦過傷の傷害を負わせ,さらに,Bに対し,その顔面を手けんで殴打し,その左手親指付け根付近を歯でかみちぎる等の暴行を加えて全治約2週間を要する鼻骨骨折,- 2 -左手皮膚欠損及び胸部打撲の傷害を負わせた。 (4)対象者は,当時病状の重い妄想型統合失調症にり患しており,幻聴,誇大妄想,被害妄想,病識欠如等の症状を呈していた。 (5)対象者の前記(1)及び(3)の行為(以下「本件 撲の傷害を負わせた。 (4)対象者は,当時病状の重い妄想型統合失調症にり患しており,幻聴,誇大妄想,被害妄想,病識欠如等の症状を呈していた。 (5)対象者の前記(1)及び(3)の行為(以下「本件行為」という。)は,妄想型統合失調症の症状である幻聴,妄想等に基づいて行われたものであり,対象者は,その行為の当時,心神喪失の状態にあった。 付添人は,原審において,対象者の幻覚妄想状態の中での認識に基づき,①対象者が,本件各物品の所有者である亡くなった者と霊界で会話をして,同人から本件各物品を持ち出すことについて明確な承諾が得られたと認識していたのであるから,対象者には窃盗の故意がなく,②対象者が,B及びCが対象者を殺そうとするやくざであると認識し,B及びCの行為が逮捕行為であるとは考えていなかったのであるから,対象者には逮捕を免れる目的がなく,③対象者が,B及びCから自己に対する急迫不正の侵害があると誤認し,自己の身を守るために両名に暴行を加えたのであるから,対象者の暴行行為は誤想防衛に該当するとして,対象者には事後強盗が成立せず,対象行為が存在しないと主張した。 これに対し,原決定は,対象者の本件行為は,客観的・外形的に見た場合,対象者が通常人であれば,本件居室内において,本件各物品が他人の所有物であることを認識しながら,所有者の承諾なくそれらを窃取したところ,B及びCから逮捕されそうになったため,その逮捕を免れるために,両名に対し,その反抗を抑圧するに足る暴行を加えたものであり,誤想防衛も成立しないことが十分に認定でき,対象者の本件行為が刑法238条に規定する事後強盗の行為に当たることは,明らかというべきである旨の判断を示して,対象行為に該当するとした。 - 3 - 所論は,このような原決定の判断は許されないと主張する。 そこ が刑法238条に規定する事後強盗の行為に当たることは,明らかというべきである旨の判断を示して,対象行為に該当するとした。 - 3 - 所論は,このような原決定の判断は許されないと主張する。 そこで検討すると,医療観察法は,心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対し,継続的かつ適切な医療等を行うことによって,その病状の改善及びこれに伴う同様の行為の再発の防止を図り,もってその社会復帰を促進することを目的とするものである。このような医療観察法の趣旨にかんがみると,対象者の行為が対象行為に該当するかどうかの判断は,対象者が妄想型統合失調症による幻覚妄想状態の中で幻聴,妄想等に基づいて行為を行った本件のような場合,対象者が幻聴,妄想等により認識した内容に基づいて行うべきでなく,対象者の行為を当時の状況の下で外形的,客観的に考察し,心神喪失の状態にない者が同じ行為を行ったとすれば,主観的要素を含め,対象行為を犯したと評価することができる行為であると認められるかどうかの観点から行うべきであり,これが肯定されるときは,対象者は対象行為を行ったと認定することができると解するのが相当である。なぜなら,上記のような幻聴,妄想等により対象者が認識した内容に基づいて対象行為の該当性を判断するとすれば,医療観察法による医療が最も必要とされる症状の重い者の行為が,主観的要素の点で対象行為該当性を欠くこととなりかねず,医療観察法の目的に反することとなるからである。したがって,これと同旨の見解の下,対象者の本件行為が,医療観察法2条2項5号に規定する対象行為に当たるとした原判断は,正当として是認することができる。 よって,同法71条1項により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。 (裁判長裁判官堀籠幸男裁判官藤田宙靖裁判官那須弘平裁判官 した原判断は,正当として是認することができる。 よって,同法71条1項により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。 (裁判長裁判官堀籠幸男裁判官藤田宙靖裁判官那須弘平裁判官田原睦夫裁判官近藤崇晴)

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