平成26(わ)57 昏酔強盗,建造物等以外放火

裁判年月日・裁判所
平成27年8月5日 神戸地方裁判所
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判決文本文14,998 文字)

平成27年8月5日宣告裁判所書記官平成26年(わ)第57号,第93号,第124号,第214号,第408号,第670号昏酔強盗,建造物等以外放火被告事件判決主文被告人を懲役10年に処する。 未決勾留日数中380日をその刑に算入する。 訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 【罪となるべき事実】被告人は,第1 いわゆる婚活パーティに参加してきた男性や,かつて交際していた男性を昏酔させて,その金品を盗取しようと企て, 1 平成25年11月1日午後7時10分頃,大阪市a区bc丁目d番e号f階飲食店「A」において,以前参加した婚活パーティで知り合ったB(当時45歳)に対し,ブロマゼパム等を含有する薬物を密かに混入させた飲料を飲ませ,間もなく同人を昏酔状態に陥らせた上,同日午後9時46分頃,同区gh丁目i番j号kビルl階貴金属類販売店「株式会社C」において,意識障害が生じ昏酔状態にあった同人をして,同店店員Dに対し,腕時計1点(販売価格合計90万3,000円)の購入方を申し込ませ,前記Bに代わって,同店員からその腕時計1点を受け取り 2 平成25年11月7日午後6時頃から午後8時頃までの間に,神戸市m区n通o丁目p番q号飲食店「E」において,以前参加した婚活パーティで知り合ったF(当時56歳)に対し,フルニトラゼパム等を含有する薬物を密かに混入させた飲料を飲ませ,間もなく同人を昏酔状態に陥らせた上,同日午後8時17分頃から同日午後9時35分頃までの間,同区r通s丁目t番u号Gにお いて,意識障害が生じ昏酔状態にあった同人をして,同店店員Hに対し,腕時計2点(販売価格合計132万3,000円)の購入方を申し込ませ,前記Fに代わって,同店員からその腕時計2点を受け取り 3 平 いて,意識障害が生じ昏酔状態にあった同人をして,同店店員Hに対し,腕時計2点(販売価格合計132万3,000円)の購入方を申し込ませ,前記Fに代わって,同店員からその腕時計2点を受け取り 3 平成25年11月29日午後7時頃から午後8時頃までの間に,神戸市v区w通x丁目y番z号a1ビルb1階飲食店「I」において,かつて交際したことがあるJ(当時47歳)に対し,フルニトラゼパム等を含有する薬物を密かに混入させた飲料を飲ませ,間もなく同人を昏酔状態に陥らせた上,同月30日午前11時頃,同区c1通d1丁目e1番f1号ホテル「K」において,同人の身辺から,同人所有に係る腕時計等4点(時価合計約97万円相当)を持ち去り 4 平成25年12月10日午後11時頃,神戸市g1区h1通i1丁目j1番k1号Lにおいて,その日婚活パーティで知り合ったM(当時49歳)に対し,フルニトラゼパム等を含有する薬物を密かに混入させた飲料を飲ませ,間もなく同人を昏酔状態に陥らせた上,その頃から同日午後11時34分頃までの間に,同所付近又は同区l1通m1丁目n1番o1号先路上から同市p1区q1通r1丁目s1番t1号先路上に至るまでのタクシー内において,同人の財布から現金1万円を抜き取り,同日午後11時34分頃,前記路上に停車したタクシー内から,同人所有に係るキーケース等8点在中のショルダーバッグ1点(時価合計約15万6,000円相当)を持ち去り 5 平成25年12月14日午後6時20分頃から同日午後8時30分頃までの間に,神戸市u1区v1通w1丁目x1番y1号z1階飲食店「N」において,その日婚活パーティで知り合ったO(当時34歳)に対し,フルニトラゼパム等を含有する薬物を密かに混入させた飲料を飲ませ,間もなく同人を昏酔状態に陥らせた上,その頃から同日午後10時 「N」において,その日婚活パーティで知り合ったO(当時34歳)に対し,フルニトラゼパム等を含有する薬物を密かに混入させた飲料を飲ませ,間もなく同人を昏酔状態に陥らせた上,その頃から同日午後10時35分頃までの間に,同店又は同店から大津市a2b2番c2号アパート「Q」に至るまでの間において,同人の財布から現金約1万5,000円及びアメリカ合衆国85ドルを抜き取り,同日 午後8時53分頃,神戸市d2区e2町f2丁目g2番h2号R銀行S支店ATMコーナーT駅北において,同人のキャッシュカードを使用して,同所設置の現金自動預払機を被告人自ら操作し,又は,前記Oに操作させて,2度にわたり,現金合計18万4,000円を引き出し,これを自己のバッグ内に入れるなどしもってそれぞれ人を昏酔させてその財物を盗取した第2 平成25年9月21日午後2時55分頃から同日午後2時59分頃までの間に,兵庫県西宮市i2町j2番k2号所在のマンション「U」l2号室ベランダ東側において,同所に置かれたダンボール箱に点火して火を放ち,V所有に係る書籍,衣類等在中のダンボール箱6箱を焼損し,これらに着火した炎を燃え上がらせ,高熱により同ベランダ東側の柱からタイルを脱落させるなどし,もって公共の危険を生じさせたものである。 【証拠の標目】省略【争点に対する判断】第1 各昏酔強盗被告事件(判示第1の1ないし5)について 1 争点各事件の争点は,被告人が,各被害者にフルニトラゼパムやブロマゼパム等の薬物を混入させた飲料を飲ませたか否か,また,そのようにして昏酔状態に陥らせた各被害者から財物を盗取したか否かであり,弁護人は,いずれの被害者に対しても,被告人がそのような行為に及んだ事実はないと主張する。 そこで,以下これらの点について検討す にして昏酔状態に陥らせた各被害者から財物を盗取したか否かであり,弁護人は,いずれの被害者に対しても,被告人がそのような行為に及んだ事実はないと主張する。 そこで,以下これらの点について検討する。 2 前提事実関係各証拠によれば,次の各事実が認められる。 被告人は,平成22年4月頃から,Wクリニックという神経内科に通院し ているところ,平成25年11月から同年12月上旬にかけて,3回にわたり同クリニックを受診し,その都度,向精神薬のブロマゼパムを含有するセニラン錠,向精神薬のフルニトラゼパムを含有するフルニトラゼパム錠及び精神安定剤のエチゾラムを含有するセデコパン錠を各28日分処方された。 ブロマゼパムやフルニトラゼパム等のベンゾジアゼピン系の薬物は,これを体内に摂取すると鎮静作用や睡眠作用が生じる。また,通常の服用量ではまれであるが,認知機能や運動機能が低下したり,前方性健忘の症状により薬物の作用が生じている間の記憶が失われたりする副作用が生ずることもある。このような副作用は,服用量が増えたり,アルコールとの併用によって,その発生頻度が高くなる。 判示第1の1,2,4及び5の各被害者は,いわゆる婚活パーティを通して被告人と知り合い,各事件当日に初めて2人で飲食するなどした。判示第1の3の被害者は,被告人の元交際相手であるが,被告人から連絡があって事件当日に久しぶりに再会し,飲食するなどした。 各被害者とも,被告人と2人で飲食するなどした後に間もなくして,被告人と一緒に赴いたバーや貴金属類販売店等において酩酊したような状態になったり,乗り込んだタクシー内で眠り込んだりした。 被告人は,判示第1の1から4までの被害品とされる腕時計やバッグ等の物品,同5の被害品とされるアメリカ合衆国85ドルを自ら取得して ような状態になったり,乗り込んだタクシー内で眠り込んだりした。 被告人は,判示第1の1から4までの被害品とされる腕時計やバッグ等の物品,同5の被害品とされるアメリカ合衆国85ドルを自ら取得しているところ(その経緯については争いがある。),そのうち腕時計やバッグ等については,取得したその日か翌日には,リサイクルショップ等に持ち込んで換金している。 被害者のうちM及びOについては,各事件の翌日に病院に搬送されて尿や血液等が領置されたところ,両名の尿や血液等を鑑定した結果,フルニトラゼパムの代謝物やブロマゼパムが検出された。また,Bは,事件の3日後に警察官に対して自分の尿を提出しているところ,その尿からブロマゼパム及 びエチゾラムの各代謝物が検出された(なお,これらの事実の認定根拠である各鑑定書の証拠能力については後述する。)。 判示第1の5事件の翌日に被告人方の捜索差押が行われた際,ゴミ袋の中からウコンの力の空き缶2缶が発見され,うち1缶にブロマゼパム,フルニトラゼパム,エチゾラム等が付着していた。 3 各被害者の証言の要旨及び信用性証言の要旨各被害者は,被告人と2人で飲食した際に,被告人が,カバンの中からウコンの力の缶を取り出して,これを飲むように勧めてきたこと,被告人から手渡されたウコンの力の缶は蓋が開いた状態であったこと,その中身を飲み干すと,間もなく意識がなくなり,その後,病院や自宅等で目覚めるまでの記憶がないこと(Bは断片的な記憶しかない旨証言している。),記憶をなくしている間に,財布の中の現金やブランド物のバッグ・腕時計等の所持品がなくなっていたり,心当たりがないのに,ATMで多額の出金をしたり,高額な腕時計をクレジットカードで購入したりしていたことなどについて証言している。 信用性 のバッグ・腕時計等の所持品がなくなっていたり,心当たりがないのに,ATMで多額の出金をしたり,高額な腕時計をクレジットカードで購入したりしていたことなどについて証言している。 信用性各被害者は,被告人と婚活パーティで知り合ったばかりとか,久しぶりに再会したかつての交際相手という間柄であり,あえて被告人に不利な内容の虚偽の供述をするような動機は見当たらない。その供述内容を見ても,被告人からウコンの力の缶を渡されてこれを飲んだことなどの被害状況についての供述は,自ら体験したからこそ語り得るような具体的なものである上,記憶がなくなったという点に関しては,客観的証拠や他の信用できる証拠,すなわち,M及びOについては,同人らが眠り込んでいるような様子が映っているタクシーのドライブレコーダーの映像等の証拠と,J,F及びBについては,被告人と一緒に赴いたバーや貴金属類販売店等の店内において,被害 者がふらついたり,転倒したり,ろれつが回らないなど酩酊したような様子であったとする同店店員らの証言等と,それぞれ整合する。以上の点に照らすと,各被害者の証言はいずれも信用性が高いといえる。 弁護人の主張ア弁護人は,MやOについて,搬送先の病院で昏酔から目覚めた直後の朦朧状態にある中で,捜査機関や医師らと会話したことで,示唆や誘導を受け,自らが真に体験した記憶と示唆や誘導によって生まれた記憶とを混同している可能性が十分にある旨主張する。しかし,そもそもそのような意識状態にあるMらに対して示唆や誘導をすることが可能とは思われない上,前記のとおり,同人らの証言は具体的で,その内容自体からして真に体験した記憶に基づくものと考えられるから,弁護人の主張は採用できない。 イ弁護人は,次のように主張する。すなわち,判示第1の 上,前記のとおり,同人らの証言は具体的で,その内容自体からして真に体験した記憶に基づくものと考えられるから,弁護人の主張は採用できない。 イ弁護人は,次のように主張する。すなわち,判示第1の5事件当日,被告人の行動確認をしていた警察官のXは,公判廷において,被告人とOとが立ち寄った飲食店やATMコーナー,両名が乗車したタクシーが被告人方に到着するまでの間に立ち寄ったコンビニ及びそのタクシー内のいずれからもウコンの力の空き缶が発見されなかったことに加え,被告人が空き缶を廃棄した様子がみられなかったことも証言しているから,もし被告人が同事件の犯人であるとすれば,Oが口をつけた空き缶を自宅に持ち帰ったことになるはずである。しかし,翌日に被告人方で差し押さえられたウコンの力の空き缶に付着していた唾液ようのものは,唾液と証明されなかった。そうすると,Oがウコンの力の缶を被告人から渡され飲んだというOの記憶自体が,Oの記憶の混同によって生じた可能性が高い,というのである。しかし,前記X警察官らは,被告人の全ての行動を確認していたわけではなく,被告人がOに飲用させたウコンの力の空き缶を自宅に持ち帰ったとは限らない。また,ある者がウコンの力の缶に口をつけた場合に, 後で必ず同人の唾液が鑑定で検出されるとまでいえるものでもない。したがって,弁護人の指摘をもって,直ちにOがその記憶を混同させているとは認められず,弁護人の主張は採用できない。 ウ弁護人は,Bの任意採尿経過に関する捜査報告書において,Bが,「店から出されたウコンを飲んでから記憶がなくなり」と申告した旨記載されているから,Bは,捜査段階で警察官と話をした過程で記憶が混同した可能性が高いと主張する。しかし,そもそも上記書面の性質上,記載されたBの上記供述の正確性は必ず 記憶がなくなり」と申告した旨記載されているから,Bは,捜査段階で警察官と話をした過程で記憶が混同した可能性が高いと主張する。しかし,そもそも上記書面の性質上,記載されたBの上記供述の正確性は必ずしも担保されていないというべきであるし,Bについても,その証言内容自体からして真に体験した記憶に基づいて証言していると考えられるから,弁護人の主張は採用できない。 エ弁護人は,その他にも各被害者の証言が信用できない理由を主張しているが,それらは,いずれも前記信用性判断を揺るがすものではなく,その主張は採用できない。 4 検討各被害者とも,被害当日,記憶をなくすまでの間は被告人と2人きりで飲食をしており,各被害者が,飲食店から提供された飲食物以外に体内に摂取したのは,被告人から受け取ったウコンの力の缶に入っていた飲料のみであったと考えられる。そのような被害者全員について,上記飲料を飲んだことと無関係に,飲食後間もなく記憶をなくすことが偶然に重なったとはおよそ考え難いから,各被害者が記憶をなくしたのは,被告人から手渡されたウコンの力の缶に入っていた飲料を飲んだことが原因であったと考えるのが合理的である。そして,被告人方からウコンの力の空き缶2缶が発見され,そのうちの1缶から,ブロマゼパムやフルニトラゼパム等のベンゾジアゼピン系の薬物が検出されているところ,被告人は,各事件当時,これらの薬物を含有する錠剤を,通常の使用量を大きく上回る分量処方されていた。また,各被害者とも,ウコンの力の缶に入っていた飲料を飲んだ後,意識障害が生じ,その運動機能が低下し, 長時間にわたって前方性健忘の症状が生じていることがうかがわれるところ,これらは,同人らが供述する飲酒量によって生じたとは考え難く,上記薬物の作用によるものと考えて矛盾はない 能が低下し, 長時間にわたって前方性健忘の症状が生じていることがうかがわれるところ,これらは,同人らが供述する飲酒量によって生じたとは考え難く,上記薬物の作用によるものと考えて矛盾はない。さらに,被害者の中には(M,O及びB),その尿や血液から,上記薬物やその代謝物が検出されている者がいる。これらを併せ考えると,被告人が,各被害者に,フルニトラゼパムやブロマゼパム等を含有する薬物を密かに混入させたウコンの力の缶入りの飲料を飲ませ,そのために,同人らが,意識障害を生じるとともに,睡眠状態や,ふらついたりろれつが回らないといった運動機能が低下する状態に陥ったと認めるのが相当である。 このように,被告人は,あえて各被害者に上記薬物を密かに混入させた飲料を飲ませ,同人らを上記の状態に陥らせた上,そのような各被害者と行動を共にしている。そして,B及びFからは,同人らが購入を申し込んだ腕時計を,J及びMからは,同人らが身に付けていた腕時計等の物品を,さらにMからは,同人の財布内の現金を,それぞれ取得しているところ,各被害者とも,それらを被告人のために購入したり,被告人に渡したりする理由はない旨証言している。また,被告人は,上記の状態に陥ったOの腕をつかんで支えながらATMコーナーに入り,被告人又はOがATM機を操作して現金を引き出しているところ,Oはそのような出金をしたことについて心当たりがない旨証言している上,出金後にOが同コーナー内で転倒した際に,被告人が自分のカバンを開けて何かを入れるような動作をしている防犯カメラ映像がみられる。さらに,Oは,意識を失っている間に財布内に入れていた現金が無くなっていた旨の証言もしている。以上によれば,被告人は,各被害者を昏酔状態,すなわち意識又は運動機能の障害が生じ,他人が財物を盗取しようとし ,Oは,意識を失っている間に財布内に入れていた現金が無くなっていた旨の証言もしている。以上によれば,被告人は,各被害者を昏酔状態,すなわち意識又は運動機能の障害が生じ,他人が財物を盗取しようとしても,それを阻止し得ない状態に陥らせて,これに乗じて各被害品を奪取したものと認められる。 5 被告人の供述について被告人は,各事件とも,フルニトラゼパムやブロマゼパム等を混入させたウ コンの力の缶入り飲料を被害者に飲ませていないし,被害品を盗取してもいないと供述して事実を否認するとともに,各被害者と行動を共にしていた間には,同人らにふらつくなど酔っぱらった様子などはみられなかった旨供述する。しかし,被告人の供述を前提にすると,被害者全員が被告人からウコンの力の缶に入った飲料を飲むように勧められたなどと同じ内容の嘘をついていることになるが,そのような事態はおよそ想定できない。また,前記のとおり,各被害者は,被告人と一緒に乗り込んだタクシー内において,被告人の隣で完全に眠り込んでいる状態であったり,被告人と一緒に赴いたバーや貴金属類販売店等の店内において,ふらつく,ろれつが回らない,あるいは転倒するなど酩酊したような状態であったことが明らかであるところ,被告人の供述は,これと矛盾する。よって,その供述は到底信用できない。 なお,弁護人は,被告人の供述に上記のとおり客観的事実と異なる部分があるのは,被告人も供述するとおり,被告人が睡眠導入剤を乱用して健忘症を生じていたためであると主張する。しかし,そのような被告人の供述自体,都合のいい弁解との疑いを払拭できないし,仮に被告人にそのような症状があるとすれば,被告人の供述が全体において信用できないことに帰するから,結局,弁護人の主張は,被告人の供述の信用性を何ら高めることにはならない。 との疑いを払拭できないし,仮に被告人にそのような症状があるとすれば,被告人の供述が全体において信用できないことに帰するから,結局,弁護人の主張は,被告人の供述の信用性を何ら高めることにはならない。 6 弁護人の主張について 鑑定書の証拠能力について弁護人は,M及びOの尿等を鑑定した兵庫県警の科捜研職員Y及びBの尿を鑑定した大阪府警の科捜研職員Zは,いずれも鑑定の際,犯罪捜査規範186条に違反して,鑑定資料の残部を保存しておくなどの再鑑定のための配慮を何ら払っていないから,同人らが作成した各鑑定書は証拠能力を欠く旨主張する。 しかし,同人らの公判供述によると,Yは,尿資料による向精神薬等の鑑定の場合は,その代謝物等が排出される量が少ないため,できるだけ資料の 全量を消費して鑑定を行っているというのであるし,Zは,尿資料による覚せい剤以外の薬物の鑑定の場合は,鑑定のための必要量として20mlを嘱託してもらうことにしており,それ以上あれば返却するが,今回の資料は10mlであったため全量を消費したというのであって,両名とも,再鑑定を妨げる等の目的からではなく,あくまで鑑定の精度を確保するために必要との判断から嘱託された資料を全量消費したものであることが明らかである。 そうすると,弁護人が指摘する点を踏まえても,上記の各鑑定書の証拠能力は否定されないというべきである。 薬物を混入させた飲料を飲ませたか否かについてア判示第1の1の事実について弁護人は,被告人が,事件当日にBと一緒に赴いた貴金属類販売店において,アンケートに回答し,自らの本名及び住所を記入していること,事件翌日,Bに対してメールを送信していることを指摘して,被告人が薬物を混入させた飲料をBに飲ませたのだとすれば,このような 売店において,アンケートに回答し,自らの本名及び住所を記入していること,事件翌日,Bに対してメールを送信していることを指摘して,被告人が薬物を混入させた飲料をBに飲ませたのだとすれば,このような行動をとるのは不合理である旨主張する。しかし,罪を犯した者が必ず自らの身元を隠すとは限らない上,いずれの行動についても,被告人が,犯罪が発覚することを意識していなければ,特に不自然なものとはいえないから,弁護人の主張は採用できない。 イ判示第1の2及び3の各事実について弁護人は,F及びJについては,その採取された尿等の鑑定の結果,向精神薬が何ら検出されていないから,被告人が薬物を飲ませた事実を認めることはできないと主張する。しかし,前記Y及びZの証言によると,薬物鑑定においては,その分析結果と科捜研が所有している標準品の一致を確認する必要があるところ,各科捜研によって所有している標準品が異なっており,兵庫県警の科捜研は,ブロマゼパムの代謝物の標準品を所有していないため,たとえ尿や血液の中に同成分が含まれていたとしても,こ れが検出されなかったとの鑑定結果になるし,鑑定で薬物が検出されるかどうかは,飲用した薬物の量や採尿を行うまでの時間等によって変わり得る,というのである。そうすると,F及びJの尿等の鑑定の結果,向精神薬が検出されていないとしても,そのことから直ちにF及びJが向精神薬を飲んでいないことになるわけではないから,弁護人の主張は採用できない。 ウ判示第1の2の事実について弁護人は,Fが,事件当時かその前日に,精神安定剤であるジェイゾロフト錠を服用していた旨供述しており,同人がジェイゾロフト錠とアルコールを併用したために,意識の混濁や前方性健忘等が引き起こされた可能性が十分に考えられると主張する。しかし, 安定剤であるジェイゾロフト錠を服用していた旨供述しており,同人がジェイゾロフト錠とアルコールを併用したために,意識の混濁や前方性健忘等が引き起こされた可能性が十分に考えられると主張する。しかし,同人は,ジェイゾロフト錠を服用しつつ,週に1,2度はビールを中ジョッキで2,3杯飲むことがあったが,記憶をなくしたりしたことはなかったこと,被害当日の飲酒量は小ジョッキぐらいのグラスで3杯程度であったことを証言しており,このことに照らすと,同人が仮にジェイゾロフト錠をアルコールと併用していたとしても,飲酒のために前方性健忘等が引き起こされたとは考え難く,弁護人の主張は採用できない。 エ判示第1の5の事実について弁護人は,Oが,被告人はOの目の前でウコンの力をバリッと開けた旨証言していることを指摘して,被告人に薬物を混入する隙はなかったと主張する。しかし,Oは,被告人がカバンの中に手を入れ,蓋を開ける動作をしたところを見たと証言しているにすぎないのであり,被告人が,Oの目の前で缶を開封したようにみせるために,Oに飲ませたものとは別の缶を用意していた可能性も十分考えられるから,弁護人の主張は採用できない。 (3) 被害品を盗取したか否かについて ア判示第1の1及び2の各事実について弁護人は,次のような事情からすると,F及びBは,自分の意思で腕時計を購入したといえると主張する。すなわち,Bは,ウコンの力の缶入りの飲料を飲んだ後,飲食店において自らクレジットカード売上票に署名し,貴金属類販売店でも被告人から背中をたたかれると,しゃきっと立ち上がり,クレジット売上票に署名している。そして,その際,店員においても,Bに腕時計の価格等を伝えた際に首を上下に振って返事をした様子を見て同人が購入する意思で署名したものと認 ると,しゃきっと立ち上がり,クレジット売上票に署名している。そして,その際,店員においても,Bに腕時計の価格等を伝えた際に首を上下に振って返事をした様子を見て同人が購入する意思で署名したものと認識している。また,Fは,ウコンの力の缶入りの飲料を飲んだ飲食店から腕時計を購入した量販店まで,直線距離で300メートル余りの距離を徒歩で移動し,被告人と会話し,店員との間でクレジットカードの本人確認情報(電話番号の下4桁や勤務先)等についてやりとりをし,自分自身でクレジットカード売上票に署名し,被告人に支えられながらも歩いて退店するなどしている,というのである。 しかし,A1の証言によれば,ベンゾジアゼピン系の薬物を摂取すると,その作用として鎮静作用や睡眠作用が生じるが,その作用により睡眠状態にある人を無理に起こすなどすれば,不完全な覚醒状態となり,副作用として運動機能や認知機能が低下すること,その場合であっても,日常的に繰り返し行うような行動についての記憶(意味記憶)は障害されず,半覚醒状態下においても意味記憶に基づく行動(その一例としては,メールや歩行,食事などが挙げられる。)をとることがあり得ることが認められる(なお,A1証言は,同人の医師及び基礎医学薬理学の教授としての豊富な経験に基づくものである上,その内容をみても臨床研究から得られたデータ等の具体的根拠に基づいて述べられた合理的なものであるといえるから,信用できる。)。そうすると,弁護人が指摘する事情は,いずれも意味記憶に基づく行動として説明できるものであり,FやBが被告人から飲まされた薬物の影響で昏酔状態にあったことと矛盾するものではないか ら,弁護人の主張は採用できない。 イ判示第1の5の事実について弁護人は,Oは,ふらふらした状態ながら自分の足で歩いてATM 薬物の影響で昏酔状態にあったことと矛盾するものではないか ら,弁護人の主張は採用できない。 イ判示第1の5の事実について弁護人は,Oは,ふらふらした状態ながら自分の足で歩いてATMコーナー内に入り,ATM機に向かって立っていること,同コーナー内でのOの様子をうかがっていた前記X警察官らが,既に被告人の逮捕状を得ていたにもかかわらず,その執行をするには至らなかったことなどの外部的状況に照らすと,Oは昏酔状態に陥っておらず,自分の意思で現金を引き出したといえる旨主張する。しかし,Oは,ATMコーナー内で,終始被告人から支えられており,転倒してもなかなか起き上がれず,通行人らの助けを借りてタクシーまで運ばれるような状況であったのであり,これはまさにOが昏酔状態にあったことを裏付ける状況であったというべきである。また,警察官らが逮捕状を執行しなかったからといって,Oが昏酔状態になかったことになるわけでもない。なお,弁護人が指摘するOが自らの足で移動したり,自宅において警察官の呼びかけに何かしらの返答をしていたことなどの事情は,前記A1が証言するところの意味記憶に基づく行動として理解が可能であり,Oが昏酔状態に陥っていたことと矛盾しない。よって,弁護人の主張は採用できない。 (4) 弁護人は,その他にも,被告人が判示第1の1から5までの犯行を行っていない理由を主張するが,それらは,いずれも前記認定を妨げるものではなく,採用できない。 7 結論以上のとおり,関係各証拠によれば,被告人が,各被害者を昏酔させて金品を盗取しようと企て,各被害者に薬物を密かに混入させた飲料を飲ませて,同人らを昏酔状態に陥れた上,同人らから各被害品を盗取したとの判示の各事実を認めることができる。 第2 建造物等以外放火被告事件(判示第2 うと企て,各被害者に薬物を密かに混入させた飲料を飲ませて,同人らを昏酔状態に陥れた上,同人らから各被害品を盗取したとの判示の各事実を認めることができる。 第2 建造物等以外放火被告事件(判示第2)について 1 争点争点は,被告人の犯人性である。 2 前提事実次の各事実は,当事者間に概ね争いがなく,関係各証拠により容易に認められる。 被告人とVは,本件事件当時,結婚を前提に交際中であったところ,事件当日の平成25年9月21日午前9時頃から,Ul2号室(以下,単に「l2号室」ということがある。)への引っ越しのため,同室の掃除を行っていた。 同日午後2時55分頃,被告人とVは,外出のため一緒にl2号室を出たが,その後,被告人だけが,いったんl2号室へ戻り,Vは,そのまま1人でエレベーターに乗り,前記マンションの1階へと降りた。 被告人は,同日午後2時59分頃,エレベーターに乗って前記マンション1階へと降り,Vと合流した。 同日午後3時6分頃,通行人が,l2号室のベランダから黒煙が上がっていることに気づき,119番通報を行った。 同日午後3時11分頃,消防隊員がl2号室に到着したところ,その際には,l2号室の玄関ドアを含むすべての開口部は施錠されていた。 火災の火元は,l2号室ベランダに置かれていたダンボール付近であったが,ベランダに自然発火する物はなく,火災の原因は放火であると考えられる。なお,同室の和室の押し入れには,ダンボールの切れ端及び使用済みのマッチ4本が置かれており,押入北東下部に設置されたコンセントの差込口には,ダンボールの切れ端が詰められていた。 l2号室は,前記マンションの3階にあり,地上から同室ベランダ柵上までの高さは,約7.5メートルであった。 3 V証言の要旨及び たコンセントの差込口には,ダンボールの切れ端が詰められていた。 l2号室は,前記マンションの3階にあり,地上から同室ベランダ柵上までの高さは,約7.5メートルであった。 3 V証言の要旨及び信用性 証言の要旨Vは,被害当日の午前中にl2号室を掃除した際には,和室の押し入れ内にダンボールやマッチ棒はなかったこと,同日午後2時55分頃,外出のために同室を出た直後に,被告人が戸締りを忘れたと言い出したため,被告人に部屋の鍵を渡したこと,同室の鍵は2つあったが,うち1つはVの実家にて保管していたこと,外出時には,室内やベランダから火災は発生しておらず,V自身はl2号室に放火をしていないことを証言する。 信用性l2号室及びその火災保険の契約者は,Vの勤務先であり,Vは,火災保険金の支払い等によって利益を受ける立場にはなかった。むしろ,Vは,平成25年8月12日にも自宅が火災にあい,勤務先に依頼をして社宅としてl2号室に住むことになったのであって,このような短期間に再度自宅が火災になるような事態になれば,勤務先からの信用も失われかねない状況にあった。そのようなVに,放火をする動機があるとは考え難い。Vは,l2号室を出た後に,被告人が同室に戻ることを引き止めるなどしていないところ,仮にVが放火の犯人であるとすれば,そのように自らの犯行が発覚し得るような行動をとることは極めて不自然である。同室に戻った被告人も,ベランダに炎や煙はなかった旨供述している。Vの証言内容は,以上のような事情に照らして合理的である上,具体的で特に不自然な点もないから,十分に信用できる。 4 検討前記前提事実及び信用できるV証言によれば,平成25年9月21日午後2時55分頃,Vがl2号室を出て階下に降りた際には,室内及びベランダ で特に不自然な点もないから,十分に信用できる。 4 検討前記前提事実及び信用できるV証言によれば,平成25年9月21日午後2時55分頃,Vがl2号室を出て階下に降りた際には,室内及びベランダに火の気はなかったのであるから,同時刻から119番通報がなされた同日午後3時6分頃までの間に犯行が行われたと考えられる。そして,l2号室がマンションの3階に位置していること,同室内の和室から,同日午前中にはなかった ダンボール片や使用済みのマッチなどが発見されているところ,これらは,犯人が室内でも放火を試みようとした痕跡のようにみられることに照らせば,犯人は,l2号室の室内に侵入した上で,本件犯行を行ったものと認められる。 以上の事実を前提として,本件犯行当時,l2号室の鍵を所持していたのは被告人とVのみであったこと,消防隊員が同室に到着した際,l2号室の開口部はすべて施錠されていたことからすれば,鍵を所持していた被告人及びV以外の第三者が同室内に侵入して放火をした可能性はおよそ考えられない。そして,前記のとおり,自分は放火してない旨のV証言は十分に信用できるのであるから,被告人が本件建造物等以外放火罪の犯人であると認めるのが相当である。 5 弁護人の主張について 弁護人は,事件当時,被告人はVと結婚を前提として交際しており,l2号室で同棲をする予定であったこと,放火によって被告人が保険金等の利益を得る立場にもなかったことなどを挙げて,被告人に放火の動機はないと主張する。この点,関係各証拠によっても,被告人の犯行動機は判然としないというほかないが,そうであるからといって,上記認定が左右されるものではない。 また,弁護人は,消火活動後,被告人が,和室からダンボール片や使用済みのマッチ棒を見つけたとVや周囲にいた警察 というほかないが,そうであるからといって,上記認定が左右されるものではない。 また,弁護人は,消火活動後,被告人が,和室からダンボール片や使用済みのマッチ棒を見つけたとVや周囲にいた警察官らに伝えているところ,そのような被告人の行動は,仮に被告人が犯人であるとすれば不合理な行動であると主張する。しかし,このような被告人の行動は,通常犯人であればとらないであろう行動を,被告人が自分が犯人であると疑われないようにするため,あえてとったと評価することも可能であるから,弁護人の主張によって,上記の認定判断が覆されるものではない。 6 結論以上のとおり,関係各証拠によれば,被告人が判示の建造物等以外放火事件の犯人であると認めることができる。 【法令の適用】罰条判示第1の1ないし5の各行為いずれも刑法239条,236条1項判示第2の行為刑法110条1項併合罪加重刑法45条前段,47条本文,10条(刑及び犯情の最も重い判示第1の2の罪の刑に法定の加重)未決勾留日数の算入刑法21条訴訟費用の負担刑事訴訟法181条1項本文【量刑の理由】人に密かに薬物を飲ませて昏酔させ,金品を盗取するという態様の昏酔強盗は,その被害後も被害者にしばらく意識障害が継続するため,危険性が大きく,悪質なものというべきであるが,被告人は,一緒に飲食店に入った男性に,巧みに薬物入りの飲料缶を手渡して飲ませ,昏酔状態に陥れるなどして,判示のとおり1か月半の間に5件もの昏酔強盗の犯行を重ねている(被害合計356万円余りほか米ドル)。 また,被告人は,昏酔強盗の標的とする男性を探す目的で婚活パーティに参加し 昏酔状態に陥れるなどして,判示のとおり1か月半の間に5件もの昏酔強盗の犯行を重ねている(被害合計356万円余りほか米ドル)。 また,被告人は,昏酔強盗の標的とする男性を探す目的で婚活パーティに参加していたことがうかがわれるし,被害者が身に付けていた金品のみならず,被害者をわざわざATMコーナーや貴金属類販売店まで連れて行き,引き出させた現金や購入させた物品を奪うことまでしており,犯意の強固さが明らかである。以上のような事情を考慮すれば,各昏酔強盗の犯行の行為責任は,同種事案の中でも重いものといわざるを得ない。そして,この責任に,集合住宅のベランダに置かれたダンボールに放火して,周囲の入居者の身体等に対しても危険を生じさせた建造物等以外放火の行為責任も加味することとなる。 その上で,一般情状についても検討すると,被告人が被害者らに対し,受け取った被害品についての弁償を申し入れ,そのうち一名に対しては被害額全額の弁償を行っていることを考慮しても,被告人が不合理な弁解に終始して反省の情が全く認 められないことからすれば,主文の刑は免れないというべきである。 (求刑懲役15年)平成27年8月5日神戸地方裁判所第2刑事部 裁判長裁判官増田耕兒 裁判官倉成章 裁判官安井亜季

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