主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は,原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告に対し,3150万円及びこれに対する平成22年4月20日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は, 原告が,被告に対し,火災共済契約に基づき,共済金と遅延損害金(起算点は訴状送達の日の翌日であり,利率は商事法定利率である。)の支払を求める事案である。 1 争いのない事実等(証拠等を掲げたもののほかは当事者間に争いがない。)(1) Aは,原告に対し,平成14年9月25日,別紙物件目録1記載の建物(以下「本件建物」という。)を,賃貸期間同年10月1日~平成24年10月1日,賃料月額5万円で賃貸し(以下「本件賃貸借契約」という。),平成14年10月1日,本件建物を引き渡し,原告は,本件建物への居住を開始した。 (2) 原告は,被告との間で,平成20年3月12日,本件建物内の家財及び本件建物に関して,以下のとおりの借家人賠償責任特約付風水害等給付金付火災共済契約(以下「本件火災共済契約」という。)を締結した。 ア被共済者原告イ共済金受取人原告ウ期間平成20年3月13日~平成21年2月28日エ共済の目的及び金額(ア) 共済の目的家財共済金額 1000万円 臨時費用共済金火災等共済金の額の15%に相当する金額(イ) 共済の目的本件建物(借用住宅)共済金額 2000万円(以下,(ア)のうち臨時費用共済金を除いた家財を目的とする共済金を「家財共済金」といい,(イ)の共済金を「借家人賠償責任特約共済 物(借用住宅)共済金額 2000万円(以下,(ア)のうち臨時費用共済金を除いた家財を目的とする共済金を「家財共済金」といい,(イ)の共済金を「借家人賠償責任特約共済金」という。)オ月額共済掛金額 1400円(3) 火災の発生平成20年11月20日午前零時20分ころ,本件建物内で火災が発生し,全焼した(この火災を以下「本件火災」という。)。 (4) 被告の支払拒絶平成21年7月17日,原告が,被告に対し,本件火災共済契約に基づき,共済金の支払を請求したが,同年10月22日ころ,被告代理人は,本件建物につき,本件火災共済契約締結の前日である平成20年3月11日にガス及び水道が供給停止となっており,以後本件火災発生日まで供給の再開がなかったことから,原告が本件火災共済契約締結時,本件建物に居住していなかったことが明らかであり,そうすると風水害等給付金付火災共済事業規約(以下「本件規約」という。)8条1項1号,33条,64条1号,74条1項3号により本件火災共済契約は無効となるとして,この支払を拒絶する旨通知した。 (5) 本件規約の定め(甲8の1~6,乙1)ア 8条1項柱書及び同項1号共済の目的とすることのできる家財は,共済契約の発効日において,共済契約関係者が居住する日本国内の建物内に収容されている家財に限る。 イ 33条1項柱書及び同項3号共済の目的が,発効日において,8条に規定する共済の目的の範囲外の場合,共済契約は無効とする。 ウ 60条1項柱書及び同項1号共済契約者,共済の目的の所有者又は共済金受取人の故意又は重大な過失により生じた損害については,基本契約共済金を支払わない。 効とする。 ウ 60条1項柱書及び同項1号共済契約者,共済の目的の所有者又は共済金受取人の故意又は重大な過失により生じた損害については,基本契約共済金を支払わない。 エ 64条柱書及び同条1号借家人賠償責任特約の申込みが基本契約に付帯してなされたものであり,かつ,借用住宅が基本契約の共済の目的である家財を収容する場合に限り,借家人賠償責任特約を締結する。 オ 73条1項柱書及び同項1号共済契約者,被共済者又は共済金受取人の故意によって借用住宅が滅失,毀損,又は汚損したことにより被共済者が被った損害については,借家人賠償責任特約共済金を支払わない。 カ 74条1項柱書及び同項3号発効日において64条に規定する要件のいずれかをみたしていない場合,借家人賠償責任特約は無効とする。 キ 78条1項基本契約が無効のときは,借家人賠償責任特約も無効とする。 2 争点(1) 本件火災共済契約時,原告が本件建物に居住していたか否か(2) 本件火災が原告の故意により生じたものか否か(3) 共済金額 3 争点に関する当事者の主張(1) 争点(1)(本件火災共済契約時,原告が本件建物に居住していたか否か)(被告の主張)本件火災共済契約締結の前日である平成20年3月11日をもって本件建物の水道及びガスの供給が停止されていることや,本件建物の水道・ガスの使用量が明らかに少なく,反対に後記別宅の水道の使用量は多いこと,原告 が本件建物に全くといっていいほど滞在しておらず,近隣住民とのつながりも皆無であること,組事務所という使用目的からして,原告が本件建物に居住していなかったことは明らかであるから,本件火災共済契約は無効である。 くといっていいほど滞在しておらず,近隣住民とのつながりも皆無であること,組事務所という使用目的からして,原告が本件建物に居住していなかったことは明らかであるから,本件火災共済契約は無効である。 (原告の主張)本件建物内にあった家具・家電製品及びそれらの状況,電気の供給はされ続け,本件火災時にも通電状態であったことから,本件火災共済契約時,原告が本件建物に居住していたことは明白である。水道及びガスの供給が停止されていることについては,原告は,知人から水道の開栓方法を教わり,無断で水を使用するなど,自分なりに工夫して生活していたのであって,原告が本件建物に居住していなかった根拠にはならない。 (2) 争点(2)(本件火災が原告の故意により生じたものか否か)(被告の主張)ア火災の原因は放火と認められる。 (ア) 本件火災の出火箇所は,ストーブ北東側の和室と居間の間付近であると考えられ,この場所にはソファーが置かれていた。このソファーから灯油に相当する油性成分が検出されているところ,ソファーに灯油が自然に付着するとは考え難く,本件火災時にストーブから灯油が飛び散った形跡もないから,人為的に付着したものといえる。 (イ) 原告は,本件火災の原因について,ハンガーに掛けて干していた洗濯物がストーブに落ちて,火事になった可能性を指摘するが,ストーブの焼損状態,同型のストーブでの実験結果からしてあり得ず,漏電やたばこの失火の可能性も否定されるから,火災の原因は,ソファーへの放火と考えるのが合理的である。 イ放火について原告が関与したと認められる。 (ア) テレビと電気がついている屋内に第三者が侵入し,放火を行うとは考えられないところ,原告は,本件火災時に本件建物にいたのは原 る。 イ放火について原告が関与したと認められる。 (ア) テレビと電気がついている屋内に第三者が侵入し,放火を行うとは考えられないところ,原告は,本件火災時に本件建物にいたのは原告の みと自認しているのであるから,本件火災に関与できたのは原告のみということになる。 (イ) 原告は,過去にも火災によって共済金を取得した経験があり,本件火災当時には多額の借財があり金銭に窮している状態であった。また,本件建物への水道・ガスの供給が停止された翌日に本件火災共済契約が締結されているなど契約締結の経緯も不自然極まりない。 (ウ) これらによれば,放火について原告が関与したといわざるを得ず,本件火災は,原告の故意により生じたものであるから,本件規約60条1項1号,73条1項1号に基づき,被告は,家財共済金及び借家人賠償責任特約共済金の支払を免責される。 (原告の主張)原告を放火犯人と断定するには,原告が放火したのでなければ合理的に説明できない事実が存在することを被告において主張立証しなければならないが,被告が主張している事実は,せいぜい原告の放火と矛盾しない事実に留まる。 (3) 争点(3)(共済金額)(原告の主張)ア本件火災共済契約によれば,火災等で全焼の場合,契約共済金額の全額が支払われることになっている。家財共済金の契約共済金額は1000万円であるから,被告が原告に支払うべき金額も同額となる。 臨時費用共済金はその15%であるから150万円となる。 イ原告は,本件建物の貸主から,新たに建物を建て直して引き渡すよう迫られており,そのために要する金額は2000万円を下らない。それ故,借家人賠償責任特約共済金として被告が原告に支払うべき金額も同額となる。 建物の貸主から,新たに建物を建て直して引き渡すよう迫られており,そのために要する金額は2000万円を下らない。それ故,借家人賠償責任特約共済金として被告が原告に支払うべき金額も同額となる。 (被告の主張) ア本件火災によって焼失した原告の家財の再調達価額(再取得価額)は,被告が委託した鑑定人が原告と1つずつ確認しながら,品類・数量・単価を打ち合わせたところによれば,418万3500円であり,仮に家財共済金が支払われるとしても上記金額に留まる。 臨時費用共済金は,上記金額の15%に相当する額であるから,仮に支払われるとしても62万7525円に留まる。 イ借家人賠償責任特約共済金額は,被共済者が借用住宅の貸主に支払うべき損害賠償金の額(客観的に生じた時価損害額)である。 本件建物の時価損害額は,被告が委託した鑑定の結果によれば,再調達損害額1463万2548円から30%の減価償却をした1024万2784円に,解体撤去費用85万7850円を加算した1110万0634円である。 したがって,仮に借家人賠償責任特約共済金が支払われるとしても,上記金額に留まる。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実争いのない事実等に,証拠(甲1,甲2,甲5,甲9~甲11,甲12の1・2,甲13,甲14,甲29,甲30,甲33~甲35,乙2,乙3,乙4の1・2,乙5~乙7,乙8の1・2,乙10,乙14~乙20,原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められ,括弧内の証拠中この認定に反する部分は採用することができず,他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。 (1) Aと原告の関係Aは,O市に事務所を構える,指定暴力団・B会の二次団体,C組の組長であり,Dと称している者である。 とができず,他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。 (1) Aと原告の関係Aは,O市に事務所を構える,指定暴力団・B会の二次団体,C組の組長であり,Dと称している者である。 原告は,C組の6人の執行部のうちの1人であり,C組の秋田県における二 次団体であるE組(組員は5名程度)の組長であった。 (2) 一連の経過ア平成5年10月10日,本件建物が新築された。 イ平成9年1月31日,原告は,別紙物件目録2記載の居宅を新築した(以下「別宅」という。)。原告は,その住宅ローンとして1720万円の融資を受けた。 ウ平成10年5月18日,原告は,別紙物件目録3記載の店舗兼居宅を相続した(以下「別宅隣接店舗」という。)。 エ平成12年3月,本件建物の当時の所有者が多額の債務を抱え本件建物内で自殺し,その後,本件建物は競売手続に付された。 オ平成13年11月15日,Aは,C組の組員であるFを住まわせるために,競売手続で本件建物を取得した。落札価額は450万円であった。 カその後,上記Fが本件建物に居住していたが,1年程で所在不明となってしまったため,Aは,原告に管理させるべく,平成14年9月,原告との間で本件賃貸借契約を締結した。 その後,原告は,被告との間で本件火災共済契約と同様の火災共済契約を締結した(以下「従前火災共済契約」という。)。 キ平成15年11月6日,原告は,G銀行から550万円程度を借り入れた。その際,H協会に保証委託した。 ク平成16年4月末ころ,原告は,N市にガスと水道の供給を,東北電力に電気の供給を申し込んだ。それまでの契約名義人は,本件賃貸借契約締結後もF名義だった。 ケ平成16年8月末,使用料金の滞 平成16年4月末ころ,原告は,N市にガスと水道の供給を,東北電力に電気の供給を申し込んだ。それまでの契約名義人は,本件賃貸借契約締結後もF名義だった。 ケ平成16年8月末,使用料金の滞納のため,本件建物へのガスの供給が停止された。 コ平成17年11月,使用料金の滞納のため,本件建物への水道の供給が停止された。 サ平成18年2月,本件建物への水道の供給が再開された。 シ平成18年4月16日,原告は,I社からトヨタクラウンを購入し,J社との間でその代金の立替払契約を締結した。 ス平成18年6月,使用料金の滞納のため,本件建物への水道の供給が停止された。 セ平成18年8月末,本件建物への水道の供給が再開された。 ソ平成18年9月25日,本件建物1階和室床の間付近で火災が発生し,本件建物の一部及び家財が焼損した(以下この火災を「平成18年火災」という。)。 タ平成18年11月ころ,被告は,原告に対し,従前火災共済契約に基づき,家財共済金として171万2000円,臨時費用共済金として25万6800円,借家人賠償責任特約共済金として182万7000円の合計379万5800円を支払った。 なお,その当時の従前火災共済契約の契約共済金額は,家財共済金が600万円,借家人賠償責任特約共済金が2000万円であり,月額共済掛金は,1640円であった。 チその後,原告の口座から平成18年11月分,同年12月分,平成19年1月分の従前火災共済契約の月額共済掛金の引き落としができなかったため,被告の規約に基づき,従前火災共済契約は,平成18年11月1日に遡って失効した。 ツ平成19年1月中旬,使用料金の滞納のため,本件建物への水道の供給が停止された。 テその後,原告は,上記 告の規約に基づき,従前火災共済契約は,平成18年11月1日に遡って失効した。 ツ平成19年1月中旬,使用料金の滞納のため,本件建物への水道の供給が停止された。 テその後,原告は,上記シのトヨタクラウンに係る立替金の支払を滞納したため,J社から立替金の支払と上記クラウンの引渡しを求める訴えを提起され,平成19年6月12日,J社との間で,約270万円の立替金債務があること,それを毎月4万5000円ずつ返還すること,期限の利益 を喪失した場合には上記クラウンを引き渡すことなどを内容とする訴訟上の和解をした。 ト平成19年9月末,本件建物への水道の供給が再開され,同年10月にはガスの供給も再開された。 ナ平成20年1月27日,原告は,100万円で上記シとは別のトヨタクラウンを購入した。その一方で,上記シのクラウンについては,上記テの分割金の支払を平成19年12月31日,平成20年1月31日と怠り,期限の利益を喪失させた。 ニ平成20年3月11日,N市は,原告が上記トのガスと水道の供給再開後,使用料金を全く納めないため(滞納額は合計約1万円),本件建物のガス,水道の供給を停止した(水道閉栓時の量水器メーターの数値は97㎥であった)。ガスと水道の供給停止は,本件火災日まで続いた。なお,ガスと水道の供給停止後も,電気については供給が続き,本件火災日においても供給されていた。 ヌ平成20年3月12日,本件火災共済契約が締結された。 ネ平成20年3月27日,原告は,上記シのクラウンを約88万円で売却し,その売却金をJ社への支払に充てたが,それでも約161万5000円の債務が残った。 ノ平成20年8月21日,J社は,上記ネの残債権を請求債権として,別宅隣接店舗及びその土地について,強制競売を申し立て, 社への支払に充てたが,それでも約161万5000円の債務が残った。 ノ平成20年8月21日,J社は,上記ネの残債権を請求債権として,別宅隣接店舗及びその土地について,強制競売を申し立て,同年9月2日,差押えの登記がされた。そして,そのころ,原告は,強制競売が開始されたことを知った。 ハ平成20年9月,上記ノの強制競売手続において,K町は,原告に関して,平成16年度~平成20年度の固定資産税及び国民健康保険税の合計約49万円の滞納があるとして交付要求し,H協会は,極度額200万円の根抵当権の元本として,上記キの信用保証委託契約に基づく元本187 万円の債権届出をした。 ヒ平成20年11月20日,本件火災が発生した。 消防署員は,火災鎮火直後,原告からの事情聴取を行い,夜が明けてから,本件建物の焼損状況を写真撮影し,翌21日には本件建物の実況見分を行った。 フ平成21年2月13日,上記ノのJ社が申し立てた強制競売手続が,買受可能額が手続費用及び優先債権の合計額に満たないとして,取り消された。 ヘ平成21年6月29日,被告から委託を受けた調査事務所の調査員(以下「被告調査員」という。)と株式会社L(以下「L」という。)の社員が本件建物に赴き,原告立会いの下,本件建物内の実況見分,写真撮影,油性成分調査のための試料採取を行った。 なお,被告側の実況見分等がこの時期となったのは,N警察署が同月までロープを張って本件建物を立入禁止としていたためである。 ホ平成21年7月6日,被告調査員が原告からの聴き取りを行った。 マ平成21年7月17日,争いのない事実等(4)のとおり,原告は,被告に共済金を請求した。 ミ平成21年7月27日,被告調査員がAからの聴き取りを行った。 ム平成21 。 マ平成21年7月17日,争いのない事実等(4)のとおり,原告は,被告に共済金を請求した。 ミ平成21年7月27日,被告調査員がAからの聴き取りを行った。 ム平成21年7月28日,本件建物が解体された。解体の際に水道の水は使用されなかった。 メ平成21年9月3日,被告調査員が原告からの聴き取りを行った。 モ平成21年9月末,N市が本件建物の量水器メーターの数値を確認したところ,99㎥であった。 (3) 間取り本件建物は,2階建てであり,本件建物1階の間取りは,別紙図面のとおりである(以下6.0畳の和室を単に「和室」という。)。 (4) 本件建物の焼損状況(甲5,甲9,甲13,乙10)ア 1階和室及び居間の焼損状況特に和室が強く焼損しており,居間と和室との仕切り垂れ壁(天井から垂れ下がったような形の壁)が間柱(柱と柱との間に立てる小さい柱)や長押(なげし。柱から柱へと水平に打ち付けた材)を残し,焼損している。その長押は下層からの火炎により焼損しており,和室の天井も広く焼失し,野縁(天井裏などの隠れている部分に用いる細長い材)が炭化している。押入や廊下との仕切り引き戸等も焼損している。和室の北寄りの廊下へ通じる引き戸前に置かれたソファー(以下「北側ソファー」という。)周辺が強く焼損し,その直上の天井裏及び2階の床板が焼け抜けている。北側ソファー下層は畳の藁が露出,同背面は引き戸が焼失し,残存する戸も桟(えつり。壁の下地として,縦横に組んだ竹や細木)を残すのみ,同東側は居間のテレビが原形を留めない焼損状況であり,テレビの背面の壁には同ソファー側から斜め上に上がる焼損痕がある。 そのほかに北側ソファーの周辺では,和室と居室との間の敷居の炭化,畳の下の床板の一 東側は居間のテレビが原形を留めない焼損状況であり,テレビの背面の壁には同ソファー側から斜め上に上がる焼損痕がある。 そのほかに北側ソファーの周辺では,和室と居室との間の敷居の炭化,畳の下の床板の一部に焼け抜けがみられる。和室の中央付近に置かれた座卓はその脚のみを残して焼失している。 イソファーの焼損状況和室の南側に置かれたソファーが原形を留めているのに対し,北側ソファーは,下木枠と背もたれの一部が辛うじて残存しているのみで殆ど原形を留めていない。北側ソファーの東側背面は,下木枠が焼け切れており,背もたれもそれに対応して焼け切れている。 ウ石油ストーブ自体及び周辺の焼損状況(ア) ストーブ下部に合成樹脂製炎調節ダイヤルの溶融,ストーブ北側背面外枠に斜め上に上がる煤の付着,天板中央寄りにやや薄黒い汚損がみられるが,そのほかには外観上,顕著な破損,変形はなかった。ス トーブの外枠を外し,中をみると芯が5㎜程出ていた。 (イ) ストーブの周辺をみると,ストーブ北側は,北側ソファー下層から畳の藁が露出するなど激しく焼損している。しかし,ストーブ直近の敷居には未焼損の部位がみられ,居間側の床面も斑な焼損部位がみられるが,焼け抜けなどの強い焼損部位はみられない。 (ウ) ストーブの周辺には,ハンガーの溶融痕やズボン,Tシャツの残焼物があったが,衣類残焼物の下の敷居は殆ど未焼損であった。 エ洗面室の状況洗面室の分電盤は,プラスチック製のカバーが溶融し,漏電遮断器が通電の位置になっていた。また,洗濯機は,アースは繋いだ状態であったがコンセントは抜かれた状態であった。 (5) 火災直後の原告の説明(甲5,甲33)ア本件建物には1人で住んでいた。普段たばこは吸わない。本件火災の前日午前 ースは繋いだ状態であったがコンセントは抜かれた状態であった。 (5) 火災直後の原告の説明(甲5,甲33)ア本件建物には1人で住んでいた。普段たばこは吸わない。本件火災の前日午前10時か午前11時ころから,1階で対流型の石油ストーブを使用していた。ストーブは戸を外した和室と居間の間仕切り付近の和室の中央に置いていた。 イ昼食後,洗濯をして洗濯物をプラスチック製のハンガーに掛け,ストーブの上の長押に掛けて干していた。干した物は,シャツ2枚と肌着,靴下などで,ストーブの真上にはタオルケットをハンガー2つに渡して掛けて干してあったと思う。 ウ午後10時か午後11時ころ,布団を敷くために2階に上がったが,そのまま眠ってしまった。1階のストーブ,テレビ,電気は付けたままだった。ボンと音がして目が覚めると焦げ臭いにおいがして,1階に降りようとしたが,階段の半分まで降りたところで,上がってくる煙がすごいので無理だと思い,1階の屋根の上に逃げてそこから119番通報した。1階の屋根からなら何とか飛び降りられると思ったが,結構高かっ たので助けを待っていた。 (6) 油性成分の検出(乙6)Lは,平成21年6月29日の本件建物の調査の際に採取した試料について,ガスクロマトグラフ質量分析法による油性成分分析を行った。 その結果,北側ソファー東側背もたれ躯体焼失部の西側躯体表面から採取した試料から26μg/gの灯油に相当する油性成分が,北側ソファー東側背もたれ躯体焼失部の東側躯体表面から採取した試料から6.7μg/gの灯油相当の油性成分が存在する可能性のある成分がそれぞれ検出された。 また,ストーブの置台裏(床側)で北側縁の固着物から採取した試料からも灯油に相当する油性成分が検出されたが,北側ソ g/gの灯油相当の油性成分が存在する可能性のある成分がそれぞれ検出された。 また,ストーブの置台裏(床側)で北側縁の固着物から採取した試料からも灯油に相当する油性成分が検出されたが,北側ソファー東側背もたれ部とストーブとの間より採取した試料3つからは灯油に相当する油性成分は検出されなかった。 (7) 燃焼実験の結果(乙10)平成16年11月,本件建物で使用されていた自然対流型石油ストーブと同型の石油ストーブを用いて,① 天板上にタオル2枚,シャツ1枚を軽く固めて置いた場合,② 天板上にシャツ1枚を広げて置いた場合,③天板上にタオル2枚,シャツ1枚の端部を垂らして置いた場合について,それぞれの燃焼経過を確認する実験が行われ,その結果,①については,有炎燃焼に至らない,②については,発火してシャツの一部が畳上に焼け落ち部分的に焼損が生じたもののそれ以上に火炎の波及なし,③については,ストーブのバッテリーのプラスチック部分及び電池部分に着火し,同部が畳上に落下し燃焼を継続したものの畳が部分的に焼損したのみで自然鎮火し,タオル,シャツも自然鎮火した。 (8) 平成18年火災の被害,修理の状況(乙5,乙7)ア平成18年火災によって床の間に敷いてあった畳が焼け抜けた。 原告は,床の間の床を張り替えたり,側壁のクロスを張り替えたりはしたが,できるだけ費用を掛けないよう,床下や土台部分までは修理しなかった。 原告は,被災状況について,150万円のロレックスの時計や,80万円の観音像を焼損したと申告したが,これについては共済の目的である家財には当たらないとされた。 イ原告の説明本件建物は,前所有者が自殺している曰く付きの建物であり,床の間に観音様を祭り,その四方にローソクを灯し,拝むのが毎 ついては共済の目的である家財には当たらないとされた。 イ原告の説明本件建物は,前所有者が自殺している曰く付きの建物であり,床の間に観音様を祭り,その四方にローソクを灯し,拝むのが毎朝の日課だった。 ローソクを灯したまま,外で草刈りをして戻ってきたら,火災になっており,人が消火活動をしていた。警察と消防からは,床の間に飾っていた絵が落下して,ローソクの火が燃え移ったのではないかと言われた。 2 争点(1)(本件火災共済契約時,原告が本件建物に居住していたか否か)(1) 原告は,大要,以下のとおり供述する(甲26,原告本人)。 ア全般的な居住状況露天商を営んでいた関係で,北関東方面に出向くことが多く,秋田県内にいないことが多かった。秋田県内にいるときも知人女性宅に泊まることもあった。そのため,本件建物にいるのは月に1週間から10日位だった。 本件建物にいるときも,毎日のように朝から夕方までパチンコ店に行っていた。月に1回程度,自分の組の組員を集めて,食事会をしていた。平成19年は熱海の仕事を指名されて殆ど秋田県に帰ってくる暇がなかった。 当初,内妻と一緒に本件建物に住むつもりでおり,内妻も別宅と本件建物を行き来していたが,別宅隣接店舗を経営している関係ややはり住み慣れたところがいいなどと言って,内妻はそのまま別宅に住んでいる。 イ水関係(ア) 水は止められていたが,三,四日に1回程度,車で5分程度のとこ ろにある湧き水に行き,4リットルのペットボトルに四,五本汲んできていた。汲んできた水は,流しの下に置いておき,煮炊き,洗い物に使った。飲料水は,4リットルのペットボトルから500ミリリットルのペットボトル2本に移し替えて冷蔵庫に入れていた。 (イ) 洗濯については,水道屋で長らく働いた知人から いておき,煮炊き,洗い物に使った。飲料水は,4リットルのペットボトルから500ミリリットルのペットボトル2本に移し替えて冷蔵庫に入れていた。 (イ) 洗濯については,水道屋で長らく働いた知人から水道の開栓方法を教わり,自分で開栓し,無断で水を使用していた。汲んできた湧き水を使ったりもした。洗濯は,月に一,二回,下着を洗濯する程度だった。 (ウ) トイレは,パチンコ店にいる間はパチンコ店で,帰宅後は屋外で用を足していた。 (エ) 風呂は,元々ボイラーが故障していたので,週に二,三回程度銭湯に行っていた。 ウガス関係風呂は上記のとおり銭湯に行っていた。調理に関しては,米は炊飯器で炊いていたし,その他の煮炊きは,携帯用コンロにガスボンベを入れてやっていた。 (2) 認定事実ク~サ,ス,セ,ツ,ト,ニのとおり,本件火災共済契約の締結の前日(平成20年3月11日)に本件建物のガス,水道の供給が停止され,本件火災までその状態が継続しており,平成16年4月から平成20年3月11日までの間に,ガスについては,平成16年8月末から平成19年10月までの約3年間供給が停止されており,水道については,供給の停止・再開が繰り返されており,合計で1年超の間供給が停止されている。 また,証拠(乙2,乙3,乙9)によれば,平成16年4月から平成20年3月11日までの本件建物の水道使用量が約4年間で合計56㎥であること,同期間の本件建物のガス使用量が合計3㎥であること,これに対して別宅における平成16年から本件火災までの水道使用量は1か月当た り概ね15㎥を超えていること,1か月での1人当たりの平均使用水量につき7.5㎥~10㎥という統計があることが認められる。 これらに加えて,(1)アのとおり,原告自身,本件建物での滞在日 り概ね15㎥を超えていること,1か月での1人当たりの平均使用水量につき7.5㎥~10㎥という統計があることが認められる。 これらに加えて,(1)アのとおり,原告自身,本件建物での滞在日数につき月に1週間~10日位と供述していることからしても,原告の本件建物での居住実態が希薄であることは被告の指摘するとおりである。 (3) しかしながら,電気については,平成16年4月からガスと水道が最後に供給停止となった平成20年3月11日以降も本件火災まで供給されており,本件火災時にも通電状態であったこと(認定事実(2)ク,ニ,(4)エ),本件建物内にあった家具・家電製品(ストーブ,テレビ,布団,炊飯器,洗濯機,冷蔵庫,ソファー)及びそれらの状況(甲9,乙13),平成20年3月11日の水道の供給停止から平成21年9月までの間に約2㎥の水道水が使用されており(認定事実(2)ニ,モ),本件建物の解体業者が解体時の使用を否定するなど(甲14),原告以外の者が使用したことはうかがわれず,原告に水道の開栓方法を教え,開栓に必要な特殊な工具を貸したという知人の陳述書(甲18)も提出されていること,原告が本件建物における生活状況に関する裏付けとして知人の陳述書(甲16,甲17),湧き水に関する資料(甲19~甲25),本件建物宛の郵便物(甲27,原告本人)を提出しており,自動車の保有状況も前記のとおりであること(認定事実(2)シ,ナ,ネ)などによれば,前記(1)の原告の供述を排斥することは困難である。 (4) そうすると,原告の本件建物での居住実態が希薄であることは否めないものの,本件火災共済契約時,原告が本件建物に居住していなかったとまでは評価できず,したがって,本件火災共済契約が無効であるとの被告の主張は採用できない。 3 争点(2)(本 であることは否めないものの,本件火災共済契約時,原告が本件建物に居住していなかったとまでは評価できず,したがって,本件火災共済契約が無効であるとの被告の主張は採用できない。 3 争点(2)(本件火災が原告の故意により生じたものか否か)(1) 火災の原因が放火と認められるか ア出火箇所及び出火原因(ア) 当裁判所の認定認定事実(4)ア,イ,(6)のとおり,北側ソファー周辺が強く焼損し,その直上の天井裏及び2階の床板が焼け抜けていること,テレビの背面の壁には同ソファー側から斜め上に上がる焼損痕があり,同ソファー側からの波及延焼がうかがわれること,同ソファーをみると殆ど原形を留めておらず,特に東側背面の焼損が強く,その箇所から26μg/gの灯油に相当する油性成分が検出されていることなどを総合すると,本件火災は,同ソファーの東側背面付近から出火したものと認めるのが相当である。 また,通常,ソファーの背もたれから灯油に相当する油性成分が検出されるはずがなく,当該箇所が最も強く焼損していることからしても,本件火災は,灯油を用いて人為的に招致されたものと推認するのが相当である。 (イ) 火災原因判定書の記載についてこれに対し,原告は,N地区消防本部予防課所属の消防士長M作成の平成21年2月12日付け火災原因判定書(甲5。以下「本件判定書」という。)が,出火箇所につき,ストーブ北東側の和室と居間の間付近と判定した上で,出火原因につき不明としながら,原告の洗濯物を干していたという供述,ストーブの周辺にハンガーの溶融痕や衣類の残焼物があったこと,ストーブ北東側の敷居が炭化していることから,ストーブの上に干してあった洗濯物が何らかの原因で落下し,ストーブに接触して着火,延焼した可能性が十分に考えられるとしている や衣類の残焼物があったこと,ストーブ北東側の敷居が炭化していることから,ストーブの上に干してあった洗濯物が何らかの原因で落下し,ストーブに接触して着火,延焼した可能性が十分に考えられるとしていることを指摘する。 しかしながら,前示判断のとおり,本件建物の焼損状況は,北側ソファー東側背面付近からの出火を示唆している上,認定事実(4)ウのとお り,本件ストーブ自体には顕著な破損,変形はなく,天板にも衣類等の残焼物の癒着はないのであり,ストーブの周辺にあった衣類残焼物の下の敷居も殆ど未焼損である(そうすると当該衣類残焼物は燃焼した状態で落下したものではなく,落下後,延焼したものと考えられる。)など本件判定書の指摘する出火原因と整合しない事情も存する。 これに,認定事実(7)の燃焼実験の結果を合わせ考慮すれば,本件判定書が指摘するストーブからの上記機序での出火の可能性は,実際上殆ど存しないというべきである。 そもそも,N地区消防本部の調査では,油性成分に関する分析はされておらず,北側ソファーの東側背面から灯油に相当する成分が検出されたことは前提とされていないことに留意する必要がある。 してみれば,本件判定書の記載は,上記の当裁判所の認定に影響するものではない。 (ウ) 灯油に相当する成分が検出されたことについてa 本件火災後付着した可能性この点,原告は,N警察署の警察官が北側ソファーにつき運び出す際に灯油の付いた手袋で警察官なり,消防署員が触ったことも考えられると述べていることを指摘する。 しかしながら,最も強く焼損している箇所から灯油に相当する油性成分が検出されていること自体,灯油が用いられ人為的にその箇所から出火したことを強く推認させるものである。 そのような箇所に上記のような事情で偶々 ら,最も強く焼損している箇所から灯油に相当する油性成分が検出されていること自体,灯油が用いられ人為的にその箇所から出火したことを強く推認させるものである。 そのような箇所に上記のような事情で偶々灯油が付着したというのは,偶然として出来過ぎているし,部位からしても運び出す際に特に持つ必然性がある部分とも思われない。 また,消防署員及び警察官が,出火原因が明瞭ではない事案において,一見して触ると灯油が付着すると思われるような物(例えば,灯 油ポリタンク,ストーブなど)を触った後,同じ手袋で火災現場の他の物品に触れて回るとは考えにくい。 これらによれば,原告が指摘するような事情で本件火災後偶然灯油が付着したものとは考えにくく,上記原告の指摘は,上記(ア)の当裁判所の認定に影響するものではない。 b 検出量原告は,検出された灯油に相当する成分の量が微量であり,これでは灯油を撒いたとはいえないと指摘する。 しかしながら,放火であるからといって,必ずしも大量の灯油が使用されるとは限らない。仮に,保険金取得目的で放火する場合,自然発火ないし火の不始末に見せかけるためにわずかな量の灯油しか用いないということも十分あり得る。むしろ,焼損の激しい箇所から微量でも灯油に相当する油性成分が検出されたこと自体が重要である。 また,Lによる試料の採取は,前記のような事情で,本件火災から7か月以上経った時点でされており,灯油は揮発性の高い物質であることからすれば,その間に,相当程度揮発してしまったことが容易に推測される(そもそも,本件火災自体によって,大部分揮発してしまっている。)から,26μg/gという検出された灯油に相当する成分の量を微量と評価するのが相当か疑問である。 現に,火災現場 される(そもそも,本件火災自体によって,大部分揮発してしまっている。)から,26μg/gという検出された灯油に相当する成分の量を微量と評価するのが相当か疑問である。 現に,火災現場の出火元と考えられる箇所から灯油が検出された場合の検出量で,最も多かったのが,10~100μg/gが検出されたケースという統計データも存する(当裁判所に顕著な事実)。 これらによれば,検出された灯油に相当する成分の量は,上記(ア)の当裁判所の認定と十二分に整合するものといえる。 c 灯油ポリタンク原告は,本件火災発生当時,灯油の入ったポリタンクを1階廊下の 北側ソファーの後ろからテレビの後ろ辺りにかけて引き戸及び壁をはさんで置いていたと供述し,北側ソファーが強く焼損しており,そこから灯油に相当する成分が検出されたことについて,上記ポリタンク内の灯油が燃えて爆発した可能性を指摘する。 しかしながら,上記ポリタンク内の灯油が燃えて爆発したとすれば,上記ポリタンクを置いていたという場所に何らかの容器の痕跡やその場所を中心として四方八方にそのような爆発をうかがわせる所見が残るのが通常と考えられるが,本件の証拠を精査してもそのような痕跡や所見は見当たらない(例えば,乙10の添付資料1-2の写真第4号参照)。 そもそも,前示判断のとおり,ストーブからの出火の可能性は,実際上,殆ど存せず,後記のとおり,放火以外の出火原因の可能性も否定される以上,上記灯油ポリタンクに引火する火源は見当たらないことになる。 また,上記灯油ポリタンクの置き場所に関する原告の供述は,燃料の所在という極めて重要な事項である。それにもかかわらず,本件訴え提起後,北側ソファーが強く焼損し たらないことになる。 また,上記灯油ポリタンクの置き場所に関する原告の供述は,燃料の所在という極めて重要な事項である。それにもかかわらず,本件訴え提起後,北側ソファーが強く焼損しており,そこから灯油に相当する成分が検出されたとの被告の主張・立証がなされた後にされたものであって,本件口頭弁論に顕れた一切の資料を精査しても,それより前に原告が上記と同様の供述をしていた形跡はうかがわれず,供述経過が不可解である。 これらによれば,灯油ポリタンクの置き場所に関する上記原告の供述は採用することはできない。 イ放火以外の出火原因の可能性(ア) 電気関係北側ソファーの東側の居間のテレビは,殆ど原形を留めておらず,原 告によれば,テレビを付けたまま2階で寝入ってしまったとのことであるが,原告が就寝前まで見ていて,何らかの異常があったとの指摘もないし,本件建物の焼損状況からしてテレビからの波及延焼はうかがわれない。また,漏電遮断器が通電の位置になっていたことから,電気関係の出火原因は否定される。 (イ) たばこ原告自身たばこを吸わないと供述していることから否定される。 ウ放火の認定以上によれば,本件火災の原因は,放火と認められる。 (2) 放火について原告が関与したと認められるかア火災時の客観的状況等原告本人によれば,戸締まりはしていなかったというものの,1階の部屋の電気・テレビは付けていたとのことであるから,第三者が本件建物に侵入し,北側ソファーに放火するとは考えにくい状況である。また,原告本人は,怨恨について思い当たらないとも述べている。 そうすると,本件火災の原因が放火である あるから,第三者が本件建物に侵入し,北側ソファーに放火するとは考えにくい状況である。また,原告本人は,怨恨について思い当たらないとも述べている。 そうすると,本件火災の原因が放火である以上,それに原告が関与していることが強く推認されるというべきである。 イ原告の経済状態(ア) 証拠(甲29,甲30,乙17,原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すると,本件火災当時,原告には,認定事実(2)イの別宅の住宅ローンにつき1300万円超の残債務があり,毎月6万3000円程度支払っていたこと,認定事実(2)キのH協会に信用保証してもらったG銀行からの借入金につき187万円の残債務があり,毎月7万円弱程度支払っていたこと,平成15年から借り始めた消費者金融5社程からの借入金が合計500万円程度残っており,請求も受けていたことが認められ,これに,本件火災の数か月前にJ社から別宅隣接店舗及びその土地につ いて強制競売の申立てがされて差し押さえられ,本件火災当時,その競売手続が進行中であったこと(認定事実(2)ノ),本件火災当時,水道・ガスは使用料金未納のため供給停止された状態であり(認定事実(2)ニ),約49万円の税金の滞納もあったこと(認定事実(2)ハ)を合わせ考慮すると,原告の経済状態は,相当に困窮していたと認めるのが相当であり,放火の動機が認められる。 (イ) これに対し,原告は,本件火災当時,別宅の住宅ローンやG銀行からの借入れについては概ね順調に返済していたし,J社や消費者金融の債務については,踏み倒せると考えていたから,全く切羽詰まっていなかった旨主張する。 確かに,消費者金融からの借入れ,ライフラインの使用料金,税金などと比べて,別宅の住宅ローンや北都銀行からの借入れといった別 ると考えていたから,全く切羽詰まっていなかった旨主張する。 確かに,消費者金融からの借入れ,ライフラインの使用料金,税金などと比べて,別宅の住宅ローンや北都銀行からの借入れといった別宅,別宅隣接店舗に直接関わる支払が概ねしっかりされていたことが認められる。 しかしながら,それは,原告が他の支払よりも別宅や別宅隣接店舗に関する支払を優先させていた結果にほかならず,むしろ,そのような原告の姿勢からは,別宅や別宅隣接店舗の保有に関する強い執着がうかがわれ,これによれば,原告がJ社の競売申立てに相当うろたえていたことが推察される。 この点,原告は,本件火災当時,買受可能額が手続費用及び優先債権の合計額に満たない場合,競売手続が取り消されるという知識があったため,全く切迫感はなかったと主張するけれども,法律の専門家や不動産業者でもない原告にそのような知識があったとは,にわかに措信し難い。 また,原告が,消費者金融等からの借入れについて,踏み倒せるという考えの持ち主なのだとしても,少なくとも消費者金融から更なる借 入れが困難な状態であったことは確かであり,その意味で原告の経済的困窮度合いを示すものといえる。 ウ同種事故の経験認定事実(2)タのとおり,原告は,平成18年火災を受けて,従前火災共済契約に基づき,約380万円(うち借家人賠償責任特約共済金として182万7000円)の共済金の支払を受けたにもかかわらず,被告調査員のAからの事情聴取の結果(乙7)によれば,Aに対し,借家人賠償責任特約共済金につき28万円程度の支払しか受けていないかのように報告していたことがうかがわれる。 その上,原告は,自ら修理するということで,受け取った共済金をAに対して一切支払っていないこと 賠償責任特約共済金につき28万円程度の支払しか受けていないかのように報告していたことがうかがわれる。 その上,原告は,自ら修理するということで,受け取った共済金をAに対して一切支払っていないことを自認しているところ,認定事実(8)アによれば,原告が行った修理は,表面的な修理に留まり,それほど費用が掛かっていないことがうかがわれる。 これらによれば,原告は,平成18年火災によって,相当の経済的利益を得ていたことが推察される。また,上記のとおり原告がAに対して受け取った共済金の額を過少申告していたことがうかがわれること,ローソクを灯したまま外出したという原告が説明する態様の危険性(認定事実(8)イ),原告が平成18年火災による共済金を受け取った直後から,月額共済掛金の支払を怠り,従前火災共済契約を失効させたこと(認定事実(2)チ)など,平成18年火災には不審な点も存する。少なくとも,上記のとおり,原告が平成18年火災によって相当の経済的利益を得ていたことは,放火の動機を増強するものといえる。 エ本件火災共済契約締結に至る経緯及び本件火災前の原告の行動の不自然性,並びに平成18年火災及び本件火災共済契約締結と本件火災発生との時間的近接性原告は,平成18年火災による共済金を受け取った直後から,月額共済 掛金の支払を怠り,従前火災共済契約を失効させた(認定事実(2)チ)後,それから1年以上経って,使用料金の未納のため水道・ガスの供給が停止された翌日に本件火災共済契約を締結し,その後水道・ガスの供給は復旧させずに,本件火災共済契約の共済掛金の支払は継続しており,本件火災共済契約締結から約8か月,平成18年火災から2年程で本件火災に至っている。しかも,争点(1)で判示したとおりの居住実態の希薄性にもかかわらず, 火災共済契約の共済掛金の支払は継続しており,本件火災共済契約締結から約8か月,平成18年火災から2年程で本件火災に至っている。しかも,争点(1)で判示したとおりの居住実態の希薄性にもかかわらず,原告は,家財の共済金額につき,従前火災共済契約では600万円であった(認定事実(2)タ)ものを,本件火災共済契約では1000万円に増額している。 オ原告の主張について(ア) 原告は,① 所属するC組の組長であるAから本件建物に火災保険を掛けておくように指示されていたのであり,その指示は絶対である,② 本件建物は,C組の秋田県における拠点であり,その存在,そしてそこに原告が腰を据えて居住すること自体に重要な意味があったのであるから,C組の秋田県における責任者である原告が放火するはずがない,③ 本件建物の所有者は,Aであり,したがって借家人賠償責任特約共済金が支払われるのもAであって,原告ではないし,原告に支払われる可能性のある経済的利益は,被告の主張によれば,約480万円に留まる,④ 原告は,C組から,本件火災の制裁として除籍処分を受けたため,C組の看板を使用できず,露天商を営むことすらできなくなってしまうなど,本件火災により致命的な不利益を受けている,⑤ 認定事実(5)の本件火災直後の原告の説明のとおり,原告は,一歩間違えば焼死していたのであり,仮に放火したのであれば,自身に危険が及ばないように計画を立てるか,アリバイ作りのために出火時には本件建物にいないようにしたはずであるし,事前に貴重品を待避させるはずであるが,救出されたときジャージに外套を羽 織っただけで,靴も履いていなかった,⑥ ライフラインについては,自分なりに工夫して生活しており,水道・ガスを特に必要としていなかったから共済掛金の支払を優先させていたなど ージに外套を羽 織っただけで,靴も履いていなかった,⑥ ライフラインについては,自分なりに工夫して生活しており,水道・ガスを特に必要としていなかったから共済掛金の支払を優先させていたなどと主張している。 (イ) しかしながら,以下のとおり,上記(ア)の原告の各主張は,いずれも,放火への関与の認定に与える影響は小さいといえる。 a 上記(ア)の原告の主張①に関しては,原告は,平成18年火災による共済金を受け取った直後から,月額共済掛金の支払を怠り,従前火災共済契約を失効させているのであって,火災保険に関するAの指示を絶対と考えていたとは思われないし,最初に指示された以外にAから火災保険に関する指示がなかったことも自認している。 b 同原告の主張②に関しては,争点(1)で判示したとおりの原告の本件建物での居住実態の希薄性と整合しないし,当初想定していたよりも火災の規模が大きくなってしまったということも考えられる(後段については,後記c,d,eについてもいえる。)。 c 同原告の主張③に関しては,借家人賠償責任特約共済金の受取人は,Aではなく,被共済者である原告であり,第一次的に取得するのは原告である点で前提を欠いている。 また,原告は,本件訴えにおいて,3150万円を請求しており,仮にAに2000万円を支払ったとしても,原告の計算では残り1150万円を取得することになる。 さらに,弁論の全趣旨によれば,Aが原告に対して2000万円の損害賠償請求をする旨の書面を原告代理人に提出している(甲10)のは,本件火災について共済金の支払がスムーズにされずに,本件訴えに至ったことから,本件火災共済契約における借家人賠償責任特約共済金の満額である2000万円が支払われるよう,体裁を整えるための便宜的なものであることがうかがわれる。 スムーズにされずに,本件訴えに至ったことから,本件火災共済契約における借家人賠償責任特約共済金の満額である2000万円が支払われるよう,体裁を整えるための便宜的なものであることがうかがわれる。 実際,Aは,450万円で本件建物を取得した(認定事実(2)オ)のであり,共済金の支払がスムーズにされたならば,原告に対して2000万円の損害賠償請求をしたかは疑問である。 加えて,前記ウのとおり,原告は,平成18年火災の際には,Aに対し,受け取った共済金の額を過少申告し,自ら修理するということで一切支払っておらず,相当の経済的利益を得ていたことが推察されるのであって,本件火災についても,同様の手法を用いるつもりであったとも考えられる。 d 同原告の主張④に関しては,そもそも真偽を確かめる術がない。仮にそのような制裁を受けたのが事実であるとしても,共済金の支払がスムーズにされなかったことに対する制裁と考えても矛盾するものではない。また,原告自身,平成18年火災の際には,Aから特に制裁を受けていないことを自認している。 e 同原告の主張⑤に関しては,そもそも,本件火災の際,原告が本件建物の2階で寝入ってしまっていたかは定かでないし,本件火災後の行動,所持品,服装等は,火の不始末に見せかけるための演出と考えても矛盾しない。また,時限装置を用いるなどして着火時に本件建物にいないようにして放火し,アリバイ工作をするよりも,上記のように火の不始末に見せかけ,自らも危険な目に遭ったという方が疑われないと考えたとしても不自然ではない。 f 同原告の主張⑥に関しては,特に水道に関しては,知人から水道の開栓方法を教わり,無断で水を使用していたことを考慮しても,不便・面倒な生活を送っていたことは確かであり,経済 ではない。 f 同原告の主張⑥に関しては,特に水道に関しては,知人から水道の開栓方法を教わり,無断で水を使用していたことを考慮しても,不便・面倒な生活を送っていたことは確かであり,経済的な余裕があるのであれば,滞納料金を支払って供給を受けるはずであり,水道・ガスの使用料金未納による供給停止は,原告の経済的困窮度合いを示すもので,その復旧よりも本件火災共済契約の共済掛金の支払を優先させ ていたことはやはり不可解といわざるを得ない。 カ放火について請求者の関与の認定以上のとおり,本件火災の原因が放火である以上,火災の客観的状況それ自体から,放火に原告が関与していることが強く推認されるところ,これに原告の経済状態,同種事故により相当の経済的利益を得た経験があり,それについて不審な点もあること,本件火災共済契約締結に至る経緯等に不可解な点があることなどを加味すると,原告の主張する点を検討しても,放火について原告が関与したと認められる。 (3) したがって,本件火災は,原告の故意により生じたものと認められる。 4 よって,原告の請求はその余の点につき判断するまでもなく理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 秋田地方裁判所民事第一部 裁判官佐藤久貴
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