平成26年4月18日判決言渡平成24年(行ウ)第782号保険医登録不登録処分取消等請求事件 主文 1 本件訴えのうち,保険医登録の義務付けを求める部分を却下する。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 中国四国厚生局長が平成24年5月24日付けで原告に対してした原告の保険医登録をしない旨の処分を取り消す。 2 中国四国厚生局長は,原告に対し,健康保険法64条の保険医登録をせよ。 第2 事案の概要 1 本件は,歯科医師であり,過去に2回健康保険法に基づく保険医の登録取消処分を受けたことのある原告が,平成23年12月5日付けで保険医の登録を申請した(以下「本件申請」という。)ところ,中国四国厚生局長から,平成24年5月24日付けで原告を保険医として登録しない旨の処分を受けた(以下「本件処分」という。)ことについて,本件処分の前提となった通達の規定(下記2の(3))は合理性を欠き原告の職業選択の自由(憲法22条1項)を侵害するものであること,本件処分は同局長の裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用した違法なものであることなどを主張して,本件処分の取消しを求めるとともに,保険医の登録の義務付けを求める(以下「本件義務付けの訴え」という。)事案である。 2 関係法令等の定め本件の関係法令等は,別紙2記載のとおりである。 (1) 健康保険法72条1項は,保険医等は厚生労働省令で定めるところにより 健康保険の診療に当たらなければならない旨規定している。上記の厚生労働省令として,「保険医療機関及び保健医療養担当規則」(昭和32年4月30日厚生省令第15号。以下「療養担当規則」という。)が定められ,同規則は,保険医療機関が担当する療養 定している。上記の厚生労働省令として,「保険医療機関及び保健医療養担当規則」(昭和32年4月30日厚生省令第15号。以下「療養担当規則」という。)が定められ,同規則は,保険医療機関が担当する療養の給付は,被保険者等である患者の療養上妥当適切なものでなければならないこと(2条2項),保険医療機関は,その担当する療養の給付に関し,療養の給付に関する費用の請求及びその手続を適正に行わなければならないこと(2条の3,23条の2),健康保険事業の健全な運営を損なうことのないよう努めなければならないこと(2条の4)などを定めている。 そして,健康保険法81条1号は,保険医等が同法72条1項の規定に違反したときは,当該保険医等に係る登録を取り消すことができる旨定めている。 (2) 健康保険法71条2項1号は,申請者が保険医等の登録を取り消され,その取消しの日から5年を経過しない者であるときは,保険医等の登録をしないことができる旨規定している。また,同項4号は,同項1号ないし3号に掲げる場合のほか,申請者が,「保険医又は保険薬剤師として著しく不適当と認められる者であるとき」は,保険医等の登録をしないことができる旨規定している。 (3) 「国民健康保険法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法令の改正について」(平成10年7月27日付け厚生省老人保健福祉局長及び厚生省保険局長通知・老発第485号,保発第101号。以下「本件通知」という。 甲10)第1の5の(2)は,「保険医等の登録取消を二度以上重ねて受けたとき」に該当する保険医等については,「保険医又は保険薬剤師として著しく不適当と認むるものなるとき」として,地方社会保険医療協議会の議により保険医等の再登録を拒否することができる旨定めている(以下,本件通知第1の5の(2)の定めを「本件基 医又は保険薬剤師として著しく不適当と認むるものなるとき」として,地方社会保険医療協議会の議により保険医等の再登録を拒否することができる旨定めている(以下,本件通知第1の5の(2)の定めを「本件基準」という。)。 3 前提事実(当事者間に争いがないか,文中記載の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実)(1) 原告に係る2回の保険医登録取消処分等ア 1回目の登録と取消し(ア) 原告は,昭和47年5月,歯科医師の免許を取得し,同月31日,平成10年法律第109号による改正前の健康保険法(以下「改正前の健康保険法」という。)43条の5に基づいて保険医の登録を受けた(乙3)。 (イ) 広島県知事は,昭和55年5月1日,原告に対し,改正前の健康保険法43条の13に基づき,保険医の登録を取り消した(以下「1回目の登録取消処分」という。乙3)。 なお,同年当時の保険医の登録の取消しは,「社会保険医療担当者の監査について(昭和28年6月10日保発第46号各都道府県知事あて厚生省保険局長通知)」に基づいて運用されており,同通知の別紙「社会保険医療担当者監査要綱」の「6 監査後の処置 (一) 行政上の措置」の「(1) 指定取消(又は契約解除)」によれば,「(イ) 故意に不正又は不当な診療を行つたもの,(ロ) 故意に不正又は不当な報酬請求を行つたもの,(ハ) 重大なる過失により不正又は不当な診療をしばしば行つたもの又は(ニ) 重大なる過失により不正又は不当な報酬請求をしばしば行つたもの」のいずれか一つに該当するときは,指定の取消しをすることとされていたが(乙4),原告が上記のいずれの事由に該当する違反行為をしたのかについては,保存期限の経過により関係する書類が存在しないため,明らかではない(弁論の全趣旨) は,指定の取消しをすることとされていたが(乙4),原告が上記のいずれの事由に該当する違反行為をしたのかについては,保存期限の経過により関係する書類が存在しないため,明らかではない(弁論の全趣旨)。 イ 2回目の登録と取消し(ア) 原告は,昭和57年4月1日,保険医の再登録を受けた(乙3)。 (イ) 広島社会保険事務局長は,平成16年11月から,原告が勤務してい た医療法人A(以下「A」という。)に対する個別指導を行ったが,平成17年2月,診療内容及び診療報酬の請求内容に著しい不当が認められるとして,個別指導を中止して,監査を開始した。そして,同年3月22日から8月5日までの間,7回にわたり監査が行われたが,その後,原告は,同月8日,10日,12日に監査を行う旨の通知を受けたにもかかわらず,これに出席しなかった。また,Aは,同年12月28日,保険医療機関を廃止する旨の届出をした。そして,同事務局長は,原告に対する監査の結果,別紙3記載のとおりの事実が判明し,原告が健康保険法81条1号,2号及び3号の保険医の登録取消事由に該当することを理由として,平成18年1月17日,同月19日を取消年月日として保険医の登録を取り消した(以下「2回目の登録取消処分」という。 乙2,6,7)。 (ウ) 原告は,平成19年8月18日,2回目の登録取消処分の取消しを求めて東京地方裁判所に取消訴訟を提起した(以下「前回取消訴訟」という。乙7)。同裁判所は,平成23年4月7日に前回取消訴訟について請求棄却の判決を言い渡し,同判決は同月26日に確定した(乙8)。 (2) 本件処分に至る経緯ア先行申請と先行処分(ア) 原告は,平成23年1月19日,中国四国厚生局長に対し,健康保険法71条1項に基づき,保険医の登録を申請した。 (イ) (乙8)。 (2) 本件処分に至る経緯ア先行申請と先行処分(ア) 原告は,平成23年1月19日,中国四国厚生局長に対し,健康保険法71条1項に基づき,保険医の登録を申請した。 (イ) 厚生労働大臣から権限の委任を受けた中国四国厚生局長(健康保険法205条1項,健康保険法施行規則159条1項)は,平成23年1月31日,健康保険法83条に基づき,原告に対し,弁明通知書を送付して弁明の機会の付与を通知した。上記弁明通知書には,「予定される処分の内容」として,「平成23年1月19日にあった保険医登録申請に対して保険医の登録をしないこと。」,「根拠となる法令の条項」と して「健康保険法第71条第2項第4号」,「予定される処分の原因となる事実」として「昭和55年5月1日付及び平成18年1月19日付で保険医の登録を重ねて取り消されていることから,申請者が保険医として著しく不適当と認められる者であること。」と記載されていた。(乙10)(ウ) 原告は,同年2月18日,中国四国厚生局長に対し,弁明書を提出した(乙11)。 (エ) 中国四国厚生局長は,平成23年4月8日,中国地方社会保険医療協議会会長に対し,健康保険法71条3項に基づき,原告の保険医登録をしないことについて,同会の議決を求めた(乙12)。同会会長は,同月20日,中国四国厚生局長に対し,同会が原告の保険医登録をすべきでないものと議決した旨を報告した(乙13)。 (オ) 中国四国厚生局長は,平成23年4月27日,原告に対し,原告を保険医として登録しないとの決定(以下「先行処分」という。)をし,その頃,その旨を原告に通知した。 イ本件申請と本件処分(ア) 原告は,平成23年12月5日,中国四国厚生局長に対し,再度,健康保険法71条1項に基づき,保険医の登録を申 分」という。)をし,その頃,その旨を原告に通知した。 イ本件申請と本件処分(ア) 原告は,平成23年12月5日,中国四国厚生局長に対し,再度,健康保険法71条1項に基づき,保険医の登録を申請した(本件申請)。 (イ) 中国四国厚生局長は,平成24年1月17日,健康保険法83条に基づき,原告に対し,弁明通知書を送付して弁明の機会の付与を通知した。上記弁明通知書(以下「本件弁明通知書」という。)には,「予定される処分の内容」として,「平成23年12月5日にあった保険医登録申請に対して保険医の登録をしないこと。」,「根拠となる法令の条項」として「健康保険法第71条第2項第4号」,「予定される処分の原因となる事実」として「昭和55年5月1日付及び平成18年1月19日付で保険医の登録を重ねて取り消されていることから,申請者が保 険医として著しく不適当と認められる者であること。」と記載されていた。 (ウ) 原告は,平成24年2月13日,中国四国厚生局長に対し,弁明書を提出した。 (エ) 中国四国厚生局長は,平成24年5月8日,中国地方社会保険医療協議会会長に対し,健康保険法71条3項に基づき,原告の保険医登録をしないことについて,同会の議決を求めた(乙15)。同会会長は,同月22日,中国四国厚生局長に対し,同会が原告の保険医登録をすべきでないものと議決した旨報告した(乙16)。 (オ) 中国四国厚生局長は,平成24年5月24日,原告に対し,原告を保険医として登録しないとの決定(本件処分)をし,その頃,その旨を原告に通知した。本件処分に係る通知書(以下「本件処分通知書」という。甲1)には,本件処分の理由として,「保険医として著しく不適当と認められ,健康保険法第71条第2項第4号の規定に該当するため。」と記載されていた。 に係る通知書(以下「本件処分通知書」という。甲1)には,本件処分の理由として,「保険医として著しく不適当と認められ,健康保険法第71条第2項第4号の規定に該当するため。」と記載されていた。 ウ本件訴訟の提起原告は,平成24年11月15日,本件訴訟を提起した(当裁判所に顕著な事実)。 4 争点及び争点に関する当事者の主張本件の主たる争点は,①本件基準の内容とその合理性及び合憲性(争点(1)),②本件処分に処分理由の差し替え,平等原則違反等の違法があるか否か(争点(2)),③本件処分が裁量権を逸脱,濫用したものであるか否か(争点(3))であり,各争点についての当事者の主張の概要は以下のとおりである。 (1) 本件基準の内容とその合理性及び合憲性(争点(1))について(原告の主張)ア本件基準の内容及びその不合理性 本件弁明通知書において,「予定される処分の原因となる事実」として「昭和55年5月1日付及び平成18年1月19日付で保険医の登録を重ねて取り消されていることから,申請者が保険医として著しく不適当と認められる者であること。」と記載されていたことからすれば,本件処分は,原告が本件基準に該当することを理由としてされたものである。 しかるに,本件基準は,「保険医等の登録取消を二度以上重ねて受けた」という場合に何らの例外もなく保険医等として著しく不適当と認められるとして保険医等の登録をしないとする内容のものであり,極めて形式的で,法71条2項4号の趣旨を逸脱し,合理性のない基準であって違法である。 また,本件基準によれば,再度の登録はあり得ず,2度取消しを受けた者は保険医としての活動が全くできなくなってしまうところ,我が国においては,保険医資格が歯科医師としての生存の権利, って違法である。 また,本件基準によれば,再度の登録はあり得ず,2度取消しを受けた者は保険医としての活動が全くできなくなってしまうところ,我が国においては,保険医資格が歯科医師としての生存の権利,医業の自由に直結することに鑑みると,目的に対する合理的な規制の範囲を明らかに逸脱している。そして,本件基準は,申請者の保険医登録申請の事情や目的などの具体的な事情を考慮することができるとされておらず,何ら例外は設けられていない。例外のない基準は裁量基準としての合理性を欠き無効である。 イ本件基準の違憲性(ア) 保険医の登録を受ける権利医師は,良心に従って患者に必要な医療を施し,また,自己の学問研究・臨床の成果としての診療を実施する利益を有するものであり,このような医師の診療行為についての権利(診療権)は,医師としての職業選択・遂行の自由として憲法22条1項によって保障されているといえる。そして,我が国の国民皆保険制度の下においては,患者が最初から健康保険が適用されない医師の診療を受けることはあり得ず,保険医資格を得ることは医師の診療権の実現にとって不可欠であるから,保険医の指定を受けて保険診療をする権利も,憲法22条1項によって保障さ れているというべきである。 (イ) 違憲審査基準保険医登録がされなければ保険医として活動できない点において,保険医登録制度は一般的にいう許可制であり,保険医不登録が医師の診療権を侵害し,職業選択の自由を強力に制限するものであることからすれば,保険医不登録処分についての合憲性判断基準としては,薬事法違憲判決(最高裁昭和50年4月30日大法廷判決・民集第29巻4号572頁)が参照されるべきである。すなわち,許可制は,職業活動の内容及び態様に対する 録処分についての合憲性判断基準としては,薬事法違憲判決(最高裁昭和50年4月30日大法廷判決・民集第29巻4号572頁)が参照されるべきである。すなわち,許可制は,職業活動の内容及び態様に対する規制を超えて,職業選択の自由そのものに制約を課すもので,職業の自由に対する強力な制限であるから,その合憲性を肯定するためには,原則として,重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要し,また,それが社会政策ないしは経済政策上の積極的な目的のための措置ではなく,自由な職業活動が社会公共に対してもたらす弊害を防止するための消極的,警察的措置である場合には,許可制に比べて職業の自由に対するより緩やかな制限である職業活動の内容及び態様に対する規制によっては上記の目的を十分に達成することができないと認められることを要するものというべきである。 (ウ) 本件に対するあてはめ本件基準による権利制限の目的は,健康保険制度の適正化にあるところ,この適正化とは,健康保険の診療又は調剤を行う場合に療養担当規則等の法規が定める一定の診療方針を保険医等に遵守させ,遵守しなかった保険医等にペナルティを与えるというもので,これは,規則を守らせるという消極的,警察的な目的のための規制であって,政策的な規制であるとはいえない。 そうすると,より緩やかな制限である職業活動の内容及び態様に対する規制によっては健康保険制度の適正の確保という目的を十分に達成す ることができないと認められることが,本件基準の憲法適合性の要件として必要である。 ところで,健康保険法において,保険医は,健康保険の診療に関し厚生労働大臣の指導を受けなければならないこととされ(同法73条1項),厚生労働大臣は,保険医に対して報告若しくは である。 ところで,健康保険法において,保険医は,健康保険の診療に関し厚生労働大臣の指導を受けなければならないこととされ(同法73条1項),厚生労働大臣は,保険医に対して報告若しくは診療録その他の帳簿書類の提出若しくは提示を命じ,出頭を求め又は職員に関係者に対して質問させ,職員は診療録や帳簿書類その他の物件を検査することができるとされている(同法78条1項)。 そして,2度以上重ねて保険医登録を取り消された医師等について,不適切な保険診療又は保険請求が行われることを防止するためには,本件基準のように保険医登録を一切認めないという方法を採らなくても,保険医登録を認めた上で上記の指導や監査を行うという,より制限的でない方法を採れば足りる。 (エ) 小括したがって,本件基準及びこれに基づく本件処分は,違憲である。 (被告の主張)ア本件基準の内容及びその合理性保険医等の登録取消しを2度以上受けた場合とは,健康保険法81条各号に定める登録取消事由に該当する行為を2度にわたって行い,しかも,それを理由に登録取消しという重い処分を複数回受けたことを意味するのであって,そのような者が療養担当規則等を遵守し,健康保険制度の適正化を図るなどということは,もはや類型的に期待できないといわざるを得ない。本件基準は,健康保険法ないし健康保険関係法規が確保しようとする給付内容及び費用負担の適正化等を大きく損なう蓋然性が高い場合を類型化したものといえるのであって,厚生労働大臣等が,保険医の登録を申請した医師等につき,本件基準に該当する違反があった場合に類型的に保 険医として医療保険という公益的業務を担う者として不適任であると判断することも,健康保険制度の趣旨・目的に照らし 登録を申請した医師等につき,本件基準に該当する違反があった場合に類型的に保 険医として医療保険という公益的業務を担う者として不適任であると判断することも,健康保険制度の趣旨・目的に照らして合理的なものというべきであり,特段の事情がない限り,裁量権の逸脱があったと認められないことになるというべきである。 イ本件処分の合憲性(ア) 保険医の登録を受ける権利について憲法22条1項の職業選択の自由は,医師国家試験に合格し,厚生労働大臣の免許を受けることで医師になることができるとされていることで保障されているところ(医師法2条),健康保険制度は,憲法25条が定める国民の生存権を保障するための一施策であって,保険医となることや保険医としての営業活動を保障する制度ではない。 すなわち,健康保険法は,労働者の業務外の事由による疾病等に関して保険給付を行い,もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とするところ(同法1条),これは,国民の傷病等に対する療養の給付を保険を通じて行い,その財源を保険料の拠出と国庫の負担をもって賄おうとする社会(医療)保険制度の一施策として位置付けられるものである。健康保険制度の上記のような性格,殊に,これが医療保険制度の基本をなすものであることに鑑み,健康保険法は,給付の内容及び費用の負担の適正化並びに国民が受ける医療の質の向上を図りつつ実施されることを基本理念とし(同法2条),保険医等に対しては,厚生労働省令(療養担当規則)の定めるところに従い診療等をなすべきことを義務付けている(同法72条1項)。 このように,健康保険制度は,国民に対する適正な保険医療給付を通じて国民の生活の安定と福祉の向上を目指すものであり,保険医等はその担い手と きことを義務付けている(同法72条1項)。 このように,健康保険制度は,国民に対する適正な保険医療給付を通じて国民の生活の安定と福祉の向上を目指すものであり,保険医等はその担い手として一定の責務を課される立場に置かれていることから,保険医等の指定は,医師等であることから無条件に,かつ,行政庁による 一方的な処分としてなされるものではなく,飽くまで公法上の契約として行われるものであり,保険医の登録を受ける地位も,上記のような健康保険制度の趣旨の範囲内で法定された条件に基づき設定された契約上の地位にすぎない。 そうすると,このような性格を有する保険医の登録を受ける地位をもって,憲法上医師の資格を有する者に当然付与されるべき基本的人権とみることは困難であって,憲法22条1項は,医師に対し保険医に登録される地位まで保障しているものではないと解するのが相当である。 (イ) 健康保険法71条2項4号及びこれに基づく本件処分の合憲性に係る違憲審査基準憲法は,全体として,福祉国家的理想のもとに,社会経済の均衡のとれた調和的発展を企図しており,その見地から,国の責務として積極的な社会経済政策の実施を予定しているものということができる。このため,個人の経済活動の自由に関する限り,社会経済政策の実施の一手段として,これに一定の合理的規制措置を講ずることは,もともと,憲法が予定し,かつ,許容するところと解するのが相当である。 そして,憲法25条が定める国民の生存権を保障するための一施策である健康保険制度について,健康保険制度ないし保険医等の登録制度がいかにあるべきかは,健康保険の運営の効率化,医療費の適正化及び医療の質の向上等(健康保険法2条),様々な要素を総合的に考慮しなければな 健康保険制度について,健康保険制度ないし保険医等の登録制度がいかにあるべきかは,健康保険の運営の効率化,医療費の適正化及び医療の質の向上等(健康保険法2条),様々な要素を総合的に考慮しなければならないものであるところ,このような社会保険分野の立法においては,国の財政事情とも無関係ではなく,また,多方面にわたる複雑多様な,しかも高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とする。このため,具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は,立法府の広い裁量に委ねられているといえるから,立法府がその裁量権を逸脱し,当該法的規制措置が著しく不合理であることが明白であ る場合に限って,これを違憲としてその効力を否定することができると解するのが相当である(最高裁昭和47年11月22日大法廷判決・刑集26巻9号586頁参照)。 (ウ) 本件に対するあてはめ① 規制目的の合理性健康保険法においては,健康保険の運営の効率化,医療費の適正化及び医療の質の向上の観点から健康保険制度を設計,実施すべきことが求められているところ(同法2条),同法は,これを実現するために,療養担当規則を遵守して療養の給付を行うことを承諾する旨の意思表示を行った者のみを保険医等として登録し,その登録をした者のみが保険医療機関等で健康保険の診療又は調剤に従事できることとして,保険医療機関の指定とは別に保険医の登録制度を設けることによって,診療の独立の下においても,医師等に療養担当規則等を遵守させる制度を採用しているものである。そして,このような制度の適正な運用を担保するために,同法は,保険医等が,療養担当規則等に定められた一定の診療方針を遵守しなかった場合など健康保険法の目的や基本理念に反する行為を行った場合には,その して,このような制度の適正な運用を担保するために,同法は,保険医等が,療養担当規則等に定められた一定の診療方針を遵守しなかった場合など健康保険法の目的や基本理念に反する行為を行った場合には,その登録を取り消して,健康保険の診療等に従事できないようにした上で(同法81条各号),保険医の登録を拒否できることとしたものである(同法71条2項各号)。 このように,健康保険法が,保険医等の登録取消処分を受けた場合等に保険医等の登録を拒否できることとしたのは,給付内容や費用の適正化といった健康保険制度自体の適正化を図り,もって国民の生活の安定と福祉の向上(同法1条)を図ることを目的とするものであり,その目的には合理性がある。 ② 手段の必要性と合理性保険医等の登録取消しを二度以上重ねて受けた場合とは,健康保険 法81条各号に定める登録取消事由に該当する行為を2度にわたって行い,しかも,それを理由に登録取消しという重い処分を複数回受けた場合であって,療養担当規則等を遵守し,健康保険制度の適正化を図ることが,もはや類型的に期待できない場合であるから,このような場合に,医療保険という公益的業務を担う保険医として不適任と判断し,登録を拒否することには,合理性がある。かえって,このような場合にも,5年間が経過すれば,何度でも保険医として登録され,保険医として診療に従事できるというのであれば,健康保険制度の適正化が図れないばかりか,保険料等の負担者である国民の健康保険制度に対する信頼が失われ,健康保険制度自体の存続を危うくすることは明らかであるから,保険医等の登録取消しを二度以上重ねて受けた者について,「著しく不適当と認められる者」として登録を拒否することには必要性がある。 以上によれ 存続を危うくすることは明らかであるから,保険医等の登録取消しを二度以上重ねて受けた者について,「著しく不適当と認められる者」として登録を拒否することには必要性がある。 以上によれば,保険医等の登録取消しを二度以上重ねて受けた場合に,保険医等の登録を拒否することは,健康保険制度の適正化やこれに対する国民の信頼を維持するという目的を実現するために必要かつ合理的な手段である。 ③ 小括したがって,保険医等の登録取消しを二度以上重ねて受けた場合に,保険医等の登録を拒否することには,必要性と合理性があるのであって,このように解釈される健康保険法71条2項4号は,立法府の裁量を逸脱し,著しく不合理であることが明白であるとはいえないから,憲法22条1項に反しないし,これに基づいてされた本件処分もまた,憲法22条1項に反しない。 (2) 本件処分に処分理由の差し替え,平等原則違反等の違法があるか否か(争点(2))について (原告の主張)ア本件処分における考慮事項は本件基準のみであり,被告の主張は,違法な処分理由の差し替えに当たること被告は,本件処分が,本件基準に該当することに加え,2回目の登録取消処分に係る原告の一切の情況を考慮してされたものであると主張する。 しかし,本件処分の判断過程において,2回目の登録取消処分に係る原告の一切の情況が考慮された事情は認められない。 すなわち,行政手続法30条2号は,弁明通知書には処分の原因となる事実も記載しなければならない旨規定しているところ,本件弁明通知書には,「予定される処分の原因となる事実」として「昭和55年5月1日付及び平成18年1月19日付で保険医の登録を重ねて取り消されていることから しなければならない旨規定しているところ,本件弁明通知書には,「予定される処分の原因となる事実」として「昭和55年5月1日付及び平成18年1月19日付で保険医の登録を重ねて取り消されていることから,申請者が保険医として著しく不適当と認められる者であること。」と記載されているのみであり,2回目の登録取消処分に係る原告の一切の情況については,何ら記載されていない。 また,行政手続法14条は,不利益処分の理由の提示を規定しているところ,本件処分通知書には,本件処分の理由として,「保険医として著しく不適当と認められ,健康保険法第71条第2項第4号の規定に該当するため。」と記載されているのみであり,2回目の登録取消処分に係る原告の一切の情況については,何ら記載されていない。 さらに,中国地方社会保険医療協議会の審議依頼及び審議結果においても,2回目の登録取消処分に係る原告の一切の情況が考慮されたことはうかがわれない。 したがって,本件処分が2回目の登録取消処分に係る原告の一切の情況を考慮してされたものである旨の被告の主張は,処分理由の違法な差し替えであって許されない。 イ本件処分には,本件基準以外の事情を考慮した違法があること 本件基準は,行政手続法12条1項の処分基準であるところ,本件基準には,登録取消処分に係る一切の情況を考慮してよいとは何ら定められておらず,このような情況を考慮する運用もこれまでされていなかった。 したがって,仮に,被告が主張するとおり,本件基準に定めのない2回目の登録取消処分に係る原告の一切の情況を考慮して本件処分が行われたとすれば,本件処分は,本件基準及び平等原則に反し違法である。 (被告の主張)ア処分理由の差し替えには当たらないこと 回目の登録取消処分に係る原告の一切の情況を考慮して本件処分が行われたとすれば,本件処分は,本件基準及び平等原則に反し違法である。 (被告の主張)ア処分理由の差し替えには当たらないこと本件処分は,本件基準に該当することに加え,健康保険法の趣旨や従前の原告の情況等を総合的に考慮してなされたものであるところ,具体的には,1回目の登録取消処分及び2回目の登録取消処分がされたという形式的な事実のみならず,原告が,2回目の登録取消処分に先立つ個別指導や監査において,不出頭や監査拒否とみなされる行為に及ぶなど,これらに協力する姿勢を示そうとせず,不正請求に対する真摯な反省の態度が全く認められなかったこと等,2回目の登録取消処分に係る原告の一切の情況を考慮してされたものである。 したがって,本件処分の理由は,本件訴訟における被告の主張と何ら齟齬するものではなく,違法な処分理由の差し替えには当たらない。 イ原告の従前の情況は弁明手続における審理の対象となっていたこと行政手続法30条に基づく弁明通知書は,処分の名宛人の攻撃・防御権を弁明手続に入る前の早い段階で十分に保障し,かつ不意打ちを防止するために,不利益処分の名宛人に対して送付されるものであり,「処分の原因となる事実」は,不利益処分の名宛人となるべき者にとって具体的事実が認識され,その防御権の行使を妨げない程度に記載されていればよいとされるところ,健康保険法83条に基づく弁明通知書も,上記と同様に解される。 そして,上記アの本件処分の理由となった事実が本件処分の基礎となることは,本件弁明通知書の「予定される処分の原因となる事実」欄に「平成18年1月19日付で保険医の登録を重ねて取り消されていることから,申請者が保険医として著しく不適当 た事実が本件処分の基礎となることは,本件弁明通知書の「予定される処分の原因となる事実」欄に「平成18年1月19日付で保険医の登録を重ねて取り消されていることから,申請者が保険医として著しく不適当と認められる者であること」として,対象となる取消処分を特定して記載されていることで,原告において具体的事実を認識することが可能であり,また,このように解しても,原告の攻撃防御に支障を来し,不意打ちとなるものではない。 したがって,2回目の登録取消処分に係る上記原告の対応等一切の情況は,弁明手続における審理の対象となっていたといえるのであって,本件処分は,弁明手続において審理の対象とされていない事実を考慮してされたものではない。 (3) 本件処分が裁量権を逸脱,濫用したものであるか否か(争点(3))について(原告の主張)原告が本件申請をしたのは,70歳以上の住民が39%を占めるなど高齢化が進み,過疎地区で歯科医師数が不足している広島県廿日市市α地区(以下「本件地区」という。)での歯科医院開業を目的としたためである。原告は,先に開設していた広島市内の歯科医院の事業を手放し,本件地区に歯科医院の建物と設備を準備したが,高齢者への医療提供のためには,保険診療が不可欠であり,そのためには保険医資格がどうしても必要である。 処分行政庁は,このような保険医登録を認めるべき特段の事情を何ら考慮することなく,本件基準を機械的に適用して不合理な本件処分を行っており,本件処分は,考慮されるべき事項が考慮されていない点において,健康保険法71条における厚生労働大臣の裁量権を逸脱,濫用した違法なものである。 (被告の主張)本件地区における歯科医院開業という原告の本件申請の動機は,弁明書にも 記載されており 法71条における厚生労働大臣の裁量権を逸脱,濫用した違法なものである。 (被告の主張)本件地区における歯科医院開業という原告の本件申請の動機は,弁明書にも 記載されており,中国四国厚生局長は,上記動機をも考慮した上で,それでもなお,原告が保険医として著しく不適当と認められる者であると判断したものである。 また,健康保険法71条2項柱書き及び同項4号の規定ぶりからすれば,厚生労働大臣等は,保険医等の登録について要件裁量及び効果裁量を有しているところ,健康保険法上,上記のような申請の動機によって厚生労働大臣等の裁量権が制約される旨の規定はないことから,原告の上記申請の動機を考慮してもなお,原告が保険医として著しく不適当と認められる者であると判断した中国四国厚生局長の判断が,直ちに裁量権の逸脱又は濫用となるものではない。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(本件基準の内容とその合理性及び合憲性)について(1) 本件基準の内容についてア原告は,本件処分は本件基準に該当することを理由としてされたものであるところ,本件基準は,「保険医等の登録取消を二度以上重ねて受けた」という理由のみで,何らの例外もなく保険医等として著しく不適当と認められるとして保険医等の登録をしないとする内容のものであり,極めて形式的で,合理性がない旨主張する。 そこで,本件基準の内容についてまず検討する。 イ健康保険法71条2項は,保険医の登録をしないことができる場合として,①申請者が登録を取り消され,取消しの日から5年を経過しない場合(同項1号),②申請者が健康保険法その他国民の保健医療に関する法律で政令で定めるものの規定により罰金の刑に処せられた場合(同項2号),③申請者が禁錮以上の刑に処せられた場合( 5年を経過しない場合(同項1号),②申請者が健康保険法その他国民の保健医療に関する法律で政令で定めるものの規定により罰金の刑に処せられた場合(同項2号),③申請者が禁錮以上の刑に処せられた場合(同項3号)を列挙するほか,同項4号において,「前三号のほか,申請者が,保険医又は保険薬剤師として著しく不適当と認められる者であるとき。」と規定しているところ, 同項4号につき,いかなる場合に「著しく不適当と認められる」かについては具体的に定めていない。このような同項の規定ぶり及び同項4号の文言からすると,同項4号は,同項1号ないし3号に該当しない場合であっても,健康保険法の趣旨・目的に照らして保険医等の登録を認めるべきではないことがあることを明らかにした上,厚生労働大臣又はその権限の委任を受けた地方厚生局長(以下両者を「厚生労働大臣等」という。)に対し,「著しく不適当と認められる」か否かの判断について要件裁量を付与しているものと解される。さらに,健康保険法71条2項柱書が「次の各号のいずれかに該当するときは,第六十四条の登録をしないことができる。」と定めていることに照らすと,同項は,厚生労働大臣等に対し,同項各号に該当する場合においても,保険医等の登録をするか否かについての効果裁量を付与しているものと解される。 また,本件通知第1の5は,同項4号の「著しく不適当と認められる」か否かについての取扱方針を定める通達であることが明らかであるところ,同通知が,「(1) 取消処分を逃れるために保険医等の登録を辞退し,その後しばらくして登録申請してきたとき」,又は「(2) 保険医等の登録取消を二度以上重ねて受けたとき」(本件基準)という事由が認められる場合において,「再登録を拒否することができるものであること。」と定めていることからすると, たとき」,又は「(2) 保険医等の登録取消を二度以上重ねて受けたとき」(本件基準)という事由が認められる場合において,「再登録を拒否することができるものであること。」と定めていることからすると,同通知の文言上,保険医等の登録をするか否かの効果裁量があることが前提とされているものと解される。そして,本件基準について,上記の効果裁量がないものとして運用されていることを認めるに足りる的確な証拠はない(なお,本件処分に関しては後記2(2)イで判示するとおりである。)。 以上の諸点を勘案すれば,本件通知第1の5が定める上記の各事由は,厚生労働大臣等が同項4号に基づく裁量判断を行うに当たり,極めて重要な考慮要素とすべきものとして列挙されているにすぎないと解することが 相当であり,本件通知について,本件基準を含む上記の各事由のいずれかが充足された場合には例外なく申請者を保険医等として「著しく不適当と認められる者」に該当するとする趣旨のものであると解することはできないし,上記の各事由以外の事由を考慮すべきではないとする趣旨であると解することもできない。 したがって,原告の上記主張は,その前提において採用することができない。 (2) 本件基準の合理性及び合憲性についてア原告は,本件基準に係る上記のような解釈を前提として,2度以上重ねて保険医登録を取り消された医師等について保険医登録を一切認めない本件基準は,医師等の職業選択・遂行の自由等を侵害するから,憲法22条1項に違反すると主張する。しかしながら,原告の上記主張は,上記(1)で判示したとおり,その前提となる本件基準の内容を誤るものであり,採用できない。 もっとも,原告の上記主張は,健康保険法71条2項4号にいう「著しく不適当と認められる者」の解釈に当たり,「保険医等の したとおり,その前提となる本件基準の内容を誤るものであり,採用できない。 もっとも,原告の上記主張は,健康保険法71条2項4号にいう「著しく不適当と認められる者」の解釈に当たり,「保険医等の登録取消を二度以上重ねて受けた」ことが極めて重要な考慮要素となるとする本件基準に依拠して,保険医の登録を拒否する処分(以下,このような意味で「本件基準に依拠した処分」という用語を用いることとする。)を行うことが,憲法22条1項に違反するとする趣旨であると善解することができるので,この点について検討する。 イ保険医の登録を受ける権利について原告は,本件基準に依拠した処分の違憲性を論ずる前提として,医師については,その診察行為についての権利が憲法22条1項が定める職業選択・遂行の自由として保障されていることに加え,さらに,我が国の国民皆保険制度の下においては,保険医資格を得ることが医師の診療権の実現 にとって不可欠であるから,保険医の登録を受けて保険診療をする権利も憲法22条1項により保障されていると主張する。 しかしながら,保険医の登録を受けて保険診療をする地位は,医療保険制度,すなわち,国民の傷病等に対する療養の給付を保険を通じて行い,その財源を保険料の拠出と国家の負担をもって賄おうとする制度に由来するものであって,医療保険制度の基本をなす健康保険制度を定める健康保険法に依拠してなされた公法上の契約に基づいて生じる地位にすぎない。 また,医療保険制度は,憲法25条が定める国民の生存権を保障するための一施策であるということができるが,保険医等は,同条との関係においては,生存権を享受すべき者としてではなく,同制度の担い手として一定の責務を課される者としての立場に置かれているにすぎない。これらの点からすると,保険医の登録を受 が,保険医等は,同条との関係においては,生存権を享受すべき者としてではなく,同制度の担い手として一定の責務を課される者としての立場に置かれているにすぎない。これらの点からすると,保険医の登録を受けて保険診療をする権利なるものが,医師の資格を有する者に対して憲法上当然に付与されるべき基本的人権であると解することは困難であるといわざるを得ない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 もっとも,医師の資格を有する者が,本件基準に準拠した処分を受けることにより保険医の登録を拒否されれば,医師としての職業活動の範囲が狭くなる結果を生じることは明らかであるから,その点に関して,職業選択の自由について定める憲法22条1項に違反するといえるかどうかにつき検討を要することになることは否定し難い。そこで,以下,この点について検討する。 ウ本件基準に依拠した処分の違憲性について(ア) 憲法22条1項は,狭義における職業選択の自由のみならず,職業活動の自由の保障をも包含しているものと解すべきであるが,職業の自由は,それ以外の憲法の保障する自由,殊にいわゆる精神的自由に比較して,公権力による規制の要請が強く,同項も,特に「公共の福祉に反 しない限り」という留保を付している。しかし,職業の自由に対する規制措置は事情に応じて各種各様の形をとるため,その憲法22条1項適合性を一律に論ずることはできず,具体的な規制措置について,規制の目的,必要性,内容,これによって制限される職業の自由の性質,内容及び制限の程度を検討し,これらを比較考量した上で慎重に決定されなければならないと解される(最高裁昭和47年11月22日大法廷判決・刑集26巻9号586頁,最高裁昭和50年4月30日大法廷判決・民集29巻4号572頁,最高裁平成4年12 した上で慎重に決定されなければならないと解される(最高裁昭和47年11月22日大法廷判決・刑集26巻9号586頁,最高裁昭和50年4月30日大法廷判決・民集29巻4号572頁,最高裁平成4年12月15日第三小法廷判決・民集46巻9号2829頁参照)。 (イ) 本件基準に依拠した処分の目的健康保険法は,疾病,負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行い,もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とし(同法1条),健康保険制度については,医療保険の運営の効率化,給付の内容及び費用の負担の適正化並びに医療の質の向上を総合的に図りつつ,同制度を設計,実施すべきである旨の基本的理念を定め(同法2条),これを実現するために,療養担当規則等を遵守して療養の給付を行うことを承諾した者のみを保険医等として登録し(同法71条1項,72条1項),その登録を受けた者のみが保険医療機関等において健康保険の診療又は調剤に従事できることとして(同法64条),医師又は歯科医師に療養担当規則等を遵守させる制度を採用している(同法72条1項)。そして,このような制度の適正な運用を担保するために,同法は,保険医等が,療養担当規則等に定められた一定の診療方針を遵守しなかったり,適正な費用の請求をしなかった場合など,健康保険法の目的や基本的理念に反する行為を行った場合には,その登録を取り消して,健康保険の診療等に従事できないようにした上で(同法81条各号),保険医等の登録取消処分を受けて一定期間を経過しない者や保険医等と して「著しく不適当と認められる者」などについて,保険医の登録を拒否できることとしている(同法71条2項各号)。 そうすると,健康保険法71条2項4号にいう「著しく不適当と認められる者」の解釈に当たり,「保険医等の登録 れる者」などについて,保険医の登録を拒否できることとしている(同法71条2項各号)。 そうすると,健康保険法71条2項4号にいう「著しく不適当と認められる者」の解釈に当たり,「保険医等の登録取消を二度以上重ねて受けた」ことが極めて重要な考慮要素となるとする本件基準に依拠して,保険医の登録を拒否する処分を行うことは,健康保険制度における給付内容や費用の適正化を図ること(同法2条)を目的とするものと解され,その目的は公共の福祉に合致するものであると認められる。 (ウ) 本件基準に依拠した処分の必要性健康保険法81条各号は,保険医の登録を取り消すことができる場合を定める。上記の登録の取消しは,「社会保険医療担当者の監査について」(乙4)や「保険医療機関等及び保険医等の指導及び監査について」(平成7年12月22日保発第117号厚生省保険局長通知)の別添2「監査要綱」(その後の通知で改正されたもの)(甲16)に従って行われてきたものであるところ,これらの監査要綱上,登録の取消しの措置がされる標準は,①故意に不正又は不当な診療を行ったもの,②故意に不正又は不当な報酬請求を行ったもの,③重大な過失により不正又は不当な診療をしばしば行ったもの,④重大な過失により不正又は不当な報酬請求をしばしば行ったものとされている。 そうすると,保険医等の登録取消しを2度以上重ねて受けた者とは,健康保険法81条各号に定める上記のような登録取消事由に該当する行為を2度以上にわたって行い,かつ,それを理由に登録取消しという重い処分を2度以上受けた者であるところ,このような者については,療養担当規則等を遵守することなどが類型的に期待できないという評価を受けるのもやむを得ないというべきである。また,保険医等の登録の取消しが行われるに当たっては,事前に ころ,このような者については,療養担当規則等を遵守することなどが類型的に期待できないという評価を受けるのもやむを得ないというべきである。また,保険医等の登録の取消しが行われるに当たっては,事前に,療養の給付等の内容又は診療報 酬の請求に関して,健康保険法73条1項に基づく指導や,同法78条に基づく監査が行われることが通常であるところ,保険医等の登録取消しを2度以上重ねて受けた者については,このような指導や監査後の措置が効果を発揮することが類型的に期待できないという評価を受けるのもやむを得ない。さらに,実際にも,診療報酬の不正受給は社会的な問題となっており,国会においても不正請求を防止するための施策についての審議がされ,平成10年6月に,保険医等の再登録を認めるための期間が2年から5年に延長されるなどの健康保険法の改正が行われてきたところである(乙17ないし19)。 以上の諸点に照らすと,健康保険制度における給付内容や費用の適正化を図るという目的を実現するための手段として,健康保険法71条2項4号にいう「著しく不適当と認められる者」の解釈に当たり,「保険医等の登録取消を二度以上重ねて受けた」ことが極めて重要な考慮要素となるとする本件基準を設けて,前回の登録取消しから5年間が経過した後(健康保険法71条2項1号参照)であっても,このような者について保険医等の登録を拒否することができることとすることについては,相応の合理性と必要性が認められるということができる。 これに対し,原告は,本件基準による規制の目的は,療養担当規則等の規則を守らせるという消極的,警察的な目的であるから,その合憲性は薬事法違憲判決を参照して厳格な合理性の基準によって判断されるべきである旨主張する。しかしながら,本件基準を設けた目的は,必 規則等の規則を守らせるという消極的,警察的な目的であるから,その合憲性は薬事法違憲判決を参照して厳格な合理性の基準によって判断されるべきである旨主張する。しかしながら,本件基準を設けた目的は,必ずしも社会公共に対する危険防止のための消極的,警察的措置に尽きるものではなく,健康保険制度における給付内容や費用の適正化を図ることにあることは上記のとおりであるところ,社会保障制度の一環である健康保健制度の適正化を図るための規制は,積極的,政策的な目的による規制という面が強いというべきであるから,原告の上記主張は,採用する ことができない。 (エ) 本件基準に依拠した処分による職業の自由の制限の性質,内容及び制限の程度本件基準による規制は,保険医等の登録を受けることができないというものであるところ,保険医等の登録を受けることができなくても,歯科医師の免許を取得して歯科医師という職業を選択することは何ら妨げられないから,それ自体,狭義の職業選択の自由そのものを制約するものではない。 もっとも,歯科医師の収入のうち保険診療に係る収入の割合は,全国平均で約86%を占め,広島県においては約89%を占めているという実態調査に基づく統計(甲13)が示すとおり,歯科医師として活動をすることができるとしても,保険医の登録を受けることができなければ,審美歯科,インプラント等の保険外診療(自由診療)を行うことはできるが,患者に対して保健診療を提供することはできず,我が国の国民皆保険制度の下では,歯科医師としての経営は実際には安定しないことが多いものと考えられる。したがって,保険医の登録をしない旨の処分が歯科医師の職業活動の内容や態様に対する比較的強い制約となることは否定することができない。 しかしながら,故意又は重大な過失により,療 ものと考えられる。したがって,保険医の登録をしない旨の処分が歯科医師の職業活動の内容や態様に対する比較的強い制約となることは否定することができない。 しかしながら,故意又は重大な過失により,療養担当規則等に反する不正又は不当な行為を行い,それを理由に登録取消しという重い処分を2度以上受けた者は,類型的にみて療養担当規則等を遵守する意思に乏しく,指導や監査後の措置が効果を発揮しないという評価を受けてしかるべきことからすると,そのような者が保険医の登録を受けることができず,保険診療を行えないことになるとしても,特段の事情がない限り,やむを得ないことといわざるを得ない。 そうすると,本件基準に依拠した処分は,厚生労働大臣等の本件基準 該当性についての判断に誤りがなく,上記の特段の事情に関する保険医等の登録許否についての厚生労働大臣等の判断がその合理的裁量の範囲内で適切に行われる限りにおいて,歯科医師の職業の自由に対する過度の規制とはならないと解される。 (オ) 小括以上によれば,本件基準に依拠した処分は,厚生労働大臣等の本件基準該当性についての判断に誤りがなく,厚生労働大臣等の上記の特段の事情についての判断が合理的裁量の範囲内で適切に行われる限り,その目的,規制の必要性,内容,これによって制限される職業の自由の性質,内容及び制限の程度という諸点に照らして,合理的であると認められるから,憲法22条1項に違反しないというべきである。 2 争点(2)(本件処分に処分理由の差し替え,平等原則違反等の違法があるか否か)について(1) 上記前提事実,文中記載の証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件処分の理由等に関し,以下の事実が認められる。 ア先行処分に係る平成23年1月31日付け弁明通知書には,「予定される処分 (1) 上記前提事実,文中記載の証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件処分の理由等に関し,以下の事実が認められる。 ア先行処分に係る平成23年1月31日付け弁明通知書には,「予定される処分の内容」として,「平成23年1月19日にあった保険医登録申請に対して保険医の登録をしないこと。」,「根拠となる法令の条項」として「健康保険法第71条第2項第4号」,「予定される処分の原因となる事実」として「昭和55年5月1日付及び平成18年1月19日付で保険医の登録を重ねて取り消されていることから,申請者が保険医として著しく不適当と認められる者であること。」と記載されていた(上記前提事実(2)ア(イ))。 イ原告は,先行処分に係る平成23年2月18日付け弁明書において,5年前に2回目の登録取消処分を受けたが,行政の考え方との著しい乖離があり,裁判を提起したところ,同裁判は思わぬ長期に及んだこと,2回目 の登録取消処分から5年が経過すれば保険医登録は可能と考えていたのに,今回予想に反して保険医登録不可の処分予定が示され,打ちひしがれる思いがすること,この5年の間に家庭不和や前立腺がんによる病気入院,裁判の長期化による思わぬ出費があり,預金も底をついてきたこと,保険診療ができないため自由診療を行っているが,保険診療に該当するものは一部負担金に相当する金額のみしか患者から徴収しておらず,薄氷を踏む思いで診療所を維持していること,生計の足しにするため非常勤講師や企業のインプラント講演等を行っているが,保険医の資格がないため,この仕事もいつ途絶えるか不安で夜も眠れないこと,再度保険医登録をしてもらえるなら,広島市βの診療所を手放し,無医村同様の地区である広島県廿日市市γにおいて一生懸命地域医療に貢献していきたいと思っていることなど 途絶えるか不安で夜も眠れないこと,再度保険医登録をしてもらえるなら,広島市βの診療所を手放し,無医村同様の地区である広島県廿日市市γにおいて一生懸命地域医療に貢献していきたいと思っていることなどを述べた(乙11)。 ウ先行処分に係る平成23年4月27日付け通知書には,先行処分の理由として,「1 健康保険法第71条第2項第4号に該当すること」,「2本件通知の第1の5の(2)に示されている「保険医等の登録取消を二度以上重ねて受けたとき」に該当すること」,「3 健康保険法第71条第3項の規定に基づく,中国地方社会保険医療協議会の審議の結果,「登録をすべきでない」と議決されたこと」と記載されていた(甲4)。 エ本件弁明通知書には,「予定される処分の内容」として「平成23年12月5日にあった保険医登録申請に対して保険医の登録をしないこと。」と記載されているほかは,先行処分に係る上記アの平成23年1月31日付け弁明通知書と同じ内容が記載されていた(上記前提事実(2)イ(イ))。 オ原告は,本件処分に係る平成24年2月13日付け弁明書において,新たに本件基準の意味内容についての疑問や保険医の復活が一生二度と認められないというのはあまりにむごい仕打ちであるという意見を述べたほかは,先行処分に係る上記イの平成23年2月18日付け弁明書の内容とほ ぼ同様のことを述べた(甲3)。 カ本件処分通知書には,本件処分の理由として,「保険医として著しく不適当と認められ,健康保険法第71条第2項第4号の規定に該当するため。」と記載されていた(上記前提事実(2)イ(オ))。 (2) 処分理由の差し替えの主張についてア被告は,本件処分について,本件基準に該当することに加え,2回目の登録取消処分に先立つ個別指導や監査において,原告 た(上記前提事実(2)イ(オ))。 (2) 処分理由の差し替えの主張についてア被告は,本件処分について,本件基準に該当することに加え,2回目の登録取消処分に先立つ個別指導や監査において,原告が,不出頭や監査拒否とみなされる行為に及ぶなど,これらに協力する姿勢を示そうとせず,不正請求に対する真摯な反省の態度が全く認められなかったこと等,2回目の登録取消処分に係る原告の一切の情況を考慮してされたものであると主張する。 これに対し,原告は,本件処分において被告が主張するような2回目の登録取消処分に係る原告の一切の情況は考慮されておらず,被告の主張は処分理由の違法な差し替えに当たると主張する。 イそこで検討するに,上記1(1)イのとおり,保険医等の登録を申請した者が保険医等として「著しく不適当と認められる者であるとき」(健康保険法71条2項4号)に該当するか否か,本件基準に該当するとしても当該申請者の保険医等の登録を認めるか否かという判断については,厚生労働大臣等の合理的な裁量に委ねられているというべきであるから,厚生労働大臣等が,上記裁量権を行使する前提として,本件基準に該当する申請者について,過去の登録取消処分の原因となった事実の内容,過去の登録取消処分に係る情状事実等の諸般の事情を考慮し得ることは明らかである。 そして,本件処分においても,上記(1)イ及びオのとおり,原告が,先行処分に係る弁明書及び本件処分に係る弁明書において,2回目の登録取消処分の適否を争って裁判を提起した旨記載していることや,2回目の登録取消処分に係る監査についての内議資料(乙2)及び処分通知書(乙6) 並びに前回取消訴訟に係る判決書(乙7)が残存していることに照らすと,中国四国厚生局長は,本件処分に当たり,2回目の登録取消処分の原因と 監査についての内議資料(乙2)及び処分通知書(乙6) 並びに前回取消訴訟に係る判決書(乙7)が残存していることに照らすと,中国四国厚生局長は,本件処分に当たり,2回目の登録取消処分の原因となった事実を始めとする2回目の登録取消処分に係る原告の情況を考慮したものと推認することができる。 したがって,本件処分に当たって2回目の登録取消処分に係る原告の情況が考慮されていないことを前提として,処分理由の違法な差し替えをいう原告の主張は,採用することができない。 (3) 平等原則違反等の主張について原告は,本件基準が登録取消処分に係る一切の情況を考慮することを禁じているという本件基準の解釈を前提として,本件処分に当たり,本件基準に定めのない2回目の登録取消処分に係る原告の一切の情況が考慮されたとすれば,本件処分は本件基準及び平等原則に反し違法であると主張する。 しかしながら,原告が上記主張の前提としている,本件基準が登録取消処分に係る一切の情況を考慮することを禁じているという本件基準の解釈が当を得ないことについては上記(2)のとおりであるから,平等原則違反等をいう原告の主張はその前提を欠くものであり,採用することができない。 3 争点(3)(本件処分が裁量権を逸脱,濫用したものであるか否か)について(1) 保険医等の登録に関する厚生労働大臣等の裁量について保険医等の登録を申請した者が保険医等として「著しく不適当と認められる者であるとき」(健康保険法71条2項4号)に該当するか否か,これに該当するとしても当該申請者の保険医等の登録を認めるか否かという判断については,同条3項の規定に基づく地方社会保険医療協議会の議を経る前提の下で,厚生労働大臣等の合理的な裁量に委ねられているというべきであることは上記1(1) 保険医等の登録を認めるか否かという判断については,同条3項の規定に基づく地方社会保険医療協議会の議を経る前提の下で,厚生労働大臣等の合理的な裁量に委ねられているというべきであることは上記1(1)イで判示したとおりである。そして,「著しく不適当と認められる者」の解釈に当たり,「保険医等の登録取消を二度以上重ねて受けた」ことが極めて重要な考慮要素となるとする本件基準を設けて判断を行うこと に相応の合理性と必要性があることは上記1(2)ウ(ウ)で判示したとおりである。 そうすると,厚生労働大臣等がその裁量権の行使としてした保険医の登録をしない旨の処分は,厚生労働大臣等の本件基準該当性についての判断に誤りがなく,当該申請に関する諸事情についての厚生労働大臣等の判断が,重要な事実の基礎を欠き又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くと認められるなど,厚生労働大臣等に与えられた裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものでない限り,違法となることはないと解するべきである。 (2) 本件処分についての検討ア上記前提事実(1)のとおり,原告は,昭和55年に1回目の登録取消処分を受け,その後昭和57年に保険医の再登録を受けたが,平成18年に2回目の登録取消処分を受けており,保険医の登録取消しを2度重ねて受けたものである。この事実は,原告が,健康保険制度における給付内容や費用の適正化を図る目的から定められた本件基準に該当し,類型的に療養担当規則等の遵守等を期待できない者であることを示すものである。 また,2回目の登録取消処分に係る処分理由は,別紙3記載のとおりであり,原告は,実際に行ったものとは異なる内容の治療をしたものと偽ったり,実際には行っていない治療をしたものと偽ったり,実際には保険適用外の治療を行ったにもかかわらず保険 由は,別紙3記載のとおりであり,原告は,実際に行ったものとは異なる内容の治療をしたものと偽ったり,実際には行っていない治療をしたものと偽ったり,実際には保険適用外の治療を行ったにもかかわらず保険適用のある治療を行ったものと偽ったりして,診療録への不実記載や診療報酬の不正請求を繰り返しており,かかる療養規則違反行為等は多数かつ多岐にわたっている。加えて,原告は,別紙3記載のとおり,健康保険法78条1項の規定に基づく監査において,再三にわたって出頭に応じず,質問に対して虚偽の答弁をしたり答弁を拒んだりしており,かかる行為自体が健康保険法81条2号に該当するものとして処分理由の一つを構成している。そして,2回目の登録取消処分に係る前回取消訴訟の判決においては,少なくとも重大な過失に基づ いて健康保険法81条1号ないし3号に該当する事実をしばしば行ったことが認められる旨判断されている(乙7)。 以上によれば,原告は,本件基準に該当する者であり,2回目の登録取消の理由の内容に照らしても,本件基準に依拠して処分を行うことが不適切であるとされるべき特段の事情があるということもできない。 イ他方,原告は,本件申請に係る弁明書(甲3)において,原告が無医村同様の地区で診療を行うことを予定していることを考慮すべきことを求めていたところ,証拠(甲15,17,20,21の1ないし4,甲24ないし28)によれば,①本件地区は,人口のうち約半数が65歳以上の高齢者と高齢化が進んでいること,②本件地区には従前歯科医院がなく,内科・歯科共有の診療所が1か所あるものの,歯科は週に一,二回しか開院されず,休診となることも多いため,本件地区の患者の多くは,1日に数便しかないバスで片道1時間以上かけて廿日市市の中心部にある歯科医院まで通院していること, 所あるものの,歯科は週に一,二回しか開院されず,休診となることも多いため,本件地区の患者の多くは,1日に数便しかないバスで片道1時間以上かけて廿日市市の中心部にある歯科医院まで通院していること,③本件地区の住民の多数が原告の保険医登録を求めて嘆願書を提出していること,④原告は,本件地区において歯科医院を開業するため,建物及び歯科診療ユニット,エックス線装置等の設備を準備し,平成25年12月に診療所開設届を広島県知事に提出したこと,⑤原告は,同年2月17日付けで先に開設していた広島市内の歯科医院の診療室の内部造作,機械設備等を第三者に売却し,同年12月に同歯科医院を閉院したことが認められる。 しかしながら,上記①ないし③の事情があるとしても,原告が保険医として登録を受けることがなければ本件地区の住民が歯科診療を受けることができないという関係にあるとまでは認められない。また,上記④及び⑤の事情があるとしても,それが原告につき保険医として登録をすべき理由となるものではない。そうすると,上記の各事情をもって,本件基準に依拠して処分を行うことが不適切であるとされるべき特段の事情に当たると 判断しなかったとしても,社会通念に照らし著しく妥当性を欠くとまではいえないと解される。 なお,原告は,上記のような本件地区における歯科医院の開業を目的として本件申請が行われたという事情を何ら考慮することなく本件処分が行われた旨主張するが,上記2(1)イ及びオのとおり,かかる事情は,先行処分に係る平成23年2月18日付け弁明書にも,本件処分に係る平成24年2月13日付け弁明書にも記載されているから,中国四国厚生局長においてかかる事情を考慮した上で本件処分をしたことが認められるのであり,原告の上記主張は理由がない。 (3) 小括以 成24年2月13日付け弁明書にも記載されているから,中国四国厚生局長においてかかる事情を考慮した上で本件処分をしたことが認められるのであり,原告の上記主張は理由がない。 (3) 小括以上によれば,本件基準該当性及び当該申請に関する諸事情を考慮した上,中国地方社会保険医療協議会の議を経た上で,原告が保険医として「著しく不適当と認められる者であるとき」に該当するものとした中国四国厚生局長の判断は,重要な事実の基礎を欠き又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くなど,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとは認められないから,本件処分は適法であるというべきである。 4 本件義務付けの訴えの適法性について本件義務付けの訴えは,行政事件訴訟法3条6項2号が規定するいわゆる申請型の義務付けの訴えであると解されるところ,このような訴えにおいては,法令に基づく申請を却下し,又は棄却する処分がされた場合において,当該処分が取り消されるべきものであり,又は無効若しくは不存在であるときに限り提起することができるとされる(同法37条の3第1項2号)が,本件において,本件処分の取消しを求める原告の請求に理由がないことは,上記1ないし3で述べたとおりであるから,本件処分が取り消されるべきものであるということはできない。 したがって,本件義務付けの訴えは,同法37条の3第1項2号所定の訴訟 要件を欠く不適法な訴えであり,却下されるべきである。 第4 結論よって,本件訴えのうち本件義務付けの訴えは,不適法であるからこれを却下し,原告のその余の請求は,理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第38部 裁判長裁判 のその余の請求は,理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第38部 裁判長裁判官谷口豊 裁判官坂田大吾 裁判官中丸隆は,転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官谷口豊 別紙2関係法令等の定め 1 健康保険法(目的)第一条この法律は,労働者又はその被扶養者の業務災害(労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)第七条第一項第一号に規定する業務災害をいう。)以外の疾病,負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行い,もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。 (基本的理念)第二条健康保険制度については,これが医療保険制度の基本をなすものであることにかんがみ,高齢化の進展,疾病構造の変化,社会経済情勢の変化等に対応し,その他の医療保険制度及び後期高齢者医療制度並びにこれらに密接に関連する制度と併せてその在り方に関して常に検討が加えられ,その結果に基づき,医療保険の運営の効率化,給付の内容及び費用の負担の適正化並びに国民が受ける医療の質の向上を総合的に図りつつ,実施されなければならない。 (保険医又は保険薬剤師)第六十四条保険医療機関において健康保険の診療に従事する医師若しくは歯科医師又は保険薬局において健康保険の調剤に従事する薬剤師は,厚生労働大臣の登録を受けた医師若しくは歯科医師(以下「保険医」と総称する。)又は薬剤師(以下「保険薬剤師」という。)でなければならない。 (保険医又は保険薬剤師の登録)第七十一条第六十四条 労働大臣の登録を受けた医師若しくは歯科医師(以下「保険医」と総称する。)又は薬剤師(以下「保険薬剤師」という。)でなければならない。 (保険医又は保険薬剤師の登録)第七十一条第六十四条の登録は,医師若しくは歯科医師又は薬剤師の申請により行う。 2 厚生労働大臣は,前項の申請があった場合において,次の各号のいずれかに該当するときは,第六十四条の登録をしないことができる。 一申請者が,この法律の規定により保険医又は保険薬剤師に係る第六十四条の登録を取り消され,その取消しの日から五年を経過しない者であるとき。 二申請者が,この法律その他国民の保健医療に関する法律で政令で定めるものの規定により罰金の刑に処せられ,その執行を終わり,又は執行を受けることがなくなるまでの者であるとき。 三申請者が,禁錮以上の刑に処せられ,その執行を終わり,又は執行を受けることがなくなるまでの者であるとき。 四前三号のほか,申請者が,保険医又は保険薬剤師として著しく不適当と認められる者であるとき。 3 厚生労働大臣は,保険医又は保険薬剤師に係る第六十四条の登録をしないこととするときは,地方社会保険医療協議会の議を経なければならない。 4 第一項又は第二項に規定するもののほか,保険医及び保険薬剤師に係る第六十四条の登録に関して必要な事項は,政令で定める。 (保険医又は保険薬剤師の責務)第七十二条保険医療機関において診療に従事する保険医又は保険薬局において調剤に従事する保険薬剤師は,厚生労働省令で定めるところにより,健康保険の診療又は調剤に当たらなければならない。 2(略)(厚生労働大臣の指導)第七十三条保険医療機関及び保険薬局は療養の給付に関し,保険医及び保険薬剤師は健康保険の診療又は り,健康保険の診療又は調剤に当たらなければならない。 2(略)(厚生労働大臣の指導)第七十三条保険医療機関及び保険薬局は療養の給付に関し,保険医及び保険薬剤師は健康保険の診療又は調剤に関し,厚生労働大臣の指導を受けなければならない。 2(略)(保険医療機関又は保険薬局の報告等)第七十八条厚生労働大臣は,療養の給付に関して必要があると認めるときは,保険医療機関若しくは保険薬局若しくは保険医療機関若しくは保険薬局の開設者 若しくは管理者,保険医,保険薬剤師その他の従業者であった者(以下この項において「開設者であった者等」という。)に対し報告若しくは診療録その他の帳簿書類の提出若しくは提示を命じ,保険医療機関若しくは保険薬局の開設者若しくは管理者,保険医,保険薬剤師その他の従業者(開設者であった者等を含む。)に対し出頭を求め,又は当該職員に関係者に対して質問させ,若しくは保険医療機関若しくは保険薬局について設備若しくは診療録,帳簿書類その他の物件を検査させることができる。 2(略)(保険医又は保険薬剤師の登録の取消し)第八十一条厚生労働大臣は,次の各号のいずれかに該当する場合においては,当該保険医又は保険薬剤師に係る第六十四条の登録を取り消すことができる。 一保険医又は保険薬剤師が,第七十二条第一項(第八十五条第九項,第八十五条の二第五項,第八十六条第四項,第百十条第七項及び第百四十九条において準用する場合を含む。)の規定に違反したとき。 二保険医又は保険薬剤師が,第七十八条第一項(第八十五条第九項,第八十五条の二第五項,第八十六条第四項,第百十条第七項及び第百四十九条において準用する場合を含む。以下この号において同じ。)の規定により出頭を求められてこれに応ぜず,第七十 項(第八十五条第九項,第八十五条の二第五項,第八十六条第四項,第百十条第七項及び第百四十九条において準用する場合を含む。以下この号において同じ。)の規定により出頭を求められてこれに応ぜず,第七十八条第一項の規定による質問に対して答弁せず,若しくは虚偽の答弁をし,又は同項の規定による検査を拒み,妨げ,若しくは忌避したとき。 三この法律以外の医療保険各法又は高齢者の医療の確保に関する法律による診療又は調剤に関し,前二号のいずれかに相当する事由があったとき。 四保険医又は保険薬剤師が,この法律その他国民の保健医療に関する法律で政令で定めるものの規定により罰金の刑に処せられ,その執行を終わり,又は執行を受けることがなくなるまでの者に該当するに至ったとき。 五保険医又は保険薬剤師が,禁錮以上の刑に処せられ,その執行を終わり, 又は執行を受けることがなくなるまでの者に該当するに至ったとき。 六前各号に掲げる場合のほか,保険医又は保険薬剤師が,この法律その他国民の保健医療に関する法律で政令で定めるもの又はこれらの法律に基づく命令若しくは処分に違反したとき。 (処分に対する弁明の機会の付与)第八十三条厚生労働大臣は,保険医療機関に係る第六十三条第三項第一号の指定をしないこととするとき,若しくはその申請に係る病床の全部若しくは一部を除いて指定(指定の変更を含む。)を行おうとするとき,若しくは保険薬局に係る同号の指定をしないこととするとき,又は保険医若しくは保険薬剤師に係る第六十四条の登録をしないこととするときは,当該医療機関若しくは薬局の開設者又は当該保険医若しくは保険薬剤師に対し,弁明の機会を与えなければならない。この場合においては,あらかじめ,書面で,弁明をすべき日時,場所及びその事由を通知しなければ 該医療機関若しくは薬局の開設者又は当該保険医若しくは保険薬剤師に対し,弁明の機会を与えなければならない。この場合においては,あらかじめ,書面で,弁明をすべき日時,場所及びその事由を通知しなければならない。 2 保険医療機関及び保健医療養担当規則(昭和32年4月30日厚生省令第15号。療養担当規則)(療養の給付の担当方針)第二条(略) 2 保険医療機関が担当する療養の給付は,被保険者及び被保険者であつた者並びにこれらの者の被扶養者である患者(以下単に「患者」という。)の療養上妥当適切なものでなければならない。 (適正な手続の確保)第二条の三保険医療機関は,その担当する療養の給付に関し,厚生労働大臣又は地方厚生局長若しくは地方厚生支局長に対する申請,届出等に係る手続及び療養の給付に関する費用の請求に係る手続を適正に行わなければならない。 (健康保険事業の健全な運営の確保) 第二条の四保険医療機関は,その担当する療養の給付に関し,健康保険事業の健全な運営を損なうことのないよう努めなければならない。 (適正な費用の請求の確保)第二十三条の二保険医は,その行つた診療に関する情報の提供等について,保険医療機関が行う療養の給付に関する費用の請求が適正なものとなるよう努めなければならない。 3 国民健康保険法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法令の改正について(平成10年7月27日付け厚生省老人保健福祉局長及び厚生省保険局長通知・老発第485号,保発第101号。本件通知。甲10)第1の5 次に掲げる場合に該当する保険医等については,「保険医又ハ保健薬剤師トシテ著シク不適当ト認ムルモノナルトキ(健保法第43条ノ5第2項)」として,地方社会保険医療協議会の議により再登録を拒否することが 次に掲げる場合に該当する保険医等については,「保険医又ハ保健薬剤師トシテ著シク不適当ト認ムルモノナルトキ(健保法第43条ノ5第2項)」として,地方社会保険医療協議会の議により再登録を拒否することができるものであること。 (1) 取消処分を逃れるために保険医等の登録を辞退し,その後しばらくして登録申請してきたとき(2) 保険医等の登録取消を二度以上重ねて受けたとき(本件基準) 別紙3 1 健康保険法第81条第1号該当○保険医療機関及び保健医療養担当規則違反第12条(診療の一般的方針),第19条の2(健康保険事業の健全な運営の確保),第21条(歯科診療の具体的方針),第22条(診療録の記載),第23条の2(適正な費用の請求の確保)関係ア保険請求するに際して,全部鋳造冠を製作したにもかかわらず,ブリッジ補綴を行ったとして診療録への不実記載を行い,保険医療機関にブリッジ補綴に係る診療報酬を不正に請求させていた。 イ保険請求するに際して,インレーにもかかわらず,全部鋳造冠を装着したとして,診療録への不実記載を行い,保険医療機関に診療報酬を不正に請求させていた。 ウ保険請求するに際して,歯科衛生士が不在であるにもかかわらず,歯科衛生士が歯科衛生実地指導を行ったとして保険医療機関に歯科衛生実地指導料に係る診療報酬を不正に請求させていた。 エ保険請求するに際して,ティッシュコンディショニングを行っていないにもかかわらず,行ったとして保険医療機関にティッシュコンディショニングに係る診療報酬を不正に請求させていた。 オ保険請求するに際して,処方箋を交付していないにもかかわらず,交付したとして診療録への不実記載を行い,保険医療機関に診療報酬を不正に請求させていた。 カ保険請求するに際して,保険適用以外の オ保険請求するに際して,処方箋を交付していないにもかかわらず,交付したとして診療録への不実記載を行い,保険医療機関に診療報酬を不正に請求させていた。 カ保険請求するに際して,保険適用以外の前装鋳造冠にもかかわらず,硬質レジンジャケット冠を装着したとして診療録への不実記載を行い,保険医療機関に診療報酬を不正に請求させていた。 キ保険請求するに際して,保険適用以外のメタルボンド冠にもかかわらず, 硬質レジンジャケット冠を装着したとして診療録への不実記載を行い,保険医療機関に診療報酬を不正に請求させていた。 ク保険請求するに際して,保険適用以外の前装鋳造冠ブリッジにもかかわらず,全部鋳造冠ブリッジを装着したとして診療録への不実記載を行い,保険医療機関に診療報酬を不正に請求させていた。 ケ保険請求するに際して,保険適用以外のメタルボンドにもかかわらず,前装鋳造冠を装着したとして診療録への不実記載を行い,保険医療機関に診療報酬を不正に請求させていた。 2.健康保険法第81条第2号該当ア再三にわたって監査通知をしたにもかかわらず,出頭に応じず監査を拒み忌避した。 イ診療体制及び診療内容等に係る質問に対し虚偽の答弁をした。 ウ診療体制及び診療内容等に係る質問に対し答弁を拒んだ。 3.健康保険法第81条第3号該当○老人保健法の規定による医療並びに入院時食事療養費及び特定療養費に係る療養の取り扱い及び担当に関する基準違反第12条(診療の一般的方針),第19条の2(老人保険事業の健全な運営の確保),第21条(歯科診療の具体的方針),第22条(診療録の記載),第23条の2(適正な費用の請求の確保)関係ア保険請求するに際して,自費による抜歯を行っているにもかかわらず,保険医療機関に同部位の抜歯に係る診療報酬を 具体的方針),第22条(診療録の記載),第23条の2(適正な費用の請求の確保)関係ア保険請求するに際して,自費による抜歯を行っているにもかかわらず,保険医療機関に同部位の抜歯に係る診療報酬を不正に請求させていた。 イ保険請求するに際して,ティッシュコンディショニングを行っていないにもかかわらず,行ったとして保険医療機関にティッシュコンディショニングに係る診療報酬を不正に請求させていた。 ウ保険請求するに際して,処方箋を交付していないにもかかわらず,交付したとして診療録に不実記載を行い,保険医療機関に処方箋料の診療報酬を不 正に請求させていた。 エ保険請求するに際して,保険適用以外のメタルボンド冠にもかかわらず,保険適用の硬質レジンジャケット冠を装着したとして診療録への不実記載を行い,保険医療機関に診療報酬を不正に請求させていた。 オ保険請求するに際して,保険適用以外のメタルボンドブリッジにもかかわらず,保険適用の前装鋳造冠ブリッジを装着したとして診療録への不実記載を行い,保険医療機関に診療報酬を不正に請求させていた。 カ保険請求するに際して,保険適用以外のメタルボンドブリッジにもかかわらず,全部鋳造冠ブリッジを装着したとして診療録への不実記載を行い,保険医療機関に診療報酬を不正に請求させていた。 4.その他の事故アかかりつけ歯科医初診料に関わる文書提供をしていないにもかかわらず診療録への不実記載を行い,かかりつけ歯科医初診料の診療報酬を不当に請求させていた。 イかかりつけ歯科医初診料に関わる文書提供をしていないにもかかわらず,診療録への不実記載を行い,かかりつけ歯科医再診料の診療報酬を不当に請求させていた。 ウ自費の治療の一環として行っているにもかかわらず,ティッシュコンディショニングに係る いないにもかかわらず,診療録への不実記載を行い,かかりつけ歯科医再診料の診療報酬を不当に請求させていた。 ウ自費の治療の一環として行っているにもかかわらず,ティッシュコンディショニングに係る診療報酬を不当に請求させていた。 エ算定要件を満たさない,歯科衛生実地指導料の診療報酬を不当に請求させていた。 オ同一患者に対し,複数の診療録を作成し,また診療録に加筆し改ざんしていた。
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