平成20年7月25日判決言渡平成17年第22085号損害賠償請求事件( )ワ判決主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1請求被告は,原告に対し,8715万9791円及びこれに対する平成15年11月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要 事案の要旨本件は,被告の開設するA医院(以下「被告病院」という)において女児。 を出産した原告が,被告に対し,同医院の担当医師が,無痛分娩のための硬膜外麻酔を行うに当たり,事前に放散痛についての説明,指示を怠り,かつ,放散痛の有無を確認することなく硬膜外穿刺,カテーテル挿入の手技を継続した過失により,硬膜外針又はカテーテルで馬尾神経を損傷し,原告に腰背部痛や下肢のしびれ等の症状を生じさせたとして,不法行為(使用者責任)ないし債務不履行に基づき,8715万9791円及びこれに対する不法行為の日である平成15年11月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 前提となる事実(証拠を掲記しない事実は,当事者間に争いがない)。 当事者等( )ア原告は,昭和42年1月27日生まれの女性である。 被告は,被告病院を開設,運営する学校法人である。 イB医師は,平成15年当時,被告病院産婦人科に勤務していた。B医師は,平成15年4月から6月までの3か月間の被告病院における麻酔研修期間中27例の硬膜外麻酔(ただし,無痛分娩目的のものはない)を経。 験しており,麻酔研修後は,原告に対する硬膜外麻酔を行うまでに無痛分娩目的の硬膜外麻酔を5例経験していた。また,麻酔研修後に行った無痛分娩目的の硬膜外麻酔については,患者に後遺症等が生じたことはなかった( り,麻酔研修後は,原告に対する硬膜外麻酔を行うまでに無痛分娩目的の硬膜外麻酔を5例経験していた。また,麻酔研修後に行った無痛分娩目的の硬膜外麻酔については,患者に後遺症等が生じたことはなかった(乙A30,証人B医師)。 診療経過等( )ア原告は,平成15年3月28日,被告病院婦人科外来を受診した際に妊娠が判明し,同年4月9日からは,被告病院の産科外来に通院して,経過を観察していた。 同年11月,原告は無痛分娩を希望することを決め,その旨を被告病院担当医師に伝えた(乙A2,3)。 イ同年11月22日,原告は前期破水のため被告病院へ入院し,翌23日午前2時30分ころ,陣痛の増強が認められたため,午前3時ころには,分娩室に移動して,無痛分娩のための硬膜外麻酔を受けることとなった。 原告に対する硬膜外麻酔を担当したB医師は,4回の硬膜外穿刺を要したものの,午前4時ころ,硬膜外腔にカテーテルを留置できたものと判断し,ドレッシングテープでカテーテルを固定した。 午前9時15分ころからは,麻酔薬の持続注入が開始されたが,温覚ブロックが確認できないとして,持続注入がいったん中止され,カテーテルの入れ替えが行われた後,再度,麻酔薬の持続注入が開始された(乙A。 1,30)ウその後,同日午後6時16分に胎児に遅発一過性徐脈が,午後6時38分ころに胎児心拍数が70bpmまで下降する遷延一過性徐脈がそれぞれ 確認され,その時点で児頭の位置が±0であったため,帝王切開が行われることとなった。そして,午後7時には手術室に移動し,緊急帝王切開が施行され,午後7時42分,原告は女児を出産した(乙A1)。 エ出産後,原告には腰痛等の症状が出現し,原告は,被告病院を退院後も,被告病院の産科外来,ペインクリニック外来,脳神経内科外来等で治療を受けた ,午後7時42分,原告は女児を出産した(乙A1)。 エ出産後,原告には腰痛等の症状が出現し,原告は,被告病院を退院後も,被告病院の産科外来,ペインクリニック外来,脳神経内科外来等で治療を受けたものの,腰痛等の症状が改善することはなかった。その後,平成17年5月28日,C整形外科のD医師から,腰痛及び両下肢のしびれは,同科初診時である平成17年2月19日に症状固定していると思われるとの診断を受けた(甲A1,乙A1,2,4,5)。 争点 硬膜外麻酔を行う前に放散痛についての説明・指示を怠った過失の有無( ) 硬膜外麻酔術中に放散痛の有無を確認することなく手技を継続した過失の( )有無 被告病院担当医師の過失と原告の損害との因果関係の有無( ) 損害額( ) 争点についての当事者の主張争点についての当事者の主張は,別紙主張要約書のとおりである。 第3当裁判所の判断 事実認定証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる(末尾に認定の根拠となった証拠等を示す。 。) 入院までの経過( )ア原告は,平成15年3月28日,月経異常から妊娠の可能性があると考え,被告病院婦人科外来を受診したところ,妊娠(8週6日)が判明し,原告の希望により,被告病院産科外来を継続受診することとなった。そして,原告は,平成15年4月9日,被告病院産科外来を受診し,以後,継 続的に同科を受診し経過を観察していた(乙A2,乙A3)。 イ平成15年10月18日,原告は,無痛分娩について相談したいとの希望を担当医師に伝え,妊娠相談外来を受診することとなった。原告は,同月28日,被告病院の妊娠相談外来を受診し,E医師から無痛分娩についての説明を受けた。原告は,体力的に自信がなかったこと,長期間居住していたアメリカでは無 相談外来を受診することとなった。原告は,同月28日,被告病院の妊娠相談外来を受診し,E医師から無痛分娩についての説明を受けた。原告は,体力的に自信がなかったこと,長期間居住していたアメリカでは無痛分娩が一般的であったことなどから,最終的に無痛分娩を希望することを決め,同年11月7日に被告病院に伝えた。 その後,同月18日の診察の際に,原告は同月25日に被告病院に入院し,翌26日に無痛分娩を受ける予定となった(乙A2,原告本人)。 ウ同月22日午後7時ころ,原告は,破水があったように感じたため,被告病院へ赴き,B医師の内診を受けた後,前期破水のため被告病院に入院することとなった(乙A1。 ) B医師による硬膜外麻酔( )ア平成15年11月23日,午前2時30分ころ,助産師が原告の内診を行ったところ,陣痛の増強が認められたため,助産師はB医師を呼び,B医師は,かねて原告が無痛分娩を希望していたことから,原告を分娩室に移動させて,カテーテルの留置を行うこととした。 午前3時ころ,原告が分娩室に入室した。B医師は,研修医であるF医師及び助産師と共に,末梢静脈路の確保と輸液の開始,血圧測定等のカテーテル留置の準備を行った。そして,B医師は,原告に側臥位をとらせ,原告の両腸骨稜に触れて,ヤコビ線を確認し,そこから第4棘突起の位置を確認し,第3/第4椎間(以下,腰椎を「L,仙椎を「S」で表し,」例えば,第3腰椎は「L3」などと記載することがある,第2/第3椎。)間を確認した上で,原告に対し,第3/第4椎間,第2/第3椎間を突き出す感じで丸まるようにと伝え,原告の背部をポピドンヨード(消毒液)で消毒した。ポピドンヨードが乾いた後,B医師は,穿刺部位に1%キシ ロカイン(局所麻酔薬)を注入し,局所麻酔を行ったが,その際,原告から痛 まるようにと伝え,原告の背部をポピドンヨード(消毒液)で消毒した。ポピドンヨードが乾いた後,B医師は,穿刺部位に1%キシ ロカイン(局所麻酔薬)を注入し,局所麻酔を行ったが,その際,原告から痛みの訴えがあった(乙A1,30,証人B医師)。 イ局所麻酔を終えた後,B医師は,原告に対し,痛みやびりっとした感じを覚えたら,体を動かさず口で伝えるよう指示した上で,1回目の穿刺を開始した。まず,第3/第4腰椎間の皮下に膨疹を作って,そこに硬膜外針(17G×80mmTuohy針)を穿刺し,棘上靱帯の抵抗を感じてから,棘間靱帯に進み,そこでスタイレット(内針)を抜き,生理食塩水の入ったガラスシリンジ(注射器)を装着した。硬膜外腔に至るまではガラスシリンジの抵抗があるが,硬膜外腔に入ると抵抗が消失することから,ガラスシリンジの抵抗を確認しながら,ほぼ1mmずつ針を進めることを繰り返したが,抵抗が消失する前に骨に当たったことから,針を少し戻して方向を変え,再度1mmずつ針を進めることを繰り返したが,再び骨に当たったため,1度抜針することとした(乙A30,証人B医師)。 ウB医師は,第3/第4腰椎間での穿刺がうまくいかなかったことから,穿刺部位を第2/第3腰椎間に変更し,1回目の穿刺と同様の方法で,針を進めたところ,ガラスシリンジの抵抗が消失したことから,硬膜外腔に達したと判断し,カテーテル(typeS1直径1.0×1300mm)を挿入して留置を試みたが,途中でカテーテルが進まなくなったため留置をすることはできなかった。 そこで,B医師は,抜針して,同一部位で3回目の穿刺を行い,カテーテルの留置を試みたが,2回目と同様に,ガラスシリンジの抵抗が消失し,硬膜外腔に達したと判断してカテーテルを挿入したが,やはりカテーテルが途中で進まなくなったため 一部位で3回目の穿刺を行い,カテーテルの留置を試みたが,2回目と同様に,ガラスシリンジの抵抗が消失し,硬膜外腔に達したと判断してカテーテルを挿入したが,やはりカテーテルが途中で進まなくなったために,カテーテルを留置することはできなかった(乙A1,30,証人B医師)。 エなお,一般に,30分程度穿刺を行ってもカテーテルを留置することができない場合には,上級医との交代を検討することとされているところ, 当時,B医師の上級医は被告病院に勤務していたが,B医師が硬膜外麻酔を行っていた際には,婦人科患者の重症症例があり,その上級医は,その患者の対応に当たっていたため,B医師は,上級医との交代等について検討を行わず,そのまま手技を継続した(証人B医師,弁論の全趣旨。 )オ第2/第3腰椎間で2回試みたものの,カテーテルの留置ができなかったため,B医師は,穿刺部位を第3/第4椎間に戻すこととし,同様の方法で再度針を進めたところ,棘間靱帯に入ったと思われるところで,原告が痛みを訴えた。そこで,B医師は,原告に対し,今針が入っているところが痛いかと尋ねると,原告が「はい」と答え,かつ,痛みを訴えた際,に瞬間的な体動を起こすこともなかったことから,B医師は,原告の訴えている痛みは放散痛・電撃痛ではなく,針は神経に触れていないと判断し,局所麻酔薬を追加投与した上で,そのまま穿刺を継続した。そして,再度針を進めていくとガラスシリンジの抵抗が消失し,硬膜外腔に達したと判断できたため,カテーテルを挿入し,午前4時ころには,深さ3.5cm,頭側へ4.5cmの位置にカテーテルを留置した。なお,くも膜を穿破すると引けることがある脳脊髄液がこれら4回の穿刺の際にカテーテルから引けることはなかった(乙A1,30,証人B医師)。 カB医師は,カテーテルを留置 置にカテーテルを留置した。なお,くも膜を穿破すると引けることがある脳脊髄液がこれら4回の穿刺の際にカテーテルから引けることはなかった(乙A1,30,証人B医師)。 カB医師は,カテーテルを留置した後,テストドーズ(試験注入)として,午前4時ころ,1%キシロカイン2mlを注入し,4時6分ころから,0. 2%アナペイン(長時間作用性局所麻酔薬)3mlを4回注入したところ,収縮期血圧が80mmHg,拡張期血圧が50mmHg前後まで低下した。 血圧は,4時20分ころまでの間,収縮期血圧が100mmHg以下まで低下した状態であったが,同時刻以後は,収縮期血圧115ないし120mmHg程度まで上昇した。 テストドーズは,午前4時28分に終了し,テストドーズの終了後,B医師は,アルコール綿で体表を拭くことによる冷感を麻酔の効いていない 肩での場合と比較して,どの部位まで感じていないかを原告に尋ねて確認する方法により麻酔効果の確認を行い,鼠径部まで温度感覚が麻痺していたことから,第1腰椎レベルまで麻酔効果があったものと判断した。 B医師は,第1腰椎レベルまでの麻酔効果では,分娩第1期の痛みを取るのには不十分な高さであるが,体位の変換や,麻酔薬の増量によって,より高いレベルまで効果が得られることもあるため,硬膜外チューブの入れ替えは行わないこととした。また,この時点で,麻酔薬の持続注入を行うと,陣痛が弱くなり,陣痛促進の適応となる可能性があるため,人手の少ない深夜帯で陣痛促進を行うことは,母児にとってリスクが大きいと考え,持続注入は行わないこととした(乙A1,30,証人B医師)。 分娩までの経過( )アB医師による硬膜外麻酔を受けた後,午前4時45分,原告にCTGが装着されたが,午前5時30分,陣痛室に移動した後,CTG(胎児心拍陣痛図) ,30,証人B医師)。 分娩までの経過( )アB医師による硬膜外麻酔を受けた後,午前4時45分,原告にCTGが装着されたが,午前5時30分,陣痛室に移動した後,CTG(胎児心拍陣痛図)が一時外されることとなった(乙A1。 )イ午前8時ころ,原告から痛みが強くなってきたとの訴えがあり,内診が行われた後,午前8時35分ころから,テストドーズとして,0.2%アナペイン3mlが4回注入された。テストドーズは午前9時ころに終了したが,原告は痛みに変化を感じなかった。 9時15分ころからは,0.2%アナペイン25ml+生理食塩水23ml+フェンタネスト(麻酔用ピペリジン系鎮痛剤)2mlの持続注入が8ml/hにて開始された。午前9時30分,温覚ブロックが確認できないことから,カテーテルの入れ替えを行うこととし,午前9時40分に持続注入が中止された(積算注入量3.6ml。9時50分にカテーテル)が抜去され,9時58分に局所麻酔措置,午前10時にはカテーテルの再挿入が開始された。10時5分には,カテーテルが第2腰椎/第3腰椎間頭側4cmの所に留置され,ドレッシングテープで固定された。10時7 分から,テストドーズとして,1%キシロカイン2ml投与され,10時15分からは,0.2%アナペイン3mlが4回注入され,10時38分にテストドーズは終了した。そして,午前11時に,第9胸椎レベルまで麻酔が効いていることが確認され,11時5分からは,0.2%アナペイン25ml+生理食塩水23ml+フェンタネスト(麻酔用ピペリジン系鎮痛剤)2mlの持続注入が8ml/hにて開始された(乙A1)。 ウ午前11時30分,胎児に子宮収縮に伴う変動一過性徐脈が確認され,正午には胎児心拍数が80bpmまで下降したたため,酸素投与が開始され,体位変換等が行わ が8ml/hにて開始された(乙A1)。 ウ午前11時30分,胎児に子宮収縮に伴う変動一過性徐脈が確認され,正午には胎児心拍数が80bpmまで下降したたため,酸素投与が開始され,体位変換等が行われた。午後0時20分には,子宮収縮に一致して,変動一過性徐脈が2回確認されたものの,バリアビリティー(基線細変動)とともに,子宮収縮に一致するアクセレレーション(一過性頻脈)が確認され,0時30分,酸素投与は中止され,経過観察となった(乙A。 1)エ午後3時20分,陣痛が弱いため陣痛促進剤を使用することとなり,オキシトシン(陣痛促進剤)による陣痛促進が開始された(乙A1。 )オ午後4時35分,肛門部の痛みが強いため,0.2%アナペイン6mlが投与され,4時40分には,持続注入量が8ml/hから10ml/hに増量された(乙A1。 )カ午後6時16分ころから,遅発一過性徐脈が頻回に確認されたため,酸素の投与が開始されたが,午後6時38分ころには,胎児心拍数が70bpmまで下降した。その時点では,児頭は±0で下降しておらず,鉗子分娩の適位ではなかったため,オキシトシンによる陣痛促進は中止された。 しかしながら,その後,80bpm台の遷延一過性徐脈が出現したため,帝王切開が施行されることとなった。そして,午後7時には手術室に搬入され,再度硬膜外麻酔が施行された後,緊急帝王切開が行われ,午後7時42分に女児を娩出した(乙A1)。 退院までの経過( )ア出産の翌日である平成15年11月24日,原告は,後陣痛が痛いと訴えたが,その痛みは自制内のものであった。なお,下肢のしびれの訴えはなかった。 同月25日午前10時,原告は,術後初回歩行を行い,歩行はゆっくりではあったものの,めまいやふらつきはなかった。その際,原告からは,腰が痛い 内のものであった。なお,下肢のしびれの訴えはなかった。 同月25日午前10時,原告は,術後初回歩行を行い,歩行はゆっくりではあったものの,めまいやふらつきはなかった。その際,原告からは,腰が痛いとの訴えがあったが,やはり下肢のしびれについての訴えはなかった(乙A1)。 イ同月26日午前10時,原告から,腰の辺りが鈍くて思うように体が動かせない,軽度の下肢のしびれ(知覚上昇)があるとの訴えがあったが,独歩で授乳室へ行くなど,スムーズに体が動かせる様になっている様子も確認された。そして,午後3時にも右腰の辺りが鈍いとの訴えがあったため,冷湿布を貼用して様子をみることとなった。なお,同日午後7時の時点では,下肢のしびれの訴えはなかった(乙A1)。 ウ同月29日,新生児の沐浴指導があったが,原告は,腰痛のため子を抱くことができず,看護師に代わりに行ってもらい,その後も退院するまで,腰痛のため,原告は自分で沐浴を行うことはできなかった(甲A7,乙A1。 )エ同月30日,原告から,ここ3日間頭痛があり,もともと偏頭痛持ちで薬が欲しいとの訴えがあったことから,ロキソニン(解熱鎮痛消炎剤)が処方された(乙A1。 )オ同年12月1日,原告は,被告病院を退院した(乙A1。 ) 退院後の経過( )ア平成15年12月24日,原告は,産後1か月健診のため,被告病院を受診し,日常生活に差し障るほどの背部痛があると訴えた。医師が触診したところ,第1腰椎,第2腰椎の付近の痛みが一番強い模様であった。医 師は,原告に対し,妊娠の影響,帝王切開の影響,硬膜外チューブの影響など色々と考えられるが,はっきりとした原因は不明であること,現在は,まだ妊娠の影響が完全には抜けていないので,2,3週間は様子を見る必要があり,2,3週間後も痛みに変化がな ,硬膜外チューブの影響など色々と考えられるが,はっきりとした原因は不明であること,現在は,まだ妊娠の影響が完全には抜けていないので,2,3週間は様子を見る必要があり,2,3週間後も痛みに変化がないようであれば,整形外科,麻酔科に相談するよう説明し,経過を観察することとした(乙A2)。 イ同月29日,原告が産科救急外来を訪れ,帝王切開の傷口のナイロン糸が気になると訴えたことから,ナイロン糸を切除し,消毒が行われた(乙A2。 )ウ平成16年1月15日,原告は,被告病院に電話をして,硬膜外麻酔が当初うまくいかなかったこと,胎児心拍数が低下し緊急帝王切開となったこと,その後,腰痛を訴えたが,経過観察とされているのみであること,退院時,帝王切開の傷口からナイロン糸が少し出ていたのに病棟医がこれに対処してくれなかったことなど,被告病院の対応に納得がいかないことがあるので,きちんと対応してほしいと伝えた上で,翌日の被告病院産科外来の診察予約を行った(乙A2)。 エ翌16日の診察の際,原告は,診察を担当したG医師に対し,硬膜外麻酔をした部分の腰痛が改善せず,反対に少し強くなった感じがすること,下肢のしびれや麻痺はないことを伝えた。G医師は,原告の話を聞いた上で,原告に対し,被告病院のペインクリニックを紹介した。 同日,原告は,被告病院ペインクリニック外来を受診し,H医師の診察を受け,無痛分娩目的での硬膜外麻酔を受けてから腰痛が持続していることを訴え,同医師により腰部から臀部にかけての圧痛,体動時痛が確認されたが,レントゲン上は,軽度の側彎があるほかは,問題となる所見は認められなかった。H医師は,1%カルボカイン(局所麻酔薬)3ml,ノイトロピン(鎮痛剤)1Aのトリガーポイント注射(圧痛点に局所麻酔薬あるいは局所麻酔薬を主剤とする薬剤を注 かは,問題となる所見は認められなかった。H医師は,1%カルボカイン(局所麻酔薬)3ml,ノイトロピン(鎮痛剤)1Aのトリガーポイント注射(圧痛点に局所麻酔薬あるいは局所麻酔薬を主剤とする薬剤を注射する手技)を行い,MRI検 査の予約をした。そして,同月22日,原告は被告病院においてMRI検査を受けた(乙A2,5)。 オ同月23日,原告は,電話で同月27日の被告病院産科外来の診察予約を行ったが,その際,被告病院のペインクリニックの対応について不満があることも伝えた。 同月27日,原告を診察したE医師は,神経の圧迫所見や局所の発赤が認められず,原告が,しびれはないが,足の方まで痛い,かがむときと起きるときに痛みがあり,背中からピキンと痛い,腰に力を入れたとき,腰を曲げたとき,腰をひねったときに痛みがあり,1回目の麻酔の際にはしびれはなかったなどと述べたことから,育児に伴う腰痛の可能性が高く,硬膜外麻酔の影響の可能性は低いと判断したが,念のため,ペインクリニックでMRIをチェックしてもらうこととし,ミオナール(筋弛緩剤,)ロキソニン(消炎鎮痛剤)を処方し,経過観察とした(乙A2)。 カ同月30日,被告病院ペインクリニック外来において,22日に撮影されたMRI画像のチェックを受けたところ,血腫や炎症を示唆する所見は認められなかった。しかし,原告が腰痛が続いていると述べたことから,1%カルボカイン3ml,ノイトロピン1Aのトリガーポイント注射とともに,スーパーライザー(近赤外線による光線治療器)による消炎鎮痛処置が行われた。 同年2月6日,原告は,被告病院ペインクリニック外来を受診したが,原告が注射も痛いと述べたため,スーパーライザーによる消炎鎮痛処置のみが行われ,その後,原告は,同月12日,25日,3月11日にスーパーライザ 日,原告は,被告病院ペインクリニック外来を受診したが,原告が注射も痛いと述べたため,スーパーライザーによる消炎鎮痛処置のみが行われ,その後,原告は,同月12日,25日,3月11日にスーパーライザーによる治療を受けた(乙A5)。 キ同年4月7日,原告は,スーパーライザーによる消炎鎮痛治療に加え,第4腰椎/第5腰椎椎間関節に対する椎間関節ブロック及びモービック(解熱鎮痛消炎剤)の処方を受け,4月14日には,明らかな圧痛部位は 第3腰椎/第4腰椎間のみであったことから,同部位に一致した第3腰椎/第4腰椎間椎間関節ブロック及びネオビタカイン(解熱鎮痛消炎剤)1A,ノイトロピン1Aのトリガーポイント注射を受けた(乙A5。 )クその後,原告は,被告病院ペインクリニック外来において,同年5月1日,5月19日,5月22日,6月5日にスーパーライザーによる消炎鎮痛治療を受けた。なお,5月1日の診察の際には,原告から,椎間関節ブロックを受けたところは少し楽になるが,注射をすると刺入点の周囲が痛くなる,両大腿前面や下腹部に重だるい感じがあるなどの訴えがあった。 (乙A5)ケ同年6月14日の被告病院ペインクリニック外来での診察の際,原告は,H医師に対し,最近は,腰部痛に加え,両下肢にもしびれ,痛みがあると訴えた。H医師は,原告の状態が悪化していることから,椎間関節ブロックは行わず,MRI検査を予約することとした。 そして,同月19日の診察の際,原告は,診察を担当したI医師に対し,両下肢のしびれが強く歩きにくく,走ったりすることはできないこと,以前は痛くても小走りはできたが,最近はカクッと足が崩れるようになり,症状としては徐々に進んでいることなどを伝えた(甲A8,乙A5。 )コ同月22日,造影MRI検査が行われる予定であったが,原告が造影剤の ても小走りはできたが,最近はカクッと足が崩れるようになり,症状としては徐々に進んでいることなどを伝えた(甲A8,乙A5。 )コ同月22日,造影MRI検査が行われる予定であったが,原告が造影剤の副作用に恐怖感を持ち,造影剤の使用を拒否したことから,造影剤を使用しない通常のMRI検査が行われた(乙A2,乙A5。 )サ同月28日,原告は,被告病院ペインクリニック外来を受診し,22日に撮影されたMRI検査の確認を受け,H医師から,以前のMRI画像と比べ第5腰椎/第1仙椎部の椎間板変性は進行している所見はあるものの,原告の症状を全て説明できるような所見は確認できない旨の説明を受けた。 H医師は,原告に対し,場合によっては,脳神経内科の受診も必要であり,婦人科の医師と再度話し合いをしてもらいたいと伝えた(甲A8,乙A。 5)シ原告は,H医師の話を受け,同年6月29日に被告病院産科外来を受診し,E医師に対し,腰の痛みに変わりはなく,右足が時々しびれること,腰と大腿部前面の辺りが痛いこと,起きた時に正座をしていた時のような足のしびれがあること,足のしびれは,最近仕事をするようになって,気付くようになったかもしれないことなどを伝えた。E医師は,原告からの訴えを聞き,原因検索のために,脳神経内科外来を受診することを勧めた。 (甲A8,乙A2)ス同年6月30日,原告は,被告病院脳神経内科外来を受診し,J医師の診察を受けた。J医師は,腰部に可動痛はあるものの,運動,知覚に特に問題はなく,下肢筋力,深部腱反射にも異常が認められなかったが,馬尾の障害の疑いと診断した上で,NSAID(非ステロイド性抗炎症剤)の投与とカウンセリングが必要と診断し,抗うつ薬等を処方して様子を見ることとした。なお,同日のカルテには,原告には,痛みとともに,ストレスと 疑いと診断した上で,NSAID(非ステロイド性抗炎症剤)の投与とカウンセリングが必要と診断し,抗うつ薬等を処方して様子を見ることとした。なお,同日のカルテには,原告には,痛みとともに,ストレスと不満があるという意味の記載がある。 同年7月7日の診察の際,J医師は,NSAIDが作用していると考え,ボルタレン(解熱鎮痛消炎剤)の処方を継続するとともに,トフラニール(抗うつ薬)等の処方も行った(乙A4)。 セ同年7月20日,被告病院脳神経内科において,両下肢について筋電図検査を行ったところ,右下肢で深腓骨神経の運動神経伝達速度の低下(複合筋活動電位(CMAP)の振幅低下)が確認されたものの,その他については正常範囲内であったことから,右深腓骨神経の軸索障害の疑いと診断された(乙A4。 )ソその後,原告は,同年7月21日,8月18日,10月6日に,被告病院脳神経内科外来を受診し,治療を継続した(乙A4。 ) 他院における経過( ) ア原告は,平成16年11月13日,両下肢のしびれ,腰痛を主訴として,東京都K区所在のLクリニックを受診し,同クリニックにおいて理学療法等の治療を受け,同年12月17日,平成17年2月12日にも同様の処置を受けた。平成17年2月12日の診察の際,原告がMRIの撮影と整形外科的診察を希望したことから,同クリニックのM医師は,原告に対し,東京都N区所在のC整形外科を紹介した(乙A29)。 イ原告は,平成17年2月19日,腰の痛み・つっぱり,大腿後部のしびれを主訴として,C整形外科を受診し,MRI検査を受けたところ,第5腰椎/第1仙椎間に,わずかに椎間板変性が確認され,第2仙椎レベルの脊柱間内に仙骨嚢腫も確認された。そこで,原告を診察したD医師は,第5腰椎/第1仙椎の椎間板変性,第2仙椎付近の仙骨嚢 ところ,第5腰椎/第1仙椎間に,わずかに椎間板変性が確認され,第2仙椎レベルの脊柱間内に仙骨嚢腫も確認された。そこで,原告を診察したD医師は,第5腰椎/第1仙椎の椎間板変性,第2仙椎付近の仙骨嚢腫の原告の症状への影響について判断してもらうため,O病院のP医師に診察を依頼した。 (乙A28)ウ同年4月4日,原告は,O病院を受診し,P医師の診察を受けたところ,神経学的には,両側大腿四頭筋以下の筋力低下,知覚傷害が認められるものの,MRI画像(C整形外科において撮影されたもの)上では明らかな神経圧迫所見はやはり認められなかった。P医師は,第5腰椎/第1仙椎の椎間板変性はヘルニアではなく,部位としても,大腿前部にしびれが生じる部位ではないことから,第5腰椎/第1仙椎の椎間板変性が原告の症状の原因ではないと判断し,また,仙骨嚢腫も第2仙椎という部位からして,大腿前部のしびれが生じることは考えられないとして,やはり原告の症状には影響していないと判断した。そして,P医師は,原告の症状が硬膜外麻酔直後から発症していることからすると,何らかの神経損傷や血腫があったのではないかと考えられると診断した(甲A4,甲B11,乙。 A28)エ同年5月28日,原告は,C整形外科のD医師により,腰痛及び両下肢 のしびれについて平成17年2月19日の初診時に症状固定していると思われるとの診断を受けた(甲A1。 ) 医学的知見 硬膜外無痛分娩( )ア硬膜外無痛分娩とは,硬膜外麻酔(硬膜外腔にカテーテルを挿入し,麻酔薬を注入することによって行う麻酔)を用いて,経膣分娩の痛みをコントロールし,分娩に伴う母体の体力消耗を極力低下させようという分娩方法である。 無痛分娩に適している患者は,①痛みや子宮収縮による心血管系への負担が望ましくない合併症を持 いて,経膣分娩の痛みをコントロールし,分娩に伴う母体の体力消耗を極力低下させようという分娩方法である。 無痛分娩に適している患者は,①痛みや子宮収縮による心血管系への負担が望ましくない合併症を持つ産婦,②骨盤位や多胎,妊娠中毒症など,帝王切開となるリスクが高い症例,③分娩中に痛みで全身が強直したり,興奮状態となってしまった産婦等とされているが,禁忌に該当しない限り,お産の際の痛みをとってほしい産婦であれば適応があるとされる(甲A。 3,甲B2,14)イ無痛分娩の際の硬膜外麻酔は,その他の場合の硬膜外麻酔と異なり,既に妊婦が痛みを感じていることから適切な体位を維持しにくいこと,お腹が大きいためにとれる姿勢に限界があること,皮下脂肪の量が妊婦により差が大きいため,皮膚から硬膜外腔までの距離を予測するのが困難であることなどの事情から,技術的に難しく,高い技術が必要とされ,穿刺は十分な経験を積んだ麻酔科医によって行われることが望ましいとされている(甲B9,14,15。 ) 硬膜外麻酔の副作用と合併症( )ア硬膜外麻酔の副作用,合併症としては,血圧の低下,徐脈,腰痛・背部痛,硬膜穿刺,局所麻酔薬のくも膜下腔注入,局所麻酔中毒,神経障害,硬膜外血腫,硬膜外腔感染,硬膜外膿瘍,カテーテルの血管内迷入などがある(甲B2,6)。 イ腰痛・背部痛硬膜外麻酔後の腰部・背部痛は,2%から31%に生じるとされる。そのほとんどが刺入部の組織損傷等に伴う痛みであり,一過性のものであるが,硬膜外血腫や膿瘍によっても背部痛が生じることがあり,下肢の神経学的症状を伴う場合にはMRIにて評価することが必要となる(甲B2,証人R医師,証人S医師,証拠保全記録。 )なお,硬膜外麻酔分娩後には,30%から40%とかなりの頻度で腰部・背部痛がみられる 経学的症状を伴う場合にはMRIにて評価することが必要となる(甲B2,証人R医師,証人S医師,証拠保全記録。 )なお,硬膜外麻酔分娩後には,30%から40%とかなりの頻度で腰部・背部痛がみられるとされている。しかし,長期的にみると硬膜外麻酔の有無によって腰部・背部痛の発生頻度に差はなく,腰部・背部痛と硬膜外麻酔との関連性は薄いとされ,分娩後の腰部・背部痛は,妊娠や分娩そのものに伴うものが大部分であるとされる(証人S医師,証拠保全記録)。 ウ硬膜穿破硬膜穿破の頻度は0.2%から2.5%とされ,硬膜穿破の頻度は,術者の経験が硬膜穿破率に反比例していたとの報告や研修医は硬膜に誤穿刺する頻度が2倍高いとの報告がある。 硬膜外針により硬膜を穿刺し,硬膜を穿破した場合,内筒を抜いた際に脳脊髄液の逆流が確認できることが多く,これにより硬膜の穿破を確認することができる。もっとも,硬膜を穿破した場合であっても,脳脊髄液の逆流が確認できないこともある。 また,脳脊髄液が硬膜外腔に流出することによる頭痛が生じることがあり,硬膜外針(17Gないし18G)で硬膜を穿破した場合,頭痛の発生頻度は90%に上り,そのうち75%から80%に重症の頭痛が起こるため,頭痛の発生からも硬膜の穿破を確認することが可能であるとする文献もある(甲B2,10の2,甲B28,証拠保全記録)。 エ神経損傷㨯硬膜外麻酔分娩後の一過性の感覚異常,知覚異常の発生頻度は5%か ら25%,4週間ないし6週間持続する感覚異常の頻度は,0.05%から0.423%といわれている。また,硬膜外麻酔に伴う永続的な神。 ,経損傷の頻度は0.02%から0.07%といわれている(甲B1932)㨯硬膜外麻酔の際に,患者が放散痛を訴える場合は,硬膜外針やカテーテルで脊髄神経根を刺激している可 酔に伴う永続的な神。 ,経損傷の頻度は0.02%から0.07%といわれている(甲B1932)㨯硬膜外麻酔の際に,患者が放散痛を訴える場合は,硬膜外針やカテーテルで脊髄神経根を刺激している可能性がある。また,硬膜外針やカテーテルが神経根に触れた場合,多くの患者は「ビリッと響く「足にビ」ーンと響く」といった感覚で表現されることの多い放散痛を訴え,瞬間的な体動を起こす。神経根刺激による放散痛や瞬間的な体動は,神経損傷が生じるおそれがあることを示す重要なサインであり,患者が放散痛を訴える場合や瞬間的な体動を起こす場合は,即座に硬膜外針やカテーテルを抜去しなければならない(甲B19,32,証人S医師)。 㨯硬膜外針やカテーテルにより神経損傷が生じた場合,直後から,損傷した神経の支配領域の感覚障害,運動障害が発現し,徐々に治ってくるという経過が一般的である。神経の損傷が高度の場合には,回復が不十分となり後遺症として残存することがある。 なお,下肢の神経支配と機能については,下記の表のとおりである。 (甲B2,19,32,証人S医師)神経感覚障害運動障害腰仙骨神経幹下腿と足の外側感覚低股関節外転,垂れ足(L4,L5)下片側大腿四頭筋筋力低下大腿神経大腿前面と下腿内側面大腿四頭筋麻痺(L2~L4)の感覚低下外側大腿皮神経大腿前外側面感覚低下(L2,L3) 坐骨神経臀部後面の痛みと下肢下肢屈曲不能(L4~S3)放散痛閉鎖神経大腿内側面の感覚減弱下肢内転不能(L2~L4)総腓骨神経下腿前外面と足背足趾内反底屈(L4~S2)の感覚消失伏在神経足内側面と下肢前内側(L2~L4)面の感覚消失 馬尾症候群( )馬尾症候群は,膀胱直腸障害,会陰部の知覚傷害,下肢の運動麻痺を主症状とする下部脊髄 (L4~S2)の感覚消失伏在神経足内側面と下肢前内側(L2~L4)面の感覚消失 馬尾症候群( )馬尾症候群は,膀胱直腸障害,会陰部の知覚傷害,下肢の運動麻痺を主症状とする下部脊髄神経根障害であり,腰痛,下肢の疼痛及びしびれが特徴的症状であるとする文献もある。原因疾患は外傷,椎間板ヘルニア,馬尾腫瘍など種々である。 なお,馬尾神経が走行している部位は空間的余裕が比較的大であるため,馬尾神経の障害の態様等によっては,麻痺が非対称になったり島嶼状になったり,運動麻痺のみが出たりすることがある(甲B5,6,35,証人R。 医師,証人S医師) 心因的要因が疼痛発生に与える影響( )疼痛発生には,局所の病態のみならず,心理的・社会的因子が深く関与しているとされる。すなわち,画像上,椎間板ヘルニアが認められても,全く症状のない症例がある一方,手術適応となる症例もある。両者の違いの一つに精神社会学的な問題があり,手術適応例では,抑うつや不安を訴え,自制心が乏しく,結婚生活にも問題がある症例が多いとされる。 また,硬膜外麻酔後に神経障害が長期間残存する場合は,心因性の要因も加わる可能性があるので,麻酔科,心療内科,精神科などへ相談し,抗うつ 薬などの薬物療法や行動療法を行うこととされている。 なお,疼痛の原因である疾患が治癒したとしても,心因的な要因により痛みが遷延するとの見解もある(甲B29,32,乙B1,証人R医師,証。 人S医師) 争点1 (硬膜外麻酔を行う前に放散痛についての説明・指示を怠った過失の( )有無)について 原告は,B医師は原告に対し,硬膜外麻酔の施術前に放散痛について何ら( )の説明・指示もしなかったと主張し,原告の供述(甲A6,原告本人)中には,これに沿う部分がある。 また,硬膜外麻酔を実施 原告は,B医師は原告に対し,硬膜外麻酔の施術前に放散痛について何ら( )の説明・指示もしなかったと主張し,原告の供述(甲A6,原告本人)中には,これに沿う部分がある。 また,硬膜外麻酔を実施する医師には,神経損傷の発生を防止するため,硬膜外麻酔を行う前に患者に対し,放散痛について説明するとともに,放散痛を感じた場合にはその旨を医師に伝えるように指示すべき義務があることは,当事者間に争いがないところである。 しかしながら,証人S医師の証言では,硬膜外麻酔を行う医師の間では,事前に,患者に対して足に響くようなことがあれば伝えるように指示するのが一般であるとされているところ,B医師は,麻酔研修期間中に27例の硬膜外麻酔の経験を有し,麻酔研修後も原告に対する硬膜外麻酔を行うまでに5例の無痛分娩目的での硬膜外麻酔の経験を有する産婦人科医師であって,硬膜外麻酔の手技において患者が放散痛が生じたことを医師に伝えることの意味とその重要性を認識していたものと認められ,同医師自身も,その証人尋問において,硬膜外麻酔を行う前に,原告に対し,痛みやびりっとした感じを覚えたら,体を動かさず口で伝えるよう指示したと証言していること,前記12 アで認定した,原告に対する硬膜外麻酔施術前のB医師の行動等か( )らすると,同医師において原告に対する放散痛についての説明・指示を忘れるような特段の事情があったとは認められないことに照らすと,原告の上記供述部分はにわかに採用することができないというべきである。 そして,B医師は,前記12 イのとおり,局所麻酔を終えた後硬膜外麻酔( )( )をする前に,原告に対し,痛みやびりっとした感じを覚えたら,体を動かさず口で伝えるよう指示している以上,放散痛が生じた際の痛みの性状・知覚の内容が前記22 エのとおりで 後硬膜外麻酔( )( )をする前に,原告に対し,痛みやびりっとした感じを覚えたら,体を動かさず口で伝えるよう指示している以上,放散痛が生じた際の痛みの性状・知覚の内容が前記22 エのとおりであることからすると,B医師が行った説明・( )指示は,神経損傷の発生を防止するという目的に照らして十分な内容であったと認めることができる。 したがって,B医師に硬膜外麻酔を行う前に放散痛についての説明・指示( )を怠った過失があるとの原告の主張は採用することができない。 争点2 (硬膜外麻酔施術中に放散痛の有無を確認することなく手技を継続し( )た過失の有無)について 原告は,硬膜外麻酔を実施する医師には,神経損傷の発生を防止するため,( )硬膜外穿刺やカテーテル挿入の手技中にも,患者に対し,放散痛の有無を尋ね,放散痛が認められた場合には直ちに手技を中止すべき義務があるのに,B医師は,原告に対する硬膜外穿刺及びカテーテル挿入を行うに際し,原告に放散痛の有無を尋ねることなく,原告が繰り返し「痛い!」と訴えているにもかかわらず,原告にそれが放散痛であるかどうかを確認することもなく,硬膜外針穿刺,カテーテル挿入の手技を継続した過失があると主張し,原告の供述(甲A6,原告本人)中にはこれに沿う部分がある。 また,硬膜外麻酔を行う医師が,患者が硬膜外麻酔の手技中に放散痛を訴えた場合,神経損傷の発生を防止するため,硬膜外針穿刺,カテーテル挿入の手技を直ちに中止すべき義務を負うことは,当事者間に争いがない。 手技中に放散痛の有無を尋ねなかった過失について( )まず,原告が,硬膜外麻酔を実施する医師には,硬膜外針穿刺やカテーテル挿入の手技中にも,患者に対し,放散痛の有無を患者に尋ねるべき義務があるのに,原告に放散痛の有無を尋ねなかった過 について( )まず,原告が,硬膜外麻酔を実施する医師には,硬膜外針穿刺やカテーテル挿入の手技中にも,患者に対し,放散痛の有無を患者に尋ねるべき義務があるのに,原告に放散痛の有無を尋ねなかった過失があると主張する点については,硬膜外麻酔を実施する医師が患者に対し,硬膜外麻酔を行うに当た り,放散痛についての説明・指示をする必要があるのは,実際に放散痛を患者が感じた場合に,手技を行っている医師にそのことを認識させて直ちに手技を中止させ,もって神経損傷の発生を未然に防止するためであるところ,手技を行う前に放散痛について説明・指示しておけば,医師が手技中に放散痛があるか否かを逐一確認しなくとも,患者は医師に対し,放散痛が生じたことを伝えることができ,医師においても,この患者の訴えや体動などによって放散痛の有無を確認することが十分に可能となる。したがって,患者に対し,事前の説明に加え,硬膜外麻酔の手技中に,放散痛が生じているか否かを逐一確認する必要はないことは明らかというべきである。したがって,原告の上記主張は採用することができない。 原告が痛みを訴えたにもかかわらず手技を継続した過失について( )次に,原告が,B医師には,原告が繰り返し「痛い!」と訴えているにもかかわらず,それが放散痛であるかどうかを確認することなく,硬膜外穿刺・カテーテル挿入の手技を継続した過失があると主張する点については,確かに,患者が硬膜外麻酔の手技中に痛みを訴えるような場合,硬膜外穿刺やカテーテル挿入の状況等からして明らかに神経に触れているとは考えられないときを除き,その痛みの性状・性質等を具体的に確認すべきは硬膜外麻酔を行う医師として当然の義務というべきである。そして,原告は,本人尋問において,B医師による硬膜外麻酔の手技中に,10回近く腰から足に電 を除き,その痛みの性状・性質等を具体的に確認すべきは硬膜外麻酔を行う医師として当然の義務というべきである。そして,原告は,本人尋問において,B医師による硬膜外麻酔の手技中に,10回近く腰から足に電気が走るようなビリッとした痛みを感じ,これらは通常の痛みとは全く異なる痛みであり,繰り返し「痛っ」と大声を上げて,B医師に痛みがあることを訴えたにもかかわらず,同医師は原告に対し,感じている痛みがどのような痛みであるか尋ねることなく手技を継続したと,上記主張に沿う供述をしている。 しかしながら,原告の上記供述の信用性については,次の各事情が認められるところである。 ア原告は,前記15 オのとおり,平成16年1月27日に被告病院産科外( )来を受診した際には,原告を診察したE医師に対し,1回目の麻酔(B医師による硬膜外麻酔)の際にしびれはなかったと述べているのであり,そのことは,B医師による硬膜外麻酔の際に10回近く腰から足に電気が走るようなビリッとした痛みを感じたとする原告の上記供述と矛盾するというべきである。 なお,原告は,この点に関し,当時「しびれ」という言葉の意味が理解できなかったにすぎないとも主張するが,前記12 イ,5 エ,オのとおり,( )( )B医師は硬膜外麻酔を行う前に原告に対し,痛みやびりっとした感じを覚えたら,体を動かさず口で伝えるよう指示していたこと,原告は,退院後の被告病院医師らの診察の際に「しびれ」という言葉を用いて診療時の,自らの症状を医師に伝えていたことが認められるから,原告が当時「しびれ」という言葉の意味が全く理解できていなかったとはにわかに認め難い。 また,原告は,上記のとおり,B医師による硬膜外麻酔の際に感じた痛みは通常のものとは全く異なる痛みであったとも述べているのであるから,そうである 意味が全く理解できていなかったとはにわかに認め難い。 また,原告は,上記のとおり,B医師による硬膜外麻酔の際に感じた痛みは通常のものとは全く異なる痛みであったとも述べているのであるから,そうであるとすれば,退院後の痛みに関する被告病院の医師らの診察の際に,B医師による硬膜外麻酔の際には通常の痛みとは全く異なる痛みを感じたことを訴えてしかるべきであるが,前記15 の退院後の経過に照らす( )と,原告がかかる訴えをしたとは認めることができない。 イ硬膜外麻酔の際に,10回近く放散痛を感じたという原告の供述を前提とすると,硬膜外針又はカテーテルが10回近く神経に触れたということになる。そして,前記22 エのとおり,多くの患者は放散痛が訴える場合( )には瞬間的な体動を起こすとされていることからすると,硬膜外針やカテーテルが10回近くも神経に触れれば,その度に瞬間的な体動を繰り返し起こしているはずである。そして,硬膜外麻酔の際に患者が瞬間的な体動を起こしたことは,神経損傷が生じるおそれがあることを示す重要な事実 であり,こうした事実があったにもかかわらず,医師あるいは看護師がそのことをカルテに記載しないということは通常は考え難いところである。 にもかかわらず,被告病院の原告に関するカルテ(乙A1)には,原告が硬膜外麻酔の手技の際に瞬間的な体動を起こしたとの記載はないのであるから,原告の上記供述は,客観的裏付けを欠くものといわざるを得ない。 そもそも,原告の主張するように,患者が痛みを訴えるとともに,瞬間的な体動を繰り返し起こしており,硬膜外針又はカテーテルが神経に触れたことが窺われるにもかかわらず,硬膜外麻酔を行う医師が,これを無視して手技を継続し,周囲の医師や助産師もこれを制止しないということは,およそ医療従事者の行動として考え難い はカテーテルが神経に触れたことが窺われるにもかかわらず,硬膜外麻酔を行う医師が,これを無視して手技を継続し,周囲の医師や助産師もこれを制止しないということは,およそ医療従事者の行動として考え難いというべきである。 ウ硬膜外麻酔の際に10回近く放散痛を感じたという原告の供述を前提とすれば,相当程度の神経損傷があったものと推認されるが,前記22 エの( )とおり,硬膜外針やカテーテルによって神経損傷が起こった場合,硬膜外麻酔の直後から,損傷された神経に対応する下肢や臀部の感覚障害,運動障害が発現し,徐々に改善傾向を示すという経過が一般的であるところ,本件においては,当初は腰痛のみであった症状が,時間の経過とともに,大腿部の痛みや下肢のしびれといった症状が加わるとともにその症状が重篤化してきており,硬膜外針やカテーテルによる神経損傷が起こった際の一般的な経過と整合しないところがある(なお,硬膜外麻酔併用全身麻酔が行われ,その術後7日目ころより右臀部の違和感を訴え,右第3仙椎/第5仙椎の領域に限局する神経障害が認められ,神経学的検査の結果,馬尾症候群と診断され,その原因として硬膜外麻酔が最も疑われたとの症例も報告されている(甲B33)ものの,証人S医師によれば,同症例は硬膜外麻酔の際に神経が傷害されたものではなく,血腫等の他の原因によって生じたものと思われ,仮に馬尾神経が傷害されたとすれば,麻酔から覚醒した後数日後に症状が生ずるようなことはあり得ないとされているとこ ろである。 。)また,原告は,被告病院の原告に関するカルテ上は,出産直後には原告に下肢の痛みやしびれがあることが記載されていないとしても,それは被告病院の医師らの診察が不十分で,原告の症状を見逃したにすぎず,また,腰の痛みが強かったために原告自身が足のしびれ等を認 後には原告に下肢の痛みやしびれがあることが記載されていないとしても,それは被告病院の医師らの診察が不十分で,原告の症状を見逃したにすぎず,また,腰の痛みが強かったために原告自身が足のしびれ等を認識することができなかったにすぎないのであって,そのことをもって,原告に下肢の痛みやしびれがなかったと評価することはできないとも主張する。しかし,原告は,本人尋問において,腰や下肢の痛み等については入院期間中とそれ以後で大きな変化はないと述べているところであり(原告本人,この原告)の供述内容を前提にする限り,出産直後からの原告の痛み等の症状に関する訴えのうち,腰の痛みのみカルテに記載し,下肢の痛みについては一切カルテに記載しないというのは不自然であるし,下肢のしびれについても,原告が当初は下肢のしびれを訴えず,後に訴えるようになった理由を合理的に説明することができないというべきである。 エ原告が主張するように,硬膜外針,カテーテルが馬尾神経に触れるためには,硬膜を穿破する必要があり,硬膜を穿破した場合には,前記22 ウ( )記載のとおり,脊髄液の逆流,頭痛の発生等が認められるところ,本件においては,上記症状のいずれについても認められておらず,硬膜を穿破したことを窺わせる事実は何ら存在しない。 なお,原告は,本人尋問において,帝王切開手術の麻酔から覚醒直後から頭痛を感じていたと述べている(原告本人)が,前記14 アのとおり,( )同月25日には,ゆっくりではあるが,めまいやふらつきもなく初回歩行を行っており,頭痛の訴えはなかったこと,前記14 エのとおり,原告は,( )出産から7日が経過した平成16年11月30日になって,ここ3日間(11月28日から30日の3日間)頭痛がある,もともと偏頭痛持ちであると述べたことからすると,原告に手術 のとおり,原告は,( )出産から7日が経過した平成16年11月30日になって,ここ3日間(11月28日から30日の3日間)頭痛がある,もともと偏頭痛持ちであると述べたことからすると,原告に手術の麻酔から覚醒直後から頭痛が あったとは認めることができず,同月30日に原告が訴えた頭痛は,従来から原告が感じることのあった偏頭痛であり,硬膜穿破を窺わせるような頭痛ではないと認めるのが相当である。 また,証人R医師は,手術直後に原告に頭痛の訴えがなかったのは,動( )かないで横になっていたためであると述べる(証人R医師)が,前記14アないしウのとおり,原告は,平成16年11月25日には初回歩行を行い,26日には,独歩で授乳室へ行くなどしているのであって,証人R医師の上記証言は原告の手術後の行動と合致せず,にわかに採用することができない。 オ加えて,原告は,本人尋問において,B医師による硬膜外麻酔の際には秒単位で連続して放散痛を感じたと述べているところ,そうであれば,硬( )膜外針やカテーテルが連続して神経に触れたということになる,前記21のとおり,馬尾神経が走行している部位は空間的余裕が比較的大であり,馬尾神経は,その形状等から,硬膜外針やカテーテルが触れても,これらから逃げるような動きをすることが多いとされている(証人S医師)から,原告の供述するように,秒単位で連続して何度も硬膜外針やカテーテルが神経に触れたということは考え難く,原告の供述は不自然というべきである。 してみると,B医師による硬膜外麻酔の際に,放散痛を10回近く感じていたとの原告の上記供述は,本件訴訟提起前の原告自身の発言内容と矛盾する部分があること,その内容が真実であるとすれば当然存在するはずの事実や証拠が存在していないことなどに照らし,これを採用することはで たとの原告の上記供述は,本件訴訟提起前の原告自身の発言内容と矛盾する部分があること,その内容が真実であるとすれば当然存在するはずの事実や証拠が存在していないことなどに照らし,これを採用することはできず,他に原告の上記主張を認めるに足りる証拠はない。 そして,本件では,前記12 オのとおり,B医師による4回目の穿刺時に( )( )原告は痛みを訴えたが,その際には,B医師が原告に対し,どこが痛いかを尋ねて,原告の痛みが放散痛でないことを確認して手技を継続したのである から,同医師に注意義務違反はないというべきである。 したがって,B医師には,原告に対する硬膜外麻酔を行うに当たり,原告が放散痛を訴えたのを看過し,放散痛の有無を確認することなく,硬膜外穿刺・カテーテル挿入の手技を継続した過失があるとする原告の主張は採用することができない。 口頭弁論終結期日に陳述された原告準備書面8 において新たに追加された主( )張について本件における争点及び原告・被告の主張は,平成20年5月16日の口頭弁論終結期日において,平成20年1月17日の第14回弁論準備手続調書添付の主張要約書記載のとおりであることが,裁判所と原告・被告との間で確認されているところである。したがって,口頭弁論終結期日に陳述された同年5月16日付原告準備書面8 において新たに追加された被告病院の注意義務違反の( )主張については,必ずしも本判決で判断する要はないが,念のため,上記主張について付言する。 B医師に硬膜外麻酔を単独で行わせたこと,上級医コール体制整備義務を( )懈怠したこと及び昼間の時間に無痛分娩を実施するべき義務を懈怠したことについてア上記準備書面において,原告は,①技術的に未熟なB医師に単独で硬膜外麻酔を行わせてはならず,②B医師に硬膜外 ( )懈怠したこと及び昼間の時間に無痛分娩を実施するべき義務を懈怠したことについてア上記準備書面において,原告は,①技術的に未熟なB医師に単独で硬膜外麻酔を行わせてはならず,②B医師に硬膜外麻酔を行わせるのであれば,カテーテルの留置が成功しない場合,上級医の意見を仰ぎ,交代することのできるような体制を整備する義務があったにもかかわらず,これを怠った,③出産予定日との関係を考慮し,無痛分娩の予定をもっと前にし,熟練の医師のいる昼間の時間に実施するようにすべきであったにもかかわらず,これを怠ったなどと主張する。 イ上記ア①について確かに,前記第2の21 ウのとおり,原告に対する硬膜外麻酔を行った( ) 時点において,B医師は,麻酔研修中に27例の硬膜外麻酔を経験し(なお,27例のうち,約半数については2回の穿刺でカテーテルを留置することができず,指導医と交代している,麻酔研修後に無痛分娩目的の硬。)膜外麻酔5例を経験しているのみであり,決して硬膜外麻酔の経験が豊かな熟練の医師であるとはいい難い。また,前記第3の21 イのとおり,無( )痛分娩目的の硬膜外麻酔は,技術的に難しく,高い技術が必要とされ,穿刺は十分な経験を積んだ麻酔科医によって行われることが望ましいとされているところである。したがって,一般論としては,硬膜外麻酔を行うに当たっては,B医師において硬膜外穿刺,カテーテル挿入の手技を成功できない場合には,上級医と交代できる環境の下に行うことが理想的であったということができる。 しかしながら,B医師は,麻酔研修を修了しているのであって,麻酔研修後の無痛分娩目的の硬膜外麻酔は,後遺障害等を発生させることもなく,すべて成功させたとされているところである。こうしたことを考慮すると,同医師が単独で硬膜外麻酔を行うことが いるのであって,麻酔研修後の無痛分娩目的の硬膜外麻酔は,後遺障害等を発生させることもなく,すべて成功させたとされているところである。こうしたことを考慮すると,同医師が単独で硬膜外麻酔を行うことが許されないとまではいうことはできない。 ウ上記ア②,③について前記12 エのとおり,B医師による硬膜外麻酔が行われた当時,B医師( )の上級医は被告病院に勤務していなかったわけではなく,B医師が上級医と交代等できなかったのは,上級医が急変の可能性のある重症症例の患者に対応していたためである。したがって,被告病院において,B医師が硬膜外穿刺ないしカテーテルの留置を成功できないなど,真に上級医との交代等が必要となった場合に,上級医と交代等できる体制を整備していなかったとはいうことができない。また,被告は夜間でも上級医に交代等できる体制を整えていたものと認められる以上,昼間の時間に無痛分娩を行うべき義務を負っていたとも認められない。 施術を行う医師に関する説明義務違反について( )ア原告は,未熟な医師が硬膜外麻酔を行うのであれば,その医師の属性等について説明し,患者の自己決定に委ねるべきであるにもかかわらず,これを怠ったとも主張する。 イしかし,B医師は,硬膜外麻酔について熟練した医師であるとはいえないものの,最低限の経験は有していたのであり,硬膜外麻酔を単独で実施することが許されないほどの未熟な医師であったとまではいうことができない。そして,患者から手技を行う医師の属性等について積極的に説明を求められたのであれば格別,患者からそのような要望等がないにもかかわらず,ルーチンとして手技を行う医師の属性等について積極的に説明する義務があるとまではいうことができないから,上記原告の主張も採用することができない。 B医師による硬 うな要望等がないにもかかわらず,ルーチンとして手技を行う医師の属性等について積極的に説明する義務があるとまではいうことができないから,上記原告の主張も採用することができない。 B医師による硬膜外麻酔の手技と原告の症状との関係についてなお,B医師による硬膜外麻酔の手技と原告の症状との関係について付言しておくこととする。前記認定によれば,原告には,硬膜外麻酔時に瞬間的な体動はなかったこと(前記33 ア,硬膜を穿破した所見は認められないこと( ))),(前記33 ウ,下肢の痛みやしびれ等は硬膜外麻酔の直後には生じておらず( )原告から下肢の痛みやしびれ等についての訴えがあったのは,硬膜外麻酔から約7か月が経過した後であること,原告が訴える症状は,時間が経過するにつれて悪化していること(前記15 ケ,33 イ)などに加え,硬膜外麻酔分娩後( )( )には30%から40%とかなりの頻度で腰部痛・背部痛が生じるが,腰部痛・背部痛と硬膜外麻酔の関連性は薄いとされていること(前記22 イ,疼痛の( ))発生には心因的要素が影響することもあるとされている(前記24 )ところ,( )原告は,被告病院に対し,硬膜外麻酔が当初うまくいかなかったことや,腰痛について経過観察とされ,治療を行ってもらえないことについて苦情を述べており,被告病院の対応に不満を持っていたものと認められること(前記15 ウ,( ) オ,また,被告病院のペインクリニック外来の原告に関するカルテには原告)にストレスがある旨の記載があり(前記15 ス,原告には育児や仕事等のス( ))トレスが存在したことが窺われること,痛みの原因である疾患が治癒しても心因的な要因により痛みが遷延するとの見解もあること(前記24 )などが認め( )られるところであり,これ 事等のス( ))トレスが存在したことが窺われること,痛みの原因である疾患が治癒しても心因的な要因により痛みが遷延するとの見解もあること(前記24 )などが認め( )られるところであり,これらの事実に照らすと,原告には,筋電図検査で,右下肢の深腓骨神経の運動神経伝達速度の低下が確認され,右深腓骨神経の軸索障害の疑いがあるとされていること(前記15 セ,両側大腿四頭筋以下の筋( ))力低下が存在すること(前記16 ウ)などの事情があることを考慮しても,原( )告の主張する症状のうち,腰痛については,硬膜外麻酔に伴う不可避の合併症である一過性の腰痛が,被告病院に対する不満やストレスなどの要因もあって遷延している可能性もあながち否定することはできないし,また,下肢の痛みやしびれ等については,これがB医師による硬膜外麻酔によって生じたものであるとまでは認めることはできないというべきである。 結論 以上のとおりであり,原告の被告に対する請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第34部裁判長裁判官村田渉裁判官松本展幸 裁判官小野本敦 (別紙)主張要約書第1硬膜外麻酔を行う前に放散痛についての説明,指示を怠った過失の有無(原告の主張) 硬膜外麻酔の際に,硬膜外針やカテーテルが神経に触れると,放散痛(感覚異常)が生じる。したがって,放散痛は,硬膜外針での穿刺によって神経損傷が生じる危険性が高いことを示唆する重要なサイン(徴憑・徴候)である。 上記のとおり,放散痛は神経損傷が生じるか否かの重要なサインであるから,硬膜外麻酔を行う医師は,神経損傷を回避するために,患者に対し,放散痛 険性が高いことを示唆する重要なサイン(徴憑・徴候)である。 上記のとおり,放散痛は神経損傷が生じるか否かの重要なサインであるから,硬膜外麻酔を行う医師は,神経損傷を回避するために,患者に対し,放散痛の内容・性状等を説明した上で,放散痛を感じた場合,具体的には,痛みがビリッと走ったり,足に響くようなことがあった場合には,すぐに医師に伝えるようにという趣旨の指示をしなければならないのである。 このように,硬膜外麻酔を行う医師は,患者に対し,放散痛が危険を示すサインであり,それが生じることは異常であることを説明し,放散痛が生じたら具体的に表現するように指示する義務を負っていた。 しかるに,B医師は,原告に対し,硬膜外麻酔の際に生じることのある放散痛について何らの説明,指示をすることもなく,上記義務を怠った。 (被告の主張) 硬膜外麻酔において,神経根に硬膜外針やカテーテルが当たった際に生じる痛み(放散痛・電撃痛)は,具体的には「響く「ビーンとくる「びりっとく」」る「電気が走った」というものであり,このように放散痛・電撃痛は通常の」痛みとは明らかに異なるものである。 そのため,硬膜外麻酔を行う術者が,患者に対し「放散痛・電撃痛」が生, じたか否かを確認するために行う「放散痛・電撃痛」に関する説明としては,手技を行うに際して,事前に「びりっとしたら言ってください」とか「響い,たら言ってください」ということを告げれば足りる。 本件において,B医師は,硬膜外麻酔を行う前に,原告に対して「痛みやびりっとした感じがあったら,体を動かさずに口でおっしゃってください」と告げているところ,このような説明を受ければ「放散痛・電撃痛」があった場,合にどのように対応すべきかを判断することは可能であるから,B医師による放散痛についての説明,指示 おっしゃってください」と告げているところ,このような説明を受ければ「放散痛・電撃痛」があった場,合にどのように対応すべきかを判断することは可能であるから,B医師による放散痛についての説明,指示に何ら問題はない。 第2硬膜外麻酔施術中に放散痛の有無を確認することなく手技を継続した過失の有無(原告の主張) 放散痛が,硬膜外針の穿刺によって神経損傷が生じる危険性が高いことを示唆する重要なサインであることは前記のとおりである。よって,無痛分娩目的の硬膜外麻酔を実施する医師には,神経損傷を防止するため,硬膜外穿刺,カテーテル挿入の手技中にも,放散痛の有無を患者に必ず尋ね,放散痛が認められた場合,硬膜外穿刺及びカテーテル挿入の手技を直ちに中止すべき義務がある。 しかるに,B医師は,原告に対する硬膜外麻酔の施術において,硬膜外針及びカテーテルを進めるに際し,原告に放散痛の有無を尋ねなかった。原告は,硬膜外穿刺,カテーテル挿入の際に,放散痛を感じ,繰り返し「痛い!」と訴えた(これは硬膜外針又はカテーテルが神経に触れたからである)にもかか。 わらず,B医師は,患者が放散痛を訴える場合は,痛いという表現をすることは多くないと思っていたため,原告に「どのような痛みですか」などと尋ね,ることによって,それが放散痛であるかを積極的に確認することなく硬膜外穿刺・カテーテル挿入の手技を継続した。 (被告の主張) 放散痛の有無の確認について 放散痛は,通常の痛みとは明らかに異なるのであり「響いたら言ってく( ),ださい「びりっときたら言ってください」といった説明を行えば,患者は」,通常の痛みとは違うものであるということを十分に判断することができ,硬膜外麻酔を行っている術者が,放散痛の有無を確認するための方法としては,硬膜外麻酔を ください」といった説明を行えば,患者は」,通常の痛みとは違うものであるということを十分に判断することができ,硬膜外麻酔を行っている術者が,放散痛の有無を確認するための方法としては,硬膜外麻酔を実施する前に,患者に対し「響いたら言ってください「び,」,りっときたら言ってください」と告げれば足りることは,前記のとおりである。 よって,硬膜外穿刺・カテーテルの挿入を行う度に,放散痛の有無を確かめる必要性も義務もない。 また,硬膜外麻酔を数回施行した経験のある医師であれば,その深さや手( )の感覚によって,神経根に当たる部位を穿刺したのか否かの判断が可能である。したがって,硬膜外針によって穿刺を行っている場合に,仮に患者が単に「痛い」と言ったとしても,必ずしも痛みの性状を逐一確認する必要はない。 手技を中止しなかったとの点について そもそも,一般的に硬膜外麻酔の際に生じるとされる放散痛は「電気が( ),走った」とか「響きました「びりっとしました」というものが多く「痛」,い」という表現がされることは少ない。そして,通常,神経根に触れた場合には,運動神経が刺激され,体がびくっと動くため,神経根に硬膜外針又はカテーテルが触れた場合には,すぐに判断できる。そのため,手技を行っている際に,患者が放散痛を訴えているか否かは容易に判断ができるのである。 また,実際にも,原告の体がびくっと動くようなことはなく,原告には一切体の動きがなかったことからも,原告に放散痛が生じたことはなかったというべきである。 本件においては,原告は,1回目に局所麻酔を行なったときと,4回目の( ) 穿刺の際に硬膜外針が棘間靱帯に入ったときに,刺入部が「痛い」と言ったのみであり,それ以外に痛みの訴えはなかった。原告が訴えた痛みは,放散痛を疑わ に局所麻酔を行なったときと,4回目の( ) 穿刺の際に硬膜外針が棘間靱帯に入ったときに,刺入部が「痛い」と言ったのみであり,それ以外に痛みの訴えはなかった。原告が訴えた痛みは,放散痛を疑わせるような位置での痛みの訴えではなく,放散痛の訴えはなかったというべきである。 さらに,原告は当初,硬膜外麻酔の際の痛みに関し「びりっとした「電( ),」気が走るような感じ「しびれた感じ「体がびくっと動いた」ということに」」ついては何ら主張していなかったのであり,また,ペインクリニックにおいても麻酔時にしびれはなかったとしていることからも(乙A第2号証33頁,放散痛の訴えがなかったことは明らかといえる。したがって,その時)点で手技を中止すべき理由はない。 第3被告病院担当医師の過失と原告の損害との因果関係の有無(原告の主張) 原告の主張する過失と原告の症状との因果関係硬膜外麻酔の際に,患者が放散痛を訴えたときに術者が直ちに操作を止めれば,不可逆的な神経障害はおこらないが,硬膜外針又はカテーテルを神経に接触させたことに気づかないまま手技を継続し,硬膜外針又はカテーテルを神経に繰り返し接触させれば,不可逆的な神経損傷が発生する確率は高い。 そして,本件では,B医師の2回目,3回目の穿刺の際,カテーテルを挿入したが,詰まってしまったという事情があり,このことからするとカテーテルが硬膜外腔より先のくも膜下腔に迷入し,硬膜外針もくも膜下腔に入っていたと考えられる。したがって,カテーテル及び硬膜外針がくも膜下腔で神経に物理的に接触し,その結果神経損傷が起こったものと合理的に推認できる。 現在の原告の症状は,腰の真ん中あたりの痛み,腰からおしりまでの痛み,大腿前部の痛み,膝から下のしびれであり,この原告の症状が,穿刺部位である第2/第3 神経損傷が起こったものと合理的に推認できる。 現在の原告の症状は,腰の真ん中あたりの痛み,腰からおしりまでの痛み,大腿前部の痛み,膝から下のしびれであり,この原告の症状が,穿刺部位である第2/第3腰椎,第3/第4腰椎の穿刺による馬尾の一部神経の損傷によって生じたものと考えることに矛盾はない。また,原告の症状は左右両方に発生 しているが,一貫して右の方がやや強く,実際に筋電図でも右深腓骨神経に異常が見られるのであり,このように左右差があることは馬尾障害であることと合致する。そして,原告には,B医師の硬膜外麻酔の前には,これらの症状はなく,B医師の硬膜外麻酔の後から症状が出現している。 以上のことからすれば,原告の症状は本件硬膜外麻酔のための硬膜外穿刺又はカテーテル挿入が原因と推認できる。 B医師の注意義務違反と損害との因果関係放散痛は,神経損傷が生じるか否かの重要なサインであり,本件において,B医師が,事前に放散痛がどのようなものであるかを説明等しなかったために,原告は自らの感じている痛みが放散痛であることを認識できず「痛っ」とい,うことしかできなかった。もし,B医師が,異常な痛み,放散痛の理解とその伝え方を事前に原告に説明,指示していれば,原告は「ビリッと走った」などの表現で,放散痛を訴えることができ,B医師は放散痛を認識して手技を中断したはずであり本件の結果を回避できた高度の蓋然性がある。 また,B医師が,硬膜外麻酔の手技の最中に,原告に対し,痛みの性質・性状を尋ねていれば,B医師は原告に生じた放散痛を認識し,放散痛を認識すれば当然手技を中断したはずであり,手技を中断すれば本件結果が生じなかった高度の蓋然性がある。 被告の主張に対する原告の反論 被告は,原告の症状は椎間板ヘルニアが原因であると主張するが,MRI( ) 手技を中断したはずであり,手技を中断すれば本件結果が生じなかった高度の蓋然性がある。 被告の主張に対する原告の反論 被告は,原告の症状は椎間板ヘルニアが原因であると主張するが,MRI( )画像上椎間板ヘルニアの存在は確認されておらず,第5腰椎/第1仙椎間に椎間板ヘルニアの前段階というべき椎間板変性が存在するにとどまり,直接神経を損傷していないから,原告の症状との関係はない。 仮に,第5腰椎/第1仙椎に椎間板ヘルニアの存在が認められるとしても,この箇所の椎間板ヘルニアでは太ももやふくらはぎの裏側にしびれ等が生じることはあっても前部に生じることはないので,原告の症状とは一致しない。 また,椎間板ヘルニアでは大腿四頭筋の筋力低下というのも考え難い。 また,被告は,原告の前記症状のうち,下肢の痛みやしびれについて,( )B医師による硬膜外麻酔が行われてから7か月経過して初めて出てきたものであると主張するが,かかる症状は,麻酔から覚めた直後から存在していた。 カルテ上,下肢の痛みやしびれについての記載がないのは,硬膜外麻酔施術直後は,背中から腰にかけての痛みや頭痛のために,原告が,これらの痛みより軽い下肢のしびれや痛みに気付かなかった可能性が高いことや,被告病院の医師や看護師らが十分な診察,聞き取りを行わなかったために,原告の症状を見逃したことが原因であり,カルテ上記載がなかったとしても,そのことをもって,原告に下肢の痛みやしびれが当初からなかったと評価することはできないというべきである。 (被告の主張) 硬膜外針またはカテーテルによる神経損傷がないこと 原告は,手術直後は腰痛を訴えるのみで,平成16年6月13日までは,( )下肢のしびれを訴えていなかったが,本件硬膜外麻酔から約7か月を経過した同月14日のペインクリニッ る神経損傷がないこと 原告は,手術直後は腰痛を訴えるのみで,平成16年6月13日までは,( )下肢のしびれを訴えていなかったが,本件硬膜外麻酔から約7か月を経過した同月14日のペインクリニック外来において初めて,最近は両下肢にもしびれ,痛みがあると訴えており,また,同月28日には,両下肢のしびれについては,下腿の背側にしびれがあるとのことであったが,同月29日の産科外来では,大腿前部の辺りが痛いと訴え,平成17年2月19日及び平成18年9月8日には,C整形外科において,両下肢の背部側全体についてしびれを訴えている。他方で,原告は,本件訴訟においては,下肢前面のしびれを主張している。 しかしながら,通常神経が損傷した場合には,損傷の直後から損傷した神( )経の支配領域の知覚障害や痛みが生じるのであって,障害部位の変遷が生じることはない。 また,腰椎部への穿刺によって神経損傷が起こった場合,直後に損傷に伴 う症状が発現し,徐々に治ってくるという経過が一般的であるところ,本件では,下肢のしびれや痛みの訴えがなされたのは,上記のとおり,硬膜外麻酔から約7ヶ月が経過してからであり,神経損傷の機序と整合しない。 さらに,原告の知覚障害や痛みの症状は下肢の左右両側に生じているとこ( )ろ,下肢は左右別々に脊髄から分かれてくる神経によって支配されていることから,左右両側に症状が出現するためには,何度も穿刺することで,左右両方の神経を複数損傷させなけれならないが,このようなことは非現実的であるし,本件事実経過とも整合しない。 加えて,仮に原告の症状が「馬尾障害」によるものであるとした場合,馬( )尾神経を硬膜外針,カテーテルで損傷するためには,硬膜を穿破する必要があるが,本件では,硬膜外麻酔時に髄液の逆流は確認されておらず,下 に原告の症状が「馬尾障害」によるものであるとした場合,馬( )尾神経を硬膜外針,カテーテルで損傷するためには,硬膜を穿破する必要があるが,本件では,硬膜外麻酔時に髄液の逆流は確認されておらず,下肢の感覚の低下や血圧の低下,処置後の頭痛などないこと,12mlのアナペインが投与されたにもかかわらず,呼吸停止,意識喪失等の重篤な結果は生じていないことに照らして,硬膜を穿破していないことは明らかである。さらに,硬膜外腔にカテーテルを挿入する際にカテーテルが進まないことは珍しいことではなく,これをもってくも膜下腔にカテーテルが迷入したとはいえない。 他原因の可能性 被告病院では,平成16年1月と同年6月の2度にわたってMRI検査が( )施行されているが,6月に撮影されたMRI画像では,1月に撮影されたMRI検査では認められなかったL5/S1のbulging(第5腰椎/第1仙椎部の椎間板の軽度突出)が認められている。bulgingとは椎間板ヘルニアの形態分類の一つに分類されており(乙B第1号証178頁,原告には椎間)板ヘルニアが発症したと考えられる。 原告は初め腰痛の訴えを強く外来で訴え,下肢のしびれ,麻痺は訴えていない。平成16年1月27日には「腰に力を入れたときに痛む「腰を曲げ」 たときに痛む「腰をひねったときに痛む」と訴えている。ところが,同年」6月には右足の痛みを訴えだしている。そして現在は腰痛もあるが,訴状によると下肢の神経根性の強い痛みが主症状となっているようである。 このような原告の症状は「椎間板ヘルニアの症状には腰痛と下肢痛があ,り,一般的には腰痛と下肢痛を合併している「大部分の症例では腰痛で始」まり,続いて殿部や下肢へ痛みが放散するようになる。一般的には坐骨神経痛が増強すると腰痛の程度が減じる。動作では 下肢痛があ,り,一般的には腰痛と下肢痛を合併している「大部分の症例では腰痛で始」まり,続いて殿部や下肢へ痛みが放散するようになる。一般的には坐骨神経痛が増強すると腰痛の程度が減じる。動作では,腰を屈曲する,かがむ,あるいは物を持ち上げるといった姿勢や動作で疼痛が増悪する」との椎間板。 ヘルニアの症状(乙B第1号証180頁)とも一致する。 また,硬膜外麻酔を行った際の不可避的な合併症としての腰痛があるが,( )この他にも,腰痛症の原因としては,妊娠に伴う腰椎の側彎により引き起こされる腰痛や帝王切開術の影響から生じる腰痛など様々なものが考えられる。 そして,腰痛症により腰部の痛みが生じた場合には,その痛みが下肢の方にも感じられるようになるという現象が生じるから,下肢のしびれ等についても,この腰痛症から生じる関連痛の可能性が高い。 さらに,原告の主訴の変遷に照らせば,腰痛症に起因する痛みが心因的な要素により遷延した可能性がある。すなわち,自覚症状しかない状態が長く続くものの,症状に見合った解剖学的な所見がなく,症状についての医学的,科学的な証明がない場合には,心因性のものを当然に考える必要がある。そして,心因的な要因から症状が続くことは,医学的にも認められていることである。実際に文献上も「神経障害が長期に残存する場合は,心因性の要,因も加わる可能性があるので,麻酔科(ペインクリニック,心療内科,精)神科などへ相談し,抗うつ薬などの薬物療法や行動療法を行う」とか「神経障害が長期に残存する場合は,心因性の要因も加わった可能性も考えられるので,心療内科と相談して,必要な場合には,抗うつ薬などの薬物療法や行動療法を行う」などと記載されており,心因性の腰痛というものが存在する ことは明らかである。 以上のとおり,原告の腰痛は,椎 で,心療内科と相談して,必要な場合には,抗うつ薬などの薬物療法や行動療法を行う」などと記載されており,心因性の腰痛というものが存在する ことは明らかである。 以上のとおり,原告の腰痛は,椎間板ヘルニアや硬膜外麻酔の合併症,心因的な要因等によるものであり,下肢のしびれ等についても,その関連痛や心因性の疼痛と考えることができるのであって,原告の主張する後遺障害と原告の主張する被告病院担当医師の義務違反との間に因果関係はない。 第4損害額(原告の主張) 過去の治療費102万7950円本件により生じた背中や腰の痛み,脚のしびれの治療のため,以下のとおり病院に通院し,薬代2万1590円と併せ,合計102万7950円を支出した。なお,被告病院以外の医療機関における治療は,症状固定後の治療費であるが,原告は,対症療法であるにせよ,その永続する痛みを一時的にせよ軽減する必要があり,下記治療費を支出したのであって,被告病院以外の医療機関における治療に要した費用も,被告病院担当医師の過失と相当因果関係のある損害である。 被告病院(帝王切開費用)68万8280円同(3日分の部屋代)14万4630円Lクリニック2万8690円C整形外科4万0610円0病院1万4810円T医院5840円U整骨院3万4500円V整骨針灸院4万9000円 ベビーシッター費用4万1750円原告は,本件による背中・腰の痛みのため,被告病院に通院したが,被告病院は混み合っているため,生後間もない児を連れて行くことは難しく,初期の 5回はベビーシッターを頼んだ。 したがって,ベビーシッター費用は,本件と相当因果関係のある損害であり,その費用は4万1750円である。 通院交通費等9万1822円原告は,通院のために交通費として,3万40 ッターを頼んだ。 したがって,ベビーシッター費用は,本件と相当因果関係のある損害であり,その費用は4万1750円である。 通院交通費等9万1822円原告は,通院のために交通費として,3万4030円を支出した。原告は,背中や腰の痛み,脚のしびれがあるため,階段の昇降が困難な状況にあったことから,症状のひどいときはタクシーで通院した。したがって,上記交通費は,本件と相当因果関係のある損害である。 また,原告は,同様の事情により,特に症状がひどいときの移動にタクシーを要することがあり,5万7792円を支出した。かかるタクシー費用も本件と相当因果関係のある損害である。 以上を合計すると,交通費は9万1822円である。 マッサージ費用10万8030円原告は,継続する痛みやしびれを少しでも軽減させるために,月2回位のペースでマッサージに通っている。平成17年8月29日までに通ったマッサージ等に要した費用は10万8030円であり,これは,本件と相当因果関係のある損害である。 将来の治療費216万9252円原告の痛みやしびれは永続するものと考えられ,これらを軽減するためには,対症療法的にマッサージや鍼灸などに通い続けるしか方法がない。かかる通院は,少なくとも,平成15年簡易生命表に基づく平均余命である48.16年は続くものと考えられる。 現在まで,少なくとも月2回の通院をしており,1回当たりの費用は平均約5000円であるから,将来の治療費は,216万9252円となる。 (計算式)5000×2×12×18.0771(48.16に対応するライプニッツ係 数)=216万9252円 証拠保全費用5万4500円原告は,本件訴訟を提起する前提として,被告医院における証拠保全を行わなければならず,カメラマン費用5万4500円を支払った。 ッツ係 数)=216万9252円 証拠保全費用5万4500円原告は,本件訴訟を提起する前提として,被告医院における証拠保全を行わなければならず,カメラマン費用5万4500円を支払った。 逸失利益6958万2870円原告は,平成11年11月に外資系法律事務所に専門職として入所し,大規模外資系会社の業務を行っていた。そして,現在は,クライアントである銀行に出向して業務を行っている。 これらの業務自体はデスクワークであるが,背中や腰の痛みだけでなく,脚のしびれもひどいため,仕事に集中し難い状況にあり,仕事量が減ったばかりでなく仕事の中断による質の低下を招かないための努力を強いられている。また,自分のできる仕事にも制限が出ている。 原告の職場の給与体系は年俸制であり,前年の労働実績により,翌年の年俸が決定され,本件の前年の労働に対する評価は平成15年の年俸1785万円に反映され,本件があった平成15年の労働に対する評価は,平成16年の年俸1786万円に反映されている。 原告は,平成15年の間に経験を積み,その結果クライアントへの請求報酬単価も上昇したはずなのに,原告は,腰痛・背部痛のため,長時間の勤務ができなくなり,また,治療のために労働時間が削られたため,総労働時間が減少したので,クライアントへの請求報酬時間が減少し,その結果,請求報酬単価の上昇にもかかわらず,平成16年の年俸は上昇しなかった。このようにみると,原告が,本件後も減収を免れているのは,本人の不断の努力による請求報酬単価の上昇によるものであって,本件による労働能力の喪失は生じたとみるべきである。 また,出向をして業務を行うという原告の立場からすると,勤務時間の短縮や治療のための外出が重なれば,収入の維持のみならず,勤務継続につき不利 益を受ける蓋然性は高い は生じたとみるべきである。 また,出向をして業務を行うという原告の立場からすると,勤務時間の短縮や治療のための外出が重なれば,収入の維持のみならず,勤務継続につき不利 益を受ける蓋然性は高い。したがって,これらの事情を考慮すると,本件による労働能力喪失は25%とするのが相当である。したがって,原告の逸失利益は,次の計算式のとおり,6958万2870円となる。 (計算式)1785万0000×0.25×15.5928(労働能力喪失期間31年に対応するライプニッツ係数)=6958万2870円 慰謝料616万0000円原告は,背中や腰の痛みや脚のしびれにより,重い書類すら運ぶことができなくなり,また,自分の子供を抱くことができないなど,仕事のみならず,日常生活にも著しい不便を生じている,この障害は「神経系統の機能」に「障,害を残し,服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」といえるから,後遺障害等級第9級に該当する。よって,慰謝料は616万円とするのが相当である。 弁護士費用792万3617円被告は,原告の後遺障害に対する責任を認めず,任意の賠償に応じない。弁護士費用は,少なくとも上記損害の合計7923万6174円の1割(792万3617円)が相当である。 (被告の主張)いずれも争う。
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