主文 1 被告らは,原告に対し,連帯して2730万円及びこれに対する平成14年2月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 訴訟費用は被告らの負担とする。 3 この判決は仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 原告の請求主文第1項と同旨第2 事案の概要本件は,原告が,被告有限会社ユーエスマネージメントサービス(以下「被告会社」という。)との間の別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)の賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)が平成13年6月29日に被告会社の賃料不払により解除されたとして,被告会社に対しては本件賃貸借契約に基づき,被告A(以下「被告A」という。)に対しては連帯保証契約に基づき,平成13年1月1日から平成14年1月31日までの未払賃料及び賃料相当損害金の合計2730万円(月額210万円の13か月分)及びこれに対する平成14年2月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める訴訟である。 1 前提事実(争いのない事実と証拠により容易に認められる事実)(1) 原告は,製茶類の販売等を業とする会社であるが,平成11年6月17日解散し,以後清算中の会社である。 (2) 本件賃貸借契約の成立原告と被告会社は,平成11年10月12日,原告が被告会社に対して原告所有の本件建物を次の約定で賃貸する旨の本件賃貸借契約を締結し,原告は,その頃,被告会社に対して本件建物を引き渡し,被告会社から下記エの保証金2000万円を受領した。 ア使用目的営業用店舗及び事務所イ賃貸借期間定めない。 ウ賃料(ア) 月額210万円(賃料200万円とこれに対する消費税5パーセント相当分10万円の合計額)(イ) 毎月末日までに翌月分を支払うエ保証金(ア) 被告会社は,本件賃貸借 定めない。 ウ賃料(ア) 月額210万円(賃料200万円とこれに対する消費税5パーセント相当分10万円の合計額)(イ) 毎月末日までに翌月分を支払うエ保証金(ア) 被告会社は,本件賃貸借契約締結時,原告に保証金2000万円(以下「本件保証金」という。)を預託する。 (イ) 本件賃貸借契約成立の日から6年以内に原告の理由により本件賃貸借契約を解除する場合は,受領済みの本件保証金を被告会社に返還し,被告会社の理由により本件賃貸借契約を解除する場合は,本件保証金は原告が没収する(以下「本件保証金条項」という。)。 オ無催告解除の合意被告会社が賃料,諸料金(電気,ガス,水道等の料金)その他の債務の支払を2か月以上怠ったときは,原告は,何らの通告催告を要せず,本件賃貸借契約を解除することができる。 (3) 被告Aによる連帯保証被告Aは,平成11年10月12日,原告に対し,被告会社の原告に対する本件賃貸借契約に基づく債務を連帯保証した(以下「本件連帯保証契約」という。)。 (4) 本件建物に対する競売手続の開始と被告会社の賃料不払等ア原告は,株式会社三和銀行(以下「三和銀行」という。)に対し,本件賃貸借契約締結前の昭和63年1月28日,本件建物について,極度額を3000万円,被担保債権の範囲を銀行取引等とする根抵当権を設定し(以下「本件根抵当権」という。),同日根抵当権設定登記を経由したが(なお,原告は,昭和50年4月23日に本件建物の敷地である名古屋市B区CD丁目E番宅地199.83平方メートルについて三和銀行のために根抵当権を設定していたもので,本件根抵当権は,同土地に対する上記根抵当権の追加共同担保として設定された。),原告が,本件根抵当権の被担保債務の履行を遅滞したため,三和銀行は,名古屋地方裁判所に対し,本件根抵当権に基づ もので,本件根抵当権は,同土地に対する上記根抵当権の追加共同担保として設定された。),原告が,本件根抵当権の被担保債務の履行を遅滞したため,三和銀行は,名古屋地方裁判所に対し,本件根抵当権に基づき,請求債権を被担保債権のうち3000万円として,本件建物及びその敷地(以下「本件建物等」という。)に対する競売申立てをした結果(同裁判所平成12年(ケ)第735号),同裁判所は,平成12年10月5日,本件建物等に対する競売開始決定をし,同月6日その旨の差押登記が経由された(以下,この競売手続を「本件競売手続」という。)。《甲1,乙1》イ被告会社は,平成13年1月1日以降の賃料の支払をしない(以下「本件賃料不払」という。)。 ウ原告は,平成13年4月2日,三和銀行を相手方として,名古屋簡易裁判所に対し,原告の三和銀行に対する債務額を確定し,債務支払方法について協定することを求める調停を申し立てるとともに(同裁判所平成13年(ノ)第50279号調停事件。以下「別件調停事件」という。),同裁判所に対して,民事調停規則6条1項本文に基づき,別件調停事件の調停手続終了まで本件競売手続を停止する旨の申立てをし(同裁判所平成13年(サ)第126号),同裁判所は,同月10日,その旨の本件競売手続停止決定をした。《甲6ないし9》別件調停事件は,平成13年9月4日,調停不成立で終了した。《原告代表者,弁論の全趣旨》エ原告は,平成13年5月22日,被告らに対し,未払賃料1000万円を書面到達後1週間以内に支払うよう催告する書面を送付し,同書面は,同月23日,被告らに到達した。 オ原告は,平成13年6月18日,被告らを相手方として,名古屋簡易裁判所に本件建物の明渡しと未払賃料及び使用損害金の支払を求める調停を申し立てたが(同裁判所平成13年(ユ)第11 告らに到達した。 オ原告は,平成13年6月18日,被告らを相手方として,名古屋簡易裁判所に本件建物の明渡しと未払賃料及び使用損害金の支払を求める調停を申し立てたが(同裁判所平成13年(ユ)第111号調停事件。以下「本件調停事件」という。),同年9月4日調停不成立で終了した。 (5) 原告による本件賃貸借契約解除の意思表示原告は,本件調停事件の調停申立書において,被告会社に対し,本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をし,同申立書は平成13年6月29日被告会社に送達された(以下,この意思表示を「本件解除」という。)。 (6) 被告会社による本件建物の明渡し被告会社は,平成14年1月31日をもって,本件建物を原告に明け渡した。 2 争点(1) 本件賃料不払についての被告会社の債務不履行責任の有無(被告らの主張)ア被告会社は,原告の転貸承諾を得て,本件建物をテナントに賃貸し,その賃料収入により,原告に対して約定の賃料を滞りなく支払っていた。 ところが,平成12年11月初め,本件競売手続による現況調査が各テナントの賃借部分に対して行われ,本件建物に対して競売手続が開始されたことが判明した結果,テナントから被告会社に対する賃料支払の相当部分が停止されてしまった。 そのため,被告会社は,経営が困難となって,原告に対する賃料支払ができなくなったので,やむなく,平成14年1月31日をもって本件建物を原告に明け渡した。 イ被告会社は,本件建物に対する本件競売手続の開始を知り,平成13年1月26日頃,原告に対し,本件保証金2000万円の保全のため,本件賃貸借契約に基づく賃料の支払を平成13年1月分から停止する旨通知し,同月分からその支払を停止した。 このような事態は,本件建物を被告会社に賃貸した原告が負担する後記競売回避義務を怠ったことによるのであり, に基づく賃料の支払を平成13年1月分から停止する旨通知し,同月分からその支払を停止した。 このような事態は,本件建物を被告会社に賃貸した原告が負担する後記競売回避義務を怠ったことによるのであり,被告会社が本件保証金保全の必要から本件賃貸借契約に基づく賃料の支払を平成13年1月分から停止したことには正当な理由があるので,これを債務不履行として本件賃貸借契約を解除することはできない。 (原告の反論)ア原告は,平成12年12月頃,被告会社から,本件競売手続の開始を理由として,賃料の支払を保留したい旨の申入れがあったため,これを了承した。 イしかし,原告は,上記1(4)ウないしオのとおり,平成13年4月に三和銀行を相手方とする別件調停事件を申し立て,同月10日には本件競売手続停止決定を得た。 そして,原告は,別件調停事件において,三和銀行に対し,債務額約1800万円について,被告会社から支払を受けることができる未払賃料及び今後の賃料により,1年以内に弁済する旨の調停案を提示し,三和銀行の同意を得ていたため,被告会社から上記未払賃料等の支払を得ることができれば,本件競売手続の取下げにより解決できるはずのものであった。 ウそこで,原告は,被告会社に対し,上記イの経過を説明して,本件賃貸借契約に基づく賃料の支払を求めたが,被告会社は,本件競売手続に参加して本件建物を取得する意向を示して,その支払に応じようとしなかったため,別件調停事件及び本件調停事件はいずれも平成13年9月4日不成立となった。 エしたがって,被告会社による本件賃料不払は,被告会社の責めに帰すべき事由による違法なものである。 (2) 被告会社主張の損害賠償請求権との相殺の成否(被告らの主張)ア原告は,本件賃貸借契約締結の際,被告会社に対し,原告が清算会社であることを告知すべ に帰すべき事由による違法なものである。 (2) 被告会社主張の損害賠償請求権との相殺の成否(被告らの主張)ア原告は,本件賃貸借契約締結の際,被告会社に対し,原告が清算会社であることを告知すべき義務があるのに,これに違反して,被告会社にその旨の告知をしなかった。 すなわち,本件賃貸借契約は,契約締結のときから6年以内に解除をした場合には原告が受領済みの本件保証金を全額返還するとの条項があることからしても,少なくとも6年以上の存続が予定されていたところ,原告は,本件賃貸借契約締結当時清算会社であったから,そのような長期の賃貸借契約を締結できるかどうか疑わしいのであり,被告会社は,原告が清算会社になっていることを知っていれば,本件賃貸借契約を締結することはなかった。 したがって,原告が清算会社であることは,原告から本件建物を賃借しようとする被告会社にとっては重要な事実であるから,原告には,この事実を被告会社に告知すべき義務があったが,この義務に違反して告知しなかった。 イ原告は,本件建物に対する競売手続を回避すべき義務に違反し,本件競売手続の開始決定を受けた。 すなわち,抵当権設定後の賃借権は,抵当権が実行されたときは,ほとんどの場合,賃貸借契約締結後3年の経過で抵当権者及び競売手続での買受人に対して対抗できなくなるため,抵当権設定された不動産を賃貸する賃貸人には,そのような事態にならないよう,当該不動産に対する競売手続を回避すべき義務がある。 そして,原告は,本件賃貸借契約により,本件根抵当権の設定された本件建物を被告会社に賃貸したのであるから,被告会社に対し,本件建物に対する競売手続を回避すべき義務を負担した。ところが,原告は,三和銀行に対する債務支払を怠ったため,三和銀行から本件根抵当権に基づく本件競売手続の申立てをされ,平成12 ,被告会社に対し,本件建物に対する競売手続を回避すべき義務を負担した。ところが,原告は,三和銀行に対する債務支払を怠ったため,三和銀行から本件根抵当権に基づく本件競売手続の申立てをされ,平成12年10月本件競売手続の開始決定を受けるに至ったのである(原告は,被告会社から,本件賃貸借契約締結の際,本件保証金として2000万円を受領し,また,毎月200万円の賃料の支払を受けていたから,これらを資金として,三和銀行に対する被担保債務の支払をすることにより,被担保債務の履行遅滞を解消し,三和銀行からの本件競売手続の申立てを防止することができた。)。そのため,近い将来,被告会社は,買受人に対して本件建物を明け渡さざるを得ない立場となった。 ウ被告会社は,原告の上記ア又はイの義務違反により,次のとおりの損害を被った。 (ア) 被告会社は,原告から賃借した本件建物をテナントに転貸するにあたって,本件建物について別紙工事費用明細のとおり4696万5075円の費用をかけて内外装工事を行ったが,原告の上記アの義務違反がなければ出捐しなかった費用であり,また,原告の上記イの義務違反がなければ回収できた費用であったから,原告の上記ア及びイの義務違反により,同額の損害を被ったことになり,原告に対して同額の損害賠償請求権を取得した。 (イ) 被告会社は,本件賃貸借契約締結の際,原告に対して,本件保証金2000万円を差し入れたが,原告の上記アの義務違反がなければ出捐しなかった費用であったから,原告の上記アの義務違反により,同額の損害を被ったことになり,原告に対して同額の損害賠償請求権を取得した。 (ウ) 被告会社は,平成13年10月26日の本件口頭弁論期日において,上記(ア),(イ)の各損害賠償請求権と原告主張の未払賃料等請求権とを対当額で相殺する旨の意思表示を 損害賠償請求権を取得した。 (ウ) 被告会社は,平成13年10月26日の本件口頭弁論期日において,上記(ア),(イ)の各損害賠償請求権と原告主張の未払賃料等請求権とを対当額で相殺する旨の意思表示をした。 (原告の主張)ア原告は,本件賃貸借契約締結の際,被告会社に対し,原告が解散し,清算中の会社となっていることを説明した。 そして,原告は,被告会社からの賃料収入をもって,本件建物に設定されていた本件根抵当権の被担保債務を弁済し,その完済により,事業の再開を計画していたものであり,本件賃貸借契約については,6年以上の存続を予定していたのである。 イ原告が本件競売手続の回避のため努力したが,被告の協力が得られなかった経緯は,上記(1)での原告の主張のとおりであるから,原告には,本件競売手続回避義務違反はない。 (3) 被告会社主張の有益費償還請求権及び本件保証金返還請求権との相殺の成否(被告らの主張)ア被告会社は,上記(2)の被告ら主張ウのとおり,本件建物をテナントに転貸するにあたって,本件建物について別紙工事費用明細のとおり4695万5075円の費用をかけて内外装工事を行った。 ところで,本件建物の最有効利用は,その場所等の立地条件からしてレジャー用ビルであるため,本件賃貸借契約締結当時倉庫であった本件建物をレジャー用ビルに改装するためにした上記内外装工事は,本件建物を改良するための工事であり,その費用4591万5075円は有益費にあたる。 そして,本件建物の価格は上記内外装工事により増加したところ,現在までの償却分を考慮しても,この価格増加分として上記4591万5075円のうち少なくとも2000万円が残存している。 したがって,原告は,本件建物の所有者として,被告会社に対し,上記2000万円に相当する有益費を償還する義務がある。 イ として上記4591万5075円のうち少なくとも2000万円が残存している。 したがって,原告は,本件建物の所有者として,被告会社に対し,上記2000万円に相当する有益費を償還する義務がある。 イ被告会社が,本件建物を原告に明け渡すに至ったのは,上記(1)及び(2)での被告ら主張のとおり,原告が三和銀行に対する債務支払を怠って本件競売手続開始決定を受けたため,被告会社から本件建物を賃借していたテナントからの賃料支払が遅滞し,経営困難となったことによるのである。 したがって,本件保証金条項の適用については,本件賃貸借契約の終了は,原告の理由による解除による場合にあたるから,被告会社は,原告に対して,本件保証金条項に基づき,本件保証金2000万円全額の返還を請求することができる。 ウ被告会社は,平成14年2月15日の本件口頭弁論期日において,上記アの有益費償還請求権及び上記イの本件保証金返還請求権と原告主張の未払賃料等請求権とを対当額で相殺する旨の意思表示をした。 (原告の主張)ア原告は,本件賃貸借契約締結の際,被告会社の要請に応じて,本件建物について内外装工事を行うことを承諾したが,同工事により本件建物に付加された物件の所有権は原告に帰属するものとし,同工事に要した費用は賃借人である被告会社の負担として,原告に求償しない旨合意した(本件賃貸借契約第10条)。 また,被告は,本件建物明渡しの際,諸造作設備等につき,支出した費用の償還請求権を有しない旨及び本件建物内に被告会社の費用でもって付設した諸造作設備等の買取り請求ができない旨約束した(本件賃貸借契約第24条)。 イ本件賃貸借契約は,被告会社の賃料不払による本件解除により,平成13年6月29日に解除されたのであるから,原告は,本件保証金条項により,本件保証金の全額を没収した。 ウなお 借契約第24条)。 イ本件賃貸借契約は,被告会社の賃料不払による本件解除により,平成13年6月29日に解除されたのであるから,原告は,本件保証金条項により,本件保証金の全額を没収した。 ウなお,被告会社は,平成14年1月22日頃,原告に対し,同月31日をもって,本件建物から退去する旨の意思表示をしたので,原告は,これを承認した。 そして,本件建物に対する本件競売手続は,上記1(4)ウのとおり,平成13年4月10日に停止されたが,被告は,その後も賃料不払を継続し,未払賃料額が本件保証金額を超えても支払をしなかったのであり,平成14年1月末時点でも債務不履行状態にあった。 第3 争点に対する判断 1 争点(1)について(1) 争点(1)での被告らの主張は,要するに,原告の被告会社に対する本件保証金の返還義務の履行が,本件競売手続の開始により,危殆に瀕するに至ったため,その履行確保の目途が立って本件保証金が保全されるまで,今後の本件賃貸借契約に基づく賃料の支払義務の履行を拒絶することとしたものであるから,本件賃料不払に違法性がない旨の,いわゆる不安の抗弁権の主張であると解される。 そして,前記第2,1の事実並びに証拠(甲5の1,乙26)及び弁論の全趣旨によれば,被告会社は,平成12年11月初め頃,本件建物について本件競売手続が開始されたことを知り,同年12月末日までに支払うべき平成13年1月分の賃料の支払をしなかったこと,そして,被告会社は,平成13年1月23日,原告の代理人である弁護士大道寺徹也に対し,本件保証金保全の措置を要請したが,同弁護士から,現時点で本件保証金の保全措置を講ずることは不可能である旨の回答を得たため,同月26日頃,書面で,原告に対して,本件保証金2000万円の保全ができるまで,同年1月末日に支払うべき同年2月分以降の ら,現時点で本件保証金の保全措置を講ずることは不可能である旨の回答を得たため,同月26日頃,書面で,原告に対して,本件保証金2000万円の保全ができるまで,同年1月末日に支払うべき同年2月分以降の賃料の支払を停止する旨通知したこと(なお,この時点で,上記のとおり,平成13年1月分の賃料は未払となっていた。),原告も,被告会社が本件賃貸借契約に基づく賃料の支払を一時的に停止するのもやむを得ないものと考え,上記通知にかかる申入れを了承したことが認められる。 (2) ところで,本件賃貸借契約は,本件建物を目的として,本件根抵当権設定後に成立したものではあるが,期間の定めのないものであるから,民法395条の適用のある賃貸借契約であり,したがって,本件賃貸借契約に基づく被告会社の賃借権は,本件競売手続により本件建物を買い受けた者に対しても,これを対抗することができる。 他方,本件保証金は,本件賃貸借契約締結の際,賃借人である被告会社から賃貸人である原告に対して交付されたものであるところ,証拠(甲2)によれば,原告と被告会社は,本件賃貸借契約において,原告は,被告会社に対し,賃貸借契約終了による本件建物明渡し完了のときに,本件保証金から30パーセントを控除した上,滞納賃料等被告会社が原告に対して支払義務を負う債務の弁済に充当した残額を上記明渡しの日から3か月以内に返還する旨合意していることが認められるから,本件保証金は敷金の性質を有する金員であることが明らかである。 したがって,本件競売手続により本件建物を買い受けた者は,本件賃貸借契約における貸主としての地位を承継するとともに,被告会社が原告に対して差し入れた本件保証金の返還義務をも承継するのである。 なお,この点は,本件賃貸借契約が本件根抵当権設定後に成立したものであるため,被告会社が本件賃貸借 地位を承継するとともに,被告会社が原告に対して差し入れた本件保証金の返還義務をも承継するのである。 なお,この点は,本件賃貸借契約が本件根抵当権設定後に成立したものであるため,被告会社が本件賃貸借契約に基づき有する賃借権が,本件建物の買受人に対する関係で,原則として民法602条3号が定める期間内でしか保護されないものかどうかにはかかわりないことである。 そうすると,本件建物が本件競売手続で原告以外の者により取得されることとなっても,そのことで当然に,被告会社に対する本件保証金の返還義務が履行不能となったり,その履行が危殆化するものではない。 (3) しかし,原告が,本件賃貸借契約成立後,本件根抵当権者である三和銀行に対して,本件根抵当権の被担保債務の履行を遅滞したことにより,本件根抵当権の実行として,その所有する本件建物等に対して本件競売手続の開始決定を受けたということは,本件賃貸借契約成立後の原告の財産状態の悪化を示すものということができるところ(本件賃貸借契約でも,被告会社が競売申立てを受けたときを,被告会社の財産状態又は信用状態の悪化の顕われとして,原告からの契約解除事由としている(甲2)。),本件競売手続が売却の見込みのない場合(民事執行法68条の3)等の原告の財産状態の改善以外の理由で取り消されることもないわけではないから,被告会社は,原告が本件競売手続の開始決定を受けた場合には,継続的な法律関係としての本件賃貸借契約上の信義則により,将来本件賃貸借契約が終了した場合の原告の被告会社に対する本件保証金返還義務の履行についての不安を理由として,原告に対し,その履行の担保の趣旨で,本件賃貸借契約が終了した場合に原告から被告会社に対して返還されるべき本件保証金の額に相当する金額に達するまで,本件賃貸借契約に基づく賃料の支払義務の履 として,原告に対し,その履行の担保の趣旨で,本件賃貸借契約が終了した場合に原告から被告会社に対して返還されるべき本件保証金の額に相当する金額に達するまで,本件賃貸借契約に基づく賃料の支払義務の履行を拒絶することができるものというべきである。 ところで,本件保証金条項によると,本件賃貸借契約が,成立後6年内に原告の理由により解除された場合に,原告が被告会社に返還すべき保証金の額はその全額であるとされているから,本件競売手続の開始が本件賃貸借契約成立後1年経過前であった本件では,被告会社は,原告が本件競売手続の開始決定を受けたことを理由として,信義則により,将来本件賃貸借契約が終了した場合の原告の被告会社に対する本件保証金2000万円全額につき,その返還義務の履行の担保の趣旨で,本件賃貸借契約に基づく賃料の支払義務の履行を拒絶することができることになる。 なお,前記第2,1(4)のとおり,原告は,平成13年4月10日,三和銀行を相手方とする別件調停事件の手続の一環として,本件競売手続の停止決定を得ているが,これは,三和銀行に対する債務弁済による調停成立の見込みを理由とする仮の処分であって,現実の債務弁済を理由とするものではないから,上記停止決定があったからといって,直ちに被告会社の上記履行拒絶権が消滅するものではない。 (4) そうすると,被告会社が,本件賃貸借契約に基づく賃料につき,その額が本件保証金2000万円に達するまで,すなわち,平成13年1月分から同年9月分までの賃料(消費税込み)1890万円及び同年10月分賃料(消費税込み)210万円のうち110万円の範囲で支払を停止することを違法ということはできないが,同年10月分の残り100万円及び同年11月分以降の賃料の支払を停止することは違法である。 したがって,原告が,被告会社の賃料不 うち110万円の範囲で支払を停止することを違法ということはできないが,同年10月分の残り100万円及び同年11月分以降の賃料の支払を停止することは違法である。 したがって,原告が,被告会社の賃料不払を理由として,平成13年6月29日に被告会社に対してした本件解除は,解除理由を欠くため,無効というほかない。 2 争点(2)について(1) 被告らは,原告が,本件賃貸借契約締結の際,被告会社に対し,原告が清算会社であることを告知すべき義務があるのに,これに違反して,被告会社にその旨の告知をしなかったと主張する。 しかし,証拠(甲10,原告代表者)によれば,原告は,本件賃貸借契約締結の際,被告会社に対し,原告が清算会社であることを説明したことが認められる。 したがって,被告の上記主張は採用できない。 (2) また,被告らは,原告が本件建物に対する競売手続を回避すべき義務に違反し,本件競売手続の開始決定を受けた旨主張する。 しかし,抵当権の設定された不動産を賃貸したからといって,賃貸人が,当然に,賃借人に対し,当該不動産に対する競売手続を回避すべき義務を負担すると解するべき法的根拠を見出すことはできないし,原告と被告会社間において,原告が上記義務を負担する旨の特段の合意が成立したとの事実を認めることもできない。 これを本件に即して考えると,本件建物に対する競売手続が開始されたからといって,被告会社による本件建物の使用収益が不能となるものではなく,また,仮に本件建物が本件競売手続により原告以外の者の所有に帰することとなったとしても,上記1(2)で説示したとおり,本件賃貸借契約が民法395条の適用のある賃貸借契約であるため,本件賃貸借契約に基づく被告会社の賃借権は,本件競売手続により本件建物を買い受けた者に対しても,これを対抗することができ,したがって,被 本件賃貸借契約が民法395条の適用のある賃貸借契約であるため,本件賃貸借契約に基づく被告会社の賃借権は,本件競売手続により本件建物を買い受けた者に対しても,これを対抗することができ,したがって,被告会社は引続き本件建物を使用収益することができるのである。そして,本件賃貸借契約は,本件根抵当権設定後の本件建物についてのものであるから(証拠(甲1,2,乙2)によれば,被告会社は,本件賃貸借契約締結の際,仲介業者から,本件建物の登記簿謄本の交付を受けて,本件建物について本件根抵当権等の抵当権が設定されていることを知っていたことが認められる。),その後本件根抵当権が実行され,そのことにより賃借人としての被告会社が多少の不利益を被ることがあったとしても,そのことは,本件賃貸借契約締結時にある程度予想されたことであるということができるのである。 したがって,被告らの上記主張は採用できない。 (3) そうすると,被告ら主張の損害賠償請求権は,その余の点について判断するまでもなく,これを認めることができないから,同損害賠償請求権をもってする相殺の主張も失当である。 3 争点(3)について(1) 被告らは,被告会社が本件建物について別紙工事費用明細記載の内外装工事を行った結果,本件建物の価格が増加し,現在でも少なくとも2000万円の増加として残存している旨主張する。 しかし,証拠(甲2,10,原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば,原告と被告会社は,本件賃貸借契約締結の際,被告会社の要請に応じて,被告会社が,倉庫であった本件建物について内外装工事をして,飲食店等に転貸することを承諾したこと,原告と被告会社は,本件賃貸借契約において,同工事により本件建物に付加された物件の所有権は原告に帰属するものとし,同工事に要した費用は賃借人である被告会社の負担として に転貸することを承諾したこと,原告と被告会社は,本件賃貸借契約において,同工事により本件建物に付加された物件の所有権は原告に帰属するものとし,同工事に要した費用は賃借人である被告会社の負担として,原告に求償しない旨合意(本件賃貸借契約第10条)し,また,被告会社は,本件建物の明渡しの際には,被告会社が本件建物及び諸造作設備等のために支出した費用につき,原告に対し,名目のいかんを問わず一切償還請求をしない旨合意(本件賃貸借契約第24条)したことが認められる。 したがって,被告会社が本件建物について別紙工事費用明細記載の内外装工事を行ったことにより,本件建物の価格が増加し,その増加額が現存するものとしても,被告会社は,上記各合意により,被告に対して有益費償還請求権を有しないのである。 (2) 被告らは,本件保証金条項の適用に関しては,本件賃貸借契約の終了は原告の理由による場合にあたるから,被告会社は,原告に対して,本件保証金条項に基づき,本件保証金2000万円全額の返還請求権を有する旨主張する。 ア上記1で説示したとおり,原告が,被告会社の賃料不払を理由として平成13年6月29日にした本件解除は無効であるから,本件賃貸借契約がこれにより解除されたため,本件保証金条項により本件保証金の全額を原告が没収することができる旨の原告の主張は失当である。 イしかしながら,前記第2,1(4)イ及び(6)の事実並びに証拠(甲10)及び弁論の全趣旨によれば,被告会社は,本件賃貸借契約に基づく賃料につきその支払停止額が本件保証金2000万円を超えることになるにもかわらず,平成13年10月分の残り100万円及び同年11月分以降の賃料の不払を継続していたこと,ところが,被告会社が,平成14年1月,原告に対し,同月31日をもって,本件建物を明け渡す旨通知したため らず,平成13年10月分の残り100万円及び同年11月分以降の賃料の不払を継続していたこと,ところが,被告会社が,平成14年1月,原告に対し,同月31日をもって,本件建物を明け渡す旨通知したため,原告は,被告会社が本件建物を転貸した各テナントから受領した保証金返還が未処理のままであったが,被告会社の上記明渡しの申入れを了承し,同日をもって被告会社から本件建物の明渡しを受けたことが認められるから,原告と被告会社は,被告会社からの申入れで,平成14年1月31日,本件賃貸借契約を合意解約したものということができる。 ところで,上記1で説示したとおり,被告会社が,本件賃貸借契約に基づく賃料につき,平成13年1月分から同年9月分までの賃料(消費税込み)1890万円及び同年10月分賃料(消費税込み)210万円のうち110万円の範囲で支払を停止したことを違法ということはできないものの,同年10月分の残り100万円及び同年11月分以降の賃料の支払を停止することは違法であるから,被告会社は,上記合意解約当時において,債務不履行状態にあったのである。 そうすると,本件保証金条項の適用に関しては,上記合意解約による本件賃貸借契約の終了は,被告会社の理由による場合として,原告は,本件保証金条項により,本件保証金の全額を没収することができるものというべきである。 なお,被告会社が,本件建物を平成14年1月31日をもって明け渡すこととしたのが,被告ら主張のとおり,本件競売手続の開始を契機としてのテナント(転借人)の被告会社に対する賃料不払による経営困難が原因であったとしても,そのことは被告会社と上記テナントとの関係であるから,そのことの故に上記合意解約による本件賃貸借契約の終了を原告の理由による場合であるということはできない。 ウしたがって,被告会社は,原告に対 も,そのことは被告会社と上記テナントとの関係であるから,そのことの故に上記合意解約による本件賃貸借契約の終了を原告の理由による場合であるということはできない。 ウしたがって,被告会社は,原告に対して本件保証金返還請求権を有しない。 (3) そうすると,被告ら主張の有益費償還請求権及び本件保証金返還請求権は,これを認めることができないから,これら請求権をもってする相殺の主張も失当である。 第4 結論 1 以上のとおりであるから,原告は,本件賃貸借契約及び本件連帯保証契約に基づき,被告らに対し,平成13年1月1日から平成14年1月31日までの未払賃料(消費税込み)合計2730万円及びこれに対する平成14年2月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めることができる(なお,原告は,本件賃貸借契約は本件解除により平成13年6月29日解除された旨主張しているので,原告の請求は,平成13年1月1日から同年6月29日までの未払賃料及び同月30日から平成14年1月31日までの賃料相当損害金の合計2730万円の連帯支払を求めるものと解されるが,本件解除が認められず,本件賃貸借契約が平成14年1月31日の合意解約により終了したものとされた場合には,上記2730万円全額を未払賃料として請求する趣旨を含むものと解することができる。)。 2 よって,原告の請求を認容することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,65条1項本文,仮執行の宣言につき同法259条1項を各適用して,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第5部裁判官長門栄吉別紙物件目録所在名古屋市B区CD丁目E番地家屋番号 F番種類事務所・倉庫・車庫構造鉄骨造陸屋根3階建床面積 1階178.25平方メートル2階179.52平方メート 長門栄吉別紙物件目録所在名古屋市B区CD丁目E番地家屋番号 F番種類事務所・倉庫・車庫構造鉄骨造陸屋根3階建床面積 1階178.25平方メートル2階179.52平方メートル3階179.52平方メートル(別紙工事費用明細省略)
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