平成24年3月22日判決言渡同日原本交付裁判所書記官平成23年(ワ)第2978号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成24年2月2日判決原告 P1同訴訟代理人弁護士小林寛治同河合浩子被告株式会社京都知財倶楽部(以下「被告会社」という。)被告 P2上記両名訴訟代理人弁護士飯島歩同下西正孝同訴訟復代理人弁護士市橋隆昌同訴訟代理人弁理士横井知理 主文 1 被告らは,原告に対し,連帯して,150万円及びうち58万円に対する平成18年7月27日から,うち58万円に対する平成19年7月23日から,うち34万円に対する同年12月6日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,これを3分し,その2を原告の負担とし,その余は被告らの負担とする。 4 この判決は,1及び3項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 原告(1) 主位的請求ア被告らは,原告に対し,連帯して455万1450円及びこれに対する平成18年7月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 イ訴訟費用は被告らの負担とする。 ウ仮執行宣言(2) 予備的請求ア被告 帯して455万1450円及びこれに対する平成18年7月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 イ訴訟費用は被告らの負担とする。 ウ仮執行宣言(2) 予備的請求ア被告会社は,原告に対し,413万7682円及びこれに対する平成23年3月18日から支払済みまで年6分の割合による金員を(ただし,後記イの金員の限度で被告P2と連帯して)支払え。 イ被告P2は,原告に対し,被告会社と連帯して,413万7682円及びこれに対する平成23年3月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 ウ訴訟費用は被告らの負担とする。 エ仮執行宣言 2 被告ら(1) 原告の請求をいずれも棄却する。 (2) 訴訟費用は原告の負担とする。 第2 事案の概要 1 前提事実(証拠等の掲記がない事実は当事者間に争いがない。)(1) 当事者原告は,建設業を営む株式会社エムアンドエム(以下「エムアンドエム」という。)の代表取締役である。 被告会社は,知的財産の受託,運用,売買,賃借等を目的とする会社であり,被告P2は,その代表取締役(平成19年11月6日まで取締役)であ る。 (2) 原告による発明原告は,「汎用養生蓋ユニット」に係る発明(以下「本件発明」という。)をした。 (3) 本件発明に係る国内出願(本件出願)被告P2は,平成18年7月27日,被告会社を出願人,原告を発明者として,本件発明に係る特許出願(特願2006-205399)の手続をした(以下「本件出願」という。)。 その後,原告は,本件発明に係る特許を受ける権利を被告会社に譲渡したことに相違ない旨の同日付け「譲渡証書」と題する書面(甲4。以下「本件譲渡証書」という。)を作成し,被告P2に交付した。 本件出願に係る発明(本件発明 明に係る特許を受ける権利を被告会社に譲渡したことに相違ない旨の同日付け「譲渡証書」と題する書面(甲4。以下「本件譲渡証書」という。)を作成し,被告P2に交付した。 本件出願に係る発明(本件発明)は,平成19年6月29日,以下の内容で特許権設定登録された(甲5。以下,登録に係る特許権を「本件特許権」という。)。 特許番号 3978459号特許権者被告会社発明者原告発明の名称汎用養生蓋ユニット特許請求の範囲【請求項1】「床スリーブの開口を,床をほぼ面一に揃えた状態で一時的に塞いでおくための養生蓋ユニットであって,前記開口を覆う寸法を有する円板状の養生蓋と,前記養生蓋の下部に設けられた上部圧縮用板と,前記上部圧縮用板の下部に設けられた固定止水用ゴムと,前記固定止水用ゴムの下部に設けられた下部圧縮板と, 前記養生蓋,上部圧縮用板,固定止水用ゴムおよび下部圧縮板を一体化するためのボルトおよびナットとを含み,前記ボルトおよびナットで前記養生蓋,上部圧縮用板,固定止水用ゴムおよび下部圧縮板を一体化したとき,前記固定用止水ゴムは前記床スリーブの開口を塞ぎ,前記円板状の養生蓋と,前記固定用止水ゴムとで前記床スリーブの開口を二重に塞ぐ,養生蓋ユニット。」【請求項2】「前記養生蓋は前記ボルトを貫通するための長穴を有する,請求項1に記載の養生蓋ユニット。」【請求項3】「前記固定止水用ゴムは複数設けられる,請求項1または2に記載の養生蓋ユニット。」【請求項4】「前記複数の固定止水用ゴムは前記ボルトを貫通するための貫通孔を有し,前記複数の固定止水用ゴムに設けられた貫通孔の寸法は異なる,請求項3に記載の養生蓋ユニット。」(4) 本件発明等に係る国際出願(本件国際出願)被 ゴムは前記ボルトを貫通するための貫通孔を有し,前記複数の固定止水用ゴムに設けられた貫通孔の寸法は異なる,請求項3に記載の養生蓋ユニット。」(4) 本件発明等に係る国際出願(本件国際出願)被告P2は,平成19年7月23日,本件発明及びその技術分野を拡大した関連発明(発明の名称を「シールユニット」とする発明) について,特許協力条約に基づく国際出願(以下「本件国際出願」という。)の手続をした。 なお,本件国際出願は,米国を除く全ての指定国について被告会社を出願人,原告を発明者として,米国については原告を発明者及び出願人として,出願されたものである(甲10)。また,米国については,原告作成名義の同年10月30日付け譲渡証書及び日本語宣言書(甲11の1・2,以下「本件宣言書等」という。)が提出されている。 その後,本件国際出願は,米国,中国及び韓国において,国内段階に移行し,韓国については平成22年1月26日特許権設定登録されたものの,米国については同年6月23日付けで,中国については同年7月12日付けで,それぞれ拒絶査定を受け,いずれも確定した。 (5) 本件発明の関連発明に係る国内出願(本件シールユニット出願)被告P2は,平成19年12月6日,被告会社を出願人,被告P2を発明者として,発明の名称を「シールユニット」とする特許出願(特願2007-316441,以下「本件シールユニット出願」という。)の手続をした。 本件発明の技術分野は建築現場等において床スリーブの開口を養生する養生蓋に係るものであるところ,本件シールユニット出願に係る発明は,前記(4)の本件国際出願に係る関連発明と同様に,養生する対象をあらゆる開口部として技術分野を拡大したものにすぎず,この点に由来する構成の違いを除けば,本件発明と同一の内容のも ト出願に係る発明は,前記(4)の本件国際出願に係る関連発明と同様に,養生する対象をあらゆる開口部として技術分野を拡大したものにすぎず,この点に由来する構成の違いを除けば,本件発明と同一の内容のものである(甲13)。 (6) 本件特許権の移転登録本件特許権については,平成21年10月,被告会社からエムアンドエムに対する特許権の移転登録がされた。 2 原告の請求原告は,被告P2によって,本件発明に係る特許を受ける権利を詐取されたなどとして,① 主位的に,不法行為に基づき,被告らに対し,連帯して455万1450円の損害賠償及びこれに対する本件出願の日(平成18年7月27日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,②予備的に,被告会社に対し,本件出願に係る委任契約の債務不履行に基づき,413万7682円の損害賠償及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日(平成23年3月18日)から支払済みまで商事法定利率である年6分の割合による遅延損害金(ただし,被告P2に対する請求額の限度で被告P2と連帯して)の支払を,被告P2に対し,会社法429条1項に基づき,被告会社と連帯し て,同額の損害賠償及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日(平成23年3月18日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,それぞれ求めている。 3 争点(1) 被告P2は,原告から本件発明に係る特許を受ける権利を詐取したか(同行為による不法行為ないし債務不履行の成否) (争点1)(2) 被告P2は,原告に無断で本件国際出願をしたか(同行為による不法行為ないし債務不履行の成否) (争点2)(3) 被告P2が原告に無断で本件シールユニット出願をしたことによる不法行為な 断で本件国際出願をしたか(同行為による不法行為ないし債務不履行の成否) (争点2)(3) 被告P2が原告に無断で本件シールユニット出願をしたことによる不法行為ないし債務不履行の成否 (争点3)(4) 原告が被った損害の有無及び金額 (争点4)第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(被告P2は,原告から本件発明に係る特許を受ける権利を詐取したか/同行為による不法行為ないし債務不履行の成否)について【原告の主張】以下のとおり,被告P2は,原告を欺罔して本件譲渡証書を作成させ,被告会社を出願人として本件出願をしたことにより,原告から本件発明に係る特許を受ける権利を詐取した。 (1) 本件出願に係る委任契約原告は,本件発明について特許を取得することを希望していたところ,原告の実兄から知的財産に係わる仕事をしている者として被告P2を紹介された。そして,被告P2から,原告のために本件発明に係る特許出願の手続をする旨の申出を受けたことから,被告会社に対し,本件出願に係る手続を委任した。 (2) 被告P2の原告に対する欺罔行為そもそも,被告会社を出願人として本件出願をする必要など全くなかった にもかかわらず,被告P2は,原告が,法的知識に乏しく,特許出願の手続についても全く知らなかったことを奇貨として,本件発明を自己のもの又は原告と共有のものとすることを企て,原告に対し,原告名義で出願するよりも被告会社名義で出願した方が特許査定を得られやすい旨の虚偽の説明をした上,本件譲渡証書を作成することについても特許出願をするに当たり当然に必要な手続であるかのように装って欺罔した。 これにより,前提事実(3)のとおり,原告に本件譲渡 得られやすい旨の虚偽の説明をした上,本件譲渡証書を作成することについても特許出願をするに当たり当然に必要な手続であるかのように装って欺罔した。 これにより,前提事実(3)のとおり,原告に本件譲渡証書を作成,交付させ,被告会社を出願人として本件出願をし,原告から本件発明に係る特許を受ける権利を詐取したものである。 【被告らの主張】被告P2は,原告から本件発明に係る特許を受ける権利を詐取してはいない。 (1) 本件出願に係る依頼被告P2は,原告の実兄から原告を紹介された際,本件出願に要する費用を極力少なくするため,弁理士に委任せずに本件出願をすることを依頼された。 (2) 原告に対する欺罔行為が存在しないこと弁理士に委任せずに本件出願をするには,代理人による出願ではなく,出願人本人による出願とする必要があった。そこで,被告会社を出願人として本件出願をすることについて,原告に提案したところ,原告はこれを承諾したものである。 (3) 共同事業に係る合意本件出願に係る発明が特許権設定登録された後の平成19年7月ころまでに,原告と被告らは,本件発明を共同事業化することに合意し,本件特許の出願人は被告会社とすることとした。 2 争点2(被告P2は,原告に無断で本件国際出願をしたか/同行為による不法行為ないし債務不履行の成否)について 【原告の主張】被告P2は,前提事実(4)のとおり,原告に無断で本件国際出願をし,そのうち韓国における手続については,被告会社が,平成22年1月26日,特許権設定登録を受けた。また,本件宣言書等に記載された原告名義の署名は,被告P2が偽造したものである。 【被告らの主張】被告P2は,原告に無断で本件国際出願をしてはいない。 被告P2が,平成19年6月26日又は同年7月 本件宣言書等に記載された原告名義の署名は,被告P2が偽造したものである。 【被告らの主張】被告P2は,原告に無断で本件国際出願をしてはいない。 被告P2が,平成19年6月26日又は同年7月17日,原告に対し,外国でも本件発明に係る特許出願をするように勧めたところ,原告は,外国では事業をする意思がないので,被告らが本件発明に係る特許権を取得すればよいと述べて,被告らが本件国際出願をすることについて承諾した。このことにより,被告会社は,原告から本件発明について外国における特許を受ける権利の譲渡を受けた。 本件宣言書等は,被告P2が偽造したものではなく,原告が作成したものである。 3 争点3(被告P2が原告に無断で本件シールユニット出願をしたことによる不法行為ないし債務不履行の成否)について【原告の主張】本件シールユニット出願も,被告P2が原告に無断でしたものである。 したがって,これについても原告に対する不法行為ないし債務不履行が成立する。 【被告らの主張】被告P2が原告に無断で本件シールユニット出願をしたことは認めるが,これは周辺技術分野における第三者による出願を防止することのみを目的としてしたものであるから,これについて原告に対する不法行為ないし債務不履行が成立することはない。 そもそも本件シールユニット出願は,本件出願の出願公開後にされたものであるから,誰が行っても原告に対する不法行為ないし債務不履行が成立することはない。 4 争点4(原告が被った損害の有無及び金額)について【原告の主張】(1) 財産的損害被告会社は,前提事実(4)のとおり,本件国際出願に係る韓国特許を受けたことにより,合計113万7682円に相当する利益を受けており,これにより原告は同額の損害を被った 】(1) 財産的損害被告会社は,前提事実(4)のとおり,本件国際出願に係る韓国特許を受けたことにより,合計113万7682円に相当する利益を受けており,これにより原告は同額の損害を被った。 (2) 精神的損害原告は,前記1ないし3の各不法行為ないし債務不履行により,合計300万円に相当する精神的損害を被った。 (3) 主位的請求に係る弁護士費用弁護士費用のうち41万3768円は,前記1ないし3の各不法行為と相当因果関係のある損害である。 【被告らの主張】(1) 財産的損害原告は,本件国際出願に係る韓国特許により,積極的損害を被ってはいない。 また,原告が韓国において事業を営む具体的な予定もない上,被告らは現時点で韓国特許から何ら利益を得ていないから,原告には消極的損害もない。 (2) 精神的損害前記1ないし3のとおり,被告P2の行為について不法行為ないし債務不履行が成立することはないから,原告には精神的損害もない。 少なくとも,前提事実(6)のとおり,本件特許権については,すでに被告会社からエムアンドエムに対する特許権の移転登録がされており,これにつ いて精神的損害が生じる余地はない。 また,本件国際出願に係る韓国特許についても,発明者は原告とされており,発明者名誉権が保護されているから,精神的損害は発生していない。 第4 当裁判所の判断 1 紛争を巡る経緯前提事実,証拠(甲39,乙25,原告本人,被告P2本人及び後掲のもの)及び弁論の全趣旨によると,次の事実を認めることができる。 (1) 本件発明原告は,平成3年ころから建築業を始め,平成11年にエムアンドエムを設立し,自ら,代表取締役となった。 平成18年5月ころ,エムアンドエムの関与した建築工事の現場で きる。 (1) 本件発明原告は,平成3年ころから建築業を始め,平成11年にエムアンドエムを設立し,自ら,代表取締役となった。 平成18年5月ころ,エムアンドエムの関与した建築工事の現場で,建物が完成する前,給湯や電気の配管を通すための穴に水が入ることを防ぐ必要があった。従来,穴に鉄板をかぶせ,周囲をコーキングする方法を用いていたが,十分ではなかったため,原告が,試行錯誤の上,穴を塞いで水が入ることを防ぐ養生蓋の制作を試みたところ,予想以上の効果を得ることができた。 (2) 本件発明の特許出願の委任原告は,前記水漏れ防止のための養生蓋に関する発明(本件発明)について特許出願し,権利化することを考えていたところ,平成18年7月,実兄から,実兄の大学時代の知人である被告P2を紹介され,相談することにした。 被告P2は,精密機器メーカに勤務し,研究開発本部に17年間在籍していたが,退職後,被告会社において,ソフトウェアの受託開発などの業務を行っていた(甲2)。なお,被告P2は,弁理士の資格を有したことはない。 原告は,被告P2と面談した上,被告会社に対し,本件発明の特許出願手続をするよう依頼した。 その際,原告は,被告P2から,「P1さん(原告)は,実績がないので,うちの名前で出願した方が,早い」という趣旨の説明を受け,その後,本件発明について,特許を受ける権利を譲渡する旨の本件譲渡証書(甲4)を作成し,被告P2に交付した。 原告は,上記譲渡証書を交付したものの,同証書は便宜的なものであり,登録された本件特許権は,自己のものになると認識していた。 (3) 本件出願及び設定登録(前提事実(3))被告P2は,平成18年7月27日,原告を発明者,被告会社を出願人とする本件出願の手続をした。 被告P 権は,自己のものになると認識していた。 (3) 本件出願及び設定登録(前提事実(3))被告P2は,平成18年7月27日,原告を発明者,被告会社を出願人とする本件出願の手続をした。 被告P2は,上記出願に係る審査経過中,拒絶理由の通知を受けたため,弁理士にその対応を依頼した。 本件発明は,平成19年6月29日,特許権設定登録された。 (4) 原告による費用負担本件出願に係る費用(前記(3)の弁理士に対する支払を含む。)について,被告会社は,原告に対し,次のとおりの名目で金銭の支払を求め,原告はこれに応じて支払った。 ア平成18年8月21日付(甲7)汎用養生蓋ユニットに関する特許出願コンサルタント費用3万1500円イ平成19年3月3日付(甲8の1)汎用養生蓋ユニットに関する審査請求コンサルタント費用,審査請求特許印紙代金立替25万9381円(合計)ウ同年7月21日付(甲9)拒絶理由通知に対する「意見書・手続補正書」,「上申書」,特許が成立したことによる「特許成功謝金」,特許の「登録料年金」 27万0432円(合計)(5) 本件国際出願(前提事実(4))被告P2は,平成19年7月23日,本件発明及びその関連発明について,本件国際出願の手続をした(甲10)。 韓国については,平成22年1月26日,特許権設定登録されたが,米国,中国については,拒絶査定が確定した(甲11の1・2,甲12)。 (6) 本件シールユニット出願(前提事実(5))被告P2は,平成19年12月6日,本件シールユニット出願の手続をした(甲13)。 (7) 本件発明の顕彰被告P2は,本件発明を全国建設業労働災害防止大会に出品したところ,顕彰作品に選ばれ,平成21年7月17日,被告P2 日,本件シールユニット出願の手続をした(甲13)。 (7) 本件発明の顕彰被告P2は,本件発明を全国建設業労働災害防止大会に出品したところ,顕彰作品に選ばれ,平成21年7月17日,被告P2を通じて,原告にも伝えられた(甲15,乙5,乙6の1・2,乙7~9)。 被告P2は,同年9月10日,全国建設業労働災害防止大会において,出品者として顕彰を受けた上,副賞10万円を受領した。 (8) 原告による抗議原告は,平成21年9月,本件特許権に関する特許証(甲6)を取引先に見せたところ,発明者は原告であるが,特許権者は被告会社となっていることを指摘され,自分が本件特許権者となっていないことに気付いた。 原告は,被告P2に電話をかけ,抗議し,本件特許権の移転登録を求めた。 (9) 本件特許権の移転登録原告の抗議を受け,被告P2は,本件特許権を原告と被告会社の共有とすることなどを内容とする覚書案を原告に交付したが(甲18~20,甲21の1・2),いずれも断られたため,平成21年9月17日,被告会社からエムアンドエムに本件特許権を移転することについて承諾し(甲22),同年10月,上記内容の移転登録手続がとられた(甲27の1・2,甲28の1・ 2)。 2 争点1(被告P2は,原告から本件発明に係る特許を受ける権利を詐取したか/同行為による不法行為ないし債務不履行の成否)について(1) 原告は,被告P2が,本件発明を自己(被告会社)のもの又は原告と共有のものとすることを企て,虚偽の説明をした上,本件出願をして,本件発明に係る特許を受ける権利を詐取したと主張する。 これに対し,被告らは,本件発明が原告のものであり,本件特許権が原告に帰属するべきことについて争わないものの,原告の承諾のもと,被告会社名義で出願したと主張 許を受ける権利を詐取したと主張する。 これに対し,被告らは,本件発明が原告のものであり,本件特許権が原告に帰属するべきことについて争わないものの,原告の承諾のもと,被告会社名義で出願したと主張する。 しかし,次に述べるとおり,被告らは,当初から,本件発明の実施に伴う事業に参画し,利益を上げるため,出願人を被告会社とすることを考えていたにもかかわらず,原告に対してその意図を説明したり,その承諾を得たりすることなく,本件出願を行ったと認めるのが相当である。 ア被告会社名義の出願が必要でなかったこと単に弁理士費用に係る出費を省くことが目的であれば,被告らが報酬を得ることを目的としない限り,被告P2が原告の本件出願に係る書類作成業務を補助すればよいだけのことであり,本件発明に係る特許を受ける権利を被告会社に譲渡する必要はない。 また,実際に,被告会社が本件出願に係る手続を弁理士に委任したことについては当事者間で争いがないが,被告らの主張を前提とすれば,弁理士に委任した時点で被告会社を出願人とする理由はなくなるから,その時点で出願人の名義変更をすべきであるところ,これがされなかった理由に関する説明も全くない。 イ登録名義を直ちに原告に移転しようとしなかったこと前提事実(6)のとおり,被告らは,設定登録をされてから2年以上が経過するまで,被告会社から原告に対する特許権の移転登録をしなかったこ とが認められる。この移転登録をした経緯についても,原告が本件特許権の特許権者が被告会社であることを知り,被告P2に抗議をしたため,移転登録をするに至ったことが認められる(原告本人19頁,被告P2本人14頁以下)。 なお,被告P2は,原告から本件特許権の権利者が被告会社であることについて抗議を受けた後,原告に対し,本件 ,移転登録をするに至ったことが認められる(原告本人19頁,被告P2本人14頁以下)。 なお,被告P2は,原告から本件特許権の権利者が被告会社であることについて抗議を受けた後,原告に対し,本件出願を共同出願に変更した旨の電子メール(甲17)及び本件特許権を共有とする内容の「養生蓋特許に関する覚書」と題する書面(甲18)を送付するなどした上,1,2年後に原告単独の名義に変更することを提案し,現在は発明協会に売り込むため,権利者に被告会社の名前が必要なだけである旨の電子メール(甲19)を送付したことも認められる。 しかし,本件出願を共同出願に変更した事実は窺えず,「発明協会に売り込むため」被告会社の名前が必要であるとの弁明も意味不明であり,これらの応対は,原告からの抗議をはぐらかし,本件特許権に係る被告会社の特許権の存続を図ろうとして行われたものといわざるを得ない。 ウ共同事業の合意の有無被告らは,本件特許権登録後に原告との間で本件特許権に係る共同事業をする合意が成立したため,原告から要求されるまで本件特許権の移転登録手続をしなかったにすぎないとも主張する。 確かに,被告P2は,原告に対し,本件発明の実施品の試作や製造に関する,いろいろな情報をメールで送信していることが窺える(乙1~3,乙4の1・2)。 しかしながら,これらのメールには,被告会社との共同事業に関する明確な記載はなく,被告会社を本件特許権の権利者とすることを明確にした記載もない。原告は,被告会社が本件特許権の権利者として登録されていることを知り,直ちに被告P2に抗議をしているが,本件出願後,同抗議 までの間,原告と被告P2との関係に変化が生じたり,トラブルが発生したりしたわけでもないこと(被告P2本人15頁)に照らすと,上記のような事態 告P2に抗議をしているが,本件出願後,同抗議 までの間,原告と被告P2との関係に変化が生じたり,トラブルが発生したりしたわけでもないこと(被告P2本人15頁)に照らすと,上記のような事態の推移を説明することができず,原告と被告P2との間で本件特許権に係る共同事業をする合意が成立したという事実を認めることはできない。 また,原告が被告P2と共に共同事業をして本件発明に係る利益を被告らに享受させなければならない事情はないこと(被告P2本人も自認する陳述をした。)からしても,上記被告らの主張は採用することができない。 エ本件特許権の権利者であることを前提とした被告会社の行為なお,被告会社が,平成21年ころ,自社ホームページにおいて,本件特許権の権利者である旨の記事を掲載していたこと(甲14),被告会社が自らライセンス等をすることが可能なものとして,独立行政法人工業所有権情報・研修館が運営していた特許流通データベースに本件特許権を掲載していたこと(甲16)が認められる。 しかし,これらは共同事業のためのものとはいえず,むしろ,被告会社の利益のための行為であるというべきである。そして,これらの事実を原告が認識し,了解していたことを認める証拠もない。 また,被告P2が,平成21年9月10日,全国建設業労働災害防止大会において本件発明の開発について顕彰基金による顕彰を受け,副賞10万円を受領したことが認められる(甲15及び被告P2本人)。 この点について,被告P2は,原告に対し,顕彰式の前に,顕彰の事実を報告し,顕彰式に出席するよう促しているが(乙5,乙6の1・2),そのことから,被告らが主張するように,被告P2において,原告を欺罔して本件発明に係る特許を受ける権利を取得する意図や,被告会社において,本件特許権 出席するよう促しているが(乙5,乙6の1・2),そのことから,被告らが主張するように,被告P2において,原告を欺罔して本件発明に係る特許を受ける権利を取得する意図や,被告会社において,本件特許権の権利者として自らの利益を図る意図がなかったとはいえない。むしろ,被告P2としては,被告会社が本件特許権の行使に関与し, 利益を得ることを企図しつつ,原告が,積極的に業界に本件特許権を売り込むことを勧めているにすぎないものといえる。 オ被告P2の他の出願行為加えて,後記3及び4のとおり,被告P2は,原告に無断で本件国際出願及び本件シールユニット出願をするなどして,被告会社の利益を図ろうとしたことも認められる。 (2) 前記(1)で検討したところによれば,被告らが主張するように,出願の便宜のためだけに出願人の名義を被告会社としたとは考えられない。また,被告らが主張する共同事業について,原告がその説明を受けたとか,承諾をしたという事情も窺えない。 そうすると,原告が主張するとおり,原告としては,被告会社名義による出願自体については了承していたものの,原告が本件特許権の権利者になることを当然の前提であると認識していたにもかかわらず,被告P2は,当初から,被告会社を本件特許権の権利行使に関与させることを企図し,原告に対し,その計画を説明しないまま,また,その承諾の意味について錯誤を有していることを知りながら,本件出願を行ったことが認められる。 上記被告P2の行為は,原告に対する不法行為を構成するということができ,その結果,被告P2は損害賠償の責めを負う。また,上記被告P2の行為は,被告会社の事業の執行として行われたものであるから,被告会社は民法715条の責任を負うというべきである。 3 争点2(被告P2は,原告に無断 2は損害賠償の責めを負う。また,上記被告P2の行為は,被告会社の事業の執行として行われたものであるから,被告会社は民法715条の責任を負うというべきである。 3 争点2(被告P2は,原告に無断で本件国際出願をしたか/同行為による不法行為ないし債務不履行の成否)について(1) 原告は,被告P2が,原告に無断で本件国際出願をしたと主張し,これに対し,被告らは,本件国際出願をすることについて原告の承諾があったと主張する。 被告らの上記主張を裏付ける客観的な証拠として,本件宣言書等があるが, 次に述べるとおり,その成立の真正を認めることはできず,他に上記承諾を認めるに足りる証拠はない。 (2) 本件国際出願を許諾しなければならない事情のないこと被告P2は,本件出願は,便宜的に被告会社を出願人とするが,原告に本件特許権を取得させることを目的とし,そのかわり,国外特許については,全て自分に委ねられたという趣旨の供述をする(被告P2本人3,5頁)。 しかし,前記2のとおり,本件出願についての被告P2の意図は,被告P2の上記供述と異なっており,そもそも,前記2(1)ウのとおり,原告には,被告P2に対し,本件発明に係る利益を享受させなければならない事情はない。 なお,本件譲渡証書(甲4)には,「日本国およびその他の外国における,下記の発明に関する特許を受ける権利を,貴社に譲渡した事に相違ありません。」との記載があり,外国における出願についても許諾を与えたかのような記載となっているが,前記2で述べたところからも,上記譲渡証書は,便宜的に被告会社名義で出願するためとの被告P2の説明を信じて交付したものであって,上記記載をもって,外国における出願について許諾を与えたと認めることはできない。 (3) 本件国際出願を秘匿していた 的に被告会社名義で出願するためとの被告P2の説明を信じて交付したものであって,上記記載をもって,外国における出願について許諾を与えたと認めることはできない。 (3) 本件国際出願を秘匿していたことまた,「養生蓋特許に関する覚書」と題する各書面(甲18,20)は,いずれも,被告P2が,原告から,被告会社が本件特許権の権利者として登録されていることについて抗議を受けた後,被告P2が作成し,原告に送付したものであるところ,これらの書面には,(外国特許)と題する条項があり,本件出願を元とした外国出願に関しては被告会社単独で被告会社の費用で行うものとすること,特許が成立した場合も被告会社の所有とすることの記載がある。これらの記載は,いまだ本件国際出願がされていないことを前提とした記載とみられるものであるところ,前提事実(4)のとおり,本件国際出 願がされた時期は,これらの書面が作成,交付された平成21年9月より2年以上前の平成19年7月23日であるから,被告P2が原告から予め本件国際出願をすることについて承諾を得ていたのであれば,少なくとも,上記のような記載がされることは考えがたいというべきである。 (4) まとめこれらのことからすると,被告P2が,原告に無断で本件国際出願をしたものと認めることができる。 なお,本件宣言書等には原告名義の署名がされているところ,前記(2),(3)の事実に照らすと,これらの署名を原告がしたと認めることはできない。 そうすると,本件国際出願は,発明者でない者であってその発明について特許を受ける権利を承継しないものによってされた,いわゆる冒認出願(特許法49条7号,123条1項6号)に当たり,前記2と同様,原告に対する不法行為が成立するというべきである。 4 争点3(被告P2が原告に 権利を承継しないものによってされた,いわゆる冒認出願(特許法49条7号,123条1項6号)に当たり,前記2と同様,原告に対する不法行為が成立するというべきである。 4 争点3(被告P2が原告に無断で本件シールユニット出願をしたことによる不法行為ないし債務不履行の成否)について(1) 被告P2が原告に無断で本件シールユニット出願をしたことについては,当事者間で争いがない。 前提事実(5)のとおり,本件発明の技術分野が建築現場等において床スリーブの開口を養生する養生蓋に係るものであるのに対し,本件シールユニット出願は,単に技術分野を拡大して養生する対象をあらゆる開口部としたものにすぎず,この点に由来する構成の違いを除けば,本件発明と同一内容のものであることが認められる。このことからすると,本件シールユニット出願についても発明者は原告であるというべきであり,このことは本件国際出願において本件発明の関連発明(本件シールユニット出願と同内容のもの)についても原告を発明者としていたことからも,被告P2自身,自認していたということができる。 そうすると,本件シールユニット出願は,被告会社を出願人,被告P2を発明者として出願されたものであるから,これについてもいわゆる冒認出願に当たり,前記3と同様,原告に対する不法行為が成立するというべきである。 (2) 被告らは,本件シールユニット出願について,周辺技術分野における第三者による出願を防止することのみを目的としたもの(当初から拒絶査定をされることについて予想してしたもの)であり,原告に対する不法行為ないし債務不履行は成立しない旨主張する。 しかし,本件シールユニット出願が原告の利益を図ろうとしたものであれば,被告P2は,事前に原告から承諾を得たはずであるし,原告に費用等の に対する不法行為ないし債務不履行は成立しない旨主張する。 しかし,本件シールユニット出願が原告の利益を図ろうとしたものであれば,被告P2は,事前に原告から承諾を得たはずであるし,原告に費用等の負担を全く求めることなく,被告らが本件シールユニット出願に係る費用を負担したこと(当事者間で争いがない)からしても,被告らの上記主張は信用できない。前記2,3で述べた点も併せ考えると,前記2,3の場合と同様,被告P2は,本件シールユニット出願についても,被告会社による特許権の取得と被告会社の利益を図って出願したと認定するのが相当である。 また,被告らは,本件シールユニット出願が本件出願の出願公開後にされたものであるから,誰が行っても原告に対する不法行為ないし債務不履行は成立しない旨主張する。しかしながら,本件シールユニット出願が冒認出願であり違法なものであることについては,前述のとおりであり,本件シールユニット出願についても,前記2と同様,原告に対する不法行為が成立するというべきである。 5 争点4(原告が被った損害の有無及び金額)について(1) 財産的損害原告は,被告会社が本件国際出願に係る韓国特許を取得したことにより,その経済的価値に相当する損害を被った旨主張する。 しかしながら,原告本人尋問の結果によれば,原告は現在に至るまで韓国 において特許を取得する意思がなく,今後も,韓国内で事業をする予定や本件特許権に係る製品を輸出する予定などもないことが認められる。 そうすると,原告が,上記韓国特許により何らかの財産的損害を被ったとは認めがたい。 (2) 精神的損害前記2ないし4のとおり,原告は,被告P2により,共同事業の説明を受けることなく,被告会社の利益のために,被告会社を出願人とした本件出願をされたこ 被ったとは認めがたい。 (2) 精神的損害前記2ないし4のとおり,原告は,被告P2により,共同事業の説明を受けることなく,被告会社の利益のために,被告会社を出願人とした本件出願をされたこと(前記2),無断で本件国際出願をされたこと(前記3),無断で本件シールユニット出願をされたこと(前記4)が認められる。 そして,原告本人尋問の結果によれば,原告は,被告P2を信用して本件出願に係る手続を委任したにもかかわらず,被告会社を本件特許権の権利者として登録されたままとなっていることなどを知り,精神的苦痛を被ったこと,本件特許権を有することを前提として金融機関に融資を申し込んだ際及び取引先において営業をした際に,相手方から本件特許権の権利者ではないことを指摘されて精神的苦痛を被ったこと,これにより営業上の信用をも少なからず毀損されたことなどが認められる。 他方において,前提事実(6)のとおり,本件特許権については,すでに被告からエムアンドエムに対する特許権の移転登録がされたこと,同(4)のとおり,本件国際出願についても,米国と中国では拒絶査定がされており,今後も何らかの財産的損害が発生することは想定しがたいこと,韓国特許についても前記(1)のとおり財産的損害が発生しているとは認めがたいことなど,被告P2による上記各不法行為による具体的な財産的損害は,いまだ発生せず又は発生した部分についても,すでに相当部分が填補されたものと認めることができる。 その他本件に係る一切の事情を総合考慮すると,原告が被告P2の各不法行為により被った精神的苦痛を慰謝するには,130万円(内訳:前記2の 不法行為50万円,前記3の不法行為50万円,前記4の不法行為30万円)が相当であると認める。 また,弁護士費用のうち20万円(内訳:前記2 痛を慰謝するには,130万円(内訳:前記2の 不法行為50万円,前記3の不法行為50万円,前記4の不法行為30万円)が相当であると認める。 また,弁護士費用のうち20万円(内訳:前記2の不法行為8万円,前記3の不法行為8万円,前記4の不法行為4万円)は,本件と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。 6 本件各請求に対する結論(1) 主位的請求について以上によれば,前記2ないし4の不法行為が認められる結果,被告P2は民法709条により,損害賠償の責めを負うところ,主位的請求のうち150万円の損害賠償及びこれに対する民法所定の年5分の割合による遅延損害金に係る部分には理由があり,その余の部分については理由がないというべきである。 そして,前記2ないし4の行為は,被告P2が被告会社の事業の執行として行い,もしくは,代表者の職務として行ったというべきであるから,被告会社は,民法715条(前記2,3の行為),会社法350条(前記4の行為)により,被告P2と同じ損害賠償責任を負うべきである。 なお,遅延損害金請求に係る起算日について,原告は,本件出願日(平成18年7月27日)としているところ,前記3及び4の各不法行為の日はこれよりも後であるから,これらの不法行為に係る遅延損害金については上記起算日によることができない。 そこで,上記各不法行為の内容や原告が被った精神的苦痛の程度等の事情も考慮すると,上記150万円のうち58万円については本件出願の出願日(平成18年7月27日),58万円については本件国際出願の出願日(平成19年7月23日),34万円については本件シールユニット出願の出願日(同年12月6日)を,それぞれ起算日とするのが相当である。 (2) 予備的請求について 前記5のとおり, 日(平成19年7月23日),34万円については本件シールユニット出願の出願日(同年12月6日)を,それぞれ起算日とするのが相当である。 (2) 予備的請求について 前記5のとおり,原告が150万円を超える損害を被ったとは認めることができないから,予備的請求のうち前記(1)の主位的請求に係る認容部分を超える部分についても理由がない。 第5 結論 よって,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第26民事部 裁判長裁判官 山田陽三 裁判官 達野ゆき 裁判官 西田昌吾
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