令和4(ネ)3852

裁判年月日・裁判所
令和6年10月21日 東京高等裁判所 棄却
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判決文本文23,024 文字)

- 1 -主文 1 本件控訴をいずれも棄却する。 2 控訴費用は、控訴人らの負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人らは、連帯して、控訴人らそれぞれに対し、別紙2請求額一覧記載の各金員及びこれに対する平成26年9月27日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要(以下、略称は、特記しない限り原判決の例による。) 1 事案の要旨控訴人らは、いずれも、平成26年9月27日に発生した御嶽山の噴火(本件噴火)により負傷した者であるか、又はこれにより死亡した者の相続人である。 本件は、控訴人らが、被控訴人国及び被控訴人長野県の公務員が職務上の注 意義務を怠ったために、上記死傷の結果が発生したと主張して、被控訴人らに対し、連帯して、国賠法1条1項に基づく損害賠償(死者1人当たり3000万円に各控訴人の相続分を乗じた額又は負傷者1人当たり300万円の慰謝料)及びこれに対する本件噴火の日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 控訴人らの主張する被控訴人らの公務員の職務上の注意義務違反の骨子は、被控訴人国の公務員については、気象庁地震火山部火山課(気象庁火山課)の職員が、本件噴火に先立って、火山性地震の増加等の前兆現象を観測していたのであるから、御嶽山に係る噴火警戒レベルに関する判定基準(本件判定基準)に従って、噴火警戒レベルをレベル1からレベル2に引き上げ、噴火警報であ る火口周辺警報を発表すべきであったにもかかわらず、これを怠ったことであ- 2 -り、被控訴人長野県の公務員については、被控訴人長野県は御嶽山の山頂等に地震計を設置しており、それが噴火の前兆現象である地震の観測のために重要 であったにもかかわらず、これを怠ったことであ- 2 -り、被控訴人長野県の公務員については、被控訴人長野県は御嶽山の山頂等に地震計を設置しており、それが噴火の前兆現象である地震の観測のために重要であったにもかかわらず、その維持管理を怠り、地震計を故障したまま放置したことである。 2 原判決の判断の概要等 原判決は、被控訴人国に対する請求については、被控訴人国の公務員による職務上の注意義務違反が認められるが、注意義務違反と死傷の結果との間の因果関係が認められないとして、被控訴人長野県に対する請求については、被控訴人長野県の公務員による職務上の注意義務違反が認められないとして、控訴人らの請求をいずれも棄却した。 そこで、控訴人らが原判決の全部を不服として控訴を提起した。 3 前提事実、当事者の主張等に係る原判決の引用(1)関係法令等の概要及び本判決の用いる火山現象等に関する用語の内容は、以下のとおり原判決を補正し、本判決別紙3「関係法令等の定め」に記載のとおり付加するほかは、原判決別紙3「関係法令等の定め」、原判決別紙4 「噴火警戒レベルの表」及び原判決別紙5「用語等について」に記載のとおりであるから、これを引用する。 ア原判決94頁10行目の「減少」を「現象」に改める。 イ原判決98頁8行目の「別紙4」を「原判決別紙4」に改める。 (2)前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、後記4のとおり原判決 を補正し、後記5のとおり、当審における控訴人らの補充主張を加えるほかは、原判決「事実及び理由」第2(事案の概要)の3(前提事実)、4(争点)及び5(争点に関する当事者の主張)に記載のとおりであるから、これを引用する。 4 原判決の補正 (1)原判決2頁24行目の「別紙2」、3頁25行 事案の概要)の3(前提事実)、4(争点)及び5(争点に関する当事者の主張)に記載のとおりであるから、これを引用する。 4 原判決の補正 (1)原判決2頁24行目の「別紙2」、3頁25行目の「別紙6」及び4頁3- 3 -行目の「別紙7」を、それぞれ「原判決別紙2」、「原判決別紙6」及び「原判決別紙7」に改め、2頁26行目の「記載のとおり。」の後に「ただし、同別紙中の「a」は、氏をbに改めた。」を加える。 (2)原判決3頁6行目の末尾に改行の上で以下のとおり加える。 「ウ本件噴火の当時、気象庁本庁、札幌管区気象台、仙台管区気象台及び 福岡管区気象台の全国4か所に火山監視・情報センターが設置され、各管内の火山の監視等を行っていた。このうち東京火山監視・情報センター(以下単に「火山監視・情報センター」という。)は、気象庁火山課に置かれていた。(乙6、証人c)」(3)原判決4頁20行目から同頁21行目にかけての「観測点に設定していた が」を以下のとおり改める。 「観測点に設定し、それぞれ地震計を設置していたが(原判決別紙8記載の4つの白色の丸印のうち、最も下のものが滝越、下から2番目のものが御嶽山の山頂、下から3番目のものが御嶽三岳(ロープウェイ)に設置された地震計の位置を示す。)」 (4)原判決8頁15行目の「噴火警戒レベルを過去の火山活動に適用した場合の例」の後に「(以下「本件適用例」ということがある。)」を加える。 (5)原判決13頁3行目の末尾に改行の上で以下のとおり加える。 「 仮に、平成26年9月25日の検討会における上記指摘を受けて、山体膨張の可能性の有無を判断するために、GNSS観測データの誤差の有無 等について、更なる検討が必要であったとしても、①季節変動による影響は平成26年 5日の検討会における上記指摘を受けて、山体膨張の可能性の有無を判断するために、GNSS観測データの誤差の有無 等について、更なる検討が必要であったとしても、①季節変動による影響は平成26年と他の年の年周変動を比較すれば1、2分で排除できたこと、②雨量による影響は気象庁の持っているデータで1時間あれば調査できたこと、③御嶽山では、従来から超速報値と最終解との違いがほとんど無かったこと、④御嶽山の観測点は樹木から離れており樹木の影響はないこと を踏まえれば、検討開始から1時間半程度で、山体膨張の可能性を示す僅- 4 -かな地殻変動の可能性を否定することができないとの結論に至ったことは明らかである。」(6)原判決27頁20行目の「各措置がとられていたならば、」の後に「登山開始前に登山口において、」を加え、同頁21行目の「知ることができ、」の後に「仮に登山開始前にこれを知ることができなかったとしても、登山道 の途中にある山小屋からの連絡等によって、これを知ることができ、」を加える。 5 当審における控訴人らの補充主張(1)気象庁火山課の職員に裁量がないこと気象庁火山課の職員の多くは火山学についての専門的知見を有していない ところ、本件判定基準は、そのことを踏まえて、担当者による判断のばらつきをなくして、均質な判断ができるようにすることを目的として定められており、本件列挙事由が存在する場合には、噴火警戒レベルをレベル2に引き上げることを一義的に求めているのであって、その場合に裁量的な判断が行われることを予定していない。このことは、気象庁が御嶽山における噴火警 戒レベルの導入の過程で、本件関係市町村に対して示した噴火警戒レベル案(本件レベル案)や、これを御嶽山の過去の火山活動に適用した場合の例(本件適 い。このことは、気象庁が御嶽山における噴火警 戒レベルの導入の過程で、本件関係市町村に対して示した噴火警戒レベル案(本件レベル案)や、これを御嶽山の過去の火山活動に適用した場合の例(本件適用例)が、噴火の前兆現象が観測され始めた時点で、噴火警戒レベルをレベル2に引き上げることを想定していたこと、本件噴火後に本件判定基準が改定され、本件列挙事由が存在する場合には、噴火警戒レベルを一律にレ ベル2に引き上げることとされたことからも明らかである。 そして、平成26年9月10日及び同月11日の両日、本件列挙事由の一つである火山性地震の1日50回以上の発生が観測されたのであるから、気象庁火山課の職員がそのことを踏まえて噴火警戒レベルをレベル2に引き上げなかったことは、職務上の注意義務に違反するものである。 (2)気象庁火山課の職員の判断が著しく合理性を欠くこと- 5 -ア火山性地震の回数について火山学の知見によれば、噴火の可能性の判断については、火山性地震の回数が1日50回以上であるか否かが重要なのであり、その回数が1日50回に達した後は、火山性地震の回数と噴火の可能性が比例関係に立つことはなく、火山性地震の回数の多寡は、噴火の可能性の判断に影響を与え ない。 したがって、気象庁火山課の職員がした噴火警戒レベルをレベル2に引き上げず、レベル1に据え置く旨の判断が著しく不合理であるか否かを検討する際に、過去の噴火事例において、噴火前に火山性地震が1日100回以上観測されたことを考慮することは、火山学の知見に基づかずに、過 去の事例を偏重するものであって、相当でない。 イ前兆現象の発生から噴火に至るまでの時間的猶予について過去の噴火事例を参照する際には、それが法則に基づくものであったのか、それとも 、過 去の事例を偏重するものであって、相当でない。 イ前兆現象の発生から噴火に至るまでの時間的猶予について過去の噴火事例を参照する際には、それが法則に基づくものであったのか、それとも単なる偶然であったのかを検討する必要がある。そして、火山性地震の増加、低周波地震の発生等の前兆現象から噴火までの期間につ いての法則は存在しない。 したがって、気象庁火山課の職員がした噴火警戒レベルをレベル2に引き上げず、レベル1に据え置く旨の判断が著しく不合理であるか否かを検討する際に、過去の噴火事例において、火山性地震の増加や低周波地震の発生から噴火までに一定程度の時間的猶予があったことを考慮すること は相当でない。 ウ低周波地震の回数について①火山学の知見によれば、低周波地震の発生は、その多寡にかかわらず、噴火の可能性の高まりを示す事情とされている。また、②低周波地震のうち、BL型地震に限定すれば、本件噴火前の発生回数は、過去の噴火事例 と比較して少ないとはいえないし、③本件噴火前の低周波地震の発生状況- 6 -を低周波地震の発生が観測されたが噴火に至らなかった過去の事例と同一視することもできない。 したがって、気象庁火山課の職員がした噴火警戒レベルをレベル2に引き上げず、レベル1に据え置く旨の判断が著しく不合理であるか否かを検討する際に、低周波地震の回数が少なかったことを考慮するのは相当でな い。 エ推移モデルについて御嶽山の過去の噴火事例は、推移モデルによって説明可能であったし、本件噴火も推移モデルによって説明可能であった。したがって、気象庁火山課の職員は、推移モデルに当てはまる事象が観測された時点、すなわち、 火山性地震が増加し、その回数が減少した後に、低周波地震が発生した時点で、 によって説明可能であった。したがって、気象庁火山課の職員は、推移モデルに当てはまる事象が観測された時点、すなわち、 火山性地震が増加し、その回数が減少した後に、低周波地震が発生した時点で、噴火警戒レベルをレベル2に引き上げるべきであった。 ところが、気象庁火山課の職員は、平成26年9月14日、同月16日及び同月24日に低周波地震が観測されたにもかかわらず、推移モデルを踏まえて噴火警戒レベルをレベル2に引き上げず、これをレベル1に据え 置く判断をした。 このような気象庁火山課の職員の判断は、火山学の知見と整合せず、著しく合理性を欠く。 オ山体膨張を示す僅かな地殻変動の可能性について気象庁火山課の職員は、dが平成26年9月25日に山体膨張の可能性 を指摘したことを踏まえて、山体膨張を示す僅かな地殻変動の可能性を否定することができない以上は、災害予防の観点から、噴火警戒レベルをレベル2に引き上げるべきであった。 ところが、気象庁火山課の職員は、その可能性を否定することができなかったにもかかわらず、dの上記指摘がノイズによるものである可能性が あるとして、噴火警戒レベルをレベル2に引き上げず、レベル1に据え置- 7 -く判断をしており、このような気象庁火山課の職員の判断は、著しく合理性を欠く。 なお、気象庁火山課の職員は、平成26年9月10日に50回以上の火山性地震が観測されたことを受けて、GNSSの観測データを注視していれば、より早い時期に、山体膨張を示す僅かな地殻変動の可能性を否定す ることができないとの結論に至っていたはずである。 カ登山者の存在について本件噴火の当時、御嶽山の登山シーズンは終わっておらず、仮に噴火が発生すれば登山者の生命及び身体に対する被害が生ずることが予想された。と の結論に至っていたはずである。 カ登山者の存在について本件噴火の当時、御嶽山の登山シーズンは終わっておらず、仮に噴火が発生すれば登山者の生命及び身体に対する被害が生ずることが予想された。ところが、気象庁火山課の職員は、そのことを考慮せず、上記アから オまでのとおり、噴火の前兆現象が存在したにもかかわらず、噴火警戒レベルをレベル2に引き上げず、レベル1に据え置く判断をした。このような気象庁火山課の職員の判断は、著しく合理性を欠く。 (3)被控訴人長野県の公務員に注意義務違反があること噴火が発生した場合には甚大な被害が生ずること、気象庁が噴火の前兆を 把握して噴火警報等を的確に発表するために本件協定を締結したこと、本件協定によって、被控訴人長野県により御嶽山の山頂等に設置された地震計が気象庁の観測・監視体制に組み込まれたこと、地方自治体が火山現象の観測のための施設及び組織を整備すべき義務が一般的な努力義務にすぎないとしても、地方自治体は、施設を整備した以上は、その維持管理について具体的 な注意義務を負うといえること等を踏まえると、被控訴人長野県の公務員は、上記地震計を適切に管理すべき職務上の注意義務を負っていたというべきである。そして、被控訴人長野県の公務員が、本件噴火の当時、上記地震計を故障したまま放置していたことは、上記注意義務に違反し、国賠法1条1項の適用上違法である。 第3 当裁判所の判断- 8 - 1 当裁判所は、被控訴人国の公務員及び被控訴人長野県の公務員のいずれについても、職務上の注意義務違反があったとは認められず、したがって、控訴人らの請求は、いずれも理由がないと判断する。その理由は、後記2のとおり原判決を補正し、後記3のとおり当審における控訴人らの補充主張に対する判断を加えるほ 反があったとは認められず、したがって、控訴人らの請求は、いずれも理由がないと判断する。その理由は、後記2のとおり原判決を補正し、後記3のとおり当審における控訴人らの補充主張に対する判断を加えるほかは、原判決「事実及び理由」第3(当裁判所の判断)の1(認定 事実)、2(争点⑴アについて)及び4(被告長野県に対する請求に関する争点について)に記載のとおりであるから、これを引用する。 2 原判決の補正(1)原判決35頁18行目の「落合唐谷-御嶽田の原間の基線長」の後に以下のとおり加える。 「(原判決別紙8記載の3つの赤色の星印のうち、最も左のものが落合唐谷の観測局、左から2番目のものが御嶽田の原の観測局の位置を示す。なお、最も右のものは開田高原西野の観測局の位置を示す。)」(2)原判決39頁25行目の「御嶽山の噴火警戒レベル案(」の後に「以下「本件レベル案」ということがある。」を加え、41頁9行目から同頁10行目 にかけての「過去の噴火事例に対し噴火警戒レベルを適用した場合の例」の後に「(本件適用例)」を加える。 (3)原判決42頁5行目の「別紙6」、43頁19行目の「別紙7」及び50頁13行目の「別紙8」を、それぞれ「原判決別紙6」、「原判決別紙7」及び「原判決別紙8」に改める。 (4)原判決47頁16行目の「(各観測点の位置については」から同頁17行目の「とおりである。)」までを削る。 (5)原判決49頁20行目、同頁21行目及び50頁6行目の「所長」をそれぞれ「火山監視・情報センター所長」に、49頁22行目(2か所)及び50頁6行目から同頁7行目にかけての「解析官」をそれぞれ「火山活動評価 解析官」に、49頁24行目の「対策官」(2か所)をそれぞれ「火山対策- 9 -官」に改める。 ( 目(2か所)及び50頁6行目から同頁7行目にかけての「解析官」をそれぞれ「火山活動評価 解析官」に、49頁24行目の「対策官」(2か所)をそれぞれ「火山対策- 9 -官」に改める。 (6)原判決50頁14行目の「御嶽田の原上、御嶽田の原の2か所」の後に以下のとおり加える。 「(原判決別紙8記載の2つの赤色の丸に×を重ねた印のうち、上のものが御嶽田の原上の地震計・空震計、下のものが御嶽田の原の地震計・空震計 の位置を示す。)」(7)原判決50頁17行目の「王滝、三岳及び高根の3か所に観測局」の後に以下のとおり加える。 「(原判決別紙8記載の4つの橙色の星印のうち、左下のもの(下呂)を除いて、最も下のものが王滝、下から2番目のものが三岳、最も上のものが 高根の観測局の位置を示す。)」(8)原判決60頁13行目の「開田高原西野-王滝間」の後に「(基準値:14757.87m)」、同行目の「落合唐谷-王滝間」の後に「(基準値:13202.33m)」、同頁14行目の「わずか」の後に「(1cm未満)」をそれぞれ加え、同頁18行目の「乙46」を「乙42、46」に改め、6 1頁4行目の末尾に以下のとおり加える。 「ただし、国土地理院は、平成26年9月上旬頃からみられた基線長の僅かな伸びは、地殻変動だけでなく、気象擾乱等によっても生ずることがあり、ノイズレベルと同程度であるので、その原因が山体膨張であったかどうかを断定することができない旨の見解を示している(乙51)。」 (9)原判決61頁13行目から同頁21行目までを以下のとおり改める。 「 本件ベクトル図は、平成26年8月23日から同年9月23日までの落合唐谷、御嶽田の原、開田高原西野、王滝及び高根の各観測点の変位を示すものであり、対照用に、平成25年の を以下のとおり改める。 「 本件ベクトル図は、平成26年8月23日から同年9月23日までの落合唐谷、御嶽田の原、開田高原西野、王滝及び高根の各観測点の変位を示すものであり、対照用に、平成25年の同時期の上記各観測点の変位も示している。このうち、平成26年のベクトル図では、山頂の北西側に位置 する落合唐谷観測点(OKT点)が北西方向への7mmの変位を示し、山- 10 -頂の北東側に位置する開田高原西野観測点(KK2点)が北東方向への7mmの変位を示しており、これらの2点については、山頂から放射状に変位している(山頂から遠ざかっている)ように見える。もっとも、上記各観測点の中で最も山頂に近い、山頂の南東側に位置する田の原観測点(TN2点)は、北方向への2mmの変位を示しており、変位の量が小さく、 その向きが放射状であるともいえない。また、平成25年のベクトル図においても、開田高原西野観測点(KEK点)は、北東方向への6mmの変位を示している。」(10)原判決65頁8行目の「気象業務法」から同頁11行目の「気象庁は」までを「気象業務法(法)は、災害の予防をその目的の一つとするところ(法 1条)、気象業務をつかさどる気象庁は」に改め、同頁19行目の「気象庁は」から同頁25行目の「発表基準によれば」までを以下のとおり改める。 「規則3条3項は、住民等がとるべき防災行動を踏まえた火山活動の状況の区分を噴火警戒レベルとして定めることとし、規則18条の3第3項は、地域防災計画等において噴火警戒レベルが定められた火山(レベル対象火 山)に係る火山現象に関する予報、警報等(噴火予報等)について、その名称、発表基準のほか、周知の際の予報文・警戒文において用いるべき警戒レベルの数字と予報事項・警戒事項を定めている(以下、同項の 山)に係る火山現象に関する予報、警報等(噴火予報等)について、その名称、発表基準のほか、周知の際の予報文・警戒文において用いるべき警戒レベルの数字と予報事項・警戒事項を定めている(以下、同項の定める発表基準のことを「噴火警戒レベルの発表基準」という。)。例えば」(11)原判決66頁14行目の「気象業務の」を削り、67頁6行目から同頁7 行目にかけての「気象業務法(法)等関係法令等」を「気象業務法(法)等の関係法令」に改める。 (12)原判決67頁8行目から同頁9行目にかけての「気象庁火山課の職員の判断の過程及びその結果が」を「気象庁火山課の職員の判断が」に改め、同頁12行目の末尾に改行の上で以下のとおり加える。 「 なお、上記職員の判断が、その許容される限度を逸脱して、著しく合理- 11 -性を欠くと認められるか否かを評価するに当たっては、その検討の過程において、職員が考慮すべき事情を十分に考慮せず、考慮すべきではない事情を過大に考慮し、又は考慮した事情に対する評価を誤った結果として、当該職員の判断の内容が著しく合理性を欠くことになったといえるか否かという観点からこれを行うべきものであって、検討に費やした時間の単な る長短や、判断の結果(結論)に影響を及ぼさない事項に関する検討の有無などは、この評価に影響を与えるものではない。」(13)原判決68頁6行目から同頁7行目にかけての「予定している」から同頁8行目の「(1条)」までを以下のとおり改める。 「予定している。また、法は、前記のとおり災害の予防をその目的の一つと して掲げている上に(法1条)、予報とは、観測の成果に基づく現象の予想の発表をいうのに対し、警報とは、重大な災害の起こるおそれのある旨を警告して行う予報をいうのであるから(法2条6項、 つと して掲げている上に(法1条)、予報とは、観測の成果に基づく現象の予想の発表をいうのに対し、警報とは、重大な災害の起こるおそれのある旨を警告して行う予報をいうのであるから(法2条6項、7項)、気象庁が予報を発表するか、警報を発表するかを判断する際には、単に観測の成果に基づいて、現象の予想を行うだけでなく、予想される現象によって生ず る被害の有無及び程度を考慮することが当然に予定されているというべきである。さらに、法は、」(14)原判決68頁19行目から同頁20行目にかけての「噴火予報等の発表」から同頁25行目の末尾までを以下のとおり改める。 「噴火予報等(これは法13条1項に基づく予報及び警報である。)の発表 は、単に、一般公衆に対し情報提供をすること(一般の利用に適合すること)のみならず、噴火によって被害を受ける範囲にいる者の生命及び身体の安全を個別的利益として保護することをも目的とするものであると解するのが相当である。」(15)原判決69頁9行目から同頁25行目の「原告らは」までを以下のとおり 改める。 - 12 -「 そうすると、気象庁火山課の職員は、本件噴火の当時、基本的に本件判定基準に示された枠組みに依拠して、噴火警戒レベルの引上げに係る判断をすることが求められていたということができる。もっとも、噴火警戒レベルの発表基準の該当性判断は、上記(1)イにおいて説示したとおり、気象庁の専門技術的判断に基づく合理的裁量に委ねられているも のであり、このことは、本件判定基準において、その欄外に「これらの基準は目安とし、上記以外の観測データ等も踏まえ総合的に判断する」との記載が付されているところからも読み取ることができる。したがって、噴火警戒レベルの引上げに係る判断については、気象庁火山課 れらの基準は目安とし、上記以外の観測データ等も踏まえ総合的に判断する」との記載が付されているところからも読み取ることができる。したがって、噴火警戒レベルの引上げに係る判断については、気象庁火山課の職員の専門技術的な裁量に基づく判断が、許容される限度を逸脱して、著 しく合理性を欠くと認められる場合に限って、国賠法1条1項の適用上違法と評価されると解するのが相当である。 イこれに対し、控訴人らは、御嶽山における噴火警戒レベルの発表基準に関しては、本件判定基準が定められているところ、本件判定基準は、本件列挙事由が一つでも存在する場合には、噴火警戒レベルをレベル2 に引き上げることを一義的に求めているのであって、この判断について裁量は認められず、本件噴火に関していえば、平成26年9月10日及び同月11日に火山性地震がそれぞれ50回以上観測されたことにより、本件列挙事由の一つである「火山性地震の増加(地震回数が50回/日以上)」が存在することになったのであるから、気象庁火山課の職員は、 遅くとも同月12日早朝には噴火警戒レベルをレベル2に引き上げるべき職務上の注意義務を負っていたと主張する。 しかしながら、本件判定基準において、本件列挙事由の記載に続いて、上記のとおり欄外に「これらの基準は目安とし、上記以外の観測データも踏まえ総合的に判断する」と明記されていることを踏まえると、本件 判定基準が、本件列挙事由が一つでも存在する場合には噴火警戒レベル- 13 -をレベル2に引き上げることを一義的に求めていると解することはできない。 また、控訴人らは」(16)原判決71頁1行目の「前記(2)のとおり」から同頁26行目の「検討する」までを以下のとおり改める。 「気象庁火山課の職員が平成26年9月10日から きない。 また、控訴人らは」(16)原判決71頁1行目の「前記(2)のとおり」から同頁26行目の「検討する」までを以下のとおり改める。 「気象庁火山課の職員が平成26年9月10日から本件噴火までの間に、噴火警戒レベルをレベル2に引き上げず、レベル1に据え置いた判断が、その許容される限度を逸脱して、著しく合理性を欠くと認められるかについて、以下検討する」(17)原判決72頁26行目の「異例な現象である」の後に「。」を加え、73 頁1行目から同頁17行目までを削り、同頁20行目から同頁21行目にかけての「50回を大幅に超える状況とまではいえなかった」を「50回を超えていたわけではなかった」に改め、同頁24行目の「噴火に至った事例では」から同頁25行目の「79年噴火を除き」までを「十分な観測データが残っている07年噴火の際には」に改め、74頁1行目の「ウ、」を削り、 同頁4行目の「判断の過程が」から同頁8行目の末尾までを「判断が、その許容される限度を逸脱して、著しく合理性を欠くとは認められない。」に改める。 (18)原判決74頁17行目の「本件全証拠によっても」から同頁24行目の「気象庁火山課の職員は」までを以下のとおり改める。 「9月11日の時点においては、同月10日に火山性地震が52回発生し、本件列挙事由の一つが存在することが明らかになっていたのであるから、気象庁火山課の職員は、御嶽山における火山活動の状況を注視すべきであったといえる。 そのような状況で、気象庁火山課の職員が」 (19)原判決75頁4行目の「職員の判断の過程が」から同頁7行目の末尾まで- 14 -を「職員の判断が、その許容される限度を逸脱して、著しく合理性を欠くとは認められない。」に改める。 (20)原判決77頁7 75頁4行目の「職員の判断の過程が」から同頁7行目の末尾まで- 14 -を「職員の判断が、その許容される限度を逸脱して、著しく合理性を欠くとは認められない。」に改める。 (20)原判決77頁7行目の「他の観測データ等」から同頁22行目の末尾までを以下のとおり改める。 「他の観測データの有無等を検討した上で、噴火警戒レベルを引き上げるか 否かについて判断すべきであったといえる。」(21)原判決78頁7行目の「電子メールを送信し」から同頁19行目の末尾までを以下のとおり改める。 「電子メールを送信したが、そのメールの内容について、e教授らから特段の異論が述べられることがなかったこと等に照らすと、気象庁火山課の職 員が9月24日の時点で、噴火警戒レベルをレベル2に引き上げず、レベル1に据え置いた判断が、その許容される限度を逸脱して、著しく合理性を欠くとは認められない。」(22)原判決79頁3行目の「15分ないし20分程度検討し、」、同頁10行目の「気象庁」から同頁12行目の「義務が生じていたというべきところ、」 まで及び同頁14行目の「更に高度の注意をもって」から同頁15行目の「義務を負っていた中で、」までをいずれも削り、同頁17行目の「更に他の本件列挙事由の発生の有無」から同頁20行目の末尾までを以下のとおり改める。 「気象庁火山課の職員は、御嶽山における火山活動の状況を注視し、他の本 件列挙事由の発生の有無や、噴火の可能性を示唆する他の観測データの有無等を検討した上で、噴火警戒レベルの引上げ、噴火警報の発表の要否を判断すべきであったというべきである。」(23)原判決80頁9行目の「国民」を「火口周辺にいる者」に改め、同頁12行目の「気象庁」から同頁14行目の末尾までを「噴火警戒レベルをレベル 要否を判断すべきであったというべきである。」(23)原判決80頁9行目の「国民」を「火口周辺にいる者」に改め、同頁12行目の「気象庁」から同頁14行目の末尾までを「噴火警戒レベルをレベル 2に引き上げることも十分に考えられるところであったといえる。」に改め、- 15 -同頁15行目から85頁14行目までを以下のとおり改める。 「 もっとも、25日にdが上記指摘をした時点では、山体膨張の可能性を示す僅かな地殻変動が確定的に観測されたとまではいえない(なお、本件噴火後の国土地理院の見解によっても、GNSSの最終解による観測データから山体膨張があったと断定することはできないとされてい る。)ことも併せ考慮すると、dの上記指摘を踏まえて、気象庁火山課の職員が、噴火警戒レベルをレベル2に引き上げず、レベル1に据え置いた判断が、その許容される限度を逸脱して、著しく合理性を欠くとまでは認められない。 カ小括 以上のとおり、気象庁火山課の職員が、平成26年9月25日まで、噴火警戒レベルをレベル2に引き上げず、これをレベル1に据え置いた判断が、その許容される限度を逸脱して、著しく合理性を欠くとは認められず、したがって、そのことが国賠法1条1項の適用上違法であるとも認められない。 よって、その余の点について検討するまでもなく、控訴人らの被控訴人国に対する請求は、理由がない。」(24)原判決86頁25行目から87頁5行目までを削り、同頁6行目の「ウしかし」を「イそして」に改め、同頁7行目の「努力義務」を「努力すべき義務」に改め、同頁13行目の「エ」を「ウ」に改め、同頁14行目の「原 告ら」を「控訴人ら又はその被相続人ら」に改める。 (25)原判決87頁20行目の「前記のとおり」から同頁25行目の「注 き義務」に改め、同頁13行目の「エ」を「ウ」に改め、同頁14行目の「原 告ら」を「控訴人ら又はその被相続人ら」に改める。 (25)原判決87頁20行目の「前記のとおり」から同頁25行目の「注意義務を負っていた。」までを削り、88頁13行目の「仮に」から同頁14行目の「そのことと」までを「山頂観測点及び滝越観測点に設置されていた各地震計が、本件噴火の当時、故障していたことと、」に改める。 3 当審における控訴人らの補充主張(上記第2の5)に対する判断- 16 -(1)上記第2の5(1)の主張(気象庁火山課の職員に裁量がないこと)について本件判定基準が、「火山性地震の増加(地震回数が50回/日以上)」を含む本件列挙事由を挙げた後に、「これらの基準は目安とし、上記以外の観測データも踏まえ総合的に判断する」と定めており、したがって、裁量的な 判断を排して、1日50回以上の火山性地震が観測された場合その他の本件列挙事由が存在する場合に噴火警戒レベルをレベル2に引き上げることを一義的に求めているとは解し難いことは、上記補正の上で引用する原判決「事実及び理由」第3の2(2)において説示するとおりである。 これに対し、控訴人らは、①本件適用例及び本件レベル案は、噴火の前兆 現象が観測され始めた時点で、噴火警戒レベルをレベル2に引き上げることを想定していたことや、②本件噴火後に本件判定基準が改定され、本件列挙事由が一つでも存在する場合には、噴火警戒レベルを一律にレベル2に引き上げることとされたことを指摘して、本件列挙事由が存在する場合に裁量的な判断が行われることは予定されていないと主張する。 しかしながら、上記①の指摘については、例えば、07年噴火については、平成18年12月下旬の火山性地震の増加に先立って、 する場合に裁量的な判断が行われることは予定されていないと主張する。 しかしながら、上記①の指摘については、例えば、07年噴火については、平成18年12月下旬の火山性地震の増加に先立って、山体膨張が確認されていたところ、本件適用例は、山体膨張が確認された時点ではなく、その後に火山性地震が増加した時点で、噴火警戒レベルをレベル2に引き上げるという考え方を示しているのであって(原判決「事実及び理由」第3の1(1) オ、同(3)ア(エ)c)、甲A5(15、16頁))、本件適用例及び本件レベル案が、噴火の前兆現象が観測され始めた時点で直ちに噴火警戒レベルをレベル2に引き上げることを想定していたとはいい難い。また、この点を措くとしても、本件適用例及び本件レベル案は、御嶽山における噴火警戒レベルの導入前の検討段階において作成された案であって(原判決「事実及 び理由」第3の1(3)ア)、これらが作成された時点においては、本件適- 17 -用例として掲げられた事例が全てレベル2に該当するか否かについても検討中であり、結論を出すには至っていなかったのであるから(甲A4(5頁)、甲A5)、本件適用例及び本件レベル案の記載内容が本件判定基準の解釈を確定するものであるとは認められない。なお、本件適用例は、本件判定基準の作成後に他の文書において引用されているが(甲A70)、このことによ って、本件適用例が本件判定基準の解釈を確定するものではないとする上記判断が左右されるものではない。 また、上記②の指摘については、本件噴火後に行われた本件判定基準の改定によって、「これらの基準は目安とし、上記以外の観測データ等も踏まえ総合的に判断する」旨の欄外の記載が削除されたが、この改定は、本件噴火 を経験した後に、これによって得られた知見 定基準の改定によって、「これらの基準は目安とし、上記以外の観測データ等も踏まえ総合的に判断する」旨の欄外の記載が削除されたが、この改定は、本件噴火 を経験した後に、これによって得られた知見を踏まえて行われたものなのであって(原判決「事実及び理由」第3の1(7)イ、甲A17-3(12頁)、乙38)、この改定によって上記記載が削除されたことは、本件噴火の当時における本件判定基準の解釈を左右するものとはいえない。 したがって、控訴人らの上記主張は、採用することができない。 (2)上記第2の5(2)の主張(気象庁火山課の職員の判断が著しく合理性を欠くこと)についてア火山性地震の回数について控訴人らは、火山学の知見として、噴火の可能性の判断においては、火山性地震の回数が1日50回以上であるか否かが重要であり、その回数が 1日50回に達した後は、火山性地震の回数と噴火の可能性とは比例関係に立たず、火山性地震の回数の多寡は噴火の可能性の判断に影響を与えない旨を指摘して、過去の噴火事例において噴火前に火山性地震が1日100回以上観測されたことを考慮することは、過去の事例を偏重するものであって相当でない旨を主張する。 しかしながら、本件噴火の当時、火山性地震の観測回数が1日50回以- 18 -上であるか否かと噴火の可能性の高低との間には相関がある一方で、火山性地震の観測回数のうち1日50回を超える部分の多寡と噴火の可能性の高低との間には相関がないことが火山学における一般的な見解であったことを認めるに足りる証拠はない。この点に関して、証人fは、書面尋問において、火山性地震の有意な増加の有無は噴火の可能性の判断に影響 するが、増加の程度は、その判断に影響しない旨の回答をしており(回答書1頁)、この回答は、控 この点に関して、証人fは、書面尋問において、火山性地震の有意な増加の有無は噴火の可能性の判断に影響 するが、増加の程度は、その判断に影響しない旨の回答をしており(回答書1頁)、この回答は、控訴人らの上記主張に沿うものである。しかし、同証人は、火山性地震の増加の程度が噴火の可能性の判断に影響しない理由について説明をしておらず、このことを踏まえると、同証人の上記回答が本件噴火後の後方視的な分析に基づくものであるのか、それとも、本件 噴火以前から、火山学において、火山性地震の増加の程度が噴火の可能性の判断に影響しないと一般的に理解されていた旨をいうものであるのかは、判然としないといわざるを得ない。 また、御嶽山については、常時噴火を繰り返している火山ではないため、本件噴火の当時、火山学の知見の集積が十分には進んでいなかったのであ り(乙39(4頁))、気象庁火山課の職員が、理論的又は統計的な裏付けのある資料のみに基づいて噴火警戒レベルの引上げの要否を判断することは困難であったというべきである。そうすると、限られた資料に基づいて噴火警戒レベルの引上げの要否を判断せざるを得ない気象庁火山課の職員が、その判断の際に、必ずしも理論的又は統計的な裏付けがあると はいえない過去の噴火事例を参考にしたとしても、そのことをもって直ちに、考慮すべきではない事情を考慮したということは相当ではない。 そして、07年噴火の際には、噴火前に1日164回の火山性地震が観測されている(上記引用の原判決「事実及び理由」第3の1(1)オ)のに対して、本件噴火の発生前に観測された火山性地震の回数は、最大で1 日85回にとどまる上に(上記引用の原判決「事実及び理由」第3の1(6)- 19 -ウ(カ))、昭和63年及び平成4年には1日50回以上 噴火の発生前に観測された火山性地震の回数は、最大で1 日85回にとどまる上に(上記引用の原判決「事実及び理由」第3の1(6)- 19 -ウ(カ))、昭和63年及び平成4年には1日50回以上の火山性地震が観測されたものの噴火には至らなかったのであって(上記引用の原判決「事実及び理由」第3の1(1)イ及びエ)、これらの事情を踏まえると、1日50回以上の火山性地震が観測されたにもかかわらず、噴火警戒レベルをレベル2に引き上げず、レベル1に据え置いた気象庁火山課の職員の 判断が著しく不合理であると認めることはできない。 したがって、控訴人らの上記主張は、採用することができない。 イ前兆現象の発生から噴火に至るまでの時間的猶予について控訴人らは、火山性地震の増加、低周波地震の発生等の前兆現象から噴火までの期間についての法則は存在しないことを指摘して、過去の噴火事 例において、火山性地震の増加や低周波地震の発生から噴火までに一定程度の時間的猶予があったことを考慮することは相当でない旨を主張する。 しかし、気象庁火山課の職員による噴火警戒レベルの引上げに関する判断が著しく不合理であるか否かを検討するに当たって、必ずしも法則性が確立しているとはいえない過去の噴火事例を参考にしたとしても、それを もって直ちに相当でないということはできないことは、上記アにおいて説示したとおりである。 そして、平成19年3月後半に発生したと推定される07年噴火の際には、噴火の約3か月前である平成18年12月下旬から火山性地震が増加し、平成19年1月17日には164回の火山性地震が発生し、その後、 同月19日以降に火山性微動も発生した後に、噴火が発生しているし、平成3年5月13日から同月16日の間に発生したと推定される91年噴火にお 月17日には164回の火山性地震が発生し、その後、 同月19日以降に火山性微動も発生した後に、噴火が発生しているし、平成3年5月13日から同月16日の間に発生したと推定される91年噴火においても、同年4月27日以降に火山性微動が多発するようになってから2週間以上を経過した後に噴火が発生した(上記引用の原判決「事実及び理由」第3の1(1)ウ及びオ)。これに対して、本件噴火の前には、 噴火当日まで火山性微動が観測されていなかった。また、低周波地震の発- 20 -生は、本件判定基準における噴火警戒レベルのレベル2への引上げの要否を検討する際の考慮要素(本件列挙事由)に挙げられていないが、低周波地震と発生のメカニズムを同じくする火山性微動(甲A46、証人gの書面尋問の結果(回答書6頁)))の増加又は規模拡大(1日6回以上)が本件列挙事由として挙げられているところ、本件噴火前に観測された低周 波地震の回数は、平成26年9月14日に1回、同月16日に2回、同月24日に2回にとどまっている(上記引用の原判決「事実及び理由」第3の1(6))。さらに、火山性地震の増加、低周波地震の発生等の前兆現象から噴火までの期間について法則性がないとしても、そのことをもって、火山性地震の増加や低周波地震の発生が噴火の切迫性を示す兆候である ということもできない。これらの事情を踏まえると、平成26年9月10日及び同月11日に火山性地震が増加し、同月14日、同月16日及び同月24日に低周波地震が発生したにもかかわらず、噴火警戒レベルをレベル2に引き上げず、レベル1に据え置いた気象庁火山課の職員の判断が著しく合理性を欠くと認めることはできない。 したがって、控訴人らの上記主張は、採用することはできない。 ウ低周波地震の回数について げず、レベル1に据え置いた気象庁火山課の職員の判断が著しく合理性を欠くと認めることはできない。 したがって、控訴人らの上記主張は、採用することはできない。 ウ低周波地震の回数について控訴人らは、火山学の知見として、低周波地震の発生は、その多寡にかかわらず噴火の可能性の高まりを示す事情とされていること等を指摘して、本件噴火において低周波地震の回数が少なかったことを考慮するのは 相当でない旨を主張する。しかし、平成26年9月14日、同月16日及び同月24日の低周波地震の発生を考慮しても、噴火警戒レベルをレベル2に引き上げず、レベル1に据え置いた気象庁火山課の職員の判断が著しく合理性を欠くとはいえないことは、上記イにおいて説示したとおりであり、控訴人らの上記主張は、採用することができない。 エ推移モデルについて- 21 -控訴人らは、御嶽山の過去の噴火事例も本件噴火も、推移モデルによって説明可能であったと指摘して、火山性地震が増加し、その回数が減少した後、平成26年9月14日、同月16日及び同月24日に低周波地震が観測されたにもかかわらず、噴火警戒レベルをレベル2に引き上げず、これをレベル1に据え置く判断をしたことは、火山学の知見と整合せず、著 しく合理性を欠く旨を主張する。 しかしながら、火山性地震が群発してピークを迎えた後、一旦静穏化するが、低周波地震や火山性微動が発生して噴火に至るという推移モデルは、全ての火山に当てはまるものではなく、これと同様の推移をたどっても噴火に至らないことも多い(上記引用の原判決「事実及び理由」第3の1 (8))。そして、上記推移をたどった後に噴火に至る場合と至らない場合について、これを明確に区別する基準は見つかっていない(甲A19(125頁))。そうする の原判決「事実及び理由」第3の1 (8))。そして、上記推移をたどった後に噴火に至る場合と至らない場合について、これを明確に区別する基準は見つかっていない(甲A19(125頁))。そうすると、仮に、後方視的に分析すれば、本件噴火が推移モデルによって説明可能であったとしても、そのことから直ちに、平成26年9月10日及び同月11日に火山性地震が増加し、同月14日以降に 低周波地震が発生した時点において、推移モデルによって、本件噴火を予見することができたということはできない。 また、気象庁火山課の職員は、平成26年9月17日、e教授らに対し電子メールで、低周波地震が同月14日に1回、同月16日に2回発生したこと等を伝えた上で、更なる火山活動の変化がない限りは、噴火警戒レ ベルを引き上げることを考えていない旨を報告したが、e教授らは、この報告に対して、異論を述べなかったところ(上記引用の原判決「事実及び理由」第3の1(6)オ(カ)及び(キ))、e教授は、異論を述べなかった理由について、上記電子メールの報告に違和感を覚えたが、それに反論をするだけの知見を有していなかったという趣旨の供述をしている(証 人e(証人調書別紙反訳書4頁))。e教授のこの供述を踏まえると、同- 22 -月10日及び同月11日の火山性地震の増加及び同月14日以降の低周波地震の発生から本件噴火を予想することが、当時の火山学における一般的な考え方であったとは考えにくいし、その他、本件全証拠によっても、低周波地震が発生した同日以降の時点において、本件噴火を予想することが火山学における一般的な考え方であったと認めることはできない。 したがって、控訴人らの上記主張は、採用することができない。 オ山体膨張を示す僅かな地殻変動の可能性について 予想することが火山学における一般的な考え方であったと認めることはできない。 したがって、控訴人らの上記主張は、採用することができない。 オ山体膨張を示す僅かな地殻変動の可能性について控訴人らは、dが平成26年9月25日に山体膨張の可能性を指摘し、その可能性を否定することができなかったにもかかわらず、上記指摘がノイズによるものである可能性があるとして、噴火警戒レベルを引き上げな い判断をしたことは、著しく合理性を欠くと主張する。 しかしながら、噴火警戒レベルのレベル2への引上げは、法13条に基づく警報である噴火警報(火口周辺)又は火口周辺警報の発出を意味するところ(気象業務法施行令4条、気象庁予報警報規程9条の3、火山業務規則18条の3)、警報とは、重大な災害の起こるおそれのある旨を警告 して行う予報を意味し、予報とは、観測の成果に基づく現象の予想を意味し、観測とは、自然科学的方法による現象の観察及び測定を意味するのであるから(法2条5項)、噴火警戒レベルのレベル2への引上げは、自然科学的方法による現象の観察及び測定の結果として、重大な災害を起こすおそれのある現象が予想されるときに行うことが予定されているという べきである。 平成26年9月25日の週検討会(本件週検討会)において、dが、本件基線長図及び本件ベクトル図を示して、僅かではあるがGNSSの基線が伸びており、GNSSの変化量をベクトルで示すと御嶽山を中心に放射状に広がっているので山体膨張を示すように見えると指摘し、検討が行わ れたが、変位の量が小さく、ノイズを超えるものではないことなどから、- 23 -地殻変動とは断定できないとの結論に至ったのであって、このことが専門技術的な判断として不当であるということはできない。そして、噴火の前 小さく、ノイズを超えるものではないことなどから、- 23 -地殻変動とは断定できないとの結論に至ったのであって、このことが専門技術的な判断として不当であるということはできない。そして、噴火の前兆である山体膨張を示す僅かな地殻変動の可能性が否定できないというだけでは、自然科学的方法による観測の結果として、噴火の前兆が生じているということはできない。また、本件においては、国土地理院による事 後的な検討によっても、基線長の僅かな伸びから山体膨張が生じたと断定することはできないと判断されている(上記補正の上で引用の原判決「事実及び理由」第3の1(6)カ(ウ))。 これらの事情を踏まえると、平成26年9月25日に山体膨張の可能性が指摘され、その可能性を否定することができなかったにもかかわらず、 気象庁火山課の職員が噴火警戒レベルをレベル2に引き上げず、レベル1に据え置いた判断が、著しく合理性を欠くと認めることはできない。 カ登山者の存在について控訴人らは、本件噴火の当時、御嶽山の登山シーズンは終わっておらず、仮に噴火が発生すれば登山者の生命及び身体に対する被害が生ずること が予想されたことを指摘して、気象庁火山課の職員が、そのことを考慮せず、上記アからオまでのとおり噴火の前兆現象が存在したにもかかわらず、噴火警戒レベルを引き上げない判断をしたことは、著しく合理性を欠くと主張する。 確かに、噴火予報等の発表が、噴火によって被害を受ける範囲にいる者 の生命及び身体の安全を個別的利益として保護することをも目的とするものと解されることを踏まえると、噴火警戒レベルの引上げに係る判断に当たって、火口周辺にいる登山者等の動向が一つの考慮事情となり得ることは、一概に否定はされない。しかしながら、噴火予報等は、もともと火口周 されることを踏まえると、噴火警戒レベルの引上げに係る判断に当たって、火口周辺にいる登山者等の動向が一つの考慮事情となり得ることは、一概に否定はされない。しかしながら、噴火予報等は、もともと火口周辺や居住地域に人がいることを前提として、その者を保護するために 設けられているものであるから、その者の数が多いか少ないかは、噴火警- 24 -戒レベルの引上げに係る判断を左右する事情とはなり難いのであって、上記オにおいて説示したとおり、噴火警戒レベルの引上げは、自然科学的方法による現象の観察及び測定の結果として、重大な災害を起こすおそれのある現象が予想されるときに行うことが予定されているというべきである。そうすると、噴火警戒レベルのレベル2への引上げの判断は、基本的 に、噴火の可能性の高低を検討した上で行われるべきものであって、気象庁火山課の職員が、本件噴火の当時、御嶽山の登山シーズンが終わっていないことを考慮していなかったとしても、そのことをもって、噴火警戒レベルをレベル2に引き上げず、レベル1に据え置いた判断が、著しく合理性を欠くと認めることはできない。 したがって、控訴人らの上記主張は、採用することができない。 (3)上記第2の5(3)の主張(被控訴人長野県の公務員に注意義務違反があること)について控訴人らは、被控訴人長野県の公務員が、御嶽山の山頂等に設置された地震計を適切に管理すべき職務上の注意義務を負っており、本件噴火の当時、 上記地震計を故障したまま放置していたことは、この注意義務に違反し、国賠法1条1項の適用上違法であると主張する。 しかし、被控訴人長野県の公務員が、登山者である控訴人ら又はその被相続人に対して、上記地震計を維持管理すべき職務上の注意義務を負っていたとは認められないことは、上記補 適用上違法であると主張する。しかし、被控訴人長野県の公務員が、登山者である控訴人ら又はその被相続人に対して、上記地震計を維持管理すべき職務上の注意義務を負っていたとは認められないことは、上記補正の上で引用する原判決「事実及び理由」 第3の4(1)において説示するとおりであり、御嶽山の山頂等に地震計を設置したことを契機として、被控訴人長野県の公務員が上記の注意義務を負うともいえないから、控訴人らの上記主張は、採用することができない。 第4 結論したがって、控訴人らの請求をいずれも棄却した原判決は結論において正当であり、本件控訴には理由がないから、これらをいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第11民事部 裁判長裁判官筒井健夫 裁判官坂庭正将 裁判官武田美和子は、転補のため署名押印できない。 裁判長裁判官筒井健夫 別紙2請求額一覧 1⑴ 控訴人h1 1500万円⑵ 控訴人h2、控訴人h3及び控訴人h4 各500万円 2 控訴人h5及び控訴人h6 各1500万円 3 控訴人h7 2000万円 4 控訴人h8及び控訴人h9 各1500万円 5 控訴人h10及び控訴人h11 各1500万円 6 控訴人h12 300万円 7 控訴人h13 300万円 8⑴ 控訴人h14 1500万円⑵ 控訴人h15、控訴人h16及び控訴人h17 控訴人h13 300万円 控訴人h14 1500万円 控訴人h15、控訴人h16及び控訴人h17 各500万円 控訴人h18及び控訴人h19 各3000万円 控訴人h20 1500万円 控訴人h21、控訴人h22、控訴人h23及び控訴人h24 各375万円 控訴人h25 1500万円 控訴人h26、控訴人h27及び控訴人h28 各500万円 控訴人h29及び控訴人h30 各1500万円 控訴人h31 3000万円 控訴人h32 2000万円 別紙3関係法令等の定め 国土交通省設置法(平成27年法律第66号による改正前のもの)気象庁は、気象業務の健全な発達を図ることを任務とし(46条)、この任務を達成するために、気象、地象(地震にあっては、発生した断層運動による地震動に限る。)及び水象の予報及び警報並びに気象通信に関する事務(4条120号)をつかさどる(47条)。 国土交通省組織令(令和2年政令第262号による改正前のもの)気象庁に地震火山部を置き(226条)、地震火山部は、地震動、火山現象及び津波の予報及び警報に関する事務をつかさどる(230条1号)。 気象庁組織規則(平成28年国土交通省令第30号による改正前のもの)地震火山部に火山課を置き(18条)、火山課は、火山現象の予報及び警報に関する事務をつかさどる(2 さどる(230条1号)。 3 気象庁組織規則(平成28年国土交通省令第30号による改正前のもの)地震火山部に火山課を置き(18条)、火山課は、火山現象の予報及び警報に関する事務をつかさどる(22条1号)。 火山課に火山対策官及び火山活動評価解析官それぞれ一人を置き、火山対策官 は、命を受けて、火山課の所掌事務に関する火山災害の防止に係る重要事項についての企画及び立案並びに関係行政機関その他の関係者との連絡調整に関する事務(火山防災情報調整室の所掌に属するものを除く。)をつかさどり、火山活動評価解析官は、火山現象の予報及び警報並びに火山現象に関する情報の作成に関し必要な火山現象及びこれに関連する輻射に関する観測の成果の評価及び解析並 びにこれらの結果の発表に関する事務をつかさどる(41条1項、4項、5項)。 4 活動火山対策特別措置法(平成27年法律第52号による改正前のもの)国及び地方公共団体は、火山現象の研究及び観測のための施設及び組織の整備に努めなければならない(19条1項)。

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