令和4(行コ)290 遺族補償給付等不支給処分取消請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
令和6年9月19日 東京高等裁判所 東京地方裁判所 令和2(行ウ)89
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判決文本文15,119 文字)

- 1 - 主文 1 原判決を取り消す。 2 処分行政庁が控訴人に対して平成30年1月16日付けでした労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料を支給しない旨の各処分をいずれも取り消す。 3 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨主文同旨第2 事案の概要等(略称は、新たに定めるほかは、原判決のものを用いる。) 1 亡Aの夫である控訴人は、訪問介護事業及び家政婦紹介あっせん事業等を営む本件会社に家政婦兼訪問介護ヘルパーとして登録されていた亡Aが、平成27年5月20日から同月27日朝までの7日間にわたり要介護者宅に住み込み、訪問介護ヘルパーとして訪問介護サービスを提供する業務(本件介護業務)に従事したほか、家政婦として家事及び介護を行う業務(本件家事業務)に従事するなど24時間対応を要する過重な業務に就いたことに起因して勤務終了日後ほどなく急性心筋梗塞又は心停止(心臓性突然死を含む。)(本件疾病)を発症し、同月28日未明に死亡が確認されたと主張して、渋谷労働基準監督署長(処分行政庁)に対し、労災保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料を請求したところ(本件各申請)、処分行政庁は、亡Aについては労基法116条2項所定の「家事使用人」に該当するので労基法及び労災保険法は適用されないという理由で上記の保険給付をいずれも不支給とする旨の本件各処分をした。 本件は、控訴人が、本件各処分には違法があると主張して、被控訴人に対し、その取消しを求める事案である。 原審は、控訴人の請求を棄却したところ、これを不服として控訴人が控訴した。 - 2 - 2 前提事実、関係法令及び行政 ると主張して、被控訴人に対し、その取消しを求める事案である。 原審は、控訴人の請求を棄却したところ、これを不服として控訴人が控訴した。 - 2 - 2 前提事実、関係法令及び行政通達の定め等、争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり原判決を補正し、後記3のとおり控訴人の当審における主張を加えるほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の2~4に記載のとおりであるから、これを引用する。 (1) 原判決3頁3行目の「(ホームヘルパー)」の次に「、時給を1300円から2000円まで」を加え、同10行目の「5条」を「46条の18第5号」と改める。 (2) 原判決6頁1行目の「労災保険法に」から同4行目の「76条1項)」までを「本件各申請の対象である労災保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料は、「労働者が業務上死亡した場合」に支給され、「労働者が業務上死亡した場合」には労働者が業務に基づく疾病に起因して死亡した場合が含まれるところ(同法7条1項1号、12条の8第1項4号及び5号並びに2項、労基法79条、80条、最高裁昭和50年(行ツ)第111号同51年11月12日第二小法廷判決・裁判集民事119号189頁参照)」に、同7行目の「定められているところ」を「定められており」に、同26行目の「第二節の二」を「第三章の第二節の二」に、同7頁4行目の「傷害」を「障害」にそれぞれ改める。 (3) 原判決7頁11行目から同17行目を、次のとおり改める。 「 被災労働者が業務に関して別表8号所定の脳血管疾患及び虚血性心疾患等を発病した場合の業務起因性の有無の判断基準として、厚生労働省労働基準局長から都道府県労働局長宛ての「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」( 疾患等を発病した場合の業務起因性の有無の判断基準として、厚生労働省労働基準局長から都道府県労働局長宛ての「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」(令和3年9月14日付け基発0914第1号。乙37)と題する行政通達(以下「令和3年通達」という。)が発出され、令和5年10月18日付け基発1018第1号(乙41)により一部改正された(以下、上記改正後の令和3年通達の認定基準を「新認定基準」という。)。新認定 - 3 -基準の内容は、別紙のとおりである。 なお、令和3年通達が同年9月15日に施行されたことに伴い、従来の判断基準であった平成13年12月12日付け基発第1063号「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」(乙36)は廃止された(乙37)。」(4) 原判決13頁11行目の「以上の事情からすると」から同18行目の「業務起因性がある。」までを、次のとおり改める。 「以上の事情からすると、亡Aが死亡前おおむね1週間である平成27年5月20日から同月27日朝までの間に従事した本件家事業務及び本件介護業務は、新認定基準所定の「発症前おおむね1週間継続して深夜時間帯に及ぶ時間外労働を行うなど過度の長時間労働が認められる場合」に該当し、「手待時間が長いなど特に労働密度が低い場合」には当たらない。また、労働時間以外の要因としても、拘束時間は事実上24時間であるところ、実労働時間も少なくとも14時間に及ぶ上、家政婦用の部屋を与えられておらず、空き時間は台所に座り、寝室はBと同じ部屋というのであり、肉体的・精神的にリラックスできる状況ではなかったし、発症前6日間における休日はなく、勤務間インターバルもほぼ存在せず、スケジュール変更 ず、空き時間は台所に座り、寝室はBと同じ部屋というのであり、肉体的・精神的にリラックスできる状況ではなかったし、発症前6日間における休日はなく、勤務間インターバルもほぼ存在せず、スケジュール変更は常態化して、極めて不規則な勤務であった。さらに、亡Aの業務は、新認定基準所定の「心理的負荷を伴う業務」のうち「常に自分あるいは他人の生命、財産が脅かされる危険性を有する業務」、「危険回避責任がある業務」、「人命や人の一生を左右しかねない重大な判断や処置が求められる業務」に該当又は類似するとともに、「決められた時間(納期)どおりに遂行しなければならないような困難な業務」、「周囲の理解や支援のない状況下での困難な業務」に該当又は類似する。そうすると、亡Aが上記期間に従事した業務は、新認定基準所定の「短期間の過重業務」に該当するから、本件会社の業務と本件疾病 - 4 -の発症及び亡Aの死亡結果との間には業務起因性がある。」(5) 原判決14頁4行目の「訪問」から同14行目の「認められない。」までを、次のとおり改める。 「訪問介護計画書等において設定された本件介護業務の所要時間は1日当たり4時間30分で、上記の就労期間中の労働時間を合計しても31時間30分であって、実際の稼働時間もこれを大きく上回るようなものではなかったから、本件介護業務は、新認定基準所定の「短期間の過重業務」に当たらない。仮に本件家事業務を業務起因性の判断の対象に含めたとしても、本件介護業務及び本件家事業務に従事する時間は、夜の2回のおむつ交換を除くと午前5時頃から午後9時頃までの間であり、その間に少なくとも2時間程度の休憩時間が確保されていたから、夜のおむつ交換に合計1時間程度が必要であったとしても、亡Aの1日の労働時間は長く見積もっても15時間程度であ 午後9時頃までの間であり、その間に少なくとも2時間程度の休憩時間が確保されていたから、夜のおむつ交換に合計1時間程度が必要であったとしても、亡Aの1日の労働時間は長く見積もっても15時間程度であって、亡Aの発症前おおむね1週間の時間外労働時間等は、拘束時間144時間、総労働時間90時間、時間外労働時間50時間程度と考えられ、日常業務に比較して、特に過重な身体的、精神的負荷を生じさせたと客観的に認められるような過度の長時間労働であったとは認められず、労働時間以外の要因を考慮しても、「短期間の過重業務」に当たらない。 さらに、亡Aが発症前おおむね6か月間に本件会社の業務として1か月当たり45時間を超える時間外労働を行ったとはいえないし、仮に本件家事業務を業務起因性の対象に含めたとしても、1か月当たり45時間を超える時間外労働があったといえるのは直近1か月のみであるから、亡Aに疲労の蓄積は認められず、長期間の過重負荷は認められない。 加えて、新認定基準所定の「発症直前から前日までの間において、発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇した」という事実もない。 - 5 -したがって、本件会社の業務と本件疾病の発症及び亡Aの死亡結果との間に業務起因性は認められない。」 3 控訴人の当審における主張仮に本件家事業務については本件会社ではなくBの息子との間に雇用契約が成立したものであったとしても、複数事業所で雇用される通常の場合とは異なり、就業場所も就業実態も異ならないという本件の特殊性に鑑みると、本件介護業務に本件家事業務の労働時間を合算して、業務起因性を判断すべきである。これによると業務起因性が認められることは、前記補正して引用する原判決の争点⑶に係る控訴人の主張のとおり 性に鑑みると、本件介護業務に本件家事業務の労働時間を合算して、業務起因性を判断すべきである。これによると業務起因性が認められることは、前記補正して引用する原判決の争点⑶に係る控訴人の主張のとおりである。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は、控訴人の請求は理由があると判断する。その理由は、以下のとおりである。 2 認定事実については、以下のとおり原判決を補正するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」の1に記載のとおりであるから、これを引用する。なお、引用に係る補正した認定事実を「補正後認定事実」という。 (1) 原判決17頁16行目の「又は」を「かつ」に改める。 (2) 原判決18頁12行目の「求人者に対し、」を「下記のとおり契約形式では雇用者とされている求人者に求人票兼労働条件通知書を作成させることなく、紹介機関として自らが作成した上で求職者に労働条件を提示し、求職者を介して、求人者に紹介状を交付していたが、そこでは、」に、同13行目の「提示していたが」を「提示しており」にそれぞれ改め、同14行目の「決定し、」の次に「法形式上は、」を加え、同15行目の「なっていた。」を「なっていたものの、ほとんどはその記載された賃金で就労していて、平成29年10月時点で負担が特に重い例で日額が2万円となる場合がある例が数件ある程度であった。」に改め、同17行目の「係る」の次に「上記」 - 6 -を加え、同21行目の「支払われていたが、」を「支払われることが基本的なやり方とされていたが、」に改め、同25行目の「10、」の次に「乙21の1」を加え、同26行目の「家政婦業務について、」から同19頁2行目の「もっとも、」を削除する。 (3) 原判決19頁23行目から同24行目にかけての「家政婦と同様に、1時間 、」の次に「乙21の1」を加え、同26行目の「家政婦業務について、」から同19頁2行目の「もっとも、」を削除する。 (3) 原判決19頁23行目から同24行目にかけての「家政婦と同様に、1時間2000円、住込み1泊1万6000円とされていた。(甲9)」を「身体介護が1時間いくら、生活援助が1時間いくらと本件会社が定めていた。 (甲9、乙21の1)」と改める。 (4) 原判決19頁24行目末尾の次に改行の上、次のとおり加える。 「ウ本件会社における家政婦と訪問介護サービスの併用の場合の扱い併用の場合の本件会社における一般的な扱いについては、補正後認定事実⑶、⑷及び後記3において判断に必要な限度で認定することとする。」(5) 原判決20頁17行目から同22行目までを、次のとおり改める。 「ウ亡Aは、期間を平成27年5月20日から同月27日朝まで、賃金を本件介護業務と合わせて日給1万6000円とする労働条件で住込み家政婦として稼働する旨の雇用契約を締結し、同月20日からB宅に住み込んで本件家事業務に従事し始めた(ただし、上記雇用契約の相手方や労働時間の約定等については、後記3において判断する。)。また、亡Aは、上記の期間、本件会社の訪問介護ヘルパーとしてB宅に派遣されて本件介護業務に従事した。(甲10、乙13、18)エ B宅での本件介護業務及び本件家事業務について、亡Aと本件会社との間にも、亡AとBないしその息子との間にも、雇用契約書又はこれに準ずる書面は作成されていない(なお、亡Aと本件会社とは、平成25年8月20日付け雇用契約書(乙3)を作成し、業務内容を非常勤の訪問介護ヘルパーとする労働契約を締結したものと認められるが、上記雇 - 7 -用契約書では、時給は1300円~2000円として特定さ 月20日付け雇用契約書(乙3)を作成し、業務内容を非常勤の訪問介護ヘルパーとする労働契約を締結したものと認められるが、上記雇 - 7 -用契約書では、時給は1300円~2000円として特定されていなかったところ、平成27年5月20日から同月27日朝の間の特定の勤務時間に従事すべき本件介護業務と、これに対する賃金額若しくはその計算方法を特定した雇用契約書又はこれに準ずる書面が作成されたことはうかがわれない。)。 また、平成27年5月当時、本件会社においては、家政婦紹介事業により求人者に求職者(家政婦)を紹介する際に、所要のデータを入力すると、自動的に、紹介状、求人票兼労働条件通知書、雇用契約書が連動して出力される仕組みになっていたものの、雇用契約書だけは印刷しない事務処理をしていた。 本件会社は、そのシステムを用いてBを求人申込者とする求人票兼労働条件通知書(甲7。以下「甲7求人票」という。)及び紹介状(乙13。以下「乙13紹介状」という。)を作成したが、甲7求人票及び乙13紹介状には、休憩時間が0時から5時までと記載されているものの、勤務時間の記載はなく、賃金は日給1万6000円と記載されていた。 この日給1万6000円という記載は、本件家事業務に対する賃金ではなく、本件家事業務と本件介護業務の双方に対する賃金の趣旨であった。 なお、平成27年5月当時、本件会社の家政婦と訪問介護サービスの併用の場合には、求人票兼労働通知書及び紹介状のいずれについても、家政婦の賃金と訪問介護ヘルパーの賃金を区別せず、合計賃金額を記載して渡していた。前提として、家政婦と訪問介護サービスの併用の場合に、求職者と日給が1 万6000円と合意されたときは、1 万6000円から本件会社が介護保険適用時間分(訪問介護 、合計賃金額を記載して渡していた。前提として、家政婦と訪問介護サービスの併用の場合に、求職者と日給が1 万6000円と合意されたときは、1 万6000円から本件会社が介護保険適用時間分(訪問介護業務分)の賃金(身体介護が1時間いくら、家事援助が1時間いくらと本件会社が定めたもの)を控除した残額を家政婦部分の賃金額としたもので、その14%を別途求人者が本件会社に支払うこととされていた。 - 8 -(甲9、乙21の1、乙24)」(6) 原判決20頁24行目から同25行目にかけての「休憩時間を除く19時間のうち、」を「休憩時間が、乙13紹介状に記載されていたものの、その間も含め、」と改め、同21頁4行目の「夜2回」の次に「(午前0時30分から1時の間に1回、午前4時から5時の間に1回)」を加える。 (7) 原判決21頁5行目の末尾の次に改行の上、次のとおり加える。 「イ本件会社は、Bに対する居宅サービス計画(乙15)及び訪問介護計画(乙16)を踏まえ、亡Aに対し、Bに係るホームヘルパー業務指示書(甲13、乙17。以下「本件業務指示書」という。)に基づき、本件介護業務についての業務指示を行った。 本件業務指示書には「別紙あり」と明記され、その別紙には、前記アの本件介護業務の実施時間に含まれない午前6時30分の起床から午後5時40分頃のおむつ交換等までの業務が記載されていたほか、Bの息子の食事の準備やB宅の門扉の外、車庫、庭の掃除などの本件介護業務には含まれず、本件家事業務に含まれる業務が記載されていた。また、午前7時の朝食、午前10時15分の昼食、午後4時の夕食の各準備については、Bの食事の準備とBの息子の食事の準備を同時間帯に行う旨が記載されていた。また、 業務に含まれる業務が記載されていた。また、午前7時の朝食、午前10時15分の昼食、午後4時の夕食の各準備については、Bの食事の準備とBの息子の食事の準備を同時間帯に行う旨が記載されていた。また、本件業務指示書本文の指示内容欄には、「プラン外のサービスは自費となります。」、「記録内容は介護保険の時間内の作業についてのみ記入してください。自費サービスは記入しない!」と記載されていた。」(8) 原判決21頁6行目の「イ」を「ウ」に改め、同10行目の「多かった。」を「多く、例えば、Bの息子が午前6時頃に起きてくる前にBの流動食を作るため、ミキサーをかける必要があったことから、午前4時30分から5時の間に起床し、自分の身支度なども整えた上で、Bの息子の指示で、午前6時頃から30分かけて、Bの清拭、おむつ交換、パジャマの着替えの対応を - 9 -する必要があった。」に改め、同行目の末尾の次に改行の上、次のとおり加える。 「 前記アのとおり、平成27年5月当時、Bに対する居宅サービス計画(乙15)及び訪問介護計画(乙16)においては、本件介護業務に従事する時間は、午前8時~午前9時40分(身体介護1〔おむつ交換を含む。〕、生活援助3)、午後0時~午後1時10分(生活援助3)、午後3時30分~午後4時40分(生活援助3)、午後8時~午後8時30分(身体介護1〔おむつ交換を含む。〕)とされていたところ、亡Aは、同人が平成27年5月20日~26日の間に上記時間帯に本件介護業務に従事した旨のサービス実施記録(乙18)を作成したが、本件会社においては、上記サービス実施記録は、介護保険手続のために訪問介護計画どおりの時間で作成することを求めており、実態を反映したものではなく、B宅の実態としては、上記のとおり、訪問介護計画どおりに介 社においては、上記サービス実施記録は、介護保険手続のために訪問介護計画どおりの時間で作成することを求めており、実態を反映したものではなく、B宅の実態としては、上記のとおり、訪問介護計画どおりに介護を実施することができないことが多かった。もっとも、本件会社においては、上記サービス実施記録とは別に、訪問介護ヘルパーの労働時間を管理するための具体的な措置を講じておらず、亡Aが本件介護業務を実際に行った時間数及び時間帯を把握していなかった。(甲9、11、12)エ B宅においては、住込みの訪問介護ヘルパー兼家政婦である亡Aには専用の部屋は与えられず、亡Aは、休憩や手待ち時間は台所の椅子に座るなどして過ごし、Bの部屋でベッドの脇に布団を敷いて就寝した(甲11)。」 3 争点⑴(亡Aが労基法116条2項所定の「家事使用人」に該当することを理由にされた本件各処分の適法性の有無(亡Aが従事していた本件家事業務及び本件介護業務は一体として本件会社の業務といえるか))について(1) 前記補正後認定事実によると、B宅での本件介護業務及び本件家事業務に - 10 -ついて、亡Aと本件会社との間にも、亡AとBないしその息子との間にも、雇用契約書又はこれに準ずる書面は作成されていないこと(補正後認定事実⑶エ)、本件会社においては、家政婦紹介事業により求人者に求職者(家政婦)を紹介する際に、所要のデータを入力すると、自動的に、紹介状、求人票兼労働条件通知書、雇用契約書が連動して出力される仕組みになっていたものの、雇用契約書だけは印刷しない事務処理をしていたこと(補正後認定事実⑶エ)が認められる。 そこで、本件介護業務及び本件家事業務に係る雇用契約を推認させる事実について検討すると、まず、本件会社は、Bを求人申込者とする求人票兼 理をしていたこと(補正後認定事実⑶エ)が認められる。 そこで、本件介護業務及び本件家事業務に係る雇用契約を推認させる事実について検討すると、まず、本件会社は、Bを求人申込者とする求人票兼労働条件通知書(甲7求人票)を作成したこと、甲7求人票には、休憩時間が0時から5時までと記載されているものの、勤務時間の記載はなく、賃金は日給1万6000円と記載されていること、日給1万6000円という上記記載は、本件家事業務に対する賃金ではなく、本件家事業務と本件介護業務の双方に対する賃金の趣旨であったこと(補正後認定事実⑶エ)、本件家事業務の賃金は例えば時給と労働時間を乗ずるなどという形で本件介護業務と独立して算出されるのではなく、本件家事業務と本件介護業務の合計額として定まった日給1万6000円から本件介護業務の賃金として算出されたものを控除して算出されていたこと(補正後認定事実⑶エ)が認められる。 また、平成27年5月当時、Bに対する居宅サービス計画(乙15)及び訪問介護計画(乙16)においては、本件介護業務に従事する時間は、午前8時~午前9時40分、午後0時~午後1時10分、午後3時30分~午後4時40分、午後8時~午後8時30分とされており、亡Aが平成27年5月20日~26日の間、上記時間帯に本件介護業務に従事した旨のサービス実施記録(乙18)が存在するが、上記サービス実施記録は、介護保険手続のために訪問介護計画どおりの時間で作成することを求めているものであって、実態を反映したものでなく、B宅の実態としては、Bの息子からの指示 - 11 -が多く、訪問介護計画どおりの時間で実施されているものではなかったこと(補正後認定事実(4)ウ)、本件会社においても、本件介護業務を実際に行った時間数及び時間帯は把握していないこ - 11 -が多く、訪問介護計画どおりの時間で実施されているものではなかったこと(補正後認定事実(4)ウ)、本件会社においても、本件介護業務を実際に行った時間数及び時間帯は把握していないこと(補正後認定事実(4)ウ)、本件介護業務としてのBの食事の準備(生活援助)と本件家事業務としてのBの息子の食事の準備を同じ時間帯に行ったり、本件介護業務としてのおむつ交換(身体介護)と本件家事業務としてのおむつ交換が存在するなど、本件介護業務と本件家事業務とは、時間的にも、質的にも、截然と区別することは困難であること(補正後認定事実(4)ア~ウ)が認められる。なお、本件業務指示書に「プラン外のサービスは自費となります。」、「記録内容は介護保険の時間内の作業についてのみ記入してください。自費サービスは記入しない!」と記載されていること(補正後認定事実(4)イ)も、本件介護業務と本件家事業務とが専ら介護保険の利用による費用の観点から区別されるものであり、業務内容や指揮命令者の相違から容易に区別できるものではないことをうかがわせるものということができる。 さらに、本件業務指示書には、訪問介護計画における本件介護業務に従事する時間以外の時間帯に従事すべき業務や、Bの息子の食事の準備やB宅の門扉の外、車庫、庭の掃除などの、明らかに本件介護業務には含まれず、本件家事業務に含まれる業務が記載されており(補正後認定事実⑷イ)、本件会社において、本件家事業務についても業務指示を行っていたことが認められる。 以上によると、本件介護業務及び本件家事業務は、B宅という同一の場所で従事するものである上、労働時間についても、賃金についても、明確に区分されていないから、これらの業務毎に異なる雇用主による別個の雇用契約が締結されていることとは整合し難 務は、B宅という同一の場所で従事するものである上、労働時間についても、賃金についても、明確に区分されていないから、これらの業務毎に異なる雇用主による別個の雇用契約が締結されていることとは整合し難いものというべきである。そして、本件会社が、本件介護業務及び本件家事業務に従事する者として亡Aを選定し、甲7求人票を作成して、本件介護業務及び本件家事業務の双方に対する賃金 - 12 -を日給1万6000円、本件介護業務にも本件家事業務にも従事しない趣旨と理解される休憩時間を午前0時から午前5時までと提示したことは、本件会社において、本件介護業務及び本件家事業務の双方を業務内容とし、午前5時から翌日午前0時までを労働時間とし、賃金を日給1万6000円とする雇用契約を亡Aとの間で締結したことと親和的な事情であるということができる。また、本件会社は、本件業務指示書を通じて、本件介護業務のみならず、本件家事業務についても、業務指示を行っていたことが認められる。 これらの事情を総合すると、本件会社と亡Aは、本件介護業務及び本件家事業務の双方を業務内容とし、午前5時から翌日午前0時までを労働時間とし、賃金を日給1万6000円とする雇用契約を締結したものと認められ、これを覆すに足りる事情は認められないから、亡Aが従事していた本件家事業務及び本件介護業務は一体として本件会社の業務ということができる。 (2) これに対し、被控訴人は、本件会社が求職者たる登録家政婦を求人者に紹介し、求人者たる雇用主と登録家政婦との間の家政婦を業務とする雇用契約の成立をあっせんすることを業としていた旨主張するが、本件介護業務及び本件家事業務とが労働時間も賃金も明確に区分されていないこと等の亡Aに係る本件に特有の事実関係を踏まえたものではなく、本件特有の事実関係に基づ んすることを業としていた旨主張するが、本件介護業務及び本件家事業務とが労働時間も賃金も明確に区分されていないこと等の亡Aに係る本件に特有の事実関係を踏まえたものではなく、本件特有の事実関係に基づく上記認定を覆すに足りるものとは認められない。 また、被控訴人は、本件会社が登録家政婦と就業先の雇用者との雇用契約に係る基準となる賃金額を示すことはあったものの、具体的な賃金額は雇用主と登録家政婦との間の雇用契約によって決定されていた旨主張する。しかし、甲7求人票の標題が「求人票兼労働条件通知書」であることからしても、登録家政婦と求人者との間における労働条件の交渉は実際上は容易ではないと解される上、前示のとおり、本件会社は、本件介護業務及び本件家事業務の双方に対する賃金として日給1万6000円を提示しているのであって、本件家事業務のみに対する賃金を示したものではないから、登録家政婦と求 - 13 -人者との間において、本件会社が提示した日給のうち本件家事業務に対応する部分を算定し、本件会社の提示とは異なる賃金とすることを交渉することは事実上困難であるし、現に訪問介護ヘルパーとしての勤務歴がなかった亡AとBの息子との間において、本件会社が提示した日給1万6000円のうち本件家事業務に対応する部分の賃金について変更する旨の合意をしたことも、本件介護業務部分を除いた本件家事業務部分について賃金の協議をした上で合意をしたこともうかがわれない。そうすると、本件会社において、本件介護業務及び本件家事業務に対する賃金を一体的に日給1万6000円とすることを申し込み、亡Aが承諾したものと評価することができる。 さらに、被控訴人は、本件会社が雇用先における家政婦の業務遂行に関して登録家政婦に直接指示をしたり、報告を求めるといったことはし ることを申し込み、亡Aが承諾したものと評価することができる。 さらに、被控訴人は、本件会社が雇用先における家政婦の業務遂行に関して登録家政婦に直接指示をしたり、報告を求めるといったことはしていなかったと主張するが、本件会社が本件業務指示書において本件家事業務についても業務指示をしていたことは、前記(1)のとおりである。 被控訴人が主張するその余の点を踏まえても、本件会社と亡Aが、本件介護業務及び本件家事業務の双方を業務内容とし、午前5時から翌日午前0時までを労働時間とし、賃金を日給1万6000円とする雇用契約を締結した旨の上記認定を覆すには足りない。 (3) 以上によると、亡Aが従事していた本件家事業務及び本件介護業務は、亡Aと本件会社との間における、これらを業務内容とし、午前5時から翌日午前0時までを労働時間とし、賃金を日給1万6000円とする雇用契約に基づくものであり、一体として本件会社の業務ということができる。 このように、本件家事業務は、本件介護業務とともに、本件会社との雇用契約に基づき、本件会社の業務として行われたものであり、家庭内の私的領域に国家的規制や監督を行うことが不適切であるという労基法116条2項の趣旨は妥当しないから、本件介護業務はもとより、本件家事業務についても、亡Aが同項所定の「家事使用人」に当たるものとは認められない。 - 14 -そうすると、処分行政庁が本件各申請に対してした、亡Aが労基法116条2項の「家事使用人」に該当することを理由とする本件各処分は、同項の適用を誤った違法なものといわざるを得ない。 4 争点⑶(亡Aの本件疾病の発症及び死亡結果の発生につき業務起因性が認められるか)について事案に鑑み、争点⑵に先立ち、争点⑶を検討する。 を誤った違法なものといわざるを得ない。 4 争点⑶(亡Aの本件疾病の発症及び死亡結果の発生につき業務起因性が認められるか)について事案に鑑み、争点⑵に先立ち、争点⑶を検討する。 (1) 労災保険法に基づく保険給付のうち、業務災害に関するものは、労働者の死傷病等に業務起因性が認められる場合に給付されるところ(同法7条1項1号)、労働者の死傷病等に業務起因性が認められるためには、業務と当該死傷病等との間に条件関係があることを前提として、両者の間に法的にみて労働者災害補償を認めるのを相当とする関係(相当因果関係)が認められることが必要と解すべきである。そして、労働者災害補償保険制度が、業務に内在又は通常随伴する各種の危険が現実化して労働者に死傷病等の結果がもたらされた場合には、使用者に過失がなくとも、その危険を負担して損失の補償をさせるべきであるとする危険責任の法理に基づき、使用者の災害補償責任を担保する制度であることからすれば、業務と被災労働者に発生した死傷病等との間に相当因果関係があると認めるためには、医学経験則に照らし、当該死傷病等の結果が被災労働者の従事していた業務に内在又は通常随伴する危険の現実化として顕れたものであると認められることを要すると解すべきである。 この点、前記第2の3⑵において認定したとおり、脳血管疾患及び虚血性心疾患等(ただし、負傷に起因するものを除く。)(以下「脳・心臓疾患」という。)の業務起因性の有無については新認定基準が定められているところ、証拠(乙35、37、38)及び弁論の全趣旨によれば、新認定基準は、業務と脳・心臓疾患との相関関係について、策定当時における最新の医学的知見を踏まえて策定されたものであることが認められ、医学経験則に照らし - 15 -て相応の合理性を有す ば、新認定基準は、業務と脳・心臓疾患との相関関係について、策定当時における最新の医学的知見を踏まえて策定されたものであることが認められ、医学経験則に照らし - 15 -て相応の合理性を有するとともに、脳・心臓疾患の発生機序ないし業務との関連性に関する標準的な医学的知見が反映されているものと解されるから、裁判所の判断を直接拘束する性質のものではないものの、裁判所において被災労働者の脳・心臓疾患の発症とその原因となったとされる労働災害との間の相当因果関係(業務起因性)の有無を判断するに当たっても、参考になるものと解される。 (2) 前記3のとおり、亡Aは、本件会社との間において、午前5時から翌日午前0時までを労働時間とする雇用契約を締結していたことが認められるところ、補正後認定事実⑷に本件業務指示書、亡Aと同様にB宅で住込みの家政婦兼訪問介護ヘルパーとして勤務していた者の供述(甲11)及び弁論の全趣旨によれば、亡Aは、少なくとも、午前4時30分頃には起床して、午前4時から午前5時の間のおむつ交換を行った後、B及びその息子の朝食・昼食・夕食の各準備、2時間おきに7回のおむつ交換、B宅の内外の掃除、洗濯などに従事し、午後8時から午後8時30分の間に本件介護業務としてのおむつ交換を行ったものと認められ、午前0時30分から午前1時の間のおむつ交換を除いて、本件家事業務及び本件介護業務を合わせて、午前4時30分頃から午後8時30分頃までの間、業務に従事していたものと認められる。そして、亡Aは、上記時間内に少なくとも朝食及び昼食を採っていたものと推認されるから、各日とも上記時間内に1時間の休憩を取っていたものと認めることが相当である。亡Aは、上記時間内に夕食を採っていた可能性もあるが、他方、上記時間外に午前0時30分から午前1時の間の のと推認されるから、各日とも上記時間内に1時間の休憩を取っていたものと認めることが相当である。亡Aは、上記時間内に夕食を採っていた可能性もあるが、他方、上記時間外に午前0時30分から午前1時の間のおむつ交換があることからすると、亡Aの労働時間数は1日15時間と認めるのが相当である。したがって、亡Aは、平成27年5月20日から本件疾病の発症日である同月27日の朝までの7日間に、総労働時間数105時間(=15時間×7日)、時間外労働時間数65時間(=105時間-40時間)の業務に従事したものと認められる。この亡Aの業務は、昼夜が逆転するまでの - 16 -ものではないものの、午後10時から午前5時までの深夜時間帯にも、おむつ交換の業務に従事する必要があり、6時間以上の睡眠を連続して取ることが不可能なものであったということができる。しかも、亡Aは、発症直前の上記期間において、休日のない連続勤務であり、勤務間インターバルもいずれも11時間未満であって、午前0時30分から午前1時の間のおむつ交換を除いても8時間程度、上記おむつ交換を考慮すると、4時間程度しかなかったものと認められる。加えて、亡Aには専用の部屋は与えられていなかったため、亡Aは、休憩や手待ち時間は台所の椅子に座るなどして過ごし、Bの部屋で就寝していたこと(補正後認定事実⑷エ)が認められるから、時間的にも、質的にも、業務従事による疲労を回復させるに足りる睡眠を確保することが困難であったものと認められる。 他方、亡Aは、本件疾病の発症日当日にサウナ室内で倒れているのを発見され、救急隊到着時には心肺停止状態であったものであるが(補正後認定事実⑸イ(ア))、上記サウナ室は44度程度であって(甲20)、6~7割の成人の入浴時の浴槽の温度である41度~42度(乙33)と大き れ、救急隊到着時には心肺停止状態であったものであるが(補正後認定事実⑸イ(ア))、上記サウナ室は44度程度であって(甲20)、6~7割の成人の入浴時の浴槽の温度である41度~42度(乙33)と大きく変わるものではなく、亡Aにおいて、本件疾病に関し、格別の基礎疾患が認められていなかったこと(補正後認定事実⑸ア)をも踏まえると、このような低温サウナの利用が本件疾病を発症させる危険性が高かったものとは認め難い。 以上によると、亡Aが従事した本件家事業務及び本件介護業務は、新認定基準所定の「短期間の過重業務」に該当するものと認められ、低温サウナの利用等の業務外の要因が主たる原因となって本件疾病が発症したものとは認められないから、亡Aの発症した本件疾病は、本件家事業務及び本件介護業務に内在する危険の現実化として発症したものであるといえ、業務起因性が認められる。 ⑶ 以上のとおり、処分行政庁がした本件各処分は、被控訴人による処分理由の追加を踏まえても、違法なものであって取消しを免れない。 - 17 - 5 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、控訴人の請求は理由があるからこれを認容すべきところ、これを棄却した原判決は失当であり、本件控訴は理由があるから、原判決を取り消した上、控訴人の請求を認容することとして、主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第7民事部 裁判長裁判官水野有子 裁判官三輪恭子 裁判官古庄研 - 18 -(別紙の掲載省略) 研

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