- 1 - 主文 原判決を破棄する。 本件控訴を棄却する。 原審における未決勾留日数中250日を本刑に算入する。 理由 検察官の上告趣意のうち、判例違反をいう点は、事案を異にする判例を引用するものであって、本件に適切でなく、その余は、事実誤認の主張であって、刑訴法405条の上告理由に当たらない。 しかしながら、所論に鑑み、職権をもって調査すると、原判決は、刑訴法411条3号により破棄を免れない。その理由は、以下のとおりである。 第1 第1審判決及び原判決の要旨 1 第1審判決は、覚醒剤取締法違反の罪(使用・所持)及び令和3年11月10日に氏名不詳者らと共謀して現金自動預払機から現金合計198万3000円を引き出して窃取したという窃盗罪のほか、要旨、次のとおりの各犯罪事実を認定し、被告人を懲役4年に処した。 ⑴ 被告人は、氏名不詳者らと共謀の上、令和3年10月25日から同年12月1日までの間、9回にわたり、保険料の還付金等を受け取ることができる旨誤信させられていたAほか7名に対し、金融機関の従業員になりすました氏名不詳者が電話で指示して、振込送金の操作であると気付かせないまま、現金自動預払機で被告人らの管理する預貯金口座に振込送金する操作を行わせ、同機を管理する金融機関の事務処理に使用する電子計算機に対し、Aら名義の預貯金口座から被告人らが管令和6年(あ)第264号窃盗、電子計算機使用詐欺、覚醒剤取締法違反被告事件令和7年7月11日第三小法廷判決- 2 -理する預貯金口座に合計773万1734円を振込送金したとする虚偽の情報を与え、被告人らが管理する口座の残高を合計773万1734円増加さ 被告事件令和7年7月11日第三小法廷判決- 2 -理する預貯金口座に合計773万1734円を振込送金したとする虚偽の情報を与え、被告人らが管理する口座の残高を合計773万1734円増加させて財産権の得喪、変更に係る不実の電磁的記録を作り、よって、同額相当の財産上不法の利益を得た(以下「本件各電子計算機使用詐欺」という。)。 ⑵ 被告人は、氏名不詳者らと共謀の上、正当な払戻権限がない他人名義のキャッシュカードを使用して現金を窃取しようと考え、令和3年10月25日から同年12月1日までの間、26回にわたり、被告人が、被告人らの管理する前記口座のキャッシュカードを使用して、現金自動預払機から現金合計722万9000円を引き出してこれを窃取した(以下「本件各窃盗」という。本件各窃盗は、本件各電子計算機使用詐欺の直後に行われており、被告人が本件各窃盗で引き出した現金の額は、本件各電子計算機使用詐欺により増加した残高に対応するものであった。)。 2 これに対し、被告人が控訴し、事実誤認、法令適用の誤りを主張した。原判決は、第1審判決が本件各電子計算機使用詐欺の共謀を認めた点には事実誤認があるとして、第1審判決を破棄して自判し、その余の罪について被告人を懲役3年6月に処し、本件各電子計算機使用詐欺について無罪を言い渡した。その理由の要旨は、以下のとおりである。 第1審判決は、本件各電子計算機使用詐欺の共謀を認めるに当たり、被告人と氏名不詳者らとの間に本件各電子計算機使用詐欺についての意思連絡があったといえるかを十分に検討しておらず、また、被告人が本件各電子計算機使用詐欺の実行行為を何ら分担せず、その内容について全く知らなかったという事案の特質を十分に踏まえておらず、このような判断方法自体不合理である。 証拠関係を踏まえて検討し 被告人が本件各電子計算機使用詐欺の実行行為を何ら分担せず、その内容について全く知らなかったという事案の特質を十分に踏まえておらず、このような判断方法自体不合理である。 証拠関係を踏まえて検討しても、被告人が本件各電子計算機使用詐欺の行為態様等の本質的な部分を含め、その内容を全く把握しておらず、氏名不詳者らにおいても本件各電子計算機使用詐欺に関する被告人の認識の有無について関心を有していなかったことなどからすれば、被告人と氏名不詳者らとの間に本件各電子計算機使用詐欺についての意思連絡があったとは認められない。さらに、被告人が本件各電- 3 -子計算機使用詐欺の実行行為を何ら分担していないこと、被告人以外にも振込先口座から現金を引き出す役割を果たす者がいた可能性があり、被告人の存在が必要不可欠であるとはいえないこと、被告人が本件各窃盗の報酬と認識して報酬を受け取っていたことなども踏まえれば、本件各電子計算機使用詐欺の共謀を認めることはできず、第1審判決の結論は是認できない。 第2 当裁判所の判断しかしながら、原判決の前記判断は是認することができない。その理由は、以下のとおりである。 1 第1審判決及び原判決の認定並びに記録によると、本件の事実関係は、次のとおりである。 ⑴ 被告人は、令和3年10月初旬頃、インターネット上の掲示板で知り合った氏名不詳者らから、現金自動預払機から現金を引き出す「仕事」の依頼を受け、暗証番号が記載された他人名義のキャッシュカード複数枚の交付を受けた。被告人は、氏名不詳者らから、平日午前9時頃から前記キャッシュカードを所持して現金自動預払機付近で待機し、電話の指示で直ちに現金を引き出すこと、報酬は引き出した現金50万円につき1万円であることなどを伝えられた。被告人は、この「仕事」が特殊詐欺等 キャッシュカードを所持して現金自動預払機付近で待機し、電話の指示で直ちに現金を引き出すこと、報酬は引き出した現金50万円につき1万円であることなどを伝えられた。被告人は、この「仕事」が特殊詐欺等の犯罪行為によって得られた現金を引き出すものである可能性を認識した上で、これを引き受けた。 ⑵ 被告人は、前記依頼の翌日以降、平日午前9時頃から午後5時頃までの間、現金自動預払機の設置場所付近で待機し、氏名不詳者らから電話で指示があれば直ちに、前記キャッシュカードのうち指示されたものを用いて現金自動預払機から現金を引き出し、氏名不詳者らの指示に従って、引き出した現金から報酬を差し引き、残りを指定されたコインロッカーに入れるなどして回収役の者に交付した。被告人は、暗証番号が記載された他人名義のキャッシュカードを更に受け取るなどしながら、これと同様の流れで、本件各窃盗に及んだ。 2 以上の事実関係は、被告人の引き出す現金が詐欺等の犯罪に基づいて被告人- 4 -の所持するキャッシュカードに係る預貯金口座に振込送金されたものであることを十分に想起させ、本件のような態様の電子計算機使用詐欺も、被告人が想定し得る詐欺等の犯罪の範囲に含まれていたといえるから、被告人は、そのような電子計算機使用詐欺に関与するものである可能性を認識していたと推認できる。被告人は、この認識の下、本件各電子計算機使用詐欺の当日午前9時頃から現金自動預払機の設置場所付近で待機し、氏名不詳者らにおいても、被告人が待機し現金の引き出しを行うことを前提として、本件各電子計算機使用詐欺に及んだといえるから、本件各電子計算機使用詐欺の初回の犯行までには、氏名不詳者らが行い、被告人が現金の引き出しを担う電子計算機使用詐欺について、暗黙のうちに意思を通じ合ったと評価することができる。そし だといえるから、本件各電子計算機使用詐欺の初回の犯行までには、氏名不詳者らが行い、被告人が現金の引き出しを担う電子計算機使用詐欺について、暗黙のうちに意思を通じ合ったと評価することができる。そして、被告人は、氏名不詳者らから指示を受けて、Aらが振込送金する操作をしてから短時間のうちに現金を引き出しているところ、被告人が果たした役割は、本件各電子計算機使用詐欺による財産上不法の利益を直ちに現金として引き出して確保するという本件各電子計算機使用詐欺の犯行の目的を達成する上で極めて重要なものということができる。したがって、本件の事実関係の下においては、被告人と氏名不詳者らとの間で、本件各電子計算機使用詐欺の共謀が認められる。 原判決は、被告人が本件各電子計算機使用詐欺の行為態様等を全く把握しておらず、氏名不詳者らにおいても被告人の認識の有無について関心を有していなかったことを重視するが、そのような事情は意思連絡を認める妨げとはならない上、被告人の認識内容を具体的に検討することなく、本件各電子計算機使用詐欺についての意思連絡を否定しており、不合理といわざるを得ない。また、原判決は、被告人が本件各電子計算機使用詐欺の実行行為を何ら分担していないこと、被告人以外にも振込先口座から現金を引き出す役割を果たす者がいた可能性があり、被告人の存在が必要不可欠であるとはいえないこと、被告人が本件各窃盗の報酬と認識して報酬を受け取っていたことなどを指摘して、共謀が認められないともいう。しかし、それらの事情は、被告人が氏名不詳者らと意思を通じ合って本件各電子計算機使用詐- 5 -欺による財産上不法の利益を確保するという極めて重要な役割を担ったことに鑑みれば、共謀を否定する事情となり得ない。 3 したがって、原判決が、被告人に本件各電子計算機使用詐欺の 使用詐- 5 -欺による財産上不法の利益を確保するという極めて重要な役割を担ったことに鑑みれば、共謀を否定する事情となり得ない。 3 したがって、原判決が、被告人に本件各電子計算機使用詐欺の共謀を認めることができないとした点には、事実誤認があり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであって、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。 よって、刑訴法411条3号により原判決を破棄することとし、以上の検討によれば、本件各電子計算機使用詐欺の共謀を認めた第1審判決の判断は、その結論において是認することができ、また、記録に基づいて検討すると、被告人のその余の控訴趣意もいずれも理由がなく、結局、第1審判決を維持するのが相当であるから、同法413条ただし書、414条、396条により被告人の控訴を棄却し、原審における未決勾留日数の算入につき刑法21条、原審における訴訟費用につき刑訴法181条1項ただし書を適用することとし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。なお、裁判官平木正洋の補足意見がある。 裁判官平木正洋の補足意見は、次のとおりである。 私は、法廷意見に賛同するものであるが、法廷意見が「本件のような態様の電子計算機使用詐欺も、被告人が想定し得る詐欺等の犯罪の範囲に含まれていたといえる」とした点について補足しておきたい。 1 原判決は、被告人に本件各電子計算機使用詐欺の共謀共同正犯が成立しない理由として、被告人が、本件各電子計算機使用詐欺の行為態様等の本質的な部分を含め、その内容を全く把握していなかったという点を重視している。 確かに、いわゆる出し子であった被告人は、本件各電子計算機使用詐欺の共犯者らから、本件各電子計算機使用詐欺の行為態様について説明されていなかった。また、電子計算機使用詐欺罪の構 を重視している。 確かに、いわゆる出し子であった被告人は、本件各電子計算機使用詐欺の共犯者らから、本件各電子計算機使用詐欺の行為態様について説明されていなかった。また、電子計算機使用詐欺罪の構成要件の内容は、通常の詐欺罪のそれと比べると、一般人にとって理解しにくいものであるといえる。さらに、本件各電子計算機使用詐欺の行為態様は、実行犯(いわゆる架け子)が、被告人の所持するキャッシュカードに係る預貯金口座に振込送金をしたAら(本件各電子計算機使用詐欺の実質的- 6 -被害者)を、間接正犯の道具として利用し実行したというやや特殊なものであった。 2 しかし、被告人は、共犯者(指示役)から依頼された「仕事」が、特殊詐欺等の犯罪行為によって得られた現金を現金自動預払機から引き出すものである可能性を認識した上で、これを引き受けていたものであって、この認識は、実行犯の行う特殊詐欺等の犯罪行為が、うそをつき人を欺いてその者に現金自動預払機を操作させ振込送金させるという行為態様のものであるとの未必的認識を含むものであったと認められる。 3 ところで、本件各電子計算機使用詐欺の犯行において、電子計算機使用詐欺罪の電子計算機に虚偽の情報を与える行為(刑法246条の2)は、うそをつき人(Aら実質的被害者)を欺いてその者に振込送金の操作であると気付かせないで現金自動預払機を操作させ振込送金させるというものであった。そして、被告人が想定していた犯罪の一つである特殊詐欺(振り込め詐欺)の犯行においては、詐欺罪の人を欺いて財物を交付させる行為(同法246条1項)は、うそをつき人(詐欺の被害者)を欺いてその者に振込送金の必要があると誤信させて現金自動預払機を操作させ振込送金させるというものである。両者を比較すると、各構成要件における中核的な行為態様は、い は、うそをつき人(詐欺の被害者)を欺いてその者に振込送金の必要があると誤信させて現金自動預払機を操作させ振込送金させるというものである。両者を比較すると、各構成要件における中核的な行為態様は、いずれも、うそをつき人を欺いてその者に現金自動預払機を操作させ振込送金させるというものであることが分かる。 前記2のとおり、出し子であった被告人が、実行犯の行う犯罪行為に対して有していた未必的認識は、うそをつき人を欺いてその者に現金自動預払機を操作させて振込送金させるという行為態様に対する認識を含むものであったから、前記の中核的な行為態様に対する認識を包含するものであったと評価することができる。本件のように実行犯(架け子)と出し子の(指示役を介しての)黙示の意思連絡が問題となる事案において、実行犯の行う犯罪行為に対する出し子の認識としては、この程度のもので足りるというべきであろう。もとより、出し子において、実行犯の行う犯罪行為が電子計算機使用詐欺罪の構成要件に当てはまるものであるかどうかまで認識する必要はない。 - 7 - 4 以上によれば、前記2の認識を有していた被告人にとっては、本件のような態様の電子計算機使用詐欺も想定し得る詐欺等の犯罪の範囲に含まれていたといえるのである。 検察官松下裕子、同太田玲子、同鈴木慎二郎公判出席(裁判長裁判官平木正洋裁判官宇賀克也裁判官林道晴裁判官渡辺惠理子裁判官石兼公博)
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